(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005578
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】熱硬化性樹脂組成物、バルクモールディングコンパウンド及びその成形品
(51)【国際特許分類】
C08F 283/01 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
C08F283/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105814
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】蒋 建業
【テーマコード(参考)】
4J127
【Fターム(参考)】
4J127AA03
4J127AA07
4J127BD131
4J127BG181
4J127BG18Y
4J127CB061
4J127DA06
4J127DA12
4J127DA43
4J127DA62
4J127DA63
4J127DA65
4J127DA66
4J127FA01
4J127FA02
4J127FA15
(57)【要約】
【課題】混練性及び保存安定性に優れ、成形する際の収縮率が低く、難燃性及び熱伝導性に優れる低比重である成形品を得ることのできる熱硬化性樹脂組成物、バルクモールディングコンパウンド、及びその成形品を提供することである。
【解決手段】不飽和ポリエステル樹脂(A)、低収縮化剤(B)、水酸化アルミニウム(C)、酸化マグネシウム(D)、及び中空フィラー(E)を含有することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和ポリエステル樹脂(A)、低収縮化剤(B)、水酸化アルミニウム(C)、酸化マグネシウム(D)、及び中空フィラー(E)を含有することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記不飽和ポリエステル樹脂(A)及び前記低収縮化剤(B)の合計100質量部に対して、前記水酸化アルミニウム(C)が200~350質量部であり、前記酸化マグネシウム(D)が、10~100質量部であり、前記中空フィラー(E)が3~30質量部である請求項1記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の熱硬化性樹脂組成物からなることを特徴とするバルクモールディングコンパウンド。
【請求項4】
請求項3記載のバルクモールディングコンパウンドを用いて得られた成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物、バルクモールディングコンパウンド及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂等の熱硬化性樹脂に、低収縮剤、禁止剤、硬化剤、充填材、離型剤、強化材等を加えて、混練機で混練した熱硬化性樹脂組成物は、電気絶縁性、耐熱性、難燃性、高剛性、寸法安定性等の利点があるため、家電、自動車やエネルギー分野等に関連する電子部品へ広く応用されている。前記熱硬化性樹脂組成物の中でも、バルク状にしたバルクモールディングコンパウンド(以下、「BMC」と略記することがある。)は、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形等の成形方法により、成形品にすることができる。
【0003】
近年、電子部品は、高出力(高密度化)、小型化(軽量化)が進んでいるため、内部に大量の熱が蓄積しやすくなっており、火災、あるいは火災発生後の延焼の恐れ等の課題を抱えている。
【0004】
このような中、BMCには優れた難燃性及び熱伝導性、軽量化が求められており、不飽和ポリエステル、架橋剤、水酸化アルミニウム、及び中空フィラーを含む難燃性、低比重不飽和ポリエステル樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この樹脂組成物を利用した成形品は熱伝導性が不十分である問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、混練性及び保存安定性に優れ、成形する際の収縮率が低く、難燃性及び熱伝導性に優れる低比重の成形品を得ることのできる熱硬化性樹脂組成物、バルクモールディングコンパウンド及びその成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記の課題を解決するため鋭意研究した結果、不飽和ポリエステル樹脂、重合性単量体、低収縮化剤、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、及び中空フィラーを含有する熱硬化性樹脂組成物は、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、不飽和ポリエステル樹脂(A)、低収縮化剤(B)、水酸化アルミニウム(C)、酸化マグネシウム(D)、及び中空フィラー(E)を含有することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、混練性及び保存安定性に優れ、成形する際の収縮率が低く、難燃性及び熱伝導性に優れる低比重の成形品を得られることから、各種電気・電子部品の支持体、封止材、電気自動車バッテリー保持体等に好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、不飽和ポリエステル樹脂(A)、低収縮化剤(B)、水酸化アルミニウム(C)、酸化マグネシウム(D)、及び中空フィラー(E)を含有するものである。
【0011】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、前記不飽和ポリエステル樹脂(A)及び前記低収縮化剤(B)を必須成分とする樹脂成分を含有するものであるが、成形収縮率とその他の物性のバランスから、前記不飽和ポリエステル樹脂(A)及び前記低収縮化剤(B)の質量比(A/B)は、90/10~40/60が好ましく、80/20~50/50がより好ましい。
【0012】
前記低収縮化剤(B)としては、例えば、アクリル樹脂やポリスチレン樹脂等のスチレン溶液が挙げられるが、得られた成形品の熱伝導性向上の観点からポリスチレン樹脂のスチレン溶液が好ましい。
【0013】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、前記水酸化アルミニウム(C)を含有することで、難燃性に優れるが、熱伝導性や低比重化とのバランスがより向上することから、前記不飽和ポリエステル樹脂(A)及び前記低収縮化剤(B)の合計100質量部に対して、前記水酸化アルミニウム(C)は200~350質量部が好ましく、220~320質量部がより好ましい。
【0014】
前記水酸化アルミニウム(C)としては、本発明の熱硬化性樹脂組成物成形品の混練性向上、流動性向上、難燃性向上の観点から、その平均粒径は、1~100μmが好ましく、2~60μmがより好ましい。
【0015】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、前記酸化マグネシウム(D)を含有することで、熱伝導性に優れるが、難燃性や低比重化とのバランスがより優れることから、前記不飽和ポリエステル樹脂(A)及び前記低収縮化剤(B)の合計100質量部に対して、前記酸化マグネシウム(D)は10~100質量部が好ましく、15~80質量部がより好ましい。
【0016】
前記酸化マグネシウム(D)は、硬焼酸化マグネシウムであるが、本発明の熱硬化性樹脂組成物成形品の熱伝導性向上の観点から、粒子状のものが好ましく、その平均粒径は、10~100μmが好ましく、30~70μmがより好ましい。
【0017】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、前記中空フィラー(E)を含有することで、低比重とすることができるが、熱伝導性や低比重化とのバランスがより優れることから、前記不飽和ポリエステル樹脂(A)及び前記低収縮化剤(B)の合計100質量部に対して、前記中空フィラー(E)は3~30質量部が好ましく、5~20質量部がより好ましい。
【0018】
前記中空フィラー(E)としては、例えば、ガラスバルーン、シリカバルーン、アルミナバルーン等が挙げられるが、耐圧強度、低密度及び硬度の総合的な観点から、ガラスバルーンが好ましい。また、射出成形、圧縮成形等の成形方法にも適用できることから、中空フィラーの耐圧強度が20MPa以上のものが好ましい。また、本発明の熱硬化性樹脂組成物の混練性の観点から、中空フィラーの粒径は20~60μmが好ましく、20~45μmがより好ましい。
【0019】
また、本発明の熱硬化性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、前記水酸化アルミニウム(C)、前記酸化マグネシウム(D)、及び前記中空フィラー(E)以外のその他の無機フィラーを配合してもよい。前記その他の無機フィラーとしては、例えば、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、炭酸マグネシウム等が挙げられる。
【0020】
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、上記の成分(A)~(E)以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、不飽和ポリエステル樹脂以外のその他の樹脂、重合禁止剤、硬化促進剤、分散剤、離型剤、増粘剤、硬化剤、補強材、顔料、着色剤、消泡剤、等を配合してもよい。
【0021】
前記重合禁止剤としては、例えば、トルハイドロキノン、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、1,4-ナフトキノン、パラベンゾキノン、トルハイドロノン、p-t-ブチルカテコール、2,6-t-ブチル-4-メチルフェノール等が挙げられる。本発明の熱硬化性樹脂組成物に重合禁止剤を配合する際の配合量は、本発明の熱硬化性樹脂組成物中10~1500ppmの範囲が好ましい。
【0022】
前記離型剤は、本発明の熱硬化性樹脂組成物を、金型を用いて成形した後、金型から得られた成形品の取り出しを容易にするためのものである。前記離型剤としては、例えば、不飽和脂肪酸アミド系離型剤、ポリエチレンワックス系離型剤、金属石鹸系離型剤、シリコーン系離型剤、フッ素系離型剤等が挙げられる。また、前記金属石鹸系離型剤としては、例えば、ラウリル酸亜鉛、ラウリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、ミリスチン酸亜鉛、モンタン酸カルシウム、モンタン酸亜鉛、モンタン酸アルミニウム、ベヘン酸カルシウム、ベヘン酸マグネシウム、ベヘン酸亜鉛等が挙げられる。
【0023】
前記増粘剤としては、例えば、軽焼酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム等の金属酸化物や金属水酸化物、イソシアネート化合物等が挙げられ、本発明の加熱圧縮成形材料の取り扱い性によって適宜選択肢できる。これらの増粘剤は、単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。これらの中でも、軽焼酸化マグネシウムが好ましい。
【0024】
前記補強材としては、例えば、ガラス繊維、ビニロン繊維、フェノール繊維、炭素繊維、ポリエステル繊維等の繊維状の材料が挙げられる。これらの中でも、入手容易性の観点からガラス繊維が好ましい。このガラス繊維は、ガラスチョップ、ミルドガラス、ロービングガラス等のいずれのものも用いることができる。
【0025】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、上記の各成分をニーダー等の混練機を用いて混練することにより製造することができる。また、得られる樹脂組成物がバルク状になるように、配合組成を調整することで、バルクモールディングコンパウンド(BMC)とすることができる。
【0026】
本発明の熱硬化性樹脂組成物をBMCとすることで、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形等の成形方法により、容易に成形品にすることができる。
【実施例0027】
以下に実施例により本発明をより具体的に説明する。
【0028】
(実施例1:熱硬化性樹脂組成物(1)の調製)
不飽和ポリエステル樹脂(DIM株式会社製「PS-361」;不飽和ポリエステル65質量%とスチレン35質量%との混合物)65質量部、低収縮化剤(DIM株式会社製「PB-964」;ポリスチレン42質量%とスチレン58質量%との混合物)35質量部、重合禁止剤(パラベンゾキノン10%)0.12質量部、中空フィラー(スリーエムジャパン株式会社製「S32HS」;平均粒径25μm)7質量部、酸化マグネシウム(宇部マテリアルズ株式会社製「RF-50-SC」;平均粒径50μm)20質量部、水酸化アルミニウム(1)(日軽金株式会社製「B103」;平均粒径7μm)200質量部、水酸化アルミニウム(2)(日軽金株式会社製「B53」;平均粒径55μm)90質量部、離型剤(ステアリン酸亜鉛;堺化学工業株式会社製「SZ-2000」)4質量部、増粘剤(軽焼酸化マグネシウム;協和化学工業株式会社製「MgO-40」)0.3質量部、及び硬化剤(有機過酸化物;日油株式会社製「パーブチルO」0.6質量部、「パーブチルZ」1.2質量部)1.8質量部を、プラネタリーミキサーを用いて12分間混練した後、補強材(ガラス繊維/チョップドストランド;重慶国際複合材料有限公司製「ECS404-6」;繊維長6mm)36質量部を加えて、さらに6分間混練することで、熱硬化性樹脂組成物(1)を得た。
【0029】
(実施例2~3)
表1に示した配合組成に変更した以外は実施例1と同様に行い、熱硬化性樹脂組成物(2)~(3)を得た。
【0030】
(比較例1~2)
表1に示した配合組成に変更した以外は実施例1と同様に行い、熱硬化性樹脂組成物(R1)~(R2)を得た。
【0031】
上記の実施例1~3及び比較例1~2で得られた熱硬化性樹脂組成物(1)~(3)及び(R1)~(R2)を用いて、それぞれ下記の評価を行った。
【0032】
[混練性の評価]
上記で得られた熱硬化性樹脂組成物の外観を目視で観察し、下記の基準にしたがって混練性を評価した。
◎:バルク状になり、補強材の分散状態が優れているもの
○:バルク状になり、補強材の分散状態が良好なもの
×:バルク状にならず、補強材の分散状態が不良なもの
【0033】
[保存安定性の評価]
上記で得られた熱硬化性樹脂組成物を25℃の温度条件下に保管し、粘度増加率が20%以下を保持できる日数を測定した。粘度測定は、キャピラリー粘度計(細管型レオメータ)により以下の条件で行った。樹脂組成物投入量(サンプル量):75g、測定温度条件:50℃、押出速度:50mm/分、ノズル径:6mm、ノズル長さ:10mm
【0034】
[成形収縮率の測定]
成形温度145℃、成形圧力10MPa、成形保圧時間300秒の条件で圧縮成形して、測定用試験片である収縮円盤を作製し、JIS K6911に基づいて成形収縮率を算出した。
【0035】
[熱伝導度の測定]
成形温度145℃、成形圧力10MPa、成形保圧時間300秒の条件で圧縮成形して、220mm×220mm×厚さ10mmの平板を作製し、QTM法により熱伝導率を測定した。
【0036】
[酸素指数の測定]
成形温度145℃、成形圧力10MPa、成形保圧時間300秒の条件下で圧縮成形を行い、220mm×220mm×厚さ3mmの平板を作製し、JIS K7201に基づいて測定用試験片(長さ:130mm、幅:6.5mm、厚さ:3mm)を切り出し、酸素指数を測定した。
【0037】
[比重の測定]
成形温度145℃、成形圧力10MPa、成形保圧時間300秒の条件下で圧縮成形を行い、220mm×220mm×厚さ3mmの平板を作製し、JIS K6911に基づいて測定用試験片を切り出し、比重を測定した。
【0038】
上記で調製した熱硬化性樹脂組成物の組成及び評価結果を表1に示す。
【0039】
【0040】
実施例1~3の本発明の熱硬化性樹脂組成物は、混練性及び保存安定性に優れ、成形する際の収縮率が低く、難燃性、熱伝導性、及び、曲げ強度等の力学物性に優れる低比重の成形品を得られることが確認された。
【0041】
一方、比較例1は、酸化マグネシウムを含有しない例であるが、熱伝導性が不十分であることが確認された。
【0042】
比較例2は、中空フィラーを含有しない例であるが、低比重化が不十分であることが確認された。