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特開2024-59492コロナウイルス感染症の予後を予測するための、データの取得方法およびキット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059492
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】コロナウイルス感染症の予後を予測するための、データの取得方法およびキット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6851 20180101AFI20240423BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20240423BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20240423BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240423BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20240423BHJP
【FI】
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6869 Z
G01N33/53 B
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167185
(22)【出願日】2022-10-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業」「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の網羅的遺伝子・タンパク発現解析を用いた新規分子病態バイオマーカー開発と臨床応用」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】松本 寿健
(72)【発明者】
【氏名】吉村 旬平
(72)【発明者】
【氏名】小倉 裕司
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ53
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR62
4B063QR66
4B063QS10
4B063QS14
4B063QS25
4B063QS36
4B063QS39
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】コロナウイルス感染症患者の予後を予測するために利用できる、データの取得方法およびキットを提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る、コロナウイルス感染症の予後を予測するためのデータの取得方法は、生体から採取した生体サンプルにおける、PRLの発現量、TLR3の発現量、および、PRLの発現量とTLR3の発現量との比、のいずれか一つ以上を検出する工程を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体から採取した生体サンプルにおける、PRLの発現量、TLR3の発現量、および、PRLの発現量とTLR3の発現量との比、のいずれか1つ以上を検出する工程を有する、コロナウイルス感染症の予後を予測するためのデータの取得方法。
【請求項2】
上記コロナウイルス感染症は、COVID-19、または、重症呼吸器症候群(SARS)である、請求項1に記載のデータの取得方法。
【請求項3】
上記生体における、死亡、重症化、または、回復を予測するための、請求項1に記載のデータの取得方法。
【請求項4】
上記生体サンプルは、血液、唾液、尿、喀痰、気管支肺胞洗浄液、鼻汁、髄液、尿、または、便である、請求項1に記載のデータの取得方法。
【請求項5】
上記生体は、コロナウイルス感染症におけるフェイズ1以前の生体である、請求項1に記載のデータの取得方法。
【請求項6】
PRLの発現量を検出するための物品、および、TLR3の発現量を検出するための物品からなる群から選択される少なくとも1つを備えている、コロナウイルス感染症の予後を予測するためのキット。
【請求項7】
上記PRLの発現量を検出するための物品は、PRLのmRNAを検出するためのプローブ若しくはプライマー、または、PRLのタンパク質を認識する抗体であり、
上記TLR3の発現量を検出するための物品は、TLR3のmRNAを検出するためのプローブ若しくはプライマー、または、TLR3のタンパク質を認識する抗体である、請求項6に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロナウイルス感染症の予後を予測するための、データの取得方法およびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
コロナウイルス感染症の一種であるCOVID-19が世界中に拡大し、2020年1月30日に、世界保健機関(WHO)によってパンデミックが宣言された。日本では、2020年1月に患者が報告されてから、患者数は急激に増加している。
【0003】
COVID-19の特徴的な症状として、呼吸器の症状が挙げられる。例えば、患者において上気道炎が発症し、当該上気道炎が進行すると、肺炎を発症して呼吸不全に陥ることがある。
【0004】
より具体的に、COVID-19では、ウイルスが血中に移行すると、当該ウイルスが、病原体関連分子パターン(PAMPs)として、免疫担当細胞上のパターン認識受容体(例えば、Toll様受容体)に結合する。ウイルスがパターン認識受容体に結合すると、転写因子が活性化され、活性化された転写因子は核内のDNAに結合し、当該DNAからmRNAが転写され、当該mRNAからタンパク質が翻訳され、当該タンパク質(例えば、サイトカイン)によって炎症反応が進行する。COVID-19は、ウイルス性敗血症であると考えられており、患者の炎症反応が過剰になると、全身性炎症症候群を発症して多臓器障害をきたすと考えられている。
【0005】
それ故に、COVID-19の治療には、ビピラビルなどの抗ウイルス薬とともに、過剰な炎症を抑える抗炎症治療薬が用いられている。
【0006】
コロナウイルス感染症の予後は、患者によって多種多様である。コロナウイルス感染症の予後を早期に予測することができれば、臨床的に大きな意義がある。例えば、コロナウイルス感染症の患者が、将来、重症化、回復、または、死亡の何れの予後をたどる可能性が高いか早期に予測できれば、それに応じた治療計画を立てることが可能となり、医療現場の負担軽減につながる。それ故に、コロナウイルス感染症の予後を予測するための技術の開発が、強く求められている。
【0007】
このような状況下において、COVID-19の分子メカニズムの解明を目指す研究が多くなされている。非特許文献1に示されるように、COVID-19のバイオマーカーとして、血清フェリチン、プロカルシトニン、および、IL-6等が報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Velavan TP, Meyer CG. Mild versus severe COVID-19: Laboratory markers. Int J Infect Dis. 2020; 95: 304-307
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述したバイオマーカーを含む従来の技術は、コロナウイルス感染症の予後を予測することができない。
【0010】
本発明の一態様は、コロナウイルス感染症の予後を予測するための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、生体から採取した生体サンプルにおける、PRLの発現量、TLR3の発現量、または、PRLの発現量とTLR3の発現量との比を検出することで、コロナウイルス感染症の予後を予測することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明の一態様は、以下の構成を含む。
【0012】
〔1〕生体から採取した生体サンプルにおける、PRLの発現量、TLR3の発現量、および、PRLの発現量とTLR3の発現量との比、のいずれか1つ以上を検出する工程を有する、コロナウイルス感染症の予後を予測するためのデータの取得方法。
【0013】
〔2〕上記コロナウイルス感染症は、COVID-19、または、重症呼吸器症候群(SARS)である、〔1〕に記載のデータの取得方法。
【0014】
〔3〕上記生体における、死亡、重症化、または、回復を予測するための、〔1〕または〔2〕に記載のデータの取得方法。
【0015】
〔4〕上記生体サンプルは、血液、唾液、尿、喀痰、気管支肺胞洗浄液、鼻汁、髄液、尿、または、便である、〔1〕~〔3〕の何れかに記載のデータの取得方法。
【0016】
〔5〕上記生体は、コロナウイルス感染症におけるフェイズ1以前の生体である、〔1〕~〔4〕の何れかに記載のデータの取得方法。
【0017】
〔6〕PRLの発現量を検出するための物品、および、TLR3の発現量を検出するための物品からなる群から選択される少なくとも1つを備えている、コロナウイルス感染症の予後を予測するためのキット。
【0018】
〔7〕上記PRLの発現量を検出するための物品は、PRLのmRNAを検出するためのプローブ若しくはプライマー、または、PRLのタンパク質を認識する抗体であり、
上記TLR3の発現量を検出するための物品は、TLR3のmRNAを検出するためのプローブ若しくはプライマー、または、TLR3のタンパク質を認識する抗体である、〔6〕に記載のキット。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様によれば、コロナウイルス感染症の予後を予測するための技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】RNAシークエンシングを用いてmRNA発現の倍率変化解析および上流解析を行った結果、重症と非重症の間で有意に変化していたmRNAを示す図である。
図2】RNAシークエンシングを用いてmRNA発現の倍率変化解析および上流解析を行った結果、重症と非重症の間で有意に変化していたmRNAを示す図である。
図3】RNAシークエンシングを用いた解析の結果、重症と非重症の間で有意に変化していた31のmRNAについて、RT-qPCRを用いて再評価を行った結果を示す図である。
図4】検証集団内で、RT-qPCRを用いて5つの候補RNAの発現レベルを評価した結果を示す図である。
図5図5-501は、RNA表現型の候補指標としてPRL/TLR3比を評価するため、ROC曲線を用いて、タンパク質マーカー(CRPおよびFDP)ならびに重篤スコア(APACHE IIおよびSOFA)をPRL/TLR3と比較した結果を示す図である。図5-502は、RNA表現型の候補指標としてPRL、TLR3およびPRL/TLR3比を評価するため、重篤スコア(APACHE IIおよびSOFA)をPRL、TLR3およびPRL/TLR3比と比較した結果を示す図である。
図6図6-601~603は、PRL/TLR3比に基づく患者の転帰を比較した結果を示す図である。図6-604は、カプラン・マイヤー解析により、PRL/TLR3比と28日死亡率との関係性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一実施形態について説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態及び実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態及び実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。本明細書中、数値範囲に関して「A~B」と記載した場合、当該記載は「A以上B以下」を意図する。
【0022】
〔1.コロナウイルス感染症の予後を予測するためのデータの取得方法〕
本発明の一実施形態に係るコロナウイルス感染症の予後を予測するためのデータの取得方法は、生体から採取した生体サンプルにおける、PRLの発現量、TLR3の発現量、および、PRLの発現量とTLR3の発現量との比、のいずれか1つ以上を検出する工程を有する。
【0023】
本明細書中、「PRL」は、プロラクチン(Prolactin)の略称であり、「TLR3」は、Toll様受容体-3(Toll-like receptor 3)の略称である。
【0024】
本発明の一実施形態に係るコロナウイルス感染症の予後を予測するためのデータの取得方法によれば、生体の、死亡、重症化、または、回復を予測することができる。
【0025】
上記PRLの発現量が基準値よりも高ければ、生体は、重症化および/または死亡する可能性が高いと考えられる。一方、上記PRLの発現量が基準値よりも低ければ、生体は、回復する可能性が高いと考えられる。上記基準値としては、例えば、健常者から採取したサンプルにおけるPRLの発現量、基準となる対照サンプル(例えば、健常者から採取したサンプルにおけるPRLの発現量をもとに設定した、所定の濃度のmRNAまたはタンパク質を含む溶液)を用いることができる。
【0026】
より具体的に、PRLの発現量を「A」とし、基準値を「B」とする。例えば、「A>B」、「A≧1.5×B」、「A≧2.0×B」、「A≧5.0×B」または「A≧10.0×B」であれば、生体は、重症化および/または死亡する可能性が高いと考えられる。例えば、「B>A」、「B≧1.5×A」、「B≧2.0×A」、「B≧5.0×A」または「B≧10.0×A」であれば、生体は、回復する可能性が高いと考えられる。
【0027】
上記TLR3の発現量が基準値よりも低ければ、生体は、重症化および/または死亡する可能性が高いと考えられる。一方、上記TLR3の発現量が基準値よりも高ければ、生体は、回復する可能性が高いと考えられる。上記基準値としては、例えば、健常者から採取したサンプルにおけるTLR3の発現量、基準となる対照サンプル(例えば、健常者から採取したサンプルにおけるTLR3の発現量をもとに設定した、所定の濃度のmRNAまたはタンパク質を含む溶液)を用いることができる。
【0028】
より具体的に、基準値を「C」とし、TLR3の発現量を「D」とする。例えば、「C>D」、「C≧1.5×D」、「C≧2.0×D」、「C≧5.0×D」または「C≧10.0×D」であれば、生体は、重症化および/または死亡する可能性が高いと考えられる。例えば、「D>C」、「D≧1.5×C」、「D≧2.0×C」、「D≧5.0×C」または「D≧10.0×C」であれば、生体は、回復する可能性が高いと考えられる。
【0029】
上述した「B」および「C」の具体的な値は、後述する「F」の値を満たす値であればよく、各々、限定されない。
【0030】
上記PRLの発現量とTLR3の発現量との比が基準値よりも高ければ、生体は、重症化および/または死亡する可能性が高いと考えられる。一方、上記PRLの発現量とTLR3の発現量との比が基準値よりも低ければ、生体は、回復する可能性が高いと考えられる。上記基準値としては、例えば、健常者から採取したサンプルにおけるPRLの発現量とTLR3の発現量との比、基準となる対照サンプル(例えば、健常者から採取したサンプルにおけるPRLおよびTLR3の発現量をもとに設定した、所定の濃度のPRLまたはTLR3のmRNAまたはタンパク質を含む溶液)のPRL量とTLR3量との比を用いることができる。
【0031】
より具体的に、PRLの発現量とTLR3の発現量との比を「E」とし、基準値を「F」とする。例えば、「E>F」、「E≧1.5×F」、「E≧2.0×F」、「E≧5.0×F」または「E≧10.0×F」であれば、生体は、重症化および/または死亡する可能性が高いと考えられる。例えば、「F>E」、「F≧1.5×E」、「F≧2.0×E」、「F≧5.0×E」または「F≧10.0×E」であれば、生体は、回復する可能性が高いと考えられる。
【0032】
「F」の具体的な値は、50以上の任意の値、100以上の任意の値、150以上の任意の値、200以上の任意の値、250以上の任意の値、300以上の任意の値であってもよい。「F」の値の上限値は、限定されず、例えば、1000、500、400、または、300であってもよい。
【0033】
本実施の形態のデータの取得方法では、上記PRLの発現量は、PRLのmRNAの発現量、または、PRLのタンパク質の発現量であり得る。本実施の形態のデータの取得方法では、上記TLR3の発現量は、TLR3のmRNAの発現量、または、TLR3のタンパク質の発現量であり得る。コロナウイルス感染症の予後をより正確に予測するという観点から、上記PRLの発現量は、PRLのmRNAの発現量であることが好ましく、上記TLR3の発現量は、TLR3のmRNAの発現量であることが好ましい。
【0034】
上記PRLのmRNAの発現量、TLR3のmRNAの発現量、PRLのタンパク質の発現量、および、TLR3のタンパク質の発現量を検出する方法は、限定されず、公知の方法を用いることができる。上記PRLのmRNAの発現量、および、TLR3のmRNAの発現量を検出する方法としては、例えば、RT-qPCR、RNAシークエンシング、ノーザンブロット法を挙げることができる。上記RLのタンパク質の発現量、および、TLR3のタンパク質の発現量を検出する方法としては、例えば、ELISA法、ウエスタンブロット法を挙げることができる。
【0035】
上記PRLのmRNAは、以下の(1)~(3)の何れかのポリヌクレオチドであってもよい:
(1)データベースGenbankにおけるアクセッション番号「Gene ID: 5617」(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/5617)の塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(2)上記アクセッション番号「Gene ID: 5617」の塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、PRL活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、または、
(3)上記アクセッション番号「Gene ID: 5617」の塩基配列と配列同一性が90%以上のポリヌクレオチドからなり、かつ、PRL活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【0036】
上記PRLのタンパク質は、以下の(4)~(6)の何れかのポリペプチドであってもよい:
(4)データベースUniProtにおけるアクセッション番号「P01236 ・ PRL_HUMAN」(https://www.uniprot.org/uniprotkb/P01236/entry)のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(5)上記アクセッション番号「P01236 ・ PRL_HUMAN」のアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、PRL活性を有するポリペプチド、または、
(6)上記アクセッション番号「P01236 ・ PRL_HUMAN」のアミノ酸配列と配列同一性が90%以上のポリペプチドからなり、かつ、PRL活性を有するポリペプチド。
【0037】
上記TLR3のmRNAは、以下の(7)~(9)の何れかのポリヌクレオチドであってもよい:
(7)データベースGenbankにおけるアクセッション番号「Gene ID: 7098」(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene?Db=gene&Cmd=DetailsSearch&Term=7098)の塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(8)上記アクセッション番号「Gene ID: 7098」の塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、TLR3活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、または、
(9)上記アクセッション番号「Gene ID: 7098」の塩基配列と配列同一性が90%以上のポリヌクレオチドからなり、かつ、TLR3活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【0038】
上記TLR3のタンパク質は、以下の(10)~(12)の何れかのポリペプチドであってもよい:
(10)データベースUniProtにおけるアクセッション番号「O15455 ・ TLR3_HUMAN」(https://www.uniprot.org/uniprotkb/O15455/entry)のアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(11)上記アクセッション番号「O15455 ・ TLR3_HUMAN」のアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、TLR3活性を有するポリペプチド、または、
(12)上記アクセッション番号「O15455 ・ TLR3_HUMAN」のアミノ酸配列と配列同一性が90%以上のポリペプチドからなり、かつ、TLR3活性を有するポリペプチド。
【0039】
上記アクセッション番号「Gene ID: 5617」で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドは、ヒトのPRLのmRNAに相当する。上記アクセッション番号「P01236 ・ PRL_HUMAN」で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、ヒトのPRLのタンパク質に相当する。上記アクセッション番号「Gene ID: 7098」で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドは、ヒトのTLR3のmRNAに相当する。上記アクセッション番号「O15455 ・ TLR3_HUMAN」で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、ヒトのTLR3のタンパク質に相当する。
【0040】
本明細書において、「PRL活性」とは、プロラクチンが有する生理活性のうちの少なくとも1つを意図する。プロラクチンが有する生理活性としては、例えば、タンパク質(例えば、カゼイン、ラクトアルブミン)の産生誘導、および、ラクトースの産生誘導が挙げられる。特定のポリペプチドが、プロラクチンが有する生理活性の少なくとも1つ(好ましくは2つ以上)を有していれば、当該特定のポリペプチドはPRL活性を有するポリペプチドである、と判断することができる。なお、プロラクチンが有する生理活性は、公知の方法によって測定することができる。
【0041】
本明細書において、「TLR3活性」とは、Toll様受容体-3が有する生理活性のうちの少なくとも1つを意図する。Toll様受容体-3が有する生理活性としては、例えば、インターフェロンの産生誘導、および、サイトカインの産生誘導が挙げられる。特定のポリペプチドが、Toll様受容体-3が有する生理活性の少なくとも1つ(好ましくは2つ以上)を有していれば、当該特定のポリペプチドはTLR3活性を有するポリペプチドである、と判断することができる。なお、Toll様受容体-3が有する生理活性は、公知の方法によって測定することができる。
【0042】
本明細書中で使用される場合、「ストリンジェントな条件」は、いわゆる塩基配列に特異的な2本鎖のポリヌクレオチドが形成され、非特異的な2本鎖のポリヌクレオチドが形成されない条件をいう。換言すれば、同一性が高い核酸同士が、例えば完全にマッチしたハイブリッドの融解温度(Tm値)から15℃、好ましくは10℃、更に好ましくは5℃低い温度までの範囲の温度でハイブリダイズする条件ともいえる。
【0043】
一例を示すと、0.25M NaHPO、pH7.2、7%SDS、1mM EDTA、1×デンハルト溶液からなる緩衝液中で温度が60~68℃、好ましくは65℃、さらに好ましくは68℃の条件下で16~24時間ハイブリダイズさせ、さらに20mM NaHPO、pH7.2、1%SDS、1mM EDTAからなる緩衝液中で温度が60~68℃、好ましくは65℃、さらに好ましくは68℃の条件下で15分間の洗浄を2回行う条件を挙げることができる。
【0044】
他の例としては、25%ホルムアミド、より厳しい条件では50%ホルムアミド、4×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)、50mM Hepes pH7.0、10×デンハルト溶液、20μg/mL変性サケ精子DNAを含むハイブリダイゼーション溶液中、42℃で一晩プレハイブリダイゼーションを行った後、標識したプローブを添加し、42℃で一晩保温することによりハイブリダイゼーションを行う。その後の洗浄における洗浄液および温度条件は、「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度で、より厳しい条件としては「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度で、さらに厳しい条件としては「0.2×SSC、0.1%SDS、65℃」程度で実施することができる。このようにハイブリダイゼーションの洗浄の条件が厳しくなるほど、特異性の高いハイブリダイズとなる。ただし、上記SSC、SDSおよび温度の条件の組み合わせは例示であり、当業者であれば、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する上記若しくは他の要素(例えば、プローブ濃度、プローブの長さ、ハイブリダイゼーション反応時間等)を適宜組み合わせることにより、上記と同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。このことは、例えば、Sambrookら、Molecular Cloning, A Laboratory Manual, 3rd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory(2001)等に記載されている。
【0045】
本明細書にて、「1個もしくは数個のアミノ酸」が意図するアミノ酸の数は特に限定されないが、50個以内、45個以内、40個以内、35個以内、30個以内、25個以内、20個以内、15個以内、10個以内、9個以内、8個以内、7個以内、6個以内、5個以内、4個以内、3個以内、2個以内、または、1個のアミノ酸であることが好ましい。アミノ酸配列中、アミノ酸が欠失、置換、欠失、挿入、および/または付加される位置は、特に限定されない。
【0046】
本明細書において、塩基配列の配列同一性、および、アミノ酸配列の配列同一性は、公知の方法にしたがって決定することができる。塩基配列の配列同一性、および、アミノ酸配列の配列同一性は、例えば、配列分析ツールであるBLASTによって、デフォルトパラメータを用いて算出され得る。同一性の検索は、例えば、NCBIのBLAST2.7.1(2017年10月19日に発行)を用いて行うことができる。塩基配列の同一性、および、アミノ酸配列の同一性は、共に、90%以上であることが好ましく、91%以上であることがより好ましく、92%以上であることがより好ましく、93%以上であることがより好ましく、94%以上であることがより好ましく、95%以上であることがより好ましく、96%以上であることがより好ましく、97%以上であることがより好ましく、98%以上であることがより好ましく、99%以上であることが最も好ましい。
【0047】
上記生体は、ヒトであってもよく、非ヒトである哺乳動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ウマなど)であってもよいが、ヒトであることが好ましい。
【0048】
上記生体は、コロナウイルス感染症の患者であり得る。コロナウイルス感染症の患者は、コロナウイルスを検出するためのPCR検査によって陽性と判定された患者であり得る。コロナウイルス感染症の患者は、CTスキャン等によって肺炎と診断された患者であり得る。コロナウイルス感染症の患者は、入院が必要であると診断された患者であってもよく、入院が不要であると診断された患者であってもよい。コロナウイルス感染症の患者は、酸素投与が必要と診断された患者であってもよく、酸素投与が不要と診断された患者であってもよい。コロナウイルス感染症の患者は、コロナウイルス感染症の重症患者であってもよく、コロナウイルス感染症の非重症患者であってもよい。コロナウイルス感染症の重症患者は、人工呼吸器による管理が必要であると診断された患者であり得る。コロナウイルス感染症の非重症患者は、人工呼吸器による管理が不要であると診断された患者であり得る。
【0049】
上記生体は、コロナウイルス感染症におけるフェイズ1以前の生体であることが好ましい。上記生体は、コロナウイルス感染症における発症日(例えば、発熱が観察された日)当日の生体であることがより好ましい。換言すれば、上記生体サンプルは、コロナウイルス感染症におけるフェイズ1以前の生体から採取されたものであることが好ましい。上記生体サンプルは、コロナウイルス感染症における発症日(例えば、発熱が観察された日)当日の生体から採取されたものであることがより好ましい。
【0050】
上記構成であれば、コロナウイルス感染症の初期において、予後を予測することができる。本明細書において、フェイズ1とは、入院した日を1日目としたときに、1日目~2日目の期間を意味する。本明細書において、フェイズ2とは、入院した日を1日目としたときに、6日目~14日目の期間を意味する。
【0051】
上記生体サンプルとしては、例えば、血液、唾液、尿、喀痰、気管支肺胞洗浄液、鼻汁、髄液、尿、または、便を挙げることができる。より正確に、かつ、容易にコロナウイルス感染症の予後を予測することができるという観点から、上記生体サンプルの中では、血液が好ましい。上記血液は、全血であってもよく、血漿であってもよく、血清であってもよいが、好ましくは全血である。
【0052】
本発明の一実施形態に係るデータの取得方法によって予後が予測されるコロナウイルス感染症は、COVID-19または重症呼吸器症候群(SARS)であることが好ましく、COVID-19であることがより好ましい。当該構成であれば、より正確にコロナウイルス感染症の予後を予測することができる。
【0053】
なお、COVID-19は、コロナウイルスSARS-CoV-2によって引き起こされる感染症である。一方、重症呼吸器症候群(SARS)は、コロナウイルスSARS-CoVによって引き起こされる感染症である。コロナウイルスSARS-CoV-2とコロナウイルスSARS-CoVとは類似のウイルスであり、COVID-19と重症呼吸器症候群(SARS)とは類似の感染症である。それ故に、本発明の一実施形態に係るデータの取得方法によれば、COVID-19および重症呼吸器症候群(SARS)の予後をより正確に予測することができる。
【0054】
〔2.キット〕
本発明の一実施形態に係るコロナウイルス感染症の予後を予測するためのキットは、PRLの発現量を検出するための物品、および、TLR3の発現量を検出するための物品からなる群から選択される少なくとも1つを備えている。
【0055】
本発明の一実施形態に係るコロナウイルス感染症の予後を予測するためのキットを用いれば、本発明の一実施形態に係るコロナウイルス感染症の予後を予測するためのデータの取得方法を実施することができ、これによって、コロナウイルス感染症の予後を予測することができる。
【0056】
〔1.コロナウイルス感染症の予後を予測するためのデータの取得方法〕において既に記載した事項については、以下では説明を省略する。
【0057】
本明細書において「キット」とは、任意の用途に用いられる、任意の試薬などの組み合わせであり得る。この用途は、医学用途であってもよいし、研究用途であってもよい。
【0058】
上記PRLの発現量を検出するための物品としては、PRLのmRNAを検出するためのプローブ若しくはプライマー、または、PRLのタンパク質を認識する抗体が挙げられる。
【0059】
上記PRLのmRNAを検出するためのプローブまたはプライマーは、例えば、RT-qPCR、RNAシークエンシング、ノーザンブロット法によってPRLのmRNAを検出するための、プローブまたはプライマーであり得る。
【0060】
より具体的に、上記PRLのmRNAを検出するためのプローブまたはプライマーは、例えば、RT-qPCR、RNAシークエンシング、ノーザンブロット法によって、以下の(1)~(3)の何れかのポリヌクレオチドを検出するためのプローブまたはプライマーであってもよい:
(1)データベースGenbankにおけるアクセッション番号「Gene ID: 5617」(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/5617)で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(2)上記アクセッション番号「Gene ID: 5617」で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、PRL活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、または、
(3)上記アクセッション番号「Gene ID: 5617」で表される塩基配列と配列同一性が90%以上のポリヌクレオチドからなり、かつ、PRL活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【0061】
上記PRLのタンパク質を認識する抗体は、例えば、ELISA法、ウエスタンブロット法によってPRLのタンパク質を検出するための、抗体であり得る。
【0062】
より具体的に、上記PRLのタンパク質を認識する抗体は、例えば、ELISA法、ウエスタンブロット法によって、以下の(4)~(6)の何れかのポリペプチドを検出するための抗体であってもよい:
(4)データベースUniProtにおけるアクセッション番号「P01236 ・ PRL_HUMAN」(https://www.uniprot.org/uniprotkb/P01236/entry)で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(5)上記アクセッション番号「P01236 ・ PRL_HUMAN」で表されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、PRL活性を有するポリペプチド、または、
(6)上記アクセッション番号「P01236 ・ PRL_HUMAN」で表されるアミノ酸配列と配列同一性が90%以上のポリペプチドからなり、かつ、PRL活性を有するポリペプチド。
【0063】
上記TLR3の発現量を検出するための物品としては、TLR3のmRNAを検出するためのプローブ若しくはプライマー、または、TLR3のタンパク質を認識する抗体が挙げられる。
【0064】
上記TLR3のmRNAを検出するためのプローブまたはプライマーは、例えば、RT-qPCR、RNAシークエンシング、ノーザンブロット法によってTLR3のmRNAを検出するための、プローブまたはプライマーであり得る。
【0065】
より具体的に、上記TLR3のmRNAを検出するためのプローブまたはプライマーは、例えば、RT-qPCR、RNAシークエンシング、ノーザンブロット法によって、以下の(7)~(9)の何れかのポリヌクレオチドを検出するためのプローブまたはプライマーであってもよい:
(7)データベースGenbankにおけるアクセッション番号「Gene ID: 7098」(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene?Db=gene&Cmd=DetailsSearch&Term=7098)で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(8)上記アクセッション番号「Gene ID: 7098」で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、TLR3活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、または、
(9)上記アクセッション番号「Gene ID: 7098」で表される塩基配列と配列同一性が90%以上のポリヌクレオチドからなり、かつ、TLR3活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【0066】
上記TLR3のタンパク質を認識する抗体は、例えば、ELISA法、ウエスタンブロット法によってTLR3のタンパク質を検出するための、抗体であり得る。
【0067】
より具体的に、上記TLR3のタンパク質を認識する抗体は、例えば、ELISA法、ウエスタンブロット法によって、以下の(10)~(12)の何れかのポリペプチドを検出するための抗体であってもよい:
(10)データベースUniProtにおけるアクセッション番号「O15455 ・ TLR3_HUMAN」(https://www.uniprot.org/uniprotkb/O15455/entry)で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(11)上記アクセッション番号「O15455 ・ TLR3_HUMAN」で表されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が、置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、TLR3活性を有するポリペプチド、または、
(12)上記アクセッション番号「O15455 ・ TLR3_HUMAN」で表されるアミノ酸配列と配列同一性が90%以上のポリペプチドからなり、かつ、TLR3活性を有するポリペプチド。
【0068】
上記プローブおよびプライマーの塩基配列および長さは、限定されず、適宜、設定され得る。
【0069】
上記抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、または、これらの断片(例えば、F(ab’)、Fab’、Fab、または、Fv)であってもよい。上記抗体は、IgA、IgD、IgE、IgG、IgM、または、これらの断片であってもよい。
【0070】
上記抗体は、周知の方法(例えば、(1)HarLowら、「Antibodies:A laboratory manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York(1988)」、および、(2)岩崎ら、「単クローン抗体 ハイブリドーマとELISA、講談社(1991)」)にしたがって作製することができる。
【0071】
モノクローナル抗体は、当該分野において周知の方法(例えば、(1)ハイブリドーマ法(Kohler,G.およびMilstein,C.,Nature 256,495-497(1975))、(2)トリオーマ法、(3)ヒトB細胞ハイブリドーマ法(Kozbor,Immunology Today 4,72(1983))、および、(4)EBV-ハイブリドーマ法(Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R Liss,Inc.,77-96(1985)))にしたがって作製することができる。
【0072】
キメラ抗体とは、定常領域がヒトの抗体の定常領域に置き換えられている抗体を意図する。キメラ抗体は、周知方法にしたがって作製され得る(例えば、欧州特許公開公報EP0125023を参照)。
【0073】
ヒト化抗体とは、H鎖およびL鎖の相補性決定領域(CDR:complementarity determining region)以外がヒトの抗体の構造に置き換えられている抗体を意図する。
【0074】
ヒト抗体とは、ヒトの抗体生産に関与する遺伝子が導入されたトランスジェニック動物を用いて作製された抗体を意図する(例えば、欧州特許公開公報EP0546073を参照)。
【0075】
F(ab’)、Fab’、Fab、および、Fvは、抗体の全体をプロテアーゼ(例えば、パパイン、または、ペプシン)によって分解し、必要に応じて、分解物を更に還元することによって得ることができる。また、F(ab’)、Fab’、Fab、および、Fvは、抗体を生産するハイブリドーマから、これらのcDNAを単離し、当該cDNAを発現ベクターに挿入し、当該発現ベクターを宿主に導入することによって得ることができる。この場合には、抗体フラグメントは、抗体フラグメントと別のタンパク質との融合タンパク質として得ることもできる。
【0076】
本発明の一実施形態に係るコロナウイルス感染症の予後を予測するためのキットは、上述した構成以外に、試薬および/または補助的な物質を備えていてもよい。本発明の一実施形態に係るコロナウイルス感染症の予後を予測するためのキットは、上述した構成、試薬および/または補助的な物質を格納する、1つ以上の格納容器(ボックス、ボトル、ディッシュなど)を備えていてもよい。本発明の一実施形態は、生体サンプルとして血液を用い得る。それ故に、一実施形態において、キットは、血液を採取するために注射器を備えていることが好ましい。
【0077】
〔3.その他〕
本発明は、以下のように構成することもできる。
【0078】
〔1〕生体における、PRLの発現量、TLR3の発現量、および、PRLの発現量とTLR3の発現量との比、のいずれか1つ以上を検出する工程を有する、コロナウイルス感染症の予後の予測方法。
【0079】
〔2〕上記コロナウイルス感染症は、COVID-19、または、重症呼吸器症候群(SARS)である、〔1〕に記載の予測方法。
【0080】
〔3〕上記生体における、死亡、重症化、または、回復を予測するための、〔1〕または〔2〕に記載の予測方法。
【0081】
〔4〕上記生体サンプルは、血液、唾液、尿、喀痰、気管支肺胞洗浄液、鼻汁、髄液、尿、または、便である、〔1〕~〔3〕の何れかに記載の予測方法。
【0082】
〔5〕上記生体は、コロナウイルス感染症におけるフェイズ1以前の生体である、〔1〕~〔4〕の何れかに記載の予測方法。
【0083】
本発明の一実施形態によれば、コロナウイルス感染症の予後を予測することができる。それ故に、本発明の一実施形態は、持続可能な開発目標(SDGs)の目標3「すべての人に健康と福祉を」の達成に貢献できる。
【実施例0084】
〔方法〕
本試験は、ヘルシンキ宣言の原則に従った。また、本試験は、大阪大学病院の施設内倫理委員会により承認された(許可番号:885[大阪大学クリティカルケアコンソーシアム新規オミックスプロジェクト;Occonomix Project])。全ての血液試料の採取の際には、当該患者もしくはその親族および当該健常ボランティアからのインフォームドコンセントを得た。
【0085】
〔集団データ〕
本発明者らは、2つの観察集団由来のデータを使用した:発見集団と検証集団である。患者フロー、試料、および解析について、以下に説明する。
【0086】
上記発見集団は、2020年7月から2021年2月に大阪大学医学部附属病院に入院したCOVID-19患者、および健常ボランティアから構成された。すべての患者は、SARS-CoV-2 RT-PCRおよび胸部コンピュータ断層撮影法を用いて、COVID-19に罹患していると診断された。患者は、臨床医によって直ちに急性呼吸不全を有していると認められ、またはICUに入院と判定され、他病院から移送された。臨床データは電子医療記録から収集され、性別、年齢、併存疾患、ボディマスインデックス(BMI)、入院時の臨床検査データ、入院時のP/F比、Sequential Organ Failure Assessment(SOFA)スコア、入院前のステロイド治療、入院開始からの日数および28日死亡率が含まれる。対照群は、発見集団のうち、一般のポスター広告を介して登録した健常ボランティア(HVs)から構成される。患者由来の血液試料は、1日目(大阪大学医学部附属病院への入院1日目)、および6~14日目に得た。また、上記HVs由来の血液試料は、1回採取した。全血RNA発現をRNAシークエンシングにより評価した。
【0087】
RNAの統計学的の結果に基づき、COVID-19患者にて、以下の31のRNAの顕著な発現変化がRNAシークエンシングにて検出された;ALOX15、CD177、CEBPB、CYP19A1、ERN1、FCER1A、HDC、IFNAR1、IFNG、IL18R1、IL1R2、IRF1、LGALS2、LINC00676、LINC01093、LRRC70、LRRN1、LRRN3、MAPK14、MYD88、NFKBIA、OLAH、OSM、PARP9、PID1、PRL、SELPLG、SPI1、STAT1、STAT3およびTLR3。上記31のRNAについて、Biomark HDを用いて定量RT-PCR(RT-qPCR)を行った。
【0088】
検証集団は、2021年3月から2021年10月に大阪大学医学部附属病院または大阪急性期・総合医療センターに入院したCOVID-19患者であって、ICUで治療を受け、1日目の血液試料が採取されたCOVID-19患者から構成される。全てのCOVID-19患者は、RT-PCRを用いてSARS-CoV-2を有していると診断され、また、コンピュータ断層撮影法を用いて肺炎に罹患していると診断された。人口統計学的変動(性別、年齢、併存疾患、BMI、入院時の臨床検査データ、入院時のP/F比、SOFAスコア、入院前のステロイド治療、入院開始からの日数および28日死亡率)は、上記患者の退院または死亡まで、1日目(大阪大学医学部附属病院または大阪急性期・総合医療センターへの入院日)および6~14日目に上記患者から収集された。血液試料は、解析まで-30℃で保存した。全血RNA発現は、上記発見集団と同様の方法(Biomark HD)を用いて測定した。
【0089】
COVID-19で入院している上記患者由来の血液の臨床検査は、各病院の中央検査室で体系的に実施された。
【0090】
〔疾患重篤度の定義:重症および非重症〕
Acuityスコアは、世界保健機関のordinal outcomes scale(COVID-19 Therapeutic Trial Synopsis. 「https://www.who.int/publications-detail-redirect/covid-19-therapeutic-trial-synopsis」参照)に基づき、A1:死亡、A2:人工呼吸器管理、生存、A3:酸素吸入を伴う入院、A4:酸素吸入を伴わない入院、A5:退院に分類された。疾患重篤度は、最大Acuityスコア(Acuity max1または2)に基づいて分類した。本発明者らは、本実施例の患者集団において、観察されたAcuity maxがA1またはA2の患者を「重症」、A3、4およびA5の患者を「非重症」と定義した。
【0091】
〔試料採取のタイミングの定義:フェイズ1およびフェイズ2〕
試料採取のタイミングは、3つの集団で異なる。それゆえ本発明者らは、理解しやすくするため、2つの異なるタイプの測定タイミングを定義した:フェイズ1(1~2日目)およびフェイズ2(6~14日目)である。本実施例では、1日目は入院日を参照する。
【0092】
〔臨床転帰の定義:早期回復および回復遅延〕
侵襲的人工呼吸管理(invasive mechanical ventilation, IMV)を伴うCOVID-19患者の30%近くが、長期化したIMVに起因して、気管切開を必要とする(Sancho et al., 2021)。長期化したIMV管理は、長期にわたる入院滞在およびICUリソースの莫大な使用につながり得、したがって、通常ICU管理を必要とする他の疾患の患者からベッドを奪うことにつながり得る。実際、COVID-19パンデミックの期間に、他の疾患由来の死亡率の増加が報告されている(Bodilsen et al., 2021; Kursumovic et al., 2021)。本発明者らは、本発明者らの先行研究の中で実施したように(Ebihara et al., 2022)、患者の臨床転帰を定義した;12日間以下IMVによって治療された、またはIMVによって治療されていない患者を早期回復とし、12日間より長くIMVによって治療された、または28日非生存であった患者を回復遅延とした。本発明者らは、派生集団のCOVID-19患者を、早期回復および回復遅延に基づいて2群に分け、評定した。
【0093】
〔RNAシークエンシング〕
RNA発現は、本発明者らの先行研究の中で実施した方法と同様の方法で評価した。簡潔には、発見集団にて、BD Bioscience社(San Jose, CA)のPAXgene(商品商標)血液RNAシステムを用いた白血球の全RNA分離を実施した;40人のフェイズ1およびフェイズ2のCOVID-19患者由来、並びに16人のHVs由来の白血球の全RNAである。解析に用いる全ての血液試料は、採血管に収集し、さらなる解析まで-30℃で保存した。Illumina社の(San Diego, CA)TruSeq鎖状mRNA試料プレップキットを用い、製造者の取扱説明書に従ってライブラリ調製を実施した。
【0094】
BD Bioscience社(San Jose, CA)のPAXgene(商品商標)血液RNAシステムを用いた白血球の全RNA分離を実施した。SMART-Seq HT Kit(Takara Bio, Mountain View, CA)を用い、製造者の取扱説明書に従って全長cDNAを作製した。Illumina社のNexteraDNAライブラリ調製キット(Illumina)を用い、SMARTerキットの取扱説明書に従って、Illuminaライブラリを調製した。DNAライブラリは、MGIEasyユニバーサルライブラリ変換キット(App-A社)を用いて、DNBSEQのためのライブラリに変換した。DNBSEQ-G400RSプラットフォーム上、2×100塩基対-エンドモードにてシークエンシングを実施した。
【0095】
シークエンスされた読み取り結果を、Bowtie2,version2.2.3およびSAMtools,version0.1.19と組み合わせたTopHat,version2.0.13を用いて、ヒト参照ゲノム(hg19)にマッピングした。マッピングされたフラグメント100万当たりのエキソンキロベース当たりのフラグメントを、Cufflinks,version2.2.1を用いて算出した。遺伝子-レベル発現粗読み取りカウントを、featureCountsを用いて算出し、DESeqアルゴリズムを用いて比較RNA発現レベルを算出した。
【0096】
〔定量RT-PCR(RT-qPCR)〕
RT-qPCRは、先行研究を若干改良した(McGrath et al., 2022;Magray et al., 2022)、Biomark HD(商品商標)微小流体システム(Fluidigm社)で実施した。当該システムは、1回の試験で評定するために、個々のcDNA試料および48の個々のプライマーがセットされ、選択された試料から標的遺伝子を増幅するqPCR技術を用いるものである。
【0097】
Fluidigm社の手順により、HVsのcDNA試料由来およびCOVID-19患者のcDNA試料由来の標的遺伝子の予備的増幅を実施した。簡潔には、各々のプライマー濃度が500nMであるプライマーストック(プライマーは、Integrated DNA Technology社から100μMストックで供給された)を作製するため、各々のプライマー(フォワードおよびリバース)1μlを152μlの核酸が含まれていない水と混合し、単一のプライマープールを作製した。続いて、105.6μlのPreAmpマスターミックス(Fluidigm社)、132.0μlの上記500nMプライマープールおよび158.4μlの核酸が含まれていない水を含むマスターミックスを調製した。96ウェルPCRプレート中、適切なウェルに3.75μlの上記マスターミックスを添加した。上記ウェルに、1.25μlの適切なcDNAを添加した。以下の条件下で、SimpliAmpサーマルサイクラー(Thermo Fisher Scientific社)を用いてPCR産物を増幅した:95℃で2分の初期変性、続いて14サイクルの95℃で15秒の変性および60℃で4分のアニーリング。
【0098】
上記PCR産物は、上記予備的増幅反応のすべての構成物を除去するために、エキソヌクレアーゼIで処理した。24μlのエキソヌクレアーゼI 10×反応緩衝液(New England Biolabs社)、48μlのエキソヌクレアーゼI(New England Biolabs社)、および168μlの核酸が含まれていない水を含むマスターミックスを調製した。予備的増幅を行った試料を含む96ウェルPCRプレートの各ウェルに、2μlのエキソヌクレアーゼIマスターミックスを添加した。エキソヌクレアーゼ消化は、Fluidigm社の手順により、上記SimpliAmpサーマルサイクラーを用いて実施した。上記消化反応の後、上記PCRプレートをさらなる解析まで-80℃の冷凍庫で保存した。
【0099】
製造者の取扱説明書に従って、300μlの対照ライン(ミネラルオイル)を用い、Juno(商品商標)システム(Fluidigm社)を用いて、48.48IFCチップを準備した。続いて、25μlの2×アッセイローディング試薬(Fluidigm社)、22.5μlのDNA懸濁緩衝液(TEKnova社)および2.5μlの前調製されたプライマーストックを混合することにより、各標的遺伝子に対するプライマーミックスを調製した。全部で、各々5μMの濃度の、7つのプライマーミックスを調製した。いずれのプライマーも欠くプライマーミックスは、NPCとして作用する。参照色素(Integrated DNA Technology社)を添加した180μlの2×SSO Fast(商品商標)Green qPCRマスターミックス(Bio-rad社)および18μlの20×DNA結合色素(Fluidigm社)を混合することにより、マスターミックスを調製した。
【0100】
本発明者らが調製した5μlの上記プライマーミックスを、上記48.48IFCチップ中の該当する注入口に添加した。同量の試料混合物を上記48.48IFCチップ中の上記注入口に分注した。各ウェルに、2.75μlのマスターミックス、および2.25μlのエキソヌクレアーゼ処理済の予備的増幅されたcDNA試料または核酸が含まれていない水を添加した。製造者の取扱説明書に従って、上記チップをJuno(商品商標)システム(Fluidigm社)によって準備し、qPCRプログラムを実行する機器上に装填した。上記機器は、次のように設定された:95℃で1分ホットスタートし、続いて20サイクルの95℃で5秒の変性、58℃で20秒のアニーリング、次いで各増加する温度増分の間で3秒を有する58℃から98℃の融解曲線解析。
【0101】
回収されたすべてのqPCRデータを、FluidigmリアルタイムPCR解析ソフトウェア(Fluidigm社)中で解析した。ハウスキーピング遺伝子GADPHを、上記ソフトウェア中の参照遺伝子、およびこの供給されたデルタ-デルタCt値(ΔΔCt)およびハウスキーピング遺伝子に対する倍率変化値および両集団から選択した遺伝子として指定した。
【0102】
〔統計学的解析〕
発見集団において、本発明者らは疾患の進行と関連すると考えられる3つの下位集合を作成した;HVsおよびCOVID-19患者、重症および非重症、および早期回復フェイズ1およびフェイズ2。各下位集合内において、26,354のRNAの発現の差異を評価した。RNAシークエンシングの統計学的解析は、先行研究を若干改良した方法で実施した。HVsとCOVID-19患者との間の発現を比較するため、log2正規化されたRNA FPKM値を用いたR23中のcmdscaleコマンドを伴う多次元尺度法を実施した。上記早期回復患者内のフェイズ1およびフェイズ2のみならず、重症および非重症、患者とHVsとの間の発現リスト中の有意な変化をも特定するために、火山プロット解析を行った。有意であることは、最小log2倍率変化の絶対値が1.2より大きいこと、および、FDRが0.1より小さいことによって定義した。有意差を示した20の遺伝子をさらなる解析に使用した。
【0103】
上記遺伝子の上流の調節因子を評価するため、上記データを、IPA(QIAGEN社,https://www.qiagenbioinformatics.com/products/ ingenuity-pathway-analysis,Kramer, A. et al., 2014)内でのz-スコアとP値の算出を伴う、上流調節因子解析を行った。上記z-スコアは、対象の調節因子の下流の遺伝子発現パターンを用いて、上流の調節因子の活性化の状態を予測する。z-スコアの絶対値が2より大きく、P値が0.05より小さい場合に、上記上流の調節因子が活性化されたと判断した。有意差を示した20の遺伝子の上流の調節因子をさらなる解析に使用し、HVsおよびCOVID-19患者、重症および非重症、および早期回復フェイズ1およびフェイズ2の各下位集合間で有意な発現変化が観察される、31の候補RNAを特定した。
【0104】
RNAシークエンシングの統計学的解析の結果に基づき、31のRNAについて、Biomark HDを用いたRT-qPCRを実施した。ウィルコクソンの順位和検定でpが0.05より小さい場合に、統計学的に有意であると判断した。検証集団において、発見集団の候補の妥当性を検査した。患者を28日生存者と28日非生存者の2つの群に分けた。発見集団の候補は、2群間で、ウィルコクソンの順位和検定により比較した。上記生存者と上記非生存者との間で有意に変化した(両側P値が0.05より小さい)RNAを鍵mRNAとして抽出した。鍵mRNAとその比を用いて受信者操作特性(Receiver Operating Characteristic, ROC)曲線を描いた。生存を予測する精度を評価するため、ROC曲線の下部の領域(Area Under the ROC Curves, AUCs)を算出した。最大AUCを有するROCのカットオフ値に基づき、検証集団を2つの群に分けた。上記2つの群を臨床の表現型として定義し、上記表現型を臨床データと比較した。表現型をベースライン特性および28日目と比較するために、フィッシャーの直接確率検定およびクラスカル・ウォリスの順位和検定を用いた。カプラン・マイヤー曲線を用いて死亡率を図解し、上記表現型をログランク検定によって比較した。両側Pが0.05より小さい場合に、統計学的に有意であると判断した。全ての統計学的解析に対して、R environment for statistical computing, version 4.0.2(R Foundation for Statistical Computing, Vienna, Austria)を用いて、完全にスクリプトされたデータ管理パスウェイを作成した。カテゴリー変数を数値と百分率で報告し、有意差をχまたはフィッシャーの直接確率検定によって検出した。連続型変数を平均値と標準誤差を用いて描いた、または、連続型変数をマン・ホイットニーU検定または中央値と四分位範囲(IQR)値を用いて描いたクラスカル・ウォリスの順位和検定を用いて比較した。第1の発見集団および第2の発見集団内の血漿のプロテオミクス、または検証集団内の血漿タンパク質のレベルに欠測値はなかった。
【0105】
〔結果〕
〔1.発見集団からの候補RNAの探索〕
試験期間中、本発明者らは、40人の患者と16人の健常ボランティアを発見集団内に登録した。上記集団は35人の重症患者および5人の非重症患者を含んでいた。上記重症患者の間には、12人の早期回復患者および23人の回復遅延患者がそれぞれ存在した。本発明者らは、下位集団(COVID-19患者対健常ボランティア、重症対非重症、および早期回復フェイズ1対フェイズ2)由来の候補mRNAを特定するため、倍率変化解析および上流解析を行った。本発明者らは上記解析から120の候補RNAを選択した。上記120候補RNAのうち、31のRNA発現レベルが、重症と非重症の間で有意に変化していた。有意に変化していた31のRNAを図1、2に示した。図1、2中、「Non-Critical」は非重症群、「Critical」は重症群、「Control」は対照群であることを示す。***はクラスカル・ウォリスの順位和検定で両側P値<0.001であることを示し、**は同検定で両側P値<0.01であることを示し、*は同検定で両側P値<0.05であることを示し、NSは同検定で統計学的に有意差がないことを示す。
【0106】
RNA発現レベルのさらに正確な評定のために、上記31のRNAについて、RT-qPCRを用いて再評価した。その結果、3つの下位集団すべてにおいて、5つのRNA(IL18R1、LGALS2、MAPK14、PRLおよびTLR3)の発現が有意に変化していた(図3)。図3-301~305は、健常ボランティア(HVs)と重症および非重症の各RNA発現レベルを示す。図3-301~305中、「Non-Critical」は非重症群、「Critical」は重症群、「Control」はHVs群であることを示す。図3-306~310は、健常ボランティア(HVs)とフェイズ1とフェイズ2の各RNA発現レベルを示す。図3-306~310中、「Phase 1」はフェイズ1群、「Phase 2」はフェイズ2群、「Control」はHVs群であることを示す。図3-301~310中、***はクラスカル・ウォリスの順位和検定で両側P値<0.001、**は同検定で両側P値<0.01であることを示し、*は同検定で両側P値<0.05であることを示し、NSは同検定で統計学的に有意差がないことを示す。このようにして本発明者らは、5つのRNAを上記発見集団の候補として得た。
【0107】
〔2.RT-qPCRによる5つの候補RNAの検証〕
バイオマーカー候補としての5つのRNAの堅牢性を確かめるために、本発明者らは、RT-qPCRを用いて、独立した検証集団でこれらの候補を評定した。本発明者らは、153人のCOVID-19患者を上記検証集団に包含した。上記集団は145人の重症患者および8人の非重症患者を含んでいた。9人の患者(5.9%)がICU入院から28日以内に死亡した。これらのRNAの関連性を評定するため、本発明者らは、検証集団内で、RT-qPCRを用いて5つの候補RNAの発現レベルを評価した。上記5つの候補RNAの間で、28日非生存者と比較した28日生存者内のPRLが有意に増加し、TLR3が有意に減少した(図4)。図4中、「Survivor」は28日生存者群を意味し、「Non-survivor」は28日非生存者群を示す。*はウィルコクソンの順位和検定で両側P値<0.05であることを示し、NSは同検定で統計学的に有意差がないことを示す。
【0108】
このようにして本発明者らは、PRLおよびTLR3がCOVID-19患者の予後に関連する2つの鍵RNAであると判断した。
【0109】
〔3.悪い予後のCOVID-19患者を良い予後のCOVID-19患者から識別するRNAエンドタイプの特定〕
悪い予後を有する患者内の上記2つのRNAの発現変化の特性を考慮して、本発明者らは、RNA表現型の候補指標として、PRL、TLR3およびPRL/TLR3比を評価した。ROC曲線を用いて、いくつかのタンパク質マーカー(CRPおよびFDP)ならびに重篤スコア(APACHE IIおよびSOFA)をPRL、TLR3およびPRL/TLR3と比較した。PRLに対するAUCは、0.721(95%CI;0.566~0.876)であった。TLR3に対するAUCは、0.716(95%CI;0.623~0.820)であった。PRL/TLR3に対するAUCは、0.793(95%CI;0.693~0.892)であった。上記タンパク質マーカーCRPおよびFDPに対するAUCは、それぞれ0.477(95%CI;0.291~0.664)および0.658(95%CI;0.480~0.837)であった。AUC解析は、PRL、TLR3およびPRL/TLR3比が、タンパク質マーカーおよび重篤スコアよりも予後の識別にさらに適切であることを示した(図5-501、502)。ROC曲線の結果より、本発明者らは、PRL/TLR3比の閾値を294.8で設定した。図5-501、502中、「Sensitivity」は感度であることを示し、「1-specificity」は特異度であることを示す。「Factor」は解析対象のRNAを示し、(Area Under the ROC Curves, AUCs)はROC曲線の下部の領域を示し、95%CIは信頼区間を示す。
【0110】
〔4.PRL/TLR3比に基づく患者の転帰の比較〕
本発明者らは、153人の患者を2つの群に分けた。1つは高PRL/TLR3比群であり、1つは低PRL/TLR3比群である。また本発明者らは、この2群のRNAエンドタイプによる患者の転帰を比較した。上記高PRL/TLR3群には47人の患者、上記低PRL/TLR3群には106人の患者が存在した。RNAエンドタイプは、年齢、性別、いずれの併存疾患、P/F比、SOFA、との関連性を示さなかった(表1および図6-601~603)。図-601~603中、「P/F ratio」、「SOFA score」はそれぞれ入院時のP/F比、SOFAスコアを示し、「APACHE II score」はICUに入院した時点でのAPACHE IIスコアを示す。NSは統計学的に有意差がないことを示す。
【0111】
28日での死亡率の累積発生は、高PRL/TLR3群で17.0%(n=8)、低PRL/TLR3群で0.9%(n=1)であった。カプラン・マイヤー解析により、エンドタイプと28日死亡率との関係性を示した(p<0.01)(図6-604)。pはログランク検定での両側P値を示す。
【0112】
院内死亡率も、低PRL/TLR3群に比べて、高PRL/TLR3群で有意に高かった(23.4%対9.4%、p=0.04)(表2)。上記2群の間に、28日目での、人工呼吸器離脱の日数およびICU滞在の長さの差はなかった(それぞれp=0.54およびp=0.99)。図6-604中、「Probability of survival」は生存確率を示し、「Days」は入院開始からの日数を示す。点線(High)はPRL/TLR3比の高い群、実線(Low)はPRL/TLR3比の低い群を示す。pは28日時点での、高PRL/TLR3群との間のp値を示す。
【0113】
【表1】
【0114】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の一態様は、コロナウイルス感染症患者の予後を予測し、コロナウイルス感染症治療や研究に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6