(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060661
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】被験穀物の製粉歩留を推定するための方法、システム、コンピュータプログラム、学習済みモデルの生成方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/10 20060101AFI20240425BHJP
G01N 21/59 20060101ALI20240425BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20240425BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20240425BHJP
G06V 10/143 20220101ALN20240425BHJP
【FI】
G01N33/10
G01N21/59 Z
G01N21/27 A
G01N21/27 E
G06T7/00 350C
G06V10/143
【審査請求】未請求
【請求項の数】30
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168064
(22)【出願日】2022-10-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年7月1日 ウェブサイト「https://kaken.nii.ac.jp/grant/KAKENHI-PROJECT-22K14882/」における公開
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(74)【代理人】
【識別番号】100218578
【弁理士】
【氏名又は名称】河井 愛美
(72)【発明者】
【氏名】加藤 啓太
(72)【発明者】
【氏名】池田 達哉
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 美環子
(72)【発明者】
【氏名】伴 雄介
(72)【発明者】
【氏名】寺沢 洋平
【テーマコード(参考)】
2G059
5L096
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059AA03
2G059BB11
2G059CC12
2G059DD03
2G059DD20
2G059EE01
2G059EE12
2G059EE13
2G059FF01
2G059FF08
2G059HH01
2G059HH02
2G059HH03
2G059HH06
2G059KK04
2G059MM01
2G059MM02
2G059MM03
2G059MM05
2G059MM09
2G059MM10
2G059MM12
5L096AA02
5L096CA18
5L096HA11
5L096KA04
(57)【要約】
【課題】被験穀物の製粉歩留を推定するための方法、システム、コンピュータプログラム、学習済みモデルの生成方法を提供する。
【解決手段】本発明の被験穀物の製粉歩留を推定する方法は、被験穀物の種子を切断し、その切断面をアルカリ処理する工程と、前記被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域におけるフェルラ酸の量に対応する情報を取得する工程と、対照穀物の製粉歩留データと、対照穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域において測定されるフェルラ酸の量に対応する値と、を複数利用して導出された相関関係を参照し、前記被験穀物のフェルラ酸の量に対応する情報に基づいて前記被験穀物の製粉歩留を推定する工程と、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験穀物の製粉歩留を推定する方法であって、
(i)被験穀物の種子を切断し、その切断面をアルカリ処理する工程と、
(ii)前記被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域におけるフェルラ酸の量に対応する値を測定する工程と、
(iii)対照穀物の製粉歩留データと、対照穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域において測定されるフェルラ酸の量に対応する値と、を複数利用して算出された検量線によって、工程(ii)で測定された値から前記被験穀物の製粉歩留を推定する工程と、
を含む方法。
【請求項2】
前記フェルラ酸の量に対応する値が、フェルラ酸に起因する吸光度に基づくものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記揮発性アルカリ水溶液が、0.1Mのアンモニア水であり、前記アルカリ処理する工程が、0.1Mのアンモニア水を前記断面に滴下することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
(1)前記被験穀物が、当該被験穀物の種子の胚乳にアラビノキシランを含有し、及び/又は
(2)前記被験穀物が、小麦である、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
コンピュータにより実行される被験穀物の製粉歩留を推定する方法であって、
被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像を取得することと、
第1の学習済みモデルに対して、前記多波長画像を入力し、前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力させることと、
出力された前記推定フェルラ酸濃度関連指標分布に基づいて、前記胚乳領域全体のフェルラ酸濃度に対応する代表値を算出することと、
算出された前記代表値と、予め求められた前記代表値と前記被験穀物の製粉歩留の相関関係に基づいて、前記被験穀物の製粉歩留を推定することと、
を含み、
前記第1の学習済みモデルは、前記被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像が入力された際に、前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力するように、教師データを用いた機械学習処理が施されたものである、方法。
【請求項6】
被験穀物の製粉歩留を推定する方法であって、
(i)被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像を取得することと、
第1の学習済みモデルに対して、前記多波長画像を入力し、前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力させることと、
出力された前記推定フェルラ酸濃度関連指標分布に基づいて、前記胚乳領域全体のフェルラ酸濃度に対応する代表値を算出することと、をコンピュータにより実行させることと、
(ii)算出された前記代表値と、予め求められた前記代表値と前記被験穀物の製粉歩留の相関関係に基づいて、前記被験穀物の製粉歩留を推定することと、
を含み、
前記第1の学習済みモデルは、前記被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像が入力された際に、前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力するように、教師データを用いた機械学習処理が施されたものである、方法。
【請求項7】
前記教師データは、
第1の製粉歩留を示す第1の教師データ用穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域を、マルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された第1の多波長画像と、第1の値とが対応づけられた第1の教師データと、
第2の製粉歩留を示す第2の教師データ用穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域を、マルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された第2の多波長画像と、第2の値とが対応づけられた第2の教師データと、を含み、
前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布は、前記多波長画像の各画素に対して推定されるフェルラ酸濃度に対応する値として表現されたデータであり、
前記代表値を算出することは、前記第1の学習済みモデルから出力された、各画素にラベル付けされたフェルラ酸濃度に対応する値の総和を、全画素数で除して得られる平均値を算出することである、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像を取得することは、
前記被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像を取得することと、
第2の学習済みモデルに対して、前記多波長画像を入力し、前記多波長画像の胚乳領域該当性分布を出力させることと、
前記胚乳領域該当性分布に基づいて、前記被験穀物の種子の切断面の前記胚乳領域の多波長画像を抽出することと、を含み、
前記第2の学習済みモデルは、前記被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像が入力された際に、前記多波長画像の胚乳領域該当性分布を出力するように、教師データを用いた機械学習処理が施されたものである、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項9】
前記代表値と前記被験穀物の製粉歩留との相関関係を導出することをさらに含み、
前記相関関係を導出することは、
製粉歩留が既知の複数の対照穀物の種子の、アルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された胚乳領域の多波長画像を取得することと、
前記第1の学習済みモデルに対して、前記多波長画像を入力し、前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力させることと、
出力された前記推定フェルラ酸濃度関連指標分布に基づいて、前記胚乳領域全体のフェルラ酸濃度に対応する代表値を算出することと、
算出された前記代表値と、前記対照穀物の製粉歩留と、を複数利用して検量線を作製することと、を含む、
請求項5又は6に記載の方法。
【請求項10】
前記マルチスペクトルカメラによる撮影に用いられる波長は、365nm~940nmの間の波長を少なくとも1つ含む、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項11】
(1)前記被験穀物が、当該被験穀物の種子の胚乳にアラビノキシランを含有し、及び/又は
(2)前記被験穀物が、小麦である、
請求項5又は6に記載の方法。
【請求項12】
アルカリ処理された、被験穀物の種子の切断面の胚乳領域の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を推定するシステムであって、
被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された胚乳領域の多波長画像を取得する取得部と、
第1の学習済みモデルに対して、前記多波長画像を入力し、前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力させる出力部と、
出力された前記推定フェルラ酸濃度関連指標分布に基づいて、前記胚乳領域全体のフェルラ酸濃度に対応する代表値を算出する算出部と、を備え、
前記第1の学習済みモデルは、前記被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像が入力された際に、前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力するように、教師データを用いた機械学習処理が施されたものである、システム。
【請求項13】
被験穀物の製粉歩留を推定するシステムであって、
被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像を取得する取得部と、
第1の学習済みモデルに対して、前記多波長画像を入力し、前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力させる出力部と、
出力された前記推定フェルラ酸濃度関連指標分布に基づいて、前記胚乳領域全体のフェルラ酸濃度に対応する代表値を算出する算出部と、を備え、
前記第1の学習済みモデルは、前記被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像が入力された際に、前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力するように、教師データを用いた機械学習処理が施されたものである、システム。
【請求項14】
前記教師データは、
第1の製粉歩留を示す第1の教師データ用穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された第1の多波長画像と第1の値とが対応づけられた第1の教師データと、
第2の製粉歩留を示す第2の教師データ用穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された第2の多波長画像と第2の値とが対応づけられた第2の教師データと、を含み、
前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布は、前記多波長画像の各画素に対して、推定されるフェルラ酸濃度に対応する値が表現されたデータであり、
前記算出部は、前記代表値として、前記第1の学習済みモデルから出力された各画素にラベル付けされたのフェルラ酸濃度に対応する値の総和を、全画素数で除した平均値を算出する、請求項12又は13に記載のシステム。
【請求項15】
前記取得部は、
前記被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像を取得し、
第2の学習済みモデルに対して、前記多波長画像を入力し、前記多波長画像の胚乳領域該当性分布を出力させ、
前記胚乳領域該当性分布に基づいて、前記被験穀物の種子の切断面の前記胚乳領域の多波長画像を抽出し、ここで、
前記第2の学習済みモデルは、前記被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像が入力された際に、前記多波長画像の胚乳領域該当性分布を出力するように、教師データを用いた機械学習処理が施されたものである、請求項12又は13に記載のシステム。
【請求項16】
算出された前記代表値と、予め求められた前記代表値と前記被験穀物の製粉歩留の相関関係に基づいて、前記被験穀物の製粉歩留を推定する推定部をさらに備える、請求項12又は13に記載のシステム。
【請求項17】
前記代表値と前記被験穀物の製粉歩留の相関関係を導出する導出部をさらに備え、
前記取得部は、製粉歩留が既知の複数の対照穀物の種子の、アルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された胚乳領域の多波長画像を取得し、
前記出力部は、前記第1の学習済みモデルに対して、前記多波長画像を入力し、前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力させ、
前記算出部は、出力された前記推定フェルラ酸濃度関連指標分布に基づいて、前記胚乳領域全体のフェルラ酸濃度に対応する代表値を算出し、
前記導出部は、算出された前記代表値と、前記対照穀物の製粉歩留と、を複数利用して検量線を作製する、請求項12又は13に記載のシステム。
【請求項18】
前記マルチスペクトルカメラによる撮影に用いられる波長は、365nm~940nmの間の波長を少なくとも1つ含む、請求項12又は13に記載のシステム。
【請求項19】
(1)前記被験穀物が、当該被験穀物の種子の胚乳にアラビノキシランを含有し、及び/又は
(2)前記被験穀物が、小麦である、
請求項12又は13に記載のシステム。
【請求項20】
コンピュータに、
被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像を取得する処理と、
第1の学習済みモデルに対して、前記多波長画像を入力し、前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力させる処理と、
出力された前記推定フェルラ酸濃度関連指標分布に基づいて、前記胚乳領域全体のフェルラ酸濃度に対応する代表値を算出する処理と、
を実行させるためのコンピュータプログラムであって、
前記第1の学習済みモデルは、前記被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像が入力された際に、前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力するように、教師データを用いた機械学習処理が施されたものである、
コンピュータプログラム。
【請求項21】
前記教師データは、
第1の製粉歩留を示す第1の教師データ用穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影された第1の多波長画像と第1の値とが対応づけられた第1の教師データと、
第2の製粉歩留を示す第2の教師データ用穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影された第2の多波長画像と第2の値とが対応づけられた第2の教師データと、を含み、
前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布は、前記多波長画像の各画素に対して、推定されるフェルラ酸濃度に対応する値が表現されたデータであり、
前記代表値を算出する処理は、前記第1の学習済みモデルから出力された各画素にラベル付けされたフェルラ酸濃度に対応する値の総和を、全画素数で除して得られる平均値を算出することである、請求項20に記載のコンピュータプログラム。
【請求項22】
前記取得する処理は、
前記被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像を取得する処理と、
第2の学習済みモデルに対して、前記多波長画像を入力し、前記多波長画像の胚乳領域該当性分布を出力させる処理と、
前記胚乳領域該当性分布に基づいて、前記被験穀物の種子の切断面の前記胚乳領域の多波長画像を抽出する処理と、を含み、
前記第2の学習済みモデルは、前記被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像が入力された際に、前記多波長画像の胚乳領域該当性分布を出力するように、教師データを用いた機械学習処理が施されたものである、請求項20に記載のコンピュータプログラム。
【請求項23】
前記コンピュータに、算出された前記代表値と、予め求められた前記代表値と前記被験穀物の製粉歩留の相関関係に基づいて、前記被験穀物の製粉歩留を推定する処理をさらに実行させる、請求項20に記載のコンピュータプログラム。
【請求項24】
前記コンピュータに、前記代表値と前記被験穀物の製粉歩留の相関関係を導出する処理をさらに実行させ、
前記導出する処理は、
製粉歩留が既知の複数の対照穀物の種子の、アルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された胚乳領域の多波長画像を取得する処理と、
前記第1の学習済みモデルに対して、前記多波長画像を入力し、前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力させる処理と、
出力された前記推定フェルラ酸濃度関連指標分布に基づいて、前記胚乳領域全体のフェルラ酸濃度に対応する代表値を算出する処理と、
算出された前記代表値と、前記対照穀物の製粉歩留と、を複数利用して検量線を作製する処理と、を含む、
請求項20に記載のコンピュータプログラム。
【請求項25】
被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像が入力される入力層と、
入力された、前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力する出力層と、
前記多波長画像を入力とし、入力された前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力とするように、教師データを用いてパラメータが学習された中間層と、
を備える学習済みモデルの入力層に入力された前記多波長画像に対して、前記中間層のパラメータに基づく演算を行い、前記出力層から前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力するよう、コンピュータを機能させる、コンピュータプログラム。
【請求項26】
前記マルチスペクトルカメラによる撮影に用いられる波長は、365nm~940nmの間の波長を少なくとも1つ含む、請求項20又は25に記載のコンピュータプログラム。
【請求項27】
(1)前記被験穀物が、当該被験穀物の種子の胚乳にアラビノキシランを含有し、及び/又は
(2)前記被験穀物が、小麦である、請求項20又は25に記載のコンピュータプログラム。
【請求項28】
被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を推定するための学習済みモデルの生成方法であって、
教師データ用穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像と、当該多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布とが対応付けられた教師データを取得することと、
前記教師データに基づいて、被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像が入力された際に、入力された前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力する学習済みモデルを生成することと、
を含む、方法。
【請求項29】
前記マルチスペクトルカメラによる撮影に用いられる波長は、365nm~940nmの間の波長を少なくとも1つ含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
(1)前記被験穀物が、当該被験穀物の種子の胚乳にアラビノキシランを含有し、及び/又は
(2)前記被験穀物が、小麦である、請求項28に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験穀物の製粉歩留を推定するための方法、システム、コンピュータプログラム、学習済みモデルの生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小麦は製粉工程を経ると小麦粉とふすまに分けられる。小麦粉が食品加工に利用されており、一定量の種子から得られる小麦粉の量を表す「製粉歩留」が高いこと(高製粉性)が実需者から求められている。
これまでの研究から、製粉性には遺伝的要因と環境要因が複雑に関与していることが明らかになっている。そのため、小麦育種における製粉性の選抜は、実際に小麦を製粉し、製粉歩留の値を算出することが最も現実的かつ確実であると考えられてきた。現在の小麦育種における製粉性の選抜は、F6(育種中期世代)以降の系統を実際に製粉し、製粉歩留の値を算出して比較している(非特許文献1)。
【0003】
一方で、近年の研究により、小麦粉中の細胞壁を構成する多糖類であるアラビノキシラン含有量と、製粉歩留との間に相関があることが明らかになった(非特許文献2及び3)。さらに、少量の製粉により製粉歩留を評価する方法も報告されている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】研機構作物研(2013)、「小麦の品質評価技術」、平成25年度革新的農業技術習得研修
【非特許文献2】加藤ら(2002)、「小麦の製粉歩留と細胞壁多糖類の含量との関係」、農研機構研究成果情報
【非特許文献3】乙部(桐渕)ら(2002)、「アラビノキシラン含量の低減化によるもち性小麦の製粉歩留改良」、育種学研究、4(別1)、200
【非特許文献4】橋詰ら(2013)、「小麦育種における5g製粉評価法の開発」、愛知農総試研報、45、21-25
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記文献に記載の技術は、すべて製粉工程を経た小麦を使用して製粉歩留を算出しているか、あるいは小麦粉中のアラビノキシラン含有量の実測値を用いることを前提としている。製粉には通常は1kgの小麦種子が必要であり、数粒~数十粒しかない育種初期世代では製粉性を評価することが難しいため、小麦育種における製粉性の選抜には上記したようにF6系統が用いられてきた。また、アラビノキシランの定量においても小麦種子を製粉する必要があり、加えて酵素反応などの煩雑な処理が必要であるため、小麦粉中のアラビノキシラン含有量の実測値は、高製粉性の選抜指標にはあまり適していない。
したがって、小麦などの穀物に関して、育種初期世代から製粉歩留が高い系統を選抜する方法があれば、さらに高製粉性の品種育成を加速化することができると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、小麦など穀物の種子の胚乳領域からアルカリ処理により遊離されるフェルラ酸の量が、当該穀物の製粉歩留と相関すること、及び穀物種子中のフェルラ酸の量を簡便に定量評価することが可能であることを見出した。即ち、穀物の製粉性の指標として好適であることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は以下を提供するものである。
〔1〕被験穀物の製粉歩留を推定する方法であって、
(i)被験穀物の種子を切断し、その切断面をアルカリ処理する工程と、
(ii)前記被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域におけるフェルラ酸の量に対応する値を測定する工程と、
(iii)対照穀物の製粉歩留データと、対照穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域において測定されるフェルラ酸の量に対応する値と、を複数利用して算出された検量線によって、工程(ii)で測定された値から前記被験穀物の製粉歩留を推定する工程と、
を含む方法。
〔2〕前記フェルラ酸の量に対応する値が、フェルラ酸に起因する吸光度に基づくものである、前記〔1〕に記載の方法。
〔3〕前記揮発性アルカリ水溶液が、0.1Mのアンモニア水であり、前記アルカリ処理する工程が、0.1Mのアンモニア水を前記断面に滴下することを含む、前記〔1〕または〔2〕に記載の方法。
〔4〕
(1)前記被験穀物が、当該被験穀物の種子の胚乳にアラビノキシランを含有し、及び/又は
(2)前記被験穀物が、小麦である、
前記〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の方法。
〔5〕コンピュータにより実行される被験穀物の製粉歩留を推定する方法であって、
被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像を取得することと、
第1の学習済みモデルに対して、前記多波長画像を入力し、前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力させることと、
出力された前記推定フェルラ酸濃度関連指標分布に基づいて、前記胚乳領域全体のフェルラ酸濃度に対応する代表値を算出することと、
算出された前記代表値と、予め求められた前記代表値と前記被験穀物の製粉歩留の相関関係に基づいて、前記被験穀物の製粉歩留を推定することと、
を含み、
前記第1の学習済みモデルは、前記被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像が入力された際に、前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力するように、教師データを用いた機械学習処理が施されたものである、方法。
〔6〕被験穀物の製粉歩留を推定する方法であって、
(i)被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像を取得することと、
第1の学習済みモデルに対して、前記多波長画像を入力し、前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力させることと、
出力された前記推定フェルラ酸濃度関連指標分布に基づいて、前記胚乳領域全体のフェルラ酸濃度に対応する代表値を算出することと、をコンピュータにより実行させることと、
(ii)算出された前記代表値と、予め求められた前記代表値と前記被験穀物の製粉歩留の相関関係に基づいて、前記被験穀物の製粉歩留を推定することと、
を含み、
前記第1の学習済みモデルは、前記被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像が入力された際に、前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力するように、教師データを用いた機械学習処理が施されたものである、方法。
〔7〕前記教師データは、
第1の製粉歩留を示す第1の教師データ用穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域を、マルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された第1の多波長画像と、第1の値とが対応づけられた第1の教師データと、
第2の製粉歩留を示す第2の教師データ用穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域を、マルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された第2の多波長画像と、第2の値とが対応づけられた第2の教師データと、を含み、
前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布は、前記多波長画像の各画素に対して推定されるフェルラ酸濃度に対応する値として表現されたデータであり、
前記代表値を算出することは、前記第1の学習済みモデルから出力された、各画素にラベル付けされたフェルラ酸濃度に対応する値の総和を、全画素数で除して得られる平均値を算出することである、前記〔5〕又は〔6〕に記載の方法。
〔8〕前記被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像を取得することは、
前記被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像を取得することと、
第2の学習済みモデルに対して、前記多波長画像を入力し、前記多波長画像の胚乳領域該当性分布を出力させることと、
前記胚乳領域該当性分布に基づいて、前記被験穀物の種子の切断面の前記胚乳領域の多波長画像を抽出することと、を含み、
前記第2の学習済みモデルは、前記被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像が入力された際に、前記多波長画像の胚乳領域該当性分布を出力するように、教師データを用いた機械学習処理が施されたものである、前記〔5〕~〔7〕のいずれか一項に記載の方法。
〔9〕前記代表値と前記被験穀物の製粉歩留との相関関係を導出することをさらに含み、
前記相関関係を導出することは、
製粉歩留が既知の複数の対照穀物の種子の、アルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された胚乳領域の多波長画像を取得することと、
前記第1の学習済みモデルに対して、前記多波長画像を入力し、前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力させることと、
出力された前記推定フェルラ酸濃度関連指標分布に基づいて、前記胚乳領域全体のフェルラ酸濃度に対応する代表値を算出することと、
算出された前記代表値と、前記対照穀物の製粉歩留と、を複数利用して検量線を作製することと、を含む、
前記〔5〕~〔8〕のいずれか一項に記載の方法。
〔10〕前記マルチスペクトルカメラによる撮影に用いられる波長は、365nm~940nmの間の波長を少なくとも1つ含む、前記〔5〕~〔9〕のいずれか一項に記載の方法。
〔11〕
(1)前記被験穀物が、当該被験穀物の種子の胚乳にアラビノキシランを含有し、及び/又は
(2)前記被験穀物が、小麦である、
前記〔5〕~〔10〕のいずれか一項に記載の方法。
〔12〕アルカリ処理された、被験穀物の種子の切断面の胚乳領域の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を推定するシステムであって、
被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された胚乳領域の多波長画像を取得する取得部と、
第1の学習済みモデルに対して、前記多波長画像を入力し、前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力させる出力部と、
出力された前記推定フェルラ酸濃度関連指標分布に基づいて、前記胚乳領域全体のフェルラ酸濃度に対応する代表値を算出する算出部と、を備え、
前記第1の学習済みモデルは、前記被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像が入力された際に、前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力するように、教師データを用いた機械学習処理が施されたものである、システム。
〔13〕被験穀物の製粉歩留を推定するシステムであって、
被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像を取得する取得部と、
第1の学習済みモデルに対して、前記多波長画像を入力し、前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力させる出力部と、
出力された前記推定フェルラ酸濃度関連指標分布に基づいて、前記胚乳領域全体のフェルラ酸濃度に対応する代表値を算出する算出部と、を備え、
前記第1の学習済みモデルは、前記被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像が入力された際に、前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力するように、教師データを用いた機械学習処理が施されたものである、システム。
〔14〕前記教師データは、
第1の製粉歩留を示す第1の教師データ用穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された第1の多波長画像と第1の値とが対応づけられた第1の教師データと、
第2の製粉歩留を示す第2の教師データ用穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された第2の多波長画像と第2の値とが対応づけられた第2の教師データと、を含み、
前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布は、前記多波長画像の各画素に対して、推定されるフェルラ酸濃度に対応する値が表現されたデータであり、
前記算出部は、前記代表値として、前記第1の学習済みモデルから出力された各画素にラベル付けされたのフェルラ酸濃度に対応する値の総和を、全画素数で除した平均値を算出する、前記〔12〕又は〔13〕に記載のシステム。
〔15〕前記取得部は、
前記被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像を取得し、
第2の学習済みモデルに対して、前記多波長画像を入力し、前記多波長画像の胚乳領域該当性分布を出力させ、
前記胚乳領域該当性分布に基づいて、前記被験穀物の種子の切断面の前記胚乳領域の多波長画像を抽出し、ここで、
前記第2の学習済みモデルは、前記被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像が入力された際に、前記多波長画像の胚乳領域該当性分布を出力するように、教師データを用いた機械学習処理が施されたものである、前記〔12〕~〔14〕のいずれか一項に記載のシステム。
〔16〕算出された前記代表値と、予め求められた前記代表値と前記被験穀物の製粉歩留の相関関係に基づいて、前記被験穀物の製粉歩留を推定する推定部をさらに備える、前記〔12〕~〔15〕のいずれか一項に記載のシステム。
〔17〕前記代表値と前記被験穀物の製粉歩留の相関関係を導出する導出部をさらに備え、
前記取得部は、製粉歩留が既知の複数の対照穀物の種子の、アルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された胚乳領域の多波長画像を取得し、
前記出力部は、前記第1の学習済みモデルに対して、前記多波長画像を入力し、前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力させ、
前記算出部は、出力された前記推定フェルラ酸濃度関連指標分布に基づいて、前記胚乳領域全体のフェルラ酸濃度に対応する代表値を算出し、
前記導出部は、算出された前記代表値と、前記対照穀物の製粉歩留と、を複数利用して検量線を作製する、前記〔12〕~〔16〕のいずれか一項に記載のシステム。
〔18〕前記マルチスペクトルカメラによる撮影に用いられる波長は、365nm~940nmの間の波長を少なくとも1つ含む、前記〔12〕~〔17〕のいずれか一項に記載のシステム。
〔19〕
(1)前記被験穀物が、当該被験穀物の種子の胚乳にアラビノキシランを含有し、及び/又は
(2)前記被験穀物が、小麦である、
前記〔12〕~〔18〕のいずれか一項に記載のシステム。
〔20〕コンピュータに、
被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像を取得する処理と、
第1の学習済みモデルに対して、前記多波長画像を入力し、前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力させる処理と、
出力された前記推定フェルラ酸濃度関連指標分布に基づいて、前記胚乳領域全体のフェルラ酸濃度に対応する代表値を算出する処理と、
を実行させるためのコンピュータプログラムであって、
前記第1の学習済みモデルは、前記被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像が入力された際に、前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力するように、教師データを用いた機械学習処理が施されたものである、
コンピュータプログラム。
〔21〕前記教師データは、
第1の製粉歩留を示す第1の教師データ用穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影された第1の多波長画像と第1の値とが対応づけられた第1の教師データと、
第2の製粉歩留を示す第2の教師データ用穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影された第2の多波長画像と第2の値とが対応づけられた第2の教師データと、を含み、
前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布は、前記多波長画像の各画素に対して、推定されるフェルラ酸濃度に対応する値が表現されたデータであり、
前記代表値を算出する処理は、前記第1の学習済みモデルから出力された各画素にラベル付けされたフェルラ酸濃度に対応する値の総和を、全画素数で除して得られる平均値を算出することである、前記〔20〕に記載のコンピュータプログラム。
〔22〕前記取得する処理は、
前記被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像を取得する処理と、
第2の学習済みモデルに対して、前記多波長画像を入力し、前記多波長画像の胚乳領域該当性分布を出力させる処理と、
前記胚乳領域該当性分布に基づいて、前記被験穀物の種子の切断面の前記胚乳領域の多波長画像を抽出する処理と、を含み、
前記第2の学習済みモデルは、前記被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像が入力された際に、前記多波長画像の胚乳領域該当性分布を出力するように、教師データを用いた機械学習処理が施されたものである、前記〔20〕又は〔21〕に記載のコンピュータプログラム。
〔23〕前記コンピュータに、算出された前記代表値と、予め求められた前記代表値と前記被験穀物の製粉歩留の相関関係に基づいて、前記被験穀物の製粉歩留を推定する処理をさらに実行させる、前記〔20〕~〔22〕のいずれか一項に記載のコンピュータプログラム。
〔24〕前記コンピュータに、前記代表値と前記被験穀物の製粉歩留の相関関係を導出する処理をさらに実行させ、
前記導出する処理は、
製粉歩留が既知の複数の対照穀物の種子の、アルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された胚乳領域の多波長画像を取得する処理と、
前記第1の学習済みモデルに対して、前記多波長画像を入力し、前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力させる処理と、
出力された前記推定フェルラ酸濃度関連指標分布に基づいて、前記胚乳領域全体のフェルラ酸濃度に対応する代表値を算出する処理と、
算出された前記代表値と、前記対照穀物の製粉歩留と、を複数利用して検量線を作製する処理と、を含む、
請求20~23のいずれか一項に記載のコンピュータプログラム。
〔25〕被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像が入力される入力層と、
入力された、前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力する出力層と、
前記多波長画像を入力とし、入力された前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力とするように、教師データを用いてパラメータが学習された中間層と、
を備える学習済みモデルの入力層に入力された前記多波長画像に対して、前記中間層のパラメータに基づく演算を行い、前記出力層から前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力するよう、コンピュータを機能させる、コンピュータプログラム。
〔26〕前記マルチスペクトルカメラによる撮影に用いられる波長は、365nm~940nmの間の波長を少なくとも1つ含む、前記〔20〕~〔25〕のいずれか一項に記載のコンピュータプログラム。
〔27〕
(1)前記被験穀物が、当該被験穀物の種子の胚乳にアラビノキシランを含有し、及び/又は
(2)前記被験穀物が、小麦である、前記〔20〕~〔26〕のいずれか一項に記載のコンピュータプログラム。
〔28〕被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を推定するための学習済みモデルの生成方法であって、
教師データ用穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像と、当該多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布とが対応付けられた教師データを取得することと、
前記教師データに基づいて、被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像が入力された際に、入力された前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力する学習済みモデルを生成することと、
を含む、方法。
〔29〕前記マルチスペクトルカメラによる撮影に用いられる波長は、365nm~940nmの間の波長を少なくとも1つ含む、前記〔28〕に記載の方法。
〔30〕
(1)前記被験穀物が、当該被験穀物の種子の胚乳にアラビノキシランを含有し、及び/又は
(2)前記被験穀物が、小麦である、前記〔28〕又は〔29〕に記載の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明に従えば、穀物の製粉性を、当該穀物のごく少量の種子のみを用い、かつ製粉工程を経ることなく簡便に推定することができる。
本発明の製粉歩留の推定方法を用いた選抜法によって高製粉性の品種が育成されれば、実需者に積極的に利用されることとなる。最終的には、流通する国産小麦粉製品の増加につながることが期待できる。特にパン・中華麺に加工される硬質小麦は需要が供給を上回る逆ミスマッチ状況が続いているため、実需者の望む新たな品種育成に応えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】小麦の製粉歩留の実測値と、小麦の種子中の遊離フェルラ酸濃度の実測値との相関関係を示す図である。
【
図2】本発明の第2の実施形態に関わる推定システムの全体構成を示す図である。
【
図3】本発明の第2の実施形態に関わる推定システムのハードウェア構成を示す図である。
【
図4】第1の学習済みモデルの生成処理を説明するための模式図である。
【
図5】第2の実施形態の第1の態様に係る、被験穀物の製粉歩留の推定処理を示すフローチャートである。
【
図6】第2の実施形態の第1の態様に係る、相関関係データの作成処理を示すフローチャートである。
【
図7】第2の実施形態の第2の態様に係る、被験穀物の製粉歩留の推定処理を示すフローチャートである。
【
図8】第2の実施形態の第2の態様に係る、相関関係データの作成処理を示すフローチャートである。
【
図9】第2の実施形態の第3の態様に係る、第1の学習済みモデルの生成処理を示すフローチャートである。
【
図10】第2の実施形態の第3の態様に係る、第2の学習済みモデルの生成処理を示すフローチャートである。
【
図11】種子の切断面の多波長画像を示す図である。胚乳領域を撮影して作成された多波長画像を、RGBスケールに変換した画像を示している。
【
図12A】
図12は、多波長画像からの胚乳領域を抽出する過程を示す図である。
図12Aの左の図においては、多波長画像がRGBスケールに変換されている。
図12Aの右の図においては、多波長画像の胚乳領域が緑色、その他の領域が黄色に着色されている。
【
図12B】
図12Bは、胚乳領域該当性分布をRGBスケールに変換して表示した画像であり、胚乳領域及びその他の領域に赤色から青色までの連続的な色が付されている。
【
図12C】
図12Cは、胚乳領域が抽出された画像であり、胚乳領域が白色、その他の領域が黒色で着色されている。
【
図13A】
図13は、第1の多波長画像及び第2の多波長画像を作成する過程を示す図である。
図13Aは、胚乳領域を抽出する前の第1の教師データ用穀物の多波長画像及び第2の教師データ用穀物の多波長画像を、それぞれRGBスケールに変換した画像を示している。
【
図13B】
図13Bは、胚乳領域を抽出して作成された第1の多波長画像及び第2の多波長画像を、それぞれRGBスケールに変換した画像を示している。
【
図14A】
図14は、第1の多波長画像及び第2の多波長画像から作成された推定フェルラ酸濃度関連指標分布を示す図である。
図14Aにおいては、第1の多波長画像の胚乳領域が水色、第2の多波長画像の胚乳領域にえんじ色が着色されている。
【
図14B】
図14Bは、推定フェルラ酸濃度関連指標分布をRGBスケールに変換して表示した図であり、胚乳領域に濃い赤色から濃い青色までの連続的な色が付されている。
【
図15】対照穀物の代表値と、前記対照穀物の製粉歩留の値との相関関係を示す図である。図中の破線は、対照穀物の代表値及び製粉歩留をプロットした散布図に対する近似曲線であり、当該近似曲線は検量線として機能する。
【
図16】対照穀物の代表値と、前記対照穀物の種子中のフェルラ酸濃度の実測値との相関関係を示す図である。図中の破線は、対照穀物の代表値及びフェルラ酸濃度をプロットした散布図に対する近似曲線であり、当該近似曲線は検量線として機能する。
【
図17】対照穀物の代表値と、前記対照穀物の種子中のアラビノキシラン濃度の実測値との相関関係を示す図である。図中の破線は、対照穀物の代表値及びアラビノキシラン濃度をプロットした散布図に対する近似曲線であり、当該近似曲線は検量線として機能する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、被験穀物の製粉歩留を推定する方法に関する。具体的には、本発明は被験穀物の種子に含まれるフェルラ酸の量に対応する情報を取得し、当該情報と、予め求められた対照穀物の製粉歩留と対照穀物の種子に含まれるフェルラ酸の量に対応する情報との相関関係と、を利用して被験穀物の製粉歩留を予測する方法に関する。
【0010】
本明細書に記載の「穀物」は、子実を収穫するために栽培される一年生又は二年生草本作物の総称であり、特にその種子の胚乳領域にアラビノキシランを含有する穀物を指す。このような穀物としては、好ましくは小麦である。本明細書に記載の「穀物の種子」は、前記穀物から収穫される子実を指す。
本発明に使用される小麦は特に限定されるものではなく、野生種及び栽培種のいずれも用いることができる。例えば、硬質小麦、中間質小麦、軟質小麦、デュラム小麦、スペルト小麦など、種々の小麦を使用することができる。
【0011】
本明細書に記載の「フェルラ酸」は、ケイ皮酸の誘導体であり、以下の化学式で示される有機化合物である。
【化1】
【0012】
フェルラ酸は、穀物においては細胞壁を構成するアラビノキシランにエステル結合して存在する。アラビノキシランはヘミセルロースの一種であり、穀物の細胞壁における主要なマトリックス多糖類である。アラビノキシランに結合するフェルラ酸の一部が二量体となりジフェルラ酸を形成すると、ジフェルラ酸によりアラビノキシラン同士が架橋されて多糖間ネットワークが形成される。この多糖間ネットワークにより、細胞壁が強固なものとなると考えられている。
アラビノキシランは穀物の種子の胚乳領域にも含まれ、フェルラ酸はアラビノキシランに結合した状態で胚乳領域に存在する。
【0013】
[製粉歩留の推定]
後述する実施例に具体的に示されているように、穀物の種子の、特に胚乳領域中のフェルラ酸の含有量と当該穀物の製粉歩留が相関することが新たに明らかになった。
図1は、小麦の製粉歩留の実測値と、小麦の種子の胚乳領域中の遊離フェルラ酸の濃度の実測値との相関関係を説明する図である。小麦の製粉歩留と、小麦種子中のアラビノキシラン含有量とが負の相関関係を有することは既に知られていたが(加藤ら(2002))、
図1に示すように、小麦の製粉歩留と小麦種子の胚乳領域中のフェルラ酸の含有量との間に負の相関関係が存在することが発見された。これは、穀物の種子の胚乳領域中のフェルラ酸の量が当該穀物の製粉歩留推定の指標となり得ることを意味している。
なお、フェルラ酸は穀物の外殻にも存在するが外殻は製粉歩留に寄与しないため、胚乳領域中のフェルラ酸の含有量が製粉歩留の指標となり得る。
【0014】
フェルラ酸はアラビノキシランにエステル結合しているため、アルカリ処理により容易に遊離する。穀物種子の切断面の胚乳領域にアルカリ水溶液を滴下して、アラビノキシランに結合するフェルラ酸を遊離させることができる。
また、フェルラ酸は、320nm付近に吸収スペクトルを有することが知られている。穀物種子の切断面の胚乳領域においてフェルラ酸を遊離させ、320nm付近の吸収スペクトルを識別可能な波長領域の光(例えば、365nm~940nmの波長の光)を照射して測定される吸光度や、当該波長領域において胚乳領域を撮影して得られる多波長画像は、穀物種子の胚乳領域に含まれるフェルラ酸の量に対応する情報といえる。これらの情報に基づいて被験穀物の種子の胚乳領域に含まれるフェルラ酸の量を評価し、フェルラ酸の量と製粉歩留との相関関係から、被験穀物の製粉歩留を推定することができる。
【0015】
即ち本発明は、被験穀物の種子の切断面の胚乳領域に遊離させたフェルラ酸を指標として製粉歩留を推定することを特徴とし、被験穀物を製粉してフェルラ酸の含有量を実際に測定することなくその製粉歩留を推定することを可能とするものである。
以下、本発明の実施形態に基づき、本発明をより具体的に説明する。
【0016】
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態について説明する。
第1の実施形態における被験穀物の製粉歩留を推定する方法は、
(i)被験穀物の種子を切断し、その切断面をアルカリ処理する工程と、
(ii)前記被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域におけるフェルラ酸の量に対応する値を測定する工程と、
(iii)対照穀物の製粉歩留データと、対照穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域において測定されるフェルラ酸の量に対応する値と、を複数利用して算出された検量線によって、工程(ii)で測定された値から前記被験穀物の製粉歩留を推定する工程と、
を含む。
【0017】
工程(i)においては、被験穀物の種子を、ナイフ、カッターなどを用いた任意の方法で切断する。この時、切断面に胚乳領域が含まれるように種子の中心部分を切断することが望ましい。切断面にその面積に応じて適量(例えば、約2~約5μl)のアルカリ性水溶液を滴下し、適切な時間(例えば、約15~約90分)静置して、被験穀物の種子の胚乳領域の切断面に含まれるフェルラ酸を遊離させる。
フェルラ酸の遊離に用いるアルカリ水溶液としては、特に限定されないが、好ましくは揮発性アルカリ水溶液であり、より好ましくはアンモニア水である。アルカリ水溶液の濃度は種子のフェルラ酸を遊離させることが可能な濃度であれば特に限定されないが、例えば約0.01M~約1Mとすることができる。
【0018】
工程(ii)においては、工程(i)でフェルラ酸を遊離させた被験穀物の種子の切断面の胚乳領域に対して、フェルラ酸の吸光特性を識別可能な波長の光を照射して吸光度を測定する。フェルラ酸は上記したように320nm付近に吸収スペクトルを有するため、当該吸収スペクトルを識別するために、例えば365nm~940nmの間の波長の光を照射することが好ましい。吸光度の測定は、分光光度計などを用いて常法に従って測定することができる。
工程(ii)における「フェルラ酸の量に対応する値」とは、前記胚乳領域において測定される吸光度それ自体であっても良いし、当該吸光度から換算される特定の値又は胚乳領域のフェルラ酸の濃度であっても良い。「フェルラ酸の量に対応する値」は、これらに限定されるものではなく、他の任意の適切な値とすることができる。
【0019】
工程(iii)においては、まず、対照穀物の製粉歩留と、当該対照穀物の胚乳領域において測定されるフェルラ酸の量に対応する値とを複数用いて検量線を作成する。対照穀物には、被験穀物と同じ穀物であって、その製粉歩留と種子の切断面におけるフェルラ酸の量に対応する値とが既知の穀物を用いることができる。
対照穀物には、製粉歩留及びフェルラ酸の量に対応する値が互いに異なる2以上の穀物を使用することができる。導出される検量線の精度の観点から多数の対照穀物を使用することが好ましく、例えば5以上、好ましくは10以上、より好ましくは20以上の対照穀物を使用することができる。
作成した検量線を用いて、工程(ii)で測定された被験穀物のフェルラ酸の量に対応する値から、当該被験穀物の製粉歩留を推定する。
【0020】
(第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態について説明する。
第2の実施形態における被験穀物の製粉歩留を推定する方法は、少なくとも、
被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像を取得することと、
第1の学習済みモデルに対して、前記多波長画像を入力し、前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力させることと、
出力された前記推定フェルラ酸濃度関連指標分布に基づいて、前記胚乳領域全体のフェルラ酸濃度に対応する代表値を算出することと、
算出された前記代表値と、予め求められた前記代表値と前記被験穀物の製粉歩留の相関関係に基づいて、前記被験穀物の製粉歩留を推定することと、
を含む。
【0021】
<第1の態様>
以下、第2の実施形態の第1の態様について説明する。
1.推定システムの概要
図2は、本実施形態に関わる推定システム1の全体構成を示す図である。本実施形態に係る推定システム1は、イントラネットやインターネット等のネットワークNを介して画像取得装置2に通信可能に接続されている。
なお、本実施形態においては推定システム1と画像取得装置2とを別体の装置としているが、これに限定されるものではない。推定システム1は、画像取得装置2と一体となったシステム、即ち後述するマルチスペクトルカメラを備えるシステムであっても良い。
【0022】
画像取得装置2は、マルチスペクトルカメラである。マルチスペクトルカメラは、複数の波長帯域に分光された光を被写体に照射して、その反射光を検出することにより当該被写体を撮像するカメラである。マルチスペクトルカメラは、青色LED、黄色LED、及び赤色LEDの各発光帯域を含む複数の狭帯域の光をそれぞれ選択的に透過させる複数の狭帯域フィルタを有し、複数の狭帯域フィルタをそれぞれ透過した複数の画像を同時に撮像する。画像取得装置2は1つの物理的な装置として構成される必要はなく、複数の物理的な装置から構成されてもよい。
【0023】
本明細書における「多波長画像」は、前記マルチスペクトルカメラにより取得された画像であって、複数の波長帯域に分光された光を被写体に照射して、その反射光を記録することにより作成される画像である。一般に多波長画像からは、被写体となった物体に特有の反射・吸光特性を表すスペクトル情報を抽出することができ、物体のスペクトル情報に基づいて、多波長画像に写されている物体を高精度に認識することが可能である。
【0024】
画像取得装置2は、フェルラ酸の反射・吸光特性を表すスペクトル情報を得ることが可能な波長帯域の複数の照射光を、被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面に照射して多波長画像を撮影する。上記したようにフェルラ酸は320nm付近に吸収スペクトルを有するため、当該吸収スペクトルを識別するために、例えば365nm~940nmの間の波長の複数の照射光を使用することが好ましい。このようにして作成された多波長画像には、アルカリ処理により胚乳領域から遊離したフェルラ酸の反射・吸光特性を表すスペクトル情報が含まれる。
【0025】
2.推定システムの具体的構成
推定システム1は、画像取得装置2において撮像された、被験穀物の種子アルカリ処理されたの切断面の胚乳領域の多波長画像を利用して、前記被験穀物の製粉歩留を推定する方法を実行する。
図2に示すように、推定システム1は、取得部101、出力部102、算出部103、推定部104、導出部105、モデル生成部106、及び記憶部107を備える。推定システム1は1つの物理的な装置として構成される必要はなく、複数の物理的な装置から構成されてもよい。推定システム1は、複数のコンピュータを含んで構成されるマルチコンピュータであってよく、ソフトウェアによって仮想的に構築された仮想マシンであってもよい。
【0026】
取得部101は、後述する通信部10gを介して画像取得装置2との通信を行うことにより、胚乳領域の多波長画像を取得する。また取得部101は、画像取得装置2が撮像した多波長画像を取得し、機械学習により予め学習がなされた第2の学習済みモデル107cに対して前記多波長画像を入力して、胚乳領域該当性分布を出力させ、胚乳領域該当性分布に基づいて胚乳領域の多波長画像を取得する処理を行う。
出力部102は、機械学習により予め学習がなされた第1の学習済みモデル107bに対して胚乳領域の多波長画像を入力して、推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力させる処理を行う。
算出部103は、前記推定フェルラ酸濃度関連指標分布に基づいて代表値を算出する処理を行う。
推定部104は、前記代表値と対照穀物の製粉歩留との相関関係に基づいて、被験穀物の製粉歩留を推定する処理を行う。
導出部105は、前記代表値と対照穀物の製粉歩留との相関関係を導出する。
モデル生成部106は、予め用意された教師データを用いた学習を行い、第1の学習済みモデル107b及び第2の学習済みモデル107cを生成する処理を行う。
【0027】
記憶部107は、推定システム1が実行する各種のプログラムなど種々の情報を記憶する。記憶部107は、製粉歩留推定プログラム107a、第1の学習済みモデル107b及び第2の学習済みモデル107cの2つの学習済みモデル、並びに相関関係データ107dを記憶している。なお、記憶部107は、1つの物理的な装置として構成されていてもよいし、複数の物理的な装置に分散して配置されていてもよい。
【0028】
製粉歩留推定プログラム107aは、推定システム1に、取得部101、出力部102、算出部103、推定部104、導出部105、及びモデル生成部106としての機能を実現させるためのプログラムである。
製粉歩留推定プログラム107aは、例えば推定システム1の製造段階において記憶部107に書き込まれてもよい。例えば製粉歩留推定プログラム107aは、遠隔の他のサーバ装置等が配信するものを推定システム1が通信にて取得してもよい。製粉歩留推定プログラム107aは、メモリカード又は光ディスク等の記録媒体に記録された製粉歩留推定プログラム107aを推定システム1が読み出して、記憶部107に記憶されるものであってもよい。製粉歩留推定プログラム107aは、記録媒体に記録されたものを書込装置が読み出して推定システム1の記憶部107に書き込まれたものであってもよい。製粉歩留推定プログラム107aは、ネットワークを介した配信の態様で提供されるものであってもよく、記録媒体に記録された態様で提供されるものであってもよい。
【0029】
第1の学習済みモデル107b及び第2の学習済みモデル107cは、予め教師データを用いた機械学習又は深層学習等がなされた学習済みモデルである。学習済みモデルは、入力値に対して所定の演算を行い、演算結果を出力するものである。即ち、記憶部107にはこの演算を規定する関数の係数及び閾値等のデータが、第1の学習済みモデル107b及び第2の学習済みモデル107cとして記憶されている。第1の学習済みモデル107b及び第2の学習済みモデル107cは、モデル生成部106により生成され記憶部107に記憶されるものであってもよく、外部機器により生成され記憶部107に書き込まれたものであってもよい。
第1の学習済みモデル107bは、画像取得装置2により取得された、被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域の多波長画像に基づいて、推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力するように学習処理が施された学習済みモデルである。第2の学習済みモデル107cは、被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面の多波長画像に基づいて、胚乳領域該当性分布を出力するように学習処理が施された学習済みモデルである。
推定システム1は、製粉歩留推定プログラム107aを実行して第1の学習済みモデル107b及び第2の学習済みモデル107cとして記憶されたデータを読み込む。これにより、推定システム1は、第2の学習済みモデル107cを用いた胚乳領域該当性分布の出力のための演算、及び第1の学習済みモデル107bを用いた推定フェルラ酸濃度関連指標分布の出力のための演算を実行することが可能となる。
【0030】
相関関係データ107dは、製粉歩留が既知の対照穀物の代表値と、当該対照穀物の製粉歩留とを利用して導出された、代表値と被験穀物の製粉歩留との相関関係を示すデータである。例えば、相関関係データ107dは、代表値を縦軸、製粉歩留を横軸とするグラフに、複数の対照穀物の代表値及び製粉歩留の値をプロットして導出された検量線である。
対照穀物には、製粉歩留及び代表値が互いに異なる2以上の同種の穀物を使用することができる。導出される検量線の精度の観点から多数の対照穀物を使用することが好ましく、例えば5以上、好ましくは10以上、より好ましくは20以上の対照穀物を使用することができる。
【0031】
図3は、推定システム1のハードウェア構成を示す図である。推定システム1は、CPU10a、RAM10b、ROM10c、外部メモリ10d、入力部10e、表示部10f、及び通信部10gを備える。CPU10a、RAM10b、ROM10c、外部メモリ10d、入力部10e、表示部10f、及び通信部10gは、システムバス10hを介して、CPU10aに接続されている。
【0032】
CPU10aは、システムバス10hに接続される各デバイスを総括的に制御する。
RAM10bは、CPU10aの主メモリや作業領域等として機能する。CPU10aは、処理の実行に際して必要なプログラム等をROM10cや外部メモリ10dからRAM10bにロードして、ロードしたプログラムを実行することで各種動作を実現する。
ROM10cや外部メモリ10dには、CPU10aの制御プログラムであるBIOSやOS、コンピュータが実行する機能を実現するために必要な各種プログラムやデータ等が記憶されている。
外部メモリ10dは、例えば、フラッシュメモリ、ハードディスク、DVD-RAM、USBメモリ等から構成される。
入力部10eは、ユーザーなどからの操作指示等を受け付ける。入力部10eは、例えば、入力ボタン、キーボード、ポインティングデバイス、ワイヤレスリモコン、マイクロフォン、カメラ等の入力デバイスから構成される。
表示部10fは、CPU10aで処理されるデータや、RAM1010b、ROM10c、外部メモリ10dに記憶されるデータを出力する。表示部10fは、例えば、CRTディスプレイ、LCD、有機ELパネル、プリンター、スピーカーなどの出力デバイスから構成される。
通信部10gは、ネットワークを介して又は直接、外部機器と接続・通信するためのインターフェースである。通信部10gは、例えばシリアルインターフェース、LANインターフェース等のインターフェースから構成される。
【0033】
3.第1の学習済みモデル
第1の学習済みモデル107bは、被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像が入力された際に、前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力するように、教師データを用いた機械学習処理が施されたものである。
第1の学習済みモデル107bは、前記多波長画像の入力を受け付ける入力層と、入力された前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力する出力層と、前記多波長画像を入力とし、入力された前記多波長画像の推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力とするように、教師データを用いてパラメータが学習された中間層と、を有するニューラルネットワークとして構成される。本実施形態の第1の学習済みモデル11bには、例えばCNN(Convolutional Neural Network)を採用することができる。
【0034】
以下、第1の学習済みモデル107bがCNNである場合を例に挙げて説明する。
図4は、第1の学習済みモデル107bの生成処理を説明するための模式図であり、機械学習を行って第1の学習済みモデル107bを生成する処理を概念的に示している。
推定システム1は、CNNのモデルに対して胚乳領域の多波長画像内における推定フェルラ酸濃度関連指標分布を学習するディープラーニングを行うことで、第1の学習済みモデル107bを生成する。胚乳領域の多波長画像は、被験穀物種子切断面の胚乳領域のみが切り出された多波長画像であって、画像取得装置2によって撮像された被験穀物種子の切断面の多波長画像から、背景領域、ノイズ、前記切断面の外殻領域など、胚乳領域以外の領域が削除された画像を指す。
【0035】
図4に示すように、第1の学習済みモデル107bの入力層は、胚乳領域の多波長画像に含まれる各画素の画素値の入力を受け付ける複数のニューロンを有し、入力された画素値を中間層に受け渡す。中間層は、画像の特徴量を抽出する複数のニューロンを有し、入力層から入力された各画素の画素値を畳み込むコンボリューション層と、コンボリューション層で畳み込んだ画素値をマッピングするプーリング層とが交互に連結された構成を有し、画像の画素情報を圧縮しながら最終的に画像の特徴量を抽出する。中間層は、抽出した特徴量を出力層に受け渡す。出力層は、胚乳領域の多波長画像における推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力する、1以上のニューロンを有している。出力層は、中間層から出力された画像の特徴量に基づいて、推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力する。
【0036】
[教師データ]
第1の学習済みモデル107bの生成においては、複数の教師データを取得して当該教師データを用いた学習処理が行われている。前記教師データには、第1の教師データと、第2の教師データと、が含まれる。
【0037】
第1の教師データは、第1の製粉歩留を示す第1の教師データ用穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域を、画像取得装置2によって撮影することで作製された第1の多波長画像と、第1の値とが対応づけられたデータである。即ち、第1の多波長画像の各画素には、第1の製粉歩留に対応する第1の値(例えば、「-1」)がラベル付けされている。
第2の教師データは、第2の製粉歩留を示す第2の教師データ用穀物の種子のアルカリ処理された切断面の胚乳領域を、画像取得装置2によって撮影することで作製された第2の多波長画像と、第2の値とが対応づけられたデータである。即ち、第2の多波長画像の各画素には、第2の製粉歩留に対応する第2の値(例えば、「1」)がラベル付けされている。
第1の教師データ用穀物及び第2の教師データ用穀物としては、それぞれの製粉歩留に差がある組合せ(高製粉性及び低製粉性の組合せ)を採用してもよく、あるいは、胚乳をアルカリ処理したときに遊離されるフェルラ酸の量に差がある組合せ(高フェルラ酸及び低フェルラ酸の組合せ)を採用してもよい。
【0038】
第1の多波長画像への第1の値のラベル付けは、ユーザーがコンピュータ上で手動にて行うことができる。例えば、第1の多波長画像をカラースケールに基づくカラー画像(例えば、RGBスケールの画像)に変換してコンピュータの画面に表示させ、ユーザーが画面上で胚乳領域を選択して第1の値をラベル付けすることができる。あるいは、ユーザーが画面上で胚乳領域を任意の色(例えば、青色)に着色し、コンピュータが自動で当該色と第1の値を紐づけることでもラベル付けすることができる。
第2の多波長画像への第2の値のラベル付けも同様に、第2の多波長画像をカラースケールに基づくカラー画像に変換してコンピュータの画面に表示させ、ユーザーが画面上で胚乳領域を選択して第2の値をラベル付けすることができる。あるいは、ユーザーが画面上で胚乳領域を任意の色(例えば、赤色)に着色し、コンピュータが自動で当該色と第2の値を紐づけることでもラベル付けすることができる。
【0039】
[推定フェルラ酸濃度関連指標分布]
推定フェルラ酸濃度関連指標分布は、第1の学習済みモデル107bに入力された多波長画像の各画素におけるフェルラ酸の濃度を数値で表現したデータである。
推定フェルラ酸濃度関連指標分布は、例えば、第1の多波長画像から抽出されるスペクトル情報及び第2の多波長画像から抽出されるスペクトル情報を正解値とし、入力された多波長画像の各画素のスペクトル情報が第1の多波長画像又は第2の多波長画像のいずれに近いかを数値によって表現する。この場合、例えば、第1の多波長画像に近いスペクトル情報を有する画素に第1の値「1」が、第2の多波長画像に近いスペクトル情報を有する画素に第2の値「-1」が付与される。
あるいは、推定フェルラ酸濃度関連指標分布は、各画素のスペクトル情報を連続的な確率値として表現してもよい。この場合、例えば、第1の多波長画像に最も近いスペクトル情報を有する画素に第1の値「1」が、第2の多波長画像に最も近いスペクトル情報を有する画素に第2の値「-1」が、最も第1の多波長画像側に外れたスペクトル情報を有する画素に「2」、最も第2の多波長画像側に外れたスペクトル情報を有する画素に「-2」が付与され、各画素はスペクトル情報に応じて「-2」から「2」までの連続的な値が付与される。
各画素に付与された値は製粉歩留に対応するものであるが、製粉歩留と胚乳領域のフェルラ酸濃度が相関することから、フェルラ酸の濃度にも間接的に対応するものである。即ち、推定フェルラ酸濃度関連指標分布は各画素のフェルラ酸の量それ自体の値ではないが、各画素のフェルラ酸の量に基づく指標であるといえる。
【0040】
5.製粉歩留の推定
以下、推定システム1により実行される被験穀物の製粉歩留の推定を、
図5のフローチャートを用いて説明する。
【0041】
推定システム1の取得部101は、通信部10gにて画像取得装置2と通信を行い、画像取得装置2が取得した、被験穀物の種子のアルカリ処理が施された切断面の胚乳領域を、マルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された、胚乳領域の多波長画像を取得する(ステップS11)。取得部101は、取得した多波長画像を記憶部107に記憶させる。
【0042】
出力部102は、ステップS11にて取得した胚乳領域の多波長画像を、記憶部107に記憶された第1の学習済みモデル107bに入力する(ステップS12)。出力部102は、第1の学習済みモデル107bに推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力させる(ステップS13)。出力部102は、推定フェルラ酸濃度関連指標分布を記憶部107に記憶させる。
【0043】
算出部103は、ステップS13にて出力された推定フェルラ酸濃度関連指標分布に基づき、代表値を算出する(ステップS14)。
代表値は、例えば、推定フェルラ酸濃度関連指標分布上で各画素にラベル付けされた値の総和を、全画素数で除して得られる平均値である。あるいは、代表値は、推定フェルラ酸濃度関連指標分布上で各画素にラベル付けされた値の最頻値であってもよいし、各画素に付与されたフェルラ酸濃度に対応する値を、閾値を用いて二値化した後の各値の画素数の比であってもよい。算出部103は、代表値を記憶部107に記憶させる。
【0044】
導出部105は、相関関係データ107dを作成する(ステップS15)。ステップS15の処理を、
図6を用いて説明する。
導出部105は、製粉歩留が既知の複数の対照穀物の種子の、アルカリ処理が施された切断面の胚乳領域の多波長画像を取得し(ステップS151)、胚乳領域の多波長画像を第1の学習済みモデル107bに入力し(ステップS152)、第1の学習済みモデル107bに推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力させ(ステップS153)、代表値を算出する(ステップS154)。
【0045】
導出部105は、縦軸を代表値、横軸を製粉歩留とするグラフ上に、ステップS154において算出された対照穀物の代表値及び製粉歩留の値をプロットして検量線を作成する(ステップS155)。導出部105は、前記検量線を相関関係データ107dとして記憶部107に記憶させる。
【0046】
相関関係データ107dの作成を完了すると、推定部104は、相関関係データ107dと、ステップS14で算出された被験穀物の代表値と、を参照して当該被験穀物の製粉歩留を推定する(ステップS16)。推定部104は、得られた製粉歩留を記憶部107に記憶したり、推定システム1が備える表示部10fに表示したりしてもよい。
以上により、推定システム1は処理を終了する。
【0047】
本発明によれば、被験穀物の製粉工程を経ることなく製粉歩留を予測することができる。また、被験穀物中のフェルラ酸の含有量を実測する必要がない。即ち、本実施形態に関わる方法によれば、少量(例えば、10粒以下)の被験穀物の種子から簡便に製粉歩留を推定することができる。
【0048】
なお、第2の実施形態においては製粉歩留の推定を推定システム1が実行するものとしたが、これに限定されず、ユーザーが行うものとしてもよい。この場合、例えば推定システム1が備える表示部10fに相関関係データ107dを表示し、ユーザーは相関関係データ107dを参照して被験穀物の代表値に基づき製粉歩留を求めることができる。
【0049】
<第2の態様>
以下、第2の実施形態の第2の態様について説明する。
第2の態様においては、推定システム1は、第2の学習済みモデル107cを用いて多波長画像から胚乳領域を特定することで、胚乳領域の多波長画像を取得する。その他の構成は第1の態様と同様であるため、説明を省略する。
【0050】
1.第2の学習済みモデル
第2の学習済みモデル107cは、被験穀物の種子のアルカリ処理された切断面をマルチスペクトルカメラによって撮影することで作製された多波長画像が入力された際に、前記多波長画像の胚乳領域該当性分布を出力するように、教師データを用いた機械学習処理が施されたものである。
第2の学習済みモデル107cは、前記多波長画像の入力を受け付ける入力層と、入力された前記多波長画像の胚乳領域該当性分布を出力する出力層と、前記多波長画像を入力とし、入力された前記多波長画像の胚乳領域該当性分布を出力とするように、教師データを用いてパラメータが学習された中間層と、を有するニューラルネットワークとして構成される。本実施形態の第2の学習済みモデル107cには、例えばCNNを採用することができる。
【0051】
[教師データ]
第2の学習済みモデル107cの生成においては、第3の教師データを用いた学習処理を行われている。
第3の教師データは、第3の教師データ用穀物の種子のアルカリ処理された切断面を、画像取得装置2によって撮影することで作製された第3の多波長画像において、胚乳領域の画素に第3の値(例えば、「1」)が、胚乳領域以外の画素に第4の値(例えば、「-1」)が、それぞれラベル付けされたデータである。なお、第3の多波長画像として、第1の学習済みモデル11bの教師データに使用される第1の多波長画像及び/又は第2の多波長画像を用いることも可能である。
【0052】
第3の多波長画像への第3の値及び第4の値のラベル付けは、ユーザーがコンピュータ上で手動にて行うことができる。例えば、第3の多波長画像をカラースケールに基づくカラー画像に変換してコンピュータの画面に表示させ、ユーザーが画面上で胚乳領域を選択して第3の値をラベル付けし、胚乳領域以外の領域に第4の値をラベル付けすることができる。あるいは、ユーザーが画面上で胚乳領域を任意の色(例えば、緑色)に着色し、胚乳領域以外の領域を他の色(例えば、黄色)に着色し、コンピュータが自動で各色と第3の値又は第4の値を紐づけることでもラベル付けすることができる。
【0053】
[胚乳領域該当性分布]
胚乳領域該当性分布は、第2の学習済みモデル107cに入力された多波長画像の各画素が胚乳領域であるか否かを数値で表現したデータである。
胚乳領域該当性分布は、例えば、第3の多波長画像の胚乳領域及び胚乳領域以外の領域からそれぞれ抽出されるスペクトル情報を正解値とし、入力された多波長画像の各画素のスペクトル情報が第3の多波長画像のいずれの領域のスペクトル情報に近いかを数値によって表現する。この場合、例えば、第3の多波長画像の胚乳領域に近いスペクトル情報を有する画素に第3の値「1」が、第3の多波長画像の胚乳領域以外の領域に近いスペクトル情報を有する画素に第4の値「-1」が付与される。
あるいは、胚乳領域該当性分布は、各画素のスペクトル情報を連続的な確率値として表現してもよい。この場合、例えば、第3の多波長画像の胚乳領域最も近いスペクトル情報を有する画素に第3の値「1」が、第3の多波長画像の胚乳領域以外の領域に最も近いスペクトル情報を有する画素に第4の値「-1」が、最も胚乳領域側に外れたスペクトル情報を有する画素に「2」、最も胚乳領域以外の領域側に外れたスペクトル情報を有する画素に「-2」が付与され、各画素はスペクトル情報に応じて「-2」から「2」までの連続的な値が付与される。
【0054】
2.製粉歩留の推定
以下、推定システム1により実行される被験穀物の製粉歩留の推定を、
図7のフローチャートを用いて説明する。
【0055】
推定システム1の取得部101は、通信部10fにて画像取得装置2と通信を行い、画像取得装置2が取得した、アルカリ処理が施された被験穀物の種子の切断面の多波長画像を取得する(ステップS21)。前記多波長画像には、胚乳領域以外の領域が含まれている。取得部101は、取得した多波長画像を記憶部107に記憶させる。
取得部101は、ステップS21にて取得した多波長画像を、記憶部107に記憶された第2の学習済みモデル107cに入力する(ステップS22)。
取得部101は、第2の学習済みモデル107cに胚乳領域該当性分布を出力させ(ステップS23)、胚乳領域該当性分布に基づいて、前記被験穀物の種子の切断面の前記胚乳領域の多波長画像を抽出する(ステップS24)。ステップS24では、胚乳領域該当性分布において各画素に付与された値を、閾値を用いて二値化して多波長画像の胚乳領域を特定する。例えば、胚乳領域該当性分布が、各画素に「2」から「-2」までの連続的な値が付与されたものであるとき、閾値「0」を用いて各値を「1」又は「-1」に二値化して、各画素が胚乳領域(例えば、値「1」が付与されている)又は胚乳領域以外の領域(例えば、値「-1」が付与されている)のいずれであるかを判別する。取得部101は、前記多波長画像から胚乳領域として特定された領域を切り出して胚乳領域の多波長画像とし、記憶部107に記憶させる。
【0056】
出力部102は、ステップS24にて取得した胚乳領域の多波長画像を、記憶部107に記憶された第1の学習済みモデル107bに入力する(ステップS25)。ステップS26及びステップS27の処理は、
図4のステップS13及びステップS14の処理と同様である。
【0057】
導出部105は、相関関係データ107dを作成する(ステップS28)。ステップS28の処理を、
図8を用いて説明する。
導出部105は、通信部10fにて画像取得装置2と通信を行い、画像取得装置2が取得した、アルカリ処理が施された複数の対照穀物の種子の切断面の多波長画像を取得し(ステップS281)、前記多波長画像を第2の学習済みモデル107cに入力し(ステップS282)、第2の学習済みモデル107cに胚乳領域該当性分布を出力させ(ステップS283)、胚乳領域該当性分布に基づいて、前記対照穀物の種子の切断面の前記胚乳領域の多波長画像を抽出する(ステップS284)。
出力部102は、ステップS284にて取得した胚乳領域の多波長画像を、記憶部107に記憶された第1の学習済みモデル107bに入力する(ステップS285)。ステップS286~ステップS288の処理は、
図6のステップS153~ステップS155の処理と同様である。
以上のように、第2の学習済みモデル107cを用いると、多波長画像から自動的に胚乳領域を切り出して製粉歩留の推定に用いることができる。
【0058】
<第3の態様>
以下、第2の実施形態の第3の態様について説明する。
第3の態様においては、推定システム1は、第1の学習済みモデル107b及び第2の学習済みモデル107cを生成する。その他の構成は第1の態様と同様であるため説明を省略する。
【0059】
1.第1の学習済みモデルの生成
推定システム1は、モデル生成部106により、第1の教師データ及び第2の教師データを用いて第1の学習済みモデル107bを生成する。
モデル生成部106は、第1の教師データ及び第2の教師データをCNNの入力層に入力し、中間層での演算処理を経て、出力層から出力される推定フェルラ酸濃度関連指標分布を取得する。CNNの中間層においては、第1の多波長画像及び第2の多波長画像に含まれる複数の波長帯域の画像から各画素のスペクトル情報を抽出して、各画素におけるフェルラ酸濃度を表す数値を算出する。
【0060】
モデル生成部106は、出力層から出力された推定フェルラ酸濃度関連指標分布を、第1の多波長画像又は第2の多波長画像に対しラベル付けされた情報、即ち正解値(例えば、第1の値「-1」又は第2の値「1」)と比較し、出力層からの出力値が正解値に近づくように、中間層での演算処理に用いるパラメータを最適化する。当該パラメータは、例えばニューロン間の重み(結合係数)などである。パラメータの最適化の方法は特に限定されないが、例えばモデル生成部106は、最急降下法等を用いて各種パラメータの最適化を行うことができる。例えば、第1の多波長画像及び第2の多波長画像がそれぞれ有するスペクトル情報を、有意に識別可能な波長の画像に重みづけするように、パラメータを修正しても良い。
モデル生成部106は、第1の教師データ及び第2の教師データのそれぞれについて、上記の処理を繰り返し行うことによって、学習処理が完了した第1学習済みモデル107bを得る。
【0061】
図9は、第1の学習済みモデル107bの生成方法を示すフローチャートである。モデル生成部106は、例えば予め用意され記憶部107に記憶された第1の教師データ及び第2の教師データを所得する(ステップS31)。モデル生成部106は、取得した第1の教師データ及び第2の教師データを用いて、例えばCNNの構成を有する第1の学習済みモデル107bを生成する(ステップS32)。学習の終了後、モデル生成部106は、生成された第1の学習済みモデル107bを記憶部107に保存する(ステップS33)。以上により、第1の学習済みモデル107bの生成処理を終了する。
【0062】
2.第2の学習済みモデルの生成
推定システム1は、モデル生成部106により、前記第3の教師データを用いて第2の学習済みモデル107cを生成する。
モデル生成部106は、第3の教師データをCNNの入力層に入力し、中間層での演算処理を経て、出力層から出力される胚乳領域該当性分布を取得する。CNNの中間層においては、第3の多波長画像に含まれる複数の波長帯域の画像から各画素のスペクトル情報を抽出して、各画素における胚乳領域であるか否かを表す数値を算出する。
【0063】
モデル生成部106は、出力層から出力された胚乳領域該当性分布を、第3の多波長画像に対しラベル付けされた情報、即ち正解値(例えば、第3の値「1」又は第4の値「-1」)と比較し、出力層からの出力値が正解値に近づくように、中間層での演算処理に用いるパラメータを最適化する。当該パラメータは、例えばニューロン間の重み(結合係数)などである。パラメータの最適化の方法は特に限定されないが、例えばモデル生成部106は、最急降下法等を用いて各種パラメータの最適化を行うことができる。例えば、第3の多波長画像の胚乳領域及び胚乳領域以外の領域がそれぞれ有するスペクトル情報を、有意に識別可能な波長の画像に重みづけするように、パラメータを修正しても良い。
【0064】
図10は、第2の学習済みモデル107cの生成方法を示すフローチャートである。モデル生成部106は、例えば予め用意され記憶部12に記憶された第3の教師データを所得する(ステップS41)。モデル生成部106は、取得した第3の教師データを用いて、例えばCNNの構成を有する第2の学習済みモデル107cを生成する(ステップS42)。学習の終了後、モデル生成部106は、生成された第2の学習済みモデル107cを記憶部107に保存する(ステップS43)。以上により、第2の学習済みモデル107cの生成処理を終了する。
【0065】
以上のように生成された第1の学習済みモデル107b及び第2の学習済みモデル107cを用いて、第1の態様又は第2の態様に記載の処理を行うことが可能である。
【実施例0066】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0067】
<試験例1:製粉歩留と遊離フェルラ酸との相関関係>
小麦の製粉歩留と遊離フェルラ酸との相関関係を確認した。
1.5kgの種子を製粉して製粉歩留を算出した。製粉24時間前に水分14.5%に調質(加水)し、試験製粉機(Bhullar test mill;ビューラー株式会社製)にてAACC26法に準じて行った。製粉後B1+M1、B2+M2、B3、M3の順に小麦粉を混合して、総量の60%に達した「60%粉」を調製した。製粉歩留は以下の式を算出した。
製粉歩留(%)=粉/(粉+ふすま)×100
【0068】
種子の胚乳に含まれるフェルラ酸を遊離させ、フェルラ酸を定量した。具体的には、上記の60%粉100mgに1M NaOHを5ml添加し12時間転倒混和した。その後上澄4mlに3M HClを1.25ml、0.5Mグリシン塩酸塩緩衝液(pH2.0)を4.75ml添加し、混和した。さらに酢酸エチル10mlを添加し振とうした。溶液15mlを窒素にて濃縮乾固し、50%メタノールに溶解した。フェルラ酸の定量はHarukaze et al. (1999)を改良して、HPLCにより行った。
図1は、縦軸を製粉歩留、横軸を遊離フェルラ酸濃度として測定値をプロットし、Excelにて検量線を引いた図である。
図1中の相関係数(r)は、R version 4.2.0にてピアソンの積率相関係数として算出した。
図1に示すように、製粉歩留と遊離フェルラ酸濃度の間には負の相関関係が存在することが確認された。
製粉歩留が未知の被験穀物があれば、その遊離フェルラ酸濃度を測定して検量線に当てはめることによって、製粉歩留を推定することができる。
【0069】
<試験例2:多波長画像を用いた製粉歩留の推定>
1.使用機器
本試験例においては、多波長画像の取得及び製粉歩留の推定を、VideometerLab 4(Videometer社製)を用いて行った。本試験例では、VideometerLab 4を推定システム1及び画像取得装置2として機能させた。
【0070】
2.教師データ作製用の多波長画像の取得
第1の教師データ用穀物の種子として、公知の高製粉性系統「中国175号」(2018年播2019年産、製粉歩留71.5%)の種子を60粒用いた。第2の教師データ用穀物の種子として、公知の低製粉性品種「シロガネコムギ」(2018年播2019年産、製粉歩留66.0%)の種子を60粒用いた。
各種子を略半分に切断し、半切り種子を作製した。半切り種子は、横切断面を上側にして両面テープに貼り付けてシャーレに固定した。切断面に0.1Mのアンモニア水を4μl滴下し、30分間静置してフェルラ酸を遊離させた。
【0071】
アンモニア処理した第1の教師データ用穀物及び第2の教師データ用穀物のそれぞれに、VideometerLab 4を用いて365nm~970nmの波長帯域に含まれる19波長(365nm、405nm、430nm、450nm、470nm、490nm、515nm、540nm、570nm、590nm、630nm、645nm、660nm、690nm、780nm、850nm、880nm、940nm、及び970nm)の照射光を照射して、多波長画像を取得した。
図11に、前記多波長画像をRGBスケールに変換した画像を示す。
【0072】
3.第2の学習済みモデルの作成
第1の教師データ用穀物の多波長画像及び第2教師データ用穀物の多波長画像を第3の多波長画像として利用して、第3の教師データを作成した。
図12Aは、第3の多波長画像に対して第3の値及び第4の値をラベル付けして作製された、第3の教師データを示す。
図12Aの左の図に示す多波長画像をRGBスケールに変換した画像に対して、
図12Aの右の図に示すように、実験者がコンピュータ画面上で手動にて第3の多波長画像の胚乳領域を緑色、胚乳領域以外の領域を黄色に着色した。このとき、第3の多波長画像の胚乳領域に緑色に対応する「1」が、胚乳領域以外の領域に黄色に対応する「-1」がラベル付けされたことになる。このようにして作製された第3の教師データに対してVideometerLab 4のソフトウェア「Transformation builder」を用いて、胚乳領域及び胚乳領域以外の領域を判別するモデル「product vs. background」を生成した。本試験例では、前記モデル「product vs. background」が第2の学習済みモデルとして機能するため、以降は前記モデルを第2の学習済みモデルと記載する。
【0073】
図12Bは、第2の学習済みモデルを第3の多波長画像に適用した結果を示す。
図12Bに示す画像は、胚乳領域該当性分布をRGBスケールに変換して表示したものである。胚乳領域該当性分布では、最も胚乳領域(
図12Aの右の図で緑色に着色した画素)に近いスペクトル情報を有する画素に「1」が、最も胚乳領域以外の領域(
図12Aの右の図で黄色に着色した画素)に近いスペクトル情報を有する画素に「-1」が、最もプラス側に外れたスペクトル情報を有する画素に「2」が、最もマイナス側に外れたスペクトル情報を有する画素に「-2」が付与され、各画素はスペクトル情報に応じて「-2」から「2」までの連続的な値が付与されている。
図12Bでは、付与された値を赤色(「2」に対応)から青色(「-2」に対応)までの色に変換して表示している。
【0074】
4.胚乳領域の抽出
図12Bに示す画像から、画素にラベル付けされた値を、閾値「0」を用いて二値化することにより、胚乳領域の抽出を行った。VideometerLab 4のソフトウェア「Segmentation builder」を用いて、胚乳領域を抽出するモデル「Segmentation」を生成した。
具体的な「Segmentation builder」の設定は以下の通りである。
Transformation: 「product vs. background」を選択
Type: Simple Threshold Morphology
Threshold: 0
Morphology Filter: Euclidean Open
Disk Radius: 7
図12Cは、二値化後の胚乳領域が抽出された画像を示す。
図12Cでは、胚乳領域を白で、胚乳領域以外の領域を黒で表しており、多波長画像に映り込んだ埃などのノイズも同時に除去されている。
【0075】
5.第1の学習済みモデルの作成
第1の教師データ用穀物の多波長画像及び第2の教師データ用穀物の多波長画像を第2の学習済みモデルに入力して胚乳領域該当性分布を出力させ、当該胚乳領域該当性分布に対して二値化を行って胚乳領域を抽出し、第1の多波長画像及び第2の多波長画像を作成した。
図13Aは、胚乳領域を抽出する前の第1の教師データ用穀物の多波長画像及び第2の教師データ用穀物の多波長画像を、それぞれRGBスケールに変換した画像を示している。
図13Bは、胚乳領域を抽出して作成された第1の多波長画像及び第2の多波長画像を、それぞれRGBスケールに変換した画像を示している。
次いで、第1の多波長画像及び第2の多波長画像に対して、それぞれ第1の値及び第2の値をラベル付けした。
図14Aに示すように、第1の多波長画像の胚乳領域に水色を、第2の多波長画像の胚乳領域にえんじ色を着色した。このとき、第1の多波長画像の胚乳領域に水色に対応する「-1」が、第2の多波長画像の胚乳領域にえんじ色に対応する「1」がラベル付けされたことになる。次いで、VideometerLab 4のソフトウェア「Transformation builder」を用いて、推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力するモデル「seed FA analysis」を生成した。本試験例では、前記モデル「seed FA analysis」が第1の学習済みモデルとして機能するため、前記モデルを第1の学習済みモデルと記載する。
【0076】
図14Bは、第1の学習済みモデルを第1の多波長画像及び第2の学習済みモデルに適用した結果を示す。
図14Bに示す画像は、推定フェルラ酸濃度関連指標分布をRGBスケールに変換して表示したものである。推定フェルラ酸濃度関連指標分布においては、第1の多波長画像で水色に着色された画素に最も近いスペクトル情報を有する画素に「-1」が、第2の多波長画像でえんじ色に着色された画素に最も近いスペクトル情報を有する画素に「1」が、最もプラス側に外れたスペクトル情報を有する画素に「2」が、最もマイナス側に外れたスペクトル情報を有する画素に「-2」が付与され、各画素はスペクトル情報に応じて「-2」から「2」までの連続的な値が付与されている。
図14Bでは、付与された値に応じて、各画素に濃い赤色(「2」に対応)から濃い青色(「-2」に対応)までの色が着色されている。
【0077】
6.代表値の算出
生成された第1の学習済みモデル及び第2の学習済みモデルを用いて、対照穀物の代表値を算出した。対照穀物として、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構西日本農業研究センターで育成された日本めん用系統(F6-7世代)、2018年播2019年産19品種・系統を用いた。
各品種・系統の種子をそれぞれ10粒ずつ使用し、種子の切断面の多波長画像を取得した。多波長画像の取得は、上記「2.教師データ作製用の多波長画像取得」と同様に行った。
【0078】
前記多波長画像から、対照穀物として使用した各品種・系統の代表値を算出した。
VideometerLab 4のソフトウェア「Session Manager」を用いて、対照穀物の多波長画像から第2の学習済みモデルを用いて胚乳領域を抽出し、胚乳領域の多波長画像から第1の学習済みモデルを用いて推定フェルラ酸濃度関連指標分布を出力させ、及び推定フェルラ酸濃度関連指標分布から代表値を算出する処理を行うモデルを設計した。本試験例では、代表値は推定フェルラ酸濃度関連指標分布の各画素にラベル付けされた数値(「-2」から「2」までの値)の総和を、全画素数で除して得られる平均値である。
具体的な「Session Manager」の設定は以下の通りである。
Plugin Algorism: General Statistic
Name: Statistic
Statistic: 「Segmentation(上記「3.第2の学習済みモデルの作成」で作成したもの)」及び「seed FA analysis」を選択
得られた代表値を後掲の表1に示す。
【0079】
7.検量線の作成
対照穀物の代表値及び製粉歩留を利用した検量線を作成するため、対照穀物の各品種・系統を製粉して製粉歩留を測定した。製粉には各品種・系統の種子1.5kgを使用した。製粉24時間前に水分14.5%に調質(加水)し、試験製粉機(Bhullar test mill;ビューラー株式会社製)にてAACC26法に準じて行った。製粉後B1+M1、B2+M2、B3、M3の順に小麦粉を混合して、総量の60%に達した「60%粉」を調整した。製粉歩留は以下の式を算出した。
製粉歩留(%)=粉/(粉+ふすま)×100
得られた製粉歩留を表1に示す。
【0080】
【0081】
図15に示すように、各対照穀物の代表値を縦軸に、製粉歩留の値を横軸にプロットして散布図を作成し、Excelにて当該散布図に対する近似曲線を引いた。当該近似曲線は検量線として機能する。
図15中の相関係数(r)は、R version 4.2.0にてピアソンの積率相関係数として算出した。
図15から明らかなように、製粉歩留と代表値の間には負の相関関係が存在する。
図15に示す検量線を参照して、製粉歩留が未知の被験穀物の代表値に基づき、当該被験穀物の製粉歩留を予測可能である。
【0082】
8.フェルラ酸含有量と、代表値との相関関係
対照穀物の種子に含まれるフェルラ酸を定量した。フェルラ酸の定量には、上記の60%粉を用いた。フェルラ酸の定量はHarukaze et al. (1999)を改良して、HPLCにより行った。得られたフェルラ酸(FA)濃度を表1に示す。
図16は、縦軸を代表値、横軸をフェルラ酸(FA)濃度として対照穀物の数値をプロットして散布図を作成し、当該散布図に対して近似曲線を引いた図である。当該近似曲線を検量線として機能する。
図16から明らかなように、フェルラ酸濃度と代表値との間には正の相関関係が存在する。
【0083】
9.アラビノキシラン含有量と、代表値との相関関係
対照穀物の種子に含まれるアラビノキシランを定量した。アラビノキシランの定量には、上記の60%粉を用いた。アラビノキシランの定量はShewry and Ward eddited(2016)に準じてGCにより行った。得られたアラビノキシラン(AX)濃度を表1に示す。
図17は、縦軸を代表値、横軸をアラビノキシラン(AX)濃度として対照穀物の数値をプロットして散布図を作成し、当該散布図に対して近似曲線を引いた図である。当該近似曲線を検量線として機能する。
図17から明らかなように、アラビノキシラン濃度と代表値との間には正の相関関係が存在する。
試験例2の結果から、推定フェルラ酸濃度関連指標分布はフェルラ酸の量を間接的に表すものであり、推定フェルラ酸濃度関連指標分布から算出される代表値を用いて、製粉歩留を予測可能であることが示された。