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特開2024-579813-メチル-1-ブテン系共重合体及びその製造方法、並びに、3-メチル-1-ブテン系共重合体組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024057981
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】3-メチル-1-ブテン系共重合体及びその製造方法、並びに、3-メチル-1-ブテン系共重合体組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 210/14 20060101AFI20240418BHJP
   C08L 23/20 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
C08F210/14
C08L23/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165026
(22)【出願日】2022-10-13
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲田 翼
(72)【発明者】
【氏名】村田 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】松原 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 悠
【テーマコード(参考)】
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
4J002BB171
4J100AA02Q
4J100AA03Q
4J100AA04Q
4J100AA09P
4J100AA15Q
4J100AA16Q
4J100AA18Q
4J100AS15Q
4J100CA04
4J100DA09
4J100DA24
4J100DA51
4J100FA18
4J100FA34
4J100FA41
4J100JA00
(57)【要約】
【課題】優れた耐熱性を有しつつ、加工時の熱劣化を抑えることができ、靭性と強度とが両立された3-メチル-1-ブテン系共重合体及び3-メチル-1-ブテン系共重合体組成物、並びに、上記3-メチル-1-ブテン系共重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】3-メチル-1-ブテン系共重合樹脂を含有し、融点が265.0~290.0℃であり、JIS K 7161-1:2014に準拠して測定される破断伸度X(%)及び降伏強度Y(MPa)が下記式(1)を満たす、3-メチル-1-ブテン系共重合体。
Y>(-X/16)+42.5 式(1)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
3-メチル-1-ブテン系共重合樹脂を含有し、
融点が265.0~290.0℃であり、
JIS K 7161-1:2014に準拠して測定される破断伸度X(%)及び降伏強度Y(MPa)が下記式(1)を満たす、
3-メチル-1-ブテン系共重合体。
Y>(-X/16)+42.5 式(1)
【請求項2】
前記3-メチル-1-ブテン系共重合樹脂が、多段重合法によって得られる樹脂であり、
前記多段重合法が、第一工程及び第二工程を含み、
前記第一工程において、320℃で測定したキャピログラフによるせん断速度1216sec-1の時の溶融粘度が100~200Pa・sである3-メチル-1-ブテン系共重合樹脂を製造し、
前記第二工程において、第一工程で製造された3-メチル-1-ブテン系共重合樹脂をさらに重合してなる、
請求項1に記載の3-メチル-1-ブテン系共重合体。
【請求項3】
前記3-メチル-1-ブテン系共重合樹脂が、3-メチル-1-ブテンと炭素数2~20のα-オレフィンとの共重合体である、請求項1又は2に記載の3-メチル-1-ブテン系共重合体。
【請求項4】
前記3-メチル-1-ブテン系共重合体における、前記α-オレフィンに由来する構造単位の含有割合が、0モル%超20モル%以下である、請求項3に記載の3-メチル-1-ブテン系共重合体。
【請求項5】
3-メチル-1-ブテンを用い、前記3-メチル-1-ブテンの初期仕込み体積を基準とした単位体積当たりの水素流量を0.01~75mL/(h・L)として、水素を連続供給し重合する第一工程、及び
第一工程において用いた3-メチル-1-ブテンの初期仕込み体積を基準とした単位体積当たりの水素流量を50~1000mL/(h・L)として、水素を連続供給し重合する第二工程を含み、
第一工程の前記水素流量と第二工程の前記水素流量とが異なる、3-メチル-1-ブテン系共重合体の製造方法。
【請求項6】
3-メチル-1-ブテン系共重合樹脂を含有し、
融点が265.0~290.0℃であり、
JIS K 7161-1:2014に準拠して測定される破断伸度X(%)及び降伏強度Y(MPa)が下記式(1)を満たす、3-メチル-1-ブテン系共重合体組成物。
Y>(-X/16)+42.5 式(1)
【請求項7】
320℃で測定したキャピログラフによるせん断速度1216sec-1の時の溶融粘度が100~200Pa・sである、少なくとも1種の前記3-メチル-1-ブテン系共重合樹脂を配合してなる、請求項6に記載の3-メチル-1-ブテン系共重合体組成物。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか1項に記載の3-メチル-1-ブテン系共重合体と、請求項6又は請求項7に記載の3-メチル-1-ブテン系共重合体組成物とからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3-メチル-1-ブテン系共重合体及びその製造方法、並びに、3-メチル-1-ブテン系共重合体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
3-メチル-1-ブテン系重合体は、305℃程度の融点を有し得る高融点ポリオレフィンとして広く知られている。そのため、3-メチル-1-ブテン系重合体は加工温度が高くなり、加工時に樹脂が劣化するおそれがある。加工時に樹脂が劣化するのを回避するため、3-メチル-1-ブテン系重合体の融点を下げて、加工温度域を広げる技術が知られている。例えば、共重合により重合体の融点を下げるといった工夫がなされている(例えば、特許文献1)。しかしながら、3-メチル-1-ブテン系重合体を共重合体とすることにより、融点降下とともに引張伸度にみられる靭性は改善されるものの、引張強度といった力学特性が低下する問題が生じていた。
【0003】
一方、重合体の靭性と強度を両立する方法としては、例えば、共重合組成を変えた組成物を得る多段重合法が知られている(例えば、特許文献2)。
特許文献2は、ビカット軟化点に表わされる耐熱性・延伸性、耐衝撃強度及び引裂強度等の機械的強度が優れることを目的として、融解熱が異なる3種類の3-メチル-1-ブテン系重合体からなる組成物等を開示しており、当該組成物が3段重合法によって製造されることを開示している。
また、重合体の靭性と強度を両立する別の方法としては、例えば、水素の多段添加が知られている(例えば、特許文献3~5)。
特許文献3は、エチレンの単独重合又はエチレンとα-オレフィンとの共重合を行うに際し、水素の存在下、重合反応を2段階で行う重合法を開示している。当該重合反応の各段階では、水素の添加量を変えることによって粘度平均分子量の異なる重合体をそれぞれ得ている。
また、特許文献4は、高流動性、高融点、高結晶性ポリプロピレンを開示している。具体的には、特許文献4は、上記ポリプロピレンが、好ましくは高流動性かつ高立体規則性のポリプロピレン成分Aと低流動性かつ高立体規則性のポリプロピレン成分Bとからなり、ポリプロピレン成分Aとポリプロピレン成分Bを、水素の添加量を変えながら多段重合により製造できることを開示している。
また、特許文献5は、極限粘度の異なる2種又は2種以上の分岐α-オレフィン系重合体を含有する組成物を、多段階の重合工程により製造する方法を開示しており、各段階で水素の添加量を変えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61-103910号公報
【特許文献2】特開昭64-143号公報
【特許文献3】特開昭56-22304号公報
【特許文献4】特開平6-329726号公報
【特許文献5】特開昭63-20307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2の3-メチル-1-ブテン系重合体からなる組成物は、延伸性や耐衝撃強度及び引裂強度等の機械的強度に優れるが、融点の降下は十分でない。また、特許文献2の技術では、重合体の透明性も低下する傾向にある。
特許文献3では、3-メチル-1-ブテンをモノマーとして用いる重合体の検討は行われていない。特許文献4,5には、3-メチル-1-ブテンをモノマーとして用い得る記載はあるものの、これを用いた実施例及びその効果について具体的な開示はない。
そこで本発明は、優れた耐熱性を有しつつ、加工時の熱劣化を抑えることができ、靭性と強度とが両立された3-メチル-1-ブテン系共重合体及び3-メチル-1-ブテン系共重合体組成物、並びに、上記3-メチル-1-ブテン系共重合体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者らは下記本発明に想到し、当該課題を解決できることを見出した。
すなわち、本発明は下記のとおりである。
【0007】
[1] 3-メチル-1-ブテン系共重合樹脂を含有し、融点が265.0~290.0℃であり、JIS K 7161-1:2014に準拠して測定される破断伸度X(%)及び降伏強度Y(MPa)が下記式(1)を満たす、3-メチル-1-ブテン系共重合体。
Y>(-X/16)+42.5 式(1)
[2] 上記3-メチル-1-ブテン系共重合樹脂が、多段重合法によって得られる樹脂であり、
上記多段重合法が、第一工程及び第二工程を含み、
上記第一工程において、320℃で測定したキャピログラフによるせん断速度1216sec-1の時の溶融粘度が100~200Pa・sである3-メチル-1-ブテン系共重合樹脂を製造し、
上記第二工程において、第一工程で製造された3-メチル-1-ブテン系共重合樹脂をさらに重合してなる、上記[1]に記載の3-メチル-1-ブテン系共重合体。
[3] 上記3-メチル-1-ブテン系共重合樹脂が、3-メチル-1-ブテンと炭素数2~20のα-オレフィンとの共重合体である、上記[1]又は[2]に記載の3-メチル-1-ブテン系共重合体。
[4] 上記3-メチル-1-ブテン系共重合体における、上記α-オレフィンに由来する構造単位の含有割合が、0モル%超20モル%以下である、上記[3]に記載の3-メチル-1-ブテン系共重合体。
[5] 3-メチル-1-ブテンを用い、上記3-メチル-1-ブテンの初期仕込み体積を基準とした単位体積当たりの水素流量を0.01~75mL/(h・L)として、水素を連続供給し重合する第一工程、及び
第一工程において用いた3-メチル-1-ブテンの初期仕込み体積を基準とした単位体積当たりの水素流量を50~1000mL/(h・L)として、水素を連続供給し重合する第二工程を含み、
第一工程の前記水素流量と第二工程の前記水素流量とが異なる、3-メチル-1-ブテン系共重合体の製造方法。
[6] 3-メチル-1-ブテン系共重合樹脂を含有し、融点が265.0~290.0℃であり、JIS K 7161-1:2014に準拠して測定される破断伸度X(%)及び降伏強度Y(MPa)が下記式(1)を満たす、3-メチル-1-ブテン系共重合体組成物。
Y>(-X/16)+42.5 式(1)
[7] 320℃で測定したキャピログラフによるせん断速度1216sec-1の時の溶融粘度が100~200Pa・sである、少なくとも1種の上記3-メチル-1-ブテン系共重合樹脂を配合してなる、上記[6]に記載の3-メチル-1-ブテン系共重合体組成物。
[8] 上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の3-メチル-1-ブテン系共重合体と、上記[6]又は[7]に記載の3-メチル-1-ブテン系共重合体組成物とからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む樹脂組成物。
【0008】
さらに下記の実施形態も好ましい。
[9] 上記3-メチル-1-ブテン系共重合樹脂が、3-メチル-1-ブテンと炭素数2~20のα-オレフィンとの共重合体である、上記[6]又は[7]に記載の3-メチル-1-ブテン系共重合体組成物。
[10] 上記3-メチル-1-ブテン系共重合組成物における、上記α-オレフィンに由来する構造単位の含有割合が、0モル%超20モル%以下である、上記[9]に記載の3-メチル-1-ブテン系共重合体組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた耐熱性を有しつつ、加工時の熱劣化を抑えることができ、靭性と強度とが両立された3-メチル-1-ブテン系共重合体及び3-メチル-1-ブテン系共重合体組成物、並びに、上記3-メチル-1-ブテン系共重合体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態の一例に基づいて説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための例示であって、本発明は以下の記載に限定されない。
また本明細書において、実施形態の好ましい形態を示すが、個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、好ましい形態である。数値範囲で示した事項について、いくつかの数値範囲がある場合、それらの下限値と上限値とを選択的に組み合わせて好ましい形態とすることができる。
なお、本明細書において、「XX~YY」との数値範囲の記載がある場合、「XX以上YY以下」を意味する。
【0011】
本実施形態の3-メチル-1-ブテン系共重合体は、3-メチル-1-ブテン系共重合樹脂を含有し、融点が265.0~290.0℃であり、JIS K 7161-1:2014に準拠して測定される破断伸度X(%)及び降伏強度Y(MPa)が下記式(1)を満たすことを特徴とする。
Y>(-X/16)+42.5 式(1)
また、本実施形態の3-メチル-1-ブテン系共重合体組成物(以下、「共重合体組成物」ともいう。)は、3-メチル-1-ブテン系共重合樹脂を含有し、融点が265.0~290.0℃であり、JIS K 7161-1:2014に準拠して測定される破断伸度X(%)及び降伏強度Y(MPa)が下記式(1)を満たすことを特徴とする。
Y>(-X/16)+42.5 式(1)
本実施形態の3-メチル-1-ブテン系共重合体及び共重合体組成物は、上記式(1)を満たすことによって、靭性と強度との両立を実現できる。即ち、上記3-メチル-1-ブテン系共重合体及び共重合体組成物は、引張強度といった力学特性が高く、成形部材として有用であり、かつ、引張伸度にみられる靭性、及び成形品の耐衝撃性に優れることが期待できる。また、上記3-メチル-1-ブテン系共重合体及び共重合体組成物は、融点が特定の範囲を有することによって、優れた耐熱性を有しつつ、加工時の熱劣化を抑えることができる。即ち、上記3-メチル-1-ブテン系共重合体及び共重合体組成物は、優れた耐熱性を有しつつ幅広い加工温度で容易に成形でき、加えて溶融混錬時に分解ガスが抑制され成形性に優れることも期待できる。
なお、本実施形態において、「3-メチル-1-ブテン系共重合体」は、同一重合反応器内で一連の重合反応によって製造される重合物であって、3-メチル-1-ブテンと不飽和炭化水素との共重合体を2種以上含有する重合物を意味する。また、「3-メチル-1-ブテン系共重合体組成物」は、それぞれの重合反応器で製造される3-メチル-1-ブテンと不飽和炭化水素との共重合体を2種以上配合してなる組成物を意味する。また、「3-メチル-1-ブテン系共重合樹脂」(以下、「共重合樹脂」ともいう。)は、上記3-メチル-1-ブテン系共重合体及び3-メチル-1-ブテン系共重合体組成物に含まれる、3-メチル-1-ブテンと不飽和炭化水素との共重合体を意味する。
【0012】
<3-メチル-1-ブテン系共重合体及び共重合体組成物>
[融点]
3-メチル-1-ブテン系共重合体及び共重合体組成物は、融点が265.0~290.0℃である。
3-メチル-1-ブテン系共重合体及び共重合体組成物の融点が265.0℃未満の場合、耐熱性が不十分になる。3-メチル-1-ブテン系共重合体及び共重合体組成物の融点が290.0℃を超える場合、加工温度を高くする必要があり、加工時の熱劣化が著しくなるおそれがある。
より一層優れた耐熱性と幅広い加工温度のバランスを得やすい観点から、3-メチル-1-ブテン系共重合体及び共重合体組成物の融点は、好ましくは270.0~290.0℃、より好ましくは275.0~290.0℃である。
上記融点は、3-メチル-1-ブテン以外のモノマーの種類やその含有割合、及び結晶核剤や結晶遅延剤等の結晶性制御添加剤の添加及びその添加割合等により調整することができる。
上記融点は、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0013】
[式(1)]
3-メチル-1-ブテン系共重合体及び共重合体組成物は、JIS K 7161-1:2014に準拠して測定される破断伸度X(%)及び降伏強度Y(MPa)が、下記式(1)を満たす。
Y>(-X/16)+42.5 式(1)
3-メチル-1-ブテン系共重合体及び共重合体組成物が上記式(1)を満たさない場合、成形体の機械物性バランスが悪く、強度及び耐衝撃性の両方、又はいずれかが不十分である。
上記式(1)は、実施例及び比較例に基づき、成形体の靭性と強度とのバランスから導き出された式である。具体的には、実施例及び比較例で得られた破断伸度及び降伏伸度の数値を用いて、横軸を破断伸度、縦軸を降伏強度とし、破断伸度及び降伏伸度の両方に優れるプロットから直線とその傾きを求め式(1)とした。
なお、3-メチル-1-ブテン系共重合体及び共重合体組成物は、通常、融点を下げようとすると、靭性は良好になるが、強度は低下する傾向にある。しかし、本実施形態の3-メチル-1-ブテン系共重合体及び共重合体組成物は、上述の融点を有しながらも、式(1)を満たすことで靭性と強度のバランスに優れることを実現できる。
【0014】
3-メチル-1-ブテン系共重合体及び共重合体組成物の破断伸度Xの下限値は、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは15%以上である。また、破断伸度Xの上限値は、好ましくは200%以下、より好ましくは100%以下、さらに好ましくは50%以下、よりさらに好ましくは35%以下である。すなわち、破断伸度Xは好ましくは5~200%である。
上記破断伸度Xは、重合反応における水素やコモノマーの添加量、添加時間及びそのタイミング、並びに添加手法等により調整することができる。
【0015】
3-メチル-1-ブテン系共重合体及び共重合体組成物の降伏強度Yは、好ましくは35~50MPa、より好ましくは40~50MPaである。
上記降伏強度Yは、重合反応における水素やコモノマーの添加量、添加時間及びそのタイミング、並びに添加手法等により調整することができる。
上記破断伸度X及び降伏強度Yは、JIS K 7161-1:2014に準拠して測定され、より具体的には実施例に記載の方法で測定することができる。なお、実施例において、破断伸度及び降伏強度を測定する際に、3-メチル-1-ブテン系共重合体及び共重合体組成物にアルキルラジカル捕捉剤及び酸化防止剤といった添加剤を添加して試験片を作製する。3-メチル-1-ブテン系重合体は、溶剤に溶けにくく且つ高融点を有するため、高温加工による熱劣化を受けやすい。よって、試験片を作製する際に、上記熱劣化を防ぐために上記添加剤を添加する。
【0016】
[溶融粘度]
3-メチル-1-ブテン系共重合体及び共重合体組成物は、320℃で測定したキャピログラフによるせん断速度1216sec-1の時の溶融粘度が、好ましくは30~300Pa・s、より好ましくは50~150Pa・sである。3-メチル-1-ブテン系共重合体及び共重合体組成物の溶融粘度が上記数値範囲であれば、成形加工性と機械物性のバランスが良い3-メチル-1-ブテン系共重合体及び共重合体組成物となり好ましい。
本実施形態において、溶融粘度は、実施例に記載の方法で測定することができる。なお、実施例において、3-メチル-1-ブテン系共重合体、共重合体組成物、及び共重合樹脂の溶融粘度を測定する際に、アルキルラジカル捕捉剤及び酸化防止剤といった添加剤を添加する。3-メチル-1-ブテン系重合体は、溶剤に溶けにくく且つ高融点を有するため、溶融粘度の測定において熱劣化し、溶融粘度が変化するおそれがある。そのため、本来の溶融粘度を測定するために、上記添加剤によって3-メチル-1-ブテン系共重合体、共重合体組成物、及び共重合樹脂を熱安定化させ、溶融粘度の変化を防いでいる。
【0017】
[共重合樹脂]
共重合樹脂は、3-メチル-1-ブテン系共重合体及び共重合体組成物に含まれる3-メチル-1-ブテンと不飽和炭化水素との共重合体である。
上記不飽和炭化水素は、例えば、α-オレフィンが挙げられる。
3-メチル-1-ブテンの物性を好適に発揮させることができ、共重合性が良い観点から、共重合樹脂は、好ましくは3-メチル-1-ブテンと炭素数2~20のα-オレフィンとの共重合体である。
【0018】
3-メチル-1-ブテン系共重合体及び共重合体組成物におけるα-オレフィンに由来する構造単位の含有割合は、好ましくは0モル%超20モル%以下である。
α-オレフィンの物性を好適に発揮させる観点から、3-メチル-1-ブテン系共重合体及び共重合体組成物における、α-オレフィンに由来する構造単位の含有割合は、より好ましくは0.1モル%以上、さらに好ましくは0.5モル%以上である。
また、3-メチル-1-ブテンの物性を好適に維持する観点から、3-メチル-1-ブテン系共重合体及び共重合体組成物における、α-オレフィンに由来する構造単位の含有割合は、より好ましくは15モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下である。
なお、3-メチル-1-ブテン系共重合体及び共重合体組成物における、α-オレフィンに由来する構造単位の含有割合は、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)によって求めることができる。具体的には、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0019】
3-メチル-1-ブテンの物性を好適に発揮させる観点から、炭素数2~20のα-オレフィンは、好ましくは炭素数4~16のα-オレフィン、より好ましくは炭素数4~12のα-オレフィンである。また、炭素数2~20のα-オレフィンは、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。
【0020】
炭素数2~20のα-オレフィンは、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-へキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン、ビニルシクロヘキセン、ビニルノルボルナン等が挙げられる。
炭素数2~20のα-オレフィンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
<3-メチル-1-ブテン系共重合体の製造方法>
[多段重合法]
本実施形態の3-メチル-1-ブテン系共重合体は、同一重合反応器内で一連の重合反応によって製造される重合物であって、3-メチル-1-ブテンと不飽和炭化水素との共重合体を2種以上含有する重合物であり、例えば、多段重合法により製造することができる。上記「3-メチル-1-ブテンと不飽和炭化水素との共重合体」は、上記共重合樹脂と同義である。すなわち、多段重合法によって、同一重合反応器内で行われる一連の重合反応により、2種以上の共重合樹脂を含有する重合物(3-メチル-1-ブテン系共重合体)を製造することができる。
好ましい本実施形態の一例は、上記共重合樹脂が多段重合法における各工程において得られる樹脂であり、当該多段重合法が、第一工程及び第二工程を含み、第一工程において、320℃で測定したキャピログラフによるせん断速度1216sec-1の時の溶融粘度が100~200Pa・sである3-メチル-1-ブテン系共重合樹脂を製造し、第二工程において、第一工程で製造された3-メチル-1-ブテン系共重合樹脂をさらに重合してなる3-メチル-1-ブテン系共重合体である。
なお、上記多段重合法は、上記第一工程及び第二工程の2段に限定されず、3段以上の重合工程を有していてもよい。
【0022】
第一工程において製造される共重合樹脂の溶融粘度が100~200Pa・sであることにより、機械強度と耐衝撃性のバランスに優れ好ましい。
機械強度と耐衝撃性のバランスの観点から、第一工程において製造される共重合樹脂の溶融粘度は、より好ましくは120~200Pa・s、さらに好ましくは120~180Pa・sである。
第二工程において、第一工程で製造された共重合樹脂をさらに重合することにより、第一工程で製造された共重合樹脂中に、第二工程で製造された共重合樹脂を分散させることができる。この時、第一工程と第二工程における水素等の分子量調整剤の供給量を調整することにより、溶融粘度等の物性が異なる3-メチル-1-ブテン系共重合樹脂を各工程において製造することができる。
なお、第二工程で製造される共重合樹脂単独の溶融粘度を特定することは困難である。これは、第二工程で製造される共重合樹脂には、第一工程で製造された共重合樹脂が必ず含まれてしまうためである。
【0023】
(水素流量)
上記多段重合法は、第一工程及び第二工程において水素の供給量を調整することが好ましい。
すなわち、本実施形態の3-メチル-1-ブテン系共重合体の製造方法は、3-メチル-1-ブテンを用い、3-メチル-1-ブテンの初期仕込み体積を基準とした単位体積当たりの水素流量を0.01~75mL/(h・L)として、水素を連続供給し重合する第一工程、及び、第一工程において用いた3-メチル-1-ブテンの初期仕込み体積を基準とした単位体積当たりの水素流量を50~1000mL/(h・L)として、水素を連続供給し重合する第二工程を含み、第一工程の上記水素流量と第二工程の上記水素流量とが異なることを特徴とする。
【0024】
第一工程における3-メチル-1-ブテンの初期仕込み体積を基準とした単位体積当たりの水素流量が0.01~75mL/(h・L)であることにより、反応性及び機械物性のバランスに優れ好ましい。
反応性及び機械物性のバランスの観点から、第一工程における上記水素流量は、より好ましくは1~75mL/(h・L)、さらに好ましくは1~65mL/(h・L)である。
第二工程における第一工程において用いた3-メチル-1-ブテンの初期仕込み体積を基準とした単位体積当たりの水素流量が50~1000mL/(h・L)であることにより、反応性及び機械物性のバランスに優れ好ましい。
反応性及び機械物性のバランスの観点から、第二工程における上記水素流量は、より好ましくは50~500mL/(h・L)、さらに好ましくは65~500mL/(h・L)である。反応性及び機械物性のバランスの観点から、第二工程の水素流量は、第一工程の水素流量よりも大きいことがより好ましい。
多段重合法において、後述する触媒及び重合条件を好ましく用いることができる。
【0025】
<共重合体組成物の製造方法>
[2種以上の共重合樹脂の混合法]
本実施形態の3-メチル-1-ブテン系共重合体組成物は、それぞれの重合反応器で製造される3-メチル-1-ブテンと不飽和炭化水素との共重合体を2種以上配合してなる組成物である。上記「3-メチル-1-ブテンと不飽和炭化水素との共重合体」は、上記共重合樹脂と同義である。共重合体組成物は、例えば、別々の重合反応器で製造した2種以上の上記共重合樹脂を混合することにより製造することができる。上記混合は、例えば、2種以上の共重合樹脂の粉体又はペレットを単に混合してもよく、これらを溶融混錬して混合してもよい。
【0026】
上記混合法において、2種以上の共重合樹脂は、溶融粘度が異なることが好ましい。
具体的には、本実施形態の3-メチル-1-ブテン系共重合体組成物は、320℃で測定したキャピログラフによるせん断速度1216sec-1の時の溶融粘度が100~200Pa・sである3-メチル-1-ブテン系共重合樹脂の少なくとも1種を配合してなることが好ましい。
混合法において、2種以上の共重合樹脂のうち、少なくとも1種の共重合樹脂の上記溶融粘度が100~200Pa・sであることにより、機械強度と耐衝撃性のバランスに優れ好ましい。機械強度と耐衝撃性のバランスの観点から、少なくとも1種の共重合樹脂の上記溶融粘度は、より好ましくは120~200Pa・s、さらに好ましくは120~180Pa・sである。
【0027】
また、混合法において、2種以上の共重合樹脂のうち、上記「溶融粘度が100~200Pa・sである3-メチル-1-ブテン系共重合樹脂」とは異なる、少なくとも1種の共重合樹脂の上記溶融粘度は、好ましくは10~150Pa・s、より好ましくは30~150Pa・s、さらに好ましくは30~140Pa・sである。上記溶融粘度が10~150Pa・sであることにより、成形時の加工性に優れやすくなり好ましい。
【0028】
なお、上記溶融粘度が異なる2種以上の共重合樹脂を混合後は、各共重合樹脂単独の溶融粘度を特定することは困難である。混合後は2種以上の共重合樹脂をそれぞれ分離及び測定することが困難なためである。
2種以上の共重合樹脂の混合法において、後述する触媒及び重合条件を好ましく用いることができる。
【0029】
[触媒]
(重合触媒)
上述の多段重合法及び2種以上の共重合樹脂の混合法のいずれにおいても、3-メチル-1-ブテンを用いる重合反応(以下、単に「重合反応」という。)は、特に限定されるものではなく、周期表第4族遷移金属原子を有する化合物を含む触媒を用いて製造することができる。中でも、3-メチル-1-ブテンの重合は、メタロセン系触媒、及びチーグラー・ナッタ触媒等の周知の触媒の存在下で行われることが好ましい。
上記触媒に用いられる周期表第4族遷移金属原子の具体例としては、チタン、ジルコニウム、及びハフニウム等が挙げられ、好ましくはチタンである。
【0030】
周期表第4族遷移金属原子を有する化合物を含む触媒は、固体として重合反応系に供給してもよく、不活性有機溶媒(好ましくは、飽和脂肪族炭化水素)に懸濁或いは溶解させて、重合反応系に供給してもよい。
【0031】
上記触媒は、担体に担持されている担持型触媒が好ましい。
上記担持型触媒の好ましい一例は、周期表第4族遷移金属原子を有する化合物が塩化チタンであり、担体が塩化マグネシウムである、マグネシウム担持型チタン触媒であり、いわゆるチーグラー・ナッタ触媒である。
具体的には、不活性炭化水素溶媒に懸濁させたマグネシウム化合物と、液体状のチタン化合物と、必要に応じてエステル結合或いはエーテル結合を有する電子供与体化合物を接触させて得られる、固体状のマグネシウム担持型チタン触媒である。当該マグネシウム担持型チタン触媒は、チタン原子、マグネシウム原子、ハロゲン原子、複数のエステル結合或いはエーテル結合を有する。
【0032】
上記マグネシウム担持型チタン触媒の製造に用いられる不活性炭化水素溶媒としては、ヘキサン、デカン及びドデカン等が挙げられる。また、マグネシウム化合物としては、無水塩化マグネシウム、ジエトキシマグネシウム及びメトキシ塩化マグネシウム等が挙げられる。また、電子供与体としての複数の原子を間に介してエステル結合を有する化合物としては、安息香酸アルキル(アルキル基は炭素数1~8であることが好ましい。)、p-トルイル酸アルキル(アルキル基は炭素数1~8であることが好ましい。)、ピバル酸アルキル(アルキル基は炭素数1~8であることが好ましい。)、フタル酸ジアルキル(アルキル基は炭素数1~8であることが好ましい。)、マロン酸ジアルキル(アルキル基は炭素数1~8であることが好ましい。)及びコハク酸ジアルキル(アルキル基は炭素数1~8であることが好ましい。)等が挙げられる。また、電子供与体としての複数の原子を間に介してエーテル結合を有する化合物としては、2-イソブチル-2-イソプロピル-1,3-ジメトキシプロパン及び2-イソペンチル-2-イソプロピル-1,3-ジメトキシプロパン等が挙げられる。
【0033】
マグネシウム担持型チタン触媒におけるハロゲン原子及びチタン原子のモル比率(ハロゲン原子/チタン原子)は、通常2~100であり、好ましくは4~90である。マグネシウム担持型チタン触媒におけるエステル結合或いはエーテル結合を有する電子供与体化合物とチタン原子のモル比率(電子供与体化合物/チタン原子)は、通常0.01~100、好ましくは0.2~10である。マグネシウム担持型チタン触媒におけるマグネシウム原子及びチタン原子の原子比率(マグネシウム原子/チタン原子)は、通常2~100、好ましくは4~50である。
【0034】
上記重合反応を液相重合法で行う場合には、固体状チタン触媒を、全液体容積1L当りチタン原子に換算して、通常0.001~2ミリモル、好ましくは0.005~1ミリモルの量で用いることが好ましい。
【0035】
周期表第4族遷移金属原子を有する化合物を含む触媒としては、例えば、特開昭54-107989号等に記載されている固体状三塩化チタン触媒;特開昭57-63310号、特開昭58-83006号、特開平3-706号、特許3476793号、特開平4-218508号、特開2003-105022号等に記載されているマグネシウム担持型チタン触媒;国際公開第2014/050817号、国際公開第01/53369号、国際公開第01/27124号、特開平3-193796号、又は特開平02-41303号等に記載されているメタロセン触媒;特開2009-144148号、又は特開2022-37931公報に記載されている担体担持型メタロセン系触媒;非特許文献Polyolefins Journal, Vol.4, No.1, p.123-136 (2017)、又は非特許文献Macromolecules, Vol.40, p.4130-4137 (2007)等に記載されているチタン原子やハフニウム原子を有するいわゆるポストメタロセン触媒;等が好適に用いられる。
【0036】
上記触媒は、上記公知文献を参照して製造したものであってもよく、市販品であってもよい。
固体状三塩化チタン触媒の市販品としては、例えば、東ソー・ファインケム社製「Solvay触媒 CATA-1」等が挙げられる。マグネシウム担持型チタン触媒の市販品としては、例えば、東邦チタニウム社製「THCシリーズ」やクラリアント社製「PolyMaxシリーズ」等が挙げられる。メタロセン触媒の市販品としては、例えば、ストレム社製「rac-Dimethylsilylbis (1-indenyl) zirconium dichlorid」等が挙げられる。
【0037】
(共触媒成分)
上記重合反応には、共触媒を用いることが好ましい。
共触媒成分は、有機金属化合物触媒成分であることが好ましく、具体的には有機アルミニウム化合物或いはその加水重合体が挙げられる。有機アルミニウム化合物は、例えば、R AlX3-nで示される。
【0038】
AlX3-nにおけるRは、好ましくは炭素原子数1~12の炭化水素基であり、例えば、アルキル基、シクロアルキル基及びアリール基である。
炭素原子数1~12の炭化水素基は、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、及びトリル基等である。
AlX3-nにおけるXは、好ましくはハロゲン原子又は水素原子であり、nは好ましくは1~3の整数である。
【0039】
AlX3-nで示される有機アルミニウム化合物の具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、及びトリ2-エチルヘキシルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム;イソプレニルアルミニウム等のアルケニルアルミニウム;ジメチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド、ジイソプロピルアルミニウムクロリド、ジイソブチルアルミニウムクロリド、及びジメチルアルミニウムブロミド等のジアルキルアルミニウムハライド;メチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムセスキクロリド、イソプロピルアルミニウムセスキクロリド、ブチルアルミニウムセスキクロリド、及びエチルアルミニウムセスキブロミド等のアルキルアルミニウムセスキハライド;メチルアルミニウムジクロリド、エチルアルミニウムジクロリド、イソプロピルアルミニウムジクロリド、及びエチルアルミニウムジブロミド等のアルキルアルミニウムジハライド;ジエチルアルミニウムハイドライド、及びジイソブチルアルミニウムハイドライド等のアルキルアルミニウムハイドライド等が挙げられる。
上記具体例のうち、トリエチルアルミニウム及びトリイソブチルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウムが好ましい。
【0040】
例えば、周期表第4族遷移金属原子を有する化合物を含む触媒がマグネシウム担持型チタン触媒成分である場合、共触媒成分の添加量は、マグネシウム担持型チタン触媒成分1g当たり、通常0.1~10,000g、好ましくは1~5,000gの重合体が生成するような量であればよく、マグネシウム担持型チタン触媒成分中のチタン原子1モル当たり、通常0.1~1000モル、好ましくは0.5~500モル、より好ましくは1~200モルの量である。
【0041】
[重合反応]
上記重合反応は、溶液重合、懸濁重合(スラリー重合)、バルク重合法等の液相重合法や、気相重合法や、その他公知の重合方法で行うことができる。上記重合反応は、好ましくは懸濁重合法である。
【0042】
[溶媒]
上記重合反応を液相重合法で行う場合、溶媒は不使用であってもよく、溶媒として不活性炭化水素を使用してもよい。
不活性炭化水素である溶媒としては、例えば、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、イソヘプタン、イソオクタン等の飽和炭化水素;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素;等が挙げられる。
溶媒は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0043】
[重合条件]
(重合方法)
上記重合反応は、回分式、半連続式、連続式の何れの方法においても行うことができる。また、上記重合反応は、反応条件を変えて2段以上に分けて行うこともできる。
(重合温度)
上記重合反応における重合温度は、通常10~150℃、好ましくは30~120℃である。重合温度が上記範囲であれば、触媒活性を良好に維持しつつ、重合反応の進行を促進でき、生産性が良好になる。
(重合圧力)
上記重合反応における重合圧力は、通常、常圧~5MPaG、好ましくは0.05~4MPaGである。重合圧力が上記範囲であれば、高い耐圧の反応器や排気ポンプ等の装置が不要となり経済的に有利である。
(重合時間)
上記重合反応における重合時間は、通常0.1~10時間、好ましくは0.5~5時間である。重合時間が上記範囲であれば、熱劣化に起因する重合体の物性低下が抑制され、物性が良好な重合体を製造しやすい。
(重合の停止)
上記重合反応は、モノマーを蒸留や濾過により除去することで停止してもよいし、必要に応じて任意の重合停止剤を添加して停止してもよい。重合停止剤としては、周期表第4族遷移金属原子を有する化合物を含む触媒と反応する化合物が好ましい。重合停止剤は、例えば、水、アルコール、第1級アミン、第2級アミン、チオール、及びブレステット酸等の活性プロトンを有する化合物や、エーテル、ホスフィン、第3級アミン、チオエーテル、二酸化炭素、及び酸素分子等が挙げられる。
重合停止剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0044】
[添加剤]
必要に応じて、重合反応系に添加剤を添加してもよい。上記添加剤としては、例えば、メチル(シクロヘキシル)ジメトキシシラン等のシラン化合物;安息香酸エチル等のエステル化合物;2,2-アルキル置換-1,3-ジメトキシプロパン等のエーテル化合物;2,2,6,6-テトラメチルピペリジン等のアミン化合物;等が挙げられる。
添加剤は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
[触媒成分の除去]
上述の重合反応後、3-メチル-1-ブテン系共重合体中、及び共重合体組成物に用いられる共重合樹脂中に含まれる触媒成分を除去する工程を行うことが好ましい。触媒成分の除去の方法に関しては、特に限定されず公知の方法をとり得る。例えば、上述の重合反応により得られた粗3-メチル-1-ブテン系共重合体及び粗共重合樹脂にイソブタノールや2-プロパノール等のアルコールを加え、10~100℃程度の温度で攪拌した後、当該3-メチル-1-ブテン系共重合体及び共重合樹脂を分離する方法、及び、上述の重合反応により得られた粗3-メチル-1-ブテン系共重合体及び粗共重合樹脂にイソブタノールや2-プロパノール等のアルコールと塩酸や硝酸等の鉱酸とを加え、10~100℃程度の温度で処理した後、当該3-メチル-1-ブテン系共重合体及び共重合樹脂を分離する方法等が挙げられる。
上記触媒成分の除去操作は、重合反応直後の重合体スラリーのまま実施してもよいし、重合体スラリーから未反応モノマーや反応溶媒を蒸留や濾過で除去した後に実施してもよいし、後述する可溶成分の除去操作を行った後に実施してもよい。
【0046】
[可溶成分の除去]
上述の重合反応後の粗3-メチル-1-ブテン系共重合体及び粗共重合樹脂には、加熱した炭化水素系溶剤(炭素数4~20の分岐や環状構造を有してもよい炭化水素化合物)に可溶な重合成分(以下、「可溶成分」と称す。)が含まれることがある。可溶成分の詳細は明らかではないが、可溶成分としては、3-メチル-1-ブテン系共重合樹脂のオリゴマー成分、立体規則性が低い重合体成分、3-メチル-1-ブテンに由来する構造単位の含有割合が低い重合体成分等が考えられる。よって、可溶成分が粗3-メチル-1-ブテン系共重合体に含まれる場合、本実施形態の3-メチル-1-ブテン系共重合体の製造方法は、当該可溶成分を除去する工程を行ってもよいし、除去せずそのまま各種用途に用いてもよい。
上記可溶成分の除去する方法に関しては、特に限定されず公知の方法をとり得る。可溶成分の除去操作は、例えば、得られた粗3-メチル-1-ブテン系共重合体及び粗共重合樹脂にヘプタンなどの炭化水素溶剤を加え、50~100℃程度の温度で攪拌した後、溶液を濾過する方法等が挙げられる。また、可溶成分は未反応モノマーにも上記炭化水素系溶剤と同様に溶解することから、上述の重合反応で得られた重合体スラリーを50~100℃程度の温度で攪拌した後、溶液を濾過する方法でも除去することができる。これら除去操作は繰り返し行ってもよい。
上記可溶成分の除去操作は、重合反応直後の重合体スラリーのまま実施してもよいし、重合体スラリーから未反応モノマーや反応溶媒を蒸留や濾過で除去した後に実施してもよい。
【0047】
[3-メチル-1-ブテン系重合体共重合体及び共重合樹脂の乾燥]
本実施形態の3-メチル-1-ブテン系共重合体の製造方法は、上述の第一工程及び第二工程、並びに、必要に応じて行われる各種工程を経た後、得られた3-メチル-1-ブテン系共重合体を乾燥する工程を行ってもよい。同様に、共重合体組成物に用いられる共重合樹脂についても、上記重合反応及び必要に応じて行われる各種工程を経た後、当該共重合樹脂を乾燥してもよい。
上記乾燥は、特に限定されず公知の方法をとり得る。乾燥は、例えば、常圧~1mmHg、及び20~200℃での条件で揮発分を飛ばすことによって行ってもよい。また、乾燥を行っている間、3-メチル-1-ブテン系共重合体及び共重合樹脂は、静置していてもよく、空気或いは不活性ガス等を当てることで流動していてもよく、撹拌回転翼型乾燥装置、ロータリー型乾燥装置、連続棚段型乾燥装置、及び流動型乾燥装置等の機械的な手法により流動していてもよい。
【0048】
<樹脂組成物>
本実施形態の樹脂組成物は、上述の3-メチル-1-ブテン系重合体共重合体と3-メチル-1-ブテン系共重合体組成物とからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。
上記樹脂組成物は、本発明の効果が損なわれない限りにおいて、アルキルラジカル捕捉剤、酸化防止剤、制酸剤、光安定剤、帯電防止剤、難燃剤、顔料、重合禁止剤、重金属不活性化剤、紫外線吸収剤、核剤、透明化剤、滑剤、蛍光増白剤、及び発錆防止剤等の添加剤を、任意成分として含んでもよい。
上記任意成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
[アルキルラジカル捕捉剤]
「アルキルラジカル捕捉剤」は、3-メチル-1-ブテン系共重合体或いは共重合体組成物に由来するアルキルラジカルと反応し、その後ラジカルを安定化させる機能を有する化合物を意味し、アルキルラジカルを起点とした連鎖的な主鎖切断反応を抑制する機能を果たす。
アルキルラジカル捕捉剤は、アクリルフェノール化合物、及びベンゾフラノン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
アルキルラジカル捕捉剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
〈アクリルフェノール化合物〉
アルキルラジカル捕捉剤として用いられるアクリルフェノール化合物は、例えば、下記一般式(I)で表すことができる。
【0051】
【化1】
【0052】
一般式(I)中、Rは水素原子又はメチル基を示し、Rは水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を示し、R,R,R及びRはそれぞれ独立に炭素数1~9のアルキル基を示す。
炭素数1~3のアルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、及びイソプロピル基が挙げられる。
炭素数1~9のアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。
炭素数1~9のアルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、及びn-ノニル基等が挙げられる。
は、好ましくは水素原子である。
は、好ましくは水素原子又はメチル基、より好ましくはメチル基である。
,R,R及びRは、それぞれ独立に、好ましくは炭素数3~8のアルキル基、より好ましくは炭素数5のアルキル基、さらに好ましくは1,1-ジメチルプロピル基である。
【0053】
一般式(I)で表されるアクリルフェノール化合物は、例えば、2,4-ジ-t-アミル-6-[1-(3,5-ジ-t-アミル-2-ヒドロキシフェニル)エチル]フェニルアクリレート、2,4-ジ-t-ブチル-6-[1-(3,5-ジ-t-ブチル-2-ヒドロキシフェニル)エチル]フェニルアクリレート、及び2-t-ブチル-6-[(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)メチル]-4-メチルフェニルアクリレート等が挙げられる。
アルキルラジカル捕捉剤は市販品を用いてもよく、一般式(I)で表されるアクリルフェノール化合物としては、例えば、住友化学社製の商品名「スミライザー(登録商標)GS」及び商品名「スミライザー(登録商標)GM」等が挙げられる。
【0054】
〈ベンゾフラノン化合物〉
アルキルラジカル捕捉剤として用いられるベンゾフラノン化合物は、例えば、下記一般式(II)で表すことができる。
【0055】
【化2】
【0056】
一般式(II)中、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1~4のアルキル基を示し、R及びR10はそれぞれ独立に炭素数1~9のアルキル基を示す。
炭素数1~4のアルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、及びt-ブチル基等が挙げられる。
炭素数1~9のアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。炭素数1~9のアルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、及びn-ノニル基等が挙げられる。
及びRは、それぞれ独立に、好ましくは炭素数1~3のアルキル基、より好ましくはメチル基である。
及びR10は、それぞれ独立に、好ましくは炭素数1~4のアルキル基、より好ましくはt-ブチル基である。
【0057】
一般式(II)で表されるベンゾフラノン化合物は、例えば、5,7-ジ-t-ブチル-3-(3,4-ジ-メチル-フェニル)-3H-ベンゾフラン-2-オン、5,7-ジ-t-ブチル-3-(3,4-ジ-プロピル-フェニル)-3H-ベンゾフラン-2-オン、及び4-t-ブチル-2-(5-t-ブチル-2-オキソ-3H-ベンゾフラン-3-イル)フェニル-3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート等が挙げられる。
アルキルラジカル捕捉剤は市販品を用いてもよく、一般式(II)で表されるベンゾフラノン化合物としては、例えば、BASF社製の商品名「Irganox(登録商標)HP-136」、Chitec社製の商品名「Revonox(登録商標)501」等が挙げられる。
【0058】
〈配合量〉
3-メチル-1-ブテン系共重合体或いは共重合体組成物100質量部に対するアルキルラジカル捕捉剤の配合量は、好ましくは0.01~1.00質量部である。
アルキルラジカル捕捉剤の配合量が、上記数値範囲内であれば、溶融混錬時に物性の安定性を保つことができる。また、アルキルラジカル捕捉剤がブリードアウトし、或いは、吸湿性が悪化する等の樹脂組成物として求められる物性が損なわれるおそれがない。また、溶融成形時に分解ガスが発生し、成形不良となるおそれがない。
【0059】
アルキルラジカル捕捉剤の効果をより発揮しやすい観点から、3-メチル-1-ブテン系共重合体或いは共重合体組成物100質量部に対するアルキルラジカル捕捉剤の配合量は、より好ましくは0.02質量部以上、さらに好ましくは0.05質量部以上である。
また、アルキルラジカル捕捉剤の効果と経済性とのバランスの観点から、3-メチル-1-ブテン系共重合体或いは共重合体組成物100質量部に対するアルキルラジカル捕捉剤の配合量は、より好ましくは0.80質量部以下、さらに好ましくは0.70質量部以下である。
なお、2種以上のアルキルラジカル捕捉剤を配合する場合、上記アルキルラジカル捕捉剤の配合量はアルキルラジカル捕捉剤の総配合量を意味する。
【0060】
[酸化防止剤]
耐熱老化性の観点から、溶融混錬する工程において、フェノール系酸化防止剤、及びリン系酸化防止剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化防止剤をさらに配合して溶融混練してもよい。また、溶融混錬する工程において、酸化防止剤を配合せずに溶融混練してもよい。
酸化防止剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
〈フェノール系酸化防止剤〉
フェノール系酸化防止剤は、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、1,3,5-トリス[(4-t-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-キシリル)メチル]-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレン-ビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナミド]、3,3’,3’’,5,5’,5’’-ヘキサ-t-ブチル-a,a’,a’’-(メシチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-t-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレン-ビス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,6-ジ-t-ブチル-4-[4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ]フェノール、3,9-ビス[2-(3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ)-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、4,4’、4’’-(1-メチルプロパニル-3-イリデン)トリス(6-t-ブチル-m-クレゾール)、6,6’-ジ-t-ブチル-4,4’-ブチリデンジ-m-クレゾール、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピネート、及びベンゼンプロピオン酸3,5-ビス-(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシ-C7-C9分岐アルキルエステル等が挙げられる。
【0062】
フェノール系酸化防止剤は市販品を用いてもよく、例えば、ADEKA社製の「アデカスタブ(登録商標)AOシリーズ」、BASFジャパン社製の「Irganox(登録商標)シリーズ」等が挙げられる。
【0063】
〈リン系酸化防止剤〉
リン系酸化防止剤は、例えば、3,9-ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンホスホナイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、ビス[2,4-ビス(1,1-ジメチルエチル)-6-メチルフェニル]エチルエステルホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトール-ジホスファイト、ジ-t-ブチル-m-クレジル-ホスホナイト、ジエチル[(3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル)メチル]ホスホネート、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、3,9-ビス(オクタデシオキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、テトラ-C12-15-アルキル[プロパン-2,2-ジイルビス(4,1-フェニレン)]ビス(ホスファイト)、2-エチルヘキシルジフェニルホスファイト、イソデシルジフェニルホスファイト、トリスイソデシルホスファイト、トリフェニルホスファイト、及び3,9-ビス[2,4-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノキシ]-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン等が挙げられる。
【0064】
リン系酸化防止剤は市販品を用いてもよく、例えば、ADEKA社製の「アデカスタブ(登録商標)PEPシリーズ」及び「アデカスタブ(登録商標)HPシリーズ」、BASFジャパン社製の「Irgafos(登録商標)シリーズ」、クラリアント社製の商品名「HOSTANOX(登録商標)P-EPQ」等が挙げられる。
【0065】
〈その他の酸化防止剤〉
また、溶融混錬する工程において、本発明の効果を損なわない限り、フェノール系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤以外のその他の酸化防止剤を配合してもよい。フェノール系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤以外の酸化防止剤は、例えば、イオウ系酸化防止剤及びアミン系酸化防止剤等が挙げられる。
【0066】
〈配合量〉
耐熱老化性をより発揮しやすい観点から、3-メチル-1-ブテン系共重合体或いは共重合体組成物100質量部に対する酸化防止剤の配合量は、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.10質量部以上である。
また、経済性の観点から、3-メチル-1-ブテン系共重合体或いは共重合体組成物100質量部に対する酸化防止剤の配合量は、好ましくは1.00質量部以下、より好ましくは0.80質量部以下である。
すなわち、3-メチル-1-ブテン系共重合体或いは共重合体組成物100質量部に対する酸化防止剤の配合量は、好ましくは0.01~1.00質量部である。
なお、2種以上の酸化防止剤を配合する場合、上記酸化防止剤の配合量は酸化防止剤の総配合量を意味する。
【0067】
〈制酸剤〉
残留金属分などから発生する酸成分による劣化を抑制する観点から、溶融混錬する工程において、制酸剤をさらに配合して溶融混練することが好ましい。
制酸剤としては、ラウリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、オレイン酸亜鉛、及び12-ヒドロキシステアリン酸マグネシウム等が挙げられる。
制酸剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0068】
3-メチル-1-ブテン系共重合体或いは共重合体組成物100質量部に対する制酸剤の配合量は、用途に合わせて適宜決定することができ、例えば、0.01~200質量部であってもよい。
【0069】
〈充填剤〉
3-メチル-1-ブテン系共重合体或いは共重合体組成物の用途に合わせて、溶融混錬する工程において充填剤をさらに配合して溶融混練してもよい。或いは、樹脂組成物に対し充填剤を配合したうえで再度溶融混錬してもよい。
充填剤は、例えば、ガラス繊維、アルミナ繊維、樹脂繊維、炭素繊維、セルロース繊維等の繊維状化合物;マイカ、タルク、モンモリロナイト、平板状アルミ等の平板状化合物;ガラスビーズ、シラスバルーン、アクリルバルーン等の球状化合物;針状チタン酸金属塩、ウォラストナイト、針状シリカ、酸化スズ等の針状化合物;粉末状チタン酸金属塩、微粉化木質チップ、酸化チタン、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ等の粉末状化合物;等が挙げられる。これらの充填剤は、例えばシランカプリング剤等で表面処理していてもよい。また、充填剤の分散性を高めるため相容化剤を用いてもよい。
充填剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0070】
3-メチル-1-ブテン系共重合体或いは共重合体組成物100質量部に対する充填剤の配合量は、用途に合わせて適宜決定することができ、例えば、0.01~300質量部であってもよい。
【0071】
[溶融混錬条件]
〈不活性雰囲気〉
3-メチル-1-ブテン系共重合体或いは共重合体組成物の用途に合わせて、溶融混錬する工程において、溶融混錬機の内部に不活性気体を注入して溶融混錬する、又は、溶融混錬機の内部を減圧脱気して溶融混錬する。
酸素による溶融混錬した3-メチル-1-ブテン系共重合体或いは共重合体組成物の物性低下を抑制し、良好な機械特性を維持するために、不活性雰囲気下又は低酸素状態で溶融混錬することが好ましい。
ここで、本明細書において、「低酸素状態」とは、溶融混錬機の内部を減圧脱気することで、減圧脱気前に比べて酸素濃度が低くなった状態である。「低酸素状態」において、溶融混錬機内部の酸素濃度は、5%以下であることが好ましく、2%以下であることがより好ましく、さらには1%以下であることが好ましい。また、上記酸素濃度の測定は、隔膜型ガルバニ式などの酸素濃度計よって行う値とする。
【0072】
溶融混錬機の内部に不活性気体を注入して溶融混錬する手法は、例えば、溶融混錬機の内部に不活性気体を注入しながら各成分を投入して溶融混錬を行ってもよく、溶融混錬機の内部に各成分を投入した後、不活性気体を注入して溶融混錬を行ってもよい。また、溶融混錬している間、不活性気体は、溶融混錬機内部へ注入され続けてもよい。
不活性気体の注入方法は、各溶融混錬機に備わっている設備に応じて行うことができ、例えば、溶融混錬機に備え付けられている不活性気体等の気体の供給部から行ってもよく、溶融混錬機に備え付けられている各成分の供給部から行ってもよく、溶融混錬機に備え付けられているガス抜きベントから行ってもよい。
不活性気体の供給部から溶融混錬を行う加熱部までの全体に不活性気体を注入して溶融混錬することができれば、注入方法に制限はない。
不活性気体としては、例えば、窒素ガス、ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、クリプトンガス、及び二酸化炭素ガス等が挙げられ、入手性及び汎用性が高い観点から、窒素ガスが好ましい。
【0073】
溶融混錬機の内部を減圧脱気して溶融混錬する手法は、例えば、溶融混錬機の内部に各成分を投入した後、溶融混錬機の内部を減圧脱気して溶融混錬を行ってもよい。また、溶融混錬している間、溶融混錬機内部の減圧脱気は、断続的又は連続的に行われてもよい。
溶融混錬機の内部を減圧脱気する方法は、各溶融混錬機に備わっている設備に応じて行うことができ、例えば、真空ベントから行ってもよい。
溶融混錬機内部の減圧脱気は、低酸素状態で溶融混錬することができれば、減圧脱気方法に制限はない。
減圧脱気を行う場合、溶融混錬機の内部は、例えば、50kPa以下0.1kPa以上の真空状態とすることができる。
【0074】
溶融混錬機は、溶融混錬機の内部に不活性気体を注入して溶融混錬することができる設備、又は、溶融混錬機の内部を減圧脱気して溶融混錬することができる設備を備える、単軸押出機、多軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサー等を用いることができる。
【0075】
〈温度及び時間等〉
3-メチル-1-ブテン系共重合体或いは共重合体組成物の用途に合わせて、溶融混錬する工程において、上記溶融混錬を300~380℃にて行うことが好ましい。
溶融混錬温度が300℃以上であれば、3-メチル-1-ブテン系共重合体或いは共重合体組成物が溶融してアルキルラジカル捕捉剤や添加剤の分散が良好になる。溶融混錬温度が380℃以下であれば、3-メチル-1-ブテン系共重合体或いは共重合体組成物やアルキルラジカル捕捉剤等の原料の分解を抑えることができる。
3-メチル-1-ブテン系共重合体或いは共重合体組成物全体に、十分にアルキルラジカル捕捉剤や添加剤を分散させる観点から、溶融混錬温度は、より好ましくは310℃以上である。
また、原料が著しく分解することを抑制する観点から、溶融混錬温度は、より好ましくは380℃以下、さらに好ましくは360℃以下である。
【0076】
溶融混錬時間は、混錬装置の大きさ等に応じて調整することができる。例えば、1~15分間であってもよいが、当該溶融混錬時間の数値範囲に限定されない。また、本実施形態において「溶融混錬時間」は、バッチ式混錬機ではミキサーを回転している時間、連続押出式混錬機の場合には装置内における原料の滞留時間を示す。
【0077】
溶融混錬時のミキサー回転数は、80rpm以上又は100rpm以上でってあってもよく、400rpm以下又は350rpm以下であってもよい。
溶融混錬後、溶融混錬された3-メチル-1-ブテン系共重合体、3-メチル-1-ブテン系共重合体組成物或いは樹脂組成物は、溶融混錬機から取り出され、冷却される。
【実施例0078】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0079】
実施例及び比較例において、以下の方法により測定又は評価した。
[溶融粘度]
実施例1における第一工程の3-メチル-1-ブテン系共重合樹脂、並びに、実施例及び比較例で得られた3-メチル-1-ブテン系共重合体100質量部に、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、商品名「AO-60」、ADEKA社製0.2質量部、3,9-ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、商品名「PEP-36」、ADEKA社製0.2質量部、2,4-ジ-t-アミル-6-〔1-(3,5-ジ-t-アミル-2-ヒドロキシフェニル)エチル〕フェニルアクリレート、商品名「スミライザーGS」、住友化学社製0.1質量部、ステアリン酸亜鉛0.25質量部をドライブレンドし、キャピラリーレオメーター(東洋精機製作所社製「キャピログラフィー 1C」)を用い、バレル温度320℃、せん断速度1216sec-1(キャピラリー:内径1.0mm×長さ10mm、押出速度10mm/分)の条件下で溶融粘度(Pa・s)を測定した。
【0080】
[融点]
実施例及び比較例で得られた3-メチル-1-ブテン系共重合体を、示差走査熱量測定器(TA Instrument社製「DSC25」)を用い、窒素流量下(100mL/分)で30℃から320℃まで10℃/分で昇温させ、320℃で5分保持後、-70℃まで10℃/分で降温させた。-70℃で5分保持後320℃まで10℃/分で昇温させた際の融点を評価した。
【0081】
[破断伸度、降伏強度]
(1)試験片の作製
実施例及び比較例において得られた3-メチル-1-ブテン系共重合体100質量部に、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、商品名「AO-60」、ADEKA社製0.2質量部、3,9-ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノキシ)-2,4,8,10-テトラオキサ-3,9-ジホスファスピロ[5.5]ウンデカン、商品名「PEP-36」、ADEKA社製0.2質量部、2,4-ジ-t-アミル-6-〔1-(3,5-ジ-t-アミル-2-ヒドロキシフェニル)エチル〕フェニルアクリレート、商品名「スミライザーGS」、住友化学社製0.1質量部、ステアリン酸亜鉛0.25質量部をドライブレンドし、小型混錬機(DSMXplore社製「Micro15Compounder」)を用い、窒素雰囲気下にて50rpm、320℃条件で溶融混錬した。
2分間溶融混錬した後、上記小型混錬機に付帯した小型射出成形機(DSMXplore社製「MicroInjectionMouldingMachine10cc」)を用いて、射出圧力0.3MPa、金型内保持時間35秒、金型温度180℃の条件で、小型試験片(JIS7161-2付属書A記載の1BA形ダンベル試験片)を成形した。
(2)測定
作製したダンベル試験片を23℃、湿度49%下に24時間以上保管し、万能材料試験機(インストロン社製「INSTRON5900R-5666」)を用い、JIS K 7161-1:2014に準じて、23℃、湿度49%にて引張速度5mm/分で、破断伸度X(%)と降伏強度Y(MPa)を測定した。測定は5回ずつ行い、平均値を採用した。
【0082】
〔コモノマーに由来する構造単位の含有割合〕
実施例及び比較例において得られた3-メチル-1-ブテン系共重合体中の、3-メチル-1-ブテン以外のα-オレフィン(コモノマー)に由来する構造単位の含有割合を、分析装置としてFT-IR(Ailent Techonolies社製、装置名「cary 600 series FTIR spectrometer」)を用い、ATR法にてIR測定を行い、次のとおり求めた。
3-メチル-1-ブテン単独重合体の主鎖メチレン基由来の変角振動1,461cm-1のピーク面積と、α-オレフィンの単独重合体の側鎖メチレン基由来の変角振動727cm-1のピーク面積との比、及びそれぞれの樹脂の添加割合から検量線を作成した。実施例及び比較例において得られた3-メチル-1-ブテン系共重合体について上記IR測定を行い、得られた測定値を上記検量線に挿入し、3-メチル-1-ブテン以外のα-オレフィンに由来する構造単位の含有割合を求めた。
【0083】
〈チタン触媒成分の調製〉
[製造例1]
無水塩化マグネシウム47.6g(500mmol)、デカン250mL及び2-エチルヘキシルアルコール234mL(1.5mo1)を130℃で2時間加熱反応を行い均一溶液とした。この様にして得られた均一溶液を室温に冷却した後、-20℃に保持された四塩化チタン2L(18mol)中に1時間に渡って装置滴下装入した。装入終了後、この混合液の温度を2時間かけて110℃に昇温し、110℃に達したところでジブチルフタレート42.4mL(160mmol)を添加し、これより2時間同温度にて攪拌下保持した。2時間の反応終了後、静置してから、上澄み液を除去した。ここにデカン及びヘキサンを加え、固体成分を3回洗浄した後、2Lの四塩化チタンにて再懸濁させ、再び110℃で2時間、加熱反応を行った。反応終了後、デカン及びヘキサンを用いて再び静置、上澄み液の除去を繰り返し、洗液中に遊離のチタン化合物が検出されなくなる迄充分洗浄した。得られた懸濁成分を室温下で6時間減圧乾燥して、乾燥したチタン触媒成分を得た。この様にして得られたチタン触媒成分の組成はチタン原子4.0質量%、塩素原子56.0質量%、マグネシウム原子17.0質量%、及び安息香酸エチル11.0質量%であった。
【0084】
〈3-メチル-1-ブテン系共重合体の合成〉
[実施例1]
20Lのステンレス製オートクレーブに3-メチル-1-ブテン8.0kg、1-デセン0.6kg、1mol/Lの濃度になるようにヘキサンで希釈されたトリエチルアルミニウム50g、製造例1で製造したチタン触媒成分4gを添加し、70℃で水素を10mL/分の速度で連続的に供給しながら2時間重合反応を実施した。ここで重合スラリーを一部抜き出し、この段階で生成している溶媒可溶重合体を除いた共重合樹脂の粘度を求めた結果、溶融粘度は152Pa・sであった。その後水素流量を40mL/分の速度に変更し、引き続き重合を行った。
水素流量を変更後、2時間後にイソアミルアルコール200gを圧入し反応を停止し余剰の未反応モノマーを追い出した。ついでノルマルヘプタン2kgを導入し、60℃で30分間攪拌させた後に、加圧ろ過器で固形分を濾別した。この操作を2回繰り返したあと、溶媒をノルマルヘプタン2kgから2-プロパノール3kgに変えて同じ操作を2回繰り返した。途中得られた粗3-メチル-1-ブテン系共重合体7.7kgを、攪拌機を備えた50Lの容器に入れ、その後、1mol/Lの塩酸8kg及び2-プロパノール16kgを加え、1時間攪拌した。この懸濁液を減圧濾過で濾別し、2-プロパノール10kgで洗い流した。この粗3-メチル-1-ブテン系共重合体を、攪拌機を備えた50Lの容器に入れ、その後、2-プロパノール20kgを加え、1時間攪拌した。この懸濁液を減圧濾過で濾別し、2-プロパノール10kgで洗い流した。得られた洗浄後の3-メチル-1-ブテン系共重合体を80℃で2日間減圧乾燥させることで3-メチル-1-ブテン系共重合体を3.2kg得た。
得られた3-メチル-1-ブテン系共重合体の融点は286.7℃であり、溶融粘度は133Pa・sであった。コモノマーである1-デセンに由来する構造単位の含有割合は0.8モル%であった。また、上記方法により破断伸度及び降伏強度の測定を行った。結果を表1に示す。
なお、下記式(A)に基づいて、上記第一工程及び第二工程における水素流量の単位「mL/分」を、3-メチル-1-ブテンの初期仕込み体積を基準とした単位体積当たりの水素流量「mL/(h・L)」に変換した数値を表1に示す。比較例1及び2においても同様である。
b=a×60/V0 式(A)
上記式(A)において、aは水素流量(mL/分)を示し、V0は3-メチル-1-ブテンの初期仕込み体積量(L)を示し、bは単位体積当たり水素流量(mL/(h・L))を示す。
【0085】
[比較例1]
水素を水素流量40mL/分で4時間供給し続けた以外は実施例1と同様の手法で、3-メチル-1-ブテン系共重合体を合成した。
得られた3-メチル-1-ブテン系共重合体の融点は290.1℃であり、溶融粘度は74Pa・sであった。コモノマーである1-デセンに由来する構造単位の含有割合は0.5モル%であった。また、上記方法により破断伸度及び降伏強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0086】
[比較例2]
水素を水素流量20mL/分で4時間供給し続けた以外は実施例1と同様の手法で、3-メチル-1-ブテン系共重合体を合成した。
得られた3-メチル-1-ブテン系共重合体の融点は289.4℃であり、溶融粘度は56Pa・sであった。コモノマーである1-デセンに由来する構造単位の含有割合は0.6モル%であった。また、上記方法により破断伸度及び降伏強度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
表1から、実施例で得られた3-メチル-1-ブテン系共重合体は、優位に融点を下げつつも、式(1)Y>(-X/16)+42.5を満たし、破断伸度と降伏強度のバランスに優れることがわかる。よって、本実施形態の3-メチル-1-ブテン系共重合体は、優れた耐熱性を有しつつ、加工時の熱劣化を抑えることができ、靭性と強度とを両立していることがわかる。