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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060578
(43)【公開日】2024-05-02
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20240424BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20240424BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20240424BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K5/521
C08K7/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023153112
(22)【出願日】2023-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2022167972
(32)【優先日】2022-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】西井 博幸
(72)【発明者】
【氏名】松井 純
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA011
4J002BB121
4J002DL007
4J002EW046
4J002FA047
4J002FD017
4J002FD136
4J002GN00
4J002GQ00
4J002HA09
(57)【要約】
【課題】難燃性と機械物性に優れた樹脂からなる成形品に好適な技術を提供する。
【解決手段】本発明の一態様の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と、リン系難燃剤(B)とを含む。そして、当該樹脂組成物の成形品の断面から無作為に選択された特定の視野領域内において、リン系難燃剤(B)の像の合計個数に対する、面積20μm未満のリン系難燃剤(B)の像の合計個数の割合が95%以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)と、リン系難燃剤(B)と、を含む樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物の成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像から無作為に選択された90μm×120μmの視野領域内で観察される前記リン系難燃剤(B)の像の合計個数に対する、面積20μm未満の前記リン系難燃剤(B)の像の合計個数の割合が、95%以上である、樹脂組成物。
【請求項2】
前記視野領域内で観察される前記リン系難燃剤(B)の像の合計個数が200個以上である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂組成物の成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像から無作為に選択された90μm×90μmの視野領域を10μm×10μmの正方格子によって計81個の正方形領域に分割したときの前記正方形領域中に存在するリン系難燃剤(B)の像の個数の標準偏差を、前記像の個数の平均値で除して得られる変動係数が、0.55以下である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
熱可塑性樹脂(A)と、リン系難燃剤(B)と、を含む樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物の成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像から無作為に選択された90μm×120μmの視野領域内で観察される前記リン系難燃剤(B)の像の合計面積に対する、面積20μm未満の前記リン系難燃剤(B)の像の合計面積の割合が、55%以上である、樹脂組成物。
【請求項5】
前記視野領域内で観察される前記リン系難燃剤(B)の像の合計面積が1000μm以上である、請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記樹脂組成物の成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像から無作為に選択された90μm×90μmの視野領域を10μm×10μmの正方格子によって計81個の正方形領域に分割したときの前記正方形領域中に存在するリン系難燃剤(B)の像の個数の標準偏差を、前記像の個数の平均値で除して得られる変動係数が、0.55以下である、請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
熱可塑性樹脂(A)と、リン系難燃剤(B)と、無機繊維(C)を含む樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物の成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像から無作為に選択された200μm×250μmの視野領域内で観察される、前記無機繊維(C)の像の平均面積より大きい前記リン系難燃剤(B)の像の面積の割合が、前記視野領域内での前記リン系難燃剤(B)の像全体の面積の10%以下である、樹脂組成物。
【請求項8】
熱可塑性樹脂(A)と、リン系難燃剤(B)と、無機繊維(C)を含む樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物の成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像から無作為に選択された200μm×250μmの視野領域内で観察される、前記リン系難燃剤(B)の像の面積が前記視野領域内で観察される前記無機繊維(C)の像の平均面積の50%以上である前記リン系難燃剤(B)の像の面積の割合が、前記視野領域内の前記リン系難燃剤(B)の像全体の面積の割合の30%以下である、樹脂組成物。
【請求項9】
熱可塑性樹脂(A)と、リン系難燃剤(B)と、無機繊維(C)を含む樹脂組成物であって、
前記樹脂組成物の成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像から無作為に選択された200μm×250μmの視野領域内で観察される、前記リン系難燃剤(B)の像の面積が前記視野領域内で観察される前記無機繊維(C)の像の平均面積の25%以上である前記リン系難燃剤(B)の像の面積の割合が、前記視野領域内の前記リン系難燃剤(B)の像全体の面積の割合の50%以下である、樹脂組成物。
【請求項10】
熱可塑性樹脂(A)と、リン系難燃剤(B)と、無機繊維(C)を含む樹脂組成物であって、
難燃剤粒子密度の平均値である難燃剤分散度パラメータDが5×10-3~5×10-1である樹脂組成物、
ただし、前記難燃剤粒子密度は、下記で定義される特定領域であって、かつ互いに重ならない五つの特定領域のそれぞれについて下記式(1)から算出され、
前記特定領域は、前記樹脂組成物の成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像から無作為に選択された200μm×250μmの視野領域内で観察される前記無機繊維(C)の真円又は楕円状の四つの像のそれぞれの中心である四つの頂点を直線で結んで形成される四角形のうち、その面積が1000μm以上であり、かつ前記頂点を含む四つの前記無機繊維(C)以外の前記無機繊維(C)の像を含まない四角形である。
難燃剤粒子密度=特定領域中に存在する面積1μm以上のリン系難燃剤(B)の像の個数/前記特定領域の面積(μm)・・・(1)
【請求項11】
さらに、酸変性ポリオレフィン系樹脂(D)を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
前記リン系難燃剤(B)に対する前記酸変性ポリオレフィン系樹脂(D)の割合が15質量%以下である、請求項11に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
前記酸変性ポリオレフィン系樹脂(D)がα-オレフィンと無水マレイン酸との共重合体である、請求項11に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
前記樹脂組成物の総質量に対する前記熱可塑性樹脂(A)の割合が20質量%以上85質量%以下である、請求項1~10のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項15】
前記熱可塑性樹脂(A)がポリオレフィン樹脂である、請求項1~10のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項16】
請求項1~10のいずれか1項に記載の樹脂組成物からなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン樹脂は、力学的特性(曲げ特性、引張特性等)、耐薬品性、成形加工性等に優れ、低比重であり、安価であることから、その成形品が機械、電気・電子機器、OA機器、自動車内外装材、電気自動車等の種々の用途に使用されている。これらの用途において成形品には難燃性が要求されることがある。例えば電気・電子機器又はOA機器のハウジング(枠、筐体、外装、カバー等)、ケーブル等に使用される成形品には高い難燃性が要求される。
【0003】
樹脂製品の難燃性は、その材料である樹脂組成物に難燃剤を配合することにより高められる。このような難燃剤を含有する樹脂組成物には、熱可塑性樹脂(A)、リン系難燃剤(B)、及び、α-オレフィンと不飽和カルボン酸との共重合体(C)と、を特定の割合で含有する樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2021/241682号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
難燃性と機械物性に優れた樹脂からなる成形品が求められることがある。
【0006】
本発明の一態様は、難燃性と機械物性に優れた樹脂からなる成形品に好適な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と、リン系難燃剤(B)と、を含む樹脂組成物であって、前記樹脂組成物の成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像から無作為に選択された90μm×120μmの視野領域内で観察される前記リン系難燃剤(B)の像の合計個数に対する、面積20μm未満の前記リン系難燃剤(B)の像の合計個数の割合が、95%以上である。
【0008】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と、リン系難燃剤(B)と、を含む樹脂組成物であって、前記樹脂組成物の成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像から無作為に選択された90μm×120μmの視野領域内で観察される前記リン系難燃剤(B)の像の合計面積に対する、面積20μm未満の前記リン系難燃剤(B)の像の合計面積の割合が、55%以上である。
【0009】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と、リン系難燃剤(B)と、無機繊維(C)を含む樹脂組成物であって、前記樹脂組成物の成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像から無作為に選択された200μm×250μmの視野領域内で観察される、前記無機繊維(C)の像の平均面積より大きい前記リン系難燃剤(B)の像の面積の割合が、前記視野領域内での前記リン系難燃剤(B)の像全体の面積の10%以下である。
【0010】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と、リン系難燃剤(B)と、無機繊維(C)を含む樹脂組成物であって、前記樹脂組成物の成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像から無作為に選択された200μm×250μmの視野領域内で観察される、前記リン系難燃剤(B)の像の面積が前記視野領域内で観察される前記無機繊維(C)の像の平均面積の50%以上である前記リン系難燃剤(B)の像の面積の割合が、前記視野領域内の前記リン系難燃剤(B)の像全体の面積の割合の30%以下である。
【0011】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と、リン系難燃剤(B)と、無機繊維(C)を含む樹脂組成物であって、前記樹脂組成物の成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像から無作為に選択された200μm×250μmの視野領域内で観察される、前記リン系難燃剤(B)の像の面積が前記視野領域内で観察される前記無機繊維(C)の像の平均面積の25%以上である前記リン系難燃剤(B)の像の面積の割合が、前記視野領域内の前記リン系難燃剤(B)の像全体の面積の割合の50%以下である。
【0012】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と、リン系難燃剤(B)と、無機繊維(C)を含む樹脂組成物であって、難燃剤粒子密度の平均値である難燃剤分散度パラメータDが5×10-3~5×10-1である樹脂組成物、ただし、前記難燃剤粒子密度は、下記で定義される特定領域であって、かつ互いに重ならない五つの特定領域のそれぞれについて下記式(1)から算出され、前記特定領域は、前記樹脂組成物の成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像から無作為に選択された200μm×250μmの視野領域内で観察される前記無機繊維(C)の真円又は楕円状の四つの像のそれぞれの中心である四つの頂点を直線で結んで形成される四角形のうち、その面積が1000μm以上であり、かつ前記頂点を含む四つの前記無機繊維(C)以外の前記無機繊維(C)の像を含まない四角形である。
難燃剤粒子密度=特定領域中に存在する面積1μm以上のリン系難燃剤(B)の像の個数/前記特定領域の面積(μm)・・・(1)
【0013】
さらに、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る成形品は、上記の樹脂組成物からなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、難燃性と機械物性に優れた樹脂からなる成形品に好適な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施例の樹脂製品6の断面を電子顕微鏡で撮影して得られた画像の一例を示す写真を示す図である。
図2】本発明の一比較例の樹脂製品C1の断面を電子顕微鏡で撮影して得られた画像の一例を示す写真を示す図である。
図3】本発明の一実施例の樹脂製品4の断面を電子顕微鏡で撮影して得られた画像の一例を示す写真とその中に設定される5つの特定領域を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔樹脂組成物〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0017】
[第一の実施形態]
本発明の第一の実施形態に係る樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と、リン系難燃剤(B)と、を含む。当該樹脂組成物は、樹脂組成物の成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像から無作為に選択された90μm×120μmの視野領域内で観察されるリン系難燃剤(B)の像の合計個数に対する、面積20μm未満のリン系難燃剤(B)の像の合計個数の割合(以下、「小粒子存在比率」という場合がある。)が、95%以上であることを特徴とする。
【0018】
樹脂組成物における小粒子存在比率は、樹脂組成物において、リン系難燃剤が十分に微細化された状態で存在しているかを示す指標である。小粒子存在比率が95%以上であれば、樹脂組成物は、熱可塑性樹脂中にリン系難燃剤が十分に微分化された状態で存在していると評価される。
【0019】
樹脂組成物に含まれるリン系難燃剤は、熱可塑性樹脂中において、粒子状の形態で存在し、難燃剤粒子が発泡炭化層を形成することで樹脂組成物の難燃化に寄与する。その難燃性能は、リン系難燃剤が熱可塑性樹脂中で均一に分散化されることで効果的に発揮される。このとき、リン系難燃剤の粒子が十分に微細化されていると、緻密な発泡炭化層が形成されやすくなり、難燃性能の向上が可能になる。さらに、樹脂組成物中に存在するリン系難燃剤の粒子が微細化されることで、樹脂組成物を成形品として用いる際に、成形品の機械物性を損なわず、良好な機械物性を発揮できると考えられる。上述の観点から、樹脂組成物における小粒子存在比率は、高いほどよく、96%以上が好ましく、97%以上がより好ましく、98%以上がさらに好ましい。
【0020】
一般の市販のリン系難燃剤は、所定の範囲の平均粒径を持つ粒子状の形態で入手可能である。樹脂組成物において、熱可塑性樹脂中にリン系難燃剤が十分に微細化された状態で存在する状態を実現するためには、入手可能な状態のリン系難燃剤の粒子を粉砕などしてさらに微細化した粒子片とすることと、さらに微細化した粒子片が樹脂組成物中で再凝集して大きな粒子凝集体とならないようにすることの2点が重要と考えられる。これらの観点から、本発明の小粒子存在比率は、樹脂組成物の組成比、樹脂組成物の混練方法、後述する分散剤等の使用、難燃剤マスターバッチの使用、などにより調整することができる。
【0021】
撮影すべき成形品の成形条件は、限定されず、例えば成形品の用途から決まる成形条件であってもよく、樹脂組成物の組成から決まる成形条件であってもよい。たとえば、成形品を最終製品とする場合では、成形品を得るための成形条件で得られる成形品を上記の断面観察用の試料とすればよい。樹脂組成物の譲渡などを目的とする場合では、当該樹脂組成物における標準の成形条件、あるいは当該樹脂組成物の成形によって上記小粒子存在比率が95%以上を実現する特定の成形条件、によって得られる成形品を断面観察用の試料とすればよい。
【0022】
樹脂組成物における小粒子存在比率は、具体的には以下の方法で測定される。樹脂組成物の成形品の断面は、成形品試験片の任意の箇所を、ダイヤモンド歯を備えたミクロトームを用いて薄片状のサンプルを切り出すことで形成される。
【0023】
試験片の大きさは、例えば、縦100mm、横10mm、厚さ1.6mmの成形体、あるいは幅50mm、厚さ0.3mmのフィルム状のもの、である。
【0024】
上記で形成された断面を、走査型電子顕微鏡、例えば、JSM-7400F(日本電子(株)製)により、加速電圧3kVにて1000倍で観察し、コントラストと明るさは一定にして、画像を撮影する。
【0025】
画像中、熱可塑性樹脂はマトリックスとして灰色の部位として特定される。リン系難燃剤は、マトリックスよりも輝度が高く、粒子形状の明るい灰色又は白色の部位として特定される。
【0026】
90μm×120μmの大きさの視野領域において、特定されたリン系難燃剤の粒子の個数を計測する。また、粒子それぞれについて面積(断面積)を測定し、そのうち面積が20μm未満のリン系難燃剤の粒子の個数を計測する。視野領域内で観察されるリン系難燃剤(B)の粒子の合計個数に対する、面積20μm未満のリン系難燃剤(B)の粒子の合計個数の割合を百分率で算出する。上記画像解析は、上記の大きさの視野領域(90μm×120μm)を、上記で形成された断面から無作為に1か所選択して行う。なお、画像の解析は、画像解析ソフトImageJを用いて行うことができる。
【0027】
第一の実施形態に係る樹脂組成物は、上記の小粒子存在比率の算出に用いた視野領域内で観察されるリン系難燃剤(B)の粒子の合計個数が200個以上であることが好ましい。当該視野領域内で観察されるリン系難燃剤(B)の粒子の合計個数が上記範囲以上であると、難燃性の観点から好ましい。同様の観点から、視野領域内で観察されるリン系難燃剤(B)の粒子の合計個数は、250個以上であることがより好ましく、300個以上であることがさらに好ましい。一方、樹脂組成物を成形品とした際の機械物性の観点から、2000個以下であることが好ましく、1500個以下であることがより好ましい。
【0028】
第一の実施形態に係る樹脂組成物は、該樹脂組成物の成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像において、90μm×120μmの視野領域を無作為に選択し、該視野領域内で観察されるリン系難燃剤(B)の粒子の合計個数に対する、面積10μm未満のリン系難燃剤(B)の粒子の合計個数の割合(以下、「微小粒子存在比率」という場合がある。)が、90%以上であってもよい。
【0029】
樹脂組成物における微小粒子存在比率は、樹脂組成物中に存在するリン系難燃剤の粒子がより高度に微細化されていることを示す指標である。上述の通り、樹脂組成物中において、リン系難燃剤の粒子はより微細化された状態で存在することが難燃性及び成形品の機械物性の観点から好ましい。微小粒子存在比率は、高いほどよく、微小粒子存在比率が90%以上であると、樹脂組成物は、熱可塑性樹脂中にリン系難燃剤がより高度に微細化された状態で存在していると評価される。
【0030】
微小粒子存在比率の測定方法は、視野領域内で観察される該リン系難燃剤(B)の粒子の合計個数に対する、面積10μm未満の該リン系難燃剤(B)の粒子の合計個数の割合を算出する点を除き、上述の小粒子存在比率の測定方法と同じである。
【0031】
第一の実施形態に係る樹脂組成物は、前記樹脂組成物の成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像から無作為に選択された90μm×90μmの視野領域を10μm×10μmの正方格子によって計81個の正方形領域に分割したとき、正方形領域中に存在するリン系難燃剤(B)の像の個数の標準偏差を、像の個数の平均値で除して得られる変動係数が、0.55以下であることが好ましい。変動係数が前記上限以下であれば、樹脂組成物中において、リン系難燃剤(B)の粒子が測定の場所に偏らず、均一性よく分散して存在すると評価できる。難燃性と機械物性を向上させる観点から、変動係数は0.52以下がより好ましく、0.50以下がさらに好ましい。変動係数の下限は、通常0.1である。
【0032】
[第二の実施形態]
本発明の第二の実施形態に係る樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と、リン系難燃剤(B)と、を含む。当該樹脂組成物は、樹脂組成物の成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像から無作為に選択された90μm×120μmの視野領域内で観察される前記リン系難燃剤(B)の像の合計面積に対する、面積20μm未満の前記リン系難燃剤(B)の像の合計面積の割合(以下、「小粒子面積比率」という場合がある。)が、55%以上であることを特徴とする。
【0033】
樹脂組成物における小粒子面積比率は、樹脂組成物において、リン系難燃剤が十分に微細化された状態で存在しているかを示す指標である。小粒子面積比率が55%以上であれば、樹脂組成物は、熱可塑性樹脂中にリン系難燃剤が十分に微分化された状態で存在していると評価される。
【0034】
樹脂組成物に含まれるリン系難燃剤は、熱可塑性樹脂中において、粒子状の形態で存在し、リン系難燃剤の粒子が発泡炭化層を形成することで樹脂組成物の難燃化に寄与する。その難燃性能は、リン系難燃剤が熱可塑性樹脂中で均一に分散化されることで効果的に発揮される。このとき、リン系難燃剤の粒子が十分に微細化されていると、緻密な発泡炭化層が形成されやすくなり、難燃性能の向上が可能になる。さらに、樹脂組成物中に存在するリン系難燃剤の粒子が微細化されることで、樹脂組成物を成形品として用いる際に、成形品の機械物性を損なわず、良好な機械物性を発揮できると考えられる。上述の観点から、樹脂組成物における小粒子面積比率は57%以上が好ましく、58%以上がより好ましく、59%以上がさらに好ましい。
【0035】
一般の市販のリン系難燃剤は、所定の範囲の平均粒径を持つ粒子状の形態で入手可能である。樹脂組成物において、熱可塑性樹脂中にリン系難燃剤が十分に微細化された状態で存在する状態を実現するためには、入手可能な状態のリン系難燃剤の粒子を粉砕などしてさらに微細化した粒子片とすることと、さらに微細化した粒子片が樹脂組成物中で再凝集して大きな粒子凝集体とならないようにすることの2点が重要と考えられる。これらの観点から、本発明の小粒子面積比率は、樹脂組成物の組成比、樹脂組成物の混練方法、後述する分散剤等の使用、難燃剤マスターバッチの使用、などにより調整することができる。
【0036】
なお、断面観察用の成形品は、前述した第一の実施形態と同様であってよい。
【0037】
樹脂組成物における小粒子面積比率の測定方法は、上述と小粒子存在比率の測定方法と基本的に同じである。試験片の準備方法、試験片の大きさ、断面の観察条件等も共通である。
【0038】
90μm×120μmの大きさの視野領域において、特定されたリン系難燃剤の粒子それぞれについて面積(断面積)を計測し、その合計面積を算出する。また、面積が20μm未満のリン系難燃剤の粒子の合計面積を算出する。視野領域内で観察されるリン系難燃剤(B)の粒子の合計面積に対する、面積20μm未満のリン系難燃剤(B)の粒子の合計面積の割合を百分率で算出する。上記画像解析は、上記の大きさの視野領域(90μm×120μm)を、上記で形成された断面から無作為に1か所選択して行う。なお、画像の解析は、画像解析ソフトImageJを用いて行うことができる。
【0039】
第二の実施形態に係る樹脂組成物は、前述の小粒子面積比率の算出に用いた視野領域内で観察されるリン系難燃剤(B)の粒子の合計面積が1000μm以上であることが好ましい。上記の視野領域内で観察されるリン系難燃剤(B)の粒子の合計面積が上記範囲以上であると、難燃性の観点から好ましい。同様の観点から、上記の視野領域内で観察されるリン系難燃剤(B)の粒子の合計面積は、1200μm以上であることがより好ましく、1300μm以上であることがさらに好ましい。一方、樹脂組成物を成形品とした際の機械物性の観点から、10000μm以下であることが好ましく、5000μm以下であることがより好ましい。
【0040】
第二の実施形態に係る樹脂組成物は、該樹脂組成物の成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像において、90μm×120μmの視野領域を無作為に選択し、該視野領域内で観察されるリン系難燃剤(B)の粒子の合計面積に対する、面積10μm未満のリン系難燃剤(B)の粒子の合計面積の割合(以下、「微小粒子面積比率」という場合がある。)が、40%以上であってもよい。
【0041】
樹脂組成物における微小粒子面積比率は、樹脂組成物中に存在するリン系難燃剤の粒子がより高度に微細化されていることを示す指標である。上述の通り、樹脂組成物中において、リン系難燃剤の粒子はより微細化された状態で存在することが難燃性及び成形品の機械物性の観点から好ましい。微小粒子面積比率が40%以上であると、樹脂組成物は、熱可塑性樹脂中にリン系難燃剤がより高度に微細化された状態で存在していると評価される。同様の観点から、樹脂組成物における微小粒子面積比率は42%以上がより好ましく、44%以上がさらに好ましく、45%以上が特に好ましい。
【0042】
微小粒子面積比率の測定方法は、視野領域内で観察されるリン系難燃剤(B)の粒子の合計個数に対する、面積10μm未満のリン系難燃剤(B)の粒子の合計面積の割合を算出する点を除き、上述の小粒子存在比率の測定方法と同じである。
【0043】
第二の実施形態に係る樹脂組成物は、前記樹脂組成物の成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像から無作為に選択された90μm×90μmの視野領域を10μm×10μmの正方格子によって計81個の正方形領域に分割したとき、正方形領域中に存在するリン系難燃剤(B)の像の個数の標準偏差を、像の個数の平均値で除して得られる変動係数が、0.55以下であることが好ましい。変動係数が前記上限以下であれば、樹脂組成物中において、リン系難燃剤(B)の粒子が測定の場所に偏らず、均一性よく分散して存在すると評価できる。難燃性と機械物性を向上させる観点から、変動係数は0.52以下がより好ましく、0.50以下がさらに好ましい。変動係数の下限は、通常0.1である。
【0044】
[第三の実施形態]
本発明の第三の実施形態に係る樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と、リン系難燃剤(B)と、無機繊維(C)と、を含む。当該樹脂組成物は、樹脂組成物の成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像から無作為に選択された200μm×250μmの視野領域内で観察される、無機繊維(C)の像の平均面積より大きいリン系難燃剤(B)の像の面積の割合が、当該視野領域内でのリン系難燃剤(B)の像全体の面積の10%以下であることを特徴とする。
【0045】
第三の実施形態に係る樹脂組成物は、典型的には、無機繊維(C)の間隙に熱可塑性樹脂(A)がマトリクス樹脂として存在し、マトリクス樹脂中にリン系難燃剤(B)が分散して存在していると考えられる。本発明者らの検討によれば、無機繊維(C)の間隙にリン系難燃剤(B)が分散して存在することで、難燃性、ならびに樹脂組成物を成形品としたときの機械物性等、が向上し得ることを見出した。詳細なメカニズムは不明だが、本発明者らは以下のように推測している。すなわち、無機繊維間のマトリクス樹脂にリン系難燃剤が均一に分散されている場合、リン系難燃剤により形成されるチャーが無機繊維の間隙に固定される。さらに、無機繊維の間隙により、膨張して形成されるチャーの大きさが制限されることで、形成されるチャーの大きさが均一になる。無機繊維によるチャーの固定効果とチャーの大きさの均一化が組み合わされることにより、緻密な膨張炭化層が形成され、難燃性及び機械物性が向上するものと考えている。
【0046】
本発明者らは、これらの知見に基づき、樹脂組成物中の無機繊維(C)の平均断面積と、リン系難燃剤の粒子の断面積との関係に着目した。樹脂組成物中の該リン系難燃剤(B)の粒子の断面積が樹脂組成物中の該無機繊維(C)の平均断面積より大きいと、リン系難燃剤粒子が無機繊維の間隙に入り込みにくくなり、無機繊維間にリン系難燃剤が分散しにくくなると考えられる。樹脂組成物中の該リン系難燃剤(B)の粒子の断面積が樹脂組成物中の該無機繊維(C)の平均断面積より大きい粒子の割合が、樹脂組成物中の該リン系難燃剤(B)の粒子全体の10%以下であることで、無機繊維の間隙にリン系難燃剤が効果的に分散して存在し、難燃性及び機械物性を向上できる。同様の観点から、樹脂組成物中の該リン系難燃剤(B)の粒子の断面積が樹脂組成物中の該無機繊維(C)の平均断面積より大きい粒子の割合は、8%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、2%以下であることがさらに好ましく、0%であることが特に好ましい。
【0047】
脂組成物中の該リン系難燃剤(B)の粒子の断面積が樹脂組成物中の該無機繊維(C)の平均断面積より大きい粒子の割合は、例えば使用する無機繊維及びリン系難燃剤の選択、樹脂組成物の組成比、樹脂組成物の混練方法、後述する分散剤等の使用、難燃剤マスターバッチの使用、などにより調整することができる。断面観察は、視野領域の範囲が異なる以外は、前述した第一の実施形態と同様に実施可能である。
【0048】
脂組成物中の該リン系難燃剤(B)の粒子の断面積が樹脂組成物中の該無機繊維(C)の平均断面積より大きい粒子の割合は、具体的には以下の方法で測定される。該樹脂組成物の成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像において、200μm×250μmの視野領域を無作為に選択し、該視野領域内で観察されるリン系難燃剤の粒子の面積と無機繊維の平均面積を計測する。樹脂組成物の成形品の断面は、成形品試験片の任意の箇所を、ダイヤモンド歯を備えたミクロトームを用いて薄片状のサンプルを切り出すこと、あるいは研磨装置、イオンミリングなどを使用すること、で形成される。
【0049】
試験片の大きさは、例えば、縦20mm、横10mm、厚さ2mmである。
【0050】
上記で形成された断面を、走査型電子顕微鏡、例えば、JSM-IT500(日本電子(株)製)により、加速電圧15kVにて500倍で観察し、画像を撮影する。画像中、熱可塑性樹脂はマトリックスとして灰色の部位として特定される。リン系難燃剤は、マトリックスよりも輝度が高く、粒子形状の明るい灰色又は白色の部位として特定される。無機繊維は、白色の部位として特定される。無機繊維は、多くの場合、その断面が真円状又は楕円状の形態として観察されるため、画像中でリン系難燃剤の粒子と無機繊維を区別することが可能である。
【0051】
200μm×250μmの大きさの視野領域において、特定された個々のリン系難燃剤の粒子と無機繊維について、それぞれ面積(断面積)を測定する。視野領域内に観察される無機繊維の面積を平均し、平均面積を算出する。視野領域内で観察されるリン系難燃剤(B)の粒子の面積が樹脂組成物中の該無機繊維(C)の平均面積より大きい粒子の個数を計測し、視野領域内で観察される該リン系難燃剤(B)の粒子の合計個数に対する割合を百分率で算出する。上記画像解析は、上記の大きさの視野領域(200μm×250μm)を、上記で形成された断面から無作為に1か所選択して行う。なお、画像の解析は、画像解析ソフトImageJを用いて行うことができる。
【0052】
[第四の実施形態]
本発明の第四の実施形態に係る樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と、リン系難燃剤(B)と、無機繊維(C)と、を含む。当該樹脂組成物は、樹脂組成物の成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像から無作為に選択された200μm×250μmの視野領域内で観察されるリン系難燃剤(B)の像の面積が当該視野領域内で観察される無機繊維(C)の像の平均面積の50%以上であるリン系難燃剤(B)の像の面積の割合が、当該視野領域内のリン系難燃剤(B)の像全体の面積の割合の30%以下であることを特徴とする。
【0053】
樹脂組成物中の該リン系難燃剤(B)の粒子の断面積が樹脂組成物中の該無機繊維(C)の平均断面積の50%以上であると、リン系難燃剤粒子が無機繊維の間隙に入り込みにくくなり、無機繊維間にリン系難燃剤が分散しにくくなると考えられる。樹脂組成物中の該リン系難燃剤(B)の粒子の断面積が樹脂組成物中の該無機繊維(C)の平均断面積の50%以上である粒子の割合が、樹脂組成物中の該リン系難燃剤(B)の粒子全体の30%以下であることで、無機繊維の間隙にリン系難燃剤が効果的に分散して存在し、難燃性及び機械物性を向上できる。同様の観点から、樹脂組成物中の該リン系難燃剤(B)の粒子の断面積が樹脂組成物中の該無機繊維(C)の平均断面積の50%以上である粒子の割合は、20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましく、1%以下であることが特に好ましい。
【0054】
脂組成物中の該リン系難燃剤(B)の粒子の断面積が樹脂組成物中の該無機繊維(C)の平均断面積の50%以上である粒子の割合は、例えば使用する無機繊維、リン系難燃剤の選択、樹脂組成物の組成比、樹脂組成物の混練方法、後述する分散剤等の使用、及び難燃剤マスターバッチの使用、などにより調整することができる。断面観察は、視野領域の範囲が異なる以外は、前述した第一の実施形態と同様に実施可能である。
【0055】
該リン系難燃剤(B)の粒子の断面積が樹脂組成物中の該無機繊維(C)の平均断面積の50%以上である粒子の割合の測定方法は、上述の該リン系難燃剤(B)の粒子の断面積が樹脂組成物中の該無機繊維(C)の平均断面積より大きい粒子の割合の測定方法と基本的に同じである。試験片の準備方法、試験片の大きさ、断面の観察条件等も共通である。
【0056】
200μm×250μmの大きさの視野領域において、特定された個々のリン系難燃剤の粒子と無機繊維について、それぞれ面積(断面積)を測定する。視野領域内に観察される無機繊維の断面積を平均し、平均断面積を算出する。視野領域内で観察されるリン系難燃剤(B)の粒子の断面積が樹脂組成物中の該無機繊維(C)の平均断面積の50%以上である粒子の個数を計測し、視野領域内で観察される該リン系難燃剤(B)の粒子の合計個数に対する割合を百分率で算出する。上記画像解析は、上記の大きさの視野領域(200μm×250μm)を、上記で形成された断面から無作為に1か所選択して行う。なお、画像の解析は、画像解析ソフトImageJを用いて行うことができる。
【0057】
[第五の実施形態]
本発明の第五の実施形態に係る樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と、リン系難燃剤(B)と、無機繊維(C)と、を含む。当該樹脂組成物は、樹脂組成物の成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像から無作為に選択された200μm×250μmの視野領域内で観察されるリン系難燃剤(B)の像の面積が当該視野領域内で観察される無機繊維(C)の像の平均面積の25%以上であるリン系難燃剤(B)の像の面積の割合が、当該視野領域内のリン系難燃剤(B)の像全体の面積の割合の50%以下であることを特徴とする。
【0058】
樹脂組成物中の該リン系難燃剤(B)の粒子の断面積が樹脂組成物中の該無機繊維(C)の平均断面積の25%以上であると、リン系難燃剤粒子が無機繊維の間隙に入り込みにくくなり、無機繊維間にリン系難燃剤が分散しにくくなると考えられる。樹脂組成物中の該リン系難燃剤(B)の粒子の断面積が樹脂組成物中の該無機繊維(C)の平均断面積の25%以上である粒子の割合が、樹脂組成物中の該リン系難燃剤(B)の粒子全体の50%以下であることで、無機繊維の間隙にリン系難燃剤が効果的に分散して存在し、難燃性及び機械物性を向上できる。同様の観点から、樹脂組成物中の該リン系難燃剤(B)の粒子の断面積が樹脂組成物中の該無機繊維(C)の平均断面積の25%以上である粒子の割合は、40%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、20%以下であることがさらに好ましく、10%以下であることが特に好ましい。
【0059】
脂組成物中の該リン系難燃剤(B)の粒子の断面積が樹脂組成物中の該無機繊維(C)の平均断面積の25%以上である粒子の割合は、例えば使用する無機繊維又はリン系難燃剤の選択、樹脂組成物の組成比、樹脂組成物の混練方法、後述する分散剤等の使用、難燃剤マスターバッチの使用、などにより調整することができる。
【0060】
該リン系難燃剤(B)の粒子の断面積が樹脂組成物中の該無機繊維(C)の平均断面積の25%以上である粒子の割合の測定方法は、上述の該リン系難燃剤(B)の粒子の断面積が樹脂組成物中の該無機繊維(C)の平均断面積より大きい粒子の割合の測定方法と基本的に同じである。試験片の準備方法、試験片の大きさ、断面の観察条件等も共通である。
【0061】
200μm×250μmの大きさの視野領域において、特定された個々のリン系難燃剤の粒子と無機繊維について、それぞれ面積(断面積)を測定する。視野領域内に観察される無機繊維の断面積を平均し、平均断面積を算出する。視野領域内で観察されるリン系難燃剤(B)の粒子の断面積が樹脂組成物中の該無機繊維(C)の平均断面積の25%以上である粒子の個数を計測し、視野領域内で観察される該リン系難燃剤(B)の粒子の合計個数に対する割合を百分率で算出する。上記画像解析は、上記の大きさの視野領域(200μm×250μm)を、上記で形成された断面から無作為に1か所選択して行う。なお、画像の解析は、画像解析ソフトImageJを用いて行うことができる。
【0062】
[第六の実施形態]
本発明の第六の実施形態に係る樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と、リン系難燃剤(B)と、無機繊維(C)と、を含む。当該樹脂組成物は、難燃剤粒子密度の平均値である難燃剤分散度パラメータD(以下、単に「難燃剤分散度パラメータD」ということがある。)が5×10-3~5×10-1であることを特徴とする。
【0063】
難燃剤粒子密度は、下記で定義される特定領域であって、かつ互いに重ならない五つの特定領域のそれぞれについて下記式(1)から算出される。
難燃剤粒子密度=特定領域中に存在する面積1μm以上のリン系難燃剤(B)の像の個数/前記特定領域の面積(μm)・・・(1)
【0064】
前記特定領域は、前記樹脂組成物の成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像から無作為に選択された200μm×250μmの視野領域内で観察される前記無機繊維(C)の真円又は楕円状の四つの像のそれぞれの中心である四つの頂点を直線で結んで形成される四角形のうち、その面積が1000μm以上であり、かつ前記頂点を含む四つの前記無機繊維(C)以外の前記無機繊維(C)の像を含まない四角形である。
【0065】
第六の実施形態に係る樹脂組成物は、典型的には、無機繊維(C)の間隙に熱可塑性樹脂(A)がマトリクス樹脂として存在し、マトリクス樹脂中にリン系難燃剤(B)が分散して存在していると考えられる。本発明者らの検討によれば、無機繊維(C)の間隙にリン系難燃剤(B)が分散して存在することで、難燃性、ならびに樹脂組成物を成形品としたときの機械物性等、が向上し得ることを見出した。詳細なメカニズムは不明だが、本発明者らは以下のように推測している。
【0066】
すなわち、無機繊維間のマトリクス樹脂にリン系難燃剤が均一に分散されている場合、リン系難燃剤により形成されるチャーが無機繊維の間隙に固定される。さらに、無機繊維の間隙により、膨張して形成されるチャーの大きさが制限されることで、形成されるチャーの大きさが均一になる。無機繊維によるチャーの固定効果とチャーの大きさの均一化が組み合わされることにより、緻密な膨張炭化層が形成され、難燃性及び機械物性が向上するものと考えている。
【0067】
本発明者らは、これらの知見に基づき、樹脂組成物中の無機繊維(C)の間隙として規定される特定領域におけるリン系難燃剤の粒子の密度を平均化した指標である前記難燃剤分散度パラメータDに着目した。難燃剤分散度パラメータDは、無機繊維の間隙空間において、リン系難燃剤が十分に分散化された状態で存在しているかを示す指標である。難燃剤分散度パラメータDが5×10-3~5×10-1の範囲内であれば、樹脂組成物は、無機繊維の間隙空間中にリン系難燃剤が十分に分散化された状態で存在していると評価される。なお、本明細書において、「~」は、その両端の数値を含む以上以下の範囲を意味する。
【0068】
難燃剤分散度パラメータDは、難燃性向上の観点から、7×10-3以上、又は、9×10-3以上、又は、1×10-2以上、又は、1.2×10-2以上でありうる。また、樹脂組成物を成形品とした際の良好な機械物性の観点から、2×10-1以下、又は、1×10-1以下、又は8×10-2以下、又は、5×10-2以下、又は3×10-2以下、又は2×10-2以下でありうる。
【0069】
難燃剤分散度パラメータDは、例えば使用する無機繊維及びリン系難燃剤の選択、樹脂組成物の組成比、樹脂組成物の混練方法、後述する分散剤等の使用、難燃剤マスターバッチの使用、などにより調整することができる。
【0070】
難燃剤分散度パラメータDは、具体的には下記の方法で測定される。樹脂組成物の成形品の断面は、成形品試験片の任意の箇所を、ダイヤモンド歯を備えたミクロトームを用いて薄片状のサンプルを切り出すこと、あるいは研磨装置、イオンミリングなどを使用すること、で形成される。
【0071】
試験片の大きさは、例えば、縦20mm、横10mm、厚さ2.0mmである。
【0072】
上記で形成された断面を、走査型電子顕微鏡、例えば、JSM-IT500(日本電子(株)製)により、加速電圧15kVにて500倍で観察し、画像を撮影する。画像中、熱可塑性樹脂はマトリックスとして灰色の部位として特定される。リン系難燃剤は、マトリックスよりも輝度が高く、粒子形状の明るい灰色又は白色の部位として特定される。無機繊維は、マトリックスよりも輝度が高く、白色の部位として特定される。無機繊維は、多くの場合、その断面が真円状又は楕円状の形態として観察されるため、画像中でリン系難燃剤の粒子と無機繊維を区別することが可能である。
【0073】
200μm×250μmの大きさの視野領域において、該視野領域中で真円又は楕円状の断面が観察される無機繊維を4つ選択する。当該4つの無機繊維の中心を頂点として、各頂点を直線で結んで得られる四角形を得る。四角形の面積を測定し、その面積が1000μm以上である四角形を特定領域とする。ただし、四角形は、その内側に頂点となる無機繊維以外の無機繊維を含まないものに限る。したがって、4つの無機繊維を選択する際に、選択した無機繊維の中心を頂点として、各頂点を直線で結んで得られる四角形が、その内側に頂点となる無機繊維以外の無機繊維を含まないように、選択する必要がある。次に、前記特定領域内に存在するリン系難燃剤の粒子の面積(断面積)を測定し、断面積1μm以上のリン系難燃剤粒子の個数を計測する。前記式(1)に従い、特定領域中に存在する断面積1μm以上のリン系難燃剤粒子の個数を、その特定領域の面積で除して難燃剤粒子密度を算出する。前述の手順に従い、特定領域同士が重ならないように特定領域を5つ選択し、それぞれの特定領域について、前記式(1)に基づき難燃剤粒子密度を算出し、その平均値を難燃剤分散度パラメータDとする。上記画像解析は、上記の大きさの視野領域(200μm×250μm)を、上記で形成された断面から無作為に1か所選択して行う。なお、画像の解析は、画像解析ソフトImageJを用いて行うことができる。
【0074】
〔樹脂組成物の組成〕
本発明の第一の実施形態から第六の実施形態に係る樹脂組成物は、いずれも熱可塑性樹脂(A)とリン系難燃剤(B)と、を含有する。第三の実施形態から第六の実施形態に係る樹脂組成物は、さらに無機繊維(C)を含有する。
【0075】
[熱可塑性樹脂(A)]
熱可塑性樹脂としては、特段の制限はないが、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、アクリロニトリルスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリアミド樹脂、変性ポリフェニレンオキサイド等が挙げられる。なお、これらは1種を使用してもよく、2種以上を使用してもよい。例えば熱可塑性樹脂(A)が、上記のうち2種以上の熱可塑性樹脂の複合樹脂であってもよい。
【0076】
ポリオレフィン樹脂としては、特段の制限はなく、後述の樹脂が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、特段の制限はなく、例えば、ポリブチレンテレフタレートが挙げられる。ポリアミド樹脂としては、特段の制限はなく、例えば、ナイロン66、ナイロン6が挙げられる。なかでも、本発明は特に、熱可塑性樹脂(A)がポリオレフィン樹脂である場合に特に有用である。
【0077】
本発明において「ポリオレフィン樹脂」とは、樹脂を構成する全ての構成単位100mol%に対し、オレフィン単位4又はシクロオレフィン単位が占める割合が90mol%以上である樹脂を意味する。ポリオレフィン樹脂を構成する全ての構成単位100mol%に対し、オレフィン単位又はシクロオレフィン単位が占める割合は、95mol%以上が好ましく、98mol%以上が特に好ましい。
【0078】
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ(3-メチル-1-ブテン)、ポリ(3-メチル-1-ペンテン)、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)等のα-オレフィン重合体;エチレン-プロピレンブロック又はランダム共重合体、炭素原子数4以上のα-オレフィン-プロピレンブロック又はランダム共重合体、エチレン-メチルメタクリレート共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体等のα-オレフィン共重合体;ポリシクロヘキセン、ポリシクロペンテン等のシクロオレフィン重合体等が挙げられる。ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等が挙げられる。ポリプロピレンとしては、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン、ヘミアイソタクチックポリプロピレン、ステレオブロックポリプロピレン等が挙げられる。炭素原子数4以上のα-オレフィン-プロピレンブロック又はランダム共重合体において、炭素原子数4以上のα-オレフィンとしては、ブテン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン等が挙げられる。これらのポリオレフィン樹脂は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0079】
ポリオレフィン樹脂は、ポリプロピレンを含むことが好ましい。ポリプロピレンと他のポリオレフィン樹脂とが併用されてもよい。例えば、ポリオレフィン樹脂として、ポリプロピレンと、エチレン-プロピレンブロック又はランダム共重合体、炭素原子数4以上のα-オレフィン-プロピレンブロック又はランダム共重合体等の他のα-オレフィン重合体との混合物を用いてもよい。
【0080】
ポリオレフィン樹脂は、ポリプロピレンが主成分であることが好ましい。ポリオレフィン樹脂100質量%に対しポリプロピレンが占める割合は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましい。ポリオレフィン樹脂は、難燃性の点から、その100質量%がポリプロピレンであることが特に好ましい。
【0081】
熱可塑性樹脂(A)のメルトマスフローレート(MFR)は、0.1g/10分以上が好ましく、0.5g/10分以上がより好ましく、一方、80g/10分以下が好ましく、60g/10分以下がより好ましい。熱可塑性樹脂(A)のMFRが前記下限値以上であれば、成形加工性がより優れ、前記上限値以下であれば、曲げ特性、引張特性、耐薬品特性等がより優れる。好ましい下限値及び上限値は適宜組み合わせることができる(以下同様)。熱可塑性樹脂(A)のMFRは、例えば、0.1g/10分以上80g/10分以下であってよく、0.5g/10分以上60g/10分以上であってよい。熱可塑性樹脂(A)のメルトマスフローレートは、JIS K7210に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定される。
【0082】
本発明の樹脂組成物における熱可塑性樹脂(A)の含有量は、特に限定されないが、成形品の成形加工性の観点から、15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましい。一方、当該含有量は、良好な難燃性及び機械物性を得ることができるという観点から、85質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。以上の観点から、樹脂組成物における熱可塑性樹脂の含有量は35質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることがさらに好ましい。
【0083】
[リン系難燃剤(B)]
リン系難燃剤(B)は、リン化合物、すなわち分子中にリン原子を含む化合物である。リン系難燃剤(B)は、樹脂組成物の燃焼時にチャーを形成させることで難燃効果を発揮する。リン系難燃剤(B)としては、公知のものであってよく、例えば(ポリ)リン酸塩、(ポリ)リン酸エステル等が挙げられる。「(ポリ)リン酸塩」は、リン酸塩又はポリリン酸塩を示す。「(ポリ)リン酸エステル」は、リン酸エステル又はポリリン酸エステルを示す。リン系難燃剤(B)は、80℃において固体であることが好ましい。
【0084】
リン系難燃剤(B)としては、難燃性の点で、(ポリ)リン酸塩が好ましい。(ポリ)リン酸塩としては、例えば、ポリリン酸アンモニウム塩、ポリリン酸メラミン塩、ポリリン酸ピペラジン塩、オルトリン酸ピペラジン塩、ピロリン酸メラミン塩、ピロリン酸ピペラジン塩、ポリリン酸メラミン塩、オルトリン酸メラミン塩、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウムが挙げられる。
【0085】
また、上記例示において、メラミン又はピペラジンを他の窒素化合物に置き換えた化合物も同様に使用できる。他の窒素化合物としては、例えば、N,N,N’,N’-テトラメチルジアミノメタン、エチレンジジアミン、N,N’-ジメチルエチレンジアミン、N,N’-ジエチルエチレンジアミン、N,N-ジメチルエチレンジアミン、N,N-ジエチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-ジエチルエチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,3-プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,7-ジアミノへプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、trans-2,5-ジメチルピペラジン、1,4-ビス(2-アミノエチル)ピペラジン、1,4-ビス(3-アミノプロピル)ピペラジン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、アクリルグアナミン、2,4-ジアミノ-6-ノニル-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-ハイドロキシ-1,3,5-トリアジン、2-アミノ-4,6-ジハイドロキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-メトキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-エトキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-プロポキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-イソプロポキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-メルカプト-1,3,5-トリアジン、2-アミノ-4,6-ジメルカプト-1,3,5-トリアジン、アンメリン、ベンズグアナミン、アセトグアナミン、フタロジグアナミン、メラミンシアヌレ-ト、ピロリン酸メラミン、ブチレンジグアナミン、ノルボルネンジグアナミン、メチレンジグアナミン、エチレンジメラミン、トリメチレンジメラミン、テトラメチレンジメラミン、ヘキサメチレンジメラミン、1,3-ヘキシレンジメラミンが挙げられる。これらの(ポリ)リン酸塩は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0086】
リン系難燃剤(B)としては、上記の中でも、(ポリ)リン酸と窒素化合物との塩(以下、「化合物(B1)」とも記す。)が好ましい。化合物(B1)は、イントメッセント系難燃剤であり、樹脂組成物の燃焼時に、発泡したチャーである表面膨張層(イントメッセント)を形成させる。表面膨張層が形成されることで、分解生成物の拡散又は伝熱が抑制され、優れた難燃性が発現する。化合物(B1)における窒素化合物としては、アンモニア、メラミン、ピペラジン、前記した他の窒素化合物等が挙げられる。
【0087】
リン系難燃剤(B)の市販品としては、例えば、アデカスタブ(登録商標)FP-2100J、FP-2200、FP-2500S(ADEKA社製)が挙げられる。
【0088】
本発明の樹脂組成物におけるリン系難燃剤(B)の含有量は特に限定されないが、良好な難燃性の観点から、1質量%以上であることが好ましい。一方、成形加工性の観点から、30質量%以下であることが好ましい。以上の観点から、樹脂組成物中のリン系難燃剤の含有量は2質量%以上がより好ましく、3質量%以上がさらに好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。
【0089】
[無機繊維(C)]
本発明に係る樹脂組成物は、上記(A)成分、(B)成分に加えて、無機繊維(C)を含有することができる。無機繊維としては、特に限定されないが、例えば、ガラス繊維、ロックウール、バサルト繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維、チタン酸カリウム繊維、ケイ酸カルシウム(ワラストナイト)繊維、アルカリアースシリケート繊維(生体溶解性)、シリカ繊維等のセラミック繊維又は金属酸化物繊維、炭素繊維、ステンレス鋼繊維、タングステン繊維等の金属繊維等が挙げられる。これらの無機繊維は、1種単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの繊維のうち、耐熱性、遮炎性を向上し得る点から、ガラス繊維、アルミナ繊維等のセラミック繊維又は金属酸化物繊維、炭素繊維が好ましい。
【0090】
本発明で用いる無機繊維としては、平均繊維径が1~25μmであることが好ましい。また、平均繊維長が、0.05~100mmの範囲であることが好ましく、0.5~50mmの範囲であることがより好ましく、1~25mmの範囲であることがさらに好ましく、2~15mmの範囲であることが特に好ましい。繊維が複数種ある場合には、少なくとも1種類の繊維の平均繊維径及び平均繊維長が上記範囲であればよい。
【0091】
樹脂組成物に含有される無機繊維は、樹脂組成物を特定の成形品として加工する場合、成形品の製造方法によっては、平均繊維長が変化する場合がある。例えば、後述する射出成形を用いる場合には、樹脂組成物は加熱溶融されるために、繊維が折損し、平均繊維長が短くなる傾向がある。上記平均繊維長は、樹脂組成物中での平均繊維長を意味し、熱履歴がかかる前の繊維長である。したがって、射出成形などの方法で製造される成形品となった樹脂組成物中の無機繊維の平均繊維長は、0.05~50mmの範囲であることが好ましく、0.25~25mmの範囲であることがより好ましく、0.5~15mmの範囲であることがさらに好ましく、1~10mmの範囲であることが特に好ましい。
【0092】
一方、成形品をラミネート法により製造する場合には、樹脂組成物中の(C)繊維の平均繊維長と成形品としての樹脂組成物中の(C)繊維の平均繊維長は変化しない。なお、繊維径又は繊維長は、上記の通り、樹脂組成物の成形品の断面を、電子顕微鏡などを用いて観察することで測定することができる。
【0093】
本発明に係る樹脂組成物が無機繊維を含む場合、樹脂組成物中の繊維の含有量は3~60質量%であることが好ましい。繊維の含有量が3質量%以上であると、成形品とした際の強度、剛性、及び耐衝撃性が担保できる。一方、60質量%以下であると、成形品の製造及び加工が容易に行える。また、繊維の含有量が60質量%以下であることで比重が小さくなり、金属代替としての軽量化効果が大きいというメリットがある。以上の観点から、本発明に係る樹脂組成物中の無機繊維の含有量は10~50質量%であることがより好ましく、20~45質量%であることがさらに好ましい。
【0094】
(ガラス繊維)
本発明の樹脂組成物に好適な無機繊維(C)の一つとして、ガラス繊維が挙げられる。ガラス繊維としては、例えば、平均繊維長が30mm以上の長い繊維であってもよいし、平均繊維長が短い繊維(チョップドストランド)であってもよい。
【0095】
より具体的には、平均繊維長としては、0.05~100mmの範囲であることが好ましい。平均繊維長が上記範囲内であると、成形品とした際の強度及び耐衝撃性が良好となる。以上の観点から、0.5~50mmの範囲であることがより好ましく、1~25mmの範囲であることがさらに好ましく、2~15mmの範囲であることが特に好ましい。射出成形などの方法で製造される成形品としての樹脂組成物中の無機繊維(C)としてのガラス繊維の場合、その平均繊維長は、0.05~50mmの範囲であることが好ましく、0.25~25mmの範囲であることがより好ましく、0.5~15mmの範囲であることがさらに好ましく、1~10mmの範囲であることが特に好ましい。
【0096】
なお、ガラス繊維の平均繊維長の上限には、特に制限はなく、例えば、ガラス繊維を用いてプルトリュージョン法によって製造したペレットを使用する場合には、そのペレットの長さがガラス繊維の繊維長となるので、最大で20mm程度となる。また、ガラス長繊維を使用したスワールマット系では、製造に使用したロービングにおけるガラス繊維の長さが最大繊維長となるので、17000m(17km)程度にもなるが、成形品の大きさに合わせて、カットした場合は、カットした長さが最大繊維長となる。
【0097】
また、ガラス繊維の平均繊維径は、9~25μmの範囲であることが好ましい。平均繊維径が9μm以上であると、成形品とした際の剛性及び耐衝撃性が十分となり、一方、平均繊維径が25μm以下であると、成形品の強度が良好となる。以上の観点から、ガラス繊維の平均繊維径は、10~15μmの範囲であることがさらに好ましい。なお、ガラス繊維の平均繊維径及び平均繊維長については、上記方法により、測定することができる。
【0098】
本発明に用いられるガラス繊維の材質については、特別な制限はなく、無アルカリガラス、低アルカリガラス、含アルカリガラスのいずれでもよく、従来からガラス繊維として、使用されている各種の組成のものを使用することができる。
【0099】
(アルミナ繊維)
本発明の樹脂組成物に好適な無機繊維(C)の一つとしてアルミナ繊維が挙げられる。アルミナ繊維は、通常アルミナとシリカからなる繊維であり、本発明の樹脂組成物においては、アルミナ繊維のアルミナ/シリカの組成比(質量比)は65/35~98/2のムライト組成、又はハイアルミナ組成と呼ばれる範囲にあることが好ましく、さらに好ましくは70/30~95/5、特に好ましくは70/30~74/26の範囲である。
【0100】
アルミナ繊維の平均繊維径としては、3~25μmの範囲が好ましく、繊維径3μm以下の繊維を実質的に含まないものが好ましい。ここで繊維径3μm以下の繊維を実質的に含まないとは、繊維径3μm未満の繊維が、全無機繊維質量の0.1質量%以下であることを意味する。平均繊維径が3μm以上であると、空気中に浮遊する発塵量が少なくなる。一方、25μm以下であると成形品とした際の剛性及び耐衝撃性の点で好ましい。
【0101】
アルミナ繊維は、平均繊維長が0.05~100mmの範囲であることが好ましい。平均繊維長が上記範囲内であると、成形品の強度及び耐衝撃性が良好となる。以上の観点から、0.5~50mmの範囲であることがより好ましく、1~25mmの範囲であることがさらに好ましく、2~15mmの範囲であることが特に好ましい。射出成形などの方法で製造される成形品としての樹脂組成物中の無機繊維(C)としてのアルミナ繊維の場合、その平均繊維長は、0.05~50mmの範囲であることが好ましく、0.25~25mmの範囲であることがより好ましく、0.5~15mmの範囲であることがさらに好ましく、1~10mmの範囲であることが特に好ましい。
【0102】
(炭素繊維)
炭素繊維は、平均繊維径が、1~20μmの範囲であることが好ましく、2~15μmがより好ましく、3~10μmがさらに好ましく、5~7μmが特に好ましい。炭素繊維の平均繊維径が前記範囲内であると、成形品とした際の剛性及び耐衝撃性が十分となる。また、平均繊維長は、0.05~100mmの範囲であることが好ましく、0.5~50mmの範囲であることがより好ましく、1~25mmの範囲であることがさらに好ましく、2~15mmの範囲であることが特に好ましい。平均繊維長が上記範囲内であると、成形品とした際の強度及び耐衝撃性が良好となる。
【0103】
[酸変性ポリオレフィン系樹脂(D)]
本発明の樹脂組成物は、酸変性ポリオレフィン系樹脂(D)を含むことができる。
【0104】
酸変性ポリオレフィン系樹脂(D)は、熱可塑性樹脂(A)中のリン系難燃剤(B)の分散性を高める。本発明において「酸変性ポリオレフィン系樹脂(D)」とは、酸性のモノマーによって化学的に修飾された構造を有するポリオレフィンを意味し、例えばα-オレフィンと不飽和カルボン酸との共重合体(以下、「共重合体(D)」とも言う)である。
【0105】
当該共重合体は、α-オレフィン単位と不飽和カルボン酸単位との合計100mol%に対するα-オレフィン単位の割合が20mol%以上80mol%以下の共重合体を意味する。共重合体(D)において、α-オレフィン単位と不飽和カルボン酸単位との合計100mol%に対するα-オレフィン単位の割合は、共重合体(D)と熱可塑性樹脂(A)との相溶性を高める観点から30mol%以上が好ましく、共重合体(D)とリン系難燃剤(B)との相溶性を高める観点から70mol%以下が好ましい。
【0106】
共重合体(D)において、α-オレフィンの炭素原子数は5以上80以下であることが好ましい。α-オレフィンの炭素原子数が5以上であれば、特にポリオレフィン樹脂との相溶性がより良好となる傾向があり、80以下であれば、原料コストがより良好となる傾向がある。このような理由から、α-オレフィンの炭素原子数の下限は、10以上であることがより好ましく、12以上であることがさらに好ましく、18以上であることが特に好ましい。また、上記の理由から、α-オレフィンの炭素原子数の上限は、70以下であることがより好ましく、60以下であることがさらに好ましい。
【0107】
共重合体(D)において、不飽和カルボン酸としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、メチルマレイン酸、フマル酸、メチルフマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、グルタコン酸、ノルボルナン-5-エン-2,3-ジカルボン酸、及びこれらの不飽和カルボン酸のエステル、無水物、イミド等が挙げられる。「(メタ)アクリル酸」はアクリル酸又はメタクリル酸を示す。
【0108】
不飽和カルボン酸のエステル、無水物又はイミドの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルへキシル、(メタ)アクリル酸グリシジル等の(メタ)アクリル酸エステル;無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物等のジカルボン酸無水物;マレイミド、N-エチルマレイミド、N-フェニルマレイミド等のマレイミド化合物等が挙げられる。
【0109】
上記の不飽和カルボン酸として、これらの1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。上記の中では、共重合反応性の点から、不飽和カルボン酸のエステル又はジカルボン酸無水物が好ましい。中でも、リン系難燃剤(B)との相溶性の点から、ジカルボン酸無水物が好ましく、無水マレイン酸が特に好ましい。このように上記の相溶性の観点から、酸変性ポリオレフィン系樹脂(D)は、α-オレフィンと無水マレイン酸との共重合体であることが好ましい。
【0110】
共重合体(D)の重量平均分子量は、2,000以上が好ましく、3,000以上がより好ましく、一方、50,000以下が好ましく、30,000以下がより好ましい。共重合体(D)の重量平均分子量が前記上下限値範囲であれば、リン系難燃剤(B)の分散性がより優れる。共重合体(D)の重量平均分子量は、例えば、2,000以上50,000以下であってよく、3,000以上30,000以下であってよい。共重合体(D)の重量平均分子量は、共重合体(D)をテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィにより測定される標準ポリスチレン換算の値である。
【0111】
共重合体(D)の市販品としては、例えば、リコルブ(登録商標)CE2(クラリアントジャパン(株)製)、ダイヤカルナ(登録商標)30M(三菱ケミカル(株)製)が挙げられる。
【0112】
樹脂組成物において、酸変性ポリオレフィン系樹脂(D)の割合は、リン系難燃剤(B)を十分に分散させる観点から適宜に決めることが可能である。
【0113】
リン系難燃剤(B)に対する酸変性ポリオレフィン系樹脂(C)の割合が上記範囲内であることは、樹脂組成物をマスターバッチとして使用した場合に、高い機械的強度及び高い曲げ弾性率を維持したまま、高い難燃性を有する樹脂製品を得ることができる。上記の観点から、樹脂組成物におけるリン系難燃剤(B)に対する酸変性ポリオレフィン系樹脂(C)の割合は、例えば、15質量%以下であってよく、12質量%以下であってよく、10質量%以下であってよく、9質量%以下であってよく、1質量%以上であってよく、2質量%以上であってよく、3質量%以上であってよく、4質量%以上であってよい。
【0114】
本発明の樹脂組成物におけるリン系難燃剤(B)に対する酸変性ポリオレフィン系樹脂(D)の割合は、リン系難燃剤(B)(100質量部)に対して、0.01質量部以上が好ましく、0.05質量部以上がより好ましく、0.1質量部以上がさらに好ましく、0.3質量部以上が特に好ましく、一方、8質量部以下が好ましく、6質量部以下がさらに好ましく、5質量部以下が特に好ましい。リン系難燃剤(B)(100質量部)に対する酸変性ポリオレフィン系樹脂(D)の割合が上記範囲内であることにより、難燃性と成形品の機械物性を高いレベルで実現しうる。
【0115】
本樹脂組成物の総質量に対する酸変性ポリオレフィン系樹脂(D)の割合は、0.01質量%以上が好ましく、0.03質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上がさらに好ましく、一方、5質量%以下が好ましく、4質量%以下がより好ましく、3質量%以下がさらに好ましい。酸変性ポリオレフィン系樹脂(D)の割合が前記下限値以上であれば、リン系難燃剤(B)が良好に分散し、樹脂組成物の難燃性及び物性、得られる成形品の外観が良好となる。酸変性ポリオレフィン系樹脂(D)の割合が前記上限値以下であれば、酸変性ポリオレフィン系樹脂(D)による樹脂組成物の難燃性への影響を抑制できる。
【0116】
また、熱可塑性樹脂(A)及びリン系難燃剤(B)の合計質量に対する酸変性ポリオレフィン系樹脂(D)の割合は、0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上がさらに好ましく、一方、2.0質量%以下が好ましく、1.5質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下がさらに好ましい。酸変性ポリオレフィン系樹脂(D)の割合が前記下限値以上であれば、リン系難燃剤(B)がより良好に分散し、樹脂組成物の難燃性及び物性、得られる成形品の外観がより良好となる。酸変性ポリオレフィン系樹脂(D)の割合が前記上限値以下であれば、酸変性ポリオレフィン系樹脂(D)による樹脂組成物の難燃性への影響をより抑制できる。
【0117】
[その他の成分]
本実施形態に係る樹脂組成物は、本発明の効果が得られる範囲において、熱可塑性樹脂(A)、リン系難燃剤(B)、無機繊維(C)、酸変性ポリオレフィン系樹脂(D)以外の他の成分をさらに含有していてもよい。他の成分は一種でもそれ以上でもよく、本発明の効果と他の成分の効果との両方が得られる範囲において、その種類及び量を適宜に決めてよい。
【0118】
<他の難燃剤及び難燃助剤>
他の成分の例には、リン系難燃剤(B)以外の他の難燃剤及び難燃助剤が挙げられる。他の難燃剤又は難燃助剤としては、ハロゲンを含有しない、有機又は無機系の難燃剤又は難燃助剤が好ましい。かかる難燃剤又は難燃助剤としては、トリアジン環含有化合物、シリコーン系難燃剤、金属水酸化物、金属酸化物、ホウ酸化合物、膨張性黒鉛等が挙げられる。
【0119】
トリアジン環含有化合物の例としては、メラミン、アンメリン、ベンズグアナミン、アセトグアナミン、フタロジグアナミン、メラミンシアヌレート、ブチレンジグアナミン、ノルボルネンジグアナミン、メチレンジグアナミン、エチレンジメラミン、トリメチレンジメラミン、テトラメチレンジメラミン、ヘキサメチレンジメラミン、1,3-ヘキシレンジメラミン等が挙げられる。シリコーン系難燃剤の例としては、シリコーンオイル、シリコーンゴム、シリコーン樹脂等が挙げられる。金属水酸化物の例としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化亜鉛、キスマー5A(協和化学工業(株)製水酸化マグネシウムの登録商標)等が挙げられる。金属酸化物の例としては、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、二酸化チタン、ハイドロタルサイト等の無機化合物、及びその表面処理品が挙げられる。金属酸化物の具体例としては、TIPAQUE R-680(石原産業(株)製酸化チタンの登録商標)、キョーワマグ150(協和化学工業(株)製酸化マグネシウムの登録商標)、DHT-4A(ハイドロタルサイト:協和化学工業(株)製)、アルカマイザー4(協和化学工業(株)製亜鉛変性ハイドロタルサイトの登録商標)等が挙げられる。ホウ酸化合物の例としては、ホウ酸亜鉛等が挙げられる。これらの難燃剤又は難燃助剤は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0120】
[他の成分]
樹脂組成物は、界面強度向上剤を含んでいてもよい。界面強度向上剤(E)は、酸性基を有することが好ましい。無機繊維状フィラー(D)と酸性基とが反応することによって界面強度がより向上する。酸性基としては、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、スルホン酸基、スルフィン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基等が挙げられ、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、スルホン酸基、スルフィン酸基、ホスホン酸基及びホスフィン酸基からなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、カルボキシル基、カルボン酸無水物基及びホスホン酸基からなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、カルボキシル基及びカルボン酸無水物基らなる群より選択される少なくとも1種が特に好ましい。
【0121】
オレフィン骨格及び酸性基を有する界面強度向上剤(E)の製造方法としては、(1)オレフィン樹脂を高温下で熱分解により低分子量化した後、酸性基を有する化合物又は単量体を付加させる方法、(2)低分子量のオレフィン樹脂を重合した後、酸性基を有する化合物又は単量体を付加させる方法、(3)α-オレフィンと酸性基を有する化合物又は単量体を共重合する方法等が挙げられる。重合方法としては、溶液重合、乳化重合、懸濁重合、塊状重合等のラジカル重合法、又はリビング重合法を採用することができる。さらに一旦マクロモノマーを形成した後、重合する方法も採用可能である。酸性基を有する化合物又は単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸及び無水シトラコン酸等が挙げられ、特に無水マレイン酸が好適である。
【0122】
界面強度向上剤(E)の市販品としては、例えば、ユーメックス(登録商標)1001、1010(三洋化成工業(株)製)、カヤブリッド(化薬アクゾ(株)の登録商標)002PP、003PP(化薬ヌーリオン(株)製)が挙げられる。
【0123】
樹脂組成物は、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤及び老化防止剤からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0124】
酸化防止剤としては、例えばフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤及びチオエーテル系酸化防止剤が挙げられる。フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ第三ブチル-p-クレゾール、2,6-ジフェニル-4-オクタデシロキシフェノール、ジステアリル(3,5-ジ-第三ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ホスホネ-ト、1,6-ヘキサメチレンビス〔(3,5-ジ第三ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸アミド〕、4,4’-チオビス(6-第三ブチル-m-クレゾール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-第三ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-第三ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(6-第三ブチル-m-クレゾール)、2,2’-エチリデンビス(4,6-ジ第三ブチルフェノール)、2,2’-エチリデンビス(4-第二ブチル-6-第三ブチルフェノール)、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-第三ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリス(2,6-ジメチル-3-ヒドロキシ-4-第三ブチルベンジル)イソシアヌレ-ト、1,3,5-トリス(3,5-ジ第三ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレ-ト、1,3,5-トリス(3,5-ジ第三ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2,4,6-トリメチルベンゼン、2-第三ブチル-4-メチル-6-(2-アクリロイルオキシ-3-第三ブチル-5-メチルベンジル)フェノール、ステアリル(3,5-ジ第三ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス〔3-(3,5-ジ第三ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸メチル〕メタン、チオジエチレングリコールビス〔(3,5-ジ第三ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6-ヘキサメチレンビス〔(3,5-ジ第三ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、ビス〔3,3-ビス(4-ヒドロキシ-3-第三ブチルフェニル)ブチリックアシッド〕グリコールエステル、ビス〔2-第三ブチル-4-メチル-6-(2-ヒドロキシ-3-第三ブチル-5-メチルベンジル)フェニル〕テレフタレート、1,3,5-トリス〔(3,5-ジ第三ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル〕イソシアヌレ-ト、3,9-ビス〔1,1-ジメチル-2-{(3-第三ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル〕-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、トリエチレングリコールビス〔(3-第三ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート〕等が挙げられる。フェノール系酸化防止剤の含有量は、樹脂組成物中の熱可塑性樹脂成分100質量部に対して、0.001質量部以上が好ましく、0.05質量部以上がより好ましく、一方、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0125】
リン系酸化防止剤としては、例えば、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス〔2-第三ブチル-4-(3-第三ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニルチオ)-5-メチルフェニル〕ホスファイト、トリデシルホスファイト、オクチルジフェニルホスファイト、ジ(デシル)モノフェニルホスファイト、ジ(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジ(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ第三ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ第三ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4,6-トリ第三ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラ(トリデシル)イソプロピリデンジフェノールジホスファイト、テトラ(トリデシル)-4,4’-n-ブチリデンビス(2-第三ブチル-5-メチルフェノール)ジホスファイト、ヘキサ(トリデシル)-1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-第三ブチルフェニル)ブタントリホスファイト、テトラキス(2,4-ジ第三ブチルフェニル)ビフェニレンジホスホナイト、9,10-ジハイドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナンスレン-10-オキサイド、2,2’-メチレンビス(4,6-第三ブチルフェニル)-2-エチルヘキシルホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-第三ブチルフェニル)-オクタデシルホスファイト、2,2’-エチリデンビス(4,6-ジ第三ブチルフェニル)フルオロホスファイト、トリス(2-〔(2,4,8,10-テトラキス第三ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン-6-イル)オキシ〕エチル)アミン、2-エチル-2-ブチルプロピレングリコールと2,4,6-トリ第三ブチルフェノールのホスファイト、トリス(2,4-ジ-第三ブチルフェニル)ホスファイト等が挙げられる。リン系酸化防止剤の含有量は、樹脂組成物中の熱可塑性樹脂成分100質量部に対して、0.001質量部以上が好ましく、0.05質量部以上がより好ましく、一方、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0126】
チオエーテル系酸化防止剤としては、例えば、チオジプロピオン酸ジラウリル、チオジプロピオン酸ジミリスチル、チオジプロピオン酸ジステアリル等のジアルキルチオジプロピオネート類、及びペンタエリスリトールテトラ(β-アルキルチオプロピオン酸エステル)類が挙げられる。チオエーテル系酸化防止剤の含有量は、樹脂組成物中の熱可塑性樹脂成分100質量部に対して、0.001質量部以上が好ましく、0.05質量部以上がより好ましく、一方、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0127】
紫外線吸収剤としては、例えば、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、5,5’-メチレンビス(2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン)等の2-ヒドロキシベンゾフェノン類;2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ第三ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-第三ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-第三オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジクミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2’-メチレンビス(4-第三オクチル-6-(ベンゾトリアゾリル)フェノール)、2-(2’-ヒドロキシ-3’-第三ブチル-5’-カルボキシフェニル)ベンゾトリアゾール等の2-(2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール類;フェニルサリシレート、レゾルシノールモノベンゾエート、2,4-ジ第三ブチルフェニル-3,5-ジ第三ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、2,4-ジ第三アミルフェニル-3,5-ジ第三ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、ヘキサデシル-3,5-ジ第三ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート等のベンゾエート類;2-エチル-2’-エトキシオキザニリド、2-エトキシ-4’-ドデシルオキザニリド等の置換オキザニリド類;エチル-α-シアノ-β,β-ジフェニルアクリレート、メチル-2-シアノ-3-メチル-3-(p-メトキシフェニル)アクリレート等のシアノアクリレート類;2-(2-ヒドロキシ-4-オクトキシフェニル)-4,6-ビス(2,4-ジ第三ブチルフェニル)-s-トリアジン、2-(2-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)-4,6-ジフェニル-s-トリアジン、2-(2-ヒドロキシ-4-プロポキシ-5-メチルフェニル)-4,6-ビス(2,4-ジ第三ブチルフェニル)-s-トリアジン等のトリアリールトリアジン類が挙げられる。紫外線吸収剤の含有量は、樹脂組成物中の熱可塑性樹脂成分100質量部に対して、0.001質量部以上が好ましく、0.05質量部以上がより好ましく、一方、30質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましい。
【0128】
光安定剤としては、例えば、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルステアレート、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルステアレート、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルベンゾエート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1-オクトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)・ジ(トリデシル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)・ジ(トリデシル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,4,4-ペンタメチル-4-ピペリジル)-2-ブチル-2-(3,5-ジ第三ブチル-4-ヒドロキシベンジル)マロネート、1-(2-ヒドロキシエチル)-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノール/コハク酸ジエチル重縮合物、1,6-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4-ジクロロ-6-モルホリノ-s-トリアジン重縮合物、1,6-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4-ジクロロ-6-第三オクチルアミノ-s-トリアジン重縮合物、1,5,8,12-テトラキス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕-1,5,8,12-テトラアザドデカン、1,5,8,12-テトラキス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕-1,5,8-12-テトラアザドデカン、1,6,11-トリス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕アミノウンデカン、1,6,11-トリス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕アミノウンデカン等のヒンダードアミン化合物が挙げられる。光安定剤の含有量は、樹脂組成物中の熱可塑性樹脂成分100質量部に対して、0.001質量部以上が好ましく、0.05質量部以上がより好ましく、一方、30質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましい。
【0129】
樹脂料組成物は、フィラーを含んでいてもよい。フィラーとしては、繊維状、板状、粒状、粉末状のものを用いることができる。具体的には、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、再生セルロース繊維、アセテート繊維、ケナフ、ラミー、木綿、ジュート、麻、サイザル、亜麻、リネン、絹、マニラ麻、さとうきび、木材パルプ、紙屑、古紙及びウ-ル等の有機繊維状強化材、ガラスフレーク、非膨潤性雲母、グラファイト、金属箔、セラミックビーズ、クレー、マイカ、セリサイト、ゼオライト、ベントナイト、ドロマイト、カオリン、微粉ケイ酸、長石粉、チタン酸カリウム、シラスバルーン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、二酸化チタン、ケイ酸アルミニウム、石膏、ノバキュライト、ドーソナイト及び白土等の板状又は粒状の強化材が挙げられる。これらのフィラーは、エチレン-酢酸ビニル共重合体等の熱可塑性樹脂、あるいは、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂で被覆又は集束処理されていてもよく、アミノシラン及びエポキシシラン等のカップリング剤等で処理されていてもよい。他のフィラーの含有量は、樹脂組成物中の熱可塑性樹脂成分100質量部に対して、10質量部以上が好ましく、20質量部以上が好ましく、一方、60質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましい。
【0130】
樹脂組成物は、結晶核剤を含んでいてもよい。結晶核剤としては、一般にポリオレフィン樹脂の結晶核剤として用いられるものを適宜用いることができ、例えば無機系結晶核剤、有機系結晶核剤が挙げられる。
【0131】
無機系結晶核剤の具体例としては、カオリナイト、合成マイカ、クレー、ゼオライト、グラファイト、カーボンブラック、酸化マグネシウム、酸化チタン、硫化カルシウム、窒化ホウ素、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化アルミニウム、酸化ネオジウム及びフェニルホスホネート等の金属塩が挙げられる。これらの無機系結晶核剤は、組成物中での分散性を高めるために、有機物で修飾されていてもよい。
【0132】
有機系結晶核剤の具体例としては、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸カルシウム、安息香酸マグネシウム、安息香酸バリウム、テレフタル酸リチウム、テレフタル酸ナトリウム、テレフタル酸カリウム、シュウ酸カルシウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、ミリスチン酸カルシウム、オクタコサン酸ナトリウム、オクタコサン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸バリウム、モンタン酸ナトリウム、モンタン酸カルシウム、トルイル酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸カリウム、サリチル酸亜鉛、アルミニウムジベンゾエート、カリウムジベンゾエ-ト、リチウムジベンゾエート、ナトリウムβ-ナフタレート、ナトリウムシクロヘキサンカルボキシレート等の有機カルボン酸金属塩、p-トルエンスルホン酸ナトリウム、スルホイソフタル酸ナトリウム等の有機スルホン酸塩、ステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、パルチミン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、トリメシン酸トリス(t-ブチルアミド)等のカルボン酸アミド、ベンジリデンソルビトール及びその誘導体、ナトリウム-2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ホスフェート等のリン化合物金属塩、及び2,2-メチルビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)ナトリウム等が挙げられる。
【0133】
樹脂組成物は、可塑剤を含んでいてもよい。可塑剤としては、一般にポリオレフィン樹脂の可塑剤として用いられるものを適宜用いることができ、例えばポリエステル系可塑剤、グリセリン系可塑剤、多価カルボン酸エステル系可塑剤、ポリアルキレングリコール系可塑剤、エポキシ系可塑剤等が挙げられる。これらの可塑剤は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0134】
ポリエステル系可塑剤の具体例としては、アジピン酸、セバチン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ロジン等の酸成分と、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のジオール成分とからなるポリエステル、又は、ポリカプロラクトン等のヒドロキシカルボン酸からなるポリエステル等が挙げられる。これらのポリエステルは、単官能カルボン酸又は単官能アルコールで末端が封鎖されていてもよく、エポキシ化合物等で末端が封鎖されていてもよい。
【0135】
グリセリン系可塑剤の具体例としては、グリセリンモノアセトモノラウレート、グリセリンジアセトモノラウレート、グリセリンモノアセトモノステアレート、グリセリンジアセトモノオレート及びグリセリンモノアセトモノモンタネート等が挙げられる。
【0136】
多価カルボン酸エステル系可塑剤の具体例としては、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジベンジル、フタル酸ブチルベンジル等のフタル酸エステル、トリメリット酸トリブチル、トリメリット酸トリオクチル、トリメリット酸トリヘキシル等のトリメリット酸エステル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸n-オクチル-n-デシル、アジピン酸メチルジグリコ-ルブチルジグリコール、アジピン酸ベンジルメチルジグリコール、アジピン酸ベンジルブチルジグリコール等のアジピン酸エステル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル等のクエン酸エステル、アゼライン酸ジ-2-エチルヘキシル等のアゼライン酸エステル、セバシン酸ジブチル、及びセバシン酸ジ-2-エチルヘキシル等のセバシン酸エステル等が挙げられる。
【0137】
ポリアルキレングリコール系可塑剤の具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリ(エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド)ブロック及び/又はランダム共重合体、ポリテトラメチレングリコール、ビスフェノール類のエチレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のプロピレンオキシド付加重合体、ビスフェノール類のテトラヒドロフラン付加重合体等のポリアルキレングリコール、或いはその末端エポキシ変性化合物、末端エステル変性化合物、及び末端エーテル変性化合物等の、末端封鎖化合物等が挙げられる。
【0138】
エポキシ系可塑剤は、一般にはエポキシステアリン酸アルキルと大豆油とからなるエポキシトリグリセリド等を指すが、その他にも、主にビスフェノールAとエピクロロヒドリンを原料とするような、いわゆるエポキシ樹脂も使用することができる。
【0139】
その他の可塑剤の具体例としては、ネオペンチルグリコールジベンゾエート、ジエチレングリコールジベンゾエート、トリエチレングリコールジ-2-エチルブチレート等の脂肪族ポリオールの安息香酸エステル、ステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド、オレイン酸ブチル等の脂肪族カルボン酸エステル、アセチルリシノール酸メチル、アセチルリシノール酸ブチル等のオキシ酸エステル、ペンタエリスリトール、各種ソルビトール、ポリアクリル酸エステル及びパラフィン類等が挙げられる。
【0140】
樹脂組成物は、含フッ素滴下防止剤を含んでいてもよい。含フッ素滴下防止剤としては、フィブリル形成能を有する含フッ素ポリマーが挙げられる。かかる含フッ素ポリマーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」とも記す。)、テトラフルオロエチレン系共重合体(例えば、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、米国特許第4379910号公報に示されるような部分フッ素化ポリマー、フッ素化ジフェノールから製造されるポリカーボネート樹脂等が挙げられる。中でもPTFEが好ましい。
【0141】
フィブリル形成能を有するPTFEは、極めて高い分子量を有し、せん断力等の外的作用によりPTFE同士を結合して繊維状になる傾向を示すものである。その分子量は、標準比重から求められる数平均分子量において100万以上が好ましく、200万以上がより好ましく、一方、1000万以下が好ましく、900万以下がより好ましい。フィブリル形成能を有するPTFEは、固体形状の他、水性分散液形態のものも使用可能である。
【0142】
フィブリル形成能を有するPTFEの市販品としては、例えば三井・デュポンフロロケミカル(株)のテフロン(登録商標)6J、ダイキン工業(株)のポリフロン(登録商標)MPA FA500及びF-201Lが挙げられる。PTFEの水性分散液の市販品としては、旭アイシーアイフロロポリマーズ(株)製のフルオン(AGC(株)の登録商標)AD-939E、ダイキン工業(株)製のフルオンD-310及びD-210C、三井・デュポンフロロケミカル(株)製のテフロン31JR等が挙げられる。
【0143】
フィブリル形成能を有するPTFEの樹脂組成物中での分散性を向上させ、さらに良好な難燃性、機械的特性及び曲げ弾性率を得るために、フィブリル形成能を有するPTFEと他の樹脂との混合形態のPTFE混合物を使用することも可能である。PTFE混合物の総質量に対するPTFEの割合は、1質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、一方、60質量%以下が好ましく、55質量%以下がより好ましい。PTFEの割合がかかる範囲にある場合は、PTFEの良好な分散性を達成することができる。
【0144】
PTFE混合物は、例えば、(1)PTFEの水性分散液と他の樹脂の水性分散液又は溶液とを混合し共沈殿して共凝集混合物を得る方法(特開昭60-258263号公報、特開昭63-154744号公報等に記載された方法)、(2)PTFEの水性分散液と乾燥した他の樹脂の粒子とを混合する方法(特開平4-272957号公報に記載された方法)、(3)PTFEの水性分散液と他の樹脂の溶液とを均一に混合し、かかる混合物からそれぞれの媒体を同時に除去する方法(特開平06-220210号公報、特開平08-188653号公報等に記載された方法)、(4)PTFEの水性分散液中で他の樹脂を形成する単量体を重合する方法(特開平9-95583号公報に記載された方法)、又は(5)PTFEの水性分散液と他の樹脂の分散液を均一に混合し、得られた混合分散液中でビニル系単量体を重合し、その後混合物を得る方法(特開平11-29679号等に記載された方法)により得られたものが使用できる。PTFE混合物の市販品としては、三菱ケミカル社の「メタブレン(登録商標)A3000」、GEスペシャリティ-ケミカルズ社の「BLENDEX(ガラタケミカルズ社の登録商標) B449」等が挙げられる。
【0145】
含フッ素滴下防止剤の含有量は、樹脂組成物100質量部あたり、PTFE量として0.01質量部以上が好ましく、0.05質量部以上がより好ましく、0.1質量部以上がさらに好ましく、一方、1質量部以下が好ましく、0.8質量部以下がより好ましく、0.5質量部以下がさらに好ましい。
【0146】
[樹脂組成物の製造方法]
上記の樹脂組成物を製造するには、任意の方法が採用される。例えば熱可塑性樹脂(A)、リン系難燃剤(B)、及び必要に応じて、無機繊維(C)、酸変性ポリオレフィン系樹脂(D)、他の難燃剤又は難燃助剤等の他の成分を、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置又は押出混合機等の予備混合手段を用いて充分に混合し、場合により押出造粒器又はブリケッティングマシーン等により造粒し、その後、溶融混練機で溶融混練し、押し出す方法が挙げられる。溶融混練機としては、ベント式二軸押出機等の二軸押出機、バンバリーミキサー、混練ロール、単軸押出機、3軸以上の多軸押出機等が挙げられる。溶融混練する際の温度は、例えば170~260℃である。上記の如く押し出された樹脂組成物の形態は限定されないが、取扱性の観点及び他の材料と容易に混練させる観点から、ペレットの形態であることが好ましい。この場合、上記のように溶融混練された樹脂組成物は、直接、ペレタイザー等の機器により切断されてペレット化されてもよく、又は冷却されてストランドを形成した後、かかるストランドをペレタイザー等の機器により切断されてペレット化されてもよい。
【0147】
本発明の樹脂組成物は、下記の難燃剤マスターバッチを、熱可塑性樹脂(A)を含む樹脂成分で希釈して製造することができる。下記の難燃剤マスターバッチを使用すると、得られる樹脂組成物中のリン系難燃性(B)の分散度が良好になるため好ましい。
【0148】
[難燃剤マスターバッチ]
本発明の樹脂組成物の製造に用いることのできる難燃剤マスターバッチは、熱可塑性樹脂(A)と、リン系難燃剤(B)と、酸変性ポリオレフィン系樹脂(D)と、を含み、前記リン系難燃剤(B)の割合が70質量%以上である樹脂組成物である。前記酸変性ポリオレフィン系樹脂(D)の割合は、10質量%以下とすることができる。難燃剤マスターバッチに含まれる熱可塑性樹脂(A)、リン系難燃剤(B)、酸変性ポリオレフィン系樹脂(D)は、本発明の樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂(A)、リン系難燃剤(B)、酸変性ポリオレフィン系樹脂(D)と共通であることが好ましい。
【0149】
〔成形品〕
本発明の一態様に係る成形品は、前述の本実施形態に係る樹脂組成物からなる。成形品の形状は特に限定されず、樹脂板、シート、フィルム、ケーブル、異形品等の種々の形状をとり得る。
【0150】
成形品は、上記の樹脂組成物を成形することにより得られる。成形方法は、特に限定されるものではなく、押し出し加工、カレンダー加工、射出成形、ロール、圧縮成形、ブロー成形等が挙げられる。当該樹脂組成物を成形する際の温度は、例えば、170~260℃である。
【0151】
〔まとめ〕
以上の説明から明らかなように、本発明の第一の態様の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と、リン系難燃剤(B)と、を含む樹脂組成物であって、前記樹脂組成物の成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像から無作為に選択された90μm×120μmの視野領域内で観察される前記リン系難燃剤(B)の像の合計個数に対する、面積20μm未満の前記リン系難燃剤(B)の像の合計個数の割合が、95%以上である。第一の態様によれば、難燃性と機械物性に優れた樹脂からなる成形品に好適な樹脂組成物を提供することができる。
【0152】
本発明の第二の態様の樹脂組成物は、第一の態様において、前記視野領域内で観察される前記リン系難燃剤(B)の像の合計個数が200個以上である。第二の態様は、難燃性向上の観点からより一層効果的である。
【0153】
本発明の第三の態様の樹脂組成物は、第一の態様又は第二の態様において、前記樹脂組成物の成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像から無作為に選択された90μm×90μmの視野領域を10μm×10μmの正方格子によって計81個の正方形領域に分割したときの前記正方形領域中に存在するリン系難燃剤(B)の像の個数の標準偏差を、前記像の個数の平均値で除して得られる変動係数が、0.55以下である。第三の態様は、難燃性及び機械特性を向上させる観点からより一層効果的である。
【0154】
本発明の第四の態様の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と、リン系難燃剤(B)と、を含む樹脂組成物であって、前記樹脂組成物の成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像から無作為に選択された90μm×120μmの視野領域内で観察される前記リン系難燃剤(B)の像の合計面積に対する、面積20μm未満の前記リン系難燃剤(B)の像の合計面積の割合が、55%以上である。第四の態様によれば、難燃性と機械物性に優れた樹脂からなる成形品に好適な樹脂組成物を提供することができる。
【0155】
本発明の第五の態様の樹脂組成物は、第四の態様において、前記視野領域内で観察される前記リン系難燃剤(B)の像の合計面積が1000μm以上である。第五の態様は、難燃性向上の観点からより一層効果的である。
【0156】
本発明の第六の態様の樹脂組成物は、第四の態様又は第五の態様において、前記樹脂組成物の成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像から無作為に選択された90μm×90μmの視野領域を10μm×10μmの正方格子によって計81個の正方形領域に分割したときの前記正方形領域中に存在するリン系難燃剤(B)の像の個数の標準偏差を、前記像の個数の平均値で除して得られる変動係数が、0.55以下である。第六の態様は、難燃性及び機械特性を向上させる観点からより一層効果的である。
【0157】
本発明の第七の態様の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と、リン系難燃剤(B)と、無機繊維(C)を含む樹脂組成物であって、前記樹脂組成物の成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像から無作為に選択された200μm×250μmの視野領域内で観察される、前記無機繊維(C)の像の平均面積より大きい前記リン系難燃剤(B)の像の面積の割合が、前記視野領域内での前記リン系難燃剤(B)の像全体の面積の10%以下である。第七の態様によれば、難燃性と機械物性に優れた樹脂からなる成形品に好適な樹脂組成物を提供することができる。
【0158】
本発明の第八の態様の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と、リン系難燃剤(B)と、無機繊維(C)を含む樹脂組成物であって、前記樹脂組成物の成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像から無作為に選択された200μm×250μmの視野領域内で観察される、前記リン系難燃剤(B)の像の面積が前記視野領域内で観察される前記無機繊維(C)の像の平均面積の50%以上である前記リン系難燃剤(B)の像の面積の割合が、前記視野領域内の前記リン系難燃剤(B)の像全体の面積の割合の30%以下である。第八の態様によれば、難燃性と機械物性に優れた樹脂からなる成形品に好適な樹脂組成物を提供することができる。
【0159】
本発明の第九の態様の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と、リン系難燃剤(B)と、無機繊維(C)を含む樹脂組成物であって、前記樹脂組成物の成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像から無作為に選択された200μm×250μmの視野領域内で観察される、前記リン系難燃剤(B)の像の面積が前記視野領域内で観察される前記無機繊維(C)の像の平均面積の25%以上である前記リン系難燃剤(B)の像の面積の割合が、前記視野領域内の前記リン系難燃剤(B)の像全体の面積の割合の50%以下である。第九の態様によれば、難燃性と機械物性に優れた樹脂からなる成形品に好適な樹脂組成物を提供することができる。
【0160】
本発明の第十の態様の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と、リン系難燃剤(B)と、無機繊維(C)を含む樹脂組成物であって、難燃剤粒子密度の平均値である難燃剤分散度パラメータDが5×10-3~5×10-1である樹脂組成物である。ただし、前記難燃剤粒子密度は、下記で定義される特定領域であって、かつ互いに重ならない五つの特定領域のそれぞれについて下記式(1)から算出され、前記特定領域は、前記樹脂組成物の成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像から無作為に選択された200μm×250μmの視野領域内で観察される前記無機繊維(C)の真円又は楕円状の四つの像のそれぞれの中心である四つの頂点を直線で結んで形成される四角形のうち、その面積が1000μm以上であり、かつ前記頂点を含む四つの前記無機繊維(C)以外の前記無機繊維(C)の像を含まない四角形である。第十の態様によれば、難燃性と機械物性に優れた樹脂からなる成形品に好適な樹脂組成物を提供することができる。
難燃剤粒子密度=特定領域中に存在する面積1μm以上のリン系難燃剤(B)の像の個数/前記特定領域の面積(μm)・・・(1)
【0161】
本発明の第十一の態様の樹脂組成物は、第一の態様から第十の態様のいずれかにおいて、さらに、酸変性ポリオレフィン系樹脂(D)を含む。第十一の態様は、熱可塑性樹脂(A)中のリン系難燃剤(B)の分散性を高める観点からより一層効果的である。
【0162】
本発明の第十二の態様の樹脂組成物は、第十一の態様において、リン系難燃剤(B)に対する前記酸変性ポリオレフィン系樹脂(D)の割合が15質量%以下である。第十二の態様は、機械特性と難燃性とを両立させる観点からより一層効果的である。
【0163】
本発明の第十三の態様の樹脂組成物は、第十一の態様又は第十二の態様において、前記酸変性ポリオレフィン系樹脂(D)がα-オレフィンと無水マレイン酸との共重合体である。第十三の態様は、リン系難燃剤(B)との相溶性を高める観点からより一層効果的である。
【0164】
本発明の第十四の態様の樹脂組成物は、第一の態様から第十三の態様のいずれかにおいて、前記樹脂組成物の総質量に対する前記熱可塑性樹脂(A)の割合が20質量%以上85質量%以下である。第十四の態様は、樹脂組成物の成形品における成形加工性、難燃性及び機械特性を高める観点からより一層効果的である。
【0165】
本発明の第十五の態様の樹脂組成物は、第一の態様から第十四の態様のいずれかにおいて、前記熱可塑性樹脂(A)がポリオレフィン樹脂である。第十五の態様は、難燃性向上の観点からより一層効果的である。
【0166】
本発明の第十六の態様の成形品は、第一の態様から第十五の態様のいずれかに記載の樹脂組成物からなる。第十六の態様によれば、難燃性と機械物性に優れた樹脂からなる成形品を提供することができる。
【0167】
本発明によれば、高い難燃性を有する樹脂製品を高い自由度で設計し、製造することが可能である。このような本発明は、金属製品からより軽量な樹脂製品への代替を可能とすることから、例えば、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)における、産業と技術革新の基盤作りに関する目標9等の達成にも貢献することが期待される。
【0168】
本発明は上述した各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0169】
以下、本発明を実施例により、具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例により何ら制限されない。尚、以下の実施例等において、%は特に記載が無い限り質量基準である。評価としては以下の項目について実施した。
【0170】
(1)難燃性(UL94)
得られた成形品(1/16インチの試験棒)を用い、UL94規格に準拠して垂直燃焼試験によって難燃性を判断した。「総燃焼時間」は、当該燃焼試験中の有炎燃焼時間の合計である。「ドリップ本数」は、当該燃焼試験中に試験片から落下する粒子(ドリップ)の数である。「判定」はUL94規格で規定されている、(1)各試験片の接炎後の燃焼時間、(2)5本の試料の合計燃焼時間、(3)各試験片の燃焼到達位置、(4)ドリップによる発火、及び(5)二回目の接炎後の赤熱、で決まる等級である。
【0171】
(2)引張特性
得られた成形品(JIS K7139-A1又はJIS K6251-1、ダンベル試験片)を用い、JIS K7161-1に準拠して引張最大点強度(MPa)及び引張伸度(%)を測定した。
【0172】
(3)曲げ特性
得られた成形品(JIS K7139-A1ダンベル試験片)を長さ80mmに切断し、JIS K7171に準拠して曲げ弾性率(MPa)及び曲げ最大点強度(MPa)を測定した。
【0173】
(4)シャルピー強度
得られた成形品を用い、JIS K7111-1:2012に準拠してシャルピー衝撃強度(kJ/m)を測定した。
【0174】
原料として、以下の材料を用いた。
【0175】
<熱可塑性樹脂(A)>
A-1:ポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ(株)製、「ノバテック(登録商標)SA06GA」、メルトマスフローレート60g/10分)。
A-2:ポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ(株)製、「ノバテック(登録商標)BC10HRF」、メルトマスフローレート100g/10分)。
A-3:ポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ(株)製、「ノバテック(登録商標)BC03B」、メルトマスフローレート30g/10分)。
A-4:長繊維ガラス繊維(GF)入りPPコンパウンド(日本ポリプロ(株)製、「ファンクスター(登録商標)LR24A」、(GF=40%))。
A-5:長繊維ガラス繊維(GF)入りPPコンパウンド(日本ポリプロ(株)製、「ファンクスター(登録商標)LR25Z」、(GF=50%))。
【0176】
<リン系難燃剤(B)>
リン系難燃剤組成物((株)ADEKA製、「アデカスタブ(登録商標)FP-2500S」、リン系難燃剤組成物の総質量に対し、ピロリン酸ピベラジンを50~60%、ピロリン酸メラミンを35~45%、酸化亜鉛を3~6%含有)。
【0177】
<酸変性ポリオレフィン(PO)系樹脂(D)>
α-オレフィン・無水マレイン酸共重合体(三菱ケミカル(株)製、「ダイヤカルナ(登録商標)30M」、重量平均分子量7,800)。
【0178】
〔製造例1〕
下記成分を下記の量で配合し、ハンドブレンドで混合した。その後、φ30mm同方向二軸押出機(機種名「BT-30」、(株)プラスチック工学研究所製、L/D=30)を用い、スクリュー回転数250rpm、シリンダー温度200℃の条件で溶融混練してペレット状のマスターバッチ1を得た。なお、「L/D」はスクリューの長さ(L)と直径(D)の比を示す。
リン系難燃剤(B) 70%
酸変性ポリオレフィン系樹脂(D) 3.5%
熱可塑性樹脂(A)A-1 残り
【0179】
次いで、下記成分を下記の量でハンドブレンドにて混合した。次いで、得られた混合物を、全電動射出成型機「SE100DU」(住友重機械工業(株))を用いて、シリンダー温度180~200℃(180-190-200-200-200℃)、金型温度80℃の条件で射出成形し、前述したJIS K7139-A1のダンベル試験片である試験片Aを得た。
熱可塑性樹脂(A)A-4 63.0%
熱可塑性樹脂(A)A-1 8.0%
マスターバッチ1 29.0%
【0180】
また、前述の射出成形の条件で、長さ80.0mm、幅10.0mm、厚み4mmであり、かつVノッチを有する試験片Bを得た。これらの試験片A及びBのそれぞれを樹脂製品1とする。
【0181】
〔製造例2〕
リン系難燃剤(B)の量を75%に変更し、酸変性ポリオレフィン系樹脂(D)の量を4.6%に変更する以外は樹脂組成物1と同様に製造してマスターバッチ2を得た。また、29.0%のマスターバッチ1に代えて27.0%のマスターバッチ2を用い、熱可塑性樹脂(A)A-1の量を10.0%に変更する以外は樹脂製品1と同様にして製造して試験片A及び試験片Bを得た。これらの試験片A及びBのそれぞれを樹脂製品2とする。
【0182】
〔製造例3〕
熱可塑性樹脂(A)A-1に代えて熱可塑性樹脂(A)A-2を用い、リン系難燃剤(B)の量を78%に変更し、酸変性ポリオレフィン系樹脂(D)の量を3.90%に変更する以外は樹脂組成物1と同様に製造してマスターバッチ3を得た。また、29.0%のマスターバッチ1に代えて26.0%のマスターバッチ3を用い、熱可塑性樹脂(A)A-1の量を11.0%に変更する以外は樹脂製品1と同様にして製造して試験片A及び試験片Bを得た。これらの試験片A及びBのそれぞれを樹脂製品3とする。
【0183】
〔製造例4〕
熱可塑性樹脂(A)A-1に代えて熱可塑性樹脂(A)A-3を用い、リン系難燃剤(B)の量を70%に変更し、酸変性ポリオレフィン系樹脂(D)の量を2.3%に変更する以外はマスターバッチ1と同様に製造してマスターバッチ4を得た。
【0184】
次いで、下記成分を下記の量でハンドブレンドにて混合した。得られた混合物を、ファナック(株)製の射出成形機「FANUC ROBOSHOTα-S300iA」を用いて、試験片Xを製造した。
熱可塑性樹脂(A)A-5 60.0%
熱可塑性樹脂(A)A-3 19.0%
マスターバッチ4 21.0%
【0185】
具体的には、金型内に樹脂組成物を射出成形することにより、長さ200mm×幅200mm×厚さ2.0mmの試験片Xを作製した。なお、主な成形条件は以下の通りである。
1)温度条件:シリンダー温度(220℃)、金型温度(60℃)
2)射出条件:射出圧力(200MPa)、保持圧力(82MPa)
3)計量条件:スクリュー回転数(50rpm)、背圧(15MPa)
この試験片Xを樹脂製品4とする。
【0186】
マスターバッチ1~4の材料の組成を表1に示す。樹脂製品1~4の製造時の配合比率、及び製造後の各成分の含有量を表2に示す。なお、表1中「MB No.」は「マスターバッチNo.」を意味する。
【0187】
【表1】
【0188】
【表2】
【0189】
〔製造例5〕
熱可塑性樹脂(A)A-1 57.0%
マスターバッチ1 43.0%
上記成分を上記の量でハンドブレンドにて混合し、得られた混合物を、Tダイを備えた25mm単軸押出機を用いて、シリンダー温度180~200℃(180-190-190-200-200℃)、回転数30rpmの条件でシート状に押出成形し、Tダイの下流側の冷却ロール、引取機及び巻取機で成形品を引き取って厚さ300μmのフィルムを得た。当該フィルムを前述したJIS K6251-1のダンベル状1号形の形状に切り出し、試験片Cを得た。得られた試験片Cを樹脂製品5とする。
【0190】
〔製造例6〕
熱可塑性樹脂(A)A-1の量を60.0%に変更し、マスターバッチ1に代えて40.0%の量のマスターバッチ2を用いる以外は樹脂製品5と同様にして製造して試験片Cを得た。得られた試験片Cを樹脂製品6とする。
【0191】
〔製造例7〕
熱可塑性樹脂(A)A-1の量を61.5%に変更し、マスターバッチ1に代えて38.5%の量のマスターバッチ3を用いる以外は樹脂製品5と同様にして製造して試験片Cを得た。得られた試験片Cを樹脂製品7とする。
【0192】
〔製造例8〕
熱可塑性樹脂(A)A-1 70.0%
リン系難燃剤(B) 30.0%
上記成分の混合物を用いる以外は樹脂製品5と同様にして製造して試験片Cを得た。得られた試験片Cを樹脂製品C1とする。
【0193】
〔製造例9〕
熱可塑性樹脂(A)A-1 68.5%
リン系難燃剤(B) 30.0%
酸変性ポリオレフィン系樹脂(D) 1.50%
上記成分の混合物を用いる以外は樹脂製品5と同様にして製造して試験片Cを得た。得られた試験片Cを樹脂製品C2とする。
【0194】
〔製造例10〕
下記成分を下記の量で配合し、マスターバッチ1と同様に製造してペレット状のマスターバッチ5を得た。
リン系難燃剤(B) 60%
酸変性ポリオレフィン系樹脂(D) 2.0%
熱可塑性樹脂(A)A-1 残り
【0195】
次いで、下記成分を下記の量でハンドブレンドにて混合し、樹脂製品5と同様に製造して試験片Cを得た。この試験片Cを樹脂製品C3とする。
熱可塑性樹脂(A)A-1 50.0%
マスターバッチ5 50.0%
【0196】
〔製造例11〕
下記成分を下記の量で配合し、マスターバッチ1と同様に製造してペレット状のマスターバッチ6を得た。
リン系難燃剤(B) 65%
酸変性ポリオレフィン系樹脂(D) 3.3%
熱可塑性樹脂(A)A-1 残り
【0197】
次いで、下記成分を下記の量でハンドブレンドにて混合し、樹脂製品5と同様に製造して試験片Cを得た。この試験片Cを樹脂製品C4とする。
熱可塑性樹脂(A)A-1 53.5%
マスターバッチ6 46.5%
【0198】
〔製造例12〕
下記成分を下記の量で配合し、マスターバッチ1と同様に製造してペレット状のマスターバッチ7を得た。
リン系難燃剤(B) 68%
酸変性ポリオレフィン系樹脂(D) 3.4%
熱可塑性樹脂(A)A-1 残り
【0199】
次いで、下記成分を下記の量でハンドブレンドにて混合し、樹脂製品5と同様に製造して試験片Cを得た。この試験片Cを樹脂製品C5とする。
熱可塑性樹脂(A)A-1 55.5%
マスターバッチ7 44.5%
【0200】
〔評価〕
前述した試験片Aを用いて、樹脂製品1~3の前述した難燃性、引張特性及び曲げ特性の評価を実施した。また、前述した試験片Bを用いて前述したシャルピー強度の評価を実施した。結果を表3に示す。
【0201】
【表3】
【0202】
前述した試験片Cを用いて、樹脂製品5~7及びC1~C5の前述した引張特性の評価を実施した。樹脂製品の材料の組成及び測定結果を表4に示す。
【0203】
【表4】
【0204】
表4から明らかなように、マスターバッチ1~3を用いる樹脂製品5~7では、マスターバッチ中のリン系難燃剤の含有量が多くなるほど樹脂製品の引張伸度がより高くなる傾向が見られる。これは、マスターバッチ中で高濃度にも関わらずリン系難燃剤が良好に分散しているため、及び、リン系難燃剤と熱可塑性樹脂の界面強度が高いため、と考えられる。なお、樹脂製品C4は、樹脂製品5及び樹脂製品6と同等の引張伸度を有しているが、これは、樹脂製品C3及び樹脂製品C5の引張伸度は樹脂製品C4引張伸度より低いことから、樹脂製品C3~C5にかかる樹脂製品は樹脂製品の性能の振れ幅が大きい領域に含まれているため、と考えられる。
【0205】
[成形品の断面観察]
上記で得られた樹脂製品5、6、C1~C3及びC5を用いて、前述の方法により小粒子存在比率、微小粒子存在比率、小粒子面積比率、微小粒子面積比率を算出した。すなわち、樹脂製品の断面をクライオミクロトーム(-100℃)で処理したのち、処理した断面を電子顕微鏡(日本電子(株)製JSM-7400F、加速電圧:3kV、倍率:1000倍)で撮影し、得られた画像から90μm×120μmの視野領域を無作為に選択し、当該視野領域内でリン系難燃剤(B)の像を観察した。そして観察結果に基づいて下記粒子の各種比率を算出した。なお、画像中の断面積の計測には、画像解析ソフト「ImageJ」を用いた。二値化処理を行い、得られた二値化画像について、「ImageJ」の粒子解析ツールを用いて各像個数及び面積を計測した。
【0206】
「小粒子存在比率」は、上記視野領域内でリン系難燃剤(B)の像の合計個数に対する、面積20μm未満のリン系難燃剤(B)の像の合計個数の割合である。
「微小粒子存在比率」は、上記視野領域内でリン系難燃剤(B)の像の合計個数に対する、面積10μm未満のリン系難燃剤(B)の像の合計個数の割合である。
「小粒子面積比率」は、上記視野領域内でリン系難燃剤(B)の像の合計面積に対する、面積20μm未満のリン系難燃剤(B)の像の合計面積の割合である。
「微小粒子面積比率」は、上記視野領域内でリン系難燃剤(B)の像の合計面積に対する、面積10μm未満のリン系難燃剤(B)の像の合計面積の割合である。
【0207】
得られた結果を表5に示す。なお、樹脂製品6において、視野領域内のリン系難燃剤粒子の合計個数は334個、視野領域内のリン系難燃剤粒子の合計面積は1351μmであった。樹脂製品C1において、視野領域内のリン系難燃剤粒子の合計個数は351個、視野領域内のリン系難燃剤粒子の合計面積は1712μmであった。
【0208】
また、図1に、樹脂製品6の断面を電子顕微鏡で撮影して得られた画像の一例を示す写真を示す。図2には、樹脂製品C1の断面を電子顕微鏡で撮影して得られた画像の一例を示す写真を示す。
【0209】
【表5】
【0210】
上記で得られた樹脂製品6、樹脂製品C1を用いて、視野90μm×90μmの視野領域としたこと以外は、前記の方法と同様にして、当該視野領域内でリン系難燃剤(B)の像を観察した。視野領域内においてリン系難燃剤(B)が偏りなく均等にばらついて存在する度合いを評価するため、以下の方法で解析を行った。90μm×90μmのSEM像を10μm×10μmの正方格子によって計81個の正方形領域に分割した。それぞれの正方形領域内に存在するリン系難燃剤(B)の像の個数を計測した。各正方形領域内のリン系難燃剤(B)の像の個数の平均値、標準偏差、分散、及び標準偏差を平均値で除して求める変動係数を算出した。
【0211】
その結果、樹脂製品6については、90μm×90μmのSEM像を10μm×10μmの正方格子によって計81個の正方形領域に分割したとき、正方形領域中に存在するリン系難燃剤(B)の像の個数の平均値は、3.51、同標準偏差は1.69、分散は2.84、変動係数は0.48であった。一方、樹脂製品C1については、90μm×90μmのSEM像を10μm×10μmの正方格子によって計81個の正方形領域に分割したとき、正方形領域中に存在するリン系難燃剤(B)の像の個数の平均値は、3.06、同標準偏差は1.75、分散は3.05、変動係数は0.57であった。
【0212】
上記の解析から、樹脂製品6におけるリン系難燃剤(B)粒子は、樹脂製品C1に比べて、分布の偏りが少ないことがわかる。
【0213】
上記で得られた樹脂製品4を用いて、作製したサンプルを2cm×1cmに切断し、観察面を池上精機社 試料研磨機「ISPP-1000」を用いて研磨した。研磨した断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)(JSM-IT500:日本電子(株)製、加速電圧:15kV、倍率:500倍)観察して、断面画像を得た。得た断面画像から200μm×250μmの視野領域を無作為に選択し、上記の方法により、当該視野領域におけるリン系難燃剤(B)の像全体の面積に対する、(1)無機繊維の像の平均面積より大きい面積のリン系難燃剤(B)の像の面積の割合A、(2)無機繊維の像の平均面積の50%以上の面積を有するリン系難燃剤(B)の像の面積の割合B、(3)無機繊維の像の平均面積の25%以上の面積を有するリン系難燃剤(B)の像の面積の割合C、及び前述の(4)難燃剤分散度パラメータD、を算出した。得られた結果を表6に示す。なお、樹脂組成物の無機繊維の平均断面積は約300μmであった。なお、画像中の断面積の計測には、画像解析ソフト「ImageJ」を用いた。二値化処理を行い、得られた二値化画像について、「ImageJ」の粒子解析ツールを用いて各像個数及び面積を計測した。
【0214】
なお、前記のSEM画像中で観察されるリン系難燃剤の像の同定は、同サンプルについて元素分析マッピングを行うことにより行った。元素分析マッピングは、SEM-EDX(JSM-IT500:日本電子(株)製)を用いて、無蒸着、低真空モード、倍率2000倍の条件で行った。リン(P)マッピング像により得られた像と、SEM像とを対比して、リン(P)マッピング像でP濃度が高い領域と、SEM画像中でマトリクス樹脂よりも高い輝度で観察される粒子状物質の位置とが一致していることを確認した。
【0215】
また、図3に樹脂製品4の断面を電子顕微鏡で撮影して得られた画像の一例を示す写真とその中に設定される5つの特定領域を示す。図3において、選択した5つの特定領域の一例を実線で囲んで示している。
【0216】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0217】
本発明は、高い難燃性と機械物性に優れた成形品の材料として利用することができる。
図1
図2
図3