(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057044
(43)【公開日】2024-04-23
(54)【発明の名称】溶接方法および溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/21 20140101AFI20240416BHJP
B23K 26/073 20060101ALI20240416BHJP
B23K 26/28 20140101ALI20240416BHJP
【FI】
B23K26/21 E
B23K26/073
B23K26/28
【審査請求】有
【請求項の数】33
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024027222
(22)【出願日】2024-02-27
(62)【分割の表示】P 2020541282の分割
【原出願日】2019-09-04
(31)【優先権主張番号】P 2018165499
(32)【優先日】2018-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安岡 知道
(72)【発明者】
【氏名】茅原 崇
(72)【発明者】
【氏名】酒井 俊明
(72)【発明者】
【氏名】西井 諒介
(72)【発明者】
【氏名】繁松 孝
(57)【要約】
【課題】溶融痕の底面の形状を安定化できる溶接方法および溶接装置を提供する。
【解決手段】溶接方法は、レーザ光を加工対象に向かって照射しながら前記レーザ光と前記加工対象とを相対的に移動させ、前記レーザ光を前記加工対象上で掃引しつつ、照射された部分の前記加工対象を溶融して溶接を行う、工程を含み、前記レーザ光は主パワー領域と、前記主パワー領域の掃引方向側方に少なくともその一部がある副パワー領域とによって構成され、前記主パワー領域のパワー密度は前記副パワー領域のパワー密度以上であり、前記主パワー領域のパワー密度は、少なくともキーホールを発生させうるパワー密度である。
【選択図】
図5A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を加工対象に向かって照射しながら前記レーザ光と前記加工対象とを相対的に移動させ、前記レーザ光を前記加工対象上で掃引しつつ、照射された部分の前記加工対象を溶融して溶接を行う、
工程を含み、
前記レーザ光は主パワー領域と、前記主パワー領域の掃引方向側方に少なくともその一部がある副パワー領域とによって構成され、前記主パワー領域のパワー密度は前記副パワー領域のパワー密度以上であり、
前記主パワー領域のパワー密度は、少なくともキーホールを発生させうるパワー密度であり、
前記レーザ光は、前記主パワー領域の掃引方向側方のみに、前記主パワー領域よりもパワー密度が低い副パワー領域をさらに有し、
前記主パワー領域および前記副パワー領域のうち少なくとも前記副パワー領域を形成するレーザ光の波長は、前記加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長である、溶接方法。
【請求項2】
レーザ光を加工対象に向かって照射しながら前記レーザ光と前記加工対象とを相対的に移動させ、前記レーザ光を前記加工対象上で掃引しつつ、照射された部分の前記加工対象を溶融して溶接を行う、
工程を含み、
前記レーザ光は主パワー領域と、前記主パワー領域の掃引方向側方に少なくともその一部がある副パワー領域とによって構成され、前記主パワー領域のパワー密度は前記副パワー領域のパワー密度以上であり、
前記主パワー領域のパワー密度は、少なくともキーホールを発生させうるパワー密度であり、
前記レーザ光は、前記主パワー領域の掃引方向側方および後方のみに、前記副パワー領域を有し、
前記主パワー領域および前記副パワー領域のうち少なくとも前記副パワー領域を形成するレーザ光の波長は、前記加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長である、溶接方法。
【請求項3】
レーザ光を加工対象に向かって照射しながら前記レーザ光と前記加工対象とを相対的に移動させ、前記レーザ光を前記加工対象上で掃引しつつ、照射された部分の前記加工対象を溶融して溶接を行う、
工程を含み、
前記レーザ光は主パワー領域と、前記主パワー領域の掃引方向側方に少なくともその一部がある副パワー領域とによって構成され、前記主パワー領域のパワー密度は前記副パワー領域のパワー密度以上であり、
前記主パワー領域のパワー密度は、少なくともキーホールを発生させうるパワー密度であり、
前記副パワー領域は、前記主パワー領域の周囲を囲む略リング形状の一部である円弧形状を持ち、
前記主パワー領域および前記副パワー領域のうち少なくとも前記副パワー領域を形成するレーザ光の波長は、前記加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長である、溶接方法。
【請求項4】
レーザ光を加工対象に向かって照射しながら前記レーザ光と前記加工対象とを相対的に移動させ、前記レーザ光を前記加工対象上で掃引しつつ、照射された部分の前記加工対象を溶融して溶接を行う、
工程を含み、
前記レーザ光は主パワー領域と、前記主パワー領域の掃引方向側方に少なくともその一部がある副パワー領域とによって構成され、前記主パワー領域のパワー密度は前記副パワー領域のパワー密度以上であり、
前記主パワー領域のパワー密度は、少なくともキーホールを発生させうるパワー密度であり、
前記レーザ光の前記副パワー領域が複数の副ビームで構成され、
前記レーザ光の前記主パワー領域が主ビームで構成され、
前記主ビームの少なくとも一部はそれぞれの前記副ビームと重ならない領域を有し、
前記主パワー領域および前記副パワー領域のうち少なくとも前記副パワー領域を形成するレーザ光の波長は、前記加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長である、溶接方法。
【請求項5】
前記レーザ光の前記主パワー領域と前記副パワー領域で溶融池が形成されている、請求項1~3のいずれか1項に記載の溶接方法。
【請求項6】
前記レーザ光の前記主パワー領域と前記副パワー領域は、前記主パワー領域で形成された溶融池と、前記副パワー領域で形成された溶融池の少なくとも一部が重なる様に構成される、請求項1~3、5のいずれか1項に記載の溶接方法。
【請求項7】
前記レーザ光の前記副パワー領域が複数の副ビームで構成され、
前記レーザ光の前記主パワー領域が主ビームで構成され、
前記主ビームの少なくとも一部はそれぞれの前記副ビームと重ならない領域を有する、請求項1~3、5、6のいずれか1項に記載の溶接方法。
【請求項8】
前記レーザ光は、前記主パワー領域の掃引方向側方に、前記主パワー領域よりもパワー密度が低い副パワー領域をさらに有する、請求項4~7のいずれか1項に記載の溶接方法。
【請求項9】
前記主パワー領域を形成するレーザ光の波長は、前記副パワー領域を形成するレーザ光の波長と同一である、請求項1~8のいずれか1項に記載の溶接方法。
【請求項10】
前記主パワー領域および前記副パワー領域は、同一の発振器から出射されたレーザ光で構成される、請求項1~9のいずれか1項に記載の溶接方法。
【請求項11】
前記主パワー領域および前記副パワー領域は、異なる発振器から出射されたレーザ光で構成される、請求項1~10のいずれか1項に記載の溶接方法。
【請求項12】
前記主パワー領域および前記副パワー領域は、ビームシェイパによって形成される、請求項1~11のいずれか1項に記載の溶接方法。
【請求項13】
前記ビームシェイパは回折光学素子である、ことを特徴とする請求項12に記載の溶接方法。
【請求項14】
前記加工対象は溶接されるべき少なくとも2つの部材であり、前記加工対象をレーザ光の照射される領域に配置する工程は、前記少なくとも2つの部材を重ねる、または接触させる、または隣接させるように配置する工程である、請求項1~13のいずれか1項に記載の溶接方法。
【請求項15】
レーザ発振器と、
レーザ発振器から発振された光を受け取ってレーザ光を生成し、前記生成されたレーザ光を加工対象に向かって照射して照射された部分の前記加工対象を溶融して溶接を行う光学ヘッドと、
によって構成され、
前記光学ヘッドは前記レーザ光と前記加工対象とが相対的に移動可能な様に構成され、前記レーザ光を前記加工対象上で掃引しつつ、前記溶融を行なって溶接を行い、
前記レーザ光は主パワー領域と、掃引方向側方に少なくともその一部がある副パワー領域によって構成され、主パワー領域のパワー密度は副パワー領域のパワー密度以上であり、
前記レーザ光は、前記主パワー領域の掃引方向側方のみに、前記副パワー領域をさらに有し、
前記主パワー領域および前記副パワー領域のうち少なくとも前記副パワー領域を形成するレーザ光の波長は、前記加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長である、溶接装置。
【請求項16】
レーザ発振器と、
レーザ発振器から発振された光を受け取ってレーザ光を生成し、前記生成されたレーザ光を加工対象に向かって照射して照射された部分の前記加工対象を溶融して溶接を行う光学ヘッドと、
によって構成され、
前記光学ヘッドは前記レーザ光と前記加工対象とが相対的に移動可能な様に構成され、前記レーザ光を前記加工対象上で掃引しつつ、前記溶融を行なって溶接を行い、
前記レーザ光は主パワー領域と、掃引方向側方に少なくともその一部がある副パワー領域によって構成され、主パワー領域のパワー密度は副パワー領域のパワー密度以上であり、
前記レーザ光は、前記主パワー領域の掃引方向側方および後方のみに、前記副パワー領域をさらに有し、
前記主パワー領域および前記副パワー領域のうち少なくとも前記副パワー領域を形成するレーザ光の波長は、前記加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長である、溶接装置。
【請求項17】
レーザ発振器と、
レーザ発振器から発振された光を受け取ってレーザ光を生成し、前記生成されたレーザ光を加工対象に向かって照射して照射された部分の前記加工対象を溶融して溶接を行う光学ヘッドと、
によって構成され、
前記光学ヘッドは前記レーザ光と前記加工対象とが相対的に移動可能な様に構成され、前記レーザ光を前記加工対象上で掃引しつつ、前記溶融を行なって溶接を行い、
前記レーザ光は主パワー領域と、掃引方向側方に少なくともその一部がある副パワー領域によって構成され、主パワー領域のパワー密度は副パワー領域のパワー密度以上であり、
前記レーザ発振器は異なる2つのレーザ発振器から構成され、前記主パワー領域および前記副パワー領域は、それぞれ前記異なる2つの発振器から出射されたレーザ光で構成され、
前記主パワー領域および前記副パワー領域のうち少なくとも前記副パワー領域を形成するレーザ光の波長は、前記加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長である、溶接装置。
【請求項18】
前記レーザ光の前記主パワー領域と前記副パワー領域は、それぞれ溶融池を形成する様に構成される、請求項15または16に記載の溶接装置。
【請求項19】
前記レーザ光の前記主パワー領域と前記副パワー領域は、前記主パワー領域で形成された溶融池と、前記副パワー領域で形成された溶融池の少なくとも一部が重なる様に構成される、請求項15、16、18のいずれか1項に記載の溶接装置。
【請求項20】
前記レーザ発振器は異なる2つのレーザ発振器から構成され、前記主パワー領域および前記副パワー領域は、それぞれ前記異なる2つの発振器から出射されたレーザ光で構成される、請求項15、16、18、19のいずれか1項に記載の溶接装置。
【請求項21】
前記レーザ光は、前記主パワー領域の掃引方向側方に、前記主パワー領域よりもパワー密度が低い副パワー領域をさらに有する、請求項17~20のいずれか1項に記載の溶接装置。
【請求項22】
前記レーザ光は、前記主パワー領域の周囲に、前記主パワー領域よりもパワー密度が低い前記副パワー領域をさらに分散して有する、請求項17~20のいずれか1項に記載の溶接装置。
【請求項23】
前記副パワー領域は前記主パワー領域の周囲を囲むリング形状の一部である円弧形状を持つ、請求項17~20のいずれか1項に記載の溶接装置。
【請求項24】
前記主パワー領域を構成するレーザ光の波長は、前記副パワー領域を構成するレーザ光の波長と同一である、請求項15~23のいずれか1項に記載の溶接装置。
【請求項25】
前記光学ヘッドは単一のレーザ発振器から発振された光から前記主パワー領域および前記副パワー領域からなる前記レーザ光を生成する、請求項15~24のいずれか1項に記載の溶接装置。
【請求項26】
前記光学ヘッドは前記レーザ発振器と前記加工対象との間に配置されたビームシェイパを含み、前記ビームシェイパは前記単一のレーザ発振器から発振された光から前記主パワー領域および前記副パワー領域を形成する、請求項25に記載の溶接装置。
【請求項27】
前記ビームシェイパは回折光学素子である、請求項26に記載の溶接装置。
【請求項28】
前記ビームシェイパは、回転可能に設けられている、請求項26または27に記載の溶接装置。
【請求項29】
前記加工対象は溶接されるべき少なくとも2つの部材である、請求項15~28のいずれか1項に記載の溶接装置。
【請求項30】
前記レーザ発振器として複数のレーザ発振器を含み、
前記光学ヘッドは前記複数のレーザ発振器から出射された光を内部で合波して前記レーザ光を生成する、請求項15~29のいずれか1項に記載の溶接装置。
【請求項31】
前記レーザ発振器として複数のレーザ発振器を含み、
前記複数のレーザ発振器から出射された光を内部で合波して前記光学ヘッドへ導くマルチコアファイバを、さらに備える、請求項15~29のいずれか1項に記載の溶接装置。
【請求項32】
前記光学ヘッドは前記レーザ光を、固定されている前記加工対象に対して掃引可能に構成される、請求項15~31のいずれか1項に記載の溶接装置。
【請求項33】
前記光学ヘッドからのレーザ光の照射位置は固定され、前記加工対象が前記固定されたレーザ光に対して移動可能に保持される、請求項15~32のいずれか1項に記載の溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接方法および溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄や銅などの金属材料を溶接する手法の一つとして、レーザ溶接が知られている。レーザ溶接とは、レーザ光を加工対象の溶接部分に照射し、レーザ光のエネルギーで溶接部分を溶融させる溶接方法である。レーザ光が照射された溶接部分には、溶融池と呼ばれる溶融した金属材料の液溜りが形成され、その後、溶融池の金属材料が固化することによって溶接が行われる。
【0003】
また、レーザ光を加工対象に照射する際には、その目的に応じ、レーザ光のプロファイルが成形されることもある。例えば、レーザ光を加工対象の切断に用いる場合に、レーザ光のプロファイルを成形する技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、本発明者らの実験等による調査によれば、溶接した加工対象において、溶融池が固化したものである溶融痕の底面の形状が、不規則な凹凸形状などの不安定な形状となる場合がある。溶融痕の底面の形状が不安定であると、溶接の用途によっては好ましくない場合がある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、溶融痕の底面の形状を安定化できる溶接方法および溶接装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係る溶接方法は、レーザ光を加工対象に向かって照射しながら前記レーザ光と前記加工対象とを相対的に移動させ、前記レーザ光を前記加工対象上で掃引しつつ、照射された部分の前記加工対象を溶融して溶接を行う、工程を含み、前記レーザ光は主パワー領域と、前記主パワー領域の掃引方向側方に少なくともその一部がある副パワー領域とによって構成され、前記主パワー領域のパワー密度は前記副パワー領域のパワー密度以上であり、前記主パワー領域のパワー密度は、少なくともキーホールを発生させうるパワー密度である。
【0008】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記レーザ光は、前記主パワー領域の掃引方向側方に、前記主パワー領域よりもパワー密度が低い副パワー領域をさらに有する。
【0009】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記レーザ光は、前記主パワー領域の掃引方向側方のみに、前記主パワー領域よりもパワー密度が低い副パワー領域をさらに有する。
【0010】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記レーザ光は、前記主パワー領域の掃引方向側方および後方のみに、前記副パワー領域を有する。
【0011】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記レーザ光は、前記主パワー領域の周囲に、前記主パワー領域よりもパワー密度が低い副パワー領域をさらに分散して有する。
【0012】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記副パワー領域は、前記主パワー領域の周囲を囲む略リング形状の一部である円弧形状を持つ。
【0013】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記レーザ光の前記主パワー領域と前記副パワー領域で溶融池が形成されている。
【0014】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記レーザ光の前記主パワー領域と前記副パワー領域は、前記主パワー領域で形成された溶融池と、前記副パワー領域で形成された溶融池の少なくとも一部が重なる様に構成される。
【0015】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記レーザ光の前記副パワー領域が複数の副ビームで構成され、前記レーザ光の前記主パワー領域が主ビームで構成され、前記主ビームの少なくとも一部はそれぞれの前記副ビームと重ならない領域を有する。
【0016】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記主パワー領域および前記副パワー領域のうち少なくとも前記副パワー領域を形成するレーザ光の波長は、前記加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長である。
【0017】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記主パワー領域を形成するレーザ光の波長は、前記副パワー領域を形成するレーザ光の波長と同一である。
【0018】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記主パワー領域および前記副パワー領域は、同一の発振器から出射されたレーザ光で構成される。
【0019】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記主パワー領域および前記副パワー領域は、異なる発振器から出射されたレーザ光で構成される。
【0020】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記主パワー領域および前記副パワー領域は、ビームシェイパによって形成される。
【0021】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記ビームシェイパは回折光学素子である。
【0022】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記加工対象は溶接されるべき少なくとも2つの部材であり、前記加工対象をレーザ光の照射される領域に配置する工程は、前記少なくとも2つの部材を重ねる、または接触させる、または隣接させるように配置する工程である。
【0023】
本発明の一態様に係る溶接方法は、前記副パワー領域の面積は、前記主パワー領域の面積と略等しいまたは大きい。
【0024】
本発明の一態様に係る溶接装置は、レーザ発振器と、レーザ発振器から発振された光を受け取ってレーザ光を生成し、前記生成されたレーザ光を加工対象に向かって照射して照射された部分の前記加工対象を溶融して溶接を行う光学ヘッドと、によって構成され、前記光学ヘッドは前記レーザ光と前記加工対象とが相対的に移動可能な様に構成され、前記レーザ光を前記加工対象上で掃引しつつ、前記溶融を行なって溶接を行い、前記レーザ光は主パワー領域と、掃引方向側方に少なくともその一部がある副パワー領域によって構成され、主パワー領域のパワー密度は副パワー領域のパワー密度以上である。
【0025】
本発明の一態様に係る溶接装置は、前記副パワー領域のパワー密度は、少なくとも前記加工対象を溶融し得るパワー密度である。
【0026】
本発明の一態様に係る溶接装置は、前記レーザ光は、前記主パワー領域の掃引方向側方に、前記主パワー領域よりもパワー密度が低い副パワー領域をさらに有する。
【0027】
本発明の一態様に係る溶接装置は、前記レーザ光は、前記主パワー領域の掃引方向側方のみに、前記副パワー領域をさらに有する。
【0028】
本発明の一態様に係る溶接装置は、前記レーザ光は、前記主パワー領域の掃引方向側方および後方のみに、前記副パワー領域をさらに有する。
【0029】
本発明の一態様に係る溶接装置は、前記レーザ光は、前記主パワー領域の周囲に、前記主パワー領域よりもパワー密度が低い前記副パワー領域をさらに分散して有する。
【0030】
本発明の一態様に係る溶接装置は、前記副パワー領域は前記主パワー領域の周囲を囲むリング形状の一部である円弧形状を持つ。
【0031】
本発明の一態様に係る溶接装置は、前記レーザ光の前記主パワー領域と前記副パワー領域は、それぞれ溶融池を形成する様に構成される。
【0032】
本発明の一態様に係る溶接装置は、前記レーザ光の前記主パワー領域と前記副パワー領域は、前記主パワー領域で形成された溶融池と、前記副パワー領域で形成された溶融池の少なくとも一部が重なる様に構成される。
【0033】
本発明の一態様に係る溶接装置は、前記主パワー領域および前記副パワー領域のうち少なくとも前記副パワー領域を形成するレーザ光の波長は、前記加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長である。
【0034】
本発明の一態様に係る溶接装置は、前記主パワー領域を構成するレーザ光の波長は、前記副パワー領域を構成するレーザ光の波長と同一である。
【0035】
本発明の一態様に係る溶接装置は、前記光学ヘッドは単一のレーザ発振器から発振された光から前記主パワー領域および前記副パワー領域からなる前記レーザ光を生成する。
【0036】
本発明の一態様に係る溶接装置は、前記光学ヘッドは前記レーザ発振器と前記加工対象との間に配置されたビームシェイパを含み、前記ビームシェイパは前記単一のレーザ発振器から発振された光から前記主パワー領域および前記副パワー領域を形成する。
【0037】
本発明の一態様に係る溶接装置は、前記ビームシェイパは回折光学素子である。
【0038】
本発明の一態様に係る溶接装置は、前記レーザ発振器は異なる2つのレーザ発振器から構成され、前記主パワー領域および前記副パワー領域は、それぞれ前記異なる2つの発振器から出射されたレーザ光で構成される。
【0039】
本発明の一態様に係る溶接装置は、前記加工対象は溶接されるべき少なくとも2つの部材である。
【0040】
本発明の一態様に係る溶接装置は、前記副パワー領域の面積は、前記主パワー領域の面積と略等しいまたは大きい。
【0041】
本発明の一態様に係る溶接装置は、前記ビームシェイパは、回転可能に設けられている。
【0042】
本発明の一態様に係る溶接装置は、前記レーザ発振器として複数のレーザ発振器を含み、前記光学ヘッドは前記複数のレーザ発振器から出射された光を内部で合波して前記レーザ光を生成する。
【0043】
本発明の一態様に係る溶接装置は、前記レーザ発振器は複数あり、前記複数のレーザ発振器から出射された光を内部で合波して前記光学ヘッドへ導くマルチコアファイバを、さらに備える。
【0044】
本発明の一態様に係る溶接装置は、前記光学ヘッドは前記レーザ光を、固定されている前記加工対象に対して掃引可能に構成される。
【0045】
本発明の一態様に係る溶接装置は、前記光学ヘッドからのレーザ光の照射位置は固定され、前記加工対象が前記固定されたレーザ光に対して移動可能に保持される。
【発明の効果】
【0046】
本発明に係る溶接方法および溶接装置は、溶融痕の底面の形状を安定化できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る溶接装置の概略構成を示す図である。
【
図2】
図2は、回折光学素子の概念を説明する図である。
【
図3】
図3は、レーザ光の断面形状の例を示す図である。
【
図4A】
図4Aは、レーザ光が加工対象を溶融する状況を示す断面図である。
【
図5A】
図5Aは、レーザ光が加工対象を溶融する状況を示す断面図である。
【
図7】
図7は、第2実施形態に係る溶接装置の概略構成を示す図である。
【
図8】
図8は、第3実施形態に係る溶接装置の概略構成を示す図である。
【
図9】
図9は、第4実施形態に係る溶接装置の概略構成を示す図である。
【
図10】
図10は、第5実施形態に係る溶接装置の概略構成を示す図である。
【
図11】
図11は、第6実施形態に係る溶接装置の概略構成を示す図である。
【
図13】
図13は、実験に用いたレーザ光の断面形状を示す図である。
【
図14A】
図14Aは、表1のNo.1の比較例における加工対象の断面写真である。
【
図14B】
図14Bは、表1のNo.2の実施例における加工対象の断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る溶接方法および溶接装置を詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態により本発明が限定されるものではない。また、図面は模式的なものであり、各要素の寸法の関係、各要素の比率などは、現実と異なる場合があることに留意する必要がある。図面の相互間においても、互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている場合がある。
【0049】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る溶接装置の概略構成を示す図である。
図1に示すように、第1実施形態に係る溶接装置100は、加工対象Wにレーザ光Lを照射して加工対象Wを溶融させる装置の構成の一例である。
図1に示すように、溶接装置100は、レーザ光を発振する発振器110と、レーザ光を加工対象Wに照射する光学ヘッド120と、発振器110で発振されたレーザ光を光学ヘッド120へ導く光ファイバ130とを備えている。加工対象Wは、溶接されるべき少なくとも2つの部材で構成されている。
【0050】
発振器110は、例えば数kWの出力のマルチモードのレーザ光を発振し得るように構成されている。例えば、発振器110は、内部に複数の半導体レーザ素子を備え、当該複数の半導体レーザ素子の合計の出力として数kWの出力のマルチモードのレーザ光を発振し得るように構成することとしてもよいし、ファイバレーザ、YAGレーザ、ディスクレーザ等様々なレーザを用いてもよい。
【0051】
光学ヘッド120は、発振器110から導かれたレーザ光Lを、所定のパワー密度に集光して、加工対象Wに照射するための光学装置である。そのために、光学ヘッド120は、内部にコリメートレンズ121と集光レンズ122とを備えている。コリメートレンズ121は、光ファイバ130によって導かれたレーザ光Lを一旦平行光化するための光学系であり、集光レンズ122は、平行光化されたレーザ光Lを加工対象Wに集光させるための光学系である。
【0052】
光学ヘッド120は、加工対象Wにおけるレーザ光Lの照射位置を移動(掃引)させるために、加工対象Wとの相対位置を変更可能に設けられている。加工対象Wとの相対位置を変更する方法としては、光学ヘッド120自身を移動することや、加工対象Wを移動することなどが含まれる。すなわち、光学ヘッド120はレーザ光Lを、固定されている加工対象Wに対して掃引可能に構成されてもよい、または、光学ヘッド120からのレーザ光Lの照射位置は固定され、加工対象Wが、固定されたレーザ光Lに対して移動可能に保持されてもよい。加工対象Wをレーザ光Lの照射される領域に配置する工程では、溶接されるべき少なくとも2つの部材を重ねる、または接触させるまたは、隣接させるように配置する。
【0053】
第1実施形態に係る光学ヘッド120は、コリメートレンズ121と集光レンズ122との間にビームシェイパとしての回折光学素子123を備えている。ここでいう回折光学素子とは、
図2に概念を示す様に、周期の異なる複数の回折格子1501を1体にした光学素子1502を指している。これを通過したレーザ光は各回折格子の影響を受けた方向に曲げられ、重なり合い、任意の形にレーザ光を形成することができる。回折光学素子123は、回転可能に設ける構成とすることができる。また、交換可能に設ける構成とすることもできる。
【0054】
本実施形態において、回折光学素子123は、加工対象W上におけるレーザ光Lのパワー密度の移動方向に関するプロファイルが、パワー密度が高い主ビームよりも移動方向測方に、パワー密度が主ビームのパワー密度以下である副ビームを有するように、レーザ光Lを成形するためのものである。
【0055】
回折光学素子123によって成形されるレーザ光Lは、
図3に、レーザ光Lの進行方向と垂直な面における断面形状の一例を示すように、ピークP1を有する主ビームB1と、ピークP2を有する2つの副ビームB2とによって構成されている。矢印vは加工対象Wに対するレーザ光Lの相対的な移動方向であり、掃引方向に相当するものである。2つの副ビームB2は、掃引方向を前方として、主ビームB1の側方に位置する。主ビームB1の側方とは、
図3に示すように主ビームB1のビーム径の位置を通り掃引方向と平行な破線で規定される、領域A1、A2を意味する。
図3に示す例では、2つの副ビームB2は、互いのビーム径の中心を結ぶ線が主ビームB1のビーム径の略中心を通り、かつその線が掃引方向と略垂直になるように配置されている。ただし、副ビームB2の位置はこれに限られず、領域A1、A2のどこかに位置すれば、主ビームB1の側方に位置すると見なすことができる。また、主ビームB1の後方とは、領域A1と領域A2とに挟まれた領域において、移動方向とは反対側の方である。
【0056】
なお、主ビームまたは副ビームのパワー密度は、ピークを含み、ピーク強度の1/e2以上の強度の領域でのパワー密度である。また、主ビームまたは副ビームのビーム径は、ピークを含み、ピーク強度の1/e2以上の強度の領域の径である。円形でないビームの場合は、本明細書に於いてはビームの中心付近を通る長い方の軸(例えば長軸)もしくは長い方の軸(長軸)に垂直方向の短い方の軸(例えば短軸)の、ピーク強度の1/e2以上の強度となる領域の長さをビーム径と定義する。副ビームのビーム径は、主ビームのビーム径と略等しいまたは大きくてもよい。したがって、副ビームの面積は、主ビームの面積と略等しいまたは大きくてもよい。
【0057】
また、少なくとも主ビームB1のパワー分布はある程度鋭い形状であることが好ましい。主ビームB1のパワー分布がある程度鋭い形状であれば、加工対象Wを溶融する際の溶け込み深さを深くできるので、溶接強度を確保できる。主ビームB1の鋭さの指標として、ビーム径を用いると、主ビームB1のビーム径が600μm以下が好ましく、400μm以下がより好ましい。なお、主ビームB1が鋭い形状であると、同じ溶け込み深さを実現するためのパワーを低減でき、かつ加工速度を速めることができる。そのため、レーザ溶接装置100の消費電力の低減と加工効率の向上とを実現できる。副ビームB2のパワー分布は、主ビームB1と同程度に鋭くてもよい。
【0058】
なお、ビーム径は、使用するレーザ装置110、光学ヘッド120、光ファイバ130の特性を適宜設定することにより調整可能である。例えば、光ファイバ130から光学ヘッド120に入力するレーザ光のビーム径の設定や、回折光学素子123やレンズ121,122等の光学系の設定により、調整可能である。
【0059】
加工対象W上におけるレーザ光Lのパワー密度の移動方向に関するプロファイルが、パワー密度が高い主ビームよりも移動方向側方に、主ビームよりもパワー密度が低い副ビームを有することの作用は、必ずしも明らかにはされていないが、たとえば以下のように考えられる。
図4A~5Bは、レーザ光が加工対象を溶融する状況を示す図である。
【0060】
図4Aは、レーザ光の移動方向(矢印v)に沿った加工対象Wの断面を示し、
図4Bは
図4Aの断面に垂直な断面を示している。レーザ光が1つのビームBによって構成されている場合、レーザ光のビームBが照射された位置から移動方向とは反対方向に延びるように、加工対象Wが溶融した溶融池WP1が溶融領域として形成される。溶融池WP1は固化して溶融痕W1となるが、その底面BS11の形状が不規則な凹凸形状などの不安定な形状となる場合がある。
【0061】
その理由は必ずしも明らかにはされていないが、溶融池WP1の底面BS11が不安定な形状となっており、その形状をある程度反映したまま固化して溶融痕W1となったためと考えられる。この場合、たとえば、ビームBにより与えられたエネルギー、または、それにより発生したキーホールKHによって、溶融池WP1の液面が不安定に揺らぎ、それに伴って底面BS11が不安定な形状になったとも考えられる。
【0062】
これに対して、
図5A、
図5Bに示すように、第1実施形態に係る溶接装置およびこれを用いた溶接方法では、加工対象W上におけるレーザ光Lのパワー密度の移動方向に関するプロファイルが、主ビームB1と2つの副ビームB2とを有している。主ビームB1のパワー密度は、たとえば、少なくともキーホールを発生させうる強度である。2つの副ビームB2は、いずれもパワー密度が主ビームB1よりも低く、主ビームB1に対して、レーザ光Lの移動方向側方に位置する。副ビームB2のパワー密度は、主ビームB1の存在下または単独にて、加工対象Wを溶融し得る密度である。したがって、
図5Bに示すように、主ビームB1が照射される位置の側方の、副ビームB2が照射される位置までに広がった溶融池WP2が溶融領域として形成されることになる。副ビームB2のパワー密度が主ビームB1よりも低い場合、副ビームB2によって主ビームB1が溶融する深さよりも浅い領域である浅瀬領域が形成される。
【0063】
なお、主ビームB1と副ビームB2の溶融強度領域は、重なってもよいが、必ずしも重なる必要はなく、各ビームによって形成される溶融池が繋がればよい。溶融強度領域とは、主ビームB1または副ビームB2の周囲における加工対象Wを溶融し得るパワー密度のレーザ光のビームの範囲のことをいう。
【0064】
第1実施形態に係る溶接装置およびこれを用いた溶接方法では、溶融池WP2が固化した溶融痕W2の底面BS22の形状は、
図4に示すビームBによる底面BS12よりも、凹凸がより少なく、平坦性がより高い、安定した形状となる。その理由は必ずしも明らかにはされていないが、溶融池WP2の底面BS21がより安定な形状となっていると考えられる。その理由は、たとえば、主ビームB1および副ビームB2によって、
図4の場合よりも側方に広がった溶融池WP2が形成されるので、エネルギーが拡散されて溶融池WP2の液面の揺らぎが抑制され、あるいは、キーホールKHの不安定な動きが抑制され、それに伴って底面BS21が安定な形状になったとも考えられる。
【0065】
第1実施形態に係る溶接方法は、加工対象Wを、レーザ装置である発振器110からのレーザ光Lの照射される領域に配置し、発振器110からのレーザ光Lを加工対象Wに向かって照射しながらレーザ光Lと加工対象Wとを相対的に移動させ、レーザ光Lを加工対象W上で掃引しつつ、照射された部分の加工対象Wを溶融して溶接を行う、工程を含む。このとき、レーザ光Lは、主ビームB1と、掃引方向側方に少なくともその一部がある副ビームB2によって構成され、主ビームB1のパワー密度は副ビームB2のパワー密度以上である。加工対象Wをレーザ光Lの照射される領域に配置する工程は、少なくとも2つの部材を重ねる、または接触させる、または隣接させるように配置する工程である。
【0066】
次に、
図6A~6Gを参照しながら、加工対象上におけるレーザ光のパワー密度の移動方向に関するプロファイルが、主ビームの移動方向側方に副ビームを有するための、レーザ光の断面形状の例を説明する。
図6に示すレーザ光の断面形状の例は、必須の構成ではないが、
図6に例示されるレーザ光の断面形状が加工対象Wの表面に実現されるように、回折光学素子123を設計することで、本発明の実施に好適なレーザ光のプロファイルが実現される。
【0067】
図6Aは、ピークP1を有する主ビームB1の移動方向左側方に、ピークP2を有する副ビームB2が配置された例である。副ビームB2の周辺における加工対象を溶融し得るパワー密度の領域は、主ビームB1の周辺における加工対象を溶融し得るパワー密度の領域よりも、移動方向に関して広いことが好ましい。したがって、副ビームB2は或る方向に延びた形状としてもよい。このような副ビームB2の形状は、複数のビームを近接して並べて実現してもよいし、単一のビームで実現してもよい。
【0068】
図6Bは、主ビームB1の移動方向左右側方に、それぞれ副ビームB2が配置された例である。
【0069】
図6Cは、主ビームB1の移動方向左側方に副ビームB2が配置されたのみならず、主ビームB1の移動方向後方にも、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2を有する例である。この例では、主ビームB1および副ビームB2の移動方向が変化した場合にも、主ビームB1の移動方向側方に副ビームB2を配置させることができる。
【0070】
図6Dは、主ビームB1の移動方向左右側方にそれぞれ副ビームB2が配置されたのみならず、主ビームB1の移動方向後方にも、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2が配置された例である。この例でも、主ビームB1および副ビームB2の移動方向が変化した場合にも、主ビームB1の移動方向側方に副ビームB2を配置させることができる。
【0071】
図6Eは、主ビームB1の周囲に、主ビームB1よりもパワー密度が低い副ビームB2を分散して有する例である。副ビームB2は、主ビームB1の周囲を囲む略リング形状の一部である円弧形状を成すように配置されている。
図6A~
図6Eに示される例は、副ビームB2が線状に構成されていたが、
図6Eでは、ある程度近い間隔で副ビームB2を配置し、それらの副ビームB2で形成された溶融池が繋がる。
【0072】
図6F、
図6Gは、主ビームB1の移動方向側方から後方にわたって、主ビームB1よりもパワー密度が低いV字状の副ビームB2を有する例である。
図6Fは主ビームB1と副ビームB2とが重なっている例であり、
図6Gは主ビームB1と副ビームB2とが重なっていない例である。
【0073】
図6C~
図6Gは、主ビームB1の側方に副ビームB2の少なくとも一部がある例であり、かつ主ビームB1の移動方向側方および後方のみに、副ビームB2を有する例である。
図6A、
図6Bは、主ビームB1の移動方向側方のみに、副ビームB2を有する例である。
【0074】
なお、主ビームB1と副ビームB2との間の距離d(たとえば
図6Aに示す)は、主ビームB1のビーム径の外縁と、副ビームB2のビーム径の外縁との最短距離である。距離dは、副ビームB2で形成された溶融池とその溶融池に主ビームB1が形成する溶融領域が接触できればよく、主ビームのビーム径の10倍未満が好ましく、6倍未満がより好ましく、3倍未満がさらに好ましく、1倍未満がさらにより好ましい。
【0075】
また、主ビームB1と副ビームB2とのパワー密度が等しくてもよい。
【0076】
図6A~
図6Gの例では、主ビームの少なくとも一部は、それぞれの副ビームと重ならない領域を有している。
【0077】
(第2実施形態)
図7は、第2実施形態に係る溶接装置の概略構成を示す図である。
図7に示すように、第2実施形態に係る溶接装置200は、加工対象Wにレーザ光Lを照射して加工対象Wを溶融させる装置の構成の一例である。第2実施形態に係る溶接装置200は、第1実施形態に係る溶接装置と同様の作用原理によって溶接方法を実現するものである。したがって、以下では、溶接装置200の装置構成の説明のみを行う。
【0078】
図7に示すように、溶接装置200は、レーザ光を発振する発振器210と、レーザ光を加工対象Wに照射する光学ヘッド220と、発振器210で発振されたレーザ光を光学ヘッド220へ導く光ファイバ230とを備えている。
【0079】
発振器210は、例えば数kWの出力のマルチモードのレーザ光を発振し得るように構成されている。例えば、発振器210は、内部に複数の半導体レーザ素子を備え、当該複数の半導体レーザ素子の合計の出力として数kWの出力のマルチモードのレーザ光を発振し得るように構成することとしてもよいし、ファイバレーザ、YAGレーザ、ディスクレーザ等様々なレーザを用いてもよい。
【0080】
光学ヘッド220は、発振器210から導かれたレーザ光Lを、所定のパワー密度に集光して、加工対象Wに照射するための光学装置である。そのために、光学ヘッド220は、内部にコリメートレンズ221と集光レンズ222とを備えている。コリメートレンズ221は、光ファイバ230によって導かれたレーザ光を一旦平行光化するための光学系であり、集光レンズ222は、平行光化されたレーザ光を加工対象Wに集光させるための光学系である。
【0081】
光学ヘッド220は、集光レンズ222と加工対象Wとの間に、ガルバノスキャナを有している。ガルバノスキャナとは、2枚のミラー224a,224bの角度を制御することで、光学ヘッド220を移動させることなく、レーザ光Lの照射位置を移動させることができる装置である。
図7に示される例では、集光レンズ222から出射したレーザ光Lをガルバノスキャナへ導くためにミラー226を備えている。また、ガルバノスキャナのミラー224a,224bは、それぞれモータ225a,225bによって角度が変更される。
【0082】
第2実施形態に係る光学ヘッド220は、コリメートレンズ221と集光レンズ222との間に回折光学素子223を備えている。回折光学素子223は、加工対象W上におけるレーザ光Lのパワー密度の移動方向に関するプロファイルが、主ビームの移動方向側方に、パワー密度が主ビームのパワー密度以下である副ビームを有するように、レーザ光Lを成形するためのものであり、その作用は第1実施形態と同様である。つまり、回折光学素子223は、
図6に例示されるレーザ光の断面形状のような、本発明の実施に好適なレーザ光のプロファイルを実現するように設計される。
【0083】
(第3実施形態)
図8は、第3実施形態に係る溶接装置の概略構成を示す図である。
図8に示すように、第3実施形態に係る溶接装置300は、加工対象Wにレーザ光Lを照射して加工対象Wを溶融させる装置の構成の一例である。第3実施形態に係る溶接装置300は、第1実施形態に係る溶接装置と同様の作用原理によって溶接方法を実現するものであり、光学ヘッド320以外の構成(発振器310および光ファイバ330)は、第2実施形態と同様である。したがって、以下では、光学ヘッド320の装置構成の説明のみを行う。
【0084】
光学ヘッド320は、発振器310から導かれたレーザ光Lを、所定のパワー密度に集光して、加工対象Wに照射するための光学装置である。そのために、光学ヘッド320は、内部にコリメートレンズ321と集光レンズ322とを備えている。コリメートレンズ321は、光ファイバ330によって導かれたレーザ光を一旦平行光化するための光学系であり、集光レンズ322は、平行光化されたレーザ光を加工対象Wに集光させるための光学系である。
【0085】
光学ヘッド320は、コリメートレンズ321と集光レンズ322との間に、ガルバノスキャナを有している。ガルバノスキャナのミラー324a,324bは、それぞれモータ325a,325bによって角度が変更される。光学ヘッド320では、第2実施形態と異なる位置にガルバノスキャナを設けているが、同様に、2枚のミラー324a,324bの角度を制御することで、光学ヘッド320を移動させることなく、レーザ光Lの照射位置を移動させることができる。
【0086】
第3実施形態に係る光学ヘッド320は、コリメートレンズ321と集光レンズ322との間に回折光学素子323を備えている。回折光学素子323は、加工対象W上におけるレーザ光Lのパワー密度の移動方向に関するプロファイルが、主ビームの移動方向側方に、パワー密度が主ビームのパワー密度以下である副ビームを有するように、レーザ光Lを成形するためのものであり、その作用は第1実施形態と同様である。つまり、回折光学素子323は、
図6に例示されるレーザ光の断面形状のような、本発明の実施に好適なレーザ光のプロファイルを実現するように設計される。
【0087】
(第4実施形態)
図9は、第4実施形態に係る溶接装置の概略構成を示す図である。
図9に示すように、第4実施形態に係る溶接装置400は、加工対象Wにレーザ光L1,L2を照射して加工対象Wを溶融させる装置の構成の一例である。第4実施形態に係る溶接装置400は、第1実施形態に係る溶接装置と同様の作用原理によって溶接方法を実現するものである。したがって、以下では、溶接装置400の装置構成の説明のみを行う。
【0088】
図9に示すように、溶接装置400は、レーザ光を発振する複数の発振器411,412と、レーザ光を加工対象Wに照射する光学ヘッド420と、発振器411,412で発振されたレーザ光を光学ヘッド420へ導く光ファイバ431,432とを備えている。
【0089】
発振器411,412は、例えば数kWの出力のマルチモードのレーザ光を発振し得るように構成されている。例えば、発振器411,412は、それぞれの内部に複数の半導体レーザ素子を備え、当該複数の半導体レーザ素子の合計の出力として数kWの出力のマルチモードのレーザ光を発振し得るように構成することとしてもよいし、ファイバレーザ、YAGレーザ、ディスクレーザ等様々なレーザを用いてもよい。
【0090】
光学ヘッド420は、発振器411,412から導かれたそれぞれのレーザ光L1,L2を、所定のパワー密度に集光して、加工対象Wに照射するための光学装置である。そのために、光学ヘッド420は、レーザ光L1のためのコリメートレンズ421aと集光レンズ422aと、レーザ光L2のためのコリメートレンズ421bと集光レンズ422bとを備えている。コリメートレンズ421a,421bは、それぞれ、光ファイバ431,432によって導かれたレーザ光を一旦平行光化するための光学系であり、集光レンズ422a,422bは、平行光化されたレーザ光を加工対象Wに集光させるための光学系である。
【0091】
第4実施形態に係る光学ヘッド420も、加工対象W上におけるレーザ光L1,L2のパワー密度の移動方向に関するプロファイルが、主ビームの移動方向側方に、パワー密度が主ビームのパワー密度以下である副ビームを有するように構成されている。すなわち、たとえは、光学ヘッド420が加工対象Wに照射するレーザ光L1,L2のうち、レーザ光L1を主ビーム形成のために用い、レーザ光L2を副ビーム形成のために用いればよい。なお、図に示される例は、レーザ光L1,L2のみを用いているが、その数を適宜増やしてもよく、
図6に例示されるレーザ光の断面形状のような、本発明の実施に好適なレーザ光のプロファイルを実現するように構成されればよい。なお、レーザ光L1,L2の波長は同じでもよいし、互いに異なっていてもよい。同様に、レーザ光の数を3以上とするときには、それらのうち少なくとも2つのレーザ光の波長が互いに異なっていてもよいし、全てのレーザ光の波長が同じでもよい。また、主ビームおよび副ビームのうち少なくとも副ビームを形成するレーザ光の波長は、加工対象の赤外領域の反射率よりも低い反射率を持つ波長、たとえば可視領域の波長でもよい。
【0092】
(第5実施形態)
図10は、第5実施形態に係る溶接装置の概略構成を示す図である。
図10に示すように、第5実施形態に係る溶接装置500は、加工対象Wにレーザ光L1,L2を照射して加工対象Wを溶融させる装置の構成の一例である。第5実施形態に係る溶接装置500は、第1実施形態に係る溶接装置と同様の作用によって溶接方法を実現するものである。したがって、以下では、溶接装置500の装置構成の説明のみを行う。
【0093】
図10に示すように、溶接装置500は、レーザ光を発振する発振器510と、レーザ光を加工対象Wに照射する光学ヘッド520と、発振器510で発振されたレーザ光を光学ヘッド520へ導く光ファイバ531,533,534とを備えている。
【0094】
第5実施形態では、発振器510は、例えばファイバレーザ、YAGレーザ、ディスクレーザ等であり、加工対象Wに照射するレーザ光L1,L2の両方を発振するために用いられる。そのために、発振器510で発振されたレーザ光を光学ヘッド520へ導く光ファイバ531,533,534の間には分岐ユニット532が設けられ、発振器510で発振されたレーザ光を分岐してから光学ヘッド520へ導くように構成されている。
【0095】
光学ヘッド520は、分岐ユニット532で分岐されたレーザ光L1,L2を、所定のパワー密度に集光して、加工対象Wに照射するための光学装置である。そのために、光学ヘッド520は、レーザ光L1のためのコリメートレンズ521aと集光レンズ522aと、レーザ光L2のためのコリメートレンズ521bと集光レンズ522bとを備えている。コリメートレンズ521a,521bは、それぞれ、光ファイバ533,534によって導かれたレーザ光を一旦平行光化するための光学系であり、集光レンズ522a,522bは、平行光化されたレーザ光を加工対象Wに集光させるための光学系である。
【0096】
第5実施形態に係る光学ヘッド520も、加工対象W上におけるレーザ光L1,L2のパワー密度の移動方向に関するプロファイルが、主ビームの移動方向側方に、パワー密度が主ビームのパワー密度以下である副ビームを有するように構成されている。すなわち、たとえば、光学ヘッド520が加工対象Wに照射するレーザ光L1,L2のうち、レーザ光L1を主ビーム形成のために用い、レーザ光L2を副ビーム形成のために用いればよい。なお、図に示される例は、レーザ光L1,L2のみを用いているが、その数を適宜増やしてもよく、
図6に例示されるレーザ光の断面形状のような、本発明の実施に好適なレーザ光のプロファイルを実現するように構成されればよい。
【0097】
(第6実施形態)
図11は、第6実施形態に係る溶接装置の概略構成を示す図である。
図11に示すように、第6実施形態に係る溶接装置600は、加工対象Wにレーザ光Lを照射して加工対象Wを溶融させる装置の構成の一例である。第6実施形態に係る溶接装置600は、第1実施形態に係る溶接装置と同様の作用原理によって溶接方法を実現するものである。したがって、以下では、溶接装置600の装置構成の説明のみを行う。
【0098】
図11に示すように、溶接装置600は、例えばファイバレーザ、YAGレーザ、ディスクレーザ等であるレーザ光を発振する複数の発振器611,612と、レーザ光を加工対象Wに照射する光学ヘッド620と、発振器611,612で発振されたレーザ光を光学ヘッド620へ導く光ファイバ631,632,635とを備えている。
【0099】
第6実施形態では、発振器611,612で発振されたレーザ光は、光学ヘッド620へ導かれる前に結合される。そのために、発振器611,612で発振されたレーザ光を光学ヘッド620へ導く光ファイバ631,632,635の間には結合部634が設けられ、発振器611,612で発振されたレーザ光は、光ファイバ635中を並列して導波されることになる。
【0100】
ここで、
図12A,12Bを参照しながら、光ファイバ631(および632)および光ファイバ635の構成例を説明する。
図12Aに示すように、光ファイバ631(および632)は、通常の光ファイバである。すなわち、光ファイバ631(および632)は、1つのコアCoの周囲にコアCoよりも屈折率が低いクラッドClが形成された光ファイバである。一方、
図12Bに示すように、光ファイバ635は、いわゆるマルチコアの光ファイバである。すなわち、光ファイバ635は、2つのコアCo1,Co2を有し、この2つのコアCo1,Co2の周囲にコアCo1,Co2よりも屈折率が低いクラッドClが形成されている。そして、結合部634では、光ファイバ631のコアCoと光ファイバ635のコアCo1とが結合され、また、光ファイバ632のコアCoと光ファイバ635のコアCo2とが結合されることになる。
【0101】
図11の参照に戻る。光学ヘッド620は、結合部634によって結合されたレーザ光Lを、所定のパワー密度に集光して、加工対象Wに照射するための光学装置である。そのために、光学ヘッド620は、内部にコリメートレンズ621と集光レンズ622とを備えている。
【0102】
本実施形態では、光学ヘッド620が回折光学素子を備えておらず、また、複数のレーザ光のための独立した光学系も有していないが、発振器611,612で発振されたレーザ光は、光学ヘッド620へ導かれる前に結合されているので、加工対象W上におけるレーザ光Lのパワー密度の移動方向に関するプロファイルが、主ビームの移動方向側方に、パワー密度が主ビームのパワー密度以下である副ビームを有するように構成されている。
【0103】
なお、本明細書のすべての実施形態に関して、主ビームの溶接形態は、キーホール型溶接であってもよいし、熱伝導型溶接であってもよい。ここでいうキーホール型溶接とは、キーホールを利用した溶接方法である。一方、熱伝導型溶接とは、母材の表面でレーザ光が吸収されて発生した熱を利用して加工対象Wを溶融させる溶接方法である。
【0104】
(実験例)
つぎに、実験例について説明する。実験例のうち、実施例の装置構成は、第1実施形態に係る溶接装置100の構成であり、比較例の装置構成として、溶接装置100から回折光学素子123を除いた構成を用いた。なお、共通の実験条件として、発振器110の出力を3kWとし、光学ヘッド120と加工対象Wとの相対的移動速度を毎分5mとした。
【0105】
回折光学素子123は、
図13に示されるような、ピークP1を有する主ビームB1とピークP2を有する副ビームB2とで形成され、副ビームB2が、主ビームB1の周囲を囲むリング形状の一部である円弧状のレーザ光の断面形状が加工対象Wに照射されるように設計されている。この回折光学素子123によって成形されたレーザ光を図中矢印vで示す移動方向として実験を行った。また、比較例の装置構成では、
図13に示されるレーザ光の断面形状のうち、円弧部分が削除されたレーザ光が加工対象Wに照射されることになる。
【0106】
表1は、二つの実験例を示している。加工対象の材料は、SUS304で厚さが10mmのものである。DOEは回折光学素子である。焦点位置は主ビームおよび副ビームの焦点位置であり、表面にジャストフォーカスとしている。設定出力は発振器から出力されるレーザ光のパワーである。速度は掃引速度である。発明者らは、各実験例の加工対象を切断して、溶融痕の底面の形状を観察した。
【表1】
【0107】
図14Aは、表1の実験No.1の比較例における加工対象の断面を示す写真であり、
図14Bは、表1の実験No.2の実施例における加工対象の断面を示す写真である。
図14Aに示されるように、実験No.1の比較例では底面が凹凸のある不安定な形状であったのに対し、
図14Bに示されるように、実験No.2の実施例では底面が平坦な安定した形状であった。
図14Aおよび
図14Bを比較すれば、第1実施形態に係る溶接装置100により形状の平坦化および安定化を図れることが理解できよう。
【0108】
また、上記実施形態では、レーザ光のプロファイル(パワー分布形状)が、主ビームおよび副ビームによって構成される離散的なパワー領域を有している。ここで、パワー領域とは、レーザ光の光進行方向と垂直な面内において、加工対象の溶融に寄与するパワーを有する領域である。ただし、個々のパワー領域が単独で加工対象を溶融できるパワーを有することは必ずしも必要ではなく、各パワー領域は他のパワー領域が加工対象に与えるエネルギーの影響によって加工対象を溶融できればよい。
【0109】
上記実施例では、副パワー領域を9本のビームで構成した。そして、主パワー領域のパワーと副パワー領域のパワーの比を6:4から1:9まで変化させたところ、いずれも底面が平坦な安定した形状であった。比が6:4の場合は、主ビームのパワーと、1本の副ビームのパワーとの比は、6:4/9=27:2となる。また、比が1:9の場合は、主ビームのパワーと、1本の副ビームのパワーとの比は、1:9/9=1:1となる。
【0110】
また、上記実施例と同様の条件で、副パワー領域を21本のビームで構成して、主パワー領域のパワーと副パワー領域のパワーの比を10:21として実験した。この場合も、底面が平坦な安定した形状であった。主ビームのパワーと1本の副ビームのパワーとの比は、10:21/21=10:1となる。
【0111】
ただし、パワー領域は離散的なものに限られず、複数のパワー領域が、線対称あるいは非対称な分布で、連続的であってもよい。たとえば、
図15Aには、レーザ光Lとはパワー分布形状が異なる一例のレーザ光L12の側方向におけるパワー分布形状を示している。このレーザ光L12のパワー分布形状では、側方向において配置されている2つのパワー領域PA121、PA122が連続している。パワー領域PA121はピークを有する単峰型の形状であり、たとえば主パワー領域である。また、パワー領域PA122はショルダー状の形状であり、たとえば副パワー領域である。
図15Aの曲線における2つのパワー領域PA121、PA122の境界は、たとえばその間に存在する変曲点の位置として規定できる。
【0112】
一方、
図15Bには、レーザ光Lとはパワー分布形状が異なる他の例のレーザ光L13の測方向におけるパワー分布形状を示している。このレーザ光L13のパワー分布形状では、配置されている2つのパワー領域PA131、PA132が連続している。パワー領域PA131、PA132のいずれも、ピークを有する単峰型の形状であり、たとえば、それぞれが主パワー領域、副パワー領域である。
図15Bの曲線における2つのパワー領域PA131、PA132の境界は、たとえばその間に存在する極小点の位置として規定できる。レーザ光L12、L13のいずれも、本発明における主パワー領域および副パワー領域によって構成されるレーザ光として適用できる。レーザ光L12、L13は、ビームシェイパとして、たとえば適正に設計された回折光学素子や光学レンズ、パワー分布を制御できる光ファイバ等の光学部品を使用することで実現することができる。
【0113】
なお、上記実施形態のように溶融痕の底面の形状を安定化させることができる溶接技術は、たとえば3次元造形に好適に適用できる。すなわち、3次元造形において、レーザ溶接によって材料を溶融、固化して堆積し、3次元形状を形成する際に、その溶融痕の底面に相当する界面が安定であると、3次元造形の精度の向上等、様々な好適な効果が得られる。
【0114】
また、加工対象に対してレーザ光を掃引する場合には、公知のウォブリングやウィービング、出力変調等により掃引を行い、溶融池を安定化させてもよい。
【0115】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明してきたが、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各実施形態の構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明の範疇に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0116】
100、200、300、400、500、600 溶接装置
110、210、310、411、412、510、611、612 発振器
120、220、320、420、520、620 光学ヘッド
121、221、321、421a、421b、521a、521b、621 コリメートレンズ
122、222、322、422a、422b、522a、522b、622 集光レンズ
123、223、323 回折光学素子
130、230、330、431、432、531、533、534、631、632、635 光ファイバ
224a、224b、226、324a、324b ミラー
225a、225b、325a、325b モータ
532 分岐ユニット
634 結合部
1501 回折格子
1502 光学素子
A1、A2 領域
B ビーム
B1 主ビーム
B2 副ビーム
BS11、BS12、BS21、BS22 底面
Cl クラッド
Co、Co1、Co2 コア
L、L1、L12、L13、L2 レーザ光
P1、P2 ピーク
PA121、PA122、PA131、PA132 パワー領域
W 加工対象
W1、W2 溶融痕
WP1、WP2 溶融池
v 矢印