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特開2024-57485放射線遮蔽治具、その製造方法及びその使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057485
(43)【公開日】2024-04-24
(54)【発明の名称】放射線遮蔽治具、その製造方法及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20240417BHJP
【FI】
A61N5/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164259
(22)【出願日】2022-10-12
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】593069521
【氏名又は名称】株式会社大興製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100096080
【弁理士】
【氏名又は名称】井内 龍二
(74)【代理人】
【識別番号】100194098
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 一
(72)【発明者】
【氏名】熊田 博明
(72)【発明者】
【氏名】北村 直之
(72)【発明者】
【氏名】中村 哲之
(72)【発明者】
【氏名】池田 毅
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AC07
4C082AE01
4C082AG32
4C082AR02
(57)【要約】
【課題】
放射線治療装置のビーム照射口と、出射される照射ビームの照射対象である患者患部との間から照射ビームが漏洩するのを防止すること。
【解決手段】
樹脂製の布からなり、放射線の通路部分を備えた中空立体形状の風袋11に、放射線遮蔽性能を備えた所定粒径を有する焼結体粒子と、所定粒径を有する樹脂製粒子との混合粒子からなる遮蔽材粒子18が、充填されてなる放射線遮蔽治具とする。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製の布からなり、放射線の通路部分を備えた中空立体形状の風袋に、
放射線遮蔽性能を備えた所定粒径を有する焼結体粒子と、所定粒径を有する樹脂製粒子との混合粒子からなる遮蔽材粒子が、充填されてなることを特徴とする放射線遮蔽治具。
【請求項2】
ガス吸引ポンプに接続可能な封止弁付き通気管が少なくとも一つ前記風袋に接続されていることを特徴とする請求項1記載の放射線遮蔽治具。
【請求項3】
前記風袋の内部空間を、輪切り状に分割する、通気孔を備えた隔壁を少なくとも一つ備えていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の放射線遮蔽治具。
【請求項4】
前記風袋の内部空間を、層状に分割する、通気孔を備えた隔壁を少なくとも一つ備えていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の放射線遮蔽治具。
【請求項5】
前記風袋の内部空間を、層状に分割する、通気孔を備えた隔壁を少なくとも一つ備えていることを特徴とする請求項3記載の放射線遮蔽治具。
【請求項6】
前記風袋及び前記樹脂製粒子が、ポリエチレン、ポリスチレン、及びポリプロピレンの内から選ばれた樹脂製であることを特徴とする請求項1記載の放射線遮蔽治具。
【請求項7】
前記隔壁が、ポリエチレン、ポリスチレン、及びポリプロピレンの内から選ばれた樹脂製の布から成ることを特徴とする請求項5記載の放射線遮蔽治具。
【請求項8】
前記焼結体粒子と、前記樹脂製粒子の粒径が、0.5mm~7mmの範囲で設定されていることを特徴とする請求項1記載の放射線遮蔽治具。
【請求項9】
前記焼結体粒子が、相対密度が70~90%の焼結体を破砕及び摩砕、篩分けして採取されたものであることを特徴とする請求項1記載の放射線遮蔽治具。
【請求項10】
前記焼結体粒子が、LiF焼結体から採取されたものであることを特徴とする請求項9記載の放射線遮蔽治具。
【請求項11】
前記焼結体粒子が、LiFに、B、B(OH)、BF、LiB又はLiからホウ素化合物として選ばれ、ホウ素同位体10Bとして0.1~5wt.%が添加されてなるLiFとホウ素化合物との混合系焼結体から採取されたものであることを特徴とする請求項9記載の放射線遮蔽治具。
【請求項12】
前記焼結体粒子が、LiFを99wt.%~5wt.%の範囲で含み、MgF、CaF、AlF、KF、NaF及び、又はYFの内から選ばれた1種以上のフッ化物を1wt.%~95wt.%の範囲で含むLiFを主相とする多元系フッ化物焼結体から採取されたものであることを特徴とする請求項9記載の放射線遮蔽治具。
【請求項13】
前記焼結体粒子が、LiFを主相とする多元系フッ化物に、B、B(OH)、BF、LiB又はLiからホウ素化合物として選ばれ、ホウ素同位体10Bとして0.1~5wt.%が添加されてなる多元系フッ化物とホウ素化合物との混合系焼結体から採取されたものであることを特徴とする請求項9記載の放射線遮蔽治具。
【請求項14】
前記焼結体粒子が、LiFを主相とする多元系フッ化物に、Gd、Gd(OH)又はGdFからガドリニウム化合物として選ばれ、ガドリニウム同位体157Gdとして0.1~2wt.%が添加されてなる多元系フッ化物とガドリニウム化合物との混合系焼結体から採取されたものであることを特徴とする請求項9記載の放射線遮蔽治具。
【請求項15】
前記焼結体粒子が、LiFを主相とする多元系フッ化物に、B、B(OH)、BF、LiB又はLiからホウ素化合物として選ばれ、ホウ素同位体10Bとして0.1~5wt.%が添加され、さらに、Gd、Gd(OH)又はGdFからガドリニウム化合物として選ばれ、ガドリニウム同位体157Gdとして0.1~2wt.%が添加されてなる多元系フッ化物とホウ素化合物とガドリニウム化合物との混合系焼結体から採取されたものであることを特徴とする請求項9記載の放射線遮蔽治具。
【請求項16】
前記焼結体粒子が、前記焼結体を粉砕、摩砕、篩分けして形成された粒子の内、採取されなかった粒子を微粉砕し、再度原料粉末に混合させ、再焼結させて形成されたものであることを特徴とする請求項9記載の放射線遮蔽治具。
【請求項17】
前記遮蔽材粒子における前記焼結体粒子と前記樹脂製粒子との混合割合が、10wt.%~90wt.%の間で設定され、前記遮蔽材粒子が、その安息角が8度から45度までの流動性を有するものであることを特徴とする請求項1記載の放射線遮蔽治具。
【請求項18】
層状に分割された前記風袋のビーム流れ上流側部分には、前記焼結体粒子が10wt.%以上50wt.%未満、前記樹脂製粒子が50wt.%以上90wt.%未満の割合で充填され、他方、前記風袋のビーム流れ下流側部分には、前記焼結体粒子が50wt.%以上90wt.%未満、前記樹脂製粒子が10wt.%以上50wt.%未満の割合で充填されていることを特徴とする請求項4記載の放射線遮蔽治具。
【請求項19】
焼結体を、破砕機を用いて破砕及び摩砕機を用いて摩砕し、所定粒径の焼結体粒子を篩分け採取する工程、
採取した前記焼結体粒子と所定粒径の樹脂製粒子とを所定の割合で混合する工程、
混合した前記焼結体粒子と前記樹脂性粒子とを、前記風袋内に充填する工程、
を含んでいることを特徴とする請求項1記載の放射線遮蔽治具の製造方法。
【請求項20】
治療に際し、患者患部を治療体位で前記風袋に隙間なく密接させ、
その後、放射線治療を開始することを特徴とする請求項1記載の放射線遮蔽治具の使用方法。
【請求項21】
治療に際し、まず、前記ガス吸引ポンプが接続された前記通気管の封止弁を開とし、その他の封止弁を閉とし、前記ガス吸引ポンプを作動させながら患者患部を治療体位で前記風袋に隙間なく密接させ、
この密接させた状態で前記ガス吸引ポンプが接続された前記通気管の封止弁を閉として前記風袋の外観形状を固定し、
その後、放射線治療を開始することを特徴とする請求項2記載の放射線遮蔽治具の使用方法。
【請求項22】
放射線治療を開始する前に、まず、前記ガス吸引ポンプが接続された前記通気管の封止弁を開とし、その他の封止弁を閉とし、前記ガス吸引ポンプを作動させながら患者患部を治療時と同じ体位で前記風袋に隙間なく密接させ、
この密接させた状態で前記ガス吸引ポンプが接続された前記通気管の封止弁を閉として前記風袋の外観形状を固定し、
その後、固定した前記風袋の外観形状を計測し、
その後、計測された外観形状データに基づいて照射ビームの治療中の挙動に関するシミュレーション計算を実施し、
このシミュレーション計算結果に基づいて治療計画を作成し、
該治療計画に沿って放射線治療を実施することを特徴とする請求項2記載の放射線遮蔽治具の使用方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線遮蔽治具、その製造方法及びその使用方法に関し、より詳細には、中性子を含む放射線を用いた放射線治療において、患者患部の位置決め精度を向上させ、且つ、放射線照射口と患者患部との隙間から漏洩する放射線量を低減し、更には、患部以外の健全部位に照射される放射線量を低減または除去し、人体及び、又はこの治療装置の周辺機器類の被ばくを低減させることができる放射線遮蔽治具、その製造方法及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線医療分野において特定の元素の放射線遮蔽効果を利用する新たな用途の開発が進みつつある。
代表的な放射線の一つである中性子は電荷を持たず、原子核と衝突したときに吸収され易い。このような中性子を吸収することを“中性子捕獲”または“中性子捕捉”と言い、この性質を利用した医療分野への応用例が“ホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy:以下、BNCTと記す)”である。近年、わが国を始めとする主要国で積極的にその治療法の開発や実用化が進められている最先端の難治性がん用の治療法である。
【0003】
このBNCTでは、まず、注射や点滴によって体内に注入されたホウ素同位体10Bを含むホウ素薬剤と悪性がんなどの腫瘍細胞とを反応させ、この腫瘍部分にホウ素化合物の反応生成物を形成しておく。
この反応生成物に、人体の健全部に影響の少ないエネルギーレベルの中性子(主として熱外中性子など、中程度のエネルギーレベルの中性子で構成されたものであることが望ましい)を、面形状で照射し、“事前に、腫瘍部分に高濃度に偏析させておいたホウ素化合物”との間で、細胞1個分に相当するごく微小な範囲内だけに核反応を生じさせ、腫瘍細胞だけを死滅させる。
【0004】
元来、がん細胞は、盛んに増殖する過程でホウ素をその腫瘍細胞内に取り込みやすく、BNCTでは、この性質を利用して効果的に腫瘍部分だけを破壊する方法で治療を行う。健全部に影響の少ないエネルギーレベルの中性子を主体とする照射ビームを、面形状で腫瘍部分を包含する大きさで照射する。これによって、従来の放射線治療でのピンポイント照射と比べて、照射時間を飛躍的に短縮することができ、しかも、未照射部分(照射漏れ)を無くすことができる。
【0005】
中性子は、100MeVを超える高エネルギーから0.002eV未満の低エネルギーまでの広範囲のエネルギーレベルを有し、高エネルギー側から順に“高速中性子”、“熱外中性子”、“熱中性子”などと称されている。この中でBNCTに望ましいものは“熱外中性子(そのエネルギーレベルは0.025eV~10keV)”であるが、すべてを熱外中性子に制御することは困難であり、照射ビームはエネルギーレベル10keV以上の高速中性子やエネルギーレベル0.025eV未満の熱中性子が混入したものとなる。
【0006】
照射ビーム中に混入した高速中性子の身体への影響は、高速中性子の有する高エネルギーで細胞内のDNAを傷つけるとともに、身体の主な構成成分である体液(主成分は水分(H2O)と窒素(N))によって急速に吸収・減速されて徐々に熱外中性子に変化する。さらに、熱中性子以下の低エネルギー中性子に変わるが、そのエネルギーの吸収過程でγ線などの高エネルギーの二次放射線を発生し、高速中性子とともに健全な細胞を傷つけることになり、主として遅延性の副作用、すなわち、晩期有害事象を生じさせることとなる。
【0007】
一方で、この吸収・減速過程で発生した熱中性子が患部に投与されたホウ素化合物中の10Bと反応してがん細胞を破壊する、所謂、中性子捕捉反応を生じせしめる。その際、前記高エネルギーの二次放射線が活発に発生した場合には、内部側、すなわち、ビーム流れの下流側の健全組織に副作用を生じさせることとなる。他方、照射された熱中性子は、外皮部において外皮組織と直ぐに反応して皮膚の炎症や脱毛などの早期有害事象を生じさせることとなる。
【0008】
また、中性子などの放射線は物質面で乱反射しやすいため、照射ビームを集束させ、設定どおりの範囲に照射することは容易ではなく、設定以外の領域も照射してしまうこととなる。更には、BNCT法の治療対象の病種は多種類で、照射対象の身体部位は多岐にわたり、その上、身体形状の個人差も加わり、患者患部とその照射口との間の隙間を無くすことは容易ではない。
その結果、患者患部と照射口との隙間などから照射ビームの一部が装置系外に漏れ出ることとなる。照射ビームは大きな線量であるため、例えその一部であったとしても漏洩する放射線量は多大となり、種々の問題を生じさせることとなる。
【0009】
前述のとおり、照射ビームは治療効果の高い熱外中性子のほかに高エネルギーの高速中性子と低エネルギーの熱中性子などが混入した広範囲のエネルギーレベルの中性子と二次放射線とから成り、更に、上記のような状況を加味した対策を講ずることが求められている。
【0010】
まず、混入した高速中性子対策としては、高速中性子などの高エネルギーレベルの中性子に大きな反応断面積を有する水素(H)基、窒素(N)基、炭素(C)基などを高濃度に含有する物質で、そのエネルギーを吸収することが望まれる。
その候補となる物質は、例えば、水分、水酸基、炭化水素(C-H)基などであるが、このBNCT法を用途にする場合、水分などの液体、気体は取扱いが容易でないため適用は困難である。従って、常温で固体の水酸基、炭化水素(C-H)基などを用いた高速中性子対策とすべきである。
【0011】
一方、熱中性子対策としては、熱中性子に大きな反応断面積を有するリチウム(Li)の放射性同位体6Li、ホウ素(B)の同10B、カドミウム(Cd)の同113Cd、ガドリニウム(Gd)の同157Gdなどの物質が検討対象となる。
ここで、熱中性子の吸収過程で二次放射線としてγ線発生の有無を考慮しておくことが必要であり、6Liの場合、γ線は発生しないが、10Bの場合、γ線はわずかではあるが発生し、113Cdと157Gdの場合、γ線は相当量が発生する。そのため、6Liは問題なく使用できるが、10B以降の物質についてはγ線発生対策を要することとなる。
【0012】
また、熱中性子対策を考える上で考慮すべきは、照射ビームに元々混入していたものに加えて、ビームとして、例えば照射され身体内に侵入していく過程で減速され、高エネルギー及び熱外中性子などの中程度のエネルギーの中性子から熱中性子となったものとが共存することである。
元々混入している量が多い場合は、前述のとおり「患者の外皮部に早期の有害事象を引き起こす」ため混入量は抑えるべきである。
【0013】
一方、後者の身体内で高エネルギー及び中程度のエネルギーの中性子が順次減速されて生じた熱中性子は、がん細胞に集積したホウ素化合物に核反応を生じさせてそのがん細胞を選択的に死滅させる、所謂、BNCT法の治療原理に関わるものであることと、その絶対量と照射位置によっては功罪相半ばとなるため、一概に制限すべきものとは言えない。
【0014】
上記の出射後の照射ビームに求められる各種の対策を考える上で考慮すべき要素は、照射ビームの中性子エネルギー幅が広範囲に及び、その中でビームに混入した高エネルギーの高速中性子と同じく混入した熱中性子の双方に効果的な減速、吸収能を有する物質を用いて照射対象範囲外に漏れ出るビームを制御することである。
【0015】
現状のBNCT装置向けの代表的な遮蔽材は、例えば、特許文献5に示されているように、同装置の「コリメータ」と称される照射口を構成する部位に使用されている「LiF含有ポリエチレン樹脂」である。この「LiF含有ポリエチレン樹脂」は、LiF粉末をポリエチレンの中に混合、懸濁させたもので、一般的な混合割合は、LiF50wt.%、ポリエチレン50wt.%である。
【0016】
LiF含有ポリエチレン樹脂の構成成分を見てみると、ポリエチレンの化学式は(C24)nで表され、炭素(C)と水素(H)から成り、高エネルギーの高速中性子と熱外中性子に対しては中性子のエネルギーの一部又は全部を吸収する、遮蔽性能を有し、特に高速中性子に対して顕著な遮蔽性能を有する。
【0017】
他方、LiFは前述のとおり、熱中性子に対して遮蔽性能を有し、且つ、二次放射線としては人体にほぼ無害のα線を発生するが、有害なγ線は発生しない優れた遮蔽材料である。このように「LiF含有ポリエチレン樹脂」は、広範なエネルギー分布の中性子ビームに対して2種類の異なる構成成分でその効果を分担し、全エネルギー領域の中性子を減速、遮蔽しようとするものである。
【0018】
しかしながら、LiF含有ポリエチレン樹脂の遮蔽性能の実際はつぎのような課題を有しており、不十分な遮蔽となっている。
まず、第1の課題は、LiF含有ポリエチレン樹脂は、常温で固体状態であり、流動性、柔軟性に欠けること。
後述する特許文献1~4に示すように、本願発明の主たる用途である「患者患部とビーム照射口との間の隙間防止用」を実施する上で、この「常温で固体状態であり、流動性、柔軟性に欠けること」が機能面での最大の欠点になる。
【0019】
第2の課題は、LiFとポリエチレンの混合割合は50wt.%と50wt.%とであり、しかもどの部位も同じ混合割合となっていることによる遮蔽性能の不足、中でも遮蔽材内部の後半部位で、熱中性子を始めとする弱いエネルギーの中性子に対する遮蔽性能が不足すること。
LiFとポリエチレンの混合割合は50wt.%と50wt.%とであり、しかもどの部位も同じ混合割合となっている。
照射ビーム中の中性子のエネルギー分布は、その流れの経過とともに「高速中性子」は順次「熱外中性子」、「熱中性子」などに、また、「熱外中性子」は「熱中性子」などに、「熱中性子」は「低温中性子」などへと変化しており、徐々に低エネルギー中性子が多くなる。
ところが、遮蔽材である「LiF含有ポリエチレン樹脂」の方は、どの部位も同じ混合割合であるため、ビーム流れの特に後半側で低エネルギー中性子に対する遮蔽性能が不足することとなり、低エネルギー中性子が漏れ出る現象を呈することとなる。
【0020】
第3の課題は、既存のLiF含有ポリエチレン樹脂中のLiF粉体は、大小さまざまな粒径を有しており、不均一な分布状態になっていることによる遮蔽性能不足、特に低エネルギー中性子に対する遮蔽性能が不足していること。
前述のとおり「LiF含有ポリエチレン樹脂」は、粉体状のLiFをポリエチレン中に混合、懸濁させており、また、そのLiF粉は大小さまざまな粒径を有しており、不均一な分布状態になっていることが強く推定される。
粉体工学の技術領域では、樹脂のような高分子物質とLiF粉のような粉体を混合すると、まず、粉体側であるLiFの微粉同士が凝集して二次粒子を生じやすいため必然的に不均一な混合状態になると言われている。
【0021】
更に、本発明者らは、市場に流通する「LiF含有ポリエチレン樹脂」材を低温度で加熱し、その内の樹脂を選択的に燻焼し、残渣中のLiF粉の粒径分布を調査したところ、粒径分布が広く、これと同じように広い粒径分布を有するLiFの元原料をそのまま使用している、と推測された。
この調査結果からも、「LiF含有ポリエチレン樹脂」中のLiF粉の分布は不均一であり、上記の「低エネルギー中性子に対する遮蔽性能が不足」の大きな原因となっている、と強く類推された。
【0022】
更には、上記の第2の課題を解決すべく「LiF粉」の混合割合を増やすと、この「LiF粉」の分布の不均一性はより強まり、遮蔽性能の向上を図ることはできず、解決策とはならないことを突き止めた。
【0023】
また、一般的放射線治療装置における、出射後の照射ビームと、そのビームの照射対象である患者患部との間に求められる課題に対する対策として考案されたものとして、例えば、下記の特許文献1~4に示す装置が挙げられる。
【0024】
特許文献1記載の装置では、遮蔽性能を有する「電子線ガイド」と称する板状の遮蔽材を遮蔽壁状に並べ、その板材の長さを制御することにより、放射線の漏れ防止を図ろうとしている。
特許文献2記載の装置では、遮蔽性能を有する「ツーブス」と称するスカート状の筒を設けて放射線の漏れ防止を図ろうとしている。
特許文献3記載の装置では、遮蔽性能を有する「アダプタ」と称するリング形状、すなわち、円筒形状の部材を着脱して隙間を塞ごうとしている。
【0025】
上記特許文献1~3に記載の装置では、いずれも、放射線ビーム照射口と患者患部との隙間をふさぐ目的で各種の対策が講じられている。しかしながら、共通して装置構成が剛構造で圧迫感があり、制御性に乏しく、隙間を完全に塞ぐことはできず、且つ、いずれも遮蔽性能に優れた材料が使用されておらず、遮蔽性能も極めて乏しいものとなっている。
【0026】
一方、特許文献4記載の装置では、ビーム照射口と患者患部との間に、遮蔽性能を有する無機材料、及び熱可塑性樹脂から成る遮蔽治具が配置されている。この遮蔽治具の製造には、事前の診察段階で採取した前記ビーム照射口と患者患部との間の三次元形状データに基づき、オフライン工程で熱可塑性樹脂を加熱、成形後、冷却して固化させ、患者患部の外形形状に沿う遮蔽治具とする方法が採用されている。
使用する材料としては、熱可塑性樹脂としてポリオレフィンが採用され、より具体的にはポリエチレンが採用され、また、この熱可塑性樹脂にフッ化リチウム(LiF)が混合されたものとなっている。
【0027】
前述の特許文献5記載の装置における「コリメータ」に使用されている「LiF含有ポリエチレン樹脂」と同じ構成となっている。
文献中には明記されていないが、上記の樹脂とLiFとは融点が大きく異なり、しかも、樹脂と無機材料のLiFとを一緒に溶融させて均一に混合することは困難なため、前記の「LiF含有ポリエチレン樹脂」と同様に、樹脂の中にLiF粉体を単に混入させたものであること、言い換えれば、樹脂中にLiF粉体が懸濁されたものであることが強く推測される。従って、材料組成面での顕著な特徴は無く、上記の「LiF含有ポリエチレン樹脂」と同様に、種々の欠点を有しているものと言える。
【0028】
また、この遮蔽治具は、成形、固化し、「固形物、すなわち、柔軟性の無いもの」となった状態で、ビーム照射口と患者患部との間に設定(この状態を「セッティング状態」と称する)されており、下記した課題(5)を解決するものとはなり得ない。すなわち、「寸動可能」とするものではなく、結果的に隙間を生じてビームの漏洩を生じさせるものとなる。
更には、熱可塑性樹脂の特徴である「加熱によって柔軟性を呈すること」を生かせていない。言い換えれば、前述の種々の欠点を有する特許文献1~3の固形物を使用した遮蔽構造と何ら変わらないものである、と言える。
【0029】
特許文献5記載の装置は、BNCT法の代表的な装置構成に関するものである。ビーム照射口を構成する“コリメータ”と称するビームの絞り機構用の材料としては、既存の材料の中で最も高性能な遮蔽材と言われている「LiF含有ポリエチレン樹脂」を使用している。しかしながら、本発明において最重要課題としているビーム照射口と患者患部との間のビームの漏れ対策に関しては何ら記載されていない。
【0030】
〔発明が解決しようとする課題〕
上記したBNCTの治療効果を高めるために、出射後の照射ビームと、そのビームの照射対象である患者患部との間に求められる主な課題としては、
(1)「照射ビームを設定範囲に絞り込むことは容易でなく、照射ビームは設定範囲外に漏れ出やすく、この照射ビームの漏洩を防止すること」。
(2)「患者患部と照射口との間に隙間を生じさせないこと」。
(3)BNCT法におけるビーム照射時間は、おおよそ30分から60分程度であるが、患者にとってはその照射時間の前後にも同様の姿勢を強いられる時間があり、出来うる限り「圧迫感が少なく、無理のない姿勢で、その姿勢を維持しやすい患者患部の固定方法、方式となすこと」。
(4)BNCT法の治療においては、治療前に予め患者患部とビーム照射口との位置決め(以下、「セッティング」と称する)を行い、そのセッティングデータを用いて治療計画を作成し、再度患者患部をセッティング状態に戻して治療を開始する。「このセッティング状態の再現性の精度を高めること」。
【0031】
また、上記の課題(2)、すなわち「患者患部と照射口との間に隙間を生じさせないこと」に関し、その治療時の実態を仔細に観察すると、課題(3)の項で記載のとおり、照射時間は30分から60分程度であるが、その前後にも段取り等でセッティング状態の姿勢を維持することが求められ、患者に長時間の負担を強いることとなる。従って、照射時間中を含めて、
(5)「患者患部をわずかに動かすことができ(すなわち、「寸動可能」)、しかも、その寸動可能状態でも隙間を生じさせないものとすること」、を挙げることができる。
【0032】
さらに、LiF含有ポリエチレン樹脂を遮蔽材として用いた場合の遮蔽性能に関する特有の課題として上記した第1~第3の課題を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0033】
【特許文献1】実開昭61-191056号
【特許文献2】実開昭51-162585号
【特許文献3】実開平5-65353号
【特許文献4】特開2018-15148号
【特許文献5】特開2009-189643号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段及びその効果】
【0034】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであって、中性子を含む放射線を用いた放射線治療、例えば、次世代の難治性がん治療法と注目されている“ホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy:BNCT)”において、患者患部の位置決め精度を向上させ、且つ、放射線照射口と患者患部との隙間から漏洩する放射線量を低減し、更には、患部以外の健全部位に照射される放射線量を低減または除去し、患者及び医療従事者を含む人体及び、又はこの治療装置の周辺機器類の被ばくを低減させることができる放射線遮蔽治具、その製造方法及び放射線治療の際におけるその使用方法を提供することを目的としている。
【0035】
従来の放射線遮蔽に関する種々の課題を解消するため、本発明者らは、従来の遮蔽材料の遮蔽性能をはるかに超える遮蔽材を既に発明(特願2021-115328号)しており、この先願に係る遮蔽材、又は、他の遮蔽材を用い、更には、これらの材料の特性を有効に発揮できる新たな発想に基づいて本発明を完成するに至った。
【0036】
本発明では、上記した出射後の照射ビームと、そのビームの照射対象である患者患部との間に求められる上記課題(1)~(5)の解決に関し、例えば、BNCT装置の治療用ビーム照射口外縁部位に、リング形状、すなわち、中空立体形状で、その内部の雰囲気ガス量調整機能付きでその外形形状の固定化が可能な柔軟構造の風袋中に、放射線遮蔽性能に優れ、しかも、流動性に優れた形状の2種類の遮蔽材粒子が混合・充填された放射線遮蔽治具を配置することを提案する。
【0037】
また、既存の代表的遮蔽材である「LiF含有ポリエチレン樹脂」における上記した第1の課題、すなわち、「常温で固体状態であり、流動性、柔軟性に欠けること」を、例えば、柔軟構造の風袋内に焼結体粒子と樹脂製粒子とを混合した流動性に優れた遮蔽材粒子を充填した放射線遮蔽治具とすることで解決する。
【0038】
また、上記した第2の課題、すなわち、「低エネルギー中性子に対する遮蔽性能不足」を、例えば、上記風袋内を輪切りにする隔壁を設けた上に、更に、層状に隔壁を設け、区切られた各空間部分に充填される両遮蔽材粒子の混合割合を任意に調整可能な風袋構造とすることで解決する。
【0039】
また、上記した第3の課題、すなわち、「LiF粉の不均一分布による低エネルギー中性子に対する遮蔽性能不足」を、例えば、低エネルギー中性子に対する遮蔽性能に富む原料を、一旦、高均質性の焼結体とした後、粗破砕、摩砕、篩分けして焼結体粒子とし、樹脂製粒子と混合して遮蔽材粒子とすることで解決する。
【0040】
上記目的を達成するために、本発明に係る放射線遮蔽治具(1)は、樹脂製の布からなり、放射線の通路部分を備えた中空立体形状の風袋に、
放射線遮蔽性能を備えた所定粒径を有する焼結体粒子と、所定粒径を有する樹脂製粒子との混合粒子からなる遮蔽材粒子が、充填されてなることを特徴としている。
【0041】
「遮蔽材粒子」とは、熱中性子に対する優れた遮蔽性能を有する「焼結体粒子」と、高エネルギー中性子に対する優れた遮蔽性能を有する「樹脂製粒子」とを含む粒子のことをいう。また、ここでいう「焼結体粒子」とは、焼結体を破砕、摩砕、篩分けして得られた粒子のことをいい、「焼結体粒子」は、破砕、摩砕、篩分けされることにより、丸みを帯びた形状の流動性に富む粒子となる。
「樹脂製粒子」も所定粒径を有する粒子に整えられており、流動性に富むものとなっている。
【0042】
上記放射線遮蔽治具(1)によれば、照射ビームがたとえ漏れ出た場合でも、前記遮蔽材粒子によって漏れ出たビームのエネルギーを低減・吸収して問題の発生を防止することができ、上記課題(1)を解決することができる。
【0043】
また、患者患部の形状に沿わせることができる優れた形状フィッティング機能を有するものとでき、前記隙間の発生を防止して、上記課題(2)も解決することができる。
【0044】
また、流動性に優れた形状の遮蔽材粒子と、高い変形性能を有する柔構造の風袋となし、患者患部に沿わせた形状の固定化を容易にすることで、上記課題(3)も解決することができる。
【0045】
また、流動性に優れた形状の遮蔽材粒子と、高い変形性能を有する柔構造の風袋となし、患者患部に沿わせた形状の固定化を容易にすることで、上記課題(4)「セッティング状態の再現性の精度を高めること」も解決することができる。
【0046】
また、流動性に優れた形状の遮蔽材粒子と、高い変形性能を有する柔構造の風袋となし、患者体位が寸動した場合でも風袋はその寸動に応じて容易に変形可能であり、その結果、隙間の発生を阻止することができ、上記課題(5)「寸動可能、しかも、その寸動可能状態でも隙間を生じさせないものとすること」も解決することができる。
【0047】
また、既存の代表的遮蔽材である「LiF含有ポリエチレン樹脂」をこのビーム照射口と患者患部との間に使用する場合に想定された上記第1の課題に関しても、
LiFを一旦、均質な焼結体とした後、破砕、摩砕、篩分けして所定粒度の焼結体粒子となし、一方、ポリエチレンなどの樹脂には所定粒度の球状粒子を使用することで、これら遮蔽材粒子は室温で固体状態ではあるが、優れた流動性を備えたものとなり、患者患部と接した際に放射線遮蔽治具は柔軟性を呈して患者患部の形状に沿ったものとなり、固定化による圧迫感を与えないものとすることにより、解決することができる。
【0048】
また、ビーム流れの上流側に相当する前半部位には、高エネルギーの中性子に対する遮蔽性能に優れた樹脂製粒子を高濃度に配合し、他方、下流側に相当する後半部位には、熱中性子などの低エネルギー中性子に対する遮蔽性能に優れたLiFなどの焼結体からなる焼結体粒子を高濃度に配合した遮蔽材粒子を、充填することによって、特に、遮蔽材内の後半部位での熱中性子などに対する遮蔽性能不足を解消することにより、上記第2の課題も解決することができる。
【0049】
また、予め高均質性の高密度のLiF焼結体を製造し、これを破砕、摩砕、篩分けして所定粒度の焼結体粒子となし、この後、焼結体粒子を風袋に充填することで、LiFの不均一な分布状態を解消することにより、上記第3の課題も解決することができる。
【0050】
また、本発明に係る放射線遮蔽治具(2)は、上記放射線遮蔽治具(1)において、
ガス吸引ポンプに接続可能な封止弁付き通気管が少なくとも一つ前記風袋に接続されていることを特徴としている。
【0051】
上記放射線遮蔽治具(2)によれば、前記風袋内部の雰囲気ガス量の調整を、前記封止弁付き通気管を介して行うことができ、前記風袋の外形形状の固定化をより確実に実行できることとなる。
従って、上記課題(3)~(5)をより確実に解決することができることとなる。
【0052】
また、本発明に係る放射線遮蔽治具(3)は、上記放射線遮蔽治具(1)又は(2)において、
前記風袋の内部空間を、輪切り状に分割する、通気孔を備えた隔壁を少なくとも一つ備えていることを特徴としている。
【0053】
ビーム照射口を形成する平面、すなわち、BNCT装置の減速体系の照射口側の外表面は、BNCT装置の構造様式によって“水平な平面”の場合と“垂直な平面”の場合とがある。
“垂直な平面”の場合には、中空立体形状の前記風袋を垂直に立てて使用するため、充填した前記遮蔽材粒子が前記風袋内で移動しやすく、その移動を防止する対策が求められる。
一方、“水平な平面”の場合は、前記風袋の外観形状がその風袋や遮蔽材粒子の自重によって変形する問題の発生は少ない。
そこで、前記移動防止対策としては、前記風袋内に前記風袋を輪切りするように前記通気孔を備えた前記隔壁を設け、前記風袋内部を複数区画に区分けすることで前記遮蔽材粒子の大きな移動を防止することにした。
【0054】
上記放射線遮蔽治具(3)によれば、前記風袋の内部空間を、輪切り状に分割する、通気孔を備えた隔壁により、前記風袋内部を複数区画に区分けすることができ、自重による前記風袋の変形と前記遮蔽材粒子の移動を防止することができる。区画数は、少なくとも2区画以上、3区画以上とすることが望ましい。
【0055】
また、本発明に係る放射線遮蔽治具(4)は、上記放射線遮蔽治具(1)~(3)のいずれかにおいて、
前記風袋の内部空間を、層状に分割する、通気孔を備えた隔壁を少なくとも一つ備えていることを特徴としている。
【0056】
上記放射線遮蔽治具(4)によれば、層状に分割された各層毎に、焼結体粒子と樹脂製粒子との混合割合を変えたものを充填することが可能となり、ビーム流れの上流側に相当する前半部位の層には、高エネルギーの中性子に対する遮蔽性能に優れた樹脂製粒子を高濃度に配合し、他方、下流側に相当する後半部位の層には、熱中性子などの低エネルギー中性子に対する遮蔽性能に優れた焼結体粒子を高濃度に配合した遮蔽材粒子を、それぞれ充填することが容易となり、上記第2の課題を、確実に解決することができることとなる。
【0057】
また、本発明に係る放射線遮蔽治具(5)は、上記放射線遮蔽治具(1)~(4)のいずれかにおいて、
前記風袋及び前記樹脂製粒子が、ポリエチレン、ポリスチレン、及びポリプロピレンの内から選ばれた樹脂製であることを特徴としている。
【0058】
本発明者らは、布を形成した場合の柔軟性、放射線の遮蔽能力、コストパフォーマンスなどを考慮し、前記風袋及び前記樹脂製粒子を構成する樹脂として、ポリエチレンの他、ポリスチレン、ポリプロピレンなどのC-Hを骨格元素とする他の樹脂を用いることを検討し、その有効性を確認した。
上記放射線遮蔽治具(5)によれば、柔軟性に富み、放射線の遮蔽能力、及びコストパフォーマンスに優れた放射線遮蔽治具を提供できることとなる。
【0059】
また、本発明に係る放射線遮蔽治具(6)は、上記放射線遮蔽治具(3)~(5)のいずれかにおいて、
前記隔壁が、ポリエチレン、ポリスチレン、及びポリプロピレンの内から選ばれた樹脂製の布から成ることを特徴としている。
【0060】
上記放射線遮蔽治具(6)によれば、上記放射線遮蔽治具(5)と同様に、柔軟性に富み、放射線の遮蔽能力、及びコストパフォーマンスに優れた放射線遮蔽治具を提供できることとなる。
【0061】
また、本発明に係る放射線遮蔽治具(7)は、上記放射線遮蔽治具(1)~(6)のいずれかにおいて、
前記焼結体粒子と、前記樹脂製粒子の粒径が、0.5mm~7mmの範囲で設定されていることを特徴としている。
【0062】
風袋内に種々の「粒子径」の遮蔽材粒子を充填し、その流動性を表す「治具の柔軟性」を官能検査で調べた。粒子径0.5mm未満では柔軟性に乏しく、粒子径7mmを超える粗粒の場合は、同治具に接触する患者側の感覚としてゴツゴツとした違和感を感じるようになることが確認された。そのため、「粒子径」の適正範囲を0.5~7mmに設定した。
上記放射線遮蔽治具(7)によれば、柔軟性に富み、患者にゴツゴツとした違和感を感じさせない放射線遮蔽治具を提供することができる。
【0063】
また、本発明に係る放射線遮蔽治具(8)は、上記放射線遮蔽治具(1)~(7)のいずれかにおいて、
前記焼結体粒子が、相対密度が70~90%の焼結体を破砕及び摩砕、篩分けして採取されたものであることを特徴としている。
【0064】
焼結体粒子の元材である焼結体の相対密度が90%を超える高密度の場合、破砕が容易でない。また、大半の破砕粒子の形状が鋭利な刃物状となり、摩砕時間が長大なものとなる。さらに、焼結体粒子の製造歩留りが、相対密度82%を超えるあたりから低下し始め、相対密度90%を超えると著しく低下することが確認された。これらから相対密度の上限を90%とした。
【0065】
他方、相対密度が70%未満の場合、焼結体粒子の機械的強度が低くなり、本願用途の遮蔽材粒子として使用する際に、消耗が激しく、繰返しの使用時に問題となる虞があった。このことから相対密度の下限を70%とした。
上記放射線遮蔽治具(8)によれば、前記焼結体粒子の製造が容易で、繰返しの使用に耐え得る放射線遮蔽治具を提供することができる。
【0066】
また、本発明に係る放射線遮蔽治具(9)は、上記放射線遮蔽治具(8)において、
前記焼結体粒子が、LiF焼結体から採取されたものであることを特徴としている。
【0067】
LiF焼結体は、中性子に対する吸収断面積が大きいLiを高濃度に含有しており、放射線、なかでも熱中性子などの低エネルギー中性子に対する遮蔽性能に優れている。
上記放射線遮蔽治具(9)によれば、前記焼結体粒子を熱中性子などの低エネルギー中性子に対する遮蔽性能に優れたものとすることができる。
【0068】
また、本発明に係る放射線遮蔽治具(10)は、上記放射線遮蔽治具(8)において、
前記焼結体粒子が、LiFに、B、B(OH)、BF、LiB又はLiからホウ素化合物として選ばれ、ホウ素同位体10Bとして0.1~5wt.%が添加されてなるLiFとホウ素化合物との混合系焼結体から採取されたものであることを特徴としている。
【0069】
上記放射線遮蔽治具(10)によれば、前記焼結体粒子が、Liよりも中性子に対する吸収断面積が大きいB(同位体10B)を高濃度に含有するため、前記焼結体粒子を、さらに、中性子に対する遮蔽性能に優れたものとすることができる。
【0070】
また、本発明に係る放射線遮蔽治具(11)は、上記放射線遮蔽治具(8)において、
前記焼結体粒子が、LiFを99wt.%~5wt.%の範囲で含み、MgF、CaF、AlF、KF、NaF及び、又はYFの内から選ばれた1種以上のフッ化物を1wt.%~95wt.%の範囲で含むLiFを主相とする多元系フッ化物焼結体から採取されたものであることを特徴としている。
【0071】
LiFは、難焼結性の代表的原料であるため、安定的に均質に焼結させるには、LiF単味ではなく、他のフッ化物、例えば、MgF、CaF、AlF、KF、NaF及び/又はYFの中から1種以上を選び、それらとLiFとを混合した多元系フッ化物焼結体とすることが望ましい。
【0072】
ここで、LiFに混合する物質として他のフッ化物を選んだ理由は、
LiFと同類のフッ化物であれば、焼結過程において固溶体を作りやすく、共晶点を生じて焼結温度の低温化が図られ、その結果、LiFなどのフッ化物の分解・気化(すなわち、昇華)現象が抑制され、発泡が阻止されて緻密な焼結体が得られやすくなるためである。
【0073】
上記放射線遮蔽治具(11)によれば、中性子に対する吸収断面積が大きいLiを高濃度に含有し、放射線、なかでも熱中性子などの低エネルギー中性子に対する遮蔽性能に優れた焼結体粒子を容易に製造することができる。
しかも、高密度、高均質な放射線遮蔽材用焼結体粒子を、安定的に、安価に提供することができる。
【0074】
また、本発明に係る放射線遮蔽治具(12)は、上記放射線遮蔽治具(8)において、
前記焼結体粒子が、LiFを主相とする多元系フッ化物に、B、B(OH)、BF、LiB又はLiからホウ素化合物として選ばれ、ホウ素同位体10Bとして0.1~5wt.%が添加されてなる多元系フッ化物とホウ素化合物との混合系焼結体から採取されたものであることを特徴としている。
【0075】
上記放射線遮蔽治具(12)によれば、前記焼結体粒子が、Liよりも中性子に対する吸収断面積が大きいB(同位体10B)を高濃度に含有するため、前記焼結体粒子を、さらに、中性子に対する遮蔽性能に優れたものとすることができる。
【0076】
また、本発明に係る放射線遮蔽治具(13)は、上記放射線遮蔽治具(8)において、
前記焼結体粒子が、LiFを主相とする多元系フッ化物に、Gd、Gd(OH)又はGdFからガドリニウム化合物として選ばれ、ガドリニウム同位体157Gdとして0.1~2wt.%が添加されてなる多元系フッ化物とガドリニウム化合物との混合系焼結体から採取されたものであることを特徴としている。
【0077】
本願では、さらに、中性子に対する吸収断面積が大きいLi、Liよりも同吸収断面積が大きいGd(同157Gd)を高濃度に含有し、且つ、高密度、高均質な優れた焼結体粒子を、安定的に、安価に提供することとした。
【0078】
ガドリニウム化合物を、多元系フッ化物原料に外掛けで157Gdとして0.1~2wt.%添加することとしたのは、0.1wt.%未満では、ガドリニウム化合物添加による遮蔽効果向上が認められず、一方、2wt.%を超える添加を行った場合、焼結体の密度は下がり、焼結体の形状維持が困難になることが試験により確認されたためである。
試験結果からガドリニウム化合物添加の適正範囲を157Gdとして0.1~2wt.%添加と定めた。
【0079】
上記放射線遮蔽治具(13)によれば、Liよりも中性子に対する吸収断面積が大きいGd(同157Gd)を高濃度に含有するため、前記焼結体粒子を、さらに、中性子に対する遮蔽性能に優れたものとすることができる。
【0080】
また、本発明に係る放射線遮蔽治具(14)は、上記放射線遮蔽治具(8)において、
前記焼結体粒子が、LiFを主相とする多元系フッ化物に、B、B(OH)、BF、LiB又はLiからホウ素化合物として選ばれ、ホウ素同位体10Bとして0.1~5wt.%が添加され、さらに、Gd、Gd(OH)又はGdFからガドリニウム化合物として選ばれ、ガドリニウム同位体157Gdとして0.1~2wt.%が添加されてなる多元系フッ化物とホウ素化合物とガドリニウム化合物との混合系焼結体から採取されたものであることを特徴としている。
【0081】
本願では、さらに、中性子に対する吸収断面積が大きいLi、Liよりも同吸収断面積が大きいB(同位体10B)、及び、Gd(同157Gd)を高濃度に含有し、且つ、高密度、高均質な優れた焼結体粒子を、安定的に、安価に提供することとした。
【0082】
焼結体が、必要な遮蔽性能を得るには、同位体6Li、同6Liに加えて10B、及び
157Gdの濃度が高いことが望ましい。
【0083】
上記放射線遮蔽治具(14)によれば、Liよりも中性子に対する吸収断面積が大きいB(同位体10B)及び、Gd(同位体157Gd)を高濃度に含有するため、前記焼結体粒子を、さらに、中性子に対する遮蔽性能に優れたものとすることができる。
【0084】
また、本発明に係る放射線遮蔽治具(15)は、上記放射線遮蔽治具(1)~(14)のいずれかにおいて、
前記焼結体粒子が、前記焼結体を粉砕、摩砕、篩分けして形成された粒子の内、採取されなかった粒子を微粉砕し、再度原料粉末に混合させ、再焼結させて形成されたものであることを特徴としている。
【0085】
上記の焼結体粒子の内、適正範囲外の粒子径のもの、及び破砕工程で出来た破砕粒子の内、摩砕工程に供することができない粗粒とかの微粉など、不純物汚染などの問題が無いものについては、微粉砕し、同じ組成用の原料として再使用することとした。経済性の面からは、この未利用焼結体粒子の再使用は、重要な要素技術となる。
上記放射線遮蔽治具(15)によれば、経済性にすぐれた放射線遮蔽治具を提供することができる。
【0086】
また、本発明に係る放射線遮蔽治具(16)は、上記放射線遮蔽治具(1)~(15)のいずれかにおいて、
前記遮蔽材粒子における前記焼結体粒子と前記樹脂製粒子との混合割合が、10wt.%~90wt.%の間で設定され、前記遮蔽材粒子が、その安息角が8度から45度までの流動性を有するものであることを特徴としている。
【0087】
1種類だけの遮蔽材粒子で本願の遮蔽対象である治療用ビームのような広範囲のエネルギー分布を有する中性子ビームを遮蔽することは困難である。また、1種類の混合割合は少なくとも10wt.%以上は必要なため、本発明に使用する遮蔽材は、遮蔽部位における治療用ビームのエネルギー分布に応じて焼結体粒子と樹脂製粒子との混合割合を10wt.%から90wt.%の範囲で設定し、対応することとした。
【0088】
また、遮蔽材粒子の流動性を確保するために、その安息角が8度から45度までの流動性を有するものとした。
上記放射線遮蔽治具(16)によれば、治療用ビームのような広範囲のエネルギー分布を有する中性子ビームであっても十分に遮蔽性能を発揮させることができ、また、その流動性・柔軟性を確保することができる。
【0089】
また、本発明に係る放射線遮蔽治具(17)は、上記放射線遮蔽治具(4)~(16)のいずれかにおいて、
層状に分割された前記風袋のビーム流れ上流側部分には、前記焼結体粒子が10wt.%以上50wt.%未満、前記樹脂製粒子が50wt.%以上90wt.%未満の割合で充填され、
他方、前記風袋のビーム流れ下流側部分には、前記焼結体粒子が50wt.%以上90wt.%未満、前記樹脂製粒子が10wt.%以上50wt.%未満の割合で充填されていることを特徴としている。
【0090】
上記放射線遮蔽治具(17)によれば、ビーム流れの上流側に相当する前半部位には、高エネルギーの中性子に対する遮蔽性能に優れた樹脂製粒子を高濃度に配合し、他方、下流側に相当する後半部位には、熱中性子などの低エネルギー中性子に対する遮蔽性能に優れた焼結体粒子を高濃度に配合した遮蔽材粒子を、充填することができ、特に、遮蔽材内の後半部位での熱中性子などの低エネルギー中性子に対する遮蔽性能不足を解消し、上記第2の課題を解決することができる。
【0091】
また、本発明に係る放射線遮蔽治具の製造方法(1)は、上記放射線遮蔽治具(1)~(17)のいずれかの製造方法において、
焼結体を、破砕機を用いて破砕及び摩砕機を用いて摩砕し、所定粒径の焼結体粒子を篩分け採取する工程、
採取した前記焼結体粒子と所定粒径の樹脂製粒子とを所定の割合で混合する工程、
混合した前記焼結体粒子と前記樹脂性粒子とを、前記風袋内に充填する工程、
を含んでいることを特徴としている。
【0092】
上記放射線遮蔽治具の製造方法(1)によれば、例えば、LiFなどの原材料を一旦、均質な焼結体とした後、破砕、摩砕、篩分けして所定粒度の焼結体粒子となし、一方、ポリエチレンなどの樹脂には所定粒度の球状粒子を使用することで、これら遮蔽材粒子は室温で固体状態ではあるが、優れた流動性を備えたものとなり、患者患部と接した際に柔軟性を呈して患者患部の形状に沿ったものとなる放射線遮蔽治具を確実に製造することができる。
【0093】
また、ビーム流れの上流側に相当する前半部位には、高エネルギーの中性子に対する遮蔽性能に優れた樹脂製粒子を高濃度に配合し、他方、下流側に相当する後半部位には、熱中性子などの低エネルギー中性子に対する遮蔽性能に優れたLiFなどの焼結体からなる焼結体粒子を高濃度に配合した遮蔽材粒子を、充填することも容易であり、特に、遮蔽材内の後半部位での熱中性子などの低エネルギー中性子に対する遮蔽性能不足を解消できる放射線遮蔽治具を確実に製造することができる。
【0094】
また、例えば、予め高均質性の高密度のLiF焼結体などを製造し、これを破砕、摩砕、篩分けして所定粒度の焼結体粒子とし、この後、焼結体粒子を風袋に充填することで、LiFの不均一な分布状態を解消し、遮蔽性能不足を解決できる放射線遮蔽治具を確実に製造することができる。
【0095】
また、本発明に係る放射線遮蔽治具の使用方法(1)は、上記放射線遮蔽治具(1)~(17)のいずれかの使用方法において、
治療に際し、患者患部を治療体位で前記風袋に隙間なく密接させ、
その後、放射線治療を開始することを特徴としている。
【0096】
上記放射線遮蔽治具の使用方法(1)によれば、上記課題(1)~(5)を解決した放射線遮蔽治具の使用とすることができる。
【0097】
また、本発明に係る放射線遮蔽治具の使用方法(2)は、上記放射線遮蔽治具(2)~(17)のいずれかの使用方法において、
治療に際し、まず、前記ガス吸引ポンプが接続された前記通気管の封止弁を開とし、その他の封止弁を閉とし、前記ガス吸引ポンプを作動させながら患者患部を治療体位で前記風袋に隙間なく密接させ、
この密接させた状態で前記ガス吸引ポンプが接続された前記通気管の封止弁を閉として前記風袋の外観形状を固定し、
その後、放射線治療を開始することを特徴としている。
【0098】
上記放射線遮蔽治具の使用方法(2)によれば、上記課題(1)~(5)を解決した放射線遮蔽治具の使用を確実にすることが容易となる。
【0099】
また、本発明に係る放射線遮蔽治具の使用方法(3)は、上記放射線遮蔽治具(2)~(17)のいずれかの使用方法において、
放射線治療を開始する前に、まず、前記ガス吸引ポンプが接続された前記通気管の封止弁を開とし、その他の封止弁を閉とし、前記ガス吸引ポンプを作動させながら患者患部を治療時と同じ体位で前記風袋に隙間なく密接させ、
この密接させた状態で前記ガス吸引ポンプが接続された前記通気管の封止弁を閉として前記風袋の外観形状を固定し、
その後、固定した前記風袋の外観形状を計測し、
その後、計測された外観形状データに基づいて照射ビームの治療中の挙動に関するシミュレーション計算を実施し、
このシミュレーション計算結果に基づいて治療計画を作成し、
該治療計画に沿って放射線治療を実施することを特徴としている。
【0100】
上記放射線遮蔽治具の使用方法(3)によれば、治療計画に沿った高度な放射線治療の実施をより確実・容易なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
図1】(a)は、第1の実施の形態に係る放射線遮蔽治具を示す正面図、(b)は 斜視図である。
図2】第5の実施の形態に係る放射線遮蔽治具を示す側断面図である。
図3】第5の実施の形態に係る放射線遮蔽治具を示す正面図である。
図4】BNCTにおける放射線遮蔽治具の使用方法を説明するためのBNCT装置 の減速体系を含む体系を示す部分断面側面図である。
図5】模擬的試験による放射線遮蔽治具の遮蔽性能評価方法を示す説明図であ る。
図6】シミュレーション計算における遮蔽層の粒子配合条件の設定を示す表1で ある。
図7】シミュレーション解析結果を示す表2である。
【発明を実施するための形態】
【0102】
以下、本発明に係る放射線遮蔽治具、その製造方法、及びその使用方法の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0103】
[放射線遮蔽治具の実施の形態]
〔第1の実施の形態〕
図1(a)は、第1の実施の形態に係る放射線遮蔽治具の外観を示す正面図、(b)は斜視図である。
【0104】
放射線遮蔽治具10Aは、樹脂製の不織布からなり、放射線の通路部分11rを備えた中空立体形状の風袋11に、放射線遮蔽性能を備えた所定粒径を有する焼結体粒子と、所定粒径を有する樹脂製粒子との混合粒子である遮蔽材粒子(図示せず)が、充填されて構成されている。
【0105】
この遮蔽材粒子は、焼結した焼結体を粗破砕、摩砕、篩分けして得られた焼結体粒子と、樹脂製粒子とで構成され、これら粒子が等しい充填密度となるように風袋11に充填されている。
焼結体粒子は、熱中性子に対する優れた遮蔽性能を有する「LiFを主相、又は単相とする焼結体」から製造される。
【0106】
樹脂製粒子は、高速中性子などの高エネルギー中性子に対する遮蔽性能に優れたポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレンから選ばれた樹脂製の流動性に優れた粒径のものとなっている。
【0107】
遮蔽材粒子を充填する風袋11は、ビーム照射口の形状がおおむね平面に丸形の開口(すなわち、平面に直径100mm~250mm程度(その内の大半は、同直径が100~150mm)の円形の開口)であることから、その開口のエッジ部を取り囲むような中空立体形状となっている。
ただし、この風袋11の形状は、図1に示したものでは、リング形状を呈しているが、この形状は何らリング形状に限定されるものではなく、使用される箇所の形状に合わせて適宜決定されるものである。
風袋11も、ポリエチレン、ポリスチレン、及びポリプロピレンの内から選ばれた樹脂製の柔軟性に富む不織布を用いて形成されている。
【0108】
焼結体粒子は、より詳細には、熱中性子などの低エネルギー中性子に対する遮蔽性能に優れたLiF単独、又は、LiFとホウ素化合物との混合、又は、LiFを主相とするフッ化物系、又は、LiFを主相とするフッ化物系にホウ素化合物を混合、又は、LiFを主相とするフッ化物系にガドリニウム化合物を混合、又は、LiFを主相とするフッ化物系にホウ素化合物とガドリニウム化合物とを混合した混合系焼結体からなる均質な高密度の焼結体を破砕及び摩砕し、篩分けして採取された流動性能に優れた粒径及び丸みを帯びた特有の粒子形状を有するものとなっている。
【0109】
前記焼結体粒子の「丸みを帯びた特有の粒子形状」に関して以下に記載する。
焼結体を破砕した段階の破砕粒子の形状は、おおむね鋭利な端部を有している。卑近な例では、石器時代の石器造りにおいて、代表的な石器用鉱物である黒曜石を粗破砕した際の、ナイフ状の鋭利な端部を有する小片に似た形状の粗粒子と、微粉砕された微粉が入り混じったものと同様の構成となっている。
【0110】
この中の粗粒子を集め、例えば、ポットミルを使用して摩砕することで、粗粒子の端部が選択的に摩耗破砕されて特有の丸みを帯びた粒子形状の本願でいうところの焼結体粒子とすることができる。
「摩砕」とは、複数の方向から粉砕圧を負荷して主として粒子表層にせん断力を及ぼし、例えば、選択的に粒子の鋭利な端部などをせん断する粉砕法をいう。
【0111】
具体的な粉砕法としては、石臼粉砕法、ポットミル粉砕法、媒体撹拌粉砕法などいくつかの方法が挙げられる。本実施の形態ではポットミル粉砕法を一例として記述した。粉砕法は、このポットミルでの方法に限ったものではなく、上記した他の粉砕衝撃性の小さい粉砕方法を適用することも可能である。
【0112】
焼結体粒子は、丸みを帯びている分、例えば、平板上に積みつけた場合に転がりやすく、積みつけた山の形状(以下、「山体形状」と称する)は緩やかな傾斜の山体形状となり、その山体の傾斜角、所謂、粉粒体の流動性を示す指標である“安息角”は小さくなり、この粒子の流動性が大きくなる。
【0113】
本発明では、この焼結体粒子の流動性が大きいことが、上記課題を解決するための重要な要素技術の一つとなっている。すなわち、焼結体粒子と樹脂製粒子とからなる大きな流動性を有する遮蔽材粒子を柔構造を有する風袋11内に充填し、柔軟性を有する柔構造の放射線遮蔽治具10Aとすることで患者患部とのフィッティング性を高め、患者患部との間に隙間を作らず照射ビームの漏洩を防止する。
【0114】
上記遮蔽材粒子の流動性を決める要素は、粒子の大きさ、すなわち「粒子径」と、粒子の形、すなわち「粒子形状」とである。本実施の形態では後者の「粒子形状」は、一貫して流動性に富む丸みを帯びた形状の焼結体粒子とするため、残る「粒子径」でその流動性は定まることとなる。
【0115】
そこで、風袋11内に種々の「粒子径」の遮蔽材粒子を充填し、その流動性を表す「治具の柔軟性」を官能検査で調べ、粒子径0.5mm未満では柔軟性に乏しく、同径7mmを超える粗粒の場合は、同治具と接触した患者側の感覚としてゴツゴツとした違和感を感じるものとなったため、その「粒子径」の適正範囲を0.5~7mmと設定した。
【0116】
次に、遮蔽材粒子を構成する焼結体粒子と樹脂製粒子の主な特性である「平均粒径」及び「安息角」の測定方法について説明する。
「平均粒径」の測定は、JIS篩を用いて篩分けし、そのメディアン径で示し、一方、「安息角」の測定は、定盤上に一対の透明塩ビ板を10mmの間隔を開けて垂直に立て、その隙間に各粒子を、隙間の上方中央部の一か所から所定量の75gを投下し、積みつけた粒子の山形の傾斜角を計測して行った。
【0117】
「安息角」の適正範囲の設定は、予め本実施の形態の風袋11を作製し、この風袋11に種々の粒径分布と粒子形状のもの、すなわち、種々の「安息角」を呈する遮蔽材粒子を充填し、模擬的に患者患部をセッティングし、同治具の「柔軟性」、すなわち同粒子の「流動性」を官能検査することにより行った。
この結果、8度から45度までの範囲を適正範囲とし、極めて好感触である20度を中央値とした10度から35度までの範囲を最良範囲とした。
【0118】
粒子径が大きく、同形状が球形に近いものほど「流動性」が良好、すなわち、安息角は小さくなり、他方、粒子径が小さく、同形状が角ばったものほど「流動性」が悪い、すなわち、安息角は大きくなる傾向が確認された。
【0119】
上記焼結体粒子の内、適正範囲外の粒子径のもの、及び破砕工程で出来た破砕粒子の内、摩砕工程に供することができない粗粒とか微粉など、不純物汚染などの問題が無いものについては微粉砕し、同じ組成用の原料として再使用することとした。経済性の面からは、この未利用焼結体粒子の再使用は、重要な要素技術となる。
【0120】
焼結体粒子に、樹脂製粒子を10wt.%~90wt.%の任意の割合で混合した2種の粒子、すなわち、遮蔽材粒子を、風袋11内に、その混合割合を調整して充填した。
具体的には、ビーム流れの上流側に相当する前半部位には、高エネルギーの中性子に対する遮蔽性能に優れた樹脂製粒子を高濃度に配合し、他方、下流側に相当する後半部位には、熱中性子などの低エネルギー中性子に対する遮蔽性能に優れたLiFなどの焼結体からなる焼結体粒子を高濃度に配合した遮蔽材粒子を、充填した。
これにより、特に、遮蔽材内の後半部位での熱中性子などの低エネルギー中性子に対する遮蔽性能不足を解消した。
【0121】
両遮蔽材粒子の混合割合は、遮蔽対象であるビーム中の中性子のエネルギー分布に適した割合とした。
この混合割合の上下限を設定した理由は、混合したそれぞれの粒子の遮蔽に関する役割が明確に分かれていることによる。
すなわち、焼結体粒子は、主に熱中性子に対する遮蔽性能に優れる一方、高速、及び熱外中性子などの高エネルギー中性子に対しての遮蔽性能は低い。
他方、樹脂製粒子は、主に高速中性子などの高エネルギー中性子に対する遮蔽性能に優れる一方、熱中性子などの低エネルギー中性子に対しての遮蔽性能は低い。
【0122】
このため、1種類だけの遮蔽材粒子で本願の遮蔽対象である治療用ビームのように広範囲のエネルギー分布を有する中性子ビームを遮蔽することは困難である。1種類の混合割合は少なくとも10wt.%以上は必要なため、本実施の形態に使用する遮蔽材粒子は、遮蔽部位における治療用ビームのエネルギー分布に応じて焼結体粒子と樹脂製粒子との混合割合を10wt.%から90wt.%の範囲で適宜設定し、対応することとした。
【0123】
本実施の形態では、上記課題(1)「照射ビームを設定範囲に絞り込むことは容易でなく、照射ビームは設定範囲外に漏れ出やすく、この照射ビームの漏洩を防止すること」に関しては、たとえ漏れ出た場合でも、放射線遮蔽治具中の遮蔽材粒子によって漏れ出たビームのエネルギーを低減・吸収して問題が生じないようにする。
【0124】
上記課題(2)「患者患部と照射口との間に隙間を生じさせないこと」に関しては、患者患部の形状に沿わせることができる優れた形状フィッティング機能を有する構造の放射線遮蔽治具とすることにより、前記隙間の発生を防止する。
【0125】
上記課題(3)「圧迫感が少なく、無理のない姿勢で、その姿勢を維持しやすい患者患部の固定方法、方式となすこと」に関しては、流動性に優れた形状の遮蔽材粒子と、高い変形性能を有する柔構造の風袋となすことにより、患者患部に沿わせた形状の固定化を容易にすることで、上記課題を解決した。
【0126】
上記課題(4)「セッティング状態の再現性の精度を高めること」に関しては、上記課題(3)に関する対策と同様に、流動性に優れた形状の遮蔽材粒子と、高い変形性能を有する柔構造の風袋となすことにより、患者患部に沿わせた形状の固定化を容易にすることで、上記課題を解決した。
【0127】
上記課題(5)「寸動可能、しかも、その寸動可能状態でも隙間を生じさせないものとすること」に関しては、上記課題(3)に関する対策と同様に、流動性に優れた形状の遮蔽材粒子と、高い変形性能を有する柔構造の風袋となすことにより、患者体位が寸動した場合でも風袋はその寸動に応じて容易に変形し、その結果、隙間を生じさせないものとすることができる。
【0128】
また、本実施の形態によれば、既存の代表的遮蔽材である「LiF含有ポリエチレン樹脂」をこのビーム照射口と患者患部との間に使用する場合に想定される種々の課題をも解決することができる。
【0129】
上記第1の課題「LiF含有ポリエチレン樹脂は、常温で固体状態であり、流動性、柔軟性に欠ける」に関しては、本実施の形態では、LiFを一旦、均質な焼結体とした後、破砕、摩砕、篩分けして所定粒度の焼結体粒子となし、一方、ポリエチレンなどの樹脂には所定粒度の球状粒子を採用し、これら遮蔽材粒子を室温で固体状態ではあるが、優れた流動性を備えたものとなすことで、解決した。
【0130】
上記第2の課題「LiFとポリエチレンの混合割合が50wt.%と50wt.%とであり、しかもどの部位も同じ混合割合となっていることによる遮蔽性能の不足、中でも遮蔽材内部の後半部位で、熱中性子を始めとする弱いエネルギーの中性子に対する遮蔽性能が不足する」に関しては、本実施の形態では、LiF単相の焼結体を破砕、摩砕、篩分けしたLiF焼結体粒子に、ポリエチレンからなる樹脂製粒子を10wt.%~90wt.%の任意の割合で混合した遮蔽材粒子となすことにより、ビーム流れの上流側と下流側とで、その混合割合を調整して充填することを可能とし、上記課題を解決した。
【0131】
具体的には、ビーム流れの上流側に相当する前半部位には、高エネルギーの中性子に対する遮蔽性能に優れた樹脂製粒子を高濃度に配合し、他方、下流側に相当する後半部位には、熱中性子などの低エネルギー中性子に対する遮蔽性能に優れたLiFなどの焼結体からなる焼結体粒子を高濃度に配合した遮蔽材粒子を、充填することによって、特に、遮蔽材内の後半部位での熱中性子などの低エネルギー中性子に対する遮蔽性能不足を解消した。
【0132】
上記第3の課題「既存のLiF含有ポリエチレン樹脂中のLiF粉体は、大小さまざまな粒径を有しており、不均一な分布状態になっていることによる遮蔽性能不足」に関しては、本実施の形態では、予め高均質の高密度のLiF焼結体を製造し、これを破砕、摩砕、篩分けして所定粒度の焼結体粒子となし、この後、焼結体粒子を風袋に充填することで、LiFの不均一な分布状態を解消し、遮蔽性能不足を解決した。
【0133】
〔第2の実施の形態〕
第2の実施の形態に係る放射線遮蔽治具10B(図示せず)では、図1に示した第1の実施の形態に係る放射線遮蔽治具10Aに、図2図3に示した封止弁13付きの通気管14が風袋11の対向する両側に接続された構成となっている。
この片方の通気管14にはガス吸引ポンプ15が接続された構成となっている。
【0134】
本第2の実施の形態に係る放射線遮蔽治具10Bによれば、風袋11内部の雰囲気ガス量の調整を、封止弁13付きの通気管14を介してガス吸引ポンプ15を駆動させて行うことができ、風袋11の外形形状の固定化を確実に実行することができる。
従って、上記課題(3)~(5)をより高いレベルで解決することができることとなり、特に、「セッティング状態の再現性の精度を高めること」に大きく貢献させることができる。
【0135】
〔第3の実施の形態〕
第3の実施の形態に係る放射線遮蔽治具10C(図示せず)では、第2の実施の形態に係る放射線遮蔽治具10Bに、さらに、図3に示した風袋11内を輪切り状に分割するような通気孔を備えた隔壁16が設けられている。風袋11内部を複数区画に輪切り状に区分けすることで遮蔽材粒子18の大きな移動を阻止できることとなる。
【0136】
ビーム照射口を形成する平面、すなわち、BNCT装置の減速体系の照射口側の外表面は、BNCT装置の構造様式によって“水平な平面”の場合と“垂直な平面”の場合とがある。
“垂直な平面”の場合には、中空立体形状の風袋11を垂直に立てて使用することになるため、充填した遮蔽材粒子18が風袋11内で下方に移動しやすく、その移動を阻止する対策が求められる。
そこで、前記移動対策として、風袋11内に風袋11内を輪切り状に分割するような通気孔を備えた隔壁16を設け、風袋11内部を複数区画に輪切り状に区分けすることで遮蔽材粒子18の下方への大きな移動を阻止することにした。
【0137】
図3に示したものでは、隔壁16は6個設けられ、風袋11内部が6区画に区分けされているが、区画数は、少なくとも2区画以上、3区画以上とすることが望ましい。
上記したように、放射線遮蔽治具10Cを垂直に立てて使用する場合には、遮蔽材粒子18の自重によって風袋11が変形してしまう問題が発生することが危惧されたが、風袋11内部を複数区画に区分けすることにより、自重による放射線遮蔽治具10Cの変形と遮蔽材粒子18の移動を防止することが可能となった。
【0138】
〔第4の実施の形態〕
第4の実施の形態に係る放射線遮蔽治具10D(図示せず)では、第2の実施の形態に係る放射線遮蔽治具10Bに、さらに、図2に示した風袋11内を層状に分割するような通気孔を備えた隔壁17が設けられている。風袋11内部を複数層に区分けすることで遮蔽材粒子18の層を跨ぐ大きな移動を阻止できるように構成されている。
【0139】
図2に示したものでは、隔壁17は2個設けられ、風袋11内部が層状に3区画に区分けされているが、区画数は、少なくとも2区画以上、3区画以上とすることが望ましい。
【0140】
上記放射線遮蔽治具10Dによれば、層状に分割された各層毎に、焼結体粒子と樹脂製粒子との混合割合を変えた遮蔽材粒子18を充填することが可能となり、ビーム流れの上流側に相当する前半部位の層には、高エネルギーの中性子に対する遮蔽性能に優れた樹脂製粒子を高濃度に配合し、他方、下流側に相当する後半部位の層には、熱中性子などの低エネルギー中性子に対する遮蔽性能に優れた焼結体粒子を高濃度に配合した遮蔽材粒子18を、それぞれ各層に充填することが実行され、上記した第2の課題「LiFとポリエチレンの混合割合は50wt.%と50wt.%とであり、しかもどの部位も同じ混合割合となっていることによる遮蔽性能の不足、中でも遮蔽材内部の後半部位で、熱中性子を始めとする弱いエネルギーの中性子に対する遮蔽性能が不足すること」を、確実に解決することができることとなる。
【0141】
〔第5の実施の形態〕
図2は、第5の実施の形態に係る放射線遮蔽治具10Eの断面を示す断面図、図3は、正面図である。
第5の実施の形態に係る放射線遮蔽治具10Eは、第2の実施の形態に係る放射線遮蔽治具10B(図示せず)に、さらに、上記した風袋11内を輪切り状に分割するような通気孔を備えた隔壁16と、風袋11内を層状に分割するような通気孔を備えた隔壁17が設けられた構成となっている。
【0142】
第5の実施の形態に係る放射線遮蔽治具10Eによれば、自重による風袋11の変形と遮蔽材粒子18の移動を阻止することが可能になるとともに、遮蔽材粒子18の層を跨ぐ大きな移動も阻止される。
従って、隔壁16と、隔壁17とによって区分けされた各空間部分に、焼結体粒子と樹脂製粒子との混合割合を所望の混合割合とした遮蔽材粒子を充填することができ、所望の放射線遮蔽性能を備えた放射線遮蔽治具10Eを提供できることとなる。
放射線遮蔽治具10Eによれば、出射後の照射ビームと、そのビームの照射対象である患者患部との間に求められる上記した課題(1)~(5)、及びLiF含有ポリエチレン樹脂を遮蔽材として用いた場合の遮蔽性能に関する上記した第1~第3の課題のすべてを確実に解決することができる放射線遮蔽治具を提供することができる。
【0143】
[放射線遮蔽治具の使用方法]
BNCTにおける放射線遮蔽治具の使用方法を、放射線遮蔽治具として第5の実施の形態に係る放射線遮蔽治具10Eを用いた場合を例にとって説明する。
図4は、BNCTにおける放射線遮蔽治具の使用方法を説明するためのBNCT装置の減速体系を含む体系を示す部分断面側面図である。
【0144】
BNCT装置1の治療用ビーム2の照射口を構成するコリメータ3の外縁部位に、リング形状、すなわち、中空立体形状で、その内部の雰囲気ガス量調整機能付きで、その外形形状の固定化が可能な構造の放射線遮蔽治具10Eを配置する。放射線遮蔽治具10E内には、放射線遮蔽性能に優れ、しかも、流動性に優れた形状の焼結体粒子と樹脂製粒子とから成る遮蔽材粒子18が、所定の充填密度になるように充填されている。
【0145】
治療計画に基づき、治療台4に横たわった患者5の患部をセッティングしながら、図2図3に示した風袋11に接続されたガス吸引ポンプ15を作動させつつ、同時に通気管14の封止弁13の開度を調節し、計画のセッティング状態に達した段階で封止弁13を全閉とし、ガス吸引ポンプ15を停止して風袋11の外観形状を固定化する。この状態を、「仮セッティング状態」と称する。
【0146】
次に、患者患部を移動させ、「仮セッティング状態」の風袋11の外観形状を、例えば、レーザースキャナー法などの測定法で計測し、その形状データを放射線挙動計算コード(Particle and Heavy Ion Transport code System:以下、PHITSと記す)法などから成る治療計画に取り込み、治療計画の実施版とする。
【0147】
この方法による治療計画は、現行の検査段階におけるCTスキャンやMRI測定等で得られた患者患部の三次元形状データを用いる治療計画よりも、実測の形状データを用いることからより精度の高いものとなる。
このような治療の準備段階を経たのち、患者患部を再度「仮セッティング状態」に戻し、
治療計画に基づく「セッティング状態」とし、ここから治療用ビーム2の照射による高精度な治療が始まることになる。
【0148】
上記のように、放射線遮蔽治具10Eは、風袋11内の雰囲気ガス量を調整することで風袋11の外観形状を繰返し、異なる患者ごとの「セッティング状態」となすことができ、しかも、風袋11及びその内部に充填された遮蔽材粒子18はいずれも放射線耐性が高く、繰返し使用することが可能である。
【0149】
また、放射線遮蔽治具10Eを別の患者に使用するなど、繰返し使用する際には、衛生面を考慮して風袋11とは別に、風袋11と同じ材質の不織布から成る布状のカバー用風袋を用意しておき、このカバー用風袋を風袋11に被せて使用し、このカバー用風袋のみを患者ごとに取り換えるようにすることもできる。
【0150】
このように放射線遮蔽治具10Eを繰返し使用が可能な構造、構成とすることで、治療コストに占める放射線遮蔽治具10Eのコスト比率を大幅に低減することができ、市場への普及促進に大きく寄与することができる。
【0151】
[実施例]
以下、本発明に係る放射線遮蔽治具の実施例について説明する。本発明に係る放射線遮蔽治具は、患者、すなわち人体に直接接して使用される治具であり、実際の使用状態での遮蔽性能に関するデータ採取が容易ではないため、それに替えて模擬的試験でその遮蔽性能を評価することにした。
【0152】
この遮蔽性能評価に関する模擬的試験は、図5に示すように、「放射線遮蔽治具」が無い状態で照射ビームが照射口から大気中を流れる、すなわち、大気中を漏洩する場合の中性子束の値をベースとし、本発明に係る異なる形態の数種類の「放射線遮蔽治具」の遮蔽性能を比較することにした。
【0153】
「放射線遮蔽治具」としては、遮蔽層を分割せず遮蔽材粒子充填層の全体を均一な充填層とした場合と、遮蔽層を2層、3層に分割し、また、焼結体粒子と樹脂製粒子との混合割合、更には、焼結体粒子中の遮蔽性能を有する放射性同位体元素6Li、同10B、
157Gdの濃度を変更した場合の遮蔽性能を、スーパーコンピュータを用いたPHITS法によるモンテカルロ輸送解析のシミュレーション計算によって求めた。
【0154】
具体的なシミュレーション計算は、図6(表1)に示す遮蔽層の粒子配合条件で、照射ビームが放射線遮蔽治具中を流れる距離を10cmと仮定し、前出のベースとなる「放射線遮蔽治具無し」の場合と、各種条件の「放射線遮蔽治具有り」の場合の照射ビームが流れた距離10cmの位置での中性子束(すなわち、中性子量)を比較することで遮蔽性能を比較することにした。その解析結果を図7(表2)に示す。
【0155】
この解析結果の中で注目すべきは、「熱中性子束の変化」である。中でも、「放射線遮蔽治具有り」の場合の放射線遮蔽治具前後における照射ビーム中の熱中性子束の変化割合、すなわち、“減衰比(=(距離10cm地点の熱中性子束)/(同0cm地点の熱中性子束))”の大小である。
これは、照射ビーム中に元から存在する熱中性子束と、この放射線遮蔽治具中において遮蔽材粒子による高速中性子などの高エネルギー中性子の遮蔽、減速によって発生した熱中性子とを加算し、更に、この治具内の遮蔽材粒子による遮蔽によって減じた値(すなわち、距離10cm地点の熱中性子束)を、照射ビーム中の熱中性子束(すなわち、同0cm地点の熱中性子量)で除した数値であり、本発明に係る遮蔽材粒子の代表的な遮蔽性能を表す指数である。
【0156】
第1の注目点は、「フリービーム(放射線遮蔽治具無し)」と「放射線遮蔽治具有り」との「熱中性子の減衰比」の比較であり、最も重要な比較である。「フリービーム(遮蔽治具無し)」と比べて「放射線遮蔽治具有り」の熱中性子の減衰比は、分割の有無に依らずすべてのケースで一桁、又は二桁小さく、「放射線遮蔽治具有り」の遮蔽性能が極めて優れていることが確認された。
【0157】
第2の注目点は、「遮蔽層分割の有無」による遮蔽性能の比較であり、充填層の粒子配合条件に依らず、いずれのケースにおいても分割した方が分割無しの場合と比べて熱中性子減衰比が小さく、遮蔽層を分割した方がより優れた熱中性子遮蔽性能を発揮することが確認された。
【0158】
第3の注目点は、「フリービーム(放射線遮蔽治具無し)」と「放射線遮蔽治具有り」との間の「熱外中性子束」、「高速中性子束」及び「γ線線量」の変化である。
「放射線遮蔽治具有り」の場合の「熱外中性子束」と「高速中性子束」は、「フリービーム(放射線遮蔽治具無し)」と比べていずれも一桁、又は二桁少なくなっており、本発明に係る放射線遮蔽治具が優れた中性子遮蔽性能を有することが確認された。
【0159】
一方、「γ線」の線量の変化はわずかに増えているケースがあるが、その理由は、遮蔽層での遮蔽反応によってγ線などの二次放射線が発生したためである、と考えられた。しかしながら、その「γ線」線量の増加は問題になる程度までには至っておらず、本発明に係る放射線遮蔽治具は総合的に優れた遮蔽性能を備えていることが確認された。
【0160】
以上、本発明に係る放射線遮蔽治具は、優れた遮蔽性能を備えていることに加えて、上記したように、患者患部の位置合わせ精度向上による治療効果の向上、治療装置から患者が受ける圧迫感の低減、患者と医療従事者の被ばく防止、周辺機器の放射化の低減など、数々の優れた効果を発揮する極めて優れた放射線遮蔽治具であることを確認することができた。
【符号の説明】
【0161】
1 BNCT装置の減速体系
2 治療用ビーム
3 コリメータ
4 治療台
5 患者
10A、10E 放射線遮蔽治具
11 風袋
11r 通路部分
13 封止弁
14 通気管
15 ガス吸引ポンプ
16 隔壁(輪切り状)
17 隔壁(層状)
18 遮蔽材粒子

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7