(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060169
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】紫外線照射装置
(51)【国際特許分類】
C07C 29/88 20060101AFI20240424BHJP
B01J 19/12 20060101ALI20240424BHJP
C07C 31/12 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
C07C29/88
B01J19/12 C
C07C31/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167343
(22)【出願日】2022-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】安孫子 大祐
(72)【発明者】
【氏名】西本 亮介
(72)【発明者】
【氏名】三浦 公大
(72)【発明者】
【氏名】磯村 武範
【テーマコード(参考)】
4G075
4H006
【Fターム(参考)】
4G075AA03
4G075AA13
4G075BA05
4G075BB07
4G075CA03
4G075CA33
4G075DA02
4G075DA12
4G075DA18
4G075EA06
4G075EB25
4G075EB31
4G075FB06
4H006AA02
4H006BA95
4H006BB14
4H006BC51
4H006FE11
(57)【要約】
【課題】不純物として、有機鉛化合物を含む有機化合物を効率良く精製することが可能な紫外線照射装置を提供する。
【解決手段】棒状の紫外線光源の周りに螺旋状に巻回して設けられた、紫外線被照射物が流通する流通管と、前記紫外線光源の上方側に設けられた空冷手段と、を備える、紫外線照射装置を提供する。この空冷手段は、紫外線光源における、流通管の下流側に位置する側から、流通管の上流側に位置する側に向かって、予め定められた温度範囲の気体状の冷媒を放射する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒状の紫外線光源の周りに螺旋状に巻回して設けられた、紫外線被照射物が流通する流通管と、
前記紫外線光源の上方側に設けられた空冷手段と、を備える、
紫外線照射装置。
【請求項2】
前記空冷手段は、前記紫外線光源における、前記流通管の下流側に位置する側から、前記流通管の上流側に位置する側に向かって、予め定められた温度範囲の気体状の冷媒を放射する、
請求項1に記載の紫外線照射装置。
【請求項3】
前記冷媒は、0℃以上35℃以下の温度範囲である、
請求項2に記載の紫外線照射装置。
【請求項4】
不純物として、有機鉛化合物を含む有機化合物の精製に用いられる、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の紫外線照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子材料、医療材料等の有機化合物は、鉛の含有量に対して、厳しい管理が要求されている。
【0003】
有機化合物を合成する際には、例えば、有機マグネシウムハロゲン化物(グリニャール試薬)が用いられている。有機マグネシウムハロゲン化物は、有機ハロゲン化物とマグネシウムを反応させることにより、製造されるが、マグネシウム中に微量の鉛が、不純物として、含まれている。このため、有機マグネシウムハロゲン化物を用いて、合成される有機化合物は、不純物として、有機鉛化合物を含む。
【0004】
不純物として、有機鉛化合物を含む有機化合物を精製する方法として、塩素、臭素またはヨウ素の水溶液を用いて、レジストモノマーの溶液を洗浄する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、洗浄されたレジストモノマーの溶液から、過剰の塩素、臭素またはヨウ素を除去する必要があるため、さらに効率良く有機化合物を精製する方法が望まれていた。
【0007】
そこで、本出願人は、不純物として、有機鉛化合物を含む有機化合物に紫外線を照射することにより、有機化合物を精製する方法を提案しているが、有機化合物をさらに効率良く精製することが望まれている。
【0008】
本発明は、不純物として、有機鉛化合物を含む有機化合物を効率良く精製することが可能な紫外線照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、棒状の紫外線光源の周りに螺旋状に巻回して設けられた、紫外線被照射物が流通する流通管と、前記紫外線光源の上方側に設けられた空冷手段と、を備える。
【0010】
本発明の他の態様は、不純物として、有機鉛化合物を含む有機化合物の精製に用いられる、上記の紫外線照射装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、不純物として、有機鉛化合物を含む有機化合物を効率良く精製することが可能な紫外線照射装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態の紫外線照射装置の一例を示す図であり、(a)は、斜視図であり、(b)は、側面図である。
【
図2】
図1に示す紫外線照射装置のカバーの一部を外して示す図であり、(a)は、斜視図であり、(b)は、側面図である。
【
図3】
図1の紫外線照射装置から流通管を抜き出して示す図である。
【
図5】変形例の紫外線照射装置から本体部を抜き出し、反射材の一部及び流通管の一部を破断して示す図であり、(a)は、斜視図であり、(b)は、側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
【0014】
[紫外線照射装置]
図1及び
図2に、本発明の一実施形態に係る紫外線照射装置の一例を示す。
図1は、本実施形態の紫外線照射装置の一例を示す図であり、(a)は、斜視図であり、(b)は、側面図である。
図2は、
図1に示す紫外線照射装置のカバーの一部を外して示す図であり、(a)は、斜視図であり、(b)は、側面図である。
【0015】
図1及び
図2に示すように、本実施の形態の紫外線照射装置10は、直管状の紫外線光源11の周りに、紫外線被照射物が流通する流通管12が間隔を隔てずに螺旋状に巻回されている本体部13と、この本体部13を収容するハウジング14と、本体部13を覆うカバー15と、紫外線光源11の上方側に設けられた空冷手段16と、を備えて構成されている。流通管12が紫外線光源11の周りに螺旋状に巻回されていることにより、紫外線が入射する領域の近傍である流通管12を流通する紫外線被照射物に効率良く紫外線を照射することができ、その結果、紫外線被照射物を効率良く反応させることができる。また、紫外線照射装置10は、連続式であるため、工業生産を実施するために有効である。以下、各構成要素について順に詳細に説明する。
【0016】
(紫外線被照射物)
紫外線被照射物としては、紫外線が照射されて反応することが可能であれば、特に限定されないが、例えば、有機鉛化合物、有機スズ化合物、有機亜鉛化合物、有機マグネシウム化合物等の有機金属類が挙げられる。
【0017】
流通管12に流通させる紫外線被照射物の形態としては、特に限定されないが、例えば、溶液、分散液等の液体、エアロゾル等の気体等が挙げられる。
【0018】
なお、流通管12に紫外線被照射物を流通させる際には、例えば、チューブポンプ、ダイヤフラムポンプ等を用いることができる。
【0019】
また、流通管12に紫外線被照射物を複数回流通させる、すなわち、流通管12に紫外線被照射物を循環させるようにしてもよい。
【0020】
(紫外線光源11)
紫外線光源11としては、特に限定されないが、例えば、紫外線蛍光ランプ、水銀ランプ、重水素ランプ、紫外線LED、紫外線レーザー等が挙げられる。
【0021】
紫外線光源11の形状は、棒状であれば、直管状に限定されず、例えば、U字管状等であってもよい。
【0022】
紫外線光源11の長さは、特に限定されないが、例えば、50mm以上1000mm以下である。
【0023】
紫外線光源11が照射する紫外線の波長は、紫外線被照射物が反応することが可能であれば、特に限定されない。
【0024】
なお、紫外線照射装置10は、紫外線光源11を単独で使用しているが、紫外線光源11を複数個併用してもよい。
【0025】
(流通管12)
図3は、
図1に示す紫外線照射装置10から流通管12を抜き出して示す図である。
図3に示すように、流通管12は、間隔を隔てずに螺旋状に巻回されている。
【0026】
流通管12を構成する材料としては、紫外線透過性材料であれば、特に限定されないが、例えば、石英等が挙げられる。
【0027】
流通管12の肉厚は、特に限定されないが、例えば、0.5mm以上5mm以下である。
【0028】
流通管12の直径(外径)は、特に限定されないが、例えば、3mm以上40mm以下である。
【0029】
流通管12の全長は、特に限定されないが、例えば、3m以上30m以下である。
【0030】
螺旋状に巻回されている流通管12の螺旋径は、特に限定されないが、例えば、30mm以上500mm以下である。
【0031】
紫外線光源11と流通管12との距離は、特に限定されないが、例えば、0mm以上20mm以下である。
【0032】
なお、説明の便宜上、
図2では、流通管12のうち紫外線光源11に巻回していない部分を省略して描いているが、実際は、上流側及び下流側に沿ってそれぞれ延在していることに留意されたい。
【0033】
(ハウジング14)
再び
図1及び
図2を参照して説明する。ハウジング14は、4つの脚部14aを有する骨組み部材である。ハウジング14は、本体部13を収容する収容空間140を有している。なお、図示は省略するが、本端部13をハウジング14内に保持及び固定する方法としては、公知の技術を採用することができる。
【0034】
(カバー15)
カバー15は、本体部13の上面と4つの側面とを覆うように設けられている。本実施形態では、カバー15は板状部材であり、ハウジング14に取り付けられている。なお、図示は省略するが、紫外線照射装置10の下部側の脚部14aの部分においてカバー15が付いていない領域は、例えば、暗幕等の被覆部材で覆われている。紫外線が外部に漏れないようにするためである。
【0035】
(空冷手段16)
また、紫外線照射装置10は、紫外線光源11の上方側に空冷手段16を備える。ここで、「上方側」とは、流通管11の下流側に位置する側(図示上側。なお、流通管12内の流れの方向については
図4の矢印Q参照。)をいう。空冷手段16は、空冷設置部150内に設置されている。なお、空冷設置部150は、吸気を行う吸気部としての機能を兼ねる。なお、
図2(a)では、説明の便宜上、空冷手段16を省略した。
【0036】
空冷手段16は、紫外線光源11の上方側から下方側(流通管11の上流側に位置する側、図示下側)に向かって、予め定められた温度範囲の気体状の冷媒を放射することにより、流通管11を流通する紫外線被照射物を冷却する(矢印P参照)。空冷手段16としては、例えば、ファン等を設置して、強制空冷されるようにしてもよい。冷媒としては、例えば、空気を用いることができる。また、放射される冷媒の温度は、使用する溶媒の沸点に応じて適宜設定できるが、溶媒の沸騰を抑制するために、例えば、0℃以上35℃以下の範囲のものを好ましいものとして用いることができる。
【0037】
空冷手段16を備え、紫外線被照射物の温度制御を行うことで、最適温度で紫外線被照射物を管理することができる。具体的には、紫外線被照射物への紫外線の照射による温度上昇を抑制し、溶媒の沸騰を抑制して安定的かつ連続的に紫外線の照射を行うことができる。
【0038】
(照度計17)
紫外線照射装置10は、紫外線光源11から照射される紫外線の照度を計測する照度計17を備えてもよい。本実施形態では、照度計17は、ハウジング14の底側に設けられ、該ハウジング14の骨組みを構成する根太部14b上に載置されている。また、図示は省略するが、上述したように脚部14aの部分は、被覆部材(不図示)に覆われており、照度計17は、この被覆部材内に設置されている。
【0039】
例えば、紫外線光源11の経時劣化等により紫外線の照度が低下すると、不純物の除去率が低下する虞がある。照度計17が設けられていない紫外線照射装置10の場合、紫外線光源11の交換時期は、例えば、予め設定された時間的なパラメータで管理することができるが、この場合、照射量が低下した状態で用いられてしまう虞があった。
【0040】
紫外線の照度を定期的に計測し、紫外線の照度が予め定められた閾値よりも小さくなったとき、紫外線光源10の交換時期が来たことを警告する警告手段を備えてもよい。かかる手段を備えた紫外線照射装置10によれば、紫外線光源11からの紫外線の照度を一定値以上に保持しておくことができ、これにより不純物としての有機鉛化合物を分解する能力の低下を抑制することができる。
【0041】
<流通管12の洗浄方法>
次に、流通管12の洗浄法について説明する。紫外線被照射物によっては、紫外線照射により析出物が発生し、流通管12の内壁に付着物として付着する場合がある。かかる付着物が付着したままで紫外線の照射を行うと、照射された紫外線が付着物により散乱される虞がある。従って、流通管12は、定期的に洗浄を行うことが好ましい。
【0042】
本実施形態では、流通管12内に洗浄液を充填させることで洗浄を行う。具体的には、流通管12内に洗浄液を移液し、流通管12から、照射工程が終了した反応液を追い出すことにより洗浄する。換言すれば、流通管12内の反応液を洗浄液で置換する(すなわち、パージする)ことにより流通管12の内部を洗浄する。洗浄液は、例えば、紫外線照射の工程で用いる有機溶媒を用いてよい。なお、有機溶媒の詳細は、後述する。
【0043】
移液される洗浄液の量は、追い出される反応液と略同量であることが好ましい。また、洗浄液を移液する移液ライン(不図示)をさらに設けてもよい。洗浄液として有機溶媒を用いる場合、流通管12に紫外線被照射物を含む反応液を流すか、有機溶媒のみを流すかを切り替える切り替えバルブをさらに設置してもよい。
【0044】
なお、1回の洗浄工程においては、一度瞬間的に流通管12内が洗浄液で充填できればよく、必ずしも、一定の時間継続して流通管12内を洗浄液で充填しておかなくてもよい。また、紫外線照射装置10を停止させた後、次に使用するまでの間、流通管12内を洗浄液で充填したままにしておいてもよい。この場合の充填時間は、特に限定されるものではないが、流通管12の洗浄効果を高めるためには、例えば、0.5時間~48時間の間、流通管12内を洗浄液で充填しておくことが好ましい。
【0045】
かかる洗浄方法によれば、流通管12を取り出さずにインラインで洗浄することができるため、洗浄の作業効率を向上させることができる。
【0046】
(変形例1)
図4に、
図1の紫外線照射装置に用いられる流通管12の他の例を示す。
図4は、本体部の変形例を示す図である。
【0047】
図4に示すように、流通管12は、所定の間隔を隔てて螺旋状に巻回されている以外は、
図3に示す流通管12と同様である。このように、流通管12は、必ずしも間隔を隔てずに螺旋状に巻回されているものに限定されず、所定の間隔を隔てて螺旋状に巻回されていてもよい。但し、間隔を隔てずに螺旋状に巻回されている流通管12を用いると、紫外線被照射物にさらに効率よく紫外線を照射することができる点で有利である。
【0048】
(変形例2)
図5は、変形例の紫外線照射装置10から本体部13を抜き出し、一部を破断して内部を示す図であり、(a)は、斜視図であり、(b)は、側面図である。
【0049】
図5に示すように、紫外線照射装置10は、本体部13に被覆された反射材18をさらに備えてもよい。換言すれば、反射材18は、紫外線光源11の周りに螺旋状に巻回された流通管12の全体を覆うように設置されている。
【0050】
反射材18は、流通管12の隙間や流通管12を透過して外部側に向かって漏れた紫外線を反射させ、内部側に戻す役割を果たす。したがって、反射材18は、紫外線を反射させる素材で形成される。具体的には、反射材18は、銀、白金及びアルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種の金属で形成される。中でも、反射材18は、アルミニウムで形成されるものであることが好ましい。紫外線の反射率を高めるためである。
【0051】
反射材18を設けることにより、外部に漏れた紫外線を回収して紫外線被照射物に当てることができるため、紫外線被照射物への紫外線の照射量の低下を抑制し、不純物の除去率を向上させることができる。なお、反射材18を設けたことによる上記の作用効果は、
図3で示したような、流通管12が所定の間隔を隔てて螺旋状に巻回された場合により顕著に発現する。
【0052】
[有機化合物の精製方法]
次に、上述した本実施形態の紫外線照射装置(例えば、紫外線照射装置10)を用いる一例として、紫外線照射装置10を用いて有機化合物を精製する方法について説明する。この方法は、有機化合物に紫外線を照射する工程(以下、紫外線照射工程という)と、有機化合物から、有機鉛化合物に紫外線を照射することにより生成する鉛成分を除去する工程(以下、鉛成分除去工程という)と、を含む。これにより、有機化合物に効率良く紫外線を照射することができ、その結果、有機化合物を効率良く精製することができる。有機化合物は、上述した紫外線被照射物の一例である。
【0053】
(有機化合物)
有機化合物は、例えば、有機金属化合物を用いて、合成することができる。
【0054】
有機化合物の具体例としては、例えば、第3級アルコール、有機ケイ素化合物等が挙げられる。ここで、第3級アルコールは、例えば、グリニャール試薬と、ケトン化合物とを反応させることにより、得られる。また、有機ケイ素化合物は、例えば、グリニャール試薬と、シラン化合物とを反応させることにより、得られる。
【0055】
グリニャール試薬以外の有機金属化合物としては、例えば、有機マグネシウムハロゲン化物、有機銅化合物、有機亜鉛化合物、有機希土類化合物等が挙げられる。
【0056】
有機化合物は、有機鉛化合物以外の不純物として、塩化鉛等の無機鉛化合物、鉛等をさらに含んでいてもよい。
【0057】
ここで、例えば、塩化鉛と、グリニャール試薬とが反応して、有機鉛化合物が生成する。このため、有機化合物の合成時またはグリニャール試薬の合成時に、このような副反応が進行して、不純物として、有機鉛化合物を含む有機化合物が生成すると考えられる。
【0058】
有機化合物中の鉛元素の含有量は、特に限定されないが、例えば、1ppb以上1ppm以下であり、好ましくは、10ppb以上1ppm以下である。
【0059】
(紫外線照射工程)
有機鉛化合物に紫外線が照射されると、有機鉛化合物の炭素-鉛結合が切断される、すなわち、有機鉛化合物が分解すると考えられる。
【0060】
有機鉛化合物が分解して生成する鉛成分としては、例えば、鉛イオン、鉛塩等が挙げられる。
【0061】
有機化合物に照射される紫外線の波長は、有機鉛化合物を分解させることが可能であれば、特に限定されないが、例えば、210nm以上350nm以下である。有機化合物に照射される紫外線の波長が210nm以上であると、有機化合物の分解を抑制することができ、350nm以下であると、有機鉛化合物が分解しやすくなる。有機化合物に照射される紫外線の波長は、220nm以上320nm以下であることが好ましく、240nm以上300nm以下であることがさらに好ましい。
【0062】
有機化合物に照射される紫外線の照度は、有機鉛化合物を分解させることが可能であれば、特に限定されないが、例えば、5mW/cm2以上50mW/cm2以下である。
【0063】
流通管12に流通させる際の有機化合物の温度は、有機鉛化合物を分解させることが可能であれば、特に限定されないが、後述する有機溶媒が沸騰しないようにするために、好ましくは、0℃以上45℃以下であり、より好ましくは、0℃以上35℃以下である。
【0064】
流通管12に有機化合物を流通させる際の流速は、有機鉛化合物を分解させることが可能であれば、特に限定されないが、例えば、5ml/min以上200ml/min以下であることが好ましい。
【0065】
流通管12に流通させる有機化合物の形態は、有機化合物が有機溶媒に溶解している溶液であることが好ましい。これにより、有機鉛化合物を効率良く分解させることができる。
【0066】
有機溶媒は、有機化合物に照射する紫外線の波長に吸収ピークを有しなければ、特に限定されないが、例えば、上記紫外線の波長におけるモル吸光係数εが100L・mol-1・cm-1以下である。有機溶媒の上記紫外線の波長におけるモル吸光係数εが100L・mol-1・cm-1以下であると、有機化合物を効率良く分解させることができる。有機溶媒の上記紫外線の波長におけるモル吸光係数εは、50L・mol-1・cm-1以下であることが好ましく、10L・mol-1・cm-1以下であることがさらに好ましい。有機溶媒の上記紫外線の波長におけるモル吸光係数εは、通常、0.001L・mol-1・cm-1である。
【0067】
波長210nm以上220nm以下の光透過性が高い有機溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノール等の脂肪族低級アルコール系溶媒等が挙げられる。
【0068】
波長220nm以上250nm以下の光透過性が高い有機溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジイソプロピルエーテル等のエーテル系溶媒;クロロホルム、ジクロロメタン等の塩素系溶媒等が挙げられる。
【0069】
波長250nm以上350nm以下の光透過性が高い有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン等の芳香族系溶媒;酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル系溶媒等が挙げられる。
【0070】
溶液中の有機化合物の含有量は、特に制限されるものではないが、0.01質量%以上30質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上10質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以上1質量%以下であることがさらにより好ましい。溶液中の有機化合物の含有量が0.01質量%以上であると、有機鉛化合物を効率よく分解させることができ、30質量%以下であると、有機化合物から鉛成分を効率よく除去することができる。
【0071】
流通管に流通させる有機化合物は、光増感剤が添加されていてもよい。これにより、有機鉛化合物を効率良く分解させることができる。
【0072】
光増感剤としては、例えば、ベンゾフェノン、アントラセン、カンファーキノン等が挙げられる。
【0073】
有機化合物に対する光増感剤の質量比は、特に限定されないが、例えば、0.01~1である。
【0074】
有機化合物が重合性基を有する場合、重合禁止剤が添加されていてもよい。
【0075】
重合性基としては、例えば、(メタ)アクリル基、ビニル基、エポキシ基等が挙げられる。
【0076】
重合禁止剤としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、ベンゾキノン等が挙げられる。
【0077】
有機化合物に対する重合禁止剤の質量比は、特に限定されないが、例えば、0.01~1である。
【0078】
(鉛成分除去工程)
有機化合物から除去される鉛成分としては、例えば、鉛イオン、鉛塩等が挙げられる。
【0079】
ここで、有機化合物の不純物として、有機鉛化合物とともに、鉛イオン、鉛塩等が含まれる場合は、有機鉛化合物に紫外線を照射することにより生成する鉛成分とともに、有機化合物の不純物として含まれる鉛イオン、鉛塩等も除去される。
【0080】
鉛成分を除去する方法としては、例えば、有機化合物を水で洗浄する方法、有機化合物を吸着剤で処理する方法、有機化合物をろ過する方法等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0081】
鉛成分を除去する有機化合物の形態は、有機化合物が有機溶媒に溶解している溶液であることが好ましい。これにより、有機化合物から鉛成分を効率良く除去することができる。
【0082】
有機溶媒としては、有機化合物を溶解させることが可能であれば、特に限定されないが、有機化合物を水で洗浄する場合は、疎水性有機溶媒を使用する必要がある。なお、紫外線照射工程で有機溶媒を使用する場合は、紫外線照射工程で有機溶媒が使用した有機溶媒をそのまま使用してもよいし、紫外線照射工程で使用した有機溶媒を他の有機溶媒で置換してもよい。
【0083】
有機化合物を水で洗浄すると、鉛成分が水層に移動するため、水層を除去することにより、有機化合物から鉛成分を除去することができる。このとき、有機化合物を水で洗浄する操作を複数回実施してもよい。
【0084】
有機化合物を洗浄する水の温度は、特に限定されないが、例えば、0℃以上30℃以下である。
【0085】
このとき、水の代わりに、酸の水溶液を用いてもよい。これにより、鉛成分の溶解性を向上させることができる。
【0086】
酸としては、例えば、硝酸、塩酸等が挙げられる。
【0087】
酸の水溶液中の酸の濃度は、特に限定されないが、例えば、0.001mol/L以上1mol/L以下である。
【0088】
有機化合物を吸着剤で処理すると、鉛成分が吸着剤に吸着するため、有機化合物から鉛成分を除去することができる。このとき、有機化合物を吸着剤で処理する操作を複数回実施してもよい。
【0089】
吸着剤としては、鉛成分を吸着することが可能であれば、特に限定されないが、例えば、活性炭、陽イオン交換樹脂、キレート樹脂、合成吸着剤等が挙げられる。
【0090】
活性炭の形状は、粒状、粉末状および繊維状のいずれであってもよい。また、活性炭は、ヤシ殻等の天然物由来の原料および合成樹脂のいずれを用いて、製造されていてもよいが、前処理として、150℃以上250℃以下の温度で加熱減圧乾燥処理が実施されていることが好ましい。
【0091】
活性炭で処理する有機化合物の温度は、特に限定されないが、例えば、0℃以上30℃以下である。
【0092】
有機化合物を活性炭で処理する場合は、バッチ処理およびカラム処理のいずれを用いてもよい。
【0093】
バッチ処理を用いる場合は、有機化合物に1質量%以上15質量%以下の活性炭を添加し、0.5時間以上48時間以下撹拌または振とうした後、ろ過し、活性炭を除去する。
【0094】
カラム処理を用いる場合は、活性炭が充填されているカラムに、空間速度1h-1以上50h-1以下で有機化合物を通液させる。
【0095】
合成吸着剤としては、例えば、ポリスチレン型の合成吸着剤、ポリメタクリル酸型の合成吸着剤等が挙げられる。
【0096】
ポリスチレン型の合成吸着剤の具体例としては、例えば、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体、エチルスチレン-ジビニルベンゼン共重合体等が挙げられる。
【0097】
ポリメタクリル酸型の合成吸着剤の具体例としては、例えば、メタクリル酸メチル-エチレングリコールジメタクリレート共重合体等が挙げられる。
【0098】
なお、ポリスチレン型の合成吸着剤は、スチレンのベンゼン環が臭素原子等のハロゲン原子により置換されていてもよい。
【0099】
陽イオン交換樹脂としては、鉛イオンを交換することが可能であれば、特に限定されないが、例えば、強酸性の陽イオン交換樹脂、弱酸性の陽イオン交換樹脂、ゲル型の陽イオン交換樹脂、ポーラス型の陽イオン交換樹脂等が挙げられる。
【0100】
キレート樹脂としては、鉛イオンを捕捉することが可能であれば、特に限定されないが、例えば、イミノ二酢酸型のキレート樹脂、ニトリロ三酢酸型のキレート樹脂、エチレンジアミン四酢酸型のキレート樹脂、ジエチレントリアミン五酢酸型のキレート樹脂、トリエチレンテトラミン六酢酸型のキレート樹脂等が挙げられる。
【0101】
合成吸着剤、陽イオン交換樹脂およびキレート樹脂を用いる場合は、公知の前処理を実施した後、有機化合物を溶解させる有機溶媒で置換することが好ましい。
【0102】
合成吸着剤、陽イオン交換樹脂およびキレート樹脂で有機化合物を処理する場合は、活性炭で有機化合物を処理する場合と同様に、バッチ処理およびカラム処理のいずれを用いてもよい。
【0103】
鉛成分が沈殿している場合は、有機化合物を濾過すると、有機化合物から鉛成分を除去することができる。具体的には、フィルター、濾紙等を用いて、有機化合物を濾過した後、濾液を回収する。
【0104】
(用途)
この有機化合物の精製方法を用いると、不純物として、有機鉛化合物を含む有機化合物中の鉛元素の含有量を大幅に低減させることができ、質量基準でサブppbレベルまで低減することもできる。このため、この有機化合物の精製方法により生成されている有機化合物は、電子材料、医療材料等に適用することができる。
【0105】
例えば、この有機化合物の精製方法を用いて、不純物として、有機鉛化合物を含むカルボシラン化合物を精製した後、公知の方法により、カルボシラン化合物を重縮合させることで、鉛元素の含有量が高度に低減されたポリカルボシラン化合物を製造することができる。
【0106】
この有機化合物の精製方法により生成されている有機化合物に対して、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の公知の精製操作を実施することにより、化学純度をさらに向上させることもできる。
【符号の説明】
【0107】
10 紫外線照射装置
11 紫外線光源
12 流通管
13 本体部
14 ハウジング
14a 脚部
14b 根太部
15 カバー
150 空冷設置部
16 冷却手段
17 照度計
18 反射材