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特開2024-58258イオン伝導体、イオン伝導性焼結体、前駆体溶液、前駆体粉体およびそれらの製造方法
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  • 特開-イオン伝導体、イオン伝導性焼結体、前駆体溶液、前駆体粉体およびそれらの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058258
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】イオン伝導体、イオン伝導性焼結体、前駆体溶液、前駆体粉体およびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20240418BHJP
   C01B 25/30 20060101ALI20240418BHJP
   C04B 35/447 20060101ALI20240418BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20240418BHJP
【FI】
H01B1/06 A
C01B25/30 Z
C04B35/447
H01B13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165510
(22)【出願日】2022-10-14
(71)【出願人】
【識別番号】000224798
【氏名又は名称】DOWAホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100129470
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 高
(72)【発明者】
【氏名】秋本 順二
(72)【発明者】
【氏名】片岡 邦光
(72)【発明者】
【氏名】藤田 陸人
(72)【発明者】
【氏名】杉井 かおり
(72)【発明者】
【氏名】田上 幸治
(72)【発明者】
【氏名】藤田 英史
(72)【発明者】
【氏名】阿部 大介
【テーマコード(参考)】
5G301
【Fターム(参考)】
5G301CA02
5G301CA16
5G301CA19
5G301CA30
5G301CD01
5G301CE02
(57)【要約】
【課題】β-LiPO型の結晶構造を基本とする酸化物において、リチウムイオン伝導性を改善したイオン伝導体を提供する。
【解決手段】Li、Si、Pを結晶格子中に含むβ-LiPO型構造の結晶相を主相に持ち、Si/(Si+P)原子比が0.05以上0.40以下である、イオン伝導体。このイオン伝導体は、水系溶媒中で、Li、Si、P組成比が所定範囲に調整された水溶性リチウム化合物、ケイ素アルコキシド、および水溶性リン化合物を混合して得られるコロイド溶液に由来する前駆体を、例えば150~550℃で焼成することによって得ることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li、Si、Pを結晶格子中に含むβ-LiPO型構造の結晶相を主相に持ち、Si/(Si+P)原子比が0.05以上0.40以下である、イオン伝導体。
【請求項2】
請求項1に記載のイオン伝導体を用いたイオン伝導性焼結体。
【請求項3】
Li、Si、Pを含むコロイド粒子が懸濁した水溶液からなる前駆体溶液であって、当該水溶液を70℃で蒸発乾固させたのち150℃で2時間加熱して得た固形分に、空気中400℃で12時間加熱する熱処理を施したとき、Li、Si、Pを結晶格子中に含むβ-LiPO型構造の結晶相が形成される性質を有する、イオン伝導体の前駆体溶液。
【請求項4】
前記コロイド粒子は、水系溶媒、水溶性リチウム化合物、ケイ素アルコキシド、水溶性リン化合物の混合生成物である、請求項3に記載のイオン伝導体の前駆体溶液。
【請求項5】
Li、Si、Pを含む粒子からなる前駆体粉体であって、当該粉体に空気中400℃で12時間加熱する焼成を施したとき、Li、Si、Pを結晶格子中に含むβ-LiPO型構造の結晶相が形成される性質を有する、イオン伝導体の前駆体粉体。
【請求項6】
前記前駆体粉体は、Li、Si、Pを含むコロイド粒子が懸濁した水溶液の、溶媒除去成分である、請求項5に記載のイオン伝導体の前駆体粉体。
【請求項7】
前記前駆体粉体は、Li、Si、Pの含有量において、下記(1)式および(2)式を満たすものである、請求項5に記載のイオン伝導体の前駆体粉体。
0.05≦Si/(Si+P)≦0.40 …(1)
0.90(4Si+3P)≦Li≦0.10(4Si+3P) …(2)
ここで、(1)式、(2)式の元素記号Si、PおよびLiの箇所には、それぞれ粉体中に存在するSi原子、P原子、Li原子の合計量(モル)に対するSi原子、P原子およびLi原子の量(モル)の比の値(原子割合)が代入される。
【請求項8】
水系溶媒中で、水溶性リチウム化合物、ケイ素アルコキシド、水溶性リン化合物を混合して得られたコロイド粒子の懸濁液から、溶媒成分を除去する手法により形成させた前駆体粉体を、酸化性雰囲気中120℃以上550℃以下の温度域で加熱保持することにより、Li、Si、Pを結晶格子中に含むβ-LiPO型構造の結晶相を生成させる、イオン伝導体の製造方法。
【請求項9】
前記前駆体粉体は、Li、Si、Pの含有量において、下記(1)式および(2)式を満たすものである、請求項8に記載のイオン伝導体の製造方法。
0.05≦Si/(Si+P)≦0.40 …(1)
0.90(4Si+3P)≦Li≦0.10(4Si+3P) …(2)
ここで、(1)式、(2)式の元素記号Si、PおよびLiの箇所には、それぞれ粉体中に存在するSi原子、P原子、Li原子の合計量(モル)に対するSi原子、P原子およびLi原子の量(モル)の比の値(原子割合)が代入される。
【請求項10】
水系溶媒中で、水溶性リチウム化合物、ケイ素アルコキシド、水溶性リン化合物を混合して得られたコロイド粒子の懸濁液から、溶媒成分を除去する手法により形成させた前駆体粉体の粒子を含む粉体の成形体を、酸化性雰囲気中120℃以上550℃以下の温度域で加圧力を付与しながら加熱保持することにより、Li、Si、Pを結晶格子中に含むβ-LiPO型構造の結晶相を生成させるとともに焼結体を得る、イオン伝導性焼結体の製造方法。
【請求項11】
水系溶媒中で、水溶性リチウム化合物、ケイ素アルコキシド、水溶性リン化合物を混合して得られたコロイド粒子の懸濁液から、溶媒成分を除去する手法により形成させた前駆体粉体を、酸化性雰囲気中120℃以上550℃以下の温度域で加熱保持することにより、Li、Si、Pを結晶格子中に含むβ-LiPO型構造の結晶相を生成させてイオン伝導体粉体を得る、焼成工程と、
前記イオン伝導体粉体の粒子を含む粉体の成形体を、120℃以上550℃以下の温度域で加圧力を付与しながら加熱保持することにより焼結体を得る、焼結工程と、
を有する、イオン伝導性焼結体の製造方法。
【請求項12】
前記焼成工程での最高到達温度をT(℃)、前記焼結工程での最高到達温度をT(℃)とするとき、T≧T-50、かつ120≦T≦550を満たす条件で焼成工程および焼結工程を行う、請求項11に記載のイオン伝導性焼結体の製造方法。
【請求項13】
水系溶媒中で、Li、Si、Pの組成が下記(3)式および(4)式を満たす量的割合の水溶性リチウム化合物、ケイ素アルコキシド、および水溶性リン化合物を混合することによりコロイド溶液を形成させる工程を有する、イオン伝導体の前駆体溶液の製造方法。
0.05≦x≦0.45 …(3)
1.05A≦Si≦1.50A …(4)
ここで、(3)式中のx値および(4)式中のA値は、それぞれ下記(5)式および(6)式により定まる。
x=1-4P/(Li+P) …(5)
A=xP/(1-x) …(6)
ただし、(4)式、(5)式、(6)式の元素記号Si、PおよびLiの箇所には、それぞれ粉体中に存在するSi原子、P原子、Li原子の合計量(モル)に対するSi原子、P原子およびLi原子の量(モル)の比の値(原子割合)が代入される。
【請求項14】
水系溶媒中で、Li、Si、Pの組成が下記(3)式および(4)式を満たす量的割合の水溶性リチウム化合物、ケイ素アルコキシド、および水溶性リン化合物を混合することによりコロイド溶液を形成させる、前駆体溶液作製工程と、
前記コロイド溶液から溶媒成分を除去して固形分を得る、前駆体粉体合成工程と、
を有する、イオン伝導体の前駆体粉体の製造方法。
0.05≦x≦0.45 …(3)
1.05A≦Si≦1.50A …(4)
ここで、(3)式中のx値および(4)式中のA値は、それぞれ下記(5)式および(6)式により定まる。
x=1-4P/(Li+P) …(5)
A=xP/(1-x) …(6)
ただし、(4)式、(5)式、(6)式の元素記号Si、PおよびLiの箇所には、それぞれ粉体中に存在するSi原子、P原子、Li原子の合計量(モル)に対するSi原子、P原子およびLi原子の量(モル)の比の値(原子割合)が代入される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン伝導性を示す酸化物系のイオン伝導体、イオン伝導性焼結体に関する。また、上記イオン伝導体、イオン伝導性焼結体の合成に適した前駆体溶液、前駆体粉体に関する。また、それらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体リチウムイオン二次電池への適用が検討されている酸化物系のイオン伝導物質の1つとして、γ-LiPO型の結晶構造を持つLISICONと呼ばれる酸化物が挙げられる。γ-LiPO自体のイオン伝導性は低いが、γ-LiPO型の結晶構造中に例えばLiSiOを固溶させた、一般式γ-Li3+xSi1-x(ここで0<x<1)で表されるタイプの酸化物とすることにより、リチウムイオン伝導性が向上することが知られている(例えば非特許文献1)。
【0003】
特許文献1には、Si源としてSiOを用い、170℃、1.0MPaの水熱反応により前駆体混合物を合成し、その前駆体混合物の乾燥物を700℃で焼成することにより、Li3.5Si0.50.5単相(実施例1)、Li3.9Si0.90.1単相(実施例2)、およびLi3.1Si0.10.9単相(実施例3)のLISICON型結晶粒子を得たことが記載されている(実施例1)。これらの粒子を固体電解質層に用いてハンドプレスにより成形した全固体リチウムイオン二次電池(負極はリチウム箔)において、放電容量が測定されている(段落0059、0060)。
【0004】
一方、LiPO酸化物には、高温相であるγ-LiPOの他に、低温相であるβ-LiPOがあることが知られている。
非特許文献2には、40℃での湿式反応で合成したβ-LiPOと、リチウム化合物、リン化合物を含む775℃の混合融体を急冷する乾式法で合成したγ-LiPOとについて、X線回折により結晶構造解析を行ったことが記載されている。イオン伝導性については、γ-LiPOの方がβ-LiPOより高いという。
非特許文献3には、室温での湿式反応で合成したβ-LiPOを種々の温度に加熱することによって、γ-LiPOへの相転移を調べた実験が記載されている。それによると、上記の相転移は概ね450℃付近で起こり、Cu-Kα線によるX線回折パターンの特徴点として、γ-LiPO相では2θ=20度付近に回折ピーク(Fig.7の矢印)が観測されることが指摘されている。また、β-LiPOからγ-LiPOへの相転移は連続的な構造変化として起こることが示されている(Fig.8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-102374号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Yue Deng, et al. Structural and Mechanistic Insights into Fast Lithium-Ion Conduction in Li4SiO4-Li3PO4 Solid Electrolytes. Journal of the American Chemical Society 2015, 137, 9136-9145.
【非特許文献2】Nur I. P. Ayu, et al. Crystal structure analysis of Li3PO4 powder prepared by wet chemical reaction and solid-state reaction by using X-ray diffraction (XRD). Ionics, DOI 10.1007/s11581-016-1643-z, published online: 25 January 2016.
【非特許文献3】Norikazu Ishigaki, et al. Room temperature synthesis and phase transformation of lithium phosphate Li3PO4 as solid electrolyte. Journal of Asian Ceramic Societies 2021, Vol. 9, No. 2, 452-458.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
全固体二次電池において、イオン伝導体は固体電解質層の構成材料として使用される他、例えば正極活物質粒子間のイオン伝導を担う材料としても使用される。酸化物系のイオン伝導体には、硫化物系で問題となる有毒ガスの発生リスクが回避できるというメリットがある。酸化物の粉体は硬質であるため、酸化物系のイオン伝導体を使用した全固体リチウムイオン二次電池の工業的な製造過程では、一般的に、焼結の工程を実施することが想定される。その焼結工程では、電極活物質と反応するなどの悪影響を防止する必要などから加熱温度が制限され、例えば550℃程度以下、あるいは更に低温域の450℃以下といった温度域で焼結させることが望まれる。γ-LiPO型の結晶構造中にLiSiOを固溶させてイオン伝導性を改善したLISICONと呼ばれる上述のイオン伝導物質は、結晶性の良い酸化物構造を得るために例えば600℃以上といった高温で合成、焼結させる必要がある。したがって、γ-LiPO型構造を基本とする酸化物を用いた全固体リチウムイオン二次電池の工業的な普及は、現時点では難しいとされる。
【0008】
一方、低温相であるβ-LiPOはイオン伝導性に乏しい。
本発明は、β-LiPO型の結晶構造を基本とする酸化物において、リチウムイオン伝導性を改善したイオン伝導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述のように、LiPO酸化物のうち高温相であるγ-LiPOでは、その結晶中にLiSiOを固溶させたタイプの酸化物とすることによりリチウムイオン伝導性を改善することができる。しかし、低温相であるβ-LiPOに関しては、上記のような固溶を実現させる酸化物合成手法は確立されていない。また、そのような固溶タイプのβ-LiPO型結晶構造を持つ酸化物のイオン伝導挙動についても知られていない。
【0010】
発明者らは研究の結果、Si供給源としてケイ素アルコキシドを使用した湿式反応プロセス(水溶液合成)で生成させたLi、Si、P含有物質を前駆体として用いることによって、例えば550℃以下といった低い焼成温度で、Li、Si、Pを結晶格子中に含むβ-LiPO型構造の結晶相が合成可能になることを見出した。そして、この種の酸化物は、全固体リチウムイオン二次電池の固体電解質に適用可能と考えられるリチウムイオン伝導性を呈することが確認された。本発明はこのような知見に基づくものである。
本明細書では以下の発明を開示する。
【0011】
[1]Li、Si、Pを結晶格子中に含むβ-LiPO型構造の結晶相を主相に持ち、Si/(Si+P)原子比が0.05以上0.40以下である、イオン伝導体。
[2]上記[1]に記載のイオン伝導体を用いたイオン伝導性焼結体。
[3]Li、Si、Pを含むコロイド粒子が懸濁した水溶液からなる前駆体溶液であって、当該水溶液を70℃で蒸発乾固させたのち150℃で2時間加熱して得た固形分に、空気中400℃で12時間加熱する熱処理を施したとき、Li、Si、Pを結晶格子中に含むβ-LiPO型構造の結晶相が形成される性質を有する、イオン伝導体の前駆体溶液。
[4]前記コロイド粒子は、水系溶媒、水溶性リチウム化合物、ケイ素アルコキシド、水溶性リン化合物の混合生成物である、上記[3]に記載のイオン伝導体の前駆体溶液。
[5]Li、Si、Pを含む粒子からなる前駆体粉体であって、当該粉体に空気中400℃で12時間加熱する焼成を施したとき、Li、Si、Pを結晶格子中に含むβ-LiPO型構造の結晶相が形成される性質を有する、イオン伝導体の前駆体粉体。
[6]前記前駆体粉体は、Li、Si、Pを含むコロイド粒子が懸濁した水溶液の、溶媒除去成分である、上記[5]に記載のイオン伝導体の前駆体粉体。
[7]前記前駆体粉体は、Li、Si、Pの含有量において、下記(1)式および(2)式を満たすものである、上記[5]または[6]に記載のイオン伝導体の前駆体粉体。
0.05≦Si/(Si+P)≦0.40 …(1)
0.90(4Si+3P)≦Li≦0.10(4Si+3P) …(2)
ここで、(1)式、(2)式の元素記号Si、PおよびLiの箇所には、それぞれ粉体中に存在するSi原子、P原子、Li原子の合計量(モル)に対するSi原子、P原子およびLi原子の量(モル)の比の値(原子割合)が代入される。
[8]水系溶媒中で、水溶性リチウム化合物、ケイ素アルコキシド、水溶性リン化合物を混合して得られたコロイド粒子の懸濁液から、溶媒成分を除去する手法により形成させた前駆体粉体を、酸化性雰囲気中120℃以上550℃以下の温度域で加熱保持することにより、Li、Si、Pを結晶格子中に含むβ-LiPO型構造の結晶相を生成させる、イオン伝導体の製造方法。
[9]前記前駆体粉体は、Li、Si、Pの含有量において、下記(1)式および(2)式を満たすものである、上記[8]に記載のイオン伝導体の製造方法。
0.05≦Si/(Si+P)≦0.40 …(1)
0.90(4Si+3P)≦Li≦0.10(4Si+3P) …(2)
ここで、(1)式、(2)式の元素記号Si、PおよびLiの箇所には、それぞれ粉体中に存在するSi原子、P原子、Li原子の合計量(モル)に対するSi原子、P原子およびLi原子の量(モル)の比の値(原子割合)が代入される。
[10]水系溶媒中で、水溶性リチウム化合物、ケイ素アルコキシド、水溶性リン化合物を混合して得られたコロイド粒子の懸濁液から、溶媒成分を除去する手法により形成させた前駆体粉体の粒子を含む粉体の成形体を、酸化性雰囲気中120℃以上550℃以下の温度域で加圧力を付与しながら加熱保持することにより、Li、Si、Pを結晶格子中に含むβ-LiPO型構造の結晶相を生成させるとともに焼結体を得る、イオン伝導性焼結体の製造方法。
[11]水系溶媒中で、水溶性リチウム化合物、ケイ素アルコキシド、水溶性リン化合物を混合して得られたコロイド粒子の懸濁液から、溶媒成分を除去する手法により形成させた前駆体粉体を、酸化性雰囲気中120℃以上550℃以下の温度域で加熱保持することにより、Li、Si、Pを結晶格子中に含むβ-LiPO型構造の結晶相を生成させてイオン伝導体粉体を得る、焼成工程と、
前記イオン伝導体粉体の粒子を含む粉体の成形体を、120℃以上550℃以下の温度域で加圧力を付与しながら加熱保持することにより焼結体を得る、焼結工程と、
を有する、イオン伝導性焼結体の製造方法。
[12]前記焼成工程での最高到達温度をT(℃)、前記焼結工程での最高到達温度をT(℃)とするとき、T≧T-50、かつ120≦T≦550を満たす条件で焼成工程および焼結工程を行う、上記[11]に記載のイオン伝導性焼結体の製造方法。
[13]水系溶媒中で、Li、Si、Pの組成が下記(3)式および(4)式を満たす量的割合の水溶性リチウム化合物、ケイ素アルコキシド、および水溶性リン化合物を混合することによりコロイド溶液を形成させる工程を有する、イオン伝導体の前駆体溶液の製造方法。
0.05≦x≦0.45 …(3)
1.05A≦Si≦1.50A …(4)
ここで、(3)式中のx値および(4)式中のA値は、それぞれ下記(5)式および(6)式により定まる。
x=1-4P/(Li+P) …(5)
A=xP/(1-x) …(6)
ただし、(4)式、(5)式、(6)式の元素記号Si、PおよびLiの箇所には、それぞれ粉体中に存在するSi原子、P原子、Li原子の合計量(モル)に対するSi原子、P原子およびLi原子の量(モル)の比の値(原子割合)が代入される。
[14]水系溶媒中で、Li、Si、Pの組成が下記(3)式および(4)式を満たす量的割合の水溶性リチウム化合物、ケイ素アルコキシド、および水溶性リン化合物を混合することによりコロイド溶液を形成させる、前駆体溶液作製工程と、
前記コロイド溶液から溶媒成分を除去して固形分を得る、前駆体粉体合成工程と、
を有する、イオン伝導体の前駆体粉体の製造方法。
0.05≦x≦0.45 …(3)
1.05A≦Si≦1.50A …(4)
ここで、(3)式中のx値および(4)式中のA値は、それぞれ下記(5)式および(6)式により定まる。
x=1-4P/(Li+P) …(5)
A=xP/(1-x) …(6)
ただし、(4)式、(5)式、(6)式の元素記号Si、PおよびLiの箇所には、それぞれ粉体中に存在するSi原子、P原子、Li原子の合計量(モル)に対するSi原子、P原子およびLi原子の量(モル)の比の値(原子割合)が代入される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、β-LiPO型の結晶構造を基本とする酸化物において、リチウムイオン伝導性を改善したイオン伝導体が提供可能となった。このイオン伝導体や、それを用いた焼結体は、例えば120~550℃といった比較的低温の温度域で得ることができる。また、このイオン伝導体は酸化物系であるため、従来の硫化物系イオン伝導体で問題となる有毒ガスの発生リスクが回避できる。そのため、本発明のイオン伝導体は全固体リチウムイオン二次電池の構成材料としての有用性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】前駆体粉体(公称x値=0.2)に、空気中150~700℃の種々の温度水準で12時間保持する焼成を施すことによって得られた焼成粉体についてのX線回折パターンを例示した図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[イオン伝導体]
本発明の対象である「イオン伝導体」は、リチウムイオン伝導性を有する物質であり、前駆体物質を焼成することによって合成することができる。このイオン伝導体は、Li、Si、Pを結晶格子中に含むβ-LiPO型構造の結晶相を主相に持つ。「β-LiPO型構造の結晶相」は、X線回折パターンにおいてβ-LiPO酸化物結晶の回折ピークに対応する結晶面からの回折ピークが観測される結晶相を意味する。本発明の対象であるイオン伝導体を構成する「Li、Si、Pを結晶格子中に含むβ-LiPO型構造の結晶相」は、Li、Pに加え、Siを結晶格子中に含んでいる。発明者らの検討によると、同じ温度で焼成して得られたβ-LiPO型構造の結晶相同士の比較において、Si含有量の増加に伴って、Si/(Si+P)原子比が0.4程度までは単位格子(ユニットセル)の体積が増加する傾向が認められた。また、後述の手法で合成した酸化物粉体のLi、Si、P組成比は、Li3+xSi1-x(ただし0<x<1)に近いものであった。これらから、Siを含有する本発明対象の「β-LiPO型構造の結晶相」は、β-LiPOの結晶中にLiSiOが固溶したタイプの酸化物相であると推察される。
【0015】
「Li、Si、Pを結晶格子中に含むβ-LiPO型構造の結晶相」の質量割合が、イオン伝導体である物質の総質量のうち少なくとも50%を占める場合には、Li、Si、Pを結晶格子中に含むβ-LiPO型構造の結晶相を「主相に持つ」と言うことができる。その主相以外の残部を「異相」と呼ぶとき、本発明の効果(特にイオン伝導性や有毒ガスの発生リスク回避)を阻害しない範囲で異相の混在は許容されるが、異相の存在量は少ない方が好ましい。例えば異相の質量割合は10%以下であることが好ましい。異相の質量割合が10%以下である1態様として、Li、Si、Pを結晶格子中に含むβ-LiPO型構造の結晶相を主相に持ち、残部が製造上不可避的に混入する不純物相からなるイオン伝導体が挙げられ、そのようなイオン伝導体は後述の製造方法によって得ることができる。
【0016】
本発明の対象である「イオン伝導体」は、ケイ素とリンの合計量に対するケイ素量の原子割合を表すSi/(Si+P)原子比が0.05以上0.40以下である。このSi/(Si+P)原子比は異相も含めたイオン伝導体中のSi含有量、P含有量に基づくものである。β-LiPO型構造の結晶相を主相に持つ物質において、Si/(Si+P)原子比が0.05以上になると、イオン伝導性の明確な向上が認められるようになる。一方、β-LiPO型構造の結晶中におけるLiSiOの固溶量には限界があると考えられる。発明者らのこれまでの知見によれば、β-LiPO型構造の結晶相を主相に持つ物質中のSi/(Si+P)原子比が0.40を超えて高くなる場合には、異相の混在量が多くなり、使用した原料から供給されるLiやSiが異相の形成にかなり消費されてしまうことがわかった。そこで、ここではイオン伝導体中のSi/(Si+P)原子比を0.05以上0.40以下に規定する。イオン伝導体中のSi/(Si+P)原子比は0.15以上0.35以下であることがより好ましい。
【0017】
本発明の対象であるイオン伝導体の好ましい1態様として、Li、Si、Pの含有量において、下記(1)式および(2)式を満たすものが例示できる。
0.05≦Si/(Si+P)≦0.40 …(1)
0.90(4Si+3P)≦Li≦0.10(4Si+3P) …(2)
ここで、(1)式、(2)式の元素記号Si、PおよびLiの箇所には、それぞれ粉体中に存在するSi原子、P原子、Li原子の合計量(モル)に対するSi原子、P原子およびLi原子の量(モル)の比の値(原子割合)が代入される。
(1)式は上述のSi/(Si+P)原子比を規定したものである。
(2)式中の「4Si+3P」は、組成式Li3+xSi1-x(ただし0<x<1)に該当する化学量論組成におけるLi量(モル)を、Si量(モル)とP量(モル)の関数で表したものに相当する。具体的に示すと、組成式Li3+xSi1-xを満たすとき、Li量(モル):Si量(モル)=(3+x):xであるから、Li量(モル)=(3+x)×Si量(モル)/xとなる。ここでx=Si量(モル)/(Si量(モル)+P量(モル))を上式に代入して整理すると、Li量(モル)=4×Si量(モル)+3×P量(モル)となる。すなわち、上記(2)式は、イオン伝導体中のLi量について、Si量とP量から定まる化学量論的な量に対し±10%の範囲での変動が許容されることを表している。
なお、前駆体粉体を焼成する手法でβ-LiPO型構造の結晶相を主相に持つ酸化物粉体を得る場合は、前駆体粉体と、それに由来する酸化物粉体とでは、Li、Si、Pの組成比がほぼ同じになる。したがって、上記(1)式および(2)式を満たす好ましい1態様のイオン伝導体を前駆体粉体から得る場合は、上記(1)式および(2)式を満たす組成の前駆体粉体を適用すればよい。
【0018】
Li、Si、Pを結晶格子中に含むβ-LiPO型構造の結晶相が合成できる前駆体物質を使用した場合であっても、焼成温度を600℃程度に高めると、Cu-Kα線によるX線回折パターンにはγ-LiPO型構造の結晶に特有な2θ=20度付近の回折ピーク(非特許文献3参照)が観測されるようになる。β-LiPO型構造からγ-LiPO型構造への相転移は連続的な構造変化として現れるものと考えられるので、γ-LiPO型構造への構造変化が起こり始める極めて初期の段階では、2θ=20度付近に非常に小さいピーク、あるいはピークと呼べるかどうか紛らわしい程度の微小な強度変化が観測され得る。Siを結晶格子中に含むγ-LiPO型構造の酸化物は、本来、イオン伝導性を呈することが知られており、良好なイオン伝導性を享受する観点からは、γ-LiPO型構造への構造変化が起こり始める段階であっても不都合は生じない。したがって、Cu-Kα線によるX線回折パターンにおいてβ-LiPO酸化物結晶の回折ピークに対応する結晶面からの回折ピークが観測されると同時に、2θ=20度付近に非常に小さいピーク、あるいはピークと呼べるかどうか紛らわしい程度の微小な強度変化が観測される場合は、β-LiPO型構造を有するとみなすことができる。より具体的には、後述の前駆体を550℃以下の温度域に保持して形成された酸化物相からなる結晶相は、Li、Si、Pを結晶格子中に含むβ-LiPO型構造の結晶相であるとみなされる。
【0019】
図1に、後述する実施例5~8で用いた前駆体粉体(公称x値=0.2)に、空気中150~700℃の種々の温度水準で12時間保持する焼成を施すことによって得られたイオン伝導体である焼成粉体についてのX線回折パターンを例示する。公称x値の意味は後述する。X線回折測定は以下の方法で行った。
【0020】
(X線回折パターンの測定)
焼成粉体の試料について、X線回折装置(リガク社製、SmartLab)により、Cu-Kα線、管電圧40kV、管電流30mA、測定ステップ0.01度、スキャン速度2度/分の条件でX線回折パターンを測定した。
【0021】
図1からわかるように、焼成温度が600℃以上の場合には、2θ=20度付近にγ-LiPO型構造の(011)結晶面に起因すると考えられるピークが観測された。焼成温度がそれより低い場合に、β-LiPO型構造を有する酸化物が得られていることが確認された。また、各温度で焼成された焼成粉体にはLiCO相と考えられる少量の異相の存在が認められた。
なお、図1中に例示したX線回折パターンのうち焼成温度150℃、300℃、400℃、500℃および600℃の例は、それぞれ後述の実施例5、実施例6、実施例7、実施例8および比較例1に対応する。
【0022】
(公称x値)
公称x値は、前駆体の合成に用いた水溶液中のLiとPの仕込み量から組成式Li3+xSi1-x(ただし0<x<1)を満たすx値として一義的に定まる値である。すなわち、公称x値は、Li3+xSi1-x(ただし0<x<1)で表される化学量論組成を満たすときの、LiとPの仕込み量から定まるSi/(Si+P)原子比に相当する。Siの仕込み量は、揮発による減少分を考慮して上記化学量論組成に対して過剰量(実施例5~8では1.3倍量)に設定する場合があるので、公称x値の算定にはLiとPの仕込み量を使用する。具体的に実施例5~8の公称x値の求め方を例示する。
組成式Li3+xSi1-xは、y=1-xとすると、Li4-ySi1-yで表される。LiとPのモル比はLi:P=(4-y):yであるから、y=4P/(Li+P)となる。表1に示されるように、実施例3~8の仕込み組成において、モル比Li:P=0.751:0.188であるから、y=4×0.188/(0.751+0.188)=0.80となる。したがって、この場合の公称x値は、x=1-y=0.20と求まる。
【0023】
(イオン伝導体の製造方法)
本発明の対象である上記のイオン伝導体は、後述の前駆体粉体を、酸化性雰囲気中120℃以上550℃以下の温度域で加熱保持する手法によって製造することができる。本明細書では、この加熱処理を「焼成」と呼んでいる。前駆体粉体としては、水系溶媒中で、水溶性リチウム化合物、ケイ素アルコキシド、水溶性リン化合物を撹拌混合して得られたコロイド粒子の懸濁液から、溶媒成分を除去する手法により形成させたものを使用することができる。また、本発明の対象である上記のイオン伝導体は、前記の懸濁液(すなわち後述の前駆体溶液)を直接、酸化性雰囲気中120℃以上550℃以下の温度域で加熱保持する製造態様によっても得ることができる。この製造態様では、上記温度域での加熱保持の途中段階で溶媒成分が除去された前駆体粉体が形成されるとみなすことができる。したがって、この製造態様も、「前駆体粉体を、酸化性雰囲気中120℃以上550℃以下の温度域で加熱保持する」場合の1態様に含まれる。活物質粒子の表面に本発明の対象である上記のイオン伝導体の層を形成させる場合には、例えば、活物質粉体と前記の前駆体粉体との混合粉、あるいは活物質粉体と前記の懸濁液(すなわち後述の前駆体溶液)との混合物を上記の温度域での焼成に供する手法が適用できる。
【0024】
焼成の酸化性雰囲気としては、大気圧下の空気が利用できる。Siを含有しないβ-LiPO酸化物は常温での湿式プロセスで合成することが可能であるが、Siを結晶格子中に含むタイプのβ-LiPO型構造の酸化物を合成するためには、120℃以上に加熱することが望ましい。一方、全固体リチウムイオン二次電池の工業的生産を考慮すると、焼成温度は低い方が良い。発明者らの検討によれば、550℃以下の温度域でLi、Si、Pを結晶格子中に含むβ-LiPO型構造の結晶相を生成させることができる。上述のように、加熱温度が600℃程度に高くなると、γ-LiPO型構造の結晶相が形成されるようになる。
【0025】
焼成は複数回の加熱過程に分けて行ってもよい。また、120~550℃の範囲における保持温度を多段階に変動させるヒートパターンで行ってもよい。これらの多段階の焼成を行う態様としては、例えば、まず120℃以上200℃以下といった比較的低温域で1時間以上3時間以下といった比較的短時間の保持による第1段目の焼成を行い、その後、一旦室温まで冷却したのち必要に応じて粉砕を行い、第1段目より高温長時間の第2段目の焼成を施すヒートパターンや、前記の第1段目の焼成に引き続いて昇温して第1段目より高温長時間の第2段目の焼成を施すヒートパターンなどが例示できる。このような、焼成の初期段階で比較的低温短時間の加熱履歴を付与する多段階のヒートパターンは、例えば前駆体粉体に含まれる揮発成分などを焼成の初期段階で十分に除去したのちに結晶化の反応を進行させることができ、異相の少ない焼成粉体を得る上で有効である。
【0026】
焼成の最高到達温度は180℃以上520℃以下の範囲とすることがより好ましく、280℃以上420℃以下の範囲とすることが更に好ましい。焼成時間、すなわち、120℃以上550℃以下の温度範囲に保持されるトータルの時間は、2時間以上とすることが好ましく、10時間以上とすることがより好ましい。ただし、経済性を考慮すると、焼成時間は30時間以下の範囲で設定することが好ましく、20時間以下に管理してもよい。焼成後には、必要に応じて解砕処理行い、均質な焼成粉体とすることができる。
【0027】
[イオン伝導性焼結体]
上記のイオン伝導体を全固体リチウムイオン二次電池の構成材料に用いる際の好ましい態様として、焼結体が挙げられる。例えば、上記のイオン伝導体である粉体粒子の焼結体は、正極層と負極層の間に介在させる固体電解質層を構成する部材として有用である。また、上記のイオン伝導体に被覆された正極活物質粒子の焼結体や、正極活物質粒子とそれらの間を埋める上記のイオン伝導体の粒子との焼結体は、正極層を構成する部材として有用である。なお、負極層と、正極層と、その間の固体電解質層とが焼結により一体化したタイプの全固体リチウムイオン二次電池では、上記のイオン伝導体がいずれかの層に含まれている場合、当該電池は上記のイオン伝導体を用いた焼結体に該当する。
【0028】
(イオン伝導性焼結体の製造方法)
上記のイオン伝導性焼結体は、(i)後述の前駆体粉体の粒子を含む粉体を焼結させる方法、(ii)上記のイオン伝導体の粉体(焼成粉体)の粒子を含む粉体を焼結させる方法、などよって得ることができる。
(i)前駆体粉体の粒子を含む粉体を焼結させる方法
この場合は、焼結のための加熱が、酸化物合成のための焼成を兼ねている。具体的には、後述の前駆体粉体の粒子を含む粉体の成形体を、酸化性雰囲気中120℃以上550℃以下の温度域で加圧力を付与しながら加熱保持することにより、Li、Si、Pを結晶格子中に含むβ-LiPO型構造の結晶相を生成させるとともに焼結体を得る手法が適用できる。酸化性雰囲気としては大気圧下の空気が利用できる。焼結を効率的に進行させるために、加熱温度は300℃以上とすることがより効果的である。また、成形体が120℃以上550℃以下の温度範囲に保持される時間は、2時間以上とすることが好ましく、10時間以上とすることがより好ましい。ただし、経済性を考慮すると、加熱時間は30時間以下の範囲で設定することが好ましく、20時間以下に管理してもよい。全固体電池の固体電解質層に適用する焼結体を構築する場合には、前記の成形体として前駆体粉体からなるものを適用すればよい。電極層を構築する場合には、前記の成形体として例えば活物質粉体と前駆体粉体とを含む混合粉体からなるものを適用することができる。
【0029】
(ii)イオン伝導体粉体の粒子を含む粉体を焼結させる方法
この場合は、上述のイオン伝導体の粉体(焼成粉体)の粒子を含む粉体の成形体を、120℃以上550℃以下の温度域で加圧力を付与しながら加熱保持することにより焼結体を得る手法が適用できる。酸化物の合成は既に終えているので、この加熱は焼結を進行させる目的で行われる。120℃以上550℃以下の温度域での保持時間は30分以上15時間以下の範囲とすればよく、1時間以上10時間以下の範囲とすることがより好ましい。焼結を効率的に進行させるためには粉体が粒成長する条件が必要であることを考慮すると、加熱温度は当該焼成粉体を合成したときの焼成温度を大きく下回らない温度域とすることが効果的である。具体的には、焼成工程での最高到達温度をT(℃)、この焼結工程での最高到達温度をT(℃)とするとき、T≧T-50、かつ120≦T≦550を満たす条件とすることが好ましい。全固体電池の固体電解質層に適用する焼結体を構築する場合には、前記の成形体として上記のイオン伝導体の粉体(焼成粉体)からなるものを適用すればよい。電極層を構築する場合には、前記の成形体として例えば活物質粉体と上記のイオン伝導体の粉体(焼成粉体)とを含む混合粉体からなるものを適用することができる。
焼結工程で加熱中の材料に付与する圧力は、例えば125MPa以上1000MPa以下の範囲で設定すればよい。
【0030】
[前駆体溶液]
本発明で対象とする上記のイオン伝導体は、後述の前駆体粉体を焼成することによって得ることができる。その前駆体粉体を得るための中間製品として、Li、Si、Pを含むコロイド粒子が懸濁した水溶液を挙げることができる。この水溶液を本明細書では「前駆体溶液」と呼んでいる。この前駆体溶液は、例えば、Li、Si、Pを含むコロイド粒子が懸濁している水溶液である点、および当該水溶液を70℃で蒸発乾固させたのち150℃で2時間加熱して得た固形分に、空気中400℃で12時間加熱する熱処理を施したとき、Li、Si、Pを結晶格子中に含むβ-LiPO型構造の結晶相が形成される性質を有する点、によって特定される。前記コロイド粒子は、例えば水系溶媒、水溶性リチウム化合物、ケイ素アルコキシド、水溶性リン化合物の混合生成物として特定される。
【0031】
(前駆体溶液の製造方法)
発明者らは研究の結果、水系溶媒中で、水溶性リチウム化合物、ケイ素アルコキシド、および水溶性リン化合物を撹拌混合する手法によって、Li、Si、Pを結晶格子中に含むβ-LiPO型構造の結晶相を形成させることが可能な前駆体物質を得ることができることを見出した。この手法は、Siの供給源であるケイ素アルコキシドによる加水分解縮合プロセス(ゾル-ゲル法)を利用した水溶液合成である。水系溶媒とは、水を主成分とする(すなわち水の質量割合が50%以上である)液状媒体である。
【0032】
上記の撹拌混合は、以下の手順で行うことが好適である。
まず、水溶性リチウム化合物が溶解している水溶液を作る。この水溶液に、ケイ素アルコキシドを添加し、十分に撹拌する。この撹拌は常温付近の温度(例えば15℃以上45℃以下)で行うことが好ましい。撹拌時の液が接する気相の雰囲気は、大気圧下の空気とすることができる。ケイ素アルコキシドは水に溶解しにくいが、水溶液中にリチウムイオンが存在することによってケイ素アルコキシドの加水分解が進むと、活性なケイ素コロイド(SiOが水和したものと考えられる)とリチウムイオンの溶液が生成する。ケイ素アルコキシドと水の混合が不十分であると不純物相が形成されやすい。できるだけ均一性の高い溶液とするために、この段階での撹拌は15分以上行うことが望ましい。その後、液中に水溶性リン化合物を添加して溶解させる。なお、水溶性リン化合物は、ケイ素アルコキシドを添加する前に、液中に溶解させておいてもよいが、LiPOの生成を抑制する観点からは、ケイ素アルコキシドを混合した後に水溶性リン化合物を添加することが好ましい。
【0033】
次に、上記の撹拌によって得られた溶液を加温し、撹拌することにより、溶液とリン化合物を反応させる。この反応を進行させるとコロイド粒子を含む白色の懸濁液が生成する。この懸濁液が前述のイオン伝導体を得るための前駆体溶液として利用できる。反応を十分に進行させるために、例えば、撹拌中の液温は50~95℃とすることが好ましい。撹拌時間は30分以上とすることが好ましい。経済性を考慮すると、撹拌時間は通常120分以下の範囲で設定すればよい。撹拌時の液が接する気相の雰囲気は、大気圧下の空気とすることができる。この反応で生成するコロイド粒子の構造は現時点で明らかにされていないが、LiとSiとPとOの化合物がこの段階で形成されている可能性がある。
【0034】
上記の撹拌混合に供するために使用する水溶性リチウム化合物、ケイ素アルコキシド、および水溶性リン化合物の量(仕込み量)は、Li、Si、Pの組成(仕込み組成)が下記(3)式および(4)式を満たす量的割合とすることが好ましい。
0.05≦x≦0.45 …(3)
1.05A≦Si≦1.50A …(4)
ここで、(3)式中のx値および(4)式中のA値は、それぞれ下記(5)式および(6)式により定まる。
x=1-4P/(Li+P) …(5)
A=xP/(1-x) …(6)
ただし、(4)式、(5)式、(6)式の元素記号Si、PおよびLiの箇所には、それぞれ粉体中に存在するSi原子、P原子、Li原子の合計量(モル)に対するSi原子、P原子およびLi原子の量(モル)の比の値(原子割合)が代入される。
【0035】
Li、Si、Pを結晶格子中に含むβ-LiPO型構造の結晶相は、組成式Li3+xSi1-x(ただし0<x<1)で表されると考えられる。そのため、焼成に供する前駆体のLi、Si、P組成比は、Li3+xSi1-xの化学量論組成にできるだけ近いことが、異相の少ない焼成物を得る上で有利になると考えられる。上述の水溶液合成においては、Si源となるケイ素アルコキシドあるいはそれに由来する物質の一部は揮発等によって液中から消失することがある。そのため、Siについては上記の化学量論組成に対して過剰の仕込み量とすることが好ましい。
【0036】
上記(5)式は、LiとPの仕込み組成から組成式Li3+xSi1-xを満たすx値を導出するものである。Siの仕込み量を化学量論組成に対して過剰量とすることが好ましいことに鑑み、仕込み組成におけるx値はLiとPの仕込み組成から定める。このx値が上記(3)式を満たすように水溶性リチウム化合物と水溶性リン化合物の仕込み量を決定することが好ましい。
上記(6)式のA値は、上記(5)式から定まるx値を採用した場合の化学量論組成における、Li、Si、Pの合計に対するSiの原子割合を表すものである。発明者らの検討によれば、Siの仕込み組成は、A値(すなわち化学量論組成におけるSiの割合)に対して1.05倍以上1.50倍以下の範囲の過剰量とすることが効果的である。したがって、Si供給源であるケイ素アルコキシドの仕込み量は、上記(4)式を満たすように決定することが好ましい。
ケイ素アルコキシドの仕込み量は、下記(4)’式を満たすように決定することがより好ましい。
1.20A≦Si≦1.40A …(4)’
【0037】
水溶性リチウム化合物としては、水酸化リチウム一水和物、酢酸リチウム、炭酸リチウム、硝酸リチウムなどが例示できる。
ケイ素アルコキシドとしては、テトラエトキシシラン、トリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン、テトラプロポキシシラン、トリブトキシシランなどが例示できる。
水溶性リン化合物としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸などが例示できる。
【0038】
[前駆体粉体]
本発明で対象とする上記のイオン伝導体を合成するための好適な前駆体粉体は、例えば、Li、Si、Pを含む粒子からなる前駆体粉体であって、当該粉体に空気中400℃で12時間加熱する焼成を施したとき、Li、Si、Pを結晶格子中に含むβ-LiPO型構造の結晶相が形成される性質を有するものとして特定される。より具体的には、Siの供給源がケイ素アルコキシドである場合のLi、Si、Pを含むコロイド粒子が懸濁した水溶液の、溶媒除去成分として特定されるものが例示できる。「水溶液の、溶媒除去成分」は、水溶液の構成成分のうち溶媒成分を除いた成分であり、例えば蒸発乾固生成物、固液分離(濾過や遠心分離)により回収される固形成分などがこれに該当する。本発明で対象とする上記のイオン伝導体のLi、Si、P組成比は、前駆体粉体のLi、Si、P組成比をほぼ反映したものとなる。したがって、前駆体粉体の好ましい1態様として、Li、Si、Pの含有量において、上述の(1)式および(2)式を満たすものが例示できる。
【0039】
(前駆体粉体の製造方法)
上記の前駆体粉体を得るための好ましい態様として、以下の製造方法を挙げることができる。
水系溶媒中で、Li、Si、Pの組成が前述の(3)式および(4)式を満たす量的割合の水溶性リチウム化合物、ケイ素アルコキシド、および水溶性リン化合物を撹拌混合することによりコロイド溶液を形成させる、前駆体溶液作製工程と、
前記コロイド溶液から溶媒成分を除去して固形分を得る、前駆体粉体合成工程と、
を有する、イオン伝導体の前駆体粉体の製造方法。
ここで、コロイド溶液から溶媒成分を除去して固形分を得る手法としては、例えば、蒸発乾固法、フィルトレーション法、遠心分離法などが挙げられる。
【実施例0040】
[実施例1]
(前駆体溶液)
水溶性リチウム化合物として水酸化リチウム一水和物LiOH・HO(高純度化学研究所製、純度99%以上)、ケイ素アルコキシドとしてテトラエトキシシランSi(OC)(富士フイルム和光純薬社製、試薬特級)、水溶性リン化合物としてリン酸二水素アンモニウムNHPO(富士フイルム和光純薬社製、試薬特級)をそれぞれ用意した。
前述の公称x値(組成式Li3+xSi1-xにおけるLiとPの仕込み組成から定まるx値)が0.3となり、Siの仕込み量が化学量論組成に対し1.3倍量となるように、原料物質の仕込み量を、水酸化リチウム一水和物3.462g、テトラエトキシシラン2.032g、リン酸二水素アンモニウム2.013gとした。
【0041】
まず、50mLのイオン交換水に水酸化リチウム一水和物を溶解させ、水酸化リチウム水溶液を得た。この水酸化リチウム水溶液に、テトラエトキシシランを加え、スターラーにより室温で30分撹拌した。次に、前記撹拌後の液にリン酸二水素アンモニウムを加え、液温を70℃に昇温し、70℃で1時間撹拌した。このようにしてコロイド溶液(前駆体溶液)を得た。
表1に、仕込み組成を示す(以下の各例において同じ)。表1中には前述の(3)式、(4)式の充足性について、充足するものを○、充足しないものを×で示した。
【0042】
(前駆体粉体)
70℃1時間の撹拌を終えた上記のコロイド溶液から撹拌子を取り出し、70℃で15時間加熱し、蒸発乾固させることにより、蒸発乾固生成物からなる粉体試料(前駆体粉体)を回収した。
【0043】
(焼成粉体)
回収した上記の粉体試料(前駆体粉体)を空気中150℃で2時間加熱したのち、 メノウ乳鉢で軽く粉砕し、その後、アルミナるつぼに入れ、電気炉(ヤマト科学製FP102)を用いて、空気中400℃で12時間保持する方法で焼成工程を行い、白色の粉体(以下これを「焼成粉体」と言う。)を得た。本例における焼成の最高到達温度は400℃であり、トータルの焼成時間は14時間である。
【0044】
得られた焼成粉体について、上掲の「X線回折パターンの測定」に記載した条件でX線回折測定を行った。測定されたX線回折パターンから、この焼成粉体はβ-LiPO型構造の結晶相を主相に持つものであることが確認された。異相として少量のLiCO相の混在が認められた。
表2に、これらの結果を示す(以下の各例において同じ。)。表2中に記載の「焼成温度」は最高到達温度である。本例および以下の各例とも、表2に記載の焼成温度(最高到達温度)に維持しながら前述の第2段目の焼成に相当する加熱保持を行った。また、X線回折パターンから求めたβ-LiPO型結晶の格子定数および単位格子の体積を表2中に併記した(比較例1を除く後述の各例において同じ。)。
【0045】
得られた焼成粉体の化学組成を、ICP-AES分析装置(Agilent社製、Agilent720-ES)によって調べた。
表3に、その測定結果に基づくLi、Si、Pの組成比を示す(一部の比較例を除き以下の各例において同じ。)。また、表3中には前述の(1)式、(2)式の充足性について、充足するものを○、充足しないものを×で示した。
本例の焼成粉体は、(2)式を充足し、組成式Li3+xSi1-xの化学量論組成に近いLi、Si、P組成比を有する結晶相を主相に持つものであると評価できる。
【0046】
(焼結体)
上記の焼成粉体を材料に用いて、熱プレス装置(アズワン社製)により、圧力375MPaを付加した状態で、空気中400℃で2時間加熱することによって、焼結体を作製した。
【0047】
得られた焼結体について、周波数応答アナライザ(FRA)(ソーラトロン社製、1260型)を用いて、周波数32MHz~100Hz、振幅電圧100mVの条件で200℃のインピーダンスを測定し、ナイキストプロットの円弧より抵抗値を求め、この抵抗値から導電率を算出した。なお、ブロッキング電極にはAu電極を使用した。
表4に、200℃の導電率を示す(以下の実施例2、3、4、7、比較例3において同じ。)。
本例の焼結体は200℃で3.022×10-6S/cmの導電性(リチウムイオン伝導性)を呈した。すなわち、本例で得られた上記の焼成粉体は、イオン伝導体であることが確認された。
【0048】
[実施例2]
焼結体の作製において、加熱温度を400℃から500℃に変更したことを除き、実施例1と同様の実験を行った。
本例の焼結体は200℃で7.745×10-6S/cmの導電性(リチウムイオン伝導性)を呈した。すなわち、本例で得られた焼成粉体は、イオン伝導体であることが確認された。
【0049】
[実施例3]
前駆体溶液の作製において、公称x値が0.4となり、Siの仕込み量が化学量論組成に対し1.3倍量となるように、原料物質の仕込み量を、水酸化リチウム一水和物3.567g、テトラエトキシシラン2.709g、リン酸二水素アンモニウム1.726gとした。それ以外は実施例1と同様の条件として実験を行った。
X線回折パターンから、本例で得られた焼成粉体はβ-LiPO型構造の結晶相を主相に持つものであることが確認された。異相として少量のLiCO相とLiSiO相の混在が認められた。ICP-AES分析の結果、本例の焼成粉体は、(2)式を充足し、組成式Li3+xSi1-xの化学量論組成に近いLi、Si、P組成比を有する結晶相を主相に持つものであると評価できる。
本例の焼結体は200℃で7.703×10-6S/cmの導電性(リチウムイオン伝導性)を呈した。すなわち、本例で得られた焼成粉体は、イオン伝導体であることが確認された。
【0050】
[実施例4]
前駆体溶液の作製において、公称x値が0.1となり、Siの仕込み量が化学量論組成に対し1.3倍量となるように、原料物質の仕込み量を、水酸化リチウム一水和物3.252g、テトラエトキシシラン0.677g、リン酸二水素アンモニウム2.589gとした。それ以外は実施例1と同様の条件として実験を行った。
X線回折パターンから、本例で得られた焼成粉体はβ-LiPO型構造の結晶相を主相に持つものであることが確認された。異相の混在は認められなかった。ICP-AES分析の結果、本例の焼成粉体は、(2)式を充足し、組成式Li3+xSi1-xの化学量論組成に近いLi、Si、P組成比を有する結晶相を主相に持つものであると評価できる。
本例の焼結体は200℃で2.859×10-7S/cmの導電性(リチウムイオン伝導性)を呈した。すなわち、本例で得られた焼成粉体は、イオン伝導体であることが確認された。
【0051】
[実施例5]
前駆体溶液の作製において、公称x値が0.2となり、Siの仕込み量が化学量論組成に対し1.3倍量となるように、原料物質の仕込み量を、水酸化リチウム一水和物3.357g、テトラエトキシシラン1.355g、リン酸二水素アンモニウム2.301gとした。また、焼成温度を150℃とした。上記以外は実施例1と同様の条件で焼成粉体を作製し、実施例1と同様の方法でX線回折測定および組成分析を行った。
X線回折パターンから、本例で得られた焼成粉体はβ-LiPO型構造の結晶相を主相に持つものであることが確認された。異相として少量のLiCO相の混在が認められた。ICP-AES分析の結果、本例の焼成粉体は、(2)式を充足し、組成式Li3+xSi1-xの化学量論組成に近いLi、Si、P組成比を有する結晶相を主相に持つものであると評価できる。
【0052】
[実施例6]
前駆体溶液の作製において、公称x値が0.2となり、Siの仕込み量が化学量論組成に対し1.3倍量となるように、原料物質の仕込み量を、水酸化リチウム一水和物3.357g、テトラエトキシシラン1.355g、リン酸二水素アンモニウム2.301gとした。また、焼成温度を300℃とした。上記以外は実施例1と同様の条件で焼成粉体を作製し、実施例1と同様の方法でX線回折測定および組成分析を行った。
X線回折パターンから、本例で得られた焼成粉体はβ-LiPO型構造の結晶相を主相に持つものであることが確認された。異相として少量のLiCO相の混在が認められた。ICP-AES分析の結果、本例の焼成粉体は、(2)式を充足し、組成式Li3+xSi1-xの化学量論組成に近いLi、Si、P組成比を有する結晶相を主相に持つものであると評価できる。
【0053】
[実施例7]
前駆体溶液の作製において、公称x値が0.2となり、Siの仕込み量が化学量論組成に対し1.3倍量となるように、原料物質の仕込み量を、水酸化リチウム一水和物3.357g、テトラエトキシシラン1.355g、リン酸二水素アンモニウム2.301gとした。それ以外は実施例1と同様の条件として実験を行った。
X線回折パターンから、本例で得られた焼成粉体はβ-LiPO型構造の結晶相を主相に持つものであることが確認された。異相として少量のLiCO相の混在が認められた。ICP-AES分析の結果、本例の焼成粉体は、(2)式を充足し、組成式Li3+xSi1-xの化学量論組成に近いLi、Si、P組成比を有する結晶相を主相に持つものであると評価できる。
本例の焼結体は200℃で9.963×10-7S/cmの導電性(リチウムイオン伝導性)を呈した。すなわち、本例で得られた焼成粉体は、イオン伝導体であることが確認された。
【0054】
[実施例8]
前駆体溶液の作製において、公称x値が0.2となり、Siの仕込み量が化学量論組成に対し1.3倍量となるように、原料物質の仕込み量を、水酸化リチウム一水和物3.357g、テトラエトキシシラン1.355g、リン酸二水素アンモニウム2.301gとした。また、焼成温度を500℃とした。上記以外は実施例1と同様の条件で焼成粉体を作製し、実施例1と同様の方法でX線回折測定および組成分析を行った。
X線回折パターンから、本例で得られた焼成粉体はβ-LiPO型構造の結晶相を主相に持つものであることが確認された。異相として少量のLiCO相の混在が認められた。ICP-AES分析の結果、本例の焼成粉体は、(2)式を充足し、組成式Li3+xSi1-xの化学量論組成に近いLi、Si、P組成比を有する結晶相を主相に持つものであると評価できる。
【0055】
[比較例1]
前駆体溶液の作製において、公称x値が0.2となり、Siの仕込み量が化学量論組成に対し1.3倍量となるように、原料物質の仕込み量を、水酸化リチウム一水和物3.672g、テトラエトキシシラン3.387g、リン酸二水素アンモニウム1.438gとした。また、焼成温度を600℃とした。上記以外は実施例1と同様の条件で焼成粉体を作製し、実施例1と同様の方法でX線回折測定を行った。
X線回折パターンから、本例で得られた焼成粉体はγ-LiPO型構造の結晶相を主相に持つものであると判定された。異相として少量のLiCO相の混在が認められた。
【0056】
[比較例2]
前駆体溶液の作製において、公称x値が0.5となり、Siの仕込み量が化学量論組成に対し1.3倍量となるように、原料物質の仕込み量を、水酸化リチウム一水和物3.357g、テトラエトキシシラン1.355g、リン酸二水素アンモニウム2.301gとした。それ以外は実施例1と同様の条件で焼成粉体を作製し、実施例1と同様の方法でX線回折測定および組成分析を行った。
X線回折パターンから、本例で得られた焼成粉体はβ-LiPO型構造の結晶相を主相に持つものであることが確認された。異相としてLiCO相とLiSiO相の混在が認めら、それらの量は前述の実施例3より多かった。ICP-AES分析の結果、本例の焼成粉体は、Si/(Si+P)が0.45であり、(1)式を充足していない。
【0057】
[比較例3]
ここでは前述の公称x値が0であるSi無添加のβ-LiPO粉体を以下のようにして室温下で合成した。
原料物質の仕込み量が組成式LiPOを満たすLi:Pの比率になるように、水酸化リチウム一水和物3.147g、リン酸二水素アンモニウム2.876gを秤量した。50mLのイオン交換水に上記の量の水酸化リチウム一水和物を溶解させ、水酸化リチウム水溶液を得た。この水酸化リチウム水溶液に、上記の量のリン酸二水素アンモニウムを加え、液温を70℃に昇温し、70℃で1時間撹拌した。このようにしてコロイド溶液(前駆体溶液)を得た。さらに、70℃1時間の撹拌を終えた上記のコロイド溶液から撹拌子を取り出し、70℃で15時間加熱し、蒸発乾固させた。その蒸発乾固生成物を空気中150℃で2時間加熱し、粉体試料を回収した。
【0058】
得られた粉体について実施例1と同様の条件でX線回折を行った。その結果、当該粉体はβ-LiPO結晶からなるものであることが確認された。この結晶は、上記の蒸発乾固により生成している可能性があるが、表2中の「焼成温度」の欄には付与した熱履歴の最高到達温度である150℃を記載してある。
この粉体を材料に用いて、焼結温度を300℃としたことを除き、実施例1と同様の方法で焼結体を作製し、200℃の導電率を測定した。その結果、本例の焼結体の200℃の導電率は3.5×10-8S/cmであった。本例と、上述の実施例1~4、7との対比から、β-LiPO結晶(本例)はリチウムイオン伝導性に乏しいが、Siを固溶させてLi、Si、Pを結晶格子中に含むβ-LiPO型構造の結晶とすることにより、リチウムイオン伝導性が顕著に改善されることが分かる。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
【表4】
図1