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特開2024-5740磁気センサ、磁気センサの製造方法および感受素子集合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005740
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】磁気センサ、磁気センサの製造方法および感受素子集合体
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/02 20060101AFI20240110BHJP
   H10N 50/00 20230101ALI20240110BHJP
   H10N 50/10 20230101ALI20240110BHJP
【FI】
G01R33/02 D
H01L43/00
H01L43/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106078
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100173598
【弁理士】
【氏名又は名称】高梨 桜子
(72)【発明者】
【氏名】坂脇 彰
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 大三
(72)【発明者】
【氏名】利根川 翔
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 恭成
【テーマコード(参考)】
2G017
5F092
【Fターム(参考)】
2G017AA02
2G017AD63
2G017AD65
2G017AD69
2G017BA03
5F092AA01
5F092AA11
5F092AA15
5F092AB01
5F092AC01
5F092AD06
5F092AD26
5F092BC06
5F092BD04
5F092BD19
5F092BE06
5F092CA02
5F092CA22
5F092EA01
5F092FA08
5F092GA05
(57)【要約】
【課題】同一の基板から形成された複数の感受部または複数の磁気センサの間の磁気特性の差を低減する。
【解決手段】磁気センサは、基板と、基板上に設けられ、長手方向と短手方向とを有し、磁気インピーダンス効果により磁界を感受する感受部とを備え、感受部は、長手方向と交差する方向に一軸磁気異方性を有する軟磁性体からなり、磁界を感受する軟磁性体層と、基板と軟磁性体層との間に積層され、軟磁性体層と比べて飽和磁化が大きい軟磁性体からなる副軟磁性体層とを有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に設けられ、長手方向と短手方向とを有し、磁気インピーダンス効果により磁界を感受する感受部とを備え、
前記感受部は、前記長手方向と交差する方向に一軸磁気異方性を有する軟磁性体からなり、磁界を感受する軟磁性体層と、
前記基板と前記軟磁性体層との間に積層され、当該軟磁性体層と比べて飽和磁化が大きい軟磁性体からなる副軟磁性体層とを有する磁気センサ。
【請求項2】
前記副軟磁性体層は、厚さが前記軟磁性体層の厚さの30%以下であることを特徴とする請求項1に記載の磁気センサ。
【請求項3】
前記副軟磁性体層は、厚さが5nm以上であることを特徴とする請求項2に記載の磁気センサ。
【請求項4】
前記短手方向に間隙を介して並び、それぞれが、前記軟磁性体層と前記副軟磁性体層とを有する複数の前記感受部を備えることを特徴とする請求項1に記載の磁気センサ。
【請求項5】
前記感受部は、前記軟磁性体層よりも導電性が高い導電体層を挟んで積層される複数の当該軟磁性体層を備え、
前記副軟磁性体層は、複数の前記軟磁性体層のうち最も前記基板側の当該軟磁性体層と当該基板との間に積層されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気センサ。
【請求項6】
前記感受部は、複数の前記軟磁性体層のうち前記導電体層上に積層される当該軟磁性体層と、当該導電体層との間に、当該軟磁性体層と比べて飽和磁化が高い軟磁性体からなる他の副軟磁性体層をさらに有することを特徴とする請求項5に記載の磁気センサ。
【請求項7】
前記感受部は、複数の前記軟磁性体層を有し、さらに、複数の当該軟磁性体層の間に、当該軟磁性体層に還流磁区が発生することを抑制する磁区抑制層を有し、
前記副軟磁性体層は、複数の前記軟磁性体層のうち最も前記基板側の当該軟磁性体層と当該基板との間に積層されていることを特徴とする請求項1に記載の磁気センサ。
【請求項8】
前記軟磁性体層は、CoとNbとZrとを含むアモルファス合金からなり、
前記副軟磁性体層は、CoとNbとZrとを含むアモルファス合金であって、前記軟磁性体層と比べてNb比率が小さいアモルファス合金からなることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の磁気センサ。
【請求項9】
前記軟磁性体層は、Coを主成分とするアモルファス合金からなり、
前記副軟磁性体層は、Coを主成分とするアモルファス合金であって、前記軟磁性体層と比べて飽和磁化が大きいアモルファス合金からなることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の磁気センサ。
【請求項10】
基板の表面に、予め定められた飽和磁化を有する軟磁性体をマグネトロンスパッタリングにより積層して、下地層を形成する工程と、
前記下地層上に、当該下地層を構成する軟磁性体と比べて飽和磁化が小さい軟磁性体をマグネトロンスパッタリングにより積層して、予め定められた方向に一軸磁気異方性を有する軟磁性体層を形成する工程と、
前記軟磁性体層の一軸磁気異方性が付与された部分に、磁界を感受する複数の感受素子を形成する工程と
を含む磁気センサの製造方法。
【請求項11】
基板と、
前記基板の表面に形成され、長手方向と短手方向とを有し磁気インピーダンス効果により磁界を感受する感受部を有する複数の感受素子とを備え、
それぞれの前記感受素子の前記感受部は、前記長手方向と交差する方向に一軸磁気異方性を有する軟磁性体からなり、磁界を感受する軟磁性体層と、前記基板と当該軟磁性体層との間に積層され、当該軟磁性体層と比べて飽和磁化が大きい軟磁性体からなる副軟磁性体層とを有する感受素子集合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサ、磁気センサの製造方法および感受素子集合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、特許文献1には、基板と、基板上に設けられ、軟磁性体で構成された磁気センサ本体とを備える磁気センサが開示されている。この磁気センサでは、マグネトロンスパッタリングにより、基板上に軟磁性体層を堆積し、磁気センサ本体を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-67869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
基板に軟磁性体層を積層して感受部を備える磁気センサを形成する場合、基板における位置の違いによって、同一の基板上に形成された複数の感受部や、同一の基板を用いて形成される複数の磁気センサの間で、磁気特性のばらつきが生じる場合がある。
本発明は、同一の基板から形成された複数の感受部または複数の磁気センサの間の磁気特性の差を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、下記(1)~(11)に係る発明が提供される。
(1)基板(基板10)と、
前記基板上に設けられ、長手方向と短手方向とを有し、磁気インピーダンス効果により磁界を感受する感受部(感受部31)とを備え、
前記感受部は、前記長手方向と交差する方向に一軸磁気異方性を有する軟磁性体からなり、磁界を感受する軟磁性体層(軟磁性体層102)と、
前記基板と前記軟磁性体層との間に積層され、当該軟磁性体層と比べて飽和磁化が大きい軟磁性体からなる副軟磁性体層(プレコート層101)とを有する磁気センサ。
(2)前記副軟磁性体層は、厚さが前記軟磁性体層の厚さの30%以下であることを特徴とする(1)に記載の磁気センサ。
(3)前記副軟磁性体層は、厚さが5nm以上であることを特徴とする(1)または(2)に記載の磁気センサ。
(4)前記短手方向に間隙を介して並び、それぞれが、前記軟磁性体層と前記副軟磁性体層とを有する複数の前記感受部を備えることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の磁気センサ。
(5)前記感受部は、前記軟磁性体層よりも導電性が高い導電体層(導電体層104)を挟んで積層される複数の当該軟磁性体層を備え、
前記副軟磁性体層は、複数の前記軟磁性体層のうち最も前記基板側の当該軟磁性体層(第1軟磁性体層102a)と当該基板との間に積層されていることを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載の磁気センサ。
(6)前記感受部は、複数の前記軟磁性体層のうち前記導電体層上に積層される当該軟磁性体層と、当該導電体層との間に、当該軟磁性体層と比べて飽和磁化が高い軟磁性体からなる他の副軟磁性体層(第2プレコート層101b)をさらに有することを特徴とする(5)に記載の磁気センサ。
(7)前記感受部は、複数の前記軟磁性体層を有し、さらに、複数の当該軟磁性体層の間に、当該軟磁性体層に還流磁区が発生することを抑制する磁区抑制層(磁区抑制層103)を有し、
前記副軟磁性体層は、複数の前記軟磁性体層のうち最も前記基板側の当該軟磁性体層と当該基板との間に積層されていることを特徴とする(1)乃至(6)に記載の磁気センサ。
(8)前記軟磁性体層は、CoとNbとZrとを含むアモルファス合金からなり、
前記副軟磁性体層は、CoとNbとZrとを含むアモルファス合金であって、前記軟磁性体層と比べてNb比率が小さいアモルファス合金からなることを特徴とする(1)乃至(7)のいずれかに記載の磁気センサ。
(9)前記軟磁性体層は、Coを主成分とするアモルファス合金からなり、
前記副軟磁性体層は、Coを主成分とするアモルファス合金であって、前記軟磁性体層と比べて飽和磁化が大きいアモルファス合金からなることを特徴とする(1)乃至(7)のいずれかに記載の磁気センサ。
【0006】
(10)基板(基板10A)の表面に、予め定められた飽和磁化を有する軟磁性体をマグネトロンスパッタリングにより積層して、下地層(プレコート層101)を形成する工程と、
前記下地層上に、当該下地層を構成する軟磁性体と比べて飽和磁化が小さい軟磁性体をマグネトロンスパッタリングにより積層して、予め定められた方向に一軸磁気異方性を有する軟磁性体層(軟磁性体層102)を形成する工程と、
前記軟磁性体層の一軸磁気異方性が付与された部分に、磁界を感受する複数の感受素子(感受素子30)を形成する工程と
を含む磁気センサの製造方法。
(11)基板(基板10A)と、
前記基板の表面に形成され、長手方向と短手方向とを有し磁気インピーダンス効果により磁界を感受する感受部(感受部31)を有する複数の感受素子(感受素子30)とを備え、
それぞれの前記感受素子の前記感受部は、前記長手方向と交差する方向に一軸磁気異方性を有する軟磁性体からなり、磁界を感受する軟磁性体層(軟磁性体層102)と、前記基板と当該軟磁性体層との間に積層され、当該軟磁性体層と比べて飽和磁化が大きい軟磁性体からなる副軟磁性体層(プレコート層101)とを有する感受素子集合体。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、同一の基板から形成された複数の感受素子間または複数の磁気センサ間の磁気特性の差を低減することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態が適用される磁気センサの一例を説明する図であり、磁気センサの平面図である。
図2】本実施形態が適用される磁気センサの一例を説明する図であり、図1におけるII-II線での断面図である。
図3】感受素子の感受部の長手方向に印加された磁界と感受素子のインピーダンスとの関係を説明する図である。
図4】(a)~(c)は、磁気センサの製造方法の一例を示す図である。
図5】(a)~(c)は、磁気センサの製造方法の一例を示す図である。
図6】円盤状の基板上に形成される複数の感受素子の配置の一例を示した図である。
図7】各層の堆積に用いるスパッタリング装置の構成の一例を示した図である。
図8】スパッタリング装置における磁気回路の構成を示す図である。
図9】(a)~(b)は、スパッタリング装置において軟磁性体層を堆積する際に、磁気回路により発生し基板の表面を通過する磁力線の状態の一例を示す図である。
図10】変形例である磁気センサの断面図である。
図11】(a)~(b)は、変形例である磁気センサの断面図である。
図12】実施例および比較例の磁気センサが有する感受素子の、切断前の基板における位置と、磁気センサのインピーダンスの最大値との関係を示した図である。
図13】実施例および比較例の磁気センサが有する感受素子の、切断前の基板における位置と、磁気センサのバイアス磁界との関係を示した図である。
図14】実施例および比較例の磁気センサが有する感受素子の、切断前の基板における位置と、磁気センサのバイアス磁界における単位磁界当たりのインピーダンスの変化量との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
(磁気センサ1の構成)
図1図2は、本実施形態が適用される磁気センサ1の一例を説明する図である。図1は、磁気センサ1の平面図であり、図2は、図1におけるII-II線での断面図である。
【0010】
図1図2に示すように、本実施形態が適用される磁気センサ1は、非磁性の基板10と、基板10上に設けられ、磁界を感受する軟磁性体層を含む感受素子30とを備えている。なお、図2に示す磁気センサ1の断面構造については、後に詳述する。
ここで、軟磁性体とは、外部磁界によって容易に磁化されるが、外部磁界を取り除くと速やかに磁化がないか又は磁化が小さい状態に戻る、いわゆる保磁力の小さい材料である。
【0011】
図1により、磁気センサ1の平面構造を説明する。磁気センサ1は、一例として、四角形の平面形状を有している。磁気センサ1の平面形状は、数mm角である。磁気センサ1の一辺の長さは、例えば1mm~10mm程度とすることができる。なお、磁気センサ1の平面形状の大きさは、他の値であってもよい。また、磁気センサ1の平面形状は、四角形以外の形状であってもよい。
【0012】
次に、基板10上に設けられた感受素子30を説明する。感受素子30は、平面形状が長手方向と短手方向とを有する短冊状である複数の感受部31を備えている。図1において、紙面の左右方向が、感受素子30の長手方向であり、紙面の上下方向が感受素子30の短手方向である。複数の感受部31は、長手方向が並列するように、短手方向に間隙を介して配置されている。そして、感受素子30は、隣接する感受部31をつづら折りに直列接続する接続部32と、電流供給のための電線が接続される端子部33とを備えている。
なお、図1に示す感受素子30は、24本の感受部31を有しているが、感受部31は24本でなくてもよい。
【0013】
本実施形態の磁気センサ1では、感受部31が、磁界又は磁界の変化を感受して磁気インピーダンス効果を生じる。つまり、磁気センサ1では、感受部31が直列接続された感受素子30のインピーダンス変化により磁界又は磁界の変化が計測される。以下では、感受素子30のインピーダンスを、磁気センサ1のインピーダンスと表記することがある。
【0014】
接続部32は、隣接する感受部31の端部間に設けられ、隣接する感受部31をつづら折りに直列接続する。
端子部33(端子部33a、33b)は、接続部32で接続されていない感受部31の2個の端部にそれぞれ設けられている。端子部33は、電流を供給する電線を接続するパッド部として機能する。端子部33は、電線を接続しうる大きさであればよい。なお、端子部33(端子部33a、33b)は、図1の紙面において、右側に設けているが、左側に設けてもよく、左右側に分けて設けてもよい。
【0015】
ここで、感受部31の長手方向の長さを長さLとする。そして、感受部31の短手方向の幅を幅Wとする。また、隣接する感受部31の間の間隔を間隔Gとする。感受部31の長さLは、例えば1mm~10mm、幅Wは、例えば10μm~150μm、間隔Gは、例えば10μm~150μmである。なお、それぞれの感受部31の大きさ(長さL、幅W、厚さ等)、感受部31の数、感受部31間の間隔G等は、感受、つまり計測したい磁界の大きさなどによって設定されればよい。
【0016】
次に、図2により、磁気センサ1の断面構造を説明する。
基板10は、非磁性体からなる基板であって、例えば、ガラス、サファイア等の酸化物基板、シリコン等の半導体基板、あるいは、アルミニウム、ステンレススティール、ニッケルリンメッキを施した金属等の金属基板等が挙げられる。なお、基板10の導電性が高い場合には、感受素子30が設けられる側の基板10の表面に、基板10と感受素子30とを電気的に絶縁する絶縁体層を設けるとよい。このような絶縁体層を構成する絶縁体としては、SiO、Al、TiO等の酸化物、又は、Si、AlN等の窒化物等が挙げられる。ここでは、基板10は、ガラスであるとして説明する。
【0017】
感受素子30は、一例として、基板10側から4層の軟磁性体層102(第1軟磁性体層102a、第2軟磁性体層102b、第3軟磁性体層102c、第4軟磁性体層102d)を備える。また、感受素子30は、基板10と第1軟磁性体層102aとの間に、軟磁性体層102を構成する軟磁性体と比べて飽和磁化Msが大きい軟磁性体からなるプレコート層101を備える。さらに、感受素子30は、第1軟磁性体層102aと第2軟磁性体層102bとの間に、第1軟磁性体層102aと第2軟磁性体層102bとに還流磁区の発生を抑制する第1磁区抑制層103aを備える。さらにまた、感受素子30は、第3軟磁性体層102cと第4軟磁性体層102dとの間に、第3軟磁性体層102cと第4軟磁性体層102dとに還流磁区の発生を抑制する第2磁区抑制層103bを備える。また、感受素子30は、第2軟磁性体層102bと第3軟磁性体層102cとの間に、感受素子30の抵抗(ここでは、電気抵抗をいう。)を低減させる導電体層104を備える。本実施形態の説明において、第1軟磁性体層102a、第2軟磁性体層102b、第3軟磁性体層102c、第4軟磁性体層102dをそれぞれ区別しない場合は、軟磁性体層102と表記する。同様に、第1磁区抑制層103a、第2磁区抑制層103bをそれぞれ区別しない場合には、磁区抑制層103と表記する。
【0018】
軟磁性体層102は、磁気インピーダンス効果を示すアモルファス合金の軟磁性体で構成される。本実施形態の軟磁性体層102は、Coを主成分とするアモルファス合金(以下では、軟磁性体層102を構成するCo合金と表記する。)の軟磁性体で構成されている。後述するように、軟磁性体層102を構成するCo合金は、プレコート層101を構成する軟磁性体と比較して、飽和磁化(以下では、飽和磁化Msと表記する。)が小さい。このような軟磁性体層102を構成するCo合金としては、Coを主成分とした合金に、高融点金属Nb、Ta、W等を添加したアモルファス合金を用いるのがよい。軟磁性体層102を構成するCo合金としてより具体的には、CoNbZr、CoFeTa、CoWZr、CoFeCrMnSiB等が挙げられる。
それぞれの軟磁性体層102(第1軟磁性体層102a、第2軟磁性体層102b、第3軟磁性体層102c、第4軟磁性体層102d)の厚さは、例えば、100nm~1μmである。それぞれの軟磁性体層102の厚さは、互いに等しくてもよいし、異なっていてもよい。
【0019】
軟磁性体層102は、長手方向と交差する方向、例えば短手方向(図1の上下方向)に一軸磁気異方性が付与されている。なお、長手方向と交差する方向とは、長手方向に対して45°を超え、且つ90°以下の角度を有すればよい。詳細については後述するが、軟磁性体層102の一軸磁気異方性は、マグネトロンスパッタリング法を用いて軟磁性体層102を堆積することにより付与される。
【0020】
プレコート層101は、副軟磁性体層または下地層の一例である。詳細については後述するが、プレコート層101は、1つの基板10A(後述する図4(a)、図6等参照)から形成される複数の磁気センサ1間、またはそれぞれの磁気センサ1の感受素子30における複数の感受素子31間の特性の差を低減するために設けられている。
プレコート層101は、軟磁性体層102を構成する軟磁性体と比較して飽和磁化Msが大きい軟磁性体で構成されている。
【0021】
ここで、一般に、プレコート層101および軟磁性体層102を構成する軟磁性体には、それぞれの磁化の向きが異なる複数の磁区が形成されている。外部磁界が大きくなると、軟磁性体において磁壁が移動し、外部磁界の向きと磁化の向きとが同じ磁区の面積が大きくなり、外部磁界の向きと磁化の向きとが逆の磁区の面積が小さくなる。外部磁界がさらに大きくなると、磁化の向きが外部磁界の向きと異なる軸において、磁化の向きが外部磁界の向きと同じ向きを向くように磁化回転が生じる。そして、ついには隣接する磁区同士の間に存在していた磁壁が消滅し、1つの磁区(単磁区)となる。
軟磁性体において、磁界によって磁壁が消失した状態を、磁化が飽和したという。そして、磁化が飽和した状態の軟磁性体の磁化を飽和磁化Msと呼ぶ。
【0022】
軟磁性体層102を構成する軟磁性体の飽和磁化Msは、例えば、200emu/cc以上1100emu/cc以下の範囲とすることができる。
また、プレコート層101を構成する軟磁性体の飽和磁化Msと、軟磁性体層102を構成する軟磁性体の飽和磁化Msとの差は、軟磁性体層102を構成する軟磁性体の種類等によっても異なるが、例えば、100emu/cc以上600emu/cc以下の範囲とすることができる。
【0023】
本実施形態のプレコート層101は、Coを主成分とするアモルファス合金であって、軟磁性体層102を構成するCo合金と比べて飽和磁化Msが大きい合金(以下では、プレコート層101を構成するCo合金と表記する。)の軟磁性体で構成されている。このようなプレコート層101を構成するCo合金としては、軟磁性体層102と同様に、Coを主成分とした合金に、高融点金属Nb、Ta、W等を添加したアモルファス合金を用いるのがよい。プレコート層101を構成するCo合金としてより具体的には、CoNbZr、CoFeTa、CoWZr、等が挙げられる。
なお、プレコート層101を構成するCo合金に含まれる金属の種類は、飽和磁化Msが上述した関係を満たしていれば、軟磁性体層102を構成するCo合金に含まれる金属の種類と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0024】
ここで、プレコート層101または軟磁性体層102を構成するCo合金の一例であるCoNbZrは、Nb比率が小さくなるに従い、飽和磁化Msが大きくなる性質を有する。
本実施形態では、プレコート層101を構成するCo合金および軟磁性体層102を構成するCo合金としてCoNbZrを用いる場合、プレコート層101を構成するCoNbZrにおけるNb比率を、軟磁性体層102を構成するCoNbZrにおけるNb比率よりも小さくする。これにより、プレコート層101を構成するCoNbZrの飽和磁化Msが、軟磁性体層102を構成するCoNbZrの飽和磁化Msと比べて大きくなる。
プレコート層101を構成するCoNbZrとしては、例えば、Nbが15at%、Zrが5at%、残部がCoであるCo80Nb15Zr(Co15Nb5Zrと表記することがある。飽和磁化Ms:790emu/cc)を用いることができる。また、軟磁性体層102を構成するCoNbZrとしては、例えば、Nbが18at%、Zrが3at%、残部がCoであるCo79Nb18Zr(Co18Nb3Zrと表記することがある。飽和磁化Ms:520emu/cc)を用いることができる。
【0025】
また、軟磁性体層102を構成するCo合金の一例として、Feが1.4at%、Crが5at%、Mnが3.6at%、Siが13.8at%、Bが9.5at%、残部がCoであるCo1.4Fe5Cr3.6Mn13.8Si9.5B(飽和磁化Ms:400emu/cc)を用いてもよい。そして、軟磁性体層102を構成するCo合金としてCo1.4Fe5Cr3.6Mn13.8Si9.5Bを用いる場合には、プレコート層101を構成するCo合金としては、Co18Nb3ZrやCo17Nb3Zr等を用いることができる。
また、軟磁性体層102を構成するCo合金の一例であるCoFeCrMnSiBでは、Fe比率が大きくなるほど、もしくは、Cr比率、Mn比率、Si比率、B比率が小さくなるほど、飽和磁化Msが大きくなる性質を有する。したがって、軟磁性体層102を構成するCo合金としてCo1.4Fe5Cr3.6Mn13.8Si9.5Bを用いる場合、プレコート層101を構成するCo合金としては、Co1.4Fe5Cr3.6Mn13.8Si9.5Bと比べて、Fe比率が大きく、もしくは、Cr比率、Mn比率、Si比率、B比率の少なくとも1つが小さいCoFeCrMnSiB合金を用いることができる。なお、プレコート層101を構成するCo合金は、Cr比率、Mn比率、Si比率、B比率のいずれかが0の(すなわち、Cr、Mn、Si、Bのいずれかを含まない)Co合金であってもよい。
【0026】
プレコート層101の厚さは、プレコート層101上に積層される軟磁性体層102である第1軟磁性体層102aの厚さの30%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。プレコート層101の厚さが第1軟磁性体層102aの厚さの30%を超える場合、第1軟磁性体層102aによる磁界または磁界の変化を感受する作用に影響を与える場合がある。この場合、磁気センサ1の感度が低下するおそれがある。
【0027】
また、プレコート層101の厚さは、5nm以上であることが好ましく、15nm以上であることがより好ましい。プレコート層101の厚さが5nm未満である場合、1つの基板10A(後述する図6参照)を用いて形成される複数の磁気センサ1間、またはそれぞれの磁気センサ1の感受素子30における複数の感受部31間の特性の差を低減するというプレコート層101による作用が不十分となる場合がある。
【0028】
磁区抑制層103は、磁区抑制層103を挟む上下の軟磁性体層102に還流磁区が発生するのを抑制する。
上述したように、軟磁性体層102には、それぞれの磁化の向きが異なる複数の磁区が形成されやすい。この場合、磁化の向きが環状を呈する還流磁区が形成される。そして、還流磁区が形成されていると、外部磁界が大きくなるに伴って磁壁が移動する際に、還流磁区を構成する磁壁が階段状に不連続に移動するバルクハウゼン効果が生じる。この磁壁の不連続な移動は、磁気センサ1におけるノイズとなり、磁気センサ1から得られる出力におけるS/Nの低下を生じるおそれがある。
磁区抑制層103は、磁区抑制層103の上下に設けられた軟磁性体層102に面積の小さな複数の磁区が形成されるのを抑制する。これにより、還流磁区が形成されることが抑制され、磁壁が不連続に移動することによるノイズの発生を抑制する。なお、磁区抑制層103は、磁区抑制層103を含まない場合に比べて、形成される磁区の数が少なく、つまり磁区の大きさが大きくなる効果が得られればよい。
【0029】
このような磁区抑制層103としては、Ru、SiO等の非磁性体や、CrTi、AlTi、CrB、CrTa、CoW等の非磁性アモルファス金属が挙げられる。このような磁区抑制層103の厚さは、例えば10nm~100nmである。
【0030】
導電体層104は、感受素子30の抵抗を低減する。つまり、導電体層104は、軟磁性体層102より導電性が高く、導電体層104を含まない場合に比べて、感受素子30の抵抗を小さくする。感受素子30による磁界又は磁界の変化は、2個の端子部33a、33b間に交流電流を流した際におけるインピーダンス(以下では、インピーダンスZと表記する。)の変化(ΔZと表記する。)により計測される。この際、交流電流の周波数が高いほど、外部磁界の変化(ここでは、ΔHと表記する。)に対するインピーダンスZの変化率ΔZ/ΔH(以下では、インピーダンス変化率ΔZ/ΔHと表記する。)が大きくなる。しかし、導電体層104を含まない状態で交流電流の周波数を高くすると、磁気センサ1とした状態における浮遊容量により、逆にインピーダンス変化率ΔZ/ΔHが小さくなってしまう。つまり、感受素子30の抵抗をR、浮遊容量をCとし、感受素子30を抵抗Rと浮遊容量Cとの並列回路とすると、磁気センサ1の緩和周波数fは、式(1)で表せる。
【0031】
【数1】
【0032】
式(1)から分かるように、浮遊容量Cが大きいと、緩和周波数fが小さくなる。よって、緩和周波数fより交流電流の周波数を高くすると、逆にインピーダンス変化率ΔZ/ΔHが低下する。そこで、導電体層103を設けて、感受素子30の抵抗Rを低減させて、緩和周波数fを高くしている。
【0033】
このような導電体層104としては、導電性が高い金属または合金を用いることが好ましく、導電性が高く且つ非磁性の金属または合金を用いることがより好ましい。このような導電体層104としては、Al、Cu、Ag、Au等の金属が挙げられる。導電体層104の厚さは、例えば、10nm~1μmである。導電体層104は、導電体層104を含まない場合に比べて、感受素子30の抵抗が低減されるものであればよい。
【0034】
なお、磁区抑制層103を挟む上下の軟磁性体層102、及び導電体層104を挟む上下の軟磁性体層102は、互いに反強磁性結合(AFC:Antiferromagnetically Coupled)している。上下の軟磁性体層102が反強磁性結合することで、反磁界が抑制され、磁気センサ1の感度が向上する。
【0035】
(感受素子30の動作)
続いて、感受素子30の動作について説明する。
図3は、感受素子30の感受部31の長手方向(図1の左右方向)に印加された磁界Hと感受素子30のインピーダンスZとの関係を説明する図である。図3において、横軸が磁界H、縦軸がインピーダンスZである。なお、インピーダンスZは、図1に示す感受素子30の端子部33a、33b間に交流電流を流して測定される。
【0036】
図3に示すように、感受素子30のインピーダンスZは、感受部31の長手方向に印加される磁界Hが大きくなるにしたがい大きくなる。そして、感受素子30のインピーダンスZは、印加する磁界Hが異方性磁界Hkより大きくなると逆に小さくなる。異方性磁界Hkより小さい範囲において、磁界Hの変化量ΔHに対してインピーダンスZの変化量ΔZが大きい部分、つまりインピーダンス変化率ΔZ/ΔHが急峻な部分(大きい)を用いると、磁界Hの微弱な変化をインピーダンスZの変化量ΔZとして取り出すことができる。図3では、インピーダンス変化率ΔZ/ΔHが大きい磁界Hの中心を磁界Hbとして示している。つまり、磁界Hbの近傍(図3で矢印で示す範囲)における磁界Hの変化量ΔHが高精度に計測できる。ここで、インピーダンスZの変化量ΔZが最も急峻な(インピーダンス変化率ΔZ/ΔHが最も大きい)部分、つまり磁界Hbにおける単位磁界当たりのインピーダンスの変化量Zmaxを、磁界HbでのインピーダンスZ(インピーダンスZbと表記する。)で割ったもの(Zmax/Zb)が感度である。感度Zmax/Zbが高いほど、磁気インピーダンス効果が大きく、磁界又は磁界の変化を計測しやすい。換言すれば、磁界Hに対するインピーダンスZの変化が急峻なほど感度Zmax/Zbが高くなる。これには、異方性磁界HkにおけるインピーダンスZの値であるインピーダンスZの最大値Max、およびバイアス磁界Hbにおける単位磁界当たりのインピーダンスの変化量Zmaxが大きいことが好ましい。
本実施形態の磁気センサ1の使用時には、感受素子30における感受部31の長手方向に磁束が透過するように、例えばコイルに電流を流すことで発生した磁界Hbを、バイアス磁界として外部から印加する。以下では、磁界Hbをバイアス磁界Hbと表記する場合がある。
【0037】
(磁気センサの製造方法)
本実施形態では、例えば円盤状の基板10A(後述する図4(a)、図6等参照)上に複数の感受素子30を形成した後、基板10Aを切断することで、それぞれが感受素子30を有する複数の磁気センサ1を得る。続いて、磁気センサ1の製造方法の一例について、具体的に説明する。なお、以下では、個々の磁気センサ1に切断する前の円盤状の基板10Aを、単に基板10Aと表記する場合がある。
図4(a)~(c)、図5(a)~(c)は、磁気センサ1の製造方法の一例を示す図である。図4(a)~(c)および図5(a)~(c)では、1つの基板10Aから製造される1個の磁気センサ1に着目している。図4(a)~(c)および図5(a)~(c)は、図2に示した磁気センサ1の断面図に対応する。なお、図4(a)~(c)および図5(a)~(c)は、磁気センサ1の製造方法の代表的な工程であって、図4(a)~(c)、図5(a)~(c)の順に進む。なお、磁気センサ1の製造方法は、他の工程を含んでもよい。
【0038】
まず、図4(a)に示すように、レジストパターン201を、円盤状の基板10Aの一方の面(以下、表面と表記する。)上に形成する。具体的には、基板10Aを洗浄した後、基板10Aの表面に、感受素子30が形成される部分を開口とするフォトレジストによるパターン(レジストパターン)201を、公知のフォトリソグラフィ法により形成する。
【0039】
図6は、円盤状の基板10A上に形成される複数の感受素子30の配置の一例を示した図である。なお、図6には、基板10Aを後述するスパッタリング装置300(後述する図7参照)に設置した場合に、スパッタリング装置300の後述する磁石331、332(図7参照)に対応する位置を、破線で示している。
【0040】
本実施形態では、図6に示す配置で基板10A上に複数の感受素子30が形成されるように、レジストパターン201を形成する。具体的には、図6に示すように、円盤状の基板10Aの半径方向に沿って並ぶ4個の感受素子30からなる列が、基板10Aの周方向に18列並ぶように、レジストパターン201を形成する。付言すると、円盤状の基板10A上に合計72個の感受素子30が並ぶように、レジストパターン201を形成する。さらに付言すると、基板10Aの半径方向がそれぞれの感受素子30の短手方向となるように、レジストパターン201を形成する。
なお、図6に示す例では、スパッタリング装置300に設けられる磁石332に近い基板10Aの中心部には、感受素子30は形成しない。言い換えると、複数の感受素子30のうち最も内周側に形成される18個の感受素子30は、円盤状の基板10Aの中心から予め定められた距離だけ離れた位置に配置されている。
【0041】
次いで、レジストパターン201を形成した基板10Aを、スパッタリング装置300に設置する。そして、スパッタリング装置300を用いて、基板10A上に、プレコート層101、軟磁性体層102、磁区抑制層103、導電体層104の各層を堆積する。
【0042】
まず、図4(b)に示すように、基板10A上に、プレコート層101を堆積する。具体的には、スパッタリング装置300において、軟磁性体で構成されたターゲット(後述するターゲット322)を用いて、基板10A上にプレコート層101を堆積する。なお、軟磁性体は、軟磁性体層102(第1軟磁性体層102a)を構成するCo合金と比較して飽和磁化Msが大きい軟磁性体であって、プレコート層101を構成するCo合金である。
本実施形態では、スパッタリング装置300を用いたマグネトロンスパッタリングにより、プレコート層101を堆積する。これにより、プレコート層101を構成するCo合金に対し、基板10Aの径方向に一軸磁気異方性が付与される。
本実施形態において、スパッタリング装置300を用いたマグネトロンスパッタリングにより、プレコート層101を堆積する工程が、「下地層を形成する工程」の一例である。
【0043】
次いで、図4(c)に示すように、基板10A上に形成されたプレコート層101上に、軟磁性体層102(第1軟磁性体層102a)を堆積する。具体的には、スパッタリング装置300において、軟磁性体で構成されたターゲット322を用いて、プレコート層101上に第1軟磁性体層102aを堆積する。付言すると、プレコート層101を構成する軟磁性体と比べて飽和磁化Msが小さい軟磁性体で構成されたターゲット322を用いて、第1軟磁性体層102aを堆積する。なお、軟磁性体は、上述した軟磁性体層102を構成するCo合金である。
本実施形態では、スパッタリング装置300を用いたマグネトロンスパッタリングにより、第1軟磁性体層102aを堆積する。これにより、第1軟磁性体層102aを構成するCo合金に対し、基板10Aの径方向に一軸磁気異方性が付与される。
本実施形態において、スパッタリング装置300を用いたマグネトロンスパッタリングにより、第1軟磁性体層102aを堆積する工程が、「軟磁性体層を形成する工程」の一例である。
【0044】
次いで、図5(a)に示すように、第1軟磁性体層102a上に、第1磁区抑制層103a、第2軟磁性体層102b、導電体層104、第3軟磁性体層102c、第2磁区抑制層103b、第4軟磁性体層102dを、スパッタリング装置300を用いて順に堆積する。
本実施形態では、第1軟磁性体層102aと同様に、スパッタリング装置300を用いたマグネトロンスパッタリングにより、第2軟磁性体層102b、第3軟磁性体層102cおよび第4軟磁性体層102dを堆積することで、第2軟磁性体層102b、第3軟磁性体層102cおよび第4軟磁性体層102dを構成するCo合金に対し、基板10Aの径方向に一軸磁気異方性が付与される。
【0045】
次いで、図5(b)に示すように、レジストパターン201を除去するとともに、レジストパターン201上のプレコート層101、軟磁性体層102(第1軟磁性体層102a、第2軟磁性体層102b、第3軟磁性体層102c、第4軟磁性体層102d)、磁区抑制層103(第1磁区抑制層103a、第2磁区抑制層103b)、および導電体層104を除去(リフトオフ)する。
これにより、基板10A上に、プレコート層101、軟磁性体層102(第1軟磁性体層102a、第2軟磁性体層102b、第3軟磁性体層102c、第4軟磁性体層102d)、磁区抑制層103(第1磁区抑制層103a、第2磁区抑制層103b)、および導電体層104により構成される複数の感受素子30が形成される。付言すると、基板10A上に複数の感受素子30が形成された感受素子集合体が得られる。また、複数の感受素子30同士の間に、基板10Aの表面が露出する。
本実施形態において、レジストパターン201およびレジストパターン201上の各層を除去して感受素子30を形成する工程が、「複数の感受素子を形成する工程」の一例である。
【0046】
次いで、図5(c)に示すように、基板10A(図5(b)参照)の上に複数の感受素子30が形成された感受素子集合体における基板10Aを分割(切断)することで、それぞれが基板10上に感受素子30を備える個々の磁気センサ1を形成する。
具体的には、得られる磁気センサ1の平面形状が四角形となるように、複数の感受素子30同士の間に露出した基板10Aを切断する。基板10Aの切断(分割)は、例えばダイシング法やレーザカッティング法等により行うことができる。
以上の工程により、1つの基板10Aから、それぞれが感受素子30を有する複数の磁気センサ1が得られる。
【0047】
本実施形態では、上述したように、プレコート層101および軟磁性体層102(第1軟磁性体層102a、第2軟磁性体層102b、第3軟磁性体層102c、第4軟磁性体層102d)に対して、マグネトロンスパッタリングにより一軸磁気異方性を付与している。マグネトロンスパッタリングでは、磁石(後述する磁石331、332)を用いて磁界を形成し、プレコート層101および軟磁性体層102の堆積と同時に、プレコート層101および軟磁性体層102の各層に一軸磁気異方性が付与される。これにより、例えば感受素子30が形成された後の、回転磁場中熱処理およびそれに引き続く静磁場中熱処理で行う一軸磁気異方性を付与する工程が不要となり、製造工程を簡易にすることができる。
なお、上述した磁気センサ1の製造方法では、レジストパターン201を用いたリフトオフ法により、基板10A上に複数の感受素子30を形成したが、他の方法を採用してもよい。例えば、基板10A上に感受素子30を構成する各層を堆積した後、エッチングにより複数の感受素子30を形成してもよい。
【0048】
ところで、1つの基板10Aを用いて複数の磁気センサ1を得る場合、マグネトロンスパッタリングにより基板10Aの表面に軟磁性体層102を直接堆積すると、基板10Aにおける磁気センサ1の位置の違いにより、得られる磁気センサ1の特性に差が生じる場合がある。また、得られたそれぞれの磁気センサ1においても、基板10Aにおける位置の違いによって、それぞれの磁気センサ1が有する複数の感受部31の特性に差が生じる場合がある。詳細については後述するが、これは、基板10Aにおける位置によって、マグネトロンスパッタリングを行う際に基板10Aの表面に発生する磁界の大きさが異なるためと推測される。
【0049】
例えば円盤状の基板10Aを用いて複数の磁気センサ1を得る場合、基板10Aの外周側に形成された感受素子30を有する磁気センサ1ほど、異方性磁界HkにおけるインピーダンスZの値であるインピーダンスZの最大値Max、バイアス磁界Hb、およびバイアス磁界Hbにおける単位磁界当たりのインピーダンスの変化量Zmaxが小さくなる傾向がある。このため、基板10Aの内周側に位置する感受素子30を有する磁気センサ1と、基板10Aの外周側に形成された感受素子30を有する磁気センサ1とで、磁界または磁界の変化を計測する感度に差が生じる場合がある。
【0050】
これに対し、本実施形態では、基板10(基板10A)と軟磁性体層102との間に、軟磁性体層102を構成する軟磁性体と比較して飽和磁化Msが高い軟磁性体からなるプレコート層101を設けている。これにより、1つの基板10Aから得られる複数の磁気センサ1、または磁気センサ1が有する複数の感受部31における特性の差を低減する。
続いて、感受素子30の各層の堆積に用いるスパッタリング装置300の構成と合わせて、本実施形態のプレコート層101による作用について、詳細に説明する。
【0051】
図7は、各層の堆積に用いるスパッタリング装置300の構成の一例を示した図である。図7に示すスパッタリング装置300は、図7のO-O線を軸とする円筒状である。
スパッタリング装置300は、マグネトロン方式のスパッタリング装置である。スパッタリング装置300は、図7に示すように、隔壁310とマグネトロンカソード320とを備える。隔壁310とマグネトロンカソード320とは、ポリテトラフルオロエチレン等の絶縁部材311を介して、密閉された空間であるチャンバ340を構成する。
スパッタリング装置300は、チャンバ340内に、基板10Aを保持する基板ホルダ350を備える。
【0052】
隔壁310は、接地(GND)されている。基板ホルダ350は、隔壁310を介して接地(GND)され、アノードとして機能する。つまり、接地された基板ホルダ350とマグネトロンカソード320との間に、直流電流を印加するDC電源360が接続されている。なお、DC電源360の代わりに、高周波電源が接続され、基板ホルダ350とマグネトロンカソード320との間に、高周波電流が印加されるようにしてもよい。
【0053】
また、図示は省略するが、スパッタリング装置300は、チャンバ340内を減圧する真空ポンプ、チャンバ340内にスパッタリングに用いるAr等のガスを供給するガス供給機構、チャンバ340内の圧力を予め定められた値に保持する圧力調整機構を備える。また、スパッタリング装置300は、マグネトロンカソード320を冷却するために、マグネトロンカソード320に冷却液を供給する冷却機構を備えてもよい。さらに、スパッタリング装置300は、基板10Aを加熱するための赤外線ランプ等の加熱機構や、逆に、基板10Aを冷却するために、基板ホルダ350に冷却液を供給する冷却機構を備えていてもよい。
【0054】
基板ホルダ350は、ステンレス鋼等で構成されている。そして、基板ホルダ350は、基板10Aの表面がマグネトロンカソード320の後述するターゲット322に対向するように、基板10Aを保持する。
【0055】
マグネトロンカソード320は、カソード筐体321、ターゲット322、ターゲット322を保持するバッキングプレート323、およびバッキングプレート323を透過して磁界をターゲット322側に生じさせる磁気回路330を備えている。
【0056】
ターゲット322は、基板10Aに形成する各層の材料である。ターゲット322は、基板10Aと同様に、円盤状である。ターゲット322の大きさ(直径)は、基板10Aの予め定められた領域(範囲)に各層が堆積されるように設定されている。ここでは、ターゲット322の直径は、基板10Aの直径より大きくしている。
バッキングプレート323は、導電率の高い無酸素銅等で構成されている。そして、バッキングプレート323の表面に、ターゲット322が導電性の接着剤等を用いて固定されている。
カソード筐体321は、ステンレス鋼等で構成されている。
マグネトロンカソード320では、カソード筐体321に、ターゲット322が取り付けられたバッキングプレート323が固定される。また、バッキングプレート323のターゲット322が設けられていない側に、磁気回路330が設けられている。
【0057】
磁気回路330は、バッキングプレート323側にN極が露出した磁石(マグネット)331と、バッキングプレート323側にS極が露出した磁石332と、磁石331、332のバッキングプレート323側とは反対側に設けられ、磁石332のN極からの磁束を磁石331のS極へ誘導するヨーク333とを備える。磁石331、332としては、一般に、永久磁石が用いられる。
ここでは、磁石331、332は、バッキングプレート323側にN極が露出した磁石331が外周側、バッキングプレート323側にS極が露出した磁石332が内周側になるように、同心円状に設けられている。
【0058】
磁気回路330では、磁石331、332が上述したように配置されることで、磁石331のN極から磁石332のS極へ向かう磁力線(図7にて矢印で示す。)が、バッキングプレート323およびターゲット322を貫いて、チャンバ340内に発生する。そして、この磁力線の一部は、基板ホルダ350に保持された基板10Aに到達し、基板10Aを、表面に平行な方向に通過する。つまり、基板10Aには、磁力線が通過する部分において、表面に平行な磁界が発生する。付言すると、基板10Aの表面には、基板10Aの半径方向に沿って、基板10Aの外周側から内周側に磁力線が通過する。この磁力線によって、基板10Aの表面には、基板10Aの半径方向に沿って、基板10Aの外周側から内周側に向かう磁界が発生する。
【0059】
そして、基板10Aの表面に発生する磁界により、基板10Aに堆積される各層(この例では、軟磁性体からなるプレコート層101および軟磁性体層102)に対し、各層の堆積に伴って一軸磁気異方性が付与される。付言すると、基板10Aに堆積される各層(プレコート層101および軟磁性体層102)に対し、基板10Aの表面に発生する磁界に沿って、基板10Aの半径方向に一軸磁気異方性が付与される。
【0060】
スパッタリング装置300では、DC電源360によって発生させた放電によって生じた電子を、ターゲット322の表面の磁力線によって、ターゲット322の近傍に集中させる(閉じ込める)。これにより、電子とガスとの衝突確率を増加させてガスの電離を促進し、膜の堆積速度(成膜速度)を向上させている。なお、磁力線によって電子を集中させたターゲット322の表面が、電離したガスのイオンの衝突で浸食(エロ-ジョン)される範囲となる。
【0061】
以上説明したように、図7に示すスパッタリング装置300は、基板10Aの一枚毎に膜を形成する枚葉式のスパッタリング装置である。
なお、図7に示すスパッタリング装置300は、基板10Aの表面およびターゲット322の表面を水平(図7における左右方向)に配置するようにしたが、これらを垂直(図7における上下方向)に配置するように構成してもよい。
【0062】
続いて、磁気回路330によって発生し基板10Aの表面を通過する磁力線と、基板10A上に堆積される軟磁性体層102(第1軟磁性体層102a)との関係について説明する。
図8は、スパッタリング装置300における磁気回路330の構成を示す図である。図8では、ターゲット322側から見た磁気回路330の構成を示している。
図9(a)~(b)は、スパッタリング装置300において軟磁性体層102(第1軟磁性体層102a)を堆積する際に、磁気回路330により発生し基板10Aの表面を通過する磁力線の状態の一例を示す図である。図9(a)~(b)は、図6に示した基板10AにおけるIX-IX線での断面図に対応する。図9(a)は、上述した本実施形態の製造方法に基づいて、基板10A上にプレコート層101を積層した後、プレコート層101上に軟磁性体層102(第1軟磁性体層102a)を積層する際の磁力線の状態を示している。また、図9(b)は、プレコート層101を積層せずに、基板10A上に直接、軟磁性体層102(第1軟磁性体層102a)を積層する際の磁力線の状態を示している。図9(a)~(b)では、磁力線を矢印で示している。
【0063】
上述したように、チャンバ340(図7参照)内には、磁気回路330(図7参照)によって、基板10Aの外周側に設けられた磁石331のN極から、基板10Aの内周側に設けられた磁石332のS極へ向かう磁力線が発生する。これにより、図8に示すように、基板10Aの表面には、基板10Aの外周側から内周側に向かう磁界が発生する。
【0064】
ここで、基板10A上にプレコート層101を積層せずに第1軟磁性体層102aを直接積層する場合、磁気回路330によって発生した磁力線は、基板10Aの内周側および外周側において、基板10Aの表面から離れた位置を通過しやすい。
具体的には、磁石331のN極から磁石332のS極へ向かう磁力線は、磁石331と磁石332との間に位置する基板10Aの半径方向における中間の領域では、図9(b)に示すように、基板10Aの表面に沿って通過する。その一方で磁石331のN極から磁石332のS極へ向かう磁力線は、磁石331に近い基板10Aの外周側および磁石332に近い基板10Aの内周側では、図9(b)に示すように、基板10Aの表面から離れた位置を通過する。これにより、基板10Aの外周側および内周側では、基板10Aの半径方向における中間の領域と比べて、基板10Aの半径方向に沿った磁界が小さくなりやすい。
【0065】
上述したように、スパッタリング装置300を用いてマグネトロンスパッタリングにより軟磁性体層102(第1軟磁性体層102a)を堆積する場合、磁気回路330によって発生する基板10Aの半径方向に沿う磁界によって、第1軟磁性体層102aに一軸磁気異方性が付与される。したがって、基板10Aに発生する磁界が小さいと、第1軟磁性体層102aに付与される一軸磁気異方性が小さくなりやすい。
【0066】
基板10Aに対して図6に示したように感受素子30を配置する場合、基板10A上にプレコート層101を積層せずに第1軟磁性体層102aを直接積層すると、基板10Aに発生する磁界が小さい外周側に向かうほど、感受素子30を構成する第1軟磁性体層102aの一軸磁気異方性が小さくなる。
この結果、基板10Aを分割して得られる複数の磁気センサ1では、基板10Aの外周側に形成された感受素子30を有する磁気センサ1ほど、異方性磁界HkにおけるインピーダンスZの値であるインピーダンスZの最大値Max、バイアス磁界Hb、およびバイアス磁界Hbにおける単位磁界当たりのインピーダンスの変化量Zmaxが小さくなりやすい。この場合、感受素子30により磁界又は磁界の変化を感受する感度が低下しやすい。
なお、図6に示した例では、上述したように、基板10Aの中心部には感受素子30を形成していない。このため、磁石332に近い基板10Aの内周側において磁界が小さくなることによる感受素子30の感度の低下は生じにくい。
【0067】
また、個々の磁気センサ1に着目すると、それぞれの感受素子30が有する複数の感受部31では、基板10Aの外周側に配置された感受部31ほど、異方性磁界HkにおけるインピーダンスZの値であるインピーダンスZの最大値Max、バイアス磁界Hb、およびバイアス磁界Hbにおける単位磁界当たりのインピーダンスの変化量Zmaxが小さくなりやすい。個々の磁気センサ1において、感受素子30を構成する複数の感受部31間で磁気特性の差が生じると、磁気センサ1全体としても、感受素子30により磁界又は磁界の変化を感受する感度が低下しやすく、好ましくない。
【0068】
これに対し、本実施形態では、基板10A上にプレコート層101を積層し、プレコート層101上に第1軟磁性体層102aを積層することで、磁気回路330によって発生した磁力線が、基板10Aの表面に沿って通過しやすくなる。
具体的には、基板10A上にプレコート層101が存在すると、図9(a)に示すように、磁石331のN極から磁石332のS極へ向かう磁力線が、プレコート層101内を通過する。そして、磁石331のN極から磁石332のS極へ向かう磁力線が、基板10Aの外周側から内周側に亘って、基板10Aの近傍を基板10Aの表面に沿って通過しやすくなる。これにより、本実施形態では、基板10A上にプレコート層101を積層しない場合と比べて、基板10Aの外周側および内周側において、基板10Aの半径方向に沿った磁界が小さくなることが抑制される。付言すると、本実施形態では、基板10A上にプレコート層101を積層しない場合と比べて、基板10Aにおける半径方向の位置の違いによる磁界の大きさの差が低減される。
【0069】
そして、基板10Aに対して図6に示したように感受素子30を配置する場合、本実施形態では、プレコート層101上に積層される第1軟磁性体層102aに付与される一軸磁気異方性が、基板10Aの外周側で低下することが抑制される。
この結果、基板10Aを分割して得られる複数の磁気センサ1において、基板10Aの外周側に形成された感受素子30を有する磁気センサ1の、異方性磁界HkにおけるインピーダンスZの値であるインピーダンスZの最大値Max、バイアス磁界Hb、およびバイアス磁界Hbにおける単位磁界当たりのインピーダンスの変化量Zmaxの低下が抑制される。これにより、基板10Aを分割して得られる複数の磁気センサ1において、基板10Aにおける感受素子30の位置の違いによる磁気特性の差が生じにくくなる。
【0070】
また、個々の磁気センサ1においても、感受素子30を構成する複数の感受部31間で磁気特性の差が生じることが抑制され、それぞれの磁気センサ1において、感受素子30により磁界又は磁界の変化を感受する感度の低下が抑制される。
【0071】
(変形例)
続いて、磁気センサ1の変形例を説明する。
図10は、磁気センサ1の変形例である磁気センサ2の断面図である。図10は、図1におけるII-II線での断面図に対応する。なお、図10の磁気センサ2では、図1図2等に示した磁気センサ1と同様の構成については、同じ符号を用い、ここでは詳細な説明は省略する。
【0072】
具体的に説明すると、磁気センサ2の感受素子30は、磁気センサ1と同様に、軟磁性体層102(第1軟磁性体層102a、第2軟磁性体層102b、第3軟磁性体層102c、第4軟磁性体層102d)、磁区抑制層103(第1磁区抑制層103a、第2磁区抑制層103b)、および導電体層104を備える。また、磁気センサ2の感受素子30は、基板10と第1軟磁性体層102aとの間に、軟磁性体層102を構成する軟磁性体と比べて飽和磁化Msが大きい軟磁性体からなる第1プレコート層101aを備える。さらに、磁気センサ2の感受素子30は、導電体層104と第3軟磁性体層102cとの間に、軟磁性体層102を構成する軟磁性体と比べて飽和磁化Msが大きい軟磁性体からなる第2プレコート層101bを備える。以下では、第1プレコート層101aと第2プレコート層101bとを区別しない場合には、プレコート層101と表記する。
磁気センサ2は、基板10と第1軟磁性体層102aとの間に加えて、導電体層104と第3軟磁性体層102cとの間にもプレコート層101を備える点で、図1の磁気センサ1と異なっている。
【0073】
磁気センサ2では、導電体層104上に第2プレコート層101bを形成することで、磁気センサ2の製造工程において、第2プレコート層101b上に第3軟磁性体層102cを積層する際に、磁石331のN極から磁石332のS極へ向かう磁力線が、第2プレコート層101b内を通過する。これにより、第2プレコート層101b上に積層される第3軟磁性体層102cに付与される一軸磁気異方性に、基板10A(図6等参照)の位置の違いにより差が生じることが抑制される。そして、第2プレコート層101bを形成しない場合と比べて、基板10Aを分割して得られる複数の磁気センサ1において、基板10Aにおける感受素子30の位置の違いによる磁気特性の差がより生じにくくなる。
【0074】
上述した形態と同様に、第1プレコート層101aの厚さは、第1プレコート層101a上に積層される第1軟磁性体層102aの厚さの30%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。また、第2プレコート層101bの厚さは、第2プレコート層101b上に積層される第3軟磁性体層102cの厚さの30%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。
付言すると、感受素子30が複数のプレコート層101を備える場合、それぞれのプレコート層101の厚さは、そのプレコート層101上に積層される軟磁性体層102の厚さの30%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。それぞれのプレコート層101の厚さが、そのプレコート層101上に積層される軟磁性体層102の厚さの30%を超える場合には、軟磁性体層102による磁界または磁界の変化を感受する作用に影響を与える場合がある。この場合、磁気センサ1の感度が低下するおそれがある。
【0075】
また、第1プレコート層101aおよび第2プレコート層101bの厚さは、それぞれ、5nm以上であることが好ましく、15nm以上であることがより好ましい。
付言すると、感受素子30が複数のプレコート層101を備える場合、それぞれのプレコート層101の厚さは、5nm以上であることが好ましく、15nm以上であることがより好ましい。それぞれのプレコート層101の厚さが5nm未満である場合、1つの基板10Aを用いて形成される複数の磁気センサ1間、またはそれぞれの磁気センサ1の感受素子30における複数の感受部31間の特性の差を低減するというプレコート層101による作用が不十分となる場合がある。
【0076】
図11(a)~(b)は、磁気センサ1の変形例である磁気センサ3、4の断面図である。図11(a)~(b)は、図1におけるII-II線での断面図に対応する。なお、図11(a)~(b)の磁気センサ3、4では、図1等に示した磁気センサ1と同様の構成については、同じ符号を用い、ここでは詳細な説明は省略する。
【0077】
感受素子30は、図11(a)の磁気センサ3に示すように、プレコート層101と、プレコート層101層上に積層された1層の軟磁性体層102で構成されていてもよい。
また、感受素子30は、図11(b)の磁気センサ4に示すように、プレコート層101と、プレコート層101上に積層された、導電体層104を挟んだ二層の軟磁性体層102とで構成されていてもよい。
また、図示は省略するが、感受素子30は、プレコート層101と、プレコート層101上に積層された、磁区抑制層103を挟んだ二層の軟磁性体層102とで構成されていてもよい。
さらにまた、図示は省略するが、感受素子30は、プレコート層101と、プレコート層101上に積層された、3層以上の軟磁性体層102とを備えていてもよい。
【0078】
また、感受素子30は、図2図10等に示した磁区抑制層103の代わりに、上下の軟磁性体層102を反強磁性結合させる反強磁性結合層を用いてもよい。上述したように、磁区抑制層103は、還流磁区の発生を抑制するとともに、上下の軟磁性体層102を反強磁性結合させる。反強磁性結合層とは、還流磁区の発生を抑制する機能を有さないか、又は、還流磁区の発生を抑制する機能が弱い層である。反強磁性結合層を有することで、上下の軟磁性体層102が反強磁性結合して反磁界が抑制され、磁気センサ1(磁気センサ2)の感度Zmax/Zbが向上する。このような反強磁性結合層としては、Ru又はRu合金が挙げられる。
さらにまた、感受素子30は、磁区抑制層103、導電体層104及び反強磁性結合層をそれぞれ複数有していてもよい。
【0079】
さらに、磁気センサ1~4において、基板10と感受素子30との間に、感受素子30にバイアス磁界Hbを印加する硬磁性体層で構成された磁石(以下では、薄膜磁石と表記する。)を設けてもよい。薄膜磁石は、磁極N、Sが感受素子30における感受部31の長手方向に磁束が透過するように設ければよい。また、基板10と感受素子30との間に薄膜磁石を設ける場合には、薄膜磁石と感受素子30とを電気的に絶縁する絶縁体層を薄膜磁石上に設けるよい。このような絶縁体層を構成する絶縁体としては、SiO、Al、TiO等の酸化物、又は、Si、AlN等の窒化物等が挙げられる。なお、基板10と感受素子30との間に薄膜磁石および絶縁体層を設けた場合であっても、基板10、薄膜磁石および絶縁体層をまとめて基板とする。
【0080】
また、上述した実施形態では、複数の磁気センサ1の形成に用いる基板10Aとして円盤状の基板10Aを用いる場合を例示したが、基板10Aの形状は円盤状に限られない。例えば円盤状以外の基板10Aを用いる場合であっても、基板10A上に直接、軟磁性体層102を積層すると、基板10Aと磁気回路330との関係によっては、基板10Aでの位置の違いにより軟磁性体層102に付与される一軸磁気異方性に差が生じ、形成される感受素子30の磁気特性に差が生じる場合がある。これに対し、上述したように、基板10A上にプレコート層101を積層した後、プレコート層101上に軟磁性体層102を積層することで、基板10Aの形状によらず、基板10Aにおける位置の違いによる感受素子30の磁気特性の差が生じにくくなる。
【実施例0081】
続いて、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例)
直径95mm、厚さ0.5mmのガラスからなる円盤状の基板10Aを洗浄した後、基板10Aの一方の面(以下、表面と表記する。)に、フォトリソグラフィ法により、感受素子30が形成される部分を開口とするレジストパターン201を形成した。基板10Aに形成する感受素子30の配置は、図6に示したのと同様の配置とした。付言すると、図6に示したように、基板10Aの半径方向が、基板10Aに形成するそれぞれの感受素子30における感受部31の短手方向となるように、レジストパターン201を形成した。さらに付言すると、それぞれの感受素子30が、長手方向の長さが3mm、短手方向の長さ(幅)が120μmの感受部31を24個有するように、レジストパターン201を形成した。
【0082】
なお、基板10Aの中心から、基板10A上の最も内周側に位置する感受素子30までの距離(基板10Aの半径方向に沿った距離、以下同様。)は、22mmとした。また、基板10Aの中心から、基板10Aの内周側から2番目に位置する感受素子30までの距離は、27mmとした。さらに、基板10Aの中心から、基板10Aの内周側から3番目に位置する感受素子30までの距離は、33mmとした。さらにまた、基板10Aの中心から、基板10Aの最も外周側に位置する感受素子30までの距離は、38mmとした。ここで、基板10Aの中心から感受素子30までの距離とは、基板10Aの中心と感受素子30のうち最も内周側に位置する感受部31との距離である。
【0083】
続いて、表面にレジストパターン201を形成した基板10Aを、スパッタリング装置300の基板ホルダ350に、基板10Aの表面がターゲット322に対向するように設置した。そして、スパッタリング装置300のチャンバ340内の圧力を、1×10―5Pa以下になるまで減圧した。次に、マスフローコントローラを用いて、チャンバ340内にスパッタガスとしてArを流し、チャンバ340内の圧力が0.6Paとなるように調整した。
【0084】
続いて、軟磁性材料としてNbが15at%、Zrが5at%、残部がCoであるCo15Nb5Zrからなるターゲット322を用い、基板10Aの表面に、厚さ50nmのプレコート層101を、マグネトロンスパッタリングにより堆積した。なお、スパッタリング装置300によるスパッタリングは、DC電源360により1000Wの電力を供給して行った。
【0085】
続いて、ターゲット322を、Nbが18at%、Zrが3at%、残部がCoであるCo18Nb3Zrに変更し、プレコート層101の上に、厚さ375nmの第1軟磁性体層102aを、マグネトロンスパッタリングにより堆積した。
続いて、ターゲット322を、Crが50at%、Tiが50at%である50Cr50Tiに変更し、第1軟磁性体層102a上に、厚さ25nmの第1磁区抑制層103aを、スパッタリング法により堆積した。
【0086】
以降、ターゲット322を、Co18Nb3Zr、Ag、Co18Nb3Zr、50Cr50Ti、Co18Nb3Zrに順次変更し、第1磁区抑制層103a上に、厚さ375nmの第2軟磁性体層102b、厚さ400nmの導電体層104、厚さ375nmの第3軟磁性体層102c、厚さ25nmの第2磁区抑制層103b、厚さ375nmの第4軟磁性体層102dを、順次、マグネトロンスパッタリングにより堆積した。
【0087】
続いて、スパッタリング装置300から取り出した基板10Aを、N,Nジメチルピロリドン(NMP)に浸漬し、レジストパターン201、およびレジストパターン201上に堆積されたプレコート層101、軟磁性体層102、磁区抑制層103および導電体層104を除去(リフトオフ)した。
これにより、基板10A上に、プレコート層101、第1軟磁性体層102a、第1磁区抑制層103a、第2軟磁性体層102b、導電体層104、第3軟磁性体層102c、第2磁区抑制層103b、第4軟磁性体層102dが順に積層された72個の感受素子30を形成した。
【0088】
続いて、ダイヤモンドの刃を有する切断装置(ダイシングマシン)に、感受素子30が形成された基板10A(感受素子集合体)を設置した。そして、感受素子30同士の間に露出する基板10Aを切断し、それぞれが基板10上に感受素子30を有する72個の磁気センサ1を得た。得られたそれぞれの磁気センサ1の平面形状は、およそ4mm×5mmの四角形状であった。
実施例で得られたそれぞれの磁気センサ1において、プレコート層101の厚さ(50nm)は、プレコート層101上に積層される第1軟磁性体層102aの厚さ(375nm)の約13.3%である。
【0089】
(比較例)
Co15Nb5Zrからなるプレコート層101を形成せずに、基板10Aの表面に直接、Co18Nb3Zrからなる第1軟磁性体層102aを堆積した以外は実施例と同様にして、72個の磁気センサ1を得た。
【0090】
(評価)
実施例で得られた72個の磁気センサ1について、感受素子30における感受部31の長手方向に印加される磁界と感受素子30のインピーダンスとの関係を計測した。具体的には、それぞれの磁気センサ1における感受素子30の2個の端子部33(端子部33a、33b)間に交流電流を流し、横軸が磁界H、縦軸がインピーダンスZとなる曲線を得た。そして、それぞれの磁気センサ1について得られた曲線から、異方性磁界HkにおけるインピーダンスZの値であるインピーダンスZの最大値Max、バイアス磁界Hb、およびバイアス磁界Hbにおける単位磁界当たりのインピーダンスの変化量Zmaxを得た。
【0091】
比較例で得られた72個の磁気センサ1についても同様にして、異方性磁界HkにおけるインピーダンスZの値であるインピーダンスZの最大値Max、バイアス磁界Hb、およびバイアス磁界Hbにおける単位磁界当たりのインピーダンスの変化量Zmaxを得た。
【0092】
図12は、実施例および比較例の磁気センサ1が有する感受素子30の、切断前の基板10Aにおける位置と、磁気センサ1のインピーダンスZの最大値Maxとの関係を示した図である。
図13は、実施例および比較例の磁気センサ1が有する感受素子30の、切断前の基板10Aにおける位置と、磁気センサ1のバイアス磁界Hbとの関係を示した図である。
図14は、実施例および比較例の磁気センサ1が有する感受素子30の、切断前の基板10Aにおける位置と、磁気センサ1のバイアス磁界Hbにおける単位磁界当たりのインピーダンスZの変化量Zmaxとの関係を示した図である。
【0093】
ここで、実施例および比較例のそれぞれで得られた72個の磁気センサ1のうち、基板10Aの最も内周側に形成された感受素子30(基板10Aの中心から22mmの位置に形成された感受素子30)を有する18個の磁気センサ1を第1の群とした。同様に、基板10Aの内周側から2番目の位置に形成された感受素子30(基板10Aの中心から27mmの位置に形成された感受素子30)を有する18個の磁気センサ1を第2の群とした。また、基板10Aの内周側から3番目の位置に形成された感受素子30(基板10Aの中心から33mmの位置に形成された感受素子30)を有する18個の磁気センサ1を第3の群とした。さらに、基板10Aの最も外周側に形成された感受素子30(基板10Aの中心から38mmの位置に形成された感受素子30)を有する18個の磁気センサ1を第4の群とした。
このように、実施例で得られた72個の磁気センサ1を、それぞれが有する感受素子30の基板10Aでの位置の違いにより、4つの群(第1の群~第4の群)に分けた。
【0094】
図12では、実施例および比較例で得られた磁気センサ1のうち、第1の群~第4の群のそれぞれに属する18個の磁気センサ1のインピーダンスZの最大値Maxの平均値を、それぞれ(1)~(4)に示している。なお、図12では、第1の群に属する磁気センサ1のインピーダンスZの最大値Maxを基準値(0%)とし、第2の群~第4の群に属する磁気センサ1のインピーダンスZの最大値Maxを、第1の群の値に対する差分(%)として示している。
【0095】
同様に、図13では、実施例および比較例で得られた磁気センサ1のうち、第1の群~第4の群のそれぞれに属する18個の磁気センサ1のバイアス磁界Hbの平均値を、それぞれ(1)~(4)に示している。なお、図13では、第1の群に属する磁気センサ1のバイアス磁界Hbを基準値(0%)とし、第2の群~第4の群に属する磁気センサ1のバイアス磁界Hbを、第1の群の値に対する差分(%)として示している。
さらに、図14では、実施例および比較例で得られた磁気センサ1のうち、第1の群~第4の群のそれぞれに属する18個の磁気センサ1のバイアス磁界Hbにおける単位磁界当たりのインピーダンスZの変化量Zmaxの平均値を、それぞれ(1)~(4)に示している。なお、図14では、第1の群に属する磁気センサ1のバイアス磁界Hbにおける単位磁界当たりのインピーダンスZの変化量Zmaxを基準値(0%)とし、第2の群~第4の群に属する磁気センサ1のバイアス磁界Hbにおける単位磁界当たりのインピーダンスZの変化量Zmaxを、第1の群の値に対する差分(%)として示している。
【0096】
図12に示すように、基板10(基板10A)上にプレコート層101を形成した実施例の磁気センサ1では、プレコート層101を形成していない比較例の磁気センサ1と比較して、基板10Aの外周側に形成された感受素子30を有する磁気センサ1のインピーダンスZの最大値Maxの低下が抑制されることが確認された。付言すると、実施例の磁気センサ1では、比較例の磁気センサ1と比較して、基板10Aの内周側に形成された感受素子30を有する磁気センサ1と、基板10Aの外周側に形成された感受素子30を有する磁気センサ1とのインピーダンスZの最大値Maxの差が小さくなることが確認された。
【0097】
また、図13に示すように、実施例の磁気センサ1では、比較例の磁気センサ1と比較して、基板10Aの外周側に形成された感受素子30を有する磁気センサ1のバイアス磁界Hbの低下が抑制されることが確認された。付言すると、実施例の磁気センサ1では、比較例の磁気センサ1と比較して、基板10Aの内周側に形成された感受素子30を有する磁気センサ1と、基板10Aの外周側に形成された感受素子30を有する磁気センサ1とのバイアス磁界Hbの差が小さくなることが確認された。
【0098】
さらに、図14に示すように、実施例の磁気センサ1では、比較例の磁気センサ1と比較して、基板10Aの外周側に形成された感受素子30を有する磁気センサ1のバイアス磁界Hbにおける単位磁界当たりのインピーダンスZの変化量Zmaxの低下が抑制されることが確認された。付言すると、実施例の磁気センサ1では、比較例の磁気センサ1と比較して、基板10Aの内周側に形成された感受素子30を有する磁気センサ1と、基板10Aの外周側に形成された感受素子30を有する磁気センサ1とのバイアス磁界Hbにおける単位磁界当たりのインピーダンスZの変化量Zmaxの差が小さくなることが確認された。
【0099】
以上のように、基板10(基板10A)上にプレコート層101を形成した実施例の磁気センサ1では、プレコート層101を形成していない比較例の磁気センサ1と比較して、同一の基板10Aから形成された複数の磁気センサ1間の磁気特性の差が低減されることが確認された。
【0100】
以上、本発明の実施形態および実施例について説明したが、本発明は本実施形態および実施例に限定されるものではない。本発明の趣旨に反しない限りにおいては様々な変形や組み合わせを行っても構わない。
【符号の説明】
【0101】
1…磁気センサ、10、10A…基板、30…感受素子、31…感受部、32…接続部、33、33a、33b…端子部、101…プレコート層、102…軟磁性体層、103…磁区抑制層、104…導電体層、300…スパッタリング装置、320…マグネトロンカソード、322…ターゲット、330…磁気回路、331、332…磁石、360…DC電源、H…磁界、Hb…バイアス磁界、Hk…異方性磁界、Z…インピーダンス
図1
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