IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイシン精機株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人大阪大学の特許一覧

特開2024-56242要因分析装置、要因分析方法及びプログラム
<>
  • 特開-要因分析装置、要因分析方法及びプログラム 図1
  • 特開-要因分析装置、要因分析方法及びプログラム 図2
  • 特開-要因分析装置、要因分析方法及びプログラム 図3
  • 特開-要因分析装置、要因分析方法及びプログラム 図4
  • 特開-要因分析装置、要因分析方法及びプログラム 図5
  • 特開-要因分析装置、要因分析方法及びプログラム 図6
  • 特開-要因分析装置、要因分析方法及びプログラム 図7
  • 特開-要因分析装置、要因分析方法及びプログラム 図8
  • 特開-要因分析装置、要因分析方法及びプログラム 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056242
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】要因分析装置、要因分析方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06N 3/08 20230101AFI20240416BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
G06N3/08
G05B23/02 302S
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022162986
(22)【出願日】2022-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊田 翔
(72)【発明者】
【氏名】小西 圭睦
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 和也
(72)【発明者】
【氏名】松原 崇
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA01
3C223FF22
3C223FF26
3C223FF33
3C223FF45
3C223GG01
3C223HH02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】設備の異常の要因を高精度に推定する要因分析装置、方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】要因分析装置は、設備に関する物理量の所定の周期内における時系列変化を示す入力データを取得し、ニューラルネットワークを利用し、取得した入力データが正常データか異常データかを推定した結果を示す分類ラベルを出力する分類モデルを生成する。要因毎に、正常データと異常データとを含む教師データに基づいてニューラルネットワークにおけるパラメータを調整し分類モデルを生成し、入力データを分類モデルに入力して得られる分類ラベルと、正常データであるか異常データであるかを示す正解ラベルとの差分に基づいて、複数の分類モデル夫々について損失を算出し、損失を物理量で微分した、物理量の変化に対する損失の変化の大きさを示す微分値と、周期内における各時点と、の関係を示す損失変動情報を、複数の分類モデルの夫々について生成する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の設備の異常の要因を分析するための処理を行う要因分析装置であって、
前記設備に関する物理量の所定の周期内における時系列変化を示す入力データを取得する取得部と、
ニューラルネットワークを利用して構成され、入力された前記入力データが正常時の前記入力データである正常データか異常時の前記入力データである異常データかを推定した結果を示す分類ラベルを出力する分類モデルを生成するものであって、前記要因毎に準備され、前記正常データと前記異常データとを含む教師データに基づいて前記ニューラルネットワークにおけるパラメータを調整することにより、前記要因毎に前記分類モデルを生成するモデル生成部と、
前記入力データを複数の前記分類モデルのそれぞれに入力して得られる前記分類ラベルと、当該入力データが前記正常データであるか前記異常データであるかを示す正解ラベルと、の差分に基づいて、複数の前記分類モデルのそれぞれについて損失を算出し、前記損失を前記物理量で微分した値であって前記物理量の変化に対する前記損失の変化の大きさを示す微分値と、前記周期内における各時点と、の関係を示す損失変動情報を、複数の前記分類モデルのそれぞれについて生成する損失変動情報生成部と、
を備える要因分析装置。
【請求項2】
前記損失変動情報を可視化する出力部、
を更に備える請求項1に記載の要因分析装置。
【請求項3】
前記モデル生成部により生成された前記分類モデルに前記教師データを入力することにより得られる前記分類ラベルと当該教師データの前記正解ラベルとに基づいて生成される複数の前記損失変動情報を、それぞれ対応する前記要因と紐づけて記憶する記憶部、
を更に備える請求項1に記載の要因分析装置。
【請求項4】
前記モデル生成部により生成された前記分類モデルに前記教師データを入力することにより得られる前記分類ラベルと当該教師データの前記正解ラベルとに基づいて生成される複数の前記損失変動情報を、それぞれ対応する前記要因と紐づけて記憶する記憶部と、
前記分類モデルに分析対象データを入力することにより得られる前記分類ラベルと当該分析対象データの前記正解ラベルとに基づいて生成される前記損失変動情報と、前記記憶部に記憶された前記教師データに対応し前記要因と紐付けられた前記損失変動情報と、を可視化する出力部と、
を更に備える請求項1に記載の要因分析装置。
【請求項5】
所定の設備の異常の要因を分析するための要因分析方法であって、
情報処理装置が、前記設備に関する物理量の所定の周期内における時系列変化を示す入力データを取得する工程と、
情報処理装置が、ニューラルネットワークを利用して構成され、入力された前記入力データが正常時の前記入力データである正常データか異常時の前記入力データである異常データかを推定した結果を示す分類ラベルを出力する分類モデルを生成するものであって、前記要因毎に準備され、前記正常データと前記異常データとを含む教師データに基づいて前記ニューラルネットワークにおけるパラメータを調整することにより、前記要因毎に前記分類モデルを生成する工程と、
情報処理装置が、前記入力データを複数の前記分類モデルのそれぞれに入力して得られる前記分類ラベルと、当該入力データが前記正常データであるか前記異常データであるかを示す正解ラベルと、の差分に基づいて、複数の前記分類モデルのそれぞれについて損失を算出し、前記損失を前記物理量で微分した値であって前記物理量の変化に対する前記損失の変化の大きさを示す微分値と、前記周期内における各時点と、の関係を示す損失変動情報を、複数の前記分類モデルのそれぞれについて生成する工程と、
を含む要因分析方法。
【請求項6】
所定の設備の異常の要因を分析するための処理を行うコンピュータに、
前記設備に関する物理量の所定の周期内における時系列変化を示す入力データを取得する処理と、
ニューラルネットワークを利用して構成され、入力された前記入力データが正常時の前記入力データである正常データか異常時の前記入力データである異常データかを推定した結果を示す分類ラベルを出力する分類モデルを生成するものであって、前記要因毎に準備され、前記正常データと前記異常データとを含む教師データに基づいて前記ニューラルネットワークにおけるパラメータを調整することにより、前記要因毎に前記分類モデルを生成する処理と、
前記入力データを複数の前記分類モデルのそれぞれに入力して得られる前記分類ラベルと、当該入力データが前記正常データであるか前記異常データであるかを示す正解ラベルと、の差分に基づいて、複数の前記分類モデルのそれぞれについて損失を算出し、前記損失を前記物理量で微分した値であって前記物理量の変化に対する前記損失の変化の大きさを示す微分値と、前記周期内における各時点と、の関係を示す損失変動情報を、複数の前記分類モデルのそれぞれについて生成する処理と、
を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、要因分析装置、要因分析方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
工場、プラント等における設備の異常の要因を、ニューラルネットワークを利用して構成される学習済みモデルを利用して推定する技術が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2021/241580号
【特許文献2】国際公開第2022/054782号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態は、設備の異常の要因を高精度に推定可能な要因分析装置、要因分析方法及びプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一実施形態としての要因分析装置は、所定の設備の異常の要因を分析するための処理を行うものであって、設備に関する物理量の所定の周期内における時系列変化を示す入力データを取得する取得部と、ニューラルネットワークを利用して構成され、入力された入力データが正常時の入力データである正常データか異常時の入力データである異常データかを推定した結果を示す分類ラベルを出力する分類モデルを生成するものであって、要因毎に準備され、正常データと異常データとを含む教師データに基づいてニューラルネットワークにおけるパラメータを調整することにより、要因毎に分類モデルを生成するモデル生成部と、入力データを複数の分類モデルのそれぞれに入力して得られる分類ラベルと、当該入力データが正常データであるか異常データであるかを示す正解ラベルと、の差分に基づいて、複数の分類モデルのそれぞれについて損失を算出し、損失を物理量で微分した値であって物理量の変化に対する損失の変化の大きさを示す微分値と、周期内における各時点と、の関係を示す損失変動情報を、複数の分類モデルのそれぞれについて生成する損失変動情報生成部と、を備える。
【0006】
上記構成によれば、損失の変動が大きい時点を特定可能である共に設備の異常の要因毎に異なる損失変動情報が生成される。このような損失変動情報に基づいて要因を推定することにより、設備の異常の要因を高精度に推定することが可能となる。
【0007】
また、上記構成において、要因分析装置は、損失変動情報を可視化する出力部、を更に備えてもよい。
【0008】
上記構成によれば、ユーザは可視化された損失変動情報に基づいて異常の要因を高精度且つ簡便に推定できる。
【0009】
また、上記構成において、要因分析装置は、モデル生成部により生成された分類モデルに教師データを入力することにより得られる分類ラベルと当該教師データの正解ラベルとに基づいて生成される複数の損失変動情報を、それぞれ対応する要因と紐づけて記憶する記憶部、を更に備えてもよい。
【0010】
上記構成によれば、教師データに基づいて予め生成され各要因と紐付けられた損失変動情報を、必要に応じて記憶部から読み出して参照等することができる。
【0011】
また、上記構成において、要因分析装置は、モデル生成部により生成された分類モデルに教師データを入力することにより得られる分類ラベルと当該教師データの正解ラベルとに基づいて生成される複数の損失変動情報を、それぞれ対応する要因と紐づけて記憶する記憶部と、分類モデルに分析対象データを入力することにより得られる分類ラベルと当該分析対象データの正解ラベルとに基づいて生成される損失変動情報と、記憶部に記憶された教師データに対応し要因と紐付けられた損失変動情報と、を可視化する出力部と、を更に備えてもよい。
【0012】
上記構成によれば、分析対象データに対応する異常の要因を推定する際に、当該分析対象データに基づく損失変動情報と、記憶部から読み出され各要因と紐付けられた損失変動情報と、を視覚的に比較することができる。これにより、異常の要因を高精度且つ簡便に推定できる。
【0013】
また、本発明の他の実施形態としての要因分析方法は、所定の設備の異常の要因を分析するための方法であって、情報処理装置が、設備に関する物理量の所定の周期内における時系列変化を示す入力データを取得する工程と、情報処理装置が、ニューラルネットワークを利用して構成され、入力された入力データが正常時の入力データである正常データか異常時の入力データである異常データかを推定した結果を示す分類ラベルを出力する分類モデルを生成するものであって、要因毎に準備され、正常データと異常データとを含む教師データに基づいてニューラルネットワークにおけるパラメータを調整することにより、要因毎に分類モデルを生成する工程と、情報処理装置が、入力データを複数の分類モデルのそれぞれに入力して得られる分類ラベルと、当該入力データが正常データであるか異常データであるかを示す正解ラベルと、の差分に基づいて、複数の分類モデルのそれぞれについて損失を算出し、損失を物理量で微分した値であって物理量の変化に対する損失の変化の大きさを示す微分値と、周期内における各時点と、の関係を示す損失変動情報を、複数の分類モデルのそれぞれについて生成する工程と、を含む。
【0014】
上記構成によれば、損失の変動が大きい時点を特定可能である共に設備の異常の要因毎に異なる損失変動情報が生成される。このような損失変動情報に基づいて要因を推定することにより、設備の異常の要因を高精度に推定することが可能となる。
【0015】
また、本発明の他の実施形態としてのプログラムは、所定の設備の異常の要因を分析するための処理を行うコンピュータに、設備に関する物理量の所定の周期内における時系列変化を示す入力データを取得する処理と、ニューラルネットワークを利用して構成され、入力された入力データが正常時の入力データである正常データか異常時の入力データである異常データかを推定した結果を示す分類ラベルを出力する分類モデルを生成するものであって、要因毎に準備され、正常データと異常データとを含む教師データに基づいてニューラルネットワークにおけるパラメータを調整することにより、要因毎に分類モデルを生成する処理と、入力データを複数の分類モデルのそれぞれに入力して得られる分類ラベルと、当該入力データが正常データであるか異常データであるかを示す正解ラベルと、の差分に基づいて、複数の分類モデルのそれぞれについて損失を算出し、損失を物理量で微分した値であって物理量の変化に対する損失の変化の大きさを示す微分値と、周期内における各時点と、の関係を示す損失変動情報を、複数の分類モデルのそれぞれについて生成する処理と、を実行させる。
【0016】
上記構成によれば、損失の変動が大きい時点を特定可能である共に設備の異常の要因毎に異なる損失変動情報が生成される。このような損失変動情報に基づいて要因を推定することにより、設備の異常の要因を高精度に推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施形態の要因分析システムの構成の一例を示す図である。
図2図2は、実施形態の要因分析装置の機能構成の一例を示す図である。
図3図3は、実施形態の入力データにおける正常データ及び異常データの一例を示す図である。
図4図4は、実施形態の動作期間及び異常発生期間の一例を示す図である。
図5図5は、実施形態の教師データの一例を示す図である。
図6図6は、実施形態の分類部の分類モデルにおける処理の一例を示す図である。
図7図7は、実施形態の損失変動情報の一例を示す図である。
図8図8は、実施形態の要因分析装置における事前処理の一例を示すフローチャートである。
図9図9は、実施形態の要因分析装置における分析処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、並びに当該構成によりもたらされる作用、結果及び効果は、一例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によりも実現可能であるとともに、基本的な構成に基づく種々の効果や派生的な効果のうち、少なくとも一つを得ることが可能である。
【0019】
図1は、実施形態の要因分析システム1の構成の一例を示す図である。要因分析システム1は、工場等に設置された所定の設備11の異常の要因を推定するためのシステムであり、データベースサーバ12及び要因分析装置21を含む。
【0020】
データベースサーバ12は、設備11の動作に関連する入力データを記憶及び管理(編集、更新、削除等を含む)する情報処理装置である。データベースサーバ12は、設備11、設備11に搭載されたセンサ、設備11の周辺に設置されたセンサ等から入力データ等を取得できるように構成される。
【0021】
要因分析装置21は、データベースサーバ12と所定のネットワーク15を介して通信可能な情報処理装置である。要因分析装置21は、例えば、CPU(Central Processing Unit)31、RAM(Random Access Memory)32、ROM(Read Only Memory)33、ストレージ34、通信I/F(Interface)35、ユーザI/F36等を含むコンピュータを利用して構成される。
【0022】
CPU31は、ROM33やストレージ34に記憶されたプログラムに従いRAM32を作業領域として使用して所定の演算処理を実行する。ストレージ34は、SSD(Solid State Drive)、HDD(Hard Disk Drive)等の不揮発性メモリであり、プログラム、CPU31の処理に必要なデータ、CPU31の処理により生成されたデータ等の書き込み及び読み出しを可能にする。通信I/F35は、ネットワーク15を介して接続された外部デバイス(データベースサーバ12等)との間でデータの送受信を可能にするデバイスである。ユーザI/F36は、ユーザからの入力の受け付け、ユーザへの情報の出力等を可能にするデバイスであり、例えばキーボード、ポインティングデバイス、タッチパネル機構、ディスプレイ、スピーカ、マイク等であり得る。CPU31、RAM32、ROM33、ストレージ34、通信I/F35及びユーザI/F36は、データバスを介して接続されている。なお、要因分析装置21のハードウェア構成は上記に限定されるものではなく、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等を利用して構成されてもよいし、複数のコンピュータが連携して動作する構成であってもよい。
【0023】
要因分析装置21は、データベースサーバ12からネットワーク15を介して取得した入力データ等に基づいて、設備11の異常の要因を分析するための各種処理を実行する。
【0024】
図2は、実施形態の要因分析装置21の機能構成の一例を示す図である。本実施形態の要因分析装置21は、取得部101、分類部102、モデル生成部103、損失変動情報生成部104、記憶部105及び出力部106を有する。これらの機能部101~106は、例えば図1に例示されるような要因分析装置21のハードウェア要素及びソフトウェア要素(プログラム等)の協働により実現され得る。また、これらの機能部101~106の少なくとも一部が専用のハードウェア(回路等)により構成されてもよい。
【0025】
取得部101は、入力データ201を取得する。入力データ201は、設備11に関する所定の物理量の所定の周期内における時系列変化を示すデータである。物理量の種類は特に限定されるべきものではないが、設備11の動作に伴い変化する値であり得、例えば真空度、圧力、温度、荷重等であり得る。また、設備11の種類も特に限定されるべきものではないが、例えば周期毎に同様の動作を繰り返す機構等であり得、例えば減圧機、プレス加工機等であり得る。例えば、各周期で1つの製品を製造する設備11の場合、入力データ201に異常がある周期に製造された製品は不良品である等と判定できる。なお、入力データ201の取得方法は特に限定されるべきものではなく、入力データ201は例えば図1に例示されるようにネットワーク15を介してデータベースサーバ12から取得されてもよいし、所定の記憶媒体を介して取得されてもよい。
【0026】
入力データ201には、設備11が正常に動作しているとき(正常時)に取得された入力データである正常データと、設備11に異常が発生しているとき(異常時)に取得された入力データである異常データと、が含まれる。
【0027】
図3は、実施形態の入力データ201における正常データ及び異常データの一例を示す図である。図3に示すグラフにおいて、横軸は1周期Pにおける経過時間tに対応し、縦軸は設備11に関する物理量の一例としての真空度xに対応している。ここで例示する入力データ201は、真空度xの周期P内における時系列変化を示すものであり、図3には周期Pの開始時から所定時間経過後に真空度xを下げるように制御される設備11の入力データ201が例示されている。
【0028】
図3において、正常データは実線で示され、異常データは破線で示されている。本例における正常データであるか異常データであるかの判定は、周期P内に設定された所定の時点t0における真空度xに基づいて行われる。本例では、時点t0における真空度xが閾値x0以下である場合には正常データであると判定し、時点t0における真空度xが閾値x0より大きい場合には異常データであると判定する。なお、正常データであるか異常データであるかの判定方法はこれに限定されるものではなく、物理量の種類等に応じて適宜決定されるべきものである。
【0029】
上記のような周期Pが連続的に繰り返されることにより、各周期Pにおいて入力データ201が取得され、複数の入力データ201のそれぞれについて正常データであるか異常データであるかが判定される。そして、このような判定結果に基づいて、複数の周期Pが繰り返されることにより構成される動作期間においてどの期間に異常が発生したかを特定できる。
【0030】
図4は、実施形態の動作期間P1及び異常発生期間P2の一例を示す図である。図4に示すグラフにおいて、横軸は複数の周期Pが繰り返されることにより構成される動作期間P1における経過時間Tに対応し、縦軸は各周期Pの時点t0における真空度xに対応している。異常発生期間P2は、時点t0における真空度xが閾値x0を超えた周期Pに対応する期間であり、当該異常発生期間P2に設備11の異常が発生した判定できる。
【0031】
図2に戻り、本実施形態の入力データ201には、教師データ211及び分析対象データ212が含まれる。
【0032】
教師データ211は、後述する分類モデル221を生成するために利用されるデータ群であり、予め用意された複数の正常データ及び複数の異常データを含み、各正常データ及び各異常データにはそれぞれ正解ラベルが付されている。正解ラベルは、正常データであるか異常データであるかを示す、二値のうちのいずれか一方の値であり、例えば正常データには正解ラベル「0」が付され、異常データには正解ラベル「1」が付される。
【0033】
また、本実施形態の教師データ211は、設備11の異常の要因A,B,…毎に用意される。例えば、要因Aに対応する教師データ211Aは、要因Aに対応する異常が発生した周期P(例えば図4に示される異常発生期間P2に含まれる周期P)に取得された異常データと、当該異常が発生した周期Pの前後の周期P(例えば図4に示される異常発生期間P2の前後の期間に含まれる周期P)に取得された正常データと、を含む。同様に、要因Bに対応する教師データ211Bは、要因Bに対応する異常が発生した周期Pに取得された異常データと、当該異常が発生した周期Pの前後の周期Pに取得された正常データと、を含む。
【0034】
図5は、実施形態の教師データ211の一例を示す図である。図5に例示されるように、要因Aに対応する教師データ211Aには、要因Aに対応する異常が発生した周期Pに取得された異常データと、当該異常が発生した周期Pの前後の周期Pに取得された正解データと、が含まれ、正解データには正解ラベル「0」が付され、異常データには正解ラベル「1」が付されている。他の要因B,…に対応する教師データB,…についても同様である。
【0035】
図2に戻り、分析対象データ212は、異常の要因の分析の対象となる入力データ201であり、要因が不明な異常が発生した周期Pに取得された異常データと、当該異常が発生した周期Pの前後の周期Pに取得された正常データと、を含む。また、教師データ211と同様に、分析対象データ212においても異常データ及び正常データのそれぞれに正解ラベル(例えば0又は1)が付される。
【0036】
分類部102は、ニューラルネットワークを利用して構成された学習済みモデルである分類モデル221を利用して、入力された入力データ201が正常データであるか異常データであるかを推定し、その推定結果を示す分類ラベルを出力する。本実施形態の分類モデル221は、設備11の異常の要因A,B,…毎に生成される。
【0037】
モデル生成部103は、教師データ211に基づいてニューラルネットワークにおけるパラメータ(重み、バイアス等)を調整する所定のディープラーニングを実行することにより分類モデル221を生成する。本実施形態のモデル生成部103は、要因A,B,…毎に用意された教師データ211(教師データ211A,211B,…)に基づいて、要因A,B,…毎に分類モデル221(分類モデル221A,221B,…)を生成する。ディープラーニングの具体的手法は特に限定されるべきものではないが、例えば誤差逆伝播法等が利用され得る。
【0038】
図6は、実施形態の分類部102の分類モデル221における処理の一例を示す図である。分類部102における各分類モデル221(分類モデル221A,221B,…)は、入力データ201が入力されると、当該入力データ201が正常データであるか異常データであるかを推定する処理を行い、その推定結果を示す分類ラベルを出力する。当該分類ラベルは、正常データである確率又は異常データである確率に応じて0から1の間の値を取るものである。例えば、入力データが正常データである確率が高ほど分類ラベルが0に近づくように、且つ入力データが異常データである確率が高いほど分類ラベルが1に近づくように設定される。このように設定した場合、各分類モデル221のニューラルネットワークにおけるパラメータは、分類ラベルと正解ラベルとの差分が小さくなるように、すなわち入力データ201が正常データである場合には分類ラベルが0に近い値となるように、且つ入力データ201が異常データである場合には分類ラベルが1に近い値となるように、モデル生成部103により調整される。
【0039】
図2に戻り、損失変動情報生成部104は、各分類モデル221A,B,…について後述する損失変動情報251(損失変動情報251A,251B,…)を生成する。本実施形態の損失変動情報生成部104は、損失演算部121及び微分処理部122を有する。
【0040】
損失演算部121は、入力データ201を各分類モデル221A,221B,…に入力して得られる分類ラベルと、当該入力データ201が正常データであるか異常データであるかを示す正解ラベルと、の差分に基づいて、各分類モデル221の損失を算出する。損失をE、入力データ201の数をN、i番目の入力データ201の物理量をxi、i番目の入力データ201の正解ラベル(0又は1)をp(xi)、i番目の入力データ201の分類ラベル(0~1)をq(xi)とするとき、損失Eは式(1)又は式(2)により算出され得る。なお、式(1)により算出される損失EはCross Entropy Lossに該当し、式(2)により算出される損失EはBinary Cross Entropy Lossに該当する。ただし、損失Eは平均二乗誤差や、平均絶対誤差であってもよく、これに限定されるものではない。
【0041】
【数1】
【0042】
【数2】
【0043】
微分処理部122は、損失Eを入力データ201の物理量(例えば上記真空度)xで微分した値であって物理量xの変化に対する損失Eの変化の大きさを示す微分値D=(∂E/∂x)を、周期P内における各時点について算出する。
【0044】
そして、損失変動情報生成部104は、上記微分値Dと周期P内における各時点との関係を示す情報である損失変動情報251を生成する。損失変動情報251については後に詳述する。
【0045】
記憶部105は、損失変動情報生成部104により生成された損失変動情報251(損失変動情報251A,B,…)と、それぞれに対応する要因A,B,…と、を紐付けて記憶する。
【0046】
出力部106は、損失変動情報生成部104により生成された、又は記憶部105に記憶された損失変動情報251を所定の形式で出力する。所定の形式とは、例えばユーザが視認可能な形式等であり得る。
【0047】
図7は、実施形態の損失変動情報251の一例を示す図である。図7に示される損失変動情報251のグラフにおいて、横軸は入力データ201の1周期Pにおける経過時間tに対応し、縦軸は微分値Dに対応している。また、同グラフにおいて、正常時における微分値Dの時系列変化は実線で示され、異常時における微分値Dの時系列変化は破線で示されている。
【0048】
実線で示されるように、正常時においては、損失Eが略0となるため、微分値Dは全周期Pにわたって略一定の値となる。一方、破線で示されるように、異常時においては、微分値Dに変動がみられる。微分値Dの絶対値は、真空度(物理量)xの変化に対する損失Eの変化の大きさを表しており、微分値Dの絶対値が相対的に大きい時点(本例では期間Δt1、特に期間Δt2に含まれる時点)に対応する真空度xの値は、異常の有無の判定や異常の要因の推定に大きく寄与するものと考えられる。
【0049】
各時点における真空度xの影響度は、例えば下記式(3)により算出され得る。
【0050】
【数3】
【0051】
上記式(3)において、Nは入力データ201の数、Eは損失、xitはi番目の入力データ201のt時点の真空度xの値を示している。x(バー)は下記式(4)を示している。
【0052】
【数4】
【0053】
上記式(3)において、右辺のルートの値は、t時点の真空度xの値の標準偏差を示しており、このような標準偏差を用いることで損失Eの変動を影響度に重み付けすることができ、影響度を高精度に算出することが可能となる。
【0054】
そして、上記のような微分値D(損失E)の変動の特徴、すなわち微分値Dの周期P内における時系列変化を示す曲線(図7に示される損失変動情報251における破線)の形状や、上記式(3)で示されるような各時点における影響度は、設備11の異常の要因毎に異なっている。
【0055】
そこで、先ず、予め要因A,B,…毎に用意された教師データ211A,B,…を利用して、要因A,B,…(分類モデル221A,221B,…)毎に損失変動情報251(損失変動情報251A,251B,…)を生成する事前処理を行う。そして、分析対象データ212に基づいて生成された損失変動情報251と、事前処理において予め生成された損失変動情報251(損失変動情報251A,251B,…)と、を比較することにより、分析対象データ212に対応する異常の要因を推定する分析処理を行う。これにより、分析対象データ212に対応する異常の要因を高精度に推定することが可能となる。
【0056】
図8は、実施形態の要因分析装置21における事前処理の一例を示すフローチャートである。先ず、モデル生成部103は要因A,B,…毎に用意された教師データ211A,211B,…を用いて要因A,B,…毎に分類モデル221A,221B,…を生成する(S101)。このとき、各分類モデル221A,221B,…のパラメータが誤差逆伝播法等により調整される。その後、分類部102は誤差が十分に小さくなるようにパラメータが調整された各分類モデル221A,221B,…にそれぞれ対応する教師データ211A,211B,…を入力して分類ラベルを出力する(S102)。
【0057】
その後、損失変動情報生成部104(損失演算部121)は出力された分類ラベルと教師データ211A,211B,…に付された正解ラベルとに基づいて分類モデル221A,B,…毎に損失Eを算出する(S103)。損失変動情報生成部104(微分処理部122)は算出された損失Eを教師データ211A,211B,…における物理量(例えば真空度)xで微分した微分値Dを算出する(S104)。そして、損失変動情報生成部104は算出された微分値Dと教師データ211A,211B,…の周期P内における各時点との関係を示す損失変動情報251A,251B,…を生成する(S105)。
【0058】
その後、記憶部105は生成された損失変動情報251A,251B,…と、それぞれに対応する要因A,B,…と、を紐付けて記憶する(S106)。なお、記憶部105に記憶された損失変動情報251A,251B,…はユーザの要求等に応じて所定の形式で(例えば可視化して)出力可能に構成されてもよい。
【0059】
図9は、実施形態の要因分析装置21における分析処理の一例を示すフローチャートである。先ず、分類部102は分析対象データ212を各分類モデル221A,211B,…に入力して分類ラベルを出力する(S201)。その後、損失変動情報生成部104(損失演算部121)は出力された分類ラベルと分析対象データ212に付された正解ラベルとに基づいて分類モデル221A,221B,…毎に損失Eを算出する(S202)。損失変動情報生成部104(微分処理部122)は算出された損失Eを分析対象データ212における物理量(例えば真空度)xで微分した微分値Dを算出する(S203)。そして、損失変動情報生成部104は算出された微分値Dと分析対象データ212の周期内における各時点との関係を示す損失変動情報251A,251B,…を生成する(S204)。
【0060】
その後、出力部106は上記のように生成された分析対象データ212の損失変動情報251A,251B,…をディスプレイ等に可視化して出力する(S205)。このとき、事前処理により予め生成され記憶部105に記憶された損失変動情報251A,251B,…を同時に可視化して出力し、分析対象データ212の損失変動情報251A,251B,…と教師データ211A,211B,…の損失変動情報251A,251B,…とを視覚的に比較できるようにしてもよい。
【0061】
上記実施形態によれば、ユーザは可視化された損失変動情報251に基づいて分析対象データ212に対応する異常の要因を高精度に推定することが可能となる。
【0062】
損失変動情報251に対して所定のアルゴリズムによる処理を実行することにより、異常の要因を自動的に推定できるようにしてもよい。例えば、所定の画像認識処理を利用して、可視化された複数の損失変動情報251の共通点を検出し、その検出結果に基づいて異常の要因を自動的に推定する処理等が行われてもよい。
【0063】
また、上記実施形態においては、正常データと異常データとが混在する入力データ201を分類モデル221に入力することにより損失変動情報251を生成する場合を説明したが、正常データと異常データとを分けて入力し、それぞれについて損失変動情報251を生成してもよい。これにより、正常データの分類に影響している時点と、異常データの分類に影響している時点と、を分けて把握することが可能となる。
【0064】
また、上記実施形態においては、分類モデル221を生成する、すなわちディープラーニングによりパラメータを調整するための処理を行うモデル生成部103が損失変動情報生成部104等と同一の情報処理装置に備えられている構成を例示したが、要因分析装置21の構成はこれに限定されるものではない。例えば、モデル生成部103は独立した情報処理装置により構成されてもよい。
【0065】
上記実施形態の要因分析装置21の機能を実現するための処理をコンピュータに実行させるプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD(Digital Versatile Disk)、フレキシブルディスク(FD)等のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記憶されてコンピュータプログラムプロダクトとして提供されるようにしてもよい。また、当該プログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するようにしてもよい。また、当該プログラムを、インターネット等のネットワーク経由で提供または配布するようにしてもよい。
【0066】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0067】
1…要因分析システム、11…設備、12…データベースサーバ、15…ネットワーク、21…要因分析装置、101…取得部、102…分類部、103…モデル生成部、104…損失変動情報生成部、105…記憶部、106…出力部、121…損失演算部、122…微分処理部、201…入力データ、211,211A,211B…教師データ、212…分析対象データ、221,221A,221B…分類モデル、251,251A,251B…損失変動情報、P…周期、P1…動作期間、P2…異常発生期間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9