(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059291
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】持続性口腔用ゲル組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4425 20060101AFI20240423BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20240423BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20240423BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20240423BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240423BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20240423BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20240423BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20240423BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20240423BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240423BHJP
【FI】
A61K31/4425
A61P1/02
A61P31/16
A61P31/14
A61P31/04
A61P31/10
A61P31/12
A61K9/06
A61K47/38
A61K47/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022166888
(22)【出願日】2022-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002480
【氏名又は名称】弁理士法人IPアシスト
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 千春
(72)【発明者】
【氏名】國井 理恵子
(72)【発明者】
【氏名】矢後 亮太朗
(72)【発明者】
【氏名】佐野 英彦
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076BB22
4C076CC32
4C076CC35
4C076DD38
4C076EE32
4C076FF31
4C076FF52
4C086AA01
4C086BC17
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA28
4C086MA57
4C086NA09
4C086NA10
4C086NA12
4C086ZA67
4C086ZB33
4C086ZB35
(57)【要約】
【課題】
インフルエンザウイルス及び又はコロナウイルスの感染予防に有効な持続性口腔用ゲル組成物を提供する。
【解決手段】
0.0125~0.5質量%のCPC及び10~30質量%のヒドロキシエチルセルロースを含有する持続性口腔用ゲル組成である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.0125~0.5質量%のCPC及び10~30質量%のヒドロキシエチルセルロースを含有する持続性口腔用ゲル組成物。
【請求項2】
0.0125~0.5質量%のCPC、10~70質量%の水及び20~30質量%のヒドロキシエチルセルロースを含有する持続性口腔用ゲル組成物。
【請求項3】
0.0125~0.5質量%のCPC、20~60質量%のグリセリン、20~30質量%のヒドロキシエチルセルロース及び10~59.9875質量%の水からなる持続性口腔用ゲル組成物。
【請求項4】
0.0125~0.5質量%のCPC、20~60質量%のグリセリン及び20~30質量%のヒドロキシエチルセルロースと、合計で10~59.9875質量%の水及び甘味料又は香料とからなる持続性口腔用ゲル組成物。
【請求項5】
グリセリン含有量が60質量%であり、ヒドロキシエチルセルロース含有量が20質量%である、請求項4に記載の持続性口腔用ゲル組成物。
【請求項6】
グリセリン含有量が20質量%であり、ヒドロキシエチルセルロース含有量が20質量%である、請求項4に記載の持続性口腔用ゲル組成物。
【請求項7】
インフルエンザウイルスおよびコロナウイルスに対する感染予防するための請求項1又は請求項2に記載の持続性口腔用ゲル組成物。
【請求項8】
インフルエンザウイルスおよびコロナウイルスに対する感染予防するための請求項1又は請求項2に記載の持続性口腔用ゲル組成物からなる口腔用製剤。
【請求項9】
ウイルス、細菌及び真菌に対して感染予防するための請求項1又は請求項2に記載の持続性口腔用ゲル組成物からなる口腔用製剤。
【請求項10】
有効成分と20~30質量%のヒドロキシエチルセルロースとを含有する持続性口腔用ゲル組成物であって、ヒドロキシエチルセルロースの粘度が2%濃度で80~6000mPa・sである、前記組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化セチルピリジニウム(CPC)を含有しヒドロキシエチルセルロースを成分とする持続性口腔用ゲル組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、塩化セチルピリジニウム(CPC)は、第4級アンモニウムのカチオン界面活性剤であり、歯磨剤、洗口剤、トローチ、口腔ケア用品など、歯科の分野で広く用いられている。その成分量により殺菌、防カビ、防腐を目的として添加される。最近では2019年に中国・武漢市で新型コロナウイルス(COVIDー19)の患者が確認されてからまたたく間に世界中に拡散し、世界保健機構(WHO)は2020年3月にパンデミック宣言を行った。そしてワクチンやレムデシビルのような薬剤が開発されたが、2022年7月の現在まで新型コロナウイルスの終息には至っていない。このような状況下、人々はマスクをして三密(密閉・密集・密接)を避けるという感染や飛沫に対する知識を身に付け日常の行動すべてにおいて感染予防を徹底することが常識となった。一方、特許文献1において塩化セチルピリジニウムの殺ウイルス活性が報告され、非特許文献1では塩化セチルピリジニウム含有の洗口剤やトローチなどを用いて、ブラッシングや洗口によるウイルス量減少効果をモデリングアプローチしている。更に非特許文献2の2021年10月25日付けの大正製薬ニュースリリースでは熊本大学の共同研究で実施したin vitro試験においてCPCを0.0125%以上の濃度で5分間暴露させることにより、新型コロナウイルスを99%以上不活性化することを確認している。特許文献2ではインフルエンザウイルスやヒトヘルペスウイルスなどの抗エンベロープウイルス用口腔用組成物が開示されている。新型コロナウイルスは生体内のACE2受容体に結合し、感染するといわれておりACE2受容体は体内の様々な場所に存在し、口腔内にも分布している。非特許文献1では口腔内でとくにACE2受容体の発現が多い部位として、舌粘膜や唾液腺が挙げられると記述している。これらのことから口腔内に長く留まり、CPCが長く放出される組成物が望まれている。しかしながら、CPCは水溶性のため容易に流出してしまい、持続性のあるCPC含有口腔用組成物はまだ見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5189291号
【特許文献2】特開2022-60747
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】the Quintessence,Vol.39 No.11,102-110(2020)
【非特許文献2】大正製薬ニュースリリース(2021年10月25日付) URL; https://www.taisho.co.jp/company/news/2021/20211025000848.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、若い人のみならず、幼児、小児、高齢者、介護が必要な人の口腔ケア、特に冬季の加湿を必要とする幼児や小児、口腔乾燥しやすい高齢者や介護を必要とする人には、口腔化粧品が使用されている。これらの中には水分以外、保湿を担当している生体成分を補給するため、セラミド・尿素・ヒアルロン酸などが入っており、また表面からの水分の蒸散を防ぐため表面を覆う、ワセリン・グリセリンなどが入っている。しかし口腔内は皮膚と異なり粘膜が主体で、穴だらけで色々な物質を吸収しやすい。従って新型コロナウイルスやインフルエンザウイルス、細菌や真菌などに効果を示すためには口腔内の粘膜に水分とともにCPCが持続的に供給されることが重要な課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
これらの課題を解決するために水、アルコール、グリセリン、プロピレングリコール、ヒアルロン酸ナトリウム、ワセリン、トレハロース、ヒドロキシエチルセルロース、オブラート、片栗粉、粉寒天などの組み合わせを検討した結果、0.0125~0.5質量%のCPC及び10~30質量%のヒドロキシエチルセルロースを含有する口腔用ゲル組成物が持続性に有用であることを見出し、この発明を完成させた。
【0007】
本発明は、例えば以下に記載の発明を包含する。
項1.0.0125~0.5質量%のCPC及び10~30質量%のヒドロキシエチルセルロースを含有する持続性口腔用ゲル組成物。
項2.0.0125~0.5質量%のCPC、10~70質量%の水及び20~30質量%のヒドロキシエチルセルロースを含有する持続性口腔用ゲル組成物。
項3.0.0125~0.5質量%のCPC、20~60質量%のグリセリン、20~30質量%のヒドロキシエチルセルロース及び10~59.9875質量%の水からなる持続性口腔用ゲル組成物。
項4.0.0125~0.5質量%のCPC、20~60質量%のグリセリン及び20~30質量%のヒドロキシエチルセルロースと、合計で10~59.9875質量%の水及び甘味料又は香料とからなる持続性口腔用ゲル組成物。
項5.グリセリン含有量が60質量%であり、ヒドロキシエチルセルロース含有量が20質量%である、項4に記載の持続性口腔用ゲル組成物。
項6.グリセリン含有量が20質量%であり、ヒドロキシエチルセルロース含有量が20質量%である、項4に記載の持続性口腔用ゲル組成物。
項7.インフルエンザウイルスおよびコロナウイルスに対する感染予防するための項1又は項2に記載の持続性口腔用ゲル組成物。
項8.インフルエンザウイルスおよびコロナウイルスに対する感染予防するための項1又は項2に記載の持続性口腔用ゲル組成物からなる口腔用製剤。
項9.ウイルス、細菌及び真菌に対して感染予防するための項1又は項2に記載の持続性口腔用ゲル組成物からなる口腔用製剤。
項10.有効成分と20~30質量%のヒドロキシエチルセルロースとを含有する持続性口腔用ゲル組成物であって、ヒドロキシエチルセルロースの粘度が2%濃度で80~6000mPa・sである、前記組成物。
【発明の効果】
【0008】
口腔や咽喉粘膜に塗布して使用することができ、持続的にCPCを放出して抗ウイルスを
発揮する口腔用持続性ゲル組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本発明に包含される実施形態についてさらに詳細に説明する。本発明の口腔用持続性ゲル組成物は、0.0125~0.5質量%のCPCおよび10~30質量%のヒドロキシエチルセルロースが含まれていることが必須成分であるが、これらに限定されるわけでなく口腔用化粧品で用いられている成分すべてを包含する。
【0010】
本発明で用いられる塩化セチルピリジニウム(CPC)は、組成物全量に対して0.0125~0.5質量%を含有させることができる。当該含有量の範囲は、例えば0.0125,0.025,0.05,0.1,0.15,0.2,0.25、0.3,0.35,0.4,0.45,0.5質量%が挙げられ、0.025~0.5質量%が好ましく、0.05~0.4質量%が特に好ましい。ヒドロキシエチルセルロースは10~30質量%が好ましく、20~30質量%が特に好ましい。
【0011】
本発明に用いられる水は塩化セチルピリジニウムの可溶剤でその配合量は通常、組成物全量に対して10~70質量%である。
【0012】
本発明に用いられるヒドロキシエチルセルロースは、水に不溶なセルロースにエチレンオキシドを付加し、ヒドロキヒドロキシエチル基を修飾したもので水に分散し、増粘剤として有用なものである。使用するヒドロキシエチルセルロースの粘度に特に制限はないが好適には2%水溶液、温度20℃で、60~6000mPa・s、80~3000mPa・s、110~1000mPa・s、100~300mPa・sであり、特に好適には100~300mPa・sである。なお、ヒドロキシエチルセルロースの粘度は濃度及びエチレンオキシドの付加度と関連し、濃度と付加度も特に制限されない。このヒドロキシエチルセルロースを組成物全量に対して10~30質量%含有させることが好ましく、特に20~30質量%が好ましい。口腔用製剤としては洗口液剤、ゲル剤、錠剤、トローチ剤、ジェル剤、ガム剤、軟膏剤、ペースト剤、スプレー剤などを挙げられ、それらの中でも舌下錠剤、トローチ剤、ガム剤、軟膏、ペースト剤、ゲル剤若しくはジェル剤が好ましく、特にゲル剤若しくはジェル剤が好ましい。
【0013】
本発明の持続性口腔用ゲル組成物は、効果を損なわない範囲で、口腔用組成物として知られている既存の任意成分を単独または2種以上配合してもよい。
【0014】
例えば、これらの成分としては、エチルアルコール、グリセリン、プロピレングリコール、ブチレングリコール,ヒアルロン酸ナトリウム、ワセリン、トレハロース,ナトリウムカルボキシメチルセルロース、オブラート、片栗粉、粉寒天、キシリトールなど単独又は2種以上の組み合わせで配合することができる。これらの中では、エチルアルコール、グリセリン、プロピレングリコールが特に好適であり、単独または2種以上の組み合わせて組成物全量に対して例えば10~60質量%配合することができる。
【0015】
また、甘味剤として、例えば、砂糖、蜂蜜、マルチトール、ソルビトール、サッカリンナトリウム、ステビア、アセスルファムカリウム、スクラロース、アスパラテーム、L-フェニルアラニン化合物などを用いることができる。これらは、全質量に対して例えば0.01~1.0質量%配合することができる。
【0016】
また、香料として、例えば、バニリン、シンナムアルデヒド、リモネン、メントール、アネトール、オイゲノール、シトロネール、リナロール、チモール、ペパーミント油、レモン油、オレンジ油、セージ油、ローズマリー油、ケイヒ油、シソ油、ユーカリ油、ハッカ油などを用いることができる。これらは単独又は2種以上をくみあわせて組成物全量に対して例えば0.01~2.0質量%配合することができる。
【0017】
更に、防腐剤として、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベンなどのパラベン類、安息香酸ナトリウム、フェノキシエタノールなどを配合することができる。
【0018】
本発明のCPC含有組成物を、ゲル剤若しくはジェル剤としてはヒトオリゴペプチド、タンパク質系のゼラチン、糖質系の寒天、カラギーナン、ペクチン、ホエイタンパク質、ラクトフェリン、ポリアクリル酸Na,イノシトール、グリセリン、グリチルリチン酸アンモニウム、乳酸Ca,クエン酸、クエン酸Na,リン酸2Na,リン酸などを単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。錠剤としては乳酸、でん粉、結晶セルロース、マンニトール、ヒプロメローズ、ポピドン、アラビアゴム、無水ケイ酸、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ショ糖、ヒプロメロースなど単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。トローチ剤としてはショ糖、D-マンニトール、ゼラチン、カルメロースNa、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、カンゾウエキス、アラビアガム、デキストリン、緑茶末、エチルバニリン、バニリンなど単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。ガム剤としてはマルチトール、ガムベース、アラビアガム、キシリトール、、アスパラテーム、L-フェニルアラニン化合物、リン酸1水素カルシウム、ヘスペリジンなど単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。軟膏剤としては白色ワセリン、親水ワセリン、ホエイタンパク質など単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。スプレー剤としてはキシリトール、マルチトール、ヒアルロン酸Na、トレハロース、寒天、クエン酸、クエン酸Na,ミリスチン酸ポリグリセリル、植物エキスなど単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。必要に応じて、液化ガスまたは圧縮ガスとともに容器に充填する。
【0019】
以下に試験例及び実施例と比較例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
[試験例1.]
CPC0.25gを蒸留水に溶解し100ml水溶液を作成した。この0.25%CPC水溶液を更に蒸留水40倍希釈し,0.00625%CPC水溶液を作成した。次いで高速液体クロマトグラフィー(HPLC):
カラム:Inertial@ODS-3Vバリデーションカラム(内径4.6mm,長さ150mm,粒子径5μm);ガードカラム:Inertial@ODS-3ガードカラム(内径4.0mm,長さ20mm,粒子径5μm);溶離液:70%アセトニトリル/0.1M過塩素酸ナトリウム水溶液;流速:1.0ml/min;カラム温度:40℃; 検出:UV258nm;注入量:5,10,15μlで検量線を作成した(表1)。
【0020】
表1.UV258nmで各CPC濃度での保持時間(RT)と面積(HPLC)
【表1】
【実施例0021】
0.25gのCPCを水20mlに溶解し、グリセリン60g、ヒドロキシエチルセルロース20gを加え、0.25質量%のCPC組成物を調製した。実施例1~7において使用したヒドロキシエチルセルロースの粘度は、2%水溶液、温度20℃で100~300mPa・sであった。
実施例1と同様にして0.25gのCPCを水10mlに溶解し、グリセリン80g、ヒドロキシエチルセルロース10gを加えて混合することで0.25質量%のCPC組成物を調製した。