IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人大阪大学の特許一覧

特開2024-59493COVID-19患者の重症化または難治化のリスクを評価する方法、キットおよびバイオマーカーの使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059493
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】COVID-19患者の重症化または難治化のリスクを評価する方法、キットおよびバイオマーカーの使用
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20240423BHJP
【FI】
G01N33/53 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167186
(22)【出願日】2022-10-18
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】武田 吉人
(72)【発明者】
【氏名】熊ノ郷 淳
(57)【要約】
【課題】COVID-19患者の重症化または難治化のリスクを評価する方法、キットおよびバイオマーカー等を実現する。
【解決手段】本開示のCOVID-19患者の重症化または難治化のリスクを評価する方法は、被験体から採取された試料においてMACROH2A1タンパク質を検出する工程を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体から採取された試料においてMACROH2A1タンパク質を検出する工程を含む、COVID-19患者の重症化または難治化のリスクを評価する方法。
【請求項2】
MACROH2A1タンパク質を検出するための物品を備える、COVID-19患者の重症化または難治化のリスクを評価するためのキット。
【請求項3】
MACROH2A1タンパク質を含むバイオマーカーの、COVID-19患者の重症化または難治化のリスクを評価するための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、COVID-19患者の重症化または難治化のリスクを評価する方法、キットおよびバイオマーカーの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
2019年末より世界的に蔓延したコロナウイルス感染症(COVID-19)は、治療薬およびワクチンの開発が進められているにもかかわらず、感染爆発を繰り返し、医療のひっ迫を招いている。一般に、COVID-19患者の約80%が軽症のまま回復するが、残りの約10~20%が重症化するとされている。しかしながらCOVID-19に対する患者の応答は様々であるため、現在のところ、重症化リスクのある患者を予測するための有効な手段は見つかっていない。
【0003】
重症COVID-19患者の全身性免疫応答をより良く理解するために、いくつかの研究では、シングルセルRNAシークエンシング(scRNA-seq)、プロテオミクスおよびメタボロミクスを含むマルチオミクス解析が行われている。例えば非特許文献1では、末梢血単核細胞(PBMC)のscRNA-seqと血漿のプロテオミクスおよびメタボロミクスとを行い、異なるCOVID-19重症度の患者間での免疫応答の変化が明らかにされている。また、非特許文献2では、COVID-19患者の細胞外小胞(EV)のリピドミクスおよびプロテオミクスにより、疾患の異なるステージの間でのEVラフト脂質の代謝における変化が示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Su Y et. al., Cell. 183(6):1479-1495, 2020
【非特許文献2】Lam SM et. al., Nat Metab. ;3(7):909-922, 2021
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来技術は、主に免疫細胞の調節障害に着目しており、十分な数のタンパク質をカバーしたプロテオミクスは行われていなかった。それゆえ、従来技術では、重症COVID-19の鍵となり、難治化を予測するために有用なバイオマーカーとなり得るタンパク質が十分に調査されていなかった。
【0006】
本発明の一態様は、COVID-19患者の重症化または難治化のリスクを評価する方法、キットおよびバイオマーカー等を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、次世代プロテオミクス解析と、末梢血のシングルセル解析および肺のシングル核解析とを組み合わせることにより、MACROH2A1タンパク質が重症COVID-19のバイオマーカー候補となり得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明の一態様は、以下の構成を含む。
<1>被験体から採取された試料においてMACROH2A1タンパク質を検出する工程を含む、COVID-19患者の重症化または難治化のリスクを評価する方法。
<2>MACROH2A1タンパク質を検出するための物品を備える、COVID-19患者の重症化または難治化のリスクを評価するためのキット。
<3>MACROH2A1タンパク質を含むバイオマーカーの、COVID-19患者の重症化または難治化のリスクを評価するための使用。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、COVID-19患者の重症化または難治化のリスクを評価する方法、キットおよびバイオマーカー等を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例におけるグループ2とグループ3とを比較する2376種の血清EVタンパク質のボルケーノプロット、および、グループ2とグループ3とを区別する12種のバイオマーカー候補タンパク質の主成分分析結果を示す図である。
図2】実施例におけるグループ2とグループ3との比較において1.5を超える変化倍率で有意にアップレギュレーションされていたか0.67未満の変化倍率で有意にダウンレギュレーションされていたEVタンパク質についてIngenuity Pathway Analysisにより決定された上位10個のカノニカルパスウェイ、ならびに上位10個の疾患および機能を示す図である。
図3】実施例におけるグループ2および3とグループ1とを比較する2376種の血清EVタンパク質のボルケーノプロット、および、グループ2および3とグループ1とを区別する174種のバイオマーカー候補タンパク質の主成分分析結果を示す図である。
図4】実施例におけるグループ2および3とグループ1との比較において2を超える変化倍率で有意にアップレギュレーションされていたか0.5未満の変化倍率で有意にダウンレギュレーションされていたEVタンパク質についてIngenuity Pathway Analysisにより決定された上位10個のカノニカルパスウェイ、ならびに上位10個の疾患および機能を示す図である。
図5】実施例におけるプロテオミクスで検出されたMACROH2A1タンパク質を含むタンパク質の原因調節分子および代表的な因果関係ネットワークを示す図である。
図6】実施例において健常群およびCOVID-19患者群のノンターゲットプロテオミクス解析により決定されたMACROH2A1のレベルを表す図である。
図7】実施例における健常群および重症COVID-19患者群(グループ2および3)の血清EVのイムノブロット結果を示す図である。
図8】実施例におけるMACROH2A1によるCOVID-19重症度グループの診断に対するROC解析結果を示す図である。
図9】実施例におけるCOVID-19患者および対照の肺組織切片の組織学的解析結果、ならびにMACROH2A1陽性細胞の割合を示す図である。
図10】実施例において細胞集団ごとに、またはMACROH2A1のmRNA転写レベルによって着色した、COVID-19患者群および健常群のPBMCのUMAP可視化結果を示す図である。
図11】実施例における各重症度での各細胞タイプの割合を示す図である。
図12】実施例におけるPBMCの各細胞でのMACROH2A1遺伝子の発現を示すドットプロットを表す図である。
図13】実施例におけるPBMCの各細胞での、示されたグループ間のMACROH2A1遺伝子の差次的発現解析結果を示す図である。
図14】実施例における単球の各サブタイプでの、示されたグループ間のMACROH2A1遺伝子の差次的発現解析結果を示す図である。
図15】実施例の致死COVID-19患者および対照群から得られた肺のsnRNAデータ解析結果を埋め込んだUMAP可視化結果を示す図である。
図16】実施例における対照群およびCOVID-19患者群での図19の各細胞タイプの相対的寄与を示す棒グラフを表す図である。
図17】実施例の対照群および致死COVID-19患者群におけるMACROH2A1遺伝子のRNA発現レベル(log正規化)によって着色したUMAP可視化結果を示す図である。
図18】実施例における対照群およびCOVID-19患者群の各肺細胞でのMACROH2A1遺伝子の発現レベルを表すバイオリンプロットを示す図である。
図19】実施例における単球およびマクロファージでのMACROH2A1遺伝子の差次的発現解析結果を示す図である。
図20】実施例において1μg/mLのIFNγを用いて、または用いずに、1μg/mLのR848、100ng/mLのLPSまたは1μg/mLのPam3CSK4で48時間処理した後、PMAで分化させたTHP-1細胞のイムノブロット解析結果を示す図である。
図21】実施例において1μg/mLのIFNγを用いて、または用いずに、示された濃度のTNFαで48時間処理した後、PMAで分化させたTHP-1細胞のイムノブロット解析結果を示す図である。
図22】実施例の血清EVプロテオミクス、PBMCのscRNA-seqおよび肺組織のsnRNA-seqにおいて解析した分子ネットワークにおける上位10個のパスウェイを示す図である。
図23】MACROH2A1遺伝子の上流の分子ネットワークであって、実施例におけるグループ2とグループ3との比較においてp<0.05、かつ変化倍率が1.5を超えるか、または0.67未満であるEVタンパク質の分子ネットワークを表す図である。
図24】MACROH2A1遺伝子の上流の分子ネットワークであって、実施例におけるグループ2および3とグループ1との比較においてPBMC由来の単球のscRNA-seqの差次的発現解析において有意にアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションされている遺伝子の分子ネットワークを表す図である。
図25】MACROH2A1遺伝子の上流の分子ネットワークであって、実施例における対照と致死COVID-19との比較において肺由来の単球のsnRNA-seqの差次的発現解析において有意にアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションされている遺伝子の分子ネットワークを表す図である。
図26】MACROH2A1遺伝子の下流の分子ネットワークであって、実施例におけるグループ2とグループ3との比較においてp<0.05、かつ変化倍率が1.5を超えるか、または0.67未満であるEVタンパク質の分子ネットワークを表す図である。
図27】MACROH2A1遺伝子の下流の分子ネットワークであって、実施例におけるグループ2および3とグループ1との比較においてPBMC由来の単球のscRNA-seqの差次的発現解析において有意にアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションされている遺伝子の分子ネットワークを表す図である。
図28】MACROH2A1遺伝子の下流の分子ネットワークであって、実施例における対照と致死COVID-19との比較において肺由来の単球のsnRNA-seqの差次的発現解析において有意にアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションされている遺伝子の分子ネットワークを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態について、以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。遺伝子名について本明細書中では便宜的に斜字体で表記しないが、図面中では斜字体で表記する。
【0011】
本発明者らは上述の課題を解決するためにまず、細胞外小胞の一種であるエクソソームに着目した。血液はバイオマーカーの理想的なリソースであると考えられるが、血液に含まれるタンパク質の99%がアルブミンなどの夾雑物であるため、プロテオミクス解析の対象とするには不利であった。これに対し、エクソソームをプロテオミクス解析の対象とすれば、上記夾雑物を除いた状態で解析できる。また、エクソソームは脂質二重膜で包まれているため、サンプル中のプロテアーゼからの分解を逃れた病因タンパクをそのまま保持していると考えられる。また、本発明者らは、エクソソームの抽出法として、従来に比べて高い純度で抽出可能であり、エクソソームへのダメージが少ない方法であるホスファチジルセリンアフィニティー法(MagCapture)を採用した。
【0012】
さらに本発明者らは、質量分析においても次世代プロテオミクスとされるData independent acquisition(DIA)法を使用した。DIA法は従来の質量分析に比べて、微少なタンパク質の定量に優れており、これまでよりも更に網羅的な解析が可能である。また、プロテオミクス解析のみでは、同定した分子の生体内での挙動に関する考察および同定した分子が病態にどのように関わっているのかといった考察を行うには不十分であると本発明者らは考えた。そこで、COVID-19患者血液から採取したPBMCのscRNA-seqおよびCOVID-19肺炎の肺組織のsnRNA-seqを組み合わせることで、同定したバイオマーカーの病的意義も併せて検討した。
【0013】
その結果、本発明者らは、重症例の間(難治例と非難治例との間)の比較で有意に増加しており、かつ重症度に応じて有意に増加するタンパク質として、MACROH2A1タンパク質を同定した。PBMCのscRNA-seqにおいて、MACROH2A1遺伝子は単球において局所的に発現しており、非重症例に比べて重症例で増加していた。また、以前に生成された肺組織のsnRNA-seqデータの解析からも、MACROH2A1遺伝子が単球およびマクロファージにおいて高度に発現しており、対照に比べてCOVID-19患者で有意に増加していることが見出された。
【0014】
〔1.COVID-19患者の重症化または難治化のリスクを評価する方法〕
本発明の一実施形態に係るCOVID-19患者の重症化または難治化のリスクを評価する方法は、被験体から採取された試料においてMACROH2A1タンパク質を検出する工程を含む。当該方法を以下では単に「評価方法」とも称する。本発明の一実施形態において、上記評価方法は、あくまで補助的方法のみを意図し、医師が行う患者の診断方法とは異なる。上記評価方法をCOVID-19患者の診断に適用することは可能であり、当該方法から得られた結果をもとに、医師が診断を行うことができる。このため、上記評価方法は、被験体から採取された試料においてMACROH2A1タンパク質を検出する工程を含む、COVID-19患者の重症化または難治化のリスクを評価するためのデータの取得方法であると換言することもできる。
【0015】
MACROH2A1タンパク質(Core histone macro-H2A.1, Uniprot ID: O75367)がCOVID-19に関連していることは本発明者らにより初めて見出されたことである。MACROH2A1タンパク質は、ヒストンH2Aのバリアントの一種であり、2つのアイソフォームMACROH2A1.1およびMACROH2A1.2を有する。
【0016】
MACROH2A1タンパク質を検出するための試料としては、被験体から採取された血液、喀痰、気管支肺胞洗浄液、唾液、髄液、尿、便等が挙げられ、中でも血液が好ましい。上記血液は、全血であってもよく、血漿または血清であってもよい。MACROH2A1タンパク質の検出は、インビトロで行われ得る。
【0017】
上記被験体は、ヒトであってもよく、非ヒトである哺乳動物であってもよい。被験体は、COVID-19患者であり得る。COVID-19は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)によって引き起こされる感染症である。COVID-19患者は、SARS-CoV-2を検出するためのPCR検査によって陽性と判定された患者であり得る。また、COVID-19患者は、CTスキャン等によって肺炎と診断された患者であり得る。COVID-19患者は、入院が必要であると診断された患者であってもよく、入院が不要であると診断された患者であってもよい。COVID-19患者は、酸素投与が必要と診断された患者であってもよく、酸素投与が不要と診断された患者であってもよい。COVID-19患者は、デキサメタゾンなどのステロイドを投与されていてもよい。
【0018】
本明細書において「重症」とはLiving guidance for clinical management of COVID-19 (WHO, 2021)における「重症(Critical disease)」の条件を満たす状態を意味する。重症COVID-19患者は、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、敗血症、敗血症性ショックの症状を示している患者であり得る。重症COVID-19患者は、人工呼吸器による管理が必要であると診断された患者であり得る。非重症COVID-19患者は、人工呼吸器による管理が不要であると診断された患者であり得る。本明細書において、「難治化」とは、デキサメタゾンなどのステロイドを投与した後に、再度ステロイドの投与が必要になることを意味する。
【0019】
試料は、いずれのタイミングで採取されてもよく、複数回採取されてもよい。試料は、採取からMACROH2A1タンパク質の検出に用いられるまでの間、冷凍保存されてもよい。
【0020】
MACROH2A1タンパク質の検出方法は特に限定されず、免疫測定法であってもよく、質量分析法であってもよい。免疫測定法としては、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、ウェスタンブロット法、ラジオイムノアッセイ法、イムノクロマトグラフィー法、免疫沈降法、ビオチン-アビジン法、電気化学発光免疫測定法(ECLIA;Electro chemiluminescence immunoassay)、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA;chemiluminecent enzyme immunoassay)等が挙げられる。
【0021】
上記評価方法は、試料中のMACROH2A1タンパク質のレベルを定量する工程を含んでいてもよい。また、上記評価方法は、測定されたMACROH2A1タンパク質のレベルを、予め設定された基準値と比較する工程を含んでいてもよい。上記基準値は受信者操作特性(ROC)曲線などから求められたカットオフ値であってもよい。MACROH2A1タンパク質は実施例にて重症度が高くなるにつれて有意に増加していた。従って、例えば、試料中のMACROH2A1タンパク質のレベルが上記基準値より高い場合に、重症化または難治化のリスクが高いと判断してもよい。
【0022】
上記評価方法は、SPP2タンパク質(Secreted phosphoprotein 24, Uniprot ID: Q13103)、CLTAタンパク質(Clathrin light chain A, Uniprot ID: P09496)、CNDP2タンパク質(Cytosolic non-specific dipeptidase, Uniprot ID: Q96KP4)からなる群より選択される1種以上のタンパク質を検出する工程をさらに含んでいてもよい。これらのタンパク質を以下では便宜的に「他のタンパク質」とも称する。また、上記評価方法は、これらのタンパク質のレベルを定量する工程、これらのタンパク質のレベルを予め設定された基準値と比較する工程を含んでいてもよい。例えばSPP2タンパク質は実施例に示すように難治例と非難治例との間の比較、ならびに重症例と非重症例との間の比較の両方において0.5未満または2を超える変化倍率で有意にアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションされていたタンパク質の1つである。また、CLTAタンパク質およびCNDP2タンパク質は、重症例と非重症例との間の比較において0.5未満または2を超える変化倍率で有意にアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションされ、かつボンフェローニ補正を行った場合でも有意であった。中でもSPP2タンパク質は実施例にて重症度が高くなるにつれて減少していた。従って、例えば、試料中のSPP2タンパク質のレベルが上記基準値より低い場合に、重症化または難治化のリスクが高いと判断してもよい。
【0023】
〔2.キット〕
本発明の一実施形態には、MACROH2A1タンパク質を検出するための物品を備える、COVID-19患者の重症化または難治化のリスクを評価するためのキットも包含される。
【0024】
MACROH2A1タンパク質の検出方法は、上述した通りである。上記キットは、MACROH2A1タンパク質のレベルを定量するための物品を備えていてもよい。上記キットは、上述の他のタンパク質を検出するための物品、他のタンパク質のレベルを定量するための物品を備えていてもよい。これらの物品としては、特に限定されないが、例えば抗体などが挙げられる。
【0025】
また、上記キットは、キットの使用に必要となる薬剤、器具、容器、説明書などを備えていてもよい。上記キットは、例えば上述の検出方法を実施するために必要となる物品を備えていてもよい。
【0026】
本発明の一実施形態には、MACROH2A1タンパク質を含むバイオマーカーの、COVID-19患者の重症化または難治化のリスクを評価するための使用も包含される。さらに、バイオマーカーとして上述の他のタンパク質を併用してもよい。
【0027】
なお本発明の一実施形態は、COVID-19の治療薬の選択に応用することができる。すなわち、感染性疾患の治療薬の研究開発を支援することができる。これにより、持続可能な開発目標(SDGs)の目標3「すべての人に健康と福祉を」の達成に貢献できる。
【0028】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0029】
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0030】
〔研究計画〕
プロテオミクス解析のために、12人のCOVID-19患者および4人の健常者(健康的な対照)を登録した。COVID-19患者は、SARS-CoV-2 RNAに対するPCR検査により、COVID-19であると診断された。COVID-19重症度は、Living guidance for clinical management of COVID-19 (WHO, 2021)により非重症または重症に分類した。そのうちの重症患者は大阪大学医学部附属病院へ、非重症患者は国立病院機構大阪刀根山医療センターへ、2020年7月から2021年2月の間に入院した患者の中からエントリーした。健常群は、COVID-19が流行する前に大阪大学医学部附属病院にて公募した。全ての重症患者は人工呼吸器により管理されており、挿管されていた。全てのCOVID-19患者は、デキサメタゾンを処方され、デキサメタゾン処置の終わりに血清サンプルを採取し、-80℃で保管した。これらの患者の医療記録はレトロスペクティブな分析であった。この研究において、重症例のうち、COVID-19肺炎がその後の経過で悪化し、デキサメタゾンの再投与を必要とした重症例を、難治例に分類し、デキサメタゾンの再投与を必要としない残りの重症例を非難治例に分類した。これらのサンプルを用いて、液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS/MS)による定量的プロテオミクスを実施した。
【0031】
scRNA-seqについて対象としたCOVID-19患者は、大阪大学医学部附属病院へ入院した患者である。COVID-19重症度および診断は、プロテオミクス解析と同様に決定した。これらのうち、重症例は、プロテオミクス解析と同じ患者であった。
【0032】
この研究は、ヒトを対象とした医学研究に関するヘルシンキ宣言に従って行われた。また、この研究は、大阪大学医学部附属病院および国立病院機構大阪刀根山医療センターの倫理委員会によって承認されている。全ての患者群および健常群からは書面でのインフォームド・コンセントを得た。
【0033】
〔プロテオミクスのためのEVの単離〕
血清サンプルを80℃で10分間煮沸し、SARS-CoV-2ウイルスを不活化した。次いで、MagCaptureTM Exosome Isolation Kit PS Ver.2 (FUJIFILM Wako, Japan)を用いて製造業者の指示に従い、EVを単離した。EVのサイズ分布および数は、NanoSight nanoparticle tracking analysis (Malvern Instruments, Malvern, UK)によって測定した。
【0034】
〔プロテオミクス解析〕
血清EVのプロテオミクス解析をFutami Y, et al. Int Immunol. 2022;34(6):327-340に従って実施した。要約すると、エクソソーム溶出物に120mMのデオキシコール酸ナトリウムと、500mMのNHHCOを含む10×相間移動溶解剤(PTS)バッファと、120mMのN-ラウロイルサルコシン酸ナトリウムとを加えた後、95℃で煮沸した。サンプルに10mMのトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)を加えた後、37℃で30分間保持し、次いで20mMのヨードアセトアミドを加えて、遮光して37℃で30分アルキル化を行った。次いで1μgのトリプシン(Wako-Chemical, Tokyo, Japan)および2mAUのLysC(Wako-Chemical, Tokyo, Japan)により37℃で一晩消化した。消化した溶液に1%トリフルオロ酢酸(TFA)を加え、洗浄剤を20,000×gで10分間の遠心分離により沈殿させた。断片化されたペプチドを含む上清にC18-SCX StageTipを加えることにより脱塩し、さらに遠心エバポレーターにより乾燥させた。HTC-PAL autosampler (CTC Analytics, Zwingen, Switzerland)およびUltiMate 3000 Nano LC system (Thermo Scientific, Bremen, Germany)をOrbitrap Fusion Lumos mass spectrometer (Thermo Scientific)に接続することにより、LC-MS/MSを実施した。分析カラム(75 μm × 20 cm, packed in-house with ReproSil-Pur C18-AQ, 1.9 μm resin, Dr. Maisch, Ammerbuch, Germany)にて5%~30%の溶媒Bのグラジエント(溶媒A、0.1%ギ酸(FA);溶媒B、0.1%FAおよび99.9%アセトニトリル)を45分用いて、280nL/分の流速でペプチドを分離した。Orbitrap Fusion Lumos mass spectrometerの操作は、5GPF(gas-phase fractionation)-DIAモード(フラグメント分解度は50,000、プリカーサー分解度は120,000、MS1およびMS2のAGCターゲットは1e6および2e5、MS1およびMS2の最大IITは250msおよび86ms、NCEは30、プリカーサー分離ウインドウは2m/z)で行い、418~494m/z、490~566m/z、562~638m/z、634~710m/zおよび706~782m/z(5xGPF)をカバーした。個々のサンプルの解析は、DIAモード(フラグメント分解度は30,000、プリカーサー分解度は120,000、MS1およびMS2のAGCターゲットは4e5および2e5、MS1およびMS2の最大IITは100msおよび54ms、NCEは30、プリカーサー分離ウインドウは8m/z)で実施した。DIAデータの解析は、DIA-NN(バージョン1.7.12)により、デフォルトの設定(スキャンウインドウ設定、自動質量精度許容差)を用いて行った。サーチ結果を修正し、次いで1%プリカーサーレベルにフィルタリングした。MSファイルはユニプロットヒューマンデータベースを用いて調べた。
【0035】
〔プロテオームのバイオインフォマティクス解析〕
プロテオームにおける生物学的に関連するパスウェイおよび分子ネットワークを解析するために以下のツールを用いた。エンリッチメント解析にはCytoscape (ver 3.8.0)のClue GO/Clue Pedia plugin (ver 2.5.7)、上流解析およびエンリッチメント解析にはIngenuity Pathways Analysis (IPA, Qiagen. Inc. Redwood City, CA, USA)を用いた。
【0036】
〔プロテオームおよびトランスクリプトームの分子ネットワーク解析〕
EVプロテオミクス、PBMCのscRNA-seq、肺のsnRNA-seqの分子ネットワーク解析には、KeyMolnet (viewer program version 6.2, contents version 9.7.20210930154837, KM Data Inc, [https://www.km-data.jp])を用いた。
【0037】
〔統計解析〕
統計解析は、JMP Pro 13 (SAS Institute Inc., Cary, NC, USA)を用いて行った。両側検定でp値<0.05である場合に統計学的に有意であるとした。カテゴリカル変数はフィッシャーの正確検定、連続変数は対応のないスチューデントのt検定に供した。プロテオミクスの主成分分析および線形回帰分析はRによって行った。
【0038】
〔細胞培養および刺激〕
THP-1細胞をRPMI培地で培養し、5ng/mLのホルボールミリスタートアセタート/イオノマイシン(PMA)で48時間刺激した。次いで細胞を、LPS、Pam3CSK4、R848またはインターフェロンγ(IFNγ)で処理した。48時間後、細胞溶解液を採取した。
【0039】
〔透過型電子顕微鏡観察〕
血清サンプル由来のEVを、ホルムバールおよび炭素で被覆したニッケルの網上に吸着させ、次いで2%パラホルムアルデヒドで固定した。これらのサンプルを抗CD9(MM2/57; Thermo Fisher Scientific)とともにインキュベートした。
【0040】
〔scRNA-seqのための被験体およびPBMCの標本採取〕
末梢血サンプルは、大阪大学医学部附属病院および大阪大学大学院医学系研究科にてCOVID-19患者群(n=10)および健常群(n=5)から採取した。COVID-19患者群および健常群の両方において血液はヘパリンチューブに採取し、PBMCは、Leucosep (Greiner Bio-One)密度勾配遠心分離法を用いて製造業者の指示に従い単離した。血液は、全てのサンプルにおいて採取から3時間以内に処理し、使用するまで-80℃で保存した。
【0041】
〔ドロップレットに基づくシングルセルシークエンシング〕
Chromium Single Cell V(D)J Reagent Kits (v1.1 Chemistry) User Guideに概説されたプロトコルに従い、シングルセル懸濁液を10x Genomics Chromium Controller (10x Genomics, USA)によって処理した。Chromium Next GEM Single Cell 5’ Library & Gel Bead Kit v1.1 (Cat# PN-1000167), Chromium Next GEM Chip G Single Cell Kit (Cat# PN-1000127)およびSingle Index Kit T Set A (Cat# PN-1000213)を処理に用いた。製造業者の推奨に従い、1つのサンプルあたり約16500個の生きた細胞を、10x Genomics Chromium Controllerの各ポートにサンプルを混合することなく別々に充填し、ライブラリーの調製およびシークエンシングのために10000個のシングルセルゲルビーズエマルジョンを生成した。続いてこのエマルジョン、すなわちシングルセルおよびバーコードビーズを含む油滴(GEM)を、Veriti Thermal Cycler (Thermo Fisher Scientific)中で逆転写し、セルバーコードおよびユニークな分子インデックス(UMI)によってタグ付けされたcDNAを得た。
【0042】
次に、製造業者のプロトコルに従ってcDNAを増幅し、シングルセルライブラリーを生成した。定量化は、Agilent Bioanalyzer High Sensitivity DNA assay (Agilent, High-Sensitivity DNA Kit, Cat# 5067-4626)によって行った。続いて、増幅したcDNAを、酵素により断片化し、末端を修復し、ポリA鎖を付加した。増幅したcDNAのクリーンアップおよびサイズ選択は、SPRIselect magnetic beads (Beckman-Coulter, SPRIselect, Cat# B23317)を用いて行った。サイズ選択された断片にIllumina sequencing adaptersを連結し、SPRIselect magnetic beadsを用いてクリーンアップした。最後に、サンプルインデックスを選択および増幅し、SPRIselect magnetic beadsを用いて小分子側および高分子側の両側からサイズ選択を行った。最終的なライブラリーの質は、Agilent Bioanalyzer High Sensitivity DNA assayを用いて評価した。次いで、サンプルをNovaSeq6000 (Illumina, USA)でペアエンドモードにて配列決定し、遺伝子発現のために1細胞あたり最低20000個のペアエンドリードを得た。
【0043】
〔scRNA-seqデータのアラインメント、定量化および質の制御〕
Cell Ranger 5.0.0 (10x Genomics, USA)を用いてドロップレットライブラリーを処理した。シークエンスリードは、GRCh38ヒトリファレンスゲノムを用いてSTARによって並べた(Dobin, A. et al. Bioinformatics. 2013;29:15-21)。カウントマトリックスは、dropESTを用いて得られたBAMファイルから作成した(Petukhov, V. et al. Genome Biol. 2018;19:78)。1000個未満のUMIまたは20000超のUMIを有する細胞、並びにミトコンドリア遺伝子またはヘモグロビン遺伝子由来のリードの10%超を含む細胞は、質が低いと考えられたため、さらなる解析からは除いた。さらに、Scrublet (v0.2.1)を用いて、各サンプルについて推定される重複を除去した(Wolock, S. L. et al. Cell Syst. 2019;8:281-91.e9)。
【0044】
〔scRNA-seqの計算パイプラインおよび解析〕
データのスケーリング、変形、クラスタリング、次元削減、差次的発現解析および可視化には、RのパッケージSeurat(v3.2.2)を用いた(Stuart, T. et al. Cell. 2019;177:1888-1902.e21)。SCTransform()関数を用いてデータをスケーリングおよび変形し、細胞の質(ミトコンドリア由来のリードの割合)に起因する不要なばらつきを除去するために線形回帰を行った。統合のため、SelectIntegrationFeatures()関数を用いて3000個の共有された変動性の高い遺伝子(HVG)を同定した。次いで、これらの遺伝子からFindIntegrationAnchors()関数を用いて個々のデータセットの間の「アンカー」を同定し、これらのアンカーをIntegrateData()関数に入力してバッチ効果を補正した全ての細胞の発現マトリックスを生成した。主成分分析(PCA)およびUMAP(uniform manifold approximation and projection)については、30個の主成分による次元削減を行った(McInnes, L. et al. arXiv. 2018.)。PCA削減の30の次元を用いた最近傍のグラフを、FindNeighbors()関数を用いて計算し、次いでFindClusters()関数を用いてクラスタリングを行った。
【0045】
細胞の同一性は、FindMarkers()関数およびパラメータ「test.use=wilcox」を用いて各クラスターに対する差次的発現遺伝子(DEG)を見出し、これらのマーカーを既知の細胞タイプ特異的遺伝子と比較することにより、決定した。これにより9つの細胞クラスターを得た。MACROH2A1遺伝子の免疫細胞タイプ特異的発現を明らかにするため、RのパッケージNebulosa (v1.0.0)からplot_density()関数を用いて密度プロットを生成し(Alquicira-Hernandez, J. & Powell, J. E. Bioinformatics. 2021:1-3. doi:10.1093/bioinformatics/btab003)、DotPlot()関数を用いてドットプロットを生成した。FindMarkers()関数およびパラメータ「test.use=wilcox」を用いて、各細胞タイプにおいてグループ3とグループ2、グループ2および3とグループ1、グループ2および3と健常群、COVID-19患者群全体と健常群の4組の比較からMACROH2A1遺伝子の差次的発現解析を行った。
【0046】
単球として標識されたドロップレットを抽出し、再統合して、上述した手順を用いて更なるサブクラスタリングを行った。統合後、上記のようにクラスタリング、クラスターアノテーションおよび差次的発現解析を行った。
【0047】
〔COVID-19患者の肺のsnRNA-seqデータセットの解析〕
COVID-19患者の肺組織のシングルセルトランスクリプトームデータを解析するために、公開されたデータセット(Melms JC, et al., Nature. 2021;595(7865):114-119)を用いた。Melms JCらは、迅速な剖検を受けた19人のCOVID-19肺炎患者およびCOVID-19の流行前に肺切除または剖検を受けた7人の対照の肺から116,314個の核のシングル核RNAシークエンシング(snRNA-seq)を行った。MACROH2A1遺伝子の発現レベルはCOVID-19患者群の肺と対照群の肺とで別々に調べた。MACROH2A1遺伝子の発現レベルの有意差は、ウィルコクソンの順位和検定により評価した。snRNAデータの解析にはRのパッケージSeurat(v4.1.1)を用いた。
【0048】
〔ウェスタンブロット〕
cOmplete Mini Protease Inhibitor Cocktail (Roche)を含むRIPA Lysis and Extraction Buffer (no. 89900; Thermo Fisher Scientific)を用いて、培養した細胞を溶解し、次いで遠心分離して細胞/組織の破片を沈殿させた。溶解液は標準SDS-PAGEにより分離し、イムノブロット法により解析した。以下のタンパク質に対する抗体を用いた;MACROH2A1(no. 8551; Cell Signaling Technology)、MACROH2A1.1(no.12455; Cell Signaling Technology)、MACROH2A1.2(no. 4827; Cell Signaling Technology)、p-p65(no. 3033; Cell Signaling Technology)、β-アクチン(no. 2128; Cell Signaling Technology)、iNOS(no. 39898; Cell Signaling Technology)、CD9(no. AHS0902; Thermo Fisher Scientific)、CD63(no. MEX002-3; MBL)、カルネキシン(no. ab22595; Abcam)、ハプトグロビン(no. ab131236; Abcam)、フロチリン(no. 610821; BD Biosciences)。
【0049】
〔免疫組織化学分析〕
大阪大学医学部附属病院の3つのCOVID-19剖検例に由来するパラフィンで固定した肺組織サンプルおよび非COVID-19対照に由来する3つの外科標本を用いて、免疫染色を行った。これらのサンプルの免疫組織化学染色および病理学者の所見のレビューは、アプライドメディカルリサーチ社(日本、大阪)により行われた。抗原の回収は、サンプルの脱パラフィン後、EDTA緩衝液(pH9)中で125℃、15分間オートクレーブすることにより行った。内在性ペルオキシダーゼ活性は、3%ウシ血清アルブミンを用いて室温で1時間ブロックした。サンプルのスライドは、抗H2AFY抗体(no. abx103005; Abexa)とともに4℃で一晩インキュベートした。次いでそれらを、ホースラディッシュペルオキシダーゼと複合体化した抗ウサギ二次抗体(02-6102; Invitrogen)を用いて室温で30分間インキュベートした。
【0050】
〔組織学的解析〕
上述の抗H2AFY抗体で染色した免疫組織化学サンプルを用いて、MACROH2A1陽性細胞の割合を評価した。画像は、BZ-X Analyzer software (キーエンス社、大阪、日本)を用いて製造業者の指示に従い処理および再構築した。1つのサンプルあたり3つのランダムに選択した視野において、1つの視野内の細胞の総数に対するDAB陽性細胞の数の比率を算出し、3つの視野の平均値をそのサンプルのMACROH2A1陽性細胞の割合として用いた。全ての定量的測定は、同じ光学的条件下の同等の領域において行った。
【0051】
〔ナノ粒子トラッキング解析(NTA)〕
EVの数およびサイズ分布の解析は、Yoshioka Y et al., Nat Commun 2014: 5: 3591に従い、ブルーレーザーシステムを備えたNanoSight LM10HS(NanoSight, Amesbury, UK)を用いて行った。要約すると、単離されたEVを、PBSを用いて20倍に希釈した上でナノ粒子トラッキング解析(NTA)を行った。NTAソフトウェアを用いたさらなる解析のために、全てのイベントは60秒の動画に記録した。各粒子のブラウン運動をフレーム間で追跡し、Stokes-Einsteinの式を用いてサイズを算出した。
【0052】
〔結果〕
このレトロスペクティブな研究では、12人のCOVID-19患者および4人の健常者を含むプロテオミクス解析を行った。12人のCOVID-19患者のうち、非重症例が4人、重症かつ難治例が4人、重症かつ非難治例が4人であった。ここで、非重症例をグループ1、重症かつ非難治例をグループ2、重症かつ難治例をグループ3に分類した。患者のベースライン特性を評価したところ、COVID-19患者群間、またはCOVID-19患者群と健常群との間で年齢、性別、合併症の頻度に有意な差はなかった。サンプル採取の時点でのステロイド投与の期間は、グループ1と、グループ2および3との間でのみ有意な差が見られた(図示せず)。
【0053】
健常者およびCOVID-19患者の両方の血清から採取したEVを、透過型電子顕微鏡で観察したところ、形態に大きな差はなかった。また、健常者およびCOVID-19患者の血清EV、健常者の血清およびA549細胞溶解液のイムノブロット解析の結果、CD9、CD63およびフロチリン-1の発現が確認されたが、カルネキシンおよびハプトグロビンの発現は陰性であった。さらに、採取したEVを、NanoSightナノ粒子トラッキング解析により測定したところ、健常群とCOVID-19患者群との間で粒子のサイズにも数にも有意な差は見られなかった。これらのデータの図示は省略する。
【0054】
DIAによるノンターゲットプロテオミクスでは、全部で3046種のタンパク質が検出され、このうち2376種のタンパク質が2種以上のペプチド断片とともに同定された。これらのタンパク質から、バイオマーカー分子の候補を以下のように絞った。まず、(a)グループ2(非難治例)とグループ3(難治例)との比較、(b)グループ2および3(重症例)とグループ1(非重症例)との比較を行った。次に、(a)および(b)においてp<0.05、かつ倍率変化が0.5未満または2を超えるタンパク質をスクリーニングした。さらに、年齢および性別で調整した線形回帰解析において疾患重症度の順に優位に増加または減少しているタンパク質をスクリーニングした。
【0055】
図1は、グループ2とグループ3とを比較する上記の2376種の血清EVタンパク質のボルケーノプロット、および、グループ2とグループ3とを区別する12種のバイオマーカー候補タンパク質の主成分分析結果を示す図である。図1のボルケーノプロットより、重症例の間(グループ2とグループ3との間)の比較では、12種のタンパク質が、0.5未満または2を超える変化倍率で有意にアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションされていた。表1はこの12種のタンパク質を示す。これらのうち、MACROH2A1タンパク質(Core histone macro-H2A.1)はp値が最も低かった。
【0056】
【表1】
【0057】
これらのタンパク質のうち6種は、グループ2に比べてグループ3で増加しており、残りの6種は減少していた。図1の主成分分析の散布図は、12種のタンパク質の最初の2つの主成分に基づくグループ2およびグループ3の分類を示している。主成分分析の「explained var.」は寄与率を意味している。図1の主成分分析では、これらの同定されたタンパク質は、グループ2および3の両方においてよく分離していた。
【0058】
さらに、上流調節因子を探すためIngenuity Pathway Analysis(IPA)を用い、エンリッチメント解析を行い、調節不全のパスウェイの特定を増加させるため、変化倍率の基準を緩めた。表2は、グループ2とグループ3との比較において1.5を超える変化倍率で有意にアップレギュレーションされていたか0.67未満の変化倍率で有意にダウンレギュレーションされていたEVタンパク質を示す。
【0059】
【表2】
【0060】
図2は、グループ2とグループ3との比較において1.5を超える変化倍率で有意にアップレギュレーションされていたか0.67未満の変化倍率で有意にダウンレギュレーションされていたEVタンパク質についてIngenuity Pathway Analysisにより決定された上位10個のカノニカルパスウェイ、ならびに上位10個の疾患および機能を示す図である。表2の29種のタンパク質のIPAにより、カノニカルパスウェイの解析では「Th1経路」が多いこと、疾患および機能の解析では「細胞間のシグナリングおよび相互作用」、「細胞運動」、「血液学系の発達および機能」および「免疫細胞交通」が多いことが明らかになり、重症COVID-19の発症機序と一致していた。図2で示される疾患および機能の主要なカテゴリーにおける1位の「細胞間のシグナリングおよび相互作用」において多い機能的パスウェイをアノテーションしたところ、「マクロファージの動員」および「マクロファージの接着」といったマクロファージの機能に関するものが含まれていた(図示せず)。
【0061】
図3は、グループ2および3とグループ1とを比較する上記の2376種の血清EVタンパク質のボルケーノプロット、および、グループ2および3とグループ1とを区別する174種のバイオマーカー候補タンパク質の主成分分析結果を示す図である。図3のボルケーノプロットより、重症例と非重症例との間の比較(グループ2および3と、グループ1との間の比較)では、174種のタンパク質が、0.5未満または2を超える変化倍率で有意にアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションされていた。表3はこの174種のタンパク質を示す。これらのうち、CLTAタンパク質(Clathrin light chain A)およびCNDP2タンパク質(Cytosolic non-specific dipeptidase)はボンフェローニ補正を行った場合でも有意であった(p=2.1×10-5)。
【0062】
【表3】
【0063】
これらのタンパク質のうち116種は、グループ1に比べてグループ2および3で増加しており、残りの58種は減少していた。図3の主成分分析の散布図は、174種のタンパク質の最初の2つの主成分に基づくグループ2およびグループ3、ならびにグループ1の分類を示している。図3の主成分分析では、これらの同定されたタンパク質は、グループ1と、グループ2および3との両方においてもよく分離していた。
【0064】
図4は、グループ2および3とグループ1との比較において2を超える変化倍率で有意にアップレギュレーションされていたか0.5未満の変化倍率で有意にダウンレギュレーションされていたEVタンパク質についてIngenuity Pathway Analysisにより決定された上位10個のカノニカルパスウェイ、ならびに上位10個の疾患および機能を示す図である。IPAにより、カノニカルパスウェイの解析では「補体系」および「急性期反応シグナリング」が多いこと、疾患および機能の解析では「感染症」および「生体の損傷および異常」が多いことが明らかになった。図4で示される疾患および機能の主要なカテゴリーにおける1位の「感染症」において多い機能的パスウェイをアノテーションしたところ、「重症COVID-19」が最も高いランクであった(図示せず)。
【0065】
これらのプロテオミクス解析の結果から、グループ2とグループ3との間の比較、ならびにグループ2および3とグループ1との間の比較の両方において0.5未満または2を超える変化倍率で有意にアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションされていた2種のタンパク質(MACROH2A1タンパク質およびSPP2タンパク質)を見出した(表4)。表5は、表1に挙げられたタンパク質のうち、年齢および性別で調整した線形回帰解析において疾患重症度の順に優位に増加または減少していたタンパク質を示す(FDR(False Discovery Rate)<0.05)。表6は、表2に挙げられたタンパク質のうち、年齢および性別で調整した線形回帰解析において疾患重症度の順に優位に増加または減少していたタンパク質を示す(FDR<0.05)。表4~6に共通して疾患重症度の順に優位に増加または減少(FDR<0.05)していた唯一のタンパク質として、MACROH2A1タンパク質を同定した。表4~6においてβは回帰係数を表す。
【0066】
【表4】
【0067】
【表5】
【0068】
【表6】
【0069】
図5は、プロテオミクスで検出されたMACROH2A1タンパク質を含むタンパク質の原因調節分子および代表的な因果関係ネットワークを示す図である。表2に挙げられたタンパク質に関するIPAを用いた因果関係ネットワーク解析により、アシルCoAシンテターゼ1(ACSL1)とMACROH2A1との間の調節関係が特定された。ACSL1は、図4にて多かったカテゴリー「感染症」および「生体の損傷および異常」のアノテーションに含まれていた分子である(図示せず)。さらに、表3に挙げられたタンパク質に関するIPAを用いた因果関係ネットワーク解析により、リジンデメチラーゼ2B(KDM2B)を介したCOVID-19とMACROH2A1との間の調節関係が示された。
【0070】
これらの結果から、MACROH2A1タンパク質は、健常群、非重症例、重症例の順に増加する分子であって、難治例および非難治例、重症例および非重症例を区別できる分子であることが明らかになった。すなわちMACROH2A1タンパク質は、COVID-19患者の重症化または難治化のリスクを評価するために最も有望なバイオマーカーである。
【0071】
図6は、健常群およびCOVID-19患者群のノンターゲットプロテオミクス解析により決定されたMACROH2A1のレベルを表す図である。図6のデータはボックスプロットで示され、「**」はp<0.001で有意差があることを表す。図6の通り、プロテオミクスにおけるMACROH2A1の定量的なタンパク質の値は、他のグループに比べてグループ3で高かった。このことは、血清EVのイムノブロットでも観察された。図7は、健常群および重症COVID-19患者群(グループ2および3)の血清EVのイムノブロット結果を示す図である。図7のデータは2つの独立した実験を表す。
【0072】
図8は、MACROH2A1によるCOVID-19重症度グループの診断に対するROC解析結果を示す図である。MACROH2A1のAUC値(95%CI(信頼区間))を、CRPおよびD-ダイマーと比較したROC解析により評価した。図8では、グループ3とグループ2との間の比較におけるAUCは0.63(0.17~0.93)であり、この値は血清CRPおよびD-ダイマーの値を超えていた。一方、グループ2および3とグループ1との間の比較におけるMACROH2A1のAUCは0.84(0.47~0.97)であり、この値は血清CRPの値より低いが、D-ダイマーの値よりは高かった。
【0073】
さらに、COVID-19患者および対照において剖検した肺組織切片の免疫組織化学染色を行い、肺におけるMACROH2A1のレベルを調べた。図9は、COVID-19患者および対照の肺組織切片の組織学的解析結果、ならびにMACROH2A1陽性細胞の割合を示す図である。図9では、ヘマトキシリン-エオシン染色(HE染色)結果と、MACROH2A1陽性細胞の免疫組織化学染色結果とを示している。さらに図9ではBZ-X Analyzer softwareを用いて決定した上記MACROH2A1陽性細胞の割合をボックスプロットで示している。図9は、3人のCOVID-19患者および3人の対照から得られた結果を代表している。「*」はp<0.05で有意差があることを表す。図9より、繊維症の病巣に残された肺胞マクロファージおよび2型肺胞上皮細胞の核においてMACROH2A1タンパク質の発現の増加が観察された。それゆえ、プロテオミクス解析によって同定されたMACROH2A1は、重症例において、血清EVだけではなく肺でも局所的に増加しており、COVID-19難治例の発症機序に密接に関連したバイオマーカー候補であることが示唆された。
【0074】
次に、このMACROH2A1の重症COVID-19の発症機序における関与を調べるために、PBMCのscRNA-seqを行い、免疫細胞におけるMACROH2A1の発現を調べた。scRNA-seqは、10人のCOVID-19患者および5人の健常者の末梢血サンプルを用いて行った。COVID-19患者のサンプルは、プロテオミクス解析と同じ重症度のグループに従い、3人の非重症患者および7人の重症患者(4人の非難治例および3人の難治例)から採取した。患者のベースライン特性を評価したところ、性別、標本採取時のステロイド投与の期間および合併症の頻度においてグループ間で有意な差はなかったが、健常群は、COVID-19患者群より若い傾向にあった(図示せず)。
【0075】
一体化したシングルセル解析パイプラインの後、全てのサンプルのPBMCから91830個の高品質の細胞を得た。既知のマーカー遺伝子のRNA発現に基づき、9種の細胞サブセットをアノテーションした。図10は、細胞集団ごとに、またはMACROH2A1のmRNA転写レベルによって着色した、COVID-19患者群および健常群のPBMCのUMAP可視化結果を示す図である。図10に示す通り、9つの細胞タイプへの分離が示された。図10において「HSPC」は造血幹前駆細胞を意味する。
【0076】
図11は、各重症度での各細胞タイプの割合を示す図である。図11のデータはボックスプロットで示している。「*」はp<0.05で有意差があることを表す。図11に示す通り、グループ3と健常群との間でCD4T細胞の割合に差が見られたものの、それ以外では、健常群と、各重症度レベルのCOVID-19患者群との間で、各細胞タイプの割合に差はなかった。図12は、PBMCの各細胞でのMACROH2A1遺伝子の発現を示すドットプロットを表す図である。図12のドットの色は平均の発現レベルを表し、ドットのサイズはMACROH2A1遺伝子を発現している集団の割合に比例している。図10および12に示す通り、MACROH2A1遺伝子の発現レベルは特に単球および樹状細胞で増強されていた。
【0077】
次に、差次的発現(DE)遺伝子を解析し、異なるCOVID-19重症度レベルの間で各細胞タイプにおけるMACROH2A1遺伝子の発現の変化を調べた。図13は、PBMCの各細胞での、示されたグループ間のMACROH2A1遺伝子の差次的発現解析結果を示す図である。「*」はp<0.05、「**」はp<0.01、「***」はp<0.001で有意差があることを表す。図13のDE解析により、MACROH2A1遺伝子の発現は、主にPBMC、特に単球でアップレギュレーションされていることが明らかになった。また、MACROH2A1遺伝子の発現は、単球においてのみ、非重症例に比べて重症例で有意にアップレギュレーションされていた。
【0078】
単球はさらに古典的単球、非古典的単球、中間単球の3つのサブタイプに分類される。図14は、単球の各サブタイプでの、示されたグループ間のMACROH2A1遺伝子の差次的発現解析結果を示す図である。「*」はp<0.05、「**」はp<0.01、「***」はp<0.001で有意差があることを表す。図14のDE解析により、3つの単球サブタイプの全てにおいて、非重症例および健常群に比べて重症例でMACROH2A1遺伝子の発現が有意にアップレギュレーションされていることが示された。このことから、MACROH2A1遺伝子は、単球の機能を介して重症SARS-CoV-2感染症の発症機序に関与していることが示唆された。
【0079】
MACROH2A1遺伝子のCOVID-19肺炎における関与をさらに調べるために、19人のCOVID-19患者の剖検標本および7つの対照標本を用いて以前に生成された、肺組織のsnRNA-seqデータ(Melms JC et al., Nature. 2021;595(7865):114-119)を解析した。図15は、致死COVID-19患者および対照群から得られた肺のsnRNAデータ解析結果を埋め込んだUMAP可視化結果を示す図である。図15により19種の細胞タイプが同定された。図16は、対照群およびCOVID-19患者群での図19の各細胞タイプの相対的寄与を示す棒グラフを表す図である。図16に示す通り、COVID-19患者では対照群に比べて、タイプ1および2の肺胞上皮細胞の割合が減少し、マクロファージ、単球および繊維芽細胞の割合が増加していた。
【0080】
図17は、対照群および致死COVID-19患者群におけるMACROH2A1遺伝子のRNA発現レベル(log正規化)によって着色したUMAP可視化結果を示す図である。図18は、対照群およびCOVID-19患者群の各肺細胞でのMACROH2A1遺伝子の発現レベルを表すバイオリンプロットを示す図である。図19は、単球およびマクロファージでのMACROH2A1遺伝子の差次的発現解析結果を示す図である。図19のy軸は対照群に対する致死COVID-19群の発現の変化を示す。「**」はp<0.01、「***」はp<0.001で有意差があることを表す。図17~19に示す通り、MACROH2A1遺伝子は、PBMCのscRNA-seqの結果と一致して、対照群に比べてCOVID-19患者において単球での発現レベルが高く、マクロファージでも同様の傾向が見られた。これらの発見は、MACROH2A1遺伝子が、循環性免疫細胞だけでなくCOVID-19肺炎の肺における単球でもアップレギュレーションされていることを示した。これにより、MACROH2A1遺伝子が、単球およびマクロファージにおける機能を介してCOVID-19肺炎の発症機序に関与し得ることが示唆された。
【0081】
これらの発見に基づき、ウイルス感染への応答における先天免疫系の刺激がこれらのオミクス解析と同様にMACROH2A1を誘導するか調べた。ヒト単球細胞株であるTHP-1細胞をPMAで刺激してマクロファージへの分化を誘導し、次いでToll様受容体(TLR)のリガンドおよびIFNγによる刺激を加えた。図20は、1μg/mLのIFNγを用いて、または用いずに、1μg/mLのR848、100ng/mLのLPSまたは1μg/mLのPam3CSK4で48時間処理した後、PMAで分化させたTHP-1細胞のイムノブロット解析結果を示す図である。「med」は無刺激(すなわち培養液のみ)を意味する。図20に示す通り、MACROH2A1は、R848、LPSおよびPam3CSK4を用いたTLRの刺激により誘導された。さらに、MACROH2A1の主要なアイソフォームであるMACROH2A1.2は、R848刺激に加えてIFNγ刺激によって、より強く誘導された。
【0082】
一方、図21は、1μg/mLのIFNγを用いて、または用いずに、示された濃度のTNFαで48時間処理した後、PMAで分化させたTHP-1細胞のイムノブロット解析結果を示す図である。図21に示す通り、TNFαによる処理は、IFNγを用いたか否かにかかわらずMACROH2A1を誘導しなかった。結論として、MACROH2A1は、COVID-19感染に伴い肺または循環血液中の単球において誘導され、おそらくTLRシグナリング経路またはIFNγ刺激を介したウイルス感染への応答において誘導されると考えられる。SARS-CoV-2の感染への応答において、TLRシグナリングおよびINFγなどのサイトカインの分泌を含む免疫応答が単球におけるMACROH2A1の発現を促進する。次いで、MACROH2A1が循環性エクソソームにおいて分泌され、非重症COVID-19患者に比べて重症COVID-19患者においてより多くなると考えられる。
【0083】
最後に、血清EVプロテオミクス、PBMCのscRNA-seqおよび肺のsnRNA-seqの全体の傾向を統合するために、これらの調査で同定された分子に対してKeyMolnetを用いた分子ネットワーク解析を行った。KeyMolnetの始点終点ネットワーク検索アルゴリズムを用いることにより、統計学的に最も有意な関係性を有するターゲットの高度に複雑なネットワークが生成された。各分子ネットワークでは、最も高い関与を示す上位10個のパスウェイがHScore(超幾何分布によるスコア値)の順に列挙された。
【0084】
図22は、血清EVプロテオミクス、PBMCのscRNA-seqおよび肺組織のsnRNA-seqにおいて解析した分子ネットワークにおける上位10個のパスウェイを示す図である。図22では、MACROH2A1遺伝子の上流の分子ネットワークの試験と下流の分子ネットワークの試験とを示す。図22の「血清EVプロテオミクス」は、グループ2とグループ3との比較においてp<0.05、かつ変化倍率が1.5を超えるか、または0.67未満であるEVタンパク質のネットワークにおける上位10個のパスウェイを示す。図22の「PBMCのscRNA-seq」は、グループ2および3とグループ1との比較においてPBMC由来の単球のscRNA-seqの差次的発現解析において有意にアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションされている遺伝子のネットワークにおける上位10個のパスウェイを示す。図22の「肺組織のsnRNA-seq」は、対照と致死COVID-19との比較において肺由来の単球のscRNA-seqの差次的発現解析において有意にアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションされている遺伝子のネットワークにおける上位10個のパスウェイを示す。
【0085】
図23~25は、血清EVプロテオミクス、PBMCのscRNA-seqおよび肺組織のsnRNA-seqにおけるMACROH2A1遺伝子の上流の分子ネットワークの解析および「エストロゲンシグナリング」関連分子のエンリッチメントを表す。図23~25において明るく強調された分子は、「エストロゲンシグナリング」関連分子である。図23は、グループ2とグループ3との比較においてp<0.05、かつ変化倍率が1.5を超えるか、または0.67未満であるEVタンパク質の分子ネットワークを表す図である。図24は、グループ2および3とグループ1との比較においてPBMC由来の単球のscRNA-seqの差次的発現解析において有意にアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションされている遺伝子の分子ネットワークを表す図である。図25は、対照と致死COVID-19との比較において肺由来の単球のsnRNA-seqの差次的発現解析において有意にアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションされている遺伝子の分子ネットワークを表す図である。
【0086】
図26~28は、血清EVプロテオミクス、PBMCのscRNA-seqおよび肺組織のsnRNA-seqにおけるMACROH2A1遺伝子の下流の分子ネットワークの解析、ならびに「p160 SRCシグナリング経路」および「STATによる転写調節」関連分子のエンリッチメントを表す。図26~28において明るく強調された分子は、「p160 SRCシグナリング経路」および「STATによる転写調節」関連分子である。図26は、グループ2とグループ3との比較においてp<0.05、かつ変化倍率が1.5を超えるか、または0.67未満であるEVタンパク質の分子ネットワークを表す図である。図27は、グループ2および3とグループ1との比較においてPBMC由来の単球のscRNA-seqの差次的発現解析において有意にアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションされている遺伝子の分子ネットワークを表す図である。図28は、対照と致死COVID-19との比較において肺由来の単球のsnRNA-seqの差次的発現解析において有意にアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションされている遺伝子の分子ネットワークを表す図である。
【0087】
図22より、血清EVプロテオミクスのMACROH2A1遺伝子の上流の分子ネットワークの試験では、エストロゲンシグナリングにおいて最も高い関与が観察された。エストロゲンシグナリングは、PBMCのscRNA-seqおよび肺組織のsnRNA-seqの上流の分子ネットワークの試験においても最も高い関与を示した。次に、MACROH2A1遺伝子の下流の分子ネットワークを調べると、血清EVプロテオミクス、PBMCのscRNA-seqおよび肺組織のsnRNA-seqにおいて、「p160 SRCシグナリング経路」および「STATによる転写調節」が共通して高い関与を示すことが見出された。図23~28に示すように、MACROH2A1の上流および下流の調節関係を含む分子は、これらのパスウェイに属する分子を含んでいた。これらの結果は、3つ全てのオミクス解析に共通するパスウェイを明らかにし、単球におけるMACROH2A1遺伝子の機能は血清EVのプロテオミクスをある程度反映していることを示した。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の一態様は、COVID-19患者の重症化または難治化の予測に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28