(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060221
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】有機マグネシウムハロゲン化物および有機ケイ素化合物の製造装置
(51)【国際特許分類】
C07F 3/02 20060101AFI20240424BHJP
C07F 7/12 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
C07F3/02 B
C07F7/12 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167457
(22)【出願日】2022-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100136939
【弁理士】
【氏名又は名称】岸武 弘樹
(74)【代理人】
【識別番号】100087893
【弁理士】
【氏名又は名称】中馬 典嗣
(72)【発明者】
【氏名】西本 亮介
(72)【発明者】
【氏名】三浦 公大
(72)【発明者】
【氏名】磯村 武範
(72)【発明者】
【氏名】小田 開行
【テーマコード(参考)】
4H048
4H049
【Fターム(参考)】
4H048AA02
4H048AA04
4H048BC10
4H048BD30
4H048BD33
4H048BD81
4H048BD84
4H048VA60
4H048VB10
4H049VN01
4H049VP02
4H049VP11
4H049VQ02
4H049VQ12
4H049VR23
4H049VR31
4H049VW02
4H049VW38
(57)【要約】
【課題】マグネシウムが充填されている充填塔に循環通液させても、循環路における固体の副生物の析出および充填塔から流出する液体の沸騰を抑制することが可能な有機マグネシウムハロゲン化物および有機ケイ素化合物の製造装置を提供する。
【解決手段】有機マグネシウムハロゲン化物の製造装置10は、マグネシウム11aが充填されている充填塔11と、充填塔11に、循環路13を経由して、有機ハロゲン化物を含む液体を循環通液させて、有機マグネシウムハロゲン化物を含む液体を得る循環通液部12と、循環路13を循環する液体の温度を40℃以上、循環路13を循環する液体の沸点未満の温度に調整する熱交換器14と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウムが充填されている充填塔と、
前記充填塔に、循環路を経由して、有機ハロゲン化物を含む液体を循環通液させて、有機マグネシウムハロゲン化物を含む液体を得る循環通液部と、
前記循環路を循環する液体の温度を40℃以上、前記循環路を循環する液体の沸点未満の温度に調整する温度調整部と、を備える、有機マグネシウムハロゲン化物の製造装置。
【請求項2】
前記循環通液部は、前記有機ハロゲン化物を含む液体を循環通液させる前に、前記有機ハロゲン化物を溶解させることが可能な有機溶媒を循環通液させる、請求項1に記載の有機マグネシウムハロゲン化物の製造装置。
【請求項3】
前記温度調整部は、熱交換器である、請求項1または2に記載の有機マグネシウムハロゲン化物の製造装置。
【請求項4】
前記マグネシウムは、比表面積が2.0×10-4m2/gよりも大きく、3.0×10-3m2/gよりも小さい、請求項1または2に記載の有機マグネシウムハロゲン化物の製造装置。
【請求項5】
前記充填塔は、前記循環路を循環する液体が流出する側の開口部に、前記マグネシウムの粒径よりも小さい貫通孔が形成されている板状部材が設置されている、請求項4に記載の有機マグネシウムハロゲン化物の製造装置。
【請求項6】
マグネシウムが充填されている充填塔と、
前記充填塔に、循環路を経由して、有機ハロゲン化物およびハロゲン化シランを含む液体を循環通液させて、有機ケイ素化合物を含む液体を得る循環通液部と、
前記循環路を循環する液体の温度を40℃以上、前記循環路を循環する液体の沸点未満の温度に調整する温度調整部と、を備える、有機ケイ素化合物の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機マグネシウムハロゲン化物および有機ケイ素化合物の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機マグネシウムハロゲン化物は、グリニャール反応に用いられる有機金属化合物(グリニャール試薬)である。グリニャール反応は、第3級アルコール、有機ケイ素化合物等の種々の有機化合物の合成に使用されている。一般的に、有機マグネシウムハロゲン化物は、反応活性が高い反面、安定性が低い。
【0003】
有機マグネシウムハロゲン化物の製造方法としては、マグネシウムが充填されている充填塔に、有機ハロゲン化物を含む溶液を通液させて、有機ハロゲン化物をマグネシウムと反応させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、マグネシウムが充填されている充填塔に循環通液させる場合に、循環路を循環する液体の温度が低下すると、固体の副生物が析出し、有機マグネシウムハロゲン化物の製造が困難になる。一方、循環路を循環する液体の温度が上昇すると、充填塔から流出する液体が沸騰する場合がある。
【0006】
本発明は、マグネシウムが充填されている充填塔に循環通液させても、循環路における固体の副生物の析出および充填塔から流出する液体の沸騰を抑制することが可能な有機マグネシウムハロゲン化物および有機ケイ素化合物の製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)マグネシウムが充填されている充填塔と、前記充填塔に、循環路を経由して、有機ハロゲン化物を含む液体を循環通液させて、有機マグネシウムハロゲン化物を含む液体を得る循環通液部と、前記循環路を循環する液体の温度を40℃以上、前記循環路を循環する液体の沸点未満の温度に調整する温度調整部と、を備える、有機マグネシウムハロゲン化物の製造装置。
【0008】
(2)前記循環通液部は、前記有機ハロゲン化物を含む液体を循環通液させる前に、前記有機ハロゲン化物を溶解させることが可能な有機溶媒を循環通液させる、(1)に記載の有機マグネシウムハロゲン化物の製造装置。
【0009】
(3)前記温度調整部は、熱交換器である、(1)または(2)に記載の有機マグネシウムハロゲン化物の製造装置。
【0010】
(4)前記マグネシウムは、比表面積が2.0×10-4m2/gよりも大きく、3.0×10-3m2/gよりも小さい、(1)から(3)のいずれか一項に記載の有機マグネシウムハロゲン化物の製造装置。
【0011】
(5)前記充填塔は、前記循環路を循環する液体が流出する側の開口部に、前記マグネシウムの粒径よりも小さい貫通孔が形成されている板状部材が設置されている、(4)に記載の有機マグネシウムハロゲン化物の製造装置。
【0012】
(6)マグネシウムが充填されている充填塔と、前記充填塔に、循環路を経由して、有機ハロゲン化物およびハロゲン化シランを含む液体を循環通液させて、有機ケイ素化合物を含む液体を得る循環通液部と、前記循環路を循環する液体の温度を40℃以上、前記循環路を循環する液体の沸点未満の温度に調整する温度調整部と、を備える、有機ケイ素化合物の製造装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、マグネシウムが充填されている充填塔に循環通液させても、循環路における固体の副生物の析出および充填塔から流出する液体の沸騰を抑制することが可能な有機マグネシウムハロゲン化物および有機ケイ素化合物の製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態の有機マグネシウムハロゲン化物の製造装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0016】
[有機マグネシウムハロゲン化物の製造装置]
図1に、本実施形態の有機マグネシウムハロゲン化物の製造装置の一例を示す。
【0017】
有機マグネシウムハロゲン化物の製造装置10は、マグネシウム11aが充填されており、鉛直方向上側の開口部にパンチングプレート11bが設置されている充填塔11を備える。
【0018】
マグネシウム11aの比表面積は、2×10-4m2/gよりも大きく、3×10-3m2/gよりも小さいことが好ましい。マグネシウム11aの比表面積が2×10-4m2/gよりも大きいと、有機ハロゲン化物とマグネシウム11aとの反応が十分に進行し、失速しにくくなる。一方、マグネシウム11aの比表面積が3×10-3m2/gよりも小さいと、有機ハロゲン化物とマグネシウム11aとの反応の反応速度が高くなり過ぎないため、温度上昇により反応が暴走しにくくなるとともに、有機マグネシウムハロゲン化物以外の生成物が生成しにくくなり、有機マグネシウムハロゲン化物の収率が高くなる。
【0019】
なお、マグネシウム11aは、通常、大気中の酸素や水分と反応し、表面に強固な酸化膜が存在しているため、有機ハロゲン化物との反応が阻害される。このため、ヨードアルカン、ジブロモアルカン、ヨウ素等のマグネシウム単体と反応しやすい物質を前処理剤として含む液体を充填塔11に通液させて、マグネシウム11aの表面を活性化してもよい。
【0020】
パンチングプレート11bは、マグネシウム11aの粒径よりも小さい貫通孔が形成されている板状部材であり、充填塔11からのマグネシウム11aの流出が抑制される。
【0021】
有機マグネシウムハロゲン化物の製造装置10は、充填塔11に、循環路13を経由して、有機ハロゲン化物を含む液体を鉛直方向上向きに循環通液させて、有機マグネシウムハロゲン化物を含む液体を得る循環通液部12を備える。
【0022】
ここで、循環通液部12は、有機ハロゲン化物を含む液体を貯留する原料タンク12aと、原料タンク12aに貯留された有機ハロゲン化物を含む液体を循環路13に供給する原料供給ポンプ12bと、を備える。また、循環通液部12は、充填塔11から流出した液体が貯留される循環タンク12cと、循環タンク12cに貯留された液体を充填塔11に流入させる循環ポンプ12dと、を備える。すなわち、循環通液部12は、有機ハロゲン化物を含む液体を、循環路13を経由して、充填塔11に循環通液させる。このとき、有機ハロゲン化物を含む液体の循環路13への供給量が所定値に到達すると、原料供給ポンプ12bを停止させる。有機ハロゲン化物とマグネシウムの反応が終了すると、循環路13を循環する液体の全量を回収する。ここで、有機ハロゲン化物を使用する場合、回収された有機マグネシウムハロゲン化物を含む液体は、第3級アルコール、有機ケイ素化合物等の種々の有機化合物の合成に使用される。
【0023】
なお、原料タンク12aに貯留された有機ハロゲン化物を含む液体を循環路13に供給する前に、循環タンク12cに所定量の有機ハロゲン化物を溶解させることが可能な有機溶媒を貯留し、循環ポンプ12dを用いて、有機溶媒を循環路13に循環させてもよい。すなわち、循環通液部12は、有機ハロゲン化物を含む液体を循環通液させる前に、有機ハロゲン化物を溶解させることが可能な有機溶媒を循環通液させてもよい。
【0024】
有機マグネシウムハロゲン化物の製造装置10は、循環路13を循環する有機ハロゲン化物を含む液体の温度を40℃以上、有機ハロゲン化物を含む液体の沸点未満の温度に調整する温度調整部としての、熱交換器14を備える。このため、循環路13における固体の副生物の析出および充填塔11から流出する液体の沸騰が抑制される。このとき、熱交換器14は、充填塔11に有機ハロゲン化物を含む液体が流入する側の循環路13に設置されている。これは、充填塔11から流出する有機ハロゲン化物を含む液体の反応液の温度は、マグネシウムと有機ハロゲン化物の反応の反応熱により上昇することから、循環路13を循環する液体の温度の下限を効率的に調整できるためである。
【0025】
なお、熱交換器14は、充填塔11から有機ハロゲン化物を含む液体が流出する側の循環路13に設置されていてもよい。但し、有機ハロゲン化物を含む液体の温度を一定にし、かつ固体の副生物による循環路13の閉塞を防止するため、すなわち、液体の温度の上昇を抑制しつつ、かつ充填塔11から流出する側の液体の温度の降下を抑制するために、熱交換器14は、充填塔11に有機ハロゲン化物を含む液体が流入する側の循環路13に設置されていることが好ましい。
【0026】
また、熱交換器14の代わりに、充填塔11から流出する液体の温度を検知する温度センサを設置し、検知された温度に応じて、原料供給ポンプ12bによる有機ハロゲン化物を含む液体の供給量を制御することにより、循環路13を循環する液体の温度を40℃以上、循環路13を循環する液体の沸点未満の温度に調整してもよい。
【0027】
有機ハロゲン化物としては、マグネシウムと反応して、有機マグネシウムハロゲン化物を得ることが可能であれば、特に限定されないが、有機塩化物、有機臭化物、有機ヨウ化物等を用いることができる。これらの中でも、有機臭化物が好ましい。
【0028】
有機ハロゲン化物としては、例えば、ハロゲン化アルキル;ハロゲン化アルケニル;クロロベンゼン、α-クロロトルエン、ブロモベンゼン、α-ブロモトルエン、ヨードベンゼン、α-ヨードトルエン等のハロゲン化アリール;ジハロゲン化アルキレン;o-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、p-ジクロロベンゼン、o-ジブロモベンゼン、m-ジブロモベンゼン、p-ジブロモベンゼン、o-ジヨードベンゼン、m-ジヨードベンゼン、p-ジヨードベンゼン等のジハロゲン化アリーレン等が挙げられる。
【0029】
ハロゲン化アルキルにおけるアルキル基としては、例えば、炭素数1~8の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。
【0030】
ハロゲン化アルキルの具体例としては、例えば、クロロメタン、クロロエタン、クロロプロパン、2-クロロプロパン、1-クロロ-2-メチルプロパン、2-クロロ-2-メチルプロパン、2-ブロモ-2-メチルプロパン、クロロブタン、ブロモブタン、クロロペンタン、クロロシクロペンタン、クロロヘキサン、ブロモメタン、ブロモエタン、ブロモプロパン、2-ブロモプロパン、1-ブロモ-2-メチルプロパン、ブロモブタン、ブロモペンタン、ブロモシクロペンタン、ブロモヘキサン、ヨードメタン、ヨードエタン、ヨードプロパン、2-ヨードプロパン、1-ヨード-2-メチルプロパン、2-ヨード-2-メチルプロパン、ヨードペンタン、ヨードシクロペンタン、ヨードヘキサン等が挙げられる。
【0031】
ハロゲン化アルケニルにおけるアルケニル基としては、例えば、炭素数2~8の直鎖状又は分岐鎖状のアルケニル基が挙げられる。
【0032】
ハロゲン化アルケニルの具体例としては、例えば、クロロエチレン、3-クロロ-1-プロペン、ブロモエチレン、3-ブロモ-1-プロペン、ヨードエチレン、3-ヨード-1-プロペン等が挙げられる。
【0033】
ジハロゲン化アルキレンにおけるアルキレン基としては、例えば、炭素数1~8の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基が挙げられる。
【0034】
ジハロゲン化アルキレンの具体例としては、1,3-ジクロロプロパン、1,4-ジクロロブタン、1,5-ジクロロペンタン、1,3-ジブロモプロパン、1,4-ジブロモブタン、1,5-ジブロモペンタン、1,3-ジヨードプロパン、1,4-ジヨードブタン、1,5-ジヨードペンタン等が挙げられる。
【0035】
有機ハロゲン化物の中でも、グリニャール試薬として有用である点から、ハロゲン化アルキルおよびジハロゲン化アルキレンが好ましい。
【0036】
有機ハロゲン化物を含む液体は、有機ハロゲン化物を溶解させることが可能な有機溶媒を含んでいてもよい。なお、有機ハロゲン化物が液体である場合は、有機ハロゲン化物を含む液体は、有機ハロゲン化物を溶解させることが可能な有機溶媒を含んでいなくてもよい。
【0037】
有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、エーテル系溶媒等が挙げられる。
【0038】
エーテル系溶媒の具体例としては、例えば、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0039】
有機溶媒中の水の含有量は、500ppm未満であることが好ましく、100ppm未満であることがさらに好ましい。有機溶媒中の水の含有量が500ppm未満であると、有機マグネシウムハロゲン化物の収率が向上する。これは、有機マグネシウムハロゲン化物と水の反応が抑制されるためである。
【0040】
なお、有機ハロゲン化物を使用する場合、得られた有機マグネシウムハロゲン化物は、第3級アルコール、有機ケイ素化合物等の種々の有機化合物の合成に使用される。
【0041】
[有機ケイ素化合物の製造装置]
本実施形態の有機ケイ素化合物の製造装置は、例えば、有機ハロゲン化物およびハロゲン化シランを含む液体を原料タンク12aに貯留し、熱交換器14が循環路13を循環する有機ハロゲン化物およびハロゲン化シランを含む液体の温度を40℃以上、有機ハロゲン化物およびハロゲン化シランを含む液体の沸点未満の温度に調整する以外は、有機マグネシウムハロゲン化物の製造装置10と同様の構成である。なお、充填塔11に通液させる前の有機ハロゲン化物およびハロゲン化シランを含む液体の温度は、40℃未満であってもよい。
【0042】
ハロゲン化シランとしては、有機マグネシウムハロゲン化物と反応して、有機ケイ素化合物を得ることが可能であれば、特に限定されないが、例えば、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、メチルジクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、トリクロロシラン等のクロロシラン等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0043】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されず、本発明の趣旨の範囲内で、上記の実施形態を適宜変更してもよい。
【実施例0044】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0045】
[実施例1]
1,3-ジブロモプロパン423g、ジクロロジメチルシラン541gおよびテトラヒドロフラン500gの混合液を原料タンク12aに貯留した以外は、有機マグネシウムハロゲン化物の製造装置10と同様の構成である有機ケイ素化合物の製造装置を使用して、有機ケイ素化合物を製造した。具体的には、まず、充填塔11に、マグネシウム11a(比表面積5.7×10-4m2/gのマグネシウム350g)を充填し、循環タンク12cにテトラヒドロフラン5400gを貯留した。次に、熱交換器14により、充填塔11に流入する液体の温度を40℃に調整した状態で、循環ポンプ12dを用いて、テトラヒドロフランを流量500ml/minで循環路13に循環させた。次に、熱交換器14により、充填塔11に流入する液体の温度を40℃に調整した状態で、原料供給ポンプ12bを用いて、混合液を流量10ml/minで循環路13に供給した。その結果、充填塔11から流出する液体の温度は、混合液の供給を開始した直後に42℃であったが、混合液の供給を開始してから11minで55~57℃まで上昇し、安定した。混合液の供給を開始してから126minで、混合液の供給が完了したため、運転を終了した。このとき、循環路13に固体の副生物が析出せず、充填塔11から流出する液体が沸騰しなかった。なお、充填塔11における反応が発熱反応であることから、循環路13を循環する液体のうち、充填塔11から流出する液体の温度が最も高い。このため、循環路13を循環する液体の温度は、沸点未満の温度に調整されている。
【0046】
[比較例1]
熱交換器14により、充填塔11に流入する液体の温度を35℃に調整した以外は、実施例1と同様にして、有機ケイ素化合物を製造した。その結果、混合液の供給を開始してから27minで循環路13に固体の副生物が析出したため、運転が困難となり、運転を停止した。
【0047】
[比較例2]
熱交換器14を使用しなかった以外は、実施例1と同様にして、有機ケイ素化合物を製造した。その結果、充填塔11に流入する液体の温度は、混合液の供給を開始してから8minで上昇し始め、20minで40℃を超えた。その後、混合液の供給を開始してから28minで充填塔11から流出する液体が沸騰したため、運転が困難となり、運転を停止した。
【0048】
以上のことから、実施例1は、循環路13における固体の副生物の析出および充填塔11から流出する液体の沸騰が抑制されることがわかる。これに対して、比較例1は、循環路13を循環する液体の温度が40℃未満になるため、循環路13に固体の副生物が析出する。また、比較例2は、循環路13を循環する液体のうち、充填塔11から流出する液体の温度が沸点以上であるため、充填塔11から流出する液体が沸騰する。