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特開2024-59796エクオール誘導体の産生のための組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059796
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】エクオール誘導体の産生のための組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/02 20060101AFI20240423BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20240423BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20240423BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20240423BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20240423BHJP
   A61K 31/353 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 5/28 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 5/30 20060101ALI20240423BHJP
   A61P 5/46 20060101ALI20240423BHJP
   A61K 36/48 20060101ALI20240423BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20240423BHJP
   A23L 11/00 20210101ALN20240423BHJP
【FI】
C12N9/02
C12N1/21
C12N15/31
A23L33/105
A23L2/00 F
A23L2/52
A61K31/353
A61P5/28
A61P5/30
A61P5/46
A61K36/48
C12N15/09 Z ZNA
A23L11/00 E
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024025347
(22)【出願日】2024-02-22
(62)【分割の表示】P 2019045151の分割
【原出願日】2019-03-12
(31)【優先権主張番号】P 2018229610
(32)【優先日】2018-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古屋 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】橋本 貴史
(72)【発明者】
【氏名】野澤 大樹
(72)【発明者】
【氏名】松山 彰収
(72)【発明者】
【氏名】向井 克之
(57)【要約】
【課題】エクオール誘導体の産生のための組成物、及びエクオール誘導体の製造方法の提供。
【解決手段】エクオール含有組成物と、該エクオール含有組成物中のエクオールをエクオール誘導体に変換できる酵素又は微生物とを含む組成物。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エクオール含有組成物と、該エクオール含有組成物中のエクオールをエクオール誘導体に変換できる酵素又は微生物とを含む組成物。
【請求項2】
前記エクオール含有組成物が、エクオール、大豆胚芽エキス発酵物、大豆胚軸発酵物、大豆発酵物、又はアルファルファ発酵物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記酵素又は微生物が、フラビン依存性酸化酵素である、又はエクオール酸化活性を有する微生物である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記エクオール誘導体が3’-ヒドロキシエクオール又は6-ヒドロキシエクオールである、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
エクオール含有組成物に、該エクオール含有組成物中のエクオールをエクオール誘導体に変換できる酵素又は微生物を作用させる工程を含む、エクオール誘導体の製造方法。
【請求項6】
前記エクオール含有組成物に、該エクオール含有組成物中のエクオールをエクオール誘導体に変換できる酵素又は微生物を作用させる工程が、前記エクオール含有組成物を含有する培地で前記微生物を培養し、該エクオール含有組成物中のエクオールからエクオール誘導体を発酵により生産させる工程を含み、
生産したエクオール誘導体を回収する工程を含む、
請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記エクオール誘導体が3’-ヒドロキシエクオール又は6-ヒドロキシエクオールである、請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記酵素又は微生物が、フラビン依存性酸化酵素である、又はエクオール酸化活性を有する微生物である、請求項5~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
エクオール含有組成物に、該エクオール含有組成物中のエクオールをエクオール誘導体に変換できる酵素又は微生物を作用させてエクオール誘導体を生産する工程、及び
該エクオール誘導体と飲食品の原料とを配合する工程
を含む、エクオール誘導体を含有する飲食品の製造方法。
【請求項10】
エクオール含有組成物に、該エクオール含有組成物中のエクオールをエクオール誘導体に変換できる酵素又は微生物を作用させてエクオール誘導体を生産する工程、及び
該エクオール誘導体と医薬品の原料とを配合する工程
を含む、エクオール誘導体を含有する医薬品の製造方法。
【請求項11】
下記(a)又は(b)のポリヌクレオチド。
(a)配列番号1~8から選択される一つのアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
(b)配列番号9~16から選択される一つの塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【請求項12】
下記(c)又は(d)のポリヌクレオチド。
(c)配列番号1~8から選択される一つのアミノ酸配列において、1~複数個のアミノ酸が置換若しくは欠失、又は1~複数個のアミノ酸が挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなる、エクオールをエクオール誘導体に変換できる活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
(d)配列番号9~16から選択される一つの塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、エクオールをエクオール誘導体に変換できる活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項13】
請求項11に記載の(a)若しくは(b)のポリヌクレオチド、又は
請求項12に記載の(c)若しくは(d)のポリヌクレオチド
が挿入されたベクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エクオール誘導体の産生のための組成物、及びエクオール誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エクオールは、大豆に含まれるイソフラボン類の代謝産物の中で最もエストロゲン活性が高いことが知られている(非特許文献1、2)。
また、エクオールと同様に、5-ヒドロキシエクオールのようなエクオール誘導体もエストロゲン様活性を有し、かつ、3β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ阻害活性を有することが報告されており(特許文献1)、アルドステロン及び糖質コルチコイドの生合成を阻害することにより、これらのホルモンの過剰症に対する予防もしくは治療への利用が期待されている。
さらに、o-キノンメチドベースの手法によるイソフラバン誘導体の合成法の報告において、3’-ヒドロキシエクオールが化学的合成法により得られることが開示されている(非特許文献3)。
【0003】
一方で、フラビン依存性酸化酵素という酵素が知られている。該酵素は、その種類によって基質特異性や作用が異なること、例えば、Pseudomonas aeruginosa PAO1株が保有す
るHpaB及びHpaCは、ヒドロキシスチルベン(レスベラトロール)に対して活性を示すことが報告されている。基質となる化合物に、Pseudomonas aeruginosa PAO1株由来のHpaB及
びHpaCと、アミノ酸レベルで50%以上の相同性を有するタンパク質を作用させてヒドロキシスチルベンを製造する方法が報告されている(特許文献2、3)。
【0004】
しかし、酵素や、微生物等を用いたバイオ合成法(発酵)により、エクオールからエクオール誘導体を得る方法は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-81875号公報
【特許文献2】特開2015-130819号公報
【特許文献3】特開2017-074019号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Adlercreutz, H., The Lancet Oncol., 3, 364-373 (2002)
【非特許文献2】Duncan, A. M. et al., Best Pract. Res. Clin. Endocrinol. Metab.,17, 253-271 (2003)
【非特許文献3】Tetrahedron Letters (2008), 49(18), 2974-2978
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、エクオール誘導体の産生のための組成物、及びエクオール誘導体の製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、エクオール含有組成物と、該エクオール含有組成物中のエクオールをエクオール誘導体に変換できる酵素又は微生物とを用いることで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
本発明は以下に示すとおりである。
【0009】
〔1〕エクオール含有組成物と、該エクオール含有組成物中のエクオールをエクオール誘導体に変換できる酵素又は微生物とを含む組成物。
〔2〕前記エクオール含有組成物が、エクオール、大豆胚芽エキス発酵物、大豆胚軸発酵物、大豆発酵物、又はアルファルファ発酵物である、〔1〕に記載の組成物。
〔3〕前記酵素又は微生物が、フラビン依存性酸化酵素である、又はエクオール酸化活性を有する微生物である、〔1〕又は〔2〕に記載の組成物。
〔4〕前記エクオール誘導体が3’-ヒドロキシエクオール又は6-ヒドロキシエクオールである、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の組成物。
〔5〕エクオール含有組成物に、該エクオール含有組成物中のエクオールをエクオール誘導体に変換できる酵素又は微生物を作用させる工程を含む、エクオール誘導体の製造方法。
〔6〕前記エクオール含有組成物に、該エクオール含有組成物中のエクオールをエクオール誘導体に変換できる酵素又は微生物を作用させる工程が、前記エクオール含有組成物を含有する培地で前記微生物を培養し、該エクオール含有組成物中のエクオールからエクオール誘導体を発酵により生産させる工程を含み、生産したエクオール誘導体を回収する工程を含む、〔5〕に記載の製造方法。
〔7〕前記エクオール誘導体が3’-ヒドロキシエクオール又は6-ヒドロキシエクオールである、〔5〕又は〔6〕に記載の製造方法。
〔8〕前記酵素又は微生物が、フラビン依存性酸化酵素である、又はエクオール酸化活性を有する微生物である、〔5〕~〔7〕のいずれかに記載の製造方法。
〔9〕エクオール含有組成物に、該エクオール含有組成物中のエクオールをエクオール誘導体に変換できる酵素又は微生物を作用させてエクオール誘導体を生産する工程、及び
該エクオール誘導体と飲食品の原料とを配合する工程を含む、エクオール誘導体を含有する飲食品の製造方法。
〔10〕エクオール含有組成物に、該エクオール含有組成物中のエクオールをエクオール誘導体に変換できる酵素又は微生物を作用させてエクオール誘導体を生産する工程、及び
該エクオール誘導体と医薬品の原料とを配合する工程を含む、エクオール誘導体を含有する医薬品の製造方法。
〔11〕下記(a)又は(b)のポリヌクレオチド。
(a)配列番号1~8から選択される一つのアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
(b)配列番号9~16から選択される一つの塩基配列を含むポリヌクレオチド。
〔12〕下記(c)又は(d)のポリヌクレオチド。
(c)配列番号1~8から選択される一つのアミノ酸配列において、1~複数個のアミノ酸が置換若しくは欠失、又は1~複数個のアミノ酸が挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなる、エクオールをエクオール誘導体に変換できる活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
(d)配列番号9~16から選択される一つの塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、エクオールをエクオール誘導体に変換できる活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
〔13〕〔11〕に記載の(a)若しくは(b)のポリヌクレオチド、又は〔12〕に記載の(c)若しくは(d)のポリヌクレオチドが挿入されたベクター。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エクオール誘導体の産生のための組成物、及びエクオール誘導体の製造方法を提供することができる。また、該エクオール誘導体を含有する飲食品や医薬品を対象が摂取することにより、エクオール誘導体による公知の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一態様に係る、HpaBro-3をコードする遺伝子を連結したベクターを導入した大腸菌とエクオールとの培養結果を示すHPLCクロマトグラム。上のグラフは基質が(S)-エクオールの場合であり、下のグラフは基質が(R)-エクオールの場合である。
図2】本発明の一態様に係る、各遺伝子を連結したベクターを導入した大腸菌による、3’-ヒドロキシエクオール生産量を示すグラフ。白色のバーは基質が(S)-エクオールの場合であり、黒色のバーは基質が(R)-エクオールの場合である。
図3】本発明の一態様に係る、HpaBro-3をコードする遺伝子を連結したベクターを導入した大腸菌を用いた、フラスコスケールでの3’-ヒドロキシエクオール生産量を示すグラフ。左のグラフは基質が(S)-エクオールの場合であり、右のグラフは基質が(R)-エクオールの場合である。
図4】本発明の一態様に係る、HpaBpl-1をコードする遺伝子を連結したベクターを導入した大腸菌とエクオールとの培養結果を示すHPLCクロマトグラム。上のグラフは基質が(S)-エクオールの場合であり、下のグラフは基質が(R)-エクオールの場合である。
図5】本発明の一態様に係る、HpaBpl-1をコードする遺伝子を連結したベクターを導入した大腸菌を用いた、フラスコスケールでの6-ヒドロキシエクオール生産量を示すグラフ。左のグラフは基質が(S)-エクオールの場合であり、右のグラフは基質が(R)-エクオールの場合である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書に記載される組成物は、混合物を含む概念であり、その成分が均一であるか不均一であるかを問わない。
【0013】
(組成物)
本発明の一態様は、エクオール含有組成物と、該エクオール含有組成物中のエクオールをエクオール誘導体に変換できる酵素又は微生物とを含む組成物である。
【0014】
前記エクオール含有組成物は、該エクオール含有組成物中のエクオールをエクオール誘導体に変換できる酵素又は微生物によって、該エクオールがエクオール誘導体に変換される組成物である限り、その態様は制限されない。
前記エクオール含有組成物としては、例えば、大豆、インゲンマメ、ソラマメ、ラッカセイ、ヒヨコマメ、クズ、レッドクローバー、アルファルファ、カンゾウ等のマメ科植物そのものの発酵物が挙げられる。すなわち、前記マメ科植物が大豆であれば、大豆そのものの発酵物(大豆発酵物)である。
また、前記エクオール含有組成物としては、前記マメ科植物のうち大豆を例に挙げれば、大豆胚芽部分の発酵物(大豆胚芽発酵物)や大豆胚軸部分の発酵物(大豆胚軸発酵物)のように、大豆の一部分の発酵物でもよい。さらに、大豆胚芽発酵物を例に挙げれば、大豆胚芽部分から得られるエキスを発酵して得られる発酵物(大豆胚芽エキス発酵物)であってもよい。
尚、大豆発酵物とは、大豆全体を用いて発酵して得られた発酵物であり、大豆胚芽を用いて得られた大豆胚芽の発酵物や、大豆胚軸を用いて得られた大豆胚軸の発酵物のように、大豆の一部を用いて発酵して得られた発酵物とは異なる。
【0015】
発酵の態様としては、例えば、大豆そのものの発酵物(大豆発酵物)を得る場合であれば、前記マメ科植物を準備し、これに麹菌を加えて発酵させ、発酵物とすることなどが挙げられる。前記準備の態様としては、大豆そのものを生のまま準備してもよいし、加熱処理、乾燥処理、若しくは蒸煮処理等に供した後ですり潰したものを準備してもよいし、すり潰した後で加熱処理、乾燥処理、若しくは蒸煮処理等したものを準備してもよい。
【0016】
また、前記エクオール含有組成物は、前記マメ科植物由来のイソフラボン類を発酵させた発酵物であってもよい。例えば、大豆であれば、大豆由来のイソフラボンに、β-グル
コシダーゼ等の酵素又は微生物を作用させて得られたイソフラボンアグリコン等が挙げられる。
【0017】
また、前記エクオール含有組成物としては、エクオールであってもよく、(R)-エクオールでも(S)-エクオールでもよい。
【0018】
本態様における、エクオール含有組成物中のエクオールをエクオール誘導体に変換できる酵素としては、エクオール含有組成物中のエクオールをエクオール誘導体に変換できる限り、その態様は制限されない。
【0019】
該酵素は、微生物が産生した酵素でも、微生物による産生に依らないで得られた酵素であってもよい。
微生物が産生した酵素の場合、該微生物としては、元来、該酵素を発現する微生物であってもよいし、遺伝子組換え等の公知の技術により該酵素を発現するようにした微生物であってもよい。
微生物が産生した酵素であってそれを回収する場合、その回収方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、微生物を培養した後、該微生物をろ過や遠心分離等の方法で集菌し、緩衝液や生理食塩水等で該微生物を洗浄し、例えば、物理的処理(例えば、凍結融解処理、超音波処理、加圧処理、浸透圧差処理、磨砕処理等)、生化学的処理(例えば、リゾチーム等の細胞壁溶解酵素による処理等)、化学的処理(例えば、界面活性剤との接触処理等)を、単独又は組み合わせて、酵素を回収することができる。回収した酵素は、その後、分離や精製の処理が施されてもよい。
【0020】
エクオール含有組成物中のエクオールをエクオール誘導体に変換できる酵素は、例えば、酸化還元酵素(デヒドロゲナーゼ、シトクロム、カタラーゼ、オキシダーゼ、オキシゲナーゼ(例えば、フラビン依存性酸化酵素等)、脂肪酸不飽和化酵素等)、転移酵素(アシル転移酵素、リン酸転移酵素、アミノトランスフェラーゼ等)、タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)、脂質分解酵素(リパーゼ)、糖質分解酵素(アミラーゼ、リゾチーム、β-ガラクトシダーゼ等)、リン酸分解酵素(ヌクレアーゼ、ホスファターゼ、制限酵素)、加水分解酵素(ウレアーゼ、ラクトナーゼ、ATP加水分解酵素等)、脱離酵素(炭酸ヒドラターゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ等)、異性化酵素(ラセマーゼ、ホスホグリセリン酸ホスホムターゼ、グルコース-6-リン酸イソメラーゼ等)、合成酵素(DNAリガーゼ、アミノアシルtRNA合成酵素、アシルCoAシンテターゼ、カルボキシラーゼ等
)が挙げられる。
好ましくはオキシゲナーゼであり、より好ましくはフラビン依存性酸化酵素である。
【0021】
フラビン依存性酸化酵素には、フラビン依存性モノオキシゲナーゼがあり、また、フラビン依存性酸化酵素に還元型フラビンを供給する酵素には、NAD(P)Hとフラビンオキシド
リダクターゼとから成る酵素がある。前者としてはHpaBが挙げられ、後者としてはHpaCが挙げられる。
HpaBとしては、好ましくは、Pseudomonas aeruginosa PAO1由来のHpaBpa(配列番号1
)、Escherichia coli BL21 (DE3)由来のHpaBec(配列番号2)、Photorhabdus luminescens sub sp. laumondii TTO1由来のHpaBpl-1(配列番号3)、HpaBpl-2(配列番号4)、HpaBpl-3(配列番号5)、Rhodococcus opacus B4由来のHpaBro-1(配列番号6)、HpaBro-2(配列番号7)、HpaBro-3(配列番号8)である。
【0022】
Pseudomonas aeruginosa PAO1由来のHpaBpa(配列番号1)は、エクオール含有組成物
中のエクオールをエクオール誘導体に変換できる限り、配列番号1で表されるアミノ酸配
列と80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の同一性を有するアミノ酸配列であってもよい。
このことは、上記したHpaBpa以外の各HpaB(配列番号2~8)についても同様である。
【0023】
エクオール含有組成物中のエクオールをエクオール誘導体に変換できる微生物としては、エクオール含有組成物中のエクオールをエクオール誘導体に変換できる限り、その態様は制限されない。該微生物は、好ましくはエクオール酸化活性(エクオールオキシゲナーゼ)を有する微生物であり、より好ましくは前記フラビン依存性酸化酵素を発現する微生物である。
該微生物としては、元来、エクオールをエクオール誘導体に変換できる微生物であってもよいし、エクオールをエクオール誘導体に変換できるように、遺伝子組換え等の公知の技術により改変された微生物であってもよい。該微生物が属する属や種等は制限されず、例えば、大腸菌や酵母、糸状菌類等が挙げられる。
【0024】
前記エクオール誘導体は特に制限されないが、好ましくは、水酸化エクオール、メトキシ化エクオールであり、例えば、3’-ヒドロキシエクオール、5-ヒドロキシエクオール、3’-メトキシエクオール、6-メトキシエクオール、6-ヒドロキシエクオール等が挙げられる。
より好ましくは水酸化物であって、3’-ヒドロキシエクオール、5-ヒドロキシエクオール、6-ヒドロキシエクオールであり、さらに好ましくは、3’-ヒドロキシエクオール、6-ヒドロキシエクオールである。
尚、フラビン依存性酸化酵素としてHpaBpa、HpaBec、HpaBpl-2、HpaBpl-3、HpaBro-1、HpaBro-2、又はHpaBro-3を用いた場合には、エクオールが3’-ヒドロキシエクオールに変換される。また、フラビン依存性酸化酵素としてHpaBpl-1を用いた場合には、エクオールが6-ヒドロキシエクオールに変換される。
【0025】
(製造方法)
本発明の他の態様は、エクオール含有組成物に、該エクオール含有組成物中のエクオールをエクオール誘導体に変換できる酵素又は微生物を作用させる工程を含む、エクオール誘導体の製造方法である。
【0026】
本態様におけるエクオール含有組成物、及び該エクオール含有組成物中のエクオールをエクオール誘導体に変換できる酵素及び微生物については、既出の説明を援用する。
【0027】
本態様における、エクオール含有組成物に、該エクオール含有組成物中のエクオールをエクオール誘導体に変換できる酵素を作用させる工程は、エクオール含有組成物を含む溶液中で、エクオール含有組成物中のエクオールと該酵素とを反応させる工程を含む。
【0028】
前記エクオール含有組成物を含む溶液の例としては、例えば、水、有機溶媒、有機溶媒と水性媒体との2相混合系等が挙げられる。
有機溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、クロロホルム、n-ヘキサン等が挙げられる。
水性媒体としては、例えば、エタノールやアセトン等が挙げられる。
【0029】
また、基質であるエクオールの溶解度を上げるために包摂化合物を添加してもよい。
包摂化合物としては、例えば、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、クラスターデキストリン(高度分岐環状デキストリン)のほか、これらの類縁体でもよい。例えば、メチル-β-シクロデキストリン、トリメチル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン等を挙げることができる。
前記包摂化合物の添加量としては、エクオール含有組成物中のエクオールに対して、モル比の総量で、通常0.1当量以上、好ましくは0.5当量以上、より好ましくは1.0当量以上であり、一方、通常5.0当量以下、好ましくは2.5当量以下、より好ましくは2.0当量以下である。
【0030】
反応温度は、好ましくは20℃~45℃、より好ましくは25℃~40℃、さらに好ましくは30℃~37℃である。
反応時間としては、好ましくは8~340時間、より好ましくは12~170時間、さらも好ましくは16~120時間である。
反応液のpHは、好ましくは4~10、より好ましくは6~8である。
【0031】
本態様では、エクオール含有組成物中のエクオールをエクオール誘導体に変換できる酵素として、微生物が産生した酵素であってそれを取得したものを用いる場合には、エクオール含有組成物に該酵素を作用させる工程の前に、該酵素を産生する微生物から該酵素を回収する工程を含んでもよく、その前に、該酵素を産生する微生物を培養する工程を含んでもよい。
【0032】
該酵素を産生する微生物を培養する工程は、該微生物が該酵素を産生できる条件で行われれば、その態様は特に制限されない。例えば、後述する、エクオール含有組成物を含む培地で該微生物を培養する場合の条件が挙げられる。
【0033】
該酵素を産生する微生物から該酵素を回収する工程は、該微生物をろ過や遠心分離等の方法で集菌する工程や、その後、緩衝液や生理食塩水等で該微生物を洗浄する工程を含んでよい。該洗浄工程としては、例えば、物理的処理(例えば、凍結融解処理、超音波処理、加圧処理、浸透圧差処理、磨砕処理等)、生化学的処理(例えば、リゾチーム等の細胞壁溶解酵素による処理等)、化学的処理(例えば、界面活性剤との接触処理等)をする工程が挙げられ、これらは単独又は組み合わせてよい。また、その後に、該酵素を精製する工程や濃縮する工程等を含んでもよい。
【0034】
本態様における、エクオール含有組成物に、該エクオール含有組成物中のエクオールをエクオール誘導体に変換できる微生物を作用させる工程は、エクオール含有組成物を含む溶液で該微生物に、該エクオール含有組成物中のエクオールをエクオール誘導体に変換させる工程を含む。
例えば、エクオール含有組成物を含有する培地で前記微生物を培養し、該エクオール含有組成物中のエクオールからエクオール誘導体を発酵により生産させる工程である。
【0035】
エクオール含有組成物を含む溶液とは、前記微生物が増殖できる溶液であっても増殖できない溶液であってもよい。
【0036】
前記微生物が増殖できる溶液としては、例えば培地が挙げられ、培地は、最少培地でも合成培地でもよい。市販の培地であれば、例えば、Oxoid社製のANAEROBE BASAL BROTH(ABB培地)、Oxoid社製のWilkins-Chalgren Anaerobe Broth(CM0643)、日水製薬株式会社製のGAM培地、変法GAM培地、ブレインハートインヒュージョン培地、LB培地等が挙げられる。
【0037】
また、培地には水溶性の有機物を炭素源として加えることができる。水溶性の有機物としては、例えば、グルコース、アラビノース、ソルビトール、フラクトース、マンノース、スクロース、トレハロース、キシロース、ガラクトース、デンプン、デンプン加水分解物、糖蜜、廃糖蜜等の糖類;麦、とうもろこし等の天然炭水化物;グリセロール、メタノール、エタノール等のアルコール類;ノルマルパラフィン等の炭化水素類;吉草酸、酪酸
、プロピオン酸、酢酸、ギ酸、フマル酸、グルコン酸、ピルビン酸、クエン酸等の有機酸類;グリシン、グルタミン、アスパラギン等のアミノ酸類等を挙げることができる。
該有機物の濃度は、効率的に発育させるために適宜調節することができる。一般的には、0.1~10wt/vol%の範囲である。
【0038】
前記の炭素源に加えて、培地には窒素源を加えることができる。窒素源としては通常の発酵に用いうる各種の窒素化合物を用いることができる。
好ましい無機窒素源として、アンモニウム塩、硝酸塩、尿素等を、より好ましくは、硫安、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、硝酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム及び硝酸ソーダ等を挙げることができる。
また、有機窒素源としては、アミノ酸類、ミルクカゼイン、カザミノ酸、コーンスティープリカー、酵母エキス、ペプトン類(例えばポリペプトンN、大豆ペプトン等)、肉エキス(例えばエールリッヒカツオエキス、ラブ-レムコ末、ブイヨン等)、魚介類エキス、肝臓エキス、消化血清末、魚油等を挙げることができる。
【0039】
さらに、炭素源や窒素源に加えて、例えば、ビタミン等の補因子や各種の塩類等の無機化合物を培地に加えることによって、増殖や活性を増強できる場合もある。たとえば無機化合物、ビタミン類、脂肪酸等、動植物由来の微生物増殖補助因子として以下のものを挙げることができる。
【0040】
無機化合物 ビタミン類
リン酸二水素カリウム ビオチン
硫酸マグネシウム 葉酸
硫酸マンガン ピリドキシン
塩化ナトリウム チアミン
塩化コバルト リボフラビン
塩化カルシウム ニコチン酸
硫酸亜鉛 パントテン酸
硫酸銅 ビタミンB12
明ばん チオオクト酸
モリブデン酸ソーダ p-アミノ安息香酸
塩化カリウム ビタミンK
ホウ酸等
塩化ニッケル
タングステン酸ナトリウム
セレン酸ナトリウム
硫酸第一鉄アンモニウム
酢酸ナトリウム三水和物
硫酸マグネシウム七水和物
硫酸マンガン四水和物
【0041】
また、培地中に、L-システイン(塩酸塩)、チオグリコール酸、アスコルビン酸、メルカプト酢酸、チオール酢酸、グルタチオン、硫化ソーダ、硫化ナトリウム、亜硫酸塩、チオグリコール酸、ルチン等の公知の還元剤やL-シスチン等の還元活性剤、カタラーゼ、スーパーオキシドムターゼ等の活性酸素種を分解する酵素を添加することにより生育が良好になる可能性がある。
【0042】
培養方法としては、例えば、振とう培養、通気攪拌培養、連続培養、流加培養等の通常の培養方法を用いることができる。
【0043】
培養中の気相及び水相は、空気又は酸素を含まないことが好ましく、例えば、窒素及び/又は水素を任意の比率で含むことや、窒素及び/又は二酸化炭素を任意の比率で含むことが挙げられ、水素を含む気相や水相であることが好ましい。気相における水素の割合は、エクオール誘導体の生成が促進されることから、通常0.5%以上、好ましくは1.0%以上、より好ましくは2.0%以上であり、一方、通常100%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下である。
【0044】
培養中の気相及び水相をこのような環境にする方法は特に制限されないが、例えば、培養前に前記ガスで気相を置換する方法、これに加えて、培養中も培養器の底部から前記ガスを供給する及び/又は培養器の気相部に前記ガスを供給する方法、培養前に前記ガスで水相をバブリングするなどの方法をとることが出来る。前記水素は、水素ガスをそのまま用いてもよい。また、培地にギ酸及び/又はその塩などの水素の原料を添加し、微生物の作用により培養中に水素を生成してもよい。
【0045】
通気量としては、例えば0.005~2vvmが挙げられ、0.05~0.5vvmが好ましい。また、混合ガスはナノバブルとして供給することもできる。
培養温度は、好ましくは20℃~45℃、より好ましくは25℃~40℃、さらに好ましくは30℃~37℃である。
培養器の加圧条件は、生育できる条件であれば特に限定されず、例えば0.001~1MPa、好ましくは0.01~0.5MPaである。
培養時間は、通常8~340時間、好ましくは12~170時間、より好ましくは16~120時間である。
培養開始時の培地のpHは、通常4~10、好ましくは6~8である。
【0046】
また、培地に界面活性剤、吸着剤、包摂化合物等を添加することにより、エクオール誘導体の生成を促進できる場合がある。
界面活性剤としては、例えば、SDS、TritonX-100、Tween80、アデカノール等が挙げられ、0.001g/L以上10g/L以下程度添加することができる。
吸着剤としては、例えば、セルロース及びその誘導体;デキストリン;三菱化学株式会社製の疎水吸着剤であるダイアイオンHPシリーズやセパビーズシリーズ;オルガノ株式会社製のアンバーライトXADシリーズ等を挙げることができる。
包摂化合物としては、例えば、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン、クラスターデキストリン(高度分岐環状デキストリン)のほか、これらの類縁体でもよい。例えば、メチル-β-シクロデキストリン、トリメチル-β-シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン等を挙げることができる。
包摂化合物の添加量としては、エクオール含有組成物中のエクオールに対して、モル比の総量で、通常0.1当量以上、好ましくは0.5当量以上、より好ましくは1.0当量以上であり、一方、通常5.0当量以下、好ましくは2.5当量以下、より好ましくは2.0当量以下である。
【0047】
本態様は、例えば、得られたエクオール誘導体を定量する工程を含んでもよい。定量方法は常法に従うことができる。たとえば、培養液の一部を採取して適宜希釈し、よく撹拌した後、ポリテロラフルオロエチレン(PTFE)膜などの膜を使用して濾過し、不溶物を除去したものを高速液体クロマトグラフィーで定量することなどが挙げられる。
【0048】
また、本態様は、得られたエクオール誘導体を回収する工程を含んでもよい。当該回収工程は、精製工程や濃縮工程等を含む。精製工程における精製処理としては、熱などによる微生物の殺菌;精密濾過(MF)、限外濾過(UF)などによる除菌;固形物、高分子物質の除去;有機溶媒やイオン性液体などによる抽出;疎水性吸着剤、イオン交換樹脂、
活性炭カラム等を用いた吸着、脱色といった処理を行うことができる。また、濃縮工程における濃縮処理としては、エバポレーター、逆浸透膜等による濃縮が挙げられる。
さらに、エクオール誘導体を含む溶液は、凍結乾燥、噴霧乾燥などにより粉末化することができる。粉末化において、ラクトース、デキストリン、コーンスターチ等の賦形剤を添加することもできる。
【0049】
前記微生物が増殖できない溶液としては、例えば、塩溶液や緩衝液が挙げられる。塩溶液の例としては、生理食塩水等が挙げられる。緩衝液の例としては、リン酸緩衝液、トリス-塩酸緩衝液、クエン酸-リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、MOPS緩衝液、酢酸緩衝液、グリシン緩衝液等が挙げられる。緩衝液のpHや濃度は、常法に従い適宜調製できる。
【0050】
前記微生物が増殖できない場合のこのような溶液は、例えば、該微生物が静止菌体である場合に利用することができる。静止菌体とは、培養した微生物から遠心分離等の操作により培地成分を取り除き、塩溶液や緩衝液で洗浄し、該洗浄液と同一の液に懸濁した菌体であって、増殖しない状態の菌体を指し、本態様においては、少なくとも、エクオールからエクオール誘導体を生成できる代謝系を有している菌体をいう。
【0051】
前記微生物が増殖できる溶液であっても増殖できない溶液であってもよい場合とは、例えば、前記微生物として、固定化された微生物を用いる場合である。固定化された微生物とは、公知の方法である、ポリアクリルアミドゲル法、含硫多糖ゲル法(カラギーナンゲル法)、アルギン酸ゲル法、寒天ゲル法等を用いて固定化された微生物のことである。
尚、本明細書では、微生物を固定するこのようなゲル等も溶液と定義する。
【0052】
本発明の他の態様は、エクオール含有組成物に、該エクオール含有組成物中のエクオールをエクオール誘導体に変換できる酵素又は微生物を作用させてエクオール誘導体を生産する工程、及び該エクオール誘導体と医薬品の原料とを配合する工程を含む、エクオール誘導体を含有する医薬品の製造方法である。
【0053】
前記エクオール誘導体を生産する工程については、既に説明した、エクオール誘導体の製造方法の説明を援用する。尚、本態様では、エクオール誘導体を生産する工程の後に、生産されたエクオール誘導体を回収する工程を含むことが好ましい。
【0054】
医薬品の原料は、通常用いられる医薬品の原料を用いることができ、その配合時期は特に制限されない。
【0055】
製造される医薬品は、エクオール誘導体の摂取又は投与により予防又は治療をし得る疾患の予防又は治療のための医薬品として使用することができる。また、その剤形は、予防又は治療しようとする疾患や医薬品の使用形態、投与経路等に応じて選択することができる。例えば、錠剤、顆粒剤、粉剤、カプセル剤、ソフトカプセル剤、シロップ剤等の内服用医薬品;乳液剤、懸濁液剤、軟膏剤、クリーム剤、ローション剤、ゲル剤、噴霧剤、貼付剤、パップ剤、リニメント剤、エアゾール剤、軟膏剤、パック剤、吸入剤、坐剤等の外用医薬品;注射剤等が挙げられる。これらの各種製剤は、常法に従って主薬に対して必要に応じて充填剤、増量剤、賦形剤、結合剤、保湿剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤などの医薬の製剤技術分野において通常使用し得る既知の補助剤を用いて製剤化することができる。また、この医薬品中に着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等や他の医薬品を含有させてもよい。
【0056】
医薬品の全量に対するエクオール誘導体の含有量は、特に制限されないが、該医薬品を摂取又は投与した場合にエクオール誘導体による所望の効果を得ることできる含有量であることが好ましい。医薬品全量に対するエクオール誘導体の含有量は、通常0.0001
~50質量%、好ましくは0.001~50質量%、更に好ましくは0.01~50質量%である。
【0057】
本発明の他の態様は、エクオール含有組成物に、該エクオール含有組成物中のエクオールをエクオール誘導体に変換できる酵素又は微生物を作用させてエクオール誘導体を生産する工程、及び該エクオール誘導体と飲食品の原料とを配合する工程を含む、エクオール誘導体を含有する飲食品の製造方法である。
【0058】
前記エクオール誘導体を生産する工程については、既に説明した、エクオール誘導体の製造方法の説明を援用する。尚、本態様では、エクオール誘導体を生産する工程の後に、生産されたエクオール誘導体を回収する工程を含むことが好ましい。
【0059】
飲食品の原料は、通常用いられる飲食品の原料を用いることができ、その配合時期は特に制限されない。
【0060】
製造される飲食品は、水、タンパク質、糖質、脂質、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、有機塩基、果汁、フレーバー類等を主成分とするものであってよい。
タンパク質としては、例えば、全脂粉乳、脱脂粉乳、部分脱脂粉乳、カゼイン、大豆タンパク質、鶏卵タンパク質、肉タンパク質等の動植物性タンパク質、及びこれらの加水分解物、バターなどが挙げられる。
糖質としては、糖類、加工澱粉(デキストリンのほか、可溶性澱粉、ブリティッシュスターチ、酸化澱粉、澱粉エステル、澱粉エーテル等)、食物繊維などが挙げられる。
脂質としては、例えば、ラード、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油、魚油、これらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の植物性油脂などが挙げられる。
ビタミン類としては、例えば、ビタミンA、カロチン類、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンD群、ビタミンE、ビタミンK群、ビタミンP、ビタミンQ、ナイアシン、ニコチン酸、パントテン酸、ビオチン、イノシトール、コリン、葉酸などが挙げられる。
ミネラル類としては、例えば、カルシウム、カリウム、マグネシウム、ナトリウム、銅、鉄、マンガン、亜鉛、セレン、乳清ミネラルなどが挙げられる。
有機酸としては、例えば、リンゴ酸、クエン酸、乳酸、酒石酸などが挙げられる。
これらの成分は、2種以上を組み合わせて使用してもよく、合成品であってもよい。
【0061】
製造される飲食品の具体例としては、一般の飲食品の他、特定保健用食品、栄養補助食品、機能性食品、病者用食品等が挙げられる。これらの飲食品の形態は特に制限されないが、具体的には、パン類、麺類等の主菜;チーズ、ハム、ウィンナー、魚介加工品等の副菜;果汁飲料、炭酸飲料、乳飲料等の飲料;クッキー、ケーキ、ゼリー、プリン、キャンディー、ヨーグルト等の嗜好品;カプセル剤(ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤)、錠剤、顆粒剤、粉剤、ゼリー剤、リポソーム製剤、栄養ドリンク等のサプリメント等が例示される。これらの飲食品の中でも、好ましくはサプリメント、より好ましくはカプセル剤が挙げられる。
【0062】
製造される飲食品の全量に対するエクオール誘導体の含有量は、特に制限されないが、該飲食品を摂取した場合に、エクオール誘導体による効果を得ることできる含有量であることが好ましい。飲食品全量に対するエクオール誘導体の含有量は、通常0.0001~50質量%、好ましくは0.001~50質量%、更に好ましくは0.01~50質量%である。
【0063】
飲食品がサプリメントである場合、その形態は、固形物、ゲル状物、液状物の何れの形態であってもよく、例えば、各種加工飲食品、粉末、錠剤、丸剤、カプセル、ゼリー、顆粒等の形態にすることができる。
【0064】
また、サプリメントには、デキストリン等の賦形剤、ビタミンC等の保存剤、バニリン等の嬌味剤、ベニバナ色素等の色素、単糖、オリゴ糖および多糖類(例、グルコース、フルクトース、スクロース、サッカロース、およびこれらを含有する糖質)、酸味料、香料、油脂、乳化剤、全脂粉乳、または寒天などの添加剤を配合していてもよい。これらの成分は、2種以上を組み合わせて使用してもよく、合成品であってもよい。
【0065】
本発明の他の態様は、エクオール含有組成物に、該エクオール含有組成物中のエクオールをエクオール誘導体に変換できる酵素又は微生物を作用させてエクオール誘導体を生産する工程、及び該エクオール誘導体と化粧品の原料とを配合する工程を含む、エクオール誘導体を含有する化粧品の製造方法である。
【0066】
前記エクオール誘導体を生産する工程については、既に説明した、エクオール誘導体の製造方法の説明を援用する。尚、本態様では、エクオール誘導体を生産する工程の後に、生産されたエクオール誘導体を回収する工程を含むことが好ましい。
【0067】
化粧品の原料は、通常用いられる化粧品の原料を用いることができ、その配合時期は特に制限されない。
製造される化粧品としては、例えば、クリーム剤、乳液、化粧水(ローション)、パック、洗浄剤、メーキャップ化粧料、頭皮・毛髪用品、オイル、リップ、口紅、ファンデーション、アイライナー、頬紅、マスカラ、アイシャドー、マニキュア・ペディキュア(及び除去剤)、シャンプー、リンス、ヘアトリートメント、パーマネント剤、染毛料、ひげ剃り剤、石けん(ハンドソープ、ボディソープ、洗顔料)等が挙げられる。
【0068】
化粧品の全量に対するエクオール誘導体の含有量は、特に制限されないが、該化粧品を使用した場合にエクオール誘導体による所望の効果を得ることできる含有量であることが好ましい。化粧品全量に対するエクオール誘導体の含有量は、通常0.000001~10質量%、好ましくは0.00001~10質量%、更に好ましくは0.0001~10質量%である。
【0069】
本発明の他の態様は、エクオール含有組成物に、該エクオール含有組成物中のエクオールをエクオール誘導体に変換できる酵素又は微生物を作用させてエクオール誘導体を生産する工程、及び該エクオール誘導体と飼料の原料とを配合する工程を含む、エクオール誘導体を含有する飼料の製造方法である。
本態様の飼料は、イヌやネコ等の愛玩動物の飼料(ペットフード)を含む。
【0070】
前記エクオール誘導体を生産する工程については、既に説明した、エクオール誘導体の製造方法の説明を援用する。尚、本態様では、エクオール誘導体を生産する工程の後に、生産されたエクオール誘導体を回収する工程を含むことが好ましい。
【0071】
飼料の原料は、通常用いられる飼料の原料を用いることができ、その配合時期は特に制限されない。
飼料の原料の具体例としては、トウモロコシ、小麦、大麦、ライ麦等の穀類;ふすま、米ぬか等のぬか類;コーングルテンミール、コーンジャムミール等の粕類;脱脂粉乳、ホエー、魚粉、骨粉等の動物性飼料類;ビール酵母等の酵母類;リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等のカルシウム類;ビタミン類;油脂類;アミノ酸類;糖類等が挙げられる。
【0072】
製造される飼料の全量に対するエクオール誘導体の含有量は、特に制限されないが、該飼料を摂取した場合に、エクオール誘導体による効果を得ることできる含有量であることが好ましい。飼料全量に対するエクオール誘導体の含有量は、通常0.00001~10
質量%、好ましくは0.0001~10質量%、更に好ましくは0.001~10質量%である。
【0073】
本発明の他の態様は、下記(a)又は(b)のポリヌクレオチドである。
(a)配列番号1~8から選択される一つのアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
(b)配列番号9~16から選択される一つの塩基配列を含むポリヌクレオチド。
【0074】
配列番号1は、Pseudomonas aeruginosa PAO1由来のフラビン依存性酸化酵素の遺伝子hpaBpa(ORF No. PA4091)がコードする酵素HpaBpaのアミノ酸配列である。
配列番号2は、Escherichia coli BL21 (DE3)由来のフラビン依存性酸化酵素の遺伝子hpaBpa(ORF No. B21_04188)がコードする酵素HpaBecのアミノ酸配列である。
配列番号3は、Photorhabdus luminescens sub sp. laumondii TTO1由来のフラビン依
存性酸化酵素の遺伝子hpaBpl-1(ORF No. plu0246)がコードする酵素HpaBpl-1のアミノ
酸配列である。
配列番号4は、Photorhabdus luminescens sub sp. laumondii TTO1由来のフラビン依
存性酸化酵素の遺伝子(ORF No. plu0975)がコードする酵素HpaBpl-2のアミノ酸配列で
ある。
配列番号5は、Photorhabdus luminescens sub sp. laumondii TTO1由来のフラビン依
存性酸化酵素の遺伝子(ORF No. plu4027)がコードする酵素HpaBpl-3のアミノ酸配列で
ある。
配列番号6は、Rhodococcus opacus B4由来のフラビン依存性酸化酵素の遺伝子(ORF No. ROP_20940)がコードする酵素HpaBro-1のアミノ酸配列である。
配列番号7は、Rhodococcus opacus B4由来のフラビン依存性酸化酵素の遺伝子(ORF No. ROP_22410)がコードする酵素HpaBro-2のアミノ酸配列である。
配列番号8は、Rhodococcus opacus B4由来のフラビン依存性酸化酵素の遺伝子(ORF No. ROP_37410)がコードする酵素HpaBro-3のアミノ酸配列である。
【0075】
配列番号9は、Pseudomonas aeruginosa PAO1由来のフラビン依存性酸化酵素の遺伝子
であって、ORF No. PA4091に対応する遺伝子hpaBpaの塩基配列である。
配列番号10は、Escherichia coli BL21 (DE3)由来のフラビン依存性酸化酵素の遺伝
子であって、ORF No. B21_04188に対応する遺伝子hpaBecの塩基配列である。
配列番号11は、Photorhabdus luminescens sub sp. laumondii TTO1由来のフラビン
依存性酸化酵素の遺伝子であって、ORF No. plu0246に対応する遺伝子hpaBpl-1の塩基配
列である。
配列番号12は、Photorhabdus luminescens sub sp. laumondii TTO1由来のフラビン
依存性酸化酵素の遺伝子であって、ORF No. plu0975に対応する遺伝子hpaBpl-2の塩基配
列である。
配列番号13は、Photorhabdus luminescens sub sp. laumondii TTO1由来のフラビン
依存性酸化酵素の遺伝子であって、ORF No. plu4027に対応する遺伝子hpaBpl-3の塩基配
列である。
配列番号14は、Rhodococcus opacus B4由来のフラビン依存性酸化酵素の遺伝子であ
って、ORF No. ROP_20940対応する遺伝子hpaBro-1の塩基配列である。
配列番号15は、Rhodococcus opacus B4由来のフラビン依存性酸化酵素の遺伝子であ
って、ORF No. ROP_22410に対応する遺伝子hpaBro-2の塩基配列である。
配列番号16は、Rhodococcus opacus B4由来のフラビン依存性酸化酵素の遺伝子であ
って、ORF No. ROP_37410に対応する遺伝子hpaBro-3の塩基配列である。
【0076】
本発明の他の態様は、下記(c)又は(d)のポリヌクレオチドである。
(c)配列番号1~8から選択される一つのアミノ酸配列において、1~複数個のアミノ
酸が置換若しくは欠失、又は1~複数個のアミノ酸が挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなる、エクオールをエクオール誘導体に変換できる活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
(d)配列番号9~16から選択される一つの塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、エクオールをエクオール誘導体に変換できる活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【0077】
1~複数個とは、好ましくは1~50個、より好ましくは1~30個、さらに好ましくは1~10個、よりさらに好ましくは1~5個である。アミノ酸がN末端側及び/又はC末端側に付加される場合も同様である。
【0078】
置換は保存的置換が好ましく、保存的置換とは、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間で、置換部位が疎水性アミノ酸である場合には、Leu、Ile、Val間で、極性アミノ酸である場合には、Gln、Asn間で、塩基性アミノ酸である場合には、Lys
、Arg、His間で、酸性アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で、ヒドロキシル基を持つアミノ酸である場合には、Ser、Thr間でお互いに置換することを指す。保存的置換としては、具体的には、AlaからSer又はThrへの置換、ArgからGln、His又はLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、His又はAspへの置換、AspからAsn、Glu又はGlnへの置換、CysからSer又
はAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、Asp又はArgへの置換、GluからGly、Asn、Gln、Lys又はAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、Arg又はTyrへの置換、IleからLeu、Met、Val又はPheへの置換、LeuからIle、Met、Val又はPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、His又はArgへの置換、MetからIle、Leu、Val又はPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、Ile又はLeuへの置換、SerからThr又はAlaへの置換、ThrからSer又はAlaへの置換、TrpからPhe又はTyrへの置換、TyrからHis、Phe又はTrpへの置換、及び、ValからMet、Ile又はLeuへの置換が挙げられる。
【0079】
挿入されるアミノ酸配列としては、エクオールをエクオール誘導体に変換できる活性が保持される限り特に制限されない。また、付加されるアミノ酸配列としては、エクオールをエクオール誘導体に変換できる活性が保持される限り、例えば、蛍光蛋白質や、発現の定量や分離に用いるためのタグ蛋白質となるように、由来の異なるアミノ酸配列が付加されていてもよい。蛍光蛋白質とすれば該蛋白質の追跡等ができるし、タグ蛋白質とすれば分離精製等ができる。いずれも、常法に従って行うことができる。
【0080】
DNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドとは、配列番号9~16から選択される一つの塩基配列について、少なくとも20個、好ましくは少なくとも30個、たとえば40、60又は100個の連続した配列を一つ、又は複数選択したDNAをプローブDNAとし、たとえば ECL direct nucleic acidlabeling and detection system (Amersham Pharmaica Biotech社製)を用いて、マニュアルに記載の条件(wash:42℃、0.5×SSCを含むprimary wash buffer)において、ハイブリダイズするDNAを指す。
【0081】
また、前記配列番号1~8から選択される一つのアミノ酸配列において、1~複数個のアミノ酸が置換若しくは欠失、又は1~複数個のアミノ酸が挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなる、エクオールをエクオール誘導体に変換できる活性を有するタンパク質は、それと、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上の相同性を有するタンパ
ク質であってもよい。
また、前記配列番号9~16から選択される一つの塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードし、エクオールをエクオール誘導体に変換できる活性を有するタンパク質は、それと、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上の相同性を有するタンパク質であってもよい。
タンパク質の相同性検索は、たとえば DNA Databank of JAPAN (DDBJ)を対象に、FASTA
programやBLAST program等を用いて行うことができる。
【0082】
前記タンパク質をコードするポリヌクレオチドを作製する方法は、公知の遺伝子工学的手法、分子生物学的手法を用いることができる。
【0083】
本発明の他の態様は、前記(a)、(b)、(c)、又は(d)のポリヌクレオチドが挿入されたベクターである。
ベクターや該ベクターにより形質転換する微生物は、特に制限されず、公知の遺伝子工学的手法、分子生物学的手法で用いられるものを用いることができる。
【実施例0084】
以下に実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0085】
〔実施例1〕微生物の選択
フラビン依存性酸化酵素を保有している微生物のゲノム配列情報をもとに、微生物を選択した。
フラビン依存性酸化酵素を多数保有している微生物に着目し、グラム陰性菌の代表としてPhotorhabdus luminescens sub sp. laumondii TTO1を、グラム陽性菌の代表としてRhodococcus opacus B4を選択した。
また、比較対照として、ヒドロキシスチルベン(レスベラトロール)に対して活性を示すことが報告されているフラビン依存性酸化酵素を保有しているPseudomonas aeruginosa
PAO1とEscherichia coli BL21 (DE3)を用いた。
【0086】
〔実施例2〕フラビン依存性酸化酵素を発現する組換え大腸菌の作製
8種のフラビン依存性酸化酵素をコードする遺伝子をpETDuet-1ベクター(Novagen社製
)に、それぞれ連結した。
具体的には、Pseudomonas aeruginosa PAO1由来の遺伝子hpaBpa、Escherichia coli BL21 (DE3)由来の遺伝子hpaBec、Photorhabdus luminescens sub sp. laumondii TTO1由来
の3種の遺伝子hpaBpl-1、hpaBpl-2、hpaBpl-3、Rhodococcus opacus B4由来の3種の遺伝
子hpaBro-1、hpaBro-2、hpaBro-3を合成した。
【0087】
hpaBpaについては、配列番号17、18のプライマーを用いてPCRで増幅後、制限酵素BspHI及びBamHIで切断し、pETDuet-1ベクターに連結した。
hpaBecについては、配列番号19、20のプライマーを用いてPCRで増幅後、制限酵素BspHI及びBamHIで切断し、pETDuet-1ベクターに連結した。
hpaBpl-1については、配列番号21、22のプライマーを用いてPCRで増幅後、制限酵
素PciI及びBamHIで切断し、pETDuet-1ベクターに連結した。
hpaBpl-2については、配列番号23、24のプライマーを用いてPCRで増幅後、制限酵
素BspHI及びBamHIで切断し、pETDuet-1ベクターに連結した。
hpaBpl-3については、配列番号25、26のプライマーを用いてPCRで増幅後、制限酵
素BspHI及びBamHIで切断し、pETDuet-1ベクターに連結した。
hpaBro-1については、配列番号27、28のプライマーを用いてPCRで増幅後、制限酵
素NdeI及びMunIで切断し、pETDuet-1ベクターに連結した。
hpaBro-2については、配列番号29、30のプライマーを用いてPCRで増幅後、制限酵
素NdeI及びMunIで切断し、pETDuet-1ベクターに連結した。
hpaBro-3については、配列番号31、32のプライマーを用いてPCRで増幅後、制限酵
素NdeI及びMunIで切断し、pETDuet-1ベクターに連結した。
【0088】
また、フラビン依存性酸化酵素に還元型フラビンを供給するフラビン還元酵素をコードする遺伝子をpCDFDuet-1ベクター(Novagen社製)に連結した。具体的には、P. aeruginosa PAO1由来の酵素遺伝子(ORF no. PA4092に対応する遺伝子でhpaCと表記)を合成し、
配列番号33、34のプライマーを用いてPCRで増幅後、制限酵素NdeI及びKpnIで切断し
、pCDFDuet-1ベクターに連結した。フラビン依存性酸化酵素遺伝子を連結したプラスミドを、フラビン還元酵素遺伝子を連結したプラスミドとともに、ヒートショック法によりE.
coli BL21 Star (DE3)株に導入した。
【0089】
〔実施例3〕フラビン依存性酸化酵素のエクオールに対する活性の評価
作製した組換え大腸菌をアンピシリン50 μg/mlとストレプトマイシン50 μg/mlを含むLB培地(1%トリプトン、0.5%イーストエクストラクト、1% NaCl (pH 7.0))に植菌し、30℃で6時間培養した。6時間後に1 mMイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシドを添加してさらに25℃で15時間培養し、遺伝子の発現を誘導した。
集菌後、10%グリセロール(v/v)と1.5% Tween 80 (v/v)を含むリン酸カリウム緩衝液50 mM (pH 7.5)で洗菌し、回収した菌体を活性評価に用いた。具体的には、菌体50 g/l(湿
重量換算)、10 mM (S)-エクオール又は(R)-エクオール、4%ジメチルスルホキシド(v/v)
、10%グリセロール(v/v)、1.5% Tween 80 (v/v)、50 mMリン酸カリウム緩衝液(pH 7.5)を組成とする反応液250 μlを調製後、30℃で24時間振とうした。
【0090】
反応後、5N HCl 5 μl、H2O 250 μl、メタノール500 μlを添加し、HPLC分析用サンプルとした。HPLC分析はProminence、LC-20 system(島津製作所)とカラム(XTerra MS C18 IS、カラム長4.6×20 mm、粒子径3.5 μm、ウォーターズ社)を用いて行った。展開溶
媒は0.1%ギ酸水溶液(A液)とメタノール(B液)を用い、流速0.5 ml/minで0分から3分までB液5%で流した後、3分から4分にかけてB液を40%まで、4分から14分にかけてB液を80%まで、14分から15分にかけてB液を100%まで直線勾配により上昇させた。さらに、15分から18分までB液100%で流した後、18分から19分にかけてB液を5%まで直線勾配により下降させ
、19分から22分までB液5%で流し、サンプルを溶出させた。
【0091】
その結果、(S)-エクオールを基質とした場合は、HpaBpa、HpaBec、HpaBpl-2、HpaBro-1、HpaBro-3の反応液において、HPLC分析により保持時間13.2分に変換産物が検出された。代表例として、HpaBro-3の反応液のHPLCクロマトグラムを図1の上に示す。一方、(R)-エ
クオールを基質とした場合は、HpaBpa、HpaBec、HpaBpl-2、HpaBpl-3、HpaBro-1、HpaBro-2、HpaBro-3の反応液において、HPLC分析により保持時間13.2分に変換産物が検出された。代表例として、HpaBro-3の反応液のHPLCクロマトグラムを図1の下に示す。
【0092】
変換産物をLC-MSにより分析したところ、エクオールの水酸化体であることが示唆され
た。さらに、変換産物を精製してNMRにより分析したところ、3’位が水酸化された3’-ヒドロキシエクオールと同定された。NMR分析とLC-MS分析の結果を以下に示す。
【0093】
1H NMR (400 MHz, [D4]methanol): δ=2.75 (m, 2H, H-4), 2.90 (m, 1H, H-3), 3.79 (m. 1H, H-2), 4.10 (m, 1H, H-2), 6.13 (d, J=2.4 Hz, 1H, H-8), 6.22 (dd, J=8.2, 2.4 Hz, 1H, H-6), 6.50 (dd, J=8.1, 2.0 Hz, 1H, H-6’), 6.60 (d, J=2.0 Hz, 1H, H-2’), 6.63 (d, J=8.1 Hz, 1H, H-5’), 6.78 (d, J=8.2 Hz, 1H, H-5); 13C NMR (400 MHz, [D4]methanol): δ=157.6 (C-7), 156.3 (C-8a), 146.5 (C-3’), 145.2 (C-4’), 134.7 (C-1’), 131.2 (C-5), 119.6 (C-6’), 116.5 (C-5’), 115.4 (C-2’), 114.6 (C-4a), 109.1 (C-6), 103.8 (C-8), 72.3 (C-2), 39.6 (C-3), 33.1 (C-4) ; MS (ESI) (m/z): calculated for C15H13O4[M-H]-, 257.08138; found, 257.08146.
【0094】
精製した変換産物を利用して検量線を作成し、各基質と各酵素の反応液における変換産物を定量した結果を図2に示す。白色のバーは基質が(S)-エクオールの場合であり、黒色
のバーは基質が(R)-エクオールの場合である。HpaBpaとHpaBecは、レスベラトロールに対して活性を示すことが報告されているが、これらの酵素のエクオールに対する活性は微弱であった。一方、これまでに報告されていないHpaBpl-2とHpaBro-3は、エクオールに対して高い活性を示し、特にHpaBro-3は非常に高い活性を保持していた。
【0095】
また、(S)-エクオール又は(R)-エクオールを基質とした場合に、HpaBpl-1の反応液では、HPLC分析により保持時間12.8分に変換産物が検出された。HpaBpl-1と(S)-エクオールの反応液のHPLCクロマトグラムを図4の上のグラフに、HpaBpl-1と(R)-エクオールの反応液
のHPLCクロマトグラムを図4の下のグラフに示す。
【0096】
変換産物をLC-MSにより分析したところ、エクオールの水酸化体であることが示唆され
た。さらに、変換産物を精製してNMRにより分析したところ、6位が水酸化された6-ヒドロキシエクオールと同定された。NMR分析とLC-MS分析の結果を以下に示す。
【0097】
1H NMR (400 MHz, [D4]methanol): δ=2.79 (m, 2H, H-4), 3.02 (m, 1H, H-3), 3.84 (m. 1H, H-2), 4.12 (m, 1H, H-2), 6.24 (s, 1H, H-8), 6.48 (s, 1H, H-5), 6.73 (dd,
J=6.6, 2.0 Hz, 2H, H-3’), 7.06 (dd, J=6.6, 1.8 Hz, 2H, H-2’); 13C NMR (400 MHz, [D4]methanol): δ=157.3 (C-4’), 148.7 (C-8a), 145.5 (C-7), 140.1 (C-6), 134.1 (C-1’), 129.4 (C-2’), 116.6 (C-5), 116.4 (C-3’), 113.8 (C-4a), 104.4 (C-8),
72.1 (C-2), 39.6 (C-3), 33.2 (C-4) ; MS (ESI) (m/z): calculated for C15H13O4[M-H]-, 257.08138; found, 257.08161.
【0098】
〔実施例4〕フラスコスケールでの3’-ヒドロキシエクオール生産
実施例3で最も高い活性を示したHpaBro-3を用いて、フラスコスケールでの3’-ヒドロキシエクオール合成を試みた。具体的には、菌体125 g/l(湿菌体重量換算)、10 mM (S)
-エクオール又は(R)-エクオール、4%ジメチルスルホキシド(v/v)、10%グリセロール(v/v)、1.5% Tween 80 (v/v)、200 mMリン酸カリウム緩衝液(pH 7.5)を組成とする反応液20 mlを調製後、30℃で振とうした。
【0099】
結果を図3に示す。左のグラフは基質が(S)-エクオールの場合であり、右のグラフは基質が(R)-エクオールの場合である。(S)-エクオールを基質とした場合は、90分で3.5 mM(0.90 g/L)、(R)-エクオールを基質とした場合は、90分で1.7 mM(0.44 g/L)のヒドロキシ体を生成した。以上より、フラスコスケールで3’-ヒドロキシエクオールを効率的に生産可能なことが明らかとなった。
【0100】
〔実施例5〕フラスコスケールでの6-ヒドロキシエクオール生産
HpaBpl-1を用いて、フラスコスケールでの6-ヒドロキシエクオール合成を試みた。ここでは、HpaBpl-1を効率的に可溶化発現させるために、HpaBpl-1をシャペロニンおよびコシャペロニンと共発現させた菌体を用いた。具体的には、菌体125 g/l(湿菌体重量換算)
、(S)-エクオール又は(R)-エクオール10 mM、ジメチルスルホキシド4% (v/v)、グリセロ
ール10% (v/v)、Tween 80 1.5% (v/v)、リン酸カリウム緩衝液200 mM (pH 7.5)を組成と
する反応液20 mlを調製後、30℃で振とうした。
【0101】
結果を図5に示す。左のグラフは基質が(S)-エクオールの場合であり、右のグラフは基質が(R)-エクオールの場合である。(S)-エクオールを基質とした場合は、12時間で2.2 mM(0.57 g/L)、(R)-エクオールを基質とした場合は、12時間で1.0 mM(0.26 g/L)のヒドロキシ体を生成した。以上より、フラスコスケールで6-ヒドロキシエクオールを効率的に生産可能なことが明らかとなった。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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