(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024005977
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】ルテニウム酸鉛微粉末の製造方法、並びにルテニウム酸鉛微粉末作製用のルテニウム酸鉛の水酸化物及び水和物
(51)【国際特許分類】
C01G 55/00 20060101AFI20240110BHJP
【FI】
C01G55/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106489
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001405
【氏名又は名称】弁理士法人篠原国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100065824
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100104983
【弁理士】
【氏名又は名称】藤中 雅之
(74)【代理人】
【識別番号】100166394
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 和弘
(72)【発明者】
【氏名】矢田 久貴
(72)【発明者】
【氏名】白木 浩太郎
【テーマコード(参考)】
4G048
【Fターム(参考)】
4G048AA05
4G048AB02
4G048AB06
4G048AC04
4G048AD04
4G048AE07
(57)【要約】
【課題】厚膜チップ抵抗器等の電子部品を構成する抵抗体に用いるルテニウム酸鉛粉末として、電子部品に悪影響を及ぼす虞のある硫黄を含有させることなく、粗大粒子が含まれることのない、微細なルテニウム酸鉛粉末を製造することが可能なルテニウム酸鉛微粉末の製造方法、並びにルテニウム酸鉛微粉末作製用のルテニウム酸鉛の水酸化物及び水和物の提供。
【解決手段】ルテニウム酸鉛の水酸化物もしくは水和物にカルシウムを付着させた後、焙焼する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルテニウム酸鉛の水酸化物もしくは水和物の表面にカルシウムを付着させた後、焙焼することを特徴とするルテニウム酸鉛微粉末の製造方法。
【請求項2】
不純物を実質的に含まないルテニウム酸鉛の水酸化物もしくは水和物に、カルシウムを含む化合物の水溶液を添加し、撹拌、ろ過することにより、前記ルテニウム酸鉛の水酸化物もしくは水和物の表面にカルシウムを付着させることを特徴とする請求項1に記載のルテニウム酸鉛微粉末の製造方法。
【請求項3】
前記ルテニウム酸鉛の水酸化物もしくは水和物の表面に、2000質量ppm以上4000質量ppm以下の濃度となるようにカルシウムを付着させることを特徴とする、請求項1に記載のルテニウム酸鉛微粉末の製造方法。
【請求項4】
焙焼後のルテニウム酸鉛微粉末を洗浄し、表面に付着しているカルシウムを除去して乾燥させることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のルテニウム酸鉛微粉末の製造方法。
【請求項5】
ルテニウム酸鉛の水酸化物の表面に2000質量ppm以上4000質量ppm以下の濃度でカルシウムが付着していることを特徴とするルテニウム酸鉛微粉末作製用のルテニウム酸鉛の水酸化物。
【請求項6】
ルテニウム酸鉛の水和物の表面に2000質量ppm以上4000質量ppm以下の濃度でカルシウムが付着していることを特徴とするルテニウム酸鉛微粉末作製用のルテニウム酸鉛の水和物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルテニウム酸鉛微粉末の製造方法、並びにルテニウム酸鉛微粉末作製用のルテニウム酸鉛の水酸化物及び水和物に関する。
【背景技術】
【0002】
厚膜抵抗ペーストは導電物、ガラス粉末およびそれらを印刷に適したペースト状にするための有機ビヒクルから構成される。この厚膜抵抗ペーストを任意のパターンで印刷し、高温でガラスを焼結させることで、例えば、厚膜チップ抵抗器を構成する抵抗体として使用されている。導電物としては、ガラス粉末との混合比率を変化させることで緩やかに抵抗値を変化させることができるため、酸化ルテニウムやルテニウム酸鉛の粉末が広く用いられている。
【0003】
上記ルテニウム酸鉛粉末は、一般的に、例えば、次の特許文献1、2に開示の方法で製造される場合が多い。
まず、金属ルテニウムを酸化剤共存化でアルカリ溶融して得たルテニウム酸アルカリ金属塩の水溶液か、あるいは金属ルテニウムを過剰の水酸化カリウムおよび、硝酸カリウムを用いてアルカリ溶融して得たルテニウム酸カリウムを水に溶解して得た水溶液を用意する。
【0004】
次に、この水溶液中のルテニウムと当量の鉛イオンを含む溶液を、該水溶液に添加し、酸あるいはアルコールで還元する。これによりルテニウム酸鉛水酸化物を析出させる。そして、この析出した水酸化物を洗浄および乾燥させた後、焙焼することによってルテニウム酸鉛粉末が得られる。
【0005】
ところで、厚膜チップ抵抗器を構成する抵抗体に用いられるルテニウム酸鉛粉末の大きさとしては、50nm以下(比表面積が10m2/g以上)のものが多く用いられている。ルテニウム酸鉛粉末の粒径は、厚膜チップ抵抗器を構成する抵抗体の特性に大きく影響を与える。例えば、ルテニウム酸鉛粉末の平均粒径が少し変わるだけで、厚膜チップ抵抗器の抵抗値に差が生じてしまう。
【0006】
市場から要求される厚膜チップ抵抗器のサイズは年々小さくなる傾向にあるため、厚膜チップ抵抗器には各種特性の向上が求められ、厚膜チップ抵抗器を構成する抵抗体に使用される導電物の粒径も、より小さいものが求められるようになってきている。
【0007】
しかし、特許文献1、2に開示のような、ルテニウム酸鉛粉末の製造方法では、製造条件の僅かな変動による影響を受けて、ルテニウム酸鉛粉末の粒径が変動してばらつきを生じ易く、粗大粒子の発生を抑制することが難しかった。
【0008】
しかるに、特許文献3には、粗大粒子の発生を抑制する方法として、鉛イオンを含む溶液をルテニウム酸アルカリ金属塩の水溶液に添加し、その水溶液を酸で還元して得られたルテニウム酸鉛の水酸化物を水で洗浄後、硫黄を添加し、焙焼することでルテニウム酸鉛微粉末を製造する方法が開示されている。
この方法においては、800質量ppm以上1300質量ppm以下の硫黄をルテニウム酸鉛の水酸化物に添加することで、粗大粒子の発生を抑制している。
【0009】
しかしながら、特許文献3に開示の製造方法では、焙焼後の微粉末に硫黄が残留してしまうと、該導電物を含有する厚膜抵抗ペーストを用いて形成した抵抗体が、Ag電極を硫化させてしまい厚膜チップ抵抗器の電気特性を悪化させてしまうことが懸念される。
また、特許文献3には、残留する硫黄が問題になる場合には焼成後のルテニウム酸鉛微粉末を水洗等により洗浄することで硫黄を除去する方法も記載されているが、硫黄はルテニウム酸鉛と親和性が高いため、洗浄効率が悪く、残留量を0にするのが困難であり、製造コストが増加する、という課題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平02-302327号公報
【特許文献2】特開平08-119637号公報
【特許文献3】特開2013-1623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
近年の厚膜チップ抵抗器等の電子部品は、小型化精密化が進んでいる。このため、厚膜チップ抵抗器等の電子部品を構成する抵抗体に微量であっても硫黄が含有していると、配線を腐食させ故障の原因になる虞がある。
本発明は、上記従来の課題を鑑み、厚膜チップ抵抗器等の電子部品を構成する抵抗体に用いるルテニウム酸鉛粉末として、電子部品に悪影響を及ぼす虞のある硫黄を含有させることなく、粗大粒子が含まれることのない、微細なルテニウム酸鉛粉末を製造することが可能なルテニウム酸鉛微粉末の製造方法、並びにルテニウム酸鉛微粉末作製用のルテニウム酸鉛の水酸化物及び水和物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上述の課題に対し鋭意検討を重ねた結果、ルテニウムと鉛の水和物または水酸化物の表面にカルシウムを付着させたものを焙焼することにより、ルテニウム酸鉛の微細粉末を得ることができることを見出した。
【0013】
本発明によるルテニウム酸鉛微粉末の製造方法は、ルテニウム酸鉛の水酸化物もしくは水和物の表面にカルシウムを付着させた後、焙焼することを特徴とする。
【0014】
また、本発明のルテニウム酸鉛微粉末の製造方法においては、不純物を実質的に含まないルテニウム酸鉛の水酸化物もしくは水和物に、カルシウムを含む化合物の水溶液を添加し、撹拌、ろ過することにより、前記ルテニウム酸鉛の水酸化物もしくは水和物の表面にカルシウムを付着させることが好ましい。
【0015】
また、本発明のルテニウム酸鉛微粉末の製造方法においては、前記ルテニウム酸鉛の水酸化物もしくは水和物の表面に、2000質量ppm以上4000質量ppm以下の濃度となるようにカルシウムを付着させるのが好ましい。
【0016】
また、本発明のルテニウム酸鉛微粉末の製造方法においては、焙焼後のルテニウム酸鉛微粉末を洗浄し、表面に付着しているカルシウムを除去して乾燥させることが好ましい。
【0017】
また、本発明によるルテニウム酸鉛微粉末作製用のルテニウム酸鉛の水酸化物は、ルテニウム酸鉛の水酸化物の表面に2000質量ppm以上4000質量ppm以下の濃度でカルシウムが付着していることを特徴とする。
【0018】
また、本発明によるルテニウム酸鉛微粉末作製用のルテニウム酸鉛の水和物は、ルテニウム酸鉛の水和物の表面に2000質量ppm以上4000質量ppm以下の濃度でカルシウムが付着していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、製造条件の僅かな変動による影響をほとんど受けることなく、粗大粒子を含まず、かつ、厚膜チップ抵抗器等の電子部品に悪影響を及ぼす硫黄を含有しない微細なルテニウム酸鉛粉末を製造することができる。また、本発明のルテニウム酸鉛微粉末を導電粉に用いた厚膜抵抗ペーストにより作製された厚膜抵抗体は、その厚みを極めて薄くすることができる。小型化の進む電子部品の抵抗体に用いる導電粉末材料として、本発明のルテニウム酸鉛微粉末の工業的価値は極めて大きい。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施形態の説明に先立ち、本発明を導出するに至った経緯について説明する。
上述のとおり、特許文献1、2に開示のような、ルテニウム酸鉛粉末の製造方法では、製造条件の僅かな変動により、ルテニウム酸鉛粉末の粒径が変動してばらつきを生じ易く、粗大粒子の発生を抑制することが難しい。
また、特許文献3に開示のルテニウム酸鉛微粉末の製造方法では、残留する硫黄が電子部品に悪影響を及ぼす懸念等の課題がある。
ルテニウム酸鉛粉末の粒径ばらつきの要因となる製造条件としては、金属ルテニウムの溶解工程、還元工程、洗浄工程、焙焼工程などの、個々の工程におけるパラメータのばらつきや、季節変動などが考えられる。
【0021】
しかるに、本発明者らは洗浄工程において用いる、ルテニウム酸鉛水酸化物の洗浄水の成分に着目して鋭意検討を重ねた結果、水に含有するイオンの変動がルテニウム酸鉛粉末の粒径ばらつきに影響を与えている可能性があることを見出した。
そして、本発明者らは、ルテニウム酸鉛水酸化物の洗浄水に、種々の異なる元素を含有させて、ルテニウム酸鉛水酸化物を洗浄することを繰り返し、洗浄水に含有する元素とルテニウム酸鉛水酸化物を洗浄することを経て製造されるルテニウム酸鉛粉末の粒径ばらつきとの関係について研究した。
研究の結果、洗浄水にカルシウムを含有させた場合、カルシウムの含有量がルテニウム酸鉛粉末の粒径ばらつきに最も大きな影響を与え、洗浄水中のカルシウムの濃度をコントロールすることで、ルテニウム酸鉛粉末の粒径ばらつきを低減することができることが判明した。
さらに、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、洗浄工程において、ルテニウム酸鉛水酸化物の表面にカルシウムを付着させることで、ルテニウム酸鉛粉末の粒径ばらつきを低減し、粗大粒子が含まれることのない微細なルテニウム酸鉛粉末が得られることが判明し、本発明を導出するに至った。
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されるものではなく、本発明の範囲内で、下記実施形態に種々の工程の追加および同様の効果を得ることの出来る類似工程への置換を行うことができる。
【0023】
(溶解・還元工程)
ルテニウム酸鉛微粉末の製造においては、ルテニウムと鉛の水酸化物もしくは水和物を用いる。例えば、ルテニウムと鉛の水酸化物もしくは水和物の共沈物を用いることができる。共沈物の製造方法は特に限定されず、例えば、次のような方法が適用できる。
金属ルテニウムをアルカリ条件下で酸化処理し、ルテニウム酸塩の水溶液を得る、あるいは、金属ルテニウムをアルカリ溶融して得られた固体のルテニウム酸塩を水で溶解して水溶液を得る。得られたルテニウム酸塩の水溶液に鉛イオンを添加し、pHを調整し、アルコール等の還元剤により還元することで、共沈物であるルテニウム酸鉛の水酸化物もしくは水和物を得ることができる。
【0024】
(洗浄・カルシウム付着工程)
溶解・還元工程で得られた共沈物であるルテニウム酸鉛の水酸化物もしくは水和物を水で洗浄した後、ルテニウム酸鉛の水酸化物もしくは水和物の表面にカルシウムを付着させる。ここで、共沈物であるルテニウム酸鉛の水和物または水酸化物を洗浄するのは、還元を終えた共沈物にはカリウムやナトリウムといったアルカリ金属イオンが付着しており、これらを取り除いて実質的に不純物を含まない状態にしてから、カルシウムを付着させるのが好ましいからである。
ルテニウム酸鉛の水酸化物もしくは水和物の表面へのカルシウムの付着方法としては、特に限定されるものではないが、カルシウムを含む化合物を溶解した水溶液を、上述のようにして得たルテニウム酸鉛の水酸化物もしくは水和物に添加し、撹拌機などで十分撹拌した後に、ろ過することで、表面にカルシウムが均一に付着したルテニウム酸鉛の水酸化物もしくは水和物を得ることができる。使用するカルシウムの化合物は、特に限定はないが、乳酸カルシウムなどの水に対して良好な溶解性を有するものが好ましい。
ルテニウム酸鉛の水酸化物もしくは水和物の表面に付着させるカルシウムの濃度は、2000質量ppm以上4000質量ppm以下となるように、カルシウムを含む化合物を溶解した水溶液の添加量を調整するのが好ましい。カルシウムの濃度が2000質量ppmより少ないと、その後の焙焼工程にて粒成長抑制効果が不十分となり、異常粒成長する粒子が発生する虞があり好ましくない。一方、カルシウムの濃度が4000質量ppmより多いと、焼成後のルテニウム酸鉛粉末に多量のカルシウムが残留し、余剰のカルシウムが凝集剤として作用することが考えられ、異常粒成長する粒子が発生する虞があり好ましくない。
なお、所定の粒子サイズにするために必要なカルシウムの量が、最終製品としては過剰な量になってしまう場合は、後述の焙焼工程後のルテニウム酸鉛微粉末を水洗等により洗浄することで、ルテニウム酸鉛微粉末の表面に付着するカルシウムを除去する。
【0025】
(焙焼工程)
表面にカルシウムが付着したルテニウム酸鉛水酸化物もしくは水和物は、乾燥処理して水分を除去した後、大気中で600~800℃×2時間の条件で焙焼するのが好ましい。乾燥処理を行わず、焙焼工程にて乾燥と焙焼を同時に行うことも可能である。上記条件で焙焼することにより、焙焼時にカルシウムがルテニウム酸鉛の粒成長を抑制し、微小なルテニウム酸鉛粉末を得ることができる。
なお、焼成により微細な粒子を得る方法としては、焙焼時間を短くする、焙焼温度を低くする、といった方法が一般的に良く行われているが、焙焼時間が2時間よりも短くなると、未反応のルテニウム酸鉛の水酸化物もしくは水和物が混在してしまう場合があり好ましくない。また、焙焼温度を600℃よりも低くすると、ルテニウム酸鉛が分解し、酸化ルテニウムとなった粒子が混在してしまう場合があり好ましくない。
【実施例0026】
以下、本発明をさらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0027】
(実施例1)
ルテニウム酸ナトリウムを35質量%含む水溶液に、硝酸鉛を20質量%含む水溶液を添加し、ルテニウムと鉛とが当量になるようにした。この硝酸水溶液の還元により不定形のルテニウム酸鉛水酸化物を析出させた。この析出した水酸化物に対して水洗を6回繰り返すことにより、不純物を除去したルテニウム酸鉛の水酸化物の泥しょうを得た。
次に、ルテニウム酸鉛水酸化物の表面に付着するカルシウムの濃度が3800質量ppmになるように、乳酸カルシウムを4質量%含む水溶液を、上記のようにして不純物の除去されたルテニウム酸鉛水酸化物の泥しょうに添加して約30分間撹拌した後、脱水・ろ過した。得られたルテニウム酸鉛水酸化物の泥しょうを、175℃の大気中で乾燥させた後、大気中で700℃×2時間の条件で焙焼し、ルテニウム酸鉛微粉末を得た。
なお、乳酸カルシウムの水溶液は、事前の予備試験により、ルテニウム酸鉛水酸化物の表面にカルシウムを3800質量ppm付着させることができる量を確認して添加した。
【0028】
(実施例2)
ルテニウム酸鉛水酸化物の表面に付着するカルシウムの濃度が3000質量ppmになるように、乳酸カルシウムを4質量%含む水溶液を、作製した泥しょうに添加した以外、実施例1の作製方法と同様に乾燥および焙焼して、ルテニウム酸鉛微粉末を作製した。
【0029】
(実施例3)
ルテニウム酸鉛水酸化物の表面に付着するカルシウムの濃度が2200質量ppmになるように、乳酸カルシウムを4質量%含む水溶液を、作製した泥しょうに添加した以外、実施例1の作製方法と同様に乾燥および焙焼して、ルテニウム酸鉛微粉末を作製した。
【0030】
(比較例1)
作製した泥しょうに、乳酸カルシウムを含む水溶液を添加することなく、そのまま脱水・ろ過した以外は、実施例1と同様にルテニウム酸鉛微粉末を作製した。
【0031】
(比較例2)
ルテニウム酸鉛水酸化物の表面に付着するカルシウムの濃度が1200質量ppmになるように、乳酸カルシウムを4質量%含む水溶液を、作製した泥しょうに添加した以外、実施例1の作製方法と同様に乾燥および焙焼して、ルテニウム酸鉛微粉末を作製した。
【0032】
(比較例3)
ルテニウム酸鉛水酸化物の表面に付着するカルシウムの濃度が5200質量ppmになるように、乳酸カルシウムを4質量%含む水溶液を、作製した泥しょうに添加した以外、実施例1の作製方法と同様に乾燥および焙焼して、ルテニウム酸鉛微粉末を作製した。
【0033】
(比較例4)
ルテニウム酸鉛水酸化物の表面に付着するカルシウムの濃度が4500質量ppmになるように、乳酸カルシウムを4質量%含む水溶液を、作製した泥しょうに添加した以外、実施例1の作製方法と同様に乾燥および焙焼して、ルテニウム酸鉛微粉末を作製した。
【0034】
<カルシウム含有量の評価>
作製したルテニウム酸鉛水酸化物の表面に付着したカルシウム濃度を、ICP法により測定した。測定結果を表1に示す。
【0035】
<ルテニウム酸鉛微粉末の比表面積値>
作製したルテニウム酸鉛微粉末の比表面積値を、吸着法(BET法)で測定した。比表面積値が大きい程、微細なルテニウム酸鉛粉末であることを示している。測定結果を表1に示す。
【0036】
【0037】
表1の結果から、焙焼時の温度条件を700℃とした場合、焙焼前のルテニウム酸鉛水酸化物の表面に付着させるカルシウム濃度が本発明の範囲内である実施例1~3の方法で作製したルテニウム酸鉛微粉末は、比表面積値が14.4m2/g以上であり、表面にカルシウムを付着させていない従来製法に相当する比較例1の方法で作製したルテニウム酸鉛微粉末の比表面積値12.7m2/gに比べて高く、微細化されていることが認められた。
【0038】
一方、焙焼前のルテニウム酸鉛水酸化物の表面に付着させるカルシウム濃度が本発明の範囲外で少なすぎる比較例2の方法で作製したルテニウム酸鉛微粉末は、カルシウムによるルテニウム酸鉛の凝集抑制効果が十分に発揮されず比表面積値が本発明の実施例1~3の方法で作製したルテニウム酸鉛微粉末よりも低く、微細な粒子の収集が困難であることが認められた。
また、焙焼前のルテニウム酸鉛水酸化物の表面に付着させるカルシウム濃度が本発明の範囲外で多すぎる比較例3もしくは比較例4の方法で作製したルテニウム酸鉛微粉末も、比表面積値が本発明の実施例1~3の方法で作製したルテニウム酸鉛微粉末よりも低く、添加量が多くなるほどより低くなることが認められた。
これら比較例2~4の結果から、ルテニウム酸鉛水酸化物の表面に付着させるカルシウムの効果は、本発明の範囲外の濃度では微粉末化には逆効果であることが認められた。
なお、焙焼前のルテニウム酸鉛水酸化物の表面にカルシウムを付着させていない比較例1の方法で作製したルテニウム酸鉛微粉末は、比表面積値が比較例の中では比較的大きな値となっているが、カルシウムのような粒成長を制御する添加元素が加えられていないため、外部環境の影響を受けやすい。比較例1の方法でルテニウム酸鉛微粉末の作製を複数回行ったところ、比表面積値が表1に示した値よりも小さな値になることもあり、微細化できないだけでなく、製造毎に粒径がばらつくことが認められた。
【0039】
以上、本発明の実施形態及び実施例について説明したが、上述のとおり、本発明は、これらの実施形態及び実施例に限定されるものではない。
例えば、本発明の実施形態では、(洗浄・カルシウム付着工程)において、水で洗浄後のルテニウム酸鉛の水酸化物もしくは水和物に、カルシウムを含む化合物を溶解した水溶液を添加することによって、ルテニウム酸鉛の水酸化物もしくは水和物の表面にカルシウムを付着させているが、溶解・還元工程で得られた共沈物であるルテニウム酸鉛の水酸化物もしくは水和物を洗浄する水にカルシウムを添加することによって、ルテニウム酸鉛の水酸化物もしくは水和物の表面にカルシウムを付着させてもよい。なお、その場合、ルテニウム酸鉛の水酸化物もしくは水和物の表面に付着させるカルシウムの濃度が2000質量ppm以上4000質量ppm以下となるようにするために、洗浄する水中のカルシウム濃度や、洗浄回数を、事前に予備試験等を行って調整すればよい。