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特開2024-56644赤外線遮蔽繊維構造物とこれを用いた衣類
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  • 特開-赤外線遮蔽繊維構造物とこれを用いた衣類 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024056644
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】赤外線遮蔽繊維構造物とこれを用いた衣類
(51)【国際特許分類】
   D04B 1/14 20060101AFI20240416BHJP
   D06M 11/48 20060101ALI20240416BHJP
   D04B 21/00 20060101ALI20240416BHJP
   D03D 15/20 20210101ALI20240416BHJP
   D03D 15/50 20210101ALI20240416BHJP
   D01F 1/10 20060101ALI20240416BHJP
   D02G 3/04 20060101ALI20240416BHJP
   A41D 31/00 20190101ALI20240416BHJP
   A41D 31/04 20190101ALI20240416BHJP
【FI】
D04B1/14
D06M11/48
D04B21/00 B
D03D15/20 100
D03D15/50
D01F1/10
D02G3/04
A41D31/00 503P
A41D31/00 503B
A41D31/00 503E
A41D31/00 503F
A41D31/00 503G
A41D31/00 503H
A41D31/00 503K
A41D31/00 503C
A41D31/00 503D
A41D31/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023174143
(22)【出願日】2023-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2022163250
(32)【優先日】2022-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095223
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 章三
(74)【代理人】
【識別番号】100085040
【弁理士】
【氏名又は名称】小泉 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 岳行
(72)【発明者】
【氏名】岡田 美香
【テーマコード(参考)】
4L002
4L031
4L035
4L036
4L048
【Fターム(参考)】
4L002AA07
4L002AB01
4L002AC00
4L002AC07
4L002BA00
4L002CA00
4L002DA03
4L002EA00
4L002FA01
4L031AA18
4L031AB01
4L031AB03
4L031AB31
4L031AB33
4L031BA09
4L031DA00
4L035AA04
4L035AA05
4L035EE07
4L035FF04
4L035JJ05
4L036MA04
4L036MA39
4L036PA33
4L036UA06
4L048AA20
4L048AA42
4L048AA56
4L048AB01
4L048AB05
4L048AC01
4L048CA00
4L048DA01
4L048EB00
(57)【要約】
【課題】赤外線による盗撮の防止機能が経時的に低下せず、編地の経時的な変色も防止できる赤外線遮蔽繊維構造物とこれを用いた衣類を提供する。
【解決手段】一般式WOX(Wはタングステン、Oは酸素、2.45≦X≦2.999)で示されるタングステン酸化物微粒子または一般式MYWOZ(M元素は、Cs、Rb、K、Tl、In等から選択される元素、0.001≦Y≦1.0、2.2≦Z≦3.0)で示される複合タングステン酸化物微粒子から選択される赤外線遮蔽微粒子を表面および/または内部に含有させた赤外線遮蔽繊維を加工して成る赤外線遮蔽繊維構造物であって、微粒子の粒径が1nm以上800nm以下、上記構造物の単位面積当たりの上記微粒子含有量が0.10g/m2以上4.5g/m2以下であることを特徴とし、上記構造物の波長800nm~1300nmにおける平均反射率が65%以下になるため赤外線による盗撮防止機能を長期に亘り維持できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステン酸化物微粒子または複合タングステン酸化物微粒子から選択される1以上の赤外線遮蔽微粒子を、表面および/または内部に含有させた赤外線遮蔽繊維を加工して成る赤外線遮蔽繊維構造物であって、
上記赤外線遮蔽微粒子の粒径が1nm以上800nm以下であり、
上記赤外線遮蔽繊維構造物の単位面積当たりの赤外線遮蔽微粒子の含有量が0.10g/m2以上4.5g/m2以下であることを特徴とする赤外線遮蔽繊維構造物。
【請求項2】
波長800nm~1300nmにおける平均反射率が65%以下であることを特徴とする請求項1に記載の赤外線遮蔽繊維構造物。
【請求項3】
上記タングステン酸化物微粒子が、一般式WOX(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.45≦X≦2.999)で示されるタングステン酸化物微粒子であり、
上記複合タングステン酸化物微粒子が、一般式MYWOZ(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iの内から選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦Y≦1.0、2.2≦Z≦3.0)で示され、かつ、六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子であることを特徴とする請求項1に記載の赤外線遮蔽繊維構造物。
【請求項4】
上記複合タングステン酸化物微粒子のM元素が、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snの内から選択される1種類以上の元素であることを特徴とする請求項3に記載の赤外線遮蔽繊維構造物。
【請求項5】
上記赤外線遮蔽繊維が、合成繊維、半合成繊維、天然繊維、再生繊維、無機繊維、またはこれらの繊維の混紡、合糸、混繊による混合糸のいずれかから選択される繊維であることを特徴とする請求項1に記載の赤外線遮蔽繊維構造物。
【請求項6】
上記合成繊維が、ポリウレタン繊維、ポリアミド系繊維、アクリル系繊維、ポリエステル系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリエーテルエステル系繊維から選択されるいずれかの合成繊維であることを特徴とする請求項5に記載の赤外線遮蔽繊維構造物。
【請求項7】
上記半合成繊維が、セルロース系繊維、タンパク質系繊維、塩化ゴム、塩酸ゴムから選択されるいずれかの半合成繊維であることを特徴とする請求項5に記載の赤外線遮蔽繊維構造物。
【請求項8】
上記天然繊維が、植物繊維、動物繊維、鉱物繊維から選択されるいずれかの天然繊維であることを特徴とする請求項5に記載の赤外線遮蔽繊維構造物。
【請求項9】
上記再生繊維が、セルロース系繊維、タンパク質系繊維、アルギン繊維、ゴム繊維、キチン繊維、マンナン繊維から選択されるいずれかの再生繊維であることを特徴とする請求項5に記載の赤外線遮蔽繊維構造物。
【請求項10】
請求項1~3のいずれかに記載の赤外線遮蔽繊維構造物を用いたことを特徴とする衣類。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タングステン酸化物微粒子または複合タングステン酸化物微粒子から選択される赤外線遮蔽微粒子を、表面および/または内部に含有させた赤外線遮蔽繊維を加工して成る織物、編物、不織布等の赤外線遮蔽繊維構造物と、該赤外線遮蔽繊維構造物を用いたインナーウエア、スポーツウエア等の衣類に係り、特に、赤外線による盗撮を防止できる赤外線遮蔽繊維構造物と衣類の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
自然光を光源としてCCDカメラ等で人体を撮影すると、自然光に含まれる赤外線により衣類を透過した状態で人体が撮影されることから、近年、上記現象を利用した犯罪行為(いわゆる盗撮)が社会問題となっている。この問題を解決するため、赤外線を吸収または反射する赤外線遮蔽繊維を製造し、この赤外線遮蔽繊維を加工して成る衣類(赤外線遮蔽繊維構造物)が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、アントラキノン系、インジゴ系、ベンゾキノン系、ナフトキノン系、フタルシアニン系から選ばれた染料を芯鞘型合成繊維に付着させて赤外線遮蔽繊維とし、この赤外線遮蔽繊維を加工して成る編地が開示されている。上記染料は赤外線を吸収するため、特許文献1に開示された編地は赤外線による盗撮を確かに防止することができる。しかし、アントラキノン系、インジゴ系等の染料は有機系材料であるため、耐候性に難があり、更には経時的に変色する欠点があった。このため、特許文献1に開示された編地には、赤外線による盗撮の防止機能が経時的に低下する問題があり、更に、編地が経時的に変色してしまう致命的な問題が存在した。
【0004】
他方、特許文献2~3には、特許文献1に記載された目的(赤外線による盗撮を防止できる編地を提供すること)とは異なるが、無機系の赤外線遮蔽微粒子を用いた赤外線遮蔽繊維とこの赤外線遮蔽繊維を加工して防寒用衣料等に利用できる繊維製品が開示されている。すなわち、特許文献2には、太陽光等からの赤外線を吸収する無機系の材料(タングステン酸化物微粒子または複合タングステン酸化物微粒子)を、表面および/または内部に含有させて近赤外線吸収繊維(赤外線遮蔽繊維)とし、この近赤外線吸収繊維を加工して成る繊維製品が開示され、特許文献3には、タングステン酸化物微粒子または複合タングステン酸化物微粒子(赤外線遮蔽微粒子)表面をポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂等で被覆して赤外線遮蔽微粒子の耐薬品特性を改善させた赤外線吸収繊維(赤外線遮蔽繊維)と繊維製品が開示されている。
【0005】
そこで、無機系の材料(タングステン酸化物微粒子または複合タングステン酸化物微粒子)が表面および/または内部に含まれる特許文献2~3に係る赤外線遮蔽繊維を適用して、特許文献1に係る編地の問題(すなわち、赤外線による盗撮の防止機能が経時的に低下し、編地が経時的に変色してしまう問題)を解消する方法が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-223171号公報
【特許文献2】国際公開第2006/049025号
【特許文献3】特開2021-075825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に係る編地の利用目的(赤外線による盗撮を防止できる編地)と、特許文献2~3に係る繊維製品の利用目的(保温効果を高めて防寒用衣料等に使用できる繊維製品)が著しく相違するため、特許文献2~3に係る繊維製品を特許文献1に係る編地にそのまま転用しても、特許文献1の上記問題(赤外線による盗撮の防止機能が経時的に低下し、編地が経時的に変色してしまう問題)を解決することはできなかった。
【0008】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、赤外線による盗撮の防止機能が経時的に低下せず、編地の経時的な変色も防止できる赤外線遮蔽繊維構造物とこれを用いた衣類を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者は、上記課題を解決するため以下のような技術的分析を行った。
【0010】
まず、自然光を光源としてCCDカメラ等で人体を撮影した場合、自然光に含まれる赤外線による上記盗撮が防止できる織物、編物等の反射率について技術的分析を行った。
【0011】
その結果、赤外線領域(波長800nm~1300nm)の平均反射率が65%以下、望ましくは60%以下、より望ましくは55%以下である場合に、赤外線による盗撮が防止できることを見出すに至った。
【0012】
次に、無機系の赤外線遮蔽微粒子(タングステン酸化物微粒子または複合タングステン酸化物微粒子)が適用された特許文献2~3に係る繊維製品(赤外線遮蔽繊維構造物)を分析対象とし、当該繊維製品の物性(例えば、風合い等)を損なわずに赤外線領域(波長800nm~1300nm)の平均反射率が65%以下になる条件について技術的分析を行った。
【0013】
その結果、上記繊維製品(赤外線遮蔽繊維構造物)の単位面積当たりの赤外線遮蔽微粒子の含有量が0.10g/m2以上4.5g/m2以下である場合に、波長800nm~1300nmの平均反射率が65%以下になることを見出すに至った。
【0014】
本発明は、このような技術的分析と技術的発見により完成されている。
【0015】
すなわち、本発明に係る第1の発明は、
タングステン酸化物微粒子または複合タングステン酸化物微粒子から選択される1以上の赤外線遮蔽微粒子を、表面および/または内部に含有させた赤外線遮蔽繊維を加工して成る赤外線遮蔽繊維構造物であって、
上記赤外線遮蔽微粒子の粒径が1nm以上800nm以下であり、
上記赤外線遮蔽繊維構造物の単位面積当たりの赤外線遮蔽微粒子の含有量が0.10g/m2以上4.5g/m2以下であることを特徴とし、
第2の発明は、
第1の発明に記載の赤外線遮蔽繊維構造物において、
波長800nm~1300nmにおける平均反射率が65%以下であることを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る第3の発明は、
第1の発明に記載の赤外線遮蔽繊維構造物において、
上記タングステン酸化物微粒子が、一般式WOX(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.45≦X≦2.999)で示されるタングステン酸化物微粒子であり、
上記複合タングステン酸化物微粒子が、一般式MYWOZ(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iの内から選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦Y≦1.0、2.2≦Z≦3.0)で示され、かつ、六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子であることを特徴とし、
第4の発明は、
第3の発明に記載の赤外線遮蔽繊維構造物において、
上記複合タングステン酸化物微粒子のM元素が、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snの内から選択される1種類以上の元素であることを特徴とする。
【0017】
次に、本発明に係る第5の発明は、
第1の発明に記載の赤外線遮蔽繊維構造物において、
上記赤外線遮蔽繊維が、合成繊維、半合成繊維、天然繊維、再生繊維、無機繊維、またはこれらの繊維の混紡、合糸、混繊による混合糸のいずれかから選択される繊維であることを特徴とし、
第6の発明は、
第5の発明に記載の赤外線遮蔽繊維構造物において、
上記合成繊維が、ポリウレタン繊維、ポリアミド系繊維、アクリル系繊維、ポリエステル系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリエーテルエステル系繊維から選択されるいずれかの合成繊維であることを特徴とし、
第7の発明は、
第5の発明に記載の赤外線遮蔽繊維構造物において、
上記半合成繊維が、セルロース系繊維、タンパク質系繊維、塩化ゴム、塩酸ゴムから選択されるいずれかの半合成繊維であることを特徴とし、
第8の発明は、
第5の発明に記載の赤外線遮蔽繊維構造物において、
上記天然繊維が、植物繊維、動物繊維、鉱物繊維から選択されるいずれかの天然繊維であることを特徴とし、
第9の発明は、
第5の発明に記載の赤外線遮蔽繊維構造物において、
上記再生繊維が、セルロース系繊維、タンパク質系繊維、アルギン繊維、ゴム繊維、キチン繊維、マンナン繊維から選択されるいずれかの再生繊維であることを特徴とし、
また、本発明に係る第10の発明は、
衣類において、
第1の発明~第3の発明のいずれかに記載の赤外線遮蔽繊維構造物を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る赤外線遮蔽繊維構造物と赤外線遮蔽繊維構造物を用いた衣類によれば、
無機系の赤外線遮蔽微粒子(タングステン酸化物微粒子または複合タングステン酸化物微粒子)が用いられているため、織物、編物等赤外線遮蔽繊維構造物の経時的な変色を防止することが可能となり、かつ、赤外線遮蔽繊維構造物の単位面積当たりの赤外線遮蔽微粒子の含有量が0.10g/m2以上4.5g/m2以下に設定され、赤外線遮蔽繊維構造物および該赤外線遮蔽繊維構造物を用いた衣類の赤外線領域(波長800nm~1300nm)における平均反射率が65%以下になるため、赤外線による盗撮防止機能を長期に亘り維持することが可能となる。
【0019】
更に、本発明で用いられるタングステン酸化物微粒子または複合タングステン酸化物微粒子は、他の無機系赤外線遮蔽微粒子(ITO、ATO等の微粒子)に較べて単位重量当たりの赤外線吸収能力が高く、少ない含有量で十分な赤外線吸収効果が得られるため、繊維の物性を損なうことが無く、衣類における意匠の自由度も高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例1~7と比較例1~2に係るニット製品(繊維構造物)の波長(nm)と反射率(%)との関係を示すグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0022】
まず、本発明に係る赤外線遮蔽繊維構造物は、無機系の赤外線遮蔽微粒子(タングステン酸化物微粒子または複合タングステン酸化物微粒子)を表面および/または内部に含有させた赤外線遮蔽繊維を加工して構成され、当該赤外線遮蔽繊維構造物として、織物、編物、不織布等が例示される。
【0023】
(1)赤外線遮蔽微粒子
本発明に係る赤外線遮蔽繊維(近赤外線遮蔽繊維)は、赤外線遮蔽微粒子(赤外線遮蔽機能を有する微粒子)を繊維表面および/または内部に含有させることで得られる。
【0024】
以下、赤外線遮蔽機能を有するタングステン酸化物微粒子、および、複合タングステン酸化物微粒子について説明する。
【0025】
赤外線遮蔽機能を有する上記タングステン酸化物微粒子は、一般式WOX(但し、Wはタングステン、Oは酸素、2.45≦X≦2.999)で示される微粒子であり、
赤外線遮蔽機能を有する上記複合タングステン酸化物微粒子は、一般式MYWOZ(但し、M元素は、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iの内から選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦Y≦1.0、2.2≦Z≦3.0)で示され、かつ、六方晶の結晶構造を持つ微粒子である。
【0026】
そして、タングステン酸化物微粒子や複合タングステン酸化物微粒子が各種繊維に適用された場合、赤外線遮蔽成分として機能する。
【0027】
上記一般式WOX(2.45≦X≦2.999)で示されるタングステン酸化物微粒子としては、例えば、W1849、W2058、W411等を挙げることができる。Xの値が2.45以上であれば当該赤外線遮蔽微粒子中に目的外であるWO2の結晶相が現れるのを完全に回避でき、かつ、材料の化学的安定性を得ることができる。また、Xの値が2.999以下であれば十分な量の自由電子が生成されるため効率のよい赤外線遮蔽微粒子となる。
【0028】
そして、Xの範囲が2.45≦X≦2.95であるようなWOX化合物は、いわゆるマグネリ相と呼ばれる化合物に含まれる。
【0029】
また、上記一般式MYWOZで示され、かつ、六方晶の結晶構造を持つ複合タングステン酸化物微粒子としては、例えば、好ましいM元素として、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe、Snの各元素から選択される1種類以上の元素を含むような複合タングステン酸化物微粒子が挙げられる。
【0030】
添加されるM元素の添加量Yは、0.001以上1.0以下であることを要し、好ましくは0.33付近である。これは、六方晶の結晶構造から理論的に算出されるYの値が0.33であり、この前後の添加量で好ましい光学特性が得られるからである。典型的な例としてはCs0.33WO3、Rb0.33WO3、K0.33WO3、Ba0.33WO3等を挙げることができるが、Y、Zが上記範囲に収まるものであれば、有用な赤外線遮蔽特性を得ることができる。
【0031】
(2)赤外線遮蔽微粒子の粒径
赤外線遮蔽微粒子の粒径については、紡糸、延伸等の繊維化工程時に問題を生じないことが重要で、赤外線遮蔽微粒子の平均粒径が800nm以下であることが好ましい。上記微粒子の平均粒径が800nm以下であれば、紡糸工程で口金(ノズル)への目塞がりや糸切れ等の可紡性の低下を回避することができる。また、たとえ紡糸を行なうことができても、延伸工程で糸切れ等の問題が生じ、しかも、紡糸原料中に粒子が均一に混合、分散し難くなる場合もあるので、当該観点からも平均粒径が800nm以下であることが好ましい。
【0032】
一方、赤外線遮蔽微粒子を繊維表面および/または内部に含有させた赤外線遮蔽繊維構造物の染色性等の意匠性を考慮すると、当該赤外線遮蔽微粒子は、透明性を保持したまま近赤外線を効率よく吸収して赤外線遮蔽を行なうことが必要となる。タングステン酸化物微粒子または複合タングステン酸化物微粒子から選択される赤外線遮蔽微粒子は、可視光線域(波長380nm~780nm)を透過し、近赤外線領域、特に、波長780~2200nm付近の光を大きく吸収するため、その透過色調は青色系から緑色系となるものが多い。このため、赤外線遮蔽微粒子の粒径(粒子径)を800nmよりも小さくすれば透明性を確保することができるが、透明性を重視する場合には、粒子径を200nm以下、更に好ましくは100nm以下とする。一方、粒子径が1nm以上であれば、工業的な製造は容易であることから、赤外線遮蔽微粒子の粒径(粒子径)は1nm以上800nm以下であることを要する。
【0033】
(3)繊維表面および/または内部に含まれる赤外線遮蔽微粒子の含有量
上記タングステン酸化物微粒子および複合タングステン酸化物微粒子の単位重量当たりの赤外線吸収能力は非常に高いため、ITOやATOと比較し、その1/4~1/10程度の使用量でその効果を発揮する。複合タングステン酸化物微粒子において、六方晶系の結晶構造を持ち、M元素にK、Rb、Csを用いた場合、波長780nm以上の赤外線吸収能力が特に優れているため、赤外線による盗撮防止(CCDカメラによる透視防止)に適している。他方、上述したITOやATOにおいては、波長780nm~900nm領域における赤外線の吸収は期待できない。このため、ITOやATOを用いた赤外線遮蔽繊維構造物では、赤外線による盗撮防止(CCDカメラによる透視防止)の効果を期待することはできない。
【0034】
そして、繊維表面および/または内部に含まれる赤外線遮蔽微粒子(タングステン酸化物微粒子または複合タングステン酸化物微粒子)の含有量については、0.001重量%~80重量%の間に設定されることが好ましく、赤外線遮蔽微粒子の添加後における繊維の重量や原料コストを考慮した場合、上記含有量は0.005重量%~50重量%の間に設定されることが更に好ましい。赤外線遮蔽微粒子の含有量が0.001重量%以上であれば、生地(赤外線遮蔽繊維構造物)が薄くても十分な赤外線吸収効果を得ることができ、80重量%以下であれば、紡糸工程で口金(ノズル)への目塞がりや糸切れ等による可紡性の低下を回避でき、50重量%以下であれば、赤外線遮蔽微粒子の添加量が少なくてすむので繊維の物性を損なうことがない。
【0035】
(4)赤外線遮蔽繊維構造物の単位面積当たりの赤外線遮蔽微粒子の含有量
赤外線遮蔽繊維構造物の単位面積当たりの赤外線遮蔽微粒子の含有量は、上述したように0.10g/m2以上4.5g/m2であり、好ましくは0.15g/m2以上であり、更に好ましくは0.20g/m2以上である。赤外線遮蔽繊維構造物の単位面積当たりの赤外線遮蔽微粒子の含有量が0.10g/m2以上であれば、赤外線領域(波長800nm~1300nm)における赤外線遮蔽繊維構造物の平均反射率を65%以下にすることができる。赤外線遮蔽繊維構造物の平均反射率が65%以下ならば、赤外線遮蔽繊維構造物を織物や編物にして用いた衣類において、赤外線による盗撮(CCDカメラによる透視)を防止することができ、赤外線遮蔽繊維構造物の平均反射率が60%以下ならより好ましく、55%以下なら更に好ましい。尚、赤外線遮蔽繊維構造物の平均反射率を60%以下とするには、赤外線遮蔽繊維構造物の単位面積当たりの赤外線遮蔽微粒子の上記含有量を0.15g/m2以上にする必要があり、また、平均反射率を55%以下とするには、赤外線遮蔽微粒子の上記含有量を0.20g/m2以上にする必要がある。
【0036】
一方、赤外線遮蔽繊維構造物の単位面積当たりの赤外線遮蔽微粒子の含有量が4.5g/m2を超えると、平均反射率は0.07%よりも低くなるが、より低い平均反射率に調整しても赤外線による盗撮防止の効果はそれ以上向上しない。このため、赤外線遮蔽繊維構造物の単位面積当たりの赤外線遮蔽微粒子における含有率の上限は、望ましくは、3.5g/m2である。単位面積当たりの赤外線遮蔽微粒子の含有率が3.5g/m2であれば、平均反射率は0.2%以下となり、赤外線による盗撮防止の効果が十分発揮される。但し、赤外線遮蔽繊維構造物の単位面積当たりの赤外線遮蔽微粒子を過剰に含む場合、赤外線遮蔽繊維構造物を染色する色彩によってはその発色を困難にすることがある。
【0037】
尚、赤外線遮蔽微粒子を含まない繊維構造物の赤外線領域(波長800nm~1300nm)における平均反射率は、下記比較例1で確認されるように77%であり、この反射率では、赤外線による盗撮(CCDカメラによる透視)が可能になってしまう。
【0038】
また、上記平均反射率とは、波長800nm~1300nmまでの領域において、5nm間隔で波長を長くした際の分光光度計で測定される上記赤外線遮蔽繊維構造物における反射率の平均値である。
【0039】
ここで、赤外線による盗撮(CCDカメラによる透視)を防止する解決策に関し、本発明では、赤外線遮蔽繊維構造物の反射率に注目していることについて説明する。
【0040】
眼で物を見た場合、その物を認識できるのは、その物に照射された光が反射し、眼でその物の像を形成できるからであり、カメラで撮影される像も同様である。
【0041】
そして、本発明に係る赤外線遮蔽繊維構造物では、赤外線を吸収する赤外線遮蔽微粒子が繊維表面および/または内部に含まれており、赤外線遮蔽繊維構造物に光が照射されと上記赤外線遮蔽微粒子が赤外線を吸収するため、赤外線領域(波長800nm~1300nm)における反射率が低くなる。すなわち、本発明に係る赤外線遮蔽繊維構造物に照射された光成分の内、赤外線の反射率は下がっている。この結果、本発明に係る赤外線遮蔽繊維構造物をCCDカメラで撮影しようとしても、波長800nm~1300nmの反射率が下がっているため不鮮明な画像になってしまう。
【0042】
尚、広く使われているCCDセンサの波長領域は400nm~1200nmであることが知られている。本発明に係る赤外線遮蔽繊維構造物では、照射された光成分の内、赤外線領域(波長800nm~1300nm)の反射率が下がるので、赤外線による盗撮(CCDカメラによる透視)を防止することが可能となる。
【0043】
一方、本発明で適用されている上記赤外線遮蔽微粒子(タングステン酸化物微粒子または複合タングステン酸化物微粒子)の可視光線領域における光の吸収は、赤外線領域(波長800nm~1300nm)における光の吸収に較べて僅かである。すなわち、本発明に係る赤外線遮蔽微粒子の可視光線領域における光の吸収は少ないため、染色等により、赤外線遮蔽繊維構造物に自由に色彩を付与することができる。更に、本発明に係る赤外線遮蔽繊維構造物を衣類に用いた場合、自然光に含まれる赤外線の人体の肌に届く量を低減できるため、肌へのダメージを低減することができる。
【0044】
(5)赤外線遮蔽繊維
本発明に係る赤外線遮蔽繊維に使用される繊維は、用途に応じて各種選択可能であり、合成繊維、半合成繊維、天然繊維、再生繊維、無機繊維、または、これらの混紡、合糸、混繊等による混合糸のいずれを使用してもよい。更に、無機微粒子を簡便な方法で繊維内に含有させることや保温持続性を考慮すると、合成繊維が好ましい。
【0045】
(5-1)合成繊維
本発明に係る赤外線遮蔽繊維に使用される合成繊維は、特に限定されないが、例えば、ポリウレタン繊維、ポリアミド系繊維、アクリル系繊維、ポリエステル系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリエーテルエステル系繊維等が挙げられる。
【0046】
例えば、ポリアミド系繊維として、ナイロン、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン610、ナイロン612、芳香族ナイロン、アラミド等が挙げられる。
【0047】
また例えば、アクリル系繊維として、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル-塩化ビニル共重合体、モダクリル等が挙げられる。
【0048】
また例えば、ポリエステル系繊維として、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等が挙げられる。
【0049】
また例えば、ポリオレフィン系繊維としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等が挙げられる。
【0050】
また例えば、ポリビニルアルコール系繊維として、ビニロン等が挙げられる。
【0051】
また例えば、ポリ塩化ビニリデン系繊維として、ビニリデン等が挙げられる。
【0052】
また例えば、ポリ塩化ビニル系繊維として、ポリ塩化ビニル等が挙げられる。
【0053】
また例えば、ポリエーテルエステル系繊維として、レクセ、サクセス等が挙げられる。
【0054】
(5-2)半合成繊維
本発明に係る赤外線遮蔽繊維に使用される繊維が半合成繊維である場合は、例えば、セルロース系繊維、タンパク質系繊維、塩化ゴム、塩酸ゴム等が挙げられる。
【0055】
また例えば、セルロース系繊維として、アセテート、トリアセテート、酸化アセテート等が挙げられる。
【0056】
また例えば、タンパク質繊維として、プロミックス等が挙げられる。
【0057】
(5-3)天然繊維
本発明に係る赤外線遮蔽繊維に使用される繊維が天然繊維である場合は、例えば、植物繊維、動物繊維、鉱物繊維等が挙げられる。
【0058】
また例えば、植物繊維としては、綿、カポック、亜麻、大麻、黄麻、マニラ麻、サイザル麻、ニュージーランド麻、羅布麻、やし、いぐさ、麦わら等が挙げられる。
【0059】
また例えば、動物繊維として、羊毛、やぎ毛、モヘヤ、カシミヤ、アルパカ、アンゴラ、キャメル、ビキューナ等のウール、シルク、ダウン、フェザー等が挙げられる。
【0060】
また例えば、鉱物繊維として、石綿、アスベスト等が挙げられる。
【0061】
(5-4)再生繊維
本発明に係る赤外線遮蔽繊維に使用される繊維が再生繊維である場合は、例えば、セルロース系繊維、タンパク質系繊維、アルギン繊維、ゴム繊維、キチン繊維、マンナン繊維等が挙げられる。
【0062】
また例えば、セルロース系繊維として、レーヨン、ビスコースレーヨン、キュプラ、ポリノジック、銅アンモニアレーヨン等が挙げられる。
【0063】
また例えば、タンパク質系繊維として、カゼイン繊維、落花生タンパク繊維、とうもろこしタンパク繊維、大豆タンパク繊維、再生絹糸等が挙げられる。
【0064】
(5-5)無機繊維
本発明に係る赤外線遮蔽繊維に使用される繊維が無機繊維である場合は、例えば、金属繊維、炭素繊維、ケイ酸塩繊維等が挙げられる。
【0065】
また例えば、金属繊維として、金属繊維、金糸、銀糸、耐熱合金繊維等が挙げられる。
【0066】
また例えば、ケイ酸塩繊維として、ガラス繊維、鉱さい繊維、岩石繊維等が挙げられる。
【0067】
(6)赤外線遮蔽繊維の断面形状等
本発明に係る赤外線遮蔽繊維の断面形状は、特に限定されないが、例えば、円形、三角形、中空状、偏平状、Y型、星型、芯鞘型等が挙げられる。繊維の表面および/または内部への微粒子の含有は、種々の形状で可能であり、例えば、芯鞘型の場合、微粒子を繊維の芯部に含有しても、鞘部に含有してもよい。また、赤外線遮蔽繊維の形状は、フィラメント(長繊維)であっても、ステープル(短繊維)であってもよい。
【0068】
また、本発明に係る赤外線遮蔽繊維へは、当該繊維の性能を損なわない範囲内で、目的に応じて、酸化防止剤、難燃剤、消臭剤、防虫剤、抗菌剤、紫外線吸収剤等を含有させて使用することができる。
【0069】
(7)繊維表面および/または内部に赤外線遮蔽微粒子を含有させる方法
本発明に係る繊維表面および/または内部に赤外線遮蔽微粒子を含有させる方法については特に限定されない。例えば、(A)合成繊維の原料ポリマーへ上記赤外線遮蔽微粒子を直接混合して紡糸する方法、(B)予め原料ポリマーの一部へ上記赤外線遮蔽微粒子を高濃度に含有せしめたマスターバッチを製造し、これを紡糸時に所定の濃度に希釈調整してから紡糸する方法、(C)上記赤外線遮蔽微粒子を、予め原料モノマーまたはオリゴマー溶液中に均一に分散させておき、この分散溶液を用いて目的とする原料ポリマーを合成すると同時に、当該赤外線遮蔽微粒子を均一に原料ポリマー中に分散せしめた後、紡糸する方法、(D)予め紡糸して得られた繊維の表面へ、上記赤外線遮蔽微粒子を、結合剤等を用いて付着させる方法等が挙げられる。
【0070】
ここで、上記(B)で説明した、マスターバッチを製造し、これを紡糸時に希釈調整してから紡糸する方法の好ましい例について、以下、詳細に説明する。
【0071】
マスターバッチの製造方法は特に限定されないが、例えば、タングステン酸化物微粒子および/または複合タングステン酸化物微粒子分散液と、熱可塑性樹脂の粉粒体またはペレットと、必要に応じて他の添加剤とを、リボブレンダー、タンブラー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、プラネタリーミキサー等の混合機、およびバンバリーミキサー、ニーダー、ロール、ニーダールーダー、一軸押出機、二軸押出機等の混練機を使用して溶剤を除去しながら均一に溶融混合することで、熱可塑性樹脂に微粒子を均一に分散した混合物としてマスターバッチを調製することができる。
【0072】
更に、タングステン酸化物微粒子および/または複合タングステン酸化物微粒子分散液を調製後、当該分散液の溶剤を公知の方法で除去し、得られた粉末と、熱可塑性樹脂の粉粒体またはペレットと、必要に応じて他の添加剤と、を均一に溶融混合し、熱可塑性樹脂に当該微粒子を均一に分散した混合物を製造することもできる。この他、タングステン酸化物微粒子および/または複合タングステン酸化物微粒子の粉末を、直接、熱可塑性樹脂へ添加し、均一に溶融混合する方法を用いることもできる。
【0073】
上述した方法により得られたタングステン酸化物微粒子および/または複合タングステン酸化物微粒子と、熱可塑性樹脂との混合物を、ペント式一軸若しくは二軸の押出機で混練し、ペレット状に加工することにより、赤外線遮蔽微粒子含有マスターバッチを得ることができる。
【0074】
ここで、上述した(A)~(D)の方法について、以下、具体的に説明する。
【0075】
(A)の方法:例えば、繊維としてポリエステル繊維を用いる場合、熱可塑性樹脂であるポリエチレンテレフタレート樹脂ペレットにタングステン酸化物微粒子および/または複合タングステン酸化物微粒子分散液を添加し、ブレンダーで均一に混合した後、溶媒を除去する。当該溶媒を除去した混合物を二軸押出機で溶融混練し、タングステン酸化物微粒子および/または複合タングステン酸化物微粒子含有マスターバッチを得る。得られたタングステン酸化物微粒子および/または複合タングステン酸化物微粒子含有マスターバッチを、樹脂の溶融温度付近で溶融混合し、常法に従って紡糸する。
【0076】
(B)の方法:予め調製しておいたタングステン酸化物微粒子および/または複合タングステン酸化物微粒子含有マスターバッチを用いる以外は、(A)と同様にして、タングステン酸化物微粒子および/または複合タングステン酸化物微粒子含有マスターバッチと、微粒子無添加のポリエチレンテレフタレートよりなるマスターバッチの目的量とを、樹脂の溶融温度付近で溶融混合し、常法に従って紡糸する。
【0077】
(C)の方法:例えば、繊維としてウレタン繊維を用いる場合、タングステン酸化物微粒子および/または複合タングステン酸化物微粒子を含有した高分子ジオールと、有機ジイソシアネートとを、二軸押出機内で反応させてイソシアネート基末端プレポリマーを合成した後、ここへ鎖伸長剤を反応させてポリウレタン溶液(原料ポリマー)を製造する。当該ポリウレタン溶液を常法に従って紡糸する。
【0078】
(D)の方法:例えば、天然繊維の表面に赤外線遮蔽微粒子を付着させるためには、まず、タングステン酸化物微粒子および/または複合タングステン酸化物微粒子と、アクリル・エポキシ・ウレタン・ポリエステルから選ばれた少なくとも1種のバインダー樹脂と、水等の溶媒と、を混合した処理液を調製する。次に、調製された処理液に当該天然繊維を浸漬させるか、調製された処理液をパディング、印刷またはスプレー等により当該天然繊維へ含浸させ、乾燥することで、当該天然繊維にタングステン酸化物微粒子および/または複合タングステン酸化物微粒子を付着させることができる。そして当該(D)の方法は、上述した天然繊維の他、半合成繊維、再生繊維、無機繊維、または、これらの混紡、合糸、混繊等のいずれにも適用することができる。
【0079】
尚、上記(A)~(D)に係る方法を実施する際、タングステン酸化物微粒子および/または複合タングステン酸化物微粒子の分散方法は、上記微粒子を液体中に均一分散させることができる方法であればいかなる方法でもよく、例えば、媒体攪拌ミル、ボールミル、サンドミル、超音波分散等の方法が好適に適用できる。
【0080】
また、上記赤外線遮蔽微粒子の分散媒は特に限定されるものではなく、混合する繊維に合わせて選択可能であり、例えば、アルコール、エーテル、エステル、ケトン、芳香族化合物等の一般的な各種有機溶媒や、水が使用可能である。
【0081】
更に、上記赤外線遮蔽微粒子を当該繊維やその原料となるポリマーに付着、混合させる際には、赤外線遮蔽微粒子の分散液を、繊維やその原料となるポリマーに直接混合してもよい。また必要に応じて、赤外線遮蔽微粒子の分散液に酸やアルカリを添加してpHを調整しても良いし、微粒子の分散安定性を一層向上させるために、各種の界面活性剤、カップリング剤等を添加することも好ましい。
【0082】
また、上記赤外線遮蔽微粒子の耐候性を向上させるため、タングステン酸化物微粒子および/または複合タングステン酸化物微粒子の表面を、ケイ素、ジルコニウム、チタン、アルミニウムから選択される1種類以上の元素を含む化合物で被覆することも好ましい。これらの化合物は基本的に透明であり、添加することで上記赤外線遮蔽微粒子の可視光透過率を低下させることがないため、繊維の意匠性を損なうことがない。
【0083】
更に、上記赤外線遮蔽微粒子の耐薬品特性を向上させるため、タングステン酸化物微粒子および/または複合タングステン酸化物微粒子の表面を、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂、フッ素樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、熱可塑性ポリウレタン樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、アクリロニトリル・スチレン共重合体樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合体樹脂等の熱可塑性樹脂、あるいは、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、熱硬化性ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂で被覆してもよい。
【0084】
以上説明したように、本発明に係る赤外線遮蔽繊維は、熱線遮蔽成分としてタングステン酸化物微粒子および/または複合タングステン酸化物微粒子を繊維表面および/または内部に少量含有させることで赤外線を遮蔽することを可能としている。
【0085】
赤外線遮蔽繊維は、用途に応じて長繊維、短繊維に加工させた後、紡績され、公知の方法で織物、編物に加工され赤外線遮蔽繊維構造物となる。また、赤外線遮蔽繊維は、公知の方法で加工され、不織布となり赤外線遮蔽繊維構造物となる。もちろん、赤外線遮蔽繊維を紡績した糸(紡績糸)は無色あるいは染色されてもよい。また、織物、編物、不織布等の赤外線遮蔽繊維構造物も部分若しくは全体的に染色されても良い。
【0086】
本発明に係る赤外線遮蔽繊維構造物は、耐候性が良く無色であり、赤外線遮蔽微粒子の添加量が少ないため、繊維構造物や得られる衣類に対し染色等の着色の自由度が高いことから意匠性を損なうことがなく、強度や伸度等の繊維における基本的な物性を損なうことも回避できる。この結果、本発明に係る赤外線遮蔽繊維構造物は、繊維製品における基本的な物性を損なうことなく赤外線による盗撮(CCDカメラによる透視)を防止できるため、インナーウエア、スポーツウエア、ストッキング等の衣類に使用することができる。
【0087】
(8)赤外線遮蔽微粒子の製造方法
次に、本発明に係る赤外線遮蔽微粒子の製造方法について、一般式WOXで表記されるタングステン酸化物微粒子、および、一般式MYWOZで表記される複合タングステン酸化物微粒子の製造方法を例に挙げて説明する。
【0088】
上記タングステン酸化物微粒子および/または複合タングステン酸化物微粒子は、当該酸化物微粒子の出発原料であるタングステン化合物を、所定量秤量し、混合した後、不活性ガス雰囲気若しくは還元性ガス雰囲気中で熱処理して得ることができる。
【0089】
出発原料であるタングステン化合物は、3酸化タングステン粉末、2酸化タングステン粉末、若しくはタングステン酸化物の水和物、若しくは、6塩化タングステン粉末、若しくはタングステン酸アンモニウム粉末、若しくは、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、若しくは、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち水を添加して沈殿させこれを乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、若しくはタングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、金属タングステン粉末から選ばれたいずれか一種類以上であることが好ましい。
【0090】
ここで、タングステン酸化物微粒子を製造する場合には製造工程の容易さの観点より、タングステン酸化物の水和物粉末、3酸化タングステン、若しくはタングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、を用いることが更に好ましく、複合タングステン酸化物微粒子を製造する場合には、出発原料が溶液であると、各元素は容易に均一混合可能となる観点より、タングステン酸アンモニウム水溶液や、6塩化タングステン溶液を用いることが更に好ましい。これら原料を用い、これを不活性ガス雰囲気若しくは還元性ガス雰囲気中で熱処理して、上述した赤外線遮蔽機能を有するタングステン酸化物微粒子および/または複合タングステン酸化物微粒子を得ることができる。
【0091】
また、赤外線遮蔽機能を有する複合タングステン酸化物微粒子の出発原料は、上述したタングステン酸化物微粒子を含有する赤外線遮蔽機能を有する微粒子の出発原料と同様のタングステン化合物であるが、更に元素Mを、元素単体または化合物のかたちで含有するタングステン化合物を出発原料とする。ここで、各成分が分子レベルで均一混合した出発原料であるタングステン化合物を製造するには、各原料を溶液で混合することが好ましく、元素Mを含むタングステン化合物が、水や有機溶媒等の溶媒に溶解可能なものであることが好ましい。例えば、元素Mを含有するタングステン酸塩、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物、炭酸塩、水酸化物、等が挙げられるが、これらに限定されず、溶液状になるものであれば好ましい。
【0092】
上述したタングステン酸化物微粒子、複合タングステン酸化物微粒子を製造するための原料に関し、以下、再度詳細に説明する。
【0093】
一般式WOXで表記されるタングステン酸化物微粒子を得るための出発原料であるタングステン化合物には、3酸化タングステン粉末、2酸化タングステン粉末、若しくはタングステン酸化物の水和物、若しくは、6塩化タングステン粉末、若しくはタングステン酸アンモニウム粉末、若しくは、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、若しくは、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち水を添加して沈殿させこれを乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、若しくはタングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、金属タングステン粉末から選ばれたいずれか一種類以上を用いることができるが、製造工程の容易さの観点より、タングステン酸化物の水和物粉末、3酸化タングステン粉末、またはタングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末を用いることが更に好ましい。
【0094】
元素Mを含む一般式MYWOZで表記される複合タングステン酸化物微粒子を得るための出発原料には、3酸化タングステン粉末、2酸化タングステン粉末、若しくはタングステン酸化物の水和物、若しくは、6塩化タングステン粉末、若しくはタングステン酸アンモニウム粉末、若しくは、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、若しくは、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させたのち水を添加して沈殿させこれを乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物粉末、若しくはタングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物粉末、金属タングステン粉末から選ばれたいずれか一種類以上の粉末と、上記M元素を含有する単体または化合物の粉末とを、混合した粉末を用いることができる。
【0095】
更に、複合タングステン酸化物微粒子を得るための出発原料であるタングステン化合物が、溶液または分散液であると、各元素は容易に均一混合可能となる。
【0096】
当該観点より、複合タングステン酸化物の微粒子の出発原料が、6塩化タングステンのアルコール溶液またはタングステン酸アンモニウム水溶液と、上記M元素を含有する化合物の溶液とを、混合した後乾燥した粉末であることが更に好ましい。
【0097】
同様に、複合タングステン酸化物の微粒子の出発原料が、6塩化タングステンをアルコール中に溶解させた後、水を添加して沈殿を生成させた分散液と、上記M元素を含有する単体または化合物の粉末、または、上記M元素を含有する化合物の溶液とを、混合した後乾燥した粉末であることも好ましい。
【0098】
上記M元素を含有する化合物としては、M元素のタングステン酸塩、塩化物塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、酸化物、炭酸塩、水酸化物、等が挙げられるが、これらに限定されず、溶液状になるものであればよい。更に、当該複合タングステン酸化物微粒子を工業的に製造する場合に、タングステン酸化物の水和物粉末や3酸化タングステンと、M元素の炭酸塩や水酸化物とを用いると、熱処理等の段階で有害なガス等が発生することが無く、好ましい製造法である。
【0099】
ここで、タングステン酸化物微粒子および複合タングステン酸化物微粒子の不活性雰囲気中における熱処理条件としては、650℃以上が好ましい。650℃以上で熱処理された出発原料は十分な赤外線遮蔽機能を有し、赤外線遮蔽機能を有する微粒子として効率が良い。不活性ガスとしてはAr、N2等の不活性ガスを用いることが良い。また、還元性雰囲気中の熱処理条件としては、まず、出発原料を還元性ガス雰囲気中にて100℃以上850℃以下で熱処理し、次いで不活性ガス雰囲気中で650℃以上1200℃以下の温度で熱処理することが良い。このときの還元性ガスは、特に限定されないがH2が好ましい。また、還元性ガスとしてH2を用いる場合は、還元雰囲気の組成として、H2が体積比で0.1%以上が好ましく、更に好ましくは2%以上が良い。H2が体積比で0.1%以上あれば効率よく還元を進めることができる。
【実施例0100】
以下、本発明の実施例について比較例も挙げて具体的に説明する。
【0101】
[実施例1]
Cs0.33WO3微粒子(比表面積20m2/g)を10重量部、トルエン80重量部、微粒子分散用分散剤10重量部を混合し、媒体攪拌ミルで分散処理を行ない、平均分散粒子径32nmのCs0.33WO3微粒子分散液(a液)を調製した。
【0102】
次いで、スプレードライヤーを用いてCs0.33WO3微粒子分散液(a液)のトルエンを除去し、Cs0.33WO3微粒子分散粉(a粉)を得た。
【0103】
得られたCs0.33WO3微粒子分散粉(a粉)を、熱可塑性樹脂であるポリエチレンテレフタレート樹脂ペレットに添加し、ブレンダーで均一に混合した後、当該混合物を二軸押出機で溶融混練して押し出し、当該押し出されたストランドをペレット状にカットし、赤外線吸収成分であるCs0.33WO3微粒子を80重量%含有するマスターバッチaを得た。
【0104】
得られたマスターバッチaと、同じ方法で調製したCs0.33WO3微粒子を添加していないポリエチレンテレフタレートから成るマスターバッチbとを、重量比1:1で混合してCs0.33WO3微粒子を40重量%含有した混合マスターバッチを得た。尚、混合マスターバッチの製造時点におけるCs0.33WO3微粒子の平均粒径は、TEM(透過型電子顕微鏡)を用いた単独回折リングで結像した暗視野像から25nmと観測された。
【0105】
次いで、上記Cs0.33WO3微粒子を40重量%含有した混合マスターバッチを溶融紡糸し、続いて延伸を行ってポリエステルマルチフィラメント糸aを製造した後、該ポリエステルマルチフィラメント糸aを切断して、Cs0.33WO3微粒子を40重量%含有するポリエステルステープルaを作製した。
【0106】
また、Cs0.33WO3微粒子を含有しない上記マスターバッチbを溶融紡糸し、続いて延伸を行ってポリエステルマルチフィラメント糸bを製造した後、上記同様、ポリエステルマルチフィラメント糸bを切断して、Cs0.33WO3微粒子を含有しないポリエステルステープルbを作製した。
【0107】
そして、Cs0.33WO3微粒子を40重量%含有するポリエステルステープルaとCs0.33WO3微粒子を含有しないポリエステルステープルbを用いて紡績糸を製造し、この紡績糸を用いてニット製品(赤外線遮蔽繊維構造物)を作製し、かつ、得られたニット製品をカチオン染料で茶色に染色して実施例1に係るニット製品を作製した。
【0108】
尚、染色して実施例1に係るニット製品を得たのは、染色されていない白色のニット製品では、可視光でも透けて見える事態を回避するためである。
(実施例1に係るニット製品の平均反射率)
上記紡績糸を製造する際、Cs0.33WO3微粒子を40重量%含有するポリエステルステープルaとCs0.33WO3微粒子を含有しないポリエステルステープルbの混合割合を適宜設定し、実施例1に係るニット製品の単位面積当たりのCs0.33WO3微粒子の含有量が0.13g/m2となるよう調整している。
【0109】
そして、日立製作所製の分光光度計を用い、実施例1に係るニット製品の波長800nm~1300nmにおける5nm間隔の反射率を測定したところ、図1に示す分光特性が得られ、この分光特性から実施例1に係るニット製品の波長800nm~1300nmにおける平均反射率は62%であった。
【0110】
(実施例1に係るニット製品の評価)
次いで、日本紡績検査協会のボーケン規格「BQE A 033」に準じた下記試験方法により、実施例1に係るニット製品の『赤外線による盗撮(CCDカメラによる透視)防止』に関する評価を行った。
【0111】
「試験方法」
(1)ニット製品(赤外線遮蔽繊維構造物)に係る試験片を透過判定板(視力検査表)に被せ、試験台に設置する。
(2)赤外線投光機を用いて、試験片表面に約7mW/cm2の強度で投光する。
(3)上記試験片をデジタルカメラで通常撮影する。
(4)上記試験片を赤外線カメラで透過撮影する。
(5)透過撮影した画像を確認し、赤外線透過の有無を判定する。
【0112】
「判定結果」
実施例1に係るニット製品は、赤外線による透過が認められなかった。
【0113】
この結果を下記表1に示す。
【0114】
[実施例2]
上記ポリエステルステープルaとポリエステルステープルbを用いて紡績糸を製造し、この紡績糸を用いてニット製品(赤外線遮蔽繊維構造物)を作製し、得られたニット製品を実施例1と同様に染色して実施例2に係るニット製品を作製した。
【0115】
そして、上記紡績糸を製造する際、Cs0.33WO3微粒子を40重量%含有するポリエステルステープルaとCs0.33WO3微粒子を含有しないポリエステルステープルbの混合割合を適宜設定して、実施例2に係るニット製品の単位面積当たりのCs0.33WO3微粒子の含有量が0.17g/m2となるよう調整した以外は実施例1と同様に行ったところ、図1に示す分光特性が得られ、この分光特性から実施例2に係るニット製品の波長800nm~1300nmにおける平均反射率は58%であった。
【0116】
(実施例2に係るニット製品の評価)
実施例1と同様、『赤外線による盗撮(CCDカメラによる透視)防止』に関する評価を行ったところ、実施例2に係るニット製品も赤外線による透過は認められなかった。
【0117】
この結果も下記表1に示す。
【0118】
[実施例3]
上記ポリエステルステープルaとポリエステルステープルbを用いて紡績糸を製造し、この紡績糸を用いてニット製品(赤外線遮蔽繊維構造物)を作製し、得られたニット製品を実施例1と同様に染色して実施例3に係るニット製品を作製した。
【0119】
そして、上記紡績糸を製造する際、Cs0.33WO3微粒子を40重量%含有するポリエステルステープルaとCs0.33WO3微粒子を含有しないポリエステルステープルbの混合割合を適宜設定して、実施例3に係るニット製品の単位面積当たりのCs0.33WO3微粒子の含有量が0.26g/m2となるよう調整した以外は実施例1と同様に行ったところ、図1に示す分光特性が得られ、この分光特性から実施例3に係るニット製品の波長800nm~1300nmにおける平均反射率は50%であった。
【0120】
(実施例3に係るニット製品の評価)
実施例1と同様、『赤外線による盗撮(CCDカメラによる透視)防止』に関する評価を行ったところ、実施例3に係るニット製品も赤外線による透過は認められなかった。
【0121】
この結果も下記表1に示す。
【0122】
[実施例4]
上記ポリエステルステープルaとポリエステルステープルbを用いて紡績糸を製造し、この紡績糸を用いてニット製品(赤外線遮蔽繊維構造物)を作製し、得られたニット製品を実施例1と同様に染色して実施例4に係るニット製品を作製した。
【0123】
そして、上記紡績糸を製造する際、Cs0.33WO3微粒子を40重量%含有するポリエステルステープルaとCs0.33WO3微粒子を含有しないポリエステルステープルbの混合割合を適宜設定して、実施例4に係るニット製品の単位面積当たりのCs0.33WO3微粒子の含有量が0.87g/m2となるよう調整した以外は実施例1と同様に行ったところ、図1に示す分光特性が得られ、この分光特性から実施例4に係るニット製品の波長800nm~1300nmにおける平均反射率は18%であった。
【0124】
(実施例4に係るニット製品の評価)
実施例1と同様、『赤外線による盗撮(CCDカメラによる透視)防止』に関する評価を行ったところ、実施例4に係るニット製品も赤外線による透過は認められなかった。
【0125】
この結果も下記表1に示す。
【0126】
[実施例5]
上記ポリエステルステープルaとポリエステルステープルbを用いて紡績糸を製造し、この紡績糸を用いてニット製品(赤外線遮蔽繊維構造物)を作製し、得られたニット製品を実施例1と同様に染色して実施例5に係るニット製品を作製した。
【0127】
そして、上記紡績糸を製造する際、Cs0.33WO3微粒子を40重量%含有するポリエステルステープルaとCs0.33WO3微粒子を含有しないポリエステルステープルbの混合割合を適宜設定して、実施例5に係るニット製品の単位面積当たりのCs0.33WO3微粒子の含有量が1.73g/m2となるよう調整した以外は実施例1と同様に行ったところ、図1に示す分光特性が得られ、この分光特性から実施例5に係るニット製品の波長800nm~1300nmにおける平均反射率は4%であった。
【0128】
(実施例5に係るニット製品の評価)
実施例1と同様、『赤外線による盗撮(CCDカメラによる透視)防止』に関する評価を行ったところ、実施例5に係るニット製品も赤外線による透過は認められなかった。
【0129】
この結果も下記表1に示す。
【0130】
[実施例6]
上記ポリエステルステープルaとポリエステルステープルbを用いて紡績糸を製造し、この紡績糸を用いてニット製品(赤外線遮蔽繊維構造物)を作製し、得られたニット製品を実施例1と同様に染色して実施例6に係るニット製品を作製した。
【0131】
そして、上記紡績糸を製造する際、Cs0.33WO3微粒子を40重量%含有するポリエステルステープルaとCs0.33WO3微粒子を含有しないポリエステルステープルbの混合割合を適宜設定して、実施例6に係るニット製品の単位面積当たりのCs0.33WO3微粒子の含有量が2.60g/m2となるよう調整した以外は実施例1と同様に行ったところ、図1に示す分光特性が得られ、この分光特性から実施例6に係るニット製品の波長800nm~1300nmにおける平均反射率は1%であった。
【0132】
(実施例6に係るニット製品の評価)
実施例1と同様、『赤外線による盗撮(CCDカメラによる透視)防止』に関する評価を行ったところ、実施例6に係るニット製品も赤外線による透過は認められなかった。
【0133】
この結果も下記表1に示す。
【0134】
[実施例7]
上記ポリエステルステープルaとポリエステルステープルbを用いて紡績糸を製造し、この紡績糸を用いてニット製品(赤外線遮蔽繊維構造物)を作製し、得られたニット製品を実施例1と同様に染色して実施例7に係るニット製品を作製した。
【0135】
そして、上記紡績糸を製造する際、Cs0.33WO3微粒子を40重量%含有するポリエステルステープルaとCs0.33WO3微粒子を含有しないポリエステルステープルbの混合割合を適宜設定して、実施例7に係るニット製品の単位面積当たりのCs0.33WO3微粒子の含有量が4.33g/m2となるよう調整した以外は実施例1と同様に行ったところ、図1に示す分光特性が得られ、この分光特性から実施例7に係るニット製品の波長800nm~1300nmにおける平均反射率は0.07%であった。
【0136】
(実施例7に係るニット製品の評価)
実施例1と同様、『赤外線による盗撮(CCDカメラによる透視)防止』に関する評価を行ったところ、実施例7に係るニット製品も赤外線による透過は認められなかった。
【0137】
この結果も下記表1に示す。
【0138】
[比較例1]
Cs0.33WO3微粒子を含有しない上記ポリエステルステープルbのみを用いて紡績糸を製造し、この紡績糸を用いてニット製品を作製し、かつ、得られたニット製品を実施例1と同様に染色して比較例1に係るニット製品を得た。
【0139】
そして、日立製作所製の分光光度計を用い、比較例1に係るニット製品の波長800nm~1300nmにおける5nm間隔の反射率を測定したところ、図1に示す分光特性が得られ、この分光特性から比較例1に係るニット製品の波長800nm~1300nmにおける平均反射率は77%であった。
【0140】
(比較例1に係るニット製品の評価)
実施例1と同様、『赤外線による盗撮(CCDカメラによる透視)防止』に関する評価を行ったところ、比較例1に係るニット製品は赤外線による透過が認められた。
【0141】
この結果も下記表1に示す。
【0142】
[比較例2]
上記ポリエステルステープルaとポリエステルステープルbを用いて紡績糸を製造し、この紡績糸を用いてニット製品(赤外線遮蔽繊維構造物)を作製し、得られたニット製品を実施例1と同様に染色して比較例2に係るニット製品を得た。
【0143】
そして、上記紡績糸を製造する際、Cs0.33WO3微粒子を40重量%含有するポリエステルステープルaとCs0.33WO3微粒子を含有しないポリエステルステープルbの混合割合を適宜設定して、比較例2に係るニット製品の単位面積当たりのCs0.33WO3微粒子の含有量が0.09g/m2となるよう調整した以外は実施例1と同様に行ったところ、図1に示す分光特性が得られ、この分光特性から比較例2に係るニット製品の波長800nm~1300nmにおける平均反射率は67%であった。
【0144】
(比較例2に係るニット製品の評価)
実施例1と同様、『赤外線による盗撮(CCDカメラによる透視)防止』に関する評価を行ったところ、比較例2に係るニット製品も赤外線による透過が認められた。
【0145】
この結果も下記表1に示す。
【0146】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明に係る赤外線遮蔽繊維構造物によれば、赤外線による盗撮防止機能を長期に亘り維持できるため、盗撮され易いインナーウエア、スポーツウエア等に適用される産業上の利用可能性を有している。
図1