(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024058932
(43)【公開日】2024-04-30
(54)【発明の名称】質量測定方法及び質量測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 5/02 20060101AFI20240422BHJP
【FI】
G01N5/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166349
(22)【出願日】2022-10-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002273
【氏名又は名称】弁理士法人インターブレイン
(72)【発明者】
【氏名】阿部 祐士
(57)【要約】
【課題】微量な磁性粉の質量測定に適した新たな技術を提供する。
【解決手段】測定装置20は、ドライポンプの軸受に封入されている潤滑油に含まれる磁性粉の質量を測定する。この測定装置20は、潤滑油を含む分散媒が導入される測定セル24を有する水晶振動子22と、水晶振動子22を振動させる交流電圧が印加される金電極22bと、水晶振動子22の共振周波数を測定する測定部と、測定セル24に磁界を発生させる磁界発生部と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライポンプの軸受に封入されている潤滑油に含まれる磁性粉の質量を測定する質量測定方法であって、
水晶振動子の測定セルに前記潤滑油を含む分散媒を導入する工程と、
前記測定セルに前記分散媒がある状態で前記水晶振動子の電極に交流電圧を印加し、前記水晶振動子の第1の共振周波数を測定する第1の測定工程と、
前記第1の測定工程の後に、前記水晶振動子の電極に交流電圧を印加しかつ前記測定セルに磁界を印加し、前記水晶振動子の第2の共振周波数を測定する工程と、
を含むことを特徴とする質量測定方法。
【請求項2】
前記第1の共振周波数と前記第2の共振周波数とに基づいて前記水晶振動子の表面に吸着した磁性粉の質量を演算する工程を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の質量測定方法。
【請求項3】
ドライポンプの軸受に封入されている潤滑油に含まれる磁性粉の質量を測定する質量測定装置であって、
前記潤滑油を含む分散媒が導入される測定セルを有する水晶振動子と、
前記水晶振動子を振動させる交流電圧が印加される電極と、
前記水晶振動子の共振周波数を測定する測定部と、
前記測定セルに磁界を発生させる磁界発生部と、
を備えることを特徴とする質量測定装置。
【請求項4】
前記測定部で測定した共振周波数の変化から前記水晶振動子の表面に吸着した磁性粉の質量を演算する演算部を更に備えることを特徴とする請求項3に記載の質量測定装置。
【請求項5】
磁性粉の質量を測定する質量測定方法であって、
水晶振動子の測定セルに前記磁性粉を含む分散媒を導入する工程と、
前記測定セルに前記分散媒がある状態で前記水晶振動子の電極に交流電圧を印加し、前記水晶振動子の第1の共振周波数を測定する第1の測定工程と、
前記第1の測定工程の後に、前記水晶振動子の電極に交流電圧を印加しかつ前記測定セルに磁界を印加し、前記水晶振動子の第2の共振周波数を測定する工程と、
を含むことを特徴とする質量測定方法。
【請求項6】
磁性粉の質量を測定する質量測定装置であって、
前記磁性粉を含む分散媒が導入される測定セルを有する水晶振動子と、
前記水晶振動子を振動させる交流電圧が印加される電極と、
前記水晶振動子の共振周波数を測定する測定部と、
前記測定セルに磁界を発生させる磁界発生部と、
を備えることを特徴とする質量測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量測定方法及び質量測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス、液晶パネル、LED、太陽電池等を製造する製造プロセスにおいては、プロセスガスをプロセスチャンバ内に導入してエッチング処理やCVD処理等の各種処理を行っている。プロセスチャンバに導入されたプロセスガスは、真空ポンプ装置によって排気される。一般に、高い清浄度が必要とされるこれらの製造プロセスに使用される真空ポンプ装置は、気体の流路内にオイルを使用しない、いわゆるドライ真空ポンプ装置である。このようなドライ真空ポンプ装置の代表例として、ロータ室内に配置された一対のポンプロータを互いに反対方向に回転させて、気体を移送する容積式真空ポンプ装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の真空ポンプ装置では、一対のポンプロータの回転軸を回転可能に支持する軸受が設けられている。このような軸受は、長期間の使用により各部が摩耗するため寿命がある。そのため、装置のオーバーホールの際に軸受ごと交換することが多い。
【0005】
しかしながら、軸受によっては必ずしも交換の必要がないものもあり、交換が必要な軸受を判別できれば、そのまま再利用することでメンテナンスコストの削減が期待できる。そこで、軸受各部の摩耗によって生じる摩耗粉の質量を測定できれば、その軸受の寿命まで残りがあとどのくらいか推定できる。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、微量な磁性粉の質量測定に適した新たな技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の質量測定方法は、ドライポンプの軸受に封入されている潤滑油に含まれる磁性粉の質量を測定する質量測定方法であって、水晶振動子の測定セルに潤滑油を含む分散媒を導入する工程と、測定セルに分散媒がある状態で水晶振動子の電極に交流電圧を印加し、水晶振動子の第1の共振周波数を測定する第1の測定工程と、第1の測定工程の後に、水晶振動子の電極に交流電圧を印加しかつ測定セルに磁界を印加し、水晶振動子の第2の共振周波数を測定する工程と、を含む。
【0008】
本発明の別の態様は、質量測定装置である。この装置は、ドライポンプの軸受に封入されている潤滑油に含まれる磁性粉の質量を測定する質量測定装置であって、潤滑油を含む分散媒が導入される測定セルを有する水晶振動子と、水晶振動子を振動させる交流電圧が印加される電極と、水晶振動子の共振周波数を測定する測定部と、測定セルに磁界を発生させる磁界発生部と、を備える。
【0009】
本発明の更に別の態様は、質量測定方法である。この方法は、磁性粉の質量を測定する質量測定方法であって、水晶振動子の測定セルに磁性粉を含む分散媒を導入する工程と、測定セルに分散媒がある状態で水晶振動子の電極に交流電圧を印加し、水晶振動子の第1の共振周波数を測定する第1の測定工程と、第1の測定工程の後に、水晶振動子の電極に交流電圧を印加しかつ測定セルに磁界を印加し、水晶振動子の第2の共振周波数を測定する工程と、を含む。
【0010】
本発明の更に別の態様は、質量測定装置である。この装置は、磁性粉の質量を測定する質量測定装置であって、磁性粉を含む分散媒が導入される測定セルを有する水晶振動子と、水晶振動子を振動させる交流電圧が印加される電極と、水晶振動子の共振周波数を測定する測定部と、測定セルに磁界を発生させる磁界発生部と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、微量な磁性粉の質量測定に適した新たな技術を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】軸受の一例であるボールベアリングを模式的に示した図である。
【
図2】本実施形態に係る質量測定装置の概略構成を示す模式図である。
【
図3】本実施形態に係る測定セルの水晶振動子近傍の断面を示す模式図である。
【
図4】参考例に係る方法で測定した磁性流体を含む分散媒の周波数変化のグラフを示す図である。
【
図5】実施形態に係る方法で測定した磁性流体を含む分散媒の周波数変化のグラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、本実施形態について説明する。なお、以下の実施形態およびその変形例において、ほぼ同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0014】
はじめに、ドライポンプに使用される軸受について簡単に説明する。
図1は、軸受の一例であるボールベアリングを模式的に示した図である。
図1に示すボールベアリング10は、内輪12と外輪14との間の環状の空間に複数の玉16等の転動体が配置されている。ボールベアリングの各部に用いられる鋼材には、例えば、高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)といった磁性体が用いられる。また、部品同士の摺動摩擦低減のために、ボールベアリング内部に潤滑油が封入されたり供給されたりする。
【0015】
このような軸受が設けられた装置が長期間使用されると、部品同士の摩耗によって放出された摩耗粉が潤滑油中に徐々に蓄積されると考えられる。そのため、潤滑油中の摩耗粉が多ければ多いほど部品の摩耗が進んでおり、軸受の寿命が近づいていると推測される。一方、潤滑油中の摩耗粉は極微量であると考えられ、一般的な質量測定装置では摩耗粉の存在自体を検出することも難しい。
【0016】
そこで、本願発明者は、軸受に用いられる部品が磁性体であることに着目し、微量な質量測定に適したQCM(Quartz-Crystal Microbalance)法を更に発展させた新たな質量測定方法を考案した。この方法の主な特徴は、水晶振動子を振動させる際に磁性体に作用する磁界を印加する点である。以下に、本願発明を適用可能な装置の概略構成を説明する。
【0017】
図2は、本実施形態に係る質量測定装置の概略構成を示す模式図である。なお、水晶振動子を振動させ、また、水晶振動子の共振周波数を測定する技術については、以下で説明する構成に限定されず、他の構成と組み合わせたり置換したりしてもよい。
【0018】
図2に示す測定装置20は、水晶振動子22を含む測定セル24と、水晶振動子22を発振させるとともに発振している水晶振動子22の振動数を計測する周波数計測機26と、水晶振動子22と周波数計測機26とを接続する水晶子コネクタ28と、計測した周波数に基づいて質量を演算するコンピュータ30とを備える。周波数計測機26とコンピュータ30とは一体であってもよい。水晶振動子22は、ATカットされた水晶片22aと、水晶片22aの表裏に設けられた一対の金電極22bと、一対の金電極22bをそれぞれ水晶子コネクタ28に接続する一対のリード22cとを有する。
【0019】
図3は、本実施形態に係る測定セルの水晶振動子近傍の断面を示す模式図である。測定セル24は、上部フローセル32と、下部固定ブロック34と、上部フローセル32と水晶振動子22との間を封止するOリング36と、水晶振動子22と下部固定ブロック34との間を封止するOリング38とを有する。
【0020】
上部フローセル32は、測定対象の試料を含む分散媒40が導入される試料室32aが形成されており、循環する分散媒40が試料室32aに流入する流入経路32bと、試料室32aから分散媒40が流出する流出経路32cとを有する。流入経路32bや流入経路32bは不図示の循環装置、例えばポンプに接続されている。ここで、分散媒とは、測定対象の試料の質量測定に適した濃度や状態を実現しやすい物質が好ましく、液体だけでなく気体であってもよい。液体の場合、極性のない化合物が好ましい。なお、上部フローセル32の代わりにバッチセル42を用いてもよい。
【0021】
下部固定ブロック34は、測定セル24の下方から磁石44が進退可能な開口34aが形成されている。磁石44は、測定セル24の特に水晶片22a近傍に磁界を印加する磁界発生部であり、磁力の強い磁石(例えばネオジム磁石)が好ましい。また、測定セル24に適切な磁界は印加できるのであれば、磁界発生部は電磁石であってもよい。
【0022】
次に、QCM法の原理について簡単に説明する。QCM法は、水晶片22aの両側に成膜した電極に交流電圧を印加すると、圧電効果により共振振動をする。この共振振動の共振周波数変化(ΔF)は、電極表面に吸着した物質の質量変化(Δm)に比例することが、以下のSauerbreyの式として知られている。
【0023】
Sauerbreyの式:ΔF=-(2/(μρ)1/2)×(F2/n)×(Δm/A)
ΔF:周波数変化、F:基本周波数、Δm:質量変化、A:電極面積、μ:水晶剪断応力、ρ:水晶密度、n:オーバートーン次数
【0024】
本実施形態の測定装置20においては、周波数計測機26としてセイコー・イージーアンドジー株式会社製の水晶振動子測定システム(QCM922A)を用いた。このシステムにおける感度Δm/ΔFは0.10~3.5[ng/Hz]程度である。
【0025】
次に、本実施形態に係る測定装置20を用いて微量の磁性粉の測定が可能であることを実験結果を通して説明する。本願発明者は、軸受に封入されている潤滑油に含まれる磁性粉の質量を測定する代わりに、QCM法により磁性流体に含まれる磁性粉の質量を測定した。具体的には、株式会社ナリカ製の磁性流体P70-3830を用いた。この磁性流体に含まれる磁性粉の質量を測定できれば、潤滑油に含まれる磁性粉の質量を測定することは可能である。
【0026】
はじめに、参考例に係る方法での周波数変化について説明する。参考例に係る方法では、磁石44を下部固定ブロック34から退避した状態で、測定セル24に分散媒40のみ30ml程度を導入し、測定装置20の出力が安定するまで循環させ静置する。分散媒は、例えばヘキサンを用いることができる。そして、金電極22bに交流電圧を印加しているタイミングで、周波数計測機26により水晶振動子22の第1の共振周波数を測定する。次に、前述の磁性流体を分散媒40に3μl添加し、撹拌しながら循環させ静置する。そして、第1の共振周波数が測定された後、かつ磁性流体が添加された後のタイミングで、周波数計測機26で水晶振動子22の第2の共振周波数を測定する。
【0027】
図4は、参考例に係る方法で測定した磁性流体を含む分散媒の周波数変化のグラフを示す図である。
図4に示すように、周波数の変化はほとんどみられず、磁性流体中の磁性粉は金電極22bにほとんど吸着していないことがわかる。
【0028】
そこで、測定セル24に磁界を印加する磁石44を用いて参考例と同様の実験を行った。
図5は、実施形態に係る方法で測定した磁性流体を含む分散媒の周波数変化のグラフを示す図である。
図5に示すように、金電極22bに交流電圧を印加して0.75分経過後に、磁石44を下部固定ブロック34に挿入した。この場合、磁石44を挿入する前に測定した共振周波数が第1の共振周波数に相当し、磁石44を挿入した後に測定した水晶振動子22の共振周波数が第2の共振周波数に相当する。そして、第1の共振周波数から第2の共振周波数への変化が4000Hz以上となっており、磁性流体に含まれている磁性粉が磁石44の作用により金電極22bの表面に十分吸着したことがわかる。
【0029】
このように、周波数計測機26により測定した共振周波数の変化ΔFに基づいて、コンピュータ30は、水晶振動子22の水晶片22aの表面に吸着した磁性粉の質量変化Δmを演算することができる。
【0030】
上述のように、本実施形態に係る質量測定方法は、ドライポンプの軸受に封入されている潤滑油に含まれる磁性粉の質量を測定できる。この質量測定方法は、水晶振動子22の測定セル24に潤滑油を含む分散媒40を導入する工程と、測定セル24の試料室32aに分散媒40がある状態で水晶振動子22の金電極22bに交流電圧を印加し、水晶振動子22の第1の共振周波数を測定する第1の測定工程と、第1の測定工程の後に、水晶振動子22の金電極22bに交流電圧を印加しかつ測定セル24に磁界を印加し、水晶振動子22の第2の共振周波数を測定する工程と、を含む。
【0031】
そして、コンピュータ30により、周波数計測機26で測定した第1の共振周波数と第2の共振周波数とに基づいて水晶振動子22の金電極22bの表面に吸着した磁性粉の質量が演算される。これにより、潤滑油に含まれる磁性粉が非常に微量であってもその質量を測定できる。なお、本実施形態では、ドライポンプの軸受に封入されている潤滑油に含まれる磁性粉の質量を測定対象に説明しているが、本願発明の測定方法や測定装置の測定対象は、潤滑油に含まれる磁性粉に限らず、様々な媒質に含まれる微量の磁性粉であってもよい。
【0032】
なお、本発明は上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。上記実施形態や変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成してもよい。また、上記実施形態や変形例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。
【0033】
(変形例)
上述の実施形態では、測定セル24に分散媒40のみを循環させ静置した後、第1の共振周波数を測定している。しかしながら、第1の共振周波数は、使用する測定セルや分散媒の条件が同じであれば、数値が大きく変わることはない。そこで、第1の共振周波数を事前に測定し、その値を周波数計測機26やコンピュータ30の記憶部に基準値として記憶しておいてもよい。この場合、第1の測定工程を省略し、記憶部に記憶されていた基準値と第2の測定工程で測定した第2の共振周波数とに基づいて水晶振動子の表面に吸着した磁性粉の質量を演算することができる。
【符号の説明】
【0034】
10 ボールベアリング、20 測定装置、22 水晶振動子、22a 水晶片、22b 金電極、24 測定セル、26 周波数計測機、30 コンピュータ、32 上部フローセル、32a 試料室、34 下部固定ブロック、40 分散媒、44 磁石。