(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060282
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】フィラー、環境適合性プラスチック、環境適合性プラスチック繊維、およびPGAイオンコンプレックスの使用
(51)【国際特許分類】
C08L 77/04 20060101AFI20240424BHJP
D01F 6/92 20060101ALI20240424BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
C08L77/04 ZAB
D01F6/92 301C
C08L67/00 ZBP
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167569
(22)【出願日】2022-10-19
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「「SAWACHI型健康社会共創拠点」に関する国立大学法人高知大学による研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504174180
【氏名又は名称】国立大学法人高知大学
(71)【出願人】
【識別番号】593069897
【氏名又は名称】モリリン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】芦内 誠
(72)【発明者】
【氏名】白米 優一
(72)【発明者】
【氏名】大成 冬真
(72)【発明者】
【氏名】小崎 正博
(72)【発明者】
【氏名】橋田 佳雅
【テーマコード(参考)】
4J002
4L035
【Fターム(参考)】
4J002AA01W
4J002CF03W
4J002CF18W
4J002CL02X
4J002CL09X
4J002FD19X
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4J002GA00
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4J002GK01
4J002HA09
4L035AA05
4L035BB31
4L035EE20
4L035HH10
4L035JJ20
4L035KK05
(57)【要約】
【課題】プラスチックを主体としながら、微生物分解性を有する環境適合性プラスチック、環境適合性プラスチック繊維およびPGAイオンコンプレックスを提供する。
【解決手段】本発明の環境適合性プラスチックは、高分子化合物からなり、該高分子化合物中に、ポリ-γ-グルタミン酸(PGA)またはその塩を含有する。本発明の環境適合性プラスチック繊維は、繊維形成能をもつ高分子化合物からなり、該高分子化合物中に、PGAまたはその塩を含有する。本発明のPGAイオンコンプレックスは、PGAと多価金属イオンとを含む。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子化合物からなり、該高分子化合物中に、ポリ-γ-グルタミン酸(PGA)またはその塩を含有したことを特徴とする環境適合性プラスチック。
【請求項2】
前記高分子化合物が、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ABS樹脂またはアクリル樹脂、ポリカーボネートである、請求項1に記載の環境適合性プラスチック。
【請求項3】
前記ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、 ポリブチレンテレフタレート(PBT)およびポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンサクシネート(PBS)から選ばれる少なくとも1種である、請求項2に記載の環境適合性プラスチック。
【請求項4】
前記ポリ-γ-グルタミン酸は、前記高分子化合物中に0.05質量%以上含有されている、請求項1または2に記載の環境適合性プラスチック。
【請求項5】
前記ポリ-γ-グルタミン酸が、PGAイオンコンプレックスの形態で含有されている、請求項1または2に記載の環境適合性プラスチック。
【請求項6】
前記PGAイオンコンプレックスが、前記ポリ-γ-グルタミン酸と、多価金属イオンとを含む、請求項5に記載の環境適合性プラスチック。
【請求項7】
プラスチック成形品または、該プラスチック成形品もしくはプラスチック繊維を製造するためのペレットの形態を有する、請求項1または2に記載の環境適合性プラスチック。
【請求項8】
繊維形成能をもつ高分子化合物からなり、該高分子化合物中に、ポリ-γ-グルタミン酸(PGA)またはその塩を含有したことを特徴とする環境適合性プラスチック繊維。
【請求項9】
前記高分子化合物を溶融紡糸して得られる、請求項8に記載の環境適合性プラスチック繊維。
【請求項10】
前記ポリ-γ-グルタミン酸が、PGAイオンコンプレックスの形態で含有されている、請求項8または9に記載の環境適合性プラスチック繊維。
【請求項11】
前記PGAイオンコンプレックスが、前記ポリ-γ-グルタミン酸と、多価金属イオンとを含む、請求項9に記載の環境適合性プラスチック繊維。
【請求項12】
ポリ-γ-グルタミン酸(PGA)と多価金属イオンとを含むPGAイオンコンプレックス。
【請求項13】
ポリ-γ-グルタミン酸を構成するグルタミン酸に対して多価金属イオンを1/6モル倍以上、1/2モル倍以下含む、請求項12に記載のPGAイオンコンプレックス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリエステル等を用いる環境適合性プラスチック、環境適合性プラスチック繊維、およびこれに用いるPGAイオンコンプレックスに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック成形品やプラスチック繊維は衛生的とされ,1950年代に本格的な利用が始まり、現代の生活に欠かせない存在になっている。一方、これらのプラスチックは深刻な環境問題を引き起こしている。すなわち、プラスチックは、劣化しにくく耐久性の高い反面、マイクロ結晶性構造の部位がマイクロプラスチック化する傾向にある。そのため、マイクロプラスチックが海洋や土壌中に残存し、生態系や資源循環を支える地球環境にも悪影響を与えるとされている。
【0003】
そこで、近時、バイオプラスチックが注目されている。なかでも微生物分解を受ける環境適合性プラスチックが注目されている。環境適合性プラスチックは、原料等が天然素材由来でも石油起源であっても問題なく、焼却を必要としない廃プラスチック対策として有効である。
【0004】
ところで、環境適合性プラスチック繊維としては、特許文献1に、微生物分解性を有するポリ乳酸繊維が記載されている。しかし、このポリ乳酸繊維は、コンポスト分解性であり、海洋分解性を有していない。また、通常のポリエステル繊維と比べて融点が低く取扱いにくいことや、長期保管に起因する繊維の屈曲部の脆化による製品事故も過去に発生しており、安定して使用することが困難である。
【0005】
特許文献2には、ポリ-γ-グルタミン酸(以下、PGAということがある)と、第四級アンモニウムイオン化合物を含むPGAイオンコンプレックスを紡糸して得られる繊維が記載されている。特許文献2には、PGAイオンコンプレックスは、第四級アンモニウムイオン化合物の種類によっては抗菌性を示すことがあるが、ポリ-γ-グルタミン酸を主骨格とすることから微生物分解性を示すことが記載されている。
ここで、ポリ-γ-グルタミン酸は、バイオポリマーの一種であり、納豆の粘着成分としても知られているとおり、極めて安全性が高く、また非常に高い親水性を有していることから、化粧品成分などとしての利用が検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4922232号公報
【特許文献2】特許第5709158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記したように、プラスチックは、マイクロプラスチック化して、海洋や土壌中に残存し、生態系や地球環境にも悪影響を与えることが懸念されている。しかし、ポリアミド(ナイロン)、ポリエステル、ポリプロピレン等のプラスチックは、劣化しにくく耐久性が高いことから、プラスチック成形品や、衣類や工業用繊維資材等の繊維用途で従来から広く使用されており、これらのプラスチックの利用を制限することは困難であると考えられる。
しかし、石油化学で合成された上記プラスチックの微生物による分解を可能にすることができれば、マイクロプラスチックの影響を軽減することができる。また、パリ協定を背景とした温室効果ガスの排出量削減という観点においても、プラスチックの燃焼等に起因して発生する大気中の二酸化炭素を増大させる「カーボンポジティブ」を脱して「カーボンニュートラル」性を獲得するばかりか、さらにその先の「カーボンネガティブ」への革新も可能となる。
【0008】
従って、合成プラスチックに微生物分解性を付与した環境適合性プラスチックおよび環境適合性プラスチック繊維の提供が要望されている。また、プラスチック製品や繊維製品は衛生的であることが好ましいが、微生物分解性は分解を行う微生物が集まる性質でもあり、抗菌性との両立が難しいと考えられる。そのため、環境適合性プラスチックに、抗菌性を付与し、抗菌性と微生物分解性とを両立させることができれば、プラスチックの用途をより広めることができると考えられる。
【0009】
本発明の主たる課題は、プラスチックを主体としながら、微生物分解性を有する環境適合性プラスチックおよび環境適合性プラスチック繊維、およびこれに用いるPGAイオンコンプレックスを提供することである。
本発明の他の課題は、抗菌性と微生物分解性とが両立した環境適合性プラスチック、環境適合性プラスチック繊維、およびこれに用いるPGAイオンコンプレックスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、含窒素高分子化合物であるポリ-γ-グルタミン酸(PGA)は、それ自体が環境微生物群にとって価値の高い栄養素であるが、同時に走化性を持った微生物を誘引する機能を有し、その粘着性が微生物付着の足場としても優位に働くことを見出した(以下、この特性を微生物親和性という)。従って、この微生物親和性を有するPGAを機能性フィラーとして高分子化合物に含有させることにより、海洋をはじめとする自然環境中で微生物分解を受けることのなかったプラスチックに対する微生物分解を加速させることが可能になる。
【0011】
すなわち、本発明の環境適合性プラスチックは、高分子化合物からなり、該高分子化合物中に、PGAまたはその塩を含有する。
PGAは、PGAイオンコンプレックスの形態で含有されるのがよい。PGAイオンコンプレックスは、例えば、前記ポリ-γ-グルタミン酸と、多価金属イオンとを含むものが挙げられる。これにより、得られるプラスチックに抗菌性と微生物分解性を付与することができる。
【0012】
本発明の環境適合性プラスチック繊維は、繊維形成能をもつ高分子化合物からなり、該高分子化合物中に、ポリ-γ-グルタミン酸(PGA)またはその塩を含有する。
環境適合性プラスチック繊維は、例えば、PGAを含有した高分子化合物を溶融紡糸して得られるものである。
本発明のPGAイオンコンプレックスは、ポリ-γ-グルタミン酸(PGA)と多価金属アルミニウムイオンとを含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明の環境適合性プラスチックおよび環境適合性プラスチック繊維は、高分子化合物中に、PGAを含有することにより、該高分子化合物の微生物分解を促進することができるという効果がある。
また、ポリ-γ-グルタミン酸がPGAイオンコンプレックスの形態で含有されている場合は、PGAイオンコンプレックスが抗菌性を有すると共に、海水や土壌中等ではPGAによる前記した微生物親和性による微生物分解が発現するという効果がある。
また、PGAイオンコンプレックスが、前記ポリ-γ-グルタミン酸と、多価金属イオンとを含むものである場合は、抗菌性や微生物分解性に加えて、耐熱性も付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】実施例1におけるPGA含有ペレットの海洋微生物分解加速試験の結果(自然海水中の生物化学的酸素要求量(BOD)の経時変化)を示すグラフである。
【
図1B】
図1Aにおいて15日経過後におけるPGA含有ペレットの状態を側方から撮影した図である。
【
図1C】
図1Bに示す15日経過後におけるPGA含有プラスチックから得られたバイオフィルムを培養後の微生物増殖状態を撮影した図である。
【
図1D】
図1Aにおいて15日経過後のPGA非含有ペレット(コントロール)の状態を示す図である。
【
図2A】PGA含有ペレットについて人工海水中の生物化学的酸素要求量(BOD)の経時変化を示すグラフである。
【
図2B】
図2Aにおいて15日経過後のPGA含有ペレットの状態を側方から撮影した図である。
【
図2C】
図2Bに示す15日経過後におけるPGA含有プラスチック表面の付着物を培養後の微生物増殖状態を撮影した図である。
【
図2D】
図2Aにおいて15日経過後のPGA非含有ペレット(コントロール)の状態を示す図である。
【
図3】実施例2におけるPGA含有PBT繊維の海洋微生物分解加速試験の結果(自然海水中の生物化学的酸素要求量(BOD)の経時変化)を示すグラフである。
【
図4】実施例3におけるPGAイオンコンプレックスを含有したペレットについて自然海水中の生物化学的酸素要求量(BOD)の経時変化を示すグラフである。
【
図5】実施例4におけるPGAイオンコンプレックスを含有した芳香族ポリエステル繊維について自然海水中の生物化学的酸素要求量(BOD)の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<環境適合性プラスチック>
本発明の環境適合性プラスチックは、高分子化合物からなり、該高分子化合物中に、ポリ-γ-グルタミン酸(PGA)を含有したものである。
ここで、環境適合性プラスチックとは、後述する成形に使用するためのペレットの他、製品となり得る各種プラスチック成形品を含む概念である。
【0016】
高分子化合物としては、微生物分解を受けにくい合成高分子化合物であって、PGAを混合するうえで、加熱することにより溶融する熱可塑性樹脂であるのが好ましく、例えば、ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ABS樹脂等が挙げられる。また、本発明における高分子化合物は、加熱溶融する熱可塑性樹脂に限定されるものではなく、熱硬化性樹脂であっても採用可能である。
【0017】
ポリアミドとしては、例えば、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン56、ポリパラフェニレンテレフタルアミド等が挙げられる。
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等の芳香族ポリエステルが挙げられる。また、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリブチレンサクシネート(PBS)のような脂肪族ポリエステルにおいても適用可能である。なお、性能を損なわない範囲においては、共重合成分を用いたものでもよく、また、艶消し剤や紫外線遮蔽剤として二酸化チタンを添加したものでもよい。
他の共重合成分としては、例えば、イソフタル酸、オルトフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、パラフェニレンジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの多価カルボン酸およびそれらの誘導体;5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸ジヒドロキシエチルなどのスルホン酸塩を含むジカルボン酸およびそれらの誘導体;1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、4-ヒドロキシ安息香酸、ε-カプロラクトン、ビスフェノールA のエチレングリコールエーテルなどが挙げられる。
【0018】
高分子化合物に含有されるPGAの種類は、特に制限されず、例えば、L-グルタミン酸のみからなるもの、D-グルタミン酸のみからなるもの、両方を含むものがあり、本発明では何れも用いることができる。但し、一方の割合がより多い方が立体規則性に優れ強度なども高くなり、また、よく乾燥すれば融点(約208℃)をも示す様になる。この融点は、後述するイオンコンプレックスとすることで、より明確なものとなる。さらに、L-グルタミン酸からなるPGAは微生物分解性に優れるので、L-グルタミン酸の含有割合が90%以上のものを用いるのがよく、95%以上がより好ましく、98%以上がさらに好ましく、100%が特に好ましい。なお、当該割合が100%であるとは、PGAをラセミ化しない条件で加水分解し、キラルカラムで分析した場合に、L-グルタミン酸が検出限界以下であることをいうものとする。
【0019】
使用するPGAの分子サイズも特に制限されないが、平均分子質量で10kDa以上のものが好適である。一般的に、分子サイズが大きいほど強度などの性能が高くなる。一方、分子サイズが過剰に大きなPGAは製造コストが大きく、また、製造が技術的に難しい場合もあるので、通常は10000kDa以下とする。PGAの平均分子質量としては、100kDa以上がより好ましく、500kDa以上がさらに好ましく、800kDa以上が特に好ましく、また、5,000kDa以下がより好ましく、2,000kDa以下がさらに好ましく、1500kDa以下が特に好ましい。なお、当該平均分子量は、市販のPGAを用いる場合にはカタログ値を参照すればよいが、ゲル濾過クロマトグラフィーなどによる測定値としてもよい。
【0020】
PGAは、市販されているものがあればそれを用いてもよいし、別途製造してもよい。但し、通常の条件でグルタミン酸を重合するとポリ-α-グルタミン酸が得られるので、微生物を使って生合成させることが好ましい。分子サイズの大きいPGAを製造できる微生物としては、超好塩古細菌であるNatrialba aegyptiacaや、枯草菌(真正細菌)であるBacillus subtilis等がある。
【0021】
PGAとしては、その塩を用いてもよい。当該塩としては、ナトリウム塩やカリウム塩などのアルカリ金属塩、カルシウム塩やマグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩などを挙げることができる。また、塩を用いる場合であっても全てのカルボキシ基が塩となっている必要はなく、その一部のみが塩となっていてもよい。
【0022】
PGA(またはその塩)を高分子化合物に含有させるには、溶融した高分子化合物にPGAを練りこむようにすればよい。環境適合性プラスチック製品(成形品)または繊維を作製するためには、原料となる高分子化合物にPGAを直接含有させてもよいが、あらかじめPGAを含有した高分子化合物のペレットを作製し、該ペレットを原料となる高分子化合物と混合して環境適合性プラスチック製品(成形品)または繊維を作製するのが好ましい。
PGAを含有したペレット(以下、PGA含有ペレットということがある)には、PGAを比較的高濃度で配合しておき、これを原料となる高分子化合物に、PGAが所定の濃度となる配合量で混入する。このようにすることで、PGAの計量が正確にでき,PGAの分散をよくし,作業中の飛散を防ぐことができ、さらに成形加工の際にPGA等の添加剤の分散をよくすることができる。
【0023】
PGAは、粉状の形態で溶融した高分子化合物に混合すればよい。またPGAを水等の溶媒に溶解して高分子化合物に混合し、次いで乾燥させてもよい。PGAペレット中のPGAは、比較的高濃度であり、具体的には、例えば、0.05質量%以上の濃度で含有されているのがよく、20質量%以下の濃度であるのがよい。
PGA含有ペレットの形状や大きさは特に制限されないが、例えば、長さが2mm以上6mm以下、直径が1mm以上3mm以下であるのがよい。PGA含有ペレットは、PGAをフィルタに通して所定の粒径に揃えた後、これを高分子化合物のペレットに混合し、押出機から押し出し、これを所定の大きさにカットすればよい。フィルタは、40メッシュ以上(目開き約500μ以下)であるのがよい。
【0024】
PGA含有ペレットは、各種成形に供される。成形方法としては、従来から使用されている射出成形法(インジェクション成形法)、押出成形法、ブロー成形法、インフレーション成形法、Tダイ法、インフレーション法、真空成形法、圧空成形法等が使用可能である。
【0025】
成形に際しては、ベースとなる高分子化合物に対して、PGAが所定の配合量となるようにPGA含有ペレットの混合量を調整する。具体的には、PGAが高分子化合物中に0.05質量%以上、好ましくは0.1質量%以上含有されている所定の配合量となるようにPGA含有ペレットの混合量を調整すればよい。これにより、前記した生物親和性により高分子化合物の微生物分解が加速促進される。PGAの高分子化合物への配合量は、20質量%以下であるのが好ましい。
また、PGA含有ペレットは、粉状ないし粒状であっても構わない。
【0026】
<PGAイオンコンプレックス>
本発明におけるPGAは、PGAイオンコンプレックス(以下、PGAICということがある)の形態で高分子化合物に含有されているのがよい。PGAICは抗菌活性ないし制菌活性(以下、単に抗菌活性ということがある)を有すると共に、PGAを主骨格とすることから海洋微生物分解加速に資する機能性フィラーとしての特性をも有する。
すなわち、公衆衛生の観点から半永久的な環境耐久性を示す合成高分子化合物に対して抗菌性まで付加したプラスチックが廃棄等で自然界に流出したならば、分解者たる微生物そのものの活力を根本から奪う恐れがある。なかでも難培養微生物が大半を占める海洋においては、このような抗菌・抗ウイルス製品が別次元の海洋破壊の引き金になる恐れがある。PGAICは、抗菌活性と微生物分解という互いに相反する特性の両立を可能にするものである。
【0027】
PGAICとしては、PGAと、下記式(I)または式(II)の第四級アンモニウムイオン化合物を含むPGAイオンコンプレックスが知られている(前記した特許文献2や特開2010-222496号公報を参照)。
【化1】
[式中、R
1~R
3は独立してC
1~C
2アルキル基を示し、R
4~R
5は独立してC
12~C
20アルキル基を示す]
【0028】
ここで、C1~C2は、炭素数1~2の脂肪族炭化水素、すなわちメチル基またはエチル基を意味する。また、C12~C20アルキル基は、炭素数12~20の直鎖状または分枝鎖状の脂肪族炭化水素を意味する。例えば、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等の直鎖状アルキル基;イソテトラデシル基、イソペンタデシル基、イソヘキサデシル基、イソヘプタデシル基、イソオクタデシル基、sec-テトラデシル基、sec-ペンタデシル基、sec ヘキサデシル基、sec-ヘプタデシル基、sec-オクタデシル基、t-テトラデシル基、t-ペンタデシル基、t-ヘキサデシル基、t-ヘプタデシル基、t-オクタデシル基、ネオテトラデシル基、ネオペンタデシル基、ネオヘキサデシル基、ネオヘプタデシル基、ネオオクタデシル基等の分枝鎖状アルキル基を挙げることができる。R4としては、好ましくはC15-C20アルキル基であり、より好ましくはC16-C20アルキル基であり、最も好ましくはC17-C20アルキル基である。R5としては、好ましくはC13-C20アルキル基であり、より好ましくはC14-C19アルキル基であり、最も好ましくはC15-C18アルキル基である。
【0029】
PGAICは、PGAを構成するグルタミン酸と第四級アンモニウムイオン化合物とを等モルまたは略等モル含み、水不溶性で、融点を有する。また、PGAを構成するグルタミン酸のうちL-グルタミン酸の占める割合が90%以上である。
PGAICは、水などの溶媒中でPGAと第四級アンモニウムイオン化合物とを混合することで簡単に製造することができる。
このようなPGAICは、前記PGAと同様にして、高分子化合物に含有させてペレットを作製し、これを利用してプラスチックや後述する繊維を作製することができる。
【0030】
本発明における他のPGAICとしては、PGAと多価金属イオンとを含むPGAイオンコンプレックスが挙げられる。多価金属イオンには、2価以上の金属元素のイオンが挙げられる。2価以上の金属元素を以下に例示する。
2価の金属元素:マンガン(Mg)、カルシウム(Ca)、マンガン(Mn)、 鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)
3価の金属元素:アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)
4価の金属元素:珪素(Si)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、スズ(Sn)、ジルコニウム(Zn)、セリウム(Se)、トリウム(Th)
5価の金属元素:ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、アンチモン(Sb)
6価の金属元素:モリブデン(Mo)、タングステン(W)
本発明では、特にPGAと3価の金属イオンとを含むPGAイオンコンプレックスであるのがよく、好ましくはPGAとアルミニウムイオンとを含むPGAイオンコンプレックス(以下、PGAALということがある)がよい。
PGAと多価金属イオンとを含むPGAICは、ポリマー金属石鹸タイプであり、耐熱性に優れ、例えば、PETやPBTの溶融温度域においても耐熱性を有する。そのため、PETやPBTを用いる加熱成形(押出成形等)や溶融紡糸を行うのに好適である。また、当該PGAICは、優れた抗菌・抗ウイルス性をも有するので、PGAICのフィラー応用に関する可能性を飛躍的に増大させることができる。
なお、以下の説明では、代表例としてPGAALを使用しているが、他のPGAICも同様にして適用可能である。
【0031】
PGAALは、例えば、水などの溶媒中でPGAとミョウバンとを混合することで簡単に製造することができる。ミョウバンに代えて、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム等を用いてもよい。アルミニウム以外の多価金属イオンを使用する場合も、対応する金属化合物または塩を使用すればよい。
得られたPGAALは、PGAを構成するグルタミン酸に対してアルミニウムイオンを1/6モル倍以上、好ましくは1/3モル倍以上で、1/2モル倍以下含むのがよい。特に、PGAを構成するグルタミン酸に対してアルミニウムイオンを1/3モル倍含むのが好ましい。
【0032】
<環境適合性プラスチック繊維>
本発明の環境適合性プラスチック繊維は、繊維形成能をもつ高分子化合物からなり、該高分子化合物中に、フィラーとしてポリ-γ-グルタミン酸(PGA)を含有したものである。PGAは、PGAコンプレックスの形態で使用するのがよい。
繊維形成能をもつ高分子化合物とは、紡糸工程によって繊維化が可能なものをいう。紡糸方法は特に限定されず、溶液紡糸法(乾湿式紡糸法、湿式紡糸法、乾式紡糸法、ゲル紡糸法など)、溶融紡糸法、荷電紡糸法などが適用可能である。本発明の環境適合性プラスチック繊維は、特に溶融紡糸法により製造するのに好適である。
【0033】
高分子化合物の具体例としては、ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ABS樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。ポリアミドとしては、例えば、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66等が挙げられる。ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等の芳香族ポリエステルが挙げられる。
【0034】
PGAは、繊維中に0.05質量%以上、好ましくは0.1質量%以上含有されているのが好ましい。これにより、PGAの微生物親和性に基づき微生物による高分子化合物の分解を促進させることができる。また、PGAイオンコンプレックスを使用すれば、繊維に抗菌性をも付与することができる。
【0035】
以下、溶融紡糸法を例に挙げて、本発明の環境適合性プラスチック繊維の製造方法を詳細に説明する。溶融紡糸では、PGAを含有した高分子化合物を原料に直接加えてもよいが、前記したPGA含有ペレットを原料の高分子化合物と混合して使用するのがよい。言い換えると、PGAを高濃度で含有したPGA含有ペレットを原料高分子化合物で希釈する。これにより、PGAの計量が正確にでき,作業中の飛散を防ぎ、かつ紡糸時にPGAの分散をよくすることができる。
PGA含有ペレットに含有される高分子化合物と、溶融紡糸の原料となる高分子化合物とは、同じであってもよく、異なっていてもよい。異なる高分子化合物を使用する場合は、互いに相溶性のあるものを採用するのが好ましい。例えば、後述する実施例に記載のように、PETとPBTとを使用することができる。
【0036】
溶融紡糸法では、高分子化合物を加熱溶融した上で紡糸装置の口金より紡出し、引き取りローラーで張力を印加しながら気体流により冷却することで繊維を形成する。得られた糸はその後さらに延伸してもよい。溶融温度は、高分子化合物の融点や熱分解点を考慮して適宜決定すればよいが、通常、融点+5℃以上、+100℃以下の範囲、好ましくは融点+30℃以上、+50℃以下の範囲がよい。
【0037】
口金から引取りまでの距離は冷却可能な範囲で適宜決定すればよいが、通常は0.5 m以上15m以下であればよい。また、引取速度も繊維の太さなどにより適宜決定すればよいが、通常は1m/分以上8km/分以下であるのが適当である。また、冷却雰囲気は5℃以上35℃以下とすればよい。
【0038】
溶融紡糸法では、高分子化合物の加熱溶融温度においてPGAが熱分解しないことが好ましい。本発明では、耐熱性に優れたPGAALを使用するのがよい。PGAALは240℃近くでも熱分解しない耐熱性を有する
【0039】
<用途>
本発明の環境適合性プラスチックは、プラスチックボトル、プラスチックフィルム等の汎用プラスチック製品や各種工業用プラスチック製品等に好適に使用することができる。本発明の環境適合性プラスチック繊維は、一般衣料や各種工業用繊維資材等の素材として好適に使用することができる。特に、PGAイオンコンプレックスを含有した環境適合性のプラスチックやプラスチック繊維は、抗菌性が求められるウェアラブル製品や汎用プラスチック用品等へ適用することができる。
【0040】
次に、実施例を挙げて本発明の環境適合性プラスチック、環境適合性プラスチック繊維、およびPGAイオンコンプレックスを詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0041】
(1)PGA含有ペレットの作製
PGAは、平均分子量が1000kDaで、粉状のものを使用した。高分子化合物としてはPBT樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス社製のNOVADURAN(登録商標))を使用した。このPBTを加熱して溶融させ、これにPGAを総量に対して10質量%の割合となるように練り込み、150メッシュ(目開き109μm)のフィルタに通した。ついで押出機のノズル孔から押し出し、約3mmの長さにカットして、直径約2mmのペレット状のPGA含有ペレットを得た。
以下、得られたPGA含有ペレットをPT[PGA
10%/PBT]と表示する。
(2)PGA含有ペレットの海洋微生物分解加速試験
ペレット状のPT[PGA
10%/PBT]に対して海洋環境微生物群が微生物親和性を示すかどうかを調べた。試験は、高知県沖より採取した清浄な海水400mLに上記PT[PGA
10%/PBT]を2.5g加え、550cm
3の密閉空間中に静置し、密閉空間中の酸素消費量を計測し、15日間におけるBODの変化を調べた。密閉空間内の温度は、高知県沖の平均海水温に近い20±5℃に維持した。酸素消費量の計測は、BOD測定装置(VELP SCIENTIFICA社製の圧力センサー)によって行った。
コントロールとして、PGAを含有しないペレット状のPBT樹脂(PBT)2.5gを用いて同様にして試験した。また、PT[PGA
10%/PBT]2.5g中のPGAの含有量に相当するPG粉末0.25gのみについても同様に試験した。試験結果を
図1A~1Dに示す。
図1Aに示すように、計測開始から15日経過後において、PGAを10質量%含むPT[PGA
10%/PBT]では、BODが高くなっており、海洋微生物の活動が活発になっていることがわかる。
図1Bは、試験開始から15日経過時のPT[PGA
10%/PBT]の状態を示しており、15日経過時において、ペレット表面への微生物付着が著しく、微生物の集合体であるバイオフィルムの形成が認められた。微生物の増殖状況を明確にするために、
図1Bに示す培地からペレットPT[PGA
10%/PBT]を取り出し、ペレット表面の付着物を水で洗い出しを行い、洗浄水の一部を、所定の培地を入れたシャーレに移し、20±5℃でシャーレを密閉状態として1週間培養した。その結果、
図1Cに示すように、培地の表面に微生物の増殖が認められた。なお、使用した培地は、下記表1に示す改変LB培地組成に対し1Lの脱イオン水を加えたものを用いた。ここで、塩化ナトリウムは海水とほぼ等しい濃度(3.5%)に調整した。
【表1】
一方、PBTのみの試料(PBT、2.5g;
図1Aに□で示す)ではBODは殆ど変化がなく、
図1Dに示すように、バイオフィルムの形成が認められなかった。また、PT[PGA
10%/PBT]2.5g中のPGAの含有量に相当するPGAのみの試料(0.25 g;
図1Aに△で示す)では、PGAの含有量が少ないためにBODを変動させるまでには到らなかった。
また、ネガティブコントロールとして、微生物不在の状態を保証する人工海水を用いて、自然海水と同様にして試験を行った。人工海水としては、富田製薬(株)より販売されている研究用試薬MAERINE ART SF-1を使用した。人口海水の具体的な組成は塩化ナトリウム22.1g/L、塩化マグネシウム9.9g/L、塩化カルシウム1.5g/L、無水硫酸ナトリウム3.9g/L、塩化カリウム0.61g/L、炭酸水素ナトリウム0.19g/L、臭化カリウム0.096g/L、ホウ砂0.078g/L、無水塩化ストロンチウム0.013g/L、フッ化ナトリウム0.003g/L、塩化リチウム0.001g/L、ヨウ化カリウム0.000081g/L、塩化マンガン0.0000006g/L、塩化コバルト0.000002g/L、塩化アルミニウム0.000008g/L、塩化第二鉄0.000005g/L、タングステン酸ナトリウム0.000002g/L、モリブデン酸アンモニウム0.000018g/Lであり、必要量の脱イオン水を加えて溶解させ、これを滅菌処理したものである。その試験結果を
図2A~
図2Dに示す。
これらの試験結果から、自然海水中では、PT[PGA
10%/PBT]の大部分を占めるPBTに対しPGAが含有されていることで海洋微生物による分解が加速していることがわかる(
図1A~1Cを参照)。すなわち、BOD分析から自然海水中では、PT[PGA
10%/PBT]が有意に微生物分解を受ける微生物親和性を示すことが示唆された。
一方、人工海水中で微生物の増殖を図った場合、
図2Aに示すように、PT[PGA
10%/PBT](2.5g;●で示す)には、15日経過後でバイオフィルムの形成が認められず、試験開始から30日間追跡してもバイオフィルムの形成が認められなかった。
図2Cは、
図1Cと同様に、15日間培養後の
図2Bの培地からペレットを取り出し、ペレット表面の付着物を洗い出しによってシャーレに移して同条件で培養した結果を示している。同図に示すように、人口海水中では、PBTに対する微生物分解は殆ど進行していないことが認められる。また、PBTのみの試料(PBT、2.5g;
図2Aに□で示す)ではBODは殆ど変化がなく、
図2Dに示すようにバイオフィルムの形成が認められなかった。また、PT[PGA
10%/PBT]2.5g中のPGAの含有量に相当するPGAのみの試料(0.25 g;
図2Aに△で示す)でも同様の結果であった。