(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056497
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】ニードルコークス用原料組成物、生コークスおよびその製造方法、黒鉛電極用ニードルコークスおよびその製造方法、黒鉛電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
C10B 57/04 20060101AFI20240416BHJP
C10B 57/06 20060101ALI20240416BHJP
C01B 32/05 20170101ALI20240416BHJP
C01B 32/205 20170101ALI20240416BHJP
【FI】
C10B57/04 101
C10B57/06
C01B32/05
C01B32/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】25
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163406
(22)【出願日】2022-10-11
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】下岡 智
(72)【発明者】
【氏名】森竹 慎治
(72)【発明者】
【氏名】水野 弘樹
【テーマコード(参考)】
4G146
4H012
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AA02
4G146AA16
4G146AA17
4G146AB05
4G146AD23
4G146BA22
4G146BA27
4G146BB04
4G146BB05
4G146BB06
4G146BB16
4G146BB17
4G146BC34B
4G146BC35B
4G146BC36A
4H012NA05
4H012PA00
(57)【要約】
【課題】ニードルコークスの製造時に多大なコストをかけることなく、ニードルコークスのパッフィングを抑制し、黒鉛電極の製造歩留まりと特性を向上させることができるニードルコークス用原料組成物、生コークスおよびその製造方法、黒鉛電極用ニードルコークスおよびその製造方法、黒鉛電極の製造方法を提供すること。
【解決手段】黒鉛電極の製造に用いられるニードルコークスの原料組成物であって、原料ピッチ中にインヒビターが内包されているニードルコークス用原料組成物。前記ニードルコークス用原料組成物を用いて得た黒鉛電極用ニードルコークスを骨材として用い、黒鉛化処理して黒鉛電極を得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛電極の製造に用いられるニードルコークスの原料組成物であって、
原料ピッチ中に黒鉛電極製造用インヒビターが内包された、ニードルコークス用原料組成物。
【請求項2】
前記黒鉛電極製造用インヒビターが、以下の元素(Mβ)からなる金属、および、以下の元素(Mβ)を有する酸化物の少なくとも一方を含む、請求項1に記載のニードルコークス用原料組成物。
元素(Mβ):長周期型周期表の第4族元素、第8族元素、第9族元素、第10族元素、第13族元素、第14族元素および第15族元素からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素。
【請求項3】
前記元素(Mβ)が、Si、Ge、Al、B、Ti、FeおよびPからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素である、請求項2に記載のニードルコークス用原料組成物。
【請求項4】
前記元素(Mβ)を有する酸化物が、以下の元素(Mα)および前記元素(Mβ)を有する複合酸化物である、請求項2に記載のニードルコークス用原料組成物。
元素(Mα):少なくとも一種の金属元素(ただし元素(Mβ)を除く)。
【請求項5】
前記元素(Mα)が、K、Sc、アルカリ土類金属元素および希土類金属元素からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素である、請求項4に記載のニードルコークス用原料組成物。
【請求項6】
前記複合酸化物の組成式が、以下の式(1)である、請求項4に記載のニードルコークス用原料組成物。
Mα3-xMβ1-yO5-z ・・・(1)
(式中、0≦x<3、0≦y<1、0≦z<5である。)
【請求項7】
前記原料ピッチが、コールタール、FCCデカントオイル、エチレンヘビーエンド、石油系残渣、石油系廃棄物、バイオマスオイル、またはバイオマスタールに由来するピッチの1種以上を含む、請求項1に記載のニードルコークス用原料組成物。
【請求項8】
前記原料ピッチの総重量に対する前記黒鉛電極製造用インヒビターの割合(重量%)をXとしたとき、0.01<X<5である、請求項1に記載のニードルコークス用原料組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のニードルコークス用原料組成物の炭化物である、生コークス。
【請求項10】
生コークスの総重量に対する前記黒鉛電極製造用インヒビターの割合(重量%)をYとしたとき、0.02<Y<10である、請求項9に記載の生コークス。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか一項に記載のニードルコークス用原料組成物をコーキングして生コークスを得る、生コークスの製造方法。
【請求項12】
コーキング温度が300℃以上600℃以下である、請求項11に記載の生コークスの製造方法。
【請求項13】
コーキング時の圧力がゲージ圧で0.01MPa以上0.99MPa以下である、請求項11に記載の生コークスの製造方法。
【請求項14】
前記黒鉛電極製造用インヒビターと前記原料ピッチをタンク中で混合し、コーキングする、請求項11に記載の生コークスの製造方法。
【請求項15】
前記黒鉛電極製造用インヒビターと前記原料ピッチを配管内で混合し、コーキングする、請求項11に記載の生コークスの製造方法。
【請求項16】
請求項9に記載の生コークスの炭素化物である、黒鉛電極用ニードルコークス。
【請求項17】
前記黒鉛電極用ニードルコークスの総重量に対する前記黒鉛電極製造用インヒビターの割合(重量%)をZとしたとき、0.02<Z<15である、請求項16に記載の黒鉛電極用ニードルコークス。
【請求項18】
以下の評価試験(i)で作成されたテストピースの下記式(I)で算出されるパッフィング値P2800が0.60%以下である、請求項16に記載の黒鉛電極用ニードルコークス。
P2800=(L2-L1)/L1×100 ・・・(I)
ただし式(I)中のL1およびL2は以下の意味を示す。
L1:焼成前のテストピースの厚み(mm)
L2:2800℃まで焼成後のテストピースの厚み(mm)
<評価試験(i)>
前記黒鉛電極用ニードルコークスと、前記黒鉛電極用ニードルコークスに対して外割で30重量%のバインダーピッチとを混ぜ合わせ、165℃で加熱しながら5分間混錬する。これを20mmΦ×3mm~15mmの円板状にモールド成形し、焼成炉を用いて1000℃で3時間か焼し、前記バインダーピッチを焼き飛ばしてテストピースとする。テストピースを昇温速度20℃/分で2800℃まで昇温して焼成し、焼成前後のテストピースのL1およびL2を測定する。
【請求項19】
以下の評価試験(ii)で作成されたテストピースの下記式(II)で算出されるパッフィング値P1700-2100が0.60%以下である、請求項16に記載の黒鉛電極用ニードルコークス。
P1700-2100=(L3-L4)/L5×100 ・・・(II)
ただし式(II)中のL3、L4およびL5は以下の意味を示す。
L3:2100℃焼成時点のテストピースの厚み(mm)
L4:1700℃焼成時点のテストピースの厚み(mm)
L5:1000℃焼成時点のテストピースの厚み(mm)
<評価試験(ii)>
前記黒鉛電極用ニードルコークスと、前記黒鉛電極用ニードルコークスに対して外割で30重量%のバインダーピッチとを混ぜ合わせ、165℃で加熱しながら5分間混錬する。これを20mmΦ×3mm~15mmの円板状にモールド成形し、焼成炉を用いて1000℃で3時間か焼し、バインダーピッチを焼き飛ばしてテストピースとする。テストピースを昇温速度20℃/分で2800℃まで昇温熱膨張測定装置を使用して焼成し、焼成中のテストピースのL3、L4およびL5を測定する。
【請求項20】
前記評価試験(i)において、前記黒鉛電極製造用インヒビターを内包していない原料ピッチを用いたニードルコークスを用いる以外は同様の方法でテストピースを作成し、当該テストピースの前記式(I)で算出されるパッフィング値(ブランク)をP2800bとしたとき、P2800/P2800bで算出されるパッフィング値の比が1未満である、請求項18に記載の黒鉛電極用ニードルコークス。
【請求項21】
前記評価試験(ii)において、前記黒鉛電極製造用インヒビターを内包していない原料ピッチを用いたニードルコークスを用いる以外は同様の方法でテストピースを作成し、当該テストピースの前記式(II)で算出されるパッフィング値(ブランク)をP1700-2100bとしたとき、P1700-2100/P1700-2100bで算出されるパッフィング値の比が1未満である、請求項19に記載の黒鉛電極用ニードルコークス。
【請求項22】
請求項9に記載の生コークスを1000℃以上1700℃以下でか焼してニードルコークスを得る、黒鉛電極用ニードルコークスの製造方法。
【請求項23】
請求項16に記載の黒鉛電極用ニードルコークスを骨材として用い、黒鉛化処理して黒鉛電極を得る、黒鉛電極の製造方法。
【請求項24】
前記黒鉛化処理の温度が2500℃以上3000℃以下である、請求項23に記載の黒鉛電極の製造方法。
【請求項25】
前記黒鉛電極中に残存する前記黒鉛電極製造用インヒビターの割合が0.01重量%以下である、請求項23に記載の黒鉛電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニードルコークス用原料組成物、生コークスおよびその製造方法、黒鉛電極用ニードルコークスおよびその製造方法、黒鉛電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭乾留時に副生するコールタールは、その大部分が縮合多環芳香族化合物から構成されており、以前から各種の炭素製品用の原料として使用されてきた。コールタール系製品群の構成割合は、約30%が留出油成分から得られるクレオソート油やナフタレン等の製品群、残り70%が非留出分である重質成分のコールタールピッチから得られる製品群である。これらのうち、コールタールピッチから製造されるニードルコークスは特に付加価値の高い製品として重要な位置を占めており、主に電気製鋼用黒鉛電極の骨材に使用される。ニードルコークスの製造においては、精製工程において夾雑物が取り除かれたピッチをディレイドコーカー等により400℃以上の温度でコーキングすることで生コークスを得る。次に、この生コークスを熱処理するカルサイン工程を経ることで生コークス中に含まれる水分や揮発成分が取り除かれたニードルコークスが得られる。黒鉛電極の製造工程においては、まずニードルコークス粒と成形体を製造する際の結合材であるバインダーピッチとを所定の割合で配合し、加熱捏合した後、押し出し成形して生電極を製造する。この生電極を焼成し、黒鉛化した後、加工することにより黒鉛電極製品が得られる。
【0003】
この黒鉛電極は過酷な高温条件のもとで使用されるため、極めて高い耐熱衝撃性が要求される。耐熱衝撃性の高い黒鉛電極を製造するためには熱膨張係数が小さいニードルコークスが必要とされる。コールタールピッチを原料とするニードルコークス(以下、ピッチ系ニードルコークスということがある。)は、あらゆるコークスの中で熱膨張係数が最も小さいので、黒鉛電極の原料としては最も好ましいものである。しかしながら、ピッチ系ニードルコークスは良品質な黒鉛電極を与える反面、電極を製造する黒鉛化過程で、いわゆるパッフィングと呼ばれる不可逆膨張現象を起こし易く、急速に黒鉛化した場合には製品に亀裂が発生して歩留りが著しく低下するといった欠点がある。
【0004】
このため黒鉛電極の製造にあたっては、黒鉛化のための昇温を長時間かけて行う必要があり、生産性は著しく低いものであった。このパッフィング現象は、主として黒鉛化過程の1500~2100℃の領域、ならびに、2500~2800℃の領域においてピッチ系ニードルコークスに含まれる窒素や硫黄が急激に脱離、揮散するための異常膨張と考えられている。
【0005】
例えば、特許文献1、2では、1500℃以上でピッチコークスを加熱処理して脱窒素することでパッフィングを低減する方法が提案されている。また、特許文献3では、生コークスを予め酸化処理等の前処理をした後に、通常のか焼温度で熱処理する手法が示されている。これらの方法は、前者は高温加熱に伴うエネルギー消費が大きくなり、後者は従来方法に比べて工程が複雑化するという課題がある。
さらに、バインダーピッチ等と混練する前の、塊状および粒状のコークス表面にのみパッフィングインヒビターとして用いる金属化合物を溶液状態で添加し、加熱処理することによって、インヒビター添加量を減少させつつパッフィング抑制効果を増大させることが提案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60-33208号公報
【特許文献2】特開昭60-208392号公報
【特許文献3】特開昭63-135486号公報
【特許文献4】特開2001-329271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、これらの低パッフィングニードルコークスの製造方法では、何れの場合もその経済性に難があり、実用化に至っていないか、あるいは、必ずしも十分なパッフィング低減効果が得られないなどの問題がある。
【0008】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであり、ニードルコークスの製造時に多大なコストをかけることなく、ニードルコークスのパッフィングを抑制し、黒鉛電極の製造歩留まりと特性を向上させることができるニードルコークス用原料組成物、生コークスおよびその製造方法、黒鉛電極用ニードルコークスおよびその製造方法、黒鉛電極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態は、以下の態様を含む。
[1]黒鉛電極の製造に用いられるニードルコークスの原料組成物であって、
原料ピッチ中に黒鉛電極製造用インヒビターが内包された、ニードルコークス用原料組成物。
[2]前記黒鉛電極製造用インヒビターが、以下の元素(Mβ)からなる金属、および、以下の元素(Mβ)を有する酸化物の少なくとも一方を含む、[1]に記載のニードルコークス用原料組成物。
元素(Mβ):長周期型周期表の第4族元素、第8族元素、第9族元素、第10族元素、第13族元素、第14族元素および第15族元素からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素。
[3]前記元素(Mβ)が、Si、Ge、Al、B、Ti、FeおよびPからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素である、[2]に記載のニードルコークス用原料組成物。
[4]前記元素(Mβ)を有する酸化物が、以下の元素(Mα)および前記元素(Mβ)を有する複合酸化物である、[2]または[3]に記載のニードルコークス用原料組成物。
元素(Mα):少なくとも一種の金属元素(ただし元素(Mβ)を除く)。
[5]前記元素(Mα)が、K、Sc、アルカリ土類金属元素および希土類金属元素からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素である、[4]に記載のニードルコークス用原料組成物。
[6]前記複合酸化物の組成式が、以下の式(1)である、[4]または[5]に記載のニードルコークス用原料組成物。
Mα3-xMβ1-yO5-z ・・・(1)
(式中、0≦x<3、0≦y<1、0≦z<5である。)
[7]前記原料ピッチが、コールタール、FCCデカントオイル、エチレンヘビーエンド、石油系残渣、石油系廃棄物、バイオマスオイル、またはバイオマスタールに由来するピッチの1種以上を含む、[1]~[6]のいずれかに記載のニードルコークス用原料組成物。
[8]前記原料ピッチの総重量に対する前記黒鉛電極製造用インヒビターの割合(重量%)をXとしたとき、0.01<X<5である、[1]~[7]のいずれかに記載のニードルコークス用原料組成物。
[9][1]~[8]のいずれかに記載のニードルコークス用原料組成物の炭化物である、生コークス。
[10]生コークスの総重量に対する前記黒鉛電極製造用インヒビターの割合(重量%)をYとしたとき、0.02<Y<10である、[9]に記載の生コークス。
[11][1]~[8]のいずれかに記載のニードルコークス用原料組成物をコーキングして生コークスを得る、生コークスの製造方法。
[12]コーキング温度が300℃以上600℃以下である、[11]に記載の生コークスの製造方法。
[13]コーキング時の圧力がゲージ圧で0.01MPa以上0.99MPa以下である、[11]または[12]に記載の生コークスの製造方法。
[14]前記黒鉛電極製造用インヒビターと前記原料ピッチをタンク中で混合し、コーキングする、[11]~[13]のいずれかに記載の生コークスの製造方法。
[15]前記黒鉛電極製造用インヒビターと前記原料ピッチを配管内で混合し、コーキングする、[11]~[14]のいずれかに記載の生コークスの製造方法。
[16][9]または[10]に記載の生コークスの炭素化物である、黒鉛電極用ニードルコークス。
[17]前記黒鉛電極用ニードルコークスの総重量に対する前記黒鉛電極製造用インヒビターの割合(重量%)をZとしたとき、0.02<Z<15である、[16]に記載の黒鉛電極用ニードルコークス。
[18]以下の評価試験(i)で作成されたテストピースの下記式(I)で算出されるパッフィング値P2800が0.60%以下である、[16]または[17]に記載の黒鉛電極用ニードルコークス。
P2800=(L2-L1)/L1×100 ・・・(I)
ただし式(I)中のL1およびL2は以下の意味を示す。
L1:焼成前のテストピースの厚み(mm)
L2:2800℃まで焼成後のテストピースの厚み(mm)
<評価試験(i)>
前記黒鉛電極用ニードルコークスと、前記黒鉛電極用ニードルコークスに対して外割で30重量%のバインダーピッチとを混ぜ合わせ、165℃で加熱しながら5分間混錬する。これを20mmΦ×3mm~15mmの円板状にモールド成形し、焼成炉を用いて1000℃で3時間か焼し、前記バインダーピッチを焼き飛ばしてテストピースとする。テストピースを昇温速度20℃/分で2800℃まで昇温して焼成し、焼成前後のテストピースのL1およびL2を測定する。
[19]以下の評価試験(ii)で作成されたテストピースの下記式(II)で算出されるパッフィング値P1700-2100が0.60%以下である、[16]~[18]のいずれかに記載の黒鉛電極用ニードルコークス。
P1700-2100=(L3-L4)/L5×100 ・・・(II)
ただし式(II)中のL3、L4およびL5は以下の意味を示す。
L3:2100℃焼成時点のテストピースの厚み(mm)
L4:1700℃焼成時点のテストピースの厚み(mm)
L5:1000℃焼成時点のテストピースの厚み(mm)
<評価試験(ii)>
前記黒鉛電極用ニードルコークスと、前記黒鉛電極用ニードルコークスに対して外割で30重量%のバインダーピッチとを混ぜ合わせ、165℃で加熱しながら5分間混錬する。これを20mmΦ×3mm~15mmの円板状にモールド成形し、焼成炉を用いて1000℃で3時間か焼し、バインダーピッチを焼き飛ばしてテストピースとする。テストピースを昇温速度20℃/分で2800℃まで昇温熱膨張測定装置を使用して焼成し、焼成中のテストピースのL3、L4およびL5を測定する。
[20]前記評価試験(i)において、前記黒鉛電極製造用インヒビターを内包していない原料ピッチを用いたニードルコークスを用いる以外は同様の方法でテストピースを作成し、当該テストピースの前記式(I)で算出されるパッフィング値(ブランク)をP2800bとしたとき、P2800/P2800bで算出されるパッフィング値の比が1未満である、[18]に記載の黒鉛電極用ニードルコークス。
[21]前記評価試験(ii)において、前記黒鉛電極製造用インヒビターを内包していない原料ピッチを用いたニードルコークスを用いる以外は同様の方法でテストピースを作成し、当該テストピースの前記式(II)で算出されるパッフィング値(ブランク)をP1700-2100bとしたとき、P1700-2100/P1700-2100bで算出されるパッフィング値の比が1未満である、[19]に記載の黒鉛電極用ニードルコークス。
[22][9]または[10]に記載の生コークスを1000℃以上1700℃以下でか焼してニードルコークスを得る、黒鉛電極用ニードルコークスの製造方法。
[23][16]~[21]のいずれかに記載の黒鉛電極用ニードルコークスを骨材として用い、黒鉛化処理して黒鉛電極を得る、黒鉛電極の製造方法。
[24]前記黒鉛化処理の温度が2500℃以上3000℃以下である、[23]に記載の黒鉛電極の製造方法。
[25]前記黒鉛電極中に残存する前記黒鉛電極製造用インヒビターの割合が0.01重量%以下である、[23]または[24]に記載の黒鉛電極の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、原料ピッチ中にインヒビターが内包されているニードルコークス用原料組成物を用いることにより、ニードルコークスの製造時に多大なコストをかけることなく、ニードルコークスのパッフィングを抑制し、黒鉛電極の製造歩留まりと特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1、2および比較例1の熱膨張計測定による熱間パッフィング値を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
以下の説明において「重量%」は「質量%」と同義であり、「重量部」は「質量部」と同義である。
本発明において「ピッチ系」は「石炭系」と同義の語として扱うものとする。
本発明でいう「コークスの硫黄分」とは、JIS M8813に従い測定される値を意味する。また、本発明でいう「コークスの窒素分」とは、JIS M8819に従い測定される値を意味する。
【0013】
1.ニードルコークス用原料組成物
本発明の一実施形態は、ニードルコークス用原料組成物に関する。
実施形態のニードルコークス用原料組成物は、黒鉛電極の製造に用いられるニードルコークスの原料組成物であって、原料ピッチ中に黒鉛電極製造用インヒビター(以下、単に「インヒビター」ということがある。)が内包された、ニードルコークス用原料組成物である。
インヒビターが原料ピッチに内包された組成物であると、インヒビターの添加量を低減しつつパッフィング抑制効果を増大させることができる。
【0014】
1.1.黒鉛電極製造用インヒビター
実施形態のニードルコークス用原料組成物に用いるインヒビターは、ニードルコークスと同時に焼成して黒鉛電極を得る際にニードルコークスのパッフィングを抑制するためのものである。
【0015】
実施形態の一つのインヒビターは、元素(Mβ)からなる金属、および、元素(Mβ)を有する酸化物の少なくとも一方を含む。
元素(Mβ):長周期型周期表の第4族元素(Ti、Zr、Hf)、第8族元素(Fe、Ru、Os)、第9族元素(Co、Rh、Ir)、第10族元素(Ni、Pr、Pt)、第13族元素(B、Al、Ga、In)第14族元素(Si、Ge、Sn)および第15族元素(P、Sb、Bi)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素。
【0016】
(第一の実施形態)
第一の実施形態のインヒビターは、元素(Mα)および元素(Mβ)を有する複合酸化物を含む。
元素(Mα):少なくとも一種以上の金属元素(ただし元素(Mβ)を除く)。
元素(Mβ):長周期型周期表の第4族元素(Ti、Zr、Hf)、第8族元素(Fe、Ru、Os)、第9族元素(Co、Rh、Ir)、第10族元素(Ni、Pr、Pt)、第13族元素(B、Al、Ga、In)第14族元素(Si、Ge、Sn)および第15族元素(P、Sb、Bi)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素。
【0017】
元素(Mα)としては、パッフィングを低減させやすいことから、K、Sc、アルカリ土類金属元素(Mg、Ca、Sr、Ba)および希土類金属元素(Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素であることが好ましく、アルカリ土類金属および希土類金属元素からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素であることがより好ましく、アルカリ土類金属および希土類金属元素からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素であることが特に好ましく、アルカリ土類金属が最も好ましい。
【0018】
元素(Mβ)としては、パッフィングを低減させやすいことから、Si、Ge、Al、B、Ti、FeおよびPからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であることが好ましく、SiおよびGeの少なくとも一種の元素であることがより好ましく、Siが最も好ましい。
【0019】
第一の実施形態のインヒビターの組成式は、特に限定されないが、パッフィングを低減させやすいことから、以下の式(1)であることが好ましい。
Mα3-xMβ1-yO5-z ・・・(1)
(式中、0≦x<3、0≦y<1、0≦z<5である。)
【0020】
式中、xは、パッフィングを低減させるやすいことから、0≦x<3が好ましく、0.05≦x≦2.5がより好ましく、0.1≦x≦2が特に好ましい。
式中、yは、パッフィングを低減させやすいことから、0≦y<1が好ましく、0.01≦y≦0.8がより好ましく、0.1≦y≦0.5が特に好ましい。
式中、zは、パッフィングを低減させやすいことから、0≦z<5が好ましく、0.05≦z≦4がより好ましく、0.1≦z≦3が特に好ましい。
【0021】
元素(Mα)および元素(Mβ)を有する複合酸化物の具体例としては、例えば、MgSi3O7、Mg3SiO5、Mg14Si5O24、MgO、Ca3SiO5、Ca2SiO4、CaSiO3、Ca8Si5O18、CaSi2O5、CaO、CaCO3、Ca(OH)2、SrSiO3、Sr3SiO5、SrSi2O5、Sr2SiO4、Ba3SiO5、Ba2SiO4、BaSiO3、BaSi2O5、Ba2Si3O8、Ba5Si8O21、Ba3Si5O13、Ba2SiO4、BaO、BaCO3、Ce2SiO5、Ce2Si2O7、Ce2Si4O11、CeSi3O8、Ce3SiO8、Ce6Si6O21、La5Si3O13.5、La6Si6O21、La2SiO5、La2Si4O11、La2Si6O16、Pr4.67Si3O13、Pr2Si2O7、Pr6Si2、Pr6Si12O25,Eu5Si3O13、Eu2Si2O7,Eu2SiO4、Eu6Si12O33、CaGe2O5、Ca3GeO5、Ca2GeO4、Ca5Ge3O11、CaGeO3、Ca2Ge7O16、CaAl12O19、CaAl4O7、Ca4Al6O13、Ca5Al6O14、Ca6Al7O16、Ca2Al2O5、Ca3Al2O6、CaFeO2、Ca2Fe2O5、CaFeO3、CaFe2O4、CaFe3O5、CaFe4O6、CaFe5O7、CaFe6O8、CaTi2O4、CaTi2O5、Ca3Ti2O7、Ca4Ti3O10、CaTiO3、CaTi5O11、Mg2Al4O8、MgAl2O4、Mg2Al2O5、MgGe2O4、Mg2TiO4、MgTiO3、MgTi2O4、MgTi2O5、MgFe2O4、SrAl12O19、SrAl4O7、Sr4Al14O25、Sr12Al14O33、Sr3Al2O6、Sr10Al6O19、Sr3GeO、SrGe4O9、SrGeO3、Sr3GeO5、SrTi11O20、Sr2Ti6O13、SrTiO3、Sr4Ti3O10、Sr3Ti2O7、Sr2TiO4、SrFe12O9、SrFe2O4、Sr2Fe3O6、SrFeO2、Sr4Fe6O13、Sr2Fe2O5、Sr3Fe2O5、Sr4Fe4O11、SrFeO3、Sr3Fe2O6、Sr2FeO3、Sr3Fe2O7、SrFeO4、Sr2FeO4、BaAl12O19,BaAl4O7、BaAl2O4、Ba3Al2O6、Ba4Al2O7、Ba7Al2O10、Ba17Al3O7、Ba21Ge2O5、Ba3GeO、Ba3GeO5、Ba10Ge7O3、BaGeO3、BaGe2O5、Ba2Ge5O12、BaGe4O9、Ba3TiO5、Ba2TiO4、Ba4Ti5O10、Ba4Ti4O11、BaTiO3、BaTi2O5、BaTi4O9、Ba2Ti9O20、BaTi5O11、Ba2Ti13O22、Ba3FeO5、Ba2FeO4、BaFeO2、Ba2Fe2O5、Ba8Fe8O21、Ba5Fe5O14、BaFeO3、BaFe2O4、Ba2Fe6O11、BaFe4O7、BaFe7O11、BaFe12O19、BaFe15O23を例示できる。第一の実施形態のインヒビターに含まれる複合酸化物は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0022】
第一の実施形態のインヒビターの製造方法としては、特に限定されず、例えば、目的の複合酸化物の組成比になるように原料となる化合物を計り取って混合し、1000℃~1500℃の温度範囲で大気雰囲気および還元雰囲気で焼成する等の公知の方法が例示できる。
また、得られたインヒビターの粒径の上限は得に限定はされないが、10000μm以下がより好ましく、1000μm以下が特に好ましく、100μm以下が最も好ましい。粒径の下限も特に限定はされないが、1nm以上がより好ましく、10nmが特に好ましく、100nm以上が最も好ましい。粒径をこの範囲に制御する事で、均一に分散させやすく、また、得られたインヒビターの結晶性を維持させ、パッフィング効果を高める事が期待できる。
なお、本明細書において、「インヒビターの粒径」は、レーザー回折型粒度分布計MT3300EX(マイクロトラック・ベル社製)を使用して分散媒にエタノールを用いた方法によって測定されるモード径を意味する。
【0023】
元素(Mα)および元素(Mβ)を有する複合酸化物を含む第一の実施形態のインヒビターを用いることで、パッフィング抑制効果が増大し、黒鉛電極の製造歩留まりと特性が向上する。第一の実施形態のインヒビターがこのような効果を奏する理由は未だ明らかでないが、以下のように推察される。
黒鉛電極用ニードルコークスの焼成時に第一の実施形態のインヒビターが存在することにより、黒鉛電極から窒素が脱離する温度よりも低い温度で、窒素を含む複合化合物が形成されるか、あるいは、硫黄を含む複合化合物が形成され、インヒビター未添加系とは窒素脱離や硫黄脱離のタイミングがずれるためにパッフィング現象が抑制されると推察される。すなわち、第一の実施形態のインヒビターが元素(Mα)および元素(Mβ)を有する複合酸化物を含むため、焼成時の昇温過程においてコークス中の窒素または硫黄と反応して複合化合物(窒化物、酸窒化物、硫化物、酸硫化物)を形成することから、第一の実施形態による効果を奏するものであると推察される。
【0024】
(第二の実施形態)
第二の実施形態のインヒビターは、元素(Mα)からなる金属または元素(Mα)を有する酸化物、および、元素(Mβ)からなる金属または元素(Mβ)を有する酸化物を含む。第二の実施形態のインヒビターは、パッフィングを低減させやすいことから、元素(Mα)を有する酸化物および元素(Mβ)を有する酸化物を含むことが好ましい。
元素(Mα):少なくとも一種以上の金属元素(ただし元素(Mβ)を除く)。
元素(Mβ):長周期型周期表の第4族元素、第8族元素、第9族元素、第10族元素、第13族元素、第14族元素および第15族元素からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素。
【0025】
<元素(Mα)からなる金属または元素(Mα)を有する酸化物>
元素(Mα)としては、パッフィングを低減させやすいことから、K、Sc、アルカリ土類金属元素および希土類金属元素からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素であることが好ましく、Sc、アルカリ土類金属、希土類金属元素からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素であることがより好ましく、アルカリ土類金属、希土類金属元素からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属元素であることが特に好ましく、アルカリ土類金属が最も好ましい。
【0026】
元素(Mα)を有する酸化物の組成式としては、特に限定されないが、パッフィングを低減させやすいことから、以下の式(2)であることが好ましい。
Mα3-x1O3-z1 ・・・(2)
(式中、Mαは元素(Mα)であり、0≦x1<3、0≦z1<3である。)
【0027】
式中、x1は、パッフィングを低減させやすいことから、0≦x1<3が好ましく、0.05≦x1≦2.5がより好ましく、0.1≦x1≦2が特に好ましい。
式中、z1は、パッフィングを低減させやすいことから、0≦z1<3が好ましく、0.05≦z1≦2.5がより好ましく、0.1≦z1≦2が特に好ましい。
【0028】
元素(Mα)からなる金属または元素(Mα)を有する酸化物の具体例としては、例えば、CaO、Ca(OH)2、CaCO3、Ca、MgO、MgCO3、Mg(OH)2、Mg、SrO、SrCO3、Sr(OH)2、Sr、BaO、BaCO3、Ba(OH)2、Ba、CeO2、Ce、Pr6O11、Pr、Eu2O3、Euを例示できる。第二の実施形態のインヒビターに含まれる元素(Mα)を有する酸化物は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0029】
<元素(Mβ)からなる金属または元素(Mβ)を有する酸化物>
元素(Mβ)としては、パッフィングを低減させやすいことから、Si、Ge、Al、B、Ti、FeおよびPからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素であることが好ましく、SiおよびGeの少なくとも一種の元素であることがより好ましく、Siが最も好ましい。
【0030】
元素(Mβ)を有する酸化物の組成式としては、特に限定されないが、パッフィングを低減させやすいことから、以下の式(3)であることが好ましい。
Mβ1-y1O2-z2 ・・・(3)
(式中、Mβは元素(Mβ)であり、0≦y1<1、0≦z2<2である。)
【0031】
式中、y1は、パッフィングを低減させやすいことから、0≦y1<1が好ましく、0.01≦y1≦0.8がより好ましく、0.1≦y1≦0.5が特に好ましい。
式中、z2は、パッフィングを低減させやすいことから0<z2≦2が好ましく、0.05≦z2≦0.15がより好ましく、0.1≦z2≦0.2が特に好ましい。
【0032】
元素(Mβ)からなる金属または元素(Mβ)を有する酸化物の具体例としては、例えば、SiO2、Si、SiOx、GeO2、Ge、Al2O3、Al、B2O3、P2O5を例示できる。第二の実施形態のインヒビターに含まれる元素(Mβ)を有する酸化物は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0033】
第二の実施形態のインヒビターの製造方法としては、特に限定されず、例えば、元素(Mα)と元素(Mβ)を目的の比率となるように計り取って混合し、1000℃~1500℃の温度範囲で大気雰囲気および還元雰囲気で焼成し、元素(Mα)を有する酸化物と元素(Mβ)を有する酸化物とが複合化されたインヒビターを得る方法を例示できる。
また、元素(Mα)を有する酸化物と元素(Mβ)を有する酸化物とを混合して調製してもよい。複合化されたインヒビターの粒径は特に限定はされないが、10000μm以下がより好ましく、1000μm以下が特に好ましく、100μm以下が最も好ましい。粒径の下限も特に限定はされないが、1nm以上がより好ましく、10nmが特に好ましく、100nm以上が最も好ましい。粒径をこの範囲に制御する事で、均一に分散させやすく、パッフィング効果を高める事が期待できる。
【0034】
元素(Mα)を有する酸化物および元素(Mβ)を有する酸化物の混合比率(元素(Mα)を有する酸化物および元素(Mβ)を有する酸化物)としては、特に限定されないが、低パッフィングとなるため、元素(Mα)を有する酸化物に対する元素(Mβ)を有する酸化物の重量比として、その下限は、通常0.01以上、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上であり、一方、その上限は、通常1以下、好ましくは0.7以下、より好ましくは0.5以下である。
【0035】
元素(Mβ)からなる金属または元素(Mα)を有する酸化物、および、元素(Mβ)からなる金属または元素(Mβ)を有する酸化物を含む第二の実施形態のインヒビターを用いることで、パッフィング抑制効果が増大し、黒鉛電極の製造歩留まりと特性が向上する。第二の実施形態のインヒビターがこのような効果を奏する理由は未だ明らかでないが、以下のように推察される。
黒鉛電極用ニードルコークスの焼成時に第二の実施形態のインヒビターが存在することにより、黒鉛電極から窒素が脱離する温度よりも低い温度で、窒素を含む複合化合物が形成されるか、あるいは、硫黄を含む複合化合物が形成され、インヒビター未添加系とは窒素脱離や硫黄脱離のタイミングがずれるためにパッフィング現象が抑制されると推察される。すなわち、第二の実施形態のインヒビターが元素(Mα)を有する酸化物と元素(Mβ)を有する酸化物を含むため、焼成時の昇温過程においてコークス中の窒素または硫黄と反応して複合化合物(窒化物、酸窒化物、硫化物、酸硫化物)を形成することから、第二の実施形態による効果を奏するものであると推察される。
【0036】
1.2.原料ピッチ
原料ピッチとしては、黒鉛電極用のニードルコークスの原料として通常用いられるピッチを用いることができる。例えば、コールタール、FCCデカントオイル、エチレンヘビーエンド、石油系残渣、石油系廃棄物、バイオマスオイル、バイオマスタール等に由来するピッチを例示できる。原料ピッチは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
熱膨張係数が小さいニードルコークスが得られやすい点では、原料ピッチとしてはコールタールピッチが好ましい。コールタールピッチは石油系ピッチに比べると硫黄や窒素の含有量が多く、そのままではパッフィングが高くなる傾向があるが、本発明ではコールタールピッチであっても十分にパッフィングを抑制できる。
原料コールタールピッチを水素化し、得られた水素化コールタールピッチをコークス化することでピッチ系ニードルコークスが得られる。
【0038】
水素化コールタールピッチは、原料コールタールピッチの水素化反応を行い(水素化工程)、得られた水素化コールタールピッチから軽質油を分離する(分離工程)ことで得られる。分離工程で分離した軽質油は水素化工程に供給してリサイクルすることができる。原料コールタールピッチを水素化する方法、および水素化コールタールピッチから軽質油を分離する方法は、特に限定されず、公知の方法を適用することができる。
【0039】
原料コールタールピッチとしては、特に限定されない。原料コールタールピッチの製造方法(事前調整方法)としては、特に限定されず、例えば、コールタール系重質油からキノリン不溶分を実質的に除去する方法を例示できる。キノリン不溶分を除去する手段としては、公知の方法を適用できるが、芳香族系油または脂肪族系油の溶剤で処理する方法や、芳香族系油と脂肪族系油の混合溶剤で処理する方法が好ましい。具体的には、コールタール系重質油に前記溶剤を適当な条件にて混合、加熱した後に必要に応じて静置し、この混合物を蒸留して低沸点成分を留去することにより、キノリン不溶分を殆ど含まない原料コールタールピッチが得られる。脂肪族系油としては、シクロヘキサン、シクロペンタン等の脂環式化合物、アセトン、エーテル等のカルボニル基をもつ化合物、軽油等を使用することができる。芳香族系油としては、タール系洗浄油、アントラセン油等を使用することができる。
【0040】
水素化コールタールピッチの製造においては、原料コールタールピッチに石油系重質油を混合してもよい。石油系重質油を混合する場合、コールタール系重質油と石油系重質油と混合した後にキノリン不溶分を除去して、原料コールタールピッチと石油系重質油の混合物としもよい。また、原料コールタールピッチと石油系重質油とを混合してから軽質油を分離したものを水素化工程に用いてもよい。さらには、軽質油を分離して得られた軽質油分離コールタールピッチと石油系重質油とを混合して水素化工程に用いてもよい。
【0041】
石油系重質油としては、特に限定されず、例えば、流動接触分解油、常圧蒸留残油、減圧蒸留残油、シェールオイル、タールサンドビチューメン、オリノコタール、石炭液化油、エチレンボトム油、およびこれらを水素化精製した重質油を例示できる。また、これら以外に、直留軽油、減圧軽油、脱硫軽油、脱硫減圧軽油等の比較的軽質な油をさらに含有してもよい。
【0042】
原料ピッチの総重量に対するインヒビターの割合(重量%)をXとしたとき、0.01<X<5であることが好ましい。これにより、パッフィング低減効果が十分に得られやすく、また電極製品への悪影響を低減することも容易になる。
インヒビターの割合Xは、0.1<X<4がより好ましく、0.5<X<3がさらに好ましい。
【0043】
実施形態のニードルコークス用原料組成物の製造方法は、特に限定されない。例えば、インヒビターを有機溶剤や重質油に溶解または分散して原料ピッチと混合し、インヒビターを原料ピッチ中に内包させる方法を例示できる。例えばインヒビターはアルコール、ベンゼン等の揮発性溶剤に溶解させて原料ピッチと混合してもよい。このようにインヒビターを原料ピッチ中に内包させたニードルコークス用原料組成物をコーキングし、か焼することにより、インヒビターが内包されたニードルコークスが得られる。
【0044】
2.生コークス
実施形態の他の実施形態は、生コークスに関する。
実施形態の生コークスは、実施形態のニードルコークス用原料組成物の炭化物である。すなわち、実施形態の生コークスは、実施形態のニードルコークス用原料組成物をコーキングすることによって得られるものである。
【0045】
生コークスの総重量に対するインヒビターの割合(重量%)をYとしたとき、0.02<Y<10であることが好ましい。ただし、インヒビターの割合Yは、灰分量(金属成分または金属酸化物)としての値である。インヒビターの割合Yが前記条件を満たすと、パッフィング低減効果が十分に得られやすく、また残存する灰分による電極製品への悪影響を低減することも容易になる。
インヒビターの割合Yは、0.2<Y<8がより好ましく、1<Y<6がさらに好ましい。
【0046】
実施形態の生コークスの製造方法としては、実施形態のニードルコークス用原料組成物をコーキングする方法を例示できる。より具体的には、例えば、インヒビターと原料ピッチをタンク中で混合した後にコーキングする方法、インヒビターと原料ピッチを配管内で混合してコーキングする方法を例示できる。
【0047】
コーキング方法は、特に限定されず、例えば、ディレードコーキング法、ビスブレーキング法、フレキシコーキング法、ユリカプロセスを例示できる。これらの中でも、ニードルコークスの生産性や品質安定性の点から、ディレードコーキング法が好ましい。ディレードコーキング法においては、原料ピッチが加熱管中を加熱されながら急速に通過し、コークドラムに導入されてコーキングが起こる。
コーキングには、ロータリーキルン炉、シャフト炉等を使用できる。
【0048】
コーキング温度は、300℃以上600℃以下が好ましく、450℃以上550℃以下がより好ましい。
コーキング時の圧力は、ゲージ圧で0.01MPa以上0.99MPa以下が好ましく、0.25MPa以上0.60MPa以下がより好ましい。
コーキング時間は8時間以上72時間以下が好ましく、10時間以上36時間以下がより好ましい。
【0049】
3.黒鉛電極用ニードルコークス
本発明の他の実施形態は、黒鉛電極用ニードルコークスに関する。
実施形態の黒鉛電極用ニードルコークスは、実施形態の生コークスの炭素化物である。
実施形態のニードルコークス用原料組成物を用いて得られるニードルコークスは、ピッチ系ニードルコークスである。ピッチ系ニードルコークスは熱膨張係数が小さいことから、電炉製鋼用黒鉛電極の骨材として好適に使用することができる。またピッチ系ニードルコークスは硫黄分および窒素分の含有量が多いが、本発明ではピッチ系ニードルコークスであってもパッフィングを十分に抑制することができる。
【0050】
黒鉛電極用ニードルコークスの総重量に対するインヒビターの割合(重量%)をZとしたとき、0.02<Z<15であることが好ましい。ただし、インヒビターの割合Zは、灰分量(金属成分または金属酸化物)としての値である。インヒビターの割合Zが前記条件を満たすと、パッフィング低減効果が十分に得られやすく、また残存する灰分による電極製品への悪影響を低減することも容易になる。
インヒビターの割合Zは、0.1<Z<10がより好ましく、0.5<Z<8がさらに好ましい。
【0051】
実施形態の黒鉛電極用ニードルコークスは、黒鉛電極の製造時におけるニードルコークスのパッフィングを抑制しやすいことから、以下の評価試験(i)で作成されたテストピースの下記式(I)で算出されるパッフィング値P2800が0.60%以下であることが好ましい。
P2800=(L2-L1)/L1×100 ・・・(I)
ただし式(I)中のL1およびL2は以下の意味を示す。
L1:焼成前のテストピースの厚み(mm)
L2:2800℃まで焼成後のテストピースの厚み(mm)
【0052】
<評価試験(i)>
黒鉛電極用ニードルコークスと、黒鉛電極用ニードルコークスに対して外割で30重量%のバインダーピッチ(すなわち、黒鉛電極用ニードルコークス100重量部に対して30重量部のバインダーピッチ)とを混ぜ合わせ、165℃で加熱しながら5分間混錬する。これを20mmΦ×3mm~15mmの円板状にモールド成形し、焼成炉を用いて1000℃で3時間か焼し、バインダーピッチを焼き飛ばしてテストピースとする。テストピースを昇温速度20℃/分で2800℃まで昇温して焼成し、焼成前後のテストピースのL1およびL2を測定する。
【0053】
パッフィング値P2800は、0.60%以下が好ましく、0.50%以下がより好ましく、0.00%以下がさらに好ましく、-1.00%以下が特に好ましく、-2.00%以下がより一層好ましく、-3.00%以下であることが最も好ましい。また、パッフィング値P2800の下限値は、特に制限されないが、-30%以上が好ましく、-20%以上がより好ましく、-15%以上がさらに好ましく、-10%以上が特に好ましい。前記パッフィング値P2800の下限と上限は任意に組み合わせることができ、例えば-30%以上0.60%以下であることが好ましい。
【0054】
前記評価試験(i)において、インヒビターを内包していない原料ピッチを用いたニードルコークスを用いる以外は同様の方法でテストピースを作成し、当該テストピースの前記式(I)で算出されるパッフィング値(ブランク)をP2800bとする。
このとき、P2800/P2800bで算出されるパッフィング値の比は、1未満が好ましく、0.80以下がより好ましく、0.70以下がさらに好ましく、0.60以下が特に好ましい。P2800/P2800bは小さいほど好ましく、下限は限定されないが、実質的には-1.5以上であってよい。
【0055】
実施形態の黒鉛電極用ニードルコークスは、黒鉛電極の製造時におけるニードルコークスのパッフィングを抑制しやすいことから、以下の評価試験(ii)で作成されたテストピースの下記式(II)で算出されるパッフィング値P1700-2100が0.60%以下であることが好ましい。
P1700-2100=(L3-L4)/L5×100 ・・・(II)
ただし式(II)中のL3、L4およびL5は以下の意味を示す。
L3:2100℃焼成時点のテストピースの厚み(mm)
L4:1700℃焼成時点のテストピースの厚み(mm)
L5:1000℃焼成時点のテストピースの厚み(mm)
【0056】
<評価試験(ii)>
黒鉛電極用ニードルコークスと、黒鉛電極用ニードルコークスに対して外割で30重量%のバインダーピッチとを混ぜ合わせ、165℃で加熱しながら5分間混錬する。これを20mmΦ×3mm~15mmの円板状にモールド成形し、焼成炉を用いて1000℃で3時間か焼、バインダーピッチを焼き飛ばしてテストピースとする。テストピースを昇温速度20℃/分で2800℃まで昇温熱膨張測定装置を使用して焼成し、焼成中のテストピースのL3、L4およびL5を測定する。
【0057】
パッフィング値P1700-2100は、0.60%以下が好ましく、0.30%以下がさらに好ましく、0.10%以下が特に好ましく、0%以下が最も好ましい。また、パッフィング値P1700-2100の下限値は、特に制限されないが、-5.0%以上が好ましく、-3.0%以上がさらに好ましく、-1.0%以上が特に好ましく、-0.50%以上が最も好ましい。前記パッフィング値P1700-2100の下限と上限は任意に組み合わせることができ、例えば-5.0%以上0.60%以下であることが好ましい。
【0058】
前記評価試験(ii)において、インヒビターを内包していない原料ピッチを用いたニードルコークスを用いる以外は同様の方法でテストピースを作成し、当該テストピースの前記式(II)で算出されるパッフィング値(ブランク)をP1700-2100bとする。
このとき、P1700-2100/P1700-2100bで算出されるパッフィング値の比は、1未満が好ましく、0.95以下がより好ましく、0.9以下がさらに好ましく、0.87以下が特に好ましい。P1700-2100/P1700-2100bは小さいほど好ましく、下限は限定されないが、実質的には-1.5以上であってよい。
【0059】
実施形態の黒鉛電極用ニードルコークスは、実施形態の生コークスをか焼することによって製造できる。か焼後のニードルコークスは粉砕してもよい。
生コークスのか焼には、ロータリーキルン炉、シャフト炉等を使用できる。
【0060】
か焼温度は、1000℃以上1700℃以下が好ましく、1000℃以上1500℃以下がより好ましい。
か焼時間は1時間以上6時間以下が好ましく、1.5時間以上5時間以下がより好ましい。
【0061】
前記の製造方法で得られるニードルコークスは粒度調整がされていないため、微粉コークス等を混合し、バインダーピッチ混練前に粒度調整された黒鉛電極用ニードルコークスとすることが好ましい。この場合、混合される微粉コークスは、黒鉛電極用ニードルコークスの全体量に対して、好ましくは50重量%以下、より好ましくは30重量%以下にするとよい。微粉コークスはパフィング低減効果には直接関係しないため、微粉コークスの混合については灰分量等の電極品質と経済性を勘案して適宜決定すればよい。
なお、黒鉛電極用ニードルコークスは、塊状および粒状のか焼コークス、すなわち粒度調整されていない粗粒コークスとして黒鉛電極の製造に用いてもよい。
【0062】
4.黒鉛電極の製造方法
本発明の他の実施形態は、黒鉛電極の製造方法に関する。
実施形態の黒鉛電極は、実施形態の黒鉛電極用ニードルコークスを焼成してなる黒鉛電極である。
実施形態の黒鉛電極は、例えば、実施形態の黒鉛電極用ニードルコークスを骨材として用い、バインダーピッチを適当量添加した原料を混練した後、成形して生電極とし、得られた生電極を焼成して黒鉛化することで得られる。黒鉛電極の製造においては、必要に応じて黒鉛化の後に加工してもよい。
【0063】
黒鉛電極の製造方法の具体例としては、例えば、実施形態の黒鉛電極用ニードルコークスにバインダーピッチを混練(捏合)し、必要に応じてさらに酸化鉄を添加して混練した後、押出し成形、一次焼成、含浸、二次焼成、黒鉛化等を実施する方法を例示できる。酸化鉄の使用については、省略してもよいが、酸化鉄を使用すれば一層のパッフィング低減効果を得ることができるため、要求品質と経済性を勘案して適宜決定すればよい。
バインダーピッチとしては、原料ピッチとして例示したピッチを同じものを例示できる。
【0064】
焼成温度は、特に限定されないが、バインダーピッチを焼き飛ばしやすいことから、500℃以上1200℃以下が好ましく、800℃以上1100℃以下がより好ましい。
【0065】
黒鉛化処理の温度は、2500℃以上3000℃以下が好ましく、2600℃以上3000℃以下がより好ましい。黒鉛化処理の温度が前記下限値以上であれば、インヒビターを十分に焼き飛ばしやすい。黒鉛化処理の温度が前記上限値以下であれば、黒鉛の昇華や酸化による電極の劣化、消耗を抑制しつつ黒鉛化処理を行いやすい。前記黒鉛化処理の温度の好ましい下限と上限は任意に組み合わせることができる。
【0066】
黒鉛電極中に残存するインヒビターの割合は、黒鉛電極の総重量に対し、0.01重量%以下が好ましく、0.005重量%以下がより好ましく、0.001重量%以下がさらに好ましい。残存するインヒビターの割合が前記上限値以下であれば、電炉製鉄時の鉄へのコンタミネーションを低減させることができる。
【0067】
以上説明したように、本発明においては、原料ピッチ中にインヒビターが内包されているニードルコークス用原料組成物を用いることにより、ニードルコークスの製造時に多大なコストをかけることなく、ニードルコークスのパッフィングを抑制し、黒鉛電極の製造歩留まりと特性を向上させることができる。
また、元素(Mβ)からなる金属、および、元素(Mβ)を有する酸化物の少なくとも一方を含むインヒビターを用いることで、パッフィング抑制効果が増大する。また、この場合、パッフィング抑制効果がより増大することから、元素(Mα)および元素(Mβ)を有する複合酸化物を含むインヒビターが好ましい。
【0068】
なお、本発明においては、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【実施例0069】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
【0070】
(1)インヒビターの合成方法
Ca2SiO4は公知の方法で調製した。得られたCa2SiO4は100μm以下になるよう100μmの篩を通し、これをインヒビターとして用いた。
【0071】
(2)冷間パッフィングの測定
各例において、得られたニードルコークスとインヒビターの混合物(黒鉛電極用ニードルコークス)を、所定の粒子サイズに分級した。ニードルコークスとインヒビターの混合物に対して外割で30重量%のバインダーピッチを加えて、165℃のオイルバスで5分間混練した。これを20mmΦ×3mm~15mmの円板状にモールド成形し、焼成炉を用いて1000℃で3時間か焼し、バインダーピッチを焼き飛ばしてパッフィング測定用のテストピースとした。
得られたテストピースを昇温速度20℃/分で2800℃まで昇温して焼成した。その焼成前後のL1およびL2を測定し、前記式(I)を用いてパッフィング値P2800を算出した。また、昇温熱膨張測定装置を使用して焼成中のテストピースのL3、L4およびL5を測定し、前記式(II)を用いてパッフィング値P1700-2100を算出した。
【0072】
(3)熱間パッフィングの測定
各例において、得られたニードルコークスとインヒビターの混合物(黒鉛電極用ニードルコークス)を、所定の粒子サイズに分級した。ニードルコークスとインヒビターの混合物に対して外割で30重量%のバインダーピッチを加えて、165℃のオイルバスで5分間混練した後、押出し成形機を用いて円柱状の成形体を作製した。焼成炉を用いて前記成形体を1000℃で3時間か焼してテストピースとした。
得られたテストピースを昇温速度20℃/分にて2800℃まで昇温し、その間のテストピースの長さ方向の寸法の伸びを押し棒式熱膨張計にて測定し、下記式により熱間パッフィング値を算出した。なお、テストピース(円柱体)の長さ方向の寸法の伸びは、押出し成形の押出し方向に対して垂直方向の伸びに該当する。熱間パッフィング値は低い方がよい。
熱間パッフィング値(%)=(△L/L)×100
(式中、Lは試験前のテストピースの長さ、△Lは2800℃までの昇温間のテストピースの長さ方向の伸びである。)
【0073】
[実施例1]
コールタールピッチ(原料ピッチ)に対して、インヒビターを1.17重量%添加したニードルコークス用原料組成物を耐圧容器へ入れ、窒素分圧を0.35MPaに設定して480℃で10時間コーキングした。得られた生コークスを粗粉砕し、窒素ガス雰囲気、大気圧下において1300℃で2時間焼成し、ニードルコークスとインヒビターの混合物(黒鉛電極用ニードルコークス)を得た。
得られたニードルコークスとインヒビターの混合物を用い、(2)の方法でP
2800およびP
1700-2100を算出した。その結果を表1に示す。また、(3)の方法で熱間パッフィング値を測定した。その結果を
図1に示す。
【0074】
[実施例2]
インヒビターの添加量を2.93重量%に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法でニードルコークスとインヒビターの混合物(黒鉛電極用ニードルコークス)を製造し、(2)の方法でP
2800およびP
1700-2100を算出した。その結果を表1に示す。また、(3)の方法で熱間パッフィング値を測定した。その結果を
図1に示す。
【0075】
[比較例1]
コールタールピッチ(原料ピッチ)にインヒビターを添加しなかったこと以外は、実施例と同様の方法で黒鉛電極用ニードルコークスを製造し、(2)の方法でブランクのパッフィング値であるP
2800bおよびP
1700-2100bを算出した。その結果を表1に示す。また、(3)の方法で熱間パッフィング値を測定した。その結果を
図1に示す。
【0076】
【0077】
表1に示すように、インヒビターを添加した実施例1および2では、インヒビターを添加していない比較例1と比べて冷間パッフィング値を表すP
2800が小さかった。また、窒素パッフィングを表すP
1700-2100も同様に低く、パッフィング抑制効果が高かった。
また、
図1に示すように、比較例1では1900℃付近から急激にパッフィングが起こるのに対して、実施例1では同じ温度領域のパッフィングが起きにくく、実施例2では同じ温度領域のパッフィングが起こらず、インヒビターがパッフィングを抑制する事が確認された。