IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人産業技術総合研究所の特許一覧

特開2024-58092測定方法、測定システム、及びプログラム
<>
  • 特開-測定方法、測定システム、及びプログラム 図1
  • 特開-測定方法、測定システム、及びプログラム 図2
  • 特開-測定方法、測定システム、及びプログラム 図3
  • 特開-測定方法、測定システム、及びプログラム 図4
  • 特開-測定方法、測定システム、及びプログラム 図5
  • 特開-測定方法、測定システム、及びプログラム 図6
  • 特開-測定方法、測定システム、及びプログラム 図7
  • 特開-測定方法、測定システム、及びプログラム 図8
  • 特開-測定方法、測定システム、及びプログラム 図9
  • 特開-測定方法、測定システム、及びプログラム 図10
  • 特開-測定方法、測定システム、及びプログラム 図11
  • 特開-測定方法、測定システム、及びプログラム 図12
  • 特開-測定方法、測定システム、及びプログラム 図13
  • 特開-測定方法、測定システム、及びプログラム 図14
  • 特開-測定方法、測定システム、及びプログラム 図15
  • 特開-測定方法、測定システム、及びプログラム 図16
  • 特開-測定方法、測定システム、及びプログラム 図17
  • 特開-測定方法、測定システム、及びプログラム 図18
  • 特開-測定方法、測定システム、及びプログラム 図19
  • 特開-測定方法、測定システム、及びプログラム 図20
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058092
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】測定方法、測定システム、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 25/18 20060101AFI20240418BHJP
【FI】
G01N25/18 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165242
(22)【出願日】2022-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大地
(72)【発明者】
【氏名】寺崎 正
【テーマコード(参考)】
2G040
【Fターム(参考)】
2G040AB09
2G040BA25
2G040CA12
2G040CA13
2G040CA22
2G040DA10
2G040EA06
(57)【要約】
【課題】被測定物の形状や設置場所を問わずに、熱物性値を計測できるようにする。
【解決手段】本熱物性値測定方法は、(A)被測定物の表面に貼付され且つ光熱起電力効果を有するフィルム状センサに対して所定の光を照射して、フィルム状センサに生ずる電圧を測定するステップと、(B)厚みと電圧に関する値と熱物性値との対応関係を示すデータに基づき、被測定物の厚み及び測定した上記電圧に関する値に対応する熱物性値を導出するステップとを含む。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物の表面に貼付され且つ光熱起電力効果を有するフィルム状センサに対して所定の光を照射して、前記フィルム状センサに生ずる電圧を測定するステップと、
厚みと電圧に関する値と熱物性値との対応関係を示すデータに基づき、前記被測定物の厚み及び測定した前記電圧に関する値に対応する熱物性値を導出する導出ステップと、
を含む熱物性値測定方法。
【請求項2】
既知の厚みを有する被測定物の表面に貼付され且つ光熱起電力効果を有するフィルム状センサに対して所定の光を照射して、前記フィルム状センサに生ずる電圧を測定するステップと、
前記既知の厚みについて電圧に関する値と熱物性値との対応関係を示すデータに基づき、測定した前記電圧に関する値に対応する熱物性値を導出するステップと、
を含む熱物性値測定方法。
【請求項3】
前記電圧に関する値が、定常状態における電圧又は過渡状態における時定数であり、
前記定常状態における電圧の場合、前記熱物性値が熱伝導率であり、
前記過渡状態における時定数である場合、前記熱物性値が熱拡散率である
請求項1又は2記載の熱物性値測定方法。
【請求項4】
前記電圧に関する値が、過渡状態における時定数であり、
前記熱物性値が、密度であり、
前記データが、厚みと時定数と比熱と熱伝導率と密度との対応関係を表すデータであり、
前記導出ステップにおいて、
前記データに基づき、前記被測定物の厚みと測定した時定数と指定された比熱と熱伝導率とに対応する密度を導出する
請求項1記載の熱物性値測定方法。
【請求項5】
前記電圧に関する値が、過渡状態における時定数であり、
前記被測定物が、多孔質体であり、
前記熱物性値が、空隙率であり、
前記データが、厚みと時定数と前記被測定物と同一材料のバルク体の比熱及び密度と熱伝導率と空隙率とに対応する密度との対応関係を表すデータであり、
前記導出ステップにおいて、
前記データに基づき、前記被測定物の厚みと測定した時定数と前記バルク体の指定された比熱及び密度と熱伝導率とに対応する空隙率を導出する
請求項1記載の熱物性値測定方法。
【請求項6】
前記電圧に関する値が、過渡状態における時定数であり、
前記被測定物が、多孔質体であり、
前記熱物性値が、前記多孔質体に含まれる空隙に充填物が充填されている割合である充填率であり、
前記データが、厚みと時定数と前記被測定物と同一材料のバルク体の比熱及び密度と前記充填物の密度と前記被測定物の空隙率と熱伝導率と充填率とに対応する密度との対応関係を表すデータであり、
前記導出ステップにおいて、
前記データに基づき、前記被測定物の厚みと測定した時定数と前記バルク体の指定された比熱及び密度と前記充填物の指定された密度と前記被測定物の指定された空隙率と熱伝導率とに対応する充填率を導出する
請求項1記載の熱物性値測定方法。
【請求項7】
前記熱物性値の変化に基づき、前記被測定物の状態を推定するステップ
をさらに含む請求項1又は2記載の熱物性値測定方法。
【請求項8】
被測定物の表面に貼付され且つ光熱起電力効果を有するフィルム状センサに対して所定の光を照射して、前記フィルム状センサに生ずる電圧を測定する測定部と、
厚みと電圧に関する値と熱物性値との対応関係を示すデータに基づき、前記被測定物の厚み及び測定した前記電圧に関する値に対応する熱物性値を導出する演算部と、
を有する測定システム。
【請求項9】
既知の厚みを有する被測定物の表面に貼付され且つ光熱起電力効果を有するフィルム状センサに対して所定の光を照射して、前記フィルム状センサに生ずる電圧を測定する測定部と、
前記既知の厚みについて電圧に関する値と熱物性値との対応関係を示すデータに基づき、測定した前記電圧に関する値に対応する熱物性値を導出する演算部と、
を有する測定システム。
【請求項10】
被測定物の表面に貼付され且つ光熱起電力効果を有するフィルム状センサに対して所定の光を照射することで前記フィルム状センサに生じて測定される電圧に関する値を取得するステップと、
厚みと電圧に関する値と熱物性値との対応関係を示すデータに基づき、前記被測定物の厚み及び測定した前記電圧に関する値に対応する熱物性値を導出するステップと、
を、プロセッサに実行させるためのプログラム。
【請求項11】
既知の厚みを有する被測定物の表面に貼付され且つ光熱起電力効果を有するフィルム状センサに対して所定の光を照射することで前記フィルム状センサに生じて測定される電圧を取得するステップと、
前記既知の厚みについて電圧に関する値と熱物性値との対応関係を示すデータに基づき、測定した前記電圧に関する値に対応する熱物性値を導出するステップと、
を、プロセッサに実行させるためのプログラム。
【請求項12】
既知の厚みを有する被測定物の表面に貼付され且つ光熱起電力効果を有するフィルム状センサに対して所定の光を照射して、前記フィルム状センサに生ずる電圧を測定するステップと、
測定した前記電圧に関する値が所定の値域内であるか否かを判定するステップと、
測定した前記電圧に関する値が所定の値域内ではない場合には、信号を出力するステップと、
を含む検出方法。
【請求項13】
既知の厚みを有する被測定物の表面に貼付され且つ光熱起電力効果を有するフィルム状センサに対して所定の光を照射して、前記フィルム状センサに生ずる電圧を測定する測定部と、
測定した前記電圧に関する値が所定の値域内であるか否かを判定し、測定した前記電圧に関する値が所定の値域内ではない場合には、信号を出力する演算部と、
を有するシステム。
【請求項14】
既知の厚みを有する被測定物の表面に貼付され且つ光熱起電力効果を有するフィルム状センサに対して所定の光を照射することで前記フィルム状センサに生じて測定される電圧を取得するステップと、
測定した前記電圧に関する値が所定の値域内であるか否かを判定するステップと、
測定した前記電圧に関する値が所定の値域内ではない場合には、信号を出力するステップと、
を、プロセッサに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導率などの熱物性値を計測するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、光熱起電力効果(光熱電効果とも呼ぶ)を利用した光検出装置が開示されている。具体的には、可撓性を有するカーボンナノチューブ(CNT:Carbon Nano Tube)膜と、カーボンナノチューブ膜の2次元平面上に対向配置された第1電極および第2電極とを有するテラヘルツ波検出素子を備えたテラヘルツ波検出装置が開示されている。このような光起電力効果を利用した素子は、文字どおり光を検出することを主目的としており、当該素子を被測定物の熱物性値などの測定に用いるようなことは想定されていなかった。
【0003】
一方、熱物性値を測定する従来方法として、熱流計法、非定常熱線法、フラッシュ法、周期加熱法といった方法が知られているが、これらの方法を用いた測定装置では、サイズや均一性といった測定条件が設定されており、透明物質や多孔質体などの測定が困難であり、被測定物を切り出して破壊又は抜き取り検査を行わなければならないので、被測定物の運用環境下での測定が困難であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開公報第2018/207815号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】D. Suzuki, K. Li, K. Ishibashi, Y. Kawano, “A terahertz video camera patch sheet with an adjustable design based on self-aligned, 2D, suspended sensor array patterning”, Adv. Funct. Mater., 31, 2008931 (2021). https://doi.org/10.1002/adfm.202008931
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、一側面によれば、被測定物の形状や設置場所を問わずに、熱物性値を計測できるようにする、又は熱物性値に基づき処理を行うことが出来るようにするための新規な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に係る熱物性値測定方法は、(A)被測定物の表面に貼付され且つ光熱起電力効果を有するフィルム状センサに対して所定の光を照射して、フィルム状センサに生ずる電圧を測定するステップと、(B)厚みと電圧に関する値と熱物性値との対応関係を示すデータに基づき、被測定物の厚み及び測定した上記電圧に関する値に対応する熱物性値を導出するステップとを含む。
【0008】
本発明の第2の態様に係る熱物性値測定方法は、(A)既知の厚みを有する被測定物の表面に貼付され且つ光熱起電力効果を有するフィルム状センサに対して所定の光を照射して、フィルム状センサに生ずる電圧を測定するステップと、(B)既知の厚みについて電圧に関する値と熱物性値との対応関係を示すデータに基づき、測定した上記電圧に関する値に対応する熱物性値を導出するステップとを含む。
【0009】
本発明の第3の態様に係る検出方法は、(A)既知の厚みを有する被測定物の表面に貼付され且つ光熱起電力効果を有するフィルム状センサに対して所定の光を照射して、フィルム状センサに生ずる電圧を測定するステップと、(B)測定した上記電圧に関する値が所定の値域内であるか否かを判定するステップと、(C)測定した電圧に関する値が所定の値域内ではない場合には、信号を出力するステップとを含む。
【発明の効果】
【0010】
一側面によれば、被測定物の形状や設置場所を問わずに、熱物性値を計測できる、又は、熱物性値に基づき処理を行うことが出来るようになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施の形態の着想について説明するための図である。
図2図2は、実施の形態に係る測定システムの概要を示す図である。
図3図3は、フィルムセンサとしてPN接合なしのCNT膜を用いた場合を示す図である。
図4図4は、フィルムセンサとしてPN接合ありのCNT膜を用いた場合を示す図である。
図5図5は、フィルムセンサの両端に生ずる電圧の時間変化の例を示す図である。
図6図6は、定常状態における電圧と熱伝導率との関係を表すグラフの例を示す図である。
図7図7は、第1の実施の形態に係る測定の手順を示す図である。
図8図8は、フィルムセンサの両端に生ずる電圧の時定数の例を示す図である。
図9図9は、第3の実施の形態に係る測定の手順を示す図である。
図10図10は、空隙率を説明するための図である。
図11図11は、時定数から空隙率を導出するためのデータの一例を示す図である。
図12図12は、第4の実施の形態に係る測定の手順を示す図である。
図13図13は、充填率を説明するための図である。
図14図14は、第5の実施の形態に係る測定の手順を示す図である。
図15図15は、第7の実施の形態に係る処理フローを示す図である。
図16図16は、第8の実施の形態に係る処理フローを示す図である。
図17図17は、実施例1の測定結果を示す図である。
図18図18は、実施例2の測定結果を示す図である。
図19図19は、実施例3の測定結果を示す図である。
図20図20は、実施例3の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[実施の形態の着想について]
例えば非特許文献1では、光熱起電力効果を使用した光検出素子の感度を上げるために、基板の熱伝導率を変化させることを議論しており、例えば図1のようなデータが示されている。図1では、CNT膜の膜厚が1μmであり、チャネル幅が500μmである素子を用いた場合におけるデータを表しており、横軸は基板の熱伝導率k(Thermal conductivity[Wm-1-1])を表し、左縦軸は、黒丸で表され且つCNT膜内部で発生する温度勾配ΔT[℃](シミュレーションで得られた値)を表しており、右縦軸は、三角印で表されるTHz応答(THz Response)[mV](実験結果)を表している。すなわち、シミュレーション結果に基づき、各熱伝導率に対応する温度勾配の関係を黒丸でプロットしている。一方、熱伝導率が小さい順に、自立膜(基板なし)、基板がポリイミドである場合、基板がガラスである場合、及び基板がシリコンである場合について、THz応答(感度に相当)を測定して、それぞれの熱伝導率に対応するTHz応答との関係を、三角印でプロットしている。このデータは、シミュレーション結果として、熱伝導率が低いほどCNT膜内部で発生する温度勾配が大きくなり、光検出素子の感度を上げるという観点からは、基板の熱伝導率が低いほど好ましいということを示している。また、実験結果もそれを肯定しており、基板の熱伝導率が低いほど、CNT膜内部で発生する熱勾配が大きくなるため結果として電圧として測定されるTHz応答が大きくなるということを示している。
【0013】
この非特許文献1では、上でも述べたように、光検出素子の感度という観点から、基板の熱伝導率に着目して、熱伝導率が最も高い自立膜が最も好ましいものと述べているのみであり、逆に感度から基板の熱伝導率を導き出すという着想は、開示も示唆もなされていない。本願の発明者は、光検出素子の感度を高めるという目的で研究を進めてきたが、その知見を逆方向に有効活用して、非自明的に、感度から基板の熱物性値を評価するという着想に至ったものである。
【0014】
[実施の形態1]
本実施の形態では、熱物性値の一例として被測定物の熱伝導率を測定する場合について説明する。
【0015】
図2に、本実施の形態に係る測定システムの概要を示す。本実施の形態に係る測定システムは、被測定物1000に貼付されるフィルムセンサ100と、フィルムセンサ100に光を照射させる光源200と、フィルムセンサ100に対する光の照射により生ずる起電力の測定を行う電圧測定装置400と、被測定物1000の厚みを測定する膜厚測定装置500と、電圧測定装置400の測定結果と膜厚測定装置500の測定結果とに基づき演算を行う演算装置300とを有する。
【0016】
フィルムセンサ100は、光熱起電力効果を有する、すなわち光吸収性の熱電材料からなるフィルム状のセンサであり、CNT膜が好ましい。但し、CNT膜に限定されるものでは無く、グラフェン、ビスマステルル系の熱電材料に光吸収膜をコーティングしたものであっても良い。また、フィルムセンサ100の厚みは、薄いほど好ましい。CNT膜の場合、PN接合がないタイプであってもよいが、PN接合があるタイプの方が感度が高い。フィルムセンサ100の一例として、図3に、PN接合無しのタイプのCNT膜の模式図を示す。図3においてCNT膜120aは、PN接合がないCNT膜を示しており、その両端に電極110及び130が設けられている。このようなCNT膜120aの場合には、例えば電極130とCNT膜120aとの界面に、光源200からの光250を照射する。光250を照射することによって電極130と電極110には温度勾配ΔTが生じ、当該温度勾配ΔTに応じた電圧が発生し、それを電圧測定装置400で測定することになる。
【0017】
一方、PN接合があるタイプのCNT膜の場合、図4に示すように、p型のCNT膜120cとn型のCNT膜120bとが接合されており、p型のCNT膜120cには電極130が、n型のCNT膜120bには電極110とが接続されている。そして、p型のCNT膜120cとn型のCNT膜120bとの界面(点線部分)に、光源200からの光250を照射する。光250を照射することによって界面(点線部分)と電極130及び電極110に温度勾配ΔTが生じ、当該温度勾配ΔTに応じた電圧が発生し、それを電圧測定装置400で測定することになる。
【0018】
光源200が出力する光250の波長は、フィルムセンサ100が吸収する波長であれば何でもよく、集光径の関係から短波長であるほど望ましい。CNT膜を用いる場合には、可視からTHz帯までの波長の光を使用することが可能であるが、波長が532nmである光が好ましい。光強度については、強いほどよいが、フィルムセンサ100を劣化させないレベルの強度で、ルックアップテーブル(LUT)で照合するので、統一的な値とする。
【0019】
なお、電圧測定装置400で測定する電圧は、例えば電極110と電極130との間の電圧であるが、熱伝導率を導出する場合には、定常状態における電圧(振幅)を測定する。図5に模式的に示すように、光250の照射を開始した時点を0とすると、電極110と電極130との間の電圧は、時点0から上昇を開始し、その後定常状態となって一定値となる。図5では、3つの被測定物a乃至cについて、電圧の時間変化を曲線a乃至cとして表している。この例では、被測定物aは、最も定常状態に至るのが早く(応答が速く、時定数が小さい)、定常状態における電圧も高い。被測定物bは、被測定物aよりも定常状態になるのが遅い(応答が遅く、時定数が大きい)が、定常状態における電圧は、被測定物aと同じである。被測定物cの場合には、被測定物a及びbよりも、定常状態における電圧は低い。よって、被測定物a乃至cの厚みが同じであれば、被測定物a及びbと、被測定物cとは、異なる熱伝導率ということになる。また、電圧測定装置400は、演算装置300に接続されていても良いし、電圧測定装置400の測定結果を、演算装置300に入力するような形であっても良い。
【0020】
被測定物1000の形は、どのようなものであっても良く、大きさも問わない。フィルムセンサ100を密着して貼り付けられるものであれば、透明なものであっても、多孔質なものであっても、複合材料であっても良い。また、被測定物1000から試料を切り出す必要も無いので、被測定物1000の設置場所で測定できる。
【0021】
膜厚測定装置500は、例えばマイクロメータである。膜厚測定装置500についても、演算装置300に接続されていても良いし、膜厚測定装置500の測定結果を、演算装置300に入力するような形であっても良い。
【0022】
演算装置300は、例えばパーソナルコンピュータであるが、図1に示すように、演算部310と、ルックアップテーブル格納部320とを含む。なお、演算装置300は、電圧測定装置400や光源200の制御装置として機能する場合もある。ルックアップテーブル格納部320は、被測定物1000の厚みと、電圧測定装置400で測定された、定常状態における電圧(振幅)と、熱物性値である熱伝導率との対応関係を表すデータを格納している。例えば、所定の刻みで変化する複数の厚みの各々について、電圧と熱伝導率との対応関係を表すテーブルを含む。但し、テーブルという形に限定するものでは無く、厚みと電圧とから熱伝導率を導き出せるようにする各種データであれば良い。演算部310は、ルックアップテーブル格納部320に基づき、電圧測定装置400の測定結果と、膜厚測定装置500の測定結果とに対応する熱伝導率を導出する。ルックアップテーブル格納部320に直接対応する熱伝導率が保持されていない場合には、近似する厚みや電圧についての熱伝導率を補間するなどの方法により、対応する熱伝導率を導出する場合もある。
【0023】
ルックアップテーブル格納部320に格納されるデータの一例を図6に示す。図6は、厚み1mmについてのデータを表しており、電圧(すなわち起電力)[μV]と熱伝導率との関係を曲線で表している。これにより、電圧測定装置400の測定結果である電圧が得られると、熱伝導率が導出される。なお、図6は、厚み1mmについてのデータのみを示しているので、各厚みについてのデータが、ルックアップテーブル格納部320に格納される。
【0024】
図6に示すようなデータについては、事前に実験により得るようにしても良いが、熱電解析によって生成しておいても良い。すなわち、特定の熱伝導率を有する基板上に図3図4に示したフィルムセンサ100を貼り付けたような解析モデルを構築して、有限要素法等にて、以下の熱伝導方程式を解くことで、図6に示すようなデータを生成する。
【数1】
なお、kは熱伝導率を表し、ρは密度を表し、Cは比熱を表し、Tは温度を表し、tは時間を表し、xはx軸方向の座標、yはy軸方向の座標、zはz軸方向の座標を表し、Qは入力熱量を表す。
また、熱伝導方程式の解法については、周知であるからここでは説明を省略する。
【0025】
次に、本実施の形態に係る測定の手順を、図7を用いて説明する。まず、膜厚測定装置500を用いて被測定物1000の厚みを測定する(ステップS1)。なお、被測定物1000が規格化された製品などであり、その厚みが既知であれば、本ステップについては省略可能である。また、被測定物1000にフィルムセンサ100を貼り付ける(ステップS3)。なお、被測定物1000とフィルムセンサ100が一体化されている製品の場合もあるので、そのような場合には本ステップS3は省略される。
【0026】
その後、光源200から光250を、フィルムセンサ100に対して照射する(ステップS5)。図3及び図4で説明したように、PN接合無しのCNT膜を用いる場合と、PN接合ありのCNT膜を用いる場合とでは、照射位置が異なる。また、電圧測定装置400により、フィルムセンサ100の両端に生じる電圧を測定する(ステップS7)。熱伝導率を測定する場合には、上で述べたように、定常状態における電圧を測定する。なお、熱拡散率のような熱物性値を測定する場合には、過渡状態における時定数を測定することになる。よって、光250を照射してから定常状態になったことを確認できるまでの電圧の時間変化を測定することになる。なお、定常状態における電圧の平均などを採用しても良い。
【0027】
そして、演算装置300の演算部310は、厚みの測定結果と、電圧の測定結果とで、ルックアップテーブル格納部320を検索して、それらに対応する熱物性値(第1の実施の形態であれば熱伝導率)を導出する(ステップS9)。厚みの測定結果は、膜厚測定装置500から入力される場合もあれば、ユーザが演算装置300に数値を入力するようにしても良い。同様に、電圧の測定結果も、電圧測定装置400から入力される場合もあれば、ユーザが演算装置300に数値を入力するようにしても良い。上でも述べたように、ルックアップテーブル格納部320において厚みや電圧について直接対応する熱物性値が登録されていなければ、近似する厚みや電圧についての熱物性値を用いて補間により導出するようにしても良い。
【0028】
そして、演算装置300の演算部310は、導出した熱物性値(第1の実施の形態では熱伝導率)を出力する(ステップS11)。例えば、表示装置に出力するようにしても良い、何らかの記憶装置にデータを書き込むようにしても良いし、図示しないネットワークに接続された他のコンピュータに出力するようにしても良い。
【0029】
以上のように、光熱起電力効果を有するフィルム状のセンサを用いることで、光の検出では無く、被測定物の熱物性値である熱伝導率を導出できるようになる。
【0030】
[実施の形態2]
測定可能な熱物性値には、熱拡散率も含まれる。但し、熱拡散率は、フィルムセンサ100の電極間に生ずる電圧の時定数に関連する。すなわち、ステップS7において、電圧測定装置400は、光源200から光250をフィルムセンサ100に照射し始めてから、フィルムセンサ100の電極間の電圧が定常状態になるまで測定して、電圧測定装置400又は演算装置300の演算部310が、定常状態の電圧を100%とした場合に、光250の照射開始から62.3%となるまでの時間を導出する。
【0031】
例えば図8に、時定数測定の一例を示す。図8では、定常状態の電圧を1に規格化して示しており、被測定物d乃至fの規格化電圧の時間変化を曲線d乃至fで表している。水平な点線は、62.3%の水準を表しており、この点線と曲線d乃至fとの交点が、時定数を表している。これによると、被測定物d、被測定物e、被測定物fの順で、時定数が大きくなっていることが分かる。
【0032】
また、ルックアップテーブル格納部320には、厚みと、時定数と、熱拡散率との対応関係を表すテーブル等のデータが格納されている。このデータについても、実験にて得るようにしても良いし、熱電解析によって生成するようにしても良い。そして、ステップS9では、演算部310は、ルックアップテーブル格納部320から、得られた時定数及び厚みに対応する熱拡散率を導出する。さらに、ステップS11で、演算部310は、導出された熱拡散率を出力する。
【0033】
このように、被測定物の熱物性値である熱拡散率を導出できるようになる。
【0034】
[実施の形態3]
熱拡散率は、以下のように表される。
熱拡散率=熱伝導率k/(密度ρ×比熱C)
この式によれば、熱伝導率k及び比熱Cが既知であれば、密度ρをも導出できることを示している。被測定物1000の素材情報としてこれらが得られれば良いし、場合によっては、被測定物1000の比熱Cが既知であり、第1の実施の形態に係る手法で熱伝導率kが得られる場合もある。
【0035】
例えば、後者の場合には、ルックアップテーブル格納部320には、第1の実施の形態で述べたような厚みと定常状態における電圧と熱伝導率との対応関係を表すデータと共に、比熱と厚みと熱伝導率と過渡状態における時定数と密度との対応関係を表すデータを保持しておき、演算部310により、定常状態における電圧と厚みとに対応する熱伝導率を導出する共に、導出された熱伝導率と過渡状態における時定数と指定された比熱と厚みとに対応する密度を導出する。
【0036】
図9に、本実施の形態に係る測定の手順を示す。ステップS1乃至S5については第1の実施の形態と同様であり、説明を省略する。次に、ステップS7bでは、電圧測定装置400は、定常状態における電圧だけでは無く、過渡状態における時定数をも測定する。
【0037】
そして、演算装置300の演算部310は、厚みの測定結果と、電圧の測定結果(定常状態における電圧)とで、ルックアップテーブル格納部320を検索して、それらに対応する熱伝導率を導出する(ステップS9b)。第1の実施の形態と同様に、厚みの測定結果は、膜厚測定装置500から入力される場合もあれば、ユーザが演算装置300に数値を入力するようにしても良い。同様に、電圧の測定結果も、電圧測定装置400から入力される場合もあれば、ユーザが演算装置300に数値を入力するようにしても良い。上でも述べたように、ルックアップテーブル格納部320において厚みや電圧について直接対応する熱物性値が登録されていなければ、近似する厚みや電圧についての熱物性値を用いて補間により導出するようにしても良い。
【0038】
また、演算部310は、ユーザから被測定物1000の比熱の指定を受け付ける(ステップS13)。例えば、比熱そのものの入力を受け付ける場合もあれば、被測定物1000の材質が指定されて、材質と比熱との対応テーブルなどから、比熱を特定するようにしても良い。なお、本ステップS13は、ステップS15の前であれば、その実行タイミングはいつでも良い。そして、演算部310は、熱伝導率と、比熱と、厚みの測定結果と、電圧の測定結果(過渡状態における時定数)とで、ルックアップテーブル格納部320を検索して、それらに対応する密度を導出する(ステップS15)。
【0039】
そして、演算部310は、得られた熱物性値(すなわち熱伝導率及び密度)を出力する(ステップS11b)。このように光熱起電力効果を有するフィルム状のセンサを用いることで、熱物性値である熱伝導率及び密度を得ることが出来るようになる。
【0040】
なお、比熱に加えて熱伝導率も既知であれば、ステップS7bにおいては、過渡状態における時定数を測定し、ステップS9bについては省略する。そして、例えばステップS13において、比熱に加えて熱伝導率の指定を受け付けるようにする。そうすれば、ステップS15で密度が得られるので、ステップS11bで、熱物性値である密度を出力することができる。
【0041】
[実施の形態4]
ある材料に多数の空隙が設けられている多孔質体については、図10に模式的に示すように、空隙が無く(空隙率0%)材料のみであるバルク体との対比で、全体に対する空隙の割合である空隙率αが定義される。すなわち、材料の密度ρmaterialとすると、バルク体では、全体の密度ρtotalは、材料の密度ρmaterialそのものとなるが、多孔質体では、全体の密度ρtotalは、以下のように表される。なお、ここでは多孔質体の孔内部の気体を空気と仮定し、空気の密度をρairとする。
ρtotal=(1-α)×ρmaterial+α×ρair
この式を変形すると、空隙率αは、以下のようになる。
α={ρmaterial-ρtotal}/{ρmaterial-ρair
ここで、第3の実施の形態によればρtotalを得ることができるので、バルク体の密度ρmaterialが分かっていれば、空隙率αを得ることが出来る。なお、孔内部の規定が空気以外の場合は、ρairをその気体の密度に変更すれば同様に計算される。また、孔内部の気体が空気であれば、ρairは、ρmaterialより非常に小さい値となるので、無視する場合もある。
【0042】
空隙率αを導出する場合には、ルックアップテーブル格納部320には、例えば、第1の実施の形態で述べたような厚みと定常状態における電圧と熱伝導率との対応関係を表すデータと共に、バルク体の密度及び比熱と厚みと熱伝導率と過渡状態における時定数と空隙率との対応関係を表すデータを保持しておく。例えば、バルク体の密度及び比熱と厚みと熱伝導率との組み合わせ毎に、例えば図11に示すように、時定数と空隙率との関係を表すデータを保持しておく。図11のようなグラフがあれば、測定された時定数に対応する空隙率を特定できるようになっている。そして、演算部310により、定常状態における電圧と厚みとに対応する熱伝導率を導出する共に、導出された熱伝導率と過渡状態における時定数と指定されたバルク体の密度及び比熱と厚みとに対応する空隙率を導出する。
【0043】
従って、空隙率αを導出する場合には、例えば、図12に示すような処理を実行する。なお、ステップS1乃至S9bまでは、第3の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。また、ステップS13bでは、演算装置300の演算部310は、被測定物1000の材質情報の指定を受け付ける。すなわち、バルク体についての密度及び比熱の指定を受け付ける。なお、材質とバルク体についての密度及び比熱との対応テーブルなどから、バルク体についての密度及び比熱を特定するようにしても良い。
【0044】
そして、演算部310は、熱伝導率と、バルク体の密度及び比熱と、厚みの測定結果と、電圧の測定結果(過渡状態における時定数)とで、ルックアップテーブル格納部320を検索して、それらに対応する空隙率を導出する(ステップS15b)。
【0045】
そして、演算部310は、得られた熱物性値(すなわち熱伝導率及び空隙率)を出力する(ステップS11c)。このように光熱起電力効果を有するフィルム状のセンサを用いることで、熱伝導率及び空隙率を得ることが出来るようになる。
【0046】
なお、バルク体の密度及び比熱に加えて熱伝導率も既知であれば、ステップS7bにおいては、過渡状態における時定数を測定し、ステップS9bについては省略する。そして、例えばステップS13bにおいて、バルク体の密度及び比熱に加えて熱伝導率の指定を受け付けるようにする。そうすれば、ステップS15bで空隙率が得られるので、ステップS11cで、熱物性値である空隙率を出力することができる。
【0047】
なお、バルク体の密度については、図9に示したような処理で得るようにしても良い。また、被測定物1000が当初バルク体であり、その後時間経過によって空隙率が増加するような場合には、当初は図9でバルク体の密度を導出すると共に、例えば定期的に又は任意のタイミングで図12に示す処理を実行することで、空隙率の時間変化を得ることが出来るようになる。
【0048】
[実施の形態5]
例えば、図13の左側に示すような空隙率αの多孔質体の空隙部分に、徐々に水などの物質が入り込む場合を考える。すなわち、図13の右側に示すように、空気の部分(すなわち空隙部分)に水などの物質(すなわち充填物)が含まれるようになり、空隙部分が物質で埋められている割合を充填率βと呼ぶことにする。
【0049】
水などの物質の密度ρinclusionとすると、図13の右側における全体の密度ρtotalは、以下のように表される。
ρtotal=(1-α)×ρmaterial+α(1-β)×ρair+αβ×ρinclusion
これを変形すると、以下のようになる。
αβ(ρinclusion-ρair)=ρtotal-(1-α)×ρmaterial-α×ρair
β={ρtotal-(1-α)×ρmaterial-α×ρair}/{α(ρinclusion-ρair)}
【0050】
ここで、第3の実施の形態によればρtotalを得ることができるので、バルク体の密度と充填物の密度と当初の空隙率αが分かっていれば、充填率βを得ることが出来る。なお、孔内部の気体が空気であれば、ρairは、ρmaterialより非常に小さい値となるので、無視する場合もある。
【0051】
充填率βを導出する場合には、ルックアップテーブル格納部320には、例えば、第1の実施の形態で述べたような厚みと定常状態における電圧と熱伝導率との対応関係を表すデータと共に、バルク体の密度及び比熱と充填物(例えば水)の密度と空隙率と厚みと熱伝導率と過渡状態における時定数と充填率との対応関係を表すデータを保持しておく。そして、演算部310により、定常状態における電圧と厚みとに対応する熱伝導率を導出する共に、導出された熱伝導率と過渡状態における時定数と指定されたバルク体の密度及び比熱と充填物の密度と空隙率と厚みとに対応する充填率を導出する。
【0052】
従って、充填率βを導出する場合には、例えば、図14に示すような処理を実行する。なお、ステップS1乃至S9bまでは、第3の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。また、ステップS13cでは、演算装置300の演算部310は、被測定物1000の材質情報及び充填物の情報の指定を受け付ける。すなわち、バルク体についての密度及び比熱と、空隙率との指定を受け付ける。なお、材質とバルク体についての密度及び比熱との対応テーブルなどから、バルク体についての密度及び比熱を特定するようにしても良い。さらに、充填物(例えば水)の密度の情報の入力を受け付ける。充填物の種類の入力に応じて、充填物の種類と密度との対応テーブルなどから、充填物の密度を特定するようにしても良い。
【0053】
そして、演算部310は、熱伝導率と、バルク体の密度及び比熱と、充填物の密度と、空隙率と、厚みの測定結果と、電圧の測定結果(過渡状態における時定数)とで、ルックアップテーブル格納部320を検索して、それらに対応する充填率を導出する(ステップS15c)。
【0054】
そして、演算部310は、得られた熱物性値(すなわち熱伝導率及び充填率)を出力する(ステップS11d)。このように光熱起電力効果を有するフィルム状のセンサを用いることで、熱伝導率及び充填率を得ることが出来るようになる。
【0055】
なお、バルク体の密度及び比熱に加えて熱伝導率も既知であれば、ステップS7bにおいては、過渡状態における時定数を測定し、ステップS9bについては省略する。そして、例えばステップS13cにおいて、バルク体の密度及び比熱に加えて熱伝導率の指定を受け付けるようにする。そうすれば、ステップS15cで充填率が得られるので、ステップS11dで、熱物性値である充填率を出力することができる。
【0056】
なお、バルク体の密度については、図9に示したような処理で得るようにしても良い。また、空隙率については、図12に示すような処理で特定するようにしても良い。また、被測定物1000が当初充填率0の多孔質体であり、その後時間経過によって充填率が増加するような場合には、当初は図12の処理で空隙率を導出すると共に、例えば定期的に図14に示す処理を実行することで、充填率の時間変化を得ることが出来るようになる。
【0057】
[実施の形態6]
上で述べた実施の形態では、被測定物1000が異なる場合でも対処できるように、ルックアップテーブル格納部320にデータを事前に保持させておき、導出に要するデータをその都度取得する例を述べてきたが、例えば、ある特定の被測定物1000に対してフィルムセンサ100を貼り付けた状態で、ある特定の被測定物1000を含む製品を出荷して、当該製品内で継続して測定を行うような場合がある。このような場合に、被測定物1000の厚みは既知であり、既に被測定物1000にフィルムセンサは貼り付け済みであるから、そのようなステップは省略される。同様に、ルックアップテーブル格納部320に保持させておくデータについても、厚みが常に同じであれば、その厚みについての対応関係を表すデータのみを保持しておけば良い。
【0058】
さらに、図9の処理では比熱の指定を受け付けるが、比熱も既知ということになるので、比熱の指定を受け付けるステップは省略され、ルックアップテーブル格納部320に保持させておくデータについても、厚み及び比熱が常に同じであれば、その厚み及び比熱についての対応関係を表すデータのみを保持しておけば良い。熱伝導率についても変化しない場合には、同様に、既知の厚み、既知の比熱及び既知の熱伝導率についての対応関係を表すデータのみを保持しておけば良い。
【0059】
図12の処理では、バルク体についての密度及び比熱の指定を受け付けるが、これらについても、図9について説明したものと同様である。図14の処理では、バルク体についての密度及び比熱、空隙率及び充填物の密度の指定を受け付けるが、これらについても、図9について説明したものと同様である。
【0060】
[実施の形態7]
上で述べたような熱物性値は、時間の経過に従って変化する場合がある。例えば、劣化して密度が増加する場合もあれば、劣化により密度が低下する場合もある。一方、熱拡散率の変化から見れば、劣化して熱拡散率が低下する場合もあれば、劣化により熱拡散率が上昇する場合もある。さらに、劣化して充填率が増加したり、劣化して空隙率が増加する場合もある。
【0061】
本実施の形態では、例えば図15に示すような処理を行うようにして、例えば時間の経過に伴う状態の変化を検出して警告信号を出力することを想定する。図15の処理については、例えば定期的に、又は製品の起動時などのイベント毎に実行する。
【0062】
まず、上で述べた実施の形態に従って、熱物性値測定処理を実行する(ステップS21)。なお、継続して同じ被測定物について測定を行うので、上で述べた処理フローのうち重複する処理については省略可能であり、変化しないパラメータについても省略した形でデータを保持すれば良い。また、導出された熱物性値については、出力しなくても良い。そして、演算装置300の演算部310は、導出した熱物性値の、基準値からの乖離が閾値以上であるか否かを判断する(ステップS23)。基準値については、最初に導出した熱物性値であっても良いし、予め設定された値であっても良いし、前回得られた値であっても良い。乖離についても、両者の差だけではなく、例えば基準値に対する差の割合等であっても良い。もし、導出した熱物性値の、基準値からの乖離が閾値未満であれば、被測定物1000の状態変化はないとみなして、今回の処理は終了する。
【0063】
一方、導出した熱物性値の、基準値からの乖離が閾値以上である場合には、演算部310は、所定の状態(例えば劣化状態)に変化したと推定し(ステップS25)、警告信号を出力する(ステップS27)。例えば交換を促すようにする。
【0064】
このようにすることで、熱物性値の変化に応じた状態推定と、状態推定に基づく警告を出すことが出来るようになる。なお、状態については、1つではなく複数の閾値を設定することで、複数の状態を推定できるようにするようにしても良い。
【0065】
[実施の形態8]
上では、熱物性値を導出した上で、状態変化を推定していたが、継続して同じ被測定物について測定を行う場合には、所定の状態に相当する電圧の値域や時定数の値域が設定できる。例えば、正常状態に対応する熱物性値がAからBまでだとすると、それに対応する電圧a[V]から電圧b[V]までが正常状態で、それ以外が劣化状態というように判定できる。すなわち、図15の処理フローは、例えば図16のような処理に変形することが出来る。なお、図16のような処理については、例えば、定期的に、又は製品の起動時などのイベント毎に実行する。
【0066】
まず、光源200からフィルムセンサ100に光250を照射する(ステップS31)。そして、電圧測定装置400は、フィルムセンサ100の両端の電圧を測定する(ステップS33)。定常状態における電圧と過渡状態における時定数とのうち少なくともいずれかを測定する。そして、演算部310は、電圧の測定結果が、所定の値域内であるか否かを判断する(ステップS35)。ここでは、検出すべき状態に対応する値域が設定されているものとする。電圧の測定結果が、所定の値域外であれば、処理は終了する。一方、電圧の測定結果が、所定の値域内である場合には、演算部310は、所定の状態(例えば劣化状態)に変化したと推定し(ステップS37)、警告信号を出力する(ステップS39)。例えば交換を促すようにする。
【0067】
以上のような処理を行うことによって、簡易に状態推定を行うことができ、問題があれば警告を出力することが出来るようになる。なお、所定値域が異常な状態に対応する値域だけではなく、正常な状態の値域であり、正常な状態が推定される場合には信号が出力され、異常な状態が推定されると信号が出力されなくなるようにしても良い。
【0068】
[実施例1]
フィルムセンサ1000が、縦横厚さが5mm×1mm×1μmであるCNT膜を用いて、厚さ1mmの平板でフィルムセンサ1000を貼るのに十分なサイズを有する各種被測定物の熱伝導率を測定した。なお、CNT膜の合成方法は、eDIPS(名城ナノカーボン社製)であり、PN接合ありのタイプである。また、光源波長は、830nmで、光源出力は5mW、スポット径は、直径1mmとした。なお、伝熱解析により厚さ1mmについての電圧と熱伝導率との対応関係を表すグラフを用いて、定常状態における電圧から熱伝導率を測定した。その結果を、図17に示す。これを見ると、熱伝導率が0.01乃至10W/(mk)の範囲において、誤差が十分に小さくなっており、熱伝導率を精度良く測定できている。なお、光源出力を上げることによって、10W/(mk)を超える範囲についても、対応可能であると推定される。
【0069】
[実施例2]
厚み1mmのアクリルパイプの側面に実施例1のフィルムセンサ1000を貼り付けて測定した場合と、厚み1mmの水性樹脂の破片に実施例1のフィルムセンサ1000を貼り付けて測定した場合とを、図18に示す。図18は、図17で用いた、電圧と熱伝導率との対応関係を表すグラフを表している。そして、アクリルパイプは点Yに対応しており、定常状態における電圧から、熱伝導率は0.15[W/(mk)]と得られ、水性樹脂は点Xに対応しており、定常状態における電圧から、熱伝導率は0.4[W/(mk)]と得られた。これらは、アクリルと水性樹脂の既知の熱伝導率と同様の値となっており、形状に左右されず、精度良く測定できていることが分かる。本実施の形態によれば、材料のサイズ、粗さ、設置場所などに影響されない自由度の高い熱物性値の測定が可能となる。
【0070】
[実施例3]
厚み40μmの多孔質ポリイミドフィルムについて熱伝導率及び空隙率を測定した。なお、本多孔質ポリイミドフィルムのデータシートには、熱伝導率0.06[W/(mk)]であり、空隙率70%と記載されていた。図19に、厚み40μmの場合における電圧と熱伝導率との関係を表すグラフを示しており、測定された、定常状態における電圧から、熱伝導率は0.058[W/(mk)]であると測定された。また、図19に、厚み40μmでポリイミドの比熱、密度及び熱伝導率を前提として、過渡状態における時定数と空隙率との関係を表すグラフを示しており、測定された、過渡状態における時定数から、空隙率は71%であると測定された。このように、薄膜材料や多孔質体であっても、精度良く熱物性値を測定できるようになることが分かる。
【0071】
以上本発明の実施の形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。処理フローについては、処理結果が変わらなければ、ステップの順番を入れ替えたり、並列に実行するようにしても良い。また、演算装置300は、例えばプロセッサ、メモリ、ストレージデバイスを含むコンピュータであり、本実施の形態の機能を実現するためのプログラムを実行することで、上で述べたような機能を実現させる。但し、半導体チップ上の専用の回路にて演算装置300の機能が実現される場合もある。また、例えば被測定物1000を含む製品に、プロセッサなどの他の演算部が含まれる場合には、当該演算部が上記のような処理を行うようになる場合もある。
【0072】
さらに、厚みが既知であれば、例えば電圧測定装置400は被測定物1000側に設置されているが、演算装置300は遠隔地に設置されており、電圧の測定結果が、電圧測定装置400から無線などのネットワークを介して演算装置300に送信されるようなシステムを構築することも可能である。
【0073】
以上述べた実施の形態をまとめると以下のようになる。
【0074】
実施の形態の第1の態様に係る熱物性値測定方法は、(A)被測定物の表面に貼付され且つ光熱起電力効果を有するフィルム状センサに対して所定の光を照射して、フィルム状センサに生ずる電圧を測定するステップと、(B)厚みと電圧に関する値と熱物性値との対応関係を示すデータに基づき、被測定物の厚み及び測定した上記電圧に関する値に対応する熱物性値を導出する導出ステップとを含む。このようなフィルム状センサを用いることで、被測定物の形状や設置場所を問わずに、熱物性値を計測できるようになる。なお、上記対応関係を表すデータについては、少なくとも(a)厚みと(b)電圧に関する値と(c)熱物性値との対応関係を表すものであって、熱物性値の種類によってはより多くのパラメータ間の対応関係を表すものである場合もある。
【0075】
実施の形態の第2の態様に係る熱物性値測定方法は、(C)既知の厚みを有する被測定物の表面に貼付され且つ光熱起電力効果を有するフィルム状センサに対して所定の光を照射して、フィルム状センサに生ずる電圧を測定するステップと、(D)既知の厚みについて電圧に関する値と熱物性値との対応関係を示すデータに基づき、測定した電圧に関する値に対応する熱物性値を導出するステップとを含む。このようなフィルム状センサを用いることで、被測定物の形状や設置場所を問わずに、熱物性値を計測できるようになる。特に、同じ厚みを有する被測定物の測定を行う場合には、当該厚みについて上記対応関係を表すデータを保持しておけば良いので、データ量が削減される。また、上記対応関係を表すデータについては、少なくとも(a)電圧に関する値と(b)熱物性値との対応関係を表すものであって、熱物性値の種類によってはより多くのパラメータ間の対応関係を表すものである場合もある。
【0076】
第1及び第2の態様においては、上で述べた電圧に関する値が、定常状態における電圧又は過渡状態における時定数である場合もある。定常状態における電圧の場合、熱物性値は熱伝導率であり、過渡状態における時定数である場合、熱物性値は熱拡散率である場合もある。
【0077】
また、第1の態様において、上で述べた電圧に関する値が、過渡状態における時定数であり、熱物性値が、密度である場合、上で述べたデータが、厚みと時定数と比熱と熱伝導率と密度との対応関係を表すデータとなる場合がある。そして、上で述べた導出ステップにおいて、上で述べたデータに基づき、被測定物の厚みと測定した時定数と指定された比熱と熱伝導率とに対応する密度を導出する場合がある。密度についても、上で述べたようなフィルム状センサを用いることで、様々な状況にある被測定物について測定できるようになる。なお、用いられる熱伝導率は、定常状態における電圧から導出される場合もある。また、第2の態様に適用する場合には、厚みについては除外される。
【0078】
また、第1の態様において、上で述べた電圧に関する値が、過渡状態における時定数であり、被測定物が、多孔質体であり、熱物性値が、空隙率である場合、上で述べたデータが、厚みと時定数と被測定物と同一材料のバルク体の比熱及び密度と熱伝導率と空隙率とに対応する密度との対応関係を表すデータである場合がある。そして、上で述べた導出ステップにおいて、上で述べたデータに基づき、被測定物の厚みと測定した時定数とバルク体の指定された比熱及び密度と熱伝導率とに対応する空隙率を導出する場合もある。多孔質体の空隙率についても、上で述べたようなフィルム状センサを用いることで、様々な状況にある被測定物について測定できるようになる。なお、用いられる熱伝導率は、定常状態における電圧から導出される場合もある。また、第2の態様に適用する場合には、厚みについては除外される。
【0079】
さらに、第1の態様において、上で述べた電圧に関する値が、過渡状態における時定数であり、被測定物が、多孔質体であり、熱物性値が、多孔質体に含まれる空隙に充填物が充填されている割合である充填率である場合、上で述べたデータが、厚みと時定数と被測定物と同一材料のバルク体の比熱及び密度と充填物の密度と被測定物の空隙率と熱伝導率と充填率とに対応する密度との対応関係を表すデータである場合がある。そして、上で述べた導出ステップにおいて、上で述べたデータに基づき、被測定物の厚みと測定した時定数とバルク体の指定された比熱及び密度と充填物の指定された密度と被測定物の指定された空隙率と熱伝導率とに対応する充填率を導出する場合もある。多孔質体の充填率についても、上で述べたようなフィルム状センサを用いることで、様々な状況にある被測定物について測定できるようになる。なお、用いられる熱伝導率は、定常状態における電圧から導出される場合もある。また、第2の態様に適用する場合には、厚みについては除外される。
【0080】
さらに、第1及び第2の態様に係る熱物性値測定方法は、さらに、(E)熱物性値の変化に基づき、被測定物の状態を推定するステップをさらに含むようにしても良い。例えば、熱物性値が基準値から変化した量や割合に基づき、被測定物の劣化といった状態を推定するようにしても良い。
【0081】
実施の形態の第3の態様に係る検出方法は、(F)既知の厚みを有する被測定物の表面に貼付され且つ光熱起電力効果を有するフィルム状センサに対して所定の光を照射して、フィルム状センサに生ずる電圧を測定するステップと、(G)測定した上記電圧に関する値が所定の値域内であるか否かを判定するステップと、(H)測定した電圧に関する値が所定の値域内ではない場合には、信号を出力するステップとを含む。厚み等が変化しない状態で継続して熱物性値を測定する場合には、特定の状態で得られる熱物性値の範囲に対応する電圧などの値域が確定するので、熱物性値そのものを導出せずとも、状態を推定して、警告などを発することが出来るようになる。なお、所定の値域は、正常状態に相当する値域だけではなく、異常状態(例えば劣化状態)に相当する値域の場合もある。信号も、例えば交換を要求する信号の場合もあれば、正常を表す信号の場合もある。
【0082】
上で述べたステップの少なくとも一部をプロセッサに実行させるためのプログラムを作成することができ、そのようなプログラムは、様々な記録媒体に記録される。また、上記のようなステップを実行するに、例えば光源、測定部及び演算部を少なくとも含むシステムを構築することも出来る。
【符号の説明】
【0083】
1000 被測定物
100 フィルムセンサ 200 光源
300 演算装置 400 電圧測定装置
500 膜厚測定装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20