(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006076
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】移動機構、移動体、移動体の移動方法、及び病原体の抑制方法
(51)【国際特許分類】
A61L 2/10 20060101AFI20240110BHJP
G05D 1/43 20240101ALI20240110BHJP
A61L 2/23 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
A61L2/10
G05D1/02 H
A61L2/23
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106632
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【弁理士】
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【弁理士】
【氏名又は名称】貴志 浩充
(74)【代理人】
【識別番号】100202326
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 大佑
(72)【発明者】
【氏名】古川 知行
【テーマコード(参考)】
4C058
5H301
【Fターム(参考)】
4C058AA30
4C058BB06
4C058BB07
4C058BB09
4C058JJ03
4C058JJ26
4C058KK02
5H301AA02
5H301BB14
5H301CC03
5H301CC06
5H301DD15
5H301GG07
5H301GG09
(57)【要約】
【課題】衛生管理を効果的に行うことが可能な移動機構を提供する。
【解決手段】本開示に係る移動機構10は、移動体1に用いられる移動機構10であって、走行面に接触して回転することで移動体1を移動させる回転体11と、回転体11における病原体の活動要素を抑制するために光を回転体11に照射する照射部13と、を備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に用いられる移動機構であって、
走行面に接触して回転することで前記移動体を移動させる回転体と、
前記回転体における病原体の活動要素を抑制するために光を前記回転体に照射する照射部と、
を備える、
移動機構。
【請求項2】
請求項1に記載の移動機構であって、
前記回転体は、抗菌剤及び抗ウイルス剤の少なくとも一方を含む添加剤を含有する樹脂材料に基づいて形成されている、
移動機構。
【請求項3】
請求項2に記載の移動機構であって、
前記回転体は、前記添加剤を含有する前記樹脂材料により形成され、径方向の最も外側に位置する樹脂層を有する、
移動機構。
【請求項4】
請求項3記載の移動機構であって、
前記樹脂層の前記径方向における厚さは、前記回転体の摩耗限界に基づいて定められている、
移動機構。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれか1項に記載の移動機構であって、
前記添加剤は、光触媒であり、
前記照射部は、前記光触媒による前記病原体の増殖抑制機能を誘起する前記光を前記回転体に照射する、
移動機構。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の移動機構であって、
前記照射部は、前記走行面に前記光を照射する、
移動機構。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の移動機構であって、
前記照射部は、前記病原体の生体活動を抑制する紫外光を前記光として照射する、
移動機構。
【請求項8】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の移動機構であって、
前記回転体の外形に沿って配置されているカバー部材をさらに備え、
前記照射部は、前記カバー部材において前記回転体と対向する面に取り付けられている、
移動機構。
【請求項9】
請求項8に記載の移動機構であって、
前記回転体は、球状に形成されており、
前記カバー部材は、前記回転体において前記走行面と反対側に位置する半球部分を覆い、
前記照射部は、前記半球部分の全体に光を照射する、
移動機構。
【請求項10】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の移動機構を備える移動体。
【請求項11】
請求項10に記載の移動体であって、
移動型ロボットとして構成される、
移動体。
【請求項12】
請求項10に記載の移動体の移動方法であって、
前記照射部より光を照射することで前記回転体における前記病原体の活動要素を抑制する、
移動体の移動方法。
【請求項13】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の移動機構に付着した前記病原体に対し、前記照射部より光を照射することで前記回転体における前記病原体の活動要素を抑制する、
病原体の抑制方法。
【請求項14】
請求項10に記載の移動体が備える移動機構に付着した前記病原体に対し、前記照射部より光を照射することで前記回転体における前記病原体の活動要素を抑制する、
病原体の抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、移動機構、移動体、移動体の移動方法、及び病原体の抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、移動体において除菌などの衛生管理を目的とした技術が知られている。例えば、特許文献1には、紫外光により走行面を除菌する機能を備えた走行台車において、殺菌作用を有する紫外光を適切に照射する走行台車が開示されている。
【0003】
一方で、車輪などを含む回転体を駆動することで自由自在に移動を可能にする移動型ロボットとしての移動体に関する技術が広く普及している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような移動体では、様々な場所を移動することが想定される。このとき、回転体を含む移動体の移動機構は、汚染された走行面上に付着しているウイルス及び菌などの病原体を、汚染されていないクリーンな他の走行面に回転体を介して拡散してしまう可能性があった。移動機構及び移動体に対して、このような拡散を抑制し衛生管理を効果的に行うことが要求される。
【0006】
本開示は、衛生管理を効果的に行うことが可能な移動機構、移動体、移動体の移動方法、及び病原体の抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、
(1)
移動体に用いられる移動機構であって、
走行面に接触して回転することで前記移動体を移動させる回転体と、
前記回転体における病原体の活動要素を抑制するために光を前記回転体に照射する照射部と、
を備える、
移動機構、
である。
【0008】
(2)
上記(1)に記載の移動機構では、
前記回転体は、抗菌剤及び抗ウイルス剤の少なくとも一方を含む添加剤を含有する樹脂材料に基づいて形成されていてもよい。
【0009】
(3)
上記(2)に記載の移動機構では、
前記回転体は、前記添加剤を含有する前記樹脂材料により形成され、径方向の最も外側に位置する樹脂層を有してもよい。
【0010】
(4)
上記(3)に記載の移動機構では、
前記樹脂層の前記径方向における厚さは、前記回転体の摩耗限界に基づいて定められていてもよい。
【0011】
(5)
上記(2)乃至(4)のいずれか1つに記載の移動機構では、
前記添加剤は、光触媒であり、
前記照射部は、前記光触媒による前記病原体の増殖抑制機能を誘起する前記光を前記回転体に照射してもよい。
【0012】
(6)
上記(1)乃至(5)のいずれか1つに記載の移動機構では、
前記照射部は、前記走行面に前記光を照射してもよい。
【0013】
(7)
上記(1)乃至(6)のいずれか1つに記載の移動機構では、
前記照射部は、前記病原体の生体活動を抑制する紫外光を前記光として照射してもよい。
【0014】
(8)
上記(1)乃至(7)のいずれか1つに記載の移動機構は、
前記回転体の外形に沿って配置されているカバー部材をさらに備え、
前記照射部は、前記カバー部材において前記回転体と対向する面に取り付けられていてもよい。
【0015】
(9)
上記(8)に記載の移動機構では、
前記回転体は、球状に形成されており、
前記カバー部材は、前記回転体において前記走行面と反対側に位置する半球部分を覆い、
前記照射部は、前記半球部分の全体に光を照射してもよい。
【0016】
本開示は、
(10)
上記(1)乃至(9)のいずれか1つに記載の移動機構を備える移動体、
である。
【0017】
(11)
上記(10)に記載の移動体は、
移動型ロボットとして構成されてもよい。
【0018】
本開示は、
(12)
上記(10)又は(11)に記載の移動体の移動方法であって、
前記照射部より光を照射することで前記回転体における前記病原体の活動要素を抑制する、
移動体の移動方法、
である。
【0019】
本開示は、
(13)
上記(1)乃至(9)のいずれか1つに記載の移動機構、又は上記(10)若しくは(11)に記載の移動体が備える移動機構に付着した前記病原体に対し、前記照射部より光を照射することで前記回転体における前記病原体の活動要素を抑制する、
病原体の抑制方法、
である。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、衛生管理を効果的に行うことが可能な移動機構、移動体、移動体の移動方法、及び病原体の抑制方法を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本開示の一実施形態に係る移動体を示す模式図である。
【
図2】
図1の移動体の底面を斜め下方から視たときの模式図である。
【
図3】
図1の移動体の構成を示す機能ブロック図である。
【
図5】
図4のV-V矢線に沿った断面を示す模式図である。
【
図6】
図1の移動体が移動するときの様子を示す模式図である。
【
図7】
図1の移動体の移動方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら本開示の一実施形態について主に説明する。
【0023】
図1は、本開示の一実施形態に係る移動体1を示す模式図である。
図2は、
図1の移動体1の底面を斜め下方から視たときの模式図である。
図1及び
図2を参照しながら、一実施形態に係る移動体1の構成の一例について主に説明する。
【0024】
本開示の一実施形態に係る移動体1は、例えば任意の移動型ロボットとして構成される。移動体1は、その底面に移動機構10を有する。移動体1は、移動機構10が動作することで移動を可能にする。より具体的には、移動機構10は、移動体1の走行面に接触して回転することで移動体1を移動させる回転体11を有する。移動体1は、移動機構10をその底面に複数有し、複数の回転体11が走行面に接触した状態でそれらの回転動作を制御しながら自由自在に移動する。
【0025】
移動体1は、様々な場所を移動する。例えば、移動体1は、一の部屋から他の部屋に移動する。移動体1は、一の病室から他の病室に移動する。移動体1は、部屋と廊下との間を移動する。移動体1は、広い室内などを移動する。移動体1は、屋内と屋外との間を移動する。
【0026】
移動体1は、任意の制御装置に依存せずに、自律的に移動可能である。本開示において、「制御装置」は、例えば人間が移動体1の移動に関する動作を制御するために操作するコントローラ及び無線通信を介したネットワーク上で移動体1と通信可能に接続されているサーバなどを含む。例えば、移動体1は、任意のセンサなどで移動先に存在する障害物などの物体を識別したり、移動体1から当該物体までの距離を計測したりして自律的に移動する。例えば、移動体1は、カメラなどの撮像装置をセンサとして用いて、目的とする場所までの移動中の走行状況を確認しながら当該場所まで自律的に移動する。
【0027】
これに限定されず、移動体1は、移動ルート、移動姿勢、及び移動速度などを含む移動に関する動作を制御するために無線通信を利用してもよい。移動体1は、人間が搭乗して当該人間による操作を受けるのではなく、無線通信を介して任意の制御装置と協働することによって無人のままで移動可能であってもよい。移動体1は、人間が搭乗可能に構成されてもよく、人間が搭乗した状態であっても当該人間による操作を受けることなく、無線通信を介して任意の制御装置と協働することによって移動可能であってもよい。移動体1は、人間が搭乗した状態で当該人間による操作を受けることで移動可能であってもよい。
【0028】
移動体1は、移動用の回転体11において病原体の活動要素を抑制する機能を移動機構10に設けて、回転体11表面の病原体の活動要素を抑制する。本開示において、「病原体」は、例えばウイルス、細菌、及びカビなどの真菌などを含む。「活動要素」は、例えば病原体の生体活動、病原体の数、及び病原体の増殖などを含む。「活動要素を抑制する」とは、例えば病原体のうち細菌及び真菌を含む菌の生体活動を抑制する殺菌、菌の数を抑制する除菌及び滅菌、並びに菌の増殖を抑制する抗菌などを意味する。「活動要素を抑制する」とは、菌に限定せずにウイルスに対しても同様に発揮される、殺菌、除菌、滅菌、及び抗菌と同等の機能も意味する。
【0029】
図3は、
図1の移動体1の構成を示す機能ブロック図である。移動体1は、回転体11を含む移動機構10に加えて、通信部20と、取得部30と、記憶部40と、制御部50と、を有する。移動機構10は、回転体11に加えて、駆動部12及び照射部13を有する。
【0030】
回転体11は、走行面に接触しながら所定の方向に回転することで移動体1に推進力を与える任意の形成物を含む。回転体11は、
図2に示すとおり、例えば球状に形成されている。すなわち、回転体11は、例えば球体として形成されている。回転体11は、所定の回転軸まわりに所定の回転数で回転する。本開示において、「所定の回転数」は、例えば移動機構10の性能として出力可能な最高値からゼロまでの範囲内に含まれる任意の値をとり得る。回転体11の回転軸は、一方向に固定されていてもよいし、移動の自由度を向上させるために任意の方向に可変であってもよい。
図2における複数の回転体11は、互いに同一の回転軸及び回転数で回転することも可能であるし、回転軸及び回転数の少なくとも一方が互いに異なるように回転することも可能である。
【0031】
駆動部12は、回転体11を駆動する機構を含む。駆動部12は、例えばモータなどを含む。駆動部12は、制御部50から出力される制御信号に基づいて、駆動部12に取り付けられている回転体11を回転させる。駆動部12は、所定の回転軸まわりに所定の回転数で回転体11を回転させる。例えば、複数の駆動部12は、互いに同一の回転軸及び回転数で複数の回転体11をそれぞれ回転させることも可能であるし、回転軸及び回転数の少なくとも一方が互いに異なるように複数の回転体11をそれぞれ回転させることも可能である。
【0032】
照射部13は、LED(Light-Emitting Diode)光源及びLD(Laser Diode)光源などの任意の光源を含む。照射部13は、回転体11における病原体の活動要素を抑制するために光を回転体11に照射する。照射部13は、回転体11における病原体の活動要素を抑制することが可能な任意の波長の光を回転体11に照射する。例えば、照射部13は、紫外線領域に含まれる波長の光を回転体11に照射する紫外線光源を含む。
【0033】
通信部20は、移動体1と制御装置との間での通信を可能にする通信モジュールを含む。通信部20は、アンテナを含む。通信部20は、アンテナを用いた無線通信において、制御装置から信号波を受信する。本開示において、「信号波」は、例えば電波、可視光、赤外線、及び紫外線などを含む。通信部20は、移動体1の移動ルート、移動姿勢、及び移動速度などを含む移動に関する動作を移動体1が制御するための制御情報を無線通信により制御装置から受信する。その他にも、通信部20は、移動体1の動作に用いられる任意の情報も受信可能に構成される。
【0034】
取得部30は、任意の衛星測位システムに対応する1つ以上の受信機を含む。例えば、取得部30は、GPS(Global Positioning System)受信機を含む。取得部30は、移動体1の位置の測定値を位置情報として取得する。位置情報は、住所、緯度、経度、及び高度などを含む。取得部30は、移動体1の位置情報を常時取得してもよいし、定期的又は非定期的に取得してもよい。
【0035】
その他にも、取得部30は、カメラなどの撮像装置をセンサとして1つ以上含んでもよい。取得部30は、このような撮像装置を利用して移動体1の自律的な移動を可能にしてもよいし、必要に応じて任意の画像データなどを取得してもよい。取得部30は、任意の他のセンサをさらに有してもよい。取得部30は、当該センサを利用して任意のデータ及び情報などを取得してもよい。例えば、取得部30は、移動体1の走行面の衛生状態を情報として取得可能な任意のセンサをさらに含んでもよい。取得部30は、当該センサに基づいて移動体1の走行面の衛生状態を情報として取得してもよい。
【0036】
記憶部40は、例えば半導体メモリ、磁気メモリ、又は光メモリなどであるが、これらに限定されない。記憶部40は、主記憶装置、補助記憶装置、又はキャッシュメモリとして機能する。記憶部40は、移動体1の動作に用いられる任意の情報を記憶する。記憶部40は、システムプログラム、アプリケーションプログラム、通信部20により受信又は送信される各種情報、及び取得部30により取得される各種情報などを記憶する。記憶部40に記憶された情報は、通信部20を介して無線通信により受信される情報で更新可能である。
【0037】
制御部50は、1つ以上のプロセッサを含む。本開示において、「プロセッサ」は、例えば汎用のプロセッサ及び特定の処理に特化した専用のプロセッサなどを含む。制御部50は、移動体1の各構成部と通信可能に接続され、移動体1全体の動作を制御する。制御部50は、例えば移動機構10の駆動部12を制御するためのモータ出力制御モジュールとして機能する。制御部50は、通信部20を介して取得された制御情報に基づいて、駆動部12に制御信号を出力し、駆動部12の動作を制御する。制御部50は、複数の移動機構10に対し1つ配置されている。
【0038】
図4は、
図3の移動機構10の一部を示す模式図である。移動機構10は、回転体11、駆動部12、及び照射部13に加えて、回転体11の外形に沿って配置されているカバー部材14をさらに有する。例えば、回転体11が球体として形成されているとき、カバー部材14は、回転体11において走行面と反対側に位置する半球部分を覆う。すなわち、カバー部材14は、回転体11の上半球部分を覆う。
【0039】
カバー部材14は、例えば螺合、嵌合、及び係合などにより移動体1の本体部に対し着脱可能となるように構成されてもよいし、一体成形及び接着などにより移動体1の本体部に対し着脱不可能となるように構成されてもよい。
【0040】
図5は、
図4のV-V矢線に沿った断面を示す模式図である。
【0041】
回転体11は、例えば樹脂材料に基づいて形成されている。本開示において、「樹脂材料」は、例えばエラストマー、ゴム、ナイロン、及びウレタンなどを含む。回転体11は、その表層11aから内部の中心まで略均一に樹脂材料で形成されている。回転体11では、このような樹脂材料は、抗菌剤及び抗ウイルス剤の少なくとも一方を含む添加剤を含有する。本開示において、「添加剤」は、例えば光触媒である。
【0042】
回転体11は、抗菌剤及び抗ウイルス剤の少なくとも一方を含む添加剤を含有した樹脂層を有してもよい。例えば、回転体11は、当該樹脂層を表層11aにおいて有する。当該樹脂層は、添加剤を含有する樹脂材料により形成され、回転体11の径方向の最も外側に位置する。
【0043】
当該樹脂層の径方向における厚さは、回転体11の摩耗限界に基づいて定められている。例えば、当該樹脂層の径方向における厚さは、所定の限界に達したら部品として回転体11を交換する必要がある摩耗限界に対応する回転体11の半径と、新品で未使用の状態にある回転体11の半径と、の間の差分であってもよい。一例として、回転体11は、径方向の外側から内側に向けて1mm以上の厚さを有する当該樹脂層を表層11aにおいて有してもよい。
【0044】
照射部13は、カバー部材14において回転体11と対向する面に取り付けられている。例えば、照射部13は、カバー部材14の内面において回転体11の表面と対向するように複数配置されている。照射部13は、例えばカバー部材14に対して着脱可能となるようにカバー部材14の内面に取り付けられている。照射部13は、例えば螺合、嵌合、及び係合などによりカバー部材14の内面に対し着脱可能となるように構成される。
【0045】
表層11aに位置する樹脂層に含有される添加剤は、光触媒である。照射部13は、例えば光触媒による病原体の増殖抑制機能を誘起する光を回転体11に照射する。すなわち、照射部13は、回転体11において抗菌及び抗ウイルス機能を誘起するために光を回転体11に照射する。照射部13は、回転体11において走行面と反対側に位置する半球部分の全体に光を照射する。これにより、回転体11において走行面と反対側に位置する半球部分において、抗菌及び抗ウイルス機能が誘起される。
【0046】
図6は、
図1の移動体1が移動するときの様子を示す模式図である。
図6は、移動体1の底面に配置されている移動機構10の構成の一部のみを模式的に示したものである。
【0047】
例えば、移動体1が床を走行面として当該床の上を移動するとき、病原体が表面に付着した汚染された床から病原体が表面に付着していないクリーンな床に移動体1が移動することも想定される。移動機構10の回転体11は、汚染された床に接触して当該床の表面で回転すると、汚染された床に付着した病原体をその回転に巻き込む。回転体11は、その表面に病原体が付着した状態で回転方向に沿って回転する。
【0048】
汚染された床に付着していた病原体は、回転体11の回転に巻き込まれて、回転体11の表面に付着しながらカバー部材14の内面に沿って移動する。このとき、カバー部材14の内面に沿って配置されている移動機構10の照射部13から照射される光が、回転体11における病原体の活動要素を抑制する。例えば、当該光は、回転体11の表層11aに位置する樹脂層に含有されている光触媒に対してその抗菌及び抗ウイルス機能を誘起する。その結果、当該光は、回転体11の表面に付着した病原体の増殖を抑制する。
【0049】
図7は、
図1の移動体1の移動方法を示すフローチャートである。
図7に示すフローチャートは、移動機構10に付着した病原体の抑制方法にも対応する。
図7を参照しながら、移動体1が移動を開始する第1地点から目的地となる第2地点に移動するまでの間に移動体1の制御部50が実行する処理の流れについて主に説明する。
【0050】
ステップS100では、制御部50は、目的地となる第2地点に向けて移動体1を第1地点から移動させる。より具体的には、制御部50は、移動機構10の駆動部12を制御して駆動部12により回転体11を駆動する。制御部50は、回転体11を回転させる。
【0051】
ステップS101では、制御部50は、移動体1が走行している走行面の衛生状態を、取得部30を用いて取得する。
【0052】
ステップS102では、制御部50は、ステップS101において取得された走行面の衛生状態が良好であるか否かを判定する。制御部50は、走行面の衛生状態が良好であると判定すると、ステップS103の処理を実行する。制御部50は、走行面の衛生状態が良好でないと判定すると、ステップS104の処理を実行する。
【0053】
ステップS103では、制御部50は、ステップS102において走行面の衛生状態が良好であると判定すると、目的地となる第2地点に到着したか否かを判定する。制御部50は、第2地点に到着したと判定すると、処理を終了する。制御部50は、第2地点に到着していないと判定すると、ステップS101の処理を再度実行する。
【0054】
ステップS104では、制御部50は、ステップS102において走行面の衛生状態が良好でないと判定すると、照射部13より光を照射する。これにより、制御部50は、移動機構10の回転体11における病原体の活動要素を抑制する。
【0055】
ステップS105では、制御部50は、移動体1が走行している走行面の衛生状態を、取得部30を用いて取得する。
【0056】
ステップS106では、制御部50は、ステップS105において取得された走行面の衛生状態が良好であるか否かを判定する。制御部50は、走行面の衛生状態が良好であると判定すると、ステップS107の処理を実行する。制御部50は、走行面の衛生状態が良好でないと判定すると、ステップS108の処理を実行する。
【0057】
例えば、制御部50は、取得部30に含まれるカメラなどの撮像装置を用いて撮像した走行面の画像を解析することで、走行面上の病原体の量を概算する。制御部50は、概算した病原体の量が所定の閾値以下であると、走行面の衛生状態が良好であると判定する。制御部50は、概算した病原体の量が所定の閾値を超えていると、走行面の衛生状態が良好でないと判定する。制御部50は、このような画像解析によって病原体の量を概算してもよいし、病原体をより直接的に検出できる任意の他のセンサを用いて病原体の量を概算してもよい。
【0058】
ステップS107では、制御部50は、ステップS106において走行面の衛生状態が良好であると判定すると、光の照射を停止するように照射部13を制御する。
【0059】
ステップS108では、制御部50は、ステップS106において走行面の衛生状態が良好でないと判定すると、光の照射を維持するように照射部13を制御する。
【0060】
ステップS109では、制御部50は、目的地となる第2地点に到着したか否かを判定する。制御部50は、第2地点に到着したと判定すると、処理を終了する。制御部50は、第2地点に到着していないと判定すると、ステップS105の処理を再度実行する。
【0061】
以下では、移動機構10に主に着目してその効果を説明するが、同様の効果が、移動体1、移動体1の移動方法、及び病原体の抑制方法に対しても当てはまる。
【0062】
以上のような一実施形態によれば、衛生管理を効果的に行うことが可能である。移動機構10は、回転体11における病原体の活動要素を抑制するために光を回転体11に照射する照射部13を有することで、走行面における病原体の拡散を抑制することができる。移動機構10は、移動体1が汚染された走行面上を移動して回転体11の表面に病原体が付着したとしても、回転体11の回転に伴って、その付着面を照射部13に対向させることができる。移動機構10は、当該付着面に照射部13から光を照射することで病原体の活動要素を抑制可能である。したがって、移動機構10は、回転体11がさらに回転して汚染されていないクリーンな他の走行面に接触する段階では、回転体11の表面に付着した病原体の活動要素を抑制している。結果として、回転体11からクリーンな他の走行面への病原体の付着が抑制される。回転体11を介した病原体の拡散が抑制される。
【0063】
例えば、移動体1は、別の部屋へと移動するときに、床面に存在する病原体を回転体11に付着させ移動先の部屋に持ち込むようなことを抑制可能である。移動体1は、例えば医療施設、介護施設、及び商業施設など、同一フロア内を移動体1が移動するような場面で上述した効果をより有効的に発揮可能である。
【0064】
移動機構10は、照射部13が床などの走行面ではなく回転体11に光を照射することで、病原体の活動要素を抑制するための高エネルギーの光を走行面に直接照射する必要がない。したがって、移動機構10は、照射部13からの光の照射に基づく走行面への直接的なダメージを抑制可能である。
【0065】
移動機構10は、回転体11が、抗菌剤及び抗ウイルス剤の少なくとも一方を含む添加剤を含有する樹脂材料に基づいて形成されていることで、病原体の活動要素のうち、病原体の増殖を抑制することができる。したがって、移動機構10は、回転体11が回転して汚染されていないクリーンな他の走行面に接触する段階では、回転体11に付着した病原体の増殖を抑制している。結果として、回転体11からクリーンな他の走行面への病原体の付着が抑制される。回転体11を介した病原体の拡散が抑制される。
【0066】
移動機構10は、添加剤を含有する樹脂材料により形成され、径方向の最も外側に位置する樹脂層を回転体11が有することで、回転体11の表面に付着した病原体の活動要素をより効果的に抑制可能である。加えて、移動機構10は、回転体11の表層11aに樹脂層が形成されていることで、表層11aが摩耗して樹脂層の厚さが減少したとしても内側から継続的に添加剤としての光触媒を露出させることができる。これにより、移動機構10は、回転体11が摩耗限界に達するまでの期間の中で、比較的長い期間にわたり病原体の活動要素の抑制効果を維持可能である。したがって、移動機構10は、衛生管理をより効果的に行うことが可能である。
【0067】
移動機構10は、樹脂層の径方向における厚さが回転体11の摩耗限界に基づいて定められていることで、回転体11が摩耗限界に達するまでの全期間にわたり病原体の活動要素の抑制効果を維持可能である。したがって、移動機構10は、衛生管理をより効果的に行うことが可能である。
【0068】
移動機構10は、照射部13が、添加剤としての光触媒による病原体の増殖抑制機能を誘起する光を回転体11に照射することで、汚染された床から回転体11の表面に付着した病原体の増殖を抑制可能である。したがって、移動機構10は、回転体11がさらに回転して汚染されていないクリーンな他の走行面に接触する段階では、回転体11の表面に付着した病原体の増殖を抑制している。結果として、回転体11からクリーンな他の走行面への病原体の付着が抑制される。回転体11を介した病原体の拡散が抑制される。
【0069】
移動機構10は、照射部13がカバー部材14において回転体11と対向する面に取り付けられていることで、回転する回転体11の表面のうち、カバー部材14の内面に沿って回転する部分に対し、病原体の活動要素を抑制可能である。
【0070】
移動機構10は、球状に形成されている回転体11において走行面と反対側に位置する半球部分の全体に照射部13が光を照射することで、回転する回転体11の表面のうち、走行面から離れた広範な領域に対し、病原体の活動要素を抑制可能である。したがって、移動機構10は、回転体11を介した病原体の拡散をより効果的に抑制可能であり、衛生管理をより効果的に行うことができる。
【0071】
本開示を諸図面及び実施形態に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形及び改変を行うことが可能であることに注意されたい。したがって、これらの変形及び改変は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各構成又は各ステップなどに含まれる機能などは論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成又はステップなどを1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【0072】
例えば、上述した各構成部の形状、大きさ、配置、向き、及び個数などは、上記の説明及び図面における図示の内容に限定されない。各構成部の形状、大きさ、配置、向き、及び個数などは、その機能を実現できるのであれば、任意に構成されてもよい。
【0073】
上記実施形態では、移動機構10の回転体11は、抗菌剤及び抗ウイルス剤の少なくとも一方を含む添加剤を含有する樹脂材料に基づいて形成されていると説明したが、これに限定されない。回転体11は、病原体の増殖を抑制する効果を発揮するこのような添加剤に代えて、又は加えて、病原体の生体活動及び病原体の数の少なくとも一方を抑制する効果を発揮する添加剤を含有する樹脂材料に基づいて形成されていてもよい。
【0074】
移動機構10の回転体11は、このような添加剤をそもそも含有せずに樹脂材料のみによって形成されていてもよい。このとき、移動機構10の照射部13は、病原体の生体活動を抑制する紫外光を光として照射してもよい。これにより、移動機構10は、病原体の生体活動を抑制するための添加剤を回転体11の樹脂材料に含有させなくても、照射部13の構成のみによって、回転体11に付着した病原体の生体活動を抑制可能である。
【0075】
当該変形例では、照射部13は、病原体の生体活動を抑制する紫外光を光として照射すると説明したが、これに限定されない。照射部13は、病原体の数及び病原体の増殖の少なくとも一方を抑制する任意の波長の光を照射してもよい。これにより、移動機構10は、病原体の活動要素を抑制するための添加剤を回転体11の樹脂材料に含有させなくても、照射部13の構成のみによって、回転体11に付着した病原体の活動要素を抑制可能である。
【0076】
上記実施形態では、移動機構10の回転体11は、添加剤を含有する樹脂材料により形成され、径方向の最も外側に位置する樹脂層を有すると説明したが、これに限定されない。回転体11は、表層11aのみに添加剤を含有するのではなく、回転体11の全体にわたって略均一に添加剤を含有してもよい。
【0077】
上記実施形態では、回転体11における樹脂層の径方向における厚さは、回転体11の摩耗限界に基づいて定められていると説明したが、これに限定されない。回転体11における樹脂層の径方向における厚さは、摩耗限界に基づいて定められているものよりも薄くてもよいし、厚くてもよい。
【0078】
上記実施形態では、照射部13は、添加剤としての光触媒による病原体の増殖抑制機能を誘起する光を回転体11に照射すると説明したが、これに限定されない。照射部13は、添加剤としての光触媒による病原体の生体活動及び病原体の数の少なくとも一方の抑制機能を誘起する光を回転体11に照射してもよい。添加剤は、そもそも光触媒でなくてもよく、照射部13からの光に依存しない任意の他の方法で病原体の活動要素を抑制する機能を提供してもよい。
【0079】
上記実施形態では、照射部13は、回転体11のみに光を照射すると説明したが、これに限定されない。照射部13は、回転体11に加えて、移動体1が移動する走行面に光を照射してもよい。このような光は、例えば走行面に含有されている光触媒による病原体の活動要素の抑制機能を誘起するためのものであってもよいし、光触媒を介さずに、病原体の活動要素を直接的に抑制するためのものであってもよい。
【0080】
上記実施形態では、カバー部材14は、回転体11の外形に沿って配置されていると説明したが、これに限定されない。カバー部材14は、回転体11に対し任意の態様で配置されていてもよい。照射部13は、カバー部材14において回転体11と対向する面に取り付けられていると説明したが、これに限定されない。照射部13は、カバー部材14における任意の他の位置に取り付けられていてもよいし、カバー部材14に取り付けられていなくてもよい。
【0081】
上記実施形態では、回転体11は、球状に形成されていると説明したが、これに限定されない。回転体11は、車輪として形成されていてもよいし、キャスタとして形成されていてもよい。その他にも、回転体11は、オムニホイールとして形成されていてもよい。オムニホイールは、本体部が主動回転し、本体部の外円上に配置されている複数のローラが受動回転するように構成される。回転体11は、メカナムホイールとして形成されていてもよい。メカナムホイールは、本体部の外円上で本体部に対し45°傾いた複数の樽型のローラに基づいて構成される。回転体11は、オムニホイール及びメカナムホイールのいずれの場合であっても、ローラの径方向の最も外側に位置する樹脂層を有してもよい。さらに、回転体11は、無限軌道として形成されていてもよい。無限軌道は、プーリー及びスプロケットなどの輪体に無端のベルトを掛けて回転可能に構成した回転機構を含む。回転体11が無限軌道である場合、ベルトの表層に樹脂層が形成されていてもよいし、ベルト全体が、添加剤を含有する樹脂材料により形成されていてもよい。
【0082】
カバー部材14は、回転体11において走行面と反対側に位置する半球部分を覆うと説明したが、これに限定されない。カバー部材14は、回転体11における任意の領域を覆ってもよい。例えば、カバー部材14は、回転体11がオムニホイール及びメカナムホイールのいずれかである場合、ローラを覆ってもよい。例えば、カバー部材14は、回転体11が無限軌道である場合、ベルトを覆ってもよい。照射部13は、回転体11における半球部分の全体に光を照射すると説明したが、これに限定されない。照射部13は、回転体11における任意の領域に光を照射してもよい。例えば、照射部13は、回転体11がオムニホイール及びメカナムホイールのいずれかである場合、ローラに光を照射してもよい。例えば、照射部13は、回転体11が無限軌道である場合、ベルトに光を照射してもよい。
【0083】
上記実施形態では、移動体1は、移動型ロボットとして構成されると説明したが、これに限定されない。移動体1は、回転体11に基づいて移動を可能にする、ロボット以外の任意の機械を含んでもよい。例えば、移動体1は、任意の車両を含んでもよい。
【0084】
上記実施形態では、照射部13は、紫外線領域に含まれる波長の光を回転体11に照射する紫外線光源を含むと説明したが、これに限定されない。照射部13は、回転体11における病原体の活動要素を抑制可能であれば、可視光領域に含まれる波長の光を回転体11に照射する可視光光源を含んでもよいし、赤外線領域に含まれる波長の光を回転体11に照射する赤外線光源を含んでもよい。
【0085】
上記実施形態では、照射部13は、例えば螺合、嵌合、及び係合などによりカバー部材14の内面に対し着脱可能となるように構成されると説明したが、これに限定されない。照射部13は、例えば一体成形及び接着などによりカバー部材14の内面に対し着脱不可能となるように構成されてもよい。
【0086】
上記実施形態では、移動体1は、
図7に示すような処理の流れに従って、所定の条件下のみで照射部13から光を照射すると説明したがこれに限定されない。移動体1は、
図7に示すような判定処理を実行することなく、移動している間、定常的に照射部13から光を照射してもよい。
【符号の説明】
【0087】
1 移動体
10 移動機構
11 回転体
11a 表層
12 駆動部
13 照射部
14 カバー部材
20 通信部
30 取得部
40 記憶部
50 制御部