(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059398
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】人工肛門デバイス
(51)【国際特許分類】
A61F 5/445 20060101AFI20240423BHJP
【FI】
A61F5/445
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167057
(22)【出願日】2022-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】八木 雅和
(72)【発明者】
【氏名】杉原 達哉
(72)【発明者】
【氏名】桝田 浩禎
(72)【発明者】
【氏名】宮川 繁
(72)【発明者】
【氏名】横田 純己
(72)【発明者】
【氏名】小▲濱▼ 和貴
(72)【発明者】
【氏名】岡田 倫明
(72)【発明者】
【氏名】谷 亮太朗
【テーマコード(参考)】
4C098
【Fターム(参考)】
4C098AA09
4C098CC40
4C098CD10
(57)【要約】
【課題】 全く新しい方法で排便を制御することができる人工肛門デバイスを提供する。
【解決手段】 患者の人工肛門の周囲の皮膚に固定される面板と、前記面板に着脱可能に装着されて、前記患者の腸管内の排泄物を外界から遮断するカバーと、前記カバーに取り付けられた基端部、及び、前記腸管内に挿入される先端部を有するシャフトと、前記シャフトの前記先端部に取り付けられ、膨張により前記腸管を閉塞するバルーンと、を具備することを特徴とする人工肛門デバイス。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の人工肛門の周囲の皮膚に固定される面板と、
前記面板に着脱可能に装着されて、前記患者の腸管内の排泄物を外界から遮断するカバーと、
前記カバーに取り付けられた基端部、及び、前記腸管内に挿入される先端部を有するシャフトと、
前記シャフトの前記先端部に取り付けられ、膨張により前記腸管を閉塞するバルーンと、
を具備することを特徴とする人工肛門デバイス。
【請求項2】
前記バルーンが、前記シャフトからの流体の供給に応じて前記腸管の形状に追従しつつ膨張すること、
を特徴とする請求項1に記載の人工肛門デバイス。
【請求項3】
前記バルーンが前記シャフトの前記先端部を覆うように前記シャフトに取り付けられ、前記シャフトからの流体の供給に応じて前記腸管の深部に向かって膨張すること、
を特徴とする請求項1に記載の人工肛門デバイス。
【請求項4】
前記シャフトに前記流体を供給する供給部を更に具備すること、
を特徴とする請求項1に記載の人工肛門デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工肛門を有する患者によって装着される人工肛門デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
人工肛門は、大腸癌や炎症性腸疾患などで肛門・直腸機能を温存できなくなった患者に対し造設される。本邦における人工肛門患者は約20万人と言われており、毎年約32000件の人工肛門造設術が施行されているが、高齢化や食生活の欧米化に伴いこれらは増加の一途をたどっている。
【0003】
人工肛門は、小腸ないしは大腸を、腹壁を貫いて体表面に露出させることにより造設される。従来の人工肛門は腸管の途中がそのまま体表面に露出しているだけであるので、本来の肛門括約筋のような排便を制御する機構を持ち合わせておらず、産生された便を腸管内に留めておくことができない。
【0004】
現在の人工肛門患者は、このような状況に対し、ストーマパウチと呼ばれるビニールの袋を人工肛門の周囲に貼付し、便を受け止め、ある一定量便が溜まったらこれを廃棄するという生活を強いられている。これらパウチによる便の処理は万全とは言い難く、パウチが皮膚表面から剥がれて便が漏れ出てきたり、便臭やストーマからのガスによる放屁の様な音があったりするため、人工肛門患者は生活の質を著しく損なっているのが現状である。特に若年の人工肛門患者においては、人工肛門の影響で仕事を休職せざるを得ないことも多く、就労機会を奪うことにつながっている。
【0005】
この点、特許文献1(特許第4309687号公報)は、排泄を行う時を制御するべく、風船状のシール部材と、キャップと、面板からなる接着手段と、膨張手段と、ベース部材を有する取付手段と、処分パウチと、チューブからなる拡張手段と、を備えるオストミー装置を開示している。
しかしながら、特許文献1のオストミー装置は多くの構成パーツを含み、取り扱いに手間がかかるため利便性に問題がある。また、チューブを風船状のシール部材内に挿入する際にシール部材が破損する可能性がある。
また、特許文献2(特表2012-533335号公報)は、ストーマパウチに代わるデバイスとして、人工肛門に特殊な装置を埋め込むような形で排便を制御するデバイスが提案されている。かかる技術については、従来の手術術式の大きな変更が必要であることや、便という易感染物質が通過する部位に人工物を埋め込まなければならないといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4309687号公報
【特許文献2】特表2012-533335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を重ね、全く新しい方法で排便を制御するデバイスを開発し、発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、
患者の人工肛門の周囲の皮膚に固定される面板と、
前記面板に着脱可能に装着されて、前記患者の腸管内の排泄物を外界から遮断するカバーと、
前記カバーに取り付けられた基端部、及び、前記腸管内に挿入される先端部を有するシャフトと、
前記シャフトの前記先端部に取り付けられ、膨張により前記腸管を閉塞するバルーンと、
を具備することを特徴とする人工肛門デバイス、を提供する。
【0009】
また、本発明の人工肛門デバイスでは、前記バルーンが、前記シャフトからの流体の供給に応じて前記腸管の形状に追従しつつ膨張すること、が好ましい。
【0010】
本発明の人工肛門デバイスでは、前記バルーンが前記シャフトの前記先端部を覆うように前記シャフトに取り付けられ、前記シャフトからの流体の供給に応じて前記腸管の深部に向かって膨張すること、が好ましい。
【0011】
また、本発明の人工肛門デバイスは、前記シャフトに前記流体を供給する供給部を更に具備すること、が好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、人工肛門デバイスは、主に、面板と、一体化されたカバー、シャフト及びバルーンの2パーツから構成され、取り扱いが簡便である。すなわち、面板を固定し、一体化されたカバー、シャフト及びバルーンを装着し、流体をバルーンに注入するだけで、排便を制御することができる。このとき、シャフト及びバルーンは一体として腸管内に挿入されるため、バルーンを損傷しにくい。したがって、人工肛門を有する患者の生活の質を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態に係る人工肛門デバイス1の概略を示す断面図である。
【
図2】人工肛門91の概略を示す断面図及び前面図である。
【
図3】人工肛門91の周囲の皮膚93に面板11を取り付けた状態を示す断面図及び前面図である。
【
図4】面板11に、シャフト15及びバルーン17が一体化されたカバー13を装着する様子を示す断面図である。
【
図5】面板11に、シャフト15及びバルーン17が一体化されたカバー13を装着した様子を示す断面図及び前面図である。
【
図6】人工肛門デバイス1に流体を注入する様子を示す断面図である。
【
図7】面板11から、シャフト15及びバルーン17が一体化されたカバー13を取り外す様子を示す断面図である。
【
図8】排泄パーツ21を面板11に取り付け、又は排泄パーツ21を面板11から取り外す様子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る人工肛門デバイスの代表的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、理解容易のために寸法、比又は数を誇張又は簡略化して表している場合がある。
【0015】
人工肛門デバイス1は、人工肛門91を有する患者によって利用される。人工肛門デバイス1は、人工肛門の種類は問わず、小腸ストーマ(イレオストミー)に対しても結腸ストーマ(コロストミー)に対しても利用可能である。
図1に示すように、人工肛門デバイス1は、面板11、カバー13、シャフト15、及びバルーン17を具備する。以下、上記構成要素を順に説明する。
【0016】
面板11は、人工肛門91の周囲に人工肛門デバイス1を固定するための板状のパーツである。すなわち、面板11は、人工肛門91の周囲の皮膚93(腹壁)に貼り付けられる。したがって、面板11は皮膚93側に粘着面(図示せず)を有する。
【0017】
例えば
図3(A),(B)に示すように、面板11の中央部には、人工肛門91を通すための孔113が形成されている。孔113は、人工肛門91の大きさに合わせて自由にカットできる自由開孔、予め決まったサイズにカットされている既製孔、指で孔113のサイズを調整できる自在孔のいずれでもよい。すなわち、孔113の種類は、人工肛門91の高さや周囲の皮膚93の状態に応じて適宜選択されてよい。
【0018】
面板11は、平らな粘着面を有する平面型、凸型の粘着面を有する凸面型、凹型の粘着面を有する凹面型のいずれでもよい。すなわち、面板11の形状は、人工肛門91及びその周囲の形状に応じて適宜選択されてよい。なお、面板11は、現在汎用されているストーマパウチの取り付けも可能なものとしてもよい。
【0019】
面板11は、皮膚保護剤を含有、塗布又はコーティングされていてよい。皮膚保護剤は、排泄・分泌物の皮膚93接触を防止し、皮膚93を生理的に保つ作用を有する。また、面板11の外周は、皮膚保護剤を含有する粘着テープで皮膚93と固定されていてもよい。
【0020】
面板11は、カバー13との接続のためのフランジ111を有する。フランジ111は、面板11から隆起する突起である。本実施形態では、フランジ111は、孔113を囲うように環状に繋がっているが、途切れていてもかまわない。
【0021】
面板11は、例えば、既存のストーマ装具の面板の材料と同じ材料で作製することができる。また、面板11は、例えば、既存のストーマ装具の面板の寸法と略同じ寸法で作製することができる。
【0022】
次いで、カバー13を説明する。
カバー13は、腸管92内の便などの排泄物95を人工肛門デバイス1の外部と遮断するドーム状のパーツである。カバー13は、面板11に着脱可能に装着される。カバー13は、面板11と接続するために、フランジ111と嵌り合う嵌合部131を有する。
【0023】
カバー13には、人工肛門デバイス1の外部とシャフト15とを連通する流路133が形成されていてもよい。
図6に例示するように、流路133は、シリンジ等の供給部81から供給された流体をシャフト15に送り込む。ここで、流体として例えば空気又は水が好適に利用可能であるが、これらに限られない。
【0024】
カバー13の内面からはシャフト15が延びている。
シャフト15は、
図1に示すように、カバー13に取り付けられた基端部151と、腸管92内に挿入される先端部153と、を有する。シャフト15は、好適にはカバー13と一体化される。シャフト15は中空の棒状体であり長尺状筒体ということもでき、人工肛門デバイス1の外部から供給された流体を基端部151から先端部153に流す。
流路133からシャフト15に送り込まれた流体を先端部153からバルーン17に供給するため、先端部153に開口部が形成されていること又は先端部153が流体を透過する素材で形成されていることが好ましい。
【0025】
シャフト15の長さは、腸管92への挿入のしやすさの観点から決定されてよい。すなわち、シャフト15の腸管92への挿入時に、先端部153が皮膚93の間に位置するように、シャフト15の長さが決定されるとよい。シャフト15の先端部153が腹腔94に相当する位置まで到達すると、腸管92の屈曲具合によっては、シャフト15が腸管92を傷つけたり、あるいはバルーン17を破損したりする可能性がある。したがって、シャフト15の長さはおよそ50mm-70mmであることが好ましく、とりわけ55mm-65mmであることが好適である。
シャフト15の太さ(外径)は、腸管92への挿入のしやすさ及び腸管92の損傷の防止の観点から決定されてよい。例えば短径約3cmの腸管(小腸の腸管)に対しては、シャフト15の太さはおよそ8mm-10mmであることが好適である。
【0026】
シャフト15の硬度もまた、腸管92への挿入のしやすさの観点から決定されてよい。すなわち、シャフト15が柔らかすぎると、容易に折れ曲がって腸管92へ挿入しにくく、シャフト15が硬すぎると、腸管92を傷つけ又はバルーン17を損傷する可能性がある。したがって、シャフト15の硬度はおよそ50-70であることが好ましく、とりわけ55-65であることが好適である。ここで、硬度は、模擬腸管を用いたデバイス挿入の試験法での測定による。
【0027】
シャフト15は、例えば医療用シリコンなどの、既存の医療用樹脂材料で作製され得る。医療用シリコンとしては、例えば富士システムズ株式会社製のファイコン製品群が好適である。
【0028】
次いで、バルーン17を説明する。
バルーン17は、腸管92を閉鎖して排泄物95をせき止めるパーツである。すなわち、バルーン17は、シャフト15に取り付けられて、膨張により腸管92を閉塞する。
【0029】
バルーン17は、シャフト15の先端部153を覆うようにシャフト15の外周面に取り付けられて、シャフト15と一体化されていることが好ましい。すなわち、バルーン17は、基端部151側でシャフト15と固定され、バルーン17の先端は、シャフト15に固定されていないことが好ましい。この構成により、バルーン17は、シャフト15からの流体の供給に応じて腸管92の形状に追従しつつ膨張する(
図6参照)。あるいは、バルーン17は、腸管92の深部あるいは腹腔94側に向かって膨張すると言ってもよい。
【0030】
これにより、バルーン17の腸管壁への密着性が高まり、腸管92内の排泄物95の外部へのリークを抑制する能力が高まる。例えば、腸管92の内圧が40mmHg(これは生理的に腸管壊死をきたし得る値である)まで上昇したとしても、バルーン17に30mmHg(これは腸管壁に圧挫傷を起こさないほぼ上限の値である)ほどの内圧をかけることで、リークの発生を抑制することが可能である。また、腸の種類及び状態によらず、ほぼ同様のバルーン17の内圧(およそ30mmHg)でリークの抑制が可能である。しかも、バルーン17の内圧を一定に保ちさえすれば、バルーン17を操作するための溶媒は液体、気体を問わない。
【0031】
例えば短径約3cmの腸管(小腸の腸管)に対して、バルーン17の短径はおよそ10mm-30mmであることが好ましく、とりわけ15mm-25mmであることが好ましい。
また、バルーン17は、流体の注入により、短径において5mm-15mmほど拡張可能であることが好ましく、また、長径においても5mm-15mmほど拡張可能であることが好ましい。更に、バルーン17は、シャフト15の先端153から深部側に少なくとも1cm突出ないし膨張することが好ましい。バルーン17の深部側への膨張に特段の上限はないが、例えば3cmほどの膨張があれば排泄物95のリークの抑制かつ腸管92の保護が可能である。
【0032】
バルーン17は、気密性及び伸縮性を有する樹脂材料で構成されており、例えばポリアミド、ポリエーテル ブロック アミド[PEBA]、PET、EVA、低/高デュロメータ値ポリウレタンなどの、既存の医療用樹脂材料で作製され得る。また、バルーン17の厚みの範囲は0.25mm-0.5mmであることが好ましい。
【0033】
このように、カバー13,シャフト15及びバルーン17は、一体化された1つのパーツとして構成される。したがって、人工肛門デバイス1は主に、面板11と、シャフト15及びバルーン17が一体化されたカバー13と、の2パーツで構成され得る。すなわち、人工肛門デバイス1は部品点数が少なくシンプルで、容易に取り扱うことができる。
【0034】
人工肛門デバイス1は更に、流路133又はシャフト15に流体を供給するための供給部81を具備してもよい(
図6参照)。供給部81としては、シリンジ又はピペットが挙げられるが、これらに限られない。供給部81は、流路133又はシャフト15に着脱可能でもよいし、流路133又はシャフト15に固定されていてもよい。
【0035】
人工肛門デバイス1は更に、バルーン17の内圧を計測する圧力センサ(図示せず)を設けてもよい。
人工肛門デバイス1は、計測されたバルーン17の内圧値を記録するデータロガー(図示せず)を更に備えてもよい。圧力センサ又はデータロガーは、計測データを外部のコンピュータに出力する機能を有してもよい。外部コンピュータとしては、例えばデスクトップコンピュータ、ラップトップコンピュータ、タブレットコンピュータ、スマートフォン、ウェアラブルデバイスが挙げられるが、これらに限られない。
また、人工肛門デバイス1は、腸管92に対して酸素分圧測定による血流評価を行う測定器(図示せず)を更に備えてもよい。測定データ又は評価結果は上記のデータロガーに記録されてもよいし、外部のコンピュータに出力されてもよい。
また、人工肛門デバイス1は、計測されたバルーン17の内圧値が予め設定された閾値を超えると患者、その家族、又は医療関係者に警報するアラーム(図示せず)を更に備えてもよい。アラームは、カバー13の面板11への装着の継続時間を記録し、所定の時間が経過すると警報を発してもよい。
【0036】
人工肛門デバイス1は、排泄のために利用される排泄パーツ21を更に設けてもよい。
図8に例示するように、排泄パーツ21は、排泄物95を収容する袋体である。排泄パーツ21は、面板11のフランジ111と着脱自在に接続する部分23を有し、シャフト15及びバルーン17が一体化されたカバー13を面板11から取り外した後に、面板11に装着される。
【0037】
バルーン17の内圧を保持するために、シャフト15又はカバー13の流路133に保持機構(図示せず)が適宜設けられてもよい。保持機構としては、例えば弁体又は栓が挙げられるが、これらに限られない。
【0038】
図2-
図8を参照して、人工肛門デバイス1の使用方法を説明する。
【0039】
人工肛門デバイス1を準備するとともに、人工肛門91及びその周囲の皮膚93を拭いて清浄にする(
図2参照)。
次いで、
図3に示すように人工肛門91の周囲の皮膚93に面板11を貼り付ける。
【0040】
図4に示すように、フランジ111に嵌合部131を嵌め込むことで、カバー13を面板11に装着する。
このとき、カバー13、シャフト15及びバルーン17は一体化しているので、カバー13の面板11への装着とともに、バルーン17が腸管92内に挿入される(
図5参照)。
図6に示すように、供給部81から流路133及びシャフト15を介して流体をバルーン17に供給することで、バルーン17を膨らませる。このとき、バルーン17は、その先端がシャフト15に固定されていないため、腸管92の深部に向かって膨張することができる。したがって、膨張したバルーン17は効果的に腸管92を閉塞し、排泄物95を腸管92内に閉じ込める。
【0041】
腸管92内に排泄物95がたまると、排泄物95の排泄が行われる。すなわち、バルーン17から流体を流出させてバルーン17を萎ませ、シャフト15及びバルーン17が一体化されたカバー13を面板11から取り外す(
図7参照)。
そして、面板11に排泄パーツ21を装着し(
図8参照)、人工肛門91から排泄パーツ21へ排泄物95を排泄する。
【0042】
排泄後、人工肛門91、その周囲の皮膚93、及び面板11を拭いて清浄にし、新たな又は清浄にされた使用中のシャフト15及びバルーン17が一体化されたカバー13を面板11に装着する。あるいは、使用済みの面板11を取り外し、人工肛門デバイス1を準備して人工肛門91に装着してもよい。
【0043】
このように、排泄のための面板11と、排泄物95をせき止めるためのカバー13(シャフト15及びバルーン17が一体化されたカバー13)と、が一体となったデバイスは、従来のストーマパウチに対して革新的な優位性を持つ。
すなわち、面板を固定し、一体化されたカバー、シャフト及びバルーンを装着し、流体をバルーンに注入するだけで、排便を制御することができるので、取り扱いが簡便である。このとき、シャフト及びバルーンは一体として腸管内に挿入されるため、バルーンを損傷しにくい。したがって、人工肛門を有する患者の生活の質を改善することができる。
また、構成パーツが少なく、製造コストを抑制することができるため、患者の経済的負担を軽減することが期待される。
【0044】
また、バルーン17の形状が円筒状になっており、またバルーン17の先端がシャフト15に固定されていない。これらにより腸管92への密着性が増し、腸管92を損傷せず便漏れを抑制する効果をもたらす。なお、バルーン17の形状はこれに限定されるものではなく、先端部が丸みを帯びていてもよいし、全体が丸みを帯びていてもよい。
【0045】
したがって、本実施形態に係る人工肛門デバイス1を用いることで、ストーマパウチは不要となり、患者は排泄物95が外に漏れだす心配をしないで済むし、便臭や放屁の問題も解決できる。この点、従来のストーマパウチでは排泄の際にストーマ袋から便を絞り出し、ストーマ袋の出口を洗浄して密閉する作業が必要である。人工肛門デバイス1ではその作業が不要となり、排泄が簡便となる。
【0046】
人工肛門デバイス1は、従来の人工肛門にそのまま装着が可能である。この点、ストーマパウチに代わるデバイスとして、人工肛門に特殊な機械を埋め込むような形で排便を制御するデバイスが提案されているものの、製品化には至っていない。かかる技術は、従来の手術術式の大きな変更が必要であることや、便という易感染物質が通過する部位に人工物を埋め込まなければならないといった課題がある。人工肛門デバイス1は、手術術式の変更を必要とせず、したがって、上記のデバイスに対しても革新的な優位性を持つ。
【0047】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、かかる設計変更した態様も全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0048】
1 人工肛門デバイス
11 面板
13 カバー
15 シャフト
17 バルーン
91 人工肛門
92 腸管