(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056273
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】薬物輸送担体
(51)【国際特許分類】
A61K 47/46 20060101AFI20240416BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240416BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240416BHJP
【FI】
A61K47/46
A61K45/00
A61P25/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163039
(22)【出願日】2022-10-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年4月19日に、https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22K15304/で公開されている日本学術振興会のウェブサイトにて発表
(71)【出願人】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮村 充彦
(72)【発明者】
【氏名】常風 興平
(72)【発明者】
【氏名】石田 智滉
(72)【発明者】
【氏名】川田 敬
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076BB01
4C076CC01
4C076EE58A
4C084AA17
4C084MA52
4C084NA13
4C084ZA02
(57)【要約】
【課題】本発明は、安全で、薬物を対象細胞内や脳内にも送達し得る薬物輸送担体と、当該薬物輸送担体を含む製剤を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る薬物輸送担体は、ネギ属植物由来細胞外小胞を含むことを特徴とする。本発明に係る製剤は、ネギ属植物由来細胞外小胞および薬物を含み、前記薬物が前記ネギ属植物由来細胞外小胞に内包されていることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネギ属植物由来細胞外小胞を含むことを特徴とする薬物輸送担体。
【請求項2】
前記ネギ属植物がニラである請求項1に記載の薬物輸送担体。
【請求項3】
ネギ属植物由来細胞外小胞および薬物を含み、
前記薬物が前記ネギ属植物由来細胞外小胞に内包されていることを特徴とする製剤。
【請求項4】
前記ネギ属植物がニラである請求項3に記載の製剤。
【請求項5】
経口剤である請求項3に記載の製剤。
【請求項6】
前記薬物が中枢神経細胞に作用するものである請求項3に記載の製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全で、薬物を対象細胞内にも送達し得る薬物輸送担体と、当該薬物輸送担体を含む製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドラッグ・デリバリー・システム(DDS)とは、薬物の効果を最大限に発揮させるために理想的な体内動態に制御する技術・システムであり、必要最小限の薬物を、特定の臓器や組織など必要な場所に、タイミングや期間など必要なときに供給することを目指すものである。
【0003】
最も典型的かつ研究が進んでいるDDS担体の一例は、リポソームである。リポソームは、脂質二重層からなる球形の小胞であり、脂質二重層の脂質層に脂溶性化合物を含むことも可能であり、また内部に水溶性化合物を含むことも可能である。しかし、リポソームの大きさは、例えば細胞と同じくらいの約10μmであるなど、比較的大きい。よって、リポソームが血液脳関門を透過することは難しいといえる。
【0004】
ところで、近年、その細胞間情報伝達物質としての役割が明らかにされて以来、細胞外小胞であるエクソソームが注目を集めている。エクソソームは、ほとんどの細胞で内部形成されて細胞外に放出される、通常、30~200nm程度の小胞であり、細胞膜と同様の構成の脂質二重膜の内部に、脂質、タンパク質、核酸などの細胞成分を含んでいる。細胞外小胞としては、エクソソームの他に、マイクロベシクルやアポトーシス小胞が知られている。マイクロベシクルは、直径100~1000nmの粒子であり、細胞膜から細胞外へ直接分泌される以外、エクソソームと明確に区別は難しい。アポトーシス小胞は、直径1~5μm程度の粒子であり、細胞のプログラム細胞死により生じ、遺伝物質の情報伝達を担っているとの報告がある。
【0005】
また、細胞外小胞は、ドラッグ・デリバリー・システム(DDS)のための利用も検討されている。例えば非特許文献1には、抗悪性腫瘍薬であるが抗炎症作用も示すメトトレキサートを含むグレープフルーツ由来ナノ粒子がマクロファージに取り込まれ、大腸炎を軽減することが示されている。非特許文献2には、抗悪性腫瘍剤であるドキソルビシンを含むヘパリン系ナノ粒子を表面に貼り付けたグレープフルーツ由来の細胞外小胞により、抗神経膠腫効果を増強したことが記載されている。特許文献1には、ミルク由来のエクソソームを、患者の組織または器官への治療薬の送達に使うことが記載されている。特許文献2には、果実などに由来するナノ粒子を疾患や障害の治療または予防する送達ビヒクルとして用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2019-535839号公報
【特許文献2】特表2022-507710号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Baomei Wangら,Molecular Therapy,vol.22,no.3,522-534(2014)
【非特許文献2】Wenbo Niuら,Nano Lett.,2021,21,1484-1492
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、グレープフルーツ等に由来する細胞外小胞をドラッグ・デリバリー・システムに利用することは知られていた。しかし、実用化のために、新たなドラッグ・デリバリー・システムが求められている。
そこで本発明は、安全で、薬物を対象細胞内や脳内にも送達し得る薬物輸送担体と、当該薬物輸送担体を含む製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、ネギ属植物由来細胞外小胞が薬物輸送担体として極めて有用であることを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0010】
[1] ネギ属植物由来細胞外小胞を含むことを特徴とする薬物輸送担体。
[2] 前記ネギ属植物がニラである前記[1]に記載の薬物輸送担体。
[3] ネギ属植物由来細胞外小胞および薬物を含み、
前記薬物が前記ネギ属植物由来細胞外小胞に内包されていることを特徴とする製剤。
[4] 前記ネギ属植物がニラである前記[3]に記載の製剤。
[5] 経口剤である前記[3]または[4]に記載の製剤。
[6] 前記薬物が中枢神経細胞に作用するものである前記[3]~[5]のいずれかに記載の製剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る薬物輸送担体であるネギ属植物由来細胞外小胞は、食用にも付されるネギ属植物由来のものであることから比較的安全であると考えられる。また、本発明に係る薬物輸送担体は、細胞膜を透過して細胞内へ取り込まれ得、薬物を細胞内へ送達することができる。更に、本発明に係る薬物輸送担体は、血液脳関門を透過することができ、脳組織へ薬物を送達することも可能である。よって本発明は、安全で新たなドラッグ・デリバリー・システムのための技術として、産業上非常に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1(1)は、ニラ由来エクソソームの透過電子顕微鏡像であり、
図1(2)は、ニラ由来エクソソームの粒度分布である。
【
図2】
図2(1)は、膜染色したニラ由来細胞外小胞の共焦点レーザー走査型顕微鏡写真であり、
図2(2)は、細胞核を染色したマウスミクログリア細胞の共焦点レーザー走査型顕微鏡写真であり、
図2(3)は、これらをマージした写真である。
【
図3】
図3は、未処理、LPS処理、LPS+デキサメタゾン含有ニラ由来細胞外小胞処理、LPS+ニラ由来細胞外小胞処理、及びLPS+デキサメタゾン処理したマウスミクログリア細胞による一酸化窒素(NO)産生量を示すグラフである。
【
図4】
図4は、蛍光色素のみを投与された対照群マウスの脳組織試料と、蛍光色素で染色したニラ由来細胞外小胞を投与された対照群マウスの脳組織試料の共焦点顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係る薬物輸送担体は、ネギ属植物由来細胞外小胞を含む。以下、細胞外小胞(Extracellular vesicles)を「EVs」と略記する場合がある。
【0014】
細胞外小胞とは、細胞外に放出される、脂質二重層で覆われた核をもたない粒子の総称であり、核酸、タンパク質、脂質、各種代謝産物を含み、その産生機構から、エクソソーム、アポトーシス小胞、マイクロベシクルに分類される。アポトーシス小胞は、直径1~5μm程度の粒子であり、細胞のプログラム細胞死により生じ、遺伝物質の情報伝達を担っているとの報告がある。エクソソームは、ほとんどの細胞で内部形成されて細胞外に放出される、通常、30~200nm程度の小胞である。マイクロベシクルは、直径100~1000nmの粒子であり、細胞膜から細胞外へ直接分泌される以外、エクソソームと明確に区別は難しい。
【0015】
EVsのサイズは、一般的に、30nm以上、200nm以下程度、更には50nm以上、160nm以下程度であることから、血液脳関門を透過することができ、脳内の神経細胞の炎症を抑制し且つ保護できる可能性がある。
【0016】
本発明に係る神経変性疾患抑制剤の有効成分であるEVsは、植物から常法により得ることができる。例えば、目的の植物由来EVsの膜タンパク質に特異的な抗体を表面に有する磁気ビーズを用いる方法、目的の植物由来EVsの溶解度を下げる試薬を用いて遠心分離する方法、超遠心法などで目的の植物由来EVsを得ることができる。例えば超遠心法では、植物を水中で粉砕した後、濾過や遠心分離などを繰り返すことによりEVs抽出液を得る。この際、孔径が0.5μm以上のフィルターでの濾過や、50,000×g以下で1分間以上、30分間以下といった通常の条件の遠心分離では、EVsは液分に分散している。よって、これら通常の濾過や遠心分離などを繰り返すことにより、不純物を除去することができる。次いで、EVsを含む抽出液を、100,000×g以上で30分間以上、5時間以下といった超遠心分離により、EVsを沈殿として得ることができる。かかる超遠心分離により、EVsを可溶性成分から分離することができる。
【0017】
本発明で用いる細胞外小胞は、ネギ属(Allium)植物に由来するものである。ネギ属植物としては、例えば、ニラ(A.tuberosum Rottl.)、ネギ(A. fistulosum L.)、タマネギ(A.cepa L.)、ワケギ(var. caespitosum Makino)、ニンニク(A.sativum L.)、ラッキョウ(A.chinense G.Don)、ギョウジャニンニク(A.victorialis L.subsp.platyphyllum Hulten)、ノビル(A.macrostemon Bunge)、アサツキ(A.schoenoprasum L.var.foliosum Regel)が挙げられ、食用のネギ属植物が好ましく、ニラがより好ましい。
【0018】
EVsの原料とするネギ属植物の部位は、薬物輸送担体の主成分として利用可能なものであれば特に制限されないが、例えば、茎、葉、花などの地上部や、根などの地下部が挙げられる。安全性の観点からは、例えば、ニラ、ネギ、ワケギ、ギョウジャニンニク、アサツキ等では葉、タマネギ、ニンニク、ラッキョウ、ノビル等では鱗茎など、食用部分を使うことが考えられる。
【0019】
本発明に係る製剤は、薬物輸送担体であるネギ属植物由来細胞外小胞と、薬物を含む。薬物としては、薬物輸送担体に内包されて、罹患部位や臓器といった対象部位へ送達されるべきものであれば特に制限されないが、例えば、抗認知症薬、抗パーキンソン病薬、精神安定剤、抗精神病薬、抗てんかん薬、睡眠薬、麻酔薬、抗がん剤、降圧剤、抗生物質、抗アレルギー薬、解熱・鎮痛・抗炎症薬、ビタミン剤、風邪薬、漢方薬、肝臓病治療薬、呼吸器系疾患治療薬、心臓病治療薬、目薬、勃起不全治療薬、糖尿病治療薬、抗真菌薬、バイオ医薬品、ステロイド薬、及び筋ジストロフィー治療薬などが挙げられる。本発明に係る薬物輸送担体は、比較的小さいため、循環単球により貪食され難いといえる。また、経口摂取により腸管粘膜から吸収され得、細胞に取り込まれることにより、薬剤を細胞内に送達することができ得る。
【0020】
一般的に、水溶性の高い化合物や粗大な化合物は血液脳関門を透過することができない。一方、本発明に係る薬物輸送担体は、脂質二重層の小胞であることから血液脳関門を透過できる。よって、抗認知症薬、抗パーキンソン病薬、精神安定剤、抗精神病薬、抗てんかん薬、睡眠薬、麻酔薬など、中枢神経細胞に作用するもの、特に脳内で作用を示す薬物の送達に有用であり得る。
【0021】
抗認知症薬としては、例えば、塩酸ドネペジル、ガランタミン、イクセロン、リバスチグミン、及びメマンチンが挙げられる。
【0022】
抗パーキンソン病剤としては、例えば、L-ドパ、ドパミンアゴニスト、MAO-B阻害薬、カテコール-o-メチル転移酵素阻害薬、アマンタジン等のドパミン遊離促進薬、抗コリン薬、ドロキシドパ等のノルアドレナリン補充薬、ゾニサミド等のドパミン賦活薬、アデノシン受容体拮抗薬などが挙げられる。
【0023】
精神安定剤および睡眠薬としては、例えば、エチゾラム、アルプラゾラム、ロラゼパム、ブロマゼパム等のベンゾジアゼピン系抗不安薬や、タンドスピロン等のセロトニン1A部分作動薬などが挙げられる。
【0024】
抗精神病薬としては、例えば、クロルプロマジン等のフェノチアジン系抗精神病薬;、ハロペリドール等のブチロフェノン系抗精神病薬;スルピリド、ネモナプリド等のベンザミド系抗精神病薬;リスペリドン等のセロトニン・ドーパミン遮断薬などが挙げられる。
【0025】
抗てんかん薬としては、例えば、ヒダントイン系てんかん薬、バルビツール系てんかん薬、トリアジル系てんかん薬、イミノスチル、複合アレビアチン配合薬などが挙げられる。
【0026】
麻酔薬としては、例えば、イソフルラン、デスフルラン、セボフルラン、キセノン、亜酸化窒素、チオペンタールナトリウム、チアミラールナトリウム、フェンタニル、フェンタニルクエン酸塩、レミフェンタニル塩酸塩、ドロベリドール・フェンタニルクエン酸塩、ケタミン塩酸塩、プロポフォール等が挙げられる。
【0027】
また、本発明に係る薬物輸送担体は、腫瘍血管を通過する能力を有し、腫瘍組織へ受動的蓄積される可能性があるため、抗がん剤の送達に有用であり得る。抗がん剤としては、例えば、イホスファミド、シクロホスファミド、カルバジン、チオテパ、テモゾロミド、ニムスチン、ブスルファン、プロカルバジン、メルファラン、ラニムスチン、カルムスチン、クロラムブシル、スプレプトゾシン等のアルキル化剤;エノシタビン、カペシタビン、カモフール、クラドリビン、ゲムシタビン、シタラビン、シタラビンオクスタファート、テガフール、テガフール・ウラシル配合剤、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤、ドキシフルリジン、ヒドロキシカルバミド、フルオロウラシル、フルダラビン、ペメトレキセド、ペメトレキセドナトリウム水和物、メトトキサレート、メルカプトプリン、クロファラビン、ネララビン、フロクスウリジン等の代謝拮抗薬;イリノテカン、エトポシド、ゾブゾキサン、ドセタキセル、ノギテカン、パクリタキセル、ビノレルビン、ビンクリスチン、ビンデシン、ビンブラスチン、バルルビシン、リポソーマル・ダウノルビシン等の植物アルカロイド;アクチノマイシンD、アクラルビシン、アムルビシン、イダルビシン、エピルビシン、ジスタチンスチラマー、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ピラルビシン、ブレオマイシン、ペプロマイシン、マイトマイシンC、ミトキサントロン、リポソーマルドキソルビシン等の抗がん性抗生物質;オキサリプラチン、カルボプラチン、シスプラチン、ネダプラチン等のプラチナ製剤;アナストロゾール、エキセメスタン、エストラムスチン、エチニルエストラジオール、クロルマジノン、ゴセレリン、タモキシフェン、デキサメタゾン、トレミフェン、ピカルタミド、ファドロゾール、フルタミド、プレドニゾロン、ホスフェストロール、ミトタン、メチルテストステロン、メドロキシプロゲステロン、メピチオスタン、リュープロレリン、レトロゾール、フルベストラント等のホルモン剤;インターフェロンα,β、γ、ウベニメクス、かわらたけ多糖体、乾燥BCG、溶連菌抽出物、レンチナン等の生物学的応答調節剤;イマチニブ、ゲフィチニブ、ゲッムツズマブオゾガマイシン、タミバロテン、トレチノイン、トラスツズマブ、ボルテゾミフ、リツキシマブ、L-アスパラギナーゼ、アルムツズマブ、セツキシマブ、スニチニブ、ソラフェニブ、ダサチニブ、テムシロリムス、ベバシズマブ等の分子標的薬;ニボルマブ、ベムブロリズマブ等の免疫チェックポイント阻害薬;三酸化ヒ素、ホリナートカルシウム、レボホリナートカルシウム、エルロチニブ、クリゾチニブ、ギテカン(トポテカン)、ビノレルビン、エベロリムス、エムタンシン、フルベストラント、プレドニゾロン/メチルプレドニゾロン、ラパチニブ、オクトレオチド、ギメラシル、オテラシルカリウム、パニツムマブ、レゴラフェニブ、アキシチニブ、テセロイキン、パゾパニブ、サリドマイド、イリノテカン等その他の抗がん剤などが挙げられる。
【0028】
本発明に係る製剤は、例えば、溶媒中、ネギ属植物由来細胞外小胞と薬物を混合することにより製造することができる。溶媒としては、細胞外小胞が維持されるよう水系溶媒を用いることができる。水系溶媒としては、水、及び水溶液が挙げられる。水溶液としては、生理食塩水、緩衝液、水混和性有機溶媒と水との混合溶液が挙げられる。水混和性溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のC1-4アルコールが挙げられる。前記混合溶媒中の水混和性有機溶媒の割合としては、30質量%以下が好ましく、20質量%以下または10質量%以下がより好ましく、5質量%以下、2質量%以下または1質量%以下がより更に好ましい。
【0029】
反応液中におけるネギ属植物由来細胞外小胞の濃度は適宜調整すればよいが、例えば、0.001mg/mL以上、10mg/mL以下程度とすることができる。反応液中における薬物の濃度は、薬物の溶解度などにもよるが、例えば、0.005mg/mL以上、50mg/mL以下程度とすることができる。
【0030】
反応条件は、薬物がネギ属植物由来細胞外小胞に取り込まれるよう適宜調整すればよい。例えば、反応温度を10℃以上、45℃以下程度、反応時間を10分以上、10時間以下程度とすることができる。
【0031】
反応後は、一般的な後処理をすればよい。例えば、超遠心分離や、限外濾過と希釈の繰り返しなどにより、ネギ属植物由来細胞外小胞に取り込まれなかった薬剤と薬剤が取り込まれたネギ属植物由来細胞外小胞を分離することができる。
【0032】
本発明に係る製剤の剤形は特に制限されないが、例えば、錠剤、カプセル剤、液剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤などの内服剤;エアゾール剤などの吸入剤;注射剤;坐剤などとすることができ得、内服剤などの経口剤が好ましい。本発明製剤は、剤形に応じて様々な添加成分を配合してもよい。例えば、基材、賦形剤、着色剤、滑沢剤、矯味剤、乳化剤、増粘剤、湿潤剤、安定剤、保存剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、界面活性剤、抗酸化剤、佐薬、緩衝剤、pH調整剤、甘味料、香料などを添加することができる。また、これら添加剤の配合量は、本発明の作用効果を妨げない様な量である限り、必要に応じて適宜設定することができる。更に、他の薬効成分を添加してもよい。
【0033】
本発明製剤の使用量は、薬物の種類、薬物の取込量、患者の状態、年齢、性別などに応じて適宜調整すべきであり、特に制限されない。例えば、本発明製剤の投与量は、薬物の薬効が発揮される範囲で適宜調整すればよいが、例えば、ヒトに対する1日あたり及び体重1kgあたりのネギ属植物由来細胞外小胞と薬物との合計投与量が、0.1mg以上、200mg以下程度となるように、1日当たり1回以上、5回以下程度投与することができる。なお、患者には、ヒトの他、愛玩動物などヒト以外の動物が含まれるものとする。
【実施例0034】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0035】
実施例1: ニラ由来細胞外小胞の単離
生のニラ(Allium tuberosum Rottler ex Sprengel)の可食部(100g)に精製水(200mL)を加え、食品用ミキサーで破砕してから濾過して抽出液を得た。得られた抽出液を8,000×gで5分間遠心分離し、上清を回収し、更に20,000×gで20分間遠心分離した。上清を回収し、0.8μmフィルター(Millipore社製)で濾過した。濾液を140,000×gで84分間超遠心分離した。上清を除去することにより、ペレット状のニラ由来細胞外小胞(A-EVs)を得た。
得られたA-EVsを透過電子顕微鏡(「JEM-2000EX」日本電子社製)で観察し、また、得られた画像を粒子解析ソフトで解析して粒度分布を算出した。A-EVsの透過電子顕微鏡像を
図1(1)に、粒度分布を
図1(2)に示す。
図1に示す通り、A-EVsの直径は21~431nmであり、平均粒子径は129.0±4.0nmであった。
【0036】
実施例2: ニラ由来細胞外小胞のBV-2細胞への移行性
実施例1で得たA-EVsを、エクソソーム膜蛍光染色キット(「ExoSparkler Exosome Membrane Labeling Kit-Green」Dojindo laboratories社製)を用いて膜染色し、標識したA-EVsをマウスミクログリアBV-2細胞に20μg/mLの濃度で添加し、3時間反応させた。次いで、細胞核のDNAと結合する蛍光染料である4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドールを使用し、細胞核を染色して、共焦点レーザー走査型顕微鏡(「FV-1000D/IX81」オリンパス社製)で観察した。結果を
図2に示す。
【0037】
図2の通り、染色されたエクソソーム膜と染色された細胞核が重複しているか又は接していることから、A-EVsがミクログリア細胞に取り込まれていることが実証された。
【0038】
実施例3: ニラ由来細胞外小胞へのデキサメタゾンの封入
リン酸緩衝液(10mL)に、実施例1で得たA-EVsを0.050mg/mL、及びステロイド系抗炎症薬であるデキサメタゾンを0.10mg/mLの濃度で混合し、37℃の温浴で1時間インキュベートした。その後、100kDaのフィルター(Millipore社製)を用いて限外濾過し、1.0mLまで濃縮してからPBSで総量が10mLになるように希釈した。限外濾過と希釈を3回繰り返し、溶液中に残留しているデキサメタゾンを洗浄除去してから、再度、1.0mLまで限外濾過で濃縮した液をデキサメタゾン封入EVs(EVs-Dex)とした。
得られたEVs-Dexをアセトニトリルで3倍に希釈し、0.22μmフィルター(Millipore社製)で濾過した液について、HPLCを用いてデキサメタゾンの含量を評価した。HPLCの機器としては、島津製作所製のLC-20システム、LC-20 AR HPLCポンプ、DGU-20A3R脱気装置、及びSIL-20 A オートサンプラーを使用した。カラムとしては、Cosmosil 5C18-AR-II(150×4.6mm,5mm,ナカライテスク社製)を使用し、40℃に維持した。移動相Aは0.05vol%酢酸/水からなり、移動相B溶液はアセトニトリルであり、A:B=55%:45%の割合で流速1.0mL/minに設定した。波長240nmを測定した。
また、EVs-Dexのタンパク量をBCA法で測定し、EVs-Dexにおけるデキサメタゾン含量をタンパク量からの割合で換算した。
その結果、EVs-Dexには、タンパク量あたり、0.22±0.03mg/タンパク量mgのデキサメタゾンが含まれることが分かった。
【0039】
実施例4: EVs-DexのNO産生量への影響
マウスミクログリアBV-2細胞を、Dex-EVs(1.0μg/mL)、又はそれぞれ同量のニラ由来EVs(1.0μg/mL)もしくはデキサメタゾン(0.5μM,0.20mg/mL)で3時間前処理した後、0.5μg/mLリポ多糖(LPS)で刺激した。24時間後に培養上清を回収し、炎症の指標となる一酸化窒素(NO)の産生量を測定した。結果を
図3に示す。
図3中、「**」は、Tukeyテストにおいてp<0.01で有意差があることを示す。
【0040】
図3に示される結果の通り、LPS処理により、BV-2細胞によるNOの産生量は増加した。かかるNO産生量の増加は、ニラ由来EVs、またステロイド系抗炎症薬であるデキサメタゾンでも有意に抑制できなかった。
それに対して、LPS処理によるBV-2細胞のNO産生量の増加は、Dex-EVs(1.0μg/mL)により有意に抑制された。
かかる結果は、ニラ由来EVsに封入されることでデキサメタゾンの細胞への移行性が向上し、より強力なNO産生抑制効果が発揮されたことを示唆すると考えられる。
【0041】
実施例5: 血液脳関門透過試験
ニラ由来細胞外小胞(A-EVs)を赤色蛍光色素PKH26で染色し、5.0mg/kgの用量でICRマウスに対して経口投与した。対象群(Control)には同量のPKH26のみを経口投与した。
投与から3時間後に三種混合麻酔を腹腔内投与し、下大静脈より全血を採取してからPBSで全身血管を灌流し、頸椎脱臼し安楽死させた。更に4%パラホルムアルデヒドで灌流固定し、全脳を摘出した。その後、摘出した脳を4%パラホルムアルデヒドに24時間浸漬することにより組織固定し、更に20%スクロース溶液に48時間浸漬した。粉末状にしたドライアイスで凍結した後に、クリオスタットを用いて30μmの厚さに薄切し、核染色してから共焦点顕微鏡で観察した。結果を
図4に示す。
【0042】
図4に示される結果の通り、対照群には蛍光色素PKH26による赤色部分は認められなかった。
一方、PKH26で染色したニラ由来細胞外小胞を投与したマウスにおいては、歯状回周辺に赤色蛍光染色された細胞が確認された。
以上の結果より、ニラ由来細胞外小胞は経口投与により血液脳関門を透過して脳まで到達し、経口投与により薬物を脳組織まで送達することができる可能性が示唆された。