(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056263
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】神経変性疾患抑制剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/8962 20060101AFI20240416BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240416BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20240416BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240416BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20240416BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240416BHJP
A61K 35/00 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
A61K36/8962
A61P25/00
A61K31/7105
A61K48/00
A61P25/16
A61P25/28
A61K35/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163020
(22)【出願日】2022-10-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年4月19日に、https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22K15304/で公開されている日本学術振興会のウェブサイトにて発表
(71)【出願人】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮村 充彦
(72)【発明者】
【氏名】常風 興平
(72)【発明者】
【氏名】石田 智滉
(72)【発明者】
【氏名】川田 敬
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
4C087
4C088
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084MA52
4C084NA14
4C084ZA02
4C084ZA16
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA16
4C087AA01
4C087AA02
4C087CA20
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4C087NA14
4C087ZA02
4C087ZA16
4C088AB87
4C088AC20
4C088BA06
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA02
4C088ZA16
(57)【要約】
【課題】本発明は、安全で、神経細胞を有効に保護することにより神経変性疾患を予防または治療することが可能な製剤を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る神経変性疾患抑制剤は、植物由来細胞外小胞を有効成分として含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物由来細胞外小胞を有効成分として含むことを特徴とする神経変性疾患抑制剤。
【請求項2】
ネギ属植物に由来する細胞外小胞を有効成分として含む請求項1に記載の神経変性疾患抑制剤。
【請求項3】
ニラに由来する細胞外小胞を有効成分として含む請求項1に記載の神経変性疾患抑制剤。
【請求項4】
前記細胞外小胞が、ath-miR166g、ath-miR168a-5p、ath-miR160b、ath-miR160a-5p、ath-miR160c-5p、及びath-miR159cから選択される1以上のmiRNAを含む請求項1に記載の神経変性疾患抑制剤。
【請求項5】
経口剤である請求項1に記載の神経変性疾患抑制剤。
【請求項6】
前記神経変性疾患が、パーキンソン病、脊髄小脳変性症、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、及び大脳皮質基底核変性症から選択される1以上の神経変性疾患である請求項1に記載の神経変性疾患抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全で、神経細胞を有効に保護することにより神経変性疾患を予防または治療することが可能な製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
神経変性疾患とは、脳や脊髄にある神経細胞の中で、ある特定の神経細胞群、例えば認知機能に関係する神経細胞や運動機能に関係する細胞が徐々に障害を受け脱落してしまう疾患である。脱落する神経細胞により症状は異なり、神経変性疾患としては、例えば、パーキンソン病など運動機能に障害が生じる疾患、脊髄小脳変性症や一部の痙性対麻痺など、体のバランスが取り難くなる疾患、筋萎縮性側索硬化症など筋力の低下が認められる疾患、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、大脳皮質基底核変性症など、認知機能が障害される疾患が挙げられる。
【0003】
神経変性疾患は、突然発症したり急激に悪化したりすることは少なく、徐々に進行することが多い。よって、神経変性疾患の予防薬や治療薬としては、毎日といった恒常的な投与が可能な安全なものが好ましい。例えば特許文献1に記載の神経変性疾患の予防剤及び/又は治療剤は、ローズマリーなど特定の植物の抽出物を有効成分とする。特許文献2に記載の年齢関連性神経変性疾患軽減用組成物は、全コーヒー果実抽出物を含む。
【0004】
ところで、近年、その細胞間情報伝達物質としての役割が明らかにされて以来、細胞外小胞であるエクソソームが注目を集めている。エクソソームは、ほとんどの細胞で内部形成されて細胞外に放出される、通常、30~200nm程度の小胞であり、細胞膜と同様の構成の脂質二重膜の内部に、脂質、タンパク質、核酸などの細胞成分を含んでいる。細胞外小胞としては、エクソソームの他に、マイクロベシクルやアポトーシス小胞が知られている。マイクロベシクルは、直径100~1000nmの粒子であり、細胞膜から細胞外へ直接分泌される以外、エクソソームと明確に区別は難しい。アポトーシス小胞は、直径1~5μm程度の粒子であり、細胞のプログラム細胞死により生じ、遺伝物質の情報伝達を担っているとの報告がある。
【0005】
また、細胞外小胞は、ドラッグ・デリバリー・システム(DDS)のための利用も検討されている(特許文献3,4、及び非特許文献1,2)。
【0006】
更に、エクソソーム自体の薬効に関しても検討されている。例えば特許文献5には、免疫系エンハンサー、サイレンサーおよびモジュレーターとしての植物エクソソームの使用が記載されている。特許文献6には、杜仲葉由来のエクソソームを含むウイルス感染症改善剤が開示されている。非特許文献3には、ブドウ由来の細胞外小胞が、腸幹細胞を誘導し、デキストラン硫酸ナトリウムにより引き起こされた大腸炎からマウスを保護することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-63018号公報
【特許文献2】特開2020-143075号公報
【特許文献3】特表2019-535839号公報
【特許文献4】特表2022-507710号公報
【特許文献5】特表2021-536257号公報
【特許文献6】特開2021-193070号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Baomei Wangら,Molecular Therapy,vol.22,no.3,522-534(2014)
【非特許文献2】Wenbo Niuら,Nano Lett.,2021,21,1484-1492
【非特許文献3】Songwen Juら,Molecular Therapy,vol.21,no.7,1345-1357(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、神経変性疾患は神経細胞の脱落により発症するが、まだ不明な点も多く、十分に有効な薬剤は未だ存在しないのが現状である。
そこで本発明は、安全で、神経細胞を有効に保護することにより神経変性疾患を予防または治療することが可能な製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、植物由来の細胞外小胞が神経変性疾患抑制剤の有効成分として有用であることを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0011】
[1] 植物由来細胞外小胞を有効成分として含むことを特徴とする神経変性疾患抑制剤。
[2] ネギ属植物に由来する細胞外小胞を有効成分として含む前記[1]に記載の神経変性疾患抑制剤。
[3] ニラに由来する細胞外小胞を有効成分として含む前記[1]に記載の神経変性疾患抑制剤。
[4] 前記細胞外小胞が、ath-miR166g、ath-miR168a-5p、ath-miR160b、ath-miR160a-5p、ath-miR160c-5p、及びath-miR159cから選択される1以上のmiRNAを含む前記[1]~[3]のいずれかに記載の神経変性疾患抑制剤。
[5] 経口剤である前記[1]~[4]のいずれかに記載の神経変性疾患抑制剤。
[6] 前記神経変性疾患が、パーキンソン病、脊髄小脳変性症、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、及び大脳皮質基底核変性症から選択される1以上の神経変性疾患である前記[1]~[5]のいずれかに記載の神経変性疾患抑制剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る神経変性疾患抑制剤の有効成分である細胞外小胞は、植物由来のものであることから比較的安全であると考えられる。また、本発明に係る神経変性疾患抑制剤は、神経細胞による炎症性メディエーターの産生を抑制できることから、神経細胞の炎症を直接抑制できる。更に、炎症性サイトカインなどによって発現が誘導され、神経細胞の保護作用を示すヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)の神経細胞による発現を促進することが可能である。また、本発明に係る神経変性疾患抑制剤は、血液脳関門を透過することができ、脳組織へ直接作用することも可能である。よって、本発明に係る神経変性疾患抑制剤は、安全で有効な神経変性疾患の抑制剤として、産業上非常に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1(1)は、ニラ由来細胞外小胞の透過型電子顕微鏡像であり、
図1(2)は、ニラ由来細胞外小胞の粒度分布である。
【
図2】
図2(1)は、LPS刺激によるBV-2細胞のNO産生量のニラ由来細胞外小胞またはデキサメタゾンによる抑制効果を示すグラフであり、
図2(2)は、TNFα産生量の抑制効果を示すグラフであり、
図2(3)は、IL-6産生量の抑制効果を示すグラフである。
【
図3】
図3(1)は、LPS刺激によるBV-2細胞のIL-6 mRNA発現量のニラ由来細胞外小胞による抑制効果を示すグラフであり、
図3(2)は、TNFα mRNA発現量の抑制効果を示すグラフであり、
図3(3)は、細胞保護効果を示すヘムオキシゲナーゼ-1 mRNA発現量のニラ由来細胞外小胞による増加効果を示すグラフであり、
図3(4)は、一酸化窒素合成酵素mRNA発現量の抑制効果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、蛍光色素のみを投与された対照群マウスの脳組織試料と、蛍光色素で染色したニラ由来細胞外小胞を投与された対照群マウスの脳組織試料の共焦点顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る神経変性疾患抑制剤は、有効成分として植物由来細胞外小胞を含む。以下、細胞外小胞(Extracellular vesicles)を「EVs」と略記する場合がある。なお、本発明において、「抑制」とは、神経変性疾患の発症を防ぐ予防や、発症した神経変性疾患の症状を軽減や寛解などする治療を含む概念である。
【0015】
細胞外小胞とは、細胞外に放出される、脂質二重層で覆われた核をもたない粒子の総称であり、核酸、タンパク質、脂質、各種代謝産物を含み、その産生機構から、エクソソーム、アポトーシス小胞、マイクロベシクルに分類される。アポトーシス小胞は、直径1~5μm程度の粒子であり、細胞のプログラム細胞死により生じ、遺伝物質の情報伝達を担っているとの報告がある。エクソソームは、ほとんどの細胞で内部形成されて細胞外に放出される、通常、30~200nm程度の小胞である。マイクロベシクルは、直径100~1000nmの粒子であり、細胞膜から細胞外へ直接分泌される以外、エクソソームと明確に区別は難しい。
【0016】
EVsのサイズは、一般的に、30nm以上、200nm以下程度、更には50nm以上、160nm以下程度であることから、血液脳関門を透過することができ、脳内の神経細胞の炎症を抑制し且つ保護できる可能性がある。
【0017】
本発明に係る神経変性疾患抑制剤の有効成分であるEVsは、植物から常法により得ることができる。例えば、目的の植物由来EVsの膜タンパク質に特異的な抗体を表面に有する磁気ビーズを用いる方法、目的の植物由来EVsの溶解度を下げる試薬を用いて遠心分離する方法、超遠心法などで目的の植物由来EVsを得ることができる。例えば超遠心法では、植物を水中で粉砕した後、濾過や遠心分離などを繰り返すことによりEVs抽出液を得る。この際、孔径が0.5μm以上のフィルターでの濾過や、50,000×g以下で1分間以上、30分間以下といった通常の条件の遠心分離では、EVsは液分に分散している。よって、これら通常の濾過や遠心分離などを繰り返すことにより、不純物を除去することができる。次いで、EVsを含む抽出液を、100,000×g以上で30分間以上、5時間以下といった超遠心分離により、EVsを沈殿として得ることができる。かかる超遠心分離により、EVsを可溶性成分から分離することができる。
【0018】
EVsを分離すべき植物は、得られるEVsが神経変性疾患の抑制作用を示すものであれば特に制限されないが、例えば、ネギ属(Allium)植物が挙げられる。ネギ属植物としては、例えば、ニラ(A.tuberosum Rottl.)、ネギ(A. fistulosum L.)、タマネギ(A.cepa L.)、ワケギ(var. caespitosum Makino)、ニンニク(A.sativum L.)、ラッキョウ(A.chinense G.Don)、ギョウジャニンニク(A.victorialis L.subsp.platyphyllum Hulten)、ノビル(A.macrostemon Bunge)、アサツキ(A.schoenoprasum L.var.foliosum Regel)が挙げられ、ニラが好ましい。
【0019】
EVsの原料とする植物の部位は、神経変性疾患の抑制作用を示すEVsが得られるものであれば特に制限されないが、例えば、茎、葉、花などの地上部や、根などの地下部が挙げられる。安全性の観点からは、例えば、ニラ、ネギ、ワケギ、ギョウジャニンニク、アサツキ等では葉、タマネギ、ニンニク、ラッキョウ、ノビル等では鱗茎など、食用部分を使うことが考えられる。
【0020】
細胞外小胞は、脂質二重膜中に核酸やタンパク質を含むものであることから、内部に含まれる核酸やタンパク質が神経変性疾患の抑制作用を示している可能性がある。本発明者らが試験した結果、神経変性疾患の抑制作用を示す細胞外小胞には、ath-miR166g、ath-miR168a-5p、ath-miR160b、ath-miR160a-5p、ath-miR160c-5p、及びath-miR159c等のmiRNAが含まれていた。
【0021】
本発明に係る神経変性疾患抑制剤の剤形は特に制限されないが、例えば、錠剤、カプセル剤、液剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤などの内服剤;エアゾール剤などの吸入剤;注射剤;坐剤などとすることができ得、内服剤などの経口剤が好ましい。本発明に係る神経変性疾患抑制剤は、剤形に応じて様々な添加成分を配合してもよい。例えば、基材、賦形剤、着色剤、滑沢剤、矯味剤、乳化剤、増粘剤、湿潤剤、安定剤、保存剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、界面活性剤、抗酸化剤、佐薬、緩衝剤、pH調整剤、甘味料、香料などを添加することができる。また、これら添加剤の配合量は、本発明の作用効果を妨げない様な量である限り、必要に応じて適宜設定することができる。更に、他の薬効成分を添加してもよい。
【0022】
本発明に係る神経変性疾患抑制剤は、非常に優れた神経細胞の炎症抑制作用や保護作用を示す一方で、食用の植物などに含まれる成分を有効成分としているために、安全性が比較的高く、恒常的な使用も可能であり得ると考えられる。よって、例えば、神経変性疾患の軽減や寛解のために一日あたり複数回の服用も可能であり得、また、神経変性疾患の予防などを目的として恒常的な服用も可能であり得る。
【0023】
本発明に係る神経変性疾患抑制剤の使用量は、患者の状態、年齢、性別などに応じて適宜調整すべきであり、特に制限されない。例えば、本発明に係る神経変性疾患抑制剤の投与量は、神経変性疾患の抑制作用が認められる範囲で適宜調整すればよいが、例えば、ヒトに対する1日あたり及び体重1kgあたりの細胞外小胞の投与量が、0.1mg以上、200mg以下程度となるように、1日当たり1回以上、5回以下程度投与することができる。なお、前記の患者には、神経変性疾患の症状や特徴が認められる者に限定されず、神経変性疾患の症状や特徴は認められないが、神経変性疾患を予防すべき者も含まれるものとする。また、患者には、ヒトの他、愛玩動物などヒト以外の動物が含まれるものとする。
【0024】
本発明の神経変性疾患は、神経細胞の炎症を直接抑制できる他、炎症などから神経細胞を保護する酵素の発現を誘導することができる。また、本発明の神経変性疾患の有効成分である細胞外小胞は植物由来のものであり、安全性が比較的高いと考えられるので、神経変性疾患の症状の緩和や寛解の目的の他、神経変性疾患の予防目的の薬剤として、或いは神経変性疾患の予防効果を有する健康食品または健康飲料として、恒常的に継続して使用することもでき得る。更に、本発明に係る神経変性疾患抑制剤は、血液脳関門を透過することができ、脳組織へ直接作用することも可能である。よって、特に脳組織中の神経細胞に関する疾患、例えば、パーキンソン病、脊髄小脳変性症、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、及び大脳皮質基底核変性症などに有効である可能性がある。
【実施例0025】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0026】
実施例1: ニラ由来細胞外小胞の単離
生のニラ(Allium tuberosum Rottler ex Sprengel)の可食部(100g)に精製水(200mL)を加え、食品用ミキサーで破砕してから濾過して抽出液を得た。得られた抽出液を8,000×gで5分間遠心分離し、上清を回収し、更に20,000×gで20分間遠心分離した。上清を回収し、0.8μmフィルター(Millipore社製)で濾過した。濾液を140,000×gで84分間超遠心分離した。上清を除去することにより、ペレット状のニラ由来細胞外小胞(A-EVs)を得た。
得られたA-EVsを透過型電子顕微鏡(「JEM-2000EX」日本電子社製)で観察し、また、得られた画像を粒子解析ソフトで解析して粒度分布を算出した。A-EVsの透過型電子顕微鏡像を
図1(1)に、粒度分布を
図1(2)に示す。
図1に示す通り、A-EVsの直径は21~431nmであり、平均粒子径は129.0±4.0nmであった。
【0027】
実施例2: ニラ由来細胞外小胞の炎症性メディエーターへの影響
マウスミクログリアBV-2細胞の培養液に、陽性対照としてステロイド系抗炎症薬であるデキサメタゾンを1.0μM、又は実施例1で得た細胞外小胞(A-EVs)を0~20μg/mL添加し、37℃で3時間インキュベートした。次いで、培養液に内毒素であるリポ多糖(LPS)を0.5μg/mL添加し、37℃で24時間刺激した。
24時間後に培養上清を回収し、炎症の指標となる一酸化窒素(NO)の産生量をGriess法で測定し、炎症性サイトカインであるTNFαおよびIL-6の産生量をサイトカイン測定ELISAキット(「Quantkinase ELISA Kit」R&D Systems社製)で測定した。また、対照群として、デキサメタゾン、A-EVsおよびリポ多糖のいずれも添加せず、同条件でインキュベートした培地中の各炎症性メディエーター濃度も同様に測定した。培地中のNO濃度を
図2(1)に、TNFα濃度を
図2(2)に、IL-6濃度を
図2(3)に示す。なお、
図2中、「*」は、Tukeyテストにおいてp<0.05でデキサメタゾンおよびA-EVsを添加しない場合に対して有意差があることを示し、「**」は、Tukeyテストにおいてp<0.01でデキサメタゾンおよびA-EVsを添加しない場合に対して有意差があることを示す。
図2に示される結果の通り、LPSの刺激によりBV-2細胞による炎症性メディエーターであるNO、TNFαおよびIL-6の産生量が増加したが、A-EVsにより用量依存的に炎症性メディエーターの産生量は低下し、添加量によってはステロイド系抗炎症薬であるデキサメタゾンと同等の炎症性メディエーター産生抑制効果が認められた。
【0028】
実施例3: 細胞外小胞の抗炎症効果
マウスミクログリアBV-2細胞の培養液に、実施例1で得た細胞外小胞(A-EVs)を20μg/mL添加し、37℃で3時間インキュベートした。次いで、培養液に内毒素であるリポ多糖(LPS)を0.5μg/mL添加し、37℃で6時間刺激した。
その後、BV-2細胞から全RNAを抽出し、炎症の指標となるIL-6、TNFα、及び一酸化窒素合成酵素(NOS2)のmRNA発現量を調べた。また、炎症性サイトカインなどによって発現が誘導され、細胞の保護作用を示すヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)のmRNA発現量も調べた。全RNAはQIAGEN社製の「RNeasy Kit」を用いて抽出し、各mRNAの発現量をThermo社製の「TaqMan
TM Gene Expression」を用いたReal time PCR法により測定した。IL-6 mRNAの相対的発現量を
図3(1)に、TNFα mRNAの相対的発現量を
図3(2)に、HO-1 mRNAの相対的発現量を
図3(3)に、NOS2 mRNAの相対的発現量を
図3(4)に示す。なお、
図3中、「*」は、Tukeyテストにおいてp<0.05で有意差があることを示し、「**」は、Tukeyテストにおいてp<0.01で有意差があることを示す。
図3に示される結果の通り、LPSの刺激によりBV-2細胞による炎症性メディエーターであるIL-6およびTNFαと、一酸化窒素合成酵素のmRNA発現量が有意に増加したが、A-EVsによりこれら発現量は有意に低下した。また、LPSによる刺激の有無にかかわらず、A-EVsは、炎症性サイトカインなど対して細胞を保護する作用を示すヘムオキシゲナーゼ-1の発現を有意に増加させた。
【0029】
実施例4: miRNA発現解析
RNA抽出キット(「miRneasy mini Kit」Qiagen社製)を用い、添付のプロトコールに従って、ニラ由来細胞外小胞(A-EVs)から全RNAを抽出した。Macrogen Japanへ、RNA配列解析を依頼した。TruSeq Small RNA Library Prep kit(Illumina社製)を用い、添付の指示に従って、ライブラリを調製した。RNA試料の品質は、電気泳動システム(「Agilent 2100 Bioanalyzer」Agilent Technologies社製)によって評価した。ライブラリの配列は、シーケンスシステム(「HiSeq2500」Illumina社製)で決定した。得られた配列読み取りデータは、クリーンなデータの作製のために、低品質読み取りデータ、反復配列、及びアダプター配列の除去を含むフィルターにかけた。次に、読み取りデータを、miRBase v22.1(2022年 3月; http://www.mirbase.org)、及びRNA central v14.0(2022年3月; https://rnacentral.org)を使ってアラインメントに付し、既知のmiRNAとその他のRNAタイプに分類した。同定された配列読み取りデータのうち、切り出された潜在的miRNAヘアピンのランドフォールドp値が0.05以下のものを解析に付した。ニラ由来細胞外小胞(A-EVs)に含まれる各成熟miRNAの読み取り数を表1に示す。
【0030】
【0031】
実施例5: 血液脳関門透過試験
ニラ由来細胞外小胞(A-EVs)を赤色蛍光色素PKH26で染色し、5.0mg/kgの用量でICRマウスに対して経口投与した。対象群(Control)には同量のPKH26のみを経口投与した。
投与から3時間後に三種混合麻酔を腹腔内投与し、下大静脈より全血を採取してからPBSで全身血管を灌流し,頸椎脱臼し安楽死させた。更に4%パラホルムアルデヒドで灌流固定し、全脳を摘出した。その後、摘出した脳を4%パラホルムアルデヒドに24時間浸漬することにより組織固定し、更に20%スクロース溶液に48時間浸漬した。粉末状にしたドライアイスで凍結した後に、クリオスタットを用いて30μmの厚さに薄切し、核染色してから共焦点顕微鏡で観察した。結果を
図4に示す。
【0032】
図4に示される結果の通り、対照群には蛍光色素PKH26による赤色部分は認められなかった。
一方、PKH26で染色したニラ由来細胞外小胞を投与したマウスにおいては、歯状回周辺に赤色蛍光染色された細胞が確認された。
以上の結果より、ニラ由来細胞外小胞は経口投与により血液脳関門を透過して脳まで到達できる可能性が示唆された。