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特開2024-57949撥水防塵剤、撥水防塵剤用イオン性ワックスエマルジョン、撥水防塵剤の製造方法及び野積み堆積物の発塵及び水分上昇防止方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057949
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】撥水防塵剤、撥水防塵剤用イオン性ワックスエマルジョン、撥水防塵剤の製造方法及び野積み堆積物の発塵及び水分上昇防止方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/22 20060101AFI20240418BHJP
   C09K 23/18 20220101ALI20240418BHJP
   C09K 23/16 20220101ALI20240418BHJP
   C09K 23/02 20220101ALI20240418BHJP
   C09K 23/14 20220101ALI20240418BHJP
   B01J 13/00 20060101ALI20240418BHJP
   C09K 3/18 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
C09K3/22 C
C09K3/22 Z
C09K3/22 D
C09K23/18
C09K23/16
C09K23/02
C09K23/14
B01J13/00 A
C09K3/18 101
C09K3/22 E
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022164957
(22)【出願日】2022-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】増井 之人
【テーマコード(参考)】
4G065
4H020
【Fターム(参考)】
4G065AB01X
4G065AB38Y
4G065BA07
4G065CA03
4G065DA03
4G065FA01
4H020BA02
4H020BA06
(57)【要約】
【課題】従来処理より防塵剤の遮水性を向上させ、水の浸透を長時間にわたって防止することができる撥水防塵剤、撥水防塵剤用イオン性ワックスエマルジョン、撥水防塵剤の製造方法及び野積み堆積物の発塵及び水分上昇防止方法を提供すること。
【解決手段】本発明の撥水防塵剤は、撥水成分であるワックス系成分を含み、前記ワックス系成分をイオン性乳化剤でエマルジョン化したイオン性ワックス系エマルジョンと、防塵成分を含み、前記イオン性ワックス系エマルジョンとのエマルジョン化が可能な特性を有する樹脂エマルジョンとを含有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
撥水成分であるワックス系成分を含み、前記ワックス系成分をイオン性乳化剤でエマルジョン化したイオン性ワックス系エマルジョンと、
防塵成分を含み、前記イオン性ワックス系エマルジョンとのエマルジョン化が可能な特性を有する樹脂エマルジョンと
を含有する撥水防塵剤。
【請求項2】
前記イオン性ワックス系エマルジョンは、前記樹脂エマルジョン100重量部に対して5重量部以上含有する、請求項1に記載の撥水防塵剤。
【請求項3】
前記ワックス系成分は、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス及びペトロラタムから選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の撥水防塵剤。
【請求項4】
前記イオン性乳化剤が、アニオン性乳化剤又はカチオン性乳化剤である、請求項1に記載の撥水防塵剤。
【請求項5】
前記アニオン性乳化剤が、カルボン酸塩型、スルホン酸塩型、硫酸エステル塩型、りん酸エステル塩型またはアシル-N-メチルタウリン塩型の乳化剤である、請求項4に記載の撥水防塵剤。
【請求項6】
前記カチオン性乳化剤としては、アミン塩型または第4級アンモニウム塩型の乳化剤である、請求項4に記載の撥水防塵剤。
【請求項7】
前記樹脂エマルジョンの樹脂が、酢酸ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、アクリル系共重合樹脂、合成ゴム、ウレタン樹脂及びアスファルトから選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の撥水防塵剤。
【請求項8】
前記樹脂エマルジョンの樹脂が、酢酸ビニル‐酢酸ブチル‐アクリル酸エステル共重合体および酢酸ビニル‐アクリル酸エステル共重合体から選択される少なくとも1種である、請求項7に記載の撥水防塵剤。
【請求項9】
ワックス系成分とイオン性乳化剤を含み、前記ワックス系成分を前記イオン性乳化剤によってエマルジョン化してなる、撥水防塵剤用イオン性ワックス系エマルジョン。
【請求項10】
水中に、撥水成分であるワックス系成分を分散させ、その後、イオン性乳化剤を加えてエマルジョン化してイオン性ワックス系エマルジョンを調製する工程と、
防塵成分を含み、前記イオン性ワックス系エマルジョンとのエマルジョン化が可能な特性を有する樹脂エマルジョンと、前記イオン性ワックス系エマルジョンとを混合して、エマルジョン化する工程と
を有する撥水防塵剤の製造方法。
【請求項11】
野積み堆積物の発塵及び水分上昇防止方法において、
請求項1に記載の撥水防塵剤を水で2~5重量%の固形分濃度になるように希釈して散布液を得る工程と、
前記散布液を、前記野積み堆積物の表面積当たり1~5L/mの液量で前記野積み堆積物に散布する工程と、
散布した前記散布液を乾燥することによって、前記野積み堆積物の表面に撥水防止膜を形成する工程と、
を含む、野積み堆積物の発塵及び水分上昇防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば製鉄所、発電所などで野積みされている製鉄原料、発電原料に散布する防塵剤に対し添加することで、従来の防塵剤に比べて遮水性を向上させ、水の浸透を長時間にわたって防ぐことができる撥水防塵剤に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所や発電所、紙パルプ工場などでは、石炭、鉄鉱石、スラグ、ダストなどの粉体を野積みしている。野積みされた粉体からは粉塵が発生し、環境問題となる。また、豪雨等により山崩れ、流炭(石炭の含水率が上がりスラリー状となることで野積み石炭から流れ崩れる現象)などが発生する。さらに、降雨等により野積み石炭に雨水が浸透し、含水率が上昇すると、燃料として使用する際に水分蒸発のために余分なエネルギーを消費させ、経済的に大きな損失を招くと共にCO発生量の増加につながる。原料炭の場合は、コークス製造工程において種々の悪影響を及ぼす。したがって、野積み堆積物の粉塵発生及び含水率上昇を防止する剤は、上記の問題を解決するのに寄与できる。
【0003】
そのような背景から、野積み堆積物の粉塵発生及び含水率上昇を防止する剤の開発が進められている。これまで、従来の素材として、防塵剤は、ポリマー粒子の平均粒子径や粒度を調整した酢酸ビニル-アクリル共重合樹脂、アクリル酸-エステル共重合樹脂がある(例えば特許文献1)。樹脂エマルジョン(防塵剤)に対して撥水剤を混合した剤は、撥水剤として、パラフィンワックスを用いて、防塵剤100重量部に対し撥水剤を3~15重量部含有させた剤がある(例えば特許文献2)。
しかしながら、これらの粉塵発生及び含水率上昇を防止する剤における課題として、水の浸透を防止する効果が弱く、石炭等の野積み堆積物を、降雨強度50mm/hの人工降雨に5時間以上曝露すると、野積み堆積物の表面から内部に水が浸透する。
そのため、長時間の雨による含水率の上昇を防止することができない問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5861535号公報
【特許文献2】特公平6-62971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、以上のような実情に鑑みてなされたものであり、従来の防塵剤に比べて遮水性を向上させ、水の浸透を長時間にわたって防ぐことができる撥水防塵剤、撥水防塵剤用イオン性ワックスエマルジョン、撥水防塵剤の製造方法及び野積み堆積物の発塵及び水分上昇防止方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、防塵剤に対して、乳化剤としてイオン性乳化剤を使用したイオン性ワックス系エマルジョンを添加することで、従来処理より防塵剤の遮水性を向上させ、水の浸透を長時間防止し、含水率の上昇を防止することができることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は、以下のものを提供する。
【0007】
(1)本発明の第1の発明は、撥水成分であるワックス系成分を含み、前記ワックス系成分をイオン性乳化剤でエマルジョン化したイオン性ワックス系エマルジョンと、防塵成分を含み、前記イオン性ワックス系エマルジョンとのエマルジョン化が可能な特性を有する樹脂エマルジョンとを含有する撥水防塵剤である。
【0008】
(2)本発明の第2の発明は、前記イオン性ワックス系エマルジョンは、前記樹脂エマルジョン100重量部に対して5重量部以上含有する、(1)に記載の撥水防塵剤である。
【0009】
(3)本発明の第3の発明は、前記ワックス系成分は、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス及びペトロラタムから選択される少なくとも1種である、(1)又は(2)に記載の撥水防塵剤である。
【0010】
(4)本発明の第4の発明は、前記イオン性乳化剤が、アニオン性乳化剤又はカチオン性乳化剤である、(1)~(3)のいずれかに記載の撥水防塵剤である。
【0011】
(5)本発明の第5の発明は、前記アニオン性乳化剤が、カルボン酸塩型、スルホン酸塩型、硫酸エステル塩型、りん酸エステル塩型またはアシル-N-メチルタウリン塩型の乳化剤である、(4)に記載の撥水防塵剤である。
【0012】
(6)本発明の第6の発明は、前記カチオン性乳化剤としては、アミン塩型または第4級アンモニウム塩型の乳化剤である、(4)に記載の撥水防塵剤である。
【0013】
(7)本発明の第7の発明は、前記樹脂エマルジョンの樹脂が、酢酸ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、アクリル系共重合樹脂、合成ゴム、ウレタン樹脂及びアスファルトから選択される少なくとも1種である、(1)~(6)のいずれかに記載の撥水防塵剤である。
【0014】
(8)本発明の第8の発明は、前記樹脂エマルジョンの樹脂が、酢酸ビニル‐酢酸ブチル‐アクリル酸エステル共重合体、酢酸ビニル‐アクリル酸エステル共重合体から選択される少なくとも1種である、(7)に記載の撥水防塵剤である。
【0015】
(9)本発明の第9の発明は、ワックス系成分とイオン性乳化剤を含み、前記ワックス系成分を前記イオン性乳化剤によってエマルジョン化してなる、撥水防塵剤用イオン性ワックス系エマルジョンである。
【0016】
(10)本発明の第10の発明は、水中に、撥水成分であるワックス系成分を分散させ、その後、イオン性乳化剤を加えてエマルジョン化してイオン性ワックス系エマルジョンを調製する工程と、防塵成分を含み、前記イオン性ワックス系エマルジョンとのエマルジョン化が可能な特性を有する樹脂エマルジョンと、前記イオン性ワックス系エマルジョンとを混合して、エマルジョン化する工程とを有する撥水防塵剤の製造方法である。
【0017】
(11)本発明の第11の発明は、野積み堆積物の発塵及び水分上昇防止方法において、(1)~(8)のいずれかに記載の撥水防塵剤を水で2~5重量%の固形分濃度になるように希釈して散布液を得る工程と、前記散布液を、前記野積み堆積物の表面積当たり1~5L/mの液量で前記野積み堆積物に散布する工程と、散布した前記散布液を乾燥することによって、前記野積み堆積物の表面に撥水防止膜を形成する工程と、を含む、発塵及び水分上昇防止方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、野積みされた粉体に対する遮水性の持続時間が長くなること、及び、水分上昇の防止が達成できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において適宜変更を加えて実施することができる。
【0020】
<野積み堆積物>
本発明において、処理対象とする野積み堆積物とは、石炭、鉱石、コークス、スラグ、ダスト、木くず、ペーパースラッジ等を屋外貯蔵ヤードに山積みされたものをさす。
【0021】
<イオン性ワックス系エマルジョン>
本発明のイオン性ワックス系エマルジョンは、防塵剤に、優れた撥水性を付与した防塵剤であるいわゆる撥水防塵剤の製造に用いるのに好適なイオン性ワックス系エマルジョンである。
このイオン性ワックス系エマルジョンは、ワックス系成分とイオン性乳化剤を含み、ワックス系成分をイオン性乳化剤によってエマルジョン化したものであって、より具体的には、撥水成分であるワックス系成分が、イオン性乳化剤とともに水溶液中に分散している状態で存在している。
【0022】
<ワックス系成分>
ワックス系成分は、撥水性を発揮するワックスであればよく、特に限定されないが、例えばパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス及びペトロラタム等が挙げられる。
【0023】
<イオン性乳化剤>
イオン性ワックス系エマルジョンを構成するイオン性乳化剤は、アニオン性乳化剤及び/又はカチオン性乳化剤であればよく、特に限定されない。
本発明者は、野積み堆積物の発塵を防止しつつ、雨水等の水が野積み堆積物の内部に浸透を遮断して、野積み堆積物中の含水量(水分)が上昇しないようにする特性(遮水性)を付与するための検討を行った。
まず、撥水成分であるワックス系成分をノニオン性乳化剤でエマルジョン化して調製したノニオン性ワックス系エマルジョンを、防塵成分を含む樹脂エマルジョンと混合してエマルジョン化して製造した撥水防塵剤を、石炭の野積み堆積物に散布、乾燥させた後、この野積み堆積物を、降雨強度50mm/hの人工降雨に5時間以上曝露した。その結果、野積み堆積物の表面から内部に水が浸透し、野積み堆積物中の含水量が上昇し、十分な撥水性が得られなかった。
次に、ノニオン性乳化剤の代わりに、アニオン性乳化剤又はカチオン性乳化剤のいずれかのイオン性乳化剤を用いて調製したイオン性ワックス系エマルジョンと、防塵成分を含む樹脂エマルジョンを含有させた撥水防塵剤を、野積み堆積物に散布、乾燥させた後、この野積み堆積物を、降雨強度50mm/hの人工降雨に5時間以上曝露した。その結果、驚くべきことに、積み堆積物の表面に、発塵を防止しつつ遮水性を格段に向上させる撥水防止膜を形成され、積み堆積物の表面から内部への水の浸透が防止され、野積み堆積物中の含水量の上昇が顕著に抑制され、優れた撥水性が得られることが判明した。
このため、本発明の撥水防塵剤は、撥水成分であるワックス系成分をエマルジョン化する乳化剤として、イオン性乳化剤、より具体的には、アニオン性乳化剤またはカチオン性乳化剤を含有することが必要である。
アニオン性乳化剤としては、例えば、カルボン酸塩型、スルホン酸塩型、硫酸エステル塩型、高級アルコールやその酸化エチレン付加物などのりん酸エステル塩型、アシル-N-メチルタウリン塩型などが挙げられる。
カチオン性乳化剤としては、例えば、アミン塩型と第4級アンモニウム塩型などが挙げられる。
【0024】
イオン性乳化剤は、カチオン性乳化剤よりもアニオン性乳化剤の方が、ワックス系成分の乳化能力が高く、比較的少量でワックス系成分をエマルジョン化できるため好ましい。
【0025】
イオン性ワックス系エマルジョン中のワックス系成分の含有量は、特に限定されないが、好ましくは、固形分濃度で30~50重量%が好ましい。また、イオン性ワックス系エマルジョン中のイオン性乳化剤の含有量は、少量でもワックス系成分をエマルジョン化するため、特に限定されないが、好ましくは、固形分濃度で2~5重量%が好ましい。
【0026】
エマルジョン樹脂に対するイオン性ワックス系エマルジョンの含有量は、イオン性ワックス系エマルジョンが少量含有すれば撥水効果が期待できるため特に限定されないが、樹脂エマルジョン100重量部に対して5重量部以上含有することが好ましく、更に好ましくは、7重量部以上であり、最も好ましくは、9重量部以上である。また、前記イオン性ワックス系エマルジョンの含有量の上限は特にないが、好ましくは50重量部以下、更に好ましくは、30重量部以下であり、最も好ましくは、15重量部以下である。前記イオン性ワックス系エマルジョンの含有量が5重量部より少ないと、撥水性の効果が十分でない可能性があり、また、前記イオン性ワックス系エマルジョンの含有量が50重量部より多いと、樹脂エマルジョンの接着性や成膜性等の結着層の形成に悪影響を及ぼす恐れがあるからである。
【0027】
イオン性ワックス系エマルジョンの製造方法は、ワックス系成分とイオン性乳化剤を含み、前記ワックス系成分を前記イオン性乳化剤によってエマルジョン化できるのであれば公知の方法を用いることができる。例えば、水中に、撥水成分であるワックス系成分を分散させ、その後、イオン性乳化剤を加えてエマルジョン化してイオン性ワックス系エマルジョンを調製する方法が挙げられる。
【0028】
<撥水防塵剤>
本発明の撥水防塵剤は、撥水成分であるワックス系成分を含み、前記ワックス系成分をイオン性乳化剤でエマルジョン化したイオン性ワックス系エマルジョンと、防塵成分を含み、前記イオン性ワックス系エマルジョンとのエマルジョン化が可能な特性を有する樹脂エマルジョンとを含有する。
【0029】
<樹脂エマルジョン>
樹脂エマルジョンは、防塵成分を含み、かつ、イオン性ワックス系エマルジョンとのエマルジョン化が可能な特性を有するものであればよく、特に限定されない。なお、ここでいう「エマルジョン化が可能」とは、ワックス系エマルジョンと樹脂エマルジョンとの混合で、分離せず、エマルジョン状態で維持されていることを意味する。エマルジョン化が可能なエマルジョン樹脂は、例えば、酢酸ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、アクリル系共重合樹脂、合成ゴム、ウレタン樹脂及びアスファルトから選択される少なくとも1種で構成されていることが好ましい。
【0030】
エマルジョン樹脂は、特に酢酸ビニル‐酢酸ブチル‐アクリル酸エステル共重合体及び酢酸ビニル‐アクリル酸エステル共重合体から選択される少なくとも1種で構成されていることが、防塵成分として、野積み堆積物との優れた接着性や成膜性等の結着層の形成が容易である点でより好ましい。
【0031】
<撥水防塵剤の製造方法>
撥水防塵剤の製造方法は、水中に、撥水成分であるワックス系成分を分散させ、その後、イオン性乳化剤を加えてエマルジョン化してイオン性ワックス系エマルジョンを調製する工程と、防塵成分を含み、前記イオン性ワックス系エマルジョンとのエマルジョン化が可能な特性を有する樹脂エマルジョンと、前記イオン性ワックス系エマルジョンとを混合して、エマルジョン化する工程とを有することにより製造が可能である。分散及びエマルジョン化する方法は、公知の方法を用いることができる。
【0032】
<野積み堆積物の発塵及び水分上昇防止方法>
野積み堆積物の発塵及び水分上昇防止方法は、本発明の撥水防塵剤を水で2~5重量%の固形分濃度になるように希釈して散布液を得る工程と、前記散布液を、前記野積み堆積物の表面積当たり1~5L/mの液量で前記野積み堆積物に散布する工程と、散布した前記散布液を乾燥することによって、前記野積み堆積物の表面に撥水防止膜を形成する工程と、を含む。
【0033】
<散布液>
散布液は、撥水防塵剤を水で希釈して2~5重量%の固形分濃度に調整できるのであれば、公知の方法で調製可能である固形分濃度が2重量%よりも低いと撥水防塵剤が均一に散布できなくなり、かえって散布量が増えてしまう。また、固形分濃度が5重量%よりも高いと分散液の粘度が高くなりすぎてポンプやノズルに負荷がかかるため好ましくない。
【0034】
<散布方法>
野積み堆積物への本発明の撥水防塵剤の散布方法としては特に制限はなく、散水車から堆積物に向けて散布したり、野積み用スタッカー上から散布したりし、その都度適当なポンプ、ノズルを選定して実施される。
【0035】
また、散布量は、用いた撥水防塵剤や野積み堆積物に要求される粉塵ないしは水分上昇防止の程度により適宜決定されるが、上述の撥水防塵剤を野積み堆積物の表面積当たり、1~5L/m程度散布することが好ましい。
【0036】
その後、散布した散布液を乾燥することによって、野積み堆積物の表面に撥水防止膜を形成する。乾燥方法としては、特に限定はなく、例えば自然乾燥で行うことができる。
【0037】
このようにして形成されるコーティング膜は、膜厚が厚く強固な膜であるため、粉塵防止効果が高い。また、亀裂が入り難く、撥水成分も含んでいることから、水分も浸透しにくく、水分上昇防止効果にも優れる。その結果、流炭防止にも有効である。
【実施例0038】
以下、実施例を示すことにより本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0039】
[実施例1~6、比較例1~5]
実施例1~6において、使用する撥水防塵剤は、樹脂エマルジョンとイオン性ワックス系エマルジョンを100:5又は100:10(固形分重量比)で混合したものを用いた(固形分濃度は4重量%)。比較例1及び4では、ワックス系エマルジョンを使用しなかった。また、比較例2、3及び5では、イオン性ワックス系エマルジョンに代えてノニオン性ワックス系エマルジョンを用いた。これらを用いて、遮水性及び石炭含水率を評価した。
【0040】
[実施例7~10、比較例6~10]
実施例7~10において、使用する撥水防塵剤は、樹脂エマルジョンとイオン性ワックス系エマルジョンを100:10(固形分重量比)で混合したものを用いて(固形分濃度は4重量%)、防塵性を評価した。比較例6では、樹脂エマルジョン及びイオン性ワックス系エマルジョンを用いずに、防塵性を評価した。比較例7及び8では、イオン性ワックス系エマルジョンを用いずに、樹脂エマルジョンのみを使用して防塵性を評価した。また、比較例9及び10では、樹脂エマルジョンを用いず、イオン性ワックス系エマルジョンのみを用いて防塵性を評価した。
【0041】
樹脂エマルジョンは以下のものを使用した。
・酢酸ビニル-酢酸ブチル-アクリル酸エステル共重合体エマルジョン
主成分:酢酸ビニル・酢酸ブチル・アクリル酸2エチルヘキシル共重合体
固形分濃度:35%
粘度:10~400mPa・s
pH:5.0~7.0
・酢酸ビニル-アクリル酸エステル共重合体エマルジョン
主成分:酢酸ビニル-アクリル酸エステル共重合体
固形分濃度:35%
粘度:100~1100mPa・s
pH:6.0~8.0
【0042】
<イオン性ワックス系エマルジョンの調製>
・ワックス 700g
・イオン性乳化剤 100g
を90℃に溶融攪拌し、90℃の水1.2kgを徐々に加えて乳化した。冷却後水を加えて濃度調整し、固形分40重量%の乳化液を得た。この乳化液は粘度14cp(30℃)で、室温静置で1年以上安定であった。
【0043】
<遮水性の評価>
野積み石炭に対する水の遮水性を評価するために、シャーレ(内径85mm、高さ20mm)に石炭を詰め、摺り切って平面にした。この石炭上に表1及び2に示す防塵剤であるエマルジョン樹脂溶液及びエマルジョン樹脂と撥水剤の混合溶液を含む撥水防塵剤を石炭表面の面積当たり2L/mとなるように霧吹きで散布し、室内に1週間静置させて造膜させた。その後、石炭表面に対してピペットで1mLずつ3ヶ所に水滴を垂らした。水滴が蒸発して無くなることを防ぐため、透明な蓋で覆い、全ての水滴が石炭に浸透して目視で確認できなくなるまでの時間を測定し、浸透時間とした。結果を表1及び2に示す。試験に用いたイオン性ワックス系エマルジョンの主成分は、表3に示す。
【0044】
<石炭含水率の評価>
野積み石炭の傾斜面を模擬するために、円筒を斜めに切断した斜面円筒容器(内径75mm、斜面下部高さ83mm、斜面上部高さ140mm、安息角約37゜)を準備した。容器の下部は石炭が流れないよう、30mesh程度の網を設けた。この野積み石炭の傾斜面を模擬した斜面円筒容器に石炭を詰め、傾斜面の石炭上に表4及び5に示す防塵剤であるエマルジョン樹脂溶液及びエマルジョン樹脂と撥水剤の混合溶液を含む撥水防塵剤を石炭表面の面積当たり2L/mとなるように霧吹きで散布し、室内に1週間静置させて造膜させた。その後、人工降雨装置内にこの円筒容器を設置した。
用いた人工降雨装置は、天井に設置された針より水滴を垂らすもので、均一な降雨が再現できる装置である。本試験では50mm/hrの降雨量にて、7時間の試験時間とし、試験後の石炭の含水率を斜面円筒容器の重量変化により測定し、降雨後の含水率と降雨前の含水率の差を比較した。結果を表4及び5に示す。試験に用いたイオン性ワックス系エマルジョンの主成分は、表3に示す。
【0045】
<防塵性の評価>
野積み石炭に対する水の遮水性を評価するために、シャーレ(内径85mm、高さ20mm)に石炭を詰め、摺り切って平面にした。この石炭上に表6に示す防塵剤であるエマルジョン樹脂溶液及びエマルジョン樹脂と撥水剤の混合溶液を含む撥水防塵剤を石炭表面の面積当たり2L/mとなるように霧吹きで散布し、室内に1週間静置させて造膜させた。
1週間後、送風前のサンプル重量を測定し、風速条件10m/sで送風機を用いて5分間風を当てた後、サンプル重量を測定した。送風前後のサンプル重量から、以下の式で飛散率を算出した。
・飛散率(%)=(送風前重量-送風後重量)/送風前重量×100
結果を表6に示す。試験に用いたイオン性ワックス系エマルジョンの主成分は、表3に示す。
【0046】
上述の評価方法は、実際の野積み堆積物の粉塵発生及び含水率上昇の現象を実験室で再現したものであり、ここでの結果は、実際の野積み堆積物においても効果が立証されているものである。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
【表4】
【0051】
【表5】
【0052】
【表6】
【0053】
イオン性ワックス系エマルジョンと樹脂エマルジョンの併用処理を行った石炭に対する水の浸透時間は(表1及び2の実施例1~6)、イオン性ワックス系エマルジョンと樹脂エマルジョンの併用処理を行わなかった場合に比べて(表1及び2の比較例1~5)、大幅に向上することが明らかとなった。また、イオン性ワックス系エマルジョンと樹脂エマルジョンの併用処理を行った降雨後の含水率と降雨前の含水率の差は(表4及び5の実施例1、3、5及び6)、イオン性ワックス系エマルジョンに代えて、ノニオン性ワックス系エマルジョンと樹脂エマルジョンの併用処理を行った石炭に対する水の降雨後の含水率と降雨前の含水率の差と比べても(表4及び5の比較例2及び5)、大幅に改善した。特に、イオン性ワックス系エマルジョンとしてアニオン性乳化剤を用いた場合が、その効果は顕著であった(表1、2、4及び5の実施例1、2及び5)。なお、ワックス成分を事前にイオン性乳化剤でエマルジョン化することが、石炭に対する水の浸透時間等の改善効果にはより有効であると考えられる。これは、ワックス成分がイオン性乳化剤でエマルジョン化されることにより、樹脂エマルジョンにワックス成分とイオン性乳化剤を一緒に混ぜた場合よりもより均一に防塵剤にワックス成分が分散することが期待できるからである。また、防塵性については、イオン性ワックス系エマルジョンのみを添加した比較例7及び8(飛散率0.1~0.2%)と比較して、防塵剤に撥水剤としてカチオン系ワックスエマルジョンを添加した実施例7~10(飛散率0.1~0.2%)も撥水剤を添加せずに樹脂エマルジョンのみを添加した比較例7及び8と同等の性能を示した。なお、樹脂エマルジョン及びイオン性ワックス系エマルジョンを添加しない比較例6(飛散率80%)及び樹脂エマルジョンを添加せずにイオン性ワックス系エマルジョンのみを添加した比較例9及び10(飛散率80~81%)は、防塵性の効果を示さないことが明らかとなった。以上のことから、イオン性ワックス系エマルジョンを樹脂エマルジョンと併用しても、防塵性の性能は、従来の防塵剤として用いられる樹脂エマルジョンと同等の性能を示すことが明らかである。このことから、本発明の撥水防塵剤は、防塵性能を落とさず、従来の防塵剤に比べて遮水性を向上させ、水の浸透を長時間にわたって防ぐことができるという効果を奏する。
【0054】
本発明によれば、防塵性能を落とさず、イオン性ワックス系エマルジョンと防塵剤の併用処理を行った石炭に対する水の浸透時間は、樹脂エマルジョンの単独処理より20時間以上長くなるだけでなく、イオン性ワックス系エマルジョンと樹脂エマルジョンの併用処理を行った石炭に対する水の浸透時間は、ノニオン性ワックス系エマルジョンと樹脂エマルジョンの併用処理より15時間以上長くなるという効果を奏するものである。また、樹脂エマルジョンの単独処理は、降雨後と前の石炭含水率の差が4.8~24.1であったが、イオン性ワックス系エマルジョンと防塵剤の併用処理は、0.6~3.1であり、含水率の上昇が抑制されている。樹脂エマルジョンとノニオン性ワックス系エマルジョン併用処理の場合は、降雨後と前の石炭含水率の差4.4~4.7であったが、樹脂エマルジョンとイオン性ワックス系エマルジョンの併用処理は、0.6~3.1であり、含水率の上昇が抑制されているという効果も奏するものである。
【手続補正書】
【提出日】2024-01-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン性乳化剤および撥水成分であるワックス系成分を含み、かつノニオン性乳化剤を含まず、前記ワックス系成分を前記イオン性乳化剤でエマルジョン化したイオン性ワックス系エマルジョンと、
発塵防止成分を含み、前記イオン性ワックス系エマルジョンとのエマルジョン化が可能な特性を有する樹脂エマルジョンと
を含有する撥水発塵防止剤。
【請求項2】
前記イオン性ワックス系エマルジョンは、前記樹脂エマルジョン100重量部に対して5重量部以上含有する、請求項1に記載の撥水発塵防止剤。
【請求項3】
前記ワックス系成分は、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス及びペトロラタムから選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の撥水発塵防止剤。
【請求項4】
前記イオン性乳化剤が、アニオン性乳化剤又はカチオン性乳化剤である、請求項1に記載の撥水発塵防止剤。
【請求項5】
前記アニオン性乳化剤が、カルボン酸塩型、スルホン酸塩型、硫酸エステル塩型、りん酸エステル塩型またはアシル-N-メチルタウリン塩型の乳化剤である、請求項4に記載の撥水発塵防止剤。
【請求項6】
前記カチオン性乳化剤としては、アミン塩型または第4級アンモニウム塩型の乳化剤である、請求項4に記載の撥水発塵防止剤。
【請求項7】
前記樹脂エマルジョンの樹脂が、酢酸ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、アクリル系共重合樹脂、合成ゴム、ウレタン樹脂及びアスファルトから選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の撥水発塵防止剤。
【請求項8】
前記樹脂エマルジョンの樹脂が、酢酸ビニル‐酢酸ブチル‐アクリル酸エステル共重合体および酢酸ビニル‐アクリル酸エステル共重合体から選択される少なくとも1種である、請求項7に記載の撥水発塵防止剤。
【請求項9】
ワックス系成分とイオン性乳化剤を含み、かつノニオン性乳化剤を含まず、前記ワックス系成分を前記イオン性乳化剤によってエマルジョン化してなる、撥水発塵防止剤用イオン性ワックス系エマルジョン。
【請求項10】
水中に、撥水成分であるワックス系成分を分散させ、その後、イオン性乳化剤を加えてエマルジョン化して、前記イオン性乳化剤および前記ワックス系成分を含み、かつノニオン性乳化剤を含まないイオン性ワックス系エマルジョンを調製する工程と、
発塵防止成分を含み、前記イオン性ワックス系エマルジョンとのエマルジョン化が可能な特性を有する樹脂エマルジョンと、前記イオン性ワックス系エマルジョンとを混合して、エマルジョン化する工程と
を有する撥水発塵防止剤の製造方法。
【請求項11】
野積み堆積物の発塵及び水分上昇防止方法において、
請求項1に記載の撥水発塵防止剤を水で2~5重量%の固形分濃度になるように希釈して散布液を得る工程と、
前記散布液を、前記野積み堆積物の表面積当たり1~5L/mの液量で前記野積み堆積物に散布する工程と、
散布した前記散布液を乾燥することによって、前記野積み堆積物の表面に撥水防止膜を形成する工程と、
を含む、野積み堆積物の発塵及び水分上昇防止方法。