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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059074
(43)【公開日】2024-04-30
(54)【発明の名称】車両用フロントガラスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/12 20060101AFI20240422BHJP
   B32B 17/00 20060101ALI20240422BHJP
   B60J 1/00 20060101ALI20240422BHJP
   B60J 1/20 20060101ALI20240422BHJP
   B60S 1/02 20060101ALI20240422BHJP
   B60J 3/04 20060101ALI20240422BHJP
   H01R 4/02 20060101ALI20240422BHJP
【FI】
C03C27/12 Z
C03C27/12 L
C03C27/12 M
B32B17/00
B60J1/00 J
B60J1/20 C
B60S1/02 300
B60J3/04
H01R4/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023133934
(22)【出願日】2023-08-21
(31)【優先権主張番号】P 2022166010
(32)【優先日】2022-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】手嶋 直樹
【テーマコード(参考)】
3D225
4F100
4G061
5E085
【Fターム(参考)】
3D225AA03
3D225AB01
3D225AC10
3D225AD02
4F100AB16
4F100AB16D
4F100AB16E
4F100AB17
4F100AB17D
4F100AB17E
4F100AB21
4F100AB21C
4F100AB21D
4F100AB22
4F100AB22D
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4F100AB24E
4F100AG00
4F100AG00A
4F100AG00C
4F100AR00B
4F100BA03
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4F100BA06
4F100BA07
4F100CA13
4F100CA13D
4F100CA13E
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4F100EJ42
4F100GB32
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4F100JG01D
4F100JG01E
4F100JN01
4G061AA03
4G061AA23
4G061AA30
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4G061CB19
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4G061CD03
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4G061DA14
4G061DA23
4G061DA29
4G061DA30
5E085BB01
5E085BB11
5E085DD01
5E085DD13
5E085JJ06
5E085JJ25
(57)【要約】
【課題】導電体と端子とを無鉛半田を用いて接合する工程を含み、端子付け後のガラス板の破壊強度を高めることが可能な車両用フロントガラスの製造方法の提供。
【解決手段】第1ガラス板の車内面上に、導電体の材料を塗工する工程(S12)と、導電体の材料を塗工した第1ガラス板を焼成して、導電体付きガラス板を得る工程(S13)と、導電体付きガラス板と第2ガラス板とを、中間膜を介して貼り合わせて、合わせガラスを得る工程(S14)と、導電体に含まれる端子接合部上に、加熱溶融させた後に凝固させた無鉛半田を介して端子を接合する工程(S15)と、凝固した無鉛半田に対して、30~150℃で10分間以上、50~150℃で5分間以上、または120~150℃で3分間以上の条件で、後加熱処理を行う工程(S16)とを順次有する、車両用フロントガラスの製造方法。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ガラス板と第2ガラス板とが中間膜を介して貼り合わされた合わせガラスを含み、
前記合わせガラスは、前記第1ガラス板と、当該第1ガラス板の車内面の上に形成され、端子が接合される端子接合部を有する導電体と、当該導電体の前記端子接合部上に接合された端子とを有する端子付きガラス板を含み、
前記導電体は、電気的機能部を含むか、電気的機能部に電気的に接続されており、
前記導電体は、前記電気的機能部に給電するための給電部を含み、当該給電部が前記端子接合部を含む、車両用フロントガラスの製造方法であって、
前記第1ガラス板の前記車内面上に、前記導電体の材料である銀とガラスフリットとを含む銀含有ペーストを塗工する工程(S12)と、
前記導電体の材料を塗工した前記第1ガラス板を焼成して、前記導電体を形成して、導電体付きガラス板を得る工程(S13)と、
前記導電体付きガラス板と前記第2ガラス板とを、前記中間膜を介して貼り合わせて、前記合わせガラスを得る工程(S14)と、
前記導電体に含まれる前記端子接合部上に、加熱溶融させた後に凝固させた無鉛半田を介して前記端子を接合する工程(S15)と、
凝固した前記無鉛半田に対して、30~150℃で10分間以上、50~150℃で5分間以上、または120~150℃で3分間以上の条件で、後加熱処理を行う工程(S16)とを順次有する、車両用フロントガラスの製造方法。
【請求項2】
工程(S16)における加熱条件は、50~150℃で10分間以上、または120~150℃で5分間以上である、請求項1に記載の車両用フロントガラスの製造方法。
【請求項3】
工程(S16)における加熱温度が130℃以下である、請求項1または2に記載の車両用フロントガラスの製造方法。
【請求項4】
工程(S16)における加熱温度が120℃以下である、請求項3に記載の車両用フロントガラスの製造方法。
【請求項5】
工程(S16)における加熱時間が120分間以下である、請求項1または2に記載の車両用フロントガラスの製造方法。
【請求項6】
工程(S16)における加熱時間が60分間以下である、請求項5に記載の車両用フロントガラスの製造方法。
【請求項7】
前記無鉛半田は、半田接合後に20~25℃の常温環境下で保存したときに、時間の経過と共に硬度が低下する時効軟化タイプの無鉛半田である、請求項1または2に記載の車両用フロントガラスの製造方法。
【請求項8】
前記無鉛半田は、
SnおよびAgを含み、Sb、CuおよびInを実質的に含まないSnAg系無鉛半田;
Sn、AgおよびCuを含み、SbおよびInを実質的に含まないSnAgCu系無鉛半田;
SnおよびInを含み、Sb、AgおよびCuを実質的に含まないSnIn系無鉛半田;
Sn、AgおよびInを含み、Sb、Cu、Bi、NiおよびZnを実質的に含まないSnAgIn系無鉛半田;
Sn、Ag、InおよびCuを含み、Sb、Bi、NiおよびZnを実質的に含まないSnAgInCu系無鉛半田;
Sn、Ag、InおよびBiを含み、Sb、Cu、NiおよびZnを実質的に含まないSnAgInBi系無鉛半田;
Sn、Ag、In、Ni、CuおよびZnを含み、SbおよびBiを実質的に含まないSnAgInNiCuZn系無鉛半田;
からなる群より選ばれる1種以上の無鉛半田である、請求項1または2に記載の車両用フロントガラスの製造方法。
【請求項9】
前記車両用フロントガラスは、前記第1ガラス板の前記車内面と前記導電体の前記端子接合部との間に遮光層を有するものであり、
工程(S12)の前に、前記第1ガラス板の前記車内面上に、前記遮光層の材料である黒色顔料とガラスフリットとを含むセラミックペーストを塗工する工程(S11)を有し、
工程(S13)において、前記遮光層の材料および前記導電体の材料を塗工した前記第1ガラス板を焼成して、前記遮光層と前記導電体とを形成して、前記導電体付きガラス板を得る、請求項1または2に記載の車両用フロントガラスの製造方法。
【請求項10】
前記第1ガラス板の前記車内面は、前記第1ガラス板の前記中間膜側の表面であり、かつ、前記第2ガラス板に覆われない露出部を有し、当該露出部に、前記導電体の前記端子接合部が形成された、請求項1または2に記載の車両用フロントガラスの製造方法。
【請求項11】
前記第1ガラス板の前記車内面は、前記第1ガラス板の前記中間膜側と反対側の表面である、請求項1または2に記載の車両用フロントガラスの製造方法。
【請求項12】
前記端子付きガラス板は、平面視にて、光学装置が取り付けられる光学装置取付領域と、当該光学装置取付領域内に位置し、外部から前記光学装置への入射光および/または前記光学装置からの出射光が通る透光部と、平面視にて、前記透光部の少なくとも一部を囲む遮光層とを有し、
前記導電体は、前記透光部の内部に形成された電熱線と、前記透光部の外部に形成された前記給電部と、前記透光部の外部に形成され、前記電熱線と前記給電部とを接続する接続配線とを含む、請求項11に記載の車両用フロントガラスの製造方法。
【請求項13】
前記端子付きガラス板は、前記端子に、丸線状または箔状の導線からなる給電用部材が固定されたものである、請求項1または2に記載の車両用フロントガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両用フロントガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両用の窓ガラスには、複数のガラス板が貼り合わされた合わせガラス、または強化ガラスが好ましく用いられる。一般的に、車両用フロントガラスの材料のガラス板は、周縁領域に遮光層が形成され、熱成形により曲面を有する形状に加工される。
また、車両用の窓ガラスにおいて、電気的機能部を含むか、電気的機能部に接続される導電体と、ハーネスおよびケーブル等の給電用部材とを含む車両用フロントガラスが知られている。電気的機能部としては、電熱線、電熱層、アンテナ、調光層、発光素子およびこれらの組合せ等が挙げられる。導電体は、電気的機能部に給電するための給電部を含むことができる。
本明細書において、導電体を有するガラス板を「導電体付きガラス板」と言う。
【0003】
車両用フロントガラスでは、ワイパーに付着した霜、雪および氷等を融かし、ワイパーの凍結を防止するために、フロントガラスの下端部および側端部等に、1本以上の電熱線からなる電気的機能部と、一対の給電用電極(バスバーとも言う。)等からなる給電部とを含む導電体が形成される場合がある。
【0004】
また、車両用フロントガラスの内面には、自動運転および衝突事故の防止等のために、車両前方の情報を取得する、ADAS(Advanced Driver Assistance systems)カメラ、LiDAR(Light Detection And Ranging)、レーダーおよび光センサ等の光学機器と、これを収容するブラケット等と呼ばれる筐体とを含む光学装置が設置される場合がある。かかる構成では、光学装置によるセンシング精度を高めるために、光学機器の前方のガラス部分に、曇り、霜、雪および氷等の除去および付着を防止する1本以上の電熱線からなる電気的機能部と、一対の給電用電極(バスバー)等からなる給電部とを含む導電体が形成される場合がある。
【0005】
上記のような車両用フロントガラスでは、給電部の各給電用電極に、ハーネスおよびケーブル等の給電用部材が接合される。給電部は、発熱を目的としたものではなく、また、給電用部材を接合するための面積を必要とするため、電熱線よりも太く設計される。そのため、給電部は、車外にいる人に視認されないように、遮光層上に形成されることが一般的である。
【0006】
遮光層は例えば、黒色顔料とガラスフリットとを含むセラミックペーストの塗工および焼成により形成できる。導電体は例えば、銀粉とガラスフリットとを含む銀含有ペーストの塗工および焼成により形成できる。セラミックペーストおよび銀含有ペーストの焼成は、ガラス板の熱成形と同時に実施できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2012/096373号
【特許文献2】国際公開第2021/209000号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、給電部と給電用部材との接合は、半田を用いて行われている。
例えば、ワイヤーハーネス等の給電用部材の先端部に端子を固定し、この端子を給電部に半田を用いて接合している。半田としては、有鉛半田と無鉛半田がある。近年、鉛の環境への影響が懸念され、有鉛半田の法的規制が広がりつつあるため、無鉛半田を用いることが望まれている。
【0009】
一般的に、無鉛半田の融点は例えば220℃程度であり、より高い温度(例えば300℃程度)で半田接合を行う必要がある。導電体付きガラス板において、導電体と端子とを無鉛半田によって接合する場合、ガラス板に局所的な高温加熱と高温から常温への降温とが起こる。降温の際には、ガラス板の熱膨張係数と無鉛半田の熱膨張係数との差に起因して、ガラス板と無鉛半田に熱収縮量の差が生じ、ガラス板と無鉛半田との間に歪みが生じ、導電体付きガラス板に応力(具体的には、引張応力)が発生する。そして、降温後にもこの応力が残留する場合がある。この残留応力が原因となり、車両用フロントガラスの製造後に、ガラス板にクラックが生じる恐れがある。また、無鉛半田は弾性率の低い鉛を含まないため、有鉛半田に比べ弾性率が高く、変形しにくい。よって、導電体付きガラス板に発生した残留応力が緩和しにくい。これら理由から、導電体と端子とを無鉛半田によって接合する場合、接合後のガラス板への残留応力の発生、およびそれによる製造後のクラック発生の問題が起こり得る。
本明細書において、導電体と端子とを有するガラス板を「端子付きガラス板」と言う。
【0010】
端子付け後のガラス板の破壊強度が低い場合、ガラス板に外力が加わった際に、ガラス割れが発生する恐れがある。特に、遮光層上に形成された給電部に対して、無鉛半田を用いて端子を接合する場合、端子付け後のガラス板の破壊強度が低下する傾向がある。
本明細書において、「端子付け前または端子付け後のガラス板の破壊強度」は、端子付け前または端子付け後のガラス板に荷重を加え、破壊した時点の荷重であり、後記[実施例]の項に記載の方法にて測定できる。
【0011】
本開示の関連技術として、特許文献1、2が挙げられる。
特許文献1には、導電体層が表面に形成されたガラス板を、50℃以上、無鉛半田が溶融し始める温度以下の温度に予熱した後、無鉛半田によって端子接続部に接続端子を接続する、車両用窓ガラスの製造方法が開示されている(請求項9)。
特許文献1では、接続端子の半田付けの際のガラス板の温度変化を小さくして、ガラス板の残留応力を低減するために、「半田接合前」にガラス板を予熱しており(段落0045等)、「半田接合後」の加熱処理について、記載および示唆がない。
【0012】
特許文献2には、残留応力を効果的に除去するために、ガラスの半田付け領域を、好ましくは固液転移温度の0.9倍~0.99倍の温度で加熱するガラスの加工方法が開示されている(請求項1、4)。
例えば、SnAgCu(SAC)系無鉛半田の場合、固液転移温度は217℃である。この半田の場合、200℃以下で6時間の加熱および210℃で0.5時間の加熱では有意な効果が得られなかったが、210℃で2時間以上の加熱では有意な効果が得られたことが示されている(表1)。なお、固液転移温度が217℃である場合、固液転移温度の0.9倍~0.99倍は、195.3~214.8℃と算出される。
特許文献2において、残留応力を低減するために有効な半田接合後の加熱条件は、約200℃以上で2時間以上である。このような条件の後加熱処理では、合わせガラスの中間膜がダメージを受け、中間膜に発泡等の品質不良が生じる恐れがある。
【0013】
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、導電体と端子とを無鉛半田を用いて接合する工程を含み、中間膜にダメージを与えることなく、端子付け後のガラス板の破壊強度を高めることが可能な車両用フロントガラスの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本開示は、以下の車両用フロントガラスの製造方法を提供する。
[1] 第1ガラス板と第2ガラス板とが中間膜を介して貼り合わされた合わせガラスを含み、
前記合わせガラスは、前記第1ガラス板と、当該第1ガラス板の車内面の上に形成され、端子が接合される端子接合部を有する導電体と、当該導電体の前記端子接合部上に接合された端子とを有する端子付きガラス板を含み、
前記導電体は、電気的機能部を含むか、電気的機能部に電気的に接続されており、
前記導電体は、前記電気的機能部に給電するための給電部を含み、当該給電部が前記端子接合部を含む、車両用フロントガラスの製造方法であって、
前記第1ガラス板の前記車内面上に、前記導電体の材料である銀とガラスフリットとを含む銀含有ペーストを塗工する工程(S12)と、
前記導電体の材料を塗工した前記第1ガラス板を焼成して、前記導電体を形成して、導電体付きガラス板を得る工程(S13)と、
前記導電体付きガラス板と前記第2ガラス板とを、前記中間膜を介して貼り合わせて、前記合わせガラスを得る工程(S14)と、
前記導電体に含まれる前記端子接合部上に、加熱溶融させた後に凝固させた無鉛半田を介して前記端子を接合する工程(S15)と、
凝固した前記無鉛半田に対して、30~150℃で10分間以上、50~150℃で5分間以上、または120~150℃で3分間以上の条件で、後加熱処理を行う工程(S16)とを順次有する、車両用フロントガラスの製造方法。
【0015】
[2] 工程(S16)における加熱条件は、50~150℃で10分間以上、または120~150℃で5分間以上である、[1]の車両用フロントガラスの製造方法。
[3] 工程(S16)における加熱温度が130℃以下である、[1]または[2]の車両用フロントガラスの製造方法。
[4] 工程(S16)における加熱温度が120℃以下である、[3]の車両用フロントガラスの製造方法。
[5] 工程(S16)における加熱時間が120分間以下である、[1]~[4]のいずれかの車両用フロントガラスの製造方法。
[6] 工程(S16)における加熱時間が60分間以下である、[5]の車両用フロントガラスの製造方法。
【0016】
[7] 前記無鉛半田は、半田接合後に20~25℃の常温環境下で保存したときに、時間の経過と共に硬度が低下する時効軟化タイプの無鉛半田である、[1]~[6]のいずれかの車両用フロントガラスの製造方法。
【0017】
[8] 前記無鉛半田は、
SnおよびAgを含み、Sb、CuおよびInを実質的に含まないSnAg系無鉛半田;
Sn、AgおよびCuを含み、SbおよびInを実質的に含まないSnAgCu系無鉛半田;
SnおよびInを含み、Sb、AgおよびCuを実質的に含まないSnIn系無鉛半田;
Sn、AgおよびInを含み、Sb、Cu、Bi、NiおよびZnを実質的に含まないSnAgIn系無鉛半田;
Sn、Ag、InおよびCuを含み、Sb、Bi、NiおよびZnを実質的に含まないSnAgInCu系無鉛半田;
Sn、Ag、InおよびBiを含み、Sb、Cu、NiおよびZnを実質的に含まないSnAgInBi系無鉛半田;
Sn、Ag、In、Ni、CuおよびZnを含み、SbおよびBiを実質的に含まないSnAgInNiCuZn系無鉛半田;
からなる群より選ばれる1種以上の無鉛半田である、[1]~[7]のいずれかの車両用フロントガラスの製造方法。
【0018】
[9] 前記車両用フロントガラスは、前記第1ガラス板の前記車内面と前記導電体の前記端子接合部との間に遮光層を有するものであり、
工程(S12)の前に、前記第1ガラス板の前記車内面上に、前記遮光層の材料である黒色顔料とガラスフリットとを含むセラミックペーストを塗工する工程(S11)を有し、
工程(S13)において、前記遮光層の材料および前記導電体の材料を塗工した前記第1ガラス板を焼成して、前記遮光層と前記導電体とを形成して、前記導電体付きガラス板を得る、[1]~[8]のいずれかの車両用フロントガラスの製造方法。
【0019】
[10] 前記第1ガラス板の前記車内面は、前記第1ガラス板の前記中間膜側の表面であり、かつ、前記第2ガラス板に覆われない露出部を有し、当該露出部に、前記導電体の前記端子接合部が形成された、[1]~[9]のいずれかの車両用フロントガラスの製造方法。
【0020】
[11] 前記第1ガラス板の前記車内面は、前記第1ガラス板の前記中間膜側と反対側の表面である、[1]~[10]のいずれかの車両用フロントガラスの製造方法。
[12] 前記端子付きガラス板は、平面視にて、光学装置が取り付けられる光学装置取付領域と、当該光学装置取付領域内に位置し、外部から前記光学装置への入射光および/または前記光学装置からの出射光が通る透光部と、平面視にて、前記透光部の少なくとも一部を囲む遮光層とを有し、
前記導電体は、前記透光部の内部に形成された電熱線と、前記透光部の外部に形成された前記給電部と、前記透光部の外部に形成され、前記電熱線と前記給電部とを接続する接続配線とを含む、[11]の車両用フロントガラスの製造方法。
【0021】
[13] 前記端子付きガラス板は、前記端子に、丸線状または箔状の導線からなる給電用部材が固定されたものである、[1]~[12]のいずれかの車両用フロントガラスの製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本開示の車両用フロントガラスの製造方法では、半田接合後に、凝固した無鉛半田に対して適切な条件で加熱処理を行うことにより、中間膜にダメージを与えることなく、端子付け後のガラス板の破壊強度を高めることができる。
本開示によれば、導電体と端子とを無鉛半田を用いて接合する工程を含み、中間膜にダメージを与えることなく、端子付け後のガラス板の破壊強度を高めることが可能な車両用フロントガラスの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係る第1実施形態の車両用フロントガラスの全体平面図である。
図2図1の部分拡大平面図である。
図3図2のIII-III線断面図である。
図4図3の部分拡大断面図(端子/無鉛半田/端子接合部を含む給電用電極/遮光層/第1ガラス板の積層構造の部分拡大断面図)である。
図5A】第1実施形態の車両用フロントガラスの製造方法の工程図である。
図5B】第1実施形態の車両用フロントガラスの製造方法の工程図である。
図5C】第1実施形態の車両用フロントガラスの製造方法の工程図である。
図5D】第1実施形態の車両用フロントガラスの製造方法の工程図である。
図5E】第1実施形態の車両用フロントガラスの製造方法の工程図である。
図5F】第1実施形態の車両用フロントガラスの製造方法の工程図である。
図5G】第1実施形態の車両用フロントガラスの製造方法の工程図である。
図6】第1実施形態の設計変更例を示す断面図である。
図7】本発明に係る第2実施形態の車両用フロントガラスの全体平面図である。
図8図7の部分拡大平面図である。
図9A図8のIXA-IXA線断面図である。
図9B図8のIXB-IXB線断面図である。
図9C図8のIXC-IXC線断面図である。
図10A】第2実施形態の車両用フロントガラスの製造方法の工程図である。
図10B】第2実施形態の車両用フロントガラスの製造方法の工程図である。
図10C】第2実施形態の車両用フロントガラスの製造方法の工程図である。
図10D】第2実施形態の車両用フロントガラスの製造方法の工程図である。
図10E】第2実施形態の車両用フロントガラスの製造方法の工程図である。
図10F】第2実施形態の車両用フロントガラスの製造方法の工程図である。
図10G】第2実施形態の車両用フロントガラスの製造方法の工程図である。
図11】本開示の車両用フロントガラスの製造方法のフローチャートである。
図12】例1(後加熱処理なし)および40~120℃で60分間の後加熱処理を行った例について、10サンプルの破壊強度の平均値のデータを示すグラフである。
図13】例1(後加熱処理なし)および120℃で1~60分間の後加熱処理を行った例について、10サンプルの破壊強度の平均値のデータを示すグラフである。
図14】例2(後加熱処理なし)および100~120℃で60分間の後加熱処理を行った例21、22について、10サンプルの破壊強度の平均値のデータを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
一般的に、薄膜構造体は、厚さに応じて、「フィルム」および「シート」等と称される。本明細書では、これらを明確には区別しない。したがって、本明細書で言う「フィルム」に「シート」が含まれる場合がある。
本明細書において、形状に付く「略」は、その形状の角を丸くした面取り形状、その形状の一部が欠けた形状、その形状に任意の小さな形状が追加した形状等、部分的に変化した形状を意味する。
本明細書において、特に明記しない限り、「ガラス板」は、未強化ガラスを指す。
本明細書において、特に明記しない限り、「ガラス板の表面」は、ガラス板の端面(側面とも言う。)を除く、面積の大きい主面を指す。
本明細書において、特に明記しない限り、「上下」、「左右」、「縦横」、「内外」は、車両用フロントガラスが車両に嵌め込まれた状態(実際の使用状態)で、車内側から見たときの「上下」、「左右」、「縦横」、「内外」である。
【0025】
本明細書において、「無鉛半田」は、鉛を実質的に含まない半田であり、無鉛半田中の鉛含有量は、500ppm以下である。
本明細書において、特に明記しない限り、無鉛半田が「鉛以外のある金属元素を実質的に含まない」とは、その金属元素の含有量が1000ppm以下であることを意味する。
本明細書において、特に明記しない限り、常温は、20~25℃である。
本明細書において、特に明記しない限り、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0026】
[車両用フロントガラスの製造方法]
本開示は、第1ガラス板と第2ガラス板とが中間膜を介して貼り合わされた合わせガラスを含む車両用フロントガラスの製造方法に関する。
第1ガラス板および第2ガラス板のうち、一方のガラス板が車外側のガラス板(外ガラス板とも言う。)であり、他方のガラス板が車内側のガラス板(内ガラス板とも言う。)である。
合わせガラスの材料であるガラス板の種類としては特に制限されず、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラス、リチウムシリケートガラス、石英ガラス、サファイアガラスおよび無アルカリガラス等が挙げられる。
【0027】
合わせガラスの厚みは特に制限されず、車両用フロントガラスの用途では、好ましくは2~6mmである。
内ガラス板の厚みと外ガラス板の厚みとは、同一でも非同一でもよい。内ガラス板の厚みは、好ましくは0.3~2.3mmである。内ガラス板の厚みは、0.3mm以上であるとハンドリング性が良く、2.3mm以下であると質量が大きくなり過ぎない。外ガラス板の厚みは、好ましくは1.0~3.0mmである。外ガラス板の厚みは、1.0mm以上であると、耐飛び石性能等の強度が充分であり、3.0mm以下であると、合わせガラスの質量が大きくなり過ぎず、車両の燃費の点で好ましい。外ガラス板の厚みと内ガラス板の厚みがいずれも1.8mm以下であれば、合わせガラスの軽量化と遮音性とを両立でき、好ましい。
【0028】
車両用フロントガラスは、車両に取り付けられたときに、車外側が凸となるような湾曲形状であってよい。車両用フロントガラスが合わせガラスである場合、内ガラス板および外ガラス板は、ともに車外側が凸となるような湾曲形状であってよい。車両用フロントガラスは、左右方向または上下方向のいずれか一方向のみに湾曲した単曲曲げ形状であってもよいし、左右方向と上下方向に湾曲した複曲曲げ形状であってもよい。車両用フロントガラスの曲率半径は2000~11000mmであってよい。車両用フロントガラスは、左右方向と上下方向の曲率半径が同一でも非同一でもよい。車両用フロントガラスの曲げ成形には、重力成形、プレス成形およびローラー成形等が用いられる。
【0029】
合わせガラスは、表面の少なくとも一部の領域に、撥水、低反射性、低放射性、紫外線遮蔽、赤外線遮蔽および着色等の機能を有する機能膜を有していてもよい。
合わせガラスは、内部の少なくとも一部の領域に、低反射性、低放射性、紫外線遮蔽、赤外線遮蔽および着色等の機能を有する機能膜を有していてもよい。合わせガラスの中間膜の少なくとも一部の領域が、紫外線遮蔽、赤外線遮蔽および着色等の機能を有していてもよい。
合わせガラスの中間膜は、単層膜でも積層膜でもよい。
【0030】
車両用フロントガラスにおいて、合わせガラスは、第1ガラス板と、第1ガラス板の車内面の上に形成され、銀とガラスフリットとを含む材料からなり、端子が接合される端子接合部を有する導電体と、この導電体の端子接合部上に無鉛半田を介して接合された端子とを有する端子付きガラス板を含む。
本明細書において、導電体の「端子接合部」は、導電体における無鉛半田の直下部分を指す。
【0031】
端子付きガラス板において、上記導電体は、電気的機能部を含むか、電気的機能部に電気的に接続されている。電気的機能部としては、1本以上の電熱線、電熱層、アンテナ、調光層、発光素子およびこれらの組合せ等が挙げられる。発光素子としては、LED(Light Emitting Diode)およびOLED(Organic Light Emitting Diode))等が挙げられる。
1本以上の電熱線または電熱層によって、曇り、霜、雪および氷等の除去および付着防止が可能である。1本以上の電熱線または電熱層は例えば、フロントガラス全面の防曇;カメラおよびレーダー等の光学機器を含む光学装置によるセンシング領域の防曇;ワイパーの凍結防止等の目的で、使用できる。電気的機能部は、公知の方法にて製造できる。
【0032】
端子付きガラス板において、上記導電体は、電気的機能部に給電するための給電部を含む。給電部は一対の給電用電極(一対のバスバーとも言う。)を含むことができ、各給電用電極が端子接合部を含むことができる。
例えば、一方の給電用電極は正極であり、給電用部材を介して、車両内に設けられた電源または信号源に接続され、他方の給電用電極は負極であり、給電用部材を介して、車体(アース)に接続される。なお、正極用の給電用電極は単数でも複数でもよく、負極用の給電用電極は単数でも複数でもよい。
導電体が電気的機能部に接続されている場合、導電体と電気的機能部とは、同じガラス面の上に形成されていてもよいし、異なるガラス面の上に形成されていてもよい。
端子接合部を有する導電体は、ガラス板の上に銀粉とガラスフリットとを含む銀含有ペーストを塗工し、焼成する方法で形成される。導電体の厚みは特に制限されず、例えば5~20μm、好ましくは5~10μmである。
【0033】
端子には、丸線状または箔状の導線からなる給電用部材が固定されることができる。本明細書で言う「導線」には、1本以上の導線が絶縁材で被覆された被覆導線が含まれるものとする。給電用部材としては、被覆導線が好ましい。
給電用部材の具体的な形態としては、ハーネスおよびケーブル等が挙げられる。丸線状の導線として、ワイヤーハーネス等が挙げられる。箔状の導線として、フラットハーネスおよびフレキシブルプリント基板等が挙げられる。
給電用部材は導体露出部を有し、この導体露出部に端子が固定される。導体露出部の材料は特に制限されず、Cu、Al、Ag、Au、Ti、Sn、Zn、これらの合金、およびこれらの組合せ等が挙げられる。導体露出部は、主金属の表面を他の金属でめっきしたものでもよい。導体露出部は、表面に薄い酸化膜を有していてもよい。
【0034】
無鉛半田としては、鉛含有量が500ppm以下の半田であれば、特に制限されず、公知のものを用いることができる。無鉛半田としては、SnおよびAgを含むSnAg系;Sn、AgおよびCuを含むSnAgCu(SAC)系;Sn、ZnおよびBiを含むSnZnBi系;SnおよびCuを含むSnCu系;Sn、ZnおよびAlを含むSnZnAl系;Inを含むIn系等が挙げられる。
【0035】
耐環境性等の観点から、無鉛半田としては、例えば、SnおよびAgを含み、Sb、CuおよびInを実質的に含まないSnAg系無鉛半田;Sn、AgおよびCuを含み、SbおよびInを実質的に含まないSnAgCu(SAC)系無鉛半田が好ましい。
SnAg系およびSnAgCu系等の無鉛半田の融点は有鉛半田の融点より高く、例えば220℃程度である。SnAg系およびSnAgCu系等の無鉛半田を用いる場合、半田接合温度は例えば300℃程度である。本開示は、特に、融点の高いSnAg系およびSnAgCu系等の無鉛半田を用いる場合に、有効である。
【0036】
また、半田等の金属では一般的に、高温加熱とそれに続く急冷によって内部が過飽和固溶体となることが知られている。常温は、半田の再結晶化温度(例えば、融点の0.5~0.6倍)より高い。そのため、温度が常温等の比較的低温に下がった過飽和固溶体から、時間の経過と共に、徐々に微量の金属間化合物の析出が起こり、これによって材料の硬度等の物性が変化することが知られている。この現象は、「時効」と呼ばれる。
半田の場合、組成によって、常温時効による物性変化が異なる。半田は、常温時効によって硬度が低下する時効軟化系(例えば、SnPb系およびSnAg系等)と、常温時効によって硬度がほとんど変化しない系(例えば、PbAgSn系等)と、常温時効によって硬度が増加する時効硬化系(例えば、SnSb系およびSnPbAg系等)に分類できる。
本開示の製造方法は、半田接合後に20~25℃の常温環境下で保存したときに、時間の経過と共に硬度が低下する時効軟化タイプの無鉛半田(例えば、SnAg系等)を用いる場合に、特に有効である可能性がある。
【0037】
以下、SnAg系およびSnAgCu系の無鉛半田の好ましい態様について、説明する。
SnAg系およびSnAgCu系の無鉛半田におけるSnの含有量は特に制限されず、好ましくは95質量%以上、より好ましくは95~98.5質量%、特に好ましくは96~98質量%である。Snの含有量が95質量%以上(Agの含有量が5質量%以下)であれば、無鉛半田の融点を比較的低くできるので、半田接合温度を比較的低くでき、ガラス板の温度上昇を比較的小さくできる。その結果、ガラス板に生じる残留応力およびそれによるガラス板の割れを抑制できる。
【0038】
一般的に、Agを含まないSn系の無鉛半田を用いると、無鉛半田中のSnと導電体中のAgとの相溶性が高いため、導電体の端子接合部中のAgがSnを含む無鉛半田中に浸透する、いわゆる「銀くわれ」が起こりやすい。この場合、端子接合部が変質および薄膜化等により変色して、外観不良が生じる恐れがある。
SnとAgとを含む無鉛半田を用いると、無鉛半田中のSnはすでにAgとの化合物を形成しているため、導電体の端子接合部中のAgの無鉛半田中への浸透を抑制でき、端子接合部の変色およびそれによる外観不良を抑制できる。
無鉛半田中のAgの含有量は、好ましくは1.5~5質量%、より好ましくは2~4質量%である。Agの含有量が1.5質量%以上であれば、導電体の端子接合部中のAgの無鉛半田中への浸透を効果的に抑制でき、かつ、良好な接合強度が得られる。Agの含有量が5質量%以下であれば、無鉛半田の材料コストを低く抑え、無鉛半田の融点を比較的低く抑えられる。
【0039】
無鉛半田は、SnおよびAg以外の金属元素としてCuを含んでいてもよい。無鉛半田中のCuの含有量は特に制限されず、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。
【0040】
SnAg系の無鉛半田の組成例としては、Sn:98質量%、Ag:2質量%等が挙げられる。SnAgCu系の無鉛半田の組成例としては、Sn:96.5質量%、Ag:3.0質量%、Cu:0.5質量%等が挙げられる。
【0041】
端子付け時のガラス板に対する熱応力低減の観点から、低融点半田である、Inを含むIn系無鉛半田も好ましい。
In系無鉛半田としては、
SnおよびInを含み、Sb、AgおよびCuを実質的に含まないSnIn系無鉛半田;
Sn、AgおよびInを含み、Sb、Cu、Bi、NiおよびZnを実質的に含まないSnAgIn系無鉛半田;
Sn、Ag、InおよびCuを含み、Sb、Bi、NiおよびZnを実質的に含まないSnAgInCu系無鉛半田;
Sn、Ag、InおよびBiを含み、Sb、Cu、NiおよびZnを実質的に含まないSnAgInBi系無鉛半田;
Sn、Ag、In、Ni、CuおよびZnを含み、SbおよびBiを実質的に含まないSnAgInNiCuZn系無鉛半田等が挙げられる。
【0042】
本開示の製造方法において、
無鉛半田は、
SnおよびAgを含み、Sb、CuおよびInを実質的に含まないSnAg系無鉛半田;
Sn、AgおよびCuを含み、SbおよびInを実質的に含まないSnAgCu系無鉛半田;
SnおよびInを含み、Sb、AgおよびCuを実質的に含まないSnIn系無鉛半田;
Sn、AgおよびInを含み、Sb、Cu、Bi、NiおよびZnを実質的に含まないSnAgIn系無鉛半田;
Sn、Ag、InおよびCuを含み、Sb、Bi、NiおよびZnを実質的に含まないSnAgInCu系無鉛半田;
Sn、Ag、InおよびBiを含み、Sb、Cu、NiおよびZnを実質的に含まないSnAgInBi系無鉛半田;
Sn、Ag、In、Ni、CuおよびZnを含み、SbおよびBiを実質的に含まないSnAgInNiCuZn系無鉛半田;
からなる群より選ばれる1種以上の無鉛半田であることが好ましい。
【0043】
[発明が解決しようとする課題]の項で説明したように、一般的に、無鉛半田の融点は有鉛半田の融点より高く、例えば220℃程度であり、より高い温度(例えば300℃程度)で半田接合を行う必要がある。導電体付きガラス板において、導電体と端子とを無鉛半田によって接合する場合、ガラス板に局所的な高温加熱と高温から常温への降温とが起こる。降温の際には、ガラス板の熱膨張係数と無鉛半田の熱膨張係数との差に起因して、ガラス板と無鉛半田に熱収縮量の差が生じ、ガラス板と無鉛半田との間に歪みが生じ、導電体付きガラス板に応力(具体的には、引張応力)が発生する。そして、降温後にもこの応力が残留する場合がある。この残留応力が原因となり、窓ガラスの製造後に、ガラス板にクラックが生じる恐れがある。また、無鉛半田は弾性率の低い鉛を含まないため、有鉛半田に比べ弾性率が高く、変形しにくい。よって、導電体付きガラス板に発生した残留応力が緩和しにくい。これら理由から、導電体と端子とを無鉛半田によって接合する場合、接合後のガラス板への残留応力の発生、およびそれによる製造後のクラック発生の問題が起こり得る。
【0044】
端子付きガラス板は必要に応じて、第1ガラス板の車内面の上に遮光層を有することができる。
本発明者らの研究によれば、銀とガラスフリットとを含む導電体は、ガラスフリットの成分が導電体の表面に多く存在することが分かった。特に、遮光層上に導電体を形成する場合、ガラスフリットの成分が導電体の表面により多く存在することが分かった。これらの事実は、導電体形成用材料および遮光層形成用材料の焼成時に、これらの材料に含まれるガラスフリットの成分の一部が表層側に移行するためと推察される。
一般的に、ガラスフリットの成分に対する無鉛半田の濡れ性が低い。導電体の表面にガラスフリットの成分が多く存在すると、導電体に対する無鉛半田の接合強度が低下し、良好な形状の半田フィレットが形成しづらくなるため、端子付け後のガラス板の破壊強度が低下すると考えられる。
【0045】
本発明者らの研究によれば、半田接合後に、凝固した無鉛半田に対して適切な条件で加熱処理を行うことで、中間膜にダメージを与えることなく、端子付きガラス板の破壊強度を効果的に高められることが分かった。
例えば、SnAg系無鉛半田、SnAgCu系無鉛半田、および上記例示の各種In系無鉛半田等において、本開示の製造方法が有効であると考えられる。
半田接合後の適切な条件の加熱処理によって、無鉛半田の結晶状態が変化して、そのヤング率等の物性が有鉛半田のそれに近づき、それによって無鉛半田の残留応力が緩和し、端子付きガラス板の破壊強度が高められると推察される。この作用効果は、半田接合後に20~25℃の常温環境下で保存したときに、時間の経過と共に硬度が低下する時効軟化タイプの無鉛半田を用いる場合に特に効果的に発現する可能性がある。
【0046】
なお、本開示の製造方法では、端子付きガラス板の破壊強度の向上効果が得られるため、端子付きガラス板は、第1ガラス板と端子接合部との間に遮光層を有してもよい。この場合、この遮光層によって、端子付きガラス板に含まれる導電体の給電部は、車外にいる人から視認されないように、設計できる。
遮光層は公知方法にて形成でき、例えば、ガラス板の表面の所定の領域に、黒色顔料とガラスフリットとを含むセラミックペーストを塗工し、焼成することで、形成できる。遮光層の厚さは特に制限されず、例えば5~20μmである。
導電体および遮光層用のガラスフリットとしては、公知のものを用いることができる。金属元素として、Na、Al、Si、P、Zn、BaおよびBi等を含むものを用いることができる。
【0047】
本開示の車両用フロントガラスの製造方法は、
第1ガラス板の車内面上に、導電体の材料である銀とガラスフリットとを含む銀含有ペーストを塗工する工程(S12)と、
導電体の材料を塗工した第1ガラス板を焼成して、導電体を形成して、導電体付きガラス板を得る工程(S13)と、
導電体付きガラス板と第2ガラス板とを、中間膜を介して貼り合わせる工程(S14)と、
導電体に含まれる端子接合部上に、加熱溶融させた後に凝固させた無鉛半田を介して端子を接合する工程(S15)と、
凝固した無鉛半田に対して、30~150℃で10分間以上、50~150℃で5分間以上、または120~150℃で3分間以上の条件で、後加熱処理を行う工程(S16)とを順次有する。
【0048】
車両用フロントガラスは、第1ガラス板の車内面と端子接合部との間に、遮光層を有することができる。
この場合、本開示の車両用フロントガラスの製造方法は、工程(S12)の前に、第1ガラス板の車内面上に、遮光層の材料である黒色顔料とガラスフリットとを含むセラミックペーストを塗工する工程(S11)を有し、
工程(S13)において、遮光層の材料および導電体の材料を塗工した第1ガラス板を焼成して、遮光層と導電体とを形成して、導電体付きガラス板を得ることができる。
【0049】
図11に、本開示の車両用フロントガラスの製造方法のフローチャートを示す。
工程(S14)において、貼合せは、熱圧着により行うことができる。熱圧着は、方法または条件を変えて、複数段階で実施してもよい。方法または条件を変えて複数段階で熱圧着を行う場合、本圧着を含むすべての段階の熱圧着を終えた後、工程(S15)を実施する。
工程(S16)における加熱条件は、好ましくは、50~150℃で10分間以上、または、120~150℃で5分間以上である。
【0050】
中間膜へのダメージ低減および製造コスト低減の観点から、工程(S16)における加熱温度は、好ましくは140℃以下、より好ましくは130℃以下、特に好ましくは120℃以下である。
中間膜へのダメージ低減、生産性の向上および製造コスト低減の観点から、工程(S16)における加熱時間は、好ましくは120分間以下、より好ましくは60分間以下、特に好ましくは30分間以下である。50~150℃の温度条件において、加熱時間を30分間より長くしても、それ以上顕著な破壊強度の向上は得られない。50~150℃の温度条件では、30分間以下の加熱時間で充分な破壊強度の向上効果が得られる。
本明細書において、特に明記しない限り、「工程(S16)における加熱時間」は、30~150℃の温度で保持する保持時間を意味し、昇温時間および降温時間は含めないものとする。
【0051】
[第1実施形態]
図面を参照して、本発明に係る第1実施形態の車両用フロントガラスの構造について、説明する。
図1は、本実施形態の車両用フロントガラスの全体平面図である。図2は、図1の部分拡大平面図である。図1および図2は、端子接合前の図であり、図示手前側が車内側、図示奥側が車外側である。図3は、図2のIII-III線断面図である。図3において、図示上側が車外側、図示下側が車内側である。これらの図において、平面図および部分拡大平面図はいずれも、透視図である。これらの図はいずれも模式図であり、視認しやすくするため、図面ごとに、各構成要素の縮尺は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0052】
車両用フロントガラス1の平面形状は適宜設計でき、図1に示すような、平面視略台形状の板が全体的に湾曲した形状等が挙げられる。
図3に示すように、本実施形態の車両用フロントガラス1は、外ガラス板11(車外側のガラス板、本実施形態では第1ガラス板)と、内ガラス板13(車内側のガラス板、本実施形態では第2ガラス板)とが、中間膜12を介して貼り合わされた合わせガラス10を含む。
本実施形態において、合わせガラス10は、外ガラス板11と、外ガラス板11の車内面(中間膜12側の表面)S2の上に形成され、銀とガラスフリットとを含む材料からなり、端子102が接合される端子接合部20Tを有する導電体20と、導電体20の端子接合部20T上に無鉛半田101を介して接合された端子102とを有する端子付きガラス板11Xを含む。
【0053】
図1に示すように、本実施形態の車両用フロントガラス1は、周縁領域に1つ以上の遮光層BLを有する。遮光層BLの数、遮光層BLが形成されるガラス面および遮光層BLの形成領域は、適宜設計できる。
図1および図3に示すように、本実施形態において、外ガラス板11の車内面S2の周縁領域に、遮光層BL2が形成され、この遮光層BL2上に、電気的機能部を含む導電体20が形成されている。
なお、本開示の製造方法では、半田接合後の適切な条件の加熱処理によって、中間膜にダメージを与えることなく、端子付きガラス板11Xの破壊強度の向上効果が得られるため、端子付きガラス板11Xは、外ガラス板11と端子接合部20Tとの間に遮光層BL2を有することができる。
本実施形態ではまた、図3に示すように、内ガラス板13の少なくとも一方の表面の周縁領域に、遮光層BL4が形成されてもよい。図示例では、内ガラス板13の車内面S4の周縁領域に、遮光層BL4が形成されている。
【0054】
本実施形態において、導電体20は、ワイパーに付着した霜、雪および氷等を融かし、ワイパーの凍結を防止する機能を有する。図1中、符号WPを付した破線で示す領域は、ワイパーの可動領域である。
図1および図2に示すように、導電体20は、1本以上の電熱線20Lまたは電熱層からなる電気的機能部を含む。ここでは、導電体20が複数の電熱線20Lを含む場合を例として、図示してある。導電体20はさらに、一対の給電用電極(一対のバスバー)20Bを含む給電部を含むことができる。一対の給電用電極(一対のバスバー)20Bは、一方が正極であり、他方が負極である。導電体20は例えば、車両用フロントガラス1の下端部および/または少なくとも一方の側端部に形成できる。導電体20の構成、パターンおよび形成領域は、適宜設計できる。
【0055】
図2に示すように、内ガラス板13は下端部に切欠部13Nを有し、これによって、端子付きガラス板11Xは、中間膜12を介して対向する内ガラス板13に覆われない露出部11Eを有する。本実施形態において、導電体20は、端子付きガラス板11Xの中間膜12側に形成されている。一対の給電用電極(一対のバスバー)20Bはいずれも、少なくとも一部が、端子付きガラス板11Xの露出部11Eに形成され、内ガラス板13に覆われずに露出している。
【0056】
図2および図3に示すように、一対の給電用電極(一対のバスバー)20Bはいずれも、給電用電極20Bの露出部20Eが端子接合部20Tを含み、端子接合部20T上に無鉛半田101を介して端子102が接合されている。端子102には、丸線状または箔状の導線からなる給電用部材103が固定されている。
導電体20の端子接合部20Tは、無鉛半田101の直下部分である。図中、端子接合部20Tの形成領域は、2つの破線T1、T2で挟まれる領域である。なお、導電体20の端子接合部20Tは、はじめから明確に位置が定まっている訳ではない。給電用電極20Bにおいて、無鉛半田101を介して端子102を接合した後の無鉛半田101の直下部分が、端子接合部20Tである。
【0057】
図4は、図3に示される端子102/無鉛半田101/端子接合部20Tを含む給電用電極20B/遮光層BL2/外ガラス板11の積層構造の断面を、図3の左方から見た部分拡大断面図である。ここでは、視認しやすくするため、積層構造の上下を反転させてある。
給電用部材103としては、丸線状または箔状の導線が好ましく、丸線状または箔状の被覆導線がより好ましい。ワイヤーハーネスおよびフラットハーネス等が好ましい。
給電用部材103は先端部が導体露出部であり、この導体露出部に端子102が固定されている。
端子102としては、公知の圧着端子が好ましい。圧着端子としては、給電用部材103の先端部(導体露出部)と接する給電用部材接合部102A(図3を参照されたい。)と、無鉛半田101と接する半田接合部102B(図3および図4を参照されたい。)とを有するものが好ましい。
【0058】
給電用部材103としてワイヤーハーネスを用いる場合、圧着端子としては、図3および図4に示すような、ワイヤーハーネスの先端部(導体露出部)をかしめ固定する給電用部材接合部102Aと、両端部に半田接合部102Bを有する橋状部とからなる圧着端子が好ましい。圧着端子としては、橋状部を有さず、1つの半田接合部102Bを有するものでもよい。
【0059】
端子102としては、金属製の端子が好ましい。端子の構成金属としては特に制限されず、Cu、Fe、Cr、NiおよびZn等の金属;Cu、Fe、Cr、NiおよびZn等の1種以上の金属元素を含む合金;これらの組合せが挙げられる。合金としては、ステンレス(SUS)および真鍮等が挙げられる。端子102は、表面に錫メッキ等の表面加工が施されていてもよい。端子102は、少なくとも一部が絶縁材で被覆されていてもよい。端子102の厚みは特に制限されず、好ましくは0.4~0.8mmである。単一材料からなる端子102は例えば、金属板を打ち抜き加工(抜型を用いたプレス加工)して所望サイズの金属板を得、これを屈曲加工(ベンディング加工)することにより、製造できる。
例えば、給電用部材103の先端部(導体露出部)に端子102(好ましくは圧着端子)がかしめ固定され、その端子102が給電用電極20B内の端子接合部20Tに、無鉛半田101を介して接合される。なお、給電用部材103の先端部(導体露出部)と端子102とは、半田で接続されていてもよいし、溶着により接続されてもよい。
【0060】
(製造方法)
図面を参照して、本実施形態の車両用フロントガラスの製造方法の一例について、説明する。図5A図5Gは、図3に対応した模式断面図である。
【0061】
(工程(S11))
はじめに、図5Aに示すように、外ガラス板11(車外側のガラス板、本実施形態では第1ガラス板)の車内面S2上の所定の領域に、必要に応じて、遮光層BL2の材料である黒色顔料とガラスフリットとを含むセラミックペーストを塗工し、乾燥させて、セラミックペースト層BLPを形成する。
また、必要に応じて、内ガラス板13の車内面S4上の所定の領域に、遮光層BL4の材料である黒色顔料とガラスフリットとを含むセラミックペーストを塗工し、乾燥させて、セラミックペースト層BLPを形成する(図示略)。
セラミックペーストの乾燥条件はペースト組成に応じて適宜設計でき、例えば、120~150℃、約5分間が好ましい。
【0062】
(工程(S12))
次に、図5Bに示すように、外ガラス板11の車内面S2上に、導電体20の材料である銀とガラスフリットとを含む銀含有ペーストを塗工し、乾燥させて、導電ペースト層20Pを形成する。銀含有ペーストの乾燥条件はペースト組成に応じて適宜設計でき、例えば、120~150℃、約5分間が好ましい。
【0063】
(工程(S13))
次に、上記工程後の外ガラス板11および内ガラス板13を、同時にまたは個別に、軟化点以上の温度(例えば600~700℃)に加熱し、各ガラス板を曲げ成形する。この工程では、同時に、セラミックペースト層BLPおよび導電ペースト層20Pが焼成され、遮光層BL2、必要に応じて遮光層BL4、および導電体20が形成される。焼成後、各ガラス板は徐冷される。
以上の工程後に、図5Cに示すように、導電体付きガラス板11Yと、遮光層BL4を有してもよい内ガラス板13が得られる。
【0064】
(工程(S14))
次に、図5Dに示すように、導電体付きガラス板11Yと、遮光層BL4を有してもよい内ガラス板13とを、中間膜12の材料の樹脂フィルム12Fを介して貼り合わせる(貼合せ工程)。
樹脂フィルム12Fの構成樹脂は特に制限されず、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリウレタン(PU)、およびアイオノマー樹脂からなる群より選ばれる1種以上の樹脂が好ましい。樹脂フィルム12Fは必要に応じて、樹脂以外の1種以上の添加剤を含んでいてもよい。添加剤として、顔料等の着色剤等が挙げられる。樹脂フィルム12Fは、無色透明でも有色透明でもよい。樹脂フィルム12Fは、単層構造でも2層以上の積層構造でもよい。
【0065】
貼合せは、熱圧着により行うことができる。熱圧着法としては図5Dに示す複数の部材を重ねて得られた仮積層体をゴム製等の袋の中に入れ、真空中で加熱する方法;仮積層体を加熱しながらローラーを用いて加圧する方法;自動加圧加熱処理装置およびオートクレーブ等を用いて仮積層体を加圧加熱する方法;これらの組合せが挙げられる。
温度、圧力および時間の熱圧着条件は特に制限されず、樹脂フィルム12Fの種類と温度に応じて設計される。熱圧着条件は、樹脂フィルム12Fが軟化し、充分に加圧され、導電体付きガラス板11Yと遮光層BL4を有してもよい内ガラス板13とが樹脂を介して充分に接着される条件であればよい。熱圧着は、方法または条件を変えて、複数段階で実施してもよい。
なお、樹脂フィルム12Fの構成樹脂は軟化し、導電体付きガラス板11Yと遮光層BL4を有してもよい内ガラス板13との間の空間を埋めるように、広がる。
【0066】
工程(S14)は例えば、後の本圧着工程の加熱温度より低い温度の条件で減圧加熱する予備圧着工程と、得られた予備圧着体を、温度が100~150℃の条件で加圧加熱する本圧着工程とを有することができる。
予備圧着工程では例えば、仮積層体をゴム製等の袋の中に入れ、袋内の圧力が約-65~-100kPaの減圧度(絶対圧力約36~1kPa)、温度が60~110℃の範囲内で、かつ、後の本圧着工程の加熱温度より低い温度の条件で、減圧加熱できる。加熱温度は、好ましくは60~100℃、より好ましくは60~90℃である。加熱時間は、好ましくは5~30分間である。ここで言う「予備圧着工程の加熱時間」は、60~110℃の温度で保持する保持時間を意味し、昇温時間および降温時間は含めないものとする。
本圧着工程では例えば、得られた予備圧着体をオートクレーブの中に入れ、圧力が約0.98~1.47MPa、温度が100~150℃の条件で、加圧加熱できる。加熱温度は、好ましくは110~150℃、より好ましくは120~150℃である。加熱時間は、好ましくは20~40分間である。ここで言う「本圧着工程の加熱時間」は、100~150℃の温度で保持する保持時間を意味し、昇温時間および降温時間は含めないものとする。
以上の工程後に、図5Eに示すように、合わせガラス10が得られる。
【0067】
(工程(S15))
次に、図5Fに示すように、各給電用電極20Bに含まれる端子接合部20T上に、加熱溶融させた後に凝固させた無鉛半田101を介して端子102を接合する。各給電用電極20Bの少なくとも端子接合部20Tは、あらかじめ、砂消しゴム等を用いた公知方法にて表面研磨しておくことが好ましい。端子102にはあらかじめ、公知方法にて、好ましくは丸線状または箔状の導線からなる給電用部材103が固定(好ましくは、かしめ固定)されている。半田接合については、図4も参照されたい。
【0068】
半田接合は、公知方法にて行うことができ、半田ごてまたは抵抗加熱を用いる方法が好ましい。
半田ごてを用いる場合、例えば、以下のように接合を実施できる。
端子の各半田接合部に、適量(例えば0.05~0.10g)の無鉛半田を付着させる。この端子を、導電体の端子接合部の上に配置する。この状態で、端子の半田接合部に、無鉛半田の融点以上の温度に設定した半田ごてのこて先を押し当て、無鉛半田を加熱溶融させる。その後、端子から半田ごてを離し、自然冷却により無鉛半田を凝固させる。無鉛半田は、冷風を吹き付けて冷却してもよい。
半田接合の前に、未溶融の無鉛半田の表面および/または端子の半田接合部の表面に、フラックスを塗布しておくことが好ましい。フラックスの作用により金属酸化膜が溶け、良好な接合状態を得ることができる。
半田接合の前に、半田ごてのこて先に適量の無鉛半田を載せ、加熱溶融しておくことが好ましい。この半田は予備半田と呼ばれ、半田接合時の熱伝導を高めることができる。
【0069】
一般的に、導電体と半田とを良好に接合するには、導電体と半田との接合界面に、導電体に含まれる1種以上の金属元素と半田に含まれる複数の金属元素との合金を含む合金層を形成する必要がある。そのため、半田をその融点以上に加熱して、半田接合を行う。
SnAg系およびSnAgCu系等の無鉛半田の融点は、例えば220℃程度であり、この場合、半田接合温度は例えば300℃程度が好ましい。In系無鉛半田の融点は、100~150℃程度であり、この場合、半田接合温度は例えば250℃程度が好ましい。
以上のようにして、図5Gに示すように、車両用フロントガラス1が製造される。
【0070】
(工程(S16))
本開示の製造方法ではさらに、上記半田接合後、常温まで温度が下がり、凝固した無鉛半田101に対して、30~150℃で10分間以上、50~150℃で5分間以上、または120~150℃で3分間以上の条件で、後加熱処理を行う。
工程(S16)における加熱条件は、好ましくは、50~150℃で10分間以上、または、120~150℃で5分間以上である。
中間膜へのダメージ低減および製造コスト低減の観点から、工程(S16)における加熱温度は、好ましくは140℃以下、より好ましくは130℃以下、特に好ましくは120℃以下である。
【0071】
中間膜へのダメージ低減、生産性の向上および製造コスト低減の観点から、工程(S16)における加熱時間は、好ましくは120分間以下、より好ましくは60分間以下、特に好ましくは30分間以下である。50~150℃の温度条件において、加熱時間を30分間より長くしても、それ以上顕著な破壊強度の向上は得られない。50~150℃の温度条件では、30分間以下の加熱時間で充分な破壊強度の向上効果が得られる。
【0072】
後加熱処理の加熱方法として特に制限されず、熱風加熱;赤外線加熱;超音波加熱;導電体20への電流印加による抵抗加熱;恒温槽および加熱炉等の加熱装置を用いた加熱;これらの組合せ等が挙げられる。後加熱処理工程においては、低エネルギーおよび低コストの観点から、無鉛半田101のみ、または、無鉛半田101およびその近傍部分を部分的に加熱処理することが好ましい。ただし、車両用フロントガラス1のより広範囲または全体を加熱処理してもよい。
以上のようにして、本実施形態の車両用フロントガラス1が完成する。
【0073】
[第1実施形態の設計変更例]
第1実施形態では、導電体20が、1本以上の電熱線20Lまたは電熱層からなる電気的機能部と、一対の給電用電極(一対のバスバー)20Bを含む給電部とを含む態様について、説明した。導電体20は、電気的機能部を含まず、給電部のみを含み、この給電部が導電体20に含まれない電気的機能部に接続される構成としてもよい。
【0074】
例えば、図6に示すように、中間膜12の材料の樹脂フィルム12F上に、電気的機能部を含む導電体30を形成できる。例えば、導電体30は、1本以上の電熱線または電熱層からなる電気的機能部を含み、さらに必要に応じて、一対の給電用電極(一対のバスバー)を含む給電部を含むことができる。図6において、第1実施形態と同じ構成要素には同じ参照符号を付して、説明は省略する。
例えば、樹脂フィルム12F上に、1本以上の電熱線としての1本以上の金属ワイヤー(例えば、タングステンワイヤー等)、および必要に応じて一対の給電用電極(バスバー)としての一対の金属箔(例えば、銅箔等)を配置できる。代替的に、樹脂フィルム12F上に、表面に1本以上の電熱線および一対の給電用電極が形成された樹脂フィルム(例えば、ポリビニルブチラール(PVB)フィルム、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)フィルム、およびポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等)を配置してもよい。
【0075】
樹脂フィルム12F上に形成された電気的機能部は、導電体付きガラス板11Yと樹脂フィルム12Fと内ガラス板13とを貼り合わせた後、導電体付きガラス板11Yに含まれる給電部のみからなる導電体20に接続される。樹脂フィルム12F上に形成された電気的機能部は、樹脂フィルム12F上に形成された給電部を介して、導電体付きガラス板11Yに含まれる給電部のみからなる導電体20に接続されてもよい。
なお、樹脂フィルム12F上に形成される、電気的機能部および必要に応じて給電部を含む導電体30、並びに、導電体付きガラス板11Yに含まれる給電部のみからなる導電体20の構成、材料、形成方法、パターンおよび形成領域は、適宜設計できる。
【0076】
この設計変更例においても、第1実施形態と同様、外ガラス板11と端子接合部20Tとの間に、遮光層BL2を形成できる。
この設計変更例においても、第1実施形態と同様、導電体付きガラス板11Yと内ガラス板13とを、中間膜12を介して貼り合わせ、導電体20に含まれる端子接合部20T上に無鉛半田を介して端子を接合した後、凝固した無鉛半田に対して適切な条件の後加熱処理を行って、車両用フロントガラスを製造できる。
【0077】
[第2実施形態]
図面を参照して、本発明に係る第2実施形態の車両用フロントガラスの構造について、説明する。
図7は、本実施形態の車両用フロントガラスの全体平面図である。図8は、図7の部分拡大平面図である。図7および図8は、端子接合前の図である。図7および図8は、図示手前側が車内側、図示奥側が車外側である。図9Aは、図8のIXA-IXA線断面図である。図9Bは、図8のIXB-IXB線断面図である。図9Cは、図8のIXC-IXC線断面図である。図9A図9Cにおいて、図示上側が車外側、図示下側が車内側である。これらの図はいずれも模式図であり、視認しやすくするため、図面ごとに、各構成要素の縮尺は実際のものとは適宜異ならせてある。第1実施形態と同じ構成要素には同じ参照符号を付して、説明は適宜省略する。
【0078】
車両用フロントガラス2の平面形状は適宜設計でき、例えば、図7に示すような平面視略台形状の板が全体的に湾曲した形状等が挙げられる。
図9Cに示すように、本実施形態の車両用フロントガラス2は、外ガラス板11(車外側のガラス板、本実施形態では第2ガラス板)と、内ガラス板13(車内側のガラス板、本実施形態では第1ガラス板)とが、中間膜12を介して貼り合わされた合わせガラス50を含む。
【0079】
本実施形態において、合わせガラス50は、内ガラス板13と、内ガラス板13の車内面S4(中間膜12側と反対側の表面)の上に形成され、銀とガラスフリットとを含む材料からなり、端子102が接合される端子接合部60Tを有する導電体60と、導電体60の端子接合部60T上に無鉛半田101を介して接合された端子102とを有する端子付きガラス板13Xを含む。
【0080】
図7に示すように、車両用フロントガラス2は、光学装置が取り付けられる光学装置取付領域OPと、光学装置取付領域OP内に位置し、外部から光学装置への入射光および/または光学装置からの出射光が通る透光部TPとを有する。
図示するように、透光部TPは、車両用フロントガラス2の一端辺50E(図示例では上端辺)に比較的近い領域に形成できる。
【0081】
光学装置は例えば、自動運転および衝突事故の防止等のために、車両前方の情報を取得する、ADAS(Advanced Driver Assistance systems)カメラ、LiDAR(Light Detection And Ranging)、レーダー、および光センサ等の光学機器と、これを収容するブラケット等と呼ばれる筐体とを含むことができる。
光学装置取付領域OPおよび透光部TPの形状は光学装置の形状に合わせて適宜設計でき、略台形状および略矩形状等が挙げられる。光学装置取付領域OPおよび透光部TPの形状は、相似形でも非相似形でもよい。図示例では、光学装置取付領域OPおよび透光部TPの形状は、略台形状である。
【0082】
第1実施形態と同様、図7に示すように、本実施形態の車両用フロントガラス2は、周縁領域を含む領域に1つ以上の遮光層BLを有する。遮光層BLの数、遮光層BLが形成されるガラス面および遮光層BLの形成領域は、適宜設計できる。
【0083】
本実施形態では、図9Cに示すように、内ガラス板13の車内面S4(中間膜12側と反対側の表面)の所定の領域に遮光層BL4が形成されている。この遮光層BL4上に、導電体60の大部分が形成されている。
図7に示すように、遮光層BL4の形成領域は、光学装置取付領域OPから透光部TPを除いた領域と、光学装置取付領域OPの周囲の領域と、車両用フロントガラス2の周縁領域とを含むことができる。
図示例では、遮光層BL4の形成領域は、光学装置取付領域OPから透光部TPを除いた領域と光学装置取付領域OPの周囲の領域とを含み、合わせガラス50の一端辺50E(図示例では上端辺)および辺B41~B43を輪郭とする略台形状の領域から透光部TPを除いた領域R41と、車両用フロントガラス2の周縁領域R42とを含む。
図示例では、遮光層BL4は透光部TPの四辺すべてを囲んでいるが、遮光層BL4は透光部TPの少なくとも一部を囲んでいればよく、例えば、略台形状または略矩形状の透光部TPの三辺のみを囲むものであってもよい。
透光部TPが透過する光の波長域は特に制限されず、例えば、可視光域、赤外光域、および可視光域~赤外光域等である。
【0084】
図9Cに示すように、必要に応じて、外ガラス板11の車内面S2上に、遮光層BL2を形成できる。遮光層BL2の形成領域は、例えば、遮光層BL4と同様、光学装置取付領域OPから透光部TPを除いた領域と、光学装置取付領域OPの周囲の領域と、車両用フロントガラス2の周縁領域とを含むことができる。
なお、遮光層BL2の領域R21の平面形状と遮光層BL4の領域R41の平面形状とは、それぞれ独立に設計でき、これら領域の平面形状は同一でも非同一でもよい。
【0085】
図8に示すように、本実施形態において、導電体60は、透光部TPの内部に形成された電熱線60Lからなる電気的機能部を含む。導電体60はさらに、透光部TPの外部に形成された一対の給電用電極(一対のバスバー)60Bからなる給電部を含む。導電体60はさらに、透光部TPの外部に形成され、電熱線60Lと一対の給電用電極(一対のバスバー)60Bとを接続する2つの接続配線60Mを含む。
【0086】
光学装置に含まれるカメラおよびレーダー等の光学機器の前方に位置する透光部TPを含む領域に、曇りおよび霜の防止のための電熱線60Lを設けることで、光学装置のセンシング精度を向上できる。
電熱線60Lの数、接続配線60Mの数、給電用電極60Bの数、電熱線60Lと接続配線60Mのラインパターンおよび配列パターン、給電用電極60Bの形状と配置パターン等は、適宜設計できる。
例えば、平面視にて、電熱線60Lが透光部TPを複数回以上横断するように折り返されていると、透光部TPに付着した霜および水滴を効率良く除去でき、好ましい。
一方の給電用電極から他方の給電用電極に至るまでの間、電熱線60Lおよび/または接続配線60Mの線幅は、実質的に同一であってもよいし、変化してもよい。
【0087】
図9Cに示すように、本実施形態において、導電体60は、内ガラス板13の車内面S4上に形成されている。
第1実施形態と同様、一対の給電用電極(一対のバスバー)60Bはいずれも、端子接合部60Tを含み、導電体60の端子接合部60T上に無鉛半田101を介して端子102が接合されている。端子102には、丸線状または箔状の導線からなる給電用部材103が固定されている。
第1実施形態と同様、導電体60の端子接合部60Tは、無鉛半田101の直下部分である。図中、端子接合部60Tの領域は、2つの破線T1、T2で挟まれる領域である。なお、導電体60の端子接合部60Tは、はじめから明確に位置が定まっている訳ではない。給電用電極60Bにおいて、無鉛半田101を介して端子102を接合した後の無鉛半田101の直下部分が、端子接合部60Tである。
【0088】
図7図8および図9Aに示すように、本実施形態では、透光部TP内には、遮光層BLは形成されない。
図8および図9Bに示すように、端子付きガラス板13Xに含まれる導電体60の接続配線60Mおよび給電部は、遮光層BL4上に形成されることが好ましい。かかる構成では、端子付きガラス板13Xに含まれる導電体60の接続配線60Mおよび給電部が、車外にいる人から視認されないように設計できる。
なお、本開示の製造方法では、半田接合後の適切な条件の加熱処理によって、中間膜にダメージを与えることなく、端子付きガラス板13Xの破壊強度の向上効果が得られるため、端子付きガラス板13Xは、第2ガラス板13と端子接合部60Tとの間に遮光層BL4を有することができる。
【0089】
(製造方法)
図面を参照して、本実施形態の車両用フロントガラスの製造方法の一例について、説明する。図10A図10Gは、図9Cに対応した模式断面図である。
【0090】
(工程(S11))
はじめに、図10Aに示すように、内ガラス板13(車内側のガラス板、本実施形態では第1ガラス板)の車内面S4上の所定の領域に、必要に応じて、遮光層BL4の材料である黒色顔料とガラスフリットとを含むセラミックペーストを塗工し、乾燥させて、セラミックペースト層BLPを形成する。
また、外ガラス板11の車内面S2上の所定の領域に、必要に応じて、遮光層BL2の材料である黒色顔料とガラスフリットとを含むセラミックペーストを塗工し、乾燥させて、セラミックペースト層BLPを形成する。
セラミックペースト層の乾燥条件は、第1実施形態と同様である。
【0091】
(工程(S12))
次に、図10Bに示すように、内ガラス板13の車内面S4上に、導電体60の材料である銀とガラスフリットとを含む銀含有ペーストを塗工し、乾燥させて、導電ペースト層60Pを形成する。導電ペースト層の乾燥条件は、第1実施形態と同様である。
【0092】
(工程(S13))
次に、上記工程後の外ガラス板11および内ガラス板13を軟化点以上の温度に加熱し、各ガラス板を曲げ成形する。この工程では、同時に、セラミックペースト層BLPおよび導電ペースト層60Pが焼成され、遮光層BL2、BL4および導電体60が形成される。焼成後、各ガラス板は徐冷される。焼成温度は、第1実施形態と同様である。
以上の工程後に、図10Cに示すように、遮光層BL2を有する外ガラス板11と、導電体付きガラス板13Yとが得られる。
【0093】
(工程(S14))
次に、図10Dに示すように、遮光層BL2を有する外ガラス板11と、導電体付きガラス板13Yとを、中間膜12の材料の樹脂フィルム12Fを介して貼り合わせる(貼合せ工程)。貼合方法は、第1実施形態と同様である。
以上の工程後に、図10Eに示すように、合わせガラス50が得られる。
【0094】
(工程(S15))
次に、図10Fに示すように、各給電用電極60Bに含まれる端子接合部60T上に、加熱溶融させた後に凝固させた無鉛半田101を介して端子102を接合する。接合方法は、第1実施形態と同様である。
以上のようにして、図10Gに示すように、車両用フロントガラス2が製造される。
【0095】
(工程(S16))
本開示の製造方法ではさらに、上記半田接合後、常温まで温度が下がり、凝固した無鉛半田101に対して、後加熱処理を行う。後加熱処理の方法は、第1実施形態と同様である。
以上のようにして、本実施形態の車両用フロントガラス2が完成する。
【0096】
以上説明したように、本開示の車両用フロントガラスの製造方法では、半田接合後の適切な条件の加熱処理によって、中間膜にダメージを与えることなく、端子付け後のガラス板の破壊強度を高めることができる。
本開示によれば、導電体と端子とを無鉛半田を用いて接合する工程を含み、中間膜にダメージを与えることなく、端子付け後のガラス板の破壊強度を高めることが可能な車両用フロントガラスの製造方法を提供できる。
【実施例0097】
以下に、実施例に基づいて本発明について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。例11~19のうちの特定条件の例および例21、22が実施例であり、例1、2および例11~19のうちのその他の条件の例が比較例であり、例Rが参考例である。
【0098】
[評価項目と評価方法]
評価項目と評価方法は、以下の通りである。
(破壊強度)
常温(20~25℃)の環境下で、オ-トグラフ(島津製作所社製「AGS-X」、最大荷重:荷重5kN)を用いて、ASTM-C1499-1に準拠して、リング曲げ試験を実施した。
端子付け後のガラス板(端子付きガラス板)を、導電体を形成した面を下側にして、直径98mmの支持リング上に載置した。この評価用ガラス板上に直径46mmの負荷リングを載置した。支持リングの中心軸とガラス板の中心軸と負荷リングの中心軸を合わせた。
上記評価用ガラス板の導電体の周囲に、負荷リングにより、荷重をかけた。ガラス板の変位量が1mm/minとなるように荷重を連続的に増加させ、ガラス板が割れた時点の荷重を破壊強度とした。
【0099】
[例1および例11~19]
例1および例11~19の各例において、100mm×100mmの正方形状の2.0mm厚の未強化のガラス板(G1)(AGC社製「VFL」、グリーン色)を用意した。
上記ガラス板の一方の表面の全面に、黒色顔料とガラスフリットとを含む市販の遮光層形成用のセラミックペースト(BP1)を塗工し、乾燥させて、セラミックペースト層を形成した。乾燥条件は、120℃、約10分間とした。
【0100】
次いで、スクリーン印刷法により、銀粉とガラスフリットとを含む市販の導電体形成用の銀含有ペースト(AgP1)を塗工し、乾燥させて、導電ペースト層を形成した。乾燥条件は、120℃、10分間とした。
次いで、導電ペースト層を焼成した。常温(20~25℃)から昇温速度約180℃/分で600℃まで昇温し、600℃で400秒間焼成した後、常温(20~25℃)まで自然冷却した。このようにして、導電体を形成した。
【0101】
導電体の平面形状は、50mm×50mmの正方形状とし、その中心と対角線は、ガラス板の中心と対角線に合わせた。導電体の厚みは、7μm程度であった。
導電体の表面を市販の研磨用消しゴムを用いて、車両用フロントガラスの製造に一般的な方法で研磨した。研磨後の導電体の厚みは、6μm程度であった。
以上のようにして、導電体/遮光層/ガラス板の積層構造を有する導電体付きガラス板を製造した。
【0102】
各例において、常温(20~25℃)の環境下で、得られた導電体付きガラス板の導電体上に、SnAg系の無鉛半田(Sn:98質量%、Ag:2質量%、融点:220℃程度)を用いて、ワイヤーハーネスの先端部(導体露出部)が挿入される筒状の給電用部材接合部と、図4に示したような、両端部に半田接合部を有する橋状部とからなる、真鍮製の圧着端子を接合した。
具体的な方法は、以下の通りである。
半田ごてのこて先に0.04gの無鉛半田を載せ、加熱溶融した。この半田は予備半田と呼ばれる。
端子の各半田接合部に、0.05gの無鉛半田チップを付着させた。この端子を、導電体の端子接合部の上に配置した。この状態で、端子の半田接合部に、300℃に設定した半田ごてのこて先を押し当て、無鉛半田チップを加熱溶融させた。その後、端子から半田ごてを離し、自然冷却により無鉛半田を常温まで冷却し、凝固させた。これらの半田接合作業に要した時間は、約10分間であった。
以上のようにして、端子付きガラス板を製造した。
【0103】
例1では、上記約10分間の半田接合作業の終了時点から70分間常温環境下で放置した後に、常温環境下で端子付きガラス板の破壊強度を測定した。10サンプルの測定を行い、平均値を求めたところ、40.0MPaであった。このデータを、後加熱処理なしのリファレンスデータとした。
【0104】
例11~19の各例では、上記約10分間の半田接合作業を終了して得られた端子付きガラス板に対して、ある温度に設定した恒温槽内に端子付きガラス板をある時間載置した後、10分間かけて端子付きガラス板を常温まで冷却する後加熱処理を行った。後加熱処理の条件は、以下の通りである。
【0105】
(例11)
<例11-1>30℃で5分間、
<例11-2>30℃で10分間、
<例11-3>30℃で30分間。
【0106】
(例12)
<例12-1>40℃で5分間、
<例12-2>40℃で10分間、
<例12-3>40℃で30分間、
<例12-4>40℃で60分間。
【0107】
(例13)
<例13-1>50℃で3分間、
<例13-2>50℃で5分間、
<例13-3>50℃で10分間、
<例13-4>50℃で60分間。
【0108】
(例14)
<例14-1>60℃で5分間、
<例14-2>60℃で10分間、
<例14-3>60℃で30分間、
<例14-4>60℃で60分間。
【0109】
(例15)
<例15-1>80℃で60分間。
【0110】
(例16)
<例16-1>100℃で3分間、
<例16-2>100℃で5分間、
<例16-3>100℃で10分間、
<例16-4>100℃で30分間、
<例16-5>100℃で60分間。
【0111】
(例17)
<例17-1>120℃で1分間、
<例17-2>120℃で3分間、
<例17-3>120℃で5分間、
<例17-4>120℃で10分間、
<例17-5>120℃で30分間、
<例17-6>120℃で60分間。
【0112】
(例18)
<例18-1>140℃で1分間、
<例18-2>140℃で3分間、
<例18-3>140℃で10分間。
【0113】
(例19)
<例19-1>150℃で1分間、
<例19-2>150℃で3分間、
<例19-3>150℃で10分間。
【0114】
例11~19の各例では、上記約10分間の半田接合作業の終了時点から70分間経過した後に、常温環境下で端子付きガラス板の破壊強度を測定した。
なお、加熱および降温の後、必要に応じて、常温環境下で放置することで、例1および例11~19の各例において、半田接合の終了時点から破壊強度の測定開始時点までの経過時間が一致するように、時間調整を行った。
例えば、120℃で30分間の加熱処理を行った例17-5では、上記約10分間の半田接合作業、120℃で30分間の加熱、および10分間の降温の後、20分間常温環境下で放置した後に、端子付きガラス板の破壊強度を測定した。
各条件について、10サンプルの測定を行い、平均値を求めた。
【0115】
(評価結果)
例11~19の各条件の平均破壊強度のデータを表1に示す。この表では、リファレンスデータ(例1の平均破壊強度、40.0MPa)に対する平均破壊強度の増減(+、-、または±0)で、データを示してある。例えば、+1.0は、平均破壊強度が40.0+1.0=41.0MPaであったことを示し、-2.0は、平均破壊強度が40.0-2.0=38.0MPaであったことを示す。
リファレンスデータに対して平均破壊強度が3.0MPa以上増加した条件は、後加熱処理によって破壊強度を有意に向上できたと判定し、良好(○)と判定した。リファレンスデータに対して平均破壊強度が3.0MPa以上増加しなかった条件は、後加熱処理によって破壊強度を有意に向上できなかったと判定し、不良(×)と判定した。
【0116】
【表1】
【0117】
表1に示すように、30~150℃で10分間以上の後加熱処理、50~150℃で5分間以上の後加熱処理、および120~150℃で3分間以上の後加熱処理において、破壊強度を有意に向上できた。
特に、50~150℃で10分間以上、および120~150℃で5分間以上の後加熱処理において、破壊強度を有意に向上できた。
【0118】
例1(後加熱処理なし)および40~120℃で60分間の後加熱処理を行った例について、10サンプルの破壊強度の平均値のデータを図12に示す。
図12に示すように、加熱時間が60分間の条件では、40~120℃のいずれの加熱温度条件においても、後加熱処理によって破壊強度を有意に向上できた。
【0119】
例1(後加熱処理なし)および120℃で1~60分間の後加熱処理を行った例について、10サンプルの破壊強度の平均値のデータを図13に示す。
図13に示すように、加熱温度が120℃の条件では、3~60分間の加熱時間条件において、後加熱処理によって破壊強度を有意に向上できた。
【0120】
[例2、21、22]
例2、21、22の各例において、無鉛半田をSnAgCu系の無鉛半田(Sn:98質量%、Ag:3質量%、Cu:0.5質量%、融点:220℃程度)に変更した以外は、例1および例11~19と同様にして、端子付きガラス板を製造した。
例2では、約10分間の半田接合作業の終了時点から70分間常温環境下で放置した後に、常温環境下で端子付きガラス板の破壊強度を測定した。10サンプルの測定を行い、平均値を求めたところ、37.5MPaであった。このデータを、後加熱処理なしのリファレンスデータとした。
例21、22の各例では、約10分間の半田接合作業を終了して得られた端子付きガラス板に対して、例11~19と同様にして、後加熱処理を行った。後加熱処理の条件は、以下の通りである。
<例21>100℃で60分間。
<例22>120℃で60分間。
例21、22の各例において、例11~19と同様にして、約10分間の半田接合作業の終了時点から70分間経過した後に、常温環境下で端子付きガラス板の破壊強度を測定した。
例2(後加熱処理なし)および100~120℃で60分間の後加熱処理を行った例21、22について、10サンプルの破壊強度の平均値のデータを図14に示す。
図14に示すように、SnAgCu系の無鉛半田においても、100~120℃で60分間の後加熱処理によって破壊強度を有意に向上できることが確認された。
【0121】
[例R]
ポリビニルブチラール(PVB)中間膜を有する自動車のフロントガラス用の市販の合わせガラス(AGC社製)について、通常製造工程で行っている120℃で2時間加熱する品質検査を行ったところ、中間膜に発泡等の不良は見られなかった。120℃で2時間加熱しても、中間膜へのダメージはないことが確認された。
【0122】
本発明は上記実施形態および実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、適宜設計変更できる。
【符号の説明】
【0123】
1、2:車両用フロントガラス、10、50:合わせガラス、11:外ガラス板、11E:露出部、13:内ガラス板、11X、13X:端子付きガラス板、11Y、13Y:導電体付きガラス板、12:中間膜、12F:樹脂フィルム、20、60:導電体、20B、60B:給電用電極、20E:露出部、20L、60L:電熱線、60M:接続配線、20T、60T:端子接合部、30:導電体、101:無鉛半田、102:端子、103:給電用部材、BL、BL2、BL4:遮光層、OP:光学装置取付領域、TP:透光部。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
図10F
図10G
図11
図12
図13
図14