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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058541
(43)【公開日】2024-04-25
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 21/14 20060101AFI20240418BHJP
   H02K 1/276 20220101ALI20240418BHJP
【FI】
H02K21/14 M
H02K1/276
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029412
(22)【出願日】2023-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2022164775
(32)【優先日】2022-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390029805
【氏名又は名称】THK株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】西出 哲弘
(72)【発明者】
【氏名】兼重 宙
(72)【発明者】
【氏名】角振 正浩
(72)【発明者】
【氏名】咲山 隆
(72)【発明者】
【氏名】野田 大明
(72)【発明者】
【氏名】長浦 正樹
(72)【発明者】
【氏名】新口 昇
(72)【発明者】
【氏名】平田 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】山元 郁
【テーマコード(参考)】
5H621
5H622
【Fターム(参考)】
5H621AA03
5H621BB02
5H621BB07
5H621GA01
5H621GA04
5H621HH01
5H621JK08
5H621PP03
5H622AA03
5H622CA02
5H622CA05
5H622CA10
5H622CB02
5H622CB03
5H622CB05
(57)【要約】
【課題】ステータの引抜量に対するトルク定数の低減率を向上させ、かつ、回転速度領域全体の損失を低減させた高効率な回転電機を提供する。
【解決手段】電機子コイルを巻回したステータコアを有するステータと、前記ステータに対して径方向に所定のギャップを介して回転自在に配置されると共に、回転軸方向と直交する断面において永久磁石の配置が異なる複数のロータコアを有するロータとを備え、前記ステータと前記ロータの何れか一方は、前記ロータの回転軸方向に沿って抜き差し自在に配置されることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電機子コイルを巻回したステータコアを有するステータと、
前記ステータに対して径方向に所定のギャップを介して回転自在に配置されると共に、
回転軸方向と直交する断面において永久磁石の配置が異なる複数のロータコアを有するロータとを備え、
前記ステータと前記ロータの何れか一方は、前記ロータの回転軸方向に沿って抜き差し自在に配置されることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機において、
前記ロータは、第1のロータコアと第2のロータコアとを有し、
前記第2のロータコアは、前記第1のロータコアよりもトルク定数が小さく、前記ステータの引き抜き方向に配置されることを特徴とする回転電機。
【請求項3】
請求項2に記載の回転電機において、
前記第1のロータコアには、前記永久磁石が前記ロータの外周面に向かって開くV字形に配置され、
前記第2のロータコアには、前記永久磁石が前記ロータの外周面の接線方向と平行に配置されることを特徴とする回転電機。
【請求項4】
請求項2に記載の回転電機において、
前記第1のロータコアには、前記永久磁石が前記ロータの外周表面に配置され、
前記第2のロータコアには、前記永久磁石が前記ロータの内部に配置されることを特徴とする回転電機。
【請求項5】
請求項1に記載の回転電機において、
前記ステータを固定するテーブルを備え、
前記テーブルは、前記テーブルを前記ロータの回転軸方向に沿って変位させる移動機構によって、移動可能に取り付けられることを特徴とする回転電機。
【請求項6】
請求項5に記載の回転電機において、
前記ステータは、底面が前記テーブルの上面と当接し、
前記移動機構は、前記テーブルに取り付けられると共に、同一平面上に取付けられる複数の直動案内装置と、駆動装置とからなることを特徴とする回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、回転電機の低速回転時及び高速回転時での出力を調整することで、回転速度に応じた出力特性を得ることができる回転電機が知られている。このような回転電機は種々の構造が知られているが、例えば、特許文献1に記載されているように、円筒状のフレームと、中心付近に軸受を備え該フレームの端部に設けられたブラケットと、巻線を施されて該フレームの内側に設置されたステータと、該ステータと細隙を介して端部を該軸受により回転可能に支持された、永久磁石を備えたロータと、ステータとロータ間のエアギャップを変化させる手段とで構成されたインバータ駆動する永久磁石形回転電機が知られている。
【0003】
このような回転電機によれば、低速回転時には、ステータとロータとの対向面積を大きくするようにステータを回転軸方向に移動させ、有効磁束を大きくすることで、トルク定数を高くすることができる。また、高速回転時には、ステータとロータとの対向面積を小さくするようにステータをロータから引き抜いて、有効磁束を小さくすることで、トルク定数を低くすることができる。このようにトルク定数を変化させることによって、低速回転時には高トルク化を図り目標トルクを出力するために必要な電流を減少させ、銅損を減少させる。また、高速回転時には低トルク化を図り鉄損を低減させる等して、回転速度に応じた回転電機の特性を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平7-20079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、従来の回転電機に用いられるロータについて、種々の永久磁石の配置方法が知られている。永久磁石の配置方法によって、ロータから発生する磁束が異なるため、モータの特性に応じた永久磁石の配置方法が設定される。従来、永久磁石の配置方法はロータにつき一種類であった。
【0006】
このような従来の回転電機について、ステータをロータから引き抜いてトルク定数を変化させる場合、トルク定数の低減率は、永久磁石の配置方法に依存しており、ステータの引抜量に対するトルク定数の低減効果は限定的なものであった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために成されたものであって、ステータの引抜量に対するトルク定数の低減率を向上させ、かつ、回転速度領域全体の損失を低減させた高効率な回転電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明に係る回転電機は、電機子コイルを巻回したステータコアを有するステータと、前記ステータに対して径方向に所定のギャップを介して回転自在に配置されると共に、回転軸方向と直交する断面において永久磁石の配置が異なる複数のロータコアを有するロータとを備え、前記ステータと前記ロータの何れか一方は、前記ロータの回転軸方向に沿って抜き差し自在に配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る回転電機によれば、永久磁石の配置が異なるロータコアを複数組み合わせることで、ステータの引抜量に対するトルク定数の低減率を向上させることができ、かつ、回転速度領域全体の損失を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1の実施形態に係る回転電機の軸方向断面図。
図2】本発明の第1の実施形態に係る回転電機のステータを引き抜いた状態を示す軸方向断面図。
図3図1におけるA-A断面図。
図4図1におけるB-B断面図。
図5図1におけるC-C断面図。
図6】本発明の第1の実施形態に係る回転電機を示す斜視図。
図7】本発明の実施形態に係るボールねじ装置を示す参考斜視図。
図8】本発明の実施形態に係る直動案内装置を示す参考斜視図。
図9】従来の回転電機と本発明の第1の実施形態に係る回転電機の損失についてのシミュレーション結果を示す表。
図10】本発明の第2の実施形態に係る回転電機の軸方向断面図。
図11図10におけるD-D断面図。
図12図10におけるE-E断面図。
図13】従来の回転電機と本発明の第2の実施形態に係る回転電機のステータ引抜量に対するトルク定数の関係を示すグラフ。
図14】従来の回転電機と本発明の第2の実施形態に係る回転電機の効率についてのシミュレーション結果を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る回転電機の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0012】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る回転電機の軸方向断面図であり、図2は、本発明の第1の実施形態に係る回転電機のステータを引き抜いた状態を示す軸方向断面図であり、図3は、図1におけるA-A断面図であり、図4は、図1におけるB-B断面図であり、図5は、図1におけるC-C断面図であり、図6は、本発明の第1の実施形態に係る回転電機を示す斜視図であり、図7は、本発明の実施形態に係るボールねじ装置を示す参考斜視図であり、図8は、本発明の実施形態に係る直動案内装置を示す参考斜視図である。また、本明細書において、ロータの回転軸方向及びステータの引き抜き方向とは、図1及び2に示す矢印の方向と定義する。また、本明細書において、上下方向及び左右方向とは、図3に示す矢印の方向と定義する。
【0013】
本実施形態に係る回転電機1は、図1に示すように、後述するロータ5の内部に永久磁石52a、52bを埋め込んだ構造をもつ、いわゆるIPM (Interior Permanent Magnet)モータである。また、本実施形態に係る回転電機1は、自動車等の駆動用のモータとして用いられると好適である。
【0014】
本実施形態に係る回転電機1は、図1に示すように、ケース2に対して回転可能に取り付けられたシャフト4及びロータ5と、ロータ5を周方向に取り囲むと共にロータ5の回転軸方向に沿って移動可能に取り付けられたステータ6を備える。なお、本明細書において、ケース2は、図6に示すように、鋼板を組み合わせた筐体であるとして説明を行うが、ケース2は、回転電機1の構成要素を自動車等の駆動用モータとして車体本体に取り付けることができればよく、材質や形状等は適宜設定して構わない。
【0015】
シャフト4は、図1に示すように、ケース2のケース側面21a、21bに取り付けられた一対の軸受3a、3bを介して回転自在に軸支される。シャフト4のいずれか一方の端部には、図示しない駆動機構に連結され、シャフト4の回転は、自動車等の動力として伝達される。シャフト4には、ロータ5がシャフト4の回転軸と同軸に固定されている。
【0016】
ロータ5は、図1に示すように、第1のロータコア51aと第2のロータコア51bを有する。第1のロータコア51aと第2のロータコア51bは、シャフト4の回転軸に沿って並んで配置され、第1のロータコア51aは、ステータ6の引き抜き方向と反対側に位置するように、第2のロータコア51bは、ステータ6の引き抜き方向に位置するようにシャフト4へ固定される。
【0017】
第1のロータコア51aは、電磁鋼板を積層、または軟磁性粉末材料を圧粉成形して形成されると好適である。第1のロータコア51aの内部には、図5に示すように、複数の永久磁石52aが埋め込まれる。
【0018】
永久磁石52aは、図5に示すように、断面形状が直線形であってロータ5の回転軸方向に長手をもつ板状の磁石である。永久磁石52aは、N極の磁石52aNとS極の磁石52aSとがあり、ロータ5の回転軸方向と直交する断面(図5視)において、それぞれが略V字形となるように第1のロータコア51aの外周に沿って配置される。N極の磁石52aNとS極の磁石52aSは、頂点がロータ5の回転中心に向くとともにロータ5の外周面に向かって開く略V字形となるように配置され、N極の磁石52aNで構成された略V字形の組み合わせと、S極の磁石52aSで構成された略V字形の組み合わせは、第1のロータコア51aの周方向に交互に配置されている。
【0019】
N極の磁石52aNとS極の磁石52aSとの間には、図5に示すように、永久磁石52aの板幅方向の側面にロータ5の回転軸方向に延びるように空間を形成する隙間53aが設けられている。この隙間53aにより、隣り合うN極の磁石52aNとS極の磁石52aSとの間に空気層を形成することで、磁束の短絡を防止している。隙間53aは、図5に示すように、永久磁石52aの板幅方向の側面と連続するように形成されると好適であるが、隙間53aの位置及び形状はこれに限定されず、いわゆるフラックスバリアとして周知である種々の形状であっても構わない。例えば、隣り合うN極の磁石52aNとS極の磁石52aSとの間に、断面形状が略三角形となるように形成される溝であっても構わない。
【0020】
このように配置される永久磁石52aを有する第1のロータコア51aによれば、永久磁石52aから電機子コイル62を鎖交する磁束が増えるため、トルク定数を高めることができる。
【0021】
第2のロータコア51bは、電磁鋼板を積層、または軟磁性粉末材料を圧粉成形して形成されると好適である。第2のロータコア51bの内部には、図4に示すように、複数の永久磁石52bが埋め込まれる。
【0022】
永久磁石52bは、図4に示すように、断面形状が直線形であってロータ5の回転軸方向に長手をもつ板状の磁石である。永久磁石52bは、ロータ5の回転軸方向と直交する断面(図4視)において、第2のロータコア51bの外周面の接線方向と平行に配置され、かつ、外周に沿って環状に複数配置される。また、永久磁石52bは、N極の磁石52bNとS極の磁石52bSとがあり、第2のロータコア51bの周方向に交互に配置されている。
【0023】
永久磁石52bの板幅方向の両側には、図4に示すように、ロータ5の回転軸方向に延びる隙間53bが形成されている。この隙間53bにより、隣り合うN極の磁石52bNとS極の磁石52bSとの間に空気層を形成することで、磁束の短絡を防止している。隙間53bは、図4に示すように、永久磁石52bの板幅方向両側面と連続するように形成されると好適であるが、隙間53bの位置及び形状はこれに限定されず、いわゆるフラックスバリアとして周知である種々の形状であっても構わない。例えば、隣り合うN極の磁
石52bNとS極の磁石52bSとの間に、断面形状が略三角形となるように形成される溝であっても構わない。
【0024】
このように配置される永久磁石52bを有する第2のロータコア51bによれば、略V字形に配置された永久磁石52aを有する第1のロータコア51aと比較して、永久磁石52bから電機子コイル62を鎖交する磁束が減るため、トルク定数を低くすることができる。
【0025】
ステータ6は、図1及び図3に示すように、ステータコア61と、ステータコア61に巻回された複数の電機子コイル62を有する。ステータ6は、図3に示すように、ロータ5の回転軸方向と直交する断面の形状が多角形、例えば、正八角形に形成されると好適である。ステータ6は、図3視において正八角形の底面となる一つの側面が後述するテーブル71と接するように配置される。
【0026】
ステータコア61は、電磁鋼板を積層、または軟磁性粉末材料を圧粉成形して形成されると好適である。ステータコア61は、図4及び5に示すように、径方向に放射状に延びると共に、電機子コイル62が巻回される複数のステータコア基部61aと、各ステータコア基部61aの径方向内側の端部から周方向に延設する鍔部61bとを備えている。鍔部61bの径方向内周面は、第1のロータコア51a及び第2のロータコア51bの外周面との間に所定のギャップが形成されるように配置される。
【0027】
電機子コイル62は、ロータ5の回転軸と同軸に、周方向に沿って配置されている。なお、電機子コイルの巻回方法は、従来周知の種々の巻き方を採用することが可能である。
【0028】
テーブル71は、非磁性の材料であって、例えばアルミニウム合金やステンレス合金等からなる。テーブル71は、図3に示すように、板状の部材であって、テーブル71の下面から左右両端部が後述するブロック部(移動体)92によって支持された状態で、ステータ6をテーブル71の上面に載置しても変形することのない厚みを有する。テーブル71は、図3に示すように、上面の左右両端部にブラケット72を備える。テーブル71は、下面に移動機構10を備え、ロータ5の回転軸方向に沿って移動可能に支持されている。なお、テーブル71は、板状の部材であるとして説明を行ったが、テーブル71の形状はこれに限定されず、例えばブラケット72と一体となった断面略コ字状の部材であってもよく、形状は問わない。また、所望の強度を得るために各種のリブ等を形成しても構わない。
【0029】
ブラケット72は、非磁性の材料であって、例えばアルミニウム合金やステンレス合金等からなる。ブラケット72は、略L字形の部材であって、テーブル71の上面から垂直方向に延びる平面72aを有する。ブラケット72の図3視における奥行方向の両端面には、押え板73がそれぞれ取り付けられる。ブラケット72の上端面には、ステータ6の外形に対応する形状のステータカバー74が、左右に位置するブラケット72を架け渡すように取り付けられる。
【0030】
このようなブラケット72によれば、平面72aによって、ステータ6の図3視における正八角形の左右側面を押さえることができる。また、このようなステータカバー74によれば、ステータ6の図3視における正八角形の上面、左上側面及び右上側面を押さえることができる。また、このような押え板73によれば、図3視におけるステータ6の奥行方向の両端面を押さえることができる。このようにして、ステータ6は、テーブル71の上面、ブラケット72の平面72a、押え板73及びステータカバー74によって、全方向に対する移動が規制され、テーブル71に対して移動不能に固定される。なお、テーブル71の上面には、図1に示すように、ステータ6の取り付け位置を決めるためのピン7
5を取り付けても構わない。
【0031】
移動機構10は、図3に示すように、駆動装置として例えばボールねじ装置8と、複数の直動案内装置9によって構成されている。本実施形態において、ボールねじ装置8は、一例としてテーブル71の下面の左右方向略中央部に取り付けられる。また、直動案内装置9は、一例としてテーブル71の下面の左右両端部のそれぞれに取付けられる。
【0032】
ボールねじ装置8は、図7に示すように、螺旋状のボール転走溝81aが形成された長手方向に延びる軸部材としてのねじ軸81と、ボール転走溝81aに対応する負荷転走溝82aが形成された移動部材としてのナット部材82とを有する。
【0033】
ナット部材82は、ボール転走溝81aと負荷転走溝82aの間を転走する複数のボール83を介してねじ軸81に対して軸方向に移動可能に取り付けられている。ナット部材82は、軸方向端面に径方向に延設されたフランジ84を有し、フランジ84には複数の締結孔84aが形成されている。また、ナット部材82は、例えば、図示しないリターンピースを有している。
【0034】
リターンピースは、ねじ軸81のボール転走溝81aを数巻分だけ飛び越えるようにナット部材82に固定されており、係るリターンピースの端部によってねじ軸81のボール転走溝81aから掬い上げられたボール83が、リターンピース内を転走して数巻分前のボール転走溝81aに送りこまれ、これによってボール83がナット部材82内を無限循環するように構成されている。なお、無限循環の方式として、リターンピースを用いる方式について説明を行ったが、無限循環の方式はリターンピースに限らず、種々の循環方式を採用することが可能であり、例えば、ナット部材82の軸方向端部に取り付けるエンドプレートに循環構造を持たせても構わないし、デフレクタを用いて、ボール83を所定の巻き数分戻す方式を採用しても構わない。
【0035】
本実施形態において、ねじ軸81の両端部は、図1に示すように、ケース2のケース側面21bに取り付けられた軸受86と、ケース2のケース底面22に取り付けられた軸受87を介して回転自在に軸支されている。また、ねじ軸81は、ロータ5の回転軸と平行に配置されている。ねじ軸81のいずれか一方の端部は、図1に示すように、駆動モータ85によって回転力が付与されるように連結されている。また、ナット部材82は、締結孔84aを用いてテーブル71の下面に取り付けられている。なお、本実施形態において、ボールねじ装置8は、テーブル71の下面の左右方向略中央部に取り付けられる場合について説明を行ったが、ボールねじ装置8の取り付け位置はこれに限定されず、回転電機1の車体への取り付け状況に合わせて適宜設定して構わない。
【0036】
直動案内装置9は、図8に示すように、断面形状が略矩形に形成され、左右両側に転動体転走面91aが形成された長尺部材であるレール(移動台)91と、転動体転走面91aに対応する負荷転動体転走面93aが形成された移動部材としてのブロック部(移動体)92とを有する。
【0037】
レール91には、複数のボルト孔が天面91bから底面91cに向かって穿孔されている。本実施形態において、直動案内装置9は、レール91に形成されたこれら複数のボルト孔にボルトを挿通し、ケース2のケース底面22に締結されている。レール91は、断面略矩形状の左右両側面に、2条ずつの転動体転走面91aが対称的に合計4条形成されている。
【0038】
ブロック部92は、レール91の天面91b及び左右両側面に跨るように、断面略コ字状をしており、ブロック部本体93と、このブロック部本体93の往復運動方向である両
端面に取り付けられた一対の側蓋94とを備えている。
【0039】
ブロック部本体93及び側蓋94は、レール91の天面91bに対向する中央部と、レール91の左右両側面に対向する一対の脚部とを有している。ブロック部本体93には、レール91の転動体転走面91aと対向するようにレール91の長手方向に延びる例えば合計4条の負荷転動体転走面93aが形成されている。
【0040】
また、ブロック部本体93には、負荷転動体転走面93aと平行に延びる転動体戻し通路93bが合計4条形成されている。
【0041】
また、側蓋94には、負荷転動体転走面93aの一端と転動体戻し通路93bの一端とを繋ぐU字形状の方向転換路94aが形成されている。転動体転走面91aと負荷転動体転走面93aからなる負荷転動体転走路,一対の方向転換路94a及び転動体戻し通路93bとからなる無限循環路を形成している。
【0042】
本実施形態に係る直動案内装置9は、転動体転走面91aと負荷転動体転走面93aとの間に転動体95が介在されているので、ブロック部92をレール91の長手方向に沿って移動させると、転動体95に転がり運動を行わせることができる。負荷転動体転走路の一端まで転走した転動体95は、一方の方向転換路94aに導かれる。方向転換路94aで進行方向を転換させた転動体95は、転動体戻し通路93bを転走して、他方の方向転換路94aを経由した後、再び負荷転動体転走路に戻される。このように転動体95が転走することで無限循環を実現している。
【0043】
また、複数の転動体95は、球状に形成されたボールが好適に用いられる。さらに、複数の転動体95は、隣り合う転動体95間に配置された間座部と、その長手方向に沿って配列された間座部を繋ぐ帯状の連結帯とからなる帯状リテーナ96により保持されている。このように、転動体95間に配置された間座部により転動体95同士の衝突を防止することができる。また、転動体95は、帯状リテーナ96によって一連に連結保持されているので、転動体95を整列させたまま転走させることができる。
【0044】
なお、レール91の長手方向と交差する面における断面において、転動体転走面91a及び負荷転動体転走面93aは転動体95の曲率半径よりも大きな単一の曲率半径で形成されたサーキュラアーク形状に形成されている。これにより、転動体95は、転動体転走面91aと負荷転動体転走面93aからなる負荷転動体転走路と2点で接触するため、異常な転がり抵抗の増加を示さず、荷重が加わった状態でも良好に動作する。また、転動体転走面91a及び負荷転動体転走面93aはこれに限らず、転動体95の曲率半径よりも若干大きな曲率半径の2つの円弧からなるいわゆるゴシックアーチ形状に形成しても構わない。
【0045】
本実施形態において、直動案内装置9は、図3に示すように、テーブル71の左右両端部に取付けられる。また、ブロック部92は、ブラケット72の真下となる位置に取り付けられる。このように、ブラケット72の真下にブロック部92を取り付けることで、回転電機1全体の寸法を抑え、尚且つモーメントにも強い構造が得られる。例えば、左右のブラケット72の取り付け幅が複数のブロック部92の取り付け幅よりも大きな場合には、回転電機1が幅方向に大きくなり、スペースの問題や重量増加が懸念される。また、反対に、左右のブラケット72の取り付け幅が複数のブロック部92の取り付け幅よりも小さい場合には、モーメントに対して弱くなり、剛性不足が懸念される。
【0046】
レール91は、ケース底面22の上面であって、左右に位置するレール91が同じ高さとなる同一平面上に取り付けられ、ロータ5の回転軸と平行に配置されている。また、ブ
ロック部92は、テーブル71の下面に取り付けられるが、図6に示すように、テーブル71の大きさに合わせて一本のレール91に対して複数のブロック部92を取り付けても構わない。なお、直動案内装置9の取り付け位置は、上記に限定されず、ブラケット72の側面等、回転電機1の車体への取り付け状況に合わせて適宜設定して構わない。また、複数のレール91は、同一平面に取り付けられる場合について説明を行ったが、複数のレール91は、それぞれ異なる平面に取り付けても構わない。
【0047】
このようなボールねじ装置8と直動案内装置9を有する回転電機1によれば、駆動モータ85によってねじ軸81を回転させることで、ナット部材82が取り付けられたテーブル71を移動させ、テーブル71に固定されるステータ6をロータ5の回転軸方向に沿ってスムーズに移動させることができる。また、移動機構10は、テーブル71の下面のみに取付けられるため、ステータ6をロータ5の回転軸方向に沿って移動させる構造がコンパクトにまとまり、回転電機1全体の大きさを小さくすることができる。
【0048】
次に、本実施形態に係るステータ6の引抜量に対する回転電機1の出力特性、及びトルク定数の変化について説明を行う。
【0049】
本実施形態に係る回転電機1は、図1及び2に示すように、上述した移動機構10によって、ステータ6をロータ5に対して抜き差しするように移動させることができる。
【0050】
図1に示すように、ステータ6をロータ5に対して最も挿入した状態、すなわちステータ6の引抜量が0mmの場合においては、ステータ6とロータ5の対向面積が最も大きくなり、有効磁束が大きくなる。このときの回転電機1の出力特性は、高トルク・低回転となり、自動車の発進時等、速度は遅いが高トルクが必要な場合に最も出力特性が適した状態となる。また、このような状態は、逆起電力が上昇することから、効率的に発電を行うことができ、高効率の回生ブレーキとして作用させることが可能となる。また、このとき、ステータ6は、第1のロータコア51a及び第2のロータコア51bと対向している。
【0051】
ステータ6の引抜量が0mmのときの回転電機1は、ステータ6がトルク定数の高い第1のロータコア51aと対向しているため、トルク定数の低い第2のロータコア51bの一種類によって構成されるロータを有する従来の回転電機と比較して、目標トルクを出力させるための電流を小さくすることができる。または、ステータ6の電機子コイル62の巻き数を低減することも可能となる。これらは、通電によって発生する銅損を低減させるために有効である。
【0052】
このように、第1のロータコア51aと第2のロータコア51bとを組み合わせた構成のロータ5を有する回転電機1によれば、ステータ6の引抜量を0mmにすることにより、有効磁束を大きくすることができ、かつ、トルク定数の高い第1のロータコア51aを使用するため、高トルク型の出力特性となる。また、回転電機1が高トルク型の出力特性となるために、銅損による損失を抑えることができ、低速域での効率を向上させることができる。
【0053】
次に、図2に示すように、ステータ6をロータ5に対して引き抜いた状態においては、ステータ6とロータ5の対向面積は小さくなり、有効磁束が小さくなる。このときの回転電機1の出力特性は、低トルク・高回転となり、トルクを必要としない高速走行時に出力特性が適した状態となる。また、このとき、ステータ6は、第2のロータコア51bのみに対向する。
【0054】
ステータ6をロータ5に対して引き抜いた状態では、ステータ6がトルク定数の低い第2のロータコア51bと対向することにより、トルク定数の高い第1のロータコア51a
と対向する場合と比較し、ステータコア61に発生する磁束の変化量を小さくすることができる。このため、ロータ5の回転時の鉄損を低減させることができる。
【0055】
また、ロータ5は、第1のロータコア51aと第2のロータコア51bとを組み合わせて構成されているため、第2のロータコア51bの一種類によって構成されるロータと比較して、上述したように、ステータ6の電機子コイル62の巻き数を低減することができ、通電によって発生する銅損も低減させることが可能である。
【0056】
このように、第1のロータコア51aと第2のロータコア51bとを組み合わせた構成のロータ5を有する回転電機1によれば、ステータ6をロータ5に対して引き抜くことにより、有効磁束を小さくすることができ、かつ、トルク定数の低い第2のロータコア51bを使用するため、高回転型の出力特性となる。また、鉄損及び銅損による損失を抑えることができ、高速域での効率を向上させることができる。
【0057】
このように、本発明に係る回転電機1は、永久磁石52a、52bの配置が異なる第1のロータコア51aと第2のロータコア51bとを組み合わせることで、ステータをロータに対して引き抜く前の状態では、トルク定数をより高めることができ、ステータをロータから引き抜いた後の状態では、トルク定数をより低めることができる。すなわち、本発明に係る回転電機1は、ステータ6の引抜量に対するトルク定数の低減率を向上させることができ、低速域及び高速域での効率を共に向上させることができる。
【0058】
次に、本実施形態に係る回転電機1の損失の改善効果について説明を行う。図9は、従来の回転電機及び本発明の第1の実施形態に係る回転電機1の損失についてのシミュレーション結果である。図9の上段は、従来の一種類のロータ構造であって、第2のロータコア51bと同様の構成からなるロータ(以下、I型ロータという。)を有する回転電機の回転速度に対する損失を示すグラフ、下段は、本発明の第1の実施形態に係る第1のロータコア51aと第2のロータコア51bからなるロータ5を有する回転電機1の回転速度に対する損失を示すグラフである。また、左列は、ステータをロータに対して引き抜く前の状態、右列は、ステータをロータから引き抜いた後の状態を示すグラフである。
【0059】
ステータの引抜き前の状態は、上述したように、低速域での使用が想定されている。そのため、ステータの引抜き前の状態において想定される主な使用領域を、図9の左列における点線枠で示し、従来のI型ロータのみを有する回転電機と、本願発明に係る回転電機1の、点線枠内における損失を比較する。
【0060】
図9の左列上段、左列下段によれば、本願発明に係る回転電機1は、低速域において、高トルク域の損失が低減していることが確認できる。すなわち、本願発明の回転電機1によれば、低速回転時には、トルク定数の高い第1のロータコア51aを使用することにより、銅損による損失が低減されたことが確認できる。
【0061】
同様に、ステータの引抜き後の状態は、上述したように、高速域での使用を想定している。そのため、ステータの引抜き後の状態において想定される主な使用領域を図9の右列における点線枠で示し、従来のI型ロータのみを有する回転電機と、本願発明に係る回転
電機1の、点線枠内における損失を比較する。
【0062】
図9の右列上段、右列下段によれば、本願発明に係る回転電機1は、高速域において、低トルク域の損失が低減していることが確認できる。すなわち、本願発明の回転電機1によれば、高速回転時には、トルク定数の低い第2のロータコア51bを使用することにより、鉄損による損失が低減されたことが確認できる。
【0063】
このように、本願発明の回転電機1によれば、低速回転時及び高速回転時の全領域において、銅損及び鉄損を低減し、損失の低い高効率な回転電機を提供することができる。
【0064】
[第2の実施形態]
以上説明した第1の実施形態は、IPMモータであって、トルク定数の異なる第1のロータコア51aと第2のロータコア51bを組み合わせたロータ5を有し、回転速度に応じてステータ6をロータ5に対して引き抜くことで効率化を図ることのできる回転電機1について説明を行った。次に説明する第2の実施形態に係る回転電機101は、第1の実施形態と異なる形態を有する回転電機について説明を行う。なお、上述した第1の実施形態と同一または類似する部材については、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0065】
図10は、本発明の第2の実施形態に係る回転電機の軸方向断面図であり、図11は、図10におけるD-D断面図であり、図12は、図10におけるE-E断面図である。
【0066】
本実施形態に係る回転電機101は、図10に示すように、ケース2に対して回転可能に取り付けられたシャフト4及びロータ105と、ロータ105を周方向に取り囲むと共にロータ105の回転軸方向に沿って移動可能に取り付けられたステータ6を備える。また、本実施形態に係る回転電機101は、第1の実施形態に係る回転電機1と同様に、自動車等の駆動用のモータとして用いられると好適である。
【0067】
ロータ105は、外周に永久磁石が貼り付けられた構造である、いわゆるSPM(Surface Permanent Magnet)構造の第1のロータコア151aと、内部に永久磁石を埋め込んだ構造である、いわゆるIPM構造の第2のロータコア151bとを備える。
【0068】
第1のロータコア151aと第2のロータコア151bは、シャフト4の回転軸に沿って並んで配置され、第1のロータコア151aは、ステータ6の引き抜き方向と反対側に位置するように、第2のロータコア151bは、ステータ6の引き抜き方向に位置するようにシャフト4へ固定される。
【0069】
第1のロータコア151aは、電磁鋼板を積層、または軟磁性粉末材料を圧粉成形して形成されると好適である。第1のロータコア151aの外周には、図12に示すように、複数の永久磁石152aが貼り付けられる。
【0070】
永久磁石152aは、図12に示すように、断面形状が第1のロータコア151aの外周に対応する円弧形であって、ロータ105の回転軸方向に延びる板状の磁石である。永久磁石152aには、N極の磁石152aNとS極の磁石152aSとがあり、ロータ105の周方向に沿って交互に配置される。なお、永久磁石152aは、第1のロータコア151aの回転軸方向の長さに対応する一続きの板状の磁石でもよく、回転軸方向に複数に分割した板状の磁石から構成されても構わない。
【0071】
N極の磁石152aNとS極の磁石152aSの間には、図12に示すように、ロータ105の回転軸方向に延びる隙間153aが形成される。このような隙間153aにより、隣り合うN極の磁石152aNとS極の磁石152aSとの間に空気層を形成することで、磁束の短絡を防止している。
【0072】
このように配置される永久磁石152aを有する第1のロータコア151aによれば、IPM構造をもつロータコアと比較して、永久磁石152aから電機子コイル62を鎖交する磁束を増加させることができるため、トルク定数を高めることができる。
【0073】
第2のロータコア151bは、電磁鋼板を積層、または軟磁性粉末材料を圧粉成形して形成されると好適である。第2のロータコア151bの内部には、図11に示すように、複数の永久磁石152bが埋め込まれる。
【0074】
永久磁石152bには、図11に示すように、N極の磁石152bNとS極の磁石152bSとがあり、ロータ105の回転軸方向と直交する断面において、それぞれが所定の形状となるように第2のロータコア151bの外周に沿って配置される。
【0075】
N極の磁石152bN及びS極の磁石152bSは、一例として、それぞれ第2のロータコア151bの外周近傍おいて、第2のロータコア151bの径方向に2層となるように配置される。2層のうち径方向外側に位置するN極の磁石152bN又はS極の磁石152bSは、径方向外側に向かって開く略V字形となるように配置される。2層のうち径方向内側に位置するN極の磁石152bN又はS極の磁石152bSは、略V字形に配置された上記磁石を取り囲み、径方向外側に向かって開く略コ字形となるように配置される。
【0076】
N極の磁石152bN及びS極の磁石152bSは、断面形状が直線形であってロータ5の回転軸方向に長手をもつ板状の磁石であり、複数の板状の磁石を組み合わせて、上記のような所定の形状となるように配置される。このように配置されたN極の磁石152bNの組み合わせと、S極の磁石52aSの組み合わせは、第2のロータコア151bの周方向に沿って交互に配置される。
【0077】
なお、N極の磁石152bN及びS極の磁石152bSは、断面形状が直線形であって、これらの磁石を複数組み合わせて所定の位置に配置されるとして説明を行ったが、N極の磁石152bN及びS極の磁石152bSの断面形状はこれに限らず、予め略V字形や略コ字形の断面形状を有する磁石であっても構わない。また、N極の磁石152bN及びS極の磁石152bSの配置についても、上記に限らず、従来周知のIPM構造のロータコアの磁石配置と同等に設定しても構わない。
【0078】
N極の磁石152bNとS極の磁石152bSの周方向の両側には、図11に示すように、ロータ105の回転軸方向に延びる隙間153bが形成される。このような隙間153bにより、隣り合うN極の磁石152bNとS極の磁石152bSとの間に空気層を形成することで、磁束の短絡を防止している。また、隙間153bは、図11に示すような形状に限らず、いわゆるフラックスバリアとして周知である種々の形状であっても構わない。
【0079】
このように配置される永久磁石152bを有する第2のロータコア151bによれば、SPM構造をもつロータコアと比較して、永久磁石152bから電機子コイル62を鎖交する磁束が減るため、トルク定数を低くすることができる。また、永久磁石152bは、隣り合うN極の磁石152bNとS極の磁石152bSとの間の磁気抵抗が高くなるように配置されているため、リラクタンストルクを大きくさせることができる。
【0080】
次に、本実施形態に係るステータ6の引抜量に対する回転電機101の出力特性、及びトルク定数の変化について説明を行う。
【0081】
本実施形態に係る回転電機101は、第1の実施形態に係る回転電機1と同様に、移動機構10によって、ステータ6をロータ105に対して抜き差しするように移動させることができる。
【0082】
ステータ6をロータ105に対して最も挿入した状態、すなわちステータ6の引抜量が0mmの場合においては、ステータ6とロータ105の対向面積が最も大きくなり、有効磁束が大きくなる。このときの回転電機101の出力特性は、高トルク・低回転となり、自動車の発進時等、速度は遅いが高トルクが必要な場合に最も出力特性が適した状態となる。また、このような状態は、逆起電力が上昇することから、効率的に発電を行うことができ、高効率の回生ブレーキとして作用させることが可能となる。また、このとき、ステータ6は、第1のロータコア151a及び第2のロータコア151bと対向している。
【0083】
ステータ6の引抜量が0mmのときの回転電機101は、ステータ6がトルク定数の高いSPM構造の第1のロータコア151aと対向しているため、トルク定数の低いIPM構造のロータコアを有する従来の回転電機と比較して、目標トルクを出力させるための電流を小さくすることができる。または、ステータ6の電機子コイル62の巻き数を低減することも可能となる。これらは、通電によって発生する銅損を低減させるために有効である。
【0084】
このように、第1のロータコア151aと第2のロータコア151bとを組み合わせた構成のロータ105を有する回転電機101によれば、ステータ6の引抜量を0mmにすることにより、有効磁束を大きくすることができ、かつ、トルク定数の高い第1のロータコア151aを使用するため、高トルク型の出力特性となる。また、回転電機101が高トルク型の出力特性となるために、銅損による損失を抑えることができ、低速域での効率を向上させることができる。
【0085】
次に、ステータ6をロータ105に対して引き抜いた状態においては、ステータ6とロータ105の対向面積は小さくなり、有効磁束が小さくなる。このときの回転電機101の出力特性は、低トルク・高回転となり、トルクを必要としない高速走行時に出力特性が適した状態となる。また、このとき、第2のロータコア151bを使用するため、リラクタンストルクを有効に活用することができ、高速走行に適したロータ構造となる。
【0086】
ステータ6をロータ105に対して引き抜いた状態では、ステータ6がトルク定数の低いIPM構造の第2のロータコア151bと対向することにより、トルク定数の高いSPM構造の第1のロータコア151aと対向する場合と比較し、ステータコア61に発生する磁束の変化量を小さくすることができる。このため、ロータ5の回転時の鉄損を低減させることができる。
【0087】
また、ロータ105は、第1のロータコア151aと第2のロータコア151bとを組み合わせて構成されているため、上述したように、目標トルクを出力させるためのステータ6の電機子コイル62の巻き数を低減することができ、通電によって発生する銅損も低減させることが可能である。
【0088】
このように、本実施形態に係る回転電機101によれば、ステータ6をロータ105に対して引き抜くことにより、有効磁束を小さくすることができ、かつ、トルク定数が低くリラクタンストルクの大きい第2のロータコア151bを使用するため、高回転型の出力特性となる。また、鉄損及び銅損による損失を抑えることができ、高速域での効率を向上させることができる。
【0089】
次に、本実施形態に係る回転電機101の損失改善効果について説明を行う。
【0090】
図13は、従来の回転電機と本発明の第2の実施形態に係る回転電機のステータ引抜量に対するトルク定数の関係を示すグラフである。図13に示すように、本実施形態に係る回転電機101は、SPM構造の第1のロータコア151aとIPM構造の第2のロータコア151bを備えるため、IPM構造のロータコアを備える従来の回転電機と比較して、ステータ6の引抜量に対するトルク定数の低減率を向上させることができる。
【0091】
図14は、従来の回転電機及び本発明の第2の実施形態に係る回転電機1の効率についてのシミュレーション結果である。図14の上段は、従来のIPM構造のロータコアを有する回転電機の回転速度及びトルクに対する効率を示すグラフ、下段は、本実施形態に係るSPM構造の第1のロータコア151aとIPM構造の第2のロータコア151bを有するロータ105を備える回転電機1の回転速度及びトルクに対する効率を示すグラフである。また、左列は、ステータをロータに対して引き抜く前の状態、右列は、ステータをロータから引き抜いた後の状態を示すグラフである。また、ステータの引抜き前の状態において想定される主な使用領域を、図14の左列における点線枠で示し、ステータの引抜き後の状態において想定される主な使用領域を図14の右列における点線枠で示す。
【0092】
図14の左列上段、左列下段によれば、本実施形態に係る回転電機101は、従来の回転電機と比較して、低速回転時の高トルク域の効率が向上していることが確認できる。すなわち、本実施形態に係る回転電機101によれば、トルク定数の高いSPM構造の第1のロータコア151aを使用することにより、銅損による損失が低減されたことが確認できる。
【0093】
また、図14の右列上段、右列下段によれば、本実施形態に係る回転電機101は、従来の回転電機と比較して、高速回転時の低トルク域の効率が向上していることが確認できる。すなわち、本実施形態に係る回転電機101によれば、トルク定数が低いIPM構造の第2のロータコア151bを使用することにより、鉄損による損失が低減され、尚且つ、リラクタンストルクの有効活用により、高速回転時の効率がより改善されたことが確認できる。
【0094】
このように、本願発明の回転電機101によれば、低速回転時及び高速回転時の全領域において、銅損及び鉄損を低減し、より損失の低い高効率な回転電機を提供することができる。
【0095】
なお、上述した本実施形態に係る回転電機1、101においては、図1図2及び図10に示すように、第1のロータコア51a、151aと第2のロータコア51b、151bの回転軸方向の長さの比率が等しくなる場合の構造について説明を行ったが、第1のロータコア51a、151aと第2のロータコア51b、151bとの比率はこれに限らず、要求されるトルク定数低下率に合わせて適宜設定して構わない。また、上述した実施形態においては、ロータ5、105を回転軸方向に固定し、ステータ6をロータ5、105に対して抜き差しするように移動可能な形態について説明を行ったが、これに限らず、ステータ6をロータ5、105の回転軸方向に固定し、ロータ5、105をステータ6に対して抜き差しするように移動可能な形態であっても構わない。また、上述した実施形態においては、回転電機1、101を自動車等の駆動用モータとして適用する場合について説明を行ったが、その用途は自動車に限られず、各種のモータに適用しても構わない。また、本実施形態に係る回転電機1、101を風力発電機として使用しても構わない。この場合、変化する風速に合わせてステータ6とロータ5、105の対向面積を適切に変化させることで、発電効率を上げることができる。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0096】
1 101 回転電機、 5 105 ロータ、 10 移動機構、 51a 51b 151a 151b ロータコア、 52a 52b 152a 152b永久磁石、 6 ステータ、 61 ステータコア、 71 テーブル、 8 ボールねじ装置、 9 直動案内装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14