(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056103
(43)【公開日】2024-04-19
(54)【発明の名称】積層ポリエステルフィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 3/30 20060101AFI20240412BHJP
B32B 27/20 20060101ALI20240412BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20240412BHJP
C08J 7/04 20200101ALI20240412BHJP
【FI】
B32B3/30
B32B27/20 Z
B32B27/36
C08J7/04 Z CFD
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024037516
(22)【出願日】2024-03-11
(62)【分割の表示】P 2022013620の分割
【原出願日】2022-01-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】舟津 良亮
(72)【発明者】
【氏名】菅井 陽太
(72)【発明者】
【氏名】仲川 洋平
(57)【要約】
【課題】微細な凹凸構造形成により、ロール状にフィルムを巻き取る際などにおける取り扱い性に優れた積層ポリエステルフィルムを提供することにある。
【解決手段】ポリエステルフィルムと、前記ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、樹脂組成物により形成された樹脂層とを備える積層ポリエステルフィルムであって、以下の(1)~(4)の要件を全て満足する積層ポリエステルフィルムである。
(1)前記樹脂層が凹凸構造を有すること。
(2)前記樹脂組成物が、下記化合物(A)及び(B)を含むこと。
(A)バインダー樹脂及び架橋剤からなる群から選ばれる1種以上
(B)粒子
(3)前記(B)粒子の含有量が、前記樹脂組成物中の全不揮発成分全体に占める割合として、20質量%以上であること。
(4)前記樹脂層表面のクルトシス(Sku)が3.0未満であること。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムと、前記ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、樹脂組成物により形成された樹脂層とを備える積層ポリエステルフィルムであって、以下の(1)~(4)の要件を全て満足する積層ポリエステルフィルム。
(1)前記樹脂層が凹凸構造を有すること。
(2)前記樹脂組成物が、下記化合物(A)及び(B)を含むこと。
(A)バインダー樹脂及び架橋剤からなる群から選ばれる1種以上
(B)粒子
(3)前記(B)粒子の含有量が、前記樹脂組成物中の全不揮発成分全体に占める割合として、20質量%以上であること。
(4)前記樹脂層表面のクルトシス(Sku)が3.0未満であること。
【請求項2】
走査型プローブ顕微鏡で測定したときの前記樹脂層表面の算術平均粗さ(Ra)が、10nm以上である、請求項1に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項3】
走査型プローブ顕微鏡で測定したときの前記樹脂層表面の十点平均粗さ(Rzjis)が、60nm以上である、請求項1又は2に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項4】
走査型プローブ顕微鏡で測定したときの前記樹脂層表面の切断レベル70%における粗さ曲線の負荷長さ率(Rmr(70))が、82%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項5】
前記樹脂層表面の二乗平均平方根勾配(Sdq)が、0.1以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項6】
前記樹脂層表面の展開界面面積率(Sdr)が、0.5%以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項7】
空気漏れ指数が130,000秒以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項8】
前記(B)粒子の平均粒径が1~100nmである、請求項1~7のいずれか1項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項9】
前記(A)バインダー樹脂が、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂及びポリウレタン樹脂からなる群から選ばれる1種以上を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【請求項10】
前記(B)粒子が、酸化ジルコニウム、酸化チタン及びシリカからなる群から選ばれる1種以上を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の積層ポリエステルフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートフィルムやポリエチレンナフタレートフィルムに代表されるポリエステルフィルムは、機械的特性、寸法安定性、平坦性、耐熱性、耐薬品性、光学特性等に優れた特性を有し、コストパフォーマンスに優れるため、各種用途に使用されている。
【0003】
また、ポリエステルフィルムは、フィルム表面の平滑性を利用して、積層セラミックコンデンサのグリーンシートを成形するための離型フィルムや、層間絶縁樹脂離型用基材、ドライフィルムレジスト用基材など、各種用途に好適に用いられている。
【0004】
上記用途をはじめとする、優れた表面平滑性を有するシート成形用ポリエステルフィルムは、ロール状に巻き取った場合、シワがなく、ロール外観が良好であることが必要とされる。
しかしながら、表面平滑性を高くすると、滑り性が低下するとともに、ロール状に巻くときやロールから繰り出すときの空気抜けが悪くなるため、巻きずれやブロッキングが発生してハンドリング性が低下する。
とりわけ、近年、生産性向上に伴い、ポリエステルフィルムの薄膜長尺化がさらに進行する傾向にあり、より高度なレベルでのロール外観品質が要求される。
【0005】
そこで、ハンドリング性を確保するために、平滑面でない側(背面側)は、粒子の練り込みによって平滑面側に比べて粗く設計されることがある(例えば特許文献1)。
また、特許文献2には、ハンドリング性の向上を目的として、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、微細網目凹凸構造を有する連続被膜層を設けた易滑性複合ポリエステルフィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-33811号公報
【特許文献2】特開2000-211082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されるような従来の粒子練り込み型フィルムの製法では、凹凸形成の制御が難しく微細な凹凸構造の形成は困難であり、また、特許文献2に開示のフィルムでは凹凸が不十分であることから、ロール状に巻き取る際にシワが入りやすくなり、ロール外観が損なわれる場合があった。
【0008】
そこで、本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、微細な凹凸構造形成により、ロール状にフィルムを巻き取る際などにおける取り扱い性に優れた積層ポリエステルフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討の結果、次の構成を有することで、上記課題を解決できることを見出した。
本発明は、以下の態様を有する。
【0010】
[1]ポリエステルフィルムと、前記ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、樹脂組成物により形成された樹脂層とを備える積層ポリエステルフィルムであって、以下の(1)~(4)の要件を全て満足する積層ポリエステルフィルム。
(1)前記樹脂層が凹凸構造を有すること。
(2)前記樹脂組成物が、下記化合物(A)及び(B)を含むこと。
(A)バインダー樹脂及び架橋剤からなる群から選ばれる1種以上を含む
(B)粒子
(3)前記(B)粒子の含有量が、前記樹脂組成物中の全不揮発成分全体に占める割合として、20質量%以上であること。
(4)前記樹脂層表面のクルトシス(Sku)が3.0未満であること。
[2]走査型プローブ顕微鏡で測定したときの前記樹脂層表面の算術平均粗さ(Ra)が、10nm以上である、上記[1]に記載の積層ポリエステルフィルム。
[3]走査型プローブ顕微鏡で測定したときの前記樹脂層表面の十点平均粗さ(Rzjis)が、60nm以上である、上記[1]又は[2]に記載の積層ポリエステルフィルム。
[4]走査型プローブ顕微鏡で測定したときの前記樹脂層表面の切断レベル70%における粗さ曲線の負荷長さ率(Rmr(70))が、82%以下である、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の積層ポリエステルフィルム。
[5]前記樹脂層表面の二乗平均平方根勾配(Sdq)が、0.1以上である、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の積層ポリエステルフィルム。
[6]前記樹脂層表面の展開界面面積率(Sdr)が、0.5%以上である、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の積層ポリエステルフィルム。
[7]空気漏れ指数が130,000秒以下である、上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の積層ポリエステルフィルム。
[8]前記(B)粒子の平均粒径が1~100nmである、上記[1]~[7]のいずれか1つに記載の積層ポリエステルフィルム。
[9]前記(A)バインダー樹脂が、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂及びポリウレタン樹脂からなる群から選ばれる1種以上を含む、上記[1]~[8]のいずれか1つに記載の積層ポリエステルフィルム。
[10]前記(B)粒子が、酸化ジルコニウム、酸化チタン及びシリカからなる群から選ばれる1種以上を含む、上記[1]~[9]のいずれか1つに記載の積層ポリエステルフィルム。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、微細な凹凸構造形成により、ロール状にフィルムを巻き取る際などにおける取り扱い性に優れた積層ポリエステルフィルムが提供される。
【0012】
また、本発明の積層ポリエステルフィルムは、樹脂層表面に微細な凹凸構造を形成できるため、例えばシート成形用として用いれば、極めて高平滑なフィルムをロール状に巻き取る際にも、良好な巻取り性を発揮し、シワが発生しにくくなるという利点がある。
【0013】
さらに、本発明の積層ポリエステルフィルムは、樹脂層を薄膜にできることから、ポリエステルフィルムの薄膜長尺化にも対応可能であり、加工時における製品ロールの切替頻度低減による生産性向上に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1の樹脂層表面を観察した画像である。
【
図2】実施例8の樹脂層表面を観察した画像である。
【
図3】実施例19の樹脂層表面を観察した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施形態の一例について説明する。ただし、本発明は、次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0016】
本明細書において、「(メタ)アクリル」という表現を用いる場合、「(メタ)アクリル」は「アクリル」及び「メタクリル」の一方又は両方を意味するものとする。また、同様に「(メタ)アクリル酸」は「アクリル酸」及び「メタクリル酸」の一方又は両方、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート」及び「メタクリレート」の一方又は両方、「(メタ)アクリロイル」は「アクリロイル」及び「メタクリロイル」の一方又は両方を意味するものとする。その他についても、上記と同様である。
【0017】
<<<積層ポリエステルフィルム>>>
本発明の積層ポリエステルフィルム(以下、「本積層ポリエステルフィルム」とも称する)は、ポリエステルフィルム(以下、「本ポリエステルフィルム」とも称する)と、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、樹脂組成物により形成された樹脂層(以下、「本樹脂層」とも称する)とを備える。
【0018】
本積層ポリエステルフィルムの積層構成としては、ポリエステルフィルムの片面側に樹脂層を形成し、他方の面側はポリエステルフィルムの表面をそのままにした構成であってもよいし、該他方の面側に他の層を形成してなる構成であってもよい。
また、ポリエステルフィルムの両面側に樹脂層を形成してなる構成であってもよい。
さらにまた、樹脂層をポリエステルフィルムの上に直接形成してもよいが、ポリエステルフィルムと樹脂層との間に他の層を設けてもよい。
【0019】
<<ポリエステルフィルム>>
本ポリエステルフィルムは、本積層ポリエステルフィルムの基材としての役割を果たすものである。本ポリエステルフィルムは、単層構造であっても多層構造であってもよい。本ポリエステルフィルムが多層構造の場合、本ポリエステルフィルムは2層構造、3層構造などでもよいし、本発明の要旨を逸脱しない限り、4層又はそれ以上の多層であってもよく、層数は特に限定されない。
なお、本ポリエステルフィルムが2層以上の多層構造である場合、2種3層、3種3層が特に好ましい。本ポリエステルフィルムは、多層構造である場合、中間層の両面に表層が設けられた構造を有することも好ましい。
【0020】
特に、本積層ポリエステルフィルムの平滑性を利用する場合、本ポリエステルフィルムの少なくとも片面は平滑性に優れる面であることが好ましい。かかる設計の方法としては、例えば、本ポリエステルフィルムを単層、2種3層及び3種3層構造として本ポリエステルフィルムの両方の面を平滑性に優れた状態に設計する方法や、本ポリエステルフィルムを3種3層構造として本ポリエステルフィルムの片方の面を平滑性に優れた状態とし、もう一方の面を異なる粗さに設計する方法が挙げられる。
【0021】
また、本ポリエステルフィルムは、無延伸フィルム(シート)であっても延伸フィルムであってもよい。中でも、一軸方向又は二軸方向に延伸された延伸フィルムであることが好ましい。その中でも、力学特性のバランスや平面性に優れる点で、二軸延伸フィルムであることがより好ましい。
【0022】
<ポリエステル>
本ポリエステルフィルムの原料であるポリエステルは、主鎖に連続してエステル結合を有する高分子化合物をいい、ホモポリエステルであっても共重合ポリエステルであってもよい。具体的には、ジカルボン酸成分とジオール成分とを重縮合反応させることによって得られるポリエステルを挙げることができる。また、ジカルボン酸成分を100モル%としたとき、芳香族ジカルボン酸又は脂肪族ジカルボン酸を50モル%よりも多く含有するポリエステルを使用することが好ましい。
【0023】
前記ジカルボン酸成分としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸及び4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸や、例えばアジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ドデカンジオン酸、シクロヘキサンジカルボン酸及びこれらのエステル誘導体等の脂肪族ジカルボン酸を挙げることができる。
【0024】
前記ジオール成分としては、例えばエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-ヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2-ビス(4-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、イソソルベート及びスピログリコール等を挙げることができる。
【0025】
上記ポリエステルがホモポリエステルである場合、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを重縮合させて得られるものが好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、好ましくはテレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、脂肪族ジオールとしては、好ましくはエチレングリコール、ジエチレングリコール及び1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。代表的なホモポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート(PEN)等を例示することができ、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0026】
一方、共重合ポリエステルは、例えばジカルボン酸成分と脂肪族ジオールの重縮合ポリマーであることが好ましい。ジカルボン酸成分としては、好ましくはイソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸及びオキシカルボン酸(例えば、p-オキシ安息香酸等)等の1種又は2種以上が挙げられる。また、脂肪族ジオールとしては、好ましくはエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール及びネオペンチルグリコール等の1種又は2種以上が挙げられる。共重合ポリエステルは、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を含み、脂肪族ジオールとしてエチレングリコールを含むことが好ましい。
上記ポリエステルが共重合ポリエステルの場合は、30モル%以下の第三成分を含有した共重合体であることが好ましい。第三成分とは、ポリエステルを構成するジカルボン酸成分の主成分(すなわち、最も含有量が多い成分)となる化合物と、ジオール成分の主成分となる化合物以外の成分であり、例えば共重合ポリエチレンテレフタレートではテレフタル酸及びエチレングリコール以外の成分である。
また、共重合ポリエステルは、ジカルボン酸成分及び脂肪族ジオール以外の二官能性化合物由来の構成単位を含んでもよい。ジカルボン酸成分及び脂肪族ジオール以外の二官能性化合物由来の構成単位は、ポリエステルを構成する全構成単位の総モルに対して、好ましくは20モル%以下、より好ましくは10モル%以下である。二官能性化合物としては、各種のヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール等が挙げられる。
【0027】
本ポリエステルフィルムを構成する全ジカルボン酸成分中のテレフタル酸の含有量は、50モル%以上が好ましく、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。
また、本ポリエステルフィルムを構成する全ジオール成分中のエチレングリコールの含有量は、50モル%以上が好ましく、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上である。
なお、テレフタル酸及びエチレングリコールの含有量の上限値は、100モル%である。
【0028】
また、上記ポリエステルは、再生ポリエステルであってもよく、バイオマス由来のポリエステルであってもよい。
【0029】
<重縮合触媒>
上記ポリエステルを重縮合する際の重縮合触媒としては、特に制限はなく、従来公知の化合物を使用することができ、例えばチタン化合物、ゲルマニウム化合物、アンチモン化合物、マンガン化合物、アルミニウム化合物、マグネシウム化合物及びカルシウム化合物等が挙げられる。
これらの中では、チタン化合物及びアンチモン化合物の少なくともいずれかが好ましく、とりわけ、チタン化合物を用いて得られるポリエステルを使用することが好ましい。
したがって、本ポリエステルフィルムは、チタン化合物及びアンチモン化合物の少なくともいずれかを含むことが好ましく、チタン化合物を含むことがより好ましい。
【0030】
前記チタン化合物を使用することで、結果的にアンチモン化合物の使用量を低減することができるため、アンチモン化合物がフィルム表面に析出することによる新たな突起形成リスクが小さくなり、高度な表面平滑性が維持できる。
したがって、特に好ましい形態としては、本ポリエステルフィルムが多層構造の場合に、少なくとも一方の表層を構成するポリエステルがチタン化合物を使用することが挙げられる。
【0031】
前記表層中のチタン化合物に由来するチタン元素含有量は、質量基準で、3ppm以上40ppm以下であることが好ましく、より好ましく4ppm以上35ppm以下である。また、表層がアンチモン化合物及びチタン化合物の少なくともいずれかを含む場合、表層におけるアンチモン元素含有量は0ppm以上100ppm以下であることが好ましい。かかる範囲内であれば、製造効率を低下させることなく、触媒起因の異物を低減化することができる。
なお、生産性及びコストの観点から、表層以外の層を構成するポリエステルは、チタン化合物を使用しないことも好ましい。
以上より、本ポリエステルフィルムがチタン化合物を含むことにより、優れた平滑性を有するポリエステルフィルムとすることができる。そうした上で、本樹脂層を備えた積層ポリエステルフィルムとすれば、本積層ポリエステルフィルムをシート成形用等として好適に用いることができる。
【0032】
<固有粘度>
本ポリエステルフィルムを構成するポリエステルの固有粘度(IV)は、0.50dL/g以上であることが好ましく、より好ましくは0.55dL/g以上、さらに好ましくは0.60dL/g以上である。かかる範囲であれば、混錬中のせん断応力が増大することによって粒子が高分散する等の利点がある。また、該ポリエステルの極限粘度(IV)は、例えば、1.00dL/g以下である。
なお、「本ポリエステルフィルムを構成するポリエステルの固有粘度(IV)」とは、固有粘度(IV)が異なる2種以上のポリエステルを使用する場合には、これら混合ポリエステルの固有粘度(IV)を意味するものとする。
【0033】
本ポリエステルフィルムが多層構造の場合には、表層を構成するポリエステルの固有粘度(IV)が上記範囲であることが好ましい。
【0034】
<粒子>
本ポリエステルフィルム中には、粒子を含有させることも可能である。ポリエステルフィルムは、粒子を含有することで、易滑性が付与され、かつ各工程での傷発生を防止して、取扱い性が良好となる。
本ポリエステルフィルム中に含有させる粒子の種類は、易滑性を付与可能な粒子であれば特に限定されるものではなく、具体例としては、例えばシリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化チタン等の無機粒子の他、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋アクリル樹脂粒子、架橋スチレン-アクリル樹脂粒子、架橋ポリエステル粒子等の架橋高分子、シュウ酸カルシウム及びイオン交換樹脂等の有機粒子を挙げることができる。これらの中では、有機粒子、シリカ、酸化アルミニウムなどが好ましい。中でも、層を硬くしてフィルム表面への傷つきを防止し、平滑性を保てるという観点からは、酸化アルミニウムを含むことが好ましい。
さらに、ポリエステル製造工程中、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる。
【0035】
使用する粒子の形状に関しても特に限定されるわけではなく、球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれを用いてもよい。
また、その硬度、比重、色等についても特に制限はない。これら一連の粒子は、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
【0036】
また、用いる粒子の平均粒径は、通常5μm以下、好ましくは0.01~3μm、より好ましくは0.02~1μm、さらに好ましくは0.03~0.5μmの範囲である。5μm以下であると、フィルムの表面粗度が粗くなりすぎず、後工程において樹脂層、及び樹脂層以外の各種の表面機能層を形成させる場合等に不具合が生じず好ましい。また、平均粒径がかかる範囲であれば、ヘーズが低く抑えられ、本積層ポリエステルフィルム全体として透明性を確保しやすい。
なお、粒子の平均粒径は、10個以上の粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)観察して粒子の直径を測定し、その平均値として求めることができる。その際、非球状粒子の場合は、最長径と最短径の平均値を各粒子の直径として測定することができる。
【0037】
本ポリエステルフィルムに粒子を含有させる場合、例えば、表層と中間層を設けて、表層に粒子を含有させることが好ましい。また、3種3層構造などにより表裏異設計とする場合は、少なくとも一方の表層のみに粒子を含有させることも可能である。
粒子の含有量は、平均粒径にも依存するが、粒子を含有する層において、質量基準で、通常5000ppm以下、好ましくは3000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下である。粒子を含有しない場合、あるいは粒子の含有量が少ない場合、滑り性を十分に付与することができず、ポリエステルフィルムの透明性が高くなるが、滑り性が不十分となる場合がある。そのため、後述する本樹脂層を積層させることにより、滑り性を向上させる等の工夫が必要である。また、5000ppm以下であれば、ポリエステルフィルムの透明性が十分担保できる。また、樹脂を含有する層において、粒子の含有量は、特に制限されず、例えば50ppm以上、好ましくは100ppm以上である。
【0038】
後述する本樹脂層は、ポリエステルフィルムの粒子を含有する層上に設けられてもよいし、粒子を実質的に含有しない層上に設けられてもよい。また、ポリエステルフィルムにおいて本樹脂層が設けられる面とは反対側の面(反対面)を、粒子を実質的に含有しない層としてもよいし、粒子を含有する層としてもよい。本発明では、樹脂層が設けられる面及び反対側の面の両方を、粒子を実質的に含有しない層としても、後述する凹凸構造を有する樹脂層によって巻取性などを良好にできる。また、樹脂層が設けられる面及び反対側の面の一方又は両方を、粒子を含有する層とすることで、巻取性がより一層良好となる。
本ポリエステルフィルムの少なくとも一方の表面に優れた平滑性を付与する場合には、平滑面側の表層には、粒子を含有してもよく、又は粒子を実質的に含有しなくてもよいが、極めて高平滑なフィルムとする場合には、実質的に粒子を含有しないことが好ましい。
なお、「実質的に含有しない」とは、意図して含有しないという意味であり、具体的には、粒子の含有量(粒子濃度)が質量基準で50ppm未満、より好ましくは40ppm以下、さらに好ましくは30ppm以下のことを指す。
この場合、平滑面側の表層上及び/又は平滑面の反対面側の表層上に本樹脂層を積層させることで、フィルムをロール状に巻き取る際のハンドリング性を向上させることができる。中でも、フィルムの平滑性を保ちつつ、ハンドリング性を向上させる観点からは、少なくとも片側の面は平滑な状態とし、その反対面側に本樹脂層を積層させることが好ましい。
【0039】
本ポリエステルフィルム中に粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用しうる。例えば、多層のポリエステルフィルムであれば、各層を構成するポリエステルを製造する任意の段階において添加することができるが、エステル化又はエステル交換反応終了後、添加するのが好ましい。
【0040】
<その他>
オリゴマー成分の析出量を抑えるために、オリゴマー成分の含有量が少ないポリエステルを原料としてフィルムを製造してもよい。オリゴマー成分の含有量が少ないポリエステルの製造方法としては、種々公知の方法を用いることができ、例えばポリエステル製造後に固相重合する方法等が挙げられる。
また、本ポリエステルフィルムを3層以上の構成とし、本ポリエステルフィルムの表層を、オリゴマー成分の含有量が少ないポリエステル原料を用いた層とすることで、オリゴマー成分の析出量を抑えてもよい。
また、ポリエステルは、エステル化又はエステル交換反応をした後に、さらに反応温度を高くして減圧下で溶融重縮合して得てもよい。
【0041】
なお、本ポリエステルフィルム中には、上述の粒子以外に必要に応じて従来公知の紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、潤滑剤、染料、顔料等を添加することができる。
【0042】
ポリエステルフィルムの厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではないが、機械的強度、ハンドリング性及び生産性などの観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは19μm以上、特に好ましくは25μm以上であり、そして、好ましくは200μm以下、より好ましくは125μm以下、さらに好ましくは80μm以下、特に好ましくは50μm以下である。
【0043】
<ポリエステルフィルムの製造方法>
次に、本ポリエステルフィルムの製造例について具体的に説明するが、以下の製造例に何ら限定されるものではない。例えば二軸延伸フィルムを製造する場合、先に述べたポリエステル原料の乾燥したペレットを、押出機などの溶融押出装置を用いてダイから溶融シートとして押し出し、回転冷却ドラムなどの冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る方法が好ましい。この場合、シートの平面性を向上させるためシートと冷却ロールとの密着性を高めることが好ましく、静電印加密着法及び/又は液体塗布密着法が好ましく採用される。
【0044】
次に得られた未延伸シートは二軸方向に延伸される。その場合、まず、前記の未延伸シートを一方向にロール又はテンター方式の延伸機により延伸する。延伸温度は、通常70~120℃、好ましくは80~110℃であり、延伸倍率は通常2.5~7.0倍、好ましくは3.0~6.0倍である。
次いで、一段目の延伸方向と直交する方向に延伸するが、その場合、延伸温度は通常70~170℃であり、延伸倍率は通常3.0~7.0倍、好ましくは3.5~6.0倍である。
そして、引き続き、通常180~270℃の温度で、緊張下又は30%以内の弛緩下で熱処理を行い、二軸延伸フィルムを得る。この熱処理は、熱固定工程とも呼ばれる。熱処理は、温度の異なる2段以上の工程で行ってもよい。
また、熱処理の後に冷却ゾーンにて冷却を行ってもよい。冷却温度は、フィルムを構成するポリエステルのガラス転移温度(Tg)より高い温度であることが好ましく、より具体的には、100~160℃の範囲であることが好ましい。この冷却は、温度の異なる2段以上の工程で行ってもよい。
上記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を採用することもできる。その場合、最終的に二方向の延伸倍率がそれぞれ上記範囲となるように行うのが好ましい。
【0045】
また、本ポリエステルフィルムの製造に同時二軸延伸法を採用することもできる。同時二軸延伸法は、前記の未延伸シートを通常70~120℃、好ましくは80~110℃で温度コントロールされた状態で機械方向(縦方向)及び幅方向(横方向)に同時に延伸し配向させる方法であり、延伸倍率としては、面積倍率で好ましくは4~50倍、より好ましくは7~35倍、さらに好ましくは10~25倍である。
そして、引き続き、通常170~250℃の温度で、緊張下又は30%以内の弛緩下で熱処理を行い、延伸配向フィルムを得る。上述の延伸方式を採用する同時二軸延伸装置に関しては、スクリュー方式、パンタグラフ方式及びリニアー駆動方式等、従来公知の延伸方式を採用することができる。
【0046】
<<樹脂層>>
本積層ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも片面側に、樹脂組成物から形成されてなる樹脂層を備えるものである。樹脂層は、硬化樹脂層であってもよい。
本樹脂層は、上述のとおり、樹脂組成物(以下、「本組成物」とも称する)から形成され、凹凸構造を有する。
【0047】
<凹凸構造>
本樹脂層が有する凹凸構造は、微細な形状である。凹凸構造の形状としては、凹凸形状及び/又は網目形状が挙げられる。
前記凹凸形状は、後述する粒子によって微細な突起が形成されることにより表面に凹凸構造を成すものである。前記網目形状は、本組成物の延伸適性をあえて劣るものとし、延伸適性に劣る膜にすることで生じた、塗膜割れにより表面に凹凸構造を成すものである。樹脂層表面において網目形状と凹凸形状は混在していてもよい。
なお、その構造は種々の表面分析手法、例えば原子間力顕微鏡(走査型プローブ顕微鏡)などの手段によって確認することが可能である。
【0048】
<樹脂組成物>
本組成物は、下記化合物(A)及び(B)を含む。
(A)バインダー樹脂及び架橋剤からなる群から選ばれる1種以上を含む
(B)粒子
また、本組成物において、前記(B)粒子の含有量は、本組成物中の全不揮発成分全体に占める割合として、20質量%以上である。
【0049】
本組成物は、上記組成を有することで延伸適性が低くなり、後述する塗膜割れによって微細な凹凸構造を形成しやすくなる。本組成物に含まれる化合物(A)及び(B)の合計含有量は、不揮発成分として80質量%以上であることが好ましい。より好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%である。当該合計含有量がかかる範囲であれば、所望する微細な凹凸構造を得やすくなる。なお、当該合計含有量は、上限値について特に限定されず、100質量%以下であればよい。
【0050】
(((化合物(A))))
本組成物は、(A)バインダー樹脂及び架橋剤から選ばれる1種以上を含有する。
【0051】
((バインダー樹脂))
前記(A)として選択されるバインダー樹脂は、「高分子化合物安全性評価フロースキーム」(昭和60年11月、化学物質審議会主催)に準じて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による数平均分子量(Mn)が1000以上の高分子化合物で、かつ、造膜性を有するものと定義する。
そのような(A)バインダー樹脂としては、特に制限はなく、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリビニル樹脂(ポリビニルアルコール、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体等)、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンイミン、メチルセルロース、ヒドロキシセルロース、でんぷん類等、従来公知のバインダー樹脂を使用することができる。中でも、造膜性やポリエステルフィルムとの密着性の観点から、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂及びポリウレタン樹脂が好ましい。本組成物において、(A)バインダー樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0052】
本組成物が、(A)バインダー樹脂を含有することによって、(B)粒子を保持し、かつ固定された膜(樹脂層)を形成することが可能となる。
【0053】
(ポリエステル樹脂)
ポリエステル樹脂としては、主な構成成分として例えば、下記のような多価カルボン酸及び多価ヒドロキシ化合物からなるものが挙げられる。
すなわち、多価カルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、フタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2-カリウムスルホテレフタル酸、5-ソジウムスルホイソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、グルタル酸、コハク酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、無水トリメリット酸、無水フタル酸、p-ヒドロキシ安息香酸、トリメリット酸モノカリウム塩及びそれらのエステル形成性誘導体などを用いることができる。多価ヒドロキシ化合物としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、p-キシリレングリコール、ビスフェノールA-エチレングリコール付加物、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリテトラメチレンオキサイドグリコール、ジメチロールプロピオン酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ジメチロールエチルスルホン酸ナトリウム、ジメチロールプロピオン酸カリウムなどを用いることができる。これらの化合物の中から、それぞれ適宜1つ以上を選択し、常法の重縮合反応によりポリエステル樹脂を合成すればよい。
【0054】
また、上記多価カルボン酸の一部として、5-ソジウムスルホイソフタル酸などのスルホイソフタル酸類を共重合して、ポリエステル骨格にスルホン酸基を導入し、中和して親水化した物が好ましく用いられる。共重合する量は、多価カルボン酸全体に対し通常1~13モル%、好ましくは3~10モル%、さらに好ましくは5~9モル%である。スルホン酸基を適量導入することで、樹脂の親水性を高め、凹凸構造を形成しやすくすることができる。さらに水分散安定性を向上させることができる。
【0055】
((メタ)アクリル樹脂)
(メタ)アクリル樹脂とは、アクリル系、メタクリル系のモノマーを含む重合性モノマーからなる重合体である。これらは、単独重合体あるいは共重合体、さらにはアクリル系、メタクリル系のモノマー以外の重合性モノマーとの共重合体のいずれでもよい。
(メタ)アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸アルキルエステル類由来の構成単位を有する重合体である。(メタ)アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルから選択される少なくとも1種の重合体でもよいし、これらから選択される少なくとも1種と、これら以外のモノマー類、例えば、スチレン又はスチレン誘導体、水酸基を含有するモノマーなどから選択される少なくとも1種との共重合体であってもよい。
また、それら重合体と他のポリマー(例えばポリエステル、ポリウレタン等)との共重合体も含まれる。例えばブロック共重合体、グラフト共重合体である。すなわち、(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリル変性ポリエステル樹脂や、(メタ)アクリル変性ポリウレタン樹脂であってもよい。
あるいは、ポリエステル溶液、又はポリエステル分散液中で重合性モノマーを重合して得られたポリマー(場合によってはポリマーの混合物)も含まれる。同様にポリウレタン溶液、ポリウレタン分散液中で重合性モノマーを重合して得られたポリマー(場合によってはポリマーの混合物)も含まれる。同様にして他のポリマー溶液、又は分散液中で重合性モノマーを重合して得られたポリマー(場合によってはポリマー混合物)も含まれ、これらも本明細書では、(メタ)アクリル変性ポリエステル樹脂や、(メタ)アクリル変性ポリウレタン樹脂とする。なお、(メタ)アクリル樹脂において使用される上記したポリエステル、ポリウレタンは、後述するバインダー樹脂に使用されるポリエステル、ポリウレタンとして例示されたものから適宜選択して使用できる。
また、(メタ)アクリル樹脂は、ポリエステルフィルムとの密着性をより向上させるために、ヒドロキシ基、アミノ基を含有することも可能である。
【0056】
上記重合性モノマーとしては、特に限定はしないが、特に代表的な化合物としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸等の各種カルボキシル基含有モノマー類、及びそれらの塩;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、モノブチルヒドロキシフマレート、モノブチルヒドロキシイタコネート等の各種の水酸基含有モノマー類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートのような各種のアルキル(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、又は(メタ)アクリロニトリル等の種々の窒素含有モノマー類;N-メチロール(メタ)アクリルアミドなどの水酸基含有の窒素含有モノマー類;スチレン、α-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルトルエン等の各種スチレン誘導体;プロピオン酸ビニルのような各種のビニルエステル類;γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等の種々の珪素含有重合性モノマー類;燐含有ビニル系モノマー類;塩化ビニル、塩化ビニリデン等の各種のハロゲン化ビニル類;ブタジエン等の各種共役ジエン類が挙げられる。
【0057】
上記の(メタ)アクリル樹脂の中では、アクリル系、メタクリル系のモノマーを含む重合性モノマーを重合してなる重合体が好ましく、重合性モノマーがアルキル(メタ)アクリル酸エステル類を含むことがより好ましい。
また、(メタ)アクリル樹脂を含む本組成物は、後述するように溶媒で希釈して塗布液とするのが好ましく、かかる溶媒が水を主溶媒(50質量%以上)とするのが好ましい。すなわち、塗布液を水系とした場合に溶解又は分散しやすくする観点から、重合性モノマーは水酸基やカルボキシル基などの親水性基を有することが好ましい。また、効果的に凹凸構造が得られるという観点からも、水酸基やカルボキシル基などの親水性基を有することが好ましい。
したがって、アクリル樹脂は、アルキル(メタ)アクリル酸エステル類と、水酸基を含有するモノマー、カルボキシル基含有モノマーなどの親水性基含有モノマーを含む重合性モノマーを重合してなる重合体も好ましい。
また、アクリル樹脂は、例えば界面活性剤の存在下に重合性モノマーを重合した乳化重合体でもよい。
【0058】
(ポリウレタン樹脂)
ポリウレタン樹脂とは、ウレタン結合を分子内に有する高分子化合物で、水分散性又は水溶性のものが好ましい。本発明では、単独でも2種以上を併用してもよい。
【0059】
水分散性又は水溶性を付与させるために、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、スルホニル基、リン酸基、エーテル基等の親水性基をポリウレタン樹脂に導入することが一般的であり好ましい。前記親水性基のなかでも、樹脂層とポリエステルフィルムの密着性の点から、カルボキシル基又はスルホン酸基が特に好ましい。例えばカルボキシル基の導入は、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸等のカルボキシル基含有多価アルコールなどを用いて行うとよい。
【0060】
ポリウレタン樹脂を作製する方法の一つに、水酸基含有化合物とイソシアネートとの反応によるものがある。原料として用いられる水酸基含有化合物としては、ポリオールが好適に用いられ、例えば、ポリエステルポリオール類、ポリエーテルポリオール類、ポリカーボネート系ポリオール類、ポリオレフィンポリオール類、アクリルポリオール類が挙げられる。これらの中でもポリエステルフィルムとの密着性に優れるという観点からポリエステルポリオール類が好ましい。これらの化合物は単独で用いても、複数種用いてもよい。
【0061】
ポリエステルポリオール類としては、多価カルボン酸又はそれらの酸無水物と多価アルコールの反応から得られるものが挙げられる。多価カルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、テレフタル酸、イソフタル酸等が挙げられる。多価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、1,8-オクタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-ヘキシル-1,3-プロパンジオール、シクロヘキサンジオール、ビスヒドロキシメチルシクロヘキサン、ジメタノールベンゼン、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、アルキルジアルカノールアミン、ラクトンジオール等が挙げられる。
【0062】
ポリエーテルポリオール類としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレンプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール等が挙げられる。
【0063】
ポリカーボネート系ポリオール類としては、多価アルコール類とジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート等とから、脱アルコール反応によって得られるポリカーボネートジオール、例えばポリ(1,6-ヘキシレン)カーボネート、ポリ(3-メチル-1,5-ペンチレン)カーボネート等が挙げられる。
上記した中でもポリエステルポリオール類が好ましい。
【0064】
ポリウレタン樹脂を得るために使用されるポリイソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メチレンジフェニルジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;α,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;メチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシルジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート等が例示される。これらは単独で用いても、複数種併用してもよい。
【0065】
ポリウレタン樹脂を合成する際に鎖延長剤を使用してもよく、鎖延長剤としては、イソシアネート基と反応する活性基を2個以上有するものであれば特に制限はなく、一般的には、水酸基又はアミノ基を2個有する鎖延長剤を主に用いることができる。
【0066】
水酸基を2個有する鎖延長剤としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール等の脂肪族グリコール;キシリレングリコール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン等の芳香族グリコール;ネオペンチルグリコールヒドロキシピバレート等のエステルグリコールといったグリコール類を挙げることができる。
【0067】
アミノ基を2個有する鎖延長剤としては、例えばトリレンジアミン、キシリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン等の芳香族ジアミン;エチレンジアミン、プロパンジアミン、ヘキサンジアミン、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、トリメチルヘキサンジアミン、2-ブチル-2-エチル-1,5-ペンタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン等の脂肪族ジアミン;1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジアミン、1,4-ジアミノシクロヘキサン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン等の脂環式ジアミン等が挙げられる。
【0068】
(ポリビニルアルコール)
ポリビニルアルコールとは、ポリビニルアルコール部位を有する化合物であり、例えば、ポリビニルアルコールに対し、部分的にアセタール化やブチラール化等された変成化合物も含め、従来公知のポリビニルアルコールを使用することができる。ポリビニルアルコールの重合度は特に限定されるものではないが、通常100以上、好ましくは300~40000の範囲である。重合度を100以上とすると、樹脂層の耐水性を良好にしやすくなる。また、ポリビニルアルコールのケン化度は特に限定されるものではないが、通常70モル%以上、好ましくは70~99.9モル%の範囲、より好ましくは80~97モル%、特に好ましくは86~95モル%であるポリ酢酸ビニルケン化物が実用上用いられる。
【0069】
((架橋剤))
前記化合物(A)として選択される前記架橋剤としては、特に制限はなく、従来公知の架橋剤を使用することができる。例えばメラミン化合物、オキサゾリン化合物、エポキシ化合物、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物、シランカップリング化合物等を挙げることができる。中でも、塗膜の強度を高める観点や、ポリエステルフィルムとの密着性を向上させる観点から、メラミン化合物を含むことが好ましい。また、樹脂層は、架橋剤を使用することで、硬化樹脂層としやすくなる。
【0070】
(メラミン化合物)
メラミン化合物とは、化合物中にメラミン骨格を有する化合物のことであり、例えばアルキロール化メラミン誘導体、アルキロール化メラミン誘導体にアルコールを反応させて部分的あるいは完全にエーテル化した化合物、及びこれらの混合物を用いることができる。
アルキロール化としては、メチロール化、エチロール化、イソプロピロール化、n-ブチロール化、イソブチロール化等が挙げられる。これらの中でも、反応性の観点から、メチロール化が好ましい。
エーテル化に用いるアルコールとしては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール及びイソブタノール等が好適に用いられ、これらの中では、メタノールがより好ましい。
また、メラミン化合物としては、単量体、あるいは2量体以上の多量体のいずれであってもよく、あるいはこれらの混合物を用いてもよい。さらに、メラミンの一部に尿素等を共縮合したものも使用できるし、メラミン化合物の反応性を上げるために、本組成物にはさらに触媒を使用することも可能である。
【0071】
(オキサゾリン化合物)
オキサゾリン化合物とは、分子内にオキサゾリン基を有する化合物であり、特にオキサゾリン基を含有する重合体が好ましく、付加重合性オキサゾリン基含有モノマー単独もしくは他のモノマーとの重合によって作成できる。付加重合性オキサゾリン基含有モノマーは、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン及び2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリン等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上の混合物を使用することができる。これらの中でも2-イソプロペニル-2-オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。他のモノマーは、付加重合性オキサゾリン基含有モノマーと共重合可能なモノマーであれば制限はなく、例えばアルキル(メタ)アクリレート(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、2-エチルヘキシル基及びシクロヘキシル基)等の(メタ)アクリル酸エステル類;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、スチレンスルホン酸及びその塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、第三級アミン塩等)等の不飽和カルボン酸類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;(メタ)アクリルアミド、N-アルキル(メタ)アクリルアミド及びN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、2-エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等)等の不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレン、プロピレン等のα-オレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン等の含ハロゲンα,β-不飽和モノマー類;スチレン、α-メチルスチレン等のα,β-不飽和芳香族モノマー等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上のモノマーを使用することができる。
また、オキサゾリン化合物は、ポリエチレンオキサイド鎖などのポリアルキレンオキサイド鎖を有してもよく、例えばポリアルキレンオキサイド鎖を有する(メタ)アクリレートなどを他のモノマーとして使用してもよい。
【0072】
(エポキシ化合物)
エポキシ化合物とは、分子内にエポキシ基を有する化合物であり、例えばエピクロロヒドリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン及びビスフェノールA等の水酸基やアミノ基との縮合物や、ポリエポキシ化合物、ジエポキシ化合物、モノエポキシ化合物並びにグリシジルアミン化合物等がある。
ポリエポキシ化合物としては、例えばソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、トリグリシジルトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアネート、グリセロールポリグリシジルエーテル及びトリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル等が挙げられる。
ジエポキシ化合物としては、例えばネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル及びポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル等が挙げられる。
モノエポキシ化合物としては、例えばアリルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル及びフェニルグリシジルエーテル、グリシジルアミン化合物としてはN,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノ)シクロヘキサン等が挙げられる。樹脂層のポリエステルフィルムに対する密着性向上の観点から、ポリエーテル系のエポキシ化合物が好ましい。
また、エポキシ基の量としては、2官能より、3官能以上の多官能であるポリエポキシ化合物が好ましい。
【0073】
(カルボジイミド化合物)
カルボジイミド化合物とは、カルボジイミド構造を有する化合物のことであり、分子内にカルボジイミド構造を1つ以上有する化合物であるが、樹脂層とポリエステルフィルムのより良好な密着性等のために、分子内に2つ以上のカルボジイミド構造を有するポリカルボジイミド化合物がより好ましい。
【0074】
カルボジイミド化合物は、従来公知の技術で合成することができ、一般的にはジイソシアネート化合物の縮合反応が用いられる。ジイソシアネート化合物としては、特に限定されるものではなく、芳香族系、脂肪族系いずれも使用することができ、具体的には、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルジイソシアネート及びジシクロヘキシルメタン4,4’-ジイソシアネートなどが挙げられる。
さらに、本発明の主旨を損なわない範囲において、ポリカルボジイミド化合物の水溶性や水分散性を向上するために、界面活性剤を添加することや、ポリアルキレンオキシド、ジアルキルアミノアルコールの四級アンモニウム塩及びヒドロキシアルキルスルホン酸塩などの親水性モノマーを添加して用いてもよい。
【0075】
(イソシアネート化合物)
イソシアネート化合物とは、イソシアネート、あるいはブロックイソシアネートに代表されるイソシアネート誘導体構造を有する化合物のことである。イソシアネートとしては、例えばトリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メチレンジフェニルジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート及びナフタレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート;α,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香環を有する脂肪族イソシアネート;メチレンジイソシアネート、プロピレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート及びヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート;シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンビス(4-シクロヘキシルイソシアネート)及びイソプロピリデンジシクロヘキシルジイソシアネート等の脂環式イソシアネート等が例示される。
また、これらイソシアネートのビュレット化物、イソシアヌレート化物、ウレトジオン化物及びカルボジイミド変性体等の重合体や誘導体も挙げられる。これらは単独で用いても、複数種併用してもよい。上記イソシアネートの中でも、紫外線による黄変を避けるために、芳香族イソシアネートよりも脂肪族イソシアネート又は脂環式イソシアネートがより好ましい。
【0076】
ブロックイソシアネートの状態で使用する場合、そのブロック剤としては、例えば重亜硫酸塩類;フェノール、クレゾール及びエチルフェノールなどのフェノール系化合物;プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコール、ベンジルアルコール、メタノール及びエタノールなどのアルコール系化合物;イソブタノイル酢酸メチル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル及びアセチルアセトンなどの活性メチレン系化合物;ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン系化合物;ε‐カプロラクタム、δ‐バレロラクタムなどのラクタム系化合物;ジフェニルアニリン、アニリン及びエチレンイミンなどのアミン系化合物;アセトアニリド、酢酸アミドの酸アミド化合物;ホルムアルデヒドオキシム、アセトアルドオキシム、アセトンオキシム、メチルエチルケトンオキシム及びシクロヘキサノンオキシムなどのオキシム系化合物が挙げられ、これらは単独でも2種以上の併用であってもよい。
【0077】
(シランカップリング化合物)
シランカップリング化合物とは、1つの分子中に有機官能基とアルコキシ基などの加水分解基を有する有機ケイ素化合物である。例えば3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有化合物;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどのビニル基含有化合物;p-スチリルトリメトキシシラン、p-スチリルトリエトキシシランなどのスチリル基含有化合物;3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシランなどの(メタ)アクリル基含有化合物;3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチルブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノ基含有化合物;トリス(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、トリス(トリエトキシシリルプロピル)イソシアヌレートなどのイソシアヌレート基含有化合物;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジエトキシシランなどのメルカプト基含有化合物などが挙げられる。
【0078】
本組成物中の化合物(A)の含有量は、本組成物中の全不揮発成分に占める割合として、好ましくは10~80質量%、より好ましくは25~70質量%、さらに好ましくは40~60質量%の範囲である。当該含有量を10質量%以上とすることで、造膜性を有し、粒子を含有する膜とすることができる。また、ポリエステルフィルムとの密着性を有することで塗膜の脱落を抑えることができる。また、当該含有量を80質量%以下とすることで、高い粒子含有量となり、塗膜硬度を高めることで塗膜の凹凸を形成することが可能となる。
【0079】
化合物(A)はバインダー樹脂及び架橋剤から選ばれる1種以上を含有するが、より造膜性が得られるという観点から、バインダー樹脂を含有することが好ましい。さらに、塗膜強度やポリエステルフィルムとの密着性をさらに向上させるという観点から、バインダー樹脂と架橋剤を含有することがより好ましい。
【0080】
((化合物(B)))
本組成物は、(B)粒子を含有する。本組成物が、(B)粒子を含有することによって、塗膜の延伸適性が低下し、凹凸構造が形成されやすくなる。また、形成された凹凸構造の硬度が高まることにより、効果的にエア抜け性を向上させることが可能となる。
【0081】
前記(B)粒子としては、例えばシリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム及び酸化チタン等の無機粒子の他、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋アクリル樹脂粒子、架橋スチレン-アクリル樹脂粒子、架橋ポリエステル粒子等の架橋高分子、シュウ酸カルシウム及びイオン交換樹脂等の有機粒子を挙げることができる。これらの中では、酸化ジルコニウム、酸化チタン及びシリカが好ましい。(B)粒子は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0082】
使用する(B)粒子の形状は、球状、塊状、棒状、扁平状、鎖状等が挙げられる。これらの中でも、化合物(A)中に均一に分布しやすいという観点から、球状であることが好ましい。
【0083】
前記(B)粒子の平均粒径は、1~100nmであることが好ましく、より好ましくは4~60nm、さらに好ましくは8~40nmである。当該平均粒径がかかる範囲であれば、粒子の凝集による粗大突起の発生や、粒子の脱落による工程の汚染を抑制することができ、所望する微細な凹凸構造を得やすくなる。
なお、微粒子の平均粒径の測定方法は、比表面積測定装置によって測定される比表面積と粒子の密度より算出する方法や、透過型電子顕微鏡(TEM)もしくは走査型電子顕微鏡(SEM)観察して粒子の直径を算出する方法、動的光散乱法による測定から求める方法があり、微粒子の平均粒径により適した手法によって測定できる。
【0084】
本組成物中の化合物(B)の含有量は、本組成物中の全不揮発成分に占める割合として、20質量%以上である。当該含有量は、好ましくは90質量%以下、より好ましくは30~75質量%、さらに好ましくは40~60質量%の範囲である。当該含有量を20質量%以上とすることで、凹凸構造の形成がされやすくなり、また、形成された凹凸構造の硬度が高まることで効果的にエア抜け性を向上させることが可能となる。また、当該含有量を90質量%以下とすることで、他の成分を必要量含むことができ、凹凸膜の形成やポリエステルフィルムとの密着性を得ることができる。また、化合物(B)の含有量を一定値以下にすることで、塗膜の脱落を防止しやすくなる。
【0085】
((その他成分))
また、本発明の主旨を損なわない範囲において、上記成分以外にも、架橋触媒、消泡剤、塗布性改良剤、界面活性剤、増粘剤、有機系潤滑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、発泡剤、染料、顔料等の添加剤をさらに適宜配合してもよい。
【0086】
((溶媒))
本組成物は、溶媒で希釈して塗布液としてもよい。すなわち、本組成物は、液状の塗布液として、例えば本ポリエステルフィルムに塗布し、必要に応じて乾燥、かつ、硬化させて樹脂層を形成させるとよい。
なお、本組成物を構成する各成分(化合物(A)及び(B)、その他成分等)は、溶媒に溶解させてもよいし、溶媒中に分散させてもよい。
塗布液とした場合、塗布液中における本組成物の全不揮発成分の濃度は、0.1~50質量%であることが好ましい。0.1質量%以上であれば、効率的に所望の厚みの樹脂層を形成することができる。一方、50質量%以下であれば、塗工時の粘度を抑えることで樹脂層の外観を向上させることができ、また、塗布液中の安定性を高めることができる。
【0087】
前記溶媒としては、特に制限はなく、水及び有機溶剤のいずれも使用することができる。環境保護の観点から、水を主溶媒(全溶媒の50質量%以上)として水性塗布液とすることが好ましい。水の含有量に関して、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上であるのがよい。水性塗布液には、少量の有機溶剤を含有していてもよい。有機溶剤の具体的な量は、質量基準で水の量以下とするとよく、例えば、溶媒中の50質量%以下、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下とするのがよい。
水と併用する有機溶剤としては、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール類;エチルセロソルブ、t-ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸エチル等のエステル類;ジメチルエタノールアミン等のアミン類等を例示することができる。これらは単独、もしくは複数を組み合わせて用いることができる。水性塗布液に、必要に応じてこれらの有機溶剤を適宜選択し、含有させることで、塗布液の安定性、塗工性を良好にできる場合がある。
【0088】
また、上記溶媒として有機溶剤のみを使用する場合、かかる有機溶剤としては、トルエン等の芳香族炭化水素類;ヘキサン、ヘプタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;エチルメチルケトン、イソブチルメチルケトン等のケトン類;エタノール、2-プロパノール等のアルコール類;ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類などを挙げることができる。これらは、溶解性、塗工性や沸点等を考慮して単独で使用してもよいし、複数種を混合して使用してもよい。
【0089】
樹脂層中には、本組成物を構成する各成分(化合物(A)及び(B)、その他成分等)の未反応物、反応後の化合物、あるいはそれらの混合物が存在しているものと推測できる。
なお、樹脂層中の各成分の分析は、例えば、TOF-SIMS、ESCA、蛍光X線等によって行うことができる。
【0090】
<樹脂層の形成方法>
次に、本積層ポリエステルフィルムを構成する樹脂層の形成方法について説明する。
本樹脂層は、本組成物をポリエステルフィルムに塗布し、必要に応じて、塗布した本組成物に対して乾燥、硬化、熱処理等などの処理を行って形成すればよく、少なくとも熱処理を行うことが好ましい。樹脂組成物を塗布する方法は、特に限定されず、例えばリバースグラビアコート、ダイレクトグラビアコート、ロールコート、ダイコート、バーコート、カーテンコート等、従来公知の塗工方式を用いることができる。
【0091】
また、樹脂層の形成方法としては、インラインコーティング及びオフラインコーティングがある。塗布した樹脂組成物を熱処理する方法は、特に限定されるわけではなく、例えばオフラインコーティングにより樹脂層を設ける場合、通常、80~200℃で3~40秒間、好ましくは100~180℃で3~40秒間を目安として熱処理を行うのが良い。一方、インラインコーティングにより樹脂層を設ける場合、通常、70~280℃で3~200秒間を目安として熱処理を行うのがよい。
また、熱処理は、上記温度範囲内において温度の異なる2段以上の工程で行ってもよい。熱処理の少なくとも一部は、延伸時の加熱により行ってもよい。また、乾燥及び硬化は、上記熱処理における加熱により合わせて行うとよい。
【0092】
本発明では、樹脂層は、ポリエステルフィルムの製膜工程中にフィルム表面を処理する、インラインコーティングにより形成されるのが好ましい。
インラインコーティングは、ポリエステルフィルム製造の工程内でコーティングを行う方法であり、具体的には、ポリエステルを溶融押し出ししてから延伸後、熱固定して巻き上げるまでの任意の段階でコーティングを行う方法である。通常は、溶融、急冷して得られる未延伸シート、延伸された一軸延伸フィルム、熱固定前の二軸延伸フィルム、熱固定後で巻き上げ前のフィルムのいずれかにコーティングする。
【0093】
以下に限定するものではないが、例えば逐次二軸延伸においては、特に長手方向(縦方向)に延伸された一軸延伸フィルムにコーティングした後に横方向に延伸する方法が優れている。かかる方法によれば、製膜と樹脂層形成を同時に行うことができるため、製造コスト上のメリットがあり、また、コーティング後に延伸を行うために、樹脂層の厚みを延伸倍率により変化させることもでき、オフラインコーティングフィルムに比べ、薄膜コーティングをより容易に行うことができる。
【0094】
また、延伸前にフィルム上に樹脂層を設けることにより、樹脂層をポリエステルフィルムと共に延伸することができ、それにより樹脂層をポリエステルフィルムに強固に密着させることができる。
【0095】
さらに、二軸延伸ポリエステルフィルムの製造において、クリップ等によりフィルム端部を把持しつつ延伸することで、フィルムを縦及び横方向に拘束することができ、その後の熱処理(熱固定工程)において、しわ等が入らず平面性を維持したまま高温をかけることができる。
それゆえ、塗布後に施される熱処理が他の方法では達成されない高温とすることができるために、樹脂層の造膜性が向上し、樹脂層とポリエステルフィルムをより強固に密着させることができる。さらには、強固な樹脂層とすることができ、樹脂層上に形成され得る各種の機能層への耐移行性や耐湿熱性等の性能を向上させることができる。
【0096】
特に、本発明においては、塗膜割れを形成する製造方法として、かかる方法が最適である。本組成物中の化合物(A)及び(B)のそれぞれの含有量を調整し、本組成物の延伸適性をあえて劣るものとする。そうした上で、本組成物をコーティングした後に延伸する製造方法を採用することで、延伸適性に劣る膜を延伸することによって生じた塗膜割れにより、樹脂層表面に凹凸構造を形成することができる。当業者においては、従来から、塗膜割れは塗布欠陥の一形態と見なされ、塗膜割れが極力発生しないような均一な塗膜形成が必要とされてきた。塗膜割れが起こる一つの原因として、樹脂組成物の延伸適性が不十分なことが挙げられるため、樹脂組成物は十分な延伸適性を有するように設計される。しかしながら、本発明者は、樹脂層表面に微細な凹凸構造を形成する手段の一つとして、かかる塗膜割れを利用することに至った。
【0097】
また、オフラインコーティングあるいはインラインコーティングにかかわらず、必要に応じて熱処理と紫外線照射等の活性エネルギー線照射とを併用してもよい。本積層ポリエステルフィルムを構成するポリエステルフィルムにはあらかじめ、コロナ処理、プラズマ処理等の表面処理を施してもよい。
【0098】
本樹脂層の不揮発成分の塗布量は、好ましくは0.005~0.95g/m2、より好ましくは0.02~0.5g/m2、さらに好ましくは0.04~0.3g/m2、特に好ましくは0.06~0.2g/m2である。当該塗布量がかかる範囲であれば、塗膜割れなどにより微細な凹凸構造を形成することができる。
なお、当該塗布量は、塗布液不揮発成分濃度、塗布液消費量から導かれる乾燥前塗布量、横延伸倍率等から計算で求めることができる。また、不揮発成分の塗布量とは、本積層ポリエステルフィルムにおける塗布量であり、例えば、乾燥及び延伸を行う場合には、乾燥延伸後の塗布量である。
【0099】
<<<積層ポリエステルフィルムの物性>>>
本積層ポリエステルフィルムの樹脂層表面のクルトシス(Sku)は、3.0未満である。
クルトシス(Sku)は、凹凸の先端形状に関するパラメーターであり、Sku=3を正規分布とし、Sku>3であれば高さ分布が尖っている、すなわち表面に鋭い凹凸が多い形状である、Sku<3であれば表面凹凸の高さ分布がつぶれている、すなわち表面が比較的平坦である形状と評価することができる。
したがって、当該クルトシス(Sku)が3.0未満であれば、表面が平たんな形状の突起であることにより、フィルムを重ねた時に突起頂点が潰れにくく、空気抜け性を効率的に保つことができる。かかる観点から、当該クルトシスは、2.9以下であることが好ましく、より好ましくは2.8以下、さらに好ましくは2.6以下、特に好ましくは2.4以下、とりわけ好ましくは2.2以下である。下限値は特に制限されず、0.1である。
【0100】
クルトシス(Sku)とは、面粗さパラメーター(ISO 25178)の一つであり、高さ分布のヒストグラムのとがり具合(尖度)を評価することができ、以下の式(1)から求められる。
表面をXY面,高さ方向をZ軸とした時、A:定義された領域(画像全体とする)、Z(x,y):画像点(x,y)の高さ0の面からの高さ、Sq:二乗平均平方根高さ(高さ分布の標準偏差に相当)とすると、以下のように表される。
【0101】
【0102】
本積層ポリエステルフィルムの樹脂層表面の算術平均粗さ(Ra)は、10nm以上であることが好ましく、より好ましくは20nm以上、さらに好ましくは50nm以上、特に好ましくは80nm以上である。上限値は特に制限されないが、600nmであることが好ましく、より好ましくは400nm、さらに好ましくは200nmである。当該算術平均粗さ(Ra)が10nm以上であれば、本樹脂層が微細な凹凸構造を有しているといえ、本積層ポリエステルフィルムの取り扱い性が良好となる。また、当該算術平均粗さ(Ra)が600nm以下であれば、本樹脂層の凹凸構造が十分に微細な形状といえる。
【0103】
算術平均粗さ(Ra)とは、線粗さパラメーター(JIS B 0601)の一つであり、平均面からの平均的な高低差の平均値を表す。
すなわち、基準長さLの部分を抜き取り、この抜き取り部分の平均線をx軸、縦倍率の方向をy軸として粗さ曲線をy=Z(x)で表したとき、以下の式(2)から求められる。
【0104】
【0105】
また、樹脂層表面の十点平均粗さ(Rzjis)は60nm以上であることが好ましく、より好ましくは150nm以上、さらに好ましくは250nm以上である。上限値は特に制限されないが、800nmであることが好ましく、より好ましくは600nm、さらに好ましくは450nmである。当該十点平均粗さ(Rzjis)が60nm以上であれば、本樹脂層が十分な凹凸構造を有しているといえる。また、当該十点平均粗さ(Rzjis)が800nm以下であれば、本樹脂層の凹凸構造が十分に微細な形状といえる。
【0106】
十点平均粗さ(Rzjis)とは、線粗さパラメーター(JIS B 0601)の一つであり、基準長さLにおいて、輪郭曲線の最大の山高さ(Zp)から5番目までの平均と、最深の谷深さ(Zv)から5番目までの平均との和を表し、以下の式(3)から求められる。
【0107】
【0108】
前記樹脂層表面の切断レベル70%における粗さ曲線の負荷長さ率(Rmr(70))が82%以下であることが好ましく、より好ましくは65%以下、さらに好ましくは60%以下である。下限値は特に制限されず、1%程度であり、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上である。
【0109】
ここで、本発明者は、負荷長さ率(Rmr(70))が凹凸構造の凹凸分布を表す指標として有効であると考えた。例えば凹分布が大きいものは負荷長さ率(Rmr(70))の数値が小さくなり、凸分布が大きいものは負荷長さ率(Rmr(70))の数値が大きくなる。
当該負荷長さ率(Rmr(70))が82%以下であれば、適度な微細凹凸構造が形成されており、フィルムをロール状に巻き取った際にフィルム間にできる隙間が大きくなり、空気の抜け易さが向上し、巻き特性などを向上させることができる。
【0110】
負荷長さ率(Rmr(c))は、線粗さパラメーター(JIS B 0601)の一つであり、切断レベルc(高さ%又はμm)における輪郭曲線要素の負荷長さML(c)の評価長さLnに対する比率を表したものであり、以下の式(4)から求められる。
【0111】
【0112】
本積層ポリエステルフィルムの樹脂層表面の二乗平均平方根勾配(Sdq)は、0.1以上であることが好ましく、より好ましくは0.25以上、さらに好ましくは0.45以上である。一方、当該二乗平均平方根勾配(Sdq)は、3以下であることが好ましく、より好ましくは1.0以下である。当該二乗平均平方根勾配(Sdq)が0.1以上であれば、凹凸構造の山谷の差がはっきりとしていることで空気抜け性を高めることが出来る。また、当該二乗平均平方根勾配(Sdq)が3以下であれば、粗大突起を抑えることが出来る。
【0113】
二乗平均平方根勾配(Sdq)とは、面粗さパラメーター(ISO 25178)の一つであり、以下の式(5)から求められる。
二乗平均平方根勾配(Sdq)は、表面の凹凸形状の局部的な勾配(傾斜)の平均的な大きさを表し、値が大きいほど急峻な表面であることを示す。
【0114】
【0115】
また、樹脂層表面の展開界面面積率(Sdr)は、0.5%以上であることが好ましく、より好ましくは3%以上、さらに好ましくは9%以上である。一方、当該展開界面面積率(Sdr)は、60%以下であることが好ましく、より好ましくは50%以下である。当該展開界面面積率(Sdr)が0.5%以上であれば、微細凹凸構造が形成できていることにより、巻き特性を改善することができる。また、当該展開界面面積率(Sdr)が60%以下であれば、起伏が適度に抑えられており、粗大突起などを防ぐことができる。
【0116】
展開界面面積率(Sdr)とは、面粗さパラメーター(ISO 25178)の一つであり、以下の式(6)から求められる。
展開界面面積率(Sdr)は、定義領域の展開面積(表面積)が定義領域の面積に対してどれだけ増大しているか、すなわち表面積の増加割合を表し、表面の形状が緻密で起伏が激しいほど値が大きくなる。
【0117】
【0118】
上記クルトシス(Sku)、算術平均粗さ(Ra)、十点平均粗さ(Rzjis)、負荷長さ率(Rmr(70))、二乗平均平方根勾配(Sdq)及び展開界面面積率(Sdr)は、本組成物中の組成や含有量、樹脂層の形成方法や形成過程における各種条件などによって調整することができる。
【0119】
なお、樹脂層表面のクルトシス(Sku)、算術平均粗さ(Ra)、十点平均粗さ(Rzjis)、負荷長さ率(Rmr(70))、二乗平均平方根勾配(Sdq)及び展開界面面積率(Sdr)は、原子間力顕微鏡(走査型プローブ顕微鏡)を用いて実施例に記載の方法で測定する。原子間力顕微鏡(走査型プローブ顕微鏡)による測定であれば、表面のより微細な構造を捉えることが可能であり、樹脂層による効果を強く反映した数値を得ることが可能となる。
【0120】
本積層ポリエステルフィルムの樹脂層表面の表面算術平均粗さ(Sa)は、1~70nmの範囲であることが好ましく、より好ましくは2~50nm、さらに好ましくは3~30nmの範囲である。当該算術平均粗さ(Sa)がかかる範囲であれば、微細凹凸形状を有しつつ、極端に大きな凹凸を低減することができる。よって、例えば本積層ポリエステルフィルムのハンドリング性を確保することができ、ロール状に巻き取る際のシワを抑制しつつ、積層セラミックコンデンサの製造工程においてセラミックグリーンシートの支持体として用い、本樹脂層が設けられた面とは反対側のフィルム面に離型層やセラミック層が設けられる場合、本樹脂層表面の突起によるセラミック層への突起転写やセラミック層破壊を防止することができる。
【0121】
平均表面粗さ(Sa)とは、面粗さパラメーター(ISO 25178)の一つであり、二次元のRa(線の算術平均粗さ)を三次元に拡張したもので、表面形状曲面と平均面で囲まれた部分の体積を測定面積で割ったものであり、以下の式(7)から求められる。
表面をXY面,高さ方向をZ軸とした時、A:定義された領域(画像全体とする)、Z(x,y):画像点(x,y)の高さ0の面からの高さとすると、以下のように表される。
【0122】
【0123】
また、樹脂層表面の表面最大山高さ(Sp)は、800nm以下であることが好ましく、より好ましくは300nm以下、さらに好ましくは200nm以下である。一方、当該最大山高さ(Sp)は、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上である。当該最大山高さ(Sp)が800nm以下であれば、突起を低減することができる。よって、例えば本積層ポリエステルフィルムを積層セラミックコンデンサの製造工程においてセラミックグリーンシートの支持体として用い、本樹脂層が設けられた面とは反対側のフィルム面に離型層やセラミック層が設けられる場合、本樹脂層表面の突起によるセラミック層への突起転写やセラミック層破壊を防止することができる。また、当該最大山高さ(Sp)が10nm以上であれば、本積層ポリエステルフィルムのハンドリング性を確保することができ、ロール状に巻き取る際のシワを抑制することができる。
【0124】
最大山高さ(Sp)とは、面粗さパラメーター(ISO 25178)の一つであり、表面の平均面からの高さの最大値を表し、以下の式(8)ように表される。
【0125】
【0126】
一方、本積層ポリエステルフィルムの樹脂層表面とは反対面の表面算術平均粗さ(Sa)は、15nm以下であることが好ましく、より好ましくは9nm以下、さらに好ましくは5nm以下である。一方、当該算術平均粗さ(Sa)は、フィルムの取り扱い性の観点から、0.3nm以上であることが好ましい。
【0127】
また、樹脂層表面とは反対面の表面最大山高さ(Sp)は、800nm以下であることが好ましく、より好ましくは500nm以下、さらに好ましくは100nm以下である。一方、当該最大山高さ(Sp)の下限値は特に制限されないが、フィルムの取り扱い性の観点から、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、さらに好ましくは20nm以上である。
【0128】
本積層ポリエステルフィルムを積層セラミックコンデンサのグリーンシートを成形するための離型フィルムや、層間絶縁樹脂離型用基材、ドライフィルムレジスト用基材などに用いる場合、フィルムの平滑性を利用した加工が行われる。その際には本積層ポリエステルフィルムの少なくとも片面は平滑であることが好ましく、樹脂層が形成された面とは反対面の算術平均粗さ(Sa)や最大山高さ(Sp)が上記範囲であれば、フィルム表面の凹凸や突起の転写が少なく、良好な加工が可能となる。特に、本積層ポリエステルフィルムを積層セラミックコンデンサの製造工程においてセラミックグリーンシートの支持体として用い、本樹脂層が設けられた面とは反対側のフィルム面に離型層やセラミック層が設けられる場合、当該算術平均粗さ(Sa)や最大山高さ(Sp)が上記範囲であれば、極めて高平滑なフィルムとなり、積層セラミックコンデンサの小型化及び高容量化に際するセラミックグリーンシートの薄膜化にも対応が可能となる。
【0129】
樹脂層表面の算術平均粗さ(Sa)及び最大山高さ(Sp)は、本組成物中の組成や含有量などによって調整することができる。
また、樹脂層表面とは反対面の算術平均粗さ(Sa)及び最大山高さ(Sp)は、本ポリエステルフィルムの表層に含まれる粒子の種類、平均粒径及び含有量などによって調整することができる。
【0130】
なお、樹脂層表面及び樹脂層表面とは反対面の算術平均粗さ(Sa)及び最大突起山高さ(Sp)は、光干渉を利用した非接触式の表面粗さ計によって測定でき、具体的には実施例に記載の方法で測定することができる。この手法による測定であれば、本積層ポリエステルフィルムのより広い面積を反映した数値を得ることができる。
【0131】
本樹脂層の塗膜保持率は、60%以上であることが好ましく、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上である。当該塗膜保持率の上限値は、特に制限されず、100%以下である。当該塗膜保持率がかかる範囲であれば、脱落した塗膜による工程汚染を抑えることができる。
なお、上記塗膜保持率は、実施例に記載の方法で測定できる。
【0132】
本積層ポリエステルフィルムの樹脂層表面と反対面との静摩擦係数は、1.0以下であることが好ましく、より好ましくは0.7以下、さらに好ましくは0.6以下である。
本積層ポリエステルフィルムをロール状に巻き取った際などには、樹脂層表面と反対面が接するため、樹脂層表面と反対面との摩擦係数が重要である。
したがって、当該静摩擦係数がかかる範囲であれば、本樹脂層の凹凸構造により、滑り性が良好となり、本積層ポリエステルフィルムのハンドリング性が良化する。
なお、上記静摩擦係数は、実施例に記載の方法で測定できる。
【0133】
本積層ポリエステルフィルムの巻き取り性といったハンドリング性を評価する一つの指標として、空気漏れ指数を用いることができる。空気漏れ指数が低ければ、本積層ポリエステルフィルムを巻き上げた際に噛み込んだエアが抜けやすく、シワや端面不揃いなどのロール外観の不良を防ぐことができる。また、空気漏れ指数が高い場合、巻き込んだエアが十分時間経過後、特に搬送中に抜けることで、巻き芯方向にフィルムがズレたり、ズレによりキズが入ったりして問題となる。
【0134】
空気漏れ指数は、例えば、130,000秒以下であればよい。130,000秒以下であれば一定のハンドリング性を有するといえる。
また、樹脂層が形成された面とは反対面、すなわち積層セラミックコンデンサのグリーンシートを成形するための離型フィルムや、層間絶縁樹脂離型用基材、ドライフィルムレジスト用基材などに用いる場合に、上記の通りより好ましくは加工に用いられるフィルムの平滑面の算術平均粗さ(Sa)が9nm以下、もしくは最大山高さ(Sp)が500nm以下である。この場合に、空気漏れ指数は130,000秒以下であることが好ましく、より好ましくは50,000秒以下、さらに好ましくは30,000秒以下である。このように、フィルムの平滑面が極めて高平滑な場合、フィルムの平滑性を利用することで、より精密な加工ができる上、本樹脂層の凹凸構造によって当該空気漏れ指数が上記範囲に改善されて巻き取り性が良好となり、本積層ポリエステルフィルムのハンドリング性が良化する。
なお、上記空気漏れ指数は、実施例に記載の方法で測定できる。
【0135】
<<<積層ポリエステルフィルムの用途>>>
本樹脂層は、特定の化合物を一定量含む樹脂組成物から構成し、そして特定の粗さ構造を持つことにより、微細な凹凸構造を発現できる点に特徴がある。また、粗さ構造を表す指標として、凹凸の先端形状を評価できる、とがり具合(尖度)に着目したことにも特徴がある。
かかる設計思想により、従来の粒子練り込み型のフィルム製法では達成困難な、微細な凹凸構造の精密制御が可能となった。また、特定の粗さ構造を持つことにより、薄膜であっても空気の抜け易さを向上させることができ、ハンドリング性の優れる積層ポリエステルフィルムを提供することが可能となった。
【0136】
本積層ポリエステルフィルムは、ハンドリング性を向上させる目的で各種用途に使用することができ、その用途は特に制限されない。
中でも、上述のとおり、微細な凹凸構造を有することから、シート成形用として用いれば、高平滑なフィルムをロール状に巻き取る際にも、良好な巻取り性を発揮し、シワが発生しにくくなるという利点があり、シート成形用ポリエステルフィルムとして好適に用いることができる。シート成形用ポリエステルフィルムとしては、例えば積層セラミックコンデンサ(Multi-Layer Ceramic Capacitor;MLCC)のグリーンシート成形用、層間絶縁樹脂用、ドライフィルムレジスト(DFR)用、多層回路基板用等の各種離型・工程用途が挙げられる。本積層ポリエステルフィルムは、離型・工程用途では、例えば支持体として使用される。
シート成形用ポリエステルフィルムは、例えば、該フィルムの少なくとも一方の面側に、各種材料を塗布、積層などしてグリーンシートなどの各種シートを成形する工程において使用されるとよい。本樹脂層が片面にのみ設けられる場合には、各種材料は、樹脂層が設けられた面とは反対側のフィルム面に塗布、積層などされることが好ましいが、樹脂層が設けられたフィルム面側に塗布、積層などされてもよい。なお、シート成形用ポリエステルフィルムにおいては、樹脂層が設けられた面とは反対側のフィルム面には適宜離型層などが設けられてもよい。
【0137】
中でも、本積層ポリエステルフィルムは、MLCCの製造工程において、セラミックグリーンシートの支持体として用いれば、均一な薄膜の誘電体層を形成することができ、かつ、長尺化によるポリエステルフィルムロールの切替頻度の低減に伴う、生産性向上に貢献できる。とりわけ、自動車向けMLCCに用いるセミックグリーンシート用支持体として好適に用いることができる。
【0138】
<<<語句の説明>>>
本発明においては、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
本発明において、「X~Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」あるいは「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
また、「X以上」(Xは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
【実施例0139】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
ただし、本発明は、その要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0140】
<評価方法>
(1)ポリエステルの固有粘度(IV)
ポリエステルに非相溶な成分を除去したポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(質量比)の混合溶媒100mLを加えて溶解させ、粘度測定装置「VMS-022UPC・F10」(株式会社離合社製)を用いて、30℃で測定した。
【0141】
(2)ポリエステルフィルムに含有される粒子の平均粒径
粒子の平均粒径は、10個以上の粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して粒子の直径を測定し、その平均値を平均粒径(平均1次粒径)として求めた。その際、非球状粒子の場合は、最長径と最短径の平均値を各粒子の直径として測定した。
【0142】
(3)樹脂層の凹凸構造
走査型プローブ顕微鏡(株式会社島津製作所社製 SPM-9700)を用いて、下記の条件で測定を行った。
探針:シリコンカンチレバー
走査モード:ダイナミックモード
走査範囲:25μm×25μm
スキャン速度:0.8Hz
画素数:512×512データポイント
得られたデータから25μm幅の断面形状を観察し、8割以上の位置において、段差が10nmを超える凸部もしくは凹部が複数ある場合は凹凸構造「有」、複数の凸部もしくは凹部を確認できない場合は凹凸構造「無」と判断した。
【0143】
(4)樹脂層表面の算術平均粗さ(Ra)及び十点平均粗さ(Rzjis)
上記(3)の方法で測定した走査型プローブ顕微鏡のデータから、テンター延伸方向(すなわち、横方向)に平行に25μm幅の断面解析を行い、算術平均粗さ(Ra)と十点平均粗さ(Rzjis)を求めた。フィルムの製膜方向(すなわち、縦方向)に等間隔に10点の断面解析データを求め、これを平均して求めた。
【0144】
(5)樹脂層表面の負荷長さ率(Rmr(70))
上記(4)と同様の方法で走査型プローブ顕微鏡の断面解析を行い、切断レベル70%の負荷長さ率(Rmr(70))を求めた。フィルムの製膜方向(すなわち、縦方向)に等間隔に10点の断面解析データを求め、これを平均して求めた。
【0145】
(6)樹脂層表面のクルトシス(Sku)、二乗平均平方根勾配(Sdq)及び展開界面面積率(Sdr)
上記(3)の方法で測定した走査型プローブ顕微鏡のデータから、得られた画像データを画像解析ソフトSPIP6.2.5ImageMetrologyを用いて解析し、クルトシス(Sku)、二乗平均平方根勾配(Sdq)及び展開界面面積率(Sdr)を算出した。
【0146】
(7)樹脂層表面及び樹脂層とは反対面側表面の算術平均粗さ(Sa)及び最大山高さ(Sp)
フィルム表面を、株式会社菱化システム製、非接触表面・層断面形状計測システムVertScan(登録商標)R550GMLを使用して、CCDカメラ:SONY HR-50 1/3’、対物レンズ:20倍、鏡筒:1X Body、ズームレンズ:No Relay、波長フィルター:530 white、測定モード:Waveにて、640μm×480μmの領域を測定し、4次の多項式補正による出力を用い、算術平均粗さ(Sa)及び最大山高さ(Sp)を10点平均して求めた。
【0147】
(8)塗膜の保持率
ベンコット(旭化成せんい株式会社製「M-3II」)をラビングテスター(大平理化工業株式会社製)に取り付け、アーム荷重の680gで試料フィルムの樹脂層表面を5往復させた。処理前後の樹脂層表面を、蛍光X線分析(XRF)にて測定し、樹脂層由来の成分量を測定した。下記式により、塗膜の保持率を算出した。
塗膜の保持率(%)= 処理後の樹脂層成分量 / 処理前の樹脂層成分量 ×100
【0148】
(9)静摩擦係数
積層ポリエステルフィルムの樹脂層表面と反対面側との静摩擦係数は、以下の方法で求めた。
幅10mm、長さ100mmの平滑なガラス板上に、樹脂層が設けられた面とは反対の面が上面となるようにフィルムを貼り付けた。その上に幅18mm、長さ120mmに切り出したフィルムを上記樹脂層が設けられた面が下面となるように載せ、そのフィルムの上にさらに直径8mmの金属ピンに押し当て、金属ピンをガラス板の長手方向に、加重30g、40mm/分で滑らせて摩擦力を測定し、滑り出し直後の最大値を静摩擦係数として評価した。なお、測定は、室温23±1℃ 、湿度50±0.5%RHの雰囲気下で行った。また、測定回数(N)は10回とし、その平均値を採用した。
静摩擦係数(μs)=Fs/おもり過重
(上記式中、FsとFdの単位はg重、おもり荷重の単位はg重である)
【0149】
(10)空気漏れ指数
デジベック平滑度試験機(東洋精機株式会社製、「DB-2」)を使用し、JIS P8119に準拠して、温度23℃、湿度50%RHの雰囲気下で測定した。加圧装置の圧力は100kPa、真空容器は容積38mlの容器を使用し、1mLの空気が流れる時間、すなわち容器内の圧力が50.7kPaから48.0kPaに変化するまでの時間(秒)を計測し、得られた秒数の10倍を空気漏れ指数とした。試験フィルムのサンプルサイズは70mm四方として、試験フィルムの表裏が重なるように20枚を積層し、試験用積層フィルムとした。
試験用積層フィルムの中央に直径5mmの穴を開けて、前述の通り、空気漏れ指数を測定した。この空気漏れ指数の値が大きいほど、フィルム同士の隙間から空気が漏れるのに時間を要するので、フィルム同士がより密に接していることを示しており、ロール状フィルムにした時にシワ発生のリスクが大きいこと示す。
【0150】
<使用した材料>
実施例及び比較例において使用したポリエステルは、以下のとおりである。
【0151】
[ポリエステル(A)]
ジメチルテレフタレート100質量部及びエチレングリコール65質量部を、攪拌装置、昇温装置及び留出液分離塔を備えたエステル交換反応槽に仕込み、150℃に加熱してジメチルテレフタレートを溶融させた。
【0152】
次いで、得られるポリエステルに対する酢酸マグネシウムの添加量が0.09質量%となるように、酢酸マグネシウム四水塩のエチレングリコール溶液を添加した。
その後、常圧下で3時間かけて225℃まで昇温させ、更に225℃で1時間15分攪拌保持すると共にメタノールを留去しながらエステル交換反応を行ない、実質的にエステル交換反応を終了してポリエステル低重合体(オリゴマー)を得た。
【0153】
次いで、前記オリゴマーを留出管を備えた攪拌機付き重縮合反応槽へ移送した。
得られるポリエステル樹脂分に対する酢酸マグネシウムの添加量が0.09質量%となるように、酢酸マグネシウム四水塩のエチレングリコール溶液を、移送後のオリゴマーに添加した。
その後、得られるポリエステルに対するリン酸の添加量が0.017質量%となるように、熱安定剤としてリン酸のエチレングリコール溶液を添加した。
【0154】
次いで、得られるポリエステルに対してチタン原子として4.5質量ppmとなるように、重縮合触媒としてテトラブチルチタネートのエチレングリコール溶液を、前記オリゴマーに添加した。
その後、101.3kPaから0.4kPaまで85分間で減圧し0.4kPaに保持するとともに、225℃から280℃まで2時間かけて昇温させ280℃で1.5時間保持して溶融重縮合反応を行い、極限粘度(IV)が0.63dL/gのポリエステルAを得た。
【0155】
[ポリエステル(B)]
ポリエステル(A)中に、平均粒径0.05μmのアルミナ粒子を0.75質量%添加し、ベント式二軸混練機を用いて練り込み、極限粘度(IV)が0.63dL/gのポリエステル(B)を得た。
【0156】
[ポリエステル(C)]
ポリエステル(A)でテトラブチルチタネートを添加する代わりに、得られるポリエステル樹脂分に対してアンチモン原子として300質量ppmとなるように、重縮合触媒として三酸化アンチモンを添加すること以外はポリエステル(A)と同様にして、極限粘度(IV)が0.63dl/gのポリエステル(C)を得た。
【0157】
下記表1に示す組成にて撹拌混合して得られる樹脂組成物を水で希釈して、塗布液1~17を調整した。使用した化合物は以下のとおりである。
【0158】
[化合物(A):バインダー樹脂(IA)]
下記組成で共重合したポリエステル樹脂の水分散体
モノマー組成:(酸成分)テレフタル酸/イソフタル酸/5-ソジウムスルホイソフタル酸//(ジオール成分)エチレングリコール/1,4-ブタンジオール/ジエチレングリコール=56/40/4//70/20/10(mol%)
【0159】
[化合物(A):バインダー樹脂(IB)]
下記組成で重合したアクリル樹脂の水分散体
エチルアクリレート/n-ブチルアクリレート/メチルメタクリレート/N-メチロールアクリルアミド/アクリル酸=65/21/10/2/2(質量%)の乳化重合体(乳化剤:アニオン系界面活性剤)
【0160】
[化合物(A):バインダー樹脂(IC)]
下記組成で重合したポリエステル系ウレタン樹脂の水分散体。
イソホロンジイソシアネートユニット:テレフタル酸ユニット:イソフタル酸ユニット:エチレングリコールユニット:ジエチレングリコールユニット:ジメチロールプロピオン酸ユニット=12:19:18:21:25:5(mol%)から形成される。
【0161】
[化合物(A):架橋剤(IIA)]
メラミン化合物:ヘキサメトキシメチロールメラミン
【0162】
[化合物(B):粒子(IIIA)]
平均粒径14nmの酸化ジルコニウム粒子
【0163】
[化合物(B):粒子(IIIB)]
平均粒径15nmの酸化チタン粒子
【0164】
[化合物(B):粒子(IIIC)]
平均粒径5nmの球状シリカ粒子
【0165】
[化合物(B):粒子(IIID)]
平均粒径11nmの球状シリカ粒子
【0166】
[化合物(B):粒子(IIIE)]
平均粒径25nmの球状シリカ粒子
【0167】
[化合物(B):粒子(IIIF)]
平均粒径12nmの鎖状シリカ粒子
【0168】
[化合物(B):粒子(IIIG)]
平均粒径45nmの球状シリカ粒子
【0169】
(実施例1)
ポリエステル(A)、(B)をそれぞれ87質量%、13質量%の割合で混合した混合原料を片側最外層(A層)の原料とし、ポリエステル(A)のみを中間層(B層)の原料とし、ポリエステル(A)のみを片側最外層(C層)の原料とした。A層、B層、C層の原料の各々を3台の押出機に供給し、各々280℃で溶融した後、25℃に設定した冷却ロール上に、2種3層(表層/中間層/表層=1.6/27.8/1.6の吐出量)の層構成で共押出し冷却固化させて未延伸シートを得た。
次いで、このフィルムを86℃の加熱ロール群を通過させながら長手方向に3.5倍延伸し、一軸延伸フィルムとした。この一軸延伸フィルムの片面(C層の表面)に、下記表1に示す組成を有する塗布液1を塗布量(乾燥延伸後)が0.12g/m2塗布し、次いでこのフィルムをテンター延伸機に導き、105℃で幅方向に4.5倍延伸し、さらに230℃で熱処理を施した後、幅方向に2%の弛緩処理を行い、ポリエステルフィルムAのC層表面に樹脂層を有する厚さ31μmの積層ポリエステルフィルムを得た。評価結果を表2に示す。
【0170】
(実施例2~3)
表1に示す塗布液を用いると共に、塗布量(乾燥延伸後)を表2に示す塗布量に変更した以外は、実施例1と同様にして、積層ポリエステルフィルムを得た。評価結果を表2に示す。
【0171】
(実施例4)
ポリエステル(A)のみを片側最外層(A層)の原料とし、ポリエステル(C)のみを中間層(B層)の原料とした以外は実施例1と同様にして、ポリエステルフィルムBのC層表面に樹脂層を有する積層ポリエステルフィルムを得た。評価結果を表2に示す。
【0172】
(実施例5~19)
表1に示す塗布液を用いると共に、塗布量(乾燥延伸後)を表2に示す塗布量に変更した以外は、実施例4と同様にして、積層ポリエステルフィルムを得た。評価結果を表2に示す。
【0173】
(比較例1)
樹脂層を設けなかったこと以外は、実施例1と同様にして、ポリエステルフィルムを得た。評価結果を表2に示す。
【0174】
(比較例2)
樹脂層を設けなかったこと以外は、実施例4と同様にして、ポリエステルフィルムを得た。評価結果を表2に示す。
【0175】
(比較例3~5)
表1に示す塗布液を用いると共に、塗布量(乾燥延伸後)を表2に示す塗布量に変更した以外は、実施例4と同様にして、積層ポリエステルフィルムを得た。評価結果を表2に示す。
【0176】
【0177】
【0178】
なお、上記表2中の凹凸形状に関し、形状1は網目形状(
図1参照)、形状2は網目形状と凹凸形状が混在した形状(
図2参照)、形状3は凹凸形状(
図3参照)であったことを示す。
また、上記表2中のポリエステルフィルムAは実施例1、ポリエステルフィルムBは実施例4のポリエステルフィルムとする。
【0179】
表2の結果が示す通り、本発明の積層ポリエステルフィルムである実施例1~19は、化合物(A)及び一定量以上の(B)を含むことで凹凸構造を形成しており、かつクルトシス(Sku)が3.0未満であることで適切な凹凸形状となり、静摩擦係数が1.0以下と低く、滑り性が良く、空気漏れ指数が130,000秒以下と空気抜け性に優れるため、巻き取り性といった生産性に優れたフィルムであることが分かる。加えて、樹脂層の反対面の算術平均粗さ(Sa)や最大山高さ(Sp)が低いため、精密な加工が可能となる優れたフィルムであった。
一方で比較例1~2は樹脂層を持たないため、凹凸構造を有さない。また、比較例3は化合物(A)及び一定量以上の化合物(B)を含むが、クルトシス(Sku)の値が高く、適切な凹凸構造を有していない。そのため、静摩擦係数は低いが、空気漏れ指数が高く、ハンドリング性が劣るフィルムであった。また、比較例4~5は一定量以上の化合物(B)を含まないため、凹凸構造が形成されていない。そのため、これらの比較例は、摩擦係数及び空気漏れ指数が高く、滑り性やエア抜け性に劣り、ハンドリング性が劣るフィルムであった。
本発明の積層ポリエステルフィルムは、樹脂層表面に微細な凹凸構造を形成できるため、例えばシート成形用として用いれば、極めて高平滑なフィルムをロール状に巻き取る際にも、良好な巻取り性を発揮し、シワが発生しにくくなるという利点がある。
また、本発明の積層ポリエステルフィルムは、樹脂層を薄膜にできるから、ポリエステルフィルムの薄膜長尺化にも対応可能であり、加工時における製品ロールの切替頻度低減による生産性向上に寄与することができる。
したがって、本発明の積層ポリエステルフィルムは、優れた表面平滑性を有するシート成形用ポリエステルフィルム等として好適に用いることができ、その工業的利用価値は高い。