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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059574
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】導電性シート
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/14 20060101AFI20240423BHJP
   A61B 5/268 20210101ALI20240423BHJP
   H01B 1/12 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
H01B5/14 Z
A61B5/268
H01B1/12 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023160515
(22)【出願日】2023-09-25
(31)【優先権主張番号】P 2022166933
(32)【優先日】2022-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1. 開催日 令和4年10月21日 集会名、開催場所 2022年度 セルフトロン研究会 ステーションコンファレンス東京5F501ABS会議室(東京都千代田区丸の内1-7-12サピアタワー5F) 公開者 武岡 真司 2. ウェブサイトの掲載日 令和5年7月4日 ウェブサイトのアドレス https://main.spsj.or.jp/ipc/2023/ 公開者 谷口 広晃、永田 万桜、箭野 裕一および武岡 真司 3. 開催日 令和5年7月21日 集会名、開催場所 The 13th SPSJ International Polymer Conference (IPC2023) 札幌コンベンションセンター(北海道札幌市白石区東札幌6条1丁目1-1) 公開者 谷口 広晃、永田 万桜、箭野 裕一および武岡 真司
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】武岡 真司
(72)【発明者】
【氏名】永田 万桜
(72)【発明者】
【氏名】谷口 広晃
(72)【発明者】
【氏名】箭野 裕一
【テーマコード(参考)】
4C127
5G307
【Fターム(参考)】
4C127AA02
4C127AA04
4C127LL21
5G307GA05
5G307GB02
5G307GC02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】成膜性及び生体適合性に優れる導電性シートの提供。
【解決手段】特定の構造単位を含むポリチオフェンを含む膜と、高分子膜とが積層された導電性シートであって、膜の厚みが50~1,000nmであって、膜の厚みが200~10,000nmである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造単位及び下記一般式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェンを含む膜(A)と、高分子膜(B)とが積層された導電性シートであって、
前記の膜(A)の厚みが50~1,000 nmであって、前記の膜(B)の厚みが200~10,000 nmであることを特徴とする導電性シート。
【化1】
[一般式(1)及び(2)において、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又はフッ素原子を表し、mは1~10の整数を表し、nは0又は1を表す。]
【請求項2】
前記の膜(B)が、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリジメチルシロキサン、ポリウレタン、天然ゴム、アクリル系ポリマー、メタクリル系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、多糖類、及びポリスチレンからなる群より選ばれる少なくとも一種の高分子により形成された膜である、請求項1に記載の導電性シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体電極等に利用可能な導電性シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
心電計を用いて心電位を測定する際に、基材及び導電性粘着剤から構成される心電図検査用電極(例えば、レッドダット(登録商標)心電図検査用電極)が用いられる。当該心電図検査用電極は、生体電極の一つとして知られているが、1mm程度の厚みがあり、柔軟性が低いため、安静状態で用いることを想定されたものであり、活動状態の人体の電位変動を測定する用途に用いることは困難であった。
【0003】
近年、疾病の予防、健康寿命増進及びスポーツ医学向上等に貢献するために、活動状態の人体の筋電位及び心電位等の電位変動を測定するニーズが高まっている。そのようなニーズを満たすために、電極層が生体表面の装着面の凹凸に倣って変形して密着することができ、装着の違和感が小さいフレキシブル電極の開発が求められている。当該フレキシブル電極について、PEDOT:PSSを用いたものが報告されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2021/095480
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のフレキシブル電極は、その電極層にPEDOT:PSS膜を用いているが、成膜性を向上させる目的でフッ素系界面活性剤等の添加剤の併用が好まれる。この場合、添加剤の生体適合性に課題がある点で改善が求められていた。
【0006】
本発明の一態様は、良好な成膜性及び優れた生体適合性を両立する導電性シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、下記導電性シートが上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の一態様は以下に示すとおりの導電性シートに関するものである。
【0009】
[1]下記一般式(1)で表される構造単位及び下記一般式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェンを含む膜(A)と、高分子膜(B)とが積層された導電性シートであって、前記の膜(A)の厚みが50~1,000 nmであって、前記の膜(B)の厚みが200~10,000 nmであることを特徴とする導電性シート。
【0010】
【化1】
【0011】
[一般式(1)及び(2)において、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又はフッ素原子を表し、mは1~10の整数を表し、nは0又は1を表す。]
[2]更に、前記の膜(B)が、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリジメチルシロキサン、ポリウレタン、天然ゴム、アクリル系ポリマー、メタクリル系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、多糖類、及びポリスチレンからなる群より選ばれる少なくとも一種の高分子により形成された膜である、[1]に記載の導電性シート。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、良好な成膜性及び優れた生体適合性を両立する導電性シートを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る導電性シートの一例における、層構成を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る導電性シートの一例における、層構成を模式的に示す断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る導電性シートの一例における、層構成を模式的に示す断面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る導電性シートの一例における、層構成を模式的に示す断面図である。
図5】一実施例の接触角測定時における、二層積層シート上の水滴の状態を示す図である。
図6】実施例4で作製した導電性シート電極を用いて取得した筋電図である。
図7】実施例5で作製した導電性シート電極を用いて取得した筋電図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を詳細に説明する。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0015】
〔本発明の概要〕
本発明の一実施形態は、生体電極等のフレキシブル電極として好適な導電性シートを提供する。活動状態の人体の筋電位及び心電位等の電位変動を測定する用途、脳卒中又は脊髄損傷のような神経疾患に伴う麻痺症状の治療における機能的電気刺激用途等において、電極が用いられる。従来の金属製の電極では、生体表面の凹凸に密着することは困難である。また、機能的電気刺激を行うために金属製の電極を生体組織に埋植すると、慢性的な炎症又は挿入部の局所的な神経衰弱が生じ、長期的な使用が困難であった。
【0016】
金属製の電極よりも柔らかく、且つ軽量な導電材料である導電性高分子を利用したフレキシブル電極は、皮膚等の生体表面への密着性に優れ、装着面の曲げ伸ばし等にも良好に追従できる。また、装着の違和感も少ないため、ヘルスケア分野及びスポーツサイエンス分野等への応用が期待されている。
【0017】
フレキシブル電極としての導電性シートに含まれる導電性高分子としては、特許文献1に示されるように、PEDOT:PSSが、高い導電性を発現する材料として提案されている。PEDOT:PSSは、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリスチレンスルホネートを示す。しかし、PEDOT:PSSは、単独では導電性を発揮することができず、添加剤として極性溶媒又は界面活性剤等が併用される。このような添加剤は、生体内環境に溶出することで生体毒性の原因となることが指摘されている。また、PEDOT:PSSが液中で膨潤するとPEDOTのドーパントとして作用するPSSの機能が低下することも知られている。
【0018】
本発明の一実施形態に係る導電性シートは、導電性高分子として後述するポリチオフェン(A1)を含む。ポリチオフェン(A1)によれば、フッ素系界面活性剤等の添加剤を必要とせずに、良好な導電性を有する膜を形成することができる。そのため、本発明の一実施形態に係る導電性シートによれば、生体適合性に優れる生体電極を提供することができる。また、このような導電性シートは、従来公知のフレキシブル電極に比べて耐水性に優れる。これにより生体内で長時間の連続装用が可能となるため、電極交換の煩雑さが軽減され、従来にない長期間の生体データ等の連続計測等が可能となる。
【0019】
このような導電性シートを用いれば、ヘルスケア分野及びスポーツサイエンス分野等において、生体電極の普及が促進され得る。また、長期間の使用が可能な生体電極を提供できるため、生体電極の廃棄量を低減し得る。このような効果は、例えば、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の「3.健康と福祉」および「12.持続可能な生産消費形態」等に関する目標の達成にも貢献するものである。
【0020】
〔導電性シート〕
図1は、本実施形態に係る導電性シート1の層構成を模式的に示す断面図である。図1に示すように、本発明の一実施形態に係る導電性シート1は、後述するポリチオフェンを含む膜(A)と、高分子膜(B)とが積層されている。本明細書では、ポリチオフェンを含む膜(A)を単に「膜(A)」と称し、高分子膜(B)を単に「膜(B)」と称する場合がある。
【0021】
<ポリチオフェンを含む膜(A)>
膜(A)は、下記一般式(1)で表される構造単位及び下記一般式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェンを含む膜(A)である。説明の便宜上、このようなポリチオフェンについて、ポリチオフェン(A1)と称する場合がある。
【0022】
【化2】
【0023】
[一般式(1)及び(2)において、Rは、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、又はフッ素原子を表し、mは1~10の整数を表し、nは0又は1を表す。]
膜(A)は、導電性シート1において導電層として機能する。膜(A)は、生体計測機器等の外部接続電極と電気的に接続していてもよい。例えば、膜(A)及び/又は膜(B)の一部にスルーホールが形成されており、当該スルーホールに充填された導電材料がコネクタとして機能して、膜(A)と外部接続電極とが電気的に接続していてもよい。また、膜(A)の端部に導電材料により形成されたコネクタが設けられており、当該コネクタを介して膜(A)と外部接続電極とが電気的に接続していてもよい。
【0024】
膜(A)は、例えば生体表面の装着面に倣って変形できるように、柔軟性を有している。このような柔軟性は、膜(A)が導電材料として、導電性高分子であるポリチオフェン(A1)を含んでいることで実現できる。
【0025】
上記一般式(1)及び(2)中のRについて、炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基としては、特に限定するものではないが、例えば、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、シクロペンチル基、n-へキシル基、2-エチルブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0026】
上記のRについては、成膜性の点で、水素原子、メチル基、エチル基、又はフッ素原子であることが好ましい。
【0027】
上記一般式(1)及び(2)中、mは、1~10の整数を表し、成膜性の点で、1~6の整数であることが好ましく、1~4の整数であることがより好ましく、2又は3であることがより好ましい。
【0028】
上記一般式(1)及び(2)中、nは、0又は1を表し、導電性に優れる点で、nは1であることが好ましい。
【0029】
上記一般式(2)で表される構造単位は、上記一般式(1)で表される構造単位のドーピング状態を表す。
【0030】
ドーピングにより絶縁体-金属転移を引き起こすドーパントは、アクセプタとドナーに分けられる。前者は、ドーピングにより導電性高分子の高分子鎖の近くに入り主鎖の共役系からπ電子を奪う。結果として、主鎖上に正電荷(正孔、ホール)が注入されるため、p型ドーパントとも呼ばれる。また、後者は、逆に主鎖の共役系に電子を与えることになり、この電子が主鎖の共役系を動くことになるため、n型ドーパントとも呼ばれる。
【0031】
本実施形態におけるドーパントは、ポリマー分子内に共有結合で結びついたスルホ基又はスルホナート基であり、p型ドーパントである。このように外部からドーパントを添加することなく導電性を発現するポリマーは自己ドープ型高分子と呼ばれている。
【0032】
ポリチオフェン(A1)は、下記一般式(4)で表されるチオフェンモノマーを、水又はアルコール溶媒中、酸化剤の存在下に重合させ、次いで必要に応じて酸処理することで製造することができる。
【0033】
【化3】
【0034】
[一般式(4)において、Mは、水素イオン、又は金属イオンを表す。Rは、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3~6の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又はフッ素原子を表し、mは1~10の整数を表し、nは0又は1を表す。]
上記一般式(4)におけるMで表される金属イオンとしては、特に限定するものではないが、遷移金属イオン、貴金属イオン、非鉄金属イオン、アルカリ金属イオン(例えば、Liイオン、Naイオン、及びKイオン)、アルカリ土類金属イオン等が挙げられる。
【0035】
一般式(4)で表されるチオフェンモノマーの重合後に得られるポリマーが金属塩である場合、得られた金属塩ポリマーを酸処理することでMを水素イオンへ変換することができる。
【0036】
上記一般式(4)で表されるチオフェンモノマーとしては、特に限定するものではないが、具体的には、6-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)ヘキサン-1-スルホン酸、6-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)ヘキサン-1-スルホン酸ナトリウム、6-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)ヘキサン-1-スルホン酸リチウム、6-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)ヘキサン-1-スルホン酸カリウム、8-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)オクタン-1-スルホン酸、8-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)オクタン-1-スルホン酸ナトリウム、及び8-(2,3-ジヒドロ-チエノ[3,4-b][1,4]ジオキシン-2-イル)オクタン-1-スルホン酸カリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-プロパンスルホン酸カリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-エチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-プロピル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-ブチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-ペンチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-ヘキシル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-イソプロピル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-イソブチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-イソペンチル-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-フルオロ-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸カリウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸アンモニウム、3-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-プロパンスルホン酸トリエチルアンモニウム、4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-ブタンスルホン酸ナトリウム、4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-ブタンスルホン酸カリウム、4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-ブタンスルホン酸ナトリウム、4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-メチル-1-ブタンスルホン酸カリウム、4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-フルオロ-1-ブタンスルホン酸ナトリウム、及び4-[(2,3-ジヒドロチエノ[3,4-b]-[1,4]ジオキシン-2-イル)メトキシ]-1-フルオロ-1-ブタンスルホン酸カリウム等が例示される。
【0037】
膜(A)の導電率は、特に限定するものではないが、フィルム状態での導電率(電気伝導度)として、10S/cm以上であることが好ましい。
【0038】
なお、ポリチオフェン(A1)については、公知情報に基づいて合成したものを用いることもできる。
【0039】
膜(A)におけるポリチオフェン(A1)の含有量については、0.01~100重量%であってよく、導電性の点で、0.05~80重量%であることが好ましく、0.1~70重量%であることがより好ましい。
【0040】
膜(A)は、ポリチオフェン(A1)のスルホン酸基とイオン対を形成可能な化合物(A2)を含んでいてもよい。スルホン酸基とイオン対を形成可能な化合物(A2)としては、特に限定するものではないが、例えば、アルカリ金属化合物、アンモニア、有機アミン化合物、第4級アンモニウム塩を挙げることができる。これらの化合物(A2)は、それぞれポリチオフェン(A1)のスルホン酸基と作用して、ポリチオフェン(A1)のアルカリ金属イオン塩、アンモニウムイオン塩、有機アンモニウムイオン塩、及び第4級アンモニウムイオン塩を形成する。
【0041】
上記のアルカリ金属化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、アルカリ金属塩化合物(例えば、塩化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化ルビジウム、塩化セシウム、臭化リチウム、臭化カリウム、臭化ナトリウム、臭化ルビジウム、臭化セシウム等)、又はアルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等)を挙げることができる。
【0042】
膜(A)が上記のアルカリ金属化合物を含有していれば、膜(A)に含まれるポリチオフェン(A1)の少なくとも一部はアルカリ金属イオン塩を形成する。上記のアルカリ金属イオンとしては、特に限定するものではないが、例えば、リチウムイオン、カリウムイオン、ナトリウムイオン、ルビジウムイオン、又はセシウムイオンを例示することができる。
【0043】
上記の有機アミン化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、総炭素数が1~30の1級、2級、若しくは3級の有機アミン化合物を例示することができ、より具体的には、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、トリエチルアミン、ノルマル-プロピルアミン、イソプロピルアミン、ノルマルブチルアミン、ヘキシルアミン、エタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、メチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、3-アミノ-1,2-プロパンジオール、3-メチルアミノ-1,2-プロパンジオール、3-ジメチルアミノ-1,2-プロパンジオール、2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジアミン、トリイソブチルアミン、トリイソペンチルアミン、トリイソオクチルアミン、イミダゾール、N-メチルイミダゾール、1、2-ジメチルイミダゾール、ピリジン、ピコリン、又はルチジン等を例示することができる。
【0044】
膜(A)が上記の有機アミン化合物を含有していれば、膜(A)に含まれるポリチオフェン(A1)の少なくとも一部は有機アンモニウムイオン塩を形成する。上記の有機アンモニウムイオンとしては、特に限定するものではないが、例えば、総炭素数が1~30の1級、2級、若しくは3級の有機アンモニウムイオンを例示することができ、より具体的には、例えば、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、ノルマル-プロピルアンモニウム、イソプロピルアンモニウム、ノルマルブチルアンモニウム、ヘキシルアンモニウム、2-ヒドロキシエチルアンモニウム、N,N-ジメチル-N-(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、N-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、ジ(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、N-メチル-N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、N,N,N-トリ(2-ヒドロキシエチル)アンモニウム、2,3-ジヒドロキシプロピルアンモニウム、N-メチル-N-(2,3-ジヒドロキシプロピル)アンモニウム、N,N-ジメチル-N-(2,3-ジヒドロキシプロピル)アンモニウム、1,4-ブタンジアンモニウム、トリイソブチルアンモニウム、トリイソペンチルアンモニウム、トリイソオクチルアンモニウム、イミダゾールカチオン、N-メチルイミダゾールカチオン、1、2-ジメチルイミダゾールカチオン、ピリジニウムイオン、ピコリニウムイオン、又はルチジニウムイオンを挙げることができる。
【0045】
上記の第4級アンモニウム塩としては、特に限定するものではないが、例えば、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラノルマルプロピルアンモニウムクロリド、テトラノルマルブチルアンモニウムクロリド、又はテトラノルマルヘキシルアンモニウムクロリド等が挙げられる。
【0046】
膜(A)が上記の第4級アンモニウム塩を含有していれば、膜(A)に含まれるポリチオフェン(A1)の少なくとも一部は第4級アンモニウムイオン塩を形成する。当該第4級アンモニウムイオンとしては、特に限定するものではないが、例えば、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラノルマルプロピルアンモニウムイオン、テトラノルマルブチルアンモニウムイオン、又はテトラノルマルヘキシルアンモニウムイオン等が挙げられる。
【0047】
スルホン酸基とイオン対を形成可能な化合物(A2)としては、入手性の点で、アルカリ金属水酸化物、アンモニア、又は総炭素数が1~16の1級、2級、若しくは3級の有機アミン化合物であることが好ましい。なお、上記総炭素数が1~16の1級、2級、若しくは3級の有機アミン化合物としては、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、トリエチルアミン、ノルマル-プロピルアミン、イソプロピルアミン、ノルマルブチルアミン、ヘキシルアミン、エタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、メチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、3-アミノ-1,2-プロパンジオール、3-メチルアミノ-1,2-プロパンジオール、3-ジメチルアミノ-1,2-プロパンジオール、1,4-ブタンジアミン、トリイソブチルアミン、トリイソペンチルアミン、イミダゾール、N-メチルイミダゾール、1、2-ジメチルイミダゾール、ピリジン、ピコリン、又はルチジンを例示することができる。
【0048】
膜(A)が、上記のスルホン酸基とイオン対を形成可能な化合物(A2)を含む場合、上記の一般式(1)で表される構造単位及び一般式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A1)については、その一部又は全部が上記の化合物(A2)と相互作用する。そして、下記の一般式(1’)で表される構造単位及び一般式(2’)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A1)を形成することとなる。すなわち、上記の一般式(1)で表される構造単位及び一般式(2)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A1)と上記の化合物(A2)との混合物と、一般式(1’)で表される構造単位及び一般式(2’)で表される構造単位からなる群より選ばれる少なくとも一種の構造単位を含むポリチオフェン(A1)は同じものを表す。
【0049】
【化4】
【0050】
[一般式(1’)及び(2’)中、R、m、及びnの定義及び好ましい範囲は、上記一般式(1)及び(2)において示したR、m、及びnの定義及び好ましい範囲と同義である。Mは、水素イオン、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、有機アンモニウムイオン、又は第4級アンモニウムイオンを表す。]
上記のMにおける、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、有機アンモニウムイオン、及び第4級アンモニウムイオンについては、上記の通りである。
【0051】
膜(A)における、上述したスルホン酸基とイオン対を形成可能な化合物(A2)の含有量については、0.001~20重量%であることが好ましく、0.01~20重量%であることがより好ましく、0.1~20重量%であることが更に好ましい。
【0052】
膜(A)の平面視における形状は特に限定されないが、例えば、円形、楕円形、正方形、長方形、及び多角形であってもよい。本明細書において導電性シート1の「平面視」とは、導電性シート1の何れかの面と直交する方向から、平面上に静置した導電性シート1を見た状態を示すものであってよい。
【0053】
<高分子膜(B)>
膜(B)は、高分子により形成された膜である。膜(B)は、膜(A)の何れか一方の面に積層されている。膜(B)は、導電性シート1において導電層である膜(A)の支持層として機能してよい。
【0054】
膜(B)を形成する高分子は、特に限定されないが、例えば、スチレン-ブタジエン-ブロックポリマー等のスチレン-ブタジエン共重合体、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリジメチルシロキサン、ポリウレタン、天然ゴム、アクリル系ポリマー、メタクリル系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、多糖類、及びポリスチレンからなる群より選ばれる少なくとも一種の高分子であってよい。膜(B)は、これらの高分子の1種により形成される膜であってもよく、2種以上の混合高分子により形成される膜であってもよい。膜(B)がこのような高分子により形成されていれば、膜(B)の柔軟性が良好となるため、導電性シート1の柔軟性を良好に確保できる。また、膜(B)は、高分子を主成分として形成された膜であればよく、添加剤又は不可避的不純物を含むことを妨げるものではない。
【0055】
膜(B)の平面視における形状は特に限定されないが、例えば、円形、楕円形、正方形、長方形、及び多角形であってもよい。膜(B)の平面視における形状は、膜(A)の平面視における形状と相似の形状であってもよい。
【0056】
また、図1に示すように、膜(B)は、膜(A)よりも平面視における面積が大きくてもよい。言い換えれば、膜(B)は、平面視において膜(A)を内包しており、膜(A)は全体が膜(B)と重なっているが、膜(B)は膜(A)と重なっていない部分を有していてもよい。導電性シート1が生体表面に装着された状態では、導電性を有する膜(A)は、膜(B)よりも生体表面側に位置することが好ましい。この場合、膜(B)が上述のような大きさであれば、導電性シート1が生体表面に装着された状態において、膜(B)の一部が生体表面と接して密着できる。
【0057】
また、図2に示すように、膜(B)は、複数の連通孔(B1)が形成されることで、連通孔(B1)のパターンを有するものであってもよく、この場合、当該連通孔(B1)には、膜(A)が充填される形となる。連通孔(B1)のパターンについては、後述する塗布方法によって作成することができる。連通孔(B1)のパターンを形成する印刷法としては、例えば、グラビアコート法、又はフレキソ印刷法が挙げられる。図2に示した導電性シート1については、2つの面のどちらが生体表面と接触しても電極シートとして利用することができる。
【0058】
膜(B)の、生体表面及び膜(A)それぞれとの密着性を向上させる観点からは、膜(B)を形成する高分子は、ポリウレタンであることが好ましい。膜(B)がポリウレタンにより形成されている場合、膜(B)における膜(A)と接触する一面にコロナ放電処理を施し、当該一面にジアミノ基含有シランカップリング剤で処理することにより、膜(B)と膜(A)とを一層強固に密着させることができる。このジアミノ基含有シランカップリング剤としては、例えば、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランを挙げることができる。
【0059】
なお、膜(A)の平面視における面積は、膜(B)より大きくてもよく、膜(B)と同じであってもよい。また、膜(A)及び膜(B)の面積に関わらず、膜(A)の一部が膜(B)と重なっていなくてもよい。
【0060】
<その他の膜等>
導電性シート1は、膜(A)と膜(B)とが積層された二層膜からなるものであってもよく、更に他の膜が積層されていてもよい。導電性シート1が、三層以上の膜からなる場合、膜(A)と膜(B)とは互いに隣り合って積層されていればよい。
【0061】
他の膜としては、例えば、水透過性膜、水溶性犠牲膜及び保護膜(C)が挙げられる。水透過性膜は、膜(A)及び膜(B)の担持体として機能する層であってよい。水溶性犠牲膜は、水溶性材料により形成され、膜(A)と膜(B)とが積層された二層膜上に形成され担持体として機能する層であってよい。あるいは、水溶性犠牲膜は、膜(A)と膜(B)とが積層された二層膜と水透過性膜又は基材とを接合する層として機能してよい。また、当該水溶性犠牲膜については、膜(A)と膜(B)とが積層された二層膜を水透過性膜又は基材から剥離する層として機能してよい。なお、当該水溶性犠牲膜及び前記二層膜が接する膜については、膜(A)であってもよいし、膜(B)であってもよい。
【0062】
水透過性膜は、水を透過できる材料により形成されていればよく、このような材料としては例えば、セルロース製若しくは樹脂製の不織布、又は樹脂製のスポンジ若しくはメッシュが挙げられる。水透過性膜の厚みは、導電性シート1の運搬及び保管の容易性の観点から、0.03~3mm程度であってよい。導電性シート1がこのような水透過性膜を有していれば、導電性シート1の運搬及び保管が容易となる。
【0063】
水溶性犠牲膜としては、膜(A)と膜(B)とが積層された二層膜上に形成され、担持体としての強度を持ち、且つ水に溶ける水溶性材料で形成されていればよい。あるいは、水溶性犠牲膜は、膜(A)と膜(B)とが積層された二層膜と水透過性膜又は基材とを接合でき、且つ水に溶ける水溶性材料で形成されていればよい。このような水溶性材料として、例えば、澱粉、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、及びポリエチレングリコールが挙げられる。このような水溶性材料であれば、膜(A)及び膜(B)と水透過性膜とを確実に接合でき、且つ水透過性膜を透過した水で溶けて膜(A)及び膜(B)を水透過性膜から確実に剥離できる。
【0064】
図3に示すように、導電性シート1は、保護膜(C)を備えていてもよい。保護膜(C)は、膜(A)及び膜(B)を覆うように積層され、膜(A)及び膜(B)を保護する膜である。保護膜(C)については、市販の医療用透湿防水フィルム等を用いることが好ましい。
【0065】
導電性シート1が、膜(A)と膜(B)とが積層された二層膜に加えて、さらに水透過性膜、水溶性犠牲膜、及び/又は保護膜(C)を有している場合、導電性シート1の運搬及び保管が容易であると共に、導電性シート1の装着面への装着も容易である。
【0066】
また、導電性シート1は、積層される膜以外の部材をさらに備えていてもよい。例えば、図4に示すように、導電性シート1は、導線(D)を備えていてもよい。導線(D)は、一部が膜(A)と接触する。導電性シート1は、導線(D)を備えることによって、例えば電位差測定装置と電気的に接続できる。
【0067】
上記導線(D)としては、例えば、白金線、金線、銀線、銅線、アルミニウム線、鉄線、炭素繊維、又は導電性繊維等が挙げられる。
【0068】
<導電性シートの製造方法>
以下に、本実施形態に係る導電性シート1の製造方法、及び生体表面への装着方法について例を挙げて説明するが、導電性シート1の製造方法及び装着方法はこれに限られるものではない。
【0069】
導電性シート1の製造方法の第一の例として、膜(A)、膜(B)、及び水溶性犠牲膜の順番に積層された積層体である導電性シート1の製造方法について説明する。
【0070】
後述する基材の上にポリチオフェン(A1)を含む溶液を塗布した後、所定温度で熱処理して乾燥することにより、膜(A)を成膜させる。上記の膜(A)の上に、上記の膜(B)を形成する高分子の溶液を塗布した後、所定温度で熱処理して乾燥することにより、膜(B)を積層成膜させる。上記膜(B)の上に、上記の水溶性材料を含む溶液を塗布した後、所定温度で熱処理して乾燥することにより、水溶性犠牲膜を積層成膜させ、所定温度で熱処理をして完全に乾燥させる。以上の操作により、基材上に、膜(A)、膜(B)、及び水溶性犠牲膜の順番に積層された積層体である導電性シート1を製造することができる。
【0071】
導電性シート1の製造方法の第二の例として、膜(A)、膜(B)、水溶性犠牲膜、及び水透過性膜の順番に積層された積層体である導電性シート1の製造方法について説明する。
【0072】
後述する基材の上にポリチオフェン(A1)を含む溶液を塗布した後、所定温度で熱処理して乾燥することにより、膜(A)を成膜させる。上記の膜(A)の上に、上記の膜(B)を形成する高分子の溶液を塗布した後、所定温度で熱処理して乾燥することにより、膜(B)を積層成膜させる。上記膜(B)の上に、上記の水溶性材料を含む溶液を塗布した後、所定温度で熱処理して乾燥することにより、水溶性犠牲膜を積層成膜させる。上記の水溶性材料を含む溶液を塗布した後、完全に乾燥させる前に、当該塗布面上に水透過性膜を設置し、上記の水溶性材料を含む溶液からなる塗膜を乾燥させることによって、水溶性犠牲膜と水透過性膜とを接着させることができる。以上の操作により、基材上に、膜(A)、膜(B)、水溶性犠牲膜、及び水透過性膜の順番に積層された積層体である導電性シート1を製造することができる。
【0073】
導電性シート1の製造方法の第三の例として、膜(A)、膜(B)、及び膜(B)表面の外周部分に粘着テープによるフレームが設置された積層体である導電性シート1の製造方法について説明する。
【0074】
後述する基材の上にポリチオフェン(A1)を含む溶液を塗布した後、所定温度で熱処理して乾燥することにより、膜(A)を成膜させる。上記の膜(A)の上に、膜(A)の全面に亘って上記の膜(B)を形成する高分子の溶液を塗布した後、所定温度で熱処理して乾燥することにより、膜(B)を積層成膜させる。次いで、上記膜(B)表面の外周部分に粘着テープを張り付けることによって、基材上に、膜(A)、膜(B)、及び膜(B)表面の外周部分に粘着テープによるフレームが設置された積層体である導電性シート1を製造することができる。膜(B)表面の外周部分に粘着テープを設置することによって、積層膜の構造保持力を高め、基材のみを剥離しやすくできる。
【0075】
導電性シート1の製造方法の第四の例として、水透過性膜、水溶性犠牲膜、膜(B)、及び膜(A)の順番に積層された積層体である導電性シート1の製造方法について説明する。
【0076】
後述する基材上に水透過性膜を設置する。当該水透過性膜の表面に、上記の水溶性材料を含む溶液を塗布した後、所定温度で熱処理して乾燥することにより、水溶性犠牲膜を成膜させる。上記の水溶性犠牲膜の上に、上記の膜(B)を形成する高分子の溶液を塗布した後、所定温度で熱処理して乾燥することにより、膜(B)を積層成膜させる。上記の膜(B)の上に、ポリチオフェン(A1)を含む溶液を塗布した後、所定温度で熱処理して乾燥することにより、膜(A)を積層成膜させる。以上の操作により、水透過性膜、水溶性犠牲膜、膜(B)、及び膜(A)の順番に積層された積層体である導電性シート1を上記基材上に製造することができる。
【0077】
導電性シート1の製造方法の第五の例として、膜(B)、膜(A)、及び膜(A)表面の外周部分に粘着テープによるフレームが設置された積層体である導電性シート1の製造方法について説明する。
【0078】
後述する基材上に、上記の膜(B)を形成する高分子の溶液を塗布した後、所定温度で熱処理して乾燥することにより、膜(B)を成膜させる。上記の膜(B)の上に、ポリチオフェン(A1)を含む溶液を塗布した後、所定温度で熱処理して乾燥することにより、膜(A)を積層成膜させる。次いで、上記膜(A)の上の外周部分に粘着テープを張り付けることによって、基材上に、膜(B)、膜(A)、及び膜(A)表面の外周部分に粘着テープによるフレームが設置された積層体である導電性シート1を製造することができる。膜(A)表面の外周部分に粘着テープを設置することによって、積層膜の構造保持力を高め、基材のみを剥離しやすくできる。
【0079】
上記の導電性シート1の製造方法の例については、膜(B)が連通孔(B1)を有するものであってもよい。例えば、膜(B)を成膜させる膜上に、所定面積の開口部を形成したマスクを被着させ、そのマスク上に、高分子を含む溶液を塗布して膜を印刷した後、マスクを除去してから所定温度で熱処理して乾燥することにより、連通孔(B1)を有する膜(B)を積層させることができる。
【0080】
導電性シート1の製造方法の第六の例として、膜(A)、膜(B)、膜(A)の順番に積層された積層体である導電性シート1の製造方法について説明する。後述する基材の上に、上記の膜(B)を形成する高分子の溶液を塗布した後、所定温度で熱処理して乾燥することにより、膜(B)を成膜させる。上記の膜(B)の上に、ポリチオフェン(A1)を含む溶液を塗布した後、所定温度で熱処理して乾燥することにより、膜(A)を積層成膜させる。基材から膜(B)及び膜(A)からなる積層膜を剥離し、膜(B)側の折り目の線が内側に隠れるように折りたたむことで膜(A)、膜(B)、膜(A)の順番に積層された積層体である導電性シート1を作製することができる。
【0081】
なお、膜(A)、膜(B)、及び水溶性犠牲膜の厚みは、それぞれ、用いる塗布液中のポリチオフェン(A1)の濃度、高分子の濃度、及び/又は水溶性材料の濃度を調整してコントロールすることができる。
【0082】
また、上記の導電性シート1の製造方法の第一、二、三、五及び第六例のように、基材上に直接、膜(A)又は膜(B)を形成させる場合、上記基材上には、予め剥離剤が塗布されていることが好ましい。剥離剤を塗布することによって、後工程を行った後に、膜(A)及び膜(B)を含む導電性シート1を上記基材から容易に剥離させることができる。
【0083】
<導電性シートの生体表面への装着方法>
導電性シート1の装着面への装着方法の第一の例を説明すれば、基材、膜(A)、膜(B)、及び水溶性犠牲膜の順番に積層された積層体から、基材のみを剥離して、膜(A)、膜(B)、及び水溶性犠牲膜の順番に積層された導電性シート1を得る。次いで、当該導電性シート1について、水溶性犠牲膜を下向きにした状態で水面に置き、水溶性犠牲膜側を水中に浸漬して溶かすことによって、膜(A)及び膜(B)からなる導電性シート1のみを水面又は水中に浮遊させることができる。これを掬い取って、生体表面などの装着面へ装着したり、別の基材に装着したりすることができる。例えば、水面又は水中に浮遊した導電性シート1をメッシュフィルムに掬い取って、生体表面などの装着面に装着できる。
【0084】
導電性シート1の装着面への装着方法の第二の例を説明すれば、基材、膜(A)、膜(B)、水溶性犠牲膜、及び水透過性膜の順番に積層された積層体から、基材のみを剥離して、膜(A)、膜(B)、水溶性犠牲膜、及び水透過性膜の順番に積層された導電性シート1を得る。次いで、当該導電性シート1について、膜(A)が生体表面等の装着面に接触するように、当該装着面に設置する。次いで、導電性シート1の水透過性膜に水を供給し、水透過性膜を透過した水で水溶性犠牲膜を溶かして、水溶性犠牲膜を除去する。これにより、水透過性膜を膜(A)及び膜(B)からなる導電性シート1から剥離できる。このような操作によって、膜(A)及び膜(B)からなる導電性シート1について、生体表面へ装着することができる。
【0085】
導電性シート1の装着面への装着方法の第三の例を説明すると、基材、膜(A)、膜(B)、及び膜(B)表面の外周部分に粘着テープによるフレームが設置された積層体から、粘着テープによるフレームの強度を利用して、基材から、膜(A)、膜(B)、及びフレームからなる導電性シート1を剥離することができる。当該導電性シート1については、膜(A)を生体表面等の装着面に接触するように、当該装着面に装着することができる。このとき、生体表面は若干濡れている状態が好ましく、装着後に導電性シート1を乾燥させることによって安定に導電性シート1を生体表面に装着できる。その後フレームの部分は切除する。
【0086】
また、導電性シート1については、図3に示すように、膜(A)及び膜(B)を覆うように保護膜(C)が積層されており、膜(A)及び膜(B)が保護膜(C)により保護されていてもよい。図3に示す態様により保護膜(C)を形成させる場合、膜(A)は、膜(B)の連通孔(B1)を通して生体表面と接触させることができる。
【0087】
上記保護膜(C)については、市販の医療用透湿防水フィルム等を用いることが好ましい。
【0088】
導電性シート1の装着面への装着方法の第四の例を説明すれば、上記の導電性シート1の製造方法の第六の例に基づいて、膜(A)、膜(B)、膜(A)の順番に積層された導電性シート1を得る。当該導電性シート1については、膜(A)を生体表面等の装着面に接触するように、当該装着面に装着することができる。このとき、生体表面は若干濡れている状態が好ましく、装着後に導電性シート1を乾燥させることによって安定に導電性シート1を生体表面に装着できる。このような操作によって、膜(A)、膜(B)、膜(A)からなる導電性シート1を生体表面へ装着することができる。
【0089】
また、導電性シート1については、図4に示すように、膜(A)と接触する導線(D)を設置することによって、電位差測定装置と電気的に接続させることができる。
【0090】
上記導線(D)としては、例えば、白金線、金線、銀線、銅線、アルミニウム線、鉄線、炭素繊維、又は導電性繊維等が挙げられる。
【0091】
<導電性シートの厚み>
導電性シート1は、厚みが薄いことが好ましい。導電性シート1の厚みとは、導電性シート1における、膜(A)及び膜(B)の積層方向の長さを示すものである。導電性シート1の曲げ剛性は、シートの厚みの3乗に比例することが一般的に知られている。導電性シート1は、生体表面への密着性を向上する観点から高い柔軟性を有することが好ましく、言い換えれば曲げ剛性が低いことが好ましい。
【0092】
導電性シート1の柔軟性を向上する観点から、膜(A)は、厚みが50~1,000nmであればよく、50~500nmであることが好ましく、50~250nmであることがより好ましい。また、膜(B)は、厚みが200~10,000nmであればよく、200~5,000nmであることが好ましく、200~600nmであることがより好ましい。
【0093】
膜(A)及び膜(B)がこのような厚みであれば、上述の通り導電性シート1の曲げ剛性を十分に小さくできるため、導電性シート1の生体表面への密着性を良好に確保できる。
【0094】
各膜の乾燥雰囲気は大気中、不活性ガス中、真空中、又は減圧下の何れであってもよい。高分子膜の劣化抑制の観点からは、窒素、アルゴン等の不活性ガス中が好ましい。
【0095】
各膜の塗布後の乾燥温度は、均一な導電膜が得られる温度であれば特に限定されないが、室温~300℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは室温~250℃の範囲であり、さらに好ましくは室温~200℃の範囲である。なお、本明細書において、室温とは15~25℃を意図する。
【0096】
上記の基材としては、非透過性で平面性に優れるものが好ましく、特に限定するものではないが、例えば、ガラス板、プラスチック板、ポリエステル板、ポリアクリレート板、ポリカーボネート板、金属板、金属酸化物板、セラミックス板、又はレジスト基板等が挙げられる。
【0097】
上記の塗布する方法としては、特に限定するものではないが、例えば、キャスティング法、ディッピング法、バーコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法、スプレーコート法、スピンコート法、インクジェット印刷法、又はスクリーン印刷法等が挙げられる。
【0098】
ポリチオフェン(A1)を含む溶液の調製方法としては、例えば、ポリチオフェン(A1)と、必要に応じて化合物(A2)と、溶媒と、を混合し、撹拌等によって均一化する方法を挙げることができる。その際、必要に応じてその他添加剤を追加で添加したうえで混合してもよい。
【0099】
ここで、混合する際の温度は、特に限定するものではないが、例えば、室温~加温下で行うことができる。好ましくは0℃以上100℃以下が好ましい。
【0100】
混合する際の雰囲気は、特に限定するものではないが、大気中でも、不活性ガス中でも良い。
【0101】
ポリチオフェン(A1)を含む溶液を混合する際には、スターラーチップ又は攪拌羽根による一般的な混合溶解操作に加えて、超音波照射、ホモジナイズ処理(例えば、メカニカルホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー等の使用)を行ってもよい。ホモジナイズ処理する場合には、ポリマーの熱劣化を防ぐため、冷温しながら行うことが好ましい。
【0102】
ポリチオフェン(A1)を含む溶液のpHは、1.5~5.0であることが好ましく、2.0~4.0であることがより好ましく、2.5~3.5であることがより好ましく、2.75~3.25であることがさらに好ましく、3.0であることが特に好ましい。なお、当該溶液のpHは、スルホン酸基とイオン対を形成可能な化合物(A2)の種類と含有量によって調整できる。
【0103】
ポリチオフェン(A1)を含む溶液について、溶媒は、水を含むものであれば特に限定されないが、非水溶媒を含んでいてもよい。当該非水溶媒としては、特に限定されないが、有機溶媒又は電解液等を挙げることができる。
【0104】
有機溶媒としては、アルコール、非プロトン性極性有機溶媒、多価アルコール、環状スルホン類、ラクトン類等が挙げられる。
【0105】
アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、ブトキシエタノール、エチレングリコール等を挙げることができる。非プロトン性極性有機溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、1-メチル-2-ピロリドン等を挙げることができる。多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリグリセリン等を挙げることができる。環状スルホン類としては、スルホラン等を挙げることができる。ラクトン類としては、γ-ブチロラクトン等のラクトン類等を挙げることができる。
【0106】
上記溶媒は、水と、アルコール及び/又は非プロトン性極性有機溶媒との混合溶媒であってもよい。この場合、上記の溶液中のアルコール及び/又は非プロトン性極性有機溶媒の含有量は、0.001~20重量%であることが好ましく、操作性に優れる点で、0.01~15重量%であることがより好ましく、0.1~10重量%であることがさらに好ましい。
【0107】
ポリチオフェン(A1)を含む溶液中のポリチオフェン(A1)の含有量は、0.01~10重量%であれば特に限定するものではない。このような溶液は、塗布後、乾燥・脱水されるため、上記の含有量の範囲とすることにより良好な均一膜を得ることができる。
【0108】
ポリチオフェン(A1)を含む溶液の濃度調整は、配合比で調整しても良いし、配合後に濃縮により調整しても良い。濃縮の方法は、減圧下に溶媒を留去する方法であっても、限外ろ過膜を利用する方法であっても良い。
【0109】
ポリチオフェン(A1)を含む溶液中の固形分の粒子径は、特に限定するものではないが、小さいほど水溶性が良好であり、膜(A)の導電性及び成膜時の均一な膜形成の観点からも望ましい。例えば、室温又は加温下で調製した上記溶液の固形分濃度が10重量%以下の場合、固形分の粒子径(D50)が0.02μm以下であることが好ましい。
【0110】
ポリチオフェン(A1)を含む溶液の粘度(20℃)は、200mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは100mPa・s以下であり、さらに好ましくは50mPa・s以下である。
【0111】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0112】
以下、本発明を実施例によって具体的に記述する。しかし、これらによって本発明は何ら限定して解釈されるものではない。
【0113】
実施例1
ガラス基板(22mm×22mm)上に5重量%ポリジメチルシロキサン溶液400μLをスピンコート(6000rpm,150sec)して、大気中でキュアリング(95℃,1hr)を施すことで数十nmの剥離層を作製した。ポリジメチルシロキサン溶液の溶媒は、ヘキサン:酢酸エチルの体積比が3:1である混合溶媒とした。剥離層の表面をプラズマ処理(45mA,133Pa,30sec)することによって、表面を親水化した。剥離層のプラズマ処理した面に、Selftron(登録商標)S100(東ソー社製)400μLをスピンコート(1500rpm,60sec)し、次いで、真空中でアニーリング(150℃,30min)を施すことで導電層を作製した。Selftron
S100は本発明の一実施形態に係るポリチオフェン(A1)を含んでいることから、ここで得られた導電層は、本発明の一実施形態に係る膜(A)に相当する。
【0114】
導電層の上に、5重量%スチレン-ブタジエン-ブロックポリマー(シグマアルドリッチ社製)のテトラヒドロフラン溶液400μLをスピンコート(4000rpm,20sec)して大気中でキュアリング(80℃,1hr)を施すことで、支持層を作製した。ここで得られた支持層は、本発明の一実施形態に係る膜(B)に相当する。
【0115】
支持層の上に、10重量%ポリビニルアルコール(関東化学社製)水溶液をホットプレート上でドロップキャスト(80℃,18min)することで、ポリビニルアルコール層を作製した。ここで得られたポリビニルアルコール層は、水溶性犠牲膜に相当する。得られたSelftron S100/スチレン-ブタジエン-ブロックポリマー/ポリビニルアルコール 三層積層体を、ガラス基板から剥離した。
【0116】
三層積層体をMilli-Q(登録商標)水中に投入し、水溶性犠牲膜に相当するポリビニルアルコール層を溶解(RT.20min)させ、Selftron S100/スチレン-ブタジエン-ブロックポリマー 二層積層シートを得た。ここで得られた二層積層シート及び上述の三層積層体はそれぞれ、本発明の一実施形態に係る導電性シートに対応する。得られた二層積層シートについて、スチレン-ブタジエン-ブロックポリマーの面がPET面と接するように、PETフィルム基板上に接着させた。
【0117】
実施例2
ガラス基板(22mm×22mm)上に5重量%ポリジメチルシロキサン溶液400μLをスピンコート(6000rpm,150sec)して、大気中でキュアリング(95℃,1hr)を施すことで数十nmの剥離層を作製した。ポリジメチルシロキサン溶液の溶媒は、ヘキサン:酢酸エチルの体積比が3:1である混合溶媒とした。剥離層の表面をプラズマ処理(45mA,133Pa,30sec)することによって、表面を親水化した。剥離層のプラズマ処理した面に、Selftron(登録商標)S100(東ソー社製)400μLをスピンコート(1500rpm,60sec)し、次いで、真空中でアニーリング(150℃,30min)を施すことで導電層を作製した。Selftron
S100は本発明の一実施形態に係るポリチオフェン(A1)を含んでいることから、ここで得られた導電層は、本発明の一実施形態に係る膜(A)に相当する。
【0118】
導電層の上に、5重量%スチレン-ブタジエン-ブロックポリマー(シグマアルドリッチ社製)のテトラヒドロフラン溶液400μLをスピンコート(4000rpm,20sec)して大気中でキュアリング(80℃,1hr)を施すことで、支持層を作製した。ここで得られた支持層は、本発明の一実施形態に係る膜(B)に相当する。
【0119】
得られたSelftron S100/スチレンーブタジエンーブロックポリマー 二層積層体の膜(B)の上の四辺に、縁取りを行うように、幅2mmのテープを貼付し、フレームを形成させた。上記フレームを引き上げるようにして、Selftron S100/スチレンーブタジエンーブロックポリマー 二層積層体及びフレームからなる導電性シートをガラス基板から剥離した。
【0120】
次いで、Selftron S100/スチレンーブタジエンーブロックポリマー 二層積層体及びフレームからなる導電性シートについて、スチレン-ブタジエン-ブロックポリマーの面がPET面と接するように、PETフィルム基板上に付着させた。次いで、テープフレーム部を切断して除去した。以上の操作により、Selftron S100/スチレンーブタジエンーブロックポリマー 二層積層体からなる導電性シートをPETフィルム基板上に作製した。
【0121】
比較例1
導電性高分子であるPEDOT:PSS(Clevios PH1000、ヘレウス社製)に可塑剤のジプロピレングリコール(5vol%)と界面活性剤のZonyl(登録商標) FS-300(1vol%、シグマアルドリッチ社製)を添加し、終夜攪拌した。得られた調製液をガラス基板(22mm×22mm)にスピンコート(2000rpm,40sec)してアニーリング(150℃,30min)を施すことで、導電層を作成した。導電層の上に5重量% スチレン-ブタジエン-ブロックポリマーのテトラヒドロフラン溶液(400μL)をスピンコート(4000rpm,20sec)して大気中でキュアリング(80℃,1hr)を施すことで、支持層を作製した。
【0122】
支持層の上に、10重量%ポリビニルアルコール水溶液(400μL)をホットプレート上でドロップキャスト(80℃,18min)することで、ポリビニルアルコール層を作製した。三層積層体をガラス基板から剥離し、Milli-Q水中に投入し、ポリビニルアルコール層を溶解(RT,20min)させ、PEDOT:PSS/スチレン-ブタジエン-ブロックポリマー 二層積層シートを得た。得られた二層積層シートについて、スチレン-ブタジエン-ブロックポリマーの面がPET面と接するようにPETフィルム基板上に接着させた。
【0123】
<二層積層シートの膜厚>
実施例及び比較例において得られた膜の厚みについてそれぞれ、触針式段差計(Dektak XT、bruker社製)を用いて測定した。
【0124】
実施例1の、Selftron S100/スチレン-ブタジエン-ブロックポリマー
二層積層シートの各層の膜の厚みは、Selftron S100を含む膜(A)が125nmであり、スチレン-ブタジエン-ブロックポリマーの膜(B)が440nmであった。
【0125】
比較例1の、PEDOT:PSS/スチレン-ブタジエン-ブロックポリマー 二層積層シートの各層の膜の厚みは、PEDOT:PSSを含む膜が120nmであり、スチレン-ブタジエン-ブロックポリマーの膜が440nmであった。
【0126】
<二層積層シートの耐水性評価>
実施例及び比較例で作製した、PETフィルム基板上に接着させた二層積層シートをMilli-Q水(37℃)中に浸漬させ、一定時間後に取り出した後の二層積層シートに、大気中でキュアリング(80℃,1hr)を施した。四探針法(Loresta GP
MSP T-601、三菱化学社製)を用いてシート抵抗値を測定した。初期のシート抵抗値を基準として、シート抵抗値の増加倍率について経時的な推移を調べた。
【0127】
【表1】
【0128】
上記の表1に示すように、実施例1の二層積層シートは、シート抵抗率の上昇速度が小さく、耐水性に優れることが分かった。
【0129】
<二層積層シートの疎水性評価>
実施例及び比較例で作製した、PETフィルム基板上に付着させた二層積層シートについて、リン酸緩衝生理食塩水(37℃、5%CO)中に浸漬させ、一定時間後に取り出した後の二層積層シートに、大気中でキュアリング(80℃,1hr)を施した。その後、二層積層シートに0.5μLの水を滴下し、自動接触角計(DM401、KYOWA製)を用いて接触角を測定した。浸漬時間の条件を変えて、接触角について経時的な推移を調べた。
【0130】
【表2】
【0131】
図5は、接触角測定時における二層積層シート上の水滴の状態を示す図である。図5及び上記の表2に示すように、実施例1の二層積層シートは、比較例1の二層積層シートに比べて接触角が大きく、良好な疎水性が長期間維持されることが分かった。
【0132】
<二層積層シートの細胞毒性評価>
実施例及び比較例で作製した二層積層シートについて、クリーンベンチ内でUV滅菌を施した。その後、0.66mLの細胞培養液を準備し、導電層を接触面にして上記二層積層シートと上記細胞培養液とを接触させた(37℃,24±1hr)。二層積層シートを取り除いた細胞培養液を2倍、又は3倍に希釈し、これを試験液としてPremix WST-1(Water soluble Tetrazolium salts, Cell Proliferation Assay System、タカラバイオ製)による細胞毒性試験を行った。
【0133】
【表3】
【0134】
上記表3中、「CS」はGibco(登録商標)ウシ血清を示し、「FBS」はウシ胎児血清を示し、「HS」はGibcoウマ血清を示し、「PS」はペニシリン-ストレプトマイシン溶液を示す。含有量(%)は、何れも体積%を示す。NIH3T3はマウス胎児繊維芽細胞株であり、C2C12はマウス横紋筋由来筋芽細胞株であり、PC12はラット副腎褐色細胞腫由来の細胞株である。これらの細胞株は何れも、理研セルバンクから購入した。
【0135】
上記の表3に示すように、実施例1の二層積層シートは、細胞毒性が小さく、生体適合性に優れることが分かった。
【0136】
<二層積層シートの製造例>
実施例3
水転写紙(4cm×8cm、タカラインコーポレーション社製)上に、直径2cmの円型に複数の連通孔のパターンを有する市販のスクリーン版を被せ、前記スクリーン版上に濃度5重量%ポリジメチルシロキサン溶液 400μLを乗せてスクリーン印刷し、大気中でキュアリング(95℃,30min)を施すことで支持層(直径2cm、膜厚400nm)を作製した。ここで得られた支持層は、本発明の一実施形態に係る膜(B)に相当する。支持層の表面をプラズマ処理(45mA,133Pa,30sec)することによって、表面を親水化した。支持層のプラズマ処理した面に、直径1.5cmの円型パターンを有する市販のスクリーン版を被せ、前記スクリーン版上にSelftron(登録商標)S100(東ソー社製)400μLを乗せてスクリーン印刷し、真空中でキュアリング(150℃,30min)を施すことで導電層(直径1.5cm、膜厚200nn)を作製した。Selftron S100は本発明の一実施形態に係るポリチオフェン(A1)を含んでいることから、ここで得られた導電層は、本発明の一実施形態に係る膜(A)に相当する。
【0137】
以上の操作により、水転写紙/ポリジメチルシロキサン/Selftron S100
積層体を作製した。
【0138】
得られた水転写紙/ポリジメチルシロキサン/Selftron S100 積層体に、水転写紙の裏面より水を浸透させることで、ポリジメチルシロキサン/Selftron S100からなる二層積層シートを単離した。ここで得られた二層積層シートは、本発明の一実施形態に係る導電性シートに対応する。上記二層積層シートについて、膜(A)側を接触面として、皮膚上に転写した。
【0139】
実施例4
ガラス基板(30mm×30mm)上に5重量%ポリジメチルシロキサン溶液400μLをスピンコート(6000rpm,150sec)して、大気中でキュアリング(95℃,1hr)を施すことで数十nmの剥離層を作製した。ポリジメチルシロキサン溶液の溶媒は、ヘキサン:酢酸エチルの体積比が3:1である混合溶媒とした。剥離層の上に、5重量%スチレン-ブタジエン-ブロックポリマー(シグマアルドリッチ社製)のテトラヒドロフラン溶液400μLをスピンコート(4000rpm,20sec)して大気中でキュアリング(80℃,1hr)を施すことで、支持層を作製した。ここで得られた支持層は、本発明の一実施形態に係る膜(B)に相当する。
【0140】
支持層の表面をプラズマ処理(45mA,133Pa,30sec)することによって、表面を親水化した。支持層のプラズマ処理した面に、Selftron(登録商標)S100(東ソー社製)400μLをスピンコート(1500rpm,60sec)し、次いで、真空中でアニーリング(150℃,30min)を施すことで導電層を作製した。得られた導電層の導電率は、241 S/cmであった。Selftron S100は本発明の一実施形態に係るポリチオフェン(A1)を含んでいることから、ここで得られた導電層は、本発明の一実施形態に係る膜(A)に相当する。
【0141】
得られたスチレン-ブタジエン-ブロックポリマー/Selftron S100からなる二層積層体の膜(A)の上の四辺に、縁取りを行うように、幅2mmのテープを貼付し、フレームを形成させた。この時、フレームの内側が20mm×20mmになるように、テープの位置を調整した。上記フレームを引き上げるようにして、スチレン-ブタジエン-ブロックポリマー/Selftron S100 二層積層体及びフレームからなる導電性シートをガラス基板から剥離した。
【0142】
次いで、スチレン-ブタジエン-ブロックポリマー/Selftron S100/ 二層積層体及びフレームからなる導電性シートについて、Selftron S100の面(膜(A)の面)が離型フィルム面と接するように、離型フィルム基板(50mm×50mmに裁断したパナピールSG-2、パナック株式会社製)上に付着させた。次いで、テープフレーム部を切断して除去した。以上の操作により、スチレンーブタジエンーブロックポリマー/Selftron S100 二層積層体からなる導電性シートを離型フィルム基板上に作製した。
【0143】
次いで、膜(B)の面を、でんぷんからなる水溶性犠牲層を備える水転写紙(4cm×8cm、タカラインコーポレーション社製)上に配置し圧着した。得られた水転写紙/水溶性犠牲層/スチレン-ブタジエン-ブロックポリマー/Selftron S100/離型フィルムの積層体から、離型フィルムを剥離し、次いで、水転写紙の裏面より水を浸透させることで水溶性犠牲層のでんぷんを溶解させながら、水転写紙同士が重なるように積層体を折りたたみ、両面が膜(A)となった積層体の一方の膜(A)側を接触面として皮膚上に配置し、水転写紙を引き抜き、皮膚上に圧着することで、Selftron S100/スチレン-ブタジエン-ブロックポリマー/Selftron S100 三層積層体からなる導電性シートを皮膚上に転写した。
【0144】
先の三層積層体を、内側前腕部(手首より肘に近い部位)に約2cm隔てて2か所転写し、生体電極を形成させた。上記生体電極とワイヤレス筋電センサ LP-WS1223(ロジカルプロダクト社製)を接続し、前腕筋群の筋電位を測定した。測定結果を図6に示した。
【0145】
実施例5
Selftron S100のアニーリング温度を150℃から200℃に変更すること以外は、実施例4を同じ操作を行って導電性シートを作製し、さらに筋電位を測定した。導電率は385 S/cmであった。筋電位測定結果を図7に示した。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明の一実施形態に係る導電性シートは、例えば、生体電極として利用することができる。
【符号の説明】
【0147】
1 導電性シート
A ポリチオフェンを含む膜
B 高分子膜
C 保護膜
D 導線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7