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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060545
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20240424BHJP
   C08K 3/016 20180101ALI20240424BHJP
   C08K 3/32 20060101ALI20240424BHJP
   C08K 7/04 20060101ALI20240424BHJP
   C08L 23/02 20060101ALI20240424BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20240424BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/016
C08K3/32
C08K7/04
C08L23/02
C08J5/04 CER
C08J5/04 CEZ
B32B27/18 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022167994
(22)【出願日】2022-10-19
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 秀次
(72)【発明者】
【氏名】松井 純
(72)【発明者】
【氏名】竹之内 崇
【テーマコード(参考)】
4F072
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F072AA02
4F072AA08
4F072AB08
4F072AB09
4F072AB10
4F072AB29
4F072AD04
4F072AE07
4F072AF16
4F072AG03
4F072AH04
4F072AH23
4F072AH46
4F072AL02
4F072AL11
4F072AL17
4F100AA01A
4F100AA17A
4F100AA17B
4F100AB01A
4F100AB01B
4F100AD00A
4F100AD00B
4F100AG00A
4F100AG00B
4F100AK01A
4F100AK07A
4F100AK70A
4F100AT00B
4F100BA02
4F100BA07
4F100CA08A
4F100CA18A
4F100DG01A
4F100DG12B
4F100DG13B
4F100DG15B
4F100GB32
4F100GB41
4F100JJ02
4F100JJ07
4J002AA011
4J002BB001
4J002BB111
4J002BB112
4J002BB121
4J002BB162
4J002BB212
4J002DE107
4J002DH057
4J002DL006
4J002EU137
4J002EU187
4J002FA046
4J002FD016
4J002FD137
4J002GL00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】
遮炎性と断熱性に優れた成形体を提供すること。
【解決手段】
(A)熱可塑性樹脂と、(B)リン系難燃剤と、(C)繊維を含む樹脂組成物からなる成形体であって、下記試験方法(イ)で得た成形体表面の温度曲線を多項式近似により平滑化して得られる平滑化曲線について、その2階微分から変曲点を得たとき、2つ目の変曲点を有する、成形体。
試験方法(イ):成形体の表面を火炎面が1200℃となるようにバーナーで接炎させ、接炎面と反対側の表面の温度を非接触式温度計で測定し、t=200秒までの経過時間に対する表面温度をプロットした曲線を得る。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性樹脂と、(B)リン系難燃剤と、(C)繊維を含む樹脂組成物からなる成形体であって、下記試験方法(イ)で得た成形体表面の温度曲線を、多項式近似により平滑化して得られる平滑化曲線について、その2階微分から変曲点を得たとき、2つ目の変曲点を有する、成形体。
試験方法(イ):成形体の表面を火炎面が1200℃となるようにバーナーで接炎させ、接炎面と反対側の表面の温度を非接触式温度計で測定し、t=200秒までの経過時間に対する表面温度をプロットした曲線を得る。
【請求項2】
前記2つ目の変曲点は、t=40秒以降に存在する、請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
前記2つ目の変曲点は、t=180秒以内に存在する、請求項1に記載の成形体。
【請求項4】
前記2つ目の変曲点は、400℃以下に存在する、請求項1に記載の成形体。
【請求項5】
前記2階微分により得られる平滑化曲線上の1つ目の変曲点と3つ目の変曲点を結んだ線分と平滑化曲線とで囲まれる領域の面積(X1)と、50℃における点と1つ目の変曲点とを結んだ線分と平滑化曲線とで囲まれる領域の面積(Y)の比(面積(X1)/面積(Y))が1.0以上である、請求項1に記載の成形体。
【請求項6】
前記2階微分により得られる平滑化曲線上の2つ目の変曲点と3つ目の変曲点を結んだ線分と平滑化曲線とで囲まれる領域の面積(X2)と、50℃における点と1つ目の変曲点とを結んだ線分と平滑化曲線とで囲まれる領域の面積(Y)の比(面積(X2)/面積(Y))が0.5以上である、請求項1に記載の成形体。
【請求項7】
前記樹脂組成物が、さらに(D)分散剤を含む、請求項1、4又は5に記載の成形体。
【請求項8】
前記(D)分散剤がα-オレフィンと不飽和カルボン酸との共重合体である、請求項7に記載の成形体。
【請求項9】
前記(B)リン系難燃剤がイントメッセント系難燃剤である、請求項1、4又は5に記載の成形体。
【請求項10】
前記(C)繊維が無機繊維である、請求項1、4又は5に記載の成形体。
【請求項11】
前記無機繊維が、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維及び金属酸化物繊維から選ばれる少なくとも1種である、請求項10に記載の成形体。
【請求項12】
成形体が、前記樹脂組成物からなる樹脂層と、繊維からなる支持層を備えた積層体である、請求項1、4、又は5に記載の成形体。
【請求項13】
前記繊維からなる支持層が、不織布からなる不織布層、織布からなる織布層、又は編物からなる編物層である、請求項12に記載の成形体。
【請求項14】
前記支持層を構成する繊維が無機繊維である、請求項12に記載の成形体。
【請求項15】
前記無機繊維が、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維及び金属酸化物繊維から選ばれる少なくとも1種である、請求項14に記載の成形体。
【請求項16】
前記(A)熱可塑性樹脂がポリプロピレン系樹脂であり、樹脂組成物中のポリプロピレン系樹脂の含有量が15~80質量%である、請求項1、4、又は5に記載の成形体。
【請求項17】
前記樹脂組成物中の(B)リン系難燃剤の含有量が1~40質量%である、請求項1、4、又は5に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形体に関し、詳しくは遮炎性、断熱性に優れた成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境対策の一環として電気自動車やハイブリット自動車の研究開発が進められており、航続距離の向上を目指した高エネルギー密度のバッテリー開発と軽量化が盛んに進められている。このような高エネルギー密度のバッテリーは不慮の事故により発火する恐れがあり、乗客への安全対策としてそのハウジング材は高い遮炎性が必要なため、鉄などの金属材料と耐火材が併用されている場合が多い。
しかしながら、金属材料は重くなる欠点があり、耐火材を併用する場合には加工性や部品点数増加によるコスト増が課題となっている。そこで、軽量化と遮炎性を両立する可能性を有する樹脂化が試みられている。
一方、現在、持続可能な社会に向け、二酸化炭素の抑制やリサイクル性が重要視されてきている。熱硬化系の材料は高い難燃性を有するものが多く、複合材としては一般的であるが、リサイクル性の面では熱可塑性の樹脂素材が有利となる。
【0003】
また、中国ではGB 38031-2020《電動自動車動力用バッテリーの安全要求》という安全規格が発表され、バッテリーの熱暴走の5分前に警告を発することが義務付けられているが、これは、バッテリーの発火後5分以上遮炎するハウジング材によっても達成できると考えられている。
【0004】
これらの課題に対し、例えば特許文献1では、炭素繊維強化ポリプロピレン樹脂に臭素系難燃剤や酸化アンチモン化合物を添加したものなどが提案されている。しかしながら、ここで使用される添加剤は生体残留性に問題がある。
これに対し、生体残留性に配慮して、ポリプロピレン系樹脂を難燃化する技術として、特許文献2には、ポリオレフィン系樹脂に(ポリ)リン酸塩化合物を含有させた難燃性ポリオレフィン系組成物が提案されている。
また、特許文献3には、ポリプロピレン樹脂にガラス長繊維とリン酸塩化合物を含有した難燃性樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-62189号公報
【特許文献2】特開2013-119575号公報
【特許文献3】特開2011-88970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、高エネルギー密度のバッテリーの軽量化と遮炎性を両立する可能性を有する樹脂化に対して、従来の技術では、不十分な点が多い。具体的には、高度な遮炎性と断熱性を有する成形体が求められている
【0007】
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、遮炎性と断熱性に優れた成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、(A)熱可塑性樹脂と、(B)リン系難燃剤と、(C)繊維を含む樹脂組成物からなる成形体であって、特定の条件で得られる温度曲線上に特定の変曲点が存在する成形体によって、上記の課題を解決できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づき、完成したものである。すなわち、本発明は、以下の[1]~[17]を提供する。
【0009】
[1](A)熱可塑性樹脂と、(B)リン系難燃剤と、(C)繊維を含む樹脂組成物からなる成形体であって、下記試験方法(イ)で得た成形体表面の温度曲線を、多項式近似により平滑化して得られる平滑化曲線について、その2階微分から変曲点を得たとき、2つ目の変曲点を有する、成形体。
試験方法(イ):成形体の表面を火炎面が1200℃となるようにバーナーで接炎させ、接炎面と反対側の表面の温度を非接触式温度計で測定し、t=200秒までの経過時間に対する表面温度をプロットした曲線を得る。
[2]前記2つ目の変曲点は、t=40秒以降に存在する、上記[1]に記載の成形体。
[3]前記2つ目の変曲点は、t=180秒以内に存在する、上記[1]又は[2]に記載の成形体。
[4]前記2つ目の変曲点は、400℃以下に存在する、上記[1]~[3]のいずれかに記載の成形体。
[5]前記2階微分により得られる平滑化曲線上の1つ目の変曲点と3つ目の変曲点を結んだ線分と平滑化曲線とで囲まれる領域の面積(X1)と、50℃における点と1つ目の変曲点とを結んだ線分と平滑化曲線とで囲まれる領域の面積(Y)の比(面積(X1)/面積(Y))が1.0以上である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の成形体。
[6]前記2階微分により得られる平滑化曲線上の2つ目の変曲点と3つ目の変曲点を結んだ線分と平滑化曲線とで囲まれる領域の面積(X2)と、50℃における点と1つ目の変曲点とを結んだ線分と平滑化曲線とで囲まれる領域の面積(Y)の比(面積(X2)/面積(Y))が0.5以上である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の成形体。
[7]前記樹脂組成物が、さらに(D)分散剤を含む、上記[1]~[6]のいずれかに記載の成形体。
[8]前記(D)分散剤がα-オレフィンと不飽和カルボン酸との共重合体である、上記[7]に記載の成形体。
[9]前記(B)リン系難燃剤がイントメッセント系難燃剤である、上記[1]~[8]のいずれかに記載の成形体。
[10]前記(C)繊維が無機繊維である、上記[1]~[9]のいずれかに記載の成形体。
[11]前記無機繊維が、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維及び金属酸化物繊維から選ばれる少なくとも1種である、上記[10]に記載の成形体。
[12]成形体が、前記樹脂組成物からなる樹脂層と、繊維からなる支持層を備えた積層体である、上記[1]~[11]のいずれかに記載の成形体。
[13]前記繊維からなる支持層が、不織布からなる不織布層、織布からなる織布層、又は編物からなる編物層である、上記[12]に記載の成形体。
[14]前記支持層を構成する繊維が無機繊維である、上記[12]又は[13]に記載の成形体。
[15]前記無機繊維が、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維及び金属酸化物繊維から選ばれる少なくとも1種である、上記[14]に記載の成形体。
[16]前記(A)熱可塑性樹脂がポリプロピレン系樹脂であり、樹脂組成物中のポリプロピレン系樹脂の含有量が15~80質量%である、上記[1]~[15]のいずれかに記載の成形体。
[17]前記樹脂組成物中の(B)リン系難燃剤の含有量が1~40質量%である、上記[1]~[16]のいずれかに記載の成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、遮炎性と断熱性に優れた成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の積層体の一態様を示す模式図である。
図2】本発明の積層体と炎の位置関係を示す模式図である。
図3】本発明の積層体の別の一態様を示す模式図である。
図4】本発明の積層体の別の一態様を示す模式図である。
図5】本発明の積層体を製造する方法の一例を示す模式図である。
図6】実施例1~4、比較例1について遮炎試験で得た成形体の裏面の温度曲線を示すグラフである。
図7】実施例1の裏面温度曲線を平滑化した曲線を示すグラフである。横軸は経過時間(秒)、縦軸は裏面温度(℃)である。曲線上に変曲点をプロットしている。
図8】実施例2の裏面温度曲線を平滑化した曲線を示すグラフである。横軸は経過時間(秒)、縦軸は裏面温度(℃)である。平滑化曲線上に変曲点をプロットしている。
図9】実施例3の裏面温度曲線を平滑化した曲線を示すグラフである。横軸は経過時間(秒)、縦軸は裏面温度(℃)である。平滑化曲線上に変曲点をプロットしている。
図10】実施例4の裏面温度曲線を平滑化した曲線を示すグラフである。横軸は経過時間(秒)、縦軸は裏面温度(℃)である。平滑化曲線上に変曲点をプロットしている。
図11】比較例1の裏面温度曲線を平滑化した曲線を示すグラフである。横軸は経過時間(秒)、縦軸は裏面温度(℃)である。平滑化曲線上に変曲点をプロットしている。
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、以下の説明は、本発明の実施態様の一例であり、本発明はこれらの内容に何ら限定されない。
【0013】
[成形体]
本発明の成形体は、(A)熱可塑性樹脂と、(B)リン系難燃剤と、(C)繊維を含む樹脂組成物からなる成形体である。
下記試験方法(イ)で得た成形体表面の温度曲線を、多項式近似により平滑化して得られる平滑化曲線(以下、「平滑化温度曲線」と呼ぶことがある。)について、その2階微分から変曲点を得たとき、2つ目の変曲点が存在することが特徴である。
試験方法(イ):成形体の表面を火炎面が1200℃となるようにバーナーで接炎させ、接炎面と反対側の表面の温度を非接触式温度計で測定し、t=200秒までの経過時間に対する表面温度をプロットした曲線を得る。
【0014】
本発明者らは、遮炎性と断熱性に優れた成形体を得るための検討を重ねる過程で、上記試験方法(イ)により得られる成形体の接炎初期の温度曲線の形状と、遮炎性能との間に一定の関係があることを見出し、この点に着目した。試験方法(イ)で得た成形体表面の温度曲線を、多項式近似により平滑化して得られる平滑化温度曲線について、その2階微分から変曲点を得たとき、2つ目の変曲点が存在する場合には、成形体が1200℃のバーナーの接炎に対して10分以上炎が貫通せず、孔が開かないことを見出した。
一方、成形体に2つ目の変曲点が存在しない場合には、短時間のうちに炎が貫通し、孔が開いた。この詳細な理由はいまだ明らかではないが、以下のように考えられる。
すなわち、変曲点はその点において曲線が凹(上に凸)から凸(下に凸)へまたはその逆へ変化するものをいうところ、前記平滑化温度曲線が変曲点を持つとは、曲線が凹(上に凸)から凸(下に凸)へまたはその逆へ変化していることを意味する。本発明の成形体の平滑化温度曲線におけるこのような変化は、その時点において成形体中に含まれるリン系難燃剤によって形成される膨張炭化層が熱の伝導を遮断し、成形体の裏面表面の温度上昇を抑制することによると考えられる。一方で、成形体が十分な膨張炭化層を形成しない場合には、温度曲線には変曲点は現れない。このような場合、遮炎評価を続けると炎が貫通して穴が開いてしまい、結果的には遮炎性を実現することはできないこととなる。以上のように、本発明者らは成形体の接炎初期の温度曲線の形状と、遮炎性能との間の一定の関係に着目し、平滑化温度曲線の変曲点、特に2つ目の変曲点の有無がその後の遮炎性能を予測する指標として用いることができうることを見出したものである。
上記温度曲線を、多項式近似により平滑化して平滑化温度曲線を得る方法としては、具体的には、最小二乗法により6次の多項式に近似によることによる平滑化曲線を得る方法等が挙げられる。
【0015】
本発明の成形体は、前記の通り平滑化温度曲線上に2つ目の変曲点を有するものであるが、遮炎性と断熱性の向上の観点から、2つ目の変曲点はt=40秒以降に存在することが好ましく、t=60秒以降に存在することがより好ましい。また、同様の観点から、2つ目の変曲点はt=180秒以内に存在することが好ましく、t=150秒以内に存在することがより好ましく、t=120秒以内に存在することがさらに好ましい。
また、遮炎性と断熱性の向上の観点から、2つ目の変曲点は400℃以下の点であることが好ましく、350℃以下の点であることがより好ましく、320℃以下の点であることがさらに好ましく、300℃以下の点であることが特に好ましい。一方、2つ目の変曲点は通常100℃以上の点である。
【0016】
また、本発明の成形体は、前記2階微分により得られる平滑化曲線上の1つ目の変曲点と3つ目の変曲点を結んだ線分と平滑化曲線とで囲まれる領域の面積(X1)と、50℃における点と1つ目の変曲点とを結んだ線分と平滑化曲線とで囲まれる領域の面積(Y)の比(面積(X1)/面積(Y))が1.0以上であることが好ましい。
前記の通り、接炎初期における平滑温度曲線の形状の変化は、成形体中のリン系難燃剤による膨張炭化層の形成によるものと考えられる。よって、平滑化曲線上の1つ目の変曲点と3つ目の変曲点を結んだ線分と平滑化曲線とで囲まれる領域の面積(X1)の大きさは、近似的に断熱膨張層により遮蔽できた熱量に相当すると考えられる。一方、発明者らの検討により、接炎最初期から1つ目の変曲点との間の平滑化温度曲線は、成形体によらず概ね同様の形状となることが分かっている。これは、この期間内においてはリン系難燃剤による膨張炭化層の形成が始まっておらず、成形体の厚み方向の熱伝導によって温度曲線が決まるためと考えている。よって、最初期の平滑化温度曲線の面積、具体的には50℃における点と1つ目の変曲点とを結んだ線分と平滑化曲線とで囲まれる領域の面積(Y)で、前記面積(X1)を除することで、規格化を行う。規格化後の面積比面積(X1)/面積(Y)は、遮炎性と断熱性を高める観点から、1.2以上が好ましく、2.0以上がより好ましく、2.2以上がさらに好ましい。また、同様の観点から、20以下が好ましく、15以下がより好ましく、12以下がさらに好ましい。
【0017】
また、本発明の成形体は、前記2階微分により得られる平滑化曲線上の2つ目の変曲点と3つ目の変曲点を結んだ線分と平滑化曲線とで囲まれる領域の面積(X2)と、50℃における点と1つ目の変曲点とを結んだ線分と平滑化曲線とで囲まれる領域の面積(Y)の比(面積(X2)/面積(Y))が0.5以上であることが好ましい。
前記の通り、接炎初期における平滑温度曲線の形状の変化は、成形体中のリン系難燃剤による膨張炭化層の形成によるものと考えられる。よって、平滑化曲線上の2つ目の変曲点と3つ目の変曲点を結んだ線分と平滑化曲線とで囲まれる領域の面積(X2)の大きさは、近似的に断熱膨張層により遮蔽できた熱量に相当すると考えられる。一方、発明者らの検討により、接炎最初期から1つ目の変曲点との間の平滑化温度曲線は、成形体によらず概ね同様の形状となることが分かっている。これは、この期間内においてはリン系難燃剤による膨張炭化層の形成が始まっておらず、成形体の厚み方向の熱伝導によって温度曲線が決まるためと考えている。よって、最初期の平滑化温度曲線の面積、具体的には50℃における点と1つ目の変曲点とを結んだ線分と平滑化曲線とで囲まれる領域の面積(Y)で、前記面積(X2)を除することで、規格化を行う。規格化後の面積比(面積(X2)/面積(Y))は、遮炎性と断熱性を高める観点から、0.7以上が好ましく、1.0以上がより好ましく、1.2以上がさらに好ましい。また、同様の観点から、15以下が好ましく、12以下がより好ましく、10以下がさらに好ましい。
【0018】
<樹脂組成物>
本発明の成形体は、(A)熱可塑性樹脂と、(B)リン系難燃剤と、(C)繊維を含む樹脂組成物からなる。以下、該樹脂組成物を構成する(A)熱可塑性樹脂及び(B)リン系難燃剤、(C)繊維について、詳細に説明する。
【0019】
<<(A)熱可塑性樹脂>>
本発明に係る樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂としては、特段の制限はなく、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリアミド樹脂、変性ポリフェニレンオキサイド、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン等が挙げられる。なお、これらは1種を使用してもよいし、2種以上を使用してもよい。例えば熱可塑性樹脂(A)が、上記のうち2種以上の熱可塑性樹脂の複合樹脂であってもよい。
これらのうち、樹脂の物性、汎用性、コスト等の点から、ポリオレフィン樹脂が好ましく、特にポリプロピレン系樹脂であることが好ましい。
【0020】
ポリオレフィン樹脂としては、特段の制限はなく、後述の樹脂が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、特段の制限はなく、例えば、ポリブチレンテレフタレートが挙げられる。ポリアミド樹脂としては、特段の制限はなく、例えば、ナイロン66、ナイロン6が挙げられる。
なかでも、本発明は特に、熱可塑性樹脂(A)として少なくともポリオレフィン樹脂を含む場合に特に有用である。なお、本発明において「ポリオレフィン樹脂」とは、樹脂を構成する全ての構成単位100mol%に対し、オレフィン単位又はシクロオレフィン単位が占める割合が90mol%以上である樹脂を意味する。
ポリオレフィン樹脂を構成する全ての構成単位100mol%に対し、オレフィン単位又はシクロオレフィン単位が占める割合は、95mol%以上が好ましく、98mol%以上が特に好ましい。
【0021】
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ(3-メチル-1-ブテン)、ポリ(3-メチル-1-ペンテン)、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)等のα-オレフィン重合体;エチレン-プロピレンブロック又はランダム共重合体、炭素原子数4以上のα-オレフィン-プロピレンブロック又はランダム共重合体、エチレン-メチルメタクリレート共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のα-オレフィン共重合体;ポリシクロヘキセン、ポリシクロペンテン等のシクロオレフィン重合体等が挙げられる。
ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等が挙げられる。ポリプロピレンとしては、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン、ヘミアイソタクチックポリプロピレン、ステレオブロックポリプロピレン等が挙げられる。炭素原子数4以上のα-オレフィン-プロピレンブロック又はランダム共重合体において、炭素原子数4以上のα-オレフィンとしては、ブテン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン等が挙げられる。
これらのうち、本発明の成形体においては、(A)熱可塑性樹脂がポリプロピレン系樹脂であることが特に好ましい。ポリプロピレン系樹脂については、後に詳述する。
なお、上記ポリオレフィン樹脂は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0022】
(メルトフローレート(MFR))
本発明に用いられる(A)熱可塑性樹脂のメルトフローレート(以下、MFRと略記することがある)(230℃、2.16kg荷重)は、5~500g/10分であることが好ましい。MFRが5g/10分以上であると、例えば射出成形により成形体を作製する際に良好な流動性が得られ、加工性が良好となる。一方、500g/10分以下であると、成形体の強度が十分となる。以上の観点から、MFRは、好ましくは10~300g/10分、より好ましくは20~200g/10分、さらに好ましくは25~100g/10分の範囲である。
なお、(A)熱可塑性樹脂は、例えば、重合時の水素濃度等を制御することにより、MFRを調整することができる。また、MFRは、JIS K7210に準拠して測定した値である。
【0023】
((A)熱可塑性樹脂の含有量)
本発明に係る樹脂組成物中の(A)熱可塑性樹脂の含有量は、特に限定されないが、好ましくは、15~80質量%である。熱可塑性樹脂の含有量が15質量%以上であると成形加工性が特に良好となり、成形体の成形が容易となる。一方、80質量%以下であると、難燃剤、分散剤及び無機繊維等を十分な量含有でき、良好な遮炎性を得ることができる。以上の観点から、樹脂組成物中の熱可塑性樹脂の含有量は35~70質量%であることが好ましく、40~60質量%であることがより好ましい。なお、(A)熱可塑性樹脂が上述の好適なポリプロピレン系樹脂の場合も、好適な含有量は同様である。
【0024】
<<<(A-1)ポリプロピレン系樹脂>>>
本発明に係る樹脂組成物を構成する(A)熱可塑性樹脂としては、上述のように、ポリプロピレン系樹脂を含むことが好ましい。ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体、又はプロピレン-α-オレフィン共重合体が挙げられる。ここでプロピレン-α-オレフィン共重合体は、ランダム共重合体及びブロック共重合体のいずれであってもよい。
【0025】
(α-オレフィン)
上記共重合体を構成するα-オレフィンとしては、例えば、エチレン、1-ブテン、2-メチル-1-プロペン、1-ペンテン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、2-エチル-1-ブテン、2,3-ジメチル-1-ブテン、2-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、3,3-ジメチル-1-ブテン、1-ヘプテン、メチル-1-ヘキセン、ジメチル-1-ペンテン、エチル-1-ペンテン、トリメチル-1-ブテン、1-オクテン等を挙げることができる。これらは、1種を用いてプロピレンと共重合してもよく、また、2種以上を用いてプロピレンと共重合してもよい。中でも、成形体の耐衝撃強度の向上という観点からは、その効果が大きいエチレン又は1-ブテンであるのが好ましく、最も好ましいのはエチレンである。
【0026】
(プロピレン-エチレンランダム共重合体)
プロピレンとエチレンのランダム共重合体の場合、好ましくはプロピレン単位を90~99.5質量%、さらに好ましくは92~99質量%、エチレン単位を好ましくは0.5~10質量%、さらに好ましくは1~8質量%含んでなるものである。エチレン単位が上記下限値以上であると、成形体の十分な耐衝撃強度が得られ、また、上記上限値以下であると、十分な剛性が維持される。
プロピレンとエチレンのランダム共重合体におけるプロピレン単位とエチレン単位の含量は、プロピレンとエチレンのランダム共重合体の重合時のプロピレンとエチレンの組成比を、制御することにより、調整することができる。
また、プロピレンとエチレンのランダム共重合体のプロピレン含量は、クロス分別装置やFT-IR等を用いて測定される値であり、その測定条件等は、例えば、特開2008-189893号公報に記載されている方法を使用すればよい。
【0027】
<<<変性ポリオレフィン系樹脂>>>
本発明に係る樹脂組成物は、上記ポリプロピレン系樹脂に加えて、さらに変性ポリオレフィン系樹脂を含むことができる。変性ポリオレフィン系樹脂としては、具体的には、酸変性ポリオレフィン系樹脂及びヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂が挙げられ、これらはそれぞれ単独で、又は両者を併用することもできる。
なお、変性ポリオレフィン系樹脂として用いる、酸変性ポリオレフィン系樹脂及びヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂の種類としては、特に制限はなく、従来公知のものであってもよい。
【0028】
(酸変性ポリオレフィン系樹脂)
酸変性ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-α-オレフィン共重合体、エチレン-α-オレフィン-非共役ジエン化合物共重合体(EPDMなど)、エチレン-芳香族モノビニル化合物-共役ジエン化合物共重合エラストマーなどのポリオレフィンを、マレイン酸又は無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸を用いてグラフト共重合し、化学変性したものが挙げられる。
このグラフト共重合は、例えば、上記ポリオレフィンを適当な溶媒中で、ベンゾイルパーオキシドなどのラジカル発生剤を用いて、不飽和カルボン酸と反応させることにより行われる。また、不飽和カルボン酸又はその誘導体の成分は、ポリオレフィン用モノマーとのランダム又はブロック共重合によりポリマー鎖中に導入することもできる。
【0029】
変性のために使用される不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸等のカルボキシル基、及び必要に応じてヒドロキシル基やアミノ基などの官能基が導入された重合性二重結合を有する化合物が挙げられる。
また、不飽和カルボン酸の誘導体としては、これらの酸無水物、エステル、アミド、イミド、金属塩等があり、その具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル等を挙げることができる。これらのうち、好ましくは無水マレイン酸である。
【0030】
好ましい酸変性ポリオレフィン系樹脂としては、エチレン及び/又はプロピレンを主たるポリマー構成単位とするオレフィン系重合体に、無水マレイン酸をグラフト重合することにより変性したもの、エチレン及び/又はプロピレンを主体とするオレフィンと無水マレイン酸とを共重合することにより変性したものなどが挙げられる。具体的には、ポリエチレン/無水マレイン酸グラフトエチレン・ブテン-1共重合体の組み合わせ、又はポリプロピレン/無水マレイン酸グラフトポリプロピレンの組み合わせなどが挙げられる。
【0031】
(ヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂)
ヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂は、ヒドロキシル基を含有する変性ポリオレフィン系樹脂である。ヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂は、ヒドロキシル基を適当な部位、例えば、主鎖の末端や側鎖に有していてもよい。
ヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂を構成するオレフィン系樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、4-メチルペンテン-1、ヘキセン、オクテン、ノネン、デセン、ドデセンなどのα-オレフィンの単独又は共重合体、前記α-オレフィンと共重合性単量体との共重合体などが例示できる。
好ましいヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、低密度、中密度又は高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体などのヒドロキシ変性ポリエチレン系樹脂、例えば、アイソタクチックポリプロピレンなどのポリプロピレンホモポリマー、プロピレンとα-オレフィン(例えば、エチレン、ブテン、ヘキサンなど)とのランダム共重合体、プロピレン-α-オレフィンブロック共重合体など、ヒドロキシ変性ポリ(4-メチルペンテン-1)などのヒドロキシ変性ポリプロピレン系樹脂が例示できる。
【0032】
<(B)リン系難燃剤>
本発明に係る樹脂組成物は(B)リン系難燃剤を含有する。リン系難燃剤は遮炎性向上の観点、生体残留性がなく、優れた難燃性を有する点から、好ましい。なお、本発明では、リン系難燃剤を必須とするが、その他の難燃剤を併用してもよく、具体的には、臭素系難燃剤、アンチモン系難燃剤等が挙げられる。また、難燃剤の作用機構に着目した分類では、(B)難燃剤は、イントメッセント系難燃剤であることが遮炎性向上の観点からは好ましい。
【0033】
リン系難燃剤は、リン化合物、すなわち分子中にリン原子を含む化合物である。リン系難燃剤は、樹脂組成物の燃焼時にチャーを形成させることで難燃効果を発揮する。
リン系難燃剤としては、公知のものであってよく、例えば(ポリ)リン酸塩、(ポリ)リン酸エステル等が挙げられる。ここで、「(ポリ)リン酸塩」は、リン酸塩又はポリリン酸塩を示し、「(ポリ)リン酸エステル」は、リン酸エステル又はポリリン酸エステルを示す。
なお、リン系難燃剤は、80℃において固体であることが好ましい。
【0034】
リン系難燃剤としては、難燃性の点で、(ポリ)リン酸塩が好ましい。
(ポリ)リン酸塩としては、例えば、ポリリン酸アンモニウム塩、ポリリン酸メラミン塩、ポリリン酸ピペラジン塩、オルトリン酸ピペラジン塩、ピロリン酸メラミン塩、ピロリン酸ピペラジン塩、ポリリン酸メラミン塩、オルトリン酸メラミン塩、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム等が挙げられる。
また、上記例示において、メラミン又はピペラジンを他の窒素化合物に置き換えた化合物も同様に使用できる。他の窒素化合物としては、例えば、N,N,N’,N’-テトラメチルジアミノメタン、エチレンジアミン、N,N’-ジメチルエチレンジアミン、N,N’-ジエチルエチレンジアミン、N,N-ジメチルエチレンジアミン、N,N-ジエチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-ジエチルエチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,3-プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,7-ジアミノへプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、trans-2,5-ジメチルピペラジン、1,4-ビス(2-アミノエチル)ピペラジン、1,4-ビス(3-アミノプロピル)ピペラジン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、アクリルグアナミン、2,4-ジアミノ-6-ノニル-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-ハイドロキシ-1,3,5-トリアジン、2-アミノ-4,6-ジハイドロキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-メトキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-エトキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-プロポキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-イソプロポキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-メルカプト-1,3,5-トリアジン、2-アミノ-4,6-ジメルカプト-1,3,5-トリアジン、アンメリン、ベンズグアナミン、アセトグアナミン、フタロジグアナミン、メラミンシアヌレ-ト、ピロリン酸メラミン、ブチレンジグアナミン、ノルボルネンジグアナミン、メチレンジグアナミン、エチレンジメラミン、トリメチレンジメラミン、テトラメチレンジメラミン、ヘキサメチレンジメラミン、1,3-ヘキシレンジメラミン等が挙げられる。これらの(ポリ)リン酸塩は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0035】
リン系難燃剤としては、上記の中でも、(ポリ)リン酸と窒素化合物との塩(以下、「化合物(b1)」とも記す。)が好ましい。化合物(b1)は、イントメッセント系難燃剤であり、樹脂組成物の燃焼時に、発泡したチャーである表面膨張層(イントメッセント)を形成させる。表面膨張層が形成されることで、分解生成物の拡散や伝熱が抑制され、優れた難燃性が発現する。
化合物(b1)における窒素化合物としては、アンモニア、メラミン、ピペラジン、前記した他の窒素化合物等が挙げられる。
【0036】
リン系難燃剤の市販品としては、アデカスタブFP-2100J、FP-2200、FP-2500S((株)ADEKA製)等が挙げられる。
【0037】
(臭素系難燃剤)
臭素系難燃剤としては、例えば、デカブロモジフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールS、1,2-ビス(2’,3’,4’,5’,6’-ペンタブロモフェニル)エタン、1,2-ビス(2,4,6-トリブロモフェノキシ)エタン、2,4,6-トリス(2,4,6-トリブロモフェノキシ)-1,3,5-トリアジン、2,6-ジブロモフェノール、2,4-ジブロモフェノール、臭素化ポリスチレン、エチレンビステトラブロモフタルイミド、ヘキサブロモシクロドデカン、ヘキサブロモベンゼン、ペンタブロモベンジルアクリレート、2,2-ビス[4’(2’’,3’’-ジブロモプロポキシ)-3’,5’-ジブロモフェニル]-プロパン、ビス[3,5-ジブロモ-4-(2,3-ジブロモプロポキシ)フェニル]スルホン、トリス(2,3-ジブロモプロピル)イソシアヌレートなどが挙げられる。
【0038】
(アンチモン系難燃剤)
アンチモン系難燃剤としては、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、ピロアンチモン酸ナトリウム、三塩化アンチモン、三硫化アンチモン、オキシ塩化アンチモン、二塩化アンチモンパークロロペンタン及びアンチモン酸カリウム等を挙げることができ、特に三酸化アンチモン、五酸化アンチモンが好ましい。
【0039】
(イントメッセント系難燃剤)
イントメッセント系難燃剤は、燃焼源からの輻射熱や、燃焼物から外部へ燃焼ガスや煙などの拡散を防ぐ表面膨張層(Intumescent)を形成することにより、材料の燃焼を抑制させる難燃剤である。イントメッセント系難燃剤としては、(ポリ)リン酸と窒素化合物との塩が挙げられる。具体的には、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸メラミン、ポリリン酸ピペラジン、ピロリン酸アンモニウム、ピロリン酸メラミン、ピロリン酸ピペラジン等の、(ポリ)リン酸のアンモニウム塩やアミン塩が挙げられる。
【0040】
上記難燃剤のうち、環境性の点から、ノンハロゲン系難燃剤が好ましい。また、得られる繊維強化樹脂複合材料の遮炎性向上の観点からイントメッセント系難燃剤が好ましい。
なお、上記難燃剤は、1種を単独で使用することができ、又は2種以上を併用することもできる。
【0041】
((B)リン系難燃剤の含有量)
本発明に係る樹脂組成物におけるリン系難燃剤の含有量は特に限定されないが、熱可塑性樹脂組成物中の含有量として、好ましくは1~40質量%の範囲である。1質量%以上であると、本発明の成形体に良好な難燃性を付与でき、良好な遮炎性が得られる。一方、リン系難燃剤が40質量%以下であると、熱可塑性樹脂を十分な含有比で含むことができるので、成形加工性がより良好となる。以上の観点から、熱可塑性樹脂組成物中の難燃剤の含有量は1~30質量%の範囲がより好ましく、3~25質量%の範囲がさらに好ましい。
【0042】
<<(C)繊維>>
本発明に係る樹脂組成物は、(C)繊維を含有する。(C)繊維としては、有機繊維でも無機繊維でもよいが、耐熱性の点から無機繊維が好ましく、例えば、ガラス繊維、ロックウール、バサルト繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維、チタン酸カリウム繊維、ケイ酸カルシウム(ワラストナイト)繊維、アルカリアースシリケート繊維(生体溶解性)、シリカ繊維等のセラミック繊維又は金属酸化物繊維、炭素繊維、ステンレス鋼繊維、タングステン繊維等の金属繊維等が挙げられる。これらの無機繊維は、1種単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
また、これらの繊維のうち、耐熱性、遮炎性を向上し得る点から、ガラス繊維、アルミナ繊維等のセラミック繊維又は金属酸化物繊維、炭素繊維が好ましい。
【0043】
本発明で用いる(C)繊維としては、平均繊維径が3~25μmであることが好ましい。また、平均繊維長が、0.05~100mmの範囲であることが好ましく、0.5~50mmの範囲であることがより好ましく、1~25mmの範囲であることがさらに好ましく、2~15mmの範囲であることが特に好ましい。
繊維が複数種ある場合には、少なくとも1種類の繊維の平均繊維径及び平均繊維長が上記範囲であればよい。
樹脂組成物に含有される(C)繊維は、成形体の製造方法によっては、平均繊維長が変化する場合がある。例えば、後述する射出成形を用いる場合には、樹脂組成物は加熱溶融されるために、繊維が折損し、平均繊維長が短くなる傾向がある。上記平均繊維長は、樹脂組成物中での平均繊維長を意味し、熱履歴がかかる前の繊維長である。したがって、射出成形などの方法で製造される成形体中の繊維の平均繊維長は、0.05~50mmの範囲であることが好ましく、0.25~25mmの範囲であることがより好ましく、0.5~15mmの範囲であることがさらに好ましく、1~10mmの範囲であることが特に好ましい。
一方、成形体をラミネート法により製造する場合には、樹脂組成物中の(C)繊維の平均繊維長と成形体中の(C)繊維の平均繊維長は変化しない。
なお、繊維径は光学顕微鏡などを用いて測定することができ、平均繊維径は、例えばランダムに10本の繊維の繊維径を測定し、平均値を計算することにより得ることができる。また、繊維長は必要に応じて顕微鏡等で拡大した画像から、定規、ノギス等を用いて測定することができ、平均繊維長は、例えばランダムに10本の繊維の繊維長を測定し、平均値を計算することにより得ることができる。
【0044】
本発明に係る樹脂組成物中の繊維の含有量は3~60質量%であることが好ましい。繊維の含有量が3質量%以上であると、成形体の強度、剛性、及び耐衝撃性が担保できる。一方、60質量%以下であると、成形体の製造や加工が容易に行える。また、繊維の含有量が60質量%以下であることで比重が小さくなり、金属代替としての軽量化効果が大きいというメリットがある。
以上の観点から、本発明に係る樹脂組成物中の繊維の含有量は10~50質量%であることがより好ましく、20~45質量%であることがさらに好ましい。
【0045】
(ガラス繊維)
本発明の成形体に好適な(C)繊維の一つとして、ガラス繊維が挙げられる。ガラス繊維としては、例えば、平均繊維長が30mm以上の長い繊維であってもよいし、平均繊維長が短い繊維(チョップドストランド)であってもよい。
より具体的には、平均繊維長としては、0.05~100mmの範囲であることが好ましい。平均繊維長が上記範囲内であると、成形体の強度及び耐衝撃性が良好となる。以上の観点から、0.5~50mmの範囲であることがより好ましく、1~25mmの範囲であることがさらに好ましく、2~15mmの範囲であることが特に好ましい。射出成形などの方法で製造される成形体中の(C)繊維としてのガラス繊維の場合、その平均繊維長は、0.05~50mmの範囲であることが好ましく、0.25~25mmの範囲であることがより好ましく、0.5~15mmの範囲であることがさらに好ましく、1~10mmの範囲であることが特に好ましい。
なお、ガラス繊維の平均繊維長の上限には、特に制限はなく、例えば、ガラス繊維を用いてプルトリュージョン法によって製造したペレットを使用する場合には、そのペレットの長さがガラス繊維の繊維長となるので、最大で20mm程度となる。また、ガラス長繊維を使用したスワールマット系では、製造に使用したロービングにおけるガラス繊維の長さが最大繊維長となるので、17000m(17km)程度にもなるが、成形体の大きさに合わせて、カットした場合は、カットした長さが最大繊維長となる。
【0046】
また、ガラス繊維の平均繊維径は、9~25μmの範囲であることが好ましい。平均繊維径が9μm以上であると、成形体の剛性及び耐衝撃性が十分となり、一方、平均繊維径が25μm以下であると、成形体の強度が良好となる。以上の観点から、ガラス繊維の平均繊維径は、10~15μmの範囲であることがさらに好ましい。
なお、ガラス繊維の平均繊維径及び平均繊維長については、上記方法により、測定することができる。
【0047】
本発明に用いられるガラス繊維の材質については、特別な制限はなく、無アルカリガラス、低アルカリガラス、含アルカリガラスのいずれでもよく、従来からガラス繊維として、使用されている各種の組成のものを使用することができる。
【0048】
(アルミナ繊維)
本発明の成形体に好適な(C)繊維の一つとしてアルミナ繊維が挙げられる。アルミナ繊維は、通常アルミナとシリカからなる繊維であり、本発明の積層体においては、アルミナ繊維のアルミナ/シリカの組成比(質量比)は65/35~98/2のムライト組成、又はハイアルミナ組成と呼ばれる範囲にあることが好ましく、さらに好ましくは70/30~95/5、特に好ましくは70/30~74/26の範囲である。
【0049】
アルミナ繊維の平均繊維径としては、3~25μmの範囲が好ましく、繊維径3μm以下の繊維を実質的に含まないものが好ましい。ここで繊維径3μm以下の繊維を実質的に含まないとは、繊維径3μm未満の繊維が、全無機繊維質量の0.1質量%以下であることを意味する。平均繊維径が3μm以上であると、空気中に浮遊する発塵量が少なくなる。一方、25μm以下であると成形体の剛性及び耐衝撃性の点で好ましい。
アルミナ繊維は、平均繊維長が0.05~100mmの範囲であることが好ましい。平均繊維長が上記範囲内であると、成形体の強度及び耐衝撃性が良好となる。以上の観点から、0.5~50mmの範囲であることがより好ましく、1~25mmの範囲であることがさらに好ましく、2~15mmの範囲であることが特に好ましい。射出成形などの方法で製造される成形体中の(C)繊維としてのアルミナ繊維の場合、その平均繊維長は、0.05~50mmの範囲であることが好ましく、0.25~25mmの範囲であることがより好ましく、0.5~15mmの範囲であることがさらに好ましく、1~10mmの範囲であることが特に好ましい。
【0050】
炭素繊維は、平均繊維径が1~20μmの範囲であることが好ましく、2~15μmがより好ましく、3~10μmがさらに好ましく、5~7μmが特に好ましい。炭素繊維の平均繊維径が前記範囲内であると、成形品とした際の剛性及び耐衝撃性が十分となる。また、平均繊維長は、0.05~100mmの範囲であることが好ましく、0.5~50mmの範囲であることがより好ましく、1~25mmの範囲であることがさらに好ましく、2~15mmの範囲であることが特に好ましい。平均繊維長が上記範囲内であると、成形品とした際の強度及び耐衝撃性が良好となる。
【0051】
<<(D)分散剤>>
(D)分散剤としては、(B)難燃剤を(A)熱可塑性樹脂中に分散させることができればよく、特に限定されないが、(A)熱可塑性樹脂との相溶性の点で、高分子分散剤を好適に使用することができる。好ましくは、(B)難燃剤を(A-1)ポリプロピレン系樹脂中に分散させることができるものを用いることができる。高分子分散剤としては、官能基を有する高分子分散剤が好ましく、分散安定性の面からカルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基、一級、二級又は三級アミノ基、四級アンモニウム塩基、ピリジン、ピリミジン、ピラジン等の含窒素ヘテロ環由来の基、等の官能基を有する高分子分散剤が好ましい。
本発明においては、カルボキシル基を有する高分子分散剤が好ましく、特に、難燃剤として好適なリン系難燃剤を用いる場合には、α-オレフィンと不飽和カルボン酸との共重合体が好ましい。当該分散剤を用いることで、リン系難燃剤の分散性を向上させることができ、難燃剤の含有量を低減させることができる。
【0052】
(α-オレフィンと不飽和カルボン酸との共重合体)
本発明に係る「α-オレフィンと不飽和カルボン酸との共重合体」(以下、「共重合体(D1)」と記載する。)における、α-オレフィン単位と不飽和カルボン酸単位は、その合計100mol%のうちα-オレフィン単位の割合が20mol%以上80mol%以下であることが好ましい。
共重合体(D1)において、α-オレフィン単位と不飽和カルボン酸単位との合計量に対するα-オレフィン単位の割合は、30mol%以上であることがより好ましく、一方、70mol%以下であることがより好ましい。α-オレフィンの割合が前記下限値以上であれば、ポリオレフィン系樹脂等の(A)熱可塑性樹脂との相溶性がより優れたものとなり、前記上限値以下であれば、(B)難燃剤との相溶性がより優れたものとなる。
【0053】
共重合体(D1)において、α-オレフィンとしては、炭素原子数5以上のα-オレフィンが好ましく、炭素原子数10以上80以下のα-オレフィンがより好ましい。α-オレフィンの炭素原子数が5以上であれば、(A)熱可塑性樹脂との相溶性がより良好となる傾向があり、80以下であれば、原料コストの点で有利である。以上の観点から、α-オレフィンの炭素原子数は12以上70以下であることがさらに好ましく、15以上65以下であることがさらにより好ましく、18以上60以下であることが特に好ましい。
【0054】
また、共重合体(D1)において、不飽和カルボン酸としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、メチルマレイン酸、フマル酸、メチルフマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、グルタコン酸、ノルボルナン-5-エン-2,3-ジカルボン酸、及びこれらの不飽和カルボン酸のエステル、無水物、イミド等が挙げられる。なお、「(メタ)アクリル酸」はアクリル酸又はメタクリル酸を示すものである。
不飽和カルボン酸のエステル、無水物又はイミドの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルへキシル、(メタ)アクリル酸グリシジル等の(メタ)アクリル酸エステル;無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物等のジカルボン酸無水物;マレイミド、N-エチルマレイミド、N-フェニルマレイミド等のマレイミド化合物等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
上記の中では、共重合反応性の点から、エステルやジカルボン酸無水物が好ましい。中でも、難燃剤として好適なリン系難燃剤との相溶性の点から、ジカルボン酸無水物が好ましく、無水マレイン酸が特に好ましい。
【0055】
共重合体(D1)の重量平均分子量は、2,000以上が好ましく、3,000以上がより好ましく、一方、50,000以下が好ましく、30,000以下がより好ましい。共重合体(D1)の重量平均分子量が上記範囲内であれば、(B)難燃剤の分散性がより優れたものとなる。
なお、共重合体(D1)の重量平均分子量は、共重合体(D1)をテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィにより測定される標準ポリスチレン換算の値である。
【0056】
共重合体(D1)の市販品としては、リコルブCE2(クラリアントジャパン(株)製)、ダイヤカルナ30M(三菱ケミカル(株)製)が挙げられる。
【0057】
本発明に係る樹脂組成物中の(B)難燃剤100質量部に対する(D)分散剤の含有量は、0.1~25質量部の範囲であることが好ましく、1~10質量部の範囲がより好ましく、2~5質量部の範囲がさらに好ましい。
(D)分散剤の含有量が上記下限値以上であると、(B)難燃剤の分散が十分となり、良好な遮炎性を得やすい。一方、上記上限値以下であると、成形体の機械物性等が維持される。
【0058】
また、(A)熱可塑性樹脂及び(B)難燃剤の合計100質量部に対する(D)分散剤の割合は、0.01質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上であることがさらに好ましい。一方、10質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましく、2.0質量部以下であることがさらに好ましく、1.5質量部以下であることがより好ましく、1.0質量部以下であることがさらに好ましい。(D)分散剤の割合が前記下限値以上であれば、(B)難燃剤がより良好に分散し、成形体の遮炎性や物性、外観がより良好となる。(D)分散剤の割合が前記上限値以下であれば、(D)分散剤による成形体の遮炎性への影響をより抑制できる。
(A)熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂である場合も同様である。
【0059】
また、(C)繊維に対しては、(C)繊維100質量部に対する(D)分散剤の割合が、0.01質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上であることがさらに好ましい。一方、10質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましく、2.0質量部以下であることがさらに好ましい。(D)分散剤の割合が前記下限値以上であれば、得られる成形体の遮炎性や物性、得られる成形体の外観がより良好となる。(D)分散剤の割合が前記上限値以下であれば、(D)分散剤による成形体の遮炎性への影響をより抑制できる。
【0060】
<<任意添加成分>>
本発明に係る樹脂組成物には、上記成分に加えて、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、発明の効果を一層向上させるなど、他の効果を付与する等の目的のため、任意の添加成分を配合することができる。
具体的には、着色剤、光安定剤、紫外線吸収剤、ソルビトール系などの造核剤、酸化防止剤、帯電防止剤、無機化合物などの中和剤、チアゾール系などの抗菌・防黴剤、ハロゲン化合物やリグノフェノールなどの難燃剤・難燃助剤、可塑剤、有機金属塩系などの分散剤、脂肪酸アミド系などの滑剤、窒素化合物などの金属不活性剤、前記ポリプロピレン系樹脂以外のポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂やポリエステル樹脂などの熱可塑性樹脂、オレフィン系エラストマー及びスチレン系エラストマーなどのエラストマー(ゴム成分)等を挙げることができる。
これらの任意添加成分は、2種以上を併用してもよい。
【0061】
着色剤として、例えば、無機系や有機系の顔料などは、ポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体の、着色外観、見映え、風合い、商品価値、耐候性や耐久性などの付与、向上などに有効である。
具体例として、無機系顔料としては、ファーネスカーボン、ケッチェンカーボンなどのカーボンブラック;酸化チタン;酸化鉄(ベンガラ等);クロム酸(黄鉛など);モリブデン酸;硫化セレン化物;フェロシアン化物などが挙げられ、有機系顔料としては、難溶性アゾレーキ、可溶性アゾレーキ、不溶性アゾキレート;縮合性アゾキレート;その他のアゾキレートなどのアゾ系顔料;フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーンなどのフタロシアニン系顔料;アントラキノン、ペリノン、ペリレン、チオインジゴなどのスレン系顔料;染料レーキ;キナクリドン系;ジオキサジン系;イソインドリノン系などが挙げられる。また、メタリック調やパール調にするには、アルミフレーク;パール顔料を含有させることができる。また、染料を含有させることもできる。
【0062】
光安定剤や紫外線吸収剤として、例えば、ヒンダードアミン化合物、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系やサリシレート系などは、ポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体の耐候性や耐久性などの付与、向上に有効であり、耐候変色性の一層の向上に有効である。
具体例としては、ヒンダードアミン化合物として、コハク酸ジメチルと1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンとの縮合物;ポリ〔〔6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)イミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル〕〔(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ〕ヘキサメチレン〔(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ〕〕;テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート;テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート;ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート;ビス-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルセバケートなどが挙げられ、ベンゾトリアゾール系としては、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール;2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾールなどが挙げられ、ベンゾフェノン系としては、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン;2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノンなどが挙げられ、サリシレート系としては、4-t-ブチルフェニルサリシレート;2,4-ジ-t-ブチルフェニル3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシベンゾエートなどが挙げられる。
ここで、前記光安定剤と紫外線吸収剤とを併用する方法は、耐候性、耐久性、耐候変色性などの向上効果が大きく好ましい。
【0063】
酸化防止剤として、例えば、フェノール系、リン系やイオウ系の酸化防止剤などは、ポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体の、耐熱安定性、加工安定性、耐熱老化性などの付与、向上などに有効である。
また、帯電防止剤として、例えば、非イオン系やカチオン系などの帯電防止剤は、ポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体の帯電防止性の付与、向上に有効である。
【0064】
オレフィン系エラストマーとしては、例えば、エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(EPR)、エチレン・ブテン共重合体エラストマー(EBR)、エチレン・ヘキセン共重合体エラストマー(EHR)、エチレン・オクテン共重合体エラストマー(EOR)などのエチレン・α-オレフィン共重合体エラストマー;エチレン・プロピレン・エチリデンノルボルネン共重合体、エチレン・プロピレン・ブタジエン共重合体、エチレン・プロピレン・イソプレン共重合体などのエチレン・α-オレフィン・ジエン三元共重合体エラストマー、スチレン・ブタジエン・スチレントリブロック共重合体エラストマー(SBS)などを挙げることができる。
また、スチレン系エラストマーとしては、例えば、スチレン・イソプレン・スチレントリブロック共重合体エラストマー(SIS)、スチレン- エチレン・ブチレン共重合体エラストマー(SEB)、スチレン-エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(SEP)、スチレン-エチレン・ブチレン-スチレン共重合体エラストマー(SEBS)、スチレン-エチレン・ブチレン-エチレン共重合体エラストマー(SEBC)、水添スチレン・ブタジエンエラストマー(HSBR)、スチレン-エチレン・プロピレン-スチレン共重合体エラストマー(SEPS)、スチレン-エチレン・エチレン・プロピレン-スチレン共重合体エラストマー(SEEPS)、スチレン-ブタジエン・ブチレン-スチレン共重合体エラストマー(SBBS)、部分水添スチレン-イソプレン-スチレン共重合体エラストマー、部分水添スチレン-イソプレン・ブタジエン-スチレン共重合体エラストマーなどのスチレン系エラストマー、さらにエチレン-エチレン・ブチレン-エチレン共重合体エラストマー(CEBC)などの水添ポリマー系エラストマーなどを挙げることができる。
中でも、エチレン・オクテン共重合体エラストマー(EOR)及び/又はエチレン・ブテン共重合体エラストマー(EBR)を使用すると、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物やその成形体において、適度の柔軟性などが付与し易く、耐衝撃性が優れる傾向にあるなどの点から好ましい。
【0065】
<<樹脂組成物の製造方法>>
本発明に係る樹脂組成物の製造方法としては、従来公知の方法を用いることができ、上記成分を配合して混合、溶融混練することにより製造することができる。
混合は、タンブラー、Vブレンダー、リボンブレンダー等の混合器を用いて行われ、溶融混練は、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールミキサー、ブラベンダープラストグラフ、ニーダー等の機器を用い、溶融混練され、造粒される。
【0066】
<成形体>
本発明の成形体は、常法に従い上記樹脂組成物を特定の形状に成形することで、所望の形状で得られる。
【0067】
(用途)
本発明の成形体の用途としては、例えば、自動車部品や電気電子機器部品などの工業分野の各種部品等が挙げられる。とりわけ強度と剛性、導電性に優れ、これらの性能をバランスよく、より高度に必要とされる用途、例えば、バッテリーケースなどの各種ハウジングや筐体に、好適に用いることができる。
【0068】
<積層体>
本発明の積層体について、図1を用いて説明する。
本発明の成形体10は、前記樹脂組成物からなる樹脂層12と、その少なくとも一方の面に支持層11が積層されてなる積層体であることができる。このような構成をとることが、遮炎性と断熱性を高める観点から好ましい。
【0069】
<支持層>
支持層は樹脂層と一体となって、積層体に難燃性及び遮炎性を発現させるものであり、これらの効果を奏する点から、繊維(X)からなる繊維層であることが好ましく、中でも不織布からなる不織布層、織布からなる織布層、又は編物からなる編物層であることが好ましい。
特に、不織布は織布や編物に比較して、支持層の表面に樹脂層の一部が浸透しやすく、結着性がより高くなる点で好ましい。また、不織布は繊維の配向方向が不定方向であるために、機械的強度の方向依存性がない点でも好ましい。
【0070】
支持層の厚みとしては、本発明の効果を奏する範囲であれば特に制限はないが、0.01mm以上であることが好ましい。0.01mm以上であれば、樹脂層との結着性が良好となり、樹脂層に炎があたっても樹脂層を維持することができる。以上の観点から、支持層の厚みは0.05mm以上であることがより好ましく、0.1mm以上であることがさらに好ましい。
一方、支持層の厚みの上限値としては、成形体とした際の重量を抑制し得ること、及びコストの点から、5mm以下であることが好ましく、2mm以下であることがより好ましく、1mm以下であることがさらに好ましく、0.5mm以下であることが特に好ましい。
【0071】
前記繊維層を構成する繊維(X)のサイズについては、本発明の効果を奏する範囲で制限はないが、繊維の平均径(直径)としては、3~25μmの範囲であることが好ましく、平均繊維長としては、5~100mmの範囲であることが好ましい。
平均繊維径が3μm以上であると、繊維層の製造過程でのハンドリングが容易であり、25μm以下であると、折損が生じ難い。また、平均繊維長としては、5mm以上であると、積層体に遮炎性を付与することができ、また十分な強度を付与することができる。一方、平均繊維長が100mm以下であると折損が生じ難い。繊維長は必要に応じて顕微鏡等で拡大した画像から、定規、ノギス等を用いて測定することができ、平均繊維長は、例えばランダムに10本の繊維の繊維長を測定し、平均値を計算することにより得ることができる。
前記繊維層を構成する繊維(X)としては、本発明の効果を奏するものであれば、特に限定されず、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、セラミック繊維、金属繊維、金属酸化物繊維などの無機繊維、アラミド繊維、芳香族ポリエステル繊維などの有機繊維が挙げられる。これらのうち、優れた遮炎性が得られる点から、無機繊維が好ましく、中でも、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維、金属酸化物繊維が好ましく、特にガラス繊維が好ましい。
【0072】
<<不織布層>>
不織布層は不織布から構成される。不織布を構成する繊維としては、本発明の効果を奏するものであれば、特に限定されず、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、セラミック繊維、金属繊維、金属酸化物繊維などの無機繊維、アラミド繊維、芳香族ポリエステル繊維などの有機繊維が挙げられる。これらのうち、優れた遮炎性が得られる点から、無機繊維が好ましく、中でも、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維、金属酸化物繊維が好ましく、特にガラス繊維が好ましい。
【0073】
(ガラス繊維不織布)
本発明で好適に用いられるガラス繊維不織布の形態としては、短繊維ガラス綿で加工したフェルト及びブランケット、連続ガラス繊維を加工したチョップドストランドマット、連続ガラス繊維のスワール(渦巻状)マット、一方向引き揃えマットなどが挙げられる。これらの中でも、特に連続ガラス繊維のスワール(渦巻状)マットをニードルパンチしたガラス繊維マットを使用すると、積層体の強度、および、耐衝撃性が優れており、好ましい。
なお、ガラス繊維については、(C)繊維にて前述したものと同様である。
【0074】
セラミック繊維としては、主としてシリカとアルミナからなる繊維であることが好ましく、例えば、シリカ:アルミナ=40:60~0:100の範囲であり、具体的には、シリカアルミナ繊維、ムライト繊維、アルミナ繊維を用いることができる。
金属繊維の材料としては、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、タングステン、チタン、モリブデン、ベリリウム、白金等を主成分とする繊維が好ましい。さらに合金成分として上記金属以外に炭素、窒素、クロム、コバルト、金、銀等の1種以上を含んでもよい。強度や耐食性に優れる点から、ステンレス、ニッケルまたはチタンを主成分とする繊維が特に好ましい。
金属酸化物繊維の材料としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化カルシウム等のアルカリ土類金属酸化物;酸化チタン、酸化ジルコニウム等の第4族の金属酸化物;アルミナ、酸化インジウム等の第13族元素の酸化物;シリカ、酸化スズ、酸化鉛等の第14族元素の酸化物;酸化アンチモン等の第15族元素の酸化物等が使用可能である。なかでも、高レベルの耐熱性が効果的に得られる点で、好ましくは第13族~第15族元素の酸化物繊維であり、さらに好ましくは第13族元素の酸化物繊維であり、特に好ましくはアルミナ繊維である。
【0075】
不織布を構成する繊維のサイズについては、本発明の効果を奏する範囲で制限はないが、繊維の平均径(直径)としては、3~25μmの範囲であることが好ましく、平均繊維長としては、5~100mmの範囲であることが好ましい。
平均繊維径が3μm以上であると、不織布の製造過程でのハンドリングが容易であり、25μm以下であると、折損が生じ難い。また、平均繊維長としては、5mm以上であると、積層体に遮炎性を付与することができ、また十分な強度を付与することができる。一方、平均繊維長が100mm以下であると折損が生じ難い。以上の観点から、平均繊維長は10~50mmの範囲であることがより好ましく、15~30mmの範囲であることがさらに好ましい。
なお、平均繊維長については、上記方法により、測定することができる。
【0076】
不織布の目付量(単位面積当たりの繊維量)としては、10~500g/mの範囲であることが好ましい。目付量が10g/m以上であると、積層体の遮炎性、積層体の十分な強度が得られる。一方、500g/m以下であると、樹脂層との結着性が良好となり、積層体の十分な遮炎性が得られるともに、重量が過度に大きくなることがない。以上の観点から、目付量は20~300g/mの範囲がより好ましく、30~150g/mの範囲がさらに好ましく、35~100g/mの範囲が特に好ましい。
【0077】
不織布の製造方法としては、従来から公知の方法を用いることができ、例えば、乾式法、湿式法、スパンボンド法、メルトプレーン法、エアレイド法等を用いることができる。また、これらの製法で得られた不織布の繊維を結合させる方法としては、ケミカルボンド法、サーマルボンド法、ニードルパンチ法、水流交絡法等の公知の方法を用いることができる。
【0078】
<<織布層>>
織布層は織布から構成される。織布を構成する繊維としては、本発明の効果を奏するものであれば、特に限定されず、上記不織布層で例示したものと同様のものを用いることができる。なお、不織布層と同様に、無機繊維が好ましく、特にガラス繊維が好ましい。
織布を構成する繊維のサイズ(平均繊維径、平均繊維長)、目付量についても、不織布層にて記載したものと同様である。
上記繊維からなる織布の織物組織は、特に限定されるものではなく、平織、斜文織、朱子織などいずれであってもよい。
【0079】
<<編物層>>
編物層は編物から構成される。編物を構成する繊維としては、本発明の効果を奏するものであれば、特に限定されず、上記不織布層で例示したものと同様のものを用いることができる。なお、不織布層と同様に、無機繊維が好ましく、特にガラス繊維が好ましい。
編み布を構成する繊維のサイズ(平均繊維径、平均繊維長)、目付量についても、不織布層にて記載したものと同様である。
上記繊維からなる編物の組織構造は、特に限定されるものではなく、ゴム編み、ガーター編み、メリアス編みなどいずれであってもよい。
【0080】
<積層体の製造方法>
本発明の積層体の製造方法としては、特に限定されず種々の公知の方法を用いることができる。具体的には、樹脂層と支持層をあらかじめ形成しておき、貼り合わせる方法、支持層を金型にセットして、樹脂層を形成するための樹脂組成物を打ち込んで射出成形する方法等が挙げられる。
貼り合わせる方法としては、例えば、樹脂層を構成するための樹脂シート及び支持層を構成するためのガラス繊維不織布シートを作製しておき、これらを積層させて、加熱、加圧する方法がある。
より具体的には、加熱装置の付いた金型内で、樹脂シートとガラス繊維不織布シートをプレス成形する方法である。
加熱温度としては、170~300℃であることが好ましい。加熱温度が170℃以上であると、樹脂層と支持層の十分な結着がなされ、積層体の遮炎性が向上する。一方、加熱温度が300℃以下であると、樹脂層を構成する樹脂組成物が劣化することがない。
また、加圧圧力としては0.1~1MPaであることが好ましい。加圧圧力が0.1MPa以上であると、樹脂層と支持層の十分な結着がなされ、積層体の遮炎性が向上する。一方、1MPa以下とすることで、樹脂層にバリが生じない。
なお、貼り合わせに際しては、樹脂層と支持層の間に粘着層を配することもできる。但し、本発明においては、樹脂層と支持層の結着性が重要であることから、樹脂層と支持層が、他の層を介さずに直接結着していることが好ましい。
なお、冷却時の温度としては、熱可塑性樹脂の凝固点以下であれば、特に制限されないが、冷却温度が80℃以下であると、得られた成形体を取り出す際に変形することがない。以上の観点から、冷却温度は、室温~80℃であることが好ましい。
【0081】
また、樹脂シートとガラス繊維不織布シートを加熱装置の付いた2対のローラーの間を通して加熱と加圧を行うラミネート加工であってもよい。ラミネート加工は、連続生産が行えるため、生産性が良く、好ましい。
【0082】
また、射出成形により成形体を製造する方法としては、例えば、図5に示すような方法をとることができる。すなわち、可動型21に支持層15となるガラス不織布をセットし、可動型21を固定型22に勘合し、樹脂組成物16をキャビティに射出して、樹脂組成物16とガラス不織布(支持層15)を一体成型する方法である。この方法により、樹脂層12の一方の面に支持層11が積層された本発明の積層体10を得ることができる。この射出成形法を用いると、ガラス不織布中の長繊維が折れることなく維持されるため、より一層、本発明の成形体の遮炎性を向上させることができる。
【0083】
本発明の積層体の製造方法の好適例として、以下の方法が挙げられる。すなわち、支持体に樹脂組成物を含浸させて樹脂層の少なくとも一方の面に積層された支持層を形成する工程を含む積層体の製造方法である。支持体に樹脂組成物を含浸させる方法は、特に限定されず、加熱装置の付いた金型内で、樹脂シートと支持体を加熱しながらプレス成形する方法、射出成形用金型に予め支持体を配置し、樹脂を射出する方法などにより可能である。樹脂組成物を含浸させる前の支持体の厚みは、0.01~30mmであることが好ましい。後述するように、積層体の製造に用いる支持体の厚みは、製造された積層体中の支持層の厚みと異なる場合がある。これは、積層体の製造過程において、支持体が圧縮されることによる。このため、積層体の製造にあたっては、支持体の圧縮を考慮することが望ましい。樹脂組成物を含浸させる前の支持体の厚みが上記範囲内であると、積層体の生産性や得られる積層体の遮炎性や強度に優れる。以上の観点から、支持体の厚みは、0.05~15mmであることがより好ましく、0.08~10mmであることがさらに好ましく、0.1~5mmであることがさらにより好ましく、0.2~3mmであることが特に好ましい。
また、積層体の製造方法において、樹脂組成物を含浸させる前の支持体の厚みに対する積層体中の支持層の厚みの比で定義される支持体圧縮率は、15~75%であることが好ましい。支持体圧縮率がこの範囲内であると、積層体の生産性や得られる積層体の遮炎性や強度に優れる。以上の観点から、支持体圧縮率は、20~60%がより好ましく、25~50%がさらに好ましく、30~40%が特に好ましい。
【0084】
<積層体の他の態様>
本発明の積層体は、樹脂層と支持層を有するものであり、支持層は樹脂層の一方の面にあればよいが、図3に示すように、樹脂層12の両面に支持層11を有していてもよい。本態様では、支持層11が接炎するため、接炎した支持層11は支持層としての機能を果たさなくなるが、もう一方の支持層11が支持層としての機能を果たすため、上記したのと同様の作用機序によって、遮炎性を発揮する。
また、本態様では、樹脂層12の両面に支持層11を有することから、積層体にそりが発生することがなく好ましい。
【0085】
さらに、本発明の積層体10は、図4に示すように、支持層11を挟むように、樹脂層12が2層存在する態様であってもよい。本態様の場合は、上面及び下面のいずれが接炎しても、本発明の効果を奏する態様である。
【0086】
(用途)
本発明の積層体の用途としては、例えば、自動車部品や電気電子機器部品などの工業分野の各種部品等が挙げられる。とりわけ難燃性が高く、遮炎性に優れるため、例えば、バッテリーケースなどの各種ハウジングや筐体に、好適に用いることができる。
特に、バッテリーケースとして用いることが好ましく、バッテリーとしては、特に限定されない。例えば、リチウムイオンバッテリー、ニッケル・水素電池、リチウム・硫黄電池、ニッケル・カドミウム電池、ニッケル・鉄電池、ニッケル・亜鉛電池、ナトリウム・硫黄電池、鉛蓄電池、空気電池等の二次電池が挙げられる。これらの中では、リチウムイオンバッテリーであることが好ましく、特には、リチウムイオン電池の熱暴走を抑制するために好適に用いられる。
【0087】
また、電気をエネルギー源として稼働する車両や船舶、飛行機等の輸送機器などの電動モビリティに有用であり、車両については、電動自動車(EV)に加えて、ハイブリッドカーも含まれる。
本発明の積層体を利用したバッテリーハウジング、及びバッテリーセルを有するバッテリー等の構造体は、安全性が高く、走行距離を伸ばすために、エネルギー密度を高くしたバッテリーモジュールを用いた電動モビリティ用として、非常に有用である。
【実施例0088】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1~4、比較例1について遮炎試験で得た成形体の裏面の温度曲線を示すグラフである。

(評価方法)
1.遮炎性の評価
各実施例及び比較例にて調製した成形体(射出試験片)について、図2に示すように、樹脂層12側表面から、1200℃のバーナーの炎をあて、15分間の後に炎が貫通するか否かで評価した。バーナーの火口からサンプルまでの距離は110mmとした。火炎面表面が1200℃となるように設定した。火炎面温度は熱電対温度計で確認した。なお、射出試験片としては、厚み2.0mm、幅200mm、長さ200mmの試験片を用いた。評価基準は以下の通りである。
評価基準
〇:炎が貫通しなかった。
×:炎が貫通した。
なお、実施例1~4、比較例1について遮炎試験で得た成形体の裏面の温度曲線を図6に示す。
2.断熱性の評価
上記1.に記載の遮炎性評価において、試験片のバーナーの炎を当てた面の反対側の面(裏面)の温度を非接触式放射温度計(キーエンス社製「FT-H50K」)で測定した。測定エリアはφ35mmである。測定エリアの中心が、バーナーの炎の位置の直上付近になるように目視で設定した。表3には、400秒経過時点での裏面温度(℃)、裏面温度が初めて400℃に到達した時の経過時間(秒)を示した。
【0089】
(1)樹脂組成物の調製
樹脂組成物の原料として、以下のものを準備した。
(a)ポリプロピレン系樹脂((A)成分)
日本ポリプロ(株)製、「ノバテック(登録商標)BC03B」(メルトフローレート:30g/10分)
日本ポリプロ(株)製、「ノバテック(登録商標)BC05B」(メルトフローレート:50g/10分)
(b)難燃剤((B)成分)
リン系難燃剤((株)ADEKA製、アデカスタブFP-2500S、ノンハロゲンのイントメッセント系難燃剤)
(c)分散剤((D)成分)
α-オレフィン・無水マレイン酸共重合体(三菱ケミカル(株)製、ダイヤカルナ30M、重量平均分子量7,800)
(d)酸化防止剤
(d-1)フェノール系酸化防止剤((株)ADEKA製、アデカスタブAO-60)
(d-2)ホスファイト系酸化防止剤((株)ADEKA製、アデカスタブ2112)
(e)ガラス繊維強化熱可塑性樹脂(GF強化樹脂、(A)成分+(C)成分)
日本ポリプロ(株)製、「ファンクスター(登録商標)LR25Z」(ポリプロピレン系樹脂/ガラス繊維=50/50、ペレット長10mm)
【0090】
各成分が、下記表1に示す比率となるように、上記(a)ポリプロピレン系樹脂、(b)難燃剤、(c)分散剤、(d)酸化防止剤、及び(e)GF強化樹脂を混合し、樹脂組成物を調製した。なお、表1中には記載されていないが、フェノール系酸化防止剤(d-1)及びホスファイト系酸化防止剤(d-2)の比率は、いずれも0.007質量部とした。
【0091】
【表1】
【0092】
(2)成形体(積層体)の原料
積層体の原料として、以下のものを準備した。
(f)支持層
(f-1)ガラス不織布(オリベスト(株)製、FAP-035、坪量35g/m、厚み0.26mm)
(f-2)ガラス不織布(王子エフテックス(株)製、GMC-50G、坪量50g/m、厚み0.36mm)
(f-3)ガラス不織布(王子エフテックス(株)製、GMC-75G、坪量75g/m、厚み0.53mm)
(f-4)アラミド不織布(王子エフテックス(株)製、APT36、坪量36g/m、厚み0.50mm)
【0093】
[実施例1]
上記(1)で得られた樹脂組成物を、ファナック(株)製の射出成形機「FANUC ROBOSHOTα-S300iA」を用いて、(f)支持層に積層し、難燃性の評価用サンプルを製造した。
具体的には、金型内に(f-1)ガラス不織布をあらかじめ配置し、その上に表1に示す配合の樹脂組成物を射出成形することにより、長さ200mm×幅200mm×厚さ2.0mmの試験片を作製した。最終的な配合について、表2に示す。なお、表2におけるガラス繊維には、(f-1)支持層に由来するガラス繊維も含まれる。
得られた評価用サンプル(積層体)の樹脂層の厚みは1.89mmであり、不織布層(支持層)の厚みは0.11mmであった。
得られた評価用サンプルを用いて、遮炎性評価を行った結果を表2に示す。なお、主な成形条件は以下の通りである。
1)温度条件:シリンダー温度(220℃)、金型温度(60℃)
2)射出条件:射出圧力(200MPa)、保持圧力(82MPa)
3)計量条件:スクリュー回転数(50rpm)、背圧(15MPa)
【0094】
[実施例2]
実施例1において、(f-1)の代わりに(f-2)を用いた以外は実施例1と同様にして評価用サンプルを得た。得られた評価用サンプル(積層体)の樹脂層の厚みは1.86mmであり、不織布層(支持層)の厚みは0.14mmであった。得られた評価用サンプルを用いて、遮炎性評価を行った結果を表2に示す。
【0095】
[実施例3]
実施例1において、(f-1)の代わりに(f-3)を用いた以外は実施例1と同様にして評価用サンプルを得た。得られた評価用サンプル(積層体)の樹脂層の厚みは1.84mmであり、不織布層(支持層)の厚みは0.16mmであった。得られた評価用サンプルを用いて、遮炎性評価を行った結果を表2に示す。
【0096】
[実施例4]
実施例1において、(f-1)の代わりに(f-4)を用いた以外は実施例1と同様にして評価用サンプルを得た。得られた評価用サンプル(積層体)の樹脂層の厚みは1.83mmであり、不織布層(支持層)の厚みは0.17mmであった。得られた評価用サンプルを用いて、遮炎性評価を行った結果を表2に示す。
【0097】
[比較例1]
実施例1において、(f)支持層を用いなかったこと以外は実施例1と同様にして試験片を得た。当該試験片は樹脂層のみからなる成形体である。実施例1と同様にして、遮炎性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0098】
[温度曲線の解析]
実施例1の成形体を上記方法によって断熱性評価した際に取得した裏面の温度曲線を、最小二乗法を用いて6次の多項式として近似して平滑化曲線を得た。この平滑化曲線を2階微分して、変曲点を得た。平滑化曲線と、得られた変曲点を平滑化曲線上にプロットしたグラフを図7に示す。また、平滑化曲線上の1つめの変曲点と3つ目の変曲点を平滑化曲線上の1つ目の変曲点と3つ目の変曲点を結んだ線分と平滑化曲線とで囲まれる領域の面積(X1)を算出した。また、平滑化曲線の最初に50℃に到達した点と、1つめの変曲点とを結んだ線分と平滑化曲線とで囲まれる領域の面積(Y)を算出した。最後に、面積(X1)を面積(Y)で除して規格化した。結果を表3に示す。
実施例2~4、比較例1についても同様に温度曲線を解析した。平滑化曲線と、得られた変曲点を平滑化曲線上にプロットしたグラフを図8~11に示す。また、解析結果を表3に示す。
【0099】
【表2】
【0100】
【表3】
【0101】
実施例1~4の成形体は、1200℃のバーナーの炎を15分間あてても、炎は貫通せず、非常に良好な結果を示した。一方、比較例1の成形体は、同様の条件でバーナーの炎をあてたところ、約95秒後に炎が貫通した。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明の成形体は、遮炎性に極めて優れるため、航空機、船舶、自動車部品や電気電子機器部品、建築材など高い安全性が求められる各種工業部品の材料として有用である。とりわけ従来から金属が使用されていたバッテリーの各種ハウジングや筐体に、好適に用いることができ、自動車の安全性に貢献すると共に軽量化によるエネルギー効率の向上やCO排出量削減などが期待される。
【符号の説明】
【0103】
10 積層体
11 支持層
12 樹脂層
13 難燃剤
14 繊維
15 支持層
16 樹脂組成物
21 可動型
22 固定型
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11