(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060823
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】粉体製造装置および粉体製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 9/00 20060101AFI20240425BHJP
B22F 9/04 20060101ALI20240425BHJP
B22F 1/14 20220101ALI20240425BHJP
【FI】
B22F9/00 B
B22F9/04 C
B22F9/04 E
B22F1/14 100
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168357
(22)【出願日】2022-10-20
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-01-09
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 彰
(72)【発明者】
【氏名】岡田 愼二
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA04
4K017AA08
4K017BA06
4K017BB12
4K017DA04
4K017DA07
4K017EA01
4K017EA03
4K018BA18
4K018BC08
4K018BD01
4K018BD04
4K018KA45
(57)【要約】
【課題】金属粉体等の製造にあたり、良好な作業性の下に生産性の低下を招くことなく、また不純物の混入を招いてしまうこともなく、効率的に金属粉体または金属化合物粉体の焼成物を処理できるようにする。
【解決手段】金属粉体等を収容する匣鉢20を支持する匣鉢支持枠12aと、前記匣鉢支持枠12aによる前記匣鉢20の支持状態を保持するように前記匣鉢支持枠12aに装着される匣鉢固定部材12bと、前記匣鉢支持枠12aに支持される前記匣鉢20に処理液を供給する液供給部13と、前記匣鉢20の天地を反転させる方向に前記匣鉢支持枠12aおよび前記匣鉢固定部材12bを回転させるとともに、任意の回転角で回転を停止させる回転機構部14と、前記回転機構部14による回転で天地が反転した前記匣鉢20から排出される排出物を前記匣鉢支持枠12aの下方側にて受け取る受け漕11と、を備えて粉体製造装置10を構成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属粉体または金属化合物粉体を収容する匣鉢を支持する匣鉢支持枠と、
前記匣鉢支持枠による前記匣鉢の支持状態を保持するように前記匣鉢支持枠に装着される匣鉢固定部材と、
前記匣鉢支持枠に支持される前記匣鉢に対して処理液を供給する液供給部と、
前記匣鉢の天地を反転させる方向に前記匣鉢支持枠および前記匣鉢固定部材を回転させるとともに、任意の回転角で前記匣鉢支持枠および前記匣鉢固定部材の回転を停止させる回転機構部と、
前記回転機構部による回転で天地が反転した前記匣鉢から排出される排出物を前記匣鉢支持枠の下方側にて受け取る受け漕と、
を備える粉体製造装置。
【請求項2】
前記匣鉢支持枠は、複数の前記匣鉢を支持するように構成されている
請求項1に記載の粉体製造装置。
【請求項3】
前記匣鉢支持枠および前記匣鉢固定部材は、複数列配されている
請求項1または2に記載の粉体製造装置。
【請求項4】
前記受け槽の上方側に、前記匣鉢支持枠および前記匣鉢固定部材が配されている
請求項1または2に記載の粉体製造装置。
【請求項5】
前記回転機構部は、回転ハンドル部と、前記回転ハンドル部の回転を1/20~1/60の減速比で前記匣鉢支持枠の回転軸に伝える減速機構部と、を有して構成されている
請求項1または2に記載の粉体製造装置。
【請求項6】
前記受け漕の底面は、逆四角錐形状に形成されている
請求項1または2に記載の粉体製造装置。
【請求項7】
前記金属化合物粉体は、サマリウム鉄合金粉体であり、
前記匣鉢は、鋼鉄によって形成されており、
前記処理液は、温純水である
請求項1または2に記載の粉体製造装置。
【請求項8】
金属粉体または金属化合物粉体を収容する匣鉢を回転可能に構成された匣鉢支持枠に支持させるとともに、前記匣鉢支持枠による前記匣鉢の支持状態を保持するように前記匣鉢支持枠に匣鉢固定部材を装着する工程と、
前記匣鉢支持枠に支持される前記匣鉢に対して処理液を供給する工程と、
前記匣鉢の天地を反転させる方向に前記匣鉢支持枠および前記匣鉢固定部材を回転させるとともに、任意の回転角で前記匣鉢支持枠および前記匣鉢固定部材の回転を停止させ、回転の停止により前記匣鉢から排出される排出物を前記匣鉢支持枠の下方側に配された受け漕で受け取る工程と、
を備える粉体製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体製造装置および粉体製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子工業製品の原料となる金属粉体または金属化合物粉体を製造する場合には、匣鉢と呼ばれる耐火性容器の内部に金属粉体または金属化合物粉体を収容して所定の雰囲気下で加熱する処理が行われる(例えば、微細な粒径のサマリウム鉄合金粉体を製造する場合であれば、鉄粉とサマリウム粉体、還元剤であるアルカリ土類金属を匣鉢に収容して焼成する、といったことが行われる。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、原料を匣鉢に収容して焼成すると、これにより得られる焼成物が焼結されて固着してしまう。その後、反応生成物を湿式処理にて粉砕する。その場合には、何らかの手法により匣鉢内から焼成物を取り出すことになるが、そのために必要となる作業内容によっては、金属粉体等の生産性の低下を招いてしまうおそれがある。また、焼成物を取り出す手法によっては、不純物(コンタミ)の混入を招いてしまうおそれもある。
【0005】
そこで、本発明は、金属粉体または金属化合物粉体の製造にあたり、良好な作業性の下に生産性の低下を招くことなく、また不純物の混入を招いてしまうこともなく、効率的に焼成物を処理することができる粉体製造装置および粉体製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様によれば、
金属粉体または金属化合物粉体を収容する匣鉢を支持する匣鉢支持枠と、前記匣鉢支持枠による前記匣鉢の支持状態を保持するように前記匣鉢支持枠に装着される匣鉢固定部材と、前記匣鉢支持枠に支持される前記匣鉢に対して処理液を供給する液供給部と、前記匣鉢の天地を反転させる方向に前記匣鉢支持枠および前記匣鉢固定部材を回転させるとともに、任意の回転角で前記匣鉢支持枠および前記匣鉢固定部材の回転を停止させる回転機構部と、前記回転機構部による回転で天地が反転した前記匣鉢から排出される排出物を前記支持枠の下方側にて受け取る受け漕と、を備える粉体製造装置が提供される。
【0007】
本発明の第2の態様は、前記匣鉢支持枠は、複数の前記匣鉢を支持するように構成されている第1の態様に記載の粉体製造装置である。
【0008】
本発明の第3の態様は、前記匣鉢支持枠および前記匣鉢固定部材は、複数列配されている第1の態様または第2の態様に記載の粉体製造装置である。
【0009】
本発明の第4の態様は、前記受け槽の上方側に、前記匣鉢支持枠および前記匣鉢固定部材が配されている第1の態様または第2の態様に記載の粉体製造装置である。
【0010】
本発明の第5の態様は、前記回転機構部は、回転ハンドル部と、前記回転ハンドル部の回転を1/20~1/60の減速比で前記匣鉢支持枠の回転軸に伝える減速機構部と、を有して構成されている第1の態様または第2の態様に記載の粉体製造装置である。
【0011】
本発明の第6の態様は、前記受け漕の底面は、逆四角錐形状に形成されている第1の態様または第2の態様に記載の粉体製造装置である。
【0012】
本発明の第7の態様は、前記金属化合物粉体は、サマリウム鉄合金粉体であり、
前記匣鉢は、鋼鉄によって形成されており、
前記処理液は、温純水である第1の態様または第2の態様に記載の粉体製造装置である。
【0013】
本発明の第8の態様は、
金属粉体または金属化合物粉体を収容する匣鉢を回転可能に構成された匣鉢支持枠に支持させるとともに、前記匣鉢支持枠による前記匣鉢の支持状態を保持するように前記匣鉢支持枠に匣鉢固定部材を装着する工程と、前記匣鉢支持枠に支持される前記匣鉢に対して処理液を供給する工程と、前記匣鉢の天地を反転させる方向に前記匣鉢支持枠および前記匣鉢固定部材を回転させるとともに、任意の回転角で前記匣鉢支持枠および前記匣鉢固定部材の回転を停止させ、回転の停止により前記匣鉢から排出される排出物を前記匣鉢支持枠の下方側に配された受け漕で受け取る工程と、を備える粉体製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、金属粉体または金属化合物粉体の製造にあたり、良好な作業性の下に、生産性の低下を招くことなく効率的に前駆体の焼成物を処理することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る粉体製造装置の構成例を示す斜視図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る粉体製造装置の構成例を示す図であり、(a)は平面図、(b)は側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態に係る粉体製造装置および粉体製造方法について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
(1)被製造物の概要
先ず、本実施形態における被製造物について簡単に説明する。被製造物は、工業製品の原料となる金属粉体または金属化合物粉体である。本実施形態では、被製造物として、サマリウム鉄合金粉体を製造する場合を例に挙げる。
【0018】
サマリウム鉄合金は、磁性原料の一つであり、例えば窒化処理を施してSmFeNとすると、高性能でかつ安価な希土類-遷移金属-窒素系磁石として知られる。
【0019】
サマリウム鉄合金粉体は、以下のような手順を経て製造される。酸化鉄粉体原料、サマリウム粉体原料、酸化鉄の還元剤であるアルカリ土類金属を配合した混合物を非酸化性雰囲気中で焼成してサマリウム鉄合金を合成する。その後、焼成によって得られた焼成物を水に溶解する工程、洗浄する工程、洗浄終了したものを乾燥させる工程を順に行う。これによりサマリウム鉄合金粉体が得られる。
【0020】
(2)粉体製造装置の構成
次に、本実施形態に係る粉体製造装置の構成について説明する。
本実施形態に係る粉体製造装置は、焼結で得られた反応生成物を湿式粉砕処理するために水中に投入する工程において用いられるものである。
【0021】
上述したように、サマリウム鉄合金粉体の製造工程では焼成工程において、原料混合物を匣鉢に収容して焼成すると、これにより得られる焼成物が匣鉢に固着してしまう。
その場合に、例えば、匣鉢が鋼鉄製のものであれば、匣鉢の外側に衝撃を与えて固着を剥離するが、その衝撃により、焼成時に匣鉢表面に形成された鋼鉄由来の不純物が混入してしまうおそれがある。また、衝撃を与える作業が必要となるが、その作業内容によってはサマリウム鉄合金粉体の製造工程における生産性低下を招いてしまうおそれがある。
【0022】
本実施形態に係る粉体製造装置は、上述の点を鑑みて案出されたものである。
つまり、本実施形態に係る粉体製造装置は、良好な作業性の下に生産性の低下を招くことなく、また不純物の混入を招いてしまうこともなく、効率的に焼成物を処理することができるようにすべく、以下に述べるように構成されている。
【0023】
図1は、本実施形態に係る粉体製造装置の構成例を示す斜視図である。
図2は、本実施形態に係る粉体製造装置の構成例を示す図であり、(a)は平面図、(b)は側断面図である。
【0024】
(全体構成)
図1および
図2に示すように、粉体製造装置10は、大別すると、溶解槽11と、匣鉢回転部12と、液供給部13と、回転機構部14と、を備えて構成されている。
【0025】
(溶解槽)
溶解槽11は、液体または液体と粉体の混合物であるスラリーを貯留可能な無蓋有底の箱型容器によって構成されたものである。液体またはスラリーを貯留可能であることから、溶解槽11は、後述する匣鉢20からの排出物を受け取る「受け漕」として機能する。なお、溶解槽11において、受け漕として機能する部分の底面11aは逆四角錐形状に形成されており、これにより液体またはスラリーが管状部材11bを通じて次工程に流れ易くなっている。
【0026】
なお、溶解槽11には、貯留する液面を監視するための液面検出センサ(ただし不図示)が付設されていてもよい。液面検出センサは、例えばレーザーセンサ、超音波センサ、ガイドパルスセンサ等といった公知のものを用いて構成すればよい。
【0027】
(匣鉢回転部)
匣鉢回転部12は、溶解槽11内における上方側の領域に配されたもので、サマリウム鉄合金粉体を収容する匣鉢20を支持するとともに、その匣鉢20の天地を反転させ得るように構成されている。
匣鉢20は、焼成工程において金属粉体または金属化合物粉体を焼成するために用いられる耐火性容器であり、例えば耐水性のある鋼鉄によって形成されている。
このような匣鉢20を反転させるために、匣鉢回転部12は、少なくとも、匣鉢支持枠12aと、匣鉢固定部材12bと、を有して構成されている。
【0028】
匣鉢支持枠12aは、匣鉢20を支持する枠体からなるものである。匣鉢支持枠12aにおける匣鉢20との接触面には、シリコン系の緩衝材(ただし不図示)が配されていてもよい。
なお、匣鉢支持枠12aは、複数の匣鉢20を支持するように構成されている。具体的には、例えば6個の匣鉢20を並べて支持するようになっている。ただし、匣鉢20を並べる数については、特に限定されるものではなく、溶解槽11の大きさに応じて適宜設定することができる。
【0029】
また、匣鉢支持枠12aには、複数の匣鉢20が並ぶ方向の両端側に、匣鉢支持枠12aを回転可能にするための回転軸12cが設置されている。回転軸12cは、溶解槽11を貫通するように配されている。そのため、回転軸12cによる溶解槽11の貫通箇所には、例えばOリング、ラビリンス機構、オイルシール等の液漏れ防止構造が設けられている。
【0030】
匣鉢固定部材12bは、匣鉢支持枠12aによる匣鉢20の支持状態を保持するように、匣鉢支持枠12aに装着されて用いられるものである。具体的には、匣鉢固定部材12bは、匣鉢支持枠12aの上方側に装着される棒状部材によって構成される。そして、匣鉢支持枠12aへの装着により、匣鉢支持枠12aに支持されている匣鉢20を上方側から押えるようになっている。匣鉢固定部材12bの匣鉢支持枠12aへの装着は、例えばスナップ錠等の留め具を利用して、ワンタッチで容易に行い得るようにすることが考えられる。
【0031】
以上のような匣鉢支持枠12a、匣鉢固定部材12bおよび回転軸12cを有して構成される匣鉢回転部12は、溶解槽11の上方側に複数が並列配置されている。具体的には、例えば3列の匣鉢回転部12が縦列に配置されている。ただし、匣鉢回転部12を並べる数については、特に限定されるものではなく、溶解槽11の大きさに応じて適宜設定することができる。
【0032】
本実施形態のように、6個の匣鉢20を支持する匣鉢回転部12が3列に配されていれば、粉体製造装置10は、6×3=18個の匣鉢20を一度に処理し得るようになる。このように、処理効率の観点からは、匣鉢20の支持数を増やしたほうがよい。その一方で、匣鉢20の支持数を増やすと、粉体製造装置10の設置スペースの増大を招き得る。したがって、匣鉢20の支持数については、粉体製造装置10における処理効率および設置スペースのそれぞれを考慮して適宜設定することが考えられる。
【0033】
(液供給部)
液供給部13は、匣鉢回転部12よりもさらに上方側に配されたもので、その匣鉢回転部12の匣鉢支持枠12aに支持される匣鉢20に対して処理液を供給するように構成されたものである。
処理液は、匣鉢20内の焼成物を溶解するためのもので、例えば純水を60℃±10℃程度に加熱した温純水を用いる。
このような処理液を供給するために、液供給部13は、少なくとも、液供給管13aと、供給ノズル13bと、を有して構成されている。
【0034】
液供給管13aは、匣鉢回転部12の回転軸12cの軸方向に沿って配された管状部材からなるもので、その管内を図示せぬ液供給源からの処理液が流れるように構成されている。
供給ノズル13bは、液供給管13aを流れる処理液を匣鉢回転部12に支持される匣鉢20に向けて噴出するためのもので、例えばシャワーヘッドを用いて構成されている。なお、供給ノズル13bは、シャワーヘッドの液噴出角にもよるが、例えば匣鉢20一つあたり二つが設けられている。ただし、供給ノズル13bの設置数が特に限定されることはなく、シャワーヘッドの液噴出角に応じて、例えば匣鉢20一つあたり一つを設けたり、あるいは匣鉢20一つあたり三つ以上を設けたりしてもよい。
また、供給ノズル13bには、図示せぬ弁機構が付設されており、これにより処理液供給のオン/オフ切り換えや供給する処理液の流量調整等を行い得るものとする。
【0035】
以上のような液供給管13aおよび供給ノズル13bを有して構成される液供給部13は、複数列配された匣鉢回転部12のそれぞれに個別に対応して設けられている。液供給部13が個別に対応していれば、各匣鉢回転部12に支持される匣鉢20のそれぞれに対して、確実に処理液を供給し得るからである。ただし、匣鉢20のそれぞれに処理液を供給し得れば、必ずしもこれに限定されることはなく、例えば一つの液供給管13aが全ての匣鉢20に対して処理液を供給するように構成されていてもよい。
【0036】
また、液供給部13は、単に匣鉢回転部12の上方側ではなく、その匣鉢回転部12の斜め上方側に位置するように配されている。液供給部13が匣鉢回転部12の斜め上方側に位置していれば、匣鉢回転部12に匣鉢20を支持させる際に液供給部13が邪魔になってしまうことがないからである。
【0037】
(回転機構部)
回転機構部14は、溶解槽11の外方側でその溶解槽11を貫通する回転軸12cと連結するように配されたもので、匣鉢20の天地を反転させる方向に匣鉢回転部12における匣鉢支持枠12aおよび匣鉢固定部材12bを回転させるとともに、任意の回転角で匣鉢支持枠12aおよび匣鉢固定部材12bの回転を停止させ得るように構成されている。さらに詳しくは、回転機構部14は、匣鉢回転部12および匣鉢固定部材12bを回転させるとともに、その回転を任意の回転角で停止させるために、回転ハンドル部14aと、減速機構部14bと、を有して構成されている。
【0038】
回転ハンドル部14aは、粉体製造装置10のオペレータが操作するためのもので、その操作によって回されるように構成されている。ただし、回転ハンドル部14aは、オペレータに操作されるもの(すなわち、手動回転に対応したもの)ではなく、モータ等の駆動源によって回転されるもの(すなわち、自動回転に対応したもの)であってもよい。
【0039】
減速機構部14bは、回転ハンドル部14aの回転を匣鉢回転部12の回転軸12cに伝えるように構成されたものである。ただし、減速機構部14bは、回転ハンドル部14aの回転を、例えば1/20~1/60の減速比、より好ましくは1/40~1/60の減速比で、回転軸12cに伝えるように構成されている。このような減速比であれば、オペレータが回転ハンドル部14aから手を放しても、匣鉢回転部12が勝手に回転してしまうことがない。つまり、特段のブレーキ機構等を要することなく、匣鉢回転部12の回転を任意の回転角で停止させることができる。特に、1/40~1/60の減速比であれば、確実に回転を停止させることができる。
【0040】
以上のような回転ハンドル部14aおよび減速機構部14bを有して構成される回転機構部14は、複数列配された匣鉢回転部12のそれぞれに個別に対応して設けられている。すなわち、例えば、三列の匣鉢回転部12が配されている場合であれば、回転機構部14についても、各匣鉢回転部12に対応して三つ設けられている。
【0041】
複数の回転機構部14が設けられている場合に、各回転機構部14の回転ハンドル部14aは、それぞれ独立して操作することが可能になっている。独立操作が可能であれば、複数列の匣鉢回転部12のいずれかのみを回転させたり、各匣鉢回転部12を異なるタイミングで回転させたりすることができるようになる。ただし、必ずしもこれに限定されることはなく、例えば、ある匣鉢回転部12を回転させたら、これに伴い他の匣鉢回転部12も回転するといったように、複数の回転機構部14が互いに連動するように構成されていてもよい。
【0042】
(3)粉体製造方法の手順
次に、上述した構成の粉体製造装置10における処理動作例、すなわち本実施形態に係る粉体製造方法の手順について説明する。ここで説明する手順は、溶解工程において実行されるものである。
【0043】
溶解工程では、焼成工程で得られた匣鉢20内の焼成物に対して、これを温純水等の処理液で溶解してスラリー状にし、次工程を行う図示せぬ装置へ受け渡すようにする。その際に、本実施形態では、焼成物の溶解を、以下に述べる各工程を順に実行することで行う。
【0044】
(第一工程)
具体的には、先ず、焼結反応が終了した匣鉢20を、匣鉢回転部12の匣鉢支持枠12aにセットして、その匣鉢支持枠12aに支持させる。匣鉢20のセットは、粉体製造装置10のオペレータが手作業によって行ってもよいし、専用のハンドリングロボットを利用して自動で行ってもよい。このとき、液供給部13が匣鉢回転部12の斜め上方側に位置していれば、液供給部13が邪魔になってしまうことがなく、匣鉢20のセットを円滑かつ効率的に行うことができるようになる。なお、匣鉢20をセットする際には、その匣鉢20の開口部分が天地方向の天の側を向くように、匣鉢支持枠12aの姿勢(回転角度)が維持されているものとする。
【0045】
そして、匣鉢支持枠12aに匣鉢20をセットしたら、続いて、その匣鉢支持枠12aに匣鉢固定部材12bを装着し、その匣鉢固定部材12bによって匣鉢支持枠12aに支持されている匣鉢20を上方側から押える。これにより、匣鉢支持枠12aによる匣鉢20の支持状態が保持されることになり、匣鉢回転部12が回転した場合であっても、匣鉢20が匣鉢支持枠12aから脱落してしまうことがない。このとき、例えばスナップ錠等の留め具を利用すれば、匣鉢固定部材12bの匣鉢支持枠12aへの装着をワンタッチで容易に行うことができる。したがって、良好な作業性の下、効率的な処理が実現可能となる。
【0046】
(第二工程)
その後は、匣鉢支持枠12aに支持される匣鉢20に対して、液供給部13から処理液としての温純水を供給し、その匣鉢20内の焼成物を温純水に浸した状態にする。このとき、匣鉢20一つあたり二つの供給ノズル13bが設けられていれば、匣鉢20内の焼成物に満遍なく、かつ、迅速に温純水が供給されることになる。また、匣鉢支持枠12aが複数(例えば6個)の匣鉢20を支持していても、各匣鉢20に対して液供給部13が一挙に温純水を供給するので、効率的な供給が行われることになる。
【0047】
液供給部13が温純水を供給したら、匣鉢20内の焼成物を温純水に浸した状態のまま、所定の時間(例えば、数時間程度)が経過するまで放置する。これにより、匣鉢20内では、焼成物が溶解してスラリー状になる。このように、液供給部13による温純水の供給を利用して匣鉢20内の焼成物をスラリー状にすれば、各匣鉢20別に手作業で行う場合に比べて、人為的な作業を軽減することができる。
【0048】
このように、匣鉢20内に温純水を直接的に供給しても、匣鉢20がステンレス鋼によって形成されていれば、耐水性を有することから、匣鉢20を繰り返し使用することが可能となる。また、匣鉢に衝撃を与える必要もないので、匣鉢起因の不純物(コンタミ)が混入してしまうこともない。
【0049】
(第三工程)
匣鉢20内への温純水の供給後、所定の時間が経過したら、その後は、回転機構部14の回転ハンドル部14aを操作することにより、匣鉢20の天地を反転させる方向に匣鉢回転部12の匣鉢支持枠12aおよび匣鉢固定部材12bを回転させる。複数の回転機構部14が設けられている場合、各回転機構部14は、それぞれが独立して動作してもよいし、それぞれを互いに連動させてもよい。そして、いずれの場合においても、その回転を任意の回転角、具体的には匣鉢20の天地が反転した状態となる回転角で、匣鉢支持枠12aおよび匣鉢固定部材12bの回転を停止させる。このとき、減速機構部14bが例えば1/20~1/60の減速比、より好ましくは1/40~1/60の減速比であれば、オペレータが回転ハンドル部14aから手を放しても、匣鉢回転部12が勝手に回転してしまうことがない。
【0050】
匣鉢20の天地が反転した状態で匣鉢回転部12の回転を停止させると、その匣鉢20からは、スラリー状となった焼成物が排出される。そして、匣鉢20から排出される排出物は、その下方に位置する溶解槽11に受け取られる。匣鉢回転部12が複数の匣鉢20を支持している場合には、各匣鉢20からの排出物が溶解槽11に排出されて、その溶解槽11に貯留されることになる。このように、回転機構部14による匣鉢回転部12の回転を利用して匣鉢20からの排出物を溶解槽11に排出すれば、匣鉢20からの排出を手作業で行う場合に比べて、人為的な作業を軽減することができる。
【0051】
匣鉢20から排出物を排出した後は、液供給部13から温純水を供給しながら、回転機構部14により匣鉢回転部12を回転させることで、匣鉢回転部12に支持されている匣鉢20の洗浄を行うようにしてもよい。つまり、回転機構部14で匣鉢回転部12を回転させながら匣鉢20の洗浄を行うことも可能である。
【0052】
溶解槽11で受け取った匣鉢20からの排出物は、一旦、溶解槽11内に貯留される。このとき、液面検出センサが液面を監視していれば、オーバーフロー等の発生を未然に回避することができる。その後、溶解槽11内に貯留された排出物は、スラリー状となっているので、溶解槽11の底面11aの形状により管状部材11bに集められ、その管状部材11bを通じて次工程に送られる。
【0053】
以上のような手順を経ることで、溶解工程が完了する。そして、その後は、次工程である洗浄工程が行われることになる。
【0054】
(4)本実施形態により得られる効果
本実施形態によれば、以下に示す一つまたは複数の効果が得られる。
【0055】
(a)本実施形態では、匣鉢支持枠12aおよび匣鉢固定部材12bによって支持固定される匣鉢20内の焼成物を液供給部13からの処理液の供給によって溶解し、回転機構部14により匣鉢回転部12を回転させて匣鉢20の天地を反転させることで、スラリー状となった焼成物を溶解槽11に排出することができる。したがって、サマリウム鉄合金粉体の焼成物が固着することなく匣鉢20から取り出すことができ、しかもそのために必要となる作業工程を省略することができ、サマリウム鉄合金粉体の生産性の低下を招いてしまうことがない。さらには、匣鉢20に衝撃を与える必要もないので、不純物(コンタミ)の混入を招いてしまうこともない。
つまり、本実施形態によれば、サマリウム鉄合金粉体の製造にあたり、良好な作業性の下に生産性の低下を招くことなく、また不純物の混入を招いてしまうこともなく、効率的に焼成物を処理することができる。
【0056】
(b)本実施形態において、匣鉢支持枠12aは、複数(例えば6個)の匣鉢20を支持するように構成されている。したがって、本実施形態によれば、複数の匣鉢20を一度に処理することが可能であり、これにより効率的な処理が実現可能となる。
【0057】
(c)本実施形態において、匣鉢回転部12は、複数列(例えば3列)が縦列に配置されている。したがって、本実施形態によれば、例えば6×3=18個の匣鉢20を一度に処理し得るので、より一層効率的な処理が実現可能となる。また、多くの匣鉢20を処理する場合には複数列の匣鉢回転部12を同時に回転させる一方で、匣鉢20の処理数が少ない場合には一列の匣鉢回転部12のみを回転させる、といったことも実現可能となる。つまり、本実施形態によれば、匣鉢20の処理数に応じた柔軟な対応が実現可能となる。
【0058】
(d)本実施形態において、匣鉢支持枠12aに支持された匣鉢20を押える匣鉢固定部材12bは、匣鉢支持枠12aへの装着をワンタッチで容易に行い得るようになっている。したがって、本実施形態によれば、非常に良好な作業性を実現することができる。
【0059】
(e)本実施形態では、溶解槽11の上方側に匣鉢回転部12が配されている。したがって、本実施形態によれば、匣鉢回転部12を回転させることで、重力の作用を利用してサマリウム鉄合金粉体の焼成物を匣鉢20から取り出すことができるので、非常に良好な作業性を実現することができる。また、重力の作用を利用しているので、粉体製造装置10の構成が複雑化してしまうのを極力抑制することができる。
【0060】
(f)本実施形態において、回転機構部14は、回転ハンドル部14aと、回転ハンドル部14aの回転を1/20~1/60の減速比で回転軸12cに伝える減速機構部14bと、を有して構成されている。したがって、本実施形態によれば、オペレータが回転ハンドル部14aから手を放しても、匣鉢回転部12が勝手に回転してしまうことがない。つまり、特段のブレーキ機構等を要することなく、匣鉢回転部12の回転を任意の回転角で停止させることができるので、粉体製造装置10の構成が複雑化してしまうのを抑制しつつ、非常に良好な作業性を実現することができる。
【0061】
(g)本実施形態において、溶解槽11の受け漕として機能する部分の底面11aは、逆四角錐形状に形成されている。したがって、本実施形態によれば、溶解槽11内に排出された液体またはスラリーが管状部材11bを通じて次工程に流れ易くなり、その結果として効率的な処理が実現可能となる。
【0062】
(5)変形例等
以上、本発明の一実施形態を具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0063】
例えば、上述の実施形態では、被製造物がサマリウム鉄合金粉体である場合を例に挙げたが、本発明がこれに限定されることはない。つまり、被製造物は、金属粉体または金属化合物粉体であればよく、サマリウム鉄合金粉体以外にも適用可能である。
【0064】
また、例えば、上述の実施形態では、液供給部13から供給する処理液が温純水である場合を例に挙げたが、本発明がこれに限定されることはない。つまり、処理液は、匣鉢20内の焼成物を溶解し得るものであれば、温純水以外のものであっても構わない。
【0065】
また、例えば、上述の実施形態では、匣鉢20が鋼鉄によって形成されている場合を例に挙げたが、本発明がこれに限定されることはない。つまり、匣鉢20は、液供給部13からの処理液に対する耐性があれば、鋼鉄以外のものによって形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0066】
10…粉体製造装置、11…溶解槽、11a…底面、11b…管状部材、12…匣鉢回転部、12a…匣鉢支持枠、12b…匣鉢固定部材、12c…回転軸、13…液供給部、13a…液供給管、13b…供給ノズル、14…回転機構部、14a…回転ハンドル部、14b…減速機構部、20…匣鉢