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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060486
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】積層体及びそれを用いた成形体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/18 20060101AFI20240424BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20240424BHJP
   B29B 11/16 20060101ALI20240424BHJP
   B29C 51/14 20060101ALI20240424BHJP
   B29C 51/08 20060101ALI20240424BHJP
   B29K 105/12 20060101ALN20240424BHJP
【FI】
B32B27/18 B
B32B27/32 E
B29B11/16
B29C51/14
B29C51/08
B29K105:12
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167887
(22)【出願日】2022-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591182101
【氏名又は名称】三菱ケミカルアドバンスドマテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】喜多 聖
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 文治
(72)【発明者】
【氏名】松井 純
(72)【発明者】
【氏名】高田 信暁
【テーマコード(参考)】
4F072
4F100
4F208
【Fターム(参考)】
4F072AA02
4F072AA08
4F072AB09
4F072AB29
4F072AD04
4F072AE07
4F072AF19
4F072AG03
4F072AG20
4F072AH06
4F072AH49
4F072AK02
4F072AK14
4F072AL02
4F072AL11
4F072AL17
4F100AA01A
4F100AA17A
4F100AB01A
4F100AD00A
4F100AG00A
4F100AG00H
4F100AK011
4F100AK012
4F100AK07A
4F100AK07B
4F100BA02
4F100BA15
4F100CA08A
4F100DG01A
4F100DG03A
4F100DG15A
4F100DH02A
4F100EH171
4F100EH17A
4F100EJ821
4F100EJ82A
4F100JA06B
4F100JB16A
4F100JB16B
4F100YY00A
4F100YY00B
4F208AA11
4F208AB05
4F208AB07
4F208AB25
4F208AC03
4F208AD16
4F208AG03
4F208MA05
4F208MB01
4F208MC03
4F208MG04
(57)【要約】
【課題】高い遮炎性、耐炎性及び断熱性を兼ね備えた積層体を提供すること。
【解決手段】熱可塑性樹脂組成物(X)と無機繊維(Y)が一体化した層(A)と、熱可塑性樹脂層(B)を含む積層体であって、層(B)は、一方の面が層(A)と隣接し、他方の面が表層となるように配置され、熱可塑性樹脂組成物(X)は、熱可塑性樹脂とノンハロゲン系難燃剤を含み、熱可塑性樹脂層(B)は、メルトフローレート(MFR、230℃、2.16kg荷重)が0.05~30g/10分である熱可塑性樹脂を含む、積層体である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂組成物(X)と無機繊維(Y)が一体化した層(A)と、熱可塑性樹脂層(B)を含む積層体であって、
層(B)は、一方の面が層(A)と隣接し、他方の面が表層となるように配置され、
熱可塑性樹脂組成物(X)は、熱可塑性樹脂とノンハロゲン系難燃剤を含み、
熱可塑性樹脂層(B)は、メルトフローレート(MFR、230℃、2.16kg荷重)が0.05~30g/10分である熱可塑性樹脂を含む、積層体。
【請求項2】
前記ノンハロゲン系難燃剤がリン系難燃剤である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂組成物(X)が、さらに分散剤を含む、請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
前記分散剤が、α-オレフィンと不飽和カルボン酸との共重合体である、請求項3に記載の積層体。
【請求項5】
前記リン系難燃剤100質量部に対する分散剤の含有量が、0を超え25質量部以下である、請求項3に記載の積層体。
【請求項6】
前記無機繊維(Y)の平均繊維長が0.1mm以上である、請求項1に記載の積層体。
【請求項7】
前記無機繊維(Y)がガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維及び金属酸化物繊維から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の積層体。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂組成物(X)を構成する熱可塑性樹脂、及び熱可塑性樹脂層(B)を構成する熱可塑性樹脂がポリプロピレン系樹脂であり、ポリプロピレン系樹脂の含有量が全質量に対して15~80質量%である、請求項1に記載の積層体。
【請求項9】
前記ノンハロゲン系難燃剤の含有量が全質量に対して1~30質量%である、請求項1に記載の積層体。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の積層体をスタンピング成形してなる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体及びそれを用いた成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境対策の一環として電気自動車やハイブリット自動車の研究開発が進められており、航続距離の向上を目指した高エネルギー密度のバッテリー開発と軽量化が盛んに進められている。このような高エネルギー密度のバッテリーは不慮の事故により発火する恐れがあり、乗客への安全対策としてそのハウジング材は高い遮炎性が必要なため、鉄などの金属材料と耐火材が併用されている場合が多い。
しかしながら、金属材料は重くなる欠点があり、耐火材を併用する場合には加工性や部品点数増加によるコスト増が課題となっている。そこで、軽量化と遮炎性を両立する可能性を有する樹脂化が試みられている。現在、持続可能な社会に向け、二酸化炭素の抑制やリサイクル性が重要視されてきている。熱硬化系の材料は高い難燃性を有するものが多く、複合材としては一般的であるが、リサイクル性の面では熱可塑性の樹脂素材が有利となる。
【0003】
また、中国ではGB 38031-2020《電動自動車動力用バッテリーの安全要求》という安全規格が発表され、バッテリーの熱暴走の5分前に警告を発することが義務付けられているが、これは、バッテリーの発火後5分以上遮炎するハウジング材によっても達成できると考えられている。
【0004】
これらの課題に対し、例えば特許文献1では、炭素繊維強化ポリプロピレン樹脂に臭素系難燃剤や酸化アンチモン化合物を添加したものなどが提案されている。しかしながら、ここで使用される添加剤は生体残留性に問題がある。
これに対し、生体残留性に配慮して、ポリプロピレン系樹脂を難燃化する技術として、特許文献2には、ポリオレフィン系樹脂に(ポリ)リン酸塩化合物を含有させた難燃性ポリオレフィン系組成物が提案されている。
また、特許文献3には、ポリプロピレン樹脂にガラス長繊維とリン酸塩化合物を含有した難燃性樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-62189号公報
【特許文献2】特開2013-119575号公報
【特許文献3】特開2011-88970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高エネルギー密度のバッテリーの軽量化と遮炎性を両立する可能性を有する従来の繊維強化複合材料技術では、不十分な点が多い。具体的には、繊維強化複合材料となるスタンパブルシートには、高い遮炎性と、さらなる断熱性の向上が求められている。
【0007】
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、高い遮炎性、耐炎性及び断熱性を兼ね備えた積層体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、ノンハロゲン系難燃剤を含む熱可塑性樹脂組成物と無機繊維が一体化した層と、特定の物性を有する熱可塑性樹脂を含む層を有する積層体が、上記の課題を解決できることを見出し、これらの知見に基づき、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[10]を提供する。
[1]熱可塑性樹脂組成物(X)と無機繊維(Y)が一体化した層(A)と、熱可塑性樹脂層(B)を含む積層体であって、層(B)は、一方の面が層(A)と隣接し、他方の面が表層となるように配置され、熱可塑性樹脂組成物(X)は、熱可塑性樹脂とノンハロゲン系難燃剤を含み、熱可塑性樹脂層(B)は、メルトフローレート(MFR、230℃、2.16kg荷重)が0.05~30g/10分である熱可塑性樹脂を含む、積層体。
[2]前記ノンハロゲン系難燃剤がリン系難燃剤である、上記[1]に載の積層体。
[3]前記熱可塑性樹脂組成物(X)が、さらに分散剤を含む、上記[1]又は[2]に記載の積層体。
[4]前記分散剤が、α-オレフィンと不飽和カルボン酸との共重合体である、上記[3]に記載の積層体。
[5]前記リン系難燃剤100質量部に対する分散剤の含有量が、0を超え25質量部以下である、上記[3]又は[4]に記載の積層体。
[6]前記無機繊維(Y)の平均繊維長が0.1mm以上である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の積層体。
[7]前記無機繊維(Y)がガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維及び金属酸化物繊維から選ばれる少なくとも1種である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の積層体。
[8]前記熱可塑性樹脂組成物(X)を構成する熱可塑性樹脂、及び熱可塑性樹脂層(B)を構成する熱可塑性樹脂がポリプロピレン系樹脂であり、ポリプロピレン系樹脂の含有量が全質量に対して15~80質量%である、上記[1]~[7]のいずれかに記載の積層体。
[9]前記ノンハロゲン系難燃剤の含有量が全質量に対して1~30質量%である、上記[1]~[8]のいずれかに記載の積層体。
[10]上記[1]~[9]のいずれかに記載の積層体をスタンピング成形してなる成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、遮炎性、耐炎性及び断熱性を兼ね備えた積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の積層体における一つの層構成の態様を示す模式図である。
図2】本発明の積層体における他の一つの層構成の態様を示す模式図である。
図3】本発明の積層体における他の一つの層構成の態様を示す模式図である。
図4】本発明の実施例1における積層体の層構成を示す模式図(含浸前)である。
図5】本発明の実施例1における積層体の層構成を示す模式図(含浸後)である。
図6】本発明の実施例3における積層体の層構成を示す模式図(含浸前)である。
図7】本発明の実施例3における積層体の層構成を示す模式図(含浸後)である。
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施態様の一例であり、本発明はこれらの内容に何ら限定されない。
【0012】
[積層体]
本発明は、熱可塑性樹脂組成物(X)と無機繊維(Y)が一体化した層(A)(以下、単に「層(A)」と記載することがある。)と、熱可塑性樹脂層(B)(以下、単に「層(B)」と記載することがある。)を含む積層体である。層(B)は、一方の面が層(A)と隣接し、他方の面が表層となるように配置される。熱可塑性樹脂組成物(X)は、(a)熱可塑性樹脂と(b)ノンハロゲン系難燃剤を含み、熱可塑性樹脂層(B)は、メルトフローレート(MFR、230℃、2.16kg荷重)が0.05~30g/10分である熱可塑性樹脂を含むことが特徴である。
【0013】
本発明の積層体の構成としては、図1に示すように、層(A)の一方の面(表面側)に層(B)が積層した積層体(A/B)であってもよく、図2に示すように、層(A)(表面側)に層(B)が積層し、裏面側に他の層(C)が積層した態様(B/A/C)でもよい。また、図3に示すように、層(A)の両面に層(B)が積層した態様(B/A/B)でもよい。
なお、裏面側に積層される他の層(C)(以下、単に「層(C)」と記載することがある。)としては、特に制限はないが、樹脂層であることが好ましく、層(A)を構成する熱可塑性樹脂組成物(X)と同様の樹脂構成であってもよい。
【0014】
層(A)と層(B)の厚み比(層(A)厚み/層(B)厚み)は、特に限定されないが、10/90~50/50であることが好ましい。10/90以上であれば、十分な遮炎性と断熱性を発揮できる。50/50以下であれば、十分な成形性を確保できる。同様の観点から、層(A)と層(B)の厚み比(層(A)厚み/層(B)厚み)は15/85~45/55がより好ましく、20/80~40/60がさらに好ましい。積層体が、層(A)、層(B)を複数有する場合は、上記の厚み比は、複数の層(A)、層(B)の厚みの合計に対して求めるものとする。
【0015】
[熱可塑性樹脂組成物(X)]
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物(X)は、(a)熱可塑性樹脂と(b)ノンハロゲン系難燃剤を少なくとも含む。以下、(a)熱可塑性樹脂及び(b)ノンハロゲン系難燃剤について詳述する。
【0016】
<(a)熱可塑性樹脂>
本発明における層(A)を構成する熱可塑性樹脂としては、特段の制限はないが、層(B)を構成する熱可塑性樹脂としては、メルトフローレート(MFR、230℃、2.16kg荷重)が0.05~30g/10分であることが肝要である。
熱可塑性樹脂の種類としては、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリアミド樹脂、変性ポリフェニレンオキサイド等が挙げられる。これらのうち、本発明においては、ポリオレフィン樹脂が好ましい。なお、これらは1種を使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。例えば(a)熱可塑性樹脂が、上記のうち2種以上の熱可塑性樹脂の複合樹脂であってもよい。
【0017】
ポリオレフィン樹脂としては、特段の制限はなく、後述の樹脂が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、特段の制限はなく、例えば、ポリブチレンテレフタレートが挙げられる。ポリアミド樹脂としては、特段の制限はなく、例えば、ナイロン66、ナイロン6が挙げられる。
なかでも、本発明は特に、(a)熱可塑性樹脂として少なくともポリオレフィン樹脂を含む場合に特に有用である。なお、本発明において「ポリオレフィン樹脂」とは、樹脂を構成する全ての構成単位100mol%に対し、オレフィン単位又はシクロオレフィン単位が占める割合が90mol%以上である樹脂を意味する。
ポリオレフィン樹脂を構成する全ての構成単位100mol%に対し、オレフィン単位又はシクロオレフィン単位が占める割合は、95mol%以上が好ましく、98mol%以上が特に好ましい。
【0018】
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ(3-メチル-1-ブテン)、ポリ(3-メチル-1-ペンテン)、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)等のα-オレフィン重合体;エチレン-プロピレンブロック又はランダム共重合体、炭素原子数4以上のα-オレフィン-プロピレンブロック又はランダム共重合体、エチレン-メチルメタクリレート共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のα-オレフィン共重合体;ポリシクロヘキセン、ポリシクロペンテン等のシクロオレフィン重合体等が挙げられる。ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等が挙げられる。ポリプロピレンとしては、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン、ヘミアイソタクチックポリプロピレン、ステレオブロックポリプロピレン等が挙げられる。炭素原子数4以上のα-オレフィン-プロピレンブロック又はランダム共重合体において、炭素原子数4以上のα-オレフィンとしては、ブテン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン等が挙げられる。これらのポリオレフィン樹脂は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
上記オレフィン樹脂のうち、特にポリプロピレン樹脂(以下「PP樹脂」と記載することがある。)が好ましい。
【0019】
(メルトフローレート(MFR))
本発明に用いられる層(A)を構成する熱可塑性樹脂のメルトフローレート(以下、MFRと略記することがある)(230℃、2.16kg荷重)は、40~500g/10分であることが好ましい。MFRが40g/10分以上であると、例えば、積層体をスタンピング成形した際に欠損が生じず、加工性が低下することがない。また、500g/10分以下であると、積層体の製造において、バリを生じることがない。以上の観点から、MFRは、好ましくは50~400g/10分、より好ましくは60~400g/10分、より好ましくは70~300g/10分である。
(a)熱可塑性樹脂は、例えば、重合時の水素濃度等を制御することにより、MFRを調整することができる。
なお、MFRは、JIS K7210に準拠して測定した値である。
【0020】
一方、層(B)を構成する熱可塑性樹脂のMFRは、0.05~30g/10分である。層(B)を構成する熱可塑性樹脂のMFRがこの範囲であると、粘度が比較的高く、分子量が大きくなる。したがって、層(A)を構成する無機繊維(Y)に含浸しにくいため、無機繊維(Y)とは分離した、樹脂の含有量が多い層となる傾向がある。このような傾向のある層(B)を接炎側に配置した場合には、火炎による熱分解が起こりにくく、層(A)に含まれる難燃剤がチャーを形成しやすい。このことにより、遮炎性や耐火性を向上させることができる。
以上の観点から、層(B)を構成する熱可塑性樹脂のMFRは、0.05~30g/10分の範囲であることが好ましく、0.1~10g/10分の範囲であることがさらに好ましい。
【0021】
また、層(B)を接炎側の反対側に配置した場合には、発煙を抑制することができる。発明者らは、発煙が主に接炎面の反対側から生じることを知見し、この知見に基づく態様である。層(B)を構成する熱可塑性樹脂のMFRが0.05~30g/10分であると、該熱可塑性樹脂の熱分解が起こりにくいため、煙がでにくいものと考えている。
【0022】
以上の点から、本発明の積層体の層構成としては、上述した構成のうち、層(A)の両面に層(B)が積層した態様(B/A/B)が最も好ましい。この態様であると、遮炎性、断熱性、及び発煙の抑制が効果的に行える。
【0023】
((a)熱可塑性樹脂の含有量)
本発明の積層体における(a)熱可塑性樹脂の含有量(層(A)と層(B)に用いられる全量)は、特に限定されないが、好ましくは、15~80質量%である。熱可塑性樹脂の含有量が15質量%以上であると成形加工性が特に良好となり、積層体の成形が容易となる。一方、80質量%以下であると、難燃剤、分散剤及び無機繊維を十分な量で含有することができ、良好な遮炎性を得ることができる。以上の観点から、積層体における熱可塑性樹脂の含有量は35~75質量%であることが好ましく、40~70質量%であることがより好ましい。
【0024】
<(a-1)ポリプロピレン系樹脂>
本発明の積層体に用いられる(a)熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂を含むことが好ましい。ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体、又はプロピレン-α-オレフィン共重合体が挙げられる。ここでプロピレン-α-オレフィン共重合体は、ランダム共重合体及びブロック共重合体のいずれであってもよい。
【0025】
(α-オレフィン)
上記共重合体を構成するα-オレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、2-メチル-1-プロペン、1-ペンテン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、2-エチル-1-ブテン、2,3-ジメチル-1-ブテン、2-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、3,3-ジメチル-1-ブテン、1-ヘプテン、メチル-1-ヘキセン、ジメチル-1-ペンテン、エチル-1-ペンテン、トリメチル-1-ブテン、1-オクテン等を挙げることができる。これらは、1種を用いてプロピレンと共重合してもよく、また、2種以上を用いてプロピレンと共重合してもよい。中でも、積層体の耐衝撃強度の向上という観点からは、その効果が大きいエチレン又は1-ブテンであるのが好ましく、最も好ましいのはエチレンである。
【0026】
(プロピレン-エチレンランダム共重合体)
プロピレンとエチレンのランダム共重合体の場合、好ましくはプロピレン単位を90~99.5質量%、さらに好ましくは92~99質量%、エチレン単位を好ましくは0.5~10質量%、さらに好ましくは1~8質量%含んでなるものである。エチレン単位が上記下限値以上であると、積層体の十分な耐衝撃強度が得られ、また、上記上限値以下であると、十分な剛性が維持される。
プロピレンとエチレンのランダム共重合体におけるプロピレン単位とエチレン単位の含量は、プロピレンとエチレンのランダム共重合体の重合時のプロピレンとエチレンの組成比を、制御することにより、調整することができる。
また、プロピレンとエチレンのランダム共重合体のプロピレン含量は、クロス分別装置やFT-IR等を用いて測定される値であり、その測定条件等は、例えば、特開2008-189893号公報に記載されている方法を使用すればよい。
【0027】
<変性ポリオレフィン系樹脂>
本発明の積層体は、上記ポリプロピレン系樹脂に加えて、さらに変性ポリオレフィン系樹脂を含むことができる。変性ポリオレフィン系樹脂としては、具体的には、酸変性ポリオレフィン系樹脂及びヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂が挙げられ、これらはそれぞれ単独で、又は両者を併用することもできる。
なお、変性ポリオレフィン系樹脂として用いる、酸変性ポリオレフィン系樹脂及びヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂の種類としては、特に制限はなく、従来公知のものであってもよい。
【0028】
(酸変性ポリオレフィン系樹脂)
酸変性ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-α-オレフィン-非共役ジエン化合物共重合体(EPDMなど)、エチレン-芳香族モノビニル化合物-共役ジエン化合物共重合エラストマーなどのポリオレフィンを、マレイン酸又は無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸を用いてグラフト共重合し、化学変性したものが挙げられる。
このグラフト共重合は、例えば、上記ポリオレフィンを適当な溶媒中で、ベンゾイルパーオキシドなどのラジカル発生剤を用いて、不飽和カルボン酸と反応させることにより行われる。また、不飽和カルボン酸又はその誘導体の成分は、ポリオレフィン用モノマーとのランダム又はブロック共重合によりポリマー鎖中に導入することもできる。
【0029】
変性のために使用される不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸等のカルボキシル基、及び必要に応じてヒドロキシル基やアミノ基などの官能基が導入された重合性二重結合を有する化合物が挙げられる。
また、不飽和カルボン酸の誘導体としては、これらの酸無水物、エステル、アミド、イミド、金属塩等があり、その具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル等を挙げることができる。これらのうち、好ましくは無水マレイン酸である。
【0030】
好ましい酸変性ポリオレフィン系樹脂としては、エチレン及び/又はプロピレンを主たるポリマー構成単位とするオレフィン系重合体に、無水マレイン酸をグラフト重合することにより変性したもの、エチレン及び/又はプロピレンを主体とするオレフィンと無水マレイン酸とを共重合することにより変性したものなどが挙げられる。具体的には、ポリエチレン/無水マレイン酸グラフトエチレン・ブテン-1共重合体の組み合わせ、又はポリプロピレン/無水マレイン酸グラフトポリプロピレンの組み合わせなどが挙げられる。
【0031】
(ヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂)
ヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂は、ヒドロキシル基を含有する変性ポリオレフィン系樹脂である。ヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂は、ヒドロキシル基を適当な部位、例えば、主鎖の末端や側鎖に有していてもよい。
ヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂を構成するオレフィン系樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、4-メチルペンテン-1、ヘキセン、オクテン、ノネン、デセン、ドデセンなどのα-オレフィンの単独又は共重合体、前記α-オレフィンと共重合性単量体との共重合体などが例示できる。
好ましいヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、低密度、中密度又は高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体などのヒドロキシ変性ポリエチレン系樹脂、例えば、アイソタクチックポリプロピレンなどのポリプロピレンホモポリマー、プロピレンとα-オレフィン(例えば、エチレン、ブテン、ヘキサンなど)とのランダム共重合体、プロピレン-α-オレフィンブロック共重合体など、ヒドロキシ変性ポリ(4-メチルペンテン-1)などのヒドロキシ変性ポリプロピレン系樹脂が例示できる。
【0032】
<(b)ノンハロゲン系難燃剤>
本発明の積層体を構成する層(A)を形成する、熱可塑性樹脂組成物(X)は(a)熱可塑性樹脂と(b)ノンハロゲン系難燃剤を含有する。ノンハロゲン系難燃剤は、環境保全の点から好ましい難燃剤である。(b)ノンハロゲン系難燃剤としては、とくに限定されず、例えば、リン系難燃剤、アンチモン系難燃剤等が挙げられる。なかでも、生体残留性がなく、優れた難燃性を有し、遮炎性を向上し得るとの観点から、リン系難燃剤が好ましい。また、難燃剤の作用機構に着目した分類では、イントメッセント系難燃剤であることが遮炎性向上の観点から好ましい。
なお、上記難燃剤は、1種を単独で使用することができ、又は2種以上を併用することもできる。
【0033】
(リン系難燃剤)
リン系難燃剤は、リン化合物、すなわち分子中にリン原子を含む化合物である。リン系難燃剤は、樹脂組成物の燃焼時にチャーを形成させることで難燃効果を発揮する。
リン系難燃剤としては、公知のものであってよく、例えば(ポリ)リン酸塩、(ポリ)リン酸エステル等が挙げられる。ここで、「(ポリ)リン酸塩」は、リン酸塩又はポリリン酸塩を示し、「(ポリ)リン酸エステル」は、リン酸エステル又はポリリン酸エステルを示す。
なお、リン系難燃剤は、80℃において固体であることが好ましい。
【0034】
リン系難燃剤としては、難燃性の点で、(ポリ)リン酸塩が好ましい。
(ポリ)リン酸塩としては、例えば、ポリリン酸アンモニウム塩、ポリリン酸メラミン塩、ポリリン酸ピペラジン塩、オルトリン酸ピペラジン塩、ピロリン酸メラミン塩、ピロリン酸ピペラジン塩、ポリリン酸メラミン塩、オルトリン酸メラミン塩、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム等が挙げられる。
また、上記例示において、メラミン又はピペラジンを他の窒素化合物に置き換えた化合物も同様に使用できる。他の窒素化合物としては、例えば、N,N,N’,N’-テトラメチルジアミノメタン、エチレンジアミン、N,N’-ジメチルエチレンジアミン、N,N’-ジエチルエチレンジアミン、N,N-ジメチルエチレンジアミン、N,N-ジエチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-ジエチルエチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,3-プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,7-ジアミノへプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、trans-2,5-ジメチルピペラジン、1,4-ビス(2-アミノエチル)ピペラジン、1,4-ビス(3-アミノプロピル)ピペラジン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、アクリルグアナミン、2,4-ジアミノ-6-ノニル-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-ハイドロキシ-1,3,5-トリアジン、2-アミノ-4,6-ジハイドロキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-メトキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-エトキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-プロポキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-イソプロポキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-メルカプト-1,3,5-トリアジン、2-アミノ-4,6-ジメルカプト-1,3,5-トリアジン、アンメリン、ベンズグアナミン、アセトグアナミン、フタロジグアナミン、メラミンシアヌレ-ト、ピロリン酸メラミン、ブチレンジグアナミン、ノルボルネンジグアナミン、メチレンジグアナミン、エチレンジメラミン、トリメチレンジメラミン、テトラメチレンジメラミン、ヘキサメチレンジメラミン、1,3-ヘキシレンジメラミン等が挙げられる。これらの(ポリ)リン酸塩は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0035】
リン系難燃剤としては、上記の中でも、(ポリ)リン酸と窒素化合物との塩(以下、「化合物(b1)」とも記す。)が好ましい。化合物(b1)は、イントメッセント系難燃剤であり、樹脂組成物の燃焼時に、発泡したチャーである表面膨張層(イントメッセント)を形成させる。表面膨張層が形成されることで、分解生成物の拡散や伝熱が抑制され、優れた難燃性が発現する。
化合物(b1)における窒素化合物としては、アンモニア、メラミン、ピペラジン、前記した他の窒素化合物等が挙げられる。
【0036】
リン系難燃剤の市販品としては、アデカスタブFP-2100J、FP-2200、FP-2500S((株)ADEKA製)等が挙げられる。
【0037】
(アンチモン系難燃剤)
アンチモン系難燃剤としては、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、ピロアンチモン酸ナトリウム、三塩化アンチモン、三硫化アンチモン、オキシ塩化アンチモン、二塩化アンチモンパークロロペンタン及びアンチモン酸カリウム等を挙げることができ、特に三酸化アンチモン、五酸化アンチモンが好ましい。
【0038】
(イントメッセント系難燃剤)
イントメッセント系難燃剤は、燃焼源からの輻射熱や、燃焼物から外部へ燃焼ガスや煙などの拡散を防ぐ表面膨張層(Intumescent)を形成することにより、材料の燃焼を抑制させる難燃剤である。イントメッセント系難燃剤としては、(ポリ)リン酸と窒素化合物との塩が挙げられる。具体的には、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸ピペラジン、ピロリン酸アンモニウム、ピロリン酸メラミン、ピロリン酸ピペラジン等の、(ポリ)リン酸のアンモニウム塩やアミン塩が挙げられる。
【0039】
((b)難燃剤の含有量)
本発明の積層体における難燃剤の含有量は特に限定されないが、熱可塑性樹脂組成物(X)中の含有量として、好ましくは1~30質量%の範囲である。1質量%以上であると、積層体に良好な難燃性を付与でき、良好な遮炎性が得られる。一方、難燃剤が30質量%以下であると、熱可塑性樹脂を十分な含有比で含むことができるので、成形加工性がより良好となる。以上の観点から、熱可塑性樹脂組成物(X)中の難燃剤の含有量は1~25質量%の範囲がより好ましく、3~20質量%の範囲がさらに好ましい。
また、熱可塑性樹脂層(B)に難燃剤を含有することも遮炎性向上の観点から好ましい。熱可塑性樹脂層(B)中の含有量として、好ましくは1~30質量%の範囲である。1質量%以上であると、積層体に良好な難燃性を付与でき、良好な遮炎性が得られる。一方、難燃剤が30質量%以下であると、熱可塑性樹脂を十分な含有比で含むことができるので、成形加工性がより良好となる。以上の観点から、熱可塑性樹脂層(B)中の難燃剤の含有量は1~25質量%の範囲がより好ましく、3~20質量%の範囲がさらに好ましい。
【0040】
<(c)分散剤>
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物(X)はさらに分散剤を含むことが好ましい。
(c)分散剤としては、(b)難燃剤を(a)熱可塑性樹脂中に分散させることができればよく、特に限定されないが、(a)熱可塑性樹脂との相溶性の点で、高分子分散剤を好適に使用することができる。好ましくは、(b)難燃剤を(a-1)ポリプロピレン系樹脂中に分散させることができるものを好適に用いることができる。高分子分散剤としては、官能基を有する高分子分散剤が好ましく、分散安定性の面からカルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基、一級、二級又は三級アミノ基、四級アンモニウム塩基、ピリジン、ピリミジン、ピラジン等の含窒素ヘテロ環由来の基、等の官能基を有する高分子分散剤が好ましい。
本発明においては、カルボキシル基を有する高分子分散剤が好ましく、特に、難燃剤として好適なリン系難燃剤を用いる場合には、α-オレフィンと不飽和カルボン酸との共重合体が好ましい。当該分散剤を用いることで、リン系難燃剤の分散性を向上させることができ、難燃剤の含有量を低減させることができる。
【0041】
(α-オレフィンと不飽和カルボン酸との共重合体)
本発明に係る「α-オレフィンと不飽和カルボン酸との共重合体」(以下、「共重合体(c1)」と記載する。)における、α-オレフィン単位と不飽和カルボン酸単位は、その合計100mol%のうちα-オレフィン単位の割合が20mol%以上80mol%以下であることが好ましい。
共重合体(c1)において、α-オレフィン単位と不飽和カルボン酸単位との合計量に対するα-オレフィン単位の割合は、30mol%以上であることがより好ましく、一方、70mol%以下であることがより好ましい。α-オレフィンの割合が前記下限値以上であれば、(a)ポリオレフィン系樹脂との相溶性がより優れたものとなり、前記上限値以下であれば、(b)ノンハロゲン系難燃剤との相溶性がより優れたものとなる。
【0042】
共重合体(c1)において、α-オレフィンとしては、炭素原子数5以上のα-オレフィンが好ましく、炭素原子数10以上80以下のα-オレフィンがより好ましい。α-オレフィンの炭素原子数が5以上であれば、(a)熱可塑性樹脂との相溶性がより良好となる傾向があり、80以下であれば、原料コストの点で有利である。以上の観点から、α-オレフィンの炭素原子数は12以上70以下であることがさらにより好ましく、18以上60以下であることが特に好ましい。
【0043】
また、共重合体(c1)において、不飽和カルボン酸としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、メチルマレイン酸、フマル酸、メチルフマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、グルタコン酸、ノルボルナン-5-エン-2,3-ジカルボン酸、及びこれらの不飽和カルボン酸のエステル、無水物、イミド等が挙げられる。なお、「(メタ)アクリル酸」はアクリル酸又はメタクリル酸を示すものである。
不飽和カルボン酸のエステル、無水物又はイミドの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルへキシル、(メタ)アクリル酸グリシジル等の(メタ)アクリル酸エステル;無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物等のジカルボン酸無水物;マレイミド、N-エチルマレイミド、N-フェニルマレイミド等のマレイミド化合物等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
上記の中では、共重合反応性の点から、エステルやジカルボン酸無水物が好ましい。中でも、難燃剤として好適なリン系難燃剤との相溶性の点から、ジカルボン酸無水物が好ましく、無水マレイン酸が特に好ましい。
【0044】
共重合体(c1)の重量平均分子量は、2,000以上が好ましく、3,000以上がより好ましく、一方、50,000以下が好ましく、30,000以下がより好ましい。共重合体(c1)の重量平均分子量が上記範囲内であれば、(b)難燃剤の分散性がより優れたものとなる。
なお、共重合体(c1)の重量平均分子量は、共重合体(c1)をテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィにより測定される標準ポリスチレン換算の値である。
【0045】
共重合体(c1)の市販品としては、リコルブCE2(クラリアントジャパン(株)製)、ダイヤカルナ30M(三菱ケミカル(株)製)が挙げられる。
【0046】
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物(X)中の(b)難燃剤100質量部に対する(c)分散剤の含有量は、0を超え、25質量部以下の範囲であり、好適には0.01~10質量部の範囲である。
本発明者らの検討によれば、積層体を構成する無機繊維中に熱可塑性樹脂をマトリクス樹脂として難燃剤が均一に分散して存在することで、積層体の遮炎性が顕著に向上しうる。詳細なメカニズムは不明だが、本発明者らは以下のように推測している。すなわち、無機繊維間の樹脂に難燃剤が均一に分散されている場合、難燃剤が接炎することにより形成されるチャーが無機繊維の間隙に固定される。さらに、無機繊維の間隙により、接炎時に膨張して形成されるチャーの大きさが制限されることで、形成されるチャーの大きさが均一になる。無機繊維によるチャーの固定効果とチャーの大きさの均一化が組み合わされることにより、緻密なチャーが形成され、積層体の遮炎性が著しく向上するものと考えている。本発明者らは、これらの知見に基づき、難燃剤に対する分散剤の含有量の比を特定の範囲とすることで、無機繊維間の樹脂中に難燃剤が均一に存在するように制御し、積層体の遮炎性を顕著に向上しうることを見出した。
以上の理由から、(c)分散剤の含有量が0超であると、(b)難燃剤の分散性が十分となり、積層体に十分な遮炎性を付与することができる。一方、25質量部以下であると積層体の物性が十分となる。同様の観点から、(c)分散剤の含有量は、0.01質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましく、1質量部以上がさらに好ましく、2質量部以上が特に好ましい。一方、上限値については、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下がさらに好ましく、10質量部以下がさらにより好ましく、5質量部以下がさらに好ましく、3質量部以下が特に好ましい。
【0047】
また、(a)熱可塑性樹脂及び(b)ノンハロゲン系難燃剤の合計100質量部に対する(c)分散剤の割合は、0.01質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上であることがさらに好ましい。一方、10質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましく、2.0質量部以下であることがさらに好ましく、1.5質量部以下であることがより好ましく、1.0質量部以下であることがさらに好ましい。(c)分散剤の割合が前記下限値以上であれば、(b)ノンハロゲン系難燃剤がより良好に分散し、得られる積層体の遮炎性や物性、得られる成形体の外観がより良好となる。(c)分散剤の割合が前記上限値以下であれば、(c)分散剤による積層体の遮炎性への影響をより抑制できる。特に、ポリオレフィン系樹脂及び(b)難燃剤の合計100質量部に対する(c)分散剤の割合は、0.01質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上であることがさらに好ましい。一方、10質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましく、2.0質量部以下であることがさらに好ましく、1.5質量部以下であることがより好ましく、1.0質量部以下であることがさらに好ましい。
【0048】
また、以下に詳述する(Y)無機繊維に対しては、(Y)無機繊維100質量部に対する(c)分散剤の割合が、0.01質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上であることがさらに好ましい。一方、10質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましく、2.0質量部以下であることがさらに好ましい。(c)分散剤の割合が前記下限値以上であれば、得られる積層体の遮炎性や物性、得られる成形体の外観がより良好となる。(c)分散剤の割合が前記上限値以下であれば、(c)分散剤による積層体の遮炎性への影響をより抑制できる。
【0049】
また、熱可塑性樹脂層(B)が難燃剤を含有する場合、熱可塑性樹脂層(B)はさらに分散剤を含有することが遮炎性向上の観点から好ましい。本発明に係る熱可塑性樹脂層(B)中の(b)難燃剤100質量部に対する(c)分散剤の含有量は、0を超え、25質量部以下の範囲であることが好ましく、0.01~10質量部の範囲であることがより好ましい。
【0050】
<(Y)無機繊維>
本発明の積層体は、熱可塑性樹脂組成物(X)と無機繊維(Y)が一体化した層(A)を有する。ここで、一体化した層とは、無機繊維(Y)に熱可塑性樹脂組成物(X)が浸透し、両者が渾然一体化した状態の層をいう。
(Y)無機繊維としては、種々の繊維を用いることができ、例えば、ガラス繊維、ロックウール、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維等の金属酸化物繊維、チタン酸カリウム繊維、ケイ酸カルシウム(ワラストナイト)繊維、セラミックファイバー等のセラミック繊維、炭素繊維、金属繊維等が挙げられる。これらの無機繊維は、1種単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記無機繊維のうち、遮炎性、加工性の観点から、ガラス繊維及びアルミナ繊維から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
(Y)無機繊維として、溶融温度の異なる2種以上の無機繊維を含むことができる。溶融温度の異なる2種以上の無機繊維の組合せとしては、少なくとも1種はガラス繊維であり、他の1種以上は、アルミナ繊維、シリカ繊維、アルカリアースシリケート繊維(生体溶解性)、及び炭素繊維からなる群より選ばれる1種以上の無機繊維の組合せであることが好ましい。溶融温度の異なる2種以上の無機繊維を含むことで、遮炎性の機能低下を効果的に防ぐことができる。
また、本発明で使用する無機繊維は、収束剤又は表面処理剤と組み合わせて使用してもよい。このような収束剤又は表面処理剤としては、例えば、エポキシ系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能基を有する化合物が挙げられる。
【0051】
無機繊維の平均繊維径としては、3~25μmであることが好ましい。また、平均繊維長としては、0.1mm以上であることが好ましく、1mm以上であることがより好ましく、5mm以上であることがさらに好ましい。
なお、平均繊維径及び平均繊維長については、無機繊維を構成する無機材料の種類によって、好適範囲が異なるため、具体的な好適範囲については、後述する。
また、繊維径は走査型電子顕微鏡などを用いて測定することができ、平均繊維径は、例えばランダムに10本の繊維の繊維径を測定し、平均値を計算することにより得ることができる。また、繊維長は必要に応じて顕微鏡等で拡大した画像から、定規、ノギス等を用いて測定することができ、平均繊維長は、例えばランダムに10本の繊維の繊維長を測定し、平均値を計算することにより得ることができる。
【0052】
本発明の積層体における無機繊維の含有量は、1~80質量%である。無機繊維の含有量が1質量%以上であると、積層体の強度、剛性、及び耐衝撃性が十分であり、80質量%以下であると、積層体の製造や加工の点で好ましい。また、無機繊維の含有量が80質量%以下であると積層体の比重が軽くなり、金属代替としての軽量化効果が顕著となる。
以上の観点から、積層体における(Y)無機繊維の含有量は3~60質量%であることがより好ましく、10~50質量%であることがさらに好ましく、30~45質量%であることが特に好ましい。
【0053】
(ガラス繊維)
本発明の積層体に好適な(Y)無機繊維の一つとして、ガラス繊維が挙げられる。ガラス繊維としては、例えば、平均繊維長が30mm以上の長い繊維であってもよいし、平均繊維長が短かい繊維(チョップドストランド)であってもよいが、遮炎性、剛性、耐衝撃性等の観点から、平均繊維長が長いガラス繊維を用いることが好ましい。
より具体的には、平均繊維長としては、5mm以上であることが好ましい。平均繊維長が5mm以上であると、積層体の強度及び耐衝撃性が良好となる。以上の観点から、ガラス繊維の平均繊維長は5mm以上であることが好ましく、30mm以上であることがさらに好ましい。
なお、ガラス繊維の平均繊維長の上限には、特に制限はなく、例えば、ガラス繊維を用いてプルトリュージョン法によって製造したペレットを使用する場合には、そのペレットの長さがガラス繊維の繊維長となるので、最大で20mm程度となる。また、ガラス長繊維を使用したスワールマット系では、製造に使用したロービングにおけるガラス繊維の長さが最大繊維長となるので、17000m(17km)程度にもなるが、積層体の大きさに合わせて、カットした場合は、カットした長さが最大繊維長となる。
【0054】
また、ガラス繊維の平均繊維径は、9~25μmの範囲であることが好ましい。平均繊維径が9μm以上であると、積層体の剛性及び耐衝撃性が十分となり、一方、平均繊維径が25μm以下であると、積層体の強度が良好となる。以上の観点から、ガラス繊維の平均繊維径は、10~15μmの範囲であることがさらに好ましい。
なお、ガラス繊維の平均繊維径及び平均繊維長については、上記方法により、測定することができる。
【0055】
本発明に用いられるガラス繊維の材質については、特別な制限はなく、無アルカリガラス、低アルカリガラス、含アルカリガラスのいずれでもよく、従来からガラス繊維として、使用されている各種の組成のものを使用することができる。
【0056】
(アルミナ繊維)
本発明の積層体に好適な(Y)無機繊維の一つとしてアルミナ繊維が挙げられる。アルミナ繊維は、通常アルミナとシリカからなる繊維であり、本発明の積層体においては、アルミナ繊維のアルミナ/シリカの組成比(質量比)は65/35~98/2のムライト組成、又はハイアルミナ組成と呼ばれる範囲にあることが好ましく、さらに好ましくは70/30~95/5、特に好ましくは70/30~74/26の範囲である。
【0057】
アルミナ繊維の平均繊維径としては、3~25μmの範囲が好ましく、繊維径3μm以下の繊維を実質的に含まないものが好ましい。ここで繊維径3μm以下の繊維を実質的に含まないとは、繊維径3μm以下の繊維が、全無機繊維質量の0.1質量%以下であることを表す。
また、アルミナ繊維の平均繊維径は、5~8μmであることがより好ましい。無機繊維の平均繊維径が太すぎると、マット状無機繊維集合体層の反発力や靭性が低下し、逆に細すぎても空気中に浮遊する発塵量が多くなり、また繊維径3μm以下の無機繊維が含有される確率が高くなる。
アルミナ繊維は、平均繊維長が好ましくは5mm以上、より好ましくは30mm以上、更に好ましくは50mm以上の繊維である。また、好ましくは3.0×10mm以下、より好ましくは1.0×10mm以下の繊維である。アルミナ繊維の平均繊維長及び平均繊維径がこの範囲であれば、積層体の強度及び耐衝撃性が良好となる。
【0058】
(炭素繊維)
炭素繊維もガラス繊維と好適な範囲は同等である。
【0059】
<任意添加成分>
本発明の積層体には、上記成分に加えて、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、発明の効果を一層向上させるなど、他の効果を付与する等の目的のため、任意の添加成分を配合することができる。
具体的には、顔料などの着色剤、ヒンダードアミン系などの光安定剤、ベンゾトリアゾール系などの紫外線吸収剤、ソルビトール系などの造核剤、フェノール系、リン系などの酸化防止剤、非イオン系界面活性剤などの帯電防止剤、無機化合物などの中和剤、チアゾール系などの抗菌・防黴剤、リグノフェノールなどの難燃助剤、可塑剤、有機金属塩系などの分散剤、脂肪酸アミド系などの滑剤、窒素化合物などの金属不活性剤、前記ポリプロピレン系樹脂以外のポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂やポリエステル樹脂などの熱可塑性樹脂、オレフィン系エラストマー及びスチレン系エラストマーなどのエラストマー(ゴム成分)等を挙げることができる。
これらの任意添加成分は、2種以上を併用してもよい。
【0060】
着色剤として、例えば、無機系や有機系の顔料などは、ポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体の、着色外観、見映え、風合い、商品価値、耐候性や耐久性などの付与、向上などに有効である。
具体例として、無機系顔料としては、ファーネスカーボン、ケッチェンカーボンなどのカーボンブラック;酸化チタン;酸化鉄(ベンガラ等);クロム酸(黄鉛など);モリブデン酸;硫化セレン化物;フェロシアン化物などが挙げられ、有機系顔料としては、難溶性アゾレーキ、可溶性アゾレーキ、不溶性アゾキレート;縮合性アゾキレート;その他のアゾキレートなどのアゾ系顔料;フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系顔料;アントラキノン、ペリノン、ペリレン、チオインジゴなどのスレン系顔料;染料レーキ;キナクリドン系;ジオキサジン系;イソインドリノン系などが挙げられる。また、メタリック調やパール調にするには、アルミフレーク;パール顔料を含有させることができる。また、染料を含有させることもできる。
【0061】
光安定剤や紫外線吸収剤として、例えば、ヒンダードアミン化合物、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系やサリシレート系などは、ポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体の耐候性や耐久性などの付与、向上に有効であり、耐候変色性の一層の向上に有効である。
具体例としては、ヒンダードアミン化合物として、コハク酸ジメチルと1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンとの縮合物;ポリ〔〔6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)イミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル〕〔(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ〕ヘキサメチレン〔(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ〕〕;テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート;テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート;ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート;ビス-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルセバケートなどが挙げられ、ベンゾトリアゾール系としては、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール;2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾールなどが挙げられ、ベンゾフェノン系としては、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン;2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノンなどが挙げられ、サリシレート系としては、4-t-ブチルフェニルサリシレート;2,4-ジ-t-ブチルフェニル3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシベンゾエートなどが挙げられる。
ここで、前記光安定剤と紫外線吸収剤とを併用する方法は、耐候性、耐久性、耐候変色性などの向上効果が大きく好ましい。
【0062】
酸化防止剤として、例えば、フェノール系、リン系やイオウ系の酸化防止剤などは、ポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体の、耐熱安定性、加工安定性、耐熱老化性などの付与、向上などに有効である。
また、帯電防止剤として、例えば、非イオン系やカチオン系などの帯電防止剤は、ポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体の帯電防止性の付与、向上に有効である。
【0063】
オレフィン系エラストマーとしては、例えば、エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(EPR)、エチレン・ブテン共重合体エラストマー(EBR)、エチレン・ヘキセン共重合体エラストマー(EHR)、エチレン・オクテン共重合体エラストマー(EOR)などのエチレン・α-オレフィン共重合体エラストマー;エチレン・プロピレン・エチリデンノルボルネン共重合体、エチレン・プロピレン・ブタジエン共重合体、エチレン・プロピレン・イソプレン共重合体などのエチレン・α-オレフィン・ジエン三元共重合体エラストマー、スチレン・ブタジエン・スチレントリブロック共重合体エラストマー(SBS)などを挙げることができる。
また、スチレン系エラストマーとしては、例えば、スチレン・イソプレン・スチレントリブロック共重合体エラストマー(SIS)、スチレン-エチレン・ブチレン共重合体エラストマー(SEB)、スチレン-エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(SEP)、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレン共重合体エラストマー(SEBS)、スチレン-エチレン・ブチレン-エチレン共重合体エラストマー(SEBC)、水添スチレン・ブタジエンエラストマー(HSBR)、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレン共重合体エラストマー(SEPS)、スチレン-エチレン・エチレン・プロピレン-スチレン共重合体エラストマー(SEEPS)、スチレン-ブタジエン・ブチレン-スチレン共重合体エラストマー(SBBS)、部分水添スチレン-イソプレン-スチレン共重合体エラストマー、部分水添スチレン-イソプレン・ブタジエン-スチレン共重合体エラストマーなどのスチレン系エラストマー、さらにエチレン-エチレン・ブチレン-エチレン共重合体エラストマー(CEBC)などの水添ポリマー系エラストマーなどを挙げることができる。
中でも、エチレン・オクテン共重合体エラストマー(EOR)及び/又はエチレン・ブテン共重合体エラストマー(EBR)を使用すると、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物やその成形体において、適度の柔軟性などが付与し易く、耐衝撃性が優れる傾向にあるなどの点から好ましい。
【0064】
<熱可塑性樹脂組成物(X)の製造方法>
本発明に係る熱可塑性樹脂組成物(X)は、上述のように、(a)熱可塑性樹脂、必要に応じて加えられる変性ポリオレフィン系樹脂、(b)ノンハロゲン系難燃剤、必要に応じて加えられる(c)分散剤を含有するものである。また、さらに任意添加成分が配合されていてもよい。前記の熱可塑性樹脂組成物(X)において、(a)熱可塑性樹脂が(a-1)ポリプロピレン系樹脂である場合には、特にポリプロピレン系樹脂組成物(以下「PP組成物」と記載することがある。)と呼称する場合がある。
熱可塑性樹脂組成物(X)、又はPP組成物の製造方法としては、従来公知の方法を用いることができ、上記成分を配合して混合、溶融混練することにより製造することができる。
混合は、タンブラー、Vブレンダー、リボンブレンダー等の混合器を用いて行われ、溶融混練は、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールミキサー、ブラベンダープラストグラフ、ニーダー等の機器を用い、溶融混練され、造粒される。
【0065】
<積層体の製造方法>
本発明の積層体は、その製造方法は特に限定されないが、好適には、(Y)無機繊維からなるマット(以下「無機繊維マット(Y)」と記載することがある。)に上記熱可塑性樹脂組成物(X)又はPP組成物を含浸させて製造することが好ましい。含浸の方法としては、無機繊維マット(Y)に熱可塑性組成物(X)又はPP組成物を塗布する方法、熱可塑性樹脂組成物(X)又はPP組成物のシート(以下「熱可塑性樹脂シート」又は「PPシート」と記載することがある。)を作製しておき、該熱可塑性樹脂シート又はPPシートを無機繊維マット(Y)に積層し、加熱、溶融させて含浸させる方法等がある。
本発明では、積層体の樹脂の繊維への含浸性の観点から、熱可塑性樹脂シート又はPPシートを無機繊維マット(Y)に積層し、加熱、溶融させる方法が好ましい。特に、無機繊維マットが2つの熱可塑性樹脂シート又はPPシートの間になるように積層され、その後、該積層体を加熱及び加圧し、ついで冷却固化することで得ることができる。
ここで熱可塑性樹脂シート又はPPシートの厚みとしては、繊維マットへの含浸が良好に行える範囲であれば特に制限はない。
【0066】
(無機繊維マット(Y))
積層体の製造方法において用いられる無機繊維の形態としては、特に制限はなく、様々な形態のものを使用することができるが、マット状ないしはシート状に形成しているものが好ましい。
より具体的には、ガラス繊維により形成されるマット(以下、「ガラス繊維マット」と記載する。)、アルミナ繊維に代表される金属酸化物繊維により形成されるマット(以下、「金属酸化物マット」と記載する。)が好ましい。
【0067】
当該無機繊維マットの坪量(単位面積当りの質量)は、特段の制限はなく、用途に応じて適宜決定されるが、好ましくは300g/m以上、より好ましくは800g/m超、より好ましくは1500g/m超である。また、当該無機繊維マットの坪量は、特段の制限はないが、好ましくは5000g/m以下、より好ましくは4500g/m以下、さらに好ましくは4000g/m以下、特に好ましくは3500g/m以下である。
本発明に係る無機繊維マットの厚みは、特段の制限はないが、好ましくは4mm以上、より好ましくは5mm以上、さらに好ましくは6mm以上である。また、当該繊維マットの厚みは、好ましくは40mm以下、さらに好ましくは35mm以下、特に好ましくは30mm以下である。
【0068】
無機繊維マットの単位面積当りの坪量(目付)は、該無機繊維マットを構成する無機繊維集積体を折り畳み装置にて積層する際、単位面積当りの繊維量を調整することによって、上記の範囲とすることができる。また、本発明の無機繊維マットは、複数の無機繊維マットを接着した構成であっても、単一の構成であってもよいが、ハンドリング性や接着界面における剥離強度の点から、単一の構成であることが好ましい。
【0069】
(ガラス繊維マット)
本発明に用いられるガラス繊維マットの形態としては、短繊維ガラス綿で加工したフェルト及びブランケット、連続ガラス繊維を加工したチョップドストランドマット、連続ガラス繊維のスワール(渦巻状)マット、一方向引き揃えマットなどが挙げられる。これらの中でも、特に連続ガラス繊維のスワール(渦巻状)マットをニードルパンチしたガラス繊維マットを使用すると、積層体の強度、および、耐衝撃性が優れており、好ましい。
【0070】
(金属酸化物繊維マット)
本発明に係る金属酸化物繊維マットは、アルミナ繊維等の金属酸化物繊維で構成され、かつニードリング処理が施されたマットである。
【0071】
熱可塑性樹脂シート又はPPシートを無機繊維マットに積層し、加熱、溶融させる方法において、加熱温度は170~300℃であることが好ましい。加熱温度が170℃以上であると、ポリプロピレン系樹脂の流動性が十分であり、無機繊維マットにPP組成物を十分に含浸させることができ、好適な樹脂含浸体が得られる。一方、加熱温度が300℃以下であると、熱可塑性樹脂組成物又はPP組成物が劣化することがない。
さらに、加圧圧力としては0.1~1MPaであることが好ましい。加圧圧力が0.1MPa以上であると、無機繊維マットに熱可塑性樹脂組成物又はPP組成物を十分に含浸させることができ、好適な樹脂含浸体が得られる。一方、1MPa以下とすることで、熱可塑性樹脂組成物又はPP組成物が流動し、バリが生じることがない。
また、冷却時の温度としては、熱可塑性樹脂組成物(X)又はPP組成物中の熱可塑性樹脂の凝固点以下であれば、特に制限されないが、冷却温度が80℃以下であると、得られた樹脂含浸体を取り出す際に変形することがない。以上の観点から、冷却温度は、室温~80℃であることが好ましい。
【0072】
上記の樹脂含浸体は、加熱装置の付いた金型内でプレス成形する方法、又は加熱装置の付いた2対のローラーの間を通して加熱と加圧を行うラミネート加工などにより、最終的に積層体が製造される。特に、ラミネート加工は、連続生産が行えるため、生産性が良く、好ましい。
【0073】
<積層体の厚み>
本発明の積層体の厚みは、通常1~10mm、好ましくは2~5mmである。この積層体の厚みが1mm以上であると、積層体の製造が容易であり、一方、積層体の厚みが10mm以下であれば、積層体をスタンピング成形などで加工する際に、長時間の予備加熱が必要とならず、良好な成形加工性が得られる。
本発明の層(A)の厚みは、特に限定されないが、積層体の全体厚みの40%以上であることが機械強度や成形性の向上の観点から好ましい。一方、遮炎性や断熱性向上の観点から、積層体の厚みの95%以下であることが好ましい。同様の観点から、層(A)の厚みは、積層体の全体厚みの45%以上であることがより好ましく、55%以上であることがさらに好ましく、60%以上であることが特に好ましく、90%以下であることがより好ましく、85%以下であることがさらに好ましく、80%以下であることが特に好ましい。積層体が層(A)を複数有する場合は、その合計の厚みが上記範囲内であればよい。
本発明の層(B)の厚みは、特に限定されないが、積層体の全体厚みの5%以上であることが遮炎性や断熱性の向上の観点から好ましい。一方、成形性の観点から、積層体の厚みの50%以下であることが好ましい。同様の観点から、層(B)の厚みは、積層体の全体厚みの10%以上であることがより好ましく、15%以上であることがさらに好ましく、20%以上であることが特に好ましく、45%以下であることがより好ましく、40%以下であることがさらに好ましい。積層体が層(A)を複数有する場合は、その合計の厚みが上記範囲内であればよい。
【0074】
<成形体>
本発明の積層体は、常法に従いスタンピング成形することで、所望の形状に成形することができ、本発明の積層体からなる成形体を得ることができる。
【0075】
(用途)
本発明の積層体の用途としては、例えば、自動車部品や電気電子機器部品などの工業分野の各種部品等が挙げられる。とりわけ強度と剛性、導電性に優れ、かつ、加工性にも優れるため、これらの性能をバランスよく、より高度に必要とされる用途、例えば、バッテリーケースなどの各種ハウジングや筐体に、好適に用いることができる。
【0076】
[構造体]
本発明の成形体からなる構造体としては、例えば、バッテリーハウジング、及びバッテリーセルが挙げられる。
本発明における構造体としては、バッテリーが好ましく、バッテリーとしては、特に限定されない。例えば、リチウムイオンバッテリー、ニッケル・水素電池、リチウム・硫黄電池、ニッケル・カドミウム電池、ニッケル・鉄電池、ニッケル・亜鉛電池、ナトリウム・硫黄電池、鉛蓄電池、空気電池等の二次電池が挙げられる。これらの中では、リチウムイオンバッテリーであることが好ましく、特には、本発明のバッテリーハウジングは、リチウムイオン電池の熱暴走を抑制するために好適に用いられる。すなわち、本発明のバッテリーハウジングは、リチウムイオン電池のバッテリーハウジングであることが好ましい。
【0077】
[電動モビリティ]
本発明における電動モビリティとは、電気をエネルギー源として稼働する車両や船舶、飛行機等の輸送機器をさす。なお、車両については、電動自動車(EV)に加えて、ハイブリッドカーも含まれる。
上述した本発明のバッテリーハウジング、及びバッテリーセルを有するバッテリー等の構造体は、安全性が高く、走行距離を伸ばすために、エネルギー密度を高くしたバッテリーモジュールを用いた電動モビリティ用として、非常に有用である。
【実施例0078】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(評価方法)
1.遮炎性の評価
各実施例及び比較例にて調製した積層体について、一方の表面から、1200℃のバーナーの炎をあて、15分間の後に炎が貫通するか否かで評価した。バーナーの火口からサンプルまでの距離は110mmとした。火炎面表面が1200℃となるように設定した。火炎面温度は熱電対温度計で確認した。
【0079】
2.耐炎性の評価
遮炎性の評価方法と同様にして、積層体の一方の表面から、1200℃のバーナーの炎をあて、接炎面の反対側の面(裏面)全面が溶融するまでの時間(秒)を測定した。当該時間が長いほど、耐炎性が高いと評価できる。また接炎面全体の燃焼が縮小するまでの時間(秒)を測定した。当該時間が短いほど耐炎性が高いと評価できる。
【0080】
3.発煙の評価
遮炎性の評価方法と同様にして、積層体の一方の表面から、1200℃のバーナーの炎をあて、接炎面の反対側の面(裏面)からの煙量を目視にて評価した。煙量が多い場合を大、中程度の場合を中、少ない場合を小とした。
また、裏面から発煙が開始するまでの時間(秒)及び裏面全面からの発煙が確認されるまでの時間(秒)を測定した。いずれの時間も長いほど良好である。
【0081】
4.断熱性の評価
上記1.に記載の遮炎性評価において、試験片のバーナーの炎を当てた面の反対側の面(裏面)の温度を非接触式放射温度計(キーエンス社製「FT-H50K」)で測定した。測定エリアはφ35mmである。測定エリアの中心がした箇所は、バーナーの炎の位置の直上付近になるように目視で設定した。表1には、600秒経過時までの裏面の最高到達温度(℃)を記載した。
【0082】
(使用した材料)
1.ポリプロピレン系樹脂(a成分)
(a1)日本ポリプロ(株)製、「ノバテックPP SA06GA」(メルトフローレート:60g/10分)を用いた。
(a2)日本ポリプロ(株)製、「ノバテックPP EC9GD」(メルトフローレート:0.5g/10分)を用いた。
【0083】
2.難燃剤(b成分)
リン系難燃剤組成物((株)ADEKA製、アデカスタブFP-2500S、リン系難燃剤組成物の総質量に対し、ピロリン酸ピベラジンを50~60質量%、ピロリン酸メラミンを35~45質量%、酸化亜鉛を3~6質量%含有)
【0084】
3.分散剤(c成分)
α-オレフィン・無水マレイン酸共重合体(三菱ケミカル(株)製、ダイヤカルナ30M、重量平均分子量7,800)。
【0085】
4.ガラス繊維マット(Y成分)
ロービングの連続したガラス繊維(繊維径23μm)から製造されたスワール(渦巻状)マット(坪量880g/m)をニードルパンチしたガラス繊維マットを使用した。
【0086】
調製例1(熱可塑性樹脂組成物(X)の調製)
上記a1成分68質量%、b成分30質量%、c成分2質量%を混合し、溶融混練(230℃)して、熱可塑性樹脂組成物(X)のペレットを調製した。
【0087】
調製例2(熱可塑性樹脂層(B)形成用樹脂組成物の調製)
上記a2成分68質量%、b成分30質量%、c成分2質量%、を混合し、溶融混練(230℃)して、熱可塑性樹脂層(B)形成用樹脂組成物のペレットを調製した。
【0088】
調製例3
調製例1において、b成分、c成分を配合せず、a1成分100質量%としたこと以外は調製例1同様に樹脂ペレットを調製した。
【0089】
実施例1
実施例1の積層体の製造方法について、図4を用いて以下に記載する。なお、図4はガラス繊維マットに熱可塑性樹脂組成物を含浸させる前の状態の層構成を示すものである。また、含浸後の層構成は図5に示す。
調製例1にて造粒した熱可塑性樹脂組成物(X)のペレットを押出機に入れて、溶融した後、シート状に押出し成形するとともに、押出されたシート状の熱可塑性樹脂組成物(X)(以下「シートX」と記載する。図4中の21)に対して、ガラス繊維マット22を両側から挟み込んで積層した。次いで、一方の面(図4の上側)に上記調製例2にて調製した熱可塑性樹脂組成物から形成されるシート(以下「シートY」と記載する。図4中の11)を積層し、他方の面(図4の下側)にシートXを積層し(図4中の13)、ラミネーターを用いて0.3MPaの圧力をかけながら、230℃で4分間、加熱及び加圧し、次いで、冷却固化させることで、積層体(厚み;2.5mm)を得た(図4参照)。シートXはガラスマット繊維に含浸され、図5に示すように一体化したガラス繊維樹脂含浸層(層(A)、図5中の12)の一方の表面に熱可塑性樹脂層(B)(図5中の11)が積層された積層体が得られた。得られた積層体を切断し、断面を光学顕微鏡で観察したところ、層(A)の厚みは1.9mm、層(B)の厚みは0.6mmであった。層(B)の厚みは、積層体全体の厚みの24%であった。
実施例1では、図5におけるガラス繊維樹脂含浸層(層(A))(図5中の12)を接炎層とし、熱可塑性樹脂層(B)(図5中では11)を裏面層として、上記方法により評価した。結果を表2に示す。
【0090】
実施例2
実施例1において、図5に示す熱可塑性樹脂層(B)(図5中では11)を接炎層とし、ガラス繊維樹脂含浸層(層(A))(図5中では12)を裏面層として、実施例1と同様に評価した。結果を表2に示す。
【0091】
実施例3
実施例1において、シートXの両面にガラス繊維マット22を両側から挟み込んで積層した積層物の両面にシートYを積層したこと以外は、実施例1同様にして、積層体を得た(図6及び図7参照)。シートXはガラスマット繊維に含浸され、図7に示すように一体化したガラス繊維樹脂含浸層(層(A))の両方の表面に熱可塑性樹脂層(B)が積層された積層体が得られた。実施例1と同様に評価した結果を表2に示す。
【0092】
比較例1
実施例1において、熱可塑性樹脂Xに代えて、調製例3にて調製したPP樹脂を用いたこと、また、調製例3にて調製したPP樹脂から形成される樹脂シート(シートZ)の両面にガラス繊維マット22を両側から挟み込んで積層したこと、その両面にシートZを積層したこと以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。評価結果を表2に示す。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
実施例1~3に示されるように、本発明の積層体は遮炎性に優れ、15分経過時点でも炎が遮断され、裏面に燃え広がることがなかった。なお、断熱性に関して、裏面温度はそれぞれ397℃から498℃の間に抑えられていた。
これらに対し、比較例1では140秒ほどで火炎が裏面に貫通した。また、比較例1では裏面まで貫通したため、耐炎性を評価することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の積層体は、上述のように、遮炎性、耐炎性、発煙抑制、断熱性に優れることから、航空機、船舶、自動車部品や電気電子機器部品、建築材など高い安全性が求められる各種工業部品の材料として有用である。とりわけ従来から金属が使用されていたバッテリーの各種ハウジングや筐体に、好適に用いることができ、自動車の安全性に貢献すると共に軽量化によるエネルギー効率の向上やCO排出量削減などが期待される。
【符号の説明】
【0097】
10 積層体
11 層(B)
12 層(A)
13 層(C)
21 樹脂シート(X)
22 ガラス繊維マット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7