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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056041
(43)【公開日】2024-04-19
(54)【発明の名称】接合方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20240412BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20240412BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20240412BHJP
   H01L 21/677 20060101ALI20240412BHJP
【FI】
H01L21/02 B
H01L21/66 R
H01L21/68 N
H01L21/68 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024034755
(22)【出願日】2024-03-07
(62)【分割の表示】P 2022576760の分割
【原出願日】2022-01-21
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2022/001970
(32)【優先日】2022-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021008275
(32)【優先日】2021-01-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021162509
(32)【優先日】2021-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】304019355
【氏名又は名称】ボンドテック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503177074
【氏名又は名称】須賀 唯知
(74)【代理人】
【識別番号】100174388
【弁理士】
【氏名又は名称】龍竹 史朗
(72)【発明者】
【氏名】山内 朗
(72)【発明者】
【氏名】須賀 唯知
(57)【要約】
【課題】2つの被接合物を強固に接合することができる接合方法を提供する。
【解決手段】2つの基板W1、W2を接合する接合方法は、2つの基板W1、W2を接合する接合工程と、接合工程の後、水分量が予め設定された基準水分量以下の環境下で、クラックアンドオープニング法を用いて2つの基板W1、W2同士の接合強度を評価する接合強度評価工程と、を含む。
【選択図】図14A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの被接合物を接合する接合方法であって、
前記2つの被接合物を接合する接合工程と、
前記接合工程の後、水分量が予め設定された基準水分量以下の環境下で、クラックアンドオープニング法を用いて前記2つの被接合物同士の接合強度を評価する接合強度評価工程と、を含む、
接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
互いに接合する2つの基板それぞれの接合面に対して予め設定された運動エネルギを有する粒子を衝突させることにより接合面を活性化させた後、2つの基板それぞれの活性化した接合面同士を接触させることにより2つの基板を接合する接合方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-113633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載された接合方法では、2つの基板それぞれの接合面に不純物が付着している場合、粒子を衝突させることによりその不純物を除去してから接合面を活性化させる。しかしながら、不純物の付着強度にはばらつきがあるため、不純物を除去するために粒子を照射する時間を適当な時間に設定することが難しく、接合面に対して粒子を必要以上に照射してしまうと、接合面が荒れてしまい、その結果、2つの基板を接合したときの接合強度が低下してしまう虞がある。
【0005】
本発明は、上記事由に鑑みてなされたものであり、2つの被接合物を強固に接合することができる接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明に係る接合方法は、
2つの被接合物を接合する接合方法であって、
減圧雰囲気下において前記2つの被接合物それぞれの互いに接合される接合面の少なくとも一方を60℃よりも高い温度に加熱する熱処理工程と、
前記熱処理工程の後、減圧雰囲気を維持した状態で、前記2つの被接合物それぞれの前記接合面を活性化する活性化処理工程と、
前記活性化処理工程の後、減圧雰囲気を維持した状態で、前記2つの被接合物を接合する接合工程と、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、2つの被接合物が離間した状態で、減圧雰囲気下において2つの被接合物それぞれの接合面を60℃よりも高い温度に加熱する熱処理工程を行った後、減圧雰囲気下において2つの被接合物を接合する。これにより、減圧雰囲気下において2つの被接合物それぞれの接合面を60℃よりも高い温度に加熱することにより被接合物の接合面に存在する水或いは不純物が気化して除去される、或いは、被接合物の接合面の近傍に浮遊する水或いは不純物の付着が抑制できるので、被接合物の接合面が活性化または親水化され易くなる。従って、2つの被接合物を接合したときの2つの被接合物同士の接合強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施の形態1に係る接合システムの概略構成図である。
図2】実施の形態1に係る接合装置の概略正面図である。
図3】実施の形態1に係る第2搬送装置、接合装置およびロードロック部の概略構成図である。
図4】実施の形態1に係る接合装置の一部を示す図である。
図5】実施の形態1に係る接合装置の動作説明図である。
図6】実施の形態1に係る接合装置の動作説明図である。
図7A】実施の形態1に係る第2搬送装置の保持部が接合装置内に配置された状態を示す図である。
図7B】実施の形態1に係る第2搬送装置の保持部がロードロック部に配置された状態を示す図である。
図8】実施の形態1に係る接合方法の流れを示すフローチャートである。
図9A】実施の形態1に係る第2搬送装置、接合装置およびロードロック部を示し、第2搬送装置がロードロック部から基板を受け取る様子を示す図である。
図9B】実施の形態1に係る第2搬送装置、接合装置およびロードロック部を示し、第2搬送装置が基板を接合装置へ搬送する様子を示す図である。
図10A】実施の形態1に係る第2搬送装置、接合装置およびロードロック部を示し、接合装置に基板が搬送された状態を示す図である。
図10B】実施の形態1に係る第2搬送装置、接合装置およびロードロック部を示し、接合装置内において基板がヘッドに保持される様子を示す図である。
図11A】実施の形態1に係る第2搬送装置、接合装置およびロードロック部を示し、第2搬送装置がロードロック部から基板を受け取る様子を示す図である。
図11B】実施の形態1に係る第2搬送装置、接合装置およびロードロック部を示し、接合装置が第2搬送装置から基板を受け取る様子を示す図である。
図12A】実施の形態1に係る第2搬送装置、接合装置およびロードロック部を示し、接合装置内において基板がステージに保持される様子を示す図である。
図12B】実施の形態1に係る第2搬送装置、接合装置およびロードロック部を示し、接合装置内において接合処理を行う様子を示す図である。
図13A】実施の形態1に係る第2搬送装置、接合装置およびロードロック部を示し、第2搬送装置が接合装置から基板を受け取る様子を示す図である。
図13B】実施の形態1に係る第2搬送装置、接合装置およびロードロック部を示し、第2搬送装置が基板を接合装置からロードロック部へ搬送する様子を示す図である。
図14A】ブレード挿入法による基板の接合強度(表面エネルギ換算)の測定方法を説明するための図である。
図14B】実施の形態に係る接合強度の評価方法を説明するための図である。
図15】実施の形態1における基板同士の接合強度と接合時におけるチャンバ内の気圧との関係を示す図である。
図16】本発明の実施の形態2に係る親水化接合方法の流れを示すフローチャートである。
図17A】比較例に係る活性化処理工程の前に熱処理工程を行わない親水化接合方法により接合された2つの基板の写真である。
図17B】実施の形態2に係る親水化接合方法により接合された2つの基板の写真である。
図18】変形例に係る接合システムの概略構成図である。
図19】変形例に係る活性化処理装置の概略構成図である。
図20】変形例に係る親水化接合方法の流れを示すフローチャートである。
図21】変形例に係る接合装置の一部を示す図である。
図22】変形例に係る接合装置の一部を示す図である。
図23】変形例に係る接合装置の一部を示す図である。
図24A】変形例に係る接合装置の一部を示す図である。
図24B】変形例に係る接合装置の一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態1に係る接合装置について、図を参照しながら説明する。本実施の形態に係る接合装置は、減圧雰囲気にあるチャンバ内で、2つの基板の接合面を加熱した後、活性化処理を行い、その後、基板同士を接触させて加圧および加熱することにより、2つの基板を接合する。ここで、基板W1、W2としては、例えば、Si基板、SiOガラス基板等のガラス基板、酸化物基板(例えば、酸化ケイ素(SiO)基板、サファイア基板を含むアルミナ基板(Al)、酸化ガリウム(Ga)等)、窒化物基板(例えば、窒化ケイ素(SiN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ガリウム(GaN))、GaAs基板、炭化ケイ素(SiC)基板、タンタル酸リチウム(Lt:LiTaO)基板、ニオブ酸リチウム基板(Ln:LiNbO)、ダイヤモンド基板などのいずれかからなる被接合物である。或いは、基板W1、W2として、接合面にAu、Cu、Al、Ti等の金属から形成された電極が設けられた基板であってもよい。活性化処理では、2つの基板それぞれの互いに接合される接合面に対して、粒子ビームを照射することにより基板の接合面を活性化する。
【0010】
本実施の形態に係る接合システムは、図1に示すように、導入ポート811、812と、取り出しポート813と、第1搬送装置82と、洗浄装置3と、接合装置1と、ロードロック部83と、第2搬送装置84と、制御部9と、を備える。制御部9は、第1搬送装置82、洗浄装置3、接合装置1およびロードロック部83を制御する。第1搬送装置82および洗浄装置3には、HEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルタ(図示せず)が設けられている。これにより、第1搬送装置82および洗浄装置3内はパーティクルが極めて少ない大気圧環境になっている。
【0011】
第1搬送装置82は、先端部に基板を保持する保持部821aが設けられたアームを有する搬送ロボット821を備える。搬送ロボット821は、導入ポート811、812および取り出しポート813の並び方向に沿って移動可能であるとともに、旋回することによりアームの先端部の向きを変更することができる。保持部821aは、真空チャック、静電チャック等を有し、基板における接合面側とは反対側を吸着保持する。
【0012】
洗浄装置3は、搬送されてきた基板に向けて水、洗浄液またはNガスを吐出しながら洗浄する。洗浄装置3は、基板を支持するステージ(図示せず)と、ステージを鉛直方向に直交する面内で回転させる回転駆動部(図示せず)と、超音波またはメガソニック振動を与えた水、洗浄液またはNガスを吐出する洗浄ノズル(図示せず)と、を有する。そして、洗浄装置3は、洗浄ノズルを基板W1、W2の径方向へ揺動させながら洗浄ノズルから超音波を印加した水を基板の接合面に吹き付けながら、ステージを回転させることにより基板W1、W2の接合面全面を洗浄する。そして、洗浄装置3は、洗浄ノズルによる水の吐出を停止させた状態でステージを回転させることにより基板W1、W2をスピン乾燥する。
【0013】
接合装置1は、図2に示すように、チャンバ120と、ステージ141と、ヘッド142と、ステージ駆動部143と、ヘッド駆動部144と、基板加熱部1411、1421と、位置ずれ量測定部150と、粒子ビーム源161、162と、を備える。なお、以下の説明において、適宜図2の±Z方向を上下方向、XY方向を水平方向として説明する。また、接合装置1は、チャンバ120に配置されたカバー122A、122Bと、カバー122A、122Bを加熱するカバー加熱部123A、123Bと、を備える。カバー122A、122Bは、それぞれ、ステージ141、ヘッド142の周囲の活性化処理工程における活性化処理領域を含む形で配置されている。カバー加熱部123A、123Bは、それぞれ、カバー122A、122Bにおける粒子ビーム源161、162側とは反対側に固定されたヒータである。更に、接合装置1は、図3に示すように、ステージ141の近傍に配置され、ロードロック部83からチャンバ120内へ搬送される基板W1、W2を受け取る支持機構146を備える。図2に戻って、チャンバ120は、排気管121bと排気弁121cとを介して真空ポンプ121aに接続されている。排気弁121cを開状態にして真空ポンプ121aを作動させると、チャンバ120内の気体が、排気管121bを通してチャンバ120外へ排出され、チャンバ120内の気圧が低減(減圧)される。なお、チャンバ120内の気圧は、10-5Pa以下にすることができる。また、排気弁121cの開閉量を変動させて排気量を調節することにより、チャンバ120内の気圧(真空度)を調節することができる。
【0014】
ステージ141とヘッド142とは、チャンバ120内において、Z方向において互いに対向するように配置されている。ステージ141は、その上面で基板W1を支持し、ヘッド142は、その下面で基板W2を支持する。なお、ステージ141の上面とヘッド142の下面とは、基板W1、W2のステージ141、ヘッド142との接触面が鏡面でステージ141、ヘッド142から剥がれにくい場合を考慮して、粗面加工が施されていてもよい。ステージ141およびヘッド142は、それぞれ基板W1、W2を保持する保持機構(図示せず)を有する。保持機構は、静電チャック、機械式クランプ等を有する。また、ステージ141は、周部に段部141aが形成された形状を有する。そして、ステージ141に基板W1、W2が載置された状態において、基板W1、W2の周部が段部141aの上方に配置される。
【0015】
ステージ駆動部143は、ステージ141をXY方向へ移動させたり、Z軸周りに回転させたりすることができる。ヘッド駆動部144は、矢印AR1に示すようにヘッド142を昇降させる昇降駆動部1441と、ヘッド142をXY方向へ移動させるXY方向駆動部1442と、ヘッド142をZ軸周りの回転方向に回転させる回転駆動部1443と、を有する。また、ヘッド駆動部144は、ヘッド142のステージ141に対する傾きを調整するためのピエゾアクチュエータ1444と、ヘッド142に加わる圧力を測定するための圧力センサ1445と、を有する。XY方向駆動部1442および回転駆動部1443が、X方向、Y方向、Z軸周りの回転方向において、ヘッド142をステージ141に対して相対的に移動させることにより、ステージ141に保持された基板W1とヘッド142に保持された基板W2とのアライメントが可能となる。なお、ステージ駆動部143は、ステージ141の鉛直下方に配置された構成に限定されるものではなく、例えば、ステージ141の鉛直下方に圧力を受けるバックアップ部(図示せず)を設け、ステージ駆動部143が、ステージ141の外周部に配置し、ステージ141の側方からステージ141を駆動する構成であってもよい。
【0016】
昇降駆動部1441は、ヘッド142を鉛直下方向へ移動させることにより、ヘッド142をステージ141に近づける。また、昇降駆動部1441は、ヘッド142を鉛直上方向に移動させることにより、ヘッド142をステージ141から遠ざける。そして、昇降駆動部1441は、基板W1、W2同士が接触した状態においてヘッド142に対してステージ141に近づく方向への駆動力を作用させると、基板W2が基板W1に押し付けられる。また、昇降駆動部1441には、ヘッド142に対してステージ141に近づく方向へ作用させる駆動力を測定する圧力センサ1441aが設けられている。圧力センサ1441aによる測定値から、昇降駆動部1441により基板W2が基板W1に押し付けられたときに基板W1、W2の接合面に作用する圧力が検出できる。圧力センサ1441aは、例えば圧電素子を有する。
【0017】
ピエゾアクチュエータ1444と圧力センサ1445との組は、ヘッド142とXY方向駆動部1442との間に複数組配置されている。圧力センサ1445は、ピエゾアクチュエータ1444の上端部とXY方向駆動部1442の下側との間に介在している。ピエゾアクチュエータ1444は、各別に上下方向に伸縮可能であり、これらが伸縮することにより、ヘッド142のX軸周りおよびY軸周りの傾きとヘッド142の上下方向の位置とが微調整される。また、圧力センサ1445は、例えば圧電素子を有し、ヘッド142の下面における複数箇所での加圧力を測定する。そして、複数の圧力センサ1445で測定された加圧力が等しくなるように複数のピエゾアクチュエータ411それぞれを駆動することにより、ヘッド142の下面とステージ141の上面とを平行に維持しつつ基板W1、W2同士を接触させることができる。
【0018】
基板加熱部1411、1421は、例えば前述の保持機構が静電チャックの場合、ステージ141、ヘッド142における、基板W1、W2が当接する面側から見て保持機構の裏側に埋め込まれた電熱ヒータを有する第1被接合物加熱部である。基板加熱部1411、1421は、ステージ141、ヘッド142に支持されている基板W1、W2に熱を伝達することにより基板W1、W2を加熱する。また、基板加熱部1411、1421の発熱量を調節することにより、基板W1、W2またはそれらの接合面の温度を調節できる。位置ずれ量測定部150は、基板W1、W2それぞれに設けられた位置合わせ用のマーク(アライメントマーク)の位置を認識することにより、基板W1の基板W2に対する水平方向の位置ずれ量を測定する。位置ずれ量測定部150は、例えば基板W1、W2を透過する光(例えば赤外光)を用いて基板W1、W2のアライメントマークを認識する。ステージ駆動部143は、位置ずれ量測定部150により測定された位置ずれ量に基づいて、ステージ141を水平方向に移動させたり回転させたりすることにより、基板W1、W2の相互間の位置合わせ動作(アライメント動作)を実行する。この位置ずれ量測定部150による位置ずれ量の測定およびステージ駆動部143のアライメント動作は、いずれも制御部9の制御下において実行される。
【0019】
粒子ビーム源161、162は、それぞれ、例えば高速原子ビーム(FAB、Fast Atom Beam)源であり、例えば図4に示すように、放電室1601と、放電室1601内に配置される電極1602と、ビーム源駆動部1603と、アルゴンガスを放電室1601内へ供給するガス供給部1604と、を有する活性化処理部である。放電室1601の周壁には、中性原子を放出するFAB放射口1601aが設けられている。放電室1601は、炭素材料から形成されている。ここで、放電室1601は長尺箱状であり、その長手方向に沿って複数のFAB放射口1601aが一直線上に並設されている。ビーム源駆動部1603は、放電室1601内にアルゴンガスのプラズマを発生させるプラズマ発生部(図示せず)と、電極1602と放電室1601の周壁との間に直流電圧を印加する直流電源(図示せず)と、を有する。ビーム源駆動部1603は、放電室1601内にアルゴンガスのプラズマを発生させた状態で、放電室1601の周壁と電極1602との間に直流電圧を印加する。このとき、プラズマ中のアルゴンイオンが、放電室1601の周壁に引き寄せられる。このとき、FAB放射口1601aへ向かうアルゴンイオンは、FAB放射口1601aを通り抜ける際、FAB放射口1601aの外周部の、炭素材料から形成された放電室1601の周壁から電子を受け取る。そして、このアルゴンイオンは、電気的に中性化されたアルゴン原子となって放電室1601外へ放出される。
【0020】
ここで、粒子ビーム源161、162は、例えば図5に示すように、それぞれ、矢印AR21に示すように、基板W1、W2の接合面へ粒子ビームを照射させながら矢印AR22に示すように移動していく。ここで、粒子ビーム源161、162は、その粒子ビーム単体の投影面内における移動方向での強度にバラツキがあるため、基板W1、W2全体に確実に粒子ビームを照射するために、粒子ビーム源161、162の移動方向における基板W1の両端縁の外側のカバー122A、122B部分を含む領域まで粒子ビームを照射する。また、粒子ビーム源161の放電室1601の長手方向、即ち、X軸方向における両端部における粒子ビームの強度が低下する傾向にある。そこで、放電室1601のX軸方向の長さは、例えば図6に示すように、Z軸方向において基板W1、W2と重なるように配置された状態で、基板W1、W2のX軸方向全体を覆い且つ基板W1、W2におけるX軸方向の長さよりも長い長さに設定されている。または、基板W1、W2が平面視円形であるのに対して粒子ビーム源161、162の照射領域は平面視矩形状であるため、基板W1、W2以外の領域が照射される訳である。ここで、接合装置1は、例えば粒子ビーム源161、162を矢印AR22に示すように+Y方向へ移動させながら粒子ビームを基板W1、W2の接合面に照射した後、粒子ビーム源161、162を-Y方向へ移動させながら基板W1、W2の接合面に粒子ビームを照射する。この粒子ビーム源161、162の移動速度は、例えば1.2乃至14.0mm/secに設定される。また、粒子ビーム源161、162への供給電力は、例えば1kV、100mAに設定されている。そして、粒子ビーム源161、162それぞれの放電室1601内へ導入されるアルゴンガスの流量は、例えば50sccmに設定される。
【0021】
図3に戻って、カバー122A、122Bは、例えば金属から形成され、それぞれ、チャンバ120内におけるステージ141、ヘッド142の周囲に配置されている。カバー加熱部123Aは、例えば電熱ヒータを有し、カバー122Aにおける-Z方向側においてカバー122Aに近接して配置されている。このカバー122Aは、ステージ141に固定されており、ステージ141とともに移動する。また、カバー加熱部123Bも、例えば電熱ヒータを有し、カバー122Bにおける+Z方向側においてカバー122Bに近接して配置されている。このカバー122Bは、ヘッド142に固定されており、ヘッド142とともに移動する。
【0022】
支持機構146は、基板W1、W2を支持する支持部材1461と、支持部材1461を昇降させる支持部材駆動部1462と、を有する。支持部材1462は、略L字状の形状を有し、先端部がステージ141の周部に形成された段部141aまで延在している。また、支持機構146は、例えば3つ設けられ、この場合、支持部材1461は、例えば図7Aに示すように、基板W1、W2の周部における3箇所を支持する。また、支持部材1462の先端部には、先端部で基板W1、W2を支持する突起1461aが配設されている。そして、支持機構146は、図3に示すように、支持部材1462の先端部がステージ141に載置された基板W1、W2の周部に当接した状態で、支持部材1462を+Z方向へ駆動することにより、基板W1、W2を持ち上げる。この支持機構146は、ステージ141に固定されており、ステージ141とともに移動する。
【0023】
ロードロック部83は、待機チャンバ831と、待機チャンバ831内に連通する排気管832bと、排気管832bを通じて待機チャンバ831内の気体を排出する真空ポンプ832aと、排気管832bに介挿された排気弁832cと、を備える。排気弁832cを開状態にして真空ポンプ832aを作動させると、チャンバ831内の気体が、排気管832bを通してチャンバ831外へ排出され、チャンバ831内の気圧が低減(減圧)される。なお、チャンバ831内の気圧は、10-2Pa以下にすることができる。また、ロードロック部83は、待機チャンバ831における第1搬送装置82側に配設されたゲート833aと、待機チャンバ831における接合装置1側に配設されたゲート833bと、ゲート833a、833bそれぞれを各別に開閉駆動するゲート駆動部834と、を備える。また、ロードロック部83は、待機チャンバ831内に搬送される基板W1、W2を保持する基板保持機構836と、基板W1、W2を加熱する基板加熱部835と、を備える。ゲート833a、833bは、それぞれ、待機チャンバ831における第1搬送装置82側に貫設された開口831aと接合装置1側に貫設された開口831bとを覆うように設けられている。基板保持機構836は、基板W1、W2を保持するカセット8361と、カセット8361の最下段に保持される基板W1、W2を加熱する基板加熱部8363と、矢印AR4に示すようにカセット8361を昇降させる昇降駆動部8362と、を有する。カセット8361は、複数(図3では3つ)のスロットSLT1、SLT2、SLT3を有する。そして、最上段のスロットSLT3と最下段のスロットSLT1には、それぞれ、接合前の基板W1、W2が保持され、最上段から2段目、即ち、中央のスロットSLT2には、接合工程後の互いに接合された基板W1、W2が保持される。これにより、ロードロック部83における基板W1、W2の基板加熱部835、8363による熱処理工程が可能となる。また、カセット8361が、接合処理後の互いに接合された基板W1、W2をスロットSLT2に保持することができるので、接合装置1において接合工程を行った後の互いに接合された基板W1、W2をカセット8361の中央のスロットSLT2に戻した後、スロットSLT1、SLT3に保持された基板W1、W2を待機チャンバ831から接合装置1へ搬送して接合装置1において接合工程を行うことができる。これにより、接合装置1において接合工程を行っている最中に、待機チャンバ831を大気開放して、互いに接合された基板W1,W2を取り出して、新たな基板W1、W2を待機チャンバ831内へ搬送することができ、1回のサイクル内で複数回大気解放する必要なく、かつ、接合中に1回分の基板の交換を効率よくできるので、処理時間を短縮することができる。ここで、基板加熱部835、8363は、例えばランプヒータを有する第2被接合物加熱部である。なお、基板加熱部8363は、例えば電熱ヒータを有するものであってもよい。カセット8361は、例えば図7Bに示すように、基板W1、W2の挿入方向と直交する方向における基板W1、W2の両側から基板W1、W2の周部を支持する支持片8361aを有する。また、支持片8361aの先端部には、先端部で基板W1、W2を支持する突起8361bが配設されている。
【0024】
図3に戻って、第2搬送装置84は、長尺であり接合装置1のチャンバ120に設けられた開口120aに挿通され一端部に基板W1、W2を保持する保持部845が設けられた支持棒841と、支持棒841の他端部で支持棒841を支持する支持体842と、支持体842を駆動する支持体駆動部843と、を有する。また、第2搬送装置84は、チャンバ120内の真空度を維持するためにチャンバ120の開口120aの外周部と支持体842との間に介在するベローズ844を有する。支持体駆動部843は、例えば支持体842が固定されたスライダ(図示せず)をX軸方向へ摺動自在に支持するレール(図示せず)と、スライドをX軸方向へ駆動するためのボール螺子機構(図示せず)と、を有する。支持体駆動部843は、矢印AR3に示すように、支持体842を支持棒841がチャンバ120内へ挿脱される方向へ駆動することにより、基板W1、W2をロードロック部83と接合装置1とのいずれか一方から他方へ搬送する。ここで、保持部845は、例えば図7Aおよび図7Bに示すように、主部8452と、主部8452から同一方向へ延在する2つの長尺の支持片8451と、を有する。そして、主部8452の幅方向における中央部および2つの支持片8451の先端部それぞれには、先端部で基板W1、W2を支持する突起8453が配設されている。保持部845は、接合装置1の2つの支持機構146の間およびロードロック部83のカセット8361の一対の支持片8361aの間に挿入可能な大きさおよび形状を有する。
【0025】
図1に戻って、制御部9は、例えばプログラマブルロジックコントローラである。制御部9は、圧力センサ148、位置ずれ量測定部150等から入力される測定信号に基づいて、基板W1、W2同士を圧接する際の圧力を算出したり、基板W1、W2の相対的な位置ずれ量を算出したりする。また、制御部9は、算出した圧力または位置すれ量に基づいて、ステージ駆動部143、ヘッド駆動部144、支持機構146へ制御信号を出力することによりステージ駆動部143、ヘッド駆動部144、支持機構146の動作を制御する。更に制御部9は、基板加熱部1411、1421、粒子ビーム源161、162、第2搬送装置84、第1搬送装置82へ制御信号を出力することによりこれらの動作を制御する。
【0026】
次に、本実施の形態に係る接合システムを用いた基板W1、W2同士を接合する接合方法について、図8乃至図13を参照しながら説明する。ここで、基板W1、W2は、図1に示す導入ポート811、812に接合面が鉛直上方となる姿勢で配置されているものとする。なお、導入ポート811には、例えば接合装置1においてヘッド142に保持される基板W2が配置され、導入ポート812には、例えば接合装置1においてステージ141に載置される基板W1が配置される。また、本実施の形態に係る接合方法を行う前に事前にチャンバ120の内壁を加熱するチャンバ加熱工程を行う。具体的には、チャンバ120の周壁にヒータジャケット(図示せず)を巻回してチャンバ120内を150℃で24時間程度の間チャンバ120の内壁を加熱(ベーキング)する。これにより、チャンバ120内の気圧は、10-5Pa以下にすることができる。このチャンバ120をベーキングする際、同時にカバー122A、122Bを加熱するカバー加熱工程を行ってもよい。ここで、チャンバ加熱工程によるチャンバ120のベーキングを行うベーキング時間の長さが、カバー加熱工程におけるカバー122A、122Bの加熱を行うカバー加熱時間の長さ以上であってもよいし、カバー加熱時間の長さ未満であってもよい。これにより、カバー122A、122Bに付着した水或いは不純物を除去することができる。特に、チャンバ120をベーキングすると、チャンバ120から脱離した水或いは不純物がチャンバ120よりも比較的温度の低いカバー122Aに付着する。この場合、活性化処理工程を行うと、カバー122Aに付着した水或いは不純物に粒子ビームが照射され、カバー122に付着した水或いは不純物がチャンバ120内に浮遊してしまい、基板W1、W2の接合面に付着してしまう。このため、チャンバ120のベーキングと同時にカバー加熱工程を行うことにより、カバー122Aに付着したチャンバ120から脱離した水或いは不純物も一緒に除去することが好ましい。
【0027】
本実施の形態に係る接合方法では、図8に示すように、まず、第1搬送装置82が、導入ポート811、812に配置されている基板W2を取り出して洗浄装置3へ搬送する(ステップS101)。ここで、搬送ロボット821は、基板W1、W2を導入ポート811、812から取り出した後、基板W1、W2を保持した状態で、アーム821aの先端部が洗浄装置3側を向くように旋回する。次に、洗浄装置3が基板W1、W2の搬出入口を開放すると、搬送ロボット821が、アーム821aを伸張させてアーム821aの先端部を洗浄装置3内へ挿入する。そして、基板W1、W2が搬送ロボット821のアーム821aの先端部から洗浄装置3のステージへ移載される。
【0028】
次に、洗浄装置3が、基板W1、W2を水洗浄する水洗浄工程を実行する(ステップS102)。ここでは、洗浄装置3が、洗浄ノズルから超音波を印加した水を基板W1、W2の接合面に吹き付けながら、基板W1、W2が載置されたステージを回転させることにより基板W1、W2の接合面全面を洗浄する。これにより、基板W1、W2の接合面に付着した異物が除去される。次に、洗浄装置3は、洗浄ノズルによる水の吐出を停止させてから、ステージを回転させることにより基板をスピン乾燥することにより水洗浄工程が完了する。その後、洗浄装置3は、これら一連の洗浄処理が完了すると、基板W1、W2の搬出入口を開放する。
【0029】
続いて、第1搬送装置82が、水洗浄工程が完了した基板W1、W2を洗浄装置3からロードロック部83へ搬送する(ステップS103)。ここで、第1搬送装置82の搬送ロボット821は、洗浄装置3の基板W1、W2の搬出入口が開放された状態で、アーム821aを伸張させてアーム821aの先端部を洗浄装置3内へ挿入し、洗浄装置3内のステージから基板W1、W2を受け取る。次に、搬送ロボット821は、アーム821aを収縮させることにより、基板W1、W2を洗浄装置3から取り出す。続いて、ロードロック部83のゲート駆動部834が、待機チャンバ831の第1搬送装置82側のゲート833aを開放すると、搬送ロボット821は、基板W1、W2を保持した状態で、アーム821aの先端部がロードロック部83側を向くように旋回する。このとき、搬送ロボット821は、洗浄装置3から基板W2を受け取った場合、基板W2の接合面側が鉛直下方を向く姿勢となるようにアーム821aを反転させることにより基板W2の接合面が鉛直下方を向く姿勢で基板W2を保持した状態で旋回する。一方、搬送ロボット821は、洗浄装置3から基板W1を受け取った場合、基板W2の姿勢をその接合面側が鉛直上方を向いた姿勢で維持した状態で旋回する。その後、搬送ロボット821は、アーム821aを伸張させることによりアーム821aの先端部を待機チャンバ831内へ挿入する。そして、基板W1、W2が、アーム821aの先端部から待機チャンバ831内に配置された基板保持機構836のカセット8361へ移載される。このとき、基板W1、W2は、例えば図9Aに示すように、カセット8361の最上段のスロットSLT3と最下段のスロットSLT1とに保持される。次に、搬送ロボット821は、基板保持機構836のカセット8361への基板W1、W2の移載が完了すると、アーム821aを収縮させる。そして、ゲート駆動部834が、待機チャンバ831のゲート833aを閉じる。
【0030】
図8に戻って、その後、減圧雰囲気の待機チャンバ831内において、2つの基板W1、W2それぞれの互いに接合される接合面を60℃よりも高い温度に加熱する熱処理工程を行う(ステップS104)。ここで、減圧雰囲気とは、例えばチャンバ120内の気圧が10-2Pa以下の状態である。また、ロードロック部83の基板加熱部835が、基板W2を加熱し、基板加熱部8363が、基板W1を加熱する。例えば、待機チャンバ831の上側に配置された基板加熱部835と、下側に配置された基板加熱部8363と、により基板W1、W2を加熱する。
【0031】
次に、第2搬送装置84が、基板保持機構836のカセット8361に保持された基板W1、W2を、ロードロック部83から接合装置1へ搬送する(ステップS105)。ここで、ロードロック部83は、まず、待機チャンバ831内を接合装置1のチャンバ120と略同じ真空度となるまで減圧する。次に、ゲート駆動部834が、待機チャンバ83の接合装置1側のゲート833bを開放する。続いて、ロードロック部83の昇降駆動部8362が、図9Aに示すようにカセット8361を、その基板W2を保持するスロットSLT3の下側に第2搬送装置84の保持部845の挿入が可能となる位置へ移動させる。その後、第2搬送装置84は、矢印AR31に示すように、支持棒841をロードロック部83側へ移動させることにより保持部845をカセット8361における基板W2を保持するスロットSLT3の下側に挿入する。次に、ロードロック部83の昇降駆動部8362が、矢印AR41に示すように、カセット8361を鉛直下方へ移動させることにより、基板W2がカセット8361から保持部845に移載される。ここで、基板W2は、その接合面側が鉛直下方を向く姿勢で保持部845に保持されるが、例えば図4Aおよび図4Bに示すように、保持部845は、基板W2の接合面の外周部を点接触で保持するため基板W1、W2の接合には影響はない。続いて、第2搬送装置84は、図9Bの矢印AR32に示すように、支持棒841をロードロック部83から遠ざかる方向へ移動させることにより、保持部845を接合装置1のチャンバ120内に配置する。その後、ゲート駆動部834が、ゲート833bを閉じる。
【0032】
次に、図10Aの矢印AR51に示すように、支持機構146の支持部材駆動部1462が、支持部材1461を上昇させることにより、基板W2を持ち上げる。そして、第2搬送装置84が、基板W2が支持部材1461により持ち上げられた状態で、支持棒841をロードロック部83から遠ざかる方向へ移動させることにより、保持部845を予め設定された待機位置に配置する。続いて、接合装置1のヘッド駆動部144が、図10Bの矢印AR11に示すように、ヘッド142を鉛直下方へ移動させることにより、ヘッド142を支持部材1461により支持された基板W2に当接させてから基板W2をヘッド142に保持させる。ここで、ロードロック部83は、矢印AR42に示すように、カセット8361を、その基板W1を保持するスロットSLT1の下側に第2搬送装置84の保持部845の挿入が可能となる位置へ移動させる。
【0033】
その後、ヘッド駆動部144は、図11Aの矢印AR12に示すようにヘッド142を上昇させる。このとき、支持部材駆動部1462は、矢印AR52に示すように、支持部材1461を下降させる。次に、ゲート駆動部834は、待機チャンバ83の接合装置1側のゲート833bを再び開放する。続いて、第2搬送装置84は、矢印AR34に示すように、支持棒841をロードロック部83側へ移動させることにより保持部845をカセット8361における基板W1を保持するスロットSLT1の下側に挿入する。次に、ロードロック部83の昇降駆動部8362が、矢印AR43に示すように、カセット8361を鉛直下方へ移動させることにより、基板W1がカセット8361から保持部845に移載される。
【0034】
続いて、第2搬送装置84は、図11Bの矢印AR35に示すように、支持棒841をロードロック部83から遠ざかる方向へ移動させることにより、保持部845を接合装置1のチャンバ120内に配置する。その後、ゲート駆動部834が、ゲート833bを閉じる。次に、支持機構146の支持部材駆動部1462が、矢印AR53に示すように、支持部材1461を上昇させることにより、基板W1を持ち上げる。そして、第2搬送装置84が、基板W1が支持部材1461により持ち上げられた状態で、図12Aの矢印AR36に示すように、支持棒841をロードロック部83から遠ざかる方向へ移動させることにより、保持部845を予め設定された待機位置に配置する。次に、支持機構146の支持部材駆動部1462が、矢印AR54に示すように、支持部材1461を下降させることにより、基板W1をステージ141上に載置された後、ステージ141が基板W1に保持された状態となる。
【0035】
図8に戻って、次に、減圧雰囲気下において2つの基板W1、W2それぞれの互いに接合される接合面を60℃よりも高い温度に加熱する熱処理工程が行う(ステップS106)。ここで、減圧雰囲気とは、例えばチャンバ120内の気圧が10-6Pa以下の状態である。また、基板加熱部1411、1421は、それぞれ、ステージ141、ヘッド142に支持されている基板W1、W2に熱を伝達することにより基板W1、W2を60℃よりも高い温度にまで加熱する。これにより、基板W1、W2の接合面に付着した水を主成分とする異物が除去される。
【0036】
続いて、減圧雰囲気下において2つの基板W1、W2それぞれの接合面を活性化する活性化処理工程を行う(ステップS107)。ここでは、接合装置1が、図5の矢印AR21に示すように、粒子ビーム源161、162から放射される粒子ビームを基板W1、W2の接合面へ照射することにより、基板W1、W2の接合面に対して活性化処理を行う。なお、熱処理工程の後、活性化処理工程の前に、基板W1、W2の温度を60℃以下の温度に冷却する冷却工程を行ってもよい。
【0037】
図8に戻って、その後、基板W1、W2同士を接合する接合工程を行う(ステップS108)。ここでは、接合装置1のヘッド駆動部144が、まず、基板W2を支持したヘッド142を、基板W1を支持したステージ141に近づけて両基板W1、W2を接近させる。続いて、ヘッド駆動部144は、両基板W1、W2が互いに近接した状態において、位置ずれ量測定部150により測定される位置ずれ量に基づいて、両基板W1、W2のアライメント動作を実行する。このように、ヘッド駆動部144が、活性化処理工程の後にアライメント動作を実行することにより、基板W1、W2の位置ずれを低減することができる。その後、ヘッド駆動部144は、図12Bの矢印AR12に示すように、ヘッド142を再びステージ141に近づけることにより、2つの基板W1、W2を接触させる。次に、ヘッド駆動部144は、基板W1、W2の接合面同士を接触させた状態で、2つの基板W1、W2が互いに密着する方向へ圧力を加えることにより、2つの基板W1、W2を接合する。続いて、ヘッド駆動部144は、ヘッド142による基板W2の保持が解除された後、図13Aの矢印AR13に示すようにヘッド142を上昇させる。このとき、支持機構146の支持部材駆動部1462が、矢印AR55に示すように、支持部材1461を上昇させることにより、互いに接合された基板W1、W2を持ち上げる。また、ロードロック部83は、矢印AR44に示すように、カセット8361を、その最上段から2段目、即ち、中央のスロットSLT2の上側に第2搬送装置84の保持部845の挿入が可能となる位置へ移動させる。
【0038】
図7に戻って、次に、第2搬送装置84が、互いに接合された基板W1、W2を、接合装置1からロードロック部83へ搬送する(ステップS109)。ここでは、まず、第2搬送装置84が、図13Aの矢印AR37に示すように、支持棒841を待機位置からロードロック部83に近づく方向へ移動させることにより、保持部845をチャンバ120内における基板W1、W2の下方に配置する。次に、ロードロック部83のゲート駆動部834が、待機チャンバ831における接合装置1側のゲート833bを開放する。続いて、支持機構146の支持部材駆動部1462が、図13Bの矢印AR56に示すように、支持部材1461を下降させることにより、互いに接合された基板W1、W2を保持部845に移載する。その後、第2搬送装置84が、矢印AR38に示すように、支持棒841を待機位置からロードロック部83に近づく方向へ移動させることにより、保持部845を、カセット8361の中央のスロットSLT2の上側に挿入する。そして、ロードロック部83の昇降駆動部8362が、矢印AR45に示すように、カセット8361を予め設定された距離だけ上昇させることにより、基板W1、W2が保持部845からカセット8361に移載される。その後、第2搬送装置84は、支持棒841を待機位置まで移動させる。次に、ゲート駆動部834はゲート833bを閉じる。
【0039】
図8に戻って、続いて、第1搬送装置84が、互いに接合された基板W1、W2を、ロードロック部83から取り出しポート813へ搬送する(ステップS110)。ここでは、まず、ロードロック部83が、待機チャンバ831内を大気開放する。次に、ロードロック部83のゲート駆動部834が、待機チャンバ831における第1搬送装置82側のゲート833aを開放するとともに、搬送ロボット821が、アーム821aの先端部をロードロック部83側に向けた状態でアーム821aを伸張させてアーム821aの先端部を待機チャンバ831内へ挿入する。そして、互いに接合された基板W1、W2が、待機チャンバ831内のステージから搬送ロボット821のアーム821aの先端部へ移載される。次に、搬送ロボット821が、アーム821aを収縮させることにより互いに接合された基板W1、W2を待機チャンバ831から取り出した後、ロードロック部83のゲート駆動部834が、ゲート833aを閉じる。続いて、搬送ロボット821は、アーム821aの先端部が取り出しポート813側を向くように旋回する。その後、搬送ロボット821は、互いに接合された基板W1、W2を保持した状態で、アーム821aを伸張させてアーム821aの先端部を取り出しポート813内へ挿入して互いに接合された基板W1、W2を取り出しポート813内に配置する。
【0040】
なお、前述の接合方法を行う前に、チャンバ120内を減圧した状態で、チャンバ120を加熱する工程、即ち、チャンバ120をベーキングする工程の後、カバー加熱部123A、123Bによりカバー122A、122Bを加熱するカバー加熱工程を行ってもよい。或いは、基板W1、W2が未だチャンバ120内に配置されていない前述の活性化処理工程を行う前に、チャンバ120内を減圧した状態でカバーを加熱するカバー加熱工程を行ってもよい。
【0041】
次に、本実施の形態に係る接合システムにより2つの基板W1、W2を接合してなる10種類の試料について、接合強度を評価した結果について説明する。各試料について、活性化処理工程における粒子ビーム源161、162それぞれへアルゴンガスの供給量は、50sccmに設定した。また、粒子ビーム源161、162から基板W1、W2へ粒子ビームを照射する直前におけるチャンバ120内の真空度は、2×10-6Paに設定した。また、基板W1、W2を互いに接合する際、2つの基板W1、W2が互いに密着する方向へ20000Nの圧力を加えながら60sec維持した。また、基板W1、W2としては、いずれもSi基板を採用した。
【0042】
10種類の試料のうちの試料1乃至試料7それぞれについて、ステージ141およびヘッド142に基板W1、W2が保持される前のこれらのステージ(ヘッド)温度と、ロードロック部83から接合装置1のステージ141へ搬送された直後のステージ温度と、基板W1、W2同士を接触させる前の離間した状態での接触前温度と、基板W1、W2を接触させた後の接触後温度と、を纏めたものを以下の表1に示す。なお、試料1乃至7については、ロードロック部83から接合装置1のステージ141およびヘッド142へ基板W1、W2が搬送された後、活性化処理工程を含む接合工程を行うまでの間の放置時間は、いずれも30secとした。また、試料1,2については、ステージ141およびヘッド142に基板W1、W2が保持される前の状態でステージ141およびヘッド142を300℃まで加熱した後、それぞれ、25℃、150℃まで冷却し、その後、ロードロック部83から接合装置1へ基板W1、W2を搬送した。更に、試料7については、活性化処理後、接触工程が完了した後、互いに接触した基板W1、W2を150℃まで加熱した。また、試料3については、ロードロック部83から接合装置1へ搬送された後、対向した基板が離間した状態でステージ141およびヘッド142の温度を150℃まで上昇させた後、活性化処理を行い、基板W1、W2同士を接触させ、接合した。
【0043】
【表1】
【0044】
また、10種類の試料のうちの試料6および8それぞれについて、基板W1、W2がロードロック部83から接合装置1へ搬送された後、接合工程を行うまでの間の放置時間を纏めたものを以下の表2に示す。なお、試料8について、ステージ141およびヘッド142に基板W1、W2がセットされる前のステージ141およびヘッド142の温度は、試料6と同様に80℃とした。また、ロードロック部83から接合装置1へ搬送された直後の温度と基板W1、W2の接合時の温度とは、それぞれ、試料6と同様に80℃とした。
【0045】
【表2】
【0046】
更に、10種類の試料のうちの試料9および試料10それぞれについて、基板W1、W2を待機チャンバ831内へ搬送した後の熱処理の有無について纏めたものを以下の表3に示す。ここで、「熱処理有り」とは、ロードロック部83において、基板加熱部835により100℃で10min加熱を行ったことを示す。また、試料9および試料10については、ロードロック部83から接合装置1へ搬送された後、接合工程を行うまでの間の放置時間は、いずれも30secとした。更に、試料9および試料10について、ステージ141およびヘッド142に基板W1、W2がセットされる前のステージ141およびヘッド142の温度、ロードロック部83から接合装置1へ搬送された直後の温度、および、基板W1、W2の接合時の温度は、いずれも、25℃とした。また、ロードロック部83の待機チャンバ831内の真空度は、10-2Paに設定した。更に、接合装置1のステージ141およびヘッド142に基板W1、W2が保持される前のこれらのステージ(ヘッド)温度、ロードロック部83から接合装置1へ搬送された直後の温度、前述の接触前温度および接触後温度は、いずれも常温、即ち、25℃に設定した。
【0047】
【表3】
【0048】
また、試料1乃至試料10についての基板W1、W2の接合強度の評価は、ブレードを挿入するクラックアンドオープニング法を用いて接合強度(表面エネルギ換算)を測定することにより行った。このクラックアンドオープニング法では、まず、図14Aの矢印で示すように、互いに接合された2つの基板W1、W2の周縁から接合部分に例えばカミソリの刃のようなブレードBLを挿入したときの基板W1、W2の剥離長さLを測定する。ブレードBLとしては、例えば厚さ100μmのブレードを使用する。また、図14Bに示すように、互いに接合された2つの基板W1、W2の周縁部の6箇所(Pos1、Pos2、Pos3、Pos4、Pos5、Pos6)にブレードBLを挿入(図14B中の矢印参照)したときのブレード接点からの剥離長さLを測定した。そして、基板W1、W2の周縁部の6箇所それぞれについて、剥離長さLから、基板W1、W2の接合界面の強度を単位面積当たりの表面エネルギ換算で算出することにより、基板W1、W2の接合強度の評価を行った。なお、剥離長さLから接合強度(表面エネルギ換算)Ebを算出する際には、下記式(1)の関係式を使用した。
【数1】
ここで、Yはヤング率を示し、Tsは基板W1、W2の厚さを示し、TbはブレードBLの厚さを示す。試料1乃至14についての基板W1、W2の接合強度の評価では、ヤング率Yを6.5×1010[N/m]とし、基板W1、W2の厚さTsを0.0011m(1.1mm)、ブレードBLの厚さTbを0.0001m(0.1mm)とした。計算式より剥離長さが短いほど接合強度が大きくなる。基板W1、W2の周縁部の6箇所における剥離長さおよび接合強度(表面エネルギ換算)の平均値、並びにバルク破壊が発生した測定点の数を表5に示す。なお、算出された接合強度(表面エネルギ換算)が大きいほど、基板W1、W2の接合強度が大きいことを示す。通常、2J/mを超えてバルク破壊するのが好ましい。また、バルク破壊したものの中でも剥離長さが短いほど接合強度は高いと想定できるので剥離長さを併記している
【0049】
試料1乃至試料10についての基板W1、W2の接合強度の評価結果を以下の表4に示す。なお、表4において「試料名」の欄は、前述の表1の試料1乃至試料14それぞれに対応する。「剥離長さ」の欄の値は、図14Bに示す2つの基板W1、W2の周縁部の6箇所(「Pos1」乃至「Pos6」)における剥離長さの平均値を示している。また、「接合強度(表面エネルギ換算)」の欄の値は、図14Bに示す2つの基板W1、W2の周縁部の6箇所(「Pos1」乃至「Pos6」)における接合強度(表面エネルギ換算)の平均値を示し、2つの基板W1、W2の周縁部の6箇所全てでバルク破壊が発生したものは「バルク破壊」と記載している。なお、試料2、3、5、6、8、9それぞれに対応する「接合強度(表面エネルギ換算)」の欄内の括弧書き記載の数値は、剥離長さの平均値から式(1)を用いて算出された理論値であり、実際には存在しない値であるが参考のために記載している。更に、「バルク破壊箇所の数」の欄の値は、2つの基板W1、W2の周縁部の6箇所のうちバルク破壊が発生した箇所の数を示している。
【0050】
【表4】
【0051】
表4に示すように、試料2、3の接合強度(表面エネルギ換算)は、いずれも2.5J/m以上であり、6箇所全てがバルク破壊強度に達していたのに対して、試料1、7の接合強度(表面エネルギ換算)は、いずれも2.5J/m未満であった。一方、試料3の結果から、ステージ141およびヘッド142に基板W1、W2が保持される前のこれらの温度を常温、即ち、25℃程度で維持した場合であっても、ロードロック部83から接合装置1へ搬送された直後の温度および接触前温度を150℃まで上昇させることにより基板W1、W2同士の接合強度が大きく増加することが判った。これらの結果から、ステージ141およびヘッド142に基板W1、W2が保持される前にこれらの温度を300℃に上昇させてベーキングを行うことは、基板W1、W2の接合強度向上に寄与しないことが判った。また、基板W1、W2同士を接触させた後において、基板W1、W2を150℃まで加熱することも基板W1、W2の接合強度向上に寄与しないことが判った。即ち、ロードロック部83から接合装置1へ搬送された直後の温度および基板W1、W2の接触前温度を上昇させることが基板W1、W2同士の接合強度の向上に寄与することが判った。つまり、活性化処理工程を行う直前に熱処理工程を行うことが基板W1、W2同士の接合強度を高める上で重要であることが判った。
【0052】
また、試料4の接合強度(表面エネルギ換算)は、2.5J/m未満であったのに対して、試料3、5、6の接合強度(表面エネルギ換算)は、いずれも2.5J/m以上であった。特に、試料3、5では、6箇所全てがバルク破壊強度に達していた。これらの結果から、ロードロック部83から接合装置1へ搬送された直後の温度、即ち、基板W1、W2の接合直前の温度および接合時の温度を60℃よりも高い温度まで上昇させることにより基板W1、W2同士の接合強度が増加し、特に、基板W1、W2の接合直前の温度を100℃以上の温度まで上昇させることにより基板W1、W2同士の接合強度が大きく増加することが判った。
【0053】
更に、試料6のバルク破壊強度に達した箇所が2箇所であったのに対して、試料8のバルク破壊強度に達した箇所が4箇所であった。この結果から、ステージ141およびヘッド142に基板W1、W2が保持される前のこれらの温度、即ち、基板W1、W2の接合直前の温度が80℃である場合、基板W1、W2がロードロック部83から接合装置1へ搬送された後、接合工程を行うまでの間の放置時間を長くすると、基板W1、W2同士の接合強度が向上することが判った。
【0054】
また、試料10の接合強度(表面エネルギ換算)が、2.5J/m未満であるのに対して、試料9の接合強度(表面エネルギ換算)は、2.5J/m以上であり、2箇所においてバルク破壊強度に達していた。このことから、ロードロック部83において基板W1、W2を加熱することも基板W1、W2同士の接合強度の向上に寄与することが判った。また、熱処理工程における気圧は、10-2Pa以下であれば良いことも判った。なお、試料9の接合強度は、試料5の接合強度に比べれば低い。このことから、熱処理工程における気圧は、10-5Pa以下であることがより好ましいことが判った。基板W1、W2の表面に付着した水分子を主成分とする不純物がより多く除去され、再付着が防がれたことが反映されていると考えられる。10-2Pa程度では10-5Pa以下に比べて雰囲気中に水分や不純物が含まれているためも起因していると考えられる。
【0055】
ところで、本活性化処理により直接接合を行う原理としてはAr粒子ビームにより表面の不純物が除去され、かつ、分子結合が外されることで結合手となるダングリングボンドが露出され、他の不純物となる分子が浮遊していない環境であれば他方の基板のダングリングボンド同士を常温で直接接合ができることである。よって、不純物が浮遊する真空度ではダングリングボンドが不純物により終端されてしまい、接合できなくなる訳である。
【0056】
また、基板W1、W2の接合強度(表面エネルギ換算)は、活性化処理工程におけるチャンバ120内の気圧に対して、例えば図15に示すような依存性を示す。図15に示す結果は、基板W1、W2がいずれもSi基板である場合の結果である。図15に示す結果から、活性化処理工程におけるチャンバ120内の気圧は、10-5Pa以下から強度が急速に上がっていく。なお、チャンバ120内を10-5Pa以下にするためには、チャンバ120の周壁にヒータジャケット(図示せず)を巻回してチャンバ120内を150℃で24時間程度の間熱処理(ベーキング)することでチャンバ120内の水分を主体として不純物を除去することで達成される。この図15に示すような結果が得られたのは、チャンバ120内の気圧が10-5Pa以下であれば、チャンバ120内に浮遊する水分を主成分とする不純物が熱処理工程において除去され、基板W1、W2に付着することなく、基板W1、W2同士の接合強度が向上したことを示していると考えられる。但し、基板W1、W2そのものは大気から搬入しているので表面には水分を主体とした不純物が付着しており、除去して接合することが好ましい。このことからも基板W1、W2同士を接合する前に、基板W1、W2そのものも同様に熱処理をかけることで水分を主体とした不純物を除去できるので、基板W1、W2同士の接合強度がより向上している理屈が理解できる。
【0057】
また、試料1乃至10では、基板W1、W2としてSi基板を採用したが、基板W1、W2が、例えばSiOガラス基板等のガラス基板、酸化物基板(例えば、酸化ケイ素(SiO)基板、サファイア基板を含むアルミナ基板(Al)、酸化ガリウム(Ga)等)、窒化物基板(例えば、窒化ケイ素(SiN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ガリウム(GaN))、GaAs基板、炭化ケイ素(SiC)基板、タンタル酸リチウム(Lt:LiTaO)基板、ニオブ酸リチウム(Ln:LiNbO)基板、ダイヤモンド基板等が採用されてもよい。また、基板W1、W2の接合面にAu、Cu、Al、Ti等の金属から形成された電極が設けられた各種基板であっても、前述のように熱処理工程において基板W1、W2の表面に付着した水分子を主成分とする不純物が除去される効果が得られるものと考えられる。
【0058】
また、線膨張係数の違う材料から形成された基板W1、W2同士を接合した場合についても評価した。基板W1として、Si基板、基板W2として、タンタル酸リチウム(Lt:LiTaO)基板またはニオブ酸リチウム基板(Ln:LiNbO)を採用して、前述の接合方法を行った。ここで、基板W1,W2を100℃で熱処理した後、基板W1、W2の温度を100℃で維持した状態で基板W1、W2同士を接合すると、基板W1、W2同士の接合強度(表面エネルギ換算)は、1.0J/mであった。一方、基板W1,W2を100℃で熱処理した後、基板W1、W2の温度を60℃まで冷却してから基板W1、W2同士を接合すると、基板W1、W2同士の接合強度(表面エネルギ換算)は、1.6J/mに上昇した。即ち、基板W1、W2の温度が、熱処理後、熱処理時の温度よりも低い温度にまで低下してから基板W1、W2同士を接合した方が基板W1、W2同士の接合強度が向上した。これは、基板W1、W2が熱処理時における比較的高い温度で維持された状態で基板W1、W2同士を接合すると、基板W1、W2での線膨張係数の差に起因して、基板W1、W2の熱膨張による膨張度合に差が生じてしまい、基板W1、W2に対して基板W1が基板W2から剥がれる方向へ力が加わり、基板W1、W2の反りまたは割れが生じ、それのみならず、基板W1、W2同士の接合強度が低下してしまっていることを示していると考えられる。よって、線膨張係数が異なる材料からなる2つの基板W1、W2同士を接合する場合、熱処理工程の後、基板W1、W2を冷却してから基板W1、W2同士を接合するのが好ましい。
【0059】
また、洗浄装置3において水洗浄を行い、スピンドライ法により基板W1、W2の接合面に付着した水を除去した後、直ぐにロードロック部83へ搬入し、その後、熱処理工程を行わずに基板W1、W2を接合した。この場合、基板W1、W2同士の接合強度(表面エネルギ換算)は、0.5J/m以下であった。これに対して、洗浄装置3において水洗浄を行い、スピンドライ法により基板W1、W2の接合面に付着した水を除去した後、ロードロック部83へ搬入し、ロードロック部83または接合装置1において100℃で30sec維持する熱処理工程を行った場合、基板W1、W2同士の接合強度(表面エネルギ換算)は、2.5J/mよりも大きくなった。即ち、接合処理前に水洗浄を行っても基板W1、W2同士の接合強度を向上させることができた。これは、洗浄装置3における水洗浄後スピンドライ法により水を除去するが、基板W1、W2の熱処理工程を行わない場合、基板W1、W2の接合面に水分子が薄い層として残っており、これに起因して基板W1、W2同士の接合強度が水洗浄を行わなかった場合の基板W1、W2同士の接合強度に比べて低下したと考えられる。一方、基板W1、W2の熱処理工程を行うことにより、基板W1、W2の接合面に残っていた水が略全て除去されることで基板W1、W2同士の接合強度が向上したと考えられる。また、基板W1、W2の接合面に水が残った場合、基板W1、Wを真空雰囲気に放置するだけでは基板W1、W2に残った水が完全には無くならないことがこの結果からも分かる。真空雰囲気においても基板W1、W2の接合面に水が残っており、この水を完全に飛ばすには真空雰囲気で基板W1、W2を加熱することが有効であることがこの結果から判る。
【0060】
更に、基板W1、W2としてSi基板を用いて、基板W1、W2の接合面に粒子ビームを照射してから基板W1、W2同士を接合したときの接合強度の経時的な変化について、前述の熱処理工程を行った場合と熱処理工程を行わなかった場合とで比較した。なお、粒子ビームの照射は、基板W1、W2同士の接合強度をある程度低下させて基板W1、W2同士の接合強度の経時的な変化を確認し易くするために照射回数を低減した。この結果、熱処理工程を行った場合の基板W1、W2同士の接合強度は、熱処理工程を行わなかった場合のそれに比べて約2倍以上になった。
【0061】
以上説明したように、本実施の形態に係る接合システムでは、接合装置1において、2つの基板W1、W2が離間した状態で、減圧雰囲気下において2つの基板W1、W2それぞれの接合面を60℃よりも高い温度に加熱する熱処理工程を行った後、基板W1、W2の接合面を活性化す活性化処理工程を行う。その後、接合装置1は、減圧雰囲気下において2つの基板W1、W2を接合する。これにより、減圧雰囲気下において2つの基板W1、W2それぞれの接合面を60℃よりも高い温度に加熱することにより基板W1、W2の接合面に存在する水或いは不純物が気化して除去されるので、基板W1、W2の接合面が活性化処理により活性化され易くなる。従って、活性化処理後の2つの基板W1、W2を接合したときの2つの基板W1、W2同士の接合強度を高めることができる。
【0062】
基板W1、W2の接合面に付着した不純物を除去する方法として、粒子ビームを照射することにより除去することが考えられる。この場合、粒子ビーム源161、162の電極1602と放電室1601の周壁との間に引加する直流電圧を1kV、電極1602と放電室1601の周壁との間を流れる電流値を100mA、放電室1601に導入するArガス流量を50sccmに設定して粒子ビームを基板W1、W2の接合面へ照射し続ける。しかしながら、この方法の場合、不純物を除去するために余分に粒子ビームを基板W1、W2の接合面に照射する必要があり、その分、粒子ビームの照射時間が長くなってしまう。例えば基板W1、W2の接合面に数nm程度の厚さの不純物が付着している場合、粒子ビームを照射する時間が5min程度長くなってしまう。また、基板W1、W2の接合面に付着した不純物は、その厚さ或いは付着強度にばらつきがあるため、不純物を除去するのに必要な粒子ビームの照射時間を設定するのが難しい。このため、基板W1、W2の接合面に必要以上に粒子ビームを照射してしまう場合があり、この場合、基板W1、W2が粒子ビームにより削られてしまい、接合面の平坦性が損なわれてしまい、その結果、基板W1、W2同士の接合強度が低下してしまう。
【0063】
これに対して、本実施の形態に係る接合方法では、活性化処理前に2つの基板W1、W2それぞれの接合面を60℃よりも高い温度に加熱することにより基板W1、W2の接合面に存在する不純物が除去する。これにより、活性化処理において、粒子ビームを2乃至3min程度照射するだけで、基板W1、W2の接合面が1nm程度、即ち、基板W1、W2の接合面に露出する1原子層に相当する厚さだけエッチングされ、基板W1、W2の接合面の平坦性を維持しつつ、基板W1、W2同士の接合を高めるために必要なダングリングボンドを露出させることができる。このため、基板W1、W2同士の接合強度を高めることができる。
【0064】
基板W1、W2は大気中から投入されるため基板W1、W2の接合面には水分や不純物が付着している。このため、基板W1、W2の表面には、水分子を主成分とする不純物が付着していると考えられる。これに対して、本実施の形態に係る接合方法では、活性化処理前に基板W1、W2を加熱するので、基板W1、W2に水分子を主成分とする不純物が付着している場合、これらを効果的に除去することができる。特に、水は減圧雰囲気下においては結晶化しているため、基板W1、W2を加熱することにより気化(昇華)して容易に除去することができる。実験結果からも100℃近辺で除去されていることから水分を主とした不純物であると考えられる。つまり、水分子を主成分とする不純物は、基板W1、W2の接合面を荒らす可能性のある粒子ビームの照射等のエッチングによる除去方法よりも、減圧雰囲気での加熱による除去のほうが好ましい。
【0065】
また、従来の接合方法では、基板W1、W2同士の接合を行う直前に水による洗浄を行うと、基板W1、W2同士の接合強度の低下を招く虞があるため、洗浄を行うことが難しかった。このため、基板W1、W2の接合面に付着したパーティクルに起因したボイドの発生を避けるのが難しかった。これに対して、本実施の形態に係る接合システムでは、洗浄装置3において洗浄を行った後、接合装置1に投入される。洗浄装置3での洗浄において水分子が基板W1、W2の接合面に多く付着することになるが、接合装置1において熱処理工程を行うことで除去できる。従って、水により基板W1、W2の接合面からパーティクルを除去する洗浄工程を、接合工程を行う前に行うことができるので、互いに接合された基板W1、W2に生じるボイドの抑制の観点からも好ましい。
【0066】
また、本実施の形態に係る活性化処理工程では、基板W1全体に確実に粒子ビームを照射するために、粒子ビーム源161、162から放射される粒子ビームが、粒子ビーム源161、162の移動方向における基板W1、W2の両端縁の外側のカバー122A、122B部分を含む領域に照射される。また、粒子ビーム源161、162は、長尺の放電室1601の長手方向における両端部における粒子ビームの強度が大きく低下する傾向にある。そこで、粒子ビーム源161、162の長さは、図6に示すうに、基板W1、W2における粒子ビーム源161、162の長手方向の長さよりも長く設定されている。このため、粒子ビーム源161、162から放射される粒子ビームが、粒子ビーム源161、162の長手方向における基板W1、W2の両端縁の外側のカバー122A、122B部分を含む領域に照射される。従って、カバー122A、122Bの表面に不純物が付着していると、活性化処理工程を行う際、カバー122A、122Bに照射される粒子ビームによりカバー122A、122B表面に付着した不純物がはじき飛ばされて基板W1、W2の接合面に付着してしまう虞がある。
【0067】
これに対して、本実施の形態に係る接合方法では、活性化処理工程を行う前にカバー122A、122Bを加熱することにより、カバー122A、122B表面に付着した不純物を除去する。これにより、活性化処理工程中にカバー122A、122B表面に付着した不純物が粒子ビームによりはじき飛ばされることに起因した基板W1、W2接合面への不純物の付着を抑制することができる。
【0068】
更に、本実施の形態に係る接合方法では、ロードロック部83において熱処理工程を行った後、更に、活性化処理工程の直前にも熱処理工程を行う。これにより、ロードロック部83で予め水分を主成分とする不純物がある程度除去された後、接合装置1内での熱処理工程で更に水分を主成分とする不純物の除去を行うことになるため、接合装置1内での熱処理工程に要する時間を短縮することができる。従って、接合装置1において基板W1、W2に対して行う処理全体に要する時間を短縮することができるので、その分、処理効率を高めることができる。
【0069】
ところで、ロードロック部83においてのみ熱処理工程を行い、接合装置1において熱処理工程を行わない場合、接合装置1において熱処理工程を行った場合に比べて基板W1、W2同士の接合強度が低下してしまう。従って、ロードロック部83において熱処理工程を行った後、更に、接合装置1においても熱処理工程を行うのが好ましい。また、基板W1、W2は、大気中からロードロック部83内へ搬送されるため、基板W1、W2の接合面には水分を主成分とした不純物が付着している。このため、ロードロック部83において、10-2Paの減圧雰囲気で一次的に熱処理工程を行い、その後、接合装置1において、更に、10-5Paの減圧雰囲気で熱処理工程を行うことが好ましい。これにより、基板W1、W2の接合面に付着した不純物を略完全に除去することができるので、基板W1、W2同士の接合強度を向上させることができる。また、試料8ではロードロック部83において10min間の熱処理を施したが、本実施の形態に係る接合システムの1サイクルは約15minである。このように、本実施の形態に係る接合システムでは、ロードロック部83での10min間の熱処理を、1サイクルのサイクルタイムを低下させることなく行える。
【0070】
ここで、基板W1,W2同士の接合強度の評価を行う環境に含まれる水分の基板W1、W2同士の接合強度への影響を調べるために、SiNから形成された基板W1、W2同士の接合強度を、大気中、N雰囲気中および真空中(1×10-3Pa)で、前述のクラックアンドオープニング法を用いて評価した結果について説明する。ここで、N雰囲気中では大気中に比べて少ないが水分が含まれており、環境中の水分量をより低下させるために1×10-3Paの真空中とした。大気中では、接合強度が1.1J/mであったのに対して、N雰囲気中では1.5J/m、真空中では2.5J/m以上となった。これは、接合強度の評価を行う環境に水分が含まれると、その水分が基板W1、W2の接合界面に拡散することにより接合界面の応力腐食が進展し接合強度が低下していることを示していると考えられる。このことから、前述の熱処理を行うことにより、基板W1、W2の接合面に付着した水分を除去することで、接合界面に存在する水分の影響を受けやすい領域の応力腐食が抑制され、基板W1、W2同士の接合強度が向上すると考えられる。但し、これは、前述の熱処理による接合強度向上効果の要因の一例を示すものであり、接合強度向上効果は、この要因に限定されるものではない。
【0071】
(実施の形態2)
本実施の形態に係る接合システムは、基板W1、W2同士をいわゆる親水化接合する点で実施の形態1と相違する。本実施の形態に係る接合システムは、基板W1、W2の接合面を活性化する活性化処理工程を行った後、基板W1、W2の接合面を水洗浄する水洗浄工程を行う。
【0072】
本実施の形態に係る接合システムの構成は、実施の形態1で説明した接合システムと同様である。以下、実施の形態1と同様の構成については図1乃至図3に示す符号と同様の符号を用いて説明する。なお、接合装置1のチャンバ120内の気圧は、1Pa以上1000Pa以下の範囲内に設定することができる。
【0073】
次に、本実施の形態に係る接合システムが基板W1、W2同士をいわゆる親水化接合する親水化接合方法について、図16を参照しながら説明する。ここで、基板W1、W2は、図1に示す導入ポート811、812に接合面が鉛直上方となる姿勢で配置されているものとする。なお、導入ポート811には、例えば接合装置1においてヘッド142に保持される基板W2が配置され、導入ポート812には、例えば接合装置1においてステージ141に載置される基板W1が配置される。まず、第1搬送装置82が、導入ポート811、812に配置されている基板W2を取り出してロードロック部83へ搬送する(ステップS201)。ここで、搬送ロボット821は、基板W1、W2を導入ポート811、812から取り出す。そして、ロードロック部83のゲート駆動部834が、待機チャンバ831の第1搬送装置82側のゲート833aを開放すると、搬送ロボット821は、基板W1、W2を保持した状態で、アーム821aの先端部がロードロック部83側を向くように旋回する。このとき、搬送ロボット821は、導入ポート812から基板W2を取り出した場合、基板W2の接合面側が鉛直下方を向く姿勢となるようにアーム821aを反転させることにより基板W2の接合面が鉛直下方を向く姿勢で基板W2を保持した状態で旋回する。一方、搬送ロボット821は、導入ポート811から基板W1を取り出した場合、基板W2の姿勢をその接合面側が鉛直上方を向いた姿勢で維持した状態で旋回する。その後、搬送ロボット821は、アーム821aを伸張させることによりアーム821aの先端部を待機チャンバ831内へ挿入する。そして、基板W1、W2が、アーム821aの先端部から待機チャンバ831内に配置された基板保持機構836のカセット8361へ移載される。次に、搬送ロボット821は、基板保持機構836のカセット8361への基板W1、W2の移載が完了すると、アーム821aを収縮させる。そして、ゲート駆動部834が、待機チャンバ831のゲート833aを閉じる。
【0074】
その後、第2搬送装置84が、基板保持機構836のカセット8361に保持された基板W1、W2を、ロードロック部83から接合装置1へ搬送する(ステップS202)。なお、ステップS202における動作は、実施の形態で説明したステップS105における動作と同様である。
【0075】
次に、減圧雰囲気下において2つの基板W1、W2それぞれの接合面を活性化する活性化処理工程を行う(ステップS203)。なお、ステップS203における動作は、実施の形態で説明したステップS107における動作と同様である。
【0076】
続いて、第2搬送装置84が、基板W1、W2を、接合装置1からロードロック部83へ搬送する(ステップS204)。ここで、第2搬送装置84は、例えば、基板W1、W2を、それぞれ、カセット8361の最下段のスロットSLT1と最上段のスロットSLT3とに移載する。その後、搬送ロボット821は、基板W1、W2を洗浄装置3へ搬送する(ステップS205)。ここで、ロードロック部83のゲート駆動部834が待機チャンバ831の第1搬送装置82側のゲート833aを開放すると、搬送ロボット821が、待機チャンバ831内のカセット8361から基板W1、W2を取り出す。そして、洗浄装置3が基板W1、W2の搬出入口を開放すると、搬送ロボット821が、基板W1、W2を保持した状態で、アーム821aの先端部が洗浄装置3側を向くように旋回する。次に、搬送ロボット821は、アーム821aを伸張させてアーム821aの先端部を洗浄装置3内へ挿入する。そして、基板W1、W2が搬送ロボット821のアーム821aの先端部から洗浄装置3のステージへ移載される。
【0077】
続いて、洗浄装置3が、基板W1、W2を水洗浄する水洗浄工程を実行する(ステップS206)。この水洗浄工程が、基板W1、W2の接合面を親水化する親水化処理工程に相当する。そして、洗浄装置3が、水を使用して親水化する親水化処理装置に相当する。その後、第1搬送装置82が、水洗浄工程が完了した基板W1、W2を洗浄装置3からロードロック部83へ搬送する(ステップS207)。次に、減圧雰囲気の待機チャンバ831内において、2つの基板W1、W2それぞれの互いに接合される接合面を60℃よりも高い温度に加熱する熱処理工程を行う(ステップS208)。続いて、第2搬送装置84が、基板保持機構836のカセット8361に保持された基板W1、W2を、ロードロック部83から接合装置1へ搬送する(ステップS209)。続いて、減圧雰囲気下において2つの基板W1、W2それぞれの互いに接合される接合面を60℃よりも高い温度に加熱する熱処理工程が行う(ステップS210)。ここで、チャンバ120内は空気の巻き込みボイドを削減すべく10000Pa以下の範囲内の減圧下で維持されているので、この熱処理工程を行うことにより、基板W1、W2の接合面に付着した余分な水分子のみが除去され、基板W1、W2の接合面に基板W1、W2同士の接合に寄与するOH基のみが多く存在する状態となる。但し、チャンバ120内を大気開放された状態から真空引きして10000Paの減圧状態にした場合、チャンバ120内には水分が多く含まれているため、基板W1、W2の熱処理により十分に水分子を除去することができない。そのため、チャンバ120内の真空度は、1000Pa以下とすることが好ましく、1Pa以下とすることがより好ましく、10-2Pa以下とすることがより好ましい。また、本実施の形態のように、ロードロック部83を設けて、接合装置1のチャンバ120内に水分を含まない窒素のような気体を導入することによりチャンバ120内を10000Pa以下に減圧することが好ましい。なお、ステップS207乃至S210における動作は、それぞれ、実施の形態で説明したステップS103乃至S106における動作と同様である。その後、基板W1、W2同士を接合する接合工程を行う(ステップS211)。
【0078】
次に、第2搬送装置84が、互いに接合された基板W1、W2を、接合装置1からロードロック部83へ搬送する(ステップS212)。続いて、第1搬送装置84が、互いに接合された基板W1、W2を、ロードロック部83から取り出しポート813へ搬送する(ステップS213)。なお、ステップS212、S213における動作は、実施の形態で説明したステップS109、S110における動作と同様である。
【0079】
ところで、従来の減圧下での親水化接合方法では、大気中での親水化接合方法を行った場合における基板W1、W2の間への空気の巻き込みに起因したボイドの発生が抑制できなかった。また、従来の親水化接合方法では、水洗浄工程においてボイドの発生の要因となるパーティクルは除去できるものの、余分な水が基板W1、W2の接合面に付着してしまい、基板W1、W2同士を接合した後に行うアニール処理においてマイクロボイド化してしまうこともあった。これに対して、本実施の形態に係る親水化接合方法では、基板W1、W2の間への空気の巻き込みを避けるために、チャンバ120内の気圧を1000Pa以下にして基板W1、W2同士を接合する。これにより、チャンバ120内での基板W1、W2同士を接触させる前に行う熱処理工程により、基板W1、W2の接合面に付着したマイクロボイドの原因となる余分な水を飛ばすことができる。また、基板W1、W2の接合時において、基板W1、W2の接合面に形成されたOH基同士が直接接触するため、基板W1、W2同士を接合した後に基板W1、W2の接合面に付着した余分な水を除去するためのアニール処理を行う工程における処理温度を低減したり処理時間を短縮したりすることができる。例えばアニール処理における処理温度を350℃から150℃に低減することができる。このため、基板W1、W2同士を比較的低温の状態且つ短時間で接合することが可能となる。また、基板W1、W2同士を接合する前に、基板W1、W2の接合面に十分な量のOH基を生成するための活性化処理工程を行うことで、基板W1、W2の間に介在する水、不純物を略無くすことができ、基板W1、W2の接合面に形成されたOH基同士が直接結合するため、基板W1、W2同士の接合強度の増加も見込める。
【0080】
ここで、本実施の形態に係る親水化接合方法において、接合工程を行う前に熱処理工程を行った場合と行わなかった場合とで互いに接合された基板W1、W2の外観並びに接合強度(表面エネルギ換算)の比較を行った結果について説明する。まず、接合工程を行う前に熱処理工程を行わなかった場合、図17Aに示すように、マイクロボイドの発生が確認された。そして、基板W1、W2同士の接合強度(表面エネルギ換算)は、1.9mJ/mであった。これに対して、本実施の形態に係る親水化接合方法のように熱処理工程を行った後活性化処理工程を行った場合、図17Bに示すようにマイクロボイドの発生が確認されなくなった。そして、基板W1、W2同士の接合強度(表面エネルギ換算)も、2.5mJ/mよりも大きくなった。このことから、接合工程を行う前に熱処理工程を行うことにより、互いに接合された基板W1、W2の接合界面におけるマイクロボイドの発生を抑制され、これに伴い基板W1、W2同士の接合強度が高まることが判った。
【0081】
また、本実施の形態に係る接合方法についても、線膨張係数の違う材料から形成された基板W1、W2同士を接合した場合についても評価した。実施の形態1と同様に、基板W1として、Si基板、基板W2として、タンタル酸リチウム(Lt:LiTaO)基板またはニオブ酸リチウム基板(Ln:LiNbO)を採用して、前述の接合方法を行った。その結果、実施の形態1と同様に、基板W1、W2の温度が、熱処理工程後、熱処理工程時の温度よりも低い温度にまで低下してから基板W1、W2同士を接合した方が基板W1、W2の反りまたは割れが生じなくなり、基板W1、W2同士の接合強度も向上した。
【0082】
なお、基板W1、W2の接合界面に余分な水分が残留している場合、その水分の拡散に起因した接合界面の応力腐食が生じ、熱処理による接合強度向上の効果が持続しない虞がある。このため、基板W1、W2に対して熱処理工程を行うことにより、基板W1、W2の接合面に付着した水分を除去することで、基板W1、W2の接合界面に余分な水分が残留しないようにすることが好ましい。これは親水化接合においても同様であり、接合前に余分な水分を熱処理により除去することで良好な結果が得られた。例えば、親水化処理工程の後、減圧雰囲気で、2つの被接合物それぞれの互いに接合される接合面の少なくとも一方を60℃よりも高い温度に加熱した後、減圧雰囲気を維持した状態で、2つの被接合物を接合すればよい。
【0083】
ところで、大気中で基板W1、W2同士を接合する場合、基板W1、W2の接合面同士の間に空気または余分な水が巻き込まれ、ボイドが発生する原因となる。これに対して、本実施の形態に係る親水化接合方法によれば、空気または水分が少ない減圧雰囲気で基板W1、W2同士を接合するので、前述のようなボイドの発生が抑制される。また、本実施の形態に係る親水化接合方法によれば、接合工程を行う前に、減圧雰囲気下において2つの基板W1、W2それぞれの互いに接合される接合面を60℃よりも高い温度に加熱する熱処理工程が行う。これにより、基板W1、W2の接合面に付着した余分な水分子を除去して、基板W1、W2の接合面に基板W1、W2同士の接合に寄与するOH基のみが多く存在する状態とすることができる。従って、基板W1、W2同士を強固に接合することができる。
【0084】
更に、本実施の形態に係る親水化接合方法によれば、ロードロック部83を備える接合システムを用いて基板W1、W2同士の親水下接合を行う。このため、接合装置1のチャンバ120を大気開放する必要が無くなるので、その分、処理時間を短縮することができる。
【0085】
以上、本発明の各実施の形態について説明したが、本発明は前述の各実施の形態の構成に限定されるものではない。例えば、接合システムが、例えば図18に示すように、導入ポート811、812と、取り出しポート813と、第1搬送装置82と、洗浄装置3と、接合装置1と、ロードロック部83と、第2搬送装置84と、活性化処理装置2002と、制御部9と、を備えるものであってもよい。なお、図18において、実施の形態と同様の構成については図1と同一の符号を付している。
【0086】
活性化処理装置2002は、基板W1、W2の接合面に対して、窒素ガスを用いた反応性イオンエッチングと窒素ラジカルの照射との少なくとも一方を行うことにより接合面を活性化する活性化処理を行う。基板の接合面を活性化する活性化処理を行う。活性化処理装置2002は、誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)を発生させる装置であり、図19に示すように、ステージ210と、チャンバ212と、プラズマチャンバ213と、プラズマチャンバ213の外側に巻回された誘導コイル215と、誘導コイル215へ高周波電流を供給する高周波電源216と、を有する。なお、活性化処理装置2としては、例えばチャンバの上部でプラズマを発生させてイオントラップ板に形成された孔を通してプラズマに含まれるラジカルのみをダウンフローさせる方式のものであってもよい。また、プラズマ発生源としては、平行平板型のプラズマ発生源であってもよいし、マイクロ波を利用したプラズマ発生源であってもよい。プラズマチャンバ213は、例えば石英ガラスから形成されている。また、活性化処理装置2002は、窒素ガス供給部220Aと、酸素ガス供給部220Bと、を有する。窒素ガス供給部220Aは、窒素ガス貯留部221Aと、供給弁222Aと、供給管223Aと、を有する。酸素ガス供給部220Bは、酸素ガス貯留部221Bと、供給弁222Bと、供給管223Bと、を有する。ステージ210には、基板W1、W2が載置される。また、ステージ210には、基板W1、W2を加熱する基板加熱部210aが設けられている。チャンバ212は、プラズマチャンバ213内に連通している。チャンバ212は、排気管201bと排気弁201cとを介して真空ポンプ201aに接続されている。排気弁201cを開状態にして真空ポンプ201aを作動させると、チャンバ212内の気体が、排気管201bを通してチャンバ212外へ排出され、チャンバ212内の気圧が低減(減圧)される。なお、チャンバ212内の気圧は、10-2Pa以下にすることができる。
【0087】
高周波電源216としては、誘導コイル215へ例えば27MHzの高周波電流を供給するものを採用することができる。そして、プラズマチャンバ213内にN2ガスが導入された状態で、高周波電流が誘導コイル215へ供給されると、プラズマチャンバ213内にプラズマPLMが形成される。ここで、誘導コイル215によりプラズマチャンバ213内にプラズマ中に含まれるイオンがトラップされるため、プラズマチャンバ213とチャンバ212との間の部分にトラップ板が無い構成であってもよい。バイアス印加部217は、ステージ210に支持された基板W1、W2に高周波バイアスを印加する高周波電源である。このバイアス印加部217としては、例えば13.56MHzの高周波バイアスを発生させるものを採用することができる。このように、バイアス印加部217により基板W1、W2に高周波バイアスを印加することにより、基板W1、W2の接合面の近傍に運動エネルギを有するイオンが繰り返し基板W1、W2に衝突するシース領域が発生する。そして、このシース領域に存在する運動エネルギを有するイオンにより基板W1、W2の接合面がエッチングされる。
【0088】
ここで、本変形例に係る接合システムが基板W1、W2同士をいわゆる親水化接合する親水化接合方法について、図20を参照しながら説明する。ここで、基板W1、W2は、図1に示す導入ポート811、812に接合面が鉛直上方となる姿勢で配置されているものとする。なお、導入ポート811には、例えば接合装置1においてヘッド142に保持される基板W2が配置され、導入ポート812には、例えば接合装置1においてステージ141に載置される基板W1が配置される。
【0089】
まず、第1搬送装置82が、導入ポート811、812に配置されている基板W2を取り出して活性化処理装置2002へ搬送する(ステップS301)。ここで、搬送ロボット821は、基板W1、W2を導入ポート811、812から取り出す。そして、活性化処理装置2002の導入口が開放されると、搬送ロボット821は、基板W1、W2を保持した状態で、アーム821aの先端部が活性化処理装置2002側を向くように旋回する。このとき、搬送ロボット821は、導入ポート811、812から取り出した基板W1、W2をその接合面側が鉛直上方を向いた姿勢で維持した状態で旋回する。その後、搬送ロボット821は、アーム821aを伸張させることによりアーム821aの先端部をチャンバ212内へ挿入する。そして、基板W1、W2が、アーム821aの先端部からチャンバ212内のステージ210へ移載される。次に、搬送ロボット821は、ステージ210への基板W1、W2の移載が完了すると、アーム821aを収縮させる。
【0090】
次に、活性化処理装置2002のチャンバ212内を減圧した後、基板加熱部210aが、ステージ210に基板W1、W2が載置された状態で基板W1、W2を加熱する。続いて、減圧雰囲気下において基板W1、W2それぞれの接合面を活性化する活性化処理工程を行う(ステップS302)。ここで、減圧雰囲気とは、例えばチャンバ212内の気圧が1×10-2Pa以下の状態である。また、活性化処理装置2002は、例えば図16に示す供給弁222Aを開くことにより窒素ガス貯留部221Aから供給管223Aを通じてチャンバ212内にN2ガスを導入する。次に、活性化処理装置2002は、高周波電源216から誘導コイル215への高周波電流の供給を停止させた状態で、バイアス印加部217によりステージ210に載置された基板W1、W2に高周波バイアスを印加する。これにより、基板W1の接合面に対して、N2ガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE)が行われる。続いて、活性化処理装置2002は、高周波電源216から誘導コイル215への高周波電流の供給を開始して、N2ガスでプラズマを発生させる。このとき、活性化処理装置2002は、バイアス引加部217による基板W1への高周波バイアスの印加を停止する。このようにして、基板W1の接合面にN2ラジカルが照射される。
【0091】
一方、活性化処理装置2002は、基板W2、即ち、Siまたは窒化物基板の接合面を活性化処理する場合、まず、供給弁222Bを開くことにより酸素ガス貯留部221Bから供給管223Bを通じてチャンバ212内にO2ガスを導入する。次に、活性化処理装置2002は、高周波電源216から誘導コイル215への高周波電流の供給を停止させた状態で、バイアス印加部217によりステージ210に載置された基板W2に高周波バイアスを印加する。これにより、基板W2の接合面に対して、O2ガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE)が行われる。続いて、活性化処理装置2002は、供給弁622Bを閉じてO2ガス貯留部621Bからチャンバ612内へのO2ガスの供給を停止することにより、チャンバ612内のO2ガスを排気する。その後、活性化処理装置2002は、供給弁222Aを開くことにより窒素ガス貯留部221Aから供給管223Aを通じてチャンバ212内にN2ガスを導入する。その後、活性化処理装置2002は、高周波電源216から誘導コイル215への高周波電流の供給を開始して、N2ガスでプラズマを発生させる。このとき、活性化処理装置2002は、バイアス引加部217による基板W2への高周波バイアスの印加を停止する。このようにして、基板W2の接合面にN2ラジカルが照射される。なお、活性化処理工程と同時、または、活性化処理工程の前に、活性化処理する基板W1、W2の周囲の活性化処理領域を含む形でチャンバ212内に配置されたカバー(図示せず)を加熱するカバー加熱工程を同時に行ってもよい。
【0092】
その後、搬送ロボット821は、基板W1、W2を洗浄装置3へ搬送する(ステップS303)。ここで、活性化処理装置2002の導入口が開放されると、搬送ロボット821が、活性化処理装置2002のチャンバ212内のステージ210に載置された基板W1、W2を取り出す。そして、洗浄装置3が基板W1、W2の搬出入口を開放すると、搬送ロボット821が、基板W1、W2を保持した状態で、アーム821aの先端部が洗浄装置3側を向くように旋回する。次に、搬送ロボット821は、アーム821aを伸張させてアーム821aの先端部を洗浄装置3内へ挿入する。そして、基板W1、W2が搬送ロボット821のアーム821aの先端部から洗浄装置3のステージへ移載される。
【0093】
続いて、洗浄装置3が、基板W1、W2を水洗浄する水洗浄工程を実行する(ステップS304)。その後、第1搬送装置82が、水洗浄工程が完了した基板W1、W2を洗浄装置3からロードロック部83へ搬送する(ステップS305)。ここで、搬送ロボット821は、洗浄装置3から基板W2を受け取った場合、基板W2の接合面側が鉛直下方を向く姿勢となるようにアーム821aを反転させることにより基板W2の接合面が鉛直下方を向く姿勢で基板W2を保持した状態で旋回してからロードロック部83へ搬送する。次に、減圧雰囲気の待機チャンバ831内において、2つの基板W1、W2それぞれの互いに接合される接合面を60℃よりも高い温度に加熱する熱処理工程が行う(ステップS306)。続いて、第2搬送装置84が、基板保持機構836のカセット8361に保持された基板W1、W2を、ロードロック部83から接合装置1へ搬送する(ステップS307)。その後、減圧雰囲気下において2つの基板W1、W2それぞれの互いに接合される接合面を60℃よりも高い温度に加熱する熱処理工程が行う(ステップS308)。次に、基板W1、W2同士を接合する接合工程を行う(ステップS309)。
【0094】
その後、第2搬送装置84が、互いに接合された基板W1、W2を、接合装置1からロードロック部83へ搬送する(ステップS310)。次に、第1搬送装置84が、互いに接合された基板W1、W2を、ロードロック部83から取り出しポート813へ搬送する(ステップS311)。なお、ステップS310、S311における動作は、実施の形態で説明したステップS109、S110における動作と同様である。
【0095】
本構成によれば、基板W1、W2同士をいわゆる親水化接合する場合に工程数を低減することができるので、基板W1、W2同士の接合に要する時間を短縮することができる。
【0096】
実施の形態では、活性化処理工程を行った後、接合工程において、ヘッド駆動部144が、基板W1、W2が互いに近接した状態で、位置ずれ量測定部150により測定される位置ずれ量に基づいて、両基板W1、W2のアライメント動作を実行する例について説明した。但し、これに限らず、例えばヘッド駆動部144が、活性化処理工程を行う前に、基板W1、W2のアライメント動作を実行するものであってもよい。この場合、活性化処理工程の直後に接合工程を行うことができるので、基板W1、W2同士をそれらの接合面が活性化した状態で接合することができる。
【0097】
実施の形態では、カバー122A、122Bが、それぞれ、チャンバ120内におけるステージ141、ヘッド142の周囲に配置されている例について説明したが、これに限らず、例えばチャンバ120内におけるカバー122Aまたはヘッド142の周囲のみに配置されていてもよい。
【0098】
実施の形態に係る図8に示す接合方法において、ステップS104における熱処理工程またはステップS106における熱処理工程が省略されてもよい。なお、ステップS104では、10-2Pa程度の減圧雰囲気で熱処理を行うのに対して、ステップS106で行う熱処理は、10-6Pa程度の減圧雰囲気で熱処理を行う。ここで、図15に示すように、基板W1、W2同士の接合強度は、10-6Paの減圧雰囲気下で大きく上昇することから、基板W1、W2同士を強固に接合する観点からすれば、ステップS106の熱処理工程を省略するよりもステップS104での熱処理工程省略するほうが好ましい。
【0099】
図16乃至図20を用いて説明した前述の親水化接合方法の変形例において、ロードロック部83が省略された構成であってもよい。前述の親水化接合方法の変形例では、接合装置1のチャンバ120内の気圧が1Pa以上1000Pa以下の範囲内に設定すればよいため、チャンバ120内を大気開放した状態でチャンバ120内へ基板W1、W2を搬送する方法を採用しても処理時間が極端に長くなることはない。このため、前述の親水下接合方法の変形例では、ロードロック部83を省略することができる。
【0100】
実施の形態2では、活性化処理工程の後、水洗浄を行う水洗浄工程を行ってから基板W1、W2同士を接合する例について説明したが、これに限らず、例えば、活性化処理工程において、ウェット処理を利用して基板W1、W2の接合面を化学的に処理することにより、OH基を基板W1、W2の接合面に生成してから基板W1、W2同士を接合してもよい。或いは、活性化処理工程を省略して水洗浄工程のみを行った後、基板W1、W2同士を接合してもよい。
【0101】
各実施の形態において、カバー122A、122Bを熱処理する方法は、チャンバ120をベーキングする際に同時に行っても良いし、活性化処理工程を行う前に行う基板W1、W2の熱処理工程を行う際に同時に行ってもよい。
【0102】
各実施の形態において、活性化処理工程において、粒子ビームを基板W1、W2の接合面に照射する例について説明したが、これに限定されるものではなく、例えばイオンガンを用いてイオンビームを基板W1、W2の接合面に照射するようにしてもよい。また、各実施の形態において、粒子ビーム源161、162が、アルゴンとともにSi粒子を基板W1、W2の接合面へ照射するものであってもよい。更に、実施の形態1において、粒子ビーム源161、162の代わりにプラズマ発生源を採用してもよい。
【0103】
各実施の形態において、ロードロック部83において熱処理工程を行わず、接合装置1内においてのみ熱処理工程を行うようにしてもよい。
【0104】
また、各実施の形態において、2つの基板W1、W2の少なくとも一方の接合面にSi粒子を堆積させるSi粒子堆積工程を行ってもよい。この場合、例えば、2つの粒子ビーム源161、162を用いて、Si粒子を基板W1、W2の接合面に照射するようにしてもよい。この場合、例えば図21に示すように、Siから形成されたターゲット材TAを粒子ビーム源161の側面に固定し、粒子ビーム源162が、矢印AR41に示すように、粒子ビーム源161に固定されたターゲット材TAに向けて粒子ビームを照射することによりターゲット材TAをスパッタリングする。このとき、粒子ビーム源161に固定されたターゲット材TAが粒子ビーム源162から入射する粒子ビームによりスパッタリングされ、矢印AR42に示すように、ターゲット材TAから基板W1の接合面へSi粒子が照射される。ここで、ターゲット材TAが固定された2つの粒子ビーム源161、162が、Si粒子照射部に相当する。そして、2つの粒子ビーム源161、162を矢印AR43に示すように移動させることにより、基板W1の接合面上にSi層が形成される。また、例えば図22に示すように、Siから形成されたターゲット材TAを粒子ビーム源162の側面に固定し、粒子ビーム源161が、矢印AR44に示すように、粒子ビーム源162に固定されたターゲット材TAに向けて粒子ビームを照射することによりターゲット材TAをスパッタリングする。このとき、粒子ビーム源162に固定されたターゲット材TAが粒子ビーム源161から入射する粒子ビームによりスパッタリングされ、矢印AR45に示すように、ターゲット材TAから基板W2の接合面へSi粒子が照射される。そして、2つの粒子ビーム源161、162を矢印AR44に示すように移動させることにより、基板W2の接合面上にSi層が形成される。なお、基板W1、W2上にSi層を形成した後、Si層に粒子ビームを照射することにより、Si層をエッチングするようにしてもよい。
【0105】
基板W1、W2がSiO2から形成されている場合、基板W1、W2の接合面に対してSi層を形成した後に基板W1、W2同士を接合した場合、基板W1、W2同士の接合強度が更に向上した。ところで、Si粒子を基板W1、W2上に堆積させることによるSi層の形成とArを含む粒子ビームを照射することによるSi層のエッチングとを同時に行う場合、Si粒子の堆積量とSi層のエッチング量とのバランスを調整することが難しい。これに対して、基板W1、W2上にSi層を形成した後、Si層に粒子ビームを照射することにより、Si層をエッチングする方法では、粒子ビーム源161によるターゲットTAのスパッタリング時間と基板W1、W2に粒子ビームを照射する時間とを制御することにより、前述のようにスパッタリングにより形成されるSi層の厚さと、粒子ビームによるエッチング量とのバランスを適切に調整すれば、最適な厚さのSi層或いはSiから形成されたアイランド状の領域を形成することができる。例えば、基板W1、W2上に電極が露出している構造であっても、最適な厚さのSi層或いはSiから形成されたアイランド状の領域を形成することにより、電極同士が導通せず且つ基板W1、W2同士の接合強度を高めることができる。
【0106】
ところで、実施の形態1において図15を用いて説明したように、基板W1、W2がSi基板である場合において、チャンバ120内に浮遊する水分を主成分とする不純物が真空度を上げることにより除去されることで急激に強度が向上する。この結果に基づいて、本変形例では、特に基板W1、W2がSi以外の材料から形成されている場合、基板W1、W2の接合面にSi粒子を照射してSi層を形成することにより、基板W1、W2に対して熱処理工程を行う接合方法により接合された基板W1、W2同士の接合強度を向上させることができた。
【0107】
ここで、基板W1、W2が、SiOから形成されている場合について、基板W1、W2の接合面にSi層が形成されている場合とSi層が存在しない場合とで基板W1、W2同士を接合したときの接合強度を比較した結果について説明する。ここでは、4つの試料11乃至14を作製してそれらの接合強度を評価した。なお、試料11乃至14は、基板W1、W2同士の接合強度の経時的な変化を確認し易くするために、実施の形態で説明した条件に比べて接合強度が低下する条件で作製されたものである。試料11は、図22に示す姿勢に設定された2つの粒子ビーム源161、162を基板W1、W2それぞれの上で複数回走査させることにより基板W1、W2の接合面にSi層を形成した後、粒子ビーム源161、162を基板W1、W2へ粒子ビームを照射する姿勢にして基板W1、W2上で1回走査させることにより作製した。試料12は、試料11と同様の処理を行った後、基板W1、W2に対して150℃で10min維持する熱処理を行った。また、試料13は、図22に示す姿勢に設定された2つの粒子ビーム源161、162を基板W1、W2上で複数回走査させることにより基板W1、W2の接合面にSi層を形成した後、粒子ビーム源161、162を基板W1、W2へ粒子ビームを照射する姿勢にして基板W1、W2上で複数回走査させることにより作製した。試料14は、試料13と同様の処理を行った後、基板W1、W2に対して150℃で10min維持する熱処理を行った。ここで、試料11、12のSi層は、試料13、14のSi層に比べて薄い。具体的には、試料11、12のSi層は3nm未満であり、試料13、14のSi層は3nm以上である。
【0108】
試料11乃至試料14について、実施の形態1で説明したクラックアンドオープニング法を用いて、基板W1,W2同士の接合直後の接合強度と、基板W1、W2同士の接合後1週間乃至4週間経過後の接合強度と、を評価した。その結果、基板W1、W2同士の接合直後では、試料12の接合強度(0.48mJ/m)は試料11の接合強度(0.25mJ/m)に比べて大きく、試料14の接合強度(1.1mJ/m)は試料13の接合強度(0.7mJ/m)に比べて大きかった。但し、基板W1、W2同士の接合後1週間乃至4週間経過後では、試料11、12の接合強度が、0.5mJ/m程度で略等しい。一方、試料14の接合強度(1.49mJ/m)は、試料13の接合強度(1.15mJ/m)よりも大きくなった。このことから、Si層が比較的薄い場合、熱処理による基板W1、W2同士の接合強度向上の効果が持続せず、Si層がある程度厚くなると、熱処理による基板W1、W2同士の接合強度向上の効果が持続することが判る。これは、試料11、12の場合、Si層が比較的薄いため基板W1、W2の接合界面に残留する水分により基板W1、W2の接合界面にSiO領域が形成され易くなっている。そして、基板W1、W2の接合界面に残留する水分が前述のSiO領域を介して経時的に拡散することにより接合界面の応力腐食が進展し、熱処理による基板W1、W2同士の接合強度向上の効果が、応力腐食による接合強度の低下により相殺されたと考えられる。一方、試料13、14の場合、Si層が比較的厚いため基板W1、W2の接合界面ではSi-Siの結合が支配的であるため、基板W1、W2の接合界面にSiO領域が形成されにくい。このため、基板W1、W2の接合界面に残留する水分の拡散が抑制され、これに起因した接合界面の応力腐食が抑制され、その結果、熱処理による基板W1、W2同士の接合強度向上の効果が持続されると考えられる。言い換えると、基板W1、W2の接合界面においてSiO領域が支配的である場合、基板W1、W2の接合界面に残留する水分の拡散に起因した接合界面の応力腐食が生じ、熱処理による接合強度向上の効果が持続しないと言える。なお、基板W1、W2がSiNから形成されている場合も同様な結果が得られた。このことから、基板W1、W2の接合界面においてSiNが支配的である場合も、基板W1、W2の接合界面に残留する水分の拡散に起因した接合界面の応力腐食が生じ、熱処理による接合強度向上の効果が持続しないと言える。つまり、親水化接合では接合界面にSiO領域のような酸化物或いは窒化物のような水分の影響を受け易い領域が支配的であると、接合界面に残留する水分の拡散に起因した経時的な応力腐食が生じて、基板W1,W2同士の接合の強度が低下してしまう。これに対して、前述の熱処理を行うことにより、基板W1、W2の接合界面に残留する水分が低減することで、接合界面に存在する水分の影響を受けやすい領域の応力腐食が抑制され、基板W1、W2同士の接合強度が向上するという原理が前述の試料11乃至14の評価結果から導き出すことができる。但し、この評価結果は、前述の熱処理による接合強度向上効果の要因の一例を示すものであり、接合強度向上効果は、この要因に限定されるものではない。
【0109】
また、基板W1、W2が、サファイア基板である場合について、基板W1、W2の接合面に炭素を含む粒子ビームを照射した場合とSi粒子を含む粒子ビームを照射した場合とで基板W1、W2同士を接合したときの接合強度を比較した結果について説明する。ここでは、4つの試料15乃至18を作製してそれらの接合強度を評価した。なお、試料15乃至18は、基板W1、W2同士の接合強度の経時的な変化を確認し易くするために、実施の形態で説明した条件に比べて接合強度が低下する条件で作製されたものである。試料15は、粒子ビーム源161、162から基板W1、W2へ炭素を含む粒子ビームを照射する活性化処理工程を行うことにより作製した。試料16は、試料15と同様の処理を行った後、基板W1、W2に対して110℃で10min維持する熱処理を行った。また、試料17は、粒子ビーム源161、162から基板W1、W2へSi粒子を含む粒子ビームを照射する活性化処理工程を行うことにより作製した。試料18は、試料17と同様の処理を行った後、基板W1、W2に対して110℃で10min維持する熱処理を行った。
【0110】
試料15乃至18について、前述のクラックアンドオープニング法を用いて、基板W1,W2同士の接合直後の接合強度と、基板W1、W2同士の接合後1週間乃至4週間経過後の接合強度と、を評価した。その結果、基板W1、W2同士の接合直後では、試料16の接合強度(2.4mJ/m)は試料15の接合強度(2.0mJ/m)に比べて大きく、試料18の接合強度は、1.8mJ/mであった。但し、基板W1、W2同士の接合後1週間乃至4週間経過後では、試料15、16の接合強度は、0.9mJ/mまで低下して略等しくなった。また、試料17、18の接合強度も、0.6乃至0.7mJ/mまで低下して略等しくなった。このことから、基板W1、W2がサファイア基板の場合、基板W1、W2の接合界面に残存する水分の接合強度への影響は少ないと考えられる。
【0111】
以上の結果から、本変形例に係るSi粒子堆積工程を含む接合方法は、基板W1、W2がSiOから形成されている場合に有効である。
【0112】
なお、本変形例において、基板W1、W2の接合面にSi粒子を照射する方法としては、前述のSi粒子の照射方法に限定されるものではなく、例えば、接合装置1とは別の成膜装置において、基板W1、W2の接合面にSi粒子を照射してもよい。このように、Si粒子を基板W1、W2の接合面に照射することにより基板W1、W2の接合面にSi層を形成することは、実施の形態1で説明したように基板W1、W2同士をいわゆる直接接合する場合のみならず、実施の形態2で説明したように基板W1、W2同士を親水化接合する場合においても打ち込まれたSiにもOH基が生成されることで、より強度アップし、有効である。
【0113】
図21および図22を用いて説明した変形例とは別に、例えば実施の形態1の活性化処理工程において、基板W1、W2のうちの少なくとも一方の接合面に、図23の矢印AR51に示すように粒子ビームとともにSi粒子を照射するようにしてもよい。ここで、例えば図5を用いて説明した粒子ビーム源161、162の放電室1601の内壁の一部または全部をSiから形成すれば、粒子ビーム源161、162からArビームと同時にSi粒子が放出されるようにすることができる。このように、粒子ビームを照射すると同時にSi粒子を基板W1、W2の接合面に照射することにより、基板W1、W2の接合面にSi粒子が打ち込まれる。そして、基板W1、W2の接合面に打ち込まれたSi粒子は、ArまたはNを含む粒子ビームによりエッチングされるためSi粒子が堆積してSi層を形成することが無く、接合面をSiリッチな表面に改質することができる。
【0114】
ところで、実施の形態1において図15を用いて説明したように、基板W1、W2の接合面がSiである場合において、チャンバ120内に浮遊する水分を主成分とする不純物が真空度を上げることにより除去されることで急激に強度が向上する。この結果に基づいて、本変形例では、特に基板W1、W2がSi以外の材料から形成されている場合、基板W1、W2の接合面にSi粒子を打ち込むことにより、基板W1、W2に対して熱処理工程を行う接合方法により接合された基板W1、W2同士の接合強度を向上させる。
【0115】
また、本変形例において、熱処理工程は、基板W1、W2の接合面にSi粒子を打ち込んだ後に行うのが好ましい。更に、基板W1、W2に対して熱処理工程を行った後、基板W1、W2の温度を60℃まで冷却せずに、熱処理工程における処理温度近傍の温度で維持した状態でSi粒子を基板W1、W2の接合面に打ち込みながら活性化処理工程を行い、その後、基板W1、W2同士を熱処理工程における処理温度近傍の温度で接触させるのが好ましい。これにより、基板W1、W2の接合面に付着した水分を主成分とする不純物を基板W1、W2の接合面から除去することができるので、基板W1、W2同士の接合強度を向上させることができる。例えば基板W1、W2が、それぞれ、タンタル酸リチウム(Lt:LiTaO)基板、Si基板である場合、Si粒子を基板W1、W2の接合面に打ち込む処理を行わずに基板W1、W2を接合した場合、基板W1、W2同士の接合強度は1,6mJ/mであった。これに対して、本変形例のように、Si粒子を基板W1、W2の接合面に打ち込む処理を行ってから基板W1、W2同士を接合した場合、基板W1,W2同士の接合強度は2.5J/m以上(14.3J/m)でありバルク破壊箇所が4箇所存在した。即ち、基板W1、W2同士の接合強度が向上した。なお、基板W1、W2の熱処理工程を行わない場合、基板W1、W2同士の接合強度は、1.3J/mであった。これらのことから、本変形例のように活性化処理工程においてSi粒子を基板W1、W2の接合面に打ち込むことにより、基板W1、W2同士の接合強度が1J/mから1.3J/mに向上し、更に、基板W1、W2に対して熱処理工程を行うことにより接合強度が14.3J/mにまで向上することが判った。即ち、基板W1、W2の接合面にSi粒子を打ち込むだけでは基板W1、W2同士の接合強度は0.3J/m程度しか向上しなかったが、基板W1、W2に対する熱処理工程を行うことにより基板W1、W2同士の接合強度が13.3J/mと大きく向上することが判った。
【0116】
更に、本変形例では、活性化処理工程においてSi粒子を基板W1、W2の接合面に打ち込む際、基板W1、W2の接合面にSi層が形成されない。このため、基板W1、W2の接合面に電極と絶縁層が混在する場合においても、電極同士を電気的に短絡させることが無いという利点がある。
【0117】
ところで、酸化膜、窒化膜等からなる絶縁膜はイオン結晶性であり、粒子ビームによる活性化処理工程を行ういわゆる直接接合では接合できず、また、Si粒子を基板W1、W2の接合面に打ち込むだけでは、基板W1、W2同士の接合強度が出せなかった。これに対して、本変形例では、Si粒子を基板W1、W2の接合面へ打ち込むとともに、基板W1、W2に対して熱処理工程を行うことにより、酸化膜、窒化膜等からなる絶縁膜同士でも接合させることができた。それ故、例えばSAWフィルタに使用されるタンタル酸リチウム(Lt:LiTaO)、ニオブ酸リチウム基板(Ln:LiNbO)等からなる酸化膜同士を強固に接合することが可能となるので、SAWフィルタの性能を向上させることができる。また、Cu、Au等から形成された金属電極と酸化膜、窒化膜等からなる絶縁膜とが略同一面に混在する接合面同士を接合するいわゆるハイブリッドボンディングを、金属電極同士の短絡を生じさせること無く実現することができた。
【0118】
なお、本変形例のような、活性化処理工程においてSi粒子を基板W1、W2の接合面に打ち込む方法は、実施の形態1で説明した基板W1、W2同士をいわゆる直接接合する場合のみならず、この方法によりSi粒子が接合面に打ち込まれた基板W1、W2を用いて親水化接合する場合にも基板W1、W2同士の接合強度を向上させることができる。この場合、基板W1、W2の接合面に対して親水化処理を行うことにより、基板W1、W2の接合面に打ち込まれたSi粒子にOH基が付着することで、基板W1、W2の接合面に存在するOH基の量が増加する。これにより、基板W1、W2同士の接合強度が向上する。
【0119】
また、接合システムは、例えば、2つの被接合物のいずれか一方にイオン注入するイオン注入装置と、減圧雰囲気下において2つの被接合物それぞれの互いに接合される接合面を加熱する第1熱処理装置と、2つの被接合物の少なくとも一方の接合面を活性化する活性化処理装置と、接合装置と、第1熱処理装置、駆動部および第2熱処理装置それぞれの動作を制御する制御部と、を備えるものであってもよい。ここで、2つの被接合物の少なくとも一方は、タンタル酸リチウム(Lt:LiTaO)基板またはニオブ酸リチウム(Ln:LiNbO)基板であってもよい。或いは、接合された2つの被接合物は、弾性波デバイスまたは光変調器であってもよい。ここで、2つの被接合物の少なくとも一方には、事前にイオン注入が行われている。また、2つの被接合物の両方にイオン注入されていても良い。通常イオン注入装置は、前述の接合システムとは別に設けられることが多い。
【0120】
接合装置は、例えば、チャンバと、チャンバ内に配置され、2つの被接合物のうちのいずれか一方を支持するステージと、チャンバ内においてステージに対向して配置され、2つの被接合物のうちの他方を支持するヘッドと、ステージとヘッドとの少なくとも一方を、ステージとヘッドとが互いに近づく第1方向またはステージとへッドとが離れる第2方向へ移動させる駆動部と、を有するものであってもよい。そして、制御部は、第1熱処理装置を制御して、減圧雰囲気下において2つの被接合物それぞれの互いに接合される接合面を60℃以上且つ150℃未満の温度に加熱し、その後、活性化処理装置を制御して、減圧雰囲気を維持した状態で、2つの被接合物それぞれの接合面を活性化した後、減圧雰囲気で維持した状態で、駆動部を制御してステージとヘッドとの少なくとも一方を第1方向へ移動させることにより2つの被接合物を接合し、その後、第2熱処理装置を制御して、互いに接合された2つの被接合物を210℃以上且つ300℃未満の温度に加熱するものであってもよい。また、第1熱処理装置は、ヘッドとステージの少なくとも一方にヒータを設けたものであってもよく、前述の第2熱処理装置としても使用されるものであってもよい。
【0121】
また、本変形例に係る接合システムは、第1熱処理装置で2つの被接合物に対する少なくとも一方に対して熱処理を行った後、第2熱処理装置において2つの被接合物に対する熱処理を行うまでの間において、第1熱処理装置、活性化処理装置、接合装置および第2熱処理装置のうちのいずれか2つの間で接合された2つの被接合物を搬送する搬送装置を備えるものであってもよい。この場合、搬送装置は、接合された2つの被接合物を搬送する際、搬送する接合された2つの被接合物を50℃以上の温度で維持するものであってもよい。
【0122】
ところで、タンタル酸リチウム(Lt:LiTaO)基板またはニオブ酸リチウム(Ln:LiNbO)基板と、Si基板、SiO基板、サファイア基板等と、を互いに接合することにより作製されるSAWフィルタのような弾性波デバイスでは、周波数特性を向上させるためにタンタル酸リチウム(Lt:LiTaO)基板またはニオブ酸リチウム(Ln:LiNbO)基板の厚さを数μm程度に薄くする必要がある。一方、タンタル酸リチウム(Lt:LiTaO)基板またはニオブ酸リチウム(Ln:LiNbO)基板とSi基板、SiO基板、サファイア基板等との線膨張係数の違いから、これらの被接合物を150℃以上の温度で接合すると、接合後常温に戻った段階で反りが発生したり割れが発生したりする。そこで、従来は、超高真空環境下で粒子ビームを照射することによる被接合物の接合面の活性化処理を行った後に常温で接合し、接合後に研磨処理によりタンタル酸リチウム(Lt:LiTaO)基板またはニオブ酸リチウム(Ln:LiNbO)基板を薄く削るのが一般的である。しかしながら、この場合、タンタル酸リチウム(Lt:LiTaO)基板またはニオブ酸リチウム(Ln:LiNbO)基板の厚さは、50μm程度が限界であり、十分に周波数特性を向上させることができない。特に高周波領域における周波数特性を向上させるためには、タンタル酸リチウム(Lt:LiTaO)基板またはニオブ酸リチウム(Ln:LiNbO)基板の厚さを少なくとも10μm以内にする必要がある。
【0123】
また、ニオブ酸リチウム(Ln:LiNbO)基板をSi基板等に接合することにより、ニオブ酸リチウム(Ln:LiNbO)基板を光導波路とする光変調器を作製する場合がある。この場合、光導波路を透過する光の波長に応じてニオブ酸リチウム(Ln:LiNbO)基板を薄くする必要があり、同じく高周波領域の光変調特性を向上させるために厚さを10μm以内にする必要がある。なお、ニオブ酸リチウム(Ln:LiNbO)基板の代わりにタンタル酸リチウム(Lt:LiTaO)基板をSi基板等に接合することにより、にタンタル酸リチウム(Lt:LiTaO)基板を光導波路とする光変調器としてもよい。
【0124】
ところで、従来、SOI(Silicon on Insulator)基板の製造技術として採用されている技術としてスマートカット技術がある。このスマートカット技術は、イオン注入法によりSi単結晶基板に水素原子を数μmの深さまで高濃度に注入した後、Si単結晶基板を200℃以上の温度で熱処理することで、Si単結晶におけるSi同士の結合を切断して、Si単結晶基板の全表面を数μmの厚さ分だけ剥離する微細加工技術である。SOI素子、次世代太陽電池用の単結晶Si薄膜等の作製への応用が進められている。
【0125】
但し、このスマートカット技術を、Si基板等に接合されたタンタル酸リチウム(Lt:LiTaO)基板またはニオブ酸リチウム(Ln:LiNbO)基板に適用しようとした場合、接合後に200℃以上の温度で熱処理する必要があり、タンタル酸リチウム(Lt:LiTaO3)基板またはニオブ酸リチウム(Ln:LiNbO3)基板の反りや割れが発生してしまう。このため、このようなアプリケーションには、スマートカット技術を適用することができなかった。
【0126】
これに対して、本変形例に係る接合方法は、これらのアプリケーションに対応すべく開発された方法であり、前述の熱処理の手法を用いることで、事前に薄くしたい側の材料にイオン注入しておき、60℃以上且つ150℃未満の温度で熱処理した後、活性化処理を行ってから接合する。そして、被接合物の温度が、割れまたは反りが発生する温度まで低下させることなく、割れまたは反りが発生しない温度で維持しつつ、200℃以上の温度に加熱する熱処理を行う。これにより、割れまたは反りを発生させることなくイオンが注入された数μm程度の深さのところで剥離させることができるので、薄いタンタル酸リチウム(Lt:LiTaO3)基板またはニオブ酸リチウム(Ln:LiNbO3)基板を簡単に製造することができる。また、接合工程を行う前に熱処理する手法を用いているのでタンタル酸リチウム(Lt:LiTaO)基板またはニオブ酸リチウム(Ln:LiNbO)基板とSi基板等のいわゆる支持基板との接合強度を高くすることもできるという従来の常温接合ではできなかった新たな手法である。
【0127】
ここで、熱処理の温度が高すぎると常温に戻った時の線膨張差で割れてしまう。このため、熱処理における温度は60℃以上且つ150℃未満であることが好ましい。また、熱処理後の接合時における温度とスマートカットのための追加熱処理を行う際の温度の差も、同様に、150℃未満でなければ反りまたは割れが発生するため、210℃以上且つ300℃未満が好ましい。なお、熱処理の温度が60℃の場合は、210℃、150℃の場合は、300℃に加熱することによりスマートカットすることができる。その結果、支持基板に数μmmの薄いタンタル酸リチウム(Lt:LiTaO)基板またはニオブ酸リチウム(Ln:LiNbO)基板を強固に接合したものができる。また、スマートカットにより剥離された残りのタンタル酸リチウム(Lt:LiTaO)基板またはニオブ酸リチウム(Ln:LiNbO)基板は、追加熱処理の工程で分離して、接合された基板と残りの基板とを個別に排出するようにしてもよい。或いは、第2熱処理装置から排出した後に剥離しても良い。更に、数μmの厚さに薄く剥離されたものは、いわゆる支持基板との間で線膨張係数の差があったとしても支持基板よりも極端に薄いため、反り又は割れは生じにくく、たとえ熱処理後に常温にしたとしても問題ないことが多い。
【0128】
なお、同じ熱処理装置において、前述の熱処理と追加熱処理を行うこともできるが、温度を上昇させたり低下させたりするのに時間を要するため、量産性向上の観点から2つの熱処理を異なる熱処理装置で実施することが好ましい。但し、被接合物を搬送する際に被接合物の温度が低下してしまうため、搬送の際に被接合物を加熱することが好ましい。そして、前述の熱処理後、追加熱処理を行うまでの温度を50℃以上で維持することにより追加熱処理時における反りまたは割れの発生を抑制できる。
【0129】
各実施の形態では、被接合物が、基板W1、W2である例について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、被接合物が、チップおよび基板であってもよい。
【0130】
各実施の形態では、水洗浄工程において水を基板W1、W2の接合面に吹き付けて洗浄する例について説明したが、これに限定されるものではなく、基板W1、W2を水に浸漬させるいわゆるウェット処理方式で水洗浄をおこなってもよい。或いは、フッ酸その他の酸、有機溶剤等により基板W1、W2の接合面を処理した後に水洗浄処理をおこなってもよい。即ち、少なくとも水を使って洗浄することにより基板W1、W2の接合面に付着したパーティクルその他付着物が除去されるのであれば水洗浄処理の方法は特に限定されない。
【0131】
各実施の形態では基板W1、W2に対して熱処理工程、冷却工程、親水化工程、洗浄工程、Siを接合面に打ち込む工程、Si粒子を接合面に堆積するSi粒子堆積工程を行ったが、必ずしも基板W1、W2の両方にこれらの一連の工程全てを行う方法に限られない。例えば基板W1、W2のいずれか一方のみに前述の一連の工程全てを行うようにしてもよい。
【0132】
各実施の形態では、カバー加熱部123A、123Bが、それぞれ、カバー122A、122Bにおける粒子ビーム源161、162側とは反対側に固定されたヒータである例について説明した。但し、これに限らず、例えば図24Aに示すように、カバー5122A、5122Bが、それぞれ、ガラスから板状に形成され、ステージ141、ヘッド142の周囲の活性化処理工程における活性化処理領域を含む形で配置されており、カバー加熱部5123A、5123Bが、カバー5122A、5122Bに埋設された導体パターンからなるヒータであってもよい。ここで、カバー加熱部5123A、5123Bは、図24Bに示すように、カバー5122A、5122B全体を網羅するように敷設された導体パターンから構成されている。
【0133】
また、本変形例では、チャンバ120をベーキングする際、同時にカバー5122A、5122Bを加熱するカバー加熱工程を行う。このとき、カバー加熱部5123A、5123Bがカバー5122A、5122Bに埋設されていることにより、カバー5122A、5122Bが均一に効率良く加熱される、そして、カバー加熱部5123A、5123Bは、カバー5122A、5122B全体の温度をチャンバ120の温度よりも高い温度まで加熱する。
【0134】
ところで、実施の形態で説明したように、基板W1、W2を接合する工程を行う前に事前にチャンバ120をベーキングしたときに、カバー122A、122Bの温度がチャンバ120の温度よりも低いと、チャンバ120に付着していた水或いは不純物がチャンバ120から脱離してカバー122A、122Bに付着してしまう場合がある。この場合、粒子ビームで活性化処理を行う際、粒子ビームによりカバー122A、122Bに付着した不純物がスパッタリングされてチャンバ120内に浮遊してしまう。そうすると、チャンバ120内に浮遊する水或いは不純物が基板W1、W2の接合面に付着してしまい、基板W1、W2同士の接合の強度が低下してしまう虞がある。これに対して、チャンバ120をベーキングした後、例えばステージ141、ヘッド142にダミーの基板を保持させた状態で、粒子ビームをダミーの基板およびカバー122A、122Bに照射するいわゆる空打ちを行うことによりカバー122A、122Bに付着した水或いは不純物を除去する工程が行われる。しかしながら、このいわゆる空打ちの工程には、1時間乃至4時間程度の時間を要するため、その分、処理時間のロスが発生してしまう。また、粒子ビーム161、162を空打ちに使用する分だけ、炭素材料から形成された放電室1601が余計に摩耗してしまう。
【0135】
これに対して、本変形例では、チャンバ120をベーキングする際、カバー加熱部5123A、5123Bによりカバー5122A、5122B全体の温度をチャンバ120の温度よりも高い温度まで加熱するカバー加熱工程を行う。これにより、チャンバ120から脱離した水或いは不純物のカバー5122A、5122Bへの付着を抑制できる。また、実施の形態で説明した熱処理工程による効果と同様に、基板W1、W2の接合面に付着した水或いは不純物を除去することができる。従って、前述のいわゆる空打ちの工程を行う時間を短縮したり、省略したりしても、基板W1、W2同士の接合の強度を確保することができる。
【0136】
各実施の形態において、接合工程の後、真空中(例えば1×10-3Pa以下)の環境で、前述のクラックアンドオープニング法を用いて基板W1、W2同士の接合強度を評価する接合強度評価工程を行ってもよい。ところで、接合強度の評価を行う環境に水分が含まれると、その水分に起因した接合界面の応力腐食が進展し得られる接合強度が実際の接合強度よりも低くなってしまう。これに対して、本構成によれば、環境に含まれる水分の接合強度への影響を抑制できるので、基板W1、W2同士の接合強度を精度良く評価することができる。
【0137】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施形態は、この発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【0138】
本出願は、2021年1月21日に出願された日本国特許出願特願2021-008275号、2021年10月1日に出願された日本国特許出願特願2021-162509号および2022年1月20日に出願された、国際出願PCT/JP2022/001970号に基づく。本明細書中に日本国特許出願特願2021-008275号の明細書、特許請求の範囲および図面全体、日本国特許出願特願2021-162509号の明細書、特許請求の範囲および図面全体並びに国際出願PCT/JP2022/001970号の明細書、請求の範囲および図面全体を参照として取り込むものとする。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明は、例えばCMOS(Complementary MOS)イメージセンサやメモリ、演算素子、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の製造に好適である。
【符号の説明】
【0140】
1:接合装置、3:洗浄装置、9:制御部、82:第1搬送装置、83:ロードロック部、84:第2搬送装置、120,212:チャンバ、120a,831a,831b:開口、121a,201a,832a:真空ポンプ、121b,201b,832b:排気管、121c,201c,832c:排気弁、122A、122B,5122A,5122B:カバー、123A、123B,5123A,5123B:カバー加熱部、141,210:ステージ、142:ヘッド、143:ステージ駆動部、144:ヘッド駆動部、146:支持機構、150:位置ずれ量測定部、161,162:粒子ビーム源、210a,1411,1421,835,8363:基板加熱部、213:プラズマチャンバ、215:誘導コイル、216:高周波電源、217:バイアス印加部、220A:窒素ガス供給部、220B:酸素ガス供給部、221A:窒素ガス貯留部、221B:酸素ガス貯留部、222A,222B:供給弁、223A,223B:供給管、811,812:導入ポート、813:取り出しポート、821:搬送ロボット、821a:アーム、831:待機チャンバ、833a,833b:ゲート、834:ゲート駆動部、836:基板保持機構、841:支持棒、842:支持体、843:支持体駆動部、844:ベローズ、845:保持部、1441,8362:昇降駆動部、1441a,1445:圧力センサ、1442:XY方向駆動部、1443:回転駆動部、1444:ピエゾアクチュエータ、1461,1462:支持部材、1461a,8361b:突起、2002:活性化処理装置、8361:カセット、8361a,8451:支持片、8452:主部、PLM:プラズマ、TA:ターゲット材、W1,W2:基板
図1
図2
図3
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図5
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図7A
図7B
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図9A
図9B
図10A
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