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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059283
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/18 20060101AFI20240423BHJP
【FI】
C08G59/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166877
(22)【出願日】2022-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】野田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】中川 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】入船 真治
(72)【発明者】
【氏名】原田 美由紀
【テーマコード(参考)】
4J036
【Fターム(参考)】
4J036AD07
4J036AD08
4J036AD20
4J036AE05
4J036AF05
4J036AF06
4J036AJ08
4J036AK17
4J036DC02
4J036DC10
4J036DC14
4J036DC22
4J036FB12
4J036FB13
4J036HA12
4J036JA01
4J036JA06
4J036JA15
(57)【要約】      (修正有)
【課題】メソゲン基を有するポリオルガノシロキサンを含むエポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)エポキシ基を1分子内に2つ以上含むエポキシ樹脂、(B)下記式(1)で表されるメソゲン基含有ポリオルガノシロキサン、(C)エポキシ樹脂硬化剤を含むものであるエポキシ樹脂組成物。

(式(1)において、Rは、互いに独立して炭素数1~12のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、及び炭素数7~12のアラルキル基から選ばれる基又は水酸基を示し、pは、0~100の整数であり、Rは、グリシジル基とメソゲン基を有する芳香族基である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂組成物であって、
(A)エポキシ基を1分子内に2つ以上含むエポキシ樹脂:100質量部、
(B)下記式(1)で表されるメソゲン基含有ポリオルガノシロキサン:5~20質量部、
(C)エポキシ樹脂硬化剤:1~20質量部
を含むものであることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【化1】
(前記式(1)において、Rは、互いに独立して炭素数1~12のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、及び炭素数7~12のアラルキル基から選ばれる基又は水酸基を示し、pは、シロキサン構造の繰り返し単位を示し、0~100の整数であり、Rは、互いに独立して下記式(2)または式(3)を示し、
【化2】
【化3】
前記式(2)及び前記式(3)において、RおよびRは、互いに独立して、水素原子、又は炭素数1~10の1価の炭化水素基を示し、Lは、前記式(1)との連結基であって、炭素数1~12の2価の炭化水素基であり、a及びbは、前記式(2)及び前記式(3)におけるフェニル基の置換基の数を表し、0~4の整数であり、Gは、グリシジル基である。)
【請求項2】
前記式(1)で表される前記メソゲン基含有ポリオルガノシロキサンのポリスチレン標準物質換算における数平均分子量が、500~100,000であることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記式(1)で表される前記メソゲン基含有ポリオルガノシロキサンのエポキシ当量(g/モル)が、300~5,000g/モルであることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記式(1)で表される前記メソゲン基含有ポリオルガノシロキサンが、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)を総量で3,000ppm以下含むものであることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記(A)エポキシ樹脂が、ビスフェノール型エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
前記(C)エポキシ樹脂硬化剤が、アミン系硬化剤であることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
さらに(D)充填剤を含むものであることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、その優れた機械的強度、電気絶縁性、耐熱性、耐薬品性、耐水性、低収縮性、接着性により、様々な分野で利用されている。近年、エポキシ樹脂における性能要求が高まっており、エポキシ樹脂の課題である靭性の低さについて開発が進められている(特許文献1~4)。
【0003】
エポキシ変性シリコーンは、反応性基であるエポキシ基を有したポリオルガノシロキサンであり、その反応性を利用した樹脂改質剤、繊維処理剤、塗料添加剤等の用途に使用されている。また、シリコーンの特性である柔軟性付与の効果も期待されるが、エポキシ樹脂に対してエポキシ変性シリコーンを添加する場合には、硬化剤などの他の極性化合物との相溶性が悪く、分離してしまうという課題があった。
【0004】
特許文献5では、メソゲン基を有するエポキシ樹脂について記載されており、作業性に優れ、機械的特性、熱的特性、化学的特性に優れた特性を有することが報告されている。しかしながら、前記メソゲン基を有するエポキシ樹脂とビスフェノール型エポキシ樹脂などの一般的なエポキシ樹脂とを混合した際、各物性がどのように変化するかは明らかではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-239890号公報
【特許文献2】特表2014-505761号公報
【特許文献3】特表2017-536440号公報
【特許文献4】国際公開第2018/008741号
【特許文献5】特開2008-214599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
メソゲン基を有するエポキシ樹脂を添加した際の影響について、詳細な検討はなされていない。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、メソゲン基を有するポリオルガノシロキサンを含むエポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明では、エポキシ樹脂組成物であって、
(A)エポキシ基を1分子内に2つ以上含むエポキシ樹脂:100質量部、
(B)下記式(1)で表されるメソゲン基含有ポリオルガノシロキサン:5~20質量部、
(C)エポキシ樹脂硬化剤:1~20質量部
を含むものであるエポキシ樹脂組成物を提供する。
【化1】
(前記式(1)において、Rは、互いに独立して炭素数1~12のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、及び炭素数7~12のアラルキル基から選ばれる基又は水酸基を示し、pは、シロキサン構造の繰り返し単位を示し、0~100の整数であり、Rは、互いに独立して下記式(2)または式(3)を示し、
【化2】
【化3】
前記式(2)及び前記式(3)において、RおよびRは、互いに独立して、水素原子、又は炭素数1~10の1価の炭化水素基を示し、Lは、前記式(1)との連結基であって、炭素数1~12の2価の炭化水素基であり、a及びbは、前記式(2)及び前記式(3)におけるフェニル基の置換基の数を表し、0~4の整数であり、Gは、グリシジル基である。)
【0008】
このようなエポキシ樹脂組成物であれば、硬化物とした際に引張せん断強度と破断伸びに優れたものとなる。
【0009】
また、本発明では、前記式(1)で表される前記メソゲン基含有ポリオルガノシロキサンのポリスチレン標準物質換算における数平均分子量が、500~100,000であることが好ましい。
【0010】
このような分子量であれば、両末端のエポキシ基が硬化剤と反応し、硬化物を得るのに十分な分子量となる。
【0011】
また、本発明では、前記式(1)で表される前記メソゲン基含有ポリオルガノシロキサンのエポキシ当量(g/モル)が、300~5,000g/モルであることが好ましい。
【0012】
このようなエポキシ当量であれば、両末端のエポキシ基が(C)エポキシ樹脂硬化剤と反応し、良好な物性の硬化物を得るのに十分な量となる。
【0013】
また、本発明では、前記式(1)で表される前記メソゲン基含有ポリオルガノシロキサンが、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)を総量で3,000ppm以下含むものであることが好ましい。
【0014】
これら環状低分子シロキサンを低減することで、低分子成分が硬化物表面にブリードアウトすることによる接着性の低下や、低分子成分の揮発による周辺環境の汚染などを回避することができる。
【0015】
また、本発明では、前記(A)エポキシ樹脂が、ビスフェノール型エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0016】
このようなエポキシ樹脂組成物であれば、各種選択されて使用されているビスフェノール型エポキシ樹脂の特性を強化でき、ビスフェノール型エポキシ樹脂単体で用いる場合よりも、伸び特性と引張剪断強度の両方を増大させることができるエポキシ樹脂組成物となる。
【0017】
また、本発明では、前記(C)エポキシ樹脂硬化剤が、アミン系硬化剤であることが好ましい。
【0018】
このようなエポキシ樹脂組成物であれば、良好な硬化特性が得られる。
【0019】
また、本発明では、さらに(D)充填剤を含むものであることが好ましい。
【0020】
このようなエポキシ樹脂組成物であれば、機械強度を補強することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、ポリオルガノシロキサンを含むエポキシ樹脂組成物、及び該組成物を反応させ硬化させた硬化物に関するもので、さらに詳しくは、両末端にエポキシ基を有し、主鎖にメソゲン基を有するポリオルガノシロキサンを含むエポキシ樹脂組成物及び該組成物を反応させ硬化させた硬化物に関するものである。
【0022】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、所定の構造と配合により、硬化物を作製した際に、靭性を向上させ、また基材間で硬化物を作製した場合には良好な接着力を示すため、有用性が高い。
【発明を実施するための形態】
【0023】
上述のように、メソゲン基を有するポリオルガノシロキサンを含むエポキシ樹脂組成物の開発が求められていた。
【0024】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、所定の構造と配合のエポキシ樹脂組成物であれば、硬化物を作製した際に、靭性が向上し、また基材間で硬化物を作製した場合には良好な接着力を示すため、有用性が高いことを見出し、本発明を完成させた。
【0025】
即ち、本発明は、エポキシ樹脂組成物であって、
(A)エポキシ基を1分子内に2つ以上含むエポキシ樹脂:100質量部、
(B)下記式(1)で表されるメソゲン基含有ポリオルガノシロキサン:5~20質量部、
(C)エポキシ樹脂硬化剤:1~20質量部
を含むものであるエポキシ樹脂組成物である。
【化4】
(前記式(1)において、Rは、互いに独立して炭素数1~12のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、及び炭素数7~12のアラルキル基から選ばれる基又は水酸基を示し、pは、シロキサン構造の繰り返し単位を示し、0~100の整数であり、Rは、互いに独立して下記式(2)または式(3)を示し、
【化5】
【化6】
前記式(2)及び前記式(3)において、RおよびRは、互いに独立して、水素原子、又は炭素数1~10の1価の炭化水素基を示し、Lは、前記式(1)との連結基であって、炭素数1~12の2価の炭化水素基であり、a及びbは、前記式(2)及び前記式(3)におけるフェニル基の置換基の数を表し、0~4の整数であり、Gは、グリシジル基である。)
【0026】
[エポキシ樹脂組成物]
本発明のエポキシ樹脂組成物は、(A)エポキシ樹脂、(B)メソゲン基含有ポリオルガノシロキサン、及び(C)エポキシ樹脂硬化剤を含む、エポキシ樹脂組成物であり、(A)成分を100質量部とした場合の(B)成分が5~20質量部である。
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
[(A)エポキシ樹脂]
本発明における(A)エポキシ基を1分子内に2つ以上含むエポキシ樹脂は、公知のエポキシ樹脂を用いることができ、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、3,4-エポキシシクロヘキセニルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキセンカルボキシレートなどの脂環式エポキシ樹脂;レゾルシノール型エポキシ樹脂などの多官能フェノール型エポキシ樹脂;スチルベン型エポキシ樹脂、トリアジン骨格含有エポキシ樹脂、フルオレン骨格含有エポキシ樹脂、トリフェノールアルカン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、キシリレン型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂及びアントラセン等の多環芳香族類のジグリシジルエーテル化合物、等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を併用して用いることができる。好ましくは、ビスフェノール型エポキシ樹脂である。
【0028】
(A)エポキシ樹脂のエポキシ当量については、特に限定されるものではないが、混合後における可使時間や硬化物の強度などの観点から、固形分当りの換算で、50~5,000g/eqが好ましく、75~2,500g/eqがより好ましい。
【0029】
(A)エポキシ樹脂の性状については、特に限定されるものではないが、25℃で液状であることが好ましい。液状である場合は、その粘度が10~100,000mPa・sが好ましく、より好ましくは20~50,000mPa・sである。なお、粘度はJIS K7117-1:1999に記載のB型粘度計を用いた方法により、25℃で測定された値である。
【0030】
なお、本発明の(A)成分は、上記例示からも明らかなように、分子中にオルガノシロキシ基を有さない。この点で以下に説明する(B)成分とは異なるものである。
【0031】
[(B)メソゲン基含有ポリオルガノシロキサン]
本発明における(B)成分は、下記式(1)で表されるメソゲン基含有ポリオルガノシロキサンである。
【化7】
(前記式(1)において、Rは、互いに独立して炭素数1~12のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、及び炭素数7~12のアラルキル基から選ばれる基又は水酸基を示し、pは、シロキサン構造の繰り返し単位を示し、0~100の整数であり、Rは、互いに独立して下記式(2)または式(3)を示す。)
【0032】
式(1)において、Rは、互いに独立して炭素数1~12、好ましくは炭素数1~8のアルキル基、炭素数6~12、好ましくは6~9のアリール基、及び炭素数7~12、好ましくは7~10のアラルキル基から選ばれる基、又は水酸基が挙げられる。その具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、n-デシル基等の直鎖又は分岐鎖アルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基等のアラルキル基等が挙げられる。中でも、メチル基又はフェニル基が好ましい。
【0033】
pは、シロキサン構造の繰り返し単位を示し、0~100の整数、好ましくは0~40、さらに好ましくは0~10であり、p=1が特に好ましい。
【0034】
式(1)において、Rは、互いに独立して下記式(2)または(3)である。
【化8】
【化9】
(前記式(2)及び前記式(3)において、RおよびRは、互いに独立して、水素原子、又は炭素数1~10の1価の炭化水素基を示し、Lは、前記式(1)との連結基であって、炭素数1~12の2価の炭化水素基であり、a及びbは、前記式(2)及び前記式(3)におけるフェニル基の置換基の数を表し、0~4の整数であり、Gは、グリシジル基である。)
【0035】
式(2)及び(3)において、RおよびRは、互いに独立して、水素原子、又は炭素数1~10の1価の炭化水素基を示す。
【0036】
炭素数1~10の1価の炭化水素基としては、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~10のアリール基、及び炭素数7~10のアラルキル基から選ばれる基であり、その具体例は前述のものが挙げられる。
【0037】
a及びbは、式(2)及び(3)におけるフェニル基の置換基の数を表し、0~4の整数を示す。
【0038】
式(2)及び(3)におけるGは、グリシジル基(2,3-エポキシプロピル基)である。
【0039】
式(2)及び(3)におけるLは、式(1)との連結基であって、炭素数1~12の2価の炭化水素基である。
【0040】
2価の炭化水素基としては、炭素数1~12のアルキレン基、炭素数6~12のアリーレン基、及び炭素数7~12のアラルキレン基が挙げられる。
【0041】
炭素数1~12のアルキレン基としては、直鎖、分岐鎖、環状のいずれでもよく、その具体例としては、n-ペンチレン基、n-ヘキシレン基、n-ヘプチレン基、n-オクチレン基、2-エチルヘキシレン基、n-デシレン基、n-ウンデシレン基、n-ドデシレン基等の直鎖又は分岐鎖アルキレン基が挙げられる。
【0042】
また、前記アルキレン基は、分子鎖の途中に1個以上のエーテル結合を有してもよい。具体的には、エチレンオキシ基、プロピレンオキシ基、ブチレンオキシ基等のエーテル結合を含む基であり、エーテル結合が複数あってもよい。
【0043】
炭素数6~12のアリーレン基としては、o-フェニレン基、m-フェニレン基、p-フェニレン基、3,5-トリレン基、2,4-トリレン基、2,6-トリレン基、1,2-ナフチレン基、1,8-ナフチレン基、2,3-ナフチレン基、4,4’-ビフェニレン基等が挙げられる。
【0044】
炭素数7~12のアラルキレン基としては、o-キシリレン基、m-キシリレン基、p-キシリレン基等が挙げられる。
【0045】
上記式(1)におけるRは、さらに好ましくは下記式(4)である。
【化10】
(式(4)において、cは、シロキサン骨格との連結基の炭素数を示し、0~6の整数であり、点線は、式(1)との連結箇所を示す。R、R、a、及びbは前記と同じである。)
【0046】
cは、式(4)におけるシロキサン骨格との連結基の炭素数を示し、0~6の整数であり、好ましくはc=1である。
【0047】
点線は、式(1)との連結箇所を示す。
【0048】
本発明における(B)メソゲン基含有ポリオルガノシロキサンは、数平均分子量が500~100,000であることが好ましく、より好ましくは500~50,000であり、500~20,000がさらに好ましい。この範囲であれば、両末端のエポキシ基が硬化剤と反応し、硬化物を得るのに十分な分子量となる。なお、前記数平均分子量とは、以下の測定条件によるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定においてポリスチレン標準物質換算における数平均分子量を指すものとする。
【0049】
[測定条件]
展開溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流量:0.6mL/min
検出器:示差屈折率検出器(RI)
カラム:TSK Guardcolumn SuperH-H
TSKgel SuperHM-N(6.0mmI.D.×15cm×1)
TSKgel SuperH2500(6.0mmI.D.×15cm×1)
(いずれも東ソー社製)
カラム温度:40℃
試料注入量:50μL(濃度0.3質量%のTHF溶液)
【0050】
本発明における(B)メソゲン基含有ポリオルガノシロキサンは、エポキシ当量(g/モル)が、300~5,000g/モルが好ましく、400~2,500g/モルがより好ましい。この範囲であれば、両末端のエポキシ基が後述する(C)エポキシ樹脂硬化剤と反応し、良好な物性の硬化物を得るのに十分な量となる。エポキシ当量(g/モル)は、1,4-ジオキサンに溶解させた所定質量の試料に塩酸を加え、水酸化ナトリウム水溶液を用いて逆滴定することで算出できる。
【0051】
低分子環状シロキサン類については、国際公開第2016/111104号等に記載されているように、様々な不具合が生じる可能性があり、低減することが好ましい。(B)成分において、好ましくは、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)を総量で0ppmを超え、3,000ppm以下含むもの、より好ましくは0.1~2,000ppm、さらに好ましくは0.1~1,000ppm含むものが使用できる。
【0052】
上記低分子環状シロキサン類(D3~D6)の量は、(B)成分を有機溶媒によって抽出及び希釈した試料を用いて、ガスクロマトグラフィー(GC)によって定量した値である。また、前記「0ppmを超え」とは、前記方法で定量した際に、わずかでもピークとして検出された場合「0ppmを超え」とみなす。
【0053】
[(C)エポキシ樹脂硬化剤]
本発明における(C)エポキシ樹脂硬化剤は、エポキシ樹脂と反応し硬化させることが可能な公知の硬化剤を用いることができる。この硬化剤は、硬化剤の分子中の反応性官能基(アミノ基、フェノール性水酸基、酸無水物基、メルカプト基など)と、(A)成分及び(B)成分中のエポキシ基とを反応させ、三次元架橋構造の硬化物とするために添加される。
【0054】
(C)成分としては、例えば、アミン系硬化剤、フェノール系硬化剤、酸無水物系硬化剤、チオール系硬化剤等が挙げられる。
【0055】
これらの中でも、アミン系硬化剤が好ましく、アミン系硬化剤としては、例えば、芳香族ポリアミン、脂肪族ポリアミン、ポリアミドアミン、ポリエーテルポリアミンなどが挙げられる。さらに好ましくは、芳香族ポリアミンである。
【0056】
芳香族ポリアミンとしては、下記式(I)~(IV)の化合物が挙げられる。
【化11】
(式(I)~(IV)中、Rは、互いに独立に、水素原子、又は炭素数1~6の1価のアルキル基であり、R’は、互いに独立に、水素原子、炭素数1~12の1価のアルキル基、フェニル基、又はアミノフェニル基であり、2つのR’が結合して環構造を形成してもよい。)
【0057】
芳香族ポリアミンの具体例としては、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’-テトラエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン等の芳香族ジアミノジフェニルメタン化合物、2,4-ジアミノトルエン、1,4-ジアミノベンゼン、1,3-ジアミノベンゼン等が挙げられる。これらを1種単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0058】
本発明において、(A)成分を100質量部とした場合、(B)成分は5~20質量部であり、好ましくは10~20質量部であり、(C)成分は1~20質量部、好ましくは1~10質量部である。(B)成分又は(C)成分の質量部が20質量部を超えると、エポキシ樹脂の硬化物としての強度が低下し、接着力が十分に得られなくなる。また、Tgが低下するため、耐熱性も低下する。(B)成分の質量部が5質量部未満であると、所望の(B)成分添加効果が小さくなる。(C)成分の質量部が1質量部未満であると所望の(C)成分添加効果が小さくなる。
【0059】
[その他の成分]
本発明のエポキシ樹脂組成物は、さらに(D)充填剤を含めてもよい。充填剤としては、例えば、溶融シリカ、結晶性シリカ、クリストバライト等のシリカ類、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム等の金属酸化物類などが挙げられ、1種単独でも2種以上を併用してもよい。中でも、入手容易性や品質の安定性の観点から、好ましくはシリカ類である。平均粒径は、好ましくは0.1~50μmであり、用途に応じて選択することができる。平均粒径は、例えばレーザー回折法で測定される体積平均粒径であればよい。
【0060】
上記充填剤は、シランカップリング剤等のカップリング剤で予め表面処理されることが好ましい。なお、表面処理に用いるカップリング剤の配合量及び表面処理方法については特に制限されるものではない。
【0061】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、必要に応じて本発明の目的に従い、その他の添加剤を添加することができる。添加剤としては、反応性希釈剤、硬化促進剤、難燃剤、イオントラップ剤、酸化防止剤、接着助剤、着色剤、及びカップリング剤等が挙げられる。
【0062】
本発明におけるエポキシ樹脂組成物の製造方法は、例えば、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分を、加熱処理を行いながら、同時に混合、攪拌、溶解及び分散させることにより組成物を得ることができる。また、(A)成分、(B)成分、または(C)成分を、別々に加熱処理を行いながら、混合、攪拌、溶解及び分散させることにより、組成物を得ることができる。好ましくは、(B)成分及び(C)成分を加熱処理しながら、混合、攪拌、溶解及び分散させ、その後(A)成分を加えることにより(B)成分がよく分散した組成物を得ることができる。
【0063】
また、必要に応じて、(D)成分及び/またはその他添加剤を加えてもよい。(A)成分、(B)成分、及び(C)成分に追加して、同時にまたは別々に加熱処理を行いながら、混合、攪拌、溶解及び分散してもよい。または、(B)成分、及び(C)成分を加熱処理しながら、混合、攪拌、溶解及び分散させ、その後(A)成分と同時に(D)成分及び/またはその他添加剤を加えてもよい。
【0064】
本発明におけるエポキシ樹脂組成物の硬化条件は特に制限されないが、例えば60~200℃、好ましくは80~180℃の温度で、30分~10時間、好ましくは1~5時間加熱すればよい。また、反応を効率的に行うために、例えば、1~5段階に分けて低い温度から高い温度で上記の時間加熱してもよい。
【実施例0065】
以下、実施例、比較例、及び合成例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0066】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂:三菱ケミカル社製 jER828EL
(エポキシ当量:186g/mol、粘度:13,000mPa・s)
(以下、DGEBAとする。)
アミン系硬化剤:東京化成工業社製 4、4’-ジアミノジフェニルメタン
(N-H当量:49.6g/mol)
(以下、DDMとする。)
【0067】
[合成例1]SMエポキシ樹脂の合成方法
ガラス製反応機にエタノール360mL、p-アミノフェノール17.9g(0.164mol)、4-アリルオキシベンズアルデヒド20g(0.164mol)と少量の塩化亜鉛を加え、60℃のオイルバスで4時間反応後、冷蔵庫で2時間静置して析出した結晶をろ別し、4-((4-アリルオキシ)ベンジリデンアミノ)フェノール27gを得た。
次に、500mlセパラブルフラスコに、得られた4-((4-アリルオキシ)ベンジリデンアミノ)フェノール7g(0.033mol)、ジメチルスルホキシド5mL、37gのエピクロルヒドリン(0.394mol)、少量のテトラ-n-ブチル塩化アンモニウムを加え、60℃で2時間反応させた後、50%水酸化ナトリウム水溶液3.16g(0.04mol)を1時間かけて滴下し、更に3時間反応させた。得られた溶液を冷却して析出した結晶をろ別し、蒸留水で充分に洗浄した後、乾燥させ、4-((4-アリルオキシ)ベンジリデンアミノ)フェノールグリシジルエーテル3.9gを得た。
4-((4-アリルオキシ)ベンジリデンアミノ)フェノールグリシジルエーテル2g(6.5mmol)をセパラブルフラスコに取り、40mLの1,4-ジオキサンに溶解させた。さらに、1,1,3,3,5,5-ヘキサメチルトリシロキサン0.667g(3.24mmol)と1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン白金錯体0.02g(0.06mmol)を加え、オイルバスの温度を90℃に上昇させて6時間加熱攪拌した。
反応溶液を冷却し、析出した結晶をろ別してメタノールで充分洗浄して、白色の結晶を得た。得られたSMエポキシ樹脂の低分子環状シロキサン類(D3~D6)の量を測定したところ、いずれも検出限界以下であった。
【0068】
[実施例1~3]
脱泡処理したDGEBA、合成例1のSMエポキシ樹脂をアルミカップに入れ、粘度の低下を目的として130℃のホットプレート上で加熱した。続いて、化学当量のDDMをもう一方のアルミカップに入れ、同温度のホットプレート上で完全融解するまで攪拌した。その後、融解させたDDMを、DGEBA及び合成例1のSMエポキシ樹脂の入ったアルミカップに加え、5分間攪拌して組成物を作製した。
その後、上記組成物の入ったアルミカップを120℃で2時間、150℃で2時間、さらに180℃で2時間の3段階で加熱硬化させた。なお、昇温速度は5℃/minとした。配合量及び硬化物の物性を表1に記載した。
【0069】
[実施例4]
合成例1のSMエポキシ樹脂及び融解させた全エポキシに対して化学当量のDDMをアルミカップに加え、140℃のホットプレート上で15分間攪拌した。続いて、脱泡処理したDGEBAをもう一方のアルミカップに入れ、粘度の低下を目的として、同温度のホットプレート上で加熱した。その後、粘度低下したDGEBAを、合成例1のSMエポキシ樹脂及びDDMの入ったアルミカップに加え、2分間加熱攪拌し、組成物を作製した。
その後、上記組成物の入ったアルミカップを恒温槽にて、120℃で2時間、150℃で2時間、さらに180℃で2時間の3段階で加熱硬化させた。なお、昇温速度は5℃/minとした。配合量及び硬化物の物性を表1に記載した。
【0070】
[比較例1]
脱泡処理したDGEBAをアルミカップに入れ、粘度の低下を目的として130℃のホットプレート上で加熱した。続いて、化学当量のDDMをもう一方のアルミカップに入れ、同温度のホットプレート上で完全融解するまで攪拌した。その後、融解させたDDMをDGEBAの入ったアルミカップに加え、5分間攪拌し、組成物を作製した。
その後、上記組成物の入ったアルミカップを恒温槽にて、120℃で2時間、150℃で2時間、さらに180℃で2時間の3段階で加熱硬化させた。なお、昇温速度は5℃/minとした。配合量及び硬化物の物性を表1に記載した。
【0071】
[動的粘弾性測定]
実施例1~4及び比較例1の硬化物を、長さ30mm×幅4.0mm×厚さ0.40mmの試験片サイズにカットし、UBM社製Rheogel-E40000にて、温度範囲-150~250℃、正弦波、昇温速度2.5℃/min、引張モード、周波数10Hzの条件で測定した。得られた結果に対して、損失弾性率(G”)/貯蔵弾性率(G’)である損失正接tanδのピークトップをTgとした。
【0072】
[引張試験]
実施例1~4及び比較例1の硬化物を、長さ30mm×幅2.0mm×厚さ2.0mmの試験片サイズにカットした。島津製作所社製AGS-Jにて、ヘッドスピード2mm/minの条件で、その試験片の破断強度及び破断伸びを測定した。破断強度及び破断伸びは、N=5の平均値とした。
【0073】
【表1】
【0074】
[実施例5~8、比較例2]
[引張せん断接着試験]
軟鋼板をアセトンに浸して、30分間超音波洗浄した。次に、軟鋼板を#240の研磨紙を取り付けた電動サンダで研磨して表面の酸化膜を取り除き、アセトンに浸して30分間の超音波洗浄を2回行った。その後、軟鋼板の端から62.5mmの部分にあて板(長さ25mm×幅25mm×厚さ1.6mm)を張り付けた。そして、各実施例にて調製した組成物を軟鋼板の端から12.5mmまで塗布し、もう1枚の軟鋼板を重ね合わせて、ホットプレスを用いて5MPaで120℃、2時間加熱した。その後、恒温槽にて試験片に重り(重さ:1700g、圧力:960Pa)を乗せ、150℃で2時間加熱後に、5℃/minの昇温速度で180℃まで昇温し、180℃で2時間加熱硬化して試験片を作成した。徐冷後、試験片を取り出し、接合部からはみ出た樹脂をカッターナイフで取り除いた。
得られた試験片は、島津製作所社製AGS-Xにて、JIS K6850:1999に記載の方法により、ヘッドスピード50mm/minの条件で引張せん断接着試験を行った。引張せん断強度及び破断伸びは、N=5の平均値とした。破壊形態は目視によって確認した。評価に用いた組成物及び引張せん断接着試験の結果を表2に記載した。
【0075】
【表2】
【0076】
実施例5~8では、比較例2と比べて、本発明のエポキシ樹脂組成物からなる硬化物において引張せん断接着試験による引張せん断強度と破断伸びの増加が見られたことから、本発明のエポキシ樹脂組成物の有用性が示された。
【0077】
本明細書は以下の態様を包含する。
[1]:エポキシ樹脂組成物であって、
(A)エポキシ基を1分子内に2つ以上含むエポキシ樹脂:100質量部、
(B)下記式(1)で表されるメソゲン基含有ポリオルガノシロキサン:5~20質量部、
(C)エポキシ樹脂硬化剤:1~20質量部
を含むものであることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【化12】
(前記式(1)において、Rは、互いに独立して炭素数1~12のアルキル基、炭素数6~12のアリール基、及び炭素数7~12のアラルキル基から選ばれる基又は水酸基を示し、pは、シロキサン構造の繰り返し単位を示し、0~100の整数であり、Rは、互いに独立して下記式(2)または式(3)を示し、
【化13】
【化14】
前記式(2)及び前記式(3)において、RおよびRは、互いに独立して、水素原子、又は炭素数1~10の1価の炭化水素基を示し、Lは、前記式(1)との連結基であって、炭素数1~12の2価の炭化水素基であり、a及びbは、前記式(2)及び前記式(3)におけるフェニル基の置換基の数を表し、0~4の整数であり、Gは、グリシジル基である。)
[2]:前記式(1)で表される前記メソゲン基含有ポリオルガノシロキサンのポリスチレン標準物質換算における数平均分子量が、500~100,000であることを特徴とする上記[1]のエポキシ樹脂組成物。
[3]:前記式(1)で表される前記メソゲン基含有ポリオルガノシロキサンのエポキシ当量(g/モル)が、300~5,000g/モルであることを特徴とする上記[1]又は上記[2]のエポキシ樹脂組成物。
[4]:前記式(1)で表される前記メソゲン基含有ポリオルガノシロキサンが、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)を総量で3,000ppm以下含むものであることを特徴とする上記[1]、上記[2]又は上記[3]のエポキシ樹脂組成物。
[5]:前記(A)エポキシ樹脂が、ビスフェノール型エポキシ樹脂であることを特徴とする上記[1]、上記[2]、上記[3]又は上記[4]のエポキシ樹脂組成物。
[6]:前記(C)エポキシ樹脂硬化剤が、アミン系硬化剤であることを特徴とする上記[1]、上記[2]、上記[3]、上記[4]又は上記[5]のエポキシ樹脂組成物。
[7]:さらに(D)充填剤を含むものであることを特徴とする上記[1]、上記[2]、上記[3]、上記[4]、上記[5]又は上記[6]のエポキシ樹脂組成物。
【0078】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。