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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057294
(43)【公開日】2024-04-24
(54)【発明の名称】吸音材及び車両部材
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/16 20060101AFI20240417BHJP
   B60R 13/08 20060101ALI20240417BHJP
【FI】
G10K11/16 120
B60R13/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022163933
(22)【出願日】2022-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】海野 光朗
(72)【発明者】
【氏名】下谷 圭三
(72)【発明者】
【氏名】枝元 太希
【テーマコード(参考)】
3D023
5D061
【Fターム(参考)】
3D023BA03
3D023BE06
3D023BE20
5D061AA07
5D061AA23
5D061AA25
5D061BB02
5D061BB11
5D061BB21
5D061BB24
(57)【要約】
【課題】薄厚であっても低い周波数帯域において優れた吸音特性を発現することができる、新たな吸音材を提供すること。
【解決手段】熱可塑性繊維を含む不織布を含む多孔質層と、多孔質層上に不織布の溶融硬化物を含む多孔層と、を備え、多孔層が、複数の孔を有する基部と、少なくとも一部の孔から多孔質層内に延在する中空状のネック部とを備え、多孔質層側を対象部材に向けて配置した時に、孔から入射する音に共鳴するヘルムホルツ共鳴箱構造が形成される、吸音材。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性繊維を含む不織布を含む多孔質層と、前記多孔質層上に不織布の溶融硬化物を含む多孔層と、を備え、
前記多孔層が、複数の孔を有する基部と、少なくとも一部の前記孔から多孔質層内に延在する中空状のネック部とを備え、
前記多孔質層側を対象部材に向けて配置した時に、前記孔から入射する音に共鳴するヘルムホルツ共鳴箱構造が形成される、吸音材。
【請求項2】
前記多孔層の気孔率が0~80%であり、前記多孔質層の気孔率が85~99%である、請求項1に記載の吸音材。
【請求項3】
前記不織布が、融点の異なる二種以上の前記熱可塑性繊維を含む、請求項1又は2に記載の吸音材。
【請求項4】
前記熱可塑性繊維が、ポリエチレンテレフタレート繊維及びポリプロピレン繊維の少なくともいずれかを含む、請求項1又は2に記載の吸音材。
【請求項5】
前記ヘルムホルツ共鳴箱構造が、共鳴周波数の異なるヘルムホルツ共鳴箱構造を含む、請求項1又は2に記載の吸音材。
【請求項6】
前記多孔層が、複数の孔を有する前記基部と、一部の前記孔から多孔質層内に延在する中空状の前記ネック部とを備える、請求項5に記載の吸音材。
【請求項7】
前記ヘルムホルツ共鳴箱構造が、2000Hz未満の共鳴周波数を有するヘルムホルツ共鳴箱構造、及び2000Hz以上の共鳴周波数を有するヘルムホルツ共鳴箱構造を含む、請求項5に記載の吸音材。
【請求項8】
前記ヘルムホルツ共鳴箱構造が、2000Hz未満の共鳴周波数を有するヘルムホルツ共鳴箱構造、2000~3000Hzの共鳴周波数を有するヘルムホルツ共鳴箱構造、及び3000Hz超の共鳴周波数を有するヘルムホルツ共鳴箱構造を含む、請求項5に記載の吸音材。
【請求項9】
隣り合う前記ヘルムホルツ共鳴箱構造が異なる共鳴周波数を有する、請求項5に記載の吸音材。
【請求項10】
前記多孔層と、前記多孔質層と、非通気性の材料から構成される裏張層とをこの順に備える、請求項1又は2に記載の吸音材。
【請求項11】
通気性の材料から構成される他の多孔質層と、前記多孔層と、前記多孔質層とをこの順に備える、請求項1又は2に記載の吸音材。
【請求項12】
前記基部の開口率が1~20%である、請求項1又は2に記載の吸音材。
【請求項13】
厚さが15mm以下である、請求項1又は2に記載の吸音材。
【請求項14】
請求項1又は2に記載の吸音材を備える、車両部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸音材及び車両部材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジンルーム内の騒音が車室内に伝播することを防止すること等を目的とした防音材として、車室内側より順に、第1の通気性吸音層、非通気性樹脂膜層、及び第2の通気性吸音層の順に接着された防音材が知られている(例えば、特許文献1参照)。同文献において、第1及び第2の通気性吸音層にはウレタン発泡材と繊維の混合材が用いられ、非通気性樹脂膜層には複数の樹脂フィルムの積層体が用いられている。
【0003】
また、広い周波数帯域の音に対処する単層のフェルトとして、層間に高空気流れ抵抗値部分と低空気流れ抵抗値部分とを有する傾斜空気流れ抵抗値吸音フェルトが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-347900号公報
【特許文献2】特開2005-195989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術には、薄厚であっても低い周波数帯域において優れた吸音特性を発現することに関し、依然として改善の余地がある。そのような改善へ期待は、特に自動車等の車両向けの吸音材において顕著である。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、薄厚であっても低い周波数帯域において優れた吸音特性を発現することができる、新たな吸音材を提供することを目的とする。本発明はまた、当該吸音材を備える車両部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、熱可塑性繊維を含む不織布を含む多孔質層と、多孔質層上に不織布の溶融硬化物を含む多孔層と、を備え、多孔層が、複数の孔を有する基部と、少なくとも一部の当該孔から多孔質層内に延在する中空状のネック部とを備え、多孔質層側を対象部材に向けて配置した時に、孔から入射する音に共鳴するヘルムホルツ共鳴箱構造が形成される、吸音材を提供する。このような吸音材は従来にない構造を有しており、薄厚であっても低い周波数帯域において優れた吸音特性を発現することができる。
【0008】
一態様において、多孔層の気孔率が0~80%であり、多孔質層の気孔率が85~99%であってよい。
【0009】
一態様において、不織布が、融点の異なる二種以上の熱可塑性繊維を含んでよい。
【0010】
一態様において、熱可塑性繊維が、ポリエチレンテレフタレート繊維及びポリプロピレン繊維の少なくともいずれかを含んでよい。
【0011】
一態様において、ヘルムホルツ共鳴箱構造が、共鳴周波数の異なるヘルムホルツ共鳴箱構造を有していてよい。
【0012】
一態様において、多孔層が、複数の孔を有する基部と、一部の孔から多孔質層内に延在する中空状のネック部とを備えてよい。
【0013】
一態様において、ヘルムホルツ共鳴箱構造が、2000Hz未満の共鳴周波数を有するヘルムホルツ共鳴箱構造、及び2000Hz以上の共鳴周波数を有するヘルムホルツ共鳴箱構造を含んでよい。
【0014】
一態様において、ヘルムホルツ共鳴箱構造が、2000Hz未満の共鳴周波数を有するヘルムホルツ共鳴箱構造、2000~3000Hzの共鳴周波数を有するヘルムホルツ共鳴箱構造、及び3000Hz超の共鳴周波数を有するヘルムホルツ共鳴箱構造を含んでよい。
【0015】
一態様において、隣り合うヘルムホルツ共鳴箱構造が異なる共鳴周波数を有してよい。
【0016】
一態様において、吸音材は、多孔層と、多孔質層と、非通気性の材料から構成される裏張層とをこの順に備えてよい。
【0017】
一態様において、吸音材は、通気性の材料から構成される他の多孔質層と、多孔層と、多孔質層とをこの順に備えてよい。
【0018】
一態様において、基部の開口率が1~20%であってよい。
【0019】
一態様において、吸音材の厚さが15mm以下であってよい。
【0020】
本発明の一側面は、上記の吸音材を備える、車両部材を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、薄厚であっても低い周波数帯域において優れた吸音特性を発現することができる、新たな吸音材を提供することができる。また、本発明によれば、当該吸音材を備える車両部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、一実施形態に係る吸音材の模式断面図である。
図2図2は、他の実施形態に係る吸音材の模式断面図である。
図3図3は、他の実施形態に係る吸音材の模式断面図である。
図4図4は、吸音材における孔の配置を模式的に表す図である。
図5図5は、ヘルムホルツ共鳴箱構造の共鳴周波数の算出方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されない。
本明細書において、「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
本明細書において、「層」との語は、平面図として観察したときに、全面に形成されている形状の構造に加え、一部に形成されている形状の構造も包含される。
【0024】
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0025】
本明細書において組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0026】
<吸音材>
図1は、一実施形態に係る吸音材の模式断面図である。吸音材10は、多孔層1と、多孔層1上に配置された多孔質層2とを備え、多孔層1が、複数の孔hを有する(平面状の)基部1aと、孔hの少なくとも一部の孔から多孔質層2内に延在する中空状のネック部1bとを備える。多孔層1は、全ての孔hから多孔質層2内に延在する中空状のネック部1bを備えていてもよい。多孔質層2は、孔hと連通しかつネック部1bの多孔質層2への延在長さと同じ深さの孔を有している。ネック部1bを有しない孔hの内部の空間は、多孔質層を構成する多孔質材が充填されていてもよく、空洞であってもよい。
【0027】
吸音材10は、多孔層1側を音の入射側に、多孔質層2側を吸音対象となる他の部材(対象部材)側に配置して使用することができる。吸音材10と対象部材とは接していてもよく、接していなくともよい。対象部材は非通気性の材料から構成されていてよく、具体的には自動車部材が挙げられ、特にホイールハウスパネル、ドアパネル、フロアパネル等のボディパネル、アンダーカバー、ホイールハウスカバー等カバー部品などが挙げられる。吸音材10が後述の裏張層を有する場合は、対象部材は通気性の材料から構成されていてもよい。
吸音材10は、他の部材の吸音特性を向上させる観点から、吸音特性向上部材ということもできる。また、吸音材10及び対象部材を備える構造を、吸音構造体ということもできる。
【0028】
吸音材10においては、多孔質層2側を対象部材に向けて配置した時に、孔hから入射する音に共鳴するヘルムホルツ共鳴箱構造が形成される。多孔質層2内に延在する中空状のネック部1bにより、その孔hの共鳴周波数を小さくすることができ、低い周波数帯域での吸音特性を得易くなる。吸音材10は、より広い周波数帯域での吸音特性を向上する観点から、共鳴周波数の異なる二種以上のヘルムホルツ共鳴箱構造を有していてよい。多孔層1側から入射した音(音響エネルギー)は、吸音材10内でヘルムホルツ共鳴して、熱エネルギーとして散逸されると考えられる。これにより音の減衰が観察される。
【0029】
図2~3は、他の実施形態に係る吸音材の模式断面図である。図2に示す吸音材は、音の入射側と反対面全面に非通気性の材料から構成される裏張層を備えている。この場合、上記のように対象部材を配置しなくとも、単独でヘルムホルツ共鳴箱構造を形成することができる。
【0030】
図2に示すように、吸音材11は、多孔層1と、多孔質層2と、非通気性の材料から構成される裏張層3とをこの順に備える。
【0031】
図3は、他の実施形態に係る吸音材の模式断面図である。図3に示す吸音材は、音の入射側に通気性の材料から構成される他の多孔質層を備えている。これにより、吸音特性向上、孔の被覆、意匠性向上等が図られる。
【0032】
図3に示すように、吸音材12は、通気性の材料から構成される他の多孔質層4と、多孔層1と、多孔質層2とをこの順に備える。
【0033】
吸音材の厚さは、吸音性能の観点から、5mm以上とすることができ、8mm以上であってもよく、また薄厚でも吸音特性に優れることから、30mm以下とすることができ、25mm以下であってもよく、20mm以下であってもよく、15mm以下であってもよく、13mm以下であってもよい。
【0034】
(多孔質層)
多孔質層は熱可塑性繊維を含む不織布を含む。不織布は通気性の材料(多孔質材)である。
【0035】
多孔質層の気孔率は、吸音特性向上の観点から85%以上であってよく、99%以下であってよい。この観点から、多孔質層の気孔率は88~97%とすることができ、90~95%であってもよい。
気孔率は三次元計測X線CT装置を用いた構造解析により算出することができる。具体的には、CTスキャン像から得られた構造から試料全体の体積に対する空隙の比率(%)として算出することができる。三次元計測X線CT装置の例としては、株式会社島津製作所製のinspeXio SMX-225CTSが挙げられる。測定条件は構成材料に応じて調整すればよく、本態様の多孔質層及び多孔層であれば、気孔と繊維の微細構造を観察するために適した条件とすればよい。例えば不織布がポリエチレンテレフタレート繊維で構成されている場合は、管電圧70kV、管電流40μAで対象をスキャンして解析することで、対象部分(多孔質層又は多孔層)の気孔率を測定することができる。
【0036】
多孔質層の密度は、吸音特性向上の観点から10kg/m以上であってよく、200kg/m以下であってよい。この観点から、多孔質層の密度は40~170kg/mとすることができ、70~140kg/mであってもよい。
密度は、常温において試料の重量を見かけの体積で除することにより算出することができる。
【0037】
多孔質層(不織布)の目付は、吸音特性向上の観点から200~1500g/mとすることができ、400~1000g/mであってもよい。
目付は試料の重量を多孔質層の面積で除することにより算出することができる。
【0038】
熱可塑性繊維を構成する熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE:例えば高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE))等のポリオレフィン、又はこれらを複合化したものが挙げられる。これらのうち、耐熱性及び加工性の観点からは、ポリエチレンテレフタレート又はポリプロピレンを好適に用いることができる。
【0039】
不織布は、融点の異なる二種以上の熱可塑性繊維を含むことができる。高融点の熱可塑性繊維により緻密な層(多孔層)を形成することができ、低融点の熱可塑性繊維により緻密な層を形成させることなく立体成型性を付与することができる。立体成型性とは、平板状の吸音材を得た後、高融点成分の融点未満の温度でありかつ低融点成分の融点を超える温度で吸音材を加熱し、真空プレス等の方法で立体形状へ加工できる性質を言う。
また不織布は、芯を高融点の熱可塑性樹脂とし、鞘を低融点の熱可塑性樹脂とした芯鞘構造、サイド・バイ・サイド型の複合形態等の熱可塑性繊維を含むことができる。
いずれの態様においても、高融点成分が層の形状をある程度保ったまま、低融点成分が繊維間を結合せしめ、又は繊維間を充填して緻密な層を形成することができ、フレキシブルで耐久性の高い多孔層を得ることができる。この観点から、高融点成分(高融点繊維)と低融点成分(低融点繊維)との割合は、高融点成分100質量部に対して低融点成分が10~200質量部であることが好ましく、30~150質量部であることが好ましい。
【0040】
ここでいう高融点繊維とは、組み合わせる低融点繊維の融点に対して相対的に40℃以上高い融点を有する繊維を言う。例えば融点240℃のPET繊維と融点160℃の共重合PET繊維を組み合わせた場合、PET繊維が高融点繊維となり、共重合PET繊維が低融点繊維となる。なお融点とは、JIS K 7121に準拠した示差走査熱量測定で測定することができる。
【0041】
不織布は、吸音特性の調整、吸音材の強度向上等の観点から、熱可塑性繊維の他に非熱可塑性繊維を更に含んでいてもよく、例えばナイロン、セルロース、天然繊維等の熱硬化性繊維、ガラス、シリカ、ロックウール等の無機繊維などを更に含んでいてもよい。
不織布は、内部にバインダーが含まれる形状付与可能なもの、或いは内部に無機粒子、エラストマー、ゴム等が含まれる通気抵抗が調整されたものであってもよい。
【0042】
多孔層を好適に形成する観点から、不織布は熱可塑性繊維を20質量%以上含むことができ、50質量%含んでいてもよく、100質量%含んでいても(すなわち熱可塑性繊維からなるものであっても)よい。
【0043】
不織布を構成する熱可塑性繊維の平均繊維径は特に制限されないが、より良好な吸音特性を得る観点から、例えば1~30μmとすることができ、5~20μmであってもよい。
平均繊維径は、電子顕微鏡にて1000倍で撮影した写真から測定される個々の繊維の繊維径の平均をとることで求められる。具体的には、平均繊維径は、10枚の写真から任意に選択された合計本数100本の繊維について繊維径を測定し、それらを平均して求められる。
【0044】
多孔質層は不織布単層であってもよく、同一の又は異なる不織布が複数積層された積層体であってもよい。後者の場合、吸音特性の観点から不織布同士は熱圧着されていることが好ましいが、接着剤を用いて接着されていてもよい。
【0045】
接着剤を用いる方法では、不織布間に接着層を備えることができる。接着層としては、酢酸ビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂、イソブテン・無水マレイン酸共重合樹脂、アクリル共重合樹脂、アクリルモノマー、アクリルオリゴマー、スチレンブタジエンゴム、塩化ビニル樹脂、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ウレタン樹脂、シリル化ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂、アイオノマー樹脂、シリコーン樹脂、変性シリコーン樹脂、水ガラス、シリケート等の接着成分を含む層、あるいは紙、布、樹脂フィルム、金属テープ等から構成される支持体の両面にこれらの接着成分を含む層を備える積層物(例えば両面テープ)などが挙げられる。接着剤の厚さは特に限定されないが、0.01~500μmとすることができ、1~250μmであってもよい。
【0046】
多孔質層の厚さは、特に低周波における吸音性能の観点から、5mm以上とすることができ、8mm以上であってもよく、また薄厚が要求される自動車部品向けの用途の観点から、15mm以下とすることができ、12mm以下であってもよい。
【0047】
多孔層の孔に対応するネック部が存在しない場合、多孔質層は、吸音特性調整の観点から、多孔層の孔と連通する孔を有していてもよい。孔を有する場合、孔の深さは吸音性能の観点から、後述のネック部の延在長さと同じであってもよい。
【0048】
(多孔層)
多孔層は多孔質層上に(多孔質層表面に)存在し、多孔質層を構成する不織布を溶融硬化させることで形成される。この場合多孔層は、当該不織布を溶融硬化してなる、或いはメルトーム加工してなる層であるということができる。これにより多孔層は、不織布の溶融硬化物を含むこととなる。後述のとおり、多孔層を構成する基部は例えば板状部材で不織布表面を溶融硬化させることで形成することができ、ネック部は例えば穿孔部材で不織布を穿孔しながら溶融硬化させることで形成することができる。
また、多孔質層を構成する不織布とは別の不織布を溶融硬化させて、基部及びネック部を有する多孔層を得た後、これを多孔質層に積層してもよい。
【0049】
多孔層の気孔率は、ヘルムホルツ共鳴箱を形成させる観点から、0~80%とすることができ、0~70%であってもよく、20~70%であってもよく、40~60%であってもよい。多孔層の気孔率とは、多孔層を構成する基部及びネック部の気孔率であり、不織布の溶融硬化物の気孔率ということもできる。
【0050】
多孔層の密度は、ヘルムホルツ共鳴箱を形成させる観点から280kg/m以上であってよく、1400kg/m以下であってよい。この観点から、多孔層の密度は400~1400kg/mとすることができ、400~1100kg/mであってもよく、600~800kg/mでもよい。多孔層の密度とは、多孔層を構成する基部及びネック部の密度であり、不織布の溶融硬化物の密度ということもできる。
【0051】
基部の厚さは、耐久性の観点から、50μm以上とすることができ、100μm以上であってもよく、また軽量化、薄厚化等の観点から、5mm以下とすることができ、2mm以下であってもよい。
【0052】
基部の厚さは、三次元計測X線CT装置を用いた構造解析で確認することができる。すなわち、得られたスキャン像から、多孔層表面に垂直となる断面像を得て、基部の厚さを測定することができる。基部の厚さは、基部の5箇所に対する測定値の平均値として求められる。
【0053】
基部の開口率は、吸音材内に音波を充分に入射させる観点から、1%以上とすることができ、2%以上であってもよく、またヘルムホルツ共鳴を好適に生じさせる観点から20%以下とすることができ、15%以下であってもよい。開口率とは、吸音材の多孔層を厚さ方向から見た時の孔の面積を、孔の面積を含む多孔層(基部)の面積で除することで算出することができる。
【0054】
基部が有する孔の形状は、円形、楕円形、長方形、多角形、不定形等であってよく、開口率の調整及び工法上の都合で適した形状を採用することができる。孔の径及びピッチ等を調整することで、吸音時の共鳴周波数を調整することができる。孔の形状は、加工性の観点から、円形であることが好ましい。孔に対応するネック部が存在しない場合、孔の内部の空間は多孔質材が充填されていてもよく、空洞であってもよい。
【0055】
孔の径(孔径)、すなわち中空状のネック部の内径は、適切な開口率を得る観点から、0.5mm以上とすることができ、2mm以上であってもよく、また吸音材内への異物侵入を抑制する観点から、10mm以下とすることができ、5mm以下であってもよい。
孔の径は、三次元計測X線CT装置を用いた構造解析で確認することができる。孔の径は、5個の孔に対する測定値の平均値として求められる。
【0056】
吸音材の多孔層を厚さ方向から見た時に、優れた吸音特性を得る観点から、孔は格子状に配置されていてよく、菱形格子状(斜方格子状)、六角格子状(三角格子状)、正方格子状、矩形格子状、歪斜格子状等に配置されていてよい。
孔のピッチは、加工性の観点から、1mm以上とすることができ、5mm以上であってもよく、また開口率向上の観点から、30mm以下とすることができ、20mm以下であってもよい。孔のピッチとは、後述の図4のPに示されるように、隣接する孔の中心間距離を言う。孔のピッチは、5個の孔に対する測定値の平均値として求められる。
【0057】
ネック部の長さは、吸音特性をより向上する観点から、多孔質層の厚さの5%以上とすることができ、10%以上であってもよく、30%以上であってもよく、50%以上であってもよい。ネック部の長さは、吸音材の裏面(音波入射側の反対側表面)とネック部先端との隙間を確保する観点から、多孔質層の厚さの90%以下とすることができ、80%以下であってもよい。
ネック部の長さとは、基部と不織布層との界面からネック部先端までの長さを言う。
【0058】
ネック部の長さは、多孔質層の厚さ等により変動するため特に限定されないが、1mm以上とすることができ、3mm以上であってもよく、5mm以上であってもよい。同様に、ネック部の長さは、9mm以下とすることができ、8mm以下であってもよい。
【0059】
ネック部の厚さ、すなわち中空状の構造の内径及び外径の差(壁面の厚さ)は、ネック部が剛直となり振動に対しより優れた耐久性を得る観点から、50μm以上とすることができ、100μm以上であってもよい。ネック部の厚さは、多孔質層の体積を確保し、特に低周波吸音性能の向上させる観点から、5mm以下とすることができ、2mm以下であってもよい。
【0060】
ネック部の長さ及び厚さは、前述の基部と同様に三次元計測X線CT装置を用いた構造解析で確認することができる。ネック部の長さ及び厚さは、5個のネック部に対する測定値の平均値として求められる。
【0061】
(裏張層)
裏張層は非通気性の材料から構成される。裏張層により、吸音材の耐久性、剛性等を向上させることができる。非通気性の材料としては、例えば、プラスチック、ゴム、金属、これらの複合材料が挙げられる。多孔質層と裏張層とは、前述の接着剤を用いて接着されていてよい。
【0062】
プラスチックとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE:例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE))等のポリオレフィン、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、ABS、AES、ASA、ポリフェニレンエーテル(PPE)などが挙げられる。
ゴムとしては、ウレタンゴム(PU)、シリコーンゴム、天然ゴム(NR)、ブチルゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、フッ素ゴム(FKM)等が挙げられる。
金属としては、ステンレス、アルミ、銅等が挙げられる。
複合材料としては、繊維強化ゴム(FRR)、繊維強化プラスチック(FRP)等が挙げられる。
【0063】
また、裏張層として、吸音対象に接着させるための接着シート又はフィルム、あるいは制振性付与のための制振シート又はフィルムを用いることもできる。
【0064】
裏張層の厚さは、耐久性、剛性の向上等の観点から、50μm以上とすることができ、100μm以上であってもよく、また薄厚が要求される自動車部品向けの用途の観点から、5mm以下とすることができ、2mm以下であってもよい。
【0065】
(他の多孔質層)
他の多孔質層は通気性の材料から構成される。音波入射側である多孔層上に他の多孔質層を敷設することで、優れた吸音性能を損なうことなく、孔への異物の混入を防ぐことができる。特に自動車の外装部品(アンダーカバー、ホイールハウスカバー等)に吸音材を適用する場合に有効である。多孔層と他の多孔質層とは、吸音特性の観点から熱圧着されていることが好ましいが、前述の接着剤を用いて接着されていてもよい。
【0066】
通気性の材料としては不織布、発泡フォーム等が挙げられる。不織布としては、多孔質層の態様において説明した不織布が挙げられる。発泡フォームとしては、ウレタンフォーム、ポリエチレンフォーム、メラミンフォーム、ゴムスポンジ等が挙げられる。
【0067】
良好な吸音特性を得る観点から、他の多孔質層の気孔率は85~99%とすることができ、密度は10~200kg/mとすることができる。
【0068】
(ヘルムホルツ共鳴箱構造)
吸音材においては、多孔質層側を対象部材に向けて配置した時に、孔から入射する音に共鳴するヘルムホルツ共鳴箱構造が形成される。上記吸音材によれば、薄厚であっても低い周波数帯域において優れた吸音特性を発現することができる。
ヘルムホルツ共鳴箱構造は、共鳴周波数の異なるヘルムホルツ共鳴箱構造を含んでよい。すなわち、吸音材においては、共鳴周波数の異なる二種以上のヘルムホルツ共鳴箱構造が形成されてもよい。これにより、吸音材は低周波数側から高周波数側まで広範囲において高い吸音特性を発現することができる。
ヘルムホルツ共鳴箱構造とは、ヘルムホルツ共鳴器の構成要素、すなわち開口部(多孔層の孔)、頸部(多孔層の厚み、又は多孔層厚みとネック部長さ)、胴部(多孔質層)を有し、理論的にヘルムホルツ共鳴箱として機能する構造である。
【0069】
ヘルムホルツ共鳴箱構造は、低い周波数帯域において優れた吸音特性を発現する観点から、2000Hz未満の共鳴周波数を有するヘルムホルツ共鳴箱構造を有することが好ましい。
【0070】
ヘルムホルツ共鳴箱構造は、吸音周波数の広域化の観点から、2000Hz未満の共鳴周波数を有するヘルムホルツ共鳴箱構造、及び2000Hz以上の共鳴周波数を有するヘルムホルツ共鳴箱構造を含むことが好ましく、2000Hz未満の共鳴周波数を有するヘルムホルツ共鳴箱構造、2000~3000Hzの共鳴周波数を有するヘルムホルツ共鳴箱構造、及び3000Hz超の共鳴周波数を有するヘルムホルツ共鳴箱構造を含むことがより好ましい。
この際、隣り合うヘルムホルツ共鳴箱構造が異なる共鳴周波数を有することがさらに好ましい。すなわち、異なる共鳴周波数を発現する孔(吸音周波数区分の異なる孔)同士が隣り合うことで、音波がそれぞれの孔に回折して入射し易くなり、吸音周波数をより広域化し易くなる。
【0071】
図4は、吸音材における孔の配置を模式的に表す図である。同図は、吸音材の多孔層を厚さ方向から見た時の、異なる共鳴周波数を発現する孔A~Cの好適な配置を示している。図4(a)では、孔A及びCが正方格子状に配置されており、孔A及びCそれぞれに対し異なる共鳴周波数を発現する孔が隣接している。図4(b)では、孔A~Cが三角格子状(正三角格子状)に配置されており、孔A~Cそれぞれに対し異なる共鳴周波数を発現する孔が隣接している。例えば、孔Aの周囲には、孔B及び孔Cが同数で隣接しており、孔A同士は隣接していない。
【0072】
図5は、ヘルムホルツ共鳴箱構造の共鳴周波数の算出方法を示す図である。同図において、破線で囲われた部分がそれぞれヘルムホルツ共鳴箱単位を示す。各孔から入射した音に共鳴するヘルムホルツ共鳴箱構造の共鳴周波数は、この算出方法に従い、吸音材の各種寸法から調整することができる。
【0073】
図5中、Vはヘルムホルツの共鳴箱単位に多孔質層を分割した場合の、多孔質層の体積である。孔が一定の周期をもって格子状に配置された場合、Vは、隣接する孔の中心を起点とし、孔同士の中間点を通る正方形又は長方形(図4の破線部分参照)に、多孔質層の厚さTを乗じた直方体又は立方体の体積として算出される。孔同士の中間点を通る方形を描くときに複数の描画方法がある場合は、隣接する方形同士が重ならないようにかつその面積が最大となるよう描画する。また、孔が一定の周期をもたず不特定のピッチ間隔でランダムに配置される場合、Vは、隣接する孔の中心を起点とし、孔同士の中間点を頂点とする多角形に多孔質層の厚さTを乗じた多角柱の体積として算出される。いずれの場合においても、多孔質層内にネック部が延在している場合は、ネック部の体積を減じた体積をVとする。δは開口端補正であり、例えば孔の形状が円形である場合、δは孔の直径の0.8倍として算出することができる。孔の形状が円形でない場合は、δは孔の面積と同じ面積を有する正円の直径の0.8倍として算出することができる。
【0074】
<吸音材の製造方法>
以下に吸音材の製造方法を説明するが、吸音材の製造方法に特に制限はない。
【0075】
吸音材は、例えば多孔質層としての不織布に加熱した加工部材を接触させた後冷却することで(メルトーム加工することで)、不織布を構成する熱可塑性繊維を溶融硬化し、多孔質層上に多孔層を形成することにより製造することができる。このような方法により、不織布表面及び内部に相対的に通気抵抗の高い緻密な層である基部及びネック部が形成され、ヘルムホルツ共鳴による吸音構造体が得られる。
【0076】
加工部材による加熱温度は、使用する不織布の材質により調整すればよく特に制限されない。不織布を構成する熱可塑性繊維を溶融させる観点から、例えば熱可塑性繊維が単一の繊維を含む場合は、当該繊維の融点以上とすることができ、熱可塑性繊維が高融点繊維及び低融点繊維の混繊である場合は、高融点繊維の融点以上とすることができる。ただし、溶融量のコントロールの観点から、前者であれば熱可塑性繊維の融点から50℃を超えない温度とすることができ、後者であれば高融点繊維の融点から50℃を超えない温度とすることができる。
【0077】
多孔層の形成に当たり、多孔層の基部とネック部とを別々に形成してもよく、同時に形成してもよい。前者であれば、例えば加熱された板状又はロール状部材を不織布に押し付けることで基部を形成した後、加熱された穿孔部材で不織布を基部側から穿孔することでネック部を形成することができる。後者であれば、例えば板状部材及び穿孔部材の機能を備える複合部材により、基部及びネック部を形成することができる。
【0078】
板状部材及び穿孔部材の一部に非加熱部分を設けたり、穿孔部材の一部の突起を無くしたりすることで、ネック部を有しない孔を形成することもできる。これにより、多孔層の孔内部に多孔質材が充填された態様、或いは多孔質層が多孔層の孔と連通する孔を有する態様を実現することができる。
【0079】
穿孔部材としては、孔を穿つための突起を有するものであれば特に制限されず、ニードルピン、ポンチ等が挙げられる。穿孔部材が有する突起は尖形であってもよく、すなわち尖形部材であってもよい。穿孔部材が備える突起の配置及び長さは、形成される孔が所望の配置及び深さを有するよう適宜調整することができる。突起の形状は、形成される孔が所望の形状となるよう適宜調整することができる。また、孔を複数同時に形成するため、穿孔部材は突起が平面上に複数配列された部材であってもよい。
【0080】
不織布を所定温度で加熱して冷却することで、不織布を構成する熱可塑性繊維が溶融硬化して緻密な溶融硬化物が形成される。通気抵抗の高い緻密な溶融硬化物は、下記のいずれかの状態になることができる。溶融硬化物が柔軟性を有することにより耐衝撃性に優れる観点から、熱可塑性繊維がある程度残った状態((b)~(d))がより好ましい。
(a)不織布が単一の熱可塑繊維を含み、当該熱可塑繊維が完全に溶融して硬化した状態。
(b)不織布が単一の熱可塑繊維を含み、当該熱可塑繊維が部分的に溶融して硬化した状態。
(c)不織布が融点の異なる複数の熱可塑性繊維を含み、低融点の熱可塑性繊維が部分的に/又は完全に溶融して硬化した状態。
(d)不織布が熱可塑性繊維と非熱可塑性繊維を含み、熱可塑性繊維が部分的に/又は完全に溶融して硬化した状態。
【0081】
不織布の表面に加熱した加工部材を接触させることに先立ち、不織布を予備加圧してもよい。これにより、加工面が整うため加工部材への不織布の貼り付きが抑制され易い。予備加圧の際の圧縮量及び温度は、使用する不織布の材質により調整すればよく特に制限されないが、例えば熱可塑性繊維の融点±10℃(熱可塑性繊維が高融点繊維及び低融点繊維の混繊である場合は、低融点繊維の融点~融点+50℃)の温度で不織布を加熱しながら、不織布の当初の厚さに対して50~80%の厚さとなるように圧縮することができる。
予備加圧は、不織布を加熱された板状又はロール状部材で挟み込んだり、或いは加熱炉等で予め加熱した不織布を常温の板状又はロール状部材で挟み込んだりすることで行うことができる。
【0082】
作業性の観点から、不織布層を複数の不織布を用いて形成してもよい。この場合、まず穿孔部材を用いて第一の不織布を貫通するネック部を形成する。その後、別途準備した第二の不織布を、貫通ネック部が形成された第一の不織布に熱圧着させることで、不織布層を積層体として形成することができる。
熱圧着の際の温度は、使用する不織布の材質により調整すればよく特に制限されないが、例えば熱可塑性繊維の融点±10℃(熱可塑性繊維が高融点繊維及び低融点繊維の混繊である場合は、低融点繊維の融点~融点+50℃)とすることができる。
熱圧着は、不織布の積層物を加熱された板状又はロール状部材で挟み込んだり、或いは加熱炉等で予め加熱した積層物を常温の板状又はロール状部材で挟み込んだりすることで行うことができる。なお、不織布の積層は熱圧着に依らず前述の接着剤を用いて行うこともできるが、吸音特性の観点からは熱圧着が好ましい。
【0083】
その他の吸音材の製造方法としては、複数の不織布を用い、多孔層と多孔質層とを別途準備した後に両者を組み合わせる方法が挙げられる。まず、前述のような板状部材及び穿孔部材の機能を備える複合部材と、当該複合部材の突起に対応する孔を有する有孔板とを準備する。これらの複合部材及び有孔板の間に第一の不織布を挟み込み、プレスをしながら第一の不織布を構成する熱可塑性繊維を溶融硬化することで、基部及びネック部を有する多孔層を形成する。得られた多孔層を、ネック部が第二の不織布(多孔質層)と対向するようにして第二の不織布に積層したのち熱圧着することで、多孔質層上に多孔層を有する吸音材を製造することができる。積層時に多孔層が有するネック部内は、第二の不織布層を構成する熱可塑性繊維が充填されず、空洞となってよい。
熱圧着は、不織布層を複数の不織布を用いて形成する前述の方法に準じた温度及び方法により行うことができる。
【0084】
多孔層上に他の多孔質層を設ける場合、多孔層と他の多孔質層とは、吸音特性の観点から熱圧着されていることが好ましいが、前述の接着剤を用いて接着されていてもよい。
【0085】
多孔質層下に裏張層を設ける場合、多孔質層と裏張層とは、前述の接着剤を用いて接着することができる。
【0086】
製造された吸音材の表面には、輸送時等における外部からの衝撃及び塵埃抑制の観点から、保護カバー等を設けることもできる。保護カバーの材料としては、前述のプラスチック、ゴム、金属、これらの複合材料が挙げられる。保護カバー等は吸音材の両面に設けられていてもよいが、特に多孔層側に設けられていることが好ましい。
【0087】
このようにして得られる吸音材は、吸音シートとして平板の形状で使用されてもよく、立体成型品として立体の形状で使用されてもよい。上記特徴的なヘルムホルツ共鳴箱構造が形成されるこの吸音材は、薄厚であっても低い周波数帯域の騒音を吸音することができる。そのため、自動車用部材等における吸音材として好適に用いることができ、特に低周波のロードノイズの吸音が求められるフェンダーライナー又はアンダーカバーとしての用途に特に好適に用いることができる。
ここでいう低い周波数帯域とは、周波数が100~3000Hzの帯域とすることができ、上記吸音材は、500~3000Hzの、特に800~2500Hzの周波数帯域において優れた吸音特性を有する。
また、上記吸音材は、孔及びネック部の形成のさせ方により広い周波数帯域(低い~高い周波数帯域)の騒音を吸収することも可能である。ここでいう広い周波数帯域とは、周波数が500~6000Hzの帯域とすることができ、上記吸音材は、800~5000Hzの、特に1000~4000Hzの周波数帯域において優れた吸音特性を有する。
【0088】
<車両部材>
車両部材は上記の吸音材を備える。車両部材としては、例えば以下の態様が挙げられる。車両部材は自動車部材であってよい。
外装:車両用外装材の吸音部材である車両部材、車両用外装材。
外装としては、(車両用)アンダーカバー又はアンダープロテクター、ホイールハウスカバー、防音カバー、ボディパネル等が挙げられ、具体的にはエンジンアンダーカバー、フロアアンダーカバー、リアアンダーカバー、ミッションカバー、フェンダーライナー/プロテクタ又はマッドガード、ホイールハウスパネル、ドアパネル、フロアパネル等が挙げられる。
内装:車両用内装材の吸音部材である車両部材、車両用内装材。
内装としては、車両用サイレンサー、車両用防音体等が挙げられ、具体的には天井材(ルーフサイレンサー)、ダッシュサイレンサー、フロアサイレンサー、フロアカーペット、フードサイレンサー等が挙げられる。
その他:タイヤ用吸音材、タイヤ。
タイヤ用吸音材としては、車両用カバー、ケース等と上記の吸音材を組み合わせた吸音構造体が挙げられる。
タイヤとしては、タイヤと上記の吸音材(インナータイヤアブソーバー)を組み合わせたものが挙げられる。
【0089】
<本発明の概要>
[発明1]
熱可塑性繊維を含む不織布を含む多孔質層と、前記多孔質層上に前記不織布の溶融硬化物を含む多孔層と、を備え、
前記多孔層が、複数の孔を有する基部と、少なくとも一部の前記孔から多孔質層内に延在する中空状のネック部とを備え、
前記多孔質層側を対象部材に向けて配置した時に、前記孔から入射する音に共鳴するヘルムホルツ共鳴箱構造が形成される、吸音材。
[発明2]
前記多孔層の気孔率が0~80%であり、前記多孔質層の気孔率が85~99%である、ことを特徴とする発明1に記載の吸音材。
[発明3]
前記不織布が、融点の異なる二種以上の前記熱可塑性繊維を含む、発明1又は2に記載の吸音材。
[発明4]
前記熱可塑性繊維が、ポリエチレンテレフタレート繊維及びポリプロピレン繊維の少なくともいずれかを含む、発明1~3のいずれか一に記載の吸音材。
[発明5]
前記ヘルムホルツ共鳴箱構造が、共鳴周波数の異なるヘルムホルツ共鳴箱構造を含む、発明1~4のいずれか一に記載の吸音材。
[発明6]
前記多孔層が、複数の孔を有する前記基部と、一部の前記孔から多孔質層内に延在する中空状の前記ネック部とを備える、発明5に記載の吸音材。
[発明7]
前記ヘルムホルツ共鳴箱構造が、2000Hz未満の共鳴周波数を有するヘルムホルツ共鳴箱構造、及び2000Hz以上の共鳴周波数を有するヘルムホルツ共鳴箱構造を含む、発明5又は6に記載の吸音材。
[発明8]
前記ヘルムホルツ共鳴箱構造が、2000Hz未満の共鳴周波数を有するヘルムホルツ共鳴箱構造、2000~3000Hzの共鳴周波数を有するヘルムホルツ共鳴箱構造、及び3000Hz超の共鳴周波数を有するヘルムホルツ共鳴箱構造を含む、発明5~7のいずれか一に記載の吸音材。
[発明9]
隣り合う前記ヘルムホルツ共鳴箱構造が異なる共鳴周波数を有する、発明5~8のいずれか一に記載の吸音材。
[発明10]
前記多孔層と、前記多孔質層と、非通気性の材料から構成される裏張層とをこの順に備える、発明1~9のいずれか一に記載の吸音材。
[発明11]
通気性の材料から構成される他の多孔質層と、前記多孔層と、前記多孔質層とをこの順に備える、発明1~10のいずれか一に記載の吸音材。
[発明12]
前記基部の開口率が1~20%である、発明1~11のいずれか一に記載の吸音材。
[発明13]
厚さが15mm以下である、発明1~12のいずれか一に記載の吸音材。
[発明14]
発明1~13のいずれか一に記載の吸音材を備える、車両部材。
【実施例0090】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0091】
<使用材料>
不織布A:厚さ15mm、目付700g/mである、ポリエチレンテレフタレート(PET)不織布を準備した。不織布を構成するPET繊維は、高融点繊維50質量%(融点240℃、繊維径15μm)と低融点繊維(共重合PET繊維)50質量%(融点160℃、繊維径15μm)の混繊であった。
不織布B:厚さ13mmである、ポリプロピレン・ポリエステル混繊不織布を準備した。
【0092】
<吸音材の作製>
(実施例1)
不織布Aを200℃の熱板で挟み込み、厚さ5.0mmまで予備加圧した後常温まで冷却することで、厚さ5.0mmの多孔質層を得た。
予備加圧した多孔質層の片面に250℃の熱板を押し付けることでPET繊維を部分的に溶融させ、その後常温まで冷却することで、多孔質層表面に不織布の溶融硬化物の層を形成した。基部となる緻密な溶融硬化物の層の厚さは0.5mmであり、多孔質層及び溶融硬化物の層の全体の厚さは4.5mmであった。
加熱したピン(250℃、Φ3mm)を基部側から反対面へ貫通させ、Φ3mmの貫通孔を形成した。この際、孔周囲のPET繊維を部分的に溶融させ、その後常温まで冷却することで、孔壁面に不織布の溶融硬化物の層を形成した。ネック部となるこの緻密な溶融硬化物の層の厚さ、すなわち中空状の構造の内径及び外径の差は0.5mmであった。孔は正三角格子状(図4(b)参照)に12mmピッチで配置した。多孔層(基部)の開口率は5.7%であった。
別の不織布Aを上記と同様に200℃の熱板で挟み込み、厚さ5.5mmまで予備加圧した後常温まで冷却することで、厚さ5.5mmの他の多孔質層を得た。
得られた他の多孔質層を、貫通孔を形成した上記の多孔質層下に重ね合わせ、加熱炉で200℃まで加熱した。その後、圧着ロールを用いて全体を圧縮することで両者を常温で圧着し、厚さ10mmのシート状の吸音材を得た。
【0093】
(実施例2)
実施例1と同様の手順で、不織布Aを用いて、多孔質層表面に不織布の溶融硬化物の層を形成した。基部となる緻密な溶融硬化物の層の厚さは0.5mmであり、多孔質層及び溶融硬化物の層の全体の厚さは7.5mmであった。
加熱したピンでΦ2mmの貫通孔(ネック部)を形成したこと以外に、常温のポンチでΦ2mm及びΦ3mmの貫通孔(非ネック部:多孔層の孔と連通する孔)を形成した。孔は正三角格子状(図4(b)参照)に8mmピッチで配置し、同じ種類の孔同士が隣接しないように配置した。
実施例1と同様の手順で、別の不織布Aを用いて、厚さ4.5mmの他の多孔質層を得た。
以上のこと以外は、実施例1と同様にして、厚さ12mmの吸音材を得た。多孔層(基部)の開口率は8.0%であった。
【0094】
(比較例1)
不織布Bを吸音材として用いた。
【0095】
<密度、気孔率>
各例で得られた吸音材における、多孔質層と多孔層(基部及びネック部)の密度及び気孔率を測定した。結果を表1に示す。
密度は試料の重量を見かけの体積で除することにより算出した。
気孔率は三次元計測X線CT装置(株式会社島津製作所製のinspeXio SMX-225CTS)を用いた構造解析により算出した。具体的には、CTスキャン像から得られた構造から試料全体の体積に対する空隙の比率(%)を算出した。
【0096】
【表1】
【0097】
<ヘルムホルツ共鳴箱構造の確認>
図5に示す計算方法に従い、各吸音材のヘルムホルツ共鳴箱構造における共鳴周波数を算出した。結果を表2に示す。
【0098】
<吸音材の吸音率測定>
各例で得られた吸音材の垂直入射吸音率を以下に従って測定した。多孔層を備えるものについては、多孔層側から音を入射した。結果を表2に示す。表2によると、実施例の吸音材は、低い周波数帯域、或いは広い周波数帯域における吸音特性に優れていることが分かる。実施例の吸音材は、その多孔質層側を対象部材に向けて配置した時に、孔から入射する音に共鳴するヘルムホルツ共鳴箱構造が形成されると言える。
装置名:4206型インピーダンス管(ブリュエル・ケアー社)
測定方法:垂直入射吸音率(JIS A 1405-1に準拠)
測定範囲:50~3500Hz
測定サンプルサイズ:Φ29mm(高周波側測定用:測定範囲500~6500Hz)、Φ98mm(低周波側測定用:測定範囲125~1600Hz)
【0099】
【表2】
【符号の説明】
【0100】
1…多孔層、1a…基部、1b…ネック部、2…多孔質層、3…裏張層、4…他の多孔質層、10,11,12…吸音材。

図1
図2
図3
図4
図5