(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024059984
(43)【公開日】2024-05-01
(54)【発明の名称】加工装置
(51)【国際特許分類】
B24B 7/04 20060101AFI20240423BHJP
B24B 41/06 20120101ALI20240423BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20240423BHJP
【FI】
B24B7/04 A
B24B41/06 L
H01L21/304 631
H01L21/304 622H
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024033684
(22)【出願日】2024-03-06
(62)【分割の表示】P 2020044142の分割
【原出願日】2020-03-13
(71)【出願人】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100169960
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 貴光
(72)【発明者】
【氏名】村里 正
(57)【要約】
【課題】ワークを所望の厚みに加工する加工装置を提供する。
【解決手段】ワークWをインフィード研削する研削装置1は、ワークWを吸着保持した状態で回転可能なチャック31と、ワークWを研削する砥石21と、を備えている。ワークWのインフィード研削の際、ワークWは、チャック31の回転中心からワークWのオフセット方向の上流側に偏心した状態でチャック31に吸着保持される。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークを平面加工する加工装置であって、
前記ワークを吸着保持した状態で回転可能なチャックと、
前記ワークに回転しながら押し付けられて、前記ワークを平面加工する砥石と、
を備え、
前記ワークは、前記チャックの回転中心から前記ワークのオフセット方向の上流側に偏心した状態で前記チャックに吸着保持されることを特徴とする加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非円形状のワークを加工する加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造分野では、シリコンウェハ等の半導体ウェハ(以下、「ワーク」という)を薄膜に形成するために、ワークの裏面を研削する裏面研削が行われている。
【0003】
ワークの裏面研削を行う加工装置として、特許文献1に示すように、下端に砥石が取り付けられたスピンドル送り機構が定圧シリンダに吊設され、ワークに切り込ませた砥石に作用する摩擦力が所定値より高い場合に、定圧シリンダが、スピンドル及びスピンドル送り機構を鉛直方向に上昇させるものが知られている。
【0004】
このような研削盤では、砥石に作用する摩擦力が過大となる場合に、定圧シリンダが、スピンドルとスピンドル送り機構とを一時的に上昇させるため、砥石とワークとが過度に接触しない状態でワークが延性モード研削されるため、ワークにダメージを与えることなく安定して研削することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、
図8に示すように、シリコンウェハ等のワークWでは、結晶欠陥が少なくなるように、1~4度程度のオフ角を付けてエピタキシャル膜を形成しており、ワークW表面は、{0001}面(基底面)に対してオフ角の角度だけ傾斜している。
【0007】
このようなワークWをインフィード研削する場合、すなわち、
図9に示すように、砥石100及びチャック101に保持されたワークWをそれぞれ回転させた状態で砥石100をワークWに押し付けて研削する場合には、砥石100がワークW表面に対してあらゆる角度から切り込むため、砥石100がワークWのステップに滑らかに切り込む(砥石が、オフセット方向の上流側から下流側に向かって切り込む)ときの研削抵抗は、砥石がワークのステップに引っかかるように切り込む(砥石が、オフセット方向の下流側から上流側に向かって切り込む)ときの研削抵抗より小さいため、ワークW面内においてオフセット方向の上流側が下流側より薄くなりがちで、加工後のワークに厚みばらつきが生じるという問題があった。
【0008】
そこで、ワークを所望の厚みに加工するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る加工装置は、ワークを平面加工する加工装置であって、前記ワークを吸着保持した状態で回転可能なチャックと、前記ワークに回転しながら押し付けられて、前記ワークを平面加工する砥石と、を備え、前記ワークは、前記チャックの回転中心から前記ワークのオフセット方向の上流側に偏心した状態で前記チャックに吸着保持される。
【0010】
この構成によれば、ワークがチャックの回転中心からオフセット方向の上流側に偏心された状態で研削され、砥石とワークとの接触面積が変動することに起因してワークのオフセット方向の下流側が上流側に比べて大研削量で研削されることにより、ワークのオフセット方向の下流側が上流側に比べて厚くなりがちな研削量のバラつきが相殺されるため、加工後のワークの厚みバラつきを軽減することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、ワークのオフセット方向の下流側が上流側に比べて厚くなりがちな研削量のバラつきが相殺されるため、加工後のワークの厚みバラつきを軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る研削装置を示す斜視図。
【
図5】砥石がワーク表面に切り込む向きを示す模式図。
【
図6】ワーク内の2箇所におけるワークと砥石との接触面積を比較した平面図。
【
図9】従来の研削装置で研削した後のワークを示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態について図面に基づいて説明する。なお、以下では、構成要素の数、数値、量、範囲等に言及する場合、特に明示した場合及び原理的に明らかに特定の数に限定される場合を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でも構わない。
【0014】
また、構成要素等の形状、位置関係に言及するときは、特に明示した場合及び原理的に明らかにそうでないと考えられる場合等を除き、実質的にその形状等に近似又は類似するもの等を含む。
【0015】
また、図面は、特徴を分かり易くするために特徴的な部分を拡大する等して誇張する場合があり、構成要素の寸法比率等が実際と同じであるとは限らない。
【0016】
研削装置1は、ワークWを研削して薄膜に形成するものである。研削装置1を用いて研削加工が施されるワークWは、シリコンウェハ等が好適であるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
研削装置1は、砥石21を備えるメインユニット2と、メインユニット2の下方に配置された搬送ユニット3と、を備えている。
【0018】
メインユニット2は、アーチ状のコラム22と、砥石21が取り付けられた砥石スピンドル23と、砥石スピンドル23を鉛直方向Vに摺動可能に支持する3つのリニアガイド24と、砥石スピンドル23を鉛直方向Vに昇降させるスピンドル送り機構25と、を備えている。
【0019】
砥石スピンドル23は、コラム22の前面22aに鉛直方向Vに亘って凹設された溝22b内に収容されている。砥石スピンドル23は、砥石21を下端に取り付けたサドル23aと、サドル23a内に設けられて砥石21を回転させる図示しないモータと、を備えている。
【0020】
リニアガイド24は、鉛直方向Vに沿って昇降するサドル23aの案内レールであり、2つの前方リニアガイド24aと、1つの後方リニアガイド24bと、で構成される。
【0021】
前方リニアガイド24aは、コラム22の前方で溝22bの縁部に配置され、鉛直方向Vに沿って互いに平行に設けられている。また、前方リニアガイド24aには、サドル23aが直接取り付けられている。
【0022】
後方リニアガイド24bは、溝22bの底部に鉛直方向Vに沿って互いに平行に設けられている。また、後方リニアガイド24bには、後述するナット25aを介して、サドル23aが取り付けられている。
【0023】
前方リニアガイド24aと後方リニアガイド24bとは、
図3に示すように、平面視で砥石スピンドル23の重心Gが前方リニアガイド24a及び後方リニアガイド24bで形成される三角形T内に配置されるように、互いに離間して配置されている。
【0024】
スピンドル送り機構25は、サドル23aと後方リニアガイド24bとを連結するナット25aと、ナット25aを昇降させるボールネジ25bと、ボールネジ25bを回転させるモータ25cと、を備えている。
【0025】
モータ25cが駆動してボールネジ25bが回転すると、ナット25aが鉛直方向Vと平行なボールネジ25bの送り込み方向D1にスライドすることにより、サドル23aが下降する。
【0026】
メインユニット2には、エアシリンダ26が設けられている。エアシリンダ26は、スピンドル送り機構25を挟んで水平方向Hの両側に1つずつ設けられている。エアシリンダ26は、図示しないシリンダ、ピストン、ピストンロッド、コンプレッサ等から成る公知の構成である。
【0027】
エアシリンダ26の駆動圧は、砥石21がワークWの臨界切り込み深さ(Dc値)だけ切り込んだ際に砥石21に作用する摩擦力に対応した値以下に設定される。Dc値は、ワークWの材料毎に異なり、例えば、シリコンウェハで0.09μm、シリコンカーバイドウェハで0.15μmである。さらに、エアシリンダ26に供給される圧縮空気の圧力(空気圧)を加減することにより、エアシリンダ26がスピンドル送り機構25を介して砥石21をワークWに押し付ける押圧力を調整して、砥石21の鉛直方向Vにおける位置(高さ位置)を昇降できる。
【0028】
エアシリンダ26は、砥石スピンドル23及びスピンドル送り機構25を溝22b内で吊設しており、エアシリンダ26のピストンロッドが、モータ25cに連結されている。エアシリンダ26がスピンドル送り機構25を挟んで水平方向Hの両側に設けられることにより、スピンドル送り機構25が昇降する際にスピンドル送り機構25が水平方向Hに傾くことが抑制される。
【0029】
搬送ユニット3は、ワークWを吸着保持可能なチャック31と、チャック31を載置するスライダ32と、を備えている。
【0030】
チャック31は、上面にアルミナ等の多孔質材料からなる吸着体33と、吸着体33を略中央に埋設する緻密体の回転テーブル34と、を備えている。チャック31は、内部を通って表面に延びる図示しない管路を備えている。管路は、図示しないロータリージョイントを介して真空源、圧縮空気源又は給水源に接続されている。真空源が起動すると、吸着体33に載置されたワークWが吸着体33に吸着保持される。また、圧縮空気源又は給水源が起動すると、ワークWと吸着体33との吸着が解除される。
【0031】
スライダ32は、図示しないスライダ駆動機構によってレール35上を摺動可能であり、これにより、チャック31とスライダ32とは、搬送方向D2に一体になってスライドするようになっている。
【0032】
吸着体33は、平面から視てワークWに応じた形状に形成されている。また、回転テーブル34は、平面から視て略円形状に形成されているが、回転テーブル34の形状はこれに限定されるものではない。また、チャック31は、図示しないサーボモータによってチャック31の回転中心O1を通る鉛直軸回りに回動可能である。
【0033】
図4に示すように、吸着体33が、回転テーブル34の回転中心O1から偏心しており、すなわち、平面から視て、吸着体33の中心O2が、回転テーブル34の回転中心O1から所定距離だけオフセットして配置されている。なお、回転テーブル34の回転中心O1と吸着体33の中心O2とのオフセット量は、任意に変更可能である。
【0034】
吸着体33が回転テーブル34の回転中心O1からオフセットされる向きは、ワークWのオフセット方向D3の上流側である。なお、「オフセット方向D3」とは、
図5に示すように、ワークWの{0001}面の法線ベクトルpを平面上に投影したベクトルの先端から基端に向く向きを意味する。また、「オフセット方向D3の上流側」とは、ワークWの{0001}面の法線ベクトルpを平面上に投影した法線ベクトルpの先端が向いている側を意味する。また、以下、「オフセット方向D3の下流側」とは、ワークWの{0001}面の法線ベクトルpを平面上に投影した法線ベクトルpの先端が向いている向きとは反対向きの側を意味する。
【0035】
吸着体33の中心O2が、回転テーブル34の回転中心O1からオフセットして配置されていることにより、ワークW内の研削量が局所的に増減する。例えば、
図6に示すように、砥石21の加工面が比較的広範囲に亘ってワークWに接触する領域S1と、砥石21の加工面が比較的小面積でワークWに接触する領域S2とを比較すると、領域S1が領域S2より広い。
【0036】
そして、砥石21をワークWに全面に亘って一様に接触させた場合、ワークWと砥石21との接触面積が増大するにつれて、ワークWの研削量が減少して研削加工後のワークWは厚くなる。したがって、
図6に示す領域S1、S2内の厚みを比較すると、研削加工後のワークWでは、領域S1の方が領域S2より厚くなる。
【0037】
このようにして、チャック31上に真空吸着されたワークWは、研削加工前に、スライダ32によって砥石21の下方まで搬入され、研削加工後に、砥石21の下方からメインユニット2の後方まで搬出される。
【0038】
研削装置1には、ワークWの厚みを計測するインプロセスゲージ4が設けられている。インプロセスゲージ4は、加工中にワークWの厚みを計測する。
【0039】
研削装置1の動作は、制御装置5によって制御される。制御装置5は、研削装置1を構成する構成要素をそれぞれ制御するものである。制御装置5は、例えば、CPU、メモリ等により構成される。なお、制御装置5の機能は、ソフトウェアを用いて制御することにより実現されても良く、ハードウェアを用いて動作することにより実現されても良い。
【0040】
次に、研削装置1を用いてワークWを研削加工する手順について説明する。
【0041】
まず、公知のX線回析装置を用いて、ワークWのオフセット方向D3を測定する。
【0042】
次に、ワークWを回転テーブル34の回転中心O1に対してオフセット方向D3の上流側に偏心して状態でチャック31に吸着保持させる。また、ボールネジ25bを正回転させ、ナット25a及びサドル23aを送り込み方向D1にスライドさせて、砥石21をワークWの近傍まで下降させる。
【0043】
次に、砥石21及びチャック31をそれぞれ回転させる。例えば、砥石スピンドル23の回転速度は2000rpm、チャック31の回転速度は300rpmに設定される。砥石21の番手は、例えば#8000である。
【0044】
スピンドル送り機構25が砥石スピンドル23をワークWに接近させ、砥石21がワークWに着座した状態から研削加工を開始する。例えば、スピンドル送り機構25の送り速度は0.4μm/sに設定される。
【0045】
研削加工は、砥石21の砥粒が研削加工中にワークWに過剰に接触しない、いわゆるフローティングした状態でワークWを延性モード研削することで行われる。
【0046】
具体的には、砥石スピンドル23が自重(例えば、20kg)で砥石21をワークWに押し付けながら研削加工を行い、砥石21に作用する摩擦力がピストンロッドに伝わると、エアシリンダ26のシリンダ内に充填された圧縮空気を押し戻すようにピストンを上昇させる。したがって、砥石21が所望の研削量(例えば、Dc値)より深く切り込もうとして、砥石21に作用する摩擦力が過大になる場合、砥石スピンドル23及びスピンドル送り機構25が一時的に上昇する。これにより、砥石21がDc値以上に切り込むことが抑制される。
【0047】
ところで、砥石21及びワークWをそれぞれ回転させながら砥石21をワークWに押し付けてワークWを研削加工するインフィード研削では、ワークWの結晶構造に起因してオフセット方向D3の上流側が下流側に比べて薄くなりがちで、加工後のワークWに厚みバラつきが生じることがある。
【0048】
しかしながら、ワークWが、回転テーブル34の回転中心O1に対してオフセット方向D3の上流側に偏心した状態で、回転テーブル34の回転中心O1周りに回転することにより、砥石21とワークWとの接触面積がチャック31の回転角度に応じて変化することにより、上述したワークWの厚みバラつきが軽減される。
【0049】
具体的には、
図7(a)~(d)に示すように、チャック31の回転角度をΘ度、(Θ+90)度、(Θ+180)度、(Θ+270)度と変化させた場合の砥石21とワークWとの接触面積(
図7中の矢印で示す範囲)を比較すると、チャック31の回転角度Θ度のとき、砥石21とワークWとの接触面積が最も広いため、ワークWの研削量が最小となる。
【0050】
一方、チャック31の回転角度が(Θ+180)度のとき、砥石21とワークWとの接触面積が最も狭いため、ワークWの研削量が最大となる。すなわち、ワークWの研削量が局所的に増える範囲が、ワークWのオフセット方向D3の下流側に設定されている。なお、図中の矢印(a)~(d)は、
図7(a)~(d)における砥石21がワークWに切り込む向きを示している。
【0051】
このようにして、ワークWの結晶構造に起因する研削量のバラつきを相殺するように、砥石21とワークWとの接触面積の変化に応じて研削量が増減することにより、ワークWの厚みバラつきを軽減することができる。
【0052】
そして、インプロセスゲージ4の測定値がワークWの仕上げ厚みに達すると、ボールネジ25bを逆回転させて、ナット25a及びサドル23aを上昇させることにより、砥石21をワークWから離間させて、研削加工を終了する。
【0053】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変をなすことができ、そして、本発明が該改変されたものにも及ぶことは当然である。
【符号の説明】
【0054】
1 :研削装置
2 :メインユニット
21 :砥石
22 :コラム
22a :前面
22b :溝
23 :砥石スピンドル
23a :サドル
24 :リニアガイド
24a :前方リニアガイド
24b :後方リニアガイド
25 :スピンドル送り機構
25a :ナット
25b :ボールネジ
25c :モータ
26 :エアシリンダ
3 :搬送ユニット
31 :チャック
32 :スライダ
33 :吸着体
34 :回転テーブル
35 :レール
4 :インプロセスゲージ
5 :制御装置
W :ワーク