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特開2024-59695アルカリ金属元素及び硫黄元素を含む物質の製造方法
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  • 特開-アルカリ金属元素及び硫黄元素を含む物質の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059695
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】アルカリ金属元素及び硫黄元素を含む物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 5/193 20060101AFI20240423BHJP
   C01B 25/14 20060101ALI20240423BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20240423BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALN20240423BHJP
   H01M 10/052 20100101ALN20240423BHJP
【FI】
C03B5/193
C01B25/14
H01B13/00 Z
H01M10/0562
H01M10/052
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024019572
(22)【出願日】2024-02-13
(62)【分割の表示】P 2023564061の分割
【原出願日】2023-01-30
(31)【優先権主張番号】P 2022015190
(32)【優先日】2022-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 直樹
(57)【要約】      (修正有)
【課題】揮散性の高い硫黄元素を含む原料を用いた場合であっても、均質性に優れたアルカリ金属元素及び硫黄元素を含む物質を製造可能な方法を提供する。
【解決手段】アルカリ金属元素及び硫黄元素を含む原料を多孔質容器12に入れて加熱溶融し融液を得て、前記多孔質容器の外側に流し込まれた不活性ガス15により前記融液を撹拌する、アルカリ金属元素及び硫黄元素を含む物質の製造方法とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属元素、硫黄元素、及びリン元素を含む原料を多孔質容器に入れて加熱溶融し融液を得て、前記多孔質容器の外側に流し込まれた不活性ガスにより前記融液を撹拌する、アルカリ金属元素及び硫黄元素を含む物質の製造方法であって、
前記アルカリ金属元素はリチウム元素であり、
前記アルカリ金属元素及び硫黄元素を含む物質はリチウム元素を含む硫化物系固体電解質であり、
前記多孔質容器はカーボンを含む、
製造方法。
【請求項2】
前記多孔質容器は、孔から前記融液が漏れ出ない、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記多孔質容器と前記融液との接触角は30°以上である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記多孔質容器の開気孔率は5%以上である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記カーボンのかさ密度は1.6~2.0g/cmである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記多孔質容器の高さと、前記多孔質容器を上から投影した際の2次元投影像における長軸の長さとの比であるアスペクト比は1以下である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項7】
前記多孔質容器は、他の容器と連結して容器連結体を構成し、前記容器連結体の高さと、前記容器連結体を上から投影した際の2次元投影像における長軸の長さとの比であるアスペクト比は1以下である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項8】
前記多孔質容器は、その外側に非多孔質のケーシングで囲われた、請求項1または2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属元素及び硫黄元素を含む物質の製造方法に関し、特にリチウム元素を含む硫化物系固体電解質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯電話やノート型パソコン等の携帯型電子機器に広く用いられている。従来、リチウムイオン二次電池においては液体の電解質が使用されてきたが、液漏れや発火等が懸念され、安全設計のためにケースを大型化する必要があった。また、電池寿命の短さ、動作温度範囲の狭さについても改善が望まれていた。
【0003】
これに対し、安全性の向上や高速充放電、ケースの小型化等が期待できる点から、固体電解質をリチウムイオン二次電池の電解質として用いる全固体型リチウムイオン二次電池が注目されている。固体電解質の製造方法としては、ガラス封管法、メカニカルミリング法、溶融法等が知られており、なかでも溶融法は大量生産が可能な製法として広く用いられている。
【0004】
例えば特許文献1には、組成としてリチウム、リンおよび硫黄を含有する複合化合物を溶融してガラス化させ、当該溶融ガラスを急冷することにより硫化物ガラスを得る、リチウムイオン伝導性材料の製造方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、硫化物系リチウムイオン導電性固体電解質の各構成化合物を混合し、硫黄の過剰状態下で加熱溶融する硫化物系リチウムイオン導電性固体電解質の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本国特開2012-43654号公報
【特許文献2】日本国特開平6-115911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
硫化物系固体電解質の製造に用いられる原料には硫黄が含まれるが、硫黄は揮散し易いため、当該原料を加熱溶融する過程で硫黄が揮散してしまうと、得られる硫化物系固体電解質の組成にムラが生じうる。したがって、溶融法により硫化物系固体電解質を製造する場合は、密閉、あるいは揮散が抑制された系で原料を溶融することで、原料中の硫黄の揮散に伴う組成ムラの発生を抑制する必要がある。しかし、上記密閉、あるいは揮散が抑制された系においては、機械的に融液を撹拌することが難しく、融液を撹拌する方法は限定的であった。
【0008】
また、硫化物系固体電解質を大量合成する場合は、設備を大型化する必要があるところ、ロッキングファーネス等により融液を設備ごと撹拌することは困難であり、原料の融液を撹拌して均質化することが難しかった。
【0009】
そこで本発明は、揮散性の高い硫黄元素を含む原料を用いた場合であっても、均質性に優れたアルカリ金属元素及び硫黄元素を含む物質を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、アルカリ金属元素及び硫黄元素を含む原料を多孔質容器に入れて加熱溶融し融液を得て、多孔質容器の外側に流し込まれた不活性ガスにより融液を撹拌する方法を見出した。当該方法によれば、原料中の硫黄の揮散に伴う組成ムラの発生が抑制され、均質性に優れたアルカリ金属元素及び硫黄元素を含む物質を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、下記[1]~[10]に関するものである。
[1]アルカリ金属元素及び硫黄元素を含む原料を多孔質容器に入れて加熱溶融し融液を得て、前記多孔質容器の外側に流し込まれた不活性ガスにより前記融液を撹拌する、アルカリ金属元素及び硫黄元素を含む物質の製造方法。
[2]前記アルカリ金属元素がリチウム元素であり、前記アルカリ金属元素及び硫黄元素を含む物質がリチウム元素を含む硫化物系固体電解質である、上記[1]に記載の製造方法。
[3]前記原料がさらにリン元素を含む、上記[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]前記多孔質容器と前記融液との接触角が30°以上である、上記[1]~[3]のいずれか1に記載の製造方法。
[5]前記多孔質容器の開気孔率が5%以上である、上記[1]~[4]のいずれか1に記載の製造方法。
[6]前記多孔質容器はカーボンを含む、上記[1]~[5]のいずれか1に記載の製造方法。
[7]前記カーボンのかさ密度が1.6~2.0g/cmである、上記[6]に記載の製造方法。
[8]前記多孔質容器の高さと、前記多孔質容器を上から投影した際の2次元投影像における長軸の長さとの比であるアスペクト比が1以下である、上記[1]~[7]のいずれか1に記載の製造方法。
[9]前記多孔質容器は、他の容器と連結して容器連結体を構成し、前記容器連結体の高さと、前記容器連結体を上から投影した際の2次元投影像における長軸の長さとの比であるアスペクト比が1以下である、上記[1]~[8]のいずれか1に記載の製造方法。
[10]前記多孔質容器が、その外側に非多孔質のケーシングで囲われた上記[1]~[9]のいずれか1に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、アルカリ金属元素及び硫黄元素を含む原料を多孔質容器に入れて加熱溶融し融液を得て、多孔質容器の外側に流し込まれた不活性ガスが多孔質容器の空孔を通過して容器内に流れ込むことで、当該融液が撹拌される。そのため、揮散性の高い硫黄元素を含む原料を用いる場合であっても、密閉、あるいは揮散が抑制された系で加熱溶融、及び撹拌が可能となり、均質性の優れたアルカリ金属元素及び硫黄元素を含む物質を製造できる。
【0013】
また、不活性ガスを用いて融液の撹拌を行うため、大型の機械を用いる必要が無く、密閉、あるいは揮散が抑制された系のように機械的に撹拌が難しい場合でも、アルカリ金属元素及び硫黄元素を含む物質の大量合成が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一実施形態の製造方法を示す模式図である。
図2図2の(a)、(b)は、多孔質容器(直方体状)のアスペクト比を説明するための模式図である。
図3図3の(a)、(b)は、多孔質容器(円柱状)のアスペクト比を説明するための模式図である。
図4図4の(a)、(b)は、複数の容器が連結されて構成される容器連結体のアスペクト比を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施できる。また、数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0016】
本発明の実施形態に係るアルカリ金属元素及び硫黄元素を含む物質(以下、本物質と称することがある。)の製造方法(以下、本製造方法と称することがある。)は、アルカリ金属元素及び硫黄元素を含む原料を多孔質容器に入れて加熱溶融し融液を得て、前記多孔質容器の外側に流し込まれた不活性ガスにより前記融液を撹拌することを特徴とする。
【0017】
(原料)
本製造方法に用いられる原料(以下、本原料または単に原料とも称する)は、アルカリ金属元素(R)及び硫黄元素(S)を含む。
【0018】
アルカリ金属元素(R)としては、リチウム元素(Li)、ナトリウム元素(Na)、及びカリウム元素(K)等が挙げられ、なかでも、リチウム元素(Li)が好ましい。
【0019】
アルカリ金属元素(R)としては、アルカリ金属元素単体やアルカリ金属元素を含む化合物等のアルカリ金属元素を含む物質(成分)等を適宜組み合わせて使用できる。なかでも、リチウム元素としては、Li単体やLiを含む化合物等のLiを含む物質(成分)等を適宜組み合わせて使用できる。
【0020】
リチウム元素(Li)を含む物質としては、例えば、硫化リチウム(LiS)、ヨウ化リチウム(LiI)、炭酸リチウム(LiCO)、硫酸リチウム(LiSO)、酸化リチウム(LiO)および水酸化リチウム(LiOH)等のリチウム化合物や、金属リチウム等が挙げられる。リチウム元素(Li)を含む物質としては、硫化物材料を得る観点からは、硫化リチウムを用いることが好ましい。
【0021】
硫黄元素(S)としては、S単体やSを含む化合物等のSを含む物質(成分)等を適宜組み合わせて使用できる。
【0022】
硫黄元素(S)を含む物質としては、例えば、三硫化二リン(P)、五硫化二リン(P)等の硫化リン、リンを含有するその他の硫黄化合物および単体硫黄、硫黄を含む化合物等が挙げられる。硫黄を含む化合物としては、HS、CS、硫化鉄(FeS、Fe、FeS、Fe1-xSなど)、硫化ビスマス(Bi)、硫化銅(CuS、CuS、Cu1-xSなど)が挙げられる。硫黄元素(S)を含む物質は、硫化物材料を得る観点から、硫化リンが好ましく、五硫化二リン(P)がより好ましい。これらの物質は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、硫化リンはSを含む物質と、後述するPを含む物質を兼ねる化合物として考えられる。
【0023】
本原料は、得られる本物質のイオン伝導率向上等の観点から、さらにリン元素(P)を含むのが好ましい。リン元素(P)としては、P単体やPを含む化合物等のPを含む物質(成分)等を適宜組み合わせて使用できる。
【0024】
リン元素(P)を含む物質としては、例えば、三硫化二リン(P)五硫化二リン(P)等の硫化リン、リン酸ナトリウム(NaPO)等のリン化合物および単体リン等が挙げられる。リン元素(P)を含む物質としては、本発明の効果がより発揮されるという観点から、揮散性の高い硫化リンが好ましく、五硫化二リン(P)がより好ましい。これらの物質は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
本原料は、例えば上記の物質を、目的とする本物質の組成に応じて適宜混合して得られる。混合比率は特に限定されないが、例えば、原料中のアルカリ金属元素(R)に対する硫黄元素(S)のモル比S/Rは、得られる本物質のイオン伝導率向上等の観点から、0.25/0.75以上が好ましく、0.3/0.7以上がより好ましい。
【0026】
本原料に含まれるアルカリ金属元素及び硫黄元素の好ましい組み合わせの一例として、LiSとPの組み合わせが挙げられる。LiSとPを組み合わせる場合は、LiとPのモル比Li/Pは40/60~88/12が好ましく、50/50~88/12がより好ましい。PがLiSに対して比較的少なくなるように混合比を調整することで、LiSの融点に対しPの沸点が小さいことによる、加熱処理時の硫黄成分とリン成分の揮散を抑制しやすくなる。
【0027】
一方で、硫化リチウムは高価であるため、硫化物系固体電解質の製造コストを抑える観点からは、硫化リチウム以外のリチウム化合物や、金属リチウム等を用いてもよい。具体的にはこの場合、原料はLiを含む物質として、金属リチウム、ヨウ化リチウム(LiI)、炭酸リチウム(LiCO)、硫酸リチウム(LiSO)、酸化リチウム(LiO)および水酸化リチウム(LiOH)からなる群から選ばれる1以上を含むことが好ましい。これらの物質は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
本原料は、目的とする本物質の組成に応じて、または添加剤等として、上記の物質の他にさらなる物質(化合物等)を含んでもよい。
【0029】
例えば、F、Cl、BrまたはIなどのハロゲン元素を含む本物質を製造する場合、原料はハロゲン元素(Ha)を含むことが好ましい。この場合、原料はハロゲン元素を含む化合物を含むことが好ましい。ハロゲン元素を含む化合物としてはフッ化リチウム(LiF)、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、ヨウ化リチウム(LiI)等のハロゲン化リチウム、ハロゲン化リン、ハロゲン化ホスホリル、ハロゲン化硫黄、ハロゲン化ナトリウム、ハロゲン化ホウ素等が挙げられる。ハロゲン元素を含む化合物としては、原料の反応性の観点からは、ハロゲン化リチウムが好ましく、LiCl、LiBr、LiIがより好ましい。これらの化合物は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
なお、ハロゲン化リチウム等のハロゲン化アルカリ金属は、Li等のアルカリ金属元素を含む化合物でもある。原料がハロゲン化アルカリ金属を含む場合、原料におけるLi等のアルカリ金属元素の一部または全部がハロゲン化リチウム等のハロゲン化アルカリ金属に由来するものであってもよい。
【0031】
原料がハロゲン元素(Ha)およびリン元素(P)を含む場合、原料中のPに対するHaのモル当量は、得られる本物質のイオン伝導率向上等の観点からは、0.2モル当量以上が好ましく、0.5モル当量以上がより好ましい。また、得られる本物質の安定性の観点からは、Haのモル当量は4モル当量以下が好ましく、3モル当量以下がより好ましい。
【0032】
得られる本物質のガラス形成状態を改善する観点からは、原料がSiS、B、GeS、Al等の硫化物を含むことも好ましい。ガラス形成をし易くすることで、急冷によりガラスを得る場合に冷却速度を低下させてもガラスを得ることができ、設備負荷を軽減できる。
【0033】
また本物質の耐湿性付与等の観点からは、SiO、B、GeO、Al、P等の酸化物を含むことも好ましい。これらの化合物は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
なお、これらの硫化物や酸化物は原料に含んでもよいし、原料を加熱溶融する際に別途添加してもよい。また、これらの硫化物や酸化物の添加量は、原料全量に対し0.1重量%以上が好ましく、0.5重量%以上がより好ましい。また添加量は、50重量%以下が好ましく、40重量%以下がより好ましい。
【0035】
また、原料は、後述する結晶核となる化合物を含んでいてもよい。
【0036】
本製造方法は、揮散性の高い化合物を含む原料を溶融、撹拌して本物質を製造する場合であっても、当該化合物の揮散に伴う組成ムラが生じることを抑制できる。そのため、本製造方法は、本原料に揮散性の高い化合物を含む場合に、特に好適に用いられる。揮散性の高い化合物としては、例えば、LiI、B、S、Se、Sb、及びP等が挙げられる。
【0037】
(アルカリ金属元素及び硫黄元素を含む物質)
本製造方法で得られるアルカリ金属元素及び硫黄元素を含む物質(本物質)としては、例えば、固体電解質、赤外線透過材料、低融点封止材料等が挙げられる。固体電解質としては、例えば、硫化物系固体電解質が挙げられる。本物質の形状は特に制限されず、例えば粉末、フレーク、プレート等が挙げられる。
【0038】
なお、以下本物質として、硫化物系固体電解質を中心に、本製造方法について説明するが、本製造方法で得られる本物質は、硫化物系固体電解質に限定されるものではない。
【0039】
<硫化物系固体電解質>
本製造方法で得られる硫化物系固体電解質としては、リチウム元素を含む硫化物系固体電解質が挙げられ、例えばLi10GeP12等のLGPS型結晶構造を有する硫化物系固体電解質、LiPSCl、Li5.4PS4.4Cl1.6およびLi5.4PS4.4Cl0.8Br0.8等のアルジロダイト型結晶構造を有する硫化物系固体電解質、Li-P-S-Ha系(Haはハロゲン元素から選ばれる少なくとも一つの元素を表す)の結晶化ガラス、ならびにLi11等のLPS結晶化ガラス等が挙げられる。
【0040】
硫化物系固体電解質は、その目的に応じて、非晶質の硫化物系固体電解質であってもよく、特定の結晶構造を有する硫化物系固体電解質であってもよく、結晶相と非晶質相とを含む硫化物系固体電解質であってもよい。
【0041】
硫化物系固体電解質が結晶相を含む場合、硫化物系固体電解質に含有される結晶は、好ましくはイオン伝導性結晶である。イオン伝導性結晶とは、具体的には、リチウムイオン伝導度が10-4S/cmより大きく、より好ましくは10-3S/cmより大きい結晶である。結晶相は、リチウムイオン伝導度の観点からはアルジロダイト型結晶相であることがより好ましい。
【0042】
リチウムイオン伝導度に優れる硫化物系固体電解質としては、Li-P-S-Haの元素を有する硫化物系固体電解質が好ましく、結晶相を有することがより好ましい。また、かかるハロゲン元素は、ハロゲン元素が塩化リチウム、臭化リチウムおよびヨウ化リチウムからなる群から選ばれる1以上に由来することが好ましい。
【0043】
得られた硫化物系固体電解質は、X線回折(XRD)測定による結晶構造の解析や、ICP発光分析測定、原子吸光測定およびイオンクロマトグラフィ測定等種々の方法を用いた元素組成の分析により同定できる。例えば、PとSはICP発光分析測定により、Liは原子吸光測定により、Haはイオンクロマトグラフィ測定により測定できる。
【0044】
また、ラマンスペクトル測定を行うことにより、硫化物系固体電解質の組成の均質性を評価できる。具体的には、得られた硫化物系固体電解質から得られるサンプルについて、任意の2点以上でラマンスペクトル測定を行う。なお、評価の精度を高める観点から、測定点の数は8以上が好ましく、10以上がより好ましい。
【0045】
硫化物系固体電解質の組成の均質性を評価する際の好ましいラマンスペクトル測定の条件として、例えばスポット径3μm、測定点の数を10とすることが挙げられる。スポット径を3μmとすることで、ラマンスペクトル測定における分析領域が、硫化物系固体電解質の組成の均質性をミクロレベルで評価するのに適した大きさとなる。
【0046】
各測定結果での、PS 3-等、硫化物系固体電解質の構造に由来するピーク波数(ピーク位置)のばらつきが小さいほど、硫化物系固体電解質の組成は均質であると考えられる。または、硫化物系固体電解質の構造に由来するピークの半値全幅のばらつきが小さいほど、硫化物系固体電解質の組成は均質であると考えられる。
【0047】
得られる硫化物系固体電解質の組成にもよるが、硫化物系固体電解質の構造に由来するピークとして、P-S結合に由来するピークを確認することが好ましい。
【0048】
P-S結合に由来するピークの位置は組成系によって異なるが、典型的には、350cm-1~500cm-1の間に含まれる。以降、本明細書においてピーク位置のばらつきやピークの半値全幅のばらつきとは、P-S結合に由来するピークのうち、最も強度が強いピークについて確認されるものをいう。
【0049】
ピーク位置のばらつきは次のように評価できる。すなわち、ラマンスペクトル測定により得られた測定点ごとのピーク位置の標準偏差を求め、(ピーク位置平均値)±(標準偏差)と記載した場合、標準偏差の値は、2cm-1以内が好ましく、より好ましくは1cm-1以内であり、さらに好ましくは0.5cm-1以内である。なお、ここでピーク位置とは、ピークトップの位置のことをいう。
【0050】
例えば、本製造方法により得られる硫化物系固体電解質について、スポット径3μm、測定点の数を10としてラマンスペクトル測定をした際に、前記測定点ごとの、350cm-1~500cm-1におけるP-S結合由来のピークのピーク位置の標準偏差は、2cm-1以内が好ましく、より好ましくは1cm-1以内であり、さらに好ましくは0.5cm-1以内である。
【0051】
ピークの半値全幅のばらつきは次のように評価できる。すなわち、ラマンスペクトル測定により得られた測定点ごとのピークの半値全幅の標準偏差は、それぞれのピークの半値全幅をもとめ、その値の標準偏差を求める方法で算出される。これを(ピーク半値全幅平均値)±(標準偏差)と記載した場合、標準偏差の値は、2cm-1以内が好ましく、より好ましくは1.5cm-1以内である。なお、ピークの半値全幅とは、ラマンスペクトルを描いた際に、前記P-S結合由来のピークのピーク強度半分の値と、そのP-S結合由来のピークとが交わる幅のことをここでは指す。
【0052】
例えば、本製造方法により得られる硫化物系固体電解質について、スポット径3μm、測定点の数を10としてラマンスペクトル測定をした際に、前記測定点ごとの、350cm-1~500cm-1におけるP-S結合由来のピークの半値全幅の標準偏差は、2cm-1以内が好ましく、より好ましくは1.5cm-1以内である。
【0053】
得られた硫化物系固体電解質のリチウムイオン伝導度は、リチウムイオン二次電池に用いた際に電池特性を良好にする観点からは、1.0×10-4S/cm以上が好ましく、5.0×10-4S/cm以上がより好ましく、1.0×10-3S/cm以上がさらに好ましい。
【0054】
(多孔質容器)
本製造方法においては、本原料を多孔質容器に入れて加熱溶融する。本製造方法においては、多孔質容器を用いることにより、多孔質容器の外側に不活性ガスを流し込むことで当該不活性ガスが多孔質容器の空孔を通過して多孔質容器内に入り込み、融液が撹拌される。そのため、揮散性の高い硫黄元素を含む原料を用いる場合であっても、密閉、あるいは揮散が抑制された系において均質性の優れたアルカリ金属元素及び硫黄元素を含む物質を製造できる。
【0055】
ここで揮散が抑制された系とは、多孔質容器内に入れられた硫黄元素等の揮散性の高い原料等が、揮散により多孔質容器外に出ていくことが抑制された系を意味する。
【0056】
例えば、原料等を入れるための開口部が設けられた容器において、当該開口部の面積を可能な限り小さくするように蓋が設けられることで、揮散性の高い原料等が、揮散により容器外に出ていくことが抑制された系が挙げられる。また、当該系において、蓋の一部に不活性ガスが出入りするための最低限の面積を有するガス出入口が設けられた系などが挙げられる。
【0057】
また、多孔質容器の外側に、後述する非多孔質のケーシングで囲われることで、揮散が抑制された系が挙げられる。当該ケーシングには、気体の出入口、原料等の投入口、電解質等の排出口など、必要最低限の開口部が設けられていてもよい。
【0058】
本製造方法に用いられる多孔質容器における「多孔質」とは、電子顕微鏡にて確認できる程度の多数の細孔を容器表面及び内部に有している状態をいう。また、孔は容器の内側と外側で貫通している。多孔質容器の開気孔率は、通常1%以上であり、5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、15%以上がさらに好ましい。ここで、開気孔率とは、JIS R1634:1998により測定される値を意味する。
【0059】
多孔質容器の材質としては、耐熱性の多孔質材料であれば特に制限されるものではない。多孔質容器は、例えば、カーボン、セラミック、及びガラス等を含む。なかでも、本原料の融液との反応性が低いという観点から、多孔質容器はカーボンを含むのが好ましい。
【0060】
カーボンのかさ密度は1.6~2.0g/cmが好ましく、1.7~1.95g/cmがより好ましく、1.75~1.8g/cmがさらに好ましい。カーボンのかさ密度が上記範囲であることにより、容器から融液が漏れ出ることなく、孔から不活性ガスを導入しながらの撹拌溶解が可能である。
【0061】
カーボンのかさ密度は、JIS R1634:1998により測定されるものをいう。
【0062】
多孔質容器の形状や大きさは、特に制限されるものではなく、目的に応じて適宜選択できる。また、当該多孔質容器は、他の容器と連結した容器連結体を構成してもよい。すなわち、容器連結体は少なくとも一つの多孔質容器を含み、複数の容器が連結して構成される。容器連結体における容器の数は、特に制限されない。上記他の容器は、多孔質容器であっても、非多孔質容器であってもよい。なかでも、他の容器としては多孔質容器を用いるのが好ましい。他の容器が多孔質容器であると、容器連結体が多孔質容器を複数備えることになるため、上述した本発明の効果がより効率的に発揮されるためである。
【0063】
なお、他の容器として非多孔質容器を用いる場合は、機能として特に制限はないが、ガスバリア性という機能を有することが好ましい。ここで、非多孔質容器における「非多孔質」とは、電子顕微鏡にて容器表面及び内部に細孔が確認できない状態をいう。非多孔質容器の開気孔率は、通常0.1%以下である。
【0064】
容器連結体における容器同士の連結手段は、特に制限されるものではなく、接合、ねじ込み、接着などが挙げられる。また、連結手段(連結部)の数も特に制限されるものではない。
【0065】
多孔質容器のアスペクト比は、1以下であるのが好ましく、0.7以下がより好ましく、0.5以下がさらに好ましい。ここで、多孔質容器のアスペクト比とは、多孔質容器の高さと、多孔質容器を上から投影した際の2次元投影像における長軸の長さとの比(多孔質容器の高さ/多孔質容器を上から投影した際の2次元投影像における長軸の長さ)を意味する。当該アスペクト比は、多孔質容器の高さを、多孔質容器を上から投影した際の2次元投影像における長軸の長さで除することにより求められる。
【0066】
ここで、多孔質容器の高さとは、多孔質容器の高さ方向における最大高さを意味し、長軸の長さとは、多孔質容器を上から投影した際の2次元投影像における最大長さを意味する。
【0067】
なお、多孔質容器の形状が直方体状(または略直方体状)である場合における上記高さ、及び長軸の長さは、それぞれ図2の(a)及び(b)に示すとおりであり、多孔質容器の形状が円柱状(または略円柱状)である場合における上記高さ、及び長軸の長さは、それぞれ図3の(a)及び(b)に示すとおりである。
【0068】
また、上述したとおり、多孔質容器が他の容器と連結して容器連結体を構成する場合、容器連結体の高さと、当該容器連結体を上から投影した際の2次元投影像における長軸の長さとの比であるアスペクト比は、1以下であるのが好ましく、0.5以下がより好ましく、0.3以下がさらに好ましい。
【0069】
例えば、図4の(a)に示すように、多孔質容器を含む複数の容器(第1容器22a、第2容器22b)が連結部23で連結されて、容器連結体22を構成する場合、当該容器連結体22のアスペクト比は、図4の(a)に示す容器連結体22の高さを、図4の(b)に示す容器連結体22を上から投影した際の2次元投影像における長軸の長さで除することにより求められる。
【0070】
ここで、容器連結体の高さとは、容器連結体の高さ方向における最大高さを意味し、長軸の長さとは、容器連結体を上から投影した際の2次元投影像における最大長さを意味する。
【0071】
多孔質容器は、実施例に記載の方法で測定される接触角が30°以上が好ましい。接触角が30°以上であることにより、融液が多孔質容器の空孔から漏れ出ることを良好に抑制でき、均質性に優れた本物質を製造できる。
【0072】
上記接触角は、45°以上がより好ましく、60°以上がさらに好ましく、65°以上が特に好ましい。また、例えば、上記接触角は150°以下である。
【0073】
上記接触角を30°以上とするには、例えば、多孔質容器の材質として濡れ性の低い材質を選択したり、多孔質容器に疎水性のコーティング材等の濡れ性の低い材料をコーティングすること等が挙げられる。
【0074】
多孔質容器は、その外側に非多孔質のケーシングで囲われていることが、大気中の酸素や水分が多孔質容器内に入ってくることを防止する観点で好ましい。非多孔質のケーシングとは、ガスバリア性のある材質であれば特に制限はなく、ガラス、セラミックス、樹脂、金属などが挙げられる。特に、耐久性という観点で金属製が好ましい。ケーシングには、気体の出入り口、原料等の投入口、電解質等の排出口などが設けられていてもよい。
【0075】
(加熱溶融、撹拌)
本製造方法では、本原料を多孔質容器に入れて加熱溶融し融液を得る。加熱溶融の方法は、特に制限されないが、例えば、本原料を入れた多孔質容器を溶解炉で加熱する方法が挙げられる。
【0076】
本製造方法では、多孔質容器の外側に不活性ガスを流し込むことにより、当該不活性ガスが多孔質容器の空孔を通過して容器内に入り込み、本原料の融液を撹拌する。このように、不活性ガスを用いることにより、融液の撹拌を非接触で行うことができるため、原料が揮散しやすい硫黄元素を含む場合であっても、融液の溶融、撹拌時において、その揮散を抑制でき、均質性に優れた本物質を得ることができる。
【0077】
不活性ガスは、本原料の融液と反応しないのであればその種類は特に制限されず、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等が挙げられる。なかでも、調達コストの観点から窒素ガスが好ましい。
【0078】
また、不活性ガスの酸素濃度は1000体積ppm以下が好ましく、100体積ppm以下がより好ましい。
【0079】
以下、本原料を加熱溶融、撹拌する方法について図1を用いて具体的に説明する。図1では、アルカリ金属元素及び硫黄元素を含む原料11を格納した多孔質容器12を溶解炉13に入れ、多孔質容器12を加熱して原料11の融液を得て、多孔質容器12と溶解炉13とで画される空間14(多孔質容器12の外側)に流し込まれた不活性ガス15により、多孔質容器12内の融液を撹拌する態様を示す。
【0080】
まず、原料11を入れた多孔質容器12を、溶解炉13内に備える。溶解炉13には、例えばヒータ(図示せず)が備えられている。溶解炉13内で多孔質容器12が加熱され、原料11の融液が得られる。
【0081】
加熱溶融は、硫黄元素を含むガス雰囲気下で行ってよい。硫黄元素を含むガス雰囲気下で本原料を加熱溶融することで、本原料の融液に硫黄が導入される。これにより、目的組成の本物質を得るための十分な量の硫黄を導入できる。硫黄元素を含むガスは、例えば、硫黄ガス、硫化水素ガス、二硫化炭素ガス等、硫黄元素を含む化合物又は硫黄単体を含むガスである。
【0082】
硫黄元素を含むガスは、硫黄源を加熱して得てもよい。この場合、硫黄源は加熱により硫黄元素を含むガスが得られる単体硫黄または硫黄化合物であれば特に限定されないが、例えば、単体硫黄、硫化水素、二硫化炭素等の有機硫黄化合物、硫化鉄(FeS、Fe、FeS、Fe1-xSなど)、硫化ビスマス(Bi)、硫化銅(CuS、CuS、Cu1-xSなど)、多硫化リチウム、多硫化ナトリウム等の多硫化物、ポリスルフィド、硫黄加硫処理を施されたゴム等が挙げられる。
【0083】
例えば、これら硫黄源を別途設けられる硫黄源加熱部にて加熱し、硫黄元素を含むガスを発生させ、Nガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスをキャリアガスとして溶融炉に搬送することで、硫黄元素を含むガス雰囲気が得られる。硫黄源加熱部と加熱溶融を行う部分とを分けることで、溶融炉に導入されるガスが酸素や水分を含んでいても、導入前に硫黄ガスと反応させ除去できる。これにより、不純物の少ない良質で純度の高い硫化物系固体電解質を得られるため好ましい。
【0084】
また、本製造方法では、多孔質容器12の外側、すなわち溶解炉13と多孔質容器とで画される空間14に不活性ガス15を流し込む。多孔質容器12の外側に不活性ガス15を流し込むことで、不活性ガス15が多孔質容器の空孔を通過して、多孔質容器12内に流れ込む。多孔質容器12内に流れ込んだ不活性ガス15は、多孔質容器12内の融液の流れを促し、融液を撹拌する。
【0085】
空間14に不活性ガス15を流し込むタイミングは特に制限されず、本原料の加熱溶融を開始する前から空間14に不活性ガス15の流し込みを開始してもよいし、本原料の加熱溶融の途中段階で空間14に不活性ガス15の流し込みを開始してもよいし、本原料の加熱溶融後に空間14に不活性ガス15の流し込みを開始してもよい。不活性ガス15の流し込み開始のタイミングは特に制限されないが、本原料の加熱溶融を開始する前から空間14に不活性ガス15の流し込みを開始するのが、原料の溶け落ち初期から撹拌が促され溶解時間が短くなる観点で好ましい。
【0086】
加熱溶融の温度は特に限定されないが、短時間で融液を均質化する観点から、600℃以上が好ましく、630℃以上がより好ましく、650℃以上がさらに好ましい。また、加熱溶融の温度は融液中の成分の加熱による劣化や分解抑制等の観点から1000℃以下が好ましく、950℃以下がより好ましく、900℃以下がさらに好ましい。
【0087】
加熱溶融の時間は特に限定されないが、均質性の観点から、0.1時間以上が好ましく、0.5時間以上がより好ましく、0.7時間以上がさらに好ましく、1時間以上がよりさらに好ましい。また、加熱溶融の時間は融液中の成分の加熱による劣化や分解が許容できる範囲では加熱溶融の時間は長くてもよい。現実的な範囲としては、100時間以下が好ましく、50時間以下がより好ましく、24時間以下がさらに好ましい。
【0088】
加熱溶融時の圧力は特に限定されないが、例えば常圧又は微加圧が好ましく、常圧がより好ましい。
【0089】
不活性ガス15を空間14(多孔質容器12の外側)に流し込む速度は特に限定されないが、通常20~2000L/minであり、好ましくは50~1000L/minである。
【0090】
また、撹拌時の空間14(多孔質容器12の外側)の露点は0℃~-75℃が好ましく、-25℃~-70℃がより好ましい。露点が上記範囲であることにより、水分による電解質の劣化を防ぐことが可能である。
【0091】
また、撹拌時の空間14(多孔質容器12の外側)の温度は300℃~1000℃が好ましく、500℃~950℃がより好ましい。温度が上記範囲であることにより、融液の溶解が短時間で実施可能である。
【0092】
空間14(多孔質容器12の外側)に不活性ガス15を流し込む時間は特に限定されないが、通常0.1~24時間であり、好ましくは0.3~10時間であり、より好ましくは0.5~5時間である。不活性ガス15を流し込む時間が上記範囲であることにより、均質に撹拌可能である。
【0093】
空間14(多孔質容器12の外側)の酸素濃度は、特に限定されないが、1000体積ppm以下であることが好ましい。酸素濃度が上記範囲であることにより、多孔質容器内に酸素が拡散していき、硫化物の酸化を防止できる。
【0094】
空間14(多孔質容器12の外側)における不活性ガス置換率は、1/100min-1~100min-1が好ましく、1/50min-1~50min-1がより好ましい。不活性ガス置換率が1/100min-1以上であることで、多孔質容器に流れ込む不活性ガスの流量が多く、融液の撹拌には有利である。また、不活性ガス置換率が100min-1以下であることで内圧が高くなることにより設備の破損を抑制できる。
【0095】
多孔質容器12内の空間(原料を除く空間)の露点は、特に限定されないが、-25℃~-75℃が好ましく、-35℃~-65℃がより好ましい。露点が上記範囲であることにより、水分による硫化物の劣化を防止できる。
【0096】
多孔質容器12内の空間(原料を除く空間)の酸素濃度は、特に限定されないが、1000体積ppm以下であることが好ましい。酸素濃度が上記範囲であることにより、硫化物の酸化を防止できる。
【0097】
不活性ガス15を多孔質容器12内に流し込む流量は、特に限定されないが、通常0.1~100L/minであり、好ましくは0.1~50L/minであり、より好ましくは0.5~30L/minである。
【0098】
多孔質容器12は、上記孔以外に、不活性ガスが流入または流出する出入口が設けられていてもよい。当該出入口は、多孔質容器における孔とは区別される。当該出入口を介して、不活性ガスを流入または流出することにより、多孔質容器12内の空間を不活性ガスに置き換えることができる。
【0099】
当該出入口は、容器上部の開口部に蓋が設けられる場合は、当該蓋に設けられていてもよい。また、当該出入口は、容器の側面に設けられていてもよい。
【0100】
また、多孔質容器12が上記出入口を設けている場合、多孔質容器12内の空間(原料を除く空間)の露点は-25℃~-75℃が好ましく、-30℃~-70℃がより好ましく、-35℃~-65℃がさらに好ましい。
【0101】
また、多孔質容器12が上記出入口を設けている場合、多孔質容器12内の空間(原料を除く空間)の酸素濃度は1000体積ppm以下が好ましく、500体積ppm以下がより好ましく、200体積ppm以下がさらに好ましい。
【0102】
また、多孔質容器12が上記出入口を設けている場合、不活性ガス15を多孔質容器12内に流し込む流量は0.1~100L/minが好ましく、0.1~50L/minがより好ましく、0.5~30L/minがさらに好ましい。
【0103】
加熱溶融、及び撹拌は連続的なプロセスとして行われてもよい。連続的なプロセスとは、本原料の融液を多孔質容器12から連続的に流下させる工程のことである。投入するものは、原料の投入は連続的でもよく、間欠的でもよい。加熱溶融が連続的なプロセスとして行われる場合は、融液中の成分の劣化等を考慮した適切な条件の下、融液が溶融した状態で長時間保持されてもよい。長時間とは、例えば24時間程度であってもよい。
【0104】
(冷却)
本製造方法は、加熱溶融により得られた融液を冷却して固体を得る工程をさらに含むことが好ましい。冷却は公知の方法で行えばよく、その方法は特に限定されない。
【0105】
冷却速度は加熱溶融により得られた組成を維持する観点から、0.01℃/sec以上が好ましく、0.05℃/sec以上がより好ましく、0.1℃/sec以上がさらに好ましい。また、冷却速度の上限値は特に定めないが、一般的に急冷速度が最も速いと言われる双ローラーの冷却速度は1000000℃/sec以下である。
【0106】
ここで、例えば、得られる固体を非晶質の硫化物系固体電解質としたい場合には、加熱溶融により得られた融液を急冷して固体を得ることが好ましい。具体的には、急冷する場合の冷却速度は10℃/sec以上が好ましく、100℃/sec以上がより好ましく、500℃/sec以上がさらに好ましく、700℃/sec以上が特に好ましい。また、冷却速度の上限値は特に限定されないが、一般的に急冷速度が最も速いと言われる双ローラーの冷却速度は1000000℃/sec以下である。
【0107】
一方で、冷却工程時に徐冷して、固体の少なくとも一部を結晶化し、特定の結晶構造を有する硫化物系固体電解質や結晶相と非晶質相とから構成される硫化物系固体電解質として得ることもできる。徐冷する場合の冷却速度は0.01℃/sec以上が好ましく、0.05℃/sec以上がより好ましい。また、冷却速度は500℃/sec以下が好ましく、450℃/sec以下がより好ましい。冷却速度は10℃/sec以下であってもよく、5℃/sec以下であってもよい。なお、結晶化の条件に応じて適宜冷却速度を調節してもよい。
【0108】
ここで硫化物系固体電解質に含有される結晶とは、好ましくはイオン伝導性結晶である。イオン伝導性結晶とは、具体的には、リチウムイオン伝導度が10-4S/cmより大きく、より好ましくは10-3S/cmより大きい結晶である。
【0109】
冷却後に得られる固体を、結晶相を含む硫化物系固体電解質としたい場合には、加熱溶融工程で得られる融液に結晶核となる化合物を含有させることが好ましい。これにより、冷却工程において結晶が析出しやすくなる。融液に結晶核となる化合物を含有させる方法は特に限定されないが、例えば原料や中間体に結晶核となる化合物を添加する、加熱溶融中の融液に結晶核となる化合物を添加する等の方法が挙げられる。
【0110】
結晶核となる化合物としては、酸化物、酸窒化物、窒化物、炭化物、他のカルコゲン化合物、ハロゲン化物等が挙げられる。結晶核となる化合物は、融液とある程度の相溶性をもった化合物が好ましい。なお、融液と全く相溶しない化合物は結晶核と成り得ない。
【0111】
冷却後に得られる固体を、結晶相を含む硫化物系固体電解質としたい場合には、融液における結晶核となる化合物の含有量は0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。一方で、リチウムイオン伝導度の低下を抑制する観点からは、融液における結晶核となる化合物の含有量は20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
【0112】
冷却後に得られる固体を非晶質の硫化物系固体電解質としたい場合には、融液は結晶核となる化合物を含有しないか、その含有量は所定量以下であることが好ましい。具体的には、融液における結晶核となる化合物の含有量は1質量%以下が好ましく、0.1質量%以下がより好ましい。融液における結晶核となる化合物の含有量は0.01質量%以下であってもよい。
【0113】
(再加熱)
非晶質の硫化物系固体電解質または非晶質相を含む硫化物系固体電解質は、加熱処理(ポストアニール)することで、高温結晶化を促進できる。本製造方法は、冷却工程において得られた固体が非晶質の硫化物系固体電解質または非晶質相を含む硫化物系固体電解質である場合、固体を再加熱処理することをさらに含んでもよい。また、硫化物系固体電解質結晶を含んだ硫化物系固体電解質を再加熱処理することで、結晶構造内のイオンを再配列させ、リチウムイオン伝導度を高めることもできる。
【0114】
なお、再加熱処理とは、冷却して得られた固体を結晶化のために加熱処理すること、および結晶構造内のイオンを再配列させることの少なくとも一方をいう。ここでは、これらの非晶質の硫化物系固体電解質または非晶質相を含む硫化物系固体電解質の熱処理を結晶化処理も含めて、再加熱処理と称する。
【実施例0115】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。例1~3は本発明における実施例、例4、5は本発明における比較例である。
【0116】
[例1]
LiS(Sigma社製、純度99.98%)、P(Sigma社製、純度99%)の各原料粉末を50:50(mol比)になるように調合した。この原料粉末をカーボン製の多孔質容器(開気孔率16%、かさ密度1.78g/cm)に100g入れ、当該多孔質容器を溶融炉内に設置した。上記カーボン製の多孔質容器に蓋をし、その蓋に設けられた不活性ガスを導入するための出入口を介して、0.1L/minのNガスを0.25時間流通させ、排出させることで、多孔質容器内の空間をNガスに置き換えた。多孔質容器内の空間の酸素濃度は、1000体積ppm以下であった。
【0117】
つづいて、多孔質容器の外側であって、溶解炉と多孔質容器とで画される空間にNガスを25L/minで流し込み、酸素濃度が1000体積ppm以下、露点-70℃以下の雰囲気を作り出し、圧力:1気圧、温度:750℃(昇温速度10℃/分)の条件で0.5時間保持することで、多孔質容器内の原料を溶融させた。
【0118】
その後、多孔質容器の下側から融液を抜き出し、水冷プレート上で冷却速度50℃/secで冷却し、ガラス状態の硫化物化合物を得た。
【0119】
[例2]
多孔質容器の外側であって、溶解炉と多孔質容器とで画される空間に流し込むNガスの速度を70L/minとした点を除いては、例1と同様にして、例2のガラス状態の硫化物化合物を製造した。
【0120】
[例3]
材料として、LiS(Sigma社製、純度99.98%)、P(Sigma社製、純度99%)、Lil(Sigma社製、純度99.9%)の各原料粉末を40:30:30(mol比)になるように調合し、多孔質容器の外側であって、溶解炉と多孔質容器とで画される空間の温度を650℃(昇温速度10℃/分)とした点を除いては、例2と同様にして、例3のガラス状態の硫化物化合物を製造した。
【0121】
[例4]
多孔質容器を、グラッシーカーボン製(開気孔率<1%)であり、多孔質でない容器(かさ密度1.54g/cm)とし、溶解炉と容器とで画される空間にNガスを25L/minで流し込み、露点-70℃以下の雰囲気を作り出した点を除いては、例1と同様にして、例4のガラス状態の硫化物化合物を製造した。
【0122】
[例5]
多孔質容器の外側であって、溶解炉と多孔質容器とで画される空間にNガスを流し込まず、上記カーボン製の多孔質容器の蓋を介して、25L/minのNガスを流通させ、露点を-70℃の雰囲気にした点を除いては、例1と同様にして、例5のガラス状態の硫化物化合物を製造した。
【0123】
(濡れ性評価)
各多孔質容器の材質でできた板の上に、得られた硫化物化合物30mgを乗せ、融解して接触角を調べた。具体的には、750℃にて5分間溶解し放冷して得た液滴を、横からカメラを用いて撮影し、上記板となす接触角を求めた。結果を表1に示す。
【0124】
(均質性評価)
組成分析のサンプルとして、多孔質容器の下側から水冷プレート上に最初に流れ出てきた30g分(サンプル1)、次に流れ出てきた30g(サンプル2)、最後に流れ出てきた30g(サンプル3)を採取し、これらサンプル1~3の組成分析を実施し、均質性評価を行った。
【0125】
組成分析は、得られた電解質を砕き、粉末をアルカリ性の水溶液に溶かして、PとSはICP発光分析測定により、Liは原子吸光測定により、Iはイオンクロマトグラフィ測定により測定した。
【0126】
サンプル1~3の平均値において、S成分(wt%)の最大値と最小値の差(=バラつき)に応じて以下の通り評価した。結果を表1に示す。
◎:バラつきが0.5wt%以下
○:バラつきが0.5wt%超、3wt%以下
×:バラつきが3wt%超
【0127】
【表1】
【0128】
実施例である例1~3は、多孔質容器の外側に不活性ガスを流し込み、融液を撹拌したため、均質性の高い硫化物化合物が得られた。
【0129】
一方、比較例である例4は、多孔質ではない緻密な容器を用いているため、外側の不活性ガスの流入による融液の撹拌が起こらない結果、組成ムラのある硫化物化合物が得られた。
比較例である例5は、多孔質容器の外側に不活性ガスを流し込んでいないため、融液が撹拌されない結果、組成ムラのある硫化物化合物が得られた。加えて、露点維持のために容器内に流すNガス流量が増え、組成ムラがある結果となった。
【0130】
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0131】
なお、本出願は、2022年2月2日出願の日本特許出願(特願2022-015190)に基づくものであり、その内容は本出願の中に参照として援用される。
【符号の説明】
【0132】
11 原料
12 多孔質容器
13 溶解炉
14 空間
15 不活性ガス
22 容器連結体
22a 第1容器
22b 第2容器
23 連結部
図1
図2
図3
図4