(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059737
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】粘着剤組成物の物性データ予測方法
(51)【国際特許分類】
G16C 20/70 20190101AFI20240423BHJP
G16C 60/00 20190101ALI20240423BHJP
【FI】
G16C20/70
G16C60/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2024022740
(22)【出願日】2024-02-19
(71)【出願人】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 理乃
(72)【発明者】
【氏名】小田 亮二
(57)【要約】
【課題】粘着剤組成物の物性データを高精度に予測することができる物性データ予測方法を提供する。
【解決手段】予め設定された複数の原材料を混合して得られる粘着剤組成物の物性データの値を予測する物性データ予測方法であって、粘着剤組成物に関する説明変数データと目的変数データとの関係を機械学習するステップと、予測モデルを用いて予測対象粘着剤組成物の物性データの値を予測するステップと、を備え、前記説明変数データは、粘着剤組成物の原材料の物性情報と、前記原材料の配合比率の情報と、前記粘着剤組成物の加工条件の情報と、前記粘着剤組成物の物性を評価するための試験条件の情報と、を含み、前記目的変数データは、前記粘着剤組成物の物性データである物性データ予測方法が提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定された複数の原材料を混合して得られる粘着剤組成物の物性データの値を予測する物性データ予測方法であって、
粘着剤組成物に関する説明変数データと目的変数データとの関係を機械学習するステップと、
予測モデルを用いて予測対象粘着剤組成物の物性データの値を予測するステップと、を備え、
前記説明変数データは、粘着剤組成物の原材料の物性情報と、前記原材料の配合比率の情報と、前記粘着剤組成物の加工条件の情報と、前記粘着剤組成物の物性を評価するための試験条件の情報と、を含み、
前記目的変数データは、前記粘着剤組成物の物性データである物性データ予測方法。
【請求項2】
請求項1に記載の物性データ予測方法であって、
前記予測対象粘着剤組成物の物性データは、ループタック試験値、180°剥離試験値、及び保持力試験値の少なくとも一つを含む物性データ予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤組成物の物性データ予測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、膨大な材料データをAI(ディープラーニング)等により解析し、所望の性能を備えた材料組成を効率よく設計する手法であるマテリアルズ・インフォマティクス(MI)への関心が高まっている。例えば、特許文献1には、機械学習により生成された予測モデルを用いて、ゴムの原材料等の情報からゴムの性能を予測するシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、粘着剤の分野においてはマテリアルズ・インフォマティクスの開発が進められておらず、原材料の配合比率等から粘着剤組成物の物性データを予測する方法が求められていた。本発明が解決しようとする課題は、粘着剤組成物の物性データを高精度に予測することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1]本発明の態様1によれば、予め設定された複数の原材料を混合して得られる粘着剤組成物の物性データの値を予測する物性データ予測方法であって、粘着剤組成物に関する説明変数データと目的変数データとの関係を機械学習するステップと、予測モデルを用いて予測対象粘着剤組成物の物性データの値を予測するステップと、を備え、前記説明変数データは、粘着剤組成物の原材料の物性情報と、前記原材料の配合比率の情報と、前記粘着剤組成物の加工条件の情報と、前記粘着剤組成物の物性を評価するための試験条件の情報と、を含み、前記目的変数データは、前記粘着剤組成物の物性データである物性データ予測方法が提供される。
【0006】
[2]本発明の態様2によれば、態様1に記載の物性データ予測方法であって、前記予測対象粘着剤組成物の物性データは、ループタック試験値、180°剥離試験値、及び保持力試験値の少なくとも一つを含む物性データ予測方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、説明変数データが、粘着剤組成物の原材料等の情報に加え、粘着剤組成物の物性データを測定するための条件を含んでおり、測定条件が物性データに及ぼす影響を含めて機械学習が行われる。すなわち、本発明では、予測モデルに、測定条件が物性データに及ぼす影響が反映されているため、粘着剤組成物の物性データを高精度に予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態における物性データ予測方法を行う物性データ予測システムの主な構成の一例を説明する図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態における物性データ予測方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態について説明する。
【0010】
本実施形態における粘着剤組成物の物性データ予測方法は、コンピュータに複数の粘着剤組成物に関する物性データの値と粘着剤組成物の原材料等の情報との関連付けを機械学習させ、機械学習したコンピュータの予測モデルを用いて、予測対象の粘着剤組成物の物性データの値を予測する方法である。
【0011】
本実施形態における物性データの予測方法を適用することができる粘着剤組成物は、特に限定されないが、ゴム成分、粘着付与樹脂、及び必要に応じて用いられる添加剤を含むものである。
【0012】
粘着剤組成物に含まれるゴム成分としては、例えば、天然ゴム;アクリルゴム;スチレン・ブタジエンゴム;スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体等のブロック共重合体;シリコーンゴム;ウレタンゴム等が挙げられる。
【0013】
粘着剤組成物に含まれる粘着付与樹脂としては、例えば、ロジン;水素添加ロジン、不均化ロジン、二量化ロジンなどの変性ロジン類;グリコール、グリセリン、ペンタエリスリトールなどの多価アルコールとロジンまたは変性ロジン類とのエステル化物;α-ピネン系、β-ピネン系、ジペンテン(リモネン)系等のテルペン系樹脂;脂肪族系、芳香族系、脂環族系または脂肪族-芳香族共重合系の炭化水素樹脂またはこれらの水素化物;フェノール樹脂;クマロン-インデン樹脂などが挙げられる。
【0014】
粘着剤組成物に含まれる添加剤としては、可塑剤、酸化防止剤、ワックス、熱安定剤、紫外線吸収剤、充填剤等が挙げられる。可塑剤としては、例えば、芳香族系、パラフィン系またはナフテン系のプロセスオイル;ポリブテン、ポリイソブチレンなどの液状重合体などが挙げられる。酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系化合物;チオジカルボキシレートエステル類;亜リン酸塩類等が挙げられる。粘着剤組成物に含まれるゴム成分、粘着付与樹脂、及び添加剤は、それぞれ成分ごとに、1種単独であってもよく、2種以上を組み合わせられていてもよい。
【0015】
なお、粘着剤組成物は、上記のゴム成分、粘着付与樹脂、及び添加剤に加え、架橋剤をさらに含む組成物を架橋してなるものであってもよい。架橋剤としては、特に限定されないが、過酸化物架橋剤、硫黄系架橋剤、光重合開始剤などが挙げられる。
【0016】
図1は、本実施形態における物性データ予測方法を行う物性データ予測システムの主な構成の一例を示す図である。
【0017】
図1に示すように、物性データ予測方法を行う物性データ予測システム100は、制御部101、記憶部102、表示部103、及び操作部104を備えたコンピュータで構成されている。物性データ予測システム100は、パーソナルコンピュータであってもよく、ネットワークに接続されたサーバコンピュータ、またはクラウドサーバーであってもよい。
【0018】
制御部101は、CPU、ROM、及びRAMなどを備え、物性データ予測システム100の各部の動作を制御する。制御部101は、データの処理部として、取得部201、機械学習部202、及び予測部203を備えている。制御部101は、記憶部102にソフトウェアモジュールとして記憶された制御プログラム302または予測モデル303を実行することにより、取得部201、機械学習部202、及び予測部203それぞれの処理を実行する。
【0019】
表示部103は、ディスプレイなどの表示装置である。また、操作部104は、マウス及びキーボードなどの入力操作デバイスである。
【0020】
取得部201は、機械学習のために用いられる教師データ301を記憶部102から取得する。教師データ301は、回帰分析における説明変数データ及び目的変数データに整理された粘着剤組成物に関する機械学習用のデータセットである。本実施形態において、教師データ301の説明変数データとしては、粘着剤組成物の原材料の物性情報、粘着剤組成物の配合比率の情報、粘着剤組成物の組成情報、粘着剤組成物の作製条件の情報、粘着剤組成物の加工条件の情報、及び粘着剤組成物の物性データを測定するための試験条件の情報が挙げられる。なお、説明変数データは、これらのうち、少なくとも粘着剤組成物の原材料の物性情報、配合比率の情報、加工条件の情報、及び試験条件の情報を含んでいればよい。
【0021】
教師データ301を構成する目的変数データは、粘着剤組成物の物性データである。粘着剤組成物の物性データとしては、具体的には、粘着剤組成物の粘度、ガラス転移温度、ループタック試験値、180°剥離試験値、及び保持力試験値等が挙げられる。特に限定されないが、ループタック試験値は、PSTC-16(米国粘着テープ委員会によるループタック試験)に準じて測定される値であり、180°剥離試験値は、PSTC-101(米国粘着テープ委員会による180°剥離接着試験)に準じて測定される値であり、保持力試験値は、PSTC-107 Procedure A(米国粘着テープ委員会による保持力試験法)に準じて測定される値である。
【0022】
教師データ301を構成する説明変数データのうち、粘着剤組成物の原材料の物性情報としては、次のものが挙げられる。例えば、ゴム成分の物性情報として、スチレン含有量、ジブロック共重合体含有量、分子量、ガラス転移温度、メルトインデックス等が挙げられる。また、粘着付与樹脂の物性情報として、分子量、軟化点、溶融粘度、芳香族成分含有量、ビニル構造成分含有量等が挙げられる。また、可塑剤の物性情報として、ガラス転移温度、芳香族成分含有量、ナフテン系成分含有量等が挙げられる。
【0023】
教師データ301を構成する説明変数データのうち、粘着剤組成物の配合比率の情報としては、粘着剤組成物中のゴム成分、粘着付与樹脂、及び添加剤の配合比率の情報、ゴム成分として用いられる各種ゴムの配合比率の情報、粘着付与樹脂として用いられる各種樹脂の配合比率の情報、並びに各種添加剤の配合比率の情報が挙げられる。
【0024】
教師データ301を構成する説明変数データのうち、粘着剤組成物の作製条件の情報としては、粘着剤組成物の原材料を混合する際の混合温度等の情報が挙げられる。
【0025】
教師データ301を構成する説明変数データのうち、粘着剤組成物の組成情報としては、粘着剤組成物の原材料および配合比率から算出される粘着剤組成物のガラス転移温度の理論値等の情報が挙げられる。
【0026】
教師データ301を構成する説明変数データのうち、粘着剤組成物の加工条件は、基材上に粘着剤組成物をシート状に塗布することで、粘着テープやラベル等の態様に加工する際の条件である。このような加工条件としては、基材上に形成された粘着剤組成物層の厚み、及び基材の厚み等の情報が挙げられる。
【0027】
教師データ301を構成する説明変数データのうち、粘着剤組成物の物性データを測定するための試験条件の情報は、試験の種類に応じて設定される測定条件に関する情報である。例えば、粘度の測定条件としては、測定温度が挙げられる。また、ループタック試験、180°剥離試験、及び保持力試験では、基材に粘着剤組成物をシート状に塗工してなる試験片を用いて試験を行う。このため、ループタック試験、180°剥離試験、及び保持力試験の試験条件には、試験片に関する情報が含まれる。具体的には、測定条件として、試験片の長さ、及び幅、基材の種類、引張速度、荷重、並びに測定温度等が挙げられる。
【0028】
このように、本実施形態で用いられる教師データ301は、粘着剤組成物の製造条件等と、粘着剤組成物の物性データとの関係を表したデータセットである。
【0029】
教師データ301は、予測モデル303による粘着剤組成物の物性データの予測精度を向上させる観点から、説明変数及び目的変数のセットを50以上含むことが好ましく、100以上含むことがより好ましい。
【0030】
本実施形態では、教師データ301が記憶部102に保存されているが、特にこれに限定されず、機械学習に際し外部の記憶媒体から物性データ予測システム100に取得されたものであってもよい。例えば、教師データ301は、物性データ予測システム100とは別のサーバに保存され、機械学習時にネットワークを介して取得されたものであってもよい。
【0031】
記憶部102は、HDD、SSD、フラッシュメモリなどの不揮発性の記憶媒体であり、記憶部102には、教師データ301、制御プログラム302、及び予測モデル303が記憶されている。予測モデル303は、予測モデル303が格納されたメモリを備える電子回路として実現されていてもよい。
【0032】
制御プログラム302は、予測モデル303の機械学習、及び予測モデル303による粘着剤組成物の予測処理を制御部101に実行させるためのプログラムである。
【0033】
予測モデル303は、粘着樹脂組成物の物性データを予測するためのモデルである。後述するように、制御部101の機械学習部202が教師データ301を取得して機械学習することにより更新される。すなわち、機械学習により、物性データ予測システム100に入力される予測用データに基づいて出力される予測物性データの内容が更新される。なお、予測モデル303は制御部101以外の制御部によって学習されたものが外部から転送されて記憶部に格納されたものであってもよい。
【0034】
本実施形態では、物性データ予測システム100が初めから予測モデル303を備えているが、特にこれに限定されない。例えば、物性データ予測システム100が初めから予測モデル303を備えておらず、制御部101の機械学習部202において教師データ301を用いた機械学習を行うことにより、予測モデル303が記憶部102に生成されてもよい。
【0035】
機械学習部202が予測モデル303を生成及び更新する機械学習の手法としては、特に限定されないが、例えば、複数の決定木によるアンサンブル学習であるランダムフォレスト、及びブースティングを好適に用いることができる。中でも、ブースティングによる手法であるXGBoostまたはLightGBMを特に好適に用いることができる。
【0036】
本実施形態では、物性データ予測システム100が、制御部101、記憶部102、並びに表示部103、及び操作部104を備えた一つのコンピュータで構成されているが、物性データ予測システム100の構成は特にこれに限定されない。例えば、物性データ予測システム100が、制御部101及び記憶部102を備えたコンピュータと、当該コンピュータにネットワークを介して接続され、表示部103及び操作部104を備えた他のコンピュータとから構成されていてもよい。
【0037】
図2は本実施形態における物性データ予測方法のフローチャートである。
【0038】
図2に示すように、本実施形態における粘着剤組成物の物性データ予測方法は、粘着剤組成物に関する説明変数データ及び目的変数データを含む教師データ301を取得するステップ(S10)と、説明変数データと目的変数データの関係を機械学習するステップ(S20)と、予測モデル303を用いて予測対象粘着剤組成物の物性データを予測するステップ(S30)と、を備えている。
【0039】
図1に示すように、初めのステップS10では、制御部101の取得部201が、記憶部102に保存された教師データ301に含まれる説明変数データ及び目的変数データを取得する。なお、上述したように、教師データ301が記憶部102に保存されておらず、物性データ予測システム100とネットワークを介して接続されたサーバ等に保存された教師データ301を取得部201によって取得してもよい。
【0040】
次いで、ステップS20では、制御部101の機械学習部112によって、説明変数データ、すなわち、粘着剤組成物の製造条件及び試験条件等と、目的変数データ、すなわち、粘着剤組成物の物性データとの関係を機械学習する。これにより、記憶部102に保存された予測モデル303が更新される。なお、上述したように、物性データ予測システム100が初めから予測モデル303を備えていない場合は、ステップS20における機械学習により予測モデル303が生成され、記憶部102に保存される。
【0041】
ステップS30では、物性データ予測システム100に予測用データを入力することで、予測部113によって、予測モデル303を用いて粘着剤組成物の物性データを予測する。予測用データは、教師データ301の説明変数データに対応するデータである。すなわち、予測用データは、予測対象の粘着剤組成物の原材料の物性情報、予測対象の粘着剤組成物の配合比率、予測対象の粘着剤組成物の組成情報、予測対象の粘着剤組成物の作製条件、予測対象の粘着剤組成物の加工条件、及び予測対象の粘着剤組成物の物性データを測定するための試験条件に関するデータである。
【0042】
以上のようにして、予測対象の粘着剤組成物の物性データを予測することができる。粘着剤組成物の物性データ、特に、ループタック試験値、180°剥離試験値、及び保持力試験値は、原材料及び原材料の配合比率だけでなく、物性データの測定条件にも影響を受ける。本実施形態における物性データの予測方法では、教師データ301を構成する説明変数データが、粘着剤組成物の物性データを測定するための測定条件を含んでおり、測定条件が物性データに及す影響を含めて機械学習が行われる。すなわち、本実施形態で用いられる予測モデル303は、測定条件が物性データに及す影響が反映されたものである。従って、本実施形態における物性データの予測方法によれば、粘着剤組成物の物性データを高精度に予測することができる。
【0043】
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【符号の説明】
【0044】
100…物性データ予測システム
101…制御部
201…取得部
202…機械学習部
203…予測部
102…記憶部
301…教師データ
302…制御プログラム
303…予測モデル
103…表示部
104…操作部