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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057807
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】単結晶引上装置および単結晶引上方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/06 20060101AFI20240418BHJP
   C30B 15/20 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
C30B29/06 502C
C30B15/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164716
(22)【出願日】2022-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】312007423
【氏名又は名称】グローバルウェーハズ・ジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】坪田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 智紀
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077BA04
4G077CF10
4G077EH06
4G077EH10
4G077HA12
4G077PF53
4G077PF55
(57)【要約】
【課題】チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げる際、輻射シールドの下端とシリコン融液との距離であるギャップを精度良く制御して、シリコン単結晶を育成する。
【解決手段】ルツボ3を昇降させる昇降駆動部15と、前記ルツボを加熱するヒータ4と、前記ルツボ内に形成されるシリコン融液Mの上方に配置され、引き上げる単結晶Cの周囲を包囲する円筒状の輻射シールド7と、前記輻射シールドの先端側に位置するテラス面に、前記輻射シールドを貫通して下部が融液側に上部が前記輻射シールドの内周側に位置するように配置された光透過性のピン部材8と、前記ピン部材の輝度を検出する輝度検出部17と、検出された前記ピン部材の輝度が所定の閾値を超えたときに、前記ピン部材の下端がシリコン融液に接触したものと判定し、前記ルツボの上昇を停止させるコントローラ11と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバ内のルツボに収容されたシリコン融液からチョクラルスキー法により単結晶を引き上げる単結晶引上装置であって、
前記ルツボを昇降させる昇降駆動部と、前記ルツボを加熱するヒータと、前記ルツボ内に形成されるシリコン融液の上方に配置され、引き上げる単結晶の周囲を包囲する円筒状の輻射シールドと、前記輻射シールドの先端側に位置するテラス面に、前記輻射シールドを貫通して下部が融液側に上部が前記輻射シールドの内周側に位置するように配置された光透過性のピン部材と、前記ピン部材の輝度を検出する輝度検出部と、前記昇降駆動部を制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、前記昇降駆動部により前記ルツボを上昇させるとともに前記ピン部材の輝度を前記輝度検出部に検出させ、検出された前記ピン部材の輝度が所定の閾値を超えたときに、前記ピン部材の下端がシリコン融液に接触したものと判定し、前記昇降駆動部による前記ルツボの上昇を停止させることを特徴とする単結晶引上装置。
【請求項2】
前記昇降駆動部による前記ルツボの上昇を停止させた状態から、
前記コントローラは、
前記輻射シールドの下端からシリコン融液までのギャップの所望値から、前記ピン部材における輻射シールド下端からピン先端までの既知の長さを差し引いた距離だけ、前記ルツボを前記昇降駆動部により下降させることを特徴とする請求項1に記載された単結晶引上装置。
【請求項3】
前記輝度の所定の閾値は、前記ピン部材がシリコン融液に接触していない状態での基準輝度に、該基準輝度の25%以上の値を加えた値であることを特徴とする請求項1に記載された単結晶引上装置。
【請求項4】
前記輝度の所定の閾値は、前記ピン部材がシリコン融液に接触していない状態での基準輝度に、該基準輝度の50%以上の値を加えた値であることを特徴とする請求項1に記載された単結晶引上装置。
【請求項5】
チャンバ内のルツボに収容されたシリコン融液からチョクラルスキー法により単結晶を引き上げる単結晶引上方法であって、
単結晶の引上げ前に、
前記ルツボを上昇させるとともに、
前記ルツボ内に形成されるシリコン融液の上方に配置され、引き上げる単結晶の周囲を包囲する円筒状の輻射シールドの下端から下方に向けて延びる光透過性のピン部材の輝度を検出するステップと、
前記輝度が所定の閾値を超えた際に、前記ピン部材の下端がシリコン融液に接触したものと判定し、前記ルツボの上昇を停止させるステップと、
を備えることを特徴とする単結晶引上方法。
【請求項6】
前記輝度が所定の閾値を超えたときに、前記ピン部材の下端がシリコン融液に接触したものと判定し、前記ルツボの上昇を停止させるステップの後、
前記輻射シールドの下端からシリコン融液までのギャップの所望値から、前記ピン部材の輻射シールド下端からピン先端までの既知の長さを差し引いた距離だけ、前記ルツボを下降させるステップと、
を備えることを特徴とする請求項5に記載された単結晶引上方法。
【請求項7】
前記輝度の所定の閾値は、前記ピン部材がシリコン融液に接触していない状態での基準輝度に、該基準輝度の25%以上の値を加えた値であることを特徴とする請求項5に記載された単結晶引上方法。
【請求項8】
前記輝度の所定の閾値は、前記ピン部材がシリコン融液に接触していない状態での基準輝度に、該基準輝度の50%以上の値を加えた値であることを特徴とする請求項5に記載された単結晶引上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶引上装置および単結晶引上方法に関し、特にチョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げる単結晶引上装置および単結晶引上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チョクラルスキー法(CZ法)によるシリコン単結晶の育成は、図5に示すようにチャンバ50内に設置した石英ルツボ51に原料であるポリシリコンを充填し、前記石英ルツボ51の周囲に設けられたヒータ52によってポリシリコンを加熱して溶融し、シリコン融液Mとする。
その後、シードチャックに取り付けた種結晶P(シード)をシリコン融液Mに浸漬し、シードチャックおよび石英ルツボ51を同方向または逆方向に回転させながらシードチャックを引上げることにより輻射シールド53の内側で単結晶Cを育成する。
【0003】
このチョクラルスキー法によるシリコン単結晶の育成では、無欠陥単結晶が求められるが、無欠陥単結晶を製造することができる製造条件は極めて狭い。この製造条件の例として引上速度と温度勾配の比がある。
温度勾配とは、固液界面付近における単結晶の高さ方向の単位長さ当たりの温度変化であり、引上速度とは、単結晶を引き上げる速度である。引上速度をVとし、温度勾配をGとしたとき、単結晶の製造時に形成される欠陥は、引上速度Vと温度勾配Gの比(V/G)に応じて敏感に変化する。例えば、引上速度Vと温度勾配Gの比(V/G)が大き過ぎる場合、空孔型欠陥(ボイド欠陥)が形成されてしまい、逆に、引上速度Vと温度勾配Gの比(V/G)が小さ過ぎる場合、格子間Si型欠陥(転位ループ)が形成されてしまう。
【0004】
したがって、安定した品質の単結晶を得るためには、引上速度Vと温度勾配Gの比(V/G)を高精度に制御することが必要となる。そして、引上速度Vは機械的な精密制御が可能であるので、安定した結晶品質と計画生産を両立するためには、引上速度Vを一定するように制御を行う単結晶の製造方法が一般に行われている。
【0005】
しかしながら、引上速度Vを一定とする制御のみでは、結晶長方向に品質がバラつくことがあった。これは、引上げ過程で温度勾配Gが一定ではなく変動しているためである。
温度勾配Gを一定とするための制御に大きく影響する要素として、輻射シールド下端とシリコン融液面との距離(ギャップと呼ぶ)があげられる。単結晶引き上げ中においては、このギャップを精度良く一定に制御することが重要である。
【0006】
従来は、例えば特許文献1に開示されるギャップの設定法がある。これは、図5に破線円で囲う輻射シールド53の下端53aに、図6(a)に示すように棒状のピン60を取り付け、ルツボ51を上昇させる。そして、図6(b)に示すように、ピン60とシリコン融液Mとが接触した際にピン60の周りに発生するフュージョンリング70をCCDカメラ等により検出し、それに基づき初期ギャップを設定するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011-57464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示されるように輻射シールド53下端に設けたピン60の最先端部がシリコン融液Mに接触した際のフュージョンリング70は微小であり、液面上に発生するため、精度良く検出することが困難であり、誤検出することもあった。そのため、初期ギャップの設定精度が低くなる虞があり、単結晶引上げ中におけるギャップの制御精度が悪化し、その場合、高品質の無欠陥単結晶収率が低下するという課題があった。
【0009】
本発明は、上記事情のもとになされたものであり、本発明は、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げる際、輻射シールドの下端とシリコン融液との距離であるギャップを精度良く制御して、シリコン単結晶を育成することのできる単結晶引上装置および単結晶引上方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するためになされた、本発明に係る単結晶引上装置は、チャンバ内のルツボに収容されたシリコン融液からチョクラルスキー法により単結晶を引き上げる単結晶引上装置であって、前記ルツボを昇降させる昇降駆動部と、前記ルツボを加熱するヒータと、前記ルツボ内に形成されるシリコン融液の上方に配置され、引き上げる単結晶の周囲を包囲する円筒状の輻射シールドと、前記輻射シールドの先端側に位置するテラス面に、前記輻射シールドを貫通して下部が融液側に上部が前記輻射シールドの内周側に位置するように配置された光透過性のピン部材と、前記ピン部材の輝度を検出する輝度検出部と、前記昇降駆動部を制御するコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記昇降駆動部により前記ルツボを上昇させるとともに前記ピン部材の輝度を前記輝度検出部に検出させ、検出された前記ピン部材の輝度が所定の閾値を超えたときに、前記ピン部材の下端がシリコン融液に接触したものと判定し、前記昇降駆動部による前記ルツボの上昇を停止させることに特徴を有する。
【0011】
なお、前記昇降駆動部による前記ルツボの上昇を停止させた状態から、前記コントローラは、前記輻射シールドの下端からシリコン融液までのギャップの所望値から、前記ピン部材における輻射シールド下端からピン先端までの既知の長さを差し引いた距離だけ、前記ルツボを前記昇降駆動部により下降させることが望ましい。
また、前記輝度の所定の閾値は、前記ピン部材がシリコン融液に接触していない状態での基準輝度に、該基準輝度の25%以上の値を加えた値であることが望ましい。
或いは、前記輝度の所定の閾値は、前記ピン部材がシリコン融液に接触していない状態での基準輝度に、該基準輝度の50%以上の値を加えた値であることが望ましい。
【0012】
このような構成によれば、単結晶引上開始前の輻射シールド下端とシリコン融液面との間の初期ギャップの設定において、ルツボを上昇させ、輻射シールド下端に設けたピン部材とシリコン融液とが接触した際の、ピン部材の輝度が大きく変化したときにルツボの上昇を停止させる。ここで、輝度の検出は、液面上の輝度を検出するのではなく、ピン部材の輝度を検出するため、誤検出の虞が少なく、精度よい検出結果が得られる。
そして、所望のギャップ値からピン部材における既知の長さを差し引いた高さだけ、ルツボを下降させることにより、精度良く初期ギャップを設定することができる。
その結果、その後の単結晶引上げ工程におけるギャップ制御を高精度に行うことができ、高品質な無欠陥単結晶の引上げを可能とすることができる。
【0013】
また、前記課題を解決するためになされた、本発明に係る単結晶引上方法は、チャンバ内のルツボに収容されたシリコン融液からチョクラルスキー法により単結晶を引き上げる単結晶引上方法であって、単結晶の引上げ前に、前記ルツボを上昇させるとともに、前記ルツボ内に形成されるシリコン融液の上方に配置され、引き上げる単結晶の周囲を包囲する円筒状の輻射シールドの下端から下方に向けて延びる光透過性のピン部材の輝度を検出するステップと、前記輝度が所定の閾値を超えた際に、前記ピン部材の下端がシリコン融液に接触したものと判定し、前記ルツボの上昇を停止させるステップと、を備えることに特徴を有する。
【0014】
なお、前記輝度が所定の閾値を超えたときに、前記ピン部材の下端がシリコン融液に接触したものと判定し、前記ルツボの上昇を停止させるステップの後、前記輻射シールドの下端からシリコン融液までのギャップの所望値から、前記ピン部材の輻射シールド下端からピン先端までの既知の長さを差し引いた距離だけ、前記ルツボを下降させるステップと、を備えることが望ましい。
また、前記輝度の所定の閾値は、前記ピン部材がシリコン融液に接触していない状態での基準輝度に、該基準輝度の25%以上の値を加えた値であることが望ましい。
或いは、前記輝度の所定の閾値は、前記ピン部材がシリコン融液に接触していない状態での基準輝度に、該基準輝度の50%以上の値を加えた値であることが望ましい。
【0015】
このような構成によれば、単結晶引上開始前の輻射シールド下端とシリコン融液面との間の初期ギャップの設定において、ルツボを上昇させ、輻射シールド下端に設けたピン部材とシリコン融液とが接触した際の、ピン部材の輝度が大きく変化したときにルツボの上昇を停止させる。ここで、輝度の検出は、液面上の輝度を検出するのではなく、ピン部材の輝度を検出するため、誤検出の虞が少なく、精度よい検出結果が得られる。
そして、所望のギャップ値からピン部材における既知の長さを差し引いた高さだけ、ルツボを下降させることにより、精度良く初期ギャップを設定することができる。
その結果、その後の単結晶引上げ工程におけるギャップ制御を高精度に行うことができ、高品質な無欠陥単結晶の引上げを可能とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、チョクラルスキー法によりシリコン単結晶を引き上げる際、輻射シールドの下端とシリコン融液との距離であるギャップを精度良く制御して、シリコン単結晶を育成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明に係る単結晶引上装置の一例を示す断面図である。
図2図2は、図1の単結晶引上装置の一部を拡大した模式的な断面図である。
図3図3は、本発明に係る単結晶引上方法の一例を示すフロー図である。
図4図4は、実施例の結果を示すグラフである。
図5図5は、従来の単結晶引上装置の断面図である。
図6図6(a)、(b)は、輻射シールド下端に設けたピンがシリコン融液に接触した際に発生するフュージョンリングを説明するための図5の一部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る単結晶引上装置および単結晶引上方法について図面を用いながら説明する。ただし、本発明の一例として本実施形態を説明するものであり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0019】
図1は、本発明に係る単結晶引上装置の一例を示す断面図である。この単結晶引上装置1は、円筒形状のメインチャンバ10aの上にプルチャンバ10bを重ねて形成された炉体10を備え、この炉体10内に鉛直軸回りに回転可能、且つ昇降可能に設けられたカーボンルツボ(或いは黒鉛ルツボ)2と、カーボンルツボ2によって保持された石英ガラスルツボ3(以下、単にルツボ3と称する)とを具備している。このルツボ3は、カーボンルツボ2の回転とともに鉛直軸回りに回転可能となされている。
【0020】
また、カーボンルツボ2の下方には、このカーボンルツボ2を鉛直軸回りに回転させる回転モータなどの回転駆動部14と、カーボンルツボ2を昇降移動させる昇降駆動部15とが設けられている。
尚、回転駆動部14には回転駆動制御部14aが接続され、昇降駆動部15には昇降駆動制御部15aが接続されている。
【0021】
また単結晶引上装置1は、ルツボ3に装填された半導体原料(原料ポリシリコン)を加熱溶融してシリコン融液Mとするための抵抗加熱式または高周波誘導加熱方式によるヒータ4を備えている。
また、単結晶引上装置1は、ワイヤ6を巻き上げ、育成される単結晶Cを引き上げる引き上げ機構9を備えている。引き上げ機構9が有するワイヤ6の先端には、種結晶Pが取り付けられている。引き上げ機構9には、その回転駆動の制御を行う回転駆動制御部9aが接続されている。
【0022】
また、ルツボ3内に形成されるシリコン融液Mの上方には、単結晶Cの周囲を包囲する輻射シールド7が配置されている。この輻射シールド7は、上部と下部が開口形成され、育成中の単結晶Cに対するサイドヒータ4やシリコン融液M等からの余計な輻射熱を遮蔽すると共に、炉内のガス流を整流するものである。
輻射シールド7の形状について、詳細に説明すると、図2に示すように輻射シールド7は、上部開口7aからシリコン融液Mに向けて(下方に向けて)縮径するテーパ部7bと、テーパ部7b下端から内方に向かって水平に延設され、これが環状に形成されたテラス部7cとを有する。テラス部7cの内縁に形成された下部開口7dと上部開口7aとを通るように単結晶が引き上げられることになる。
【0023】
テラス部7cの径方向の長さ(幅)は、テーパ部7b下端近傍7c1においてシリコン融液Mの反射や迷光が届かないように、例えば10~150mmに形成されている。このテラス部7cには、図示するように下方に延びる光透過性の石英ピン8(ピン部材)が設けられている。即ち、この石英ピン8は、輻射シールド7の先端側に位置するテラス部7c(テラス面)に、輻射シールド7を貫通して下部が融液M側に、上部が輻射シールド7の内周側に位置するように配置されている。
この石英ピン8は、例えば、直胴部8aと、直胴部8aよりも径の大きな円板状の頭部8bとからなり、テラス部7cに直胴部8aの径に合わせて形成された孔7c1に上方から下方に向けて直胴部8aを挿入し、頭部8bをテラス部7cに係止することにより設けられている。この石英ピン8において、輻射シールド7の下端7dからピン先端8a1までの長さLは、例えば15mmに形成されている。
【0024】
また、単結晶引上装置1は、育成中の単結晶の直径を測定するためのCCDカメラ等の光学式の直径測定センサ(直径測定装置)16を備える。メインチャンバ10aの上面部には、観測用の小窓10a1が設けられており、この小窓10a1の外側から固液界面における結晶端(破線矢印で示す位置)の位置変化を検出するようになされている。
【0025】
また、単結晶引上装置1は、輻射シールド7の下端に設けられた石英ピン8の頭部8bの輝度を測定するためのCCDカメラ等の輝度検出計17を備える。この輝度検出計17は、図2に示すように輻射シールド7のテラス部7c上面に配置された石英ピン8の頭部8bの輝度を測定するよう配置されている。メインチャンバ10aの上面部には、小窓10a1とは別の小窓10a2が設けられており、この小窓10a2の外側から石英ピン8の頭部8bの輝度の変化を検出するようになされている。
【0026】
本実施の形態において、このように石英ピン8の頭部8bの輝度変化を検出するのは、輻射シールド7の下端7dと融液面との間の初期ギャップの設定を高精度に行うためである。この初期ギャップの設定方法は、詳しく後述するが、石英ピン8の先端8a1とシリコン融液Mとが接触した際に、石英ピン8内を光が通過し、石英ピン8の頭部8bがより高輝度に光る。この輝度の変化を輝度検出計17により検出するものである。
なお、石英ピン8の頭部8bが高輝度に光るのは、次のような原理による。シリコン融液Mはオレンジ色で、炉内の周辺環境に比べてかなり明るい。そのシリコン融液Mに透明な石英ピン8が接触すると、石英ピン8周りに表面張力によりリングが形成され、接触する前よりもシリコン融液Mから放射される可視光を多く取り込む。石英ピン8は透明であり、その可視光をほとんど反射・吸収することなく石英ピン8の頭部にまで伝搬するため高輝度に光る。
【0027】
また、この単結晶引上装置1は、記憶装置11aと演算制御装置11bとを有するコントローラ11を備え、回転駆動制御部14a、昇降駆動制御部15a、回転駆動制御部9a、直径測定センサ16、輝度検出計17は、それぞれ演算制御装置11bに接続されている。
【0028】
このように構成された単結晶引上装置1において、例えば、直径300mmの単結晶Cを育成する場合、次のように引き上げが行われる。
即ち、最初にルツボ3に原料ポリシリコン(例えば460kg)を装填し、コントローラ11の記憶装置11aに記憶されたプログラムに基づき結晶育成工程が開始される。
【0029】
先ず、炉体10内が所定の雰囲気(主にアルゴンガスなどの不活性ガス)となされる。例えば、炉内圧65torr、アルゴンガス流量90l/minの炉内雰囲気が形成される。
そして、ルツボ3が所定の回転速度(rpm)で所定方向に回転動作された状態で、ルツボ3内に装填された原料ポリシリコンが、ヒータ4による加熱によって溶融され、シリコン融液Mとされる(図3のステップS1)。
【0030】
また、ヒータ4への初期供給電力や、引き上げ速度などをパラメータとして引き上げ条件が調整され、種結晶Pが軸回りに所定の回転速度で回転開始される。回転方向はルツボ3の回転方向とは逆方向になされる。
シリコン融液Mの液面高さが安定すると、コントローラ11の制御のもと、昇降駆動制御部15aを介して昇降駆動部15を駆動し、ルツボ3の高さを例えば、0.05mm刻みでインチング(寸動)動作により上昇させる(図3のステップS2)。
また、この間、コントローラ11は、輝度検出計17により石英ピン8の頭部8bの輝度変化を監視する(図3のステップS3)。なお、本実施の形態において、予めコントローラ11は、石英ピン8がシリコン融液Mに接触後の最大輝度を100%として記憶しているものとする。また、石英ピン8がシリコン融液Mに接触する前の輝度(基準輝度とする)は、例えば40%とする。
【0031】
ルツボ3の上昇によりシリコン融液Mの液面M1と輻射シールド7下端の石英ピン8の先端8a1とが接触すると、石英ピン8の頭部8bの輝度が所定の閾値以上に上昇する(図3のステップS4)。
これを、コントローラ11は輝度検出計17により検出し、昇降駆動部15を制御してルツボ3の上昇動作を停止させる(図3のステップS5)。具体的には、コントローラ11は、輝度検出計17により検出された輝度の変化が、所定の閾値を超えたときに輻射シールド7下端の石英ピン8とシリコン融液Mとが接触したと判定する。例えば、この輝度の所定の閾値とは、石英ピン8がシリコン融液Mに接触後の最大輝度を100%としたとき、石英ピン8がシリコン融液Mに接触していない状態での基準輝度(ここでは40%)に、該基準輝度(ここでは40%)の例えば25%以上(或いは50%以上)を加えた値とする。
【0032】
コントローラ11は、所望のギャップ値Gから石英ピン8における長さLを差し引いた寸法Hだけ、昇降駆動部15によりルツボ3を下降させる(図3のステップS6)。これにより初期ギャップ値が高精度に設定される。
また、固定された輻射シールド7の高さ位置は既知であるため、ギャップが設定された後のシリコン融液面M1の高さ位置(初期液面高さ)が容易に求められる。コントローラ11は、この初期液面高さを記憶しておく(図3のステップS7)。
【0033】
続いて、ワイヤ6が降ろされて種結晶Pがシリコン融液Mに接触され、種結晶Pの先端部を溶解した後、ネッキングが行われ、ネック部P1が形成される(図3のステップS8)。
そして、結晶径が徐々に拡径されて肩部C1が形成される(図3のステップS9)。
また、コントローラ11は、昇降駆動制御部15aにより昇降駆動部15を駆動制御し、引上げ速度を例えば0.55mm/minに一定とし、製品部分となる直胴部C2を形成する工程に移行する(図3のステップS10)。
【0034】
この直胴部C2の形成の間、コントローラ11は、測定センサ16の測定結果を用いてシリコン単結晶の固化率を求め、この固化率と、シリコン融液面M1の初期高さとに基づき、その時点でのシリコン融液面M1の高さ位置とギャップとを算出する(図3のステップS11)。
そして、ギャップの測定寸法の変動が±0.1mm以内であるかを判断し(図3のステップS12)、満たしていない場合には、その条件を満たすよう昇降装置制御部15aを制御して昇降駆動部15によりルツボ3の高さ位置を調整する(図3のステップS13)。引上工程中においては、ステップS12の条件を満たすように制御がなされ、単結晶の引上げ工程が進行する。
【0035】
所定の長さまで直胴部C2が形成されると(図3のステップS14)、最終のテール部工程に移行する(図3のステップS15)。このテール部工程においては、結晶下端とシリコン融液Mとの接触面積が徐々に小さくなり、単結晶Cとシリコン融液Mとが切り離され、シリコン単結晶が製造される。
【0036】
以上のように、本実施の形態によれば、単結晶引上開始前の輻射シールド下端とシリコン融液面との間の初期ギャップの設定において、ルツボ3をインチング動作により上昇させ、輻射シールド7下端に設けた石英ピン8とシリコン融液Mとが接触した際の、石英ピン8の輝度が大きく変化したときにルツボ3の上昇を停止させる。ここで、輝度の検出は、液面M1上の輝度を検出するのではなく、石英ピン8の輝度を検出するため、誤検出の虞が少なく、精度よい検出結果が得られる。
そして、所望のギャップ値から石英ピン8における既知の長さLを差し引いた高さHだけ、ルツボ3を下降させることにより、精度良く初期ギャップを設定することができる。
その結果、その後の単結晶引上げ工程におけるギャップ制御を高精度に行うことができ、高品質な単結晶の引上げを可能とすることができる。
【0037】
尚、上記実施の形態において、単結晶引上中のギャップ制御において、シリコン融液面M1の高さ位置検出は、単結晶の固化率に基づき算出するものとしたが、本発明にあっては、それに限定されるものではない。例えば、特開2008-189522号公報に開示されるように、シリコン融液面に照射したレーザ光の反射をCCDカメラにより検出し、検出した画像信号を画像処理してシリコン融液の液面高さを求めるようにしてもよい。
また、上記実施の形態において引上げ速度は一定としてあるが、引上げ速度について一定とせずに変動させてもよい。
【0038】
また、前記実施の形態においては、輻射シールド7の下端に、1本の石英ピン8を設けた例について説明したが、さらに石英ピン8に加え、この石英ピン8よりも短い石英ピンを輻射シールド7の下端に設けてもよい。
この場合、単結晶引上中の制御において、シリコン融液Mの減少とともにルツボ3は上昇させる制御をするが、輻射シールド7本体とシリコン融液Mとの接触を防止するために、短いピンがシリコン融液に接触した場合には、ルツボ3の上昇を停止する、或いは下降させる制御を行うようにしてもよい。
【0039】
また、前記実施の形態において、石英ピン8は、径が一定の直胴部8aと、直胴部8aよりも径の大きな円板状の頭部8bとからなるものとしたが、本発明にあっては、その形態に限定されるものではない。
例えば、下方の径が上方の径より小さく(上方の径が下方の径より大きく)形成してもよい。つまり、石英ピン8は、輻射シールド7より下部の直胴部8a(輻射シールド7より下部の第一領域)に比べて、輻射シールド7より上部の頭部8b(輻射シールド7より上部の第二領域)の方が長さ辺りの表面積が大きい場合には、輝度検出計17による輝度の検出がより容易となる(頭部8bの表面積が小さすぎると外乱等の影響をより受けやすくなり、測定精度が下がる)。
【実施例0040】
本発明に係る単結晶引上装置および単結晶引上方法について、実施例に基づきさらに説明する。
【0041】
(実験1)
実験1では、図1に示した単結晶引上装置において、直径32インチの石英ルツボ内に460kgのシリコン原料を充填しシリコン融液を形成した。ルツボ内にシリコン融液を溶融した後、ツルボを上昇させ、シリコン融液と輻射シールド下端に設けた石英ピンとが接触する際の輝度の変化があるかを検証した。
ルツボは、0.05mm単位でインチング動作により上昇させ、そのときの輝度を検出した。
【0042】
この実験1の結果を図4のグラフに示す。図4のグラフにおいて、左側の縦軸は基準値(0mm)に対するルツボ変動(mm)、右側の縦軸は輝度(%)である。なお、縦軸の輝度(%)は、石英ピンがシリコン融液に接触後の最大輝度を100%とした。
図4のグラフに示すように、ルツボを+0.4mm上昇させた位置において、輝度が大きく上昇した。この位置は、目視により、シリコン融液と輻射シールド下端に設けた石英ピンとが接触した位置であった。即ち、シリコン融液と輻射シールド下端に設けた石英ピンとが接触する際に、輝度が大きく上昇することを確認した。
また、図4のグラフから、コントローラが石英ピンとシリコン融液との接触を判定するための閾値は、外乱を拾って誤判定する可能性がほぼ無い輝度50%(石英ピンがシリコン融液と接触する前の基準輝度40%に該基準輝度(40%)の25%の値を加えた値)以上、より確実には60%(石英ピンがシリコン融液と接触する前の基準輝度40%に該基準輝度(40%)の50%の値を加えた値)以上とするのが望ましいことを確認した。
【0043】
(実験2)
(実施例1)
実験2では、実際に10本のシリコン単結晶の引上げを実施した。実施例1では、実験1と同様に、直径32インチの石英ルツボ内に460kgのシリコン原料を充填しシリコン融液を形成した。
本実施の形態にしたがって輻射シールドの下端に石英ピンを設け、輻射シールドと融液面との初期ギャップを設定した。このギャップは50mmとした。
また、炉内圧50torr、アルゴンガスを流量100l/minで流して炉内環境を作った。
そして、ルツボ回転数を1rpm、結晶回転数を7rpm(ルツボ回転とは逆方向)とし、引上げ速度0.6mm/minで結晶径305~310mmを目標として単結晶育成を行った。また、引上中において輻射シールドと融液面とのギャップを50mm±0.1mmとなるよう制御した。
【0044】
この実施例1において、無欠陥となるよう単結晶を10本引き上げた。無欠陥領域の評価として、ボイド(Void)欠陥が存在するV-rich側は、LPD(Light Point Defect)評価の50枚の重ね合わせマップによる群集の有無を確認し、COP(Crystal Originated Particle)の有無を判定した。
【0045】
I-rich側は、Cuデコレーション法により酸素析出物が発生しやすい領域であるB-band領域の有無を判定した。無欠陥結晶としては、COP、B-band領域がともに無い結晶であるものと定義した。
実施例1の結果を表1に示す。表1に示すように、10本の単結晶を評価した結果、10本ともに全長にわたり無欠陥結晶であることを確認した。
【0046】
(比較例1)
比較例1では、鏡像GapによるGap合わせ方法を用いて、無欠陥結晶の引上げを試みた。鏡像Gapは、石英ピンの輝度を検出したものと同じCCDカメラを用いて輻射シールドの実像と融液面に映った鏡像のシールドのエッジを検出し、その差分からギャップを算出した。
比較例1の結果を実施例1の結果とともに表1に示す。10本の単結晶の引上げを行った結果、Cuデコレーション法によるウェーハ評価により、2本で全長にわたるI-defectが検出された。また、2本の結晶内の一部にDSODやLPDの群集モードが観察された。
【0047】
【表1】
【0048】
実施例1の結果、本発明によれば、ギャップばらつきが小さくなり、無欠陥結晶の収率が高いことを確認した。
【符号の説明】
【0049】
1 単結晶ブロック
3 石英ガラスルツボ
4 サイドヒータ
6 ワイヤ
7 輻射シールド
8 石英ピン(ピン部材)
C シリコン単結晶
M シリコン融液
M1 融液面
C シリコン単結晶
C2 直胴部
図1
図2
図3
図4
図5
図6