(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005608
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】樹脂部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 65/16 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
B29C65/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022105867
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504221107
【氏名又は名称】株式会社レーザーシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田岡 亮太
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼尾 亮太
(72)【発明者】
【氏名】山本 稔
(72)【発明者】
【氏名】爲本 広昭
(72)【発明者】
【氏名】矢口 寛
【テーマコード(参考)】
4F211
【Fターム(参考)】
4F211AA03
4F211AA04
4F211AA16
4F211AA21
4F211AA24
4F211AA28
4F211AG01
4F211AH17
4F211AH31
4F211AH33
4F211AH35
4F211AR07
4F211TA01
4F211TC01
4F211TC08
4F211TD07
4F211TD11
4F211TN27
(57)【要約】
【課題】添加剤を用いたり、特殊な処理を行ったりすることなく、効率よく樹脂と他の部材とを接合可能な樹脂部品の製造方法の提供を提供する。
【解決手段】樹脂部品の製造方法は、第1部材および第2部材を有する中間体を準備する工程と、中間体に第1レーザ光および第2レーザ光を走査し、第1部材および第2部材を溶着する工程と、を有する。中間体表面における第1レーザ光のスポットを第1スポット、第2レーザ光のスポットを第2スポットとしたとき、溶着工程では、第1スポットと、第2スポットとが重なりつつ、第2スポットの中心が、第1スポットの中心よりも第1レーザ光および第2レーザ光の走査方向の後方側に位置する状態で、第1レーザ光および第2レーザ光を走査する。第1スポットおよび第2スポットの少なくとも一方の、走査方向に平行な方向の最大長さを、走査方向に垂直な方向の最大長さより長くする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂を含む第1部材、および第2部材、を有する中間体を準備する工程と、
前記中間体に第1レーザ光および第2レーザ光を走査することで、前記第1部材および前記第2部材を溶着する工程と、を有し、
前記中間体表面における前記第1レーザ光のスポットを第1スポット、前記中間体表面における前記第2レーザ光のスポットを第2スポットとしたとき、
前記第1部材および前記第2部材を溶着する工程では、前記第1スポットの少なくとも一部と、前記第2スポットの少なくとも一部とが重なりつつ、前記第2スポットの中心が、前記第1スポットの中心よりも前記第1レーザ光および前記第2レーザ光の走査方向の後方側に位置する状態で、前記第1レーザ光および前記第2レーザ光を走査し、
前記第1スポットおよび前記第2スポットの少なくとも一方の、前記走査方向に平行な方向の最大長さが、前記走査方向に垂直な方向の最大長さより長い、
樹脂部品の製造方法。
【請求項2】
前記第2スポットの、前記走査方向に平行な方向の最大長さが、前記第2スポットの、前記走査方向に垂直な方向の最大長さより長い、
請求項1に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項3】
前記第2スポットの、前記走査方向に平行な方向の最大長さが、前記第1スポットの、前記走査方向に平行な方向の最大長さよりも長い、
請求項2に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項4】
前記第1部材と、前記第2部材を溶着する工程において、
前記走査方向に平行な前記中間体の溶着予定ライン上を、前記第1スポットのうち前記第2スポットと重ならない領域、前記第1スポットのうち前記第2スポットと重なる領域、および、前記第2スポットのうち前記第1スポットと重ならない領域がそれぞれ移動するように、前記第1レーザ光および前記第2レーザ光を走査する、
請求項3に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項5】
前記第1スポットの中心および前記第2スポットの中心を結んだ線と、前記溶着予定ラインとが、交差している、
請求項4に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項6】
前記第1スポットの中心および前記第2スポットの中心を結んだ線と、前記溶着予定ラインとがなす角のうちの鋭角の角度が、0°より大きく45°以下である、
請求項5に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項7】
前記走査方向が、前記第2スポットの中心から前記第1スポットの中心に向かう方向と同一である、
請求項3に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項8】
前記第1レーザ光のピーク波長と前記第2レーザ光のピーク波長とが異なる、
請求項1に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項9】
前記第1レーザ光のピーク波長が、前記第2レーザ光のピーク波長より短い、
請求項1に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項10】
前記第1レーザ光のピーク波長が350nm以上400nm以下であり、
前記第2レーザ光のピーク波長が400nm以上460nm以下である、
請求項9に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項11】
前記第1レーザ光の前記第1スポットにおける出力密度および前記第2レーザ光の前記第2スポットにおける出力密度がそれぞれ0.45kW/cm2以上である、
請求項1~10のいずれか一項に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項12】
前記第1スポットの面積に対する、前記第1スポットおよび前記第2スポットが重なる領域の面積の割合が、65%以下である、
請求項11に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項13】
前記第1スポットおよび前記第2スポットが重なる領域の面積が、72×103μm2以下である、
請求項12に記載の樹脂部品の製造方法。
【請求項14】
前記第2レーザ光の前記第2スポットにおける出力密度が、前記第1レーザ光の前記第1スポットにおける出力密度の1.2倍以上である、
請求項12に記載の樹脂部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂部品は、さまざまな用途で用いられる。このような樹脂部品の製造の際には、樹脂どうし、もしくは樹脂と他の部材とを接合すること等が求められている。
【0003】
樹脂部材と他の部材とを接合する方法の1つに、レーザ溶着法がある(例えば特許文献1)。特許文献1に記載のレーザ溶着法では、樹脂部材を吸水状態にし、近赤外または赤外のレーザ光を照射する。そして、光熱効果によって、レーザ光を照射した領域の水の温度を上昇させ、当該熱によって樹脂を溶融させる。そして、樹脂部材のレーザを照射した領域を他の部材に密着させ、樹脂部材と他の部材とを接合する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、添加剤を用いたり、特殊な処理を行ったりすることなく、効率よく樹脂を含む部材と他の部材とを接合可能な樹脂部品の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の樹脂部品の製造方法を提供する。
具体的には、樹脂を含む第1部材、および第2部材、を有する中間体を準備する工程と、前記中間体に第1レーザ光および第2レーザ光を走査することで、前記第1部材および前記第2部材を溶着する工程を有し、前記中間体表面における前記第1レーザ光のスポットを第1スポット、前記中間体表面における前記第2レーザ光のスポットを第2スポットとしたとき、前記第1部材および前記第2部材を溶着する工程では、前記第1スポットの少なくとも一部と、前記第2スポットの少なくとも一部とが重なりつつ、前記第2スポットの中心が、前記第1スポットの中心よりも前記第1レーザ光および前記第2レーザ光の走査方向の後方側に位置する状態で、前記第1レーザ光および前記第2レーザ光を走査し、前記第1スポットおよび前記第2スポットの少なくとも一方の、前記走査方向に平行な方向の最大長さが、前記走査方向に垂直な方向の最大長さより長い、樹脂部品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の樹脂部品の製造方法では、添加剤を用いたり、特殊な処理を行ったりすることなく、簡便な方法で効率よく樹脂を含む部材と、他の部材とを接合可能である。したがって、種々の樹脂部品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1Aおよび
図1Bは、本発明の一実施形態に係る溶着工程を説明するための斜視図である。
【
図2】
図2Aおよび
図2Bは、本発明の一実施形態に係る溶着工程の第1スポットおよび第2スポットの状態を説明するための模式図である。
【
図3】
図3A~
図3Cは、本発明の他の実施形態に係る溶着工程を説明するための斜視図である。
【
図4】
図4は、本発明の実験例2における、第1スポットの面積に対する、第1スポットおよび第2スポットの重なり領域の面積の割合と、溶着強度との関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は、本発明の実験例3における、第2レーザ光の出力と、溶着強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、樹脂部品の製造方法に関する。以下、本発明の一実施形態に係る樹脂部品の製造方法を例に説明するが、本発明は当該実施形態に制限されない。
【0010】
本発明の一実施形態に係る樹脂部品の製造方法は、樹脂を含む第1部材、および第2部材、を有する中間体を準備する工程(以下、「中間体準備工程」とも称する)と、当該中間体表面に、少なくとも2つのレーザ光を所定の方向(本明細書では「走査方向」と称する)に走査し、第1部材および第2部材を溶着する工程(以下、「溶着工程」とも称する)を有する。なお、以下の説明では、中間体に2つのレーザ光を照射する場合を例に説明するが、本実施形態の樹脂部品の製造方法では、3つ以上のレーザ光を中間体に照射してもよい。
【0011】
また、本明細書では、2つのレーザによって、中間体表面に形成されるスポットの中心を特定したとき、走査方向の前方側にスポットの中心を有するレーザ光を第1レーザ光と称し、走査方向の後方側にスポットの中心を有するレーザ光を第2レーザ光と称する。さらに、第1レーザ光によって中間体表面に形成されるスポットを第1スポットと称し、第2レーザ光によって、中間体表面に形成されるスポットを第2スポットと称する。なお、スポットの中心とは、スポットの重心と同義である。
【0012】
本実施形態の樹脂部品の製造方法を説明するための斜視図を
図1Aおよび
図1Bに示す。本実施形態では、樹脂を含む第1部材11と、当該第1部材11を溶着する第2部材12とからなる中間体13を準備する(中間体準備工程、
図1A)。本実施形態において、これらの第1部材11の溶着予定領域11aと、第2部材12の溶着予定領域12aと、を互いに接触させている。
【0013】
そして、当該中間体13に対して、第1レーザ光100および第2レーザ光200を走査方向Aに走査することで、第1レーザ光100および第2レーザ光200を照射する。これにより、第1部材11の溶着予定領域11a近傍の樹脂が一部溶融したり軟化したりし、第1部材11および第2部材12が溶着する(溶着工程、
図1B)。このとき、第1レーザ光100および第2レーザ光200の焦点位置は、中間体13の表面または裏面にあってもよく、中間体13の厚み方向内部にあってもよい。また、本明細書では、第1レーザ光100および第2レーザ光200を照射する予定のラインを溶着予定ライン30とも称する。溶着予定ライン30は直線であってもよく、曲線であってもよく、直線と曲線が組み合わせされていてもよい。ここで直線とは、任意の方向に延びる1つの直線、2以上の方向に延びる直線を含む。溶着予定ライン30が曲線である場合、走査方向Aは、当該溶着予定ライン30の接線方向に相当し、溶着予定ライン30の形状に沿って変化する。溶着予定ライン30は、1つであってもよく複数あってもよい。溶着予定ライン30が複数ある場合、それぞれが離隔していてもよく、交差していてもよい。なお、
図1Bでは、第1部材11および第2部材12の界面が、溶着予定ライン30に相当する。
【0014】
第1レーザ光100および第2レーザ光200を走査する際の、第1スポット110および第2スポット210の状態について、
図2Aおよび
図2Bの模式図を用いて説明する。本実施形態では、
図2Aおよび
図2Bに示すように、第1スポット110の少なくとも一部および第2スポット210の少なくとも一部が互いに重なるように(以下、第1スポット110および第2スポット210が重なった領域を「重なり領域310」とも称する)、第1レーザ光100および第2レーザ光200を走査する。このとき、第1スポット110および第2スポット210が完全に重ならないことが好ましい。
【0015】
また、第1スポット110および第2スポット210のうち、いずれか一方、もしくは両方の、走査方向Aに平行な方向の最大長さが、走査方向Aに垂直な方向の最大長さより長くなるように、第1スポット110および/または第2スポット210の形状を制御する。本実施形態では、第2スポット210が、走査方向Aと略平行に長径L1を有し、走査方向Aと略垂直に短径L2を有する楕円形状であるが、第1スポット110が楕円形状であり、第2スポット210が円形状であってもよい。また、第1スポット110および第2スポット210の両方が楕円形状であってもよい。さらに、走査方向Aに平行な方向の最大長さが、走査方向Aに垂直な方向の最大長さより長くなる形状(以下、「走査方向Aに長い形状」とも称する)は、楕円形状に限定されず、例えば長方形状等であってもよい。走査方向Aに長い形状において、走査方向Aに平行な方向の最大長さと、走査方向Aに垂直な方向の最大長さとの比は、1:1.2~1:3が好ましく、1:1.8~1:2.5がより好ましい。走査方向Aに平行な方向の最大長さと、走査方向Aに垂直な方向の最大長さとの比が当該範囲であると、第1部材11および第2部材12の溶着効率が高まりやすい。
【0016】
ただし、第2スポット210の走査方向Aに平行な方向の最大長さL1が、第1スポット110の走査方向Aに平行な方向の最大長さM1より長いことが好ましく、本実施形態のように、第1スポット110が略円形状であり、第2スポットが走査方向Aに長い形状であることが特に好ましい。第1スポット110が略円形状であると、当該領域の出力密度を高めやすく、第1部材11中の樹脂の温度を短時間で効率的に高めやすい。一方で、第2スポット210が、走査方向Aに長い形状であると、当該領域の出力密度は低くなるものの、第2レーザ光200の照射時間が長くなる。その結果、第1レーザ光100の照射によって上昇した温度が保持されやすくなり、第1部材11の所望の領域を溶融させたり軟化させたりしやすくなる。
【0017】
また、第1スポット110および第2スポット210の位置関係は、前述のように、第2スポット210の中心210Cが、第1スポット110の中心110Cより走査方向Aの後方側にあり、これらの一部が重なっていればよい。例えば、
図2Aに示すように、第1スポット110の中心110Cおよび第2スポット210の中心210Cが、それぞれ溶着予定ライン30上に配置されていてもよい。この場合、第1スポット110の中心110Cおよび第2スポット210の中心210Cを結んだ線Bが溶着予定ライン30に重なる。そして、第2スポット210の中心210Cから第1スポット110の中心110Cに向かう方向が、走査方向Aとなる。
【0018】
一方、
図3Bに示すように、第1スポット110の中心110Cおよび第2スポット210の中心210Cのいずれか一方、もしくは両方が、溶着予定ライン30上になくてもよい。ただし、この場合、第1スポット110の中心110Cと、第2スポット210の中心210Cとを結んだ線Bが、溶着予定ライン30と交差するように、第1スポット110および第2スポット210が配置されることが好ましい。またこのとき、上記線Bおよび溶着予定ライン30がなす角のうちの鋭角の角度(
図3Bにおいてαで示す角度)は、0°より大きく45°以下であることが好ましく、0°より大きく20°以下であることがより好ましい。上記線Bと溶着予定ライン30とがなす角が45°以下であると、溶着予定ライン30近傍にのみ、レーザ光を長い時間照射することができる。具体的には、上記角度を45°以下とすると、溶着予定ライン30上を、第1スポット110のうち第2スポット210と重ならない領域、第1スポット110および第2スポット210が重なる領域(重なり領域310)、ならびに第2スポット210のうち第1スポット110と重ならない領域がそれぞれ移動する。一方で、溶着予定ライン30から離れた領域では、第1スポット110の第2スポット210と重ならない領域、または第2スポット210のうち第1スポット110と重ならない領域のみが移動する。そのため、これらの領域では、第1部材11の温度が高まり難い。したがって、溶着予定ライン30近傍のみの第1部材11中の樹脂の温度を高めることができるため、高い精度で溶着することが可能となる。
【0019】
第1スポット110の面積に対する、重なり領域310の面積は、65%以下が好ましく、2%以上65%以下がより好ましい。第1スポット110の面積に対する、重なり領域310の面積が65%以下であると、所望の領域(例えば溶着予定ライン30)上でのレーザ光の照射時間を実質的に長くしやすい。したがって、短時間で効率よく中間体13(第1部材11中の樹脂)の温度を高めることができる。また、第1スポット110の面積に対する、重なり領域310の面積が2%以上であると、第1部材11中の樹脂の温度を高めることができる領域を十分に太くしやすいため、溶着強度を高くしやすい。
【0020】
また、重なり領域310の面積は、第1レーザ光100の第1スポット110での出力密度および第2レーザ光200の第2スポット210での出力密度が0.45kW/cm2以上であって、第1レーザ光100の波長が350nm以上400nm以下であり、第2レーザ光200の波長が400nm以上460nm以下である場合には、重なり領域310の面積が、72×103μm2以下であることが好ましい。
【0021】
さらに、第1スポット110および第2スポットの210の面積は、第1スポット110や第2スポットの210の形状に応じて適宜選択されるが、110×103μm2以上290×103μm2以下が好ましい。さらに、第1スポット110および第2スポットの210の最大径も、第1スポット110や第2スポットの210の形状に応じて適宜選択されるが、380μm以上960μm以下が好ましい。
【0022】
ここで、上記第1レーザ光100および第2レーザ光200のピーク波長は特に制限されず、第1部材11や第2部材12の種類等に応じて適宜選択することができる。例えば、第1レーザ光100のピーク波長および第2レーザ光200のピーク波長は、同一であってもよく、異なっていてもよい。ここで、第1レーザ光100および第2レーザ光200のピーク波長は、例えば、500nm以下とすることで、レーザ光を照射した領域の中間体13(第1部材11中の樹脂)の温度を短時間で高めることができる。また、第1レーザ光100および第2レーザ光200のピーク波長は、300nm以上とすることで、中間体13(第1部材11中の樹脂)の変色や強度低下などのダメージを低減することができる。また、第1レーザ光100および第2レーザ光200が互いに異なるピーク波長を有すると、中間体13の温度を効率よく高めやすくなり、第1部材11および第2部材12を効率よく溶着しやすくなる。特に、第1レーザ光100のピーク波長が、第2レーザ光200のピーク波長より短いことが好ましい。第1レーザ光のピーク波長が350nm以上400nm以下であり、第2レーザ光200のピーク波長が400nm以上460nm以下であることがさらに好ましい。
【0023】
また、ピーク波長が400nm以上であるレーザ光は、高出力の光学系を使用することが可能である。ただし、樹脂によっては、波長400nm以上の光を吸収し難いことがある。一方、ピーク波長400nm未満のレーザ光は、高出力の光学系を使用し難いものの、当該レーザ光を照射することで、第1部材11中の樹脂を励起させ、第1部材11に第1レーザ光100のピーク波長以上の光の吸収性を発現させることも可能である。つまり、第1レーザ光として、ピーク波長が400nm未満もしくは400nmのレーザ光を使用し、第2レーザ光200として、ピーク波長が400nm以上であるレーザ光を使用すると、第1部材11に効率よくレーザ光を吸収させることが可能となり、短時間で効率よく第1部材11の温度を高めることができる。樹脂によっては、400nmよりも長い波長である420nm程度の波長の光であっても励起されるものがある。従って、第1レーザ光100のピーク波長を350nm以上420nm以下としつつ、第2レーザ光200のピーク波長を420nm以上460nm以下としてもよい。
【0024】
第1レーザ光100および第2レーザ光200の照射時の雰囲気は特に制限されないが、酸素存在下でピーク波長が400nm未満のレーザ光(例えば、第1レーザ光100)の照射を行うと、第1部材11を改質しやすくなる。したがって、ピーク波長が400nm未満のレーザ光を照射する場合には、酸素存在下で照射を行うことが好ましい。本明細書における「酸素存在下」とは、レーザ光の焦点位置近傍に酸素が存在することをいい、例えば、レーザ光の焦点位置近傍が大気雰囲気である場合やオゾン雰囲気である場合を意味する。
【0025】
第1レーザ光100および第2レーザ光200は、連続発振のレーザ光であってもよく、パルス発振のレーザ光であってもよい。所望の領域に連続的にレーザ光を照射可能であるとの観点では、連続発振のレーザ光がより好ましい。また、連続発振のレーザ光を用いることで、パルス発振のレーザ光を用いる場合と比較して、第1部材11や第2部材12のダメージを低減しやすい。レーザ光の光源としては、例えば、Nd:YAGレーザ、Yb:YAGレーザ、Nd:YVO4レーザ、Ti:Al2O3レーザ等の高次高調波の光源や、レーザダイオードを用いることができる。なかでも、レーザダイオードを用いることで、第1部材11や第2部材12へのダメージを低減しつつ電力効率を良くできる。
【0026】
さらに、上記第1レーザ光100および/または第2レーザ光200のスポット110、210の形状を、走査方向Aに長い形状にする方法は特に制限されず、例えばレーザの光軸を溶着予定ライン30に対して斜めにする方法や、シリンドリカルレンズを使用する方法、光源と中間体13との間にマスクを配置する方法等が挙げられる。
【0027】
ここで、第1レーザ光100および第2レーザ光200の出力は、第1部材11や第2部材12の種類に応じて適宜選択されるが、0.3W以上が好ましく、0.6W以上がより好ましい。また、第1レーザ光100の第1スポット110での出力密度および第2レーザ光200の第2スポット210での出力密度は、0.45kW/cm2以上が好ましく、0.55kW/cm2以上がより好ましい。なお、出力密度は、各レーザ光の出力を各スポットの面積で除した値である。
【0028】
また特に、第1レーザ光100の波長が350nm以上400nm以下であり、第2レーザ光200の波長が400nm以上460nm以下である場合には、第2スポット210における出力密度が、第1スポット110における出力密度の1.2倍以上であると、効率よく第1部材11の温度を高めることができる。
【0029】
ここで、第1レーザ光100を走査方向Aに走査する速度、および第2レーザ光200を走査方向Aに走査する速度は略同一とする。ただし、当該速度は常に一定であってもよく、連続的、または断続的に変化させてもよい。例えば、走査速度を断続的に変化させると、第1部材11と第2部材12とが強固に溶着した領域と、第1部材11と第2部材12との溶着力が低い領域とを形成できる。これらの領域が形成されていることで、第1部材11と第2部材12とを、第1部材11と第2部材12との溶着領域のすべてが強固に溶着した場合と比較して、小さい力で分離することが可能となる。
【0030】
また、第1レーザ光100および第2レーザ光200の出力密度は、常に一定であってもよく、連続的、または断続的に変化させてもよい。出力密度を変化させた場合にも、第1部材11と第2部材12とが強固に溶着した領域と、溶着力が低い領域とを形成できる。これらの領域が形成されていることで、第1部材11と第2部材12とを、第1部材11と第2部材12との溶着領域のすべてが強固に溶着した場合と比較して、小さい力で分離することが可能となる。
【0031】
本実施形態の樹脂部品の製造方法に使用する第1部材11中の樹脂の種類は特に制限されず、第1レーザ光および第2レーザ光を吸収し、光熱反応により昇温可能な樹脂であればよい。また、第1レーザ光および/または第2レーザ光の照射によって、電子励起されて、光吸収率が変化する樹脂であってもよい。樹脂の具体例には、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂;ポリカーボネート(PC);ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等のアクリル樹脂;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン-四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレンクロロトリフルオロエチレンコポリマー(ECTFE)等のフッ素系樹脂;等が含まれる。第1部材11は、これらの樹脂を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。また、第1部材11は、第2部材12と接合する領域に少なくとも樹脂を含んでいればよい。また、第1部材11は、第2部材12と接合する領域以外の領域に、樹脂以外の成分を含んでいてもよい。
【0032】
第1部材11の形状は特に制限されず、例えば平板状であってもよく、立体的な構造を有していてもよい。さらに、第1部材11の第2部材12との接合面は平面であってもよく、曲面であってもよい。
【0033】
一方、第2部材12の材料は特に制限されず、樹脂であってもよく、例えば金属やセラミックス等の無機材料であってもよい。
【0034】
本発明の樹脂部品の製造方法によって製造される樹脂部品の用途は特に制限されない。従来、樹脂部材が使用されてきたいずれの分野の部品にも適用可能である。例えば、衣類や、各種包装容器、医療用器材、電線ケーブルや光ファイバー等の被覆材、機械的駆動部品、ベアリングやワッシャー、家電製品、情報通信機器、自動車用部品、航空産業、宇宙産業用の部品等が含まれる。また、樹脂部品の例には、樹脂と樹脂以外の金属やセラミックとが接合された部品等も含まれる。樹脂と樹脂以外の金属やセラミックとが接合された部品としては、例えば、装飾ねじ等の機械部品やヒューズ及びコネクターなどの電子部品等が挙げられる。
【0035】
(他の実施形態)
上述の説明では、第1部材11および第2部材12を密着させた中間体13を準備し、当該中間体13に第1レーザ光100および第2レーザ光200を照射することを説明した。ただし、第1レーザ光100および第2レーザ光200の照射方法は、上述の方法に限定されない。
【0036】
他の実施形態の一例を
図3A~
図3Cに示す。当該実施形態では、第1部材11の溶着予定領域11aと第2部材12の溶着予定領域12aとの間に隙間をあけた中間体23を準備する(
図3A)。そして、当該中間体23の第1部材11の溶着予定領域11aに第1レーザ光100および第2レーザ光200を走査方向Aに走査する(
図3B)。その後、第1部材11および第2部材12を密着させて、第1部材11および第2部材12を溶着する(
図3C)。当該態様では、第1部材11が第1レーザ光100および第2レーザ光200に対して透過性を有することが好ましい。
【0037】
(効果)
上述の樹脂部品の製造方法では、第1スポットおよび第2スポットの一部が重なるように、第1レーザ光および第2レーザ光を照射する。また、第1スポットおよび第2スポットのうち、いずれか一方、もしくは両方が、レーザ光の走査方向に長い形状を有する。そのため、上述の樹脂部品の製造方法では、所望の領域に、長い時間レーザ光を照射することが可能であり、レーザ光の走査速度を高めても、十分に樹脂を含む部材を溶融させたり軟化させたりすることが可能である。また、2種類のレーザを組み合わせることから、異なる波長のレーザ光を使用すること等も可能である。例えば、一般的には樹脂を含む部材の溶着に使用し難い、ピーク波長が400nm以上のレーザ光等も使用することが可能である。さらに、上述の方法では、添加剤や特殊な処理を行う必要がないことから、様々な分野の樹脂部品の製造に適用できる。
【実施例0038】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例により限定されない。
【0039】
(実験例1)
図1Aに示すように、板状の第1部材(PET製、厚さ0.5mm)11の溶着予定領域11aと、板状の第2部材(PET製、厚さ0.5mm)12の溶着予定領域12aとを密着させた中間体13を準備した。そして、大気雰囲気下、下記表1に示す条件で、当該中間体13の溶着予定ライン30に、レーザ光を照射した。レーザ光の光源としては、レーザダイオードを用いた。
【0040】
下記表1に示すように、比較例1-1および1-2では、1つのレーザ光のみを走査した。一方、実施例1-1~1-3では、第1レーザ光100および第2レーザ光200を走査方向Aに、それぞれ同じ速度で、かつこれらのスポットの一部が重なるように走査した。第1スポットおよび第2スポットが重なる面積(重なり領域の面積)は、26×103μm2とし、第1スポットの面積に対する、重なり領域の面積の割合を23%とした。また、実施例1-1~1-3では、第2レーザ光の中心から第1レーザ光の中心へ向かう方向と、走査方向Aとを同一にした。さらに、実験例1では、第1部材11および第2部材12の溶着強度が20N以上となる走査速度のうち、最も速い速度を溶着速度とした。第1部材11および第2部材12の溶着強度は、株式会社イマダ製の製品型番FSA-0.5K2-500Nを用いた引張試験によって測定した。
【0041】
【0042】
上記表1の実施例1-1および実施例1-2に示されるように、2つのレーザ光のスポットの一部を重ね、かつ第1レーザ光および第2レーザ光のうち、少なくとも一方を、走査方向に長い形状とすることで、第1部材11および第2部材12の溶着速度を早くできることが確認された。また、紫外域のレーザ光は、一般に光変換効率が低い。従って、紫外域のレーザ光を高出力にするためには、比較的大きな電力が必要である。上記表1の実施例1-1、実施例1-2、および、実施例1-3に示されるように、ピーク波長が375nmのレーザ光の出力は0.5Wである。従って、実施例1-1、実施例1-2、および、実施例1-3において、比較例1-1および比較例1-2よりも、電力を抑えつつ、溶着できることが確認された。なお、紫外域レーザ素子は、光変換効率が低いことから、その温度が上がりやすく、温度上昇による素子のダメージが懸念される。実施例1-1、実施例1-2、および、実施例1-3においては、ピーク波長が375nmのレーザ光の出力を下げることで、素子のダメージを低減できている。
【0043】
(実験例2)
上記重なり領域の面積を、下記表2に示すように変更した以外は、実施例1-2と同様に第1部材11と第2部材12とを溶着させた。溶着強度は、株式会社イマダ製の製品型番FSA-0.5k2-500Nを用いた引張試験によって測定した。結果を表2におよび
図4に示す。
【表2】
【0044】
上記表2に示すように、第1スポットおよび第2スポットの一部が重なると、溶着強度が非常に高くなった。第1レーザ光(波長375nmのレーザ光)で加熱された第1部材に、間を置くことなく第2レーザ光(波長405nmのレーザ光)を照射することで、第1部材中の樹脂が溶融しやすかったと考えられる。また特に、スポットの重なり領域の面積が65%以下であると、レーザ光の照射時間を実質的に長くすることができるため、溶着強度が高かったと考えられる。
【0045】
(実験例3)
第2レーザ光の出力を表3に示すように変化させた以外は、実施例1-2と同様に第1部材11と第2部材12とを溶着させた。このときの溶着強度を表3および
図5に示す。
図5では、当該結果から近似曲線を作成している。また、溶着強度の測定方法は、実験例2の溶着強度の測定方法と同様である。さらに、各出力密度は、各レーザ光の出力を各スポットの面積で除した値である。参考例として、第1レーザ光および第2レーザ光をいずれも波長375nmのレーザ光とした場合の結果も示す。
【0046】
【0047】
上述のように、紫外域のレーザ光は、一般に光変換効率が低い。従って、紫外域のレーザ光を高出力にするためには、比較的大きな電力が必要である。そこで、波長375nmの第1レーザ光(1W)と、波長405nmの第2レーザ光と組み合わせ、電力を抑えつつ、波長375nmのレーザ光どうしを組み合わせた場合と同等、もしくはそれ以上の溶着強度とすることが特に好ましい。上記表3に示すように、波長375nmのレーザ光(1.0W)どうしを組み合わせた参考例の溶着強度は47.4Nである。一方、波長375nmの第1レーザ光(1W)と、波長405nmの第2レーザ光とを組み合わせた場合、
図5に示すように、参考例(47.4N)より溶着強度が高くなるのは、第2レーザ光の出力を1.9W以上とした場合である。つまり、第2レーザ光の出力密度(1.1×10
3W/cm
2)が、第1レーザ光の出力密度(0.91×10
3W/cm
2)の1.2倍となるときである。当該結果から、第1レーザ光の波長が350nm以上400nm以下であり(ここでは波長375nm)、第2レーザ光の波長が400nm以上460nm以下である場合(ここでは波長405nm)、第2スポットにおける出力密度が、第1スポットにおける出力密度の1.2倍以上であることが好ましいといえる。またこのとき、波長375nmのレーザ光どうしを組み合わせる場合より、電力を格段に抑えることができる。
【0048】
(付記)
[項1]
樹脂を含む第1部材、および第2部材、を有する中間体を準備する工程と、
前記中間体に第1レーザ光および第2レーザ光を走査することで、前記第1部材および前記第2部材を溶着する工程と、を有し、
前記中間体表面における前記第1レーザ光のスポットを第1スポット、前記中間体表面における前記第2レーザ光のスポットを第2スポットとしたとき、
前記第1部材および前記第2部材を溶着する工程では、前記第1スポットの少なくとも一部と、前記第2スポットの少なくとも一部とが重なりつつ、前記第2スポットの中心が、前記第1スポットの中心よりも前記第1レーザ光および前記第2レーザ光の走査方向の後方側に位置する状態で、前記第1レーザ光および前記第2レーザ光を走査し、
前記第1スポットおよび前記第2スポットの少なくとも一方の、前記走査方向に平行な方向の最大長さが、前記走査方向に垂直な方向の最大長さより長い、
樹脂部品の製造方法。
[項2]
前記第2スポットの、前記走査方向に平行な方向の最大長さが、前記第2スポットの、前記走査方向に垂直な方向の最大長さより長い、
項1に記載の樹脂部品の製造方法。
[項3]
前記第2スポットの、前記走査方向に平行な方向の最大長さが、前記第1スポットの、前記走査方向に平行な方向の最大長さよりも長い、
項1または項2に記載の樹脂部品の製造方法。
[項4]
前記第1部材と、前記第2部材を溶着する工程において、
前記走査方向に平行な前記中間体の溶着予定ライン上を、前記第1スポットのうち前記第2スポットと重ならない領域、前記第1スポットのうち前記第2スポットと重なる領域、および、前記第2スポットのうち前記第1スポットと重ならない領域がそれぞれ移動するように、前記第1レーザ光および前記第2レーザ光を走査する、
項1~項3のいずれかに記載の樹脂部品の製造方法。
[項5]
前記第1スポットの中心および前記第2スポットの中心を結んだ線と、前記溶着予定ラインとが、交差している、
項1~項4のいずれかに記載の樹脂部品の製造方法。
[項6]
前記第1スポットの中心および前記第2スポットの中心を結んだ線と、前記溶着予定ラインとがなす角のうちの鋭角の角度が、0°より大きく45°以下である、
項5に記載の樹脂部品の製造方法。
[項7]
前記走査方向が、前記第2スポットの中心から前記第1スポットの中心に向かう方向と同一である、
項1~項4のいずれかに記載の樹脂部品の製造方法。
[項8]
前記第1レーザ光のピーク波長と前記第2レーザ光のピーク波長とが異なる、
項1~項7のいずれかに記載の樹脂部品の製造方法。
[項9]
前記第1レーザ光のピーク波長が、前記第2レーザ光のピーク波長より短い、
項8に記載の樹脂部品の製造方法。
[項10]
前記第1レーザ光のピーク波長が350nm以上400nm以下であり、
前記第2レーザ光のピーク波長が400nm以上460nm以下である、
項1~項9のいずれかに記載の樹脂部品の製造方法。
[項11]
前記第1レーザ光の前記第1スポットにおける出力密度および前記第2レーザ光の前記第2スポットにおける出力密度がそれぞれ0.45kW/cm2以上である、
項1~項10のいずれか一項に記載の樹脂部品の製造方法。
[項12]
前記第1スポットの面積に対する、前記第1スポットおよび前記第2スポットが重なる領域の面積の割合が、65%以下である、
項11に記載の樹脂部品の製造方法。
[項13]
前記第1スポットおよび前記第2スポットが重なる領域の面積が、72×103μm2以下である、
項11または項12に記載の樹脂部品の製造方法。
[項14]
前記第2レーザ光の前記第2スポットにおける出力密度が、前記第1レーザ光の前記第1スポットにおける出力密度の1.2倍以上である、
項11~項13のいずれかに記載の樹脂部品の製造方法。
本発明の樹脂部品の製造方法によれば、効率よく樹脂を含む部材の所望の領域の温度を高め、当該部材と他の部材とを溶着させることができる。したがって、様々な分野の樹脂部品の製造において、非常に有用な技術である。