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特開2024-57228接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057228
(43)【公開日】2024-04-24
(54)【発明の名称】接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/21 20140101AFI20240417BHJP
   B23K 26/067 20060101ALI20240417BHJP
   B23K 26/351 20140101ALI20240417BHJP
   B23K 26/082 20140101ALI20240417BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20240417BHJP
【FI】
B23K26/21 N
B23K26/067
B23K26/351
B23K26/082
B23K26/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163824
(22)【出願日】2022-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西野 史香
(72)【発明者】
【氏名】野上 祐介
(72)【発明者】
【氏名】村山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】茅原 崇
(72)【発明者】
【氏名】大前 瑞姫
(72)【発明者】
【氏名】園田 貴大
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD04
4E168BA29
4E168BA56
4E168BA87
4E168CB04
4E168DA02
4E168DA03
4E168DA13
4E168DA24
4E168DA26
4E168DA28
4E168DA29
4E168EA05
4E168EA08
4E168EA15
4E168EA17
4E168FB02
(57)【要約】
【課題】例えば、改善された新規な接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法を得る。
【解決手段】接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法は、例えば、絶縁被覆付き電線と接続部材とを固定する第一工程と、第一工程によって接続部材と固定された端部の絶縁被覆に当該端部に対して接続部材とは反対側からレーザ光を当該絶縁被覆に沿って円周状に走査しながら照射するとともに端部に酸素を含むガスを吹き付けて当該端部から絶縁被覆を除去する第二工程と、第二工程の後に端部の導体に接続部材とは反対側からレーザ光を定点照射して当該導体を溶融して溶融池を形成する第三工程と、第三工程の後にレーザ光を円周状に走査しながら照射することにより接続部材を溶融して溶融池を拡大する第四工程と、第四工程の後に溶融池を冷却して固化する第五工程と、を備える。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の金属材料で作られた接続部材に設けられた開口を、導体と当該導体を取り囲む絶縁被覆とを有した絶縁被覆付き電線が貫通するとともに、当該絶縁被覆付き電線の端部が前記接続部材から突出した状態で、当該開口が狭くなるように前記接続部材を加締めて前記絶縁被覆付き電線と前記接続部材とを固定する第一工程と、
前記第一工程によって前記接続部材と固定された前記端部の前記絶縁被覆に当該端部に対して前記接続部材とは反対側からレーザ光を当該絶縁被覆に沿って円周状に走査しながら照射するとともに前記端部に酸素を含むガスを吹き付けて当該端部から前記絶縁被覆を除去する第二工程と、
前記第二工程の後に前記端部の前記導体に前記接続部材とは反対側からレーザ光を定点照射して当該導体を溶融して溶融池を形成する第三工程と、
前記第三工程の後にレーザ光を円周状に走査しながら照射することにより前記接続部材を溶融して前記溶融池を拡大する第四工程と、
前記第四工程の後に前記溶融池を冷却して固化する第五工程と、
を備えた、接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法。
【請求項2】
前記第二工程において、前記レーザ光として、複数のビームに分割されたレーザ光を照射する、請求項1に記載の接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法。
【請求項3】
前記第二工程は、レーザ光を円周状に少なくとも1周走査しながら照射する周回照射を複数回含む、請求項1または2に記載の接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法。
【請求項4】
前記第二工程は、前記周回照射として、第一周回照射と、当該第一周回照射の後に行われ当該第一周回照射よりも低いパワーで前記レーザ光を照射する第二周回照射と、を含む、請求項3に記載の接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法。
【請求項5】
前記第二周回照射において、前記第一周回照射よりも大きい半径で前記レーザ光を走査する、請求項4に記載の接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法。
【請求項6】
前記第二工程は、前記周回照射として、第一周回照射と、当該第一周回照射の後に行われ当該第一周回照射よりも大きい半径で前記レーザ光を走査する第三周回照射と、を含む、請求項3に記載の接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法。
【請求項7】
前記第二工程において、前記ガスは、前記端部に対して前記接続部材とは反対側から、前記端部の外周の、周方向における位置が異なる複数箇所に向けて、吹き付けられる、請求項1または2に記載の接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法。
【請求項8】
前記第二工程では、レーザ光のスポットの走査速度は、10[mm/s]より速くかつ70[mm/s]より遅く、レーザ光の出力は、100[W]より高くかつ1200[W]より低い、請求項1または2に記載の接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法。
【請求項9】
前記第二工程では、レーザ光のスポットの走査速度は、20[mm/s]より速く、レーザ光の出力は、200[W]より高くかつ1000[W]より低い、請求項8に記載の接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法。
【請求項10】
前記第三工程では、レーザ光の照射時間は、10[ms]より長くかつ70[ms]より短く、レーザ光の出力は、500[W]より高くかつ1000[W]より低い、請求項1または2に記載の接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法。
【請求項11】
前記第三工程では、レーザ光の照射時間は、30[ms]より長くかつ60[ms]より短く、レーザ光の出力は、700[W]より高い、請求項10に記載の接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法。
【請求項12】
前記第四工程において、前記レーザ光として、複数のビームに分割されたレーザ光を照射する、請求項1に記載の接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法。
【請求項13】
前記第四工程において、前記第三工程よりも低いパワーでレーザ光を照射する、請求項1または12に記載の接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法。
【請求項14】
前記第四工程では、レーザ光のスポットの走査速度は、20[mm/s]より速くかつ70[mm/s]より遅く、レーザ光の出力は、350[W]より高くかつ650[W]より低い、請求項1または2に記載の接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法。
【請求項15】
前記第四工程では、レーザ光のスポットの走査速度は、60[mm/s]より遅く、レーザ光の出力は、400[W]より高い、請求項14に記載の接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法。
【請求項16】
前記第四工程において、前記レーザ光をウォブリングしながら円周状に走査する、請求項1または12に記載の接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法。
【請求項17】
前記第四工程の後かつ前記第五工程の前に、前記第四工程で形成された溶融池に前記第四工程よりも低いパワーでレーザ光を照射して当該溶融池を加熱する第六工程を備えた、請求項1に記載の接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法。
【請求項18】
前記第六工程において、前記レーザ光として、複数のビームに分割されたレーザ光を照射する、請求項17に記載の接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、接続部材と電線の導体とを加締めた後にレーザ溶接する方法が知られている(例えば、特許文献1および特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-346929号公報
【特許文献2】特開2004-178872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1および特許文献2に記載された方法は、接続部材と絶縁被覆の無い導体とをレーザ溶接する方法である。よって、当該方法を絶縁被覆付き電線に適用する場合には、予め当該絶縁被覆を部分的に除去する必要があり、その分、当該レーザ溶接に要する手間やコスト、ひいては当該レーザ溶接による溶接部を含む製品の製造に要する手間やコストが、増える虞がある。
【0005】
そこで、本発明の課題の一つは、例えば、接続部材と絶縁被覆付き電線の導体とがレーザ溶接された溶接部を含む製品の製造に要する手間やコストを抑制することが可能となるような、改善された新規な接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法は、例えば、導電性の金属材料で作られた接続部材に設けられた開口を、導体と当該導体を取り囲む絶縁被覆とを有した絶縁被覆付き電線が貫通するとともに、当該絶縁被覆付き電線の端部が前記接続部材から突出した状態で、当該開口が狭くなるように前記接続部材を加締めて前記絶縁被覆付き電線と前記接続部材とを固定する第一工程と、前記第一工程によって前記接続部材と固定された前記端部の前記絶縁被覆に当該端部に対して前記接続部材とは反対側からレーザ光を当該絶縁被覆に沿って円周状に走査しながら照射するとともに前記端部に酸素を含むガスを吹き付けて当該端部から前記絶縁被覆を除去する第二工程と、前記第二工程の後に前記端部の前記導体に前記接続部材とは反対側からレーザ光を定点照射して当該導体を溶融して溶融池を形成する第三工程と、前記第三工程の後にレーザ光を円周状に走査しながら照射することにより前記接続部材を溶融して前記溶融池を拡大する第四工程と、前記第四工程の後に前記溶融池を冷却して固化する第五工程と、を備える。
【0007】
前記接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法では、前記第二工程において、前記レーザ光として、複数のビームに分割されたレーザ光を照射してもよい。
【0008】
前記接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法では、前記第二工程は、レーザ光を円周状に少なくとも1周走査しながら照射する周回照射を複数回含んでもよい。
【0009】
前記接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法では、前記第二工程は、前記周回照射として、第一周回照射と、当該第一周回照射の後に行われ当該第一周回照射より低いパワーで前記レーザ光を照射する第二周回照射と、を含んでもよい。
【0010】
前記接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法では、前記第二周回照射において、前記第一周回照射より大きい半径で前記レーザ光を走査してもよい。
【0011】
前記接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法では、前記第二工程は、前記周回照射として、第一周回照射と、当該第一周回照射の後に行われ当該第一周回照射より大きい半径で前記レーザ光を走査する第三周回照射と、を含んでもよい。
【0012】
前記接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法では、前記第二工程において、前記ガスは、前記端部に対して前記接続部材とは反対側から、前記端部の外周の、周方向における位置が異なる複数箇所に向けて、吹き付けられてもよい。
【0013】
前記第二工程では、レーザ光のスポットの走査速度は、10[mm/s]より速くかつ70[mm/s]より遅く、レーザ光の出力は、100[W]より高くかつ1200[W]より低くてもよい。
【0014】
前記第二工程では、レーザ光のスポットの走査速度は、20[mm/s]より速く、レーザ光の出力は、200[W]より高くかつ1000[W]より低くてもよい。
【0015】
前記第三工程では、レーザ光の照射時間は、10[ms]より長くかつ70[ms]より短く、レーザ光の出力は、500[W]より高くかつ1000[W]より低くてもよい。
【0016】
前記第三工程では、レーザ光の照射時間は、30[ms]より長くかつ60[ms]より短く、レーザ光の出力は、700[W]より高くてもよい。
【0017】
前記接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法では、前記第四工程において、前記レーザ光として、複数のビームに分割されたレーザ光を照射してもよい。
【0018】
前記接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法では、前記第四工程において、前記第三工程より低いパワーでレーザ光を照射してもよい。
【0019】
前記第四工程では、レーザ光のスポットの走査速度は、20[mm/s]より速くかつ70[mm/s]より遅く、レーザ光の出力は、350[W]より高くかつ650[W]より低くてもよい。
【0020】
前記第四工程では、レーザ光のスポットの走査速度は、60[mm/s]より遅く、レーザ光の出力は、400[W]より高くてもよい。
【0021】
前記第四工程において、前記レーザ光をウォブリングしながら円周状に走査してもよい。
【0022】
前記接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法は、前記第四工程の後かつ前記第五工程の前に、前記第四工程で形成された溶融池に前記第四工程より低いパワーでレーザ光を照射して当該溶融池を加熱する第六工程を備えてもよい。
【0023】
前記接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法では、前記第六工程において、前記レーザ光として、複数のビームに分割されたレーザ光を照射してもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、改善された新規な接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、実施形態のレーザ加工装置の例示的な模式図である。
図2図2は、実施形態のレーザ加工装置に含まれる回折光学素子の原理の概念を示す説明図である。
図3図3は、実施形態のレーザ加工装置によって加工対象の表面上に形成されるレーザ光のスポットの一例を示す模式図である。
図4図4は、第1実施形態の接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法の手順を示す例示的なフローチャートである。
図5図5は、第1実施形態の接合方法において絶縁被覆付き電線を接続部材の所定位置にセットした状態を示す例示的かつ模式的な平面図である。
図6図6は、第1実施形態の接合方法において図5の状態の後に接続部材を加締めて接続部材と絶縁被覆付き電線とを固定した状態を示す例示的かつ模式的な平面図である。
図7図7は、第1実施形態の接合方法において絶縁被覆付き電線の端部が接続部材から所定長突出した状態となるよう当該端部の先端を切断した状態を示す例示的かつ模式的な断面図である。
図8図8は、第1実施形態の接合方法においてレーザ光の照射およびガスの吹き付けによって絶縁被覆付き電線の端部から絶縁被覆を除去する工程を示す例示的かつ模式的な断面図である。
図9図9は、第1実施形態の接合方法においてレーザ光の照射およびガスの吹き付けによって絶縁被覆付き電線の端部から絶縁被覆を除去する工程の図8よりも後の段階を示す例示的かつ模式的な断面図である。
図10図10は、第1実施形態の接合方法においてレーザ光の照射によって絶縁被覆が除去された電線の導体の端部を溶融して溶融池を形成する工程を示す例示的かつ模式的な断面図である。
図11図11は、第1実施形態の接合方法においてレーザ光の照射によって絶縁被覆が除去された電線の導体の端部を溶融して溶融池を形成する工程の図10よりも後の段階を示す例示的かつ模式的な断面図である。
図12図12は、第1実施形態の接合方法においてレーザ光の照射によって接続部材を溶融して溶融池を拡大する工程を示す例示的かつ模式的な断面図である。
図13図13は、第1実施形態の接合方法において形成された溶融池が冷却され固化された状態を示す例示的かつ模式的な断面図である。
図14図14は、第2実施形態の接続部材と絶縁被覆付き電線の導体との接合方法の手順を示す例示的なフローチャートである。
図15図15は、第2実施形態の接合方法においてレーザ光の照射によって図12の溶融池を加熱して気泡を除去する工程を示す例示的かつ模式的な断面図である。
図16図16は、第3実施形態の接合方法においてレーザ光のスポットのウォブリング走査を行った場合の、当該スポットの走査軌跡を示す例示的かつ模式的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および効果は、一例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、当該構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)のうち少なくとも一つを得ることが可能である。
【0027】
各図において、X方向を矢印Xで表し、Y方向を矢印Yで表し、Z方向を矢印Zで表している。X方向、Y方向、およびZ方向は、互いに交差するとともに直交している。Z方向は、絶縁被覆付き電線の軸方向である。
【0028】
また、以下の複数の実施形態は、同様の構成要素を含んでいる。各実施形態によれば、同様の構成要素に基づく同様の効果が得られる。以下では、同様の構成要素および同様の効果についての重複する説明は、省略される場合がある。
【0029】
また、本明細書において、序数は、工程や、段階、部材等を区別するために便宜上付与されており、優先度や順番を限定するものではない。
【0030】
[第1実施形態]
[レーザ加工装置および加工対象]
図1は、接続部材10と絶縁被覆付き電線20とをレーザ溶接するレーザ加工装置100の概略構成図である。なお、以下では、接続部材10および絶縁被覆付き電線20を、加工対象Wと称する。
【0031】
接続部材10は、例えば、銅系材料やアルミニウム系材料のような、導電性の金属材料で作られている。銅系材料は、例えば、無酸素銅や銅合金であり、アルミニウム系材料は、例えば、純アルミニウムや、アルミニウム合金である。また、接続部材10は、例えば、Z方向に略一定の厚さを有しZ方向と交差した方向に延びた板状の形状を有している。
【0032】
絶縁被覆付き電線20は、導体21と絶縁被覆22と、を有している。導体21は、例えば、銅系材料やアルミニウム系材料のような、導電性の金属材料で作られている。また、絶縁被覆22は、例えば、絶縁性を有した合成樹脂材料で作られている。また、導体21は、円形断面を有した丸線であり、絶縁被覆22は、導体21の周囲を覆うチューブ状の形状を有している。
【0033】
加工対象Wは、絶縁被覆付き電線20がZ方向に延びて接続部材10をZ方向に貫通し、当該絶縁被覆付き電線20の端部20aが接続部材10から所定長突出した状態に、セットされる。レーザ加工装置100は、加工対象Wに向けて、端部20aに対して接続部材10とは反対側から、Z方向の反対方向に略沿って、レーザ光Lを照射する。レーザ加工装置100および加工対象Wは、Z方向が略鉛直上方となるように、配置される。
【0034】
レーザ加工装置100は、レーザ装置110と、光学ヘッド120と、光ファイバ130と、移動機構140と、ガス供給機構150と、を備えている。
【0035】
レーザ装置110は、レーザ発振器を有しており、例えば、数kWのパワーのレーザ光を出力できるよう構成されている。レーザ装置110は、例えば、400[nm]以上1200[nm]以下の波長のレーザ光を出力する。レーザ装置110は、内部に、例えば、ファイバレーザや、半導体レーザ(素子)、YAGレーザ、ディスクレーザのような、レーザ光源を有している。また、レーザ装置110は、複数の光源の出力の合計として、数kWのパワーのマルチモードのレーザ光を出力できるよう構成されてもよい。
【0036】
光ファイバ130は、レーザ装置110と光学ヘッド120とを光学的に接続している。光ファイバ130は、レーザ装置110から出力されたレーザ光を光学ヘッド120に導く。
【0037】
光学ヘッド120は、レーザ装置110からのレーザ光を、加工対象Wに照射する光学装置である。光学ヘッド120は、コリメートレンズ121と、集光レンズ122と、ミラー123と、回折光学素子125(diffractive optical element、以下、DOE125と記す)と、ガルバノスキャナ126と、を備えている。コリメートレンズ121、集光レンズ122、ミラー123、DOE125、およびガルバノスキャナ126は、光学部品とも称される。
【0038】
コリメートレンズ121は、光ファイバ130を介して入力されたレーザ光をコリメートする。コリメートされたレーザ光は、平行光になる。
【0039】
ミラー123は、コリメートレンズ121で平行光となったレーザ光を反射し、ガルバノスキャナ126へ向かわせる。なお、コリメートレンズ121や、ガルバノスキャナ126の配置によっては、ミラー123は不要となる。
【0040】
ガルバノスキャナ126は、複数のミラー126a,126bを有している。複数のミラー126a,126bの角度を変更することで、光学ヘッド120からのレーザ光Lの出力方向を切り替えることができる。ミラー126a,126bの角度は、それぞれ、例えば制御装置によって制御されたモータ(いずれも不図示)によって変更される。光学ヘッド120は、レーザ光Lを照射しながら、レーザ光Lの出力方向を変更することにより、加工対象Wの表面上で、レーザ光Lを相対的に走査することができる。
【0041】
集光レンズ122は、ガルバノスキャナ126によって照射された平行光としてのレーザ光を集光し、レーザ光L(出力光)として、加工対象Wへ照射する。加工対象Wの表面には、集光レンズ122を経由したレーザ光Lのスポットが形成される。
【0042】
DOE125は、コリメートレンズ121と集光レンズ122との間であって、コリメートレンズ121とガルバノスキャナ126との間に、設けられている。
【0043】
図2は、DOE125の原理の概念を示す説明図である。図2に示されるように、DOE125は、例えば、周期の異なる複数の回折格子125aが重ね合わせられた構成を備えている。DOE125は、平行光を、各回折格子125aの影響を受けた方向に曲げたり、重ね合わせたりすることにより、ビーム形状を成形することができる。DOE125は、レーザ光を複数のビームに分割し、表面におけるスポットの形状を適宜に成形することができる。DOE125は、ビームシェイパの一例である。
【0044】
図3は、加工対象Wの仮想的な表面Waにおいてレーザ加工装置100から照射されたレーザ光Lのビームのスポットの一例を示す平面図である。図3の例では、DOE125によるビームの成形により、表面Wa上において、一つのビームのスポットS1の周囲に、複数のビームのスポットS2が、周状にかつ略環状に配置されている。一例として、スポットS2のパワー密度は、スポットS1のパワー密度より低く設定されている。
【0045】
図2に示される移動機構140は、加工対象Wと光学ヘッド120とを相対的に移動することができる。移動機構140の作動により、加工対象Wの表面上で、レーザ光Lを相対的に走査することができる。すなわち、本実施形態では、加工対象Wの表面に対するレーザ光Lのスポットの相対的な走査は、ガルバノスキャナ126の単独の作動によって実現してもよいし、移動機構140の単独の作動によって実現してもよいし、移動機構140およびガルバノスキャナ126の双方の作動の組み合わせによって実現してもよい。
【0046】
また、ガス供給機構150は、酸素を含むガスGを、端部20aに対して接続部材10とは反対側から加工対象Wに吹き付けるノズル151を有している。ノズル151は、光学ヘッド120に固定されてもよいし、加工対象Wを支持する装置に固定されてもよい。
【0047】
[レーザ溶接方法]
図4は、第1実施形態のレーザ加工装置100による加工対象Wの加工の手順の一例を示すフローチャートである。
【0048】
まずは、図4に示されるように、絶縁被覆付き電線20を接続部材10の開口10aを貫通した状態で当該接続部材10にセットする(S101)。
【0049】
図5は、S101において、絶縁被覆付き電線20が接続部材10の所定位置にセットされた状態を示す平面図である。図5に示されるように、接続部材10には、Z方向に貫通する開口10aが設けられるとともに、当該開口10aを挟むようにX方向に延びるアーム10bが設けられている。開口10aは、接続部材10のX方向の端部10cにおいて当該X方向に開放された切欠として構成されている。この場合、絶縁被覆付き電線20は、切欠としての開口10aの底部に当たる位置まで、X方向の反対方向に挿入され、当該開口10aの底部に突き当たった図5に示される位置が、絶縁被覆付き電線20のセット位置となる。
【0050】
次に、図4に示されるように、S101の後、開口10aが狭くなるよう接続部材10を加締めて絶縁被覆付き電線20と接続部材10とを固定する(S102)。
【0051】
図6は、S102において、接続部材10の加締めにより開口10aが狭くなり、絶縁被覆付き電線20と接続部材10とが固定された状態を示す平面図である。図5,6に示されるように、この例では、二つのアーム10bに押圧力Fが印加されることで、切欠としての開口10aが閉じられるとともに狭められ、これにより、絶縁被覆付き電線20と接続部材10とが固定される。S102は、第一工程の一例である。なお、開口10aの形状や、加締め方法は、図5,6の例には限定されない。
【0052】
次に、図4に示されるように、S102の後、絶縁被覆付き電線20の端部20a(図7参照)が接続部材10から所定長Ltだけ突出した状態となるよう、端部20aの先端20a1が切断される(S103)。
【0053】
図7は、S103において、端部20aの先端20a1が切断された状態を示す断面図である。S101,S102では、絶縁被覆付き電線20は、その端部20aが所定長Ltよりも長く突出した状態となるように行われる。そして、S103において、例えば、Z方向と交差して移動する切断装置や工具等の刃Bによって、端部20aの先端20a1が切断される。所定長Ltは、例えば、導体21の直径が1.1[mm]の場合に、3[mm]に設定される。所定長Ltは、突出長とも称されうる。
【0054】
次に、図4に示されるように、S103の後、酸素を含むガスGを吹き付けられながらレーザ光Lを照射して端部20aの絶縁被覆22が除去される(S104)。S104は、第二工程の一例である。
【0055】
図8,9は、S104において、レーザ光Lの照射およびガスGの吹き付けによって絶縁被覆付き電線20の端部20aから絶縁被覆22を除去する工程を示す断面図であり、図9は、図8よりも後の段階を示す図である。
【0056】
S104では、絶縁被覆22に、酸素を含むガスGを吹き付けながらレーザ光Lを照射することにより、当該絶縁被覆22を炭化するとともに、当該炭化によって生じた残渣Rを吹き飛ばす。発明者らの鋭意研究により、S104では、より確実にかつより効率良く絶縁被覆22の炭化および残渣Rの除去を行うとともに、より高品質な溶接部30(図13参照)を形成するため、図8,9に示されるように、絶縁被覆付き電線20の中心軸Cの回りに所定の半径R1,R2で少なくとも1周(360°)にわたって円周状に略等速で周回しながらレーザ光Lを照射する周回照射を、複数回行うのが好ましいことが判明した。
【0057】
ここで、S104の各周回照射では、レーザ光Lが絶縁被覆22に照射され、導体21にはなるべく照射されないよう、当該レーザ光Lのスポットの中心の位置およびスポットの大きさ(半径)が設定されるのが好ましいことが判明した。S104において、レーザ光Lの照射によって導体21が溶融すると、導体21の溶融池に絶縁被覆22の残渣が取り込まれ、ひいては導体21と接続部材10とを接合する溶接部30に絶縁被覆22の残渣が混入し、接合強度の低下や電気抵抗の増大のような不都合な事象が生じる虞があることが判明した。
【0058】
また、S104における当初の周回照射(図8)では、レーザ光Lのスポットの中心の走査軌跡の半径R1は、レーザ光Lのスポットの中心が絶縁被覆22の厚さ方向の中心に略沿って走査されるよう、設定されるとともに、より後段の周回照射(図9)では、レーザ光Lのスポットの中心の走査軌跡の半径R2は、当初の周回照射の半径R1よりも大きくなるよう、設定されるのが好ましいことが判明した。これにより、当初の周回照射で絶縁被覆22を満遍なく炭化し、より後段の周回照射で導体21への熱影響を抑制しながら未炭化の絶縁被覆22の炭化を行うとともに、残渣Rを除去することができる。よって、このような複数回の周回照射によれば、より確実かつより効率の良い絶縁被覆22の除去と、残渣Rの混入の少ないより高品質な溶接部30の形成と、の双方を実現することができる。図8の周回照射は、第一周回照射の一例であり、図9の周回照射は、第三周回照射の一例である。
【0059】
さらに、S104におけるより後段の周回照射(図9)では、当初の周回照射(図8)よりもレーザ光Lのパワーを低くするのが好ましいことが判明した。これにより、当初の周回照射で絶縁被覆22を満遍なく炭化し、より後段の周回照射で導体21への熱影響を抑制しながら未炭化の絶縁被覆22の炭化を行うとともに残渣Rを除去することができる。よって、このような複数回の周回照射によれば、より確実かつより効率の良い絶縁被覆22の除去と、残渣Rの混入の少ないより高品質な溶接部30の形成と、の双方を実現することができる。図8の周回照射は、第一周回照射の一例であり、図9の周回照射は、第二周回照射の一例である。
【0060】
また、S104では、絶縁被覆22の全周にわたって、炭化および残渣Rの除去を満遍なく行うこと、言い換えると、炭化および残渣Rの除去の周方向の位置によるばらつきを抑制することが、肝要である。このような観点から、ガスGを供給する複数のノズル151は、酸素を含むガスGが、端部20aの外周の、周方向における位置が異なる複数箇所に吹き付けられるよう、設けられている。なお、図8,9の例では、ノズル151の数、すなわちガスGの供給箇所の数は、2であるが、これには限定されず、3以上であってもよい。一例として、ノズル151の数がn(nは2以上の整数)である場合、当該ノズル151は、Z方向の反対方向に見た平面視で、ガスGが、端部20aの外周の、中心軸C回りの周方向に(360/n)°離れた複数箇所に供給されるよう、配置される。
【0061】
また、S104では、レーザ光Lのスポットが小さすぎると、当該レーザ光Lの照射による絶縁被覆22の炭化範囲が狭まるため、絶縁被覆22の迅速な除去が難しくなることが判明した。このような観点から、S104では、図3に示されるように、DOE125を用いて、レーザ光Lのスポットの照射範囲を、DOE125を用いない場合に比べてより大きくしている。これにより、より効率良くかつより迅速に絶縁被覆22を除去することができる。
【0062】
また、発明者らは、実験的な研究により、S104における好適な走査速度およびレーザ光Lの出力の範囲を見出した。
【表1】
表1は、S104でのスポットの端部20aのZ方向の端面上での走査速度[mm/s]およびレーザ装置110のレーザ光の出力[W]を種々に変更した各場合について、S107後の溶接部30の性能あるいは状態の良否を示している。◎は、残渣Rが殆ど残らずかつ導体21が殆ど溶融せずS107後に電気抵抗が低い、接合強度が高い、スパッタが少ない等の好適な性能あるいは状態が得られた場合、○は、残渣Rが若干残ったかあるいは導体21が若干溶融したもののS107後に電気抵抗や、接合強度、スパッタ数等の所要の性能あるいは状態は満たされた場合、×は、エネルギ不足で残渣Rが残ったかあるいはエネルギ過多となって絶縁被覆22の残渣Rが混じった導体21の溶融池が形成されてしまったことによりS107後に電気抵抗や、接合強度、スパッタ数等の所要の性能あるいは状態が満たされなかった場合を示す。このような観点から、走査速度は、10[mm/s]より速くかつ70[mm/s]より遅いのが好ましく、20[mm/s]より速いのがさらに好ましいことが判明した。また、出力は、100[W]より高くかつ1200[W]より低いのが好ましく、200[W]より高くかつ1000[W]より低いのがさらに好ましいことが判明した。
【0063】
次に、図4に示されるように、S104の後、レーザ光Lの照射により、絶縁被覆22が除去された端部20aの導体21が溶融される(S105)。S105は、第三工程の一例である。
【0064】
図10,11は、S105において、端部20aを溶融して溶融池Mを形成する工程を示す断面図であり、図11は、図10よりも後の段階を示す図である。図10,11に示されるように、S105では、端部20aの導体21に接続部材10とは反対側からレーザ光Lを定点照射して、当該導体21を溶融して溶融池Mを形成する。レーザ光Lは、端部20aのZ方向の先端に向けて、中心軸Cに沿って、Z方向の反対方向に、照射される。また、S105において、レーザ光Lは、S104よりも高いパワーで照射される。
【0065】
また、発明者らは、実験的な研究により、S105における好適な照射時間およびレーザ光Lの出力の範囲を見出した。
【表2】
表2は、S105でのレーザ光Lの照射時間およびレーザ装置110のレーザ光の出力[W]を種々に変更した各場合について、S107後の溶接部30の性能あるいは状態の良否を示している。◎は、端部20aが根元まで溶融して適切な溶融池Mが形成されS107後に電気抵抗が低い、接合強度が高い、スパッタが少ない等の好適な性能あるいは状態が得られた場合、○は、溶融池Mがやや小さく端部20aの根元部が若干残ったかあるいは溶融池Mがやや大きく若干不安定な状態になったもののS107後に電気抵抗や、接合強度、スパッタ数等の所要の性能あるいは状態は満たされた場合、×は、エネルギ不足により溶融池Mが小さすぎたかあるいはエネルギ過多により溶融池Mが吹き飛んでしまったことによりS107後に電気抵抗や、接合強度、スパッタ数等の所要の性能あるいは状態が満たされなかった場合を示す。このような観点から、照射時間は、10[ms]より長くかつ70[ms]より短いのが好ましく、30[ms]より長くかつ60[ms]より短いのがさらに好ましいことが判明した。また、出力は、500[W]より高くかつ1000[W]より低いのが好ましく、700[W]より高いのがさらに好ましいことが判明した。
【0066】
次に、図4に示されるように、S105の後、レーザ光Lの照射により、溶融池Mを接続部材10まで拡大する(S106)。S106は、第四工程の一例である。
【0067】
図12は、レーザ光Lの照射によって接続部材10を溶融して溶融池Mを拡大する工程を示す断面図である。発明者らの鋭意研究により、S106では、図12に示されるように、中心軸Cの回りに所定の半径R3で少なくとも1周(360°)にわたって円周状に略等速で周回しながらレーザ光Lを照射するのが好ましいことが判明した。
【0068】
また、S106において、レーザ光Lのパワーが高すぎると、溶融池Mの動きがより激しくなり、スパッタやボイドが生じる虞があることが判明した。このような観点から、S106では、S105よりも低いパワーでレーザ光Lが照射される。これにより、スパッタやボイドの少ないより高品質な溶接を実現できる。
【0069】
また、走査軌跡、すなわち、レーザ光Lの照射位置は、溶融池Mの周縁部か、あるいは接続部材10の溶融池Mとの境界(外縁)近傍に位置するのが好ましいことが判明した。照射位置が中心軸Cに近すぎると、溶融池Mを効率良く拡大できないことが判明した。このような観点から、レーザ光Lのスポットの中心の走査軌跡の半径R3は、例えば、S104における半径R1,R2と略同等に設定される。
【0070】
また、S106では、レーザ光Lのスポットが小さすぎると、溶融池Mの場所による温度差が大きくなりやすく、溶融池Mの動きがより激しくなり、スパッタやボイドが生じる虞があることが判明した。このような観点から、S106では、図3に示されるように、DOE125を用いてレーザ光Lのスポットの照射範囲を、DOE125を用いない場合に比べてより大きくするとともに、スポットS1,S2のパワーの配分を適宜に調整している。これにより、溶融池Mの場所による温度差を緩和し、溶融池Mをより安定化して、スパッタやボイドの少ないより高品質な溶接を実現できる。
【0071】
また、発明者らは、実験的な研究により、S106における好適な走査時間およびレーザ光Lの出力の範囲を見出した。
【表3】
表3は、S106でのレーザ光Lのスポットの溶融池M上での走査速度およびレーザ装置110のレーザ光の出力[W]を種々に変更した各場合について、S107後の溶接部30の性能あるいは状態の良否を示している。◎は、適切な広さの溶融池Mひいては溶接部30が形成されS107後に電気抵抗が低い、接合強度が高い、スパッタが少ない等の好適な性能あるいは状態が得られた場合、○は、溶融池Mひいては溶接部30がやや狭いかあるいはやや広いもののS107後に電気抵抗や、接合強度、スパッタ数等の所要の性能あるいは状態は満たされた場合、×は、エネルギ不足により溶融池Mひいては溶接部30が狭すぎるかあるいはエネルギ過多により溶融池Mが吹き飛んでしまったことによりS107後に電気抵抗や、接合強度、スパッタ数等の所要の性能あるいは状態が満たされなかった場合を示す。このような観点から、走査速度は、20[mm/s]より速くかつ70[mm/s]より遅いのが好ましく、60[mm/s]より遅いのがさらに好ましいことが判明した。また、出力は、350[W]より高くかつ650[W]より低いのが好ましく、400[W]より高いのがさらに好ましいことが判明した。
【0072】
次に、図4に示されるように、S106の後、溶融池Mが冷却されることにより固化され、溶接部30(図13参照)が形成される(S107)。S107は、第五工程の一例である。
【0073】
図13は、S105,S106において形成された溶融池Mが固化された溶接部30が形成された状態を示す断面図である。溶融池Mは、自然冷却あるいは強制冷却によって冷却され、固化されて、溶接部30となり、これにより、接続部材10と絶縁被覆付き電線20とが溶接部30を介して接合される。
【0074】
以上、説明したように、本実施形態によれば、S102(第一工程)で、端部20aが接続部材10から突出した状態で絶縁被覆付き電線20と接続部材10とが固定される。また、S102の後のS104(第二工程)で、端部20aに、レーザ光Lが照射されながら酸素を含むガスGが吹き付けられることにより絶縁被覆22が炭化されて除去される。また、S104の後のS105(第三工程)で、絶縁被覆22が除去された端部20aの導体21がレーザ光Lの照射によって溶融されて溶融池Mが形成される。また、S105の後のS106(第四工程)で、レーザ光Lの照射によって溶融池Mが接続部材10まで拡大される。そして、S106の後のS107(第五工程)で、溶融池Mが冷却されて固化され、導体21と接続部材10とを接合するとともに電気的に接続する溶接部30が形成される。本実施形態によれば、レーザ加工装置100によって絶縁被覆22の除去およびレーザ溶接の双方を行うことができるため、レーザ溶接の前に別途絶縁被覆22を除去する場合に比べて、溶接部30を含む製品の製造に要する手間やコストを、抑制することができる。
【0075】
[第2実施形態]
図14は、第2実施形態のレーザ加工装置100による加工対象Wの加工の手順の一例を示すフローチャートである。
【0076】
図14図4と比較すれば明らかとなるように、本実施形態では、S106(第四工程)の後、かつS107(第五工程)の前に、溶融池Mを加熱してボイドv(気泡、図15参照)を除去する工程(S108)が行われる。S108は、第六工程の一例である。
【0077】
図15は、レーザ光Lの照射によって溶融池Mを加熱してボイドvを除去する工程を示す断面図である。S108では、図15に示されるように、溶融池Mに接続部材10とは反対側からレーザ光Lを定点照射して、当該溶融池Mを加熱する。レーザ光Lは、溶融池MのZ方向の先端に向けて、中心軸Cに沿って、Z方向の反対方向に、照射される。また、S108において、レーザ光Lは、S106よりも低いパワーで照射される。これにより、溶融池M中に存在したボイドvが当該溶融池M内を上昇し、溶融池M外に排出される。本実施形態によれば、よりボイドvの少ない、より高品質な溶接部30が得られる。
【0078】
また、S108では、レーザ光Lのスポットが小さすぎると、溶融池Mの場所による温度差が大きくなりやすく、溶融池Mの場所によるボイドvの排出度合いの差、ひいては溶接部30の場所によるボイドvの残存率の差が生じる虞があることが判明した。このような観点から、S106では、図3に示されるように、DOE125を用いてレーザ光Lのスポットの照射範囲を、DOE125を用いない場合に比べてより大きくする。これにより、溶接部30の場所によるボイドvの残存率の差が少ないより高品質な溶接を実現できる。
【0079】
[第3実施形態]
図16は、第3実施形態の第四工程において、レーザ光Lのスポットのウォブリング走査を行った場合の、当該スポットの走査軌跡Ptを示す平面図である。本実施形態では、溶融池Mの表面上で、レーザ光Lのスポットを、ウォブリングしながら円周状に走査している。具体的には、レーザ光Lのスポットは、第一直径D1で時計回り方向に等速円運動で旋回しながら、当該旋回円C1の旋回中心は、第二直径D2で中心軸C回りに時計回り方向に等速円運動で円周状に移動する。また、旋回中心が静止したと仮定した場合の移動軌跡を旋回円C1とし、旋回中心の移動軌跡を移動円C2とした場合、旋回円C1の半径、すなわちD1/2は、移動円C2の半径、すなわちD2/2よりも小さくなるよう、設定されている。これにより、走査軌跡Ptは、図16に示されるような渦巻き状の軌跡を描く。
【0080】
溶融池M上にレーザ光Lを照射した場合、レーザ光Lを照射した位置では昇華ガスが生じ、当該昇華ガスの圧力によって、溶融池M、すなわち溶融状態の金属材料が、照射位置の周囲へ押し出される。このため、ウォブリングした場合、照射位置(スポット)の旋回走査に応じて、溶融池Mは、当該旋回の径方向外側に向けて押し広げられることになる。したがって、本実施形態では、ウォブリングによって、溶融池Mを、Z方向と交差した方向により短い時間でより効率良く拡大することができ、ひいては、Z方向と交差した方向に広げられた溶接部30を、より短い時間でより効率良く形成することができる。
【0081】
また、図16の例では、スポットの旋回中心(移動円C2)は、中心軸Cに対してX方向の前方に位置する領域A1内を1度だけ通るのに対し、中心軸Cに対してX方向の後方に位置する領域A2内は2度通過している。このように、場所に応じて、エネルギ密度を異ならせてもよい。
【0082】
以上、本発明の実施形態が例示されたが、上記実施形態は一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、等のスペック(構造や、種類、方向、型式、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数、配置、位置、材質等)は、適宜に変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0083】
10…接続部材
10a…開口
10b…アーム
10c…端部
20…絶縁被覆付き電線
20a…端部
20a1…先端
21…導体
22…絶縁被覆
30…溶接部
100…レーザ加工装置
110…レーザ装置
120…光学ヘッド
121…コリメートレンズ
122…集光レンズ
123…ミラー
125…回折光学素子(DOE)
125a…回折格子
126…ガルバノスキャナ
126a,126b…ミラー
130…光ファイバ
140…移動機構
150…ガス供給機構
151…ノズル
A1…領域
A2…領域
B…刃
C…中心軸
C1…旋回円
C2…移動円
D1…第一直径
D2…第二直径
F…押圧力
G…ガス
L…レーザ光
Lt…所定長
M…溶融池
Pt…走査軌跡
S1…スポット
S2…スポット
R…残渣
R1~R3…半径
v…ボイド
W…加工対象
Wa…表面
X…方向
Y…方向
Z…方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16