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特開2024-58771有機マグネシウムハロゲン化物および有機ケイ素化合物の製造方法ならびに有機マグネシウムハロゲン化物および有機ケイ素化合物の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058771
(43)【公開日】2024-04-30
(54)【発明の名称】有機マグネシウムハロゲン化物および有機ケイ素化合物の製造方法ならびに有機マグネシウムハロゲン化物および有機ケイ素化合物の製造装置
(51)【国際特許分類】
   C07F 3/02 20060101AFI20240422BHJP
【FI】
C07F3/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166072
(22)【出願日】2022-10-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100136939
【弁理士】
【氏名又は名称】岸武 弘樹
(74)【代理人】
【識別番号】100087893
【弁理士】
【氏名又は名称】中馬 典嗣
(72)【発明者】
【氏名】西本 亮介
(72)【発明者】
【氏名】安孫子 大祐
(72)【発明者】
【氏名】小倉 健嗣
(72)【発明者】
【氏名】磯村 武範
【テーマコード(参考)】
4H048
【Fターム(参考)】
4H048AA02
4H048AB84
4H048AC90
4H048VA13
4H048VA14
4H048VA60
4H048VB10
(57)【要約】
【課題】マグネシウムを前処理する際の反応系の温度の急上昇を抑制するとともに、前処理液の残留を抑制することが可能な有機マグネシウムハロゲン化物および有機ケイ素化合物の製造方法ならびに有機マグネシウムハロゲン化物および有機ケイ素化合物の製造装置を提供する。
【解決手段】有機マグネシウムハロゲン化物の製造方法は、マグネシウム11aに前処理液を接触させて、マグネシウム11aを前処理する工程と、前処理されたマグネシウム11aに有機ハロゲン化物を接触させて、有機マグネシウムハロゲン化物を得る工程と、を含む。前処理液は、炭素数1~3のアルコールである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウムに前処理液を接触させて、前記マグネシウムを前処理する工程と、
前記前処理されたマグネシウムに有機ハロゲン化物を接触させて、有機マグネシウムハロゲン化物を得る工程と、を含み、
前記前処理液は、炭素数1~3のアルコールである、有機マグネシウムハロゲン化物の製造方法。
【請求項2】
前記前処理液は、メタノールを含む、請求項1に記載の有機マグネシウムハロゲン化物の製造方法。
【請求項3】
前記前処理されたマグネシウムに不活性ガスを接触させて、前記前処理されたマグネシウムを乾燥させる工程をさらに含み、
前記乾燥したマグネシウムに前記有機ハロゲン化物を接触させる、請求項1または2に記載の有機マグネシウムハロゲン化物の製造方法。
【請求項4】
前記不活性ガスは、温度が50℃以上である、請求項3に記載の有機マグネシウムハロゲン化物の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の有機マグネシウムハロゲン化物の製造方法により、有機マグネシウムハロゲン化物を製造する工程と、
前記有機マグネシウムハロゲン化物をハロゲン化シランと接触させて、有機ケイ素化合物を得る工程と、を含む、有機ケイ素化合物の製造方法。
【請求項6】
マグネシウムが充填されている充填塔と、
前記充填塔に前処理液を通液させて、前記マグネシウムを前処理する第1通液部と、
前記マグネシウムが前処理された充填塔に、有機ハロゲン化物を含む液体を通液させて、有機マグネシウムハロゲン化物を含む液体を得る第2通液部と、を備え、
前記前処理液は、炭素数1~3のアルコールである、有機マグネシウムハロゲン化物の製造装置。
【請求項7】
前記第2通液部は、前記マグネシウムが前処理された充填塔に、前記有機ハロゲン化物を含む液体を循環通液させる、請求項6に記載の有機マグネシウムハロゲン化物の製造装置。
【請求項8】
前記充填塔に不活性ガスを通気させて、前記前処理されたマグネシウムを乾燥させる通気部をさらに備え、
前記マグネシウムが乾燥した充填塔に前記有機ハロゲン化物を含む液体を通液させる、請求項6または7に記載の有機マグネシウムハロゲン化物の製造装置。
【請求項9】
前記充填塔に通気させる不活性ガスを加熱する加熱部をさらに備える、請求項8に記載の有機マグネシウムハロゲン化物の製造装置。
【請求項10】
マグネシウムが充填されている充填塔と、
前記充填塔に前処理液を通液させて、前記マグネシウムを前処理する第1通液部と、
前記マグネシウムが前処理された充填塔に、有機ハロゲン化物およびハロゲン化シランを含む液体を通液させて、有機ケイ素化合物を含む液体を得る第2通液部と、を備え、
前記前処理液は、炭素数1~3のアルコールである、有機ケイ素化合物の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機マグネシウムハロゲン化物および有機ケイ素化合物の製造方法ならびに有機マグネシウムハロゲン化物および有機ケイ素化合物の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機マグネシウムハロゲン化物は、グリニャール反応に用いられる有機金属化合物(グリニャール試薬)である。グリニャール反応は、第3級アルコール、有機ケイ素化合物等の種々の有機化合物の合成に使用されている。一般的に、有機マグネシウムハロゲン化物は、反応活性が高い反面、安定性が低い。
【0003】
有機マグネシウムハロゲン化物の製造方法としては、マグネシウムが充填されている充填塔に、有機ハロゲン化物を含む溶液を通液させて、有機ハロゲン化物をマグネシウムと反応させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2021/153422号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、マグネシウムは、通常、大気中で酸素と反応することにより、表面に酸化マグネシウムが存在しているため、有機ハロゲン化物との反応が阻害される。このため、ヨードアルカン、ジブロモアルカン等の前処理液をマグネシウムに接触させることにより、マグネシウムを前処理する。
【0006】
しかしながら、マグネシウムを前処理する際に反応系の温度が急上昇することに加え、前処理液が残留する場合がある。ここで、マグネシウムを前処理する際に反応系の温度が急上昇すると、ハンドリングが難しくなる。また、前処理液が残留すると、有機ハロゲン化物を前処理されたマグネシウムと反応させる際に、前処理液がマグネシウムと反応して副生成物が生成する可能性が高い。
【0007】
本発明は、マグネシウムを前処理する際の反応系の温度の急上昇を抑制するとともに、前処理液の残留を抑制することが可能な有機マグネシウムハロゲン化物および有機ケイ素化合物の製造方法ならびに有機マグネシウムハロゲン化物および有機ケイ素化合物の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)マグネシウムに前処理液を接触させて、前記マグネシウムを前処理する工程と、前記前処理されたマグネシウムに有機ハロゲン化物を接触させて、有機マグネシウムハロゲン化物を得る工程と、を含み、前記前処理液は、炭素数1~3のアルコールである、有機マグネシウムハロゲン化物の製造方法。
【0009】
(2)前記前処理液は、メタノールを含む、(1)に記載の有機マグネシウムハロゲン化物の製造方法。
【0010】
(3)前記前処理されたマグネシウムに不活性ガスを接触させて、前記前処理されたマグネシウムを乾燥させる工程をさらに含み、前記乾燥したマグネシウムに前記有機ハロゲン化物を接触させる、(1)または(2)に記載の有機マグネシウムハロゲン化物の製造方法。
【0011】
(4)前記不活性ガスは、温度が50℃以上である、(3)に記載の有機マグネシウムハロゲン化物の製造方法。
【0012】
(5)(1)から(4)のいずれか一項に記載の有機マグネシウムハロゲン化物の製造方法により、有機マグネシウムハロゲン化物を製造する工程と、前記有機マグネシウムハロゲン化物をハロゲン化シランと接触させて、有機ケイ素化合物を得る工程と、を含む、有機ケイ素化合物の製造方法。
【0013】
(6)マグネシウムが充填されている充填塔と、前記充填塔に前処理液を通液させて、前記マグネシウムを前処理する第1通液部と、前記マグネシウムが前処理された充填塔に、有機ハロゲン化物を含む液体を通液させて、有機マグネシウムハロゲン化物を含む液体を得る第2通液部と、を備え、前記前処理液は、炭素数1~3のアルコールである、有機マグネシウムハロゲン化物の製造装置。
【0014】
(7)前記第2通液部は、前記充填塔に、前記有機ハロゲン化物を含む液体を循環通液させる、(6)に記載の有機マグネシウムハロゲン化物の製造装置。
【0015】
(8)前記充填塔に不活性ガスを通気させて、前記前処理されたマグネシウムを乾燥させる通気部をさらに備え、前記マグネシウムが乾燥した充填塔に前記有機ハロゲン化物を含む液体を通液させる、(6)または(7)に記載の有機マグネシウムハロゲン化物の製造装置。
【0016】
(9)前記充填塔に通気させる不活性ガスを加熱する加熱部をさらに備える、(8)に記載の有機マグネシウムハロゲン化物の製造装置。
【0017】
(10)マグネシウムが充填されている充填塔と、前記充填塔に前処理液を通液させて、前記マグネシウムを前処理する第1通液部と、前記マグネシウムが前処理された充填塔に、有機ハロゲン化物およびハロゲン化シランを含む液体を通液させて、有機ケイ素化合物を含む液体を得る第2通液部と、を備え、前記前処理液は、炭素数1~3のアルコールである、有機ケイ素化合物の製造装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、マグネシウムを前処理する際の反応系の温度の急上昇を抑制するとともに、前処理液の残留を抑制することが可能な有機マグネシウムハロゲン化物および有機ケイ素化合物の製造方法ならびに有機マグネシウムハロゲン化物および有機ケイ素化合物の製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態の有機マグネシウムハロゲン化物の製造装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0021】
[有機マグネシウムハロゲン化物の製造方法]
本実施形態の有機マグネシウムハロゲン化物の製造方法は、マグネシウムに前処理液を接触させて、マグネシウムを前処理する工程と、前処理されたマグネシウムに有機ハロゲン化物を接触させて、有機マグネシウムハロゲン化物を得る工程と、を含む。ここで、前処理液は、炭素数1~3のアルコールである。このとき、前処理液として、炭素数1~3のアルコールが使用されているため、マグネシウムを前処理する際の反応系の温度の急上昇が抑制される。また、炭素数が1~3のアルコールは、沸点が低く、蒸発しやすいため、前処理液の残留が抑制される。
【0022】
(マグネシウムを前処理する工程)
マグネシウムの比表面積は、2×10-4/gよりも大きく、3×10-3/gよりも小さいことが好ましいマグネシウム11aの比表面積が2×10-4/gよりも大きいと、有機ハロゲン化物とマグネシウム11aとの反応が十分に進行し、失速しにくくなる。一方、マグネシウム11aの比表面積が3×10-3/gよりも小さいと、有機ハロゲン化物とマグネシウム11aとの反応の反応速度が高くなり過ぎないため、温度上昇により反応が暴走しにくくなるとともに、有機マグネシウムハロゲン化物以外の生成物が生成しにくくなり、有機マグネシウムハロゲン化物の収率が高くなる。
【0023】
前処理液としては、メタノール、エタノール、1-プロパノールおよび2-プロパノールが挙げられ、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、前処理液の残留が抑制されることから、メタノールが好ましい。
【0024】
マグネシウムに前処理液を接触させる方法としては、特に限定されないが、例えば、マグネシウムが充填されている充填塔に前処理液を通液させる方法等が挙げられる。
【0025】
(有機マグネシウムハロゲン化物を得る工程)
前処理されたマグネシウムに有機ハロゲン化物を接触させる方法としては、有機マグネシウムハロゲン化物を得ることが可能であれば、特に限定されないが、例えば、前処理されたマグネシウムが充填されている充填塔に、有機ハロゲン化物を含む液体を通液させる方法等が挙げられる。
【0026】
有機ハロゲン化物としては、マグネシウムと反応して、有機マグネシウムハロゲン化物を得ることが可能であれば、特に限定されないが、有機塩化物、有機臭化物、有機ヨウ化物等を用いることができる。これらの中でも、有機臭化物が好ましい。
【0027】
有機ハロゲン化物としては、例えば、ハロゲン化アルキル;ハロゲン化アルケニル;クロロベンゼン、α-クロロトルエン、ブロモベンゼン、α-ブロモトルエン、ヨードベンゼン、α-ヨードトルエン等のハロゲン化アリール;ジハロゲン化アルキレン;o-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、p-ジクロロベンゼン、o-ジブロモベンゼン、m-ジブロモベンゼン、p-ジブロモベンゼン、o-ジヨードベンゼン、m-ジヨードベンゼン、p-ジヨードベンゼン等のジハロゲン化アリーレン等が挙げられる。
【0028】
ハロゲン化アルキルにおけるアルキル基としては、例えば、炭素数1~8の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。
【0029】
ハロゲン化アルキルの具体例としては、例えば、クロロメタン、クロロエタン、クロロプロパン、2-クロロプロパン、1-クロロ-2-メチルプロパン、2-クロロ-2-メチルプロパン、2-ブロモ-2-メチルプロパン、クロロブタン、ブロモブタン、クロロペンタン、クロロシクロペンタン、クロロヘキサン、ブロモメタン、ブロモエタン、ブロモプロパン、2-ブロモプロパン、1-ブロモ-2-メチルプロパン、ブロモブタン、ブロモペンタン、ブロモシクロペンタン、ブロモヘキサン、ヨードメタン、ヨードエタン、ヨードプロパン、2-ヨードプロパン、1-ヨード-2-メチルプロパン、2-ヨード-2-メチルプロパン、ヨードペンタン、ヨードシクロペンタン、ヨードヘキサン等が挙げられる。
【0030】
ハロゲン化アルケニルにおけるアルケニル基としては、例えば、炭素数2~8の直鎖状又は分岐鎖状のアルケニル基が挙げられる。
【0031】
ハロゲン化アルケニルの具体例としては、例えば、クロロエチレン、3-クロロ-1-プロペン、ブロモエチレン、3-ブロモ-1-プロペン、ヨードエチレン、3-ヨード-1-プロペン等が挙げられる。
【0032】
ジハロゲン化アルキレンにおけるアルキレン基としては、例えば、炭素数1~8の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基が挙げられる。
【0033】
ジハロゲン化アルキレンの具体例としては、1,3-ジクロロプロパン、1,4-ジクロロブタン、1,5-ジクロロペンタン、1,3-ジブロモプロパン、1,4-ジブロモブタン、1,5-ジブロモペンタン、1,3-ジヨードプロパン、1,4-ジヨードブタン、1,5-ジヨードペンタン等が挙げられる。
【0034】
有機ハロゲン化物の中でも、グリニャール試薬として有用である点から、ハロゲン化アルキルおよびジハロゲン化アルキレンが好ましい。
【0035】
有機ハロゲン化物を含む液体は、有機ハロゲン化物を溶解させることが可能な有機溶媒を含んでいてもよい。なお、有機ハロゲン化物が液体である場合は、有機ハロゲン化物を含む液体は、有機ハロゲン化物を溶解させることが可能な有機溶媒を含んでいなくてもよい。
【0036】
有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、エーテル系溶媒等が挙げられる。
【0037】
エーテル系溶媒の具体例としては、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0038】
有機溶媒中の水の含有量は、500ppm未満であることが好ましく、100ppm未満であることがさらに好ましい。有機溶媒中の水の含有量が500ppm未満であると、有機マグネシウムハロゲン化物の収率が向上する。これは、有機マグネシウムハロゲン化物と水の反応が抑制されるためである。
【0039】
なお、有機ハロゲン化物を使用する場合、得られた有機マグネシウムハロゲン化物は、第3級アルコール、有機ケイ素化合物等の種々の有機化合物の合成に使用される。
【0040】
(前処理されたマグネシウムを乾燥させる工程)
本実施形態の有機マグネシウムハロゲン化物の製造方法は、前処理されたマグネシウムに不活性ガスを接触させて、前処理されたマグネシウムを乾燥させる工程をさらに含んでいてもよい。これにより、前処理されたマグネシウムに水が付着していても、水が除去されるため、生成した有機マグネシウムハロゲン化物と水の反応が抑制される。
【0041】
不活性ガスとしては、特に限定されないが、窒素ガス、アルゴンガス等が挙げられる。
【0042】
不活性ガスの温度は、50℃以上であることが好ましく、80℃以上であることがさらに好ましい。不活性ガスの温度が50℃以上であると、前処理されたマグネシウムが乾燥しやすい。
【0043】
[有機ケイ素化合物の製造方法]
本実施形態の有機ケイ素化合物の製造方法は、本実施形態の有機マグネシウムハロゲン化物の製造方法により、有機マグネシウムハロゲン化物を製造する工程と、有機マグネシウムハロゲン化物と、ハロゲン化シランを接触させて、有機ケイ素化合物を得る工程と、を含む。
【0044】
(有機ケイ素化合物を得る工程)
有機マグネシウムハロゲン化物をハロゲン化シランと接触させる方法としては、有機ケイ素化合物を得ることが可能であれば、特に限定されず、公知の方法を使用することができる。
【0045】
なお、前処理されたマグネシウムに有機ハロゲン化物を接触させて、有機マグネシウムハロゲン化物を得る工程は、有機マグネシウムハロゲン化物をハロゲン化シランと接触させて、有機ケイ素化合物を得る工程を兼ねていてもよい。この場合、例えば、前処理されたマグネシウムが充填されている充填塔に、有機ハロゲン化物およびハロゲン化シランを含む液体を通液させる。
【0046】
ハロゲン化シランとしては、有機マグネシウムハロゲン化物と反応して、有機ケイ素化合物を得ることが可能であれば、特に限定されないが、例えば、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、トリメチルクロロシラン、メチルジクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、トリクロロシラン、ジクロロシラン等のクロロシラン等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0047】
[有機マグネシウムハロゲン化物の製造装置]
図1に、本実施形態の有機マグネシウムハロゲン化物の製造装置の一例を示す。
【0048】
有機マグネシウムハロゲン化物の製造装置10は、マグネシウム11aが充填されており、鉛直方向上側の開口部にパンチングプレート11bが設置されている充填塔11を備える。
【0049】
パンチングプレート11bは、マグネシウム11aの粒径よりも小さい貫通孔が形成されている板状部材であり、充填塔11の外部へのマグネシウム11aの流出を遮断する。
【0050】
有機マグネシウムハロゲン化物の製造装置10は、充填塔11に前処理液を鉛直方向上向きに通液させて、マグネシウム11aを前処理する第1通液部12と、マグネシウム11aが前処理された充填塔11に、有機ハロゲン化物を含む液体を鉛直方向上向きに通液させて、マグネシウムハロゲン化物を得る第2通液部13と、を備える。
【0051】
ここで、第1通液部12は、前処理液を貯留する第1タンク12aと、第1タンク12aに貯留された前処理液を充填塔11に供給する第1ポンプ12bと、を備える。ここで、充填塔11に供給された前処理液は、充填塔11を通液した後、三方弁等を用いて廃液タンク16に排出する。
【0052】
また、第2通液部13は、有機ハロゲン化物を含む液体を貯留する第2タンク13aと、第2タンク13aに貯留された有機ハロゲン化物を含む液体を充填塔11に供給する第2ポンプ13bと、を備える。ここで、充填塔11に供給された有機ハロゲン化物を含む液体は、充填塔11を通液した後、循環ポンプ14により、循環タンク15および充填塔11の間を循環する。すなわち、有機ハロゲン化物を含む液体は、充填塔11を循環通液する。このとき、有機ハロゲン化物を含む液体の供給量が所定値に到達すると、第2ポンプ13bを停止させる。有機ハロゲン化物と前処理されたマグネシウムの反応が終了すると、有機ハロゲン化物を含む液体の反応液の全量を回収する。ここで、有機ハロゲン化物を使用する場合、回収された有機マグネシウムハロゲン化物を含む液体は、第3級アルコール、有機ケイ素化合物等の種々の有機化合物の合成に使用される。
【0053】
有機マグネシウムハロゲン化物の製造装置10は、充填塔11に不活性ガスを通気させて、前処理されたマグネシウムを乾燥させる通気部17と、充填塔11に通気させる不活性ガスを加熱する加熱部18をさらに備える。このため、通気部17(および加熱部18)を使用すると、マグネシウム11aが乾燥した充填塔11に有機ハロゲン化物を含む液体を通液させることができる。
【0054】
なお、有機マグネシウムハロゲン化物の製造装置10は、必要に応じて、加熱部18(および通気部17)を備えていなくてもよい。
【0055】
[有機ケイ素化合物の製造装置]
本実施形態の有機ケイ素化合物の製造装置は、例えば、有機ハロゲン化物およびハロゲン化シランを含む液体を第2タンク13aに貯留する以外は、有機マグネシウムハロゲン化物の製造装置10と同様の構成である。
【0056】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨の範囲内で、上記の実施形態を適宜変更してもよい。
【実施例0057】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0058】
[実施例1]
攪拌子を入れた200mLフラスコに、比表面積5.7×10-4/gのマグネシウム1.9g(0.08mol)を計量した後、窒素ガスで置換し、温度センサーを設置した。次に、沸点64℃のメタノール5.0g(0.16mol)を投入した後、攪拌を開始し、マグネシウムを前処理した。このとき、反応系の温度が30分で21℃から30℃まで昇温した。この時点で、エバポレーターを用いて、30℃、36~45hPaで20分揮発成分を除去した。その結果、液体成分が完全に揮発していたので、THF10mLを加えてGC分析したところ、メタノールの残留量が0.12mgであった。
【0059】
[比較例1]
メタノール5.0g(0.16mol)の代わりに、沸点132℃の1,2-ジブロモエタン29.3g(0.16mol)およびTHF5mlを使用した以外は、実施例1と同様にして、前処理した。このとき、反応系の温度が10分で21℃から40℃まで昇温した。この時点で、エバポレーターを用いて、30℃、36hPaで20分揮発成分を除去した。その結果、液体成分が残留していた。
【0060】
[比較例2]
メタノール5.0g(0.16mol)の代わりに、沸点130℃の1-ヨードブタン7.2g(0.04mol)およびTHF1.25mlを使用した以外は、実施例1と同様にして、前処理した。このとき、反応系の温度が5分で21℃から60℃まで昇温した。この時点で、エバポレーターを用いて、30℃、36hPaで20分揮発成分を除去した。その結果、液体成分が残留していた。
【0061】
以上のことから、実施例1は、マグネシウムを前処理する際の反応系の温度の急上昇が抑制されるとともに、前処理液の残留が抑制されることがわかる。これに対して、比較例1、2は、それぞれ前処理液として、1,2-ジブロモエタンおよび1-ヨードブタンが使用されているため、マグネシウムを前処理する際の反応系の温度が急上昇するとともに、前処理液が残留する。
【符号の説明】
【0062】
10 有機マグネシウムハロゲン化物の製造装置
11 充填塔
11a マグネシウム
11b パンチングプレート
12 第1通液部
12a 第1タンク
12b 第1ポンプ
13 第2通液部
13a 第2タンク
13b 第2ポンプ
14 循環ポンプ
15 循環タンク
16 廃液タンク
17 通気部
18 加熱部
図1