(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057646
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】デバイス、システム、方法、および薬剤評価方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20240418BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20240418BHJP
C12M 3/00 20060101ALI20240418BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20240418BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20240418BHJP
G01N 1/10 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12M1/34
C12M3/00
C12Q1/02
G01N33/15 Z
G01N1/10 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164421
(22)【出願日】2022-10-13
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、再生医療・遺伝子治療の産業化に向けた基盤技術開発事業/再生医療技術を応用した創薬支援基盤技術の開発、研究開発課題名「階層的共培養を基礎とするLiver/Gut on-a-chipの開発:インビトロ腸肝循環評価を目指した高度な代謝と極性輸送の再現」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100194250
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 直志
(72)【発明者】
【氏名】酒井 康行
(72)【発明者】
【氏名】西川 昌輝
(72)【発明者】
【氏名】時任 文弥
【テーマコード(参考)】
2G052
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
2G052AB16
2G052BA22
2G052DA06
4B029AA07
4B029AA27
4B029BB11
4B029CC01
4B029CC02
4B029DG08
4B029FA12
4B029GA03
4B029GB05
4B029GB10
4B029HA05
4B063QA01
4B063QA18
4B063QR77
4B063QR81
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】ターゲット物質に対する処理効率を向上させることができるデバイス、システム、方法、および薬剤評価方法を提供する。
【解決手段】本開示に係るデバイスは、試料を支持し、流路構造が形成された基部と、使用時に流路構造と連通する蓄積空間を有する蓄積部と、を備え、試料からの液状物が、流路構造を通って蓄積空間に蓄積される。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を支持し、流路構造が形成された基部と、
使用時に前記流路構造と連通する蓄積空間を有する蓄積部と、
を備え、
前記試料からの液状物が、前記流路構造を通って前記蓄積空間に蓄積される、
デバイス。
【請求項2】
前記流路構造の一端が前記試料によって塞がれ、
前記流路構造の他端が前記蓄積空間と連通している、
請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記流路構造は、前記基部に形成された溝を含む、
請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記溝の幅は、前記試料が通過できない大きさである、
請求項3に記載のデバイス。
【請求項5】
前記溝の幅は、0.1μm以上10μm以下である、
請求項3に記載のデバイス。
【請求項6】
前記流路構造は、前記基部上に放射状に配置された複数の溝を含み、
前記蓄積部は、前記基部の中央部に設けられる、
請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項7】
前記蓄積部は、上部開口および下部開口を有し、
前記液状物は、前記下部開口から蓄積空間に流入する、
請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項8】
前記流路構造は、使用時に前記液状物を含む液体で満たされる、
請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項9】
前記試料は、細胞および/または組織である、
請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項10】
前記試料は、肝細胞を含み、
前記液状物は、胆汁酸を含む、
請求項9に記載のデバイス。
【請求項11】
前記基部は、前記細胞および/または組織が培養される培養空間を少なくとも部分的に画定する、
請求項9に記載のデバイス。
【請求項12】
前記試料は、前記培養空間と前記蓄積空間との連通を遮断するように配置される、
請求項11に記載のデバイス。
【請求項13】
請求項1または2に記載のデバイスと、
前記デバイスを収容するウェルを有するウェルデバイスと、
を備える、システム。
【請求項14】
流路構造が形成された基部と、使用時に前記流路構造と連通する蓄積空間を有する蓄積部と、を備えるデバイスを用意するステップと、
前記基部上に試料を配置するステップと、
前記試料からの液状物を、前記流路構造を通して前記蓄積空間に蓄積するステップと、
を含む、方法。
【請求項15】
請求項1または2に記載のデバイスを用いた薬剤評価方法であって、
前記基部に支持された前記試料または前記蓄積された液状物に薬剤を接触させるステップと、
前記薬剤の接触による刺激に対する前記試料もしくは前記液状物の応答、または前記試料に対する前記薬剤の浸透性もしくは透過性を測定するステップと、
を含む、薬剤評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、デバイス、システム、方法、および薬剤評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞や組織などの試料から放出されるターゲット物質の回収および分析を行う手法が知られている(特許文献1など)。たとえば、肝細胞からの胆汁成分は、肝臓から排泄される肝代謝化合物を含む。このような胆汁を回収して、肝代謝化合物の排泄経路を理解することは、医薬品開発などの分野において非常に重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ターゲット物質に対する回収、分析などの処理効率が十分でない場合があった。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、ターゲット物質に対する処理効率を向上させることができるデバイス、システム、方法、および薬剤評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を含み得る。
[1]試料を支持し、流路構造が形成された基部と、使用時に前記流路構造と連通する蓄積空間を有する蓄積部と、を備え、前記試料からの液状物が、前記流路構造を通って前記蓄積空間に蓄積される、デバイス。
[2]前記流路構造の一端が前記試料によって塞がれ、前記流路構造の他端が前記蓄積空間と連通している、[1]に記載のデバイス。
[3]前記流路構造は、前記基部に形成された溝を含む、[1]または[2]に記載のデバイス。
[4]前記溝の幅は、前記試料が通過できない大きさである、[3]に記載のデバイス。
[5]前記溝の幅は、0.1μm以上10μm以下である、[3]または[4]に記載のデバイス。
[6]前記流路構造は、前記基部上に放射状に配置された複数の溝を含み、前記蓄積部は、前記基部の中央部に設けられる、[1]~[5]のいずれかに記載のデバイス。
[7]前記蓄積部は、上部開口および下部開口を有し、前記液状物は、前記下部開口から蓄積空間に流入する、[1]~[6]のいずれかに記載のデバイス。
[8]前記流路構造は、使用時に前記液状物を含む液体で満たされる、[1]~[7]のいずれかに記載のデバイス。
[9]前記試料は、細胞および/または組織である、[1]~[8]のいずれかに記載のデバイス。
[10]前記試料は、肝細胞を含み、前記液状物は、胆汁酸を含む、[9]に記載のデバイス。
[11]前記基部は、前記細胞および/または組織が培養される培養空間を少なくとも部分的に画定する、[9]または[10]に記載のデバイス。
[12]前記試料は、前記培養空間と前記蓄積空間との連通を遮断するように配置される、[11]に記載のデバイス。
[13][1]~[12]のいずれかに記載のデバイスと、前記デバイスを収容するウェルを有するウェルデバイスと、を備える、システム。
[14]流路構造が形成された基部と、使用時に前記流路構造と連通する蓄積空間を有する蓄積部と、を備えるデバイスを用意するステップと、前記基部上に試料を配置するステップと、前記試料からの液状物を、前記流路構造を通して前記蓄積空間に蓄積するステップと、を含む、方法。
[15][1]~[12]のいずれかに記載のデバイスを用いた薬剤評価方法であって、前記基部に支持された前記試料または前記蓄積された液状物に薬剤を接触させるステップと、前記薬剤の接触による刺激に対する前記試料もしくは前記液状物の応答、または前記試料に対する前記薬剤の浸透性もしくは透過性を測定するステップと、を含む、薬剤評価方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ターゲット物質に対する処理効率を向上させることができるデバイス、システム、方法、および薬剤評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態に係る回収システム1の斜視図である。
【
図2】第1実施形態に係る回収デバイス100の斜視図である。
【
図3】第1実施形態に係る回収デバイス100の上面図である。
【
図4】第1実施形態に係る回収デバイス100を
図3の線IV-IVで切断した断面図である。
【
図5】第1実施形態に係る回収デバイス100の使用方法を示す断面図である。
【
図6】第2実施形態に係る回収デバイス200の断面図である。
【
図7】第3実施形態に係る回収デバイス300の斜視図である。
【
図8】第3実施形態に係る回収デバイス300を
図7の線VIII-VIIIで切断した断面図である。
【
図9】第4実施形態に係る回収デバイス400の斜視図である。
【
図10】第4実施形態に係る回収デバイス400を
図9の線X-Xで切断した断面図である。
【
図11】第4実施形態に係る回収デバイス400の使用方法の変形を示す断面図である。
【
図12】第5実施形態に係る回収デバイス500の斜視図である。
【
図13】第5実施形態に係る回収デバイス500を
図12の線XIII-XIIIで切断した断面図である。
【
図16】実験例1で撮影された試料面の明視野写真(左)、細胞レイヤの蛍光写真(中央)、および溝レイヤの蛍光写真(右)である。
【
図17】実験例2で撮影された試料面の明視野写真(左)、細胞レイヤの蛍光写真(中央)、および溝レイヤの蛍光写真(右)である。
【
図18】実験例5で撮影された回収デバイスの蛍光写真である。
【
図19】実験例6で撮影された試料面上の肝細胞の明視野写真である。
【
図20】実験例6で撮影された、基部の外側部分における細胞レイヤの明視野写真(上)および溝レイヤの蛍光写真(下)である。
【
図21】実験例6で撮影された、基部の外側部分と蓄積部の周壁との境界付近における細胞レイヤの明視野写真(上)および溝レイヤの蛍光写真(下)である。
【
図22】実験例6において培養空間から回収した上澄み液の蛍光強度を示す。
【
図23】実験例6において蓄積空間から回収した上澄み液の蛍光強度を示す。
【
図24】実験例7における、従来技術および作製した回収デバイスによって回収された上澄み液のCLF濃度を示す。
【
図25】実験例7における、従来技術および作製した回収デバイスによって回収された上澄み液のCLF量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態のデバイス、システム、方法、および薬剤評価方法を、図面を参照して説明する。なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。また、図面に示すXYZ座標は、説明の便宜上定義されたものであり、発明を限定するものではない。
【0010】
<概要>
一実施形態によれば、試料を支持し、流路構造が形成された基部と、使用時に流路構造と連通する蓄積空間を有する蓄積部と、を備え、試料からの液状物が、流路構造を通って蓄積空間に蓄積される、デバイスが提供される。
別の実施形態によれば、流路構造が形成された基部と、使用時に流路構造と連通する蓄積空間を有する蓄積部と、を備えるデバイスを用意するステップと、基部上に試料を配置するステップと、試料からの液状物を、流路構造を通して蓄積空間に蓄積するステップと、を含む方法が提供される。
【0011】
本明細書において、「流路構造」とは、流体が通過可能である構造を意味する。流路構造の例として、孔、開口、溝、メッシュ、管などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0012】
<第1実施形態>
図1~
図5を参照して、第1実施形態に係る回収システム1(「システム」の一例)および回収デバイス100(「デバイス」の一例)について説明する。
【0013】
[回収システム1の全体構成]
図1は、第1実施形態に係る回収システム1の斜視図である。
図1に示すように、回収システム1は、ウェルアレイ10(「ウェルデバイス」の一例)および1以上の回収デバイス100を備える。
【0014】
ウェルアレイ10は、本体12および本体12上にマトリックス状に配列された多数のウェル14を有する。ウェル14は、本体12の上面に、ウェル底面16およびウェル側面18を有する凹部として形成される。
図1に示す例では、ウェル14は、本体12を貫通せずウェル底面16を有しているが、ウェル14が本体12を貫通してもよい。
図1に示すように、各ウェル14は、回収デバイス100を収容可能である。なお、ウェル14の形状、大きさ、配置などは上記例に限定されない。なお、ウェル底面16が酸素透過膜で形成されていると、後述のように試料として肝細胞を使用する場合に、肝細胞の機能や単層形成能の点で好ましいが、ウェルアレイ10(ウェル底面16を含む)の材質は特に限定されない。
【0015】
(回収デバイス100の構成)
図2は、第1実施形態に係る回収デバイス100の斜視図である。
図3は、第1実施形態に係る回収デバイス100の上面図である。
図4は、第1実施形態に係る回収デバイス100を
図3の線IV-IVで切断した断面図である。
【0016】
図2に示すように、回収デバイス100は、基部110および蓄積部120を有する。基部110は、上面110Aおよび下面110Bを有する円盤状の部材である。蓄積部120は、周壁122を有する中空の管状部材である。蓄積部120は、上部開口および下部開口を有する。蓄積部120は、基部110の中央部において、上面110Aに設けられている。基部110および蓄積部120は、別々に成形された後で任意の方法で接合されてもよく、一体成形されてもよい。
【0017】
図2および
図3に示すように、基部110は、外側部分110Cおよび内側部分110Dを有する。外側部分110Cは、基部110のうち、周縁から蓄積部120の内周面に対応する位置までの部分である。内側部分110Dは、基部110のうち、蓄積部120の内部に対応する部分である。
図2に示すように、内側部分110Dでは、基部110の上面110Aに円形の凹部が形成されている。凹部の直径は、蓄積部120の内部空間の直径と略等しい。
【0018】
図2および
図3に示すように、外側部分110Cでは、基部110の上面110Aに、放射状に配置された複数の溝112(「流路構造」の一例)が形成されている。複数の溝112の各々は、その一端を蓄積部120に向けるように配置される。具体的には、溝112は、基部110の周縁から基部110の中心部に向かって直線状に延在する。
図3および
図4に示すように、溝112の一端は、流出口114を形成し、内側部分110Dに形成された凹部と連通している。すなわち、
図2に示すように、複数の溝112からの流出口114が、内側部分110Dの凹部を囲むように配置される。溝112の他端は、
図2および
図3に示す例では基部110の周縁の直前で終端しているが、完全に周縁まで延在してもよい。
【0019】
図4に示すように、溝112は、蓄積部120の下端124の下を通過して、基部110の内側部分110Dの凹部と連通する。このため、基部110の外側部分110Cの上の空間と、内側部分110Dの上の空間(すなわち、蓄積部120の内部空間)とは、溝112を介して連通している。このようにして、溝112は、蓄積部120の外部空間と内部空間との間の流路構造として機能する。
【0020】
図1に示すように、回収デバイス100は、一般的なウェルアレイ10に挿入できるように構成される。これにより、既存のウェルアレイ10を使用することができるので、回収デバイス100は、高い汎用性を有する。
【0021】
[回収システム1の使用方法]
図5は、第1実施形態に係る回収デバイス100の使用方法を示す断面図である。
図5に示すように、使用時には、回収デバイス100がウェルアレイ10のウェル14内に挿入される。基部110の下面110Bは、ウェル底面16に支持される。
【0022】
図5に示すように、基部110の外側部分110Cにわたって上面110A上に細胞Cまたは組織(「試料」の一例)を播種することにより、外側部分110Cにおける基部110の上面110Aの全体が、細胞Cによって覆われる。その結果、溝112によって形成される流路構造の一端は、細胞Cによって塞がれる。流路構造の他端は、内側部分110Dの凹部および蓄積部120の内部空間と連通している。このようにして、溝112を介して連通していた蓄積部120の外部空間および内部空間は、上面110Aを覆う細胞Cによって空間的に分離される。なお、上面110Aには、細胞を上面110Aに接着させるための接着剤が塗布されてよい。接着剤は、生体適合性を有するものが好ましくは、たとえばコラーゲンなどが挙げられる。
【0023】
細胞Cは、トランスポーターの作用などにより、液状物を放出することができる。たとえば、細胞Cは、極性輸送を行う機能を有する。細胞Cに溝112が隣接しているので、細胞Cからの液状物が、溝112の内部空間に放出され得る。なお、試料から液状物が放出される原理は上記例に限定されず、本発明は、任意の種類の試料から任意の原理で放出される液状物に対して適用可能である。
【0024】
溝112は、細胞Cが通過できない大きさを有する。ここで、細胞Cの大きさにはばらつきがあるので、本明細書において「通過できない」とは、添加した試料の少なくとも80体積%が通過しないことを意味する。たとえば、溝112の幅は、0.1μm以上10μm以下、0.3μm以上8μm以下、0.5μm以上6μm以下、または1μm以上5μm以下である。溝112の幅が0.1μm未満である場合には、細胞Cからの液状物の輸送に必要な圧力が増加し、圧力損失が大きくなる可能性がある。溝112の幅が10μmを超える場合には、細胞Cが溝112の内部に入ってしまう可能性がある。たとえば、肝細胞は10μm~20μm程度であるので、10μmを超える幅を有する溝112の内部に入ってしまう可能性がある。
【0025】
溝112の深さは、特に限定されないが、たとえば、0.1μm以上20μm以下、0.3μm以上15μm以下、0.5μm以上10μm以下、または1μm以上5μm以下である。隣接する溝112の間の間隔(ピッチ)は、特に限定されないが、たとえば、0.1μm以上100μm以下、0.5μm以上70μm以下、1μm以上50μm以下、または3μm以上30μm以下である。
【0026】
基部110の上面110Aに細胞Cを配置する場合には、
図5に示すように、上面110Aを覆う細胞C、蓄積部120の周壁122、およびウェル底面16が、ドーナツ型の培養空間S1を画定する。培養空間S1は、培養液(培地)CLで満たされる。培養空間S1では、細胞Cの培養を行うことができる。一方、上部が細胞Cによって覆われた複数の溝112は、回収空間S2を画定する。基部110の内側部分110Dに形成された凹部および蓄積部120の周壁122は、蓄積空間S3を画定する。回収空間S2および蓄積空間S3は、互いに連通した状態で、回収液RLで満たされる。回収液RLは、たとえば、培養液CLと同じ種類の培地である。たとえば、蓄積部120の上部開口から回収液RLを添加することにより、溝112の内部空間(すなわち、回収空間S2)および蓄積部120の内部空間(すなわち、蓄積空間S3)を回収液RLで満たすことができる。このように、使用時に溝112の内部を回収液RLで満たすことにより、細胞Cが乾燥するのを防止することができる。
【0027】
細胞Cからの液状物が溝112の内部へ排出されると、液状物は、回収液RL中を拡散し、溝112を通過して、蓄積部120の下部開口から蓄積空間S3へ流入する。このようにして、細胞Cからの液状物が、回収空間S2を通過して蓄積空間S3に輸送される。その結果、液状物を含む回収液RLが蓄積空間S3に蓄積される。これにより、ユーザは、蓄積部120の上部開口から液状物を含む回収液RLを回収することができる。このように、蓄積部120が上部開口を有すると、回収液RLの回収が容易になる。
【0028】
細胞Cは、溝112の上部を覆うことによって、培養空間S1と回収空間S2および蓄積空間S3とが連通しないように、培養空間S1と回収空間S2および蓄積空間S3とを仕切る。すなわち、細胞Cは、培養空間S1と回収空間S2および蓄積空間S3との連通を遮断するように配置される。これにより、細胞Cから溝112に放出された液状物が移動できる範囲が限定される。すなわち、細胞Cからの液状物は、培養空間S1に移動できないので、回収空間S2を通って蓄積空間S3に輸送されることになる。
【0029】
なお、
図5に示すように、培養空間S1における培養液CLの液面高さと、蓄積空間S3における回収液RLの液面高さとは異なってよい。理論によって本発明を拘束するものではないが、培養空間S1における液面高さよりも蓄積空間S3における液面高さが小さい場合には、水圧によって細胞Cからの液状物の放出が促進される可能性がある。
【0030】
たとえば、細胞Cは、肝細胞を含み、好ましくは肝細胞である。この場合、液状物は、胆汁酸を含み、好ましくは胆汁である。肝細胞は、肝トランスポーターの作用によって胆汁を排泄する。
図5に示す細胞Cが肝細胞である場合、肝細胞から排泄された胆汁は、溝112を通過して蓄積空間S3に輸送される。ユーザは、肝細胞から排泄された胆汁を蓄積空間S3から回収することができる。この場合、溝の幅が毛細胆管程度(数μm)であれば、生態環境を良好に再現することができる。
【0031】
肝臓は、生体代謝反応の中心を担う臓器である。肝臓で生成した肝代謝化合物は、血液中または胆汁中に排泄される。このような肝代謝化合物の排泄経路を理解することは、医薬品開発において極めて重要である。しかしながら、従来技術において、肝細胞から胆汁を回収する方法は限定的であった。たとえば、肝細胞を細胞外マトリックスでサンドイッチするサンドイッチ培養法を使用する手法では、胆汁中の代謝化合物を回収するためには、緩衝液中の二価イオンの有無によって肝細胞間の結合を弛緩させて胆汁成分を回収する方法か(B-CLEAR法)、肝細胞から胆汁成分を物理的に吸引する方法が知られている。しかしながら、肝細胞間の結合を弛緩させる方法は、二価イオンの有無における条件間の差分をとるといった間接的な手法であり、また二価イオンが存在しないことで活性が下がるトランスポーターも存在し、必ずしも体内動態を反映しているとは言い難く、更には肝細胞の破壊を伴う。肝細胞から胆汁成分を物理的に吸引する方法も、肝細胞の破壊を伴い、断続的かつ煩雑な操作が必要となる。
【0032】
これに対し、回収デバイス100を使用して肝細胞から胆汁を回収する場合、肝細胞は、基部110の上面110Aに非破壊状態で残存する。肝細胞から排泄された胆汁成分は、連続的に蓄積空間S3に蓄積される。このような胆汁の回収および蓄積は、ほぼ自動的に進行するので、煩雑な操作を必要としない。さらに、従来技術における肝細胞間の結合を弛緩させる方法は、細胞溶解のための液体を比較的大量に使用するので、胆汁の回収液の濃度が比較的小さくなる。これに対し、上記の回収デバイス100を使用する場合には、最初に加える回収液RLの量は少量で十分であるので、十分な量の胆汁を含む回収液RLを得ることができる。このように、回収デバイス100は、細胞Cからの液状物を効率的に回収することができる。
【0033】
[薬剤評価方法]
一実施形態によれば、上記のデバイスを用いた薬剤評価方法であって、基部に支持された試料または蓄積された液状物に薬剤を接触させるステップと、薬剤の接触による刺激に対する試料もしくは液状物の応答、または試料に対する薬剤の浸透性もしくは透過性を測定するステップと、を含む、薬剤評価方法が提供される。
【0034】
本明細書における「薬剤」は、医薬品などの薬物のほか、化粧品や医薬部外品なども含む。たとえば、薬剤を細胞Cまたは基部110の上面110Aに塗布したり、培養空間S1、回収空間S2、または蓄積空間S3に薬剤を導入したりすることにより、薬剤を細胞Cに接触させることができる。また、回収空間S2または蓄積空間S3に薬剤を導入することにより、蓄積された液状物に薬剤を接触させることができる。薬剤を添加した後の細胞Cまたは細胞Cからの液状物の変化、薬剤の細胞Cへの拡散や透過の様子、薬剤が細胞Cを通過して培養空間S1から回収空間S2および蓄積空間S3へ(または、回収空間S2および蓄積空間S3から培養空間S1へ)拡散する様子などを既知の任意の手法で評価することにより、薬剤の接触による刺激に対する細胞Cもしくは液状物の応答、または細胞Cに対する薬剤の浸透性もしくは透過性を測定することができる。
【0035】
このような薬剤評価方法によれば、細胞Cが液状物を放出している環境を再現した状態で、各種薬剤の評価を行うことができる。また、細胞Cから放出された液状物に対して、各種薬剤の評価を行うこともできる。
【0036】
<第2実施形態>
図6を参照して、第2実施形態に係る回収デバイス200について説明する。第2実施形態は、ウェルアレイ10を使用しなくても回収デバイス200だけで培養空間S1が形成される点で第1実施形態と相違する。以下では、主に上記実施形態との相違点について説明し、上記実施形態と共通する点についての説明は繰り返さない。
図6は、第2実施形態に係る回収デバイス200の断面図である。
【0037】
[回収デバイス200の構成]
図6に示すように、回収デバイス200は、基部210および蓄積部220を有する。基部210は、底壁212および側壁218を有する。底壁212は、上面212Aおよび下面212Bを有し、上面212Aには複数の溝214が形成される。溝214は、蓄積部220の内部空間(蓄積空間S3)と連通する流出口216を形成する。側壁218は、第1実施形態におけるウェル14のウェル側面18の役割を果たす。したがって、底壁212の上面212Aを覆うように細胞Cが配置された場合、上面212Aを覆う細胞Cと、基部210の側壁218と、蓄積部220の周壁222とが、培養空間S1を画定する。溝214は、蓄積空間S3と連通する回収空間S2を画定する。細胞Cからの液状物が溝214の内部に放出されると、液状物は、回収空間S2から周壁222の下端224の下を通って蓄積空間S3に輸送される。ユーザは、液状物を含む回収液RLを蓄積空間S3から回収することができる。
【0038】
以上のような回収デバイス200によれば、ウェルアレイ10を使用せずとも、回収デバイス200単独で細胞Cからの液状物を回収することができる。
【0039】
<第3実施形態>
図7および
図8を参照して、第3実施形態に係る回収デバイス300について説明する。以下では、主に上記実施形態との相違点について説明し、上記実施形態と共通する点についての説明は繰り返さない。
図7は、第3実施形態に係る回収デバイス300の斜視図である。
図8は、第3実施形態に係る回収デバイス300を
図7の線VIII-VIIIで切断した断面図である。
【0040】
[回収デバイス300の構成]
図7および
図8に示すように、回収デバイス300は、基部310および蓄積部320を有する。
【0041】
基部310は、底壁312、側壁314、仕切り部316、および流出口319を有する。側壁314は、底壁312の周縁部から上方に延在する。仕切り部316は、底壁312から高さ方向(Z方向)に離間した位置に設けられる。仕切り部316は、側壁314と一体に成形されてもよく、側壁314に結合されてもよく、側壁314に設けられた支持部材(図示せず)によって支持されてもよい。仕切り部316の上方では、側壁314および仕切り部316が培養空間S1を画定する。底壁312と仕切り部316との間には、回収空間S2が形成される。流出口319は、回収空間S2と連通して設けられる。
【0042】
図7に示すように、仕切り部316は、複数の溝318が形成された平面状の部材である。たとえば、仕切り部316は、板状部材、膜、フィルムなどであってよい。溝318は、仕切り部316を高さ方向に貫通するように形成される。溝318の数、大きさ、形状、および配置は、図示される例に限定されない。あるいは、溝318の代わりに、仕切り部316を高さ方向に貫通する多数の孔など、試料を通さず試料からの液状物のみを通過させる任意の流路構造が採用されてよい。
【0043】
図7および
図8に示すように、蓄積部320は、底壁および側壁を有する容器である。底壁および側壁によって蓄積空間S3が形成される。蓄積部320は、流入口322を有する。
図8に示すように、流出口319と流入口322とが接続されることにより、回収空間S2と蓄積空間S3とが連通する。
【0044】
[回収デバイス300の使用方法]
図8に示すように、細胞Cが、仕切り部316の上面を覆うように播種される。上記の実施形態と同様に、培養空間S1は、細胞Cを培養するための培養液CLで満たされる。回収空間S2および蓄積空間S3は、回収液RLで満たされる。細胞Cからの液状物は、溝318を通過して回収空間S2に放出され、流出口319および流入口322を通過して蓄積空間S3に拡散される。ユーザは、蓄積空間S3から、液状部を含む回収液RLを回収することができる。
【0045】
以上のような回収デバイス300によれば、基部310と蓄積部320とを互いに取り外し可能に連結できるので、回収デバイス300の取り扱い性が向上し得る。また、試料に接触する仕切り部316を基部310の本体部分から独立した部材として設ければ、回収デバイス300の取り扱い性がさらに向上し得る。
【0046】
<第4実施形態>
図9~
図11を参照して、第4実施形態に係る回収デバイス400について説明する。以下では、主に上記実施形態との相違点について説明し、上記実施形態と共通する点についての説明は繰り返さない。
図9は、第4実施形態に係る回収デバイス400の斜視図である。
図10は、第4実施形態に係る回収デバイス400を
図9の線X-Xで切断した断面図である。
【0047】
[回収デバイス400の構成]
図9および
図10に示すように、回収デバイス400は、基部410および蓄積部420を有する。基部410は、蓄積部420に収容されるように蓄積部420と結合される。
【0048】
基部410は、底壁412、側壁414、およびフランジ416を有する。底壁412は、円筒状の側壁414の下端に取り付けられている。底壁412は、側壁414と一体に設けられてもよく、側壁414に取り付けられた板状部材、膜、フィルムなどとして設けられてもよい。フランジ416は、側壁414の上端に設けられ、側壁414から周方向外側に突出している。底壁412には、放射状に配置された複数の溝418が形成されている。溝418は、底壁412を高さ方向(Z方向)に貫通するように形成される。溝418の数、大きさ、形状、および配置は、図示される例に限定されない。あるいは、溝418の代わりに、底壁412を高さ方向に貫通する多数の孔など、試料を通さず試料からの液状物のみを通過させる任意の流路構造が採用されてよい。
【0049】
蓄積部420は、底壁422、側壁424、および支持部426を有する。側壁424は、底壁422の周縁部から上方に延在する。支持部426は、円筒状の側壁424の上端に設けられ、側壁424から周方向内側に突出している。支持部426の内径は、基部410の側壁414の外径と略一致することが好ましい。
【0050】
図10に示すように、基部410は、蓄積部420に上から挿入されて蓄積部420に装着される。支持部426は、フランジ416を下から支持する。支持部426は、蓄積部420に対する基部410の水平方向(XY面内方向)の位置合わせをガイドすることができる。底壁412の上で側壁414に囲まれた空間として、培養空間S1が形成される。底壁412の下面および蓄積部420の内面によって、回収空間S2および蓄積空間S3が形成される。本実施形態では、回収空間S2および蓄積空間S3は一致する。なお、基部410が蓄積部420に装着された状態で空間S2、S3に回収液RLを添加したり、空間S2、S3内の回収液RLを回収したりするために、空間S2、S3と外部空間とを連通させる開口部が蓄積部420に(必要であれば基部410にも)形成されてもよい。
【0051】
[回収デバイス400の使用方法]
図10に示すように、細胞Cが、基部410の底壁412の上面を覆うように播種される。上記の実施形態と同様に、培養空間S1は、細胞Cを培養するための培養液CLで満たされる。回収空間S2および蓄積空間S3は、回収液RLで満たされる。細胞Cからの液状物は、溝418を通過して空間S2、S3に放出される。ユーザは、空間S2、S3から、液状部を含む回収液RLを回収することができる。
【0052】
[回収デバイス400の使用方法の変形例]
別の使用方法として、
図11に示す態様も実施可能である。
図11は、第4実施形態に係る回収デバイス400の使用方法の変形を示す断面図である。
【0053】
図11に示す例では、細胞Cが、基部410の底壁412の下面を覆うように播種される。底壁412の下面に細胞Cを播種するためには、たとえば、次のような方法が使用可能である。まず、基部410を上下引っくり返して、底壁412の下面に細胞Cを播種する。蓄積部420に培養液CLを投入した後、底壁412の下面に細胞Cが播種された状態の基部410を再び上下引っくり返して、蓄積部420に装着する。次いで、基部410に回収液RLを投入する。
【0054】
図11に示す例では、上記の例とは逆に、底壁412の上で側壁414に囲まれた空間として、回収空間S2および蓄積空間S3が形成される。底壁412の下面および蓄積部420の内面によって、培養空間S1が形成される。培養空間S1は、細胞Cを培養するための培養液CLで満たされる。回収空間S2および蓄積空間S3は、回収液RLで満たされる。細胞Cからの液状物は、溝418を通過して空間S2、S3に放出される。ユーザは、空間S2、S3から、液状部を含む回収液RLを回収することができる。
【0055】
以上のような回収デバイス400によれば、基部410と蓄積部420とを互いに取り外し可能に連結できるので、回収デバイス400の取り扱い性が向上し得る。また、試料に接触する底壁412を基部410の側壁414から独立した部材として設ければ、回収デバイス400の取り扱い性がさらに向上し得る。さらに、具体的な用途に応じて、培養空間S1と回収空間S2および蓄積空間S3との配置関係を逆転させることができる。
【0056】
<第5実施形態>
図12および
図13を参照して、第5実施形態に係る回収デバイス500について説明する。以下では、主に上記実施形態との相違点について説明し、上記実施形態と共通する点についての説明は繰り返さない。
図12は、第5実施形態に係る回収デバイス500の斜視図である。
図13は、第5実施形態に係る回収デバイス500を
図12の線XIII-XIIIで切断した断面図である。
【0057】
[回収デバイス500の構成]
図12および
図13に示すように、回収デバイス500は、基部510および蓄積部520を有する。基部510は、蓄積部520と一体に形成されてもよく、別体として形成されて互いに接合されてもよい。
【0058】
基部510は、底壁512および側壁514を有する。蓄積部520は、底壁522、側壁524、および動力源526を有する。基部510の底壁512は、円筒状の側壁514の下端に設けられるとともに、蓄積部520の底壁522上に配置されている。底壁512は、側壁514および/または底壁522と一体に設けられてもよく、側壁514および/または底壁522に取り付けられた板状部材、膜、フィルムなどとして設けられてもよい。底壁512には、放射状に配置された複数の溝516が形成されている。溝516の数、大きさ、形状、および配置は、図示される例に限定されない。底壁512は、溝516を画定するように、底壁522上の突出部として設けられてもよい。蓄積部520の側壁524は、底壁522の周縁部から上方に延在する。動力源526は、側壁524の底面に結合されている。動力源526は、回転運動をすることによって回収デバイス500全体を回転させることができる。たとえば、動力源526は、モータである。なお、動力源526は、基部510のみに結合され、蓄積部520には結合されなくてもよい。
【0059】
図13に示すように、基部510の底壁512の上で側壁514に囲まれた空間として、培養空間S1が形成される。側壁514の外周面および蓄積部520の側壁524の内周面によって、蓄積空間S3が形成される。培養空間S1および蓄積空間S3は、溝516を介して連通している。溝516は、回収空間S2を形成する。
【0060】
[回収デバイス500の使用方法]
図13に示すように、細胞Cが、基部510の底壁512の上面を覆うように播種される。これにより、溝516の上側開口の全体が細胞Cによって覆われる。上記の実施形態と同様に、培養空間S1は、細胞Cを培養するための培養液CLで満たされる。回収空間S2および蓄積空間S3は、回収液RLで満たされる。細胞Cからの液状物は、溝516内に放出され得る。動力源526が回転すると、回収デバイス500全体が回転し、溝516内部の液状物が、遠心力によって蓄積空間S3に輸送される。ユーザは、蓄積空間S3から、液状部を含む回収液RLを回収することができる。
【0061】
以上のような回収デバイス500によれば、基部510の中心を基準とする回転によって生じる遠心力により、液状物が回収空間S2から蓄積空間S3へ強制的に輸送される。これにより、液状物の回収効率を向上させることができる。
【0062】
<変形例>
上記実施形態では、流路構造の一例として溝が形成される例を説明したが、流路構造の構成は上記例に限定されない。たとえば、第3実施形態および第4実施形態のような構成では、複数の孔が流路構造として設けられてもよい。
図14は、流路構造の変形例を示す断面図である。
図14に示す例では、流路構造として、基部の底壁Bに複数の孔Hが形成されている。孔Hの各々は、試料(細胞C)が通過できない大きさを有する一方、液状物を通過させることができる。その他、流路構造は、試料が通過せず、試料からの液状物が通過できる構成であれば、特に限定されない。
【0063】
たとえば、流路構造が培養面に対して垂直な方向にあってもよく、三次元的に配備されたものであってもよい。
図15は、流路構造の変形例を示す断面図である。
図15に示す例では、流路構造として、基部の底壁Bの内部に、多数の細孔の集合である複雑な流路FPが形成されている。底壁Bが10μm~1mm程度である場合、流路FPを構成する細孔は、サブミクロンオーダーの内径を有し得る。細胞Cからの液状物は、流路FPを通過し、底壁Bの細胞Cが配置された面とは別の面に形成された出口から放出される。たとえば、サブミクロン流路FPが内部に形成された底壁Bは、スポンジのような多孔質担体であってもよい。一例として、このような多孔質担体は、PDMSなどの硬化性樹脂によって形成することができる。具体的には、ナノファイバーを硬化前の樹脂中に分散させた後、樹脂を硬化させ、その後ナノファイバーを除去することにより、硬化後の樹脂内部にサブミクロン流路構造を形成することができる。
【0064】
流路構造として溝が設けられる場合において、溝の形状および配置は、上記例に限定されない。たとえば、非直線状の溝が形成されてもよく、溝の幅および深さが変化してもよい。複数の溝が、互いに平行に配置されてもよく、互いに交差してもよい。たとえば、複数の溝が格子状に配置されてもよい。溝に加えて、孔などの別の流路構造が設けられてもよい。
【0065】
上記実施形態では、細胞や組織などの生体試料を対象とする例を説明したが、試料の種類は上記例に限定されない。たとえば、無機材料や人工有機材料などの非生体試料、臓器や生物自体といったより大きな生体試料など、任意の試料を対象としてよい。同様に、液状物の種類も上記例に限定されない。たとえば、上記の回収デバイスは、リンパ、細胞間質液、血液、尿、溶出物、化学反応の生成物、抽出物など、任意の液状物に対して適用可能である。たとえば、回収デバイスは、様々な組織または臓器からリンパを回収する用途で使用可能である。培養空間S1、蓄積空間S3、流路構造によって形成される回収空間S2などの大きさおよび構成は、対象の試料または液状物に応じて、適宜変更されてよい。
【0066】
上記実施形態では、試料からの液状物を回収する例を説明したが、実施形態に係るデバイスの用途は上記例に限定されない。たとえば、上記デバイスは、液状物を回収せずに、液状物の観察または分析のみを行う場合などにも適用可能である。
【実施例0067】
以下、実験例により本発明を説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0068】
<実験例1:CDFの溝内蓄積実験>
機械加工によって作製した鋳型を使用して、溝(溝幅:1.4μm、深さ:1μm、隣接する溝の間のピッチ:20μm)が形成されたPDMS基板を作製した。このPDMS基板をウェルアレイに装着し、PDMS基板の上面に細胞接着用のコラーゲンを塗布した(以下、同様にコラーゲンを塗布した面を「試料面」という。)。試料面全体に肝細胞を播種し、その上に培地を投入した。ここで、MRP2阻害剤であるベンズブロマロン(以下、単に「阻害剤」ともいう。)を添加していない試料(-)と、阻害剤を添加した試料(+)とを用意した。次いで、培地中にカルボキシジクロロフルオレセイン二酢酸塩(CDFDA)を添加した。一般に、CDFDAは、肝細胞によって取り込まれた後、蛍光性物質であるカルボキシジクロロフルオレセイン(CDF)としてMRP2トランスポーター経由で放出される。そこで、PDMS基板の試料面を明視野顕微鏡および蛍光顕微鏡により観察した。蛍光顕微鏡による観察は、(1)溝の高さ位置より上側の肝細胞が位置する高さ位置(以下、「細胞レイヤ」ともいう。)、および(2)溝の高さ位置(以下、「溝レイヤ」ともいう。)の各々を焦点位置に設定して行った。
図16は、試料面の明視野写真(左)、細胞レイヤの蛍光写真(中央)、および溝レイヤの蛍光写真(右)である。
図16の上側は、阻害剤なし(-)の実験結果を示し、
図16の下側は、阻害剤あり(+)の実験結果を示す。溝レイヤの蛍光写真を参照すると、阻害剤なし(-)では溝の内部に蛍光性物質CDFが蓄積している一方、阻害内あり(+)では溝の内部にCDFが蓄積していないことが確認できる。すなわち、阻害剤を添加しなかった場合には、CDFDAが試料面上の肝細胞に取り込まれてCDFが肝細胞から溝の内部に放出されたことが確認された。一方、阻害剤を添加した場合には、CDFの排泄が阻害され肝細胞内部に蓄積するのみで、肝細胞から溝の内部に放出されなかったことが確認された。
【0069】
<実験例2:CLFの溝内蓄積実験>
胆汁酸取込・排泄阻害剤としてトログリタゾンを利用した点、及びCDFDAに代えて蛍光性胆汁酸コリル-リシル-フルオレセイン(CLF)を添加した点を除き、実験例1と同様にして、PDMS基板の溝への蓄積を検証した。
図17は、試料面の明視野写真(左)、細胞レイヤの蛍光写真(中央)、および溝レイヤの蛍光写真(右)である。
図17の上側は、阻害剤なし(-)の結果を示し、
図17の下側は、阻害剤あり(+)の結果を示す。溝レイヤの蛍光写真を参照すると、阻害剤なし(-)では溝の内部に蛍光性物質CLFが蓄積している一方、阻害内あり(+)では溝の内部にCLFが蓄積していないことが確認できる。すなわち、阻害剤を添加しなかった場合には、CLFが肝細胞から溝の内部に放出されたことが確認された。一方、阻害剤を添加した場合には、CLFが肝細胞から溝の内部に放出されなかったことが確認された。
【0070】
<実験例3:溝の幅、深さ、およびピッチの検討>
上記のPDMS基板の他に、溝の幅が0.8μm、1.5μm、3μm、および5μmのPDMS基板を作製した。溝は、フォトリソグラフィによってPDMS基板上に形成した。溝の幅が0.8μmおよび1.5μmのPDMS基板では、溝の深さを1μmとした。溝の幅が3μm、5μmのPDMS基板では、溝の深さを5μmとした。隣接する溝の間のピッチはいずれも3μmとした。また、隣接する溝の間のピッチを30μmとして、溝の幅が0.8μm、1.5μm、3μm、および5μmのPDMS基板を作製した。溝の幅が0.8μmおよび1.5μmのPDMS基板では、溝の深さを1μmとした。溝の幅が3μmおよび5μmのPDMS基板では、溝の深さを5μmとした。
【0071】
これらのPDMS基板について、上記と同様に蛍光性物質の蓄積実験を行った。その結果、いずれのPDMS基板を用いても、蛍光性物質が溝に蓄積されたことが確認された。
【0072】
<実験例4:回収デバイスの作製>
第1実施形態として説明した構成の回収デバイスを作製した。具体的には、フォトリソグラフィで作製した多数の凸構造を有する鋳型へPDMSを流し込み焼成することで、放射状の溝を多数有する円盤状の基部を作製した。溝の幅は3μm、溝の深さは5μmとした。次いで、O
2プラズマ処理によってPDMS製の円筒状蓄積部を基部の上面に結合させた。次いで、蓄積部の外側に位置する基部の外側部分の上面に、接着用のコラーゲンを塗布した(以下、コラーゲンを塗布した面を「試料面」という。)。これにより、
図2に示すような回収デバイスを得た。作製した回収デバイスを、
図1に示すようにウェルアレイに装着した。
【0073】
<実験例5:回収デバイスの輸送性能の評価>
作製した回収デバイスを使用して、蓄積部の外側の培養空間のみにCLFを添加した場合に、CLFが溝を通って蓄積部に輸送されるかどうかを検討した。具体的には、基部の試料面への肝細胞の播種を行わずに、培養空間に10μMのCLFを含む培地2000μLを添加するとともに、蓄積部の内側の蓄積空間にはCLFを含まない培地10μLを添加した。その後、回収デバイスを静置して、蛍光顕微鏡を用いて、回収デバイスの溝レイヤにおける基部および蓄積部の経時的な変化を観察した。
図18は、CLF添加後0分、15分、60分、120分、および240分が経過した時点での回収デバイスの蛍光写真である。時間が経つにつれて、蓄積部の内部の蓄積空間に蛍光性物質が蓄積されることが確認された。
図18の右下には、CLF添加後240分が経過した時点での蛍光写真の拡大図を示す。この拡大図から、CLFが、培養空間と蓄積空間とを繋ぐ溝(すなわち、蓄積部の周壁の下の溝)を通過して培養空間から蓄積空間へ輸送されていることが確認された。
【0074】
<実験例6:胆汁酸の輸送実験>
作製した回収デバイスを使用して、肝細胞存在下で胆汁酸が蓄積空間に輸送されるかを検討した。本実験例では、実験例2と同様に、胆汁酸取込・排泄阻害剤トログリタゾンを添加した場合(+)と添加しなかった場合(-)とを比較した。具体的には、まず、回収デバイスの基部の試料面に2×10
5cells/cm
2の肝細胞を播種した。試料面に播種した肝細胞の形態の経時的な変化を明視野顕微鏡で観察した。
図19は、播種から4時間後、1日後、2日後、および3日後の試料面上の肝細胞の明視野写真である。播種から1日程度で肝細胞が試料面に接着し、試料面全体を覆っていることが確認された。
【0075】
肝細胞の播種から3日後、培地を吸引し、培地で2回洗浄した後、阻害剤あり(+)の試料には、10μMのトログリタゾンを含む培地500μLを、基部の試料面の上側に形成された培養空間(すなわち、蓄積部の外側空間)へ添加し、5%CO2下、37℃で15分間インキュベートした。阻害剤なし(-)の試料にはトログリタゾンを添加しなかった。次いで、培地を吸引し、阻害剤あり(+)の試料には10μMのトログリタゾンおよび5μMのCLFを含む培地2mLを、阻害剤なし(-)の試料にはトログリタゾンを含まない5μMのCLFを含む培地2mLを、基部の試料面の上側に形成された培養空間(すなわち、蓄積部の外側空間)に添加した。CLFを含まない10μLの培地を蓄積空間(すなわち、蓄積部の内側空間)に添加した。次いで、5%CO2下、37℃で120分間インキュベートした。その後、阻害剤なし(-)および阻害剤あり(+)の両試料について、共焦点顕微鏡を用いて細胞レイヤ及び溝レイヤを観察した。また、培養空間および蓄積空間の両方から上澄み液を回収し、回収した上澄み液の蛍光強度を、超微量分光光度計Nanodrop(サーモフィッシャー)を使用して測定した。なお本操作においては、ウシ胎児血清を含まない培地を使用した。
【0076】
図20は、基部の外側部分における細胞レイヤの明視野写真(上)および溝レイヤの蛍光写真(下)である。
図20の左側は、阻害剤なし(-)の結果を示し、
図20の右側は、阻害剤あり(+)の結果を示す。阻害剤を添加しなかった場合には、蛍光性胆汁酸CLFが溝内に蓄積しているのに対し、阻害剤を添加した場合には、CLFが溝内に蓄積していないことが確認された。この結果から、肝細胞の胆汁酸輸送機能によって胆汁酸が培養空間から溝内に輸送されることが確認された。
【0077】
図21は、基部の外側部分と蓄積部の周壁との境界付近における細胞レイヤの明視野写真(上)および溝レイヤの蛍光写真(下)である。
図21の左側は、阻害剤なし(-)の結果を示し、
図21の右側は、阻害剤あり(+)の結果を示す。阻害剤なし(-)の場合には、CLFが蓄積部の周壁の下の溝内に流入しているのに対し、阻害剤あり(+)の場合には、阻害剤なし(-)の場合と比べて溝内に流入しているCLFの量が少ないことが確認された。
【0078】
図22は、培養空間から回収した上澄み液の蛍光強度を示す。
図23は、蓄積空間から回収した上澄み液の蛍光強度を示す。図中の縦軸は、相対蛍光単位(RFU)のn=4の平均値を表し、エラーバーは標準偏差を表す。培養空間の上澄み液の蛍光強度は、阻害剤の有無にかかわらず同程度であることが確認された。一方、蓄積空間の上澄み液の蛍光強度は、阻害剤なし(-)の場合の方が、阻害剤あり(+)の場合よりも大きかった。
【0079】
<実験例7:既往手法との比較実験>
実験例6と同様にして、作製した回収デバイスを用いたCLFアッセイを行うとともに、既存の胆汁酸回収方法であるB-CLEAR試験(サンドイッチ培養肝細胞試験)を行い、両手法を比較した。CLFアッセイの詳細は実験例6と同様なので割愛する。B-clear試験では、2×105cells/cm2で播種した肝細胞を3日間培養後、HBSS(+)または1mMのEGTAを含むHBSS(-)で2回洗浄し、HBSS(+)または1mMのEGTAを含むHBSS(-)で5%CO2下、37℃の下10分間インキュベートを行った。次いで、5μMのCLFを添加し、5%CO2下、37℃で30分間インキュベートを行った。次いで、氷冷したHBSS(+)で3回洗浄した。次いで、0.5%Triron X-100を含むPBS(-)溶液500μLにより、肝細胞を溶解させた。次いで、10分間12000rpmで遠心分離を行い、上澄み液を回収した。回収した上澄み液の蛍光強度を、超微量分光光度計Nanodrop(サーモフィッシャー)を使用して測定し、各条件の蛍光強度の平均値の差(HBSS(+)- HBSS(-))を計算した。また検量線を作製することでCLFの濃度を算出した。
【0080】
図24は、従来技術(B-CLEAR試験)および作製した回収デバイス(本デバイス)によって回収された上澄み液のCLF濃度を示す。
図25は、従来技術(B-CLEAR試験)および作製した回収デバイス(本デバイス)によって回収された上澄み液のCLF量を示す。本デバイスを使用した場合には、従来技術を使用した場合と比べて約70倍のCLF濃度および約2倍のCLF量でCLFが回収できることが確認された。また、従来技術では、Triton X-100によって肝細胞が破壊されたのに対し、本デバイスを使用すると、肝細胞は、破壊されずに基部の試料面に残存した。