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  • 特開-樹脂組成物及び樹脂組成物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060758
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20240425BHJP
   C08L 33/04 20060101ALI20240425BHJP
   C08G 64/02 20060101ALI20240425BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20240425BHJP
   B29C 48/25 20190101ALI20240425BHJP
   B29C 48/40 20190101ALI20240425BHJP
   B29C 48/67 20190101ALI20240425BHJP
   B29B 7/46 20060101ALI20240425BHJP
   B29B 7/58 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
C08L69/00
C08L33/04
C08G64/02
C08J3/20 Z CFD
B29C48/25
B29C48/40
B29C48/67
B29B7/46
B29B7/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168240
(22)【出願日】2022-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】田中 達也
(72)【発明者】
【氏名】田中 美伶
(72)【発明者】
【氏名】松本 晃和
【テーマコード(参考)】
4F070
4F201
4F207
4J002
4J029
【Fターム(参考)】
4F070AA32
4F070AA50
4F070FA01
4F070FA17
4F070FC04
4F070FC06
4F070FC09
4F201AA20
4F201AA28
4F201AR03
4F201AR06
4F201BA01
4F201BC02
4F201BK02
4F201BK13
4F201BK26
4F201BK49
4F201BK75
4F207AA20
4F207AA28
4F207AR03
4F207AR06
4F207KA01
4F207KA17
4F207KK13
4F207KK34
4F207KL26
4F207KL29
4F207KL99
4J002BG06X
4J002CG01W
4J029AA09
4J029AB07
4J029AC02
4J029AD01
4J029BD07A
4J029BD10
4J029BF30
4J029HA01
4J029HC05A
4J029JB171
4J029JF141
4J029KE05
(57)【要約】
【課題】アクリル樹脂とポリカーボネート樹脂を含み透明性に優れた樹脂組成物の提供。
【解決手段】式(1)で表される化合物に由来する構成単位を有するポリカーボネート樹脂とアクリル樹脂を混練してなる樹脂組成物であって、前記ポリカーボネート樹脂と前記アクリル樹脂を、混練機の回転軸が回転自在に貫通する複数の軸貫通部222と、複数の軸貫通部222の周囲に穿設された混練材料の流路となる複数の小孔221aとを有するディスク型セグメント22を備える混練機を用いて混練して得られる、樹脂組成物。
[化1]
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される化合物に由来する構成単位を有するポリカーボネート樹脂とアクリル樹脂を混練してなる樹脂組成物であって、
前記ポリカーボネート樹脂と前記アクリル樹脂を、混練機の回転軸が回転自在に貫通する複数の軸貫通部と、前記複数の軸貫通部の周囲に穿設された混練材料の流路となる複数の小孔とを有するディスク型セグメントを備える混練機を用いて混練して得られる、樹脂組成物。
【化1】
【請求項2】
前記ポリカーボネート樹脂と前記アクリル樹脂の質量比が、前記ポリカーボネート樹脂:前記アクリル樹脂=90:10~10:90である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
式(1)で表される化合物に由来する構成単位を有するポリカーボネート樹脂とアクリル樹脂を混練する樹脂組成物の製造方法であって、
前記ポリカーボネート樹脂と前記アクリル樹脂を、混練機の回転軸が回転自在に貫通する複数の軸貫通部と、前記複数の軸貫通部の周囲に穿設された混練材料の流路となる複数の小孔とを有するディスク型セグメントを備える混練機を用いて混練する、樹脂組成物の製造方法。
【化2】
【請求項4】
200~240℃の温度で混練する、請求項3に記載の樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
混練時の圧力損失が1~20MPaである、請求項3又は4に記載の樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及び樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は一般的に石油資源から誘導される原料を用いて製造される。しかしながら、近年、石油資源の枯渇が危惧されており、植物などのバイオマス資源から得られる原料を用いたポリカーボネート樹脂の提供が求められている。また、二酸化炭素排出量の増加、蓄積による地球温暖化が、気候変動などをもたらすことが危惧されていることからも、使用後の廃棄処分をしてもカーボンニュートラルな、植物由来モノマーを原料としたポリカーボネート樹脂の開発が求められている。
【0003】
例えば、植物由来モノマーとしてイソソルビド(ISB)を使用し、炭酸ジフェニルとのエステル交換により、ポリカーボネート樹脂を得ることが提案されている。イソソルビドのようなジヒドロキシ化合物から得られるポリカーボネート樹脂は、光学特性に優れるだけでなく、従来汎用されている芳香族ポリカーボネート樹脂に比べて耐候性や表面硬度に極めて優れることが示されている(特許文献1)。
【0004】
また、アクリル樹脂は透明性や耐候性、高い弾性率、表面硬度等に優れる樹脂であり、以上の2種類の透明樹脂を混合することで新規のポリマーアロイの開発が期待されるが、ニーディングディスクを備えた混練機によるせん断流動においては、せん断発熱に伴う相分離が発生することが懸念される。そこで、異なる樹脂同士をせん断発熱なく混合する手法としてブリスターディスクを用いた伸長流動を活用する手法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】英国特許出願公開第1079686号明細書
【特許文献2】国際公開第2018/155502号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らの検討によれば、ニーディングディスクを備えた混練機でポリカーボネート樹脂とアクリル樹脂を混練すると透明性が失われた樹脂組成物が得られる課題があった。
【0007】
そこで、本発明者らは、特許文献2に記載のブリスターディスクを備えた混練機でポリカーボネート樹脂とアクリル樹脂を混練すると透明性に優れた樹脂組成物が得られることを見出した。
本発明は、アクリル樹脂とポリカーボネート樹脂を含み透明性に優れた樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の態様を有する。
[1] 式(1)で表される化合物に由来する構成単位を有するポリカーボネート樹脂とアクリル樹脂を混練してなる樹脂組成物であって、
前記ポリカーボネート樹脂と前記アクリル樹脂を、混練機の回転軸が回転自在に貫通する軸貫通部と、前記軸貫通部の周囲に穿設された混練材料の流路となる複数の小孔とを有するディスク型セグメントを備える混練機を用いて混練して得られる、樹脂組成物。
【化1】
[2] 前記ポリカーボネート樹脂と前記アクリル樹脂の質量比が、前記ポリカーボネート樹脂:前記アクリル樹脂=90:10~10:90である、[1]に記載の樹脂組成物。
[3] 式(1)で表される化合物に由来する構成単位を有するポリカーボネート樹脂とアクリル樹脂を混練する樹脂組成物の製造方法であって、
前記ポリカーボネート樹脂と前記アクリル樹脂を、混練機の回転軸が回転自在に貫通する軸貫通部と、前記軸貫通部の周囲に穿設された混練材料の流路となる複数の小孔とを有するディスク型セグメントを備える混練機を用いて混練する、樹脂組成物の製造方法。
【化2】
[4] 200~240℃の温度で混練する、[3]に記載の樹脂組成物の製造方法。
[5] 混練時の圧力損失が1~20MPaである、[3]又は[4]に記載の樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アクリル樹脂とポリカーボネート樹脂を含み透明性に優れた樹脂組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】混練機のディスク型セグメントの一実施形態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明は後述する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
なお、以下において重合前のモノマー成分のことを「~単量体」といい、「単量体」と省略することもある。また、重合体を構成する構成単位のことを「~単量体単位」ということがある。また、(メタ)アクリレートは、メタクリレート及び/又はアクリレートを示す。
また、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載した数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0012】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、特定のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を有するポリカーボネート樹脂(以下「ポリカーボネート樹脂(A)」とも記す。)とアクリル樹脂(以下「アクリル樹脂(B)」とも記す。)を、混練機を用いて混練してなる樹脂組成物である。
【0013】
<ポリカーボネート樹脂(A)>
ポリカーボネート樹脂(A)は、式(1)で表されるジヒドロキシ化合物(以下「ジヒドロキシ化合物(1)」とも記す。)に由来する構成単位(以下「構成単位(1)」とも記す。)を有する。なお、本実施形態のポリカーボネート樹脂(A)を構成する構成単位(1)はジヒドロキシ化合物(1)のヒドロキシ基から水素原子を除いたものである。
【0014】
【化3】
【0015】
ポリカーボネート樹脂(A)は、ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位をカーボネート結合で連結したポリカーボネート樹脂である。
【0016】
(ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位)
ポリカーボネート樹脂(A)は、ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位として、ジヒドロキシ化合物(1)に由来する構成単位(1)を含んでいればよく、ジヒドロキシ化合物(1)以外のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含んでいてもよい。すなわち、ポリカーボネート化合物(A)としては、前記ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位として、ジヒドロキシ化合物(1)に由来する構成単位(1)のみを有するホモポリカーボネート樹脂であってもよいし、前記ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位として、ジヒドロキシ化合物(1)に由来する構成単位(1)と、ジヒドロキシ化合物(1)以外のジヒドロキシ化合物(以下「ジヒドロキシ化合物(a)」とも記す。)に由来する構成単位(以下「構成単位(a)」とも記す。)とを有する共重合ポリカーボネート樹脂であってもよい。ポリカーボネート化合物(A)としては、耐衝撃性により優れるという点から、共重合ポリカーボネート樹脂が好ましい。
【0017】
ジヒドロキシ化合物(1)としては、例えば、立体異性体の関係にある、イソソルビド(略称:ISB,別名:1,4:3,6-ジアンヒドログルシトール)、イソマンニド(別名:1,4:3,6-ジアンヒドロマンニトール)、及びイソイジド(別名:1,4:3,6-ジアンヒドロイジトール)が挙げられる。
前記ヒドロキシ化合物(1)は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて、用いることができる。
【0018】
ジヒドロキシ化合物(1)の中でも、植物由来の資源として豊富に存在し、容易に入手可能な種々のデンプンから製造されるソルビトール(別名:グルシトール)を脱水縮合して得られるイソソルビド(ISB)が、入手及び製造のし易さ、耐候性、光学特性、成形性、耐熱性、及びカーボンニュートラルの点から好ましい。
【0019】
なお、ジヒドロキシ化合物(1)は、酸素によって徐々に酸化されやすい。したがって、保管中又は製造時の取り扱いの際には、酸素による分解を防ぐため、水分が混入しないようにし、また、脱酸素剤を用いたり、窒素雰囲気下にしたりすることが好ましい。
【0020】
ポリカーボネート樹脂(A)は、ジヒドロキシ化合物(1)に由来する構成単位(1)と、ジヒドロキシ化合物(a)(ジヒドロキシ化合物(1)以外のジヒドロキシ化合物をいう。)に由来する構成単位(a)とを有する共重合ポリカーボネート樹脂であることが好ましい。
ジヒドロキシ化合物(a)は特に限定されないが、脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物、脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物、エーテル含有ジヒドロキシ化合物、及び芳香族基を含有するジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれる1種以上のジヒドロキシ化合物(以下「ジヒドロキシ化合物(b)」とも記す。)が好ましい。以下、ジヒドロキシ化合物(b)に由来する構成単位を、適宜「構成単位(b)」と記す。ジヒドロキシ化合物(b)は、特に、脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物、脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物、及びエーテル含有ジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれる1種以上のジヒドロキシ化合物であることが好ましい。これらのジヒドロキシ化合物は柔軟な分子構造を有するため、これらのジヒドロキシ化合物を原料として用いることにより、得られるポリカーボネート樹脂の耐衝撃性を向上させることができる。中でも、耐衝撃性を向上させる効果の大きい脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物及び/又は脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物を用いることがより好ましく、脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物を用いることがさらに好ましい。脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物、脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物、エーテル含有ジヒドロキシ化合物、及び芳香族基を含有するジヒドロキシ化合物の具体例としては、以下の通りである。
【0021】
前記脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物の具体例としては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ヘプタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、及び1,12-ドデカンジオール等の直鎖脂肪族ジヒドロキシ化合物;並びに、1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、及びヘキシレングリコール等の分岐鎖を有する脂肪族ジヒドロキシ化合物が挙げられる。
【0022】
前記脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物の具体例としては、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、2,6-デカリンジメタノール、1,5-デカリンジメタノール、2,3-デカリンジメタノール、2,3-ノルボルナンジメタノール、2,5-ノルボルナンジメタノール、1,3-アダマンタンジメタノール、及びリモネン等の、テルペン化合物から誘導されるジヒドロキシ化合物等に例示される、脂環式炭化水素の1級アルコールであるジヒドロキシ化合物;並びに、1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,3-アダマンタンジオール、水添ビスフェノールA、及び2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール等に例示される、脂環式炭化水素の2級アルコール又は3級アルコールであるジヒドロキシ化合物が挙げられる。
【0023】
前記エーテル含有ジヒドロキシ化合物の具体例としては、オキシアルキレングリコール類及びアセタール環を含有するジヒドロキシ化合物が挙げられる。
前記オキシアルキレングリコール類の具体例としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールが挙げられる。
前記アセタール環を含有するジヒドロキシ化合物の具体例としては、式(2)で表されるスピログリコール、及び式(3)で表されるジオキサングリコールが挙げられる。
【0024】
【化4】
【0025】
【化5】
【0026】
前記芳香族基を含有するジヒドロキシ化合物の具体例としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジエチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-(3-フェニル)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-(3,5-ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2-エチルヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカン、ビス(4-ヒドロキシ-3-ニトロフェニル)メタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,3-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン、1,3-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジスルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、及び4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジクロロジフェニルエーテル等の芳香族ビスフェノール化合物;
【0027】
2,2-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、1,3-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、及びビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)スルホン等の芳香族基に結合したエーテル基を有するジヒドロキシ化合物;並びに、
【0028】
9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシプロポキシ)-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-tert-ブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3,5-ジメチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-tert-ブチル-6-メチルフェニル)フルオレン、及び9,9-ビス(4-(3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等のフルオレン環を有するジヒドロキシ化合物が挙げられる。
【0029】
前記芳香族基を含有するジヒドロキシ化合物としては、上記以外のジヒドロキシ化合物を採用することも可能である。
【0030】
ポリカーボネート樹脂(A)において、全ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位100mol%に対する構成単位(1)の含有割合は、特に限定されないが、下限値としては、30mol%以上が好ましく、40mol%以上がより好ましく、50mol%以上がさらに好ましく、55mol%以上が特に好ましく、60mol%以上が最も好ましい。上限値としては、95mol%以下であることがより好ましく、90mol%以下であることがさらに好ましく、85mol%以下であることがいっそう好ましい。これらの場合には、生物起源物質含有率をより高めることができ、耐熱性をより向上させることができる。なお、ポリカーボネート樹脂(A)における構成単位(1)の含有割合は100mol%でもよいが、分子量をより高めるという点及び耐衝撃性をより向上させるという点からは、構成単位(1)以外の構成単位を有することが好ましい。
【0031】
ポリカーボネート樹脂(A)が構成単位(1)の他に構成単位(b)を有する共重合ポリカーボネートの場合には、構成単位(b)の含有割合は、特に限定されないが、下限値としては、5mol%以上が好ましく、10mol%以上がより好ましく、15mol%以上がさらに好ましい。上限値としては、70mol%以下であることが好ましく、60mol%以下であることがより好ましく、50mol%以下であることがさらに好ましく、45mol%以下であることが特に好ましく、40mol%以下であることが最も好ましい。これらの場合には、ポリマー鎖に柔軟な構造が導入されるため、樹脂の靭性をより高めることができ、耐衝撃性をより向上させることができる。
【0032】
また、ポリカーボネート樹脂(A)は、ジヒドロキシ化合物(1)に由来する構成単位(1)及びジヒドロキシ化合物(b)に由来する構成単位(b)以外に、さらに、ジヒドロキシ化合物(1)及びジヒドロキシ化合物(b)以外のジヒドロキシ化合物(以下「ジヒドロキシ化合物(c)」とも記す。)に由来する構成単位(以下「構成単位(c)」とも記す。)を有していてもよい。ただし、本発明が良好な効果を奏するため、全ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位100mol%に対して、構成単位(c)の含有割合は、10mol%以下であることが好ましく、5mol%以下であることより好ましい。
【0033】
ジヒドロキシ化合物(c)は、ポリカーボネート樹脂に要求される特性に応じて適宜選択することができる。
ジヒドロキシ化合物(c)は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
ジヒドロキシ化合物(c)をジヒドロキシ化合物(1)と併用することにより、ポリカーボネート樹脂(A)の柔軟性、機械物性、及び成形性の改善等の効果を得ることが可能である。
【0034】
ポリカーボネート樹脂(A)の原料として用いられるジヒドロキシ化合物は、還元剤、抗酸化剤、脱酸素剤、光安定剤、制酸剤、pH安定剤又は熱安定剤等の安定剤を含んでいてもよい。特に、ジヒドロキシ化合物(1)は、酸性状態において変質しやすい性質を有する。したがって、ポリカーボネート樹脂(A)の合成過程において塩基性安定剤を使用することにより、ジヒドロキシ化合物(1)の変質を抑制することができ、ひいては得られるポリカーボネート樹脂(A)及び本発明の樹脂組成物の品質をより向上させることができる。
【0035】
(カーボネート結合)
ポリカーボネート樹脂(A)は、ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を連結するカーボネート結合を含む。前記カーボネート結合は、炭酸ジエステルに由来する結合である。
【0036】
前記炭酸ジエステルとしては、式(4)で表される化合物(以下「炭酸ジエステル化合物(4)」とも記す。)が挙げられる。
炭酸ジエステル化合物(4)は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて、用いることができる。
【0037】
【化6】
【0038】
式(4)において、A及びAは、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1~18の脂肪族炭化水素基又は置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基であり、AとAとは同一であっても異なっていてもよい。A及びAとしては、置換若しくは無置換の芳香族炭化水素基を採用することが好ましく、無置換の芳香族炭化水素基を採用することがより好ましい。
【0039】
炭酸ジエステル化合物(4)の具体例としては、ジフェニルカーボネート(DPC)及びジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート並びにジ-tert-ブチルカーボネートが挙げられる。炭酸ジエステル化合物(4)としては、ジフェニルカーボネート又はジトリルカーボネートを用いることが好ましく、ジフェニルカーボネートを用いることがより好ましい。なお、炭酸ジエステルは、塩化物イオン等の不純物を含む場合があり、不純物が重縮合反応を阻害したり、得られるポリカーボネート樹脂の色調を悪化させたりする場合があるため、必要に応じて、蒸留などにより精製したものを使用することが好ましい。
【0040】
(ポリカーボネート樹脂(A)の製造方法)
ポリカーボネート樹脂(A)の製造方法は、特に限定されるものではなく、ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを適宜用いて、例えば、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法等の任意の方法を採用すればよい。
【0041】
例えば、ポリカーボネート樹脂(A)は、上述したジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルをエステル交換反応により重縮合させることにより合成できる。より詳細には、重縮合と共に、エステル交換反応において副生するモノヒドロキシ化合物等を系外に除去することによって得ることができる。
【0042】
前記エステル交換反応は、エステル交換反応触媒(以下、エステル交換反応触媒を「重合触媒」と言う。)の存在下で進行する。重合触媒の種類は、エステル交換反応の反応速度及び得られるポリカーボネート樹脂の品質に非常に大きな影響を与え得る。
【0043】
前記重合触媒としては、得られるポリカーボネート樹脂(A)の透明性、色調、耐熱性、耐候性、及び機械的強度を満足させ得るものであれば限定されない。前記重合触媒としては、例えば、長周期型周期表における第I族又は第II族(以下、単に「1族」、「2族」と表記する。)の金属化合物、並びに塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物及びアミン系化合物等の塩基性化合物を使用することができ、中でも1族金属化合物及び/又は2族金属化合物が好ましく、2族金属化合物が好ましい。
【0044】
1族金属化合物及び/又は2族金属化合物の形態としては、通常、水酸化物、又は炭酸塩、カルボン酸塩、フェノール塩といった塩の形態で用いられる。入手のし易さ、取扱いの容易さから、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩が好ましく、色相と重合活性の点からは酢酸塩が好ましい。
【0045】
1族金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸セシウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二リチウム、リン酸水素二セシウム、フェニルリン酸二ナトリウム、フェニルリン酸二カリウム、フェニルリン酸二リチウム、フェニルリン酸二セシウム等が挙げられる。また、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウムのアルコレート、フェノレート等が挙げられる。さらに、ビスフェノールAの二ナトリウム塩、二カリウム塩、二リチウム塩、二セシウム塩等が挙げられる。これらの例示の中でもセシウム化合物、リチウム化合物が好ましい。
【0046】
2族金属化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ストロンチウム等が挙げられる。これらの例示の中でも、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、バリウム化合物が好ましく、マグネシウム化合物及びカルシウム化合物の少なくとも一方がより好ましい。
【0047】
1族金属化合物及び/又は2族金属化合物と共に、補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、1族金属化合物及び/又は2族金属化合物のみを使用することが特に好ましい。
【0048】
前記塩基性ホウ素化合物の具体例としては、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、及びメチルトリフェニルホウ素が挙げられる。また、ブチルトリフェニルホウ素等のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩、及びストロンチウム塩も挙げられる。
【0049】
前記塩基性リン化合物の具体例としては、トリエチルホスフィン、トリ-n-プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ-n-ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、及び四級ホスホニウム塩が挙げられる。
【0050】
前記塩基性アンモニウム化合物の具体例としては、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、及びブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシドが挙げられる。
【0051】
前記アミン系化合物の具体例としては、4-アミノピリジン、2-アミノピリジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、4-ジエチルアミノピリジン、2-ヒドロキシピリジン、2-メトキシピリジン、4-メトキシピリジン、2-ジメチルアミノイミダゾール、2-メトキシイミダゾール、イミダゾール、2-メルカプトイミダゾール、2-メチルイミダゾール、及びアミノキノリンが挙げられる。
【0052】
前記重合触媒としては、第2族金属化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物が好ましい。この場合には、ポリカーボネート樹脂(A)の透明性、色相、耐候性等の種々の物性をより向上させることができる。この効果をさらに高めるという点から、触媒は、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、及びバリウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物からなることがより好ましく、マグネシウム化合物及びカルシウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物からなることがさらに好ましい。
【0053】
前記重合触媒の使用量は、反応に供する全ジヒドロキシ化合物1mol当たり0.1~300μmolであることが好ましく、0.5~100μmolであることがより好ましく、1~50μmolであることがさらに好ましい。
前記重合触媒が1族金属化合物及び2族金属化合物から選ばれる少なくとも1種からなる場合には、前記重合触媒の使用量は、反応に供する全ジヒドロキシ化合物1molに対して、金属換算量として、0.1~300μmolであることが好ましく、0.1~100μmolであることがより好ましく、0.5~50μmolであることがさらに好ましく、1~25μmolであることがいっそう好ましい。
前記重合触媒として、2族金属からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属を含む化合物を用いる場合には、2族金属化合物の使用量は、反応に供する全ジヒドロキシ化合物1molに対して、金属換算量として、0.1~20μmolが好ましく、0.5~10μmolがより好ましく、0.7~3μmolがさらに好ましい。
【0054】
1族金属の中でもナトリウム、カリウム、又はセシウムがポリカーボネート樹脂の色調へ与える悪影響や、鉄がポリカーボネート樹脂の色調へ与える悪影響を考慮すると、ポリカーボネート樹脂(A)中のナトリウム、カリウム、セシウム、及び鉄の合計含有量は、1質量ppm以下であることが好ましい。この場合には、ポリカーボネート樹脂の色調の悪化をよりいっそう防止することができ、ポリカーボネート樹脂の色調をよりいっそう良好なものにすることができる。同様の点から、ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウム、セシウム、及び鉄の合計含有量は、0.5質量ppm以下であることがより好ましい。なお、これらの金属は使用する触媒からのみではなく、原料又は反応装置から混入する場合がある。出所にかかわらず、ポリカーボネート樹脂中のこれらの金属の化合物の合計量は、ナトリウム、カリウム、セシウム、及び鉄の合計の含有量として、上述の範囲にすることが好ましい。
【0055】
重合触媒の使用量を上述の範囲に調整することにより、重合速度を高めることができるため、重合温度を必ずしも高くすることなく所望の分子量のポリカーボネート樹脂(A)を得ることが可能になるため、ポリカーボネート樹脂(A)の色調の悪化を抑制することができる。また、未反応の原料が重合途中で揮発してジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのモル比率が崩れてしまうことを防止することができるため、所望の分子量のポリカーボネート樹脂(A)をより確実に得ることができる。さらに、副反応の併発を抑制することができるため、ポリカーボネート樹脂(A)の色調の悪化又は成形加工時の着色をよりいっそう防止することができる。
【0056】
ポリカーボネート樹脂(A)の製造方法としては、ジヒドロキシ化合物(1)を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとをエステル交換反応により溶融重合させることによって得られるが、原料であるジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルは、エステル交換反応前に均一に混合することが好ましい。
【0057】
混合の温度の下限は、通常80℃以上であり、90℃以上が好ましい。混合の温度の上限は、通常250℃以下であり、200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。混合の温度の範囲は、100~120℃が好ましい。混合の温度が低すぎると溶解速度が遅くなる可能性や、溶解度が不足する可能性があり、しばしば固化等の不具合を招き、混合の温度が高すぎるとジヒドロキシ化合物の熱劣化を招く場合があり、結果的に得られるポリカーボネート樹脂(A)の色相が悪化し、耐光性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0058】
また、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを混合する操作は、得られるポリカーボネート樹脂(A)の色相悪化防止の点から、酸素濃度10体積%以下の雰囲気下で行うことが好ましく、0.0001~10体積%の雰囲気下で行うことがより好ましく、0.0001~5体積%の雰囲気下で行うことがさらに好ましく、0.0001~1体積%の雰囲気下で行うことがいっそう好ましい。
【0059】
ポリカーボネート樹脂(A)は、触媒を用いて、複数の反応器を用いて多段階で溶融重合させて製造することが好ましい。溶融重合を複数の反応器で実施する理由は、溶融重合反応初期においては、反応液中に含まれるモノマーが多いために、必要な重合速度を維持しつつ、モノマーの揮散を抑制させることが重要であり、溶融重合反応後期においては、平衡を重合側にシフトさせるために、副生するモノヒドロキシ化合物を十分留去させることが重要になるためである。このように、異なった重合反応条件を設定するには、直列に配置された複数の反応器を用いることが、生産効率の点から好ましい。前記反応器は、上述の通り、少なくとも2つ以上であればよいが、生産効率などの点から、3つ以上が好ましく、3~5つがより好ましく、4つがさらに好ましい。
【0060】
反応の形式は、バッチ式、連続式、あるいはバッチ式と連続式の組み合わせのいずれの方法でもよい。さらには、留出するモノマーの量を抑制するために、重合反応器に還流冷却器を用いることは有効であり、特に未反応モノマー成分が多い重合初期の反応器でその効果は大きい。還流冷却器に導入される冷媒の温度は使用するモノマーに応じて適宜選択することができるが、通常、還流冷却器に導入される冷媒の温度は該還流冷却器の入口において45~180℃であり、80~150℃が好ましく、100~130℃がより好ましい。還流冷却器に導入される冷媒の温度が高すぎると還流量が減り、その効果が低下し、低すぎると、本来留去すべきモノヒドロキシ化合物の留去効率が低下する傾向にある。冷媒としては、温水、蒸気、熱媒オイル等が用いられ、蒸気、熱媒オイルが好ましい。
【0061】
重合速度を適切に維持し、モノマーの留出を抑制しながら、最終的に得られるポリカーボネート樹脂(A)の色相や熱安定性、耐光性等を損なわないようにするためには、前記重合触媒の種類及び量を適当に選定することが好ましい。ポリカーボネート樹脂(A)の製造にあたっては、前記反応器が2つ以上であれば、その反応器中で、さらに条件の異なる反応段階を複数持たせる、連続的に温度・圧力を変えていく、などしてもよい。
【0062】
ポリカーボネート樹脂(A)の製造において、前記重合触媒は原料調製槽、原料貯槽に添加することもできるし、反応器に直接添加することもできるが、供給の安定性、溶融重合の制御の点からは、反応器に供給される前の原料ラインの途中に触媒供給ラインを設置し、水溶液で供給することが好ましい。
重合条件としては、重合初期においては、相対的に低温、低真空でプレポリマーを得て、重合後期においては相対的に高温、高真空で所定の値まで分子量を上昇させることが好ましいが、得られるポリカーボネート樹脂(A)の色相や耐光性の点から、各分子量段階でのジャケット温度と内温、反応系内の圧力を適切に選択することが好ましい。例えば、重合反応が所定の値に到達する前に温度、圧力のどちらか一方でも早く変化させすぎると、未反応のモノマーが留出し、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのモル比を狂わせ、重合速度の低下を招いたり、所定の分子量や末端基を持つポリマーが得られなかったりして結果的に本発明の目的を達成することができない可能性がある。
【0063】
エステル交換反応の温度は、低すぎると生産性の低下や製品への熱履歴の増大を招き、高すぎるとモノマーの揮散を招くだけでなく、ポリカーボネート樹脂(A)の分解や着色を助長する可能性がある。ポリカーボネート樹脂(A)の製造において、ジヒドロキシ化合物(1)を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを触媒の存在下、エステル交換反応させる方法は、通常、2段階以上の多段工程で実施される。具体的には、第1段目のエステル交換反応温度(以下、「内温」と称する場合がある)は、140℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましく、180℃以上がさらに好ましく、200℃以上がいっそう好ましい。また、第1段目のエステル交換反応温度は、270℃以下が好ましく、240℃以下はより好ましく、230℃以下がさらに好ましく、220℃以下がいっそう好ましい。第1段目のエステル交換反応における滞留時間は通常0.1~10時間であり、0.5~3時間が好ましく、第1段目のエステル交換反応は、発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ留去しながら実施される。第2段目以降はエステル交換反応温度を上げていき、通常210~270℃、好ましくは220~250℃の温度でエステル交換反応を行い、同時に発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ除きながら、反応系の圧力を第1段目の圧力から徐々に下げながら最終的には反応系の圧力が200Pa以下となるように、通常0.1~10時間、好ましくは0.5~6時間、より好ましくは1~3時間重縮合反応が行われる。
【0064】
エステル交換反応温度が過度に高いと、成形品としたときに色相が悪化し、脆性破壊しやすい可能性がある。エステル交換反応温度が過度に低いと、目標とする分子量が上がらず、また、分子量分布が広くなり、衝撃強度が劣る場合がある。また、エステル交換反応の滞留時間が過度に長いと、脆性破壊しやすい場合がある。滞留時間が過度に短いと、目標とする分子量が上がらず衝撃強度が劣る場合がある。
【0065】
副生したモノヒドロキシ化合物は、資源有効活用の点から、必要に応じ精製を行った後、炭酸ジエステルや、各種ビスフェノール化合物の原料として再利用することが好ましい。特にポリカーボネート樹脂(A)の着色や熱劣化あるいはヤケを抑制し、衝撃強度が高い良好なポリカーボネート樹脂(A)を得るには、全反応段階における反応器内温の最高温度が255℃未満であることが好ましく、250℃以下であることがより好ましく、225~245℃であることがさらに好ましい。また、重合反応後半の重合速度の低下を抑止し、熱履歴によるポリカーボネート樹脂(A)の熱劣化を最小限に抑えるために、反応の最終段階でプラグフロー性と界面更新性に優れた横型反応器を使用することが好ましい。
【0066】
また、衝撃強度の高いポリカーボネート樹脂(A)を企図し、分子量の高いポリカーボネート樹脂(A)を得るため、出来るだけ重合温度を高め、重合時間を長くする場合があるが、この場合には、ポリカーボネート樹脂(A)中の異物やヤケが発生し、脆性破壊しやすくなる傾向にある。よって、衝撃強度が高くすることと脆性破壊をしにくくすることの双方を満足させるためには、重合温度を低く抑え、重合時間短縮のための高活性触媒の使用、適正な反応系の圧力設定等の調整を行なうことが好ましい。さらに、反応の途中あるいは反応の最終段階において、フィルター等により反応系で発生した異物やヤケ等を除去することも脆性破壊をしにくくするために好ましい。
【0067】
なお、式(4)で表される炭酸ジエステルとして、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートを用いてポリカーボネート樹脂(A)を製造する場合は、フェノール、置換フェノールが副生し、ポリカーボネート樹脂(A)中に残存することは避けられないが、フェノール、置換フェノールも芳香環を有することから紫外線を吸収し、耐光性の悪化要因になる場合があるだけでなく、成形時の臭気の原因となる場合がある。ポリカーボネート樹脂(A)中には、通常のバッチ反応後は1000質量ppm以上の副生フェノール等の芳香環を有する芳香族モノヒドロキシ化合物が含まれているが、耐光性や臭気低減の点からは、脱揮性能に優れた横型反応器や真空ベント付の押出機を用いて、ポリカーボネート樹脂(A)中の芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量を700質量ppm以下にすることが好ましく、500質量ppm以下にすることがより好ましく、300質量ppm以下にすることがさらに好ましい。ただし、芳香族モノヒドロキシ化合物を工業的に完全に除去することは困難であり、ポリカーボネート樹脂(A)中の芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量の下限は通常1質量ppmである。尚、これら芳香族モノヒドロキシ化合物は、用いる原料により、当然置換基を有していてもよく、例えば、炭素数が5以下であるアルキル基等を有していてもよい。
【0068】
また、1族金属、中でもリチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、特にはナトリウム、カリウム、セシウムは、使用する触媒からのみではなく、原料や反応装置から混入する場合があるが、これらの金属がポリカーボネート樹脂(A)中に多く含まれると色相に悪影響を及ぼす可能性があるため、本発明のポリカーボネート樹脂(A)中のこれらの化合物の合計の含有量は、少ない方が好ましく、ポリカーボネート樹脂(A)中の金属量として、通常1質量ppm以下であり、0.8質量ppm以下が好ましく、0.7質量ppm以下がより好ましい。
【0069】
なお、ポリカーボネート樹脂(A)中の金属量は、従来公知の種々の方法により測定可能であるが、湿式灰化等の方法でポリカーボネート樹脂(A)中の金属を回収した後、原子発光、原子吸光、誘導結合プラズマ(ICP)等の方法を使用して測定することが出来る。
【0070】
(ガラス転移温度)
ポリカーボネート樹脂(A)のガラス転移温度は、特に限定されないが、90℃以上が好ましい。この場合には、前記ポリカーボネート樹脂組成物の耐熱性と耐衝撃性とをバランスよく向上させることができる。同様の点から、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、100℃以上がより好ましく、110℃以上がさらに好ましく、120℃以上がいっそう好ましい。一方、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は250℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましく、170℃以下がさらに好ましい。この場合には、前述の溶融重合によって溶融粘度を小さくすることができ、充分な分子量のポリマーを得ることができる。また、重合温度を高くして溶融粘度を下げることにより、分子量を高くしようとした場合には、構成成分(a)の耐熱性が充分でないため、着色し易くなるおそれがある。分子量の向上と着色の防止をよりバランスよく向上できるという点から、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、165℃以下がより好ましく、160℃以下がさらに好ましく、150℃以下がいっそう好ましい。ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、例えば、樹脂の構成単位の選択や、比率を変更することで調整することができる。
本発明において、ガラス転移温度は、JIS K 7121:1987「プラスチックの転移温度測定方法」及びJIS K 7121:2012「プラスチックの転移温度測定方法(追補1)」の示差走査熱量測定(DSC)法で測定して得られるガラス転移温度である。
【0071】
(屈折率)
ポリカーボネート樹脂(A)の屈折率は、1.480~1.620であることが好ましく、1.490~1.600であることがより好ましい。この範囲にあるとアクリル樹脂(B)と混練して得られる樹脂組成物の透明性がより優れる。ポリカーボネート樹脂(A)の屈折率は、例えば、樹脂の構成単位の選択や、比率を変更することで調整することができる。
本発明において、屈折率は、JIS K 7142:2014「プラスチック-屈折率の求め方」のA法(成形品,キャストシート若しくは押出シート,又はフィルムの屈折率を屈折率計によって測定する方法。)で測定して得られる屈折率である。
【0072】
(分子量)
ポリカーボネート樹脂(A)の分子量は、還元粘度で表すことができ、還元粘度が高いほど分子量が大きいことを示す。還元粘度は、通常0.30dL/g以上であり、0.33dL/g以上が好ましい。この場合には、本発明の樹脂組成物を成形した成形品の機械的強度をより向上させることができる。一方、還元粘度は、通常1.20dL/g以下であり、1.00dL/g以下がより好ましく、0.80dL/g以下がさらに好ましい。これらの場合には、本発明の樹脂組成物の成形時の流動性を向上させることができ、生産性や成形性をより向上させることができる。
ポリカーボネート樹脂(A)の還元粘度は、塩化メチレンを溶媒として樹脂組成物の濃度を0.6g/dLに精密に調整した溶液を用いて、ウベローデ粘度管により温度20.0℃±0.1℃の条件下で測定した値を使用する。還元粘度が大きいほど分子量が大きい。
具体的には、ポリカーボネート樹脂(A)のサンプルを、溶媒として塩化メチレンを用いて溶解し、0.6g/dLの濃度の溶液を調製する。ウベローテ型粘度計(森友理化工業社製)を用いて、温度20.0±0.1℃で測定を行い、溶媒の通過時間tと溶液の通過時間tから次式により相対粘度ηrelを求める。
ηrel=t/t
まあ、相対粘度から次式におり比粘度ηspを求める。
ηsp=(η-η)/η=ηrel-1
次に、比粘度を濃度c(g/dL)で割って、還元粘度ηsp/cを求める。
【0073】
(ポリカーボネート以外の成分)
ポリカーボネート樹脂(A)は、触媒失活剤を含むことが好ましい。前記触媒失活剤としては、酸性物質で、重合触媒の失活機能を有するものであれば特に限定されないが、例えば、リン酸、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、亜リン酸、オクチルスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、ベンゼンスルホン酸テトラメチルホスホニウム塩、ベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、p-トルエンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩のごときホスホニウム塩;デシルスルホン酸テトラメチルアンモニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルアンモニウム塩のごときアンモニウム塩;及びベンゼンスルホン酸メチル、ベンゼンスルホン酸ブチル、p-トルエンスルホン酸メチル、p-トルエンスルホン酸ブチル、ヘキサデシルスルホン酸エチルのごときアルキルエステル等を挙げることができる。
【0074】
前記触媒失活剤は、式(5)で表される部分構造又は式(6)で表される部分構造のいずれかを含むリン系化合物(以下「特定リン系化合物」とも記す。)を含むことが好ましい。前記特定リン系化合物は、重縮合反応が完了した後、即ち、例えば混練工程やペレット化工程等の際に添加することにより後述する重合触媒を失活させ、それ以降に重縮合反応が不要に進行することを抑制できる。その結果、本発明の樹脂組成物を成形する際にポリカーボネート樹脂(A)が加熱されたことによる重縮合の進行を抑制できる。また、重合触媒を失活させることにより、高温下でのポリカーボネート樹脂(A)の着色をよりいっそう抑制することができる。
【0075】
【化7】
【0076】
式(5)で表される部分構造又は式(6)で表される部分構造を含む特定リン系化合物の具体例としては、リン酸、亜リン酸、ホスホン酸、次亜リン酸、ポリリン酸、ホスホン酸エステル、及び酸性リン酸エステルが挙げられる。前記特定リン系化合物のうち、触媒失活と着色抑制の効果の点から、亜リン酸、ホスホン酸、及びホスホン酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、亜リン酸がより好ましい。
前記特定リン系化合物は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて、用いることができる。
【0077】
ポリカーボネート樹脂(A)に含まれる前記特定リン系化合物の含有量は、特に限定されないが、リン原子として0.1~5質量ppmであることが好ましい。この場合には、前記特定リン系化合物による触媒失活や着色抑制の効果を十分に得ることができる。また、この場合には、特に高温・高湿度での耐久試験において、ポリカーボネート樹脂の着色をより一層防止することができる。
【0078】
また、前記特定リン系化合物の含有量を重合触媒の量に応じて調節することにより、触媒失活や着色抑制の効果をより確実に得ることができる。前記特定リン系化合物の含有量は、前記重合触媒の金属原子1molに対して、リン原子の量として0.5~5倍molが好ましく、0.7~4倍molがより好ましく、0.8~3倍molがさらに好ましい。
【0079】
<アクリル樹脂(B)>
アクリル樹脂(B)は、メチルメタクリレート(MMA)の単独重合体(以下「重合体(B2)」とも記す。)であるか、又は、MMA由来の繰返し単位(MMA単位)の含有率が、アクリル樹脂(B)の総質量に対して、95質量%以上100質量%未満であるメチルメタクリレート共重合体(以下「重合体(B1)」とも記す。)を挙げることができる。
【0080】
(他の単量体)
重合体(B1)を構成するためのMMA以外の単量体(以下「他の単量体」とも記す。)は、MMAと共重合可能なものであれば特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸エステル単量体(ただし、メタクリル酸メチルを除く。)、芳香族ビニル化合物、不飽和ニトリル化合物、エチレン性不飽和エーテル化合物、ハロゲン化ビニル化合物、及び脂肪族共役ジエン系化合物が挙げられる。
【0081】
前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(ただし、メタクリル酸メチルを除く。)の具体例は、アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸n-ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸n-アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ナフチル、及び(メタ)アクリル酸フェノキシメチルである。
前記(メタ)アクリル酸エステル単量体(ただし、メタクリル酸メチルを除く。)としては、アルキル基部分の炭素数が1~8個のアクリル酸アルキルが好ましく、アクリル酸メチルがより好ましい。
【0082】
前記芳香族ビニル化合物の具体例は、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、o-エチルスチレン、p-エチルスチレン、o-クロロスチレン、p-クロロスチレン、p-メトキシスチレン、p-アセトキシスチレン、α-ビニルナフタレン、及び2-ビニルフルオレンである。
【0083】
前記不飽和ニトリル化合物の具体例は、アクリロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、α-メトキシアクリロニトリル、メタクリロニトリル、及びシアン化ビニリデンである。
【0084】
前記エチレン性不飽和エーテル化合物の具体例は、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、メチルアリルエーテル、及びエチルアリルエーテルである。
【0085】
前記ハロゲン化ビニル化合物の具体例は、塩化ビニル、塩化ビニリデン、1,2-ジクロロエチレン、臭化ビニル、臭化ビニリデン、及び1,2-ジブロモエチレンである。
【0086】
前記脂肪族共役ジエン系化合物の具体例は、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-ネオペンチル-1,3-ブタジエン、2-クロロ-1,3-ブタジエン、1,2ジクロロ-1,3-ブタジエン、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン、2-ブロモ-1,3-ブタジエン、2-シアノ-1,3-ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、並びに直鎖及び側鎖共役ヘキサジエンである。
【0087】
前記他の単量体は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて、用いることができる。
これらの他の単量体の中でも、(メタ)アクリル樹脂本来の性能を損ないにくく、成形体の耐熱分解性に優れる傾向にあることから、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、及びアクリル酸n―ブチルからなる群から選択される少なくとも1種がより好ましく、アクリル酸メチル又はアクリル酸エチルがさらに好ましい。
【0088】
(質量平均分子量)
アクリル樹脂(B)の質量平均分子量の下限は、25,000以上が好ましく、30,000以上がより好ましく、35,000以上がさらに好ましい。また、アクリル樹脂(B)の質量平均分子量の上限は、400,000以下が好ましく、300,000以下がより好ましく、200,000以下がさらに好ましい。
アクリル樹脂(B)の質量平均分子量が25,000以上であると、樹脂組成物の力学物性に優れる。また、アクリル樹脂(B)の質量平均分子量が400,000以下であると、樹脂組成物の溶融流動性に優れる。
【0089】
なお、アクリル樹脂(B)の質量平均分子量は、標準試料として標準ポリメチルメタクリレートを用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した値である。
【0090】
(アクリル樹脂(B)の製造方法)
アクリル樹脂(B)は、MMAを含む単量体原料(以下「単量体原料(1)」とも記す。)を、公知の重合方法を用いて重合することで得られる。
単量体原料(1)中に含まれるMMAの含有率の下限は、本発明の樹脂組成物及び本発明の樹脂組成物の成形体の耐傷付性及び透明性に優れる点から、単量体原料(1)の総質量100質量%に対して、95質量%以上が好ましく、96質量%以上がより好ましく、99質量%以上であることがさらに好ましい。一方、単量体原料(1)中のMMA単位の含有率の上限は、特に制限されるものではなく、単量体原料(1)の総質量に対して、100質量%であってもよいし、100質量%未満であってもよい。
【0091】
また、アクリル樹脂(B)が重合体(B1)である場合、MMAを95質量%以上100質量%未満及び前記他の単量体を0質量%超5質量%以下含む単量体原料(以下「単量体原料(2)」とも記す。)を、公知の重合方法を用いて重合することで得られる。
【0092】
単量体原料(2)に含まれる前記他の単量体の含有率の上限は、(メタ)アクリル樹脂本来の性能を損ないにくい点から、単量体原料(2)の総質量に対して、5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
前記他の単量体は、(メタ)アクリル樹脂本来の性能を損ないにくく、成形体が耐熱分解性に優れる傾向にあることから、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、及びアクリル酸n―ブチルがより好ましく、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルがさらに好ましい。
単量体の重合方法としては、例えば、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等が挙げられる。これらの重合方法の中でも、後述するアクリル樹脂(B)とアクリル-シリカ複合体(X)との複合化が容易となる点から、塊状重合又は懸濁重合、乳化重合が好ましい。
【0093】
アクリル樹脂(B)の質量平均分子量を調整するために、前記単量体原料を重合する際に、連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤としては、公知のメルカプタン化合物、α-メチルスチレンダイマー、公知のテルピノレン系化合物等が挙げられる。これらの連鎖移動剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0094】
連鎖移動剤の使用量は、前記単量体原料100質量部に対して、0.05質量部以上2質量部以下が好ましく、0.07質量部以上1.5質量部以下がより好ましい。連鎖移動剤の使用量が0.05質量部以上であると、樹脂組成物の溶融流動性に優れる。また、連鎖移動剤の使用量が2質量部以下であると、樹脂組成物及び得られた成形体の力学強度に優れる。
【0095】
<ポリカーボネート樹脂(A)とアクリル樹脂(B)の質量比>
本発明の樹脂組成物に含まれるポリカーボネート樹脂(A)とアクリル樹脂(B)の質量比、すなわち「ポリカーボネート樹脂(A)の総質量:アクリル樹脂(B)の総質量」は、特に限定されないが、ポリカーボネート樹脂(A):アクリル樹脂(B)=90:10~10:90であることが好ましく、80:20~20:80であることがより好ましく、70:30~30:70であることがさらに好ましい。ポリカーボネート樹脂(A)とアクリル樹脂(B)の質量比が上記範囲内であると、透明性により優れた樹脂組成物が得られる。
【0096】
<ポリカーボネート樹脂(A)及びアクリル樹脂(B)以外の成分>
本発明の樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない限り、ポリカーボネート樹脂(A)及びアクリル樹脂(B)以外の成分を含んでいてもよい。
このような成分としては、樹脂組成物の添加剤として通常知られている者であれば特に限定されないが、例えば、熱安定剤、中和剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、潤滑剤、可塑剤、相溶化剤、及び難燃剤等の樹脂添加剤が挙げられる。
【0097】
[樹脂組成物の製造方法]
本発明の樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)とアクリル樹脂(B)を混練することで製造できる。
【0098】
ポリカーボネート樹脂(A)とアクリル樹脂(B)の混練は、混練機の回転軸が回転自在に貫通する軸貫通部と、前記軸貫通部の周囲に穿設された混練材料の流路となる複数の小孔とを有するディスク型セグメントを備える混練機を用いて行われる。
【0099】
ポリカーボネート樹脂(A)とアクリル樹脂(B)の混練時の温度は、特に限定されないが、200~240℃が好ましい。混練時の温度を200℃以上とすることで混練機の設計耐圧を超えることなく樹脂を混練し、樹脂組成物を得ることが可能になる。また、混練時の温度を240℃以下とすることで、混練時の樹脂に大きな圧力損失を与え、樹脂組成物中での樹脂の分散サイズを小さくすることが可能となる。
【0100】
ポリカーボネート樹脂(A)とアクリル樹脂(B)の混練時の圧力損失は、特に限定されないが、1~20MPaが好ましい。混練時の圧力損失を20MPa以下とすることで混練機の設計耐圧を超えることなく樹脂を混練し、樹脂組成物を得ることが可能になる。また、混練時の圧力損失を1MPa以上とすることで、樹脂組成物中での樹脂の分散サイズを小さくすることが可能となる。
【0101】
ポリカーボネート樹脂(A)とアクリル樹脂(B)を混練して本発明の樹脂組成物を製造する際のポリカーボネート樹脂(A)とアクリル樹脂(B)の質量比、すなわち「ポリカーボネート樹脂(A)の総質量:アクリル樹脂(B)の総質量」は、特に限定されないが、ポリカーボネート樹脂(A):アクリル樹脂(B)=90:10~10:90であることが好ましく、80:20~20:80であることがより好ましく、70:30~30:70であることがさらに好ましい。ポリカーボネート樹脂(A)とアクリル樹脂(B)の質量比が上記範囲内であると、透明性により優れた樹脂組成物が得られる。
【0102】
<混練機>
ポリカーボネート樹脂(A)とアクリル樹脂(B)の混練に使用される混練機について説明する。
本実施形態の樹脂組成物を混錬する混練機は、図1に示すように、混練機の回転軸が回転自在に貫通する軸貫通部と、前記軸貫通部の周囲に穿設された混練材料の流路となる複数の小孔とを有するディスク型セグメントを備える。
図1に示すように、ディスク型セグメント22は、ディスク本体221と、混練機の回転軸が回転自在に貫通する軸貫通部222を備えている。
軸貫通部222としては、例えば、ボールベアリングやスリーブベアリング、ローラーベアリングなどのベアリングが挙げられる。
ディスク型セグメント22は、混練機の回転軸の回転に伴って回転することなく、混練押出時において、固定された状態となる。
軸貫通部222の周囲には、混練材料の流路となる複数の小孔221aが形成されている。
本実施形態のディスク型セグメント22は、混練機の回転軸の回転に伴って回転することのない固定式であり、極めて効率的に混練材料が小孔221aを通過する。本発明者は、大きな圧力損失を与え、小孔を通過させることで、伸長流動により樹脂組成物中での各樹脂の分散性が向上するとの知見を得ている。
【0103】
本実施形態の混練機においては、混練機の設計耐圧を超えないよう留意しつつ、その限度で所望の分散に必要な圧力損失を確保することが好ましい。
したがって、小孔221aの径、軸方向の厚み、数、小孔221aの樹脂流れ入口側の開口面積の総計、位置、押出速度などについても、混練機の設計耐圧、分散性を考慮して設計することが望ましい。例えば、小孔の厚みを持たせることで圧力損失を上げることはできるが、小孔内部は純粋なせん断作用のため、せん断発熱をさけるためには極力薄くすることが望ましい。また、小孔の数は多い方がナノ粒子の分配作用が期待できる。小孔の径について、通常、樹脂添加剤のナノ粒子のサイズを考慮して決定することになる。このような点から好ましい範囲を一例として以下に述べる。すなわち、例えば、小孔221aの径を0.5~1.5mmとし、軸方向の小孔221aの厚みを軸貫通部222の内径(D)に対する厚み(L)の比(L/D)で1/12~1/4とし、小孔221aの数を2~64個とすることができる。また、小孔221aの樹脂流れ入口側の開口面積の総計は、例えば、混練機のバレルの内断面積の4~20%とすることができ、20%以内とすることが好ましく、10%以内とすることがより好ましい。
【0104】
なお、本実施形態の混練機では、図1に示すように、軸貫通部222の同心円状に一列に、30個の小孔221aが配置されている。これと異なり、小孔を2列以上配置してもよい。また、2つの軸貫通部222の間には小孔を穿設していないが、これに限定されず、複数の軸貫通部222の間に小孔を穿設してもよい。
【実施例0105】
以下、実験例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明の範囲は以下の実験例によって制限されるものではない。
以下の実験例において「部」は「質量部」を表す。
実験例1~4は実施例であり、実験例5は比較例である。
【0106】
[評価方法]
実験例における評価は以下の方法により実施した。
【0107】
(ヘイズ評価)
実験例1~5で得られた2mm厚の板状成形体の透明性の指標として、ヘーズメーター(日本電色工業社製、装置名:NDH2020)を用いて、JIS K 7316:2013に準拠して、前記板状成形体を試験片としてヘイズ(単位:%)を室温23℃で測定した。
室温23℃のヘイズ値は、以下の判断基準に従い三段階評価を行った。
A:ヘイズが0.0以上20%未満
B:ヘイズが20%以上50%未満
C:ヘイズが50%以上
【0108】
[ポリカーボネート樹脂の製造例]
[使用原料]
以下の製造例で用いた化合物の略号、及び製造元は次の通りである。
<ジヒドロキシ化合物>
ISB:イソソルビド[ロケットフルーレ社製)
CHDM:1,4-シクロヘキサンジメタノール(SKChemical社製)
<炭酸ジエステル>
DPC:ジフェニルカーボネート(三菱ケミカル社製)
<触媒失活剤>
亜リン酸(太平化学産業社製;分子量82.0)
<熱安定剤(酸化防止剤)>
Irganox1010:ペンタエリスリトール-テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](BASF社製)
AS2112:トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト(ADEKA社製;分子量646.9)
<離型剤>
E-275:エチレングリコールジステアレート(日油社製)
【0109】
[製造例1 ポリカーボネート樹脂(A-1)]
縦型撹拌反応器3器、横型撹拌反応器1器、及び二軸押出機からなる連続重合設備を用いて、ポリカーボネート樹脂の重合を行った。具体的には、まず、ISB、CHDM、及びDPCをそれぞれタンクで溶融させ、ISBを35.2kg/hr、CHDMを14.9kg/hr、DPCを74.5kg/hr(モル比でISB/CHDM/DPC=0.700/0.300/1.010)の流量で第1縦型撹拌反応器に連続的に供給した。同時に、触媒としての酢酸カルシウム一水和物の添加量が全ジヒドロキシ化合物1molに対して1.5μmolとなるように酢酸カルシウム一水和物の水溶液を第1縦型撹拌反応器に供給した。各反応器の反応温度、内圧、滞留時間はそれぞれ、第1縦型撹拌反応器:190℃、25kPa、90分、第2縦型撹拌反応器:195℃、10kPa、45分、第3縦型撹拌反応器:210℃、3kPa、45分、第4横型撹拌反応器:225℃、0.5kPa、90分とした。得られるポリカーボネート樹脂の還元粘度が0.41dL/g~0.43dL/gとなるように、第4横型撹拌反応器の内圧を微調整しながら運転を行った。
【0110】
第4横型撹拌反応器より60kg/hrの量でポリカーボネート樹脂を抜き出し、続いて樹脂を溶融状態のままベント式二軸押出機[日本製鋼所製社製,TEX30α,L/D:42.0、L(mm):スクリュの長さ、D(mm):スクリュの直径]に供給した。
押出機を通過したポリカーボネート樹脂を、引き続き溶融状態のまま、目開き10μmのキャンドル型フィルター(SUS316製)に通して、異物を濾過した。その後、ダイスからストランド状にポリカーボネート樹脂を排出させ、水冷、固化させた後、回転式カッターでペレット化し、ISB/CHDMのモル比が70/30mol%のポリカーボネート樹脂を得た。表1において、得られたポリカーボネート樹脂を「(A-1)」と表記した。
【0111】
前記押出機は3つの真空ベント口を有しており、ここで樹脂中の残存低分子成分を脱気除去した。第2ベントの手前で樹脂に対して2000質量ppmの水を添加し、注水脱気を行った。第3ベントの手前でIrganox1010、AS2112、及びE-275をポリカーボネート樹脂100質量部に対して、それぞれ0.1質量部、0.05質量部、及び0.3質量部を添加した。以上により、ISB/CHDM共重合体ポリカーボネート樹脂ペレットを得た。前記ポリカーボネート樹脂に対して、触媒失活剤として0.65質量ppmの亜リン酸(リン原子の量として0.24質量ppm)を添加した。なお、亜リン酸は次のようにして添加した。製造例1において得られたポリカーボネート樹脂のペレットに、亜リン酸のエタノール溶液をまぶして混合したマスターバッチを調製し、押出機の第1ベント口の手前(押出機の樹脂供給口側)から、押出機中のポリカーボネート樹脂100質量部に対して、マスターバッチを1質量部となるように供給した。
【0112】
[アクリル樹脂]
アクリル樹脂(B)としてアクリペットVH001(三菱ケミカル社製、以下B―1)を使用した。
【0113】
[実験例1]
製造例1で得られたポリカーボネート樹脂(A-1)のペレット70部、アクリル樹脂(B-1)のペレット30部を、油圧シリンダ出口に図に示したディスク型セグメント22を設置し、220℃に加温したあつかんサーボユニット(TAIYO製)で溶融させ、圧力損失が4.0MPaの条件で2mm厚の板状の金型に吐出した。得られた伸長流動によって混練された樹脂組成物試験片のヘイズを測定した。
結果を表1に示す。なお、ヘイズの評価はAであった。
【0114】
[実験例2~4]
表1に記載した条件に変更する以外は実験例1と同様に樹脂組成物試験片を取得し、ヘイズを測定した。
結果を表1に示す。なお、ヘイズの評価は、実験例2及び実験例4がBであり、実験例3がAであった。
【0115】
[実験例5]
製造例1で得られたポリカーボネート樹脂(A-1)のペレット70部、アクリル樹脂(B-1)のペレット30部を軸中にニーディングディスクを設置した35mm二軸押出機(東芝機械社製TEM-35B)を用いてシリンダ温度220℃の条件下で溶融混練し、ペレット状の樹脂組成物を得た。得られたペレット状の樹脂組成物を100トン射出成形機(東芝機械社製IS-100)で成形し、厚さ2mmの樹脂組成物試験片を取得し、ヘイズを測定した。
結果を表1に示す。なお、ヘイズの評価は、Cであった。
【0116】
【表1】
【0117】
比較例である実験例5の結果を見ると、ニーディングディスクを設置した二軸押出機で混練して得られた成形板中では樹脂の分散サイズが大きくなり、試験片の透明性が伸長流動で樹脂が分散している実施例である実験例1~4と比較すると、ヘイズが指標である成形片の透明性に劣ることが見て取れる。
【符号の説明】
【0118】
22 ディスク型セグメント
221 ディスク本体
221a 小孔
222 軸貫通部
図1