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特開2024-60923生体磁場計測装置、FLLユニットおよび生体磁場計測システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024060923
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】生体磁場計測装置、FLLユニットおよび生体磁場計測システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/242 20210101AFI20240425BHJP
   G01R 33/02 20060101ALI20240425BHJP
   G01R 33/035 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
A61B5/242
G01R33/02 R
G01R33/035
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168506
(22)【出願日】2022-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(71)【出願人】
【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】安井 隆
(72)【発明者】
【氏名】前田 亮
(72)【発明者】
【氏名】小山 大介
(72)【発明者】
【氏名】足立 善昭
【テーマコード(参考)】
2G017
4C127
【Fターム(参考)】
2G017AA02
2G017AD32
2G017AD69
2G017BA05
2G017BA11
2G017BA15
4C127AA10
4C127CC01
4C127DD03
4C127EE06
4C127HH21
4C127KK07
(57)【要約】
【課題】生体磁場をSQUIDセンサとFLLユニットとにより計測する場合に、生体磁場を精度よく計測する。
【解決手段】生体磁場計測装置は、SQUIDセンサとFLLユニットとにより生体磁場を計測する生体磁場計測装置であって、前記FLLユニットは、前記FLLユニットのループ利得を調整する調整手段を有する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SQUIDセンサとFLLユニットとにより生体磁場を計測する生体磁場計測装置であって、
前記FLLユニットは、前記FLLユニットのループ利得を調整する調整手段を有すること
を特徴とする生体磁場計測装置。
【請求項2】
前記SQUIDセンサと前記FLLユニットとは、電気刺激入力手段により生体に電気刺激を与えることにより生じる誘発磁場を計測し、
前記調整手段は、外部から設定可能な調整値に応じて前記FLLユニットのループ利得を調整すること
を特徴とする請求項1に記載の生体磁場計測装置。
【請求項3】
前記調整値は、前記電気刺激入力手段による電気刺激を与える生体の位置あるいは測定部位に応じて設定されること
を特徴とする請求項2に記載の生体磁場計測装置。
【請求項4】
前記SQUIDセンサと前記FLLユニットとを各々含む複数の計測手段を有し、
前記複数の計測手段の各々において、前記調整手段は、自計測手段に含まれる前記SQUIDセンサの特性に応じた前記調整値が設定されること
を特徴とする請求項2に記載の生体磁場計測装置。
【請求項5】
前記FLLユニットは、
前記SQUIDセンサから出力される電圧信号を増幅する増幅器と、
前記増幅器により増幅された電圧信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、
前記AD変換器により変換されたデジタル信号の信号値に前記調整値に対応する乗数を乗じるデジタル乗算器と、
前記デジタル乗算器による乗算後のデジタル信号の信号値を積分して積分データを生成するデジタル積分器と、
前記デジタル積分器により生成された積分データを電圧信号に変換するDA変換器と、
前記DA変換器により変換された電圧信号を電流信号に変換する電圧電流変換器と、
前記電圧電流変換器により変換された電流信号を磁場として前記SQUIDセンサにフィードバックするコイルと、を有し、
前記デジタル乗算器は、前記調整手段として機能すること
を特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載の生体磁場計測装置。
【請求項6】
前記FLLユニットは、
前記SQUIDセンサから出力される電圧信号を増幅する第1増幅器と、
前記第1増幅器により増幅された電圧信号を、外部から設定可能な第1調整値に対応する複数の増幅率のいずれかで増幅する第2増幅器と、
前記第2増幅器により増幅された電圧信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、
前記AD変換器により変換されたデジタル信号の信号値を、外部から設定可能な第2調整値に対応する複数のシフト量のいずれかでシフト処理するデジタルシフタと、
前記デジタルシフタによりシフト処理されたデジタル信号の信号値を積分して積分データを生成するデジタル積分器と、
前記デジタル積分器により生成された積分データを電圧信号に変換するDA変換器と、
前記DA変換器の出力のフルスケールを外部から設定可能な第3調整値に対応する複数のフルスケールのいずれかに変換する複数の振幅のいずれかに調整する振幅調整器と、
前記振幅調整器によるフルスケールの変換により電圧値が変換された電圧信号を電流信号に変換する電圧電流変換器と、
前記電圧電流変換器により変換された電流信号を磁場として前記SQUIDセンサにフィードバックするコイルと、を有し、
前記第2増幅器、前記デジタルシフタおよび前記振幅調整器は、前記調整手段として機能すること
を特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載の生体磁場計測装置。
【請求項7】
前記FLLユニットは、
前記SQUIDセンサから出力される電圧信号を増幅する第1増幅器と、
前記第1増幅器により増幅された電圧信号を、外部から設定可能な第1調整値に対応する複数の増幅率のいずれかで増幅する第2増幅器と、
前記第2増幅器により増幅された電圧信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、
前記AD変換器により変換されたデジタル信号の信号値を、外部から設定可能な第2調整値に対応する複数のシフト量のいずれかでシフト処理するデジタルシフタと、
前記デジタルシフタによりシフト処理されたデジタル信号の信号値を積分して積分データを生成するデジタル積分器と、
前記デジタル積分器により生成された積分データを電圧信号に変換するDA変換器と、
前記DA変換器により変換された電圧信号を電流信号に変換する電圧電流変換器と、
前記電圧電流変換器により変換された電流信号を磁場として前記SQUIDセンサにフィードバックするコイルと、を有し、
前記第2増幅器および前記デジタルシフタは、前記調整手段として機能すること
を特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載の生体磁場計測装置。
【請求項8】
前記FLLユニットは、
前記SQUIDセンサから出力される電圧信号を増幅する第1増幅器と、
前記第1増幅器により増幅された電圧信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、
前記AD変換器により変換されたデジタル信号の信号値を、外部から設定可能な第1調整値に対応する複数のシフト量のいずれかでシフト処理するデジタルシフタと、
前記デジタルシフタによりシフト処理されたデジタル信号の信号値を積分して積分データを生成するデジタル積分器と、
前記デジタル積分器により生成された積分データを電圧信号に変換するDA変換器と、
前記DA変換器の出力のフルスケールを外部から設定可能な第2調整値に対応する複数のフルスケールのいずれかに変換する複数の振幅のいずれかに調整する振幅調整器と、
前記振幅調整器によるフルスケールの変換により電圧値が変換された電圧信号を電流信号に変換する電圧電流変換器と、
前記電圧電流変換器により変換された電流信号を磁場として前記SQUIDセンサにフィードバックするコイルと、を有し、
前記デジタルシフタおよび前記振幅調整器は、前記調整手段として機能すること
を特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載の生体磁場計測装置。
【請求項9】
前記FLLユニットは、
前記SQUIDセンサから出力される電圧信号を増幅する第1増幅器と、
前記第1増幅器により増幅された電圧信号を、外部から設定可能な第1調整値に対応する複数の増幅率のいずれかで増幅する第2増幅器と、
前記第2増幅器により増幅された電圧信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、
前記AD変換器により変換されたデジタル信号の信号値を積分して積分データを生成するデジタル積分器と、
前記デジタル積分器により生成された積分データを電圧信号に変換するDA変換器と、
前記DA変換器の出力のフルスケールを外部から設定可能な第2調整値に対応する複数のフルスケールのいずれかに変換する複数の振幅のいずれかに調整する振幅調整器と、
前記振幅調整器によるフルスケールの変換により電圧値が変換された電圧信号を電流信号に変換する電圧電流変換器と、
前記電圧電流変換器により変換された電流信号を磁場として前記SQUIDセンサにフィードバックするコイルと、を有し、
前記第2増幅器および前記振幅調整器は、前記調整手段として機能すること
を特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載の生体磁場計測装置。
【請求項10】
前記FLLユニットは、
前記SQUIDセンサから出力される電圧信号を増幅する第1増幅器と、
前記第1増幅器により増幅された電圧信号を、外部から設定可能な前記調整値に対応する複数の増幅率のいずれかで増幅する第2増幅器と、
前記第2増幅器により増幅された電圧信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、
前記AD変換器により変換されたデジタル信号の信号値を積分して積分データを生成するデジタル積分器と、
前記デジタル積分器により生成された積分データを電圧信号に変換するDA変換器と、
前記DA変換器により変換された電圧信号を電流信号に変換する電圧電流変換器と、
前記電圧電流変換器により変換された電流信号を磁場として前記SQUIDセンサにフィードバックするコイルと、を有し、
前記第2増幅器は、前記調整手段として機能すること
を特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載の生体磁場計測装置。
【請求項11】
前記FLLユニットは、
前記SQUIDセンサから出力される電圧信号を増幅する第1増幅器と、
前記第1増幅器により増幅された電圧信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、
前記AD変換器により変換されたデジタル信号の信号値を、外部から設定可能な前記調整値に対応する複数のシフト量のいずれかでシフト処理するデジタルシフタと、
前記デジタルシフタによりシフト処理されたデジタル信号の信号値を積分して積分データを生成するデジタル積分器と、
前記デジタル積分器により生成された積分データを電圧信号に変換するDA変換器と、
前記DA変換器により変換された電圧信号を電流信号に変換する電圧電流変換器と、
前記電圧電流変換器により変換された電流信号を磁場として前記SQUIDセンサにフィードバックするコイルと、を有し、
前記デジタルシフタは、前記調整手段として機能すること
を特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載の生体磁場計測装置。
【請求項12】
前記FLLユニットは、
前記SQUIDセンサから出力される電圧信号を増幅する第1増幅器と、
前記第1増幅器により増幅された電圧信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、
前記AD変換器により変換されたデジタル信号の信号値を積分して積分データを生成するデジタル積分器と、
前記デジタル積分器により生成された積分データを電圧信号に変換するDA変換器と、
前記DA変換器の出力のフルスケールを外部から設定可能な前記調整値に対応する複数のフルスケールのいずれかに変換する複数の振幅のいずれかに調整する振幅調整器と、
前記振幅調整器によるフルスケールの変換により電圧値が変換された電圧信号を電流信号に変換する電圧電流変換器と、
前記電圧電流変換器により変換された電流信号を磁場として前記SQUIDセンサにフィードバックするコイルと、を有し、
前記振幅調整器は、前記調整手段として機能すること
を特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載の生体磁場計測装置。
【請求項13】
前記FLLユニットは、
前記SQUIDセンサから出力される電圧信号を増幅する第1増幅器と、
前記第1増幅器により増幅された電圧信号を、外部から設定可能な第1調整値に対応する複数の増幅率のいずれかで増幅する第2増幅器と、
前記第2増幅器により増幅された電圧信号を積分するアナログ積分器と、
前記アナログ積分器により積分された電圧信号を電流信号に変換する電圧電流変換器と、
前記電圧電流変換器により変換された電流信号を磁場として前記SQUIDセンサにフィードバックするコイルと、を有し、
前記第2増幅器は、前記調整手段として機能すること
を特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか1項に記載の生体磁場計測装置。
【請求項14】
前記アナログ積分器および前記電圧電流変換器の一方または両方は、増幅機能を有し、
前記アナログ積分器の増幅機能は、外部から設定可能な調整値に応じて電流信号の増幅率を変更する機能であり、
前記電圧電流変換器の増幅機能は、外部から設定可能な調整値に応じて電圧信号に対する電流信号の変換率を変更する機能であり、
前記調整手段は、増幅機能を有する前記アナログ積分器、増幅機能を有する前記電圧電流変換器、または、増幅機能を有する前記アナログ積分器と増幅機能を有する前記電圧電流変換器とを含むこと
を特徴とする請求項13に記載の生体磁場計測装置。
【請求項15】
SQUIDセンサから出力される電圧信号に応じて生体磁場を計測するFLLユニットであって、
前記SQUIDセンサから出力される電圧信号を増幅する増幅器と、
前記増幅器により増幅された電圧信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、
前記AD変換器により変換されたデジタル信号の信号値に、外部から設定可能な調整値に応じて前記調整値に対応する乗数を乗じるデジタル乗算器と、
前記デジタル乗算器による乗算後のデジタル信号の信号値を積分して積分データを生成するデジタル積分器と、
前記デジタル積分器により生成された積分データを電圧信号に変換するDA変換器と、
前記DA変換器により変換された電圧信号を電流信号に変換する電圧電流変換器と、
前記電圧電流変換器により変換された電流信号を磁場として前記SQUIDセンサにフィードバックするコイルと、を有し、
前記デジタル乗算器は、FLLユニットのループ利得を調整する調整手段として機能すること
を特徴とするFLLユニット。
【請求項16】
SQUIDセンサから出力される電圧信号に応じて生体磁場を計測するFLLユニットであって、
前記SQUIDセンサから出力される電圧信号を増幅する第1増幅器と、
前記第1増幅器により増幅された電圧信号を、外部から設定可能な第1調整値に対応する複数の増幅率のいずれかで増幅する第2増幅器と、
前記第2増幅器により増幅された電圧信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、
前記AD変換器により変換されたデジタル信号の信号値を、外部から設定可能な第2調整値に対応する複数のシフト量のいずれかでシフト処理するデジタルシフタと、
前記デジタルシフタによりシフト処理されたデジタル信号の信号値を積分して積分データを生成するデジタル積分器と、
前記デジタル積分器により生成された積分データを電圧信号に変換するDA変換器と、
前記DA変換器の出力のフルスケールを外部から設定可能な第3調整値に対応する複数のフルスケールのいずれかに変換する複数の振幅のいずれかに調整する振幅調整器と、
前記振幅調整器によるフルスケールの変換により電圧値が変換された電圧信号を電流信号に変換する電圧電流変換器と、
前記電圧電流変換器により変換された電流信号を磁場として前記SQUIDセンサにフィードバックするコイルと、を有し、
前記第2増幅器、前記デジタルシフタおよび前記振幅調整器は、FLLユニットのループ利得を調整する調整手段として機能すること
を特徴とするFLLユニット。
【請求項17】
生体に電気刺激を与えることにより生体に誘発磁場を生じさせる電気刺激入力手段と、
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の生体磁場計測装置と、を有すること
を特徴とする生体磁場計測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体磁場計測装置、FLLユニットおよび生体磁場計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ジョセフソン接合を有する超伝導リングである超伝導量子干渉素子(SQUID:Superconducting QUantum Interference Device)を用いて、生体磁場を計測する生体磁場計測装置が知られている。SQUIDセンサを用いた生体磁場の計測では、計測の特性が非線形である。
【0003】
このため、FLL(Flux Locked Loop)回路を使用して、計測した磁場をSQUIDセンサに帰還させることで、SQUIDセンサが発生する周期的な電圧変化の特性であるΦ-V特性をロック点付近(線形領域)に維持させて磁場が計測される。FLL回路には、アナログ回路のみで構成されるアナログFLL方式と、一旦デジタル化を行い、再度アナログ化する回路で構成されるデジタルFLL方式とがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
脳または心臓の活動で発生する磁場に比べて微弱である神経で発生する磁場を計測するために、生体の皮膚に貼り付けた電極から意図的に電気刺激を与えて誘発磁場を発生させ、発生した誘発磁場を計測する生体磁場計測システムが知られている。この種の生体磁場計測システムでは、電気刺激由来の磁場ノイズを下げるために、電極を覆う磁気遮蔽カバーを、SQUIDセンサとの相対位置関係が一定となるように固定可能とする固定部材を配置する場合がある(例えば、特許文献2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
生体に与える電気刺激により神経で発生する誘発磁場を計測する場合、電気刺激によるアーチファクトである刺激アーチファクトが誘起される。刺激アーチファクトにより、Φ-V特性がロック点付近から外れるロック外れが発生すると生体磁場を精度よく計測できなくなる場合がある。従来、ロック外れの発生を抑制するために電気刺激の強度の調整と電気刺激を与える位置の調整とが行われているが、繰り返し調整しても、ロック外れを十分に抑制することができない場合があった。さらに、SQUIDセンサの特性にばらつきがある場合、電気刺激を与える電極とSQUIDセンサとの相対位置関係が同じであっても、計測される生体磁場の強度が相違してしまい、生体磁場を精度よく計測できなくなるおそれがある。
【0006】
開示の技術は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、生体磁場をSQUIDセンサとFLLユニットとにより計測する場合に、生体磁場を精度よく計測することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記技術的課題を解決するため、本発明の一形態の生体磁場計測装置は、SQUIDセンサとFLLユニットとにより生体磁場を計測する生体磁場計測装置であって、前記FLLユニットは、前記FLLユニットのループ利得を調整する調整手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
生体磁場をSQUIDセンサとFLLユニットとにより計測する場合に、生体磁場を精度よく計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1の実施形態に係る生体磁場計測装置を含む生体磁場計測システムの一例を示すブロック図である。
図2図1のデュワの突出部内に設けられるSQUIDセンサアレイの一例を示す透過斜視図である。
図3図1のFLL回路部に搭載されるデジタルFLL回路の一例を示す回路ブロック図である。
図4】基本のFLL回路の例を示す図である。
図5】基本のFLL回路の閉ループ特性を示す図である。
図6】基本のデジタルFLL回路の例を示す図である。
図7図6の基本のデジタルFLL回路の閉ループ特性の例を示す図である。
図8】生体磁場の計測部位毎の計測位置の例を示す図である。
図9】FLL回路が動作可能な周波数-磁束領域とスルーレートの例を示す図である。
図10】生体磁場の計測波形とアーチファクト除去処理後の波形の例を示す図である。
図11図3のデジタルFLL回路による手掌部の生体磁場の計測時のロック外れの回数の例を示す図である。
図12図3のデジタルFLL回路においてループ利得を調整する前の周波数特性の例を示す図である。
図13図3のデジタルFLL回路においてループ利得を調整した後の周波数特性の例を示す図である。
図14】本発明の第2の実施形態に係る生体磁場計測装置に搭載されるデジタルFLL回路の一例を示す回路ブロック図である。
図15図14のデジタルFLL回路においてループ利得を調整した後の周波数特性の例を示す図である。
図16】本発明の第3の実施形態に係る生体磁場計測装置に搭載されるアナログFLL回路の一例を示す回路ブロック図である。
図17図16のアナログFLL回路の閉ループ特性の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して実施の形態の説明を行う。なお、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る生体磁場計測装置を含む生体磁場計測システムの一例を示すブロック図である。例えば、図1に示す生体磁場計測システム1000は、生体磁場計測装置100、電気刺激装置200、磁気シールドルーム300を有する。また、生体磁場計測システム1000は、磁気シールドルーム300内に設置されるデュワ320(冷却容器)およびベッド330を有する。
【0012】
なお、生体磁場計測システム1000は、生体磁場の計測に使用する生体磁場計測装置100、電気刺激装置200および図2に示すSQUIDセンサアレイ140を含み、磁気シールドルーム300、デュワ320およびベッド330を含まなくてもよい。
【0013】
生体磁場計測装置100は、FLL(Flux Locked Loop)回路部110、電源装置120、データ処理装置130およびデュワ320の突出部322内に配置される図示しないSQUIDセンサアレイ140を有する。例えば、生体磁場計測装置100は、デジタルFLL方式を採用しており、脊磁計として使用される。なお、生体磁場計測装置100は、脳磁計または心磁計に適用可能である。また、生体磁場計測装置100は、神経磁場または筋肉磁場の計測に適用されてもよい。
【0014】
【表1】
表1は、用途(計測対象)毎の生体磁場信号の計測における磁気感度(T)、信号帯域(Hz)およびチャネル数の一例を示している。表1に示すように、生体磁場の計測に必要となる磁気感度、信号帯域およびチャネル数は、脊磁計(MSG:Magnetospinograph)、心磁計(MCG:Magnetocardiograph)、脳磁計(MEG:Magnetoencephalograph)によりそれぞれ異なる。チャネル数は計測部位や形状に応じて異なり、今後、生体磁場信号の解析技術の進歩と共に、さらに増える傾向にある。
【0015】
近年、心磁計および脳磁計に加えて、脊磁計への適用が盛んになってきている。脊磁計では外部から入力される電気刺激に応じて発生する誘発磁場を計測するが、電気刺激によるアーチファクト(ノイズ)が計測結果に影響する。通例、アーチファクトは、生体磁場より大きい。
【0016】
ベッド330は、被検者Pが横たわったときの頸部に対応する位置で分割されている。分割されたベッド330の隙間には、デュワ320の突出部322が配置される。デュワ320は、液体ヘリウムを用いた極低温環境を保持する冷却容器であり、デュワ320の突出部322の内部には図示しないSQUIDセンサアレイ140と複数の帰還コイルとが配置される。
【0017】
磁気シールドルーム300の内部空間と外部空間とを仕切るシールド材310(壁材)は、例えば、高透磁率材料であるパーマロイ等からなる板材と、銅やアルミニウム等の導電体からなる板材とを積層することにより形成される。磁気シールドルーム300は、図1に示すように、例えば、直方体形状であり、シールド材310は、4つの壁部、天井部および床部にそれぞれ設けられる。なお、磁気シールドルーム300には、各種装置の搬送や、人の出入りを可能とする扉を有するが、図1では扉を省略している。
【0018】
電気刺激装置200は、磁気シールドルーム300の壁部に設けられた貫通穴に通されるツイストケーブル構造の2本の信号ケーブル210を介して被検体(生体)Pに接続される。信号ケーブル210の先端には、被検体Pの皮膚に貼り付けられる電極が取り付けられる。図1に示す例では、電極は、被検体Pの腕部に貼り付けられる。電気刺激装置200は、図示しない信号ケーブルによりデータ処理装置130と接続されており、データ処理装置130からの指示に応じて被検体Pに電気刺激を印加する。電気刺激装置200は、電気刺激入力手段の一例である。
【0019】
生体磁場の計測時に電気刺激装置200から被検体Pに電気刺激が印加され、電気刺激に誘発された被検体Pの頸部から発生する生体磁場信号が、デュワ320内で頸部に対向して配置されるSQUIDセンサアレイ140(図2)の各SQUIDセンサにより検出される。各SQUIDセンサで検出された生体磁場信号は、磁気シールドルーム300の壁部に設けられた貫通穴に通される信号ケーブル112を介して電気信号としてデュワ320内からFLL回路部110に出力される。
【0020】
FLL回路部110は、電源装置120とデータ処理装置130とに接続される。例えば、データ処理装置130は、PCまたはサーバ等のコンピュータである。電源装置120は、被検者Pを電撃から保護するため、商用電源に対して絶縁されている。FLL回路部110は、電源装置120からの電源を受け、データ処理装置130からの指示に基づいて動作する。FLL回路部110は、SQUIDセンサから受けた生体磁場を示す電気信号を処理することでデジタル信号に変換する。変換されたデジタル信号は、データ処理装置130に送られ、生体磁場データとして蓄積され、生体磁場データの波形等がデータ処理装置130の表示装置132に表示される。
【0021】
図2は、図1のデュワ320の突出部322内に設けられるSQUIDセンサアレイ140の一例を示す透過斜視図である。デュワ320は、SQUIDセンサアレイ140を冷却する冷却容器(筐体)であり、断熱のために所定の厚さを有する。SQUIDセンサアレイ140に含まれる複数のSQUIDセンサは、例えば、上下方向に延在する円筒形状を有しており、上面視で千鳥状に配置されている。また、各SQUIDセンサの先端は、突出部322の上部の凸状球面の内面に沿うように配置されている。これにより、SQUIDセンサの先端を、例えば、ベッド330に横たわる被検体Pの計測対象部位(図1では頸部)の湾曲形状に合わせて配置することができ、SQUIDセンサを計測対象部位に対向させることができる。
【0022】
例えば、SQUIDセンサアレイ140は、3軸センサとして機能する44本のSQUIDセンサを有する。各SQUIDセンサは、X軸、Y軸およびZ軸を有するグラジオメータ型検出コイルと、SQUIDセンサの制御用の集積化チップとを有し、制御用の複数の信号線と磁場信号の取り出し用の複数の信号線とが配線される。なお、各SQUIDセンサは、磁場信号を2次元のベクトル量として計測可能なX軸およびY軸を有する2軸センサでもよく、Z軸のみを有する1軸センサでもよい。
【0023】
図3は、図1のFLL回路部110に搭載されるデジタルFLL回路の一例を示す回路ブロック図である。図3に示すデジタルFLL回路10は、図2に示すSQUIDセンサの軸毎(チャネル毎)に設けられる。デジタルFLL回路10は、FLLユニットの一例であり、SQUIDセンサおよびデジタルFLL回路10は、計測手段の一例である。特に限定されないが、図1のFLL回路部110は、複数の制御基板を含み、各制御基板に複数のデジタルFLL回路10が実装される。
【0024】
SQUIDセンサは、ジョセフソン接合を有する超伝導リングを貫通する、生体から発生する磁場(磁束)を検出する高感度の磁気センサである。例えば、SQUIDセンサは、超伝導リングの2箇所(X印で示す)にジョセフソン接合を設けることで構成される。
【0025】
SQUIDセンサは、超伝導リングを貫く磁束の変化に対して周期的に変化する電圧を発生する。このため、超伝導リングにバイアス電流を流した状態で、超伝導リングの両端の電圧を計測することによって、超伝導リングを貫く磁束を求めることができる。以下では、SQUIDセンサが発生する周期的な電圧変化の特性をΦ-V特性とも称する。
【0026】
デジタルFLL回路10は、増幅器11、増幅器12、AD(Analog-to-Digital)変換器13、デジタルシフタ14、デジタル積分器15、DA(Digital-to-Analog)変換器16、振幅調整器17、電圧電流変換器18および帰還コイル19を有する。なお、SQUIDセンサに近接して配置される帰還コイル19は、デジタルFLL回路10と物理的に離れているが、デジタルFLL回路10の機能ブロックに含まれてもよい。
【0027】
デジタルシフタ14およびデジタル積分器15は、例えば、FLL回路部110の制御基板に搭載されるFPGA(Field-Programmable Gate Array)に実装される。FPGAは、制御基板に搭載される複数のデジタルFLL回路10に共通に設けられてもよい。例えば、制御基板に16個(16チャネル分)のデジタルFLL回路10が搭載される場合、FPGAは、16チャネル分のデジタルシフタ14およびデジタル積分器15を含む。
【0028】
なお、FLL回路部110の制御基板は、FPGAの代わりに、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、個別のロジック部品または汎用DSP(Digital Signal Processor)等が搭載されてもよい。この場合、デジタルシフタ14およびデジタル積分器15は、ASIC、ロジック部品または汎用DSP等に実装されてもよい。
【0029】
SQUIDセンサの超伝導リングの両端に入力が接続された増幅器11は、SQUIDセンサを貫く磁束によりSQUIDセンサが磁場の強度に応じて発生する出力電圧を固定の増幅率で増幅し、増幅した電圧を電圧信号として増幅器12に出力する。増幅器12は、ゲイン調整値GCNT1に応じて増幅率を複数の増幅率のいずれかに設定可能であり、設定された増幅率で増幅器11から受ける電圧を増幅し、増幅した電圧を電圧信号としてAD変換器13に出力する。なお、増幅器12は、固定の増幅率で増幅を行う増幅器11に比べて十分に小さな値で可変の増幅率を設定することができる。
【0030】
AD変換器13は、増幅器12から出力される電圧を所定のサンプリング周波数でサンプリングし、デジタル値(電圧値を示すデジタル信号)に変換する。すなわち、AD変換器13は、磁場の変化に応じてSQUIDセンサから出力される電圧をデジタル値に変換する。AD変換器13は、変換により生成したデジタル値をデジタルシフタ14に出力する。
【0031】
デジタルシフタ14は、シフト調整値SCNTに応じて複数のシフト量のいずれかに設定可能である。デジタルシフタ14は、設定されたシフト調整値SCNTに応じて、AD変換器13からのデジタル値(例えば、リトルエンディアン)を指定ビット数だけ左シフトあるいは右シフトするシフト処理を実施する。
【0032】
デジタル値は、1ビットの左シフトにより2倍、2ビットの左シフトにより4倍、1ビットの右シフトにより1/2倍、2ビットの右シフトにより1/4倍になる。デジタルシフタ14は、シフトしたデジタル値をデジタル積分器15に出力する。なお、シフト調整値SCNTは、デジタル値をシフトしない指示を含んでもよく、この場合、デジタルシフタ14は、AD変換器13からのデジタル値をそのままデジタル積分器15に出力する。
【0033】
デジタル積分器15は、磁束量子Φ0のカウントの起点であるロック点(もしくは、動作点)の電圧に対するSQUIDセンサの電圧を増幅した電圧値を示すデジタル信号の信号値をデジタルシフタ14から受ける。デジタル積分器15は、受けた信号値(電圧値)の変化分を積分し、積分により生成した積分データをDA変換器16に出力する。また、デジタル積分器15は、積分データをデータ処理装置130に出力する。
【0034】
データ処理装置130は、例えば、デジタル積分器15が生成した積分データをデジタルデータとして図示しない記憶装置に格納する。データ処理装置130は、記憶装置に格納したデジタルデータを使用して画像データおよび波形データ等を生成し、生成した画像データおよび波形データ等により示される画像および波形等を図示しない表示装置に表示する。
【0035】
DA変換器16は、デジタル積分器15により積分された積分データである信号波形データを電圧に変換し、変換した電圧を電圧信号として振幅調整器17に出力する。DA変換器16は、デジタル積分器15から供給されるDA変換ビット長で表されるデジタル値を、予め設定されたフルスイング振幅で電圧(アナログ信号)に変換する。
【0036】
振幅調整器17は、DA変換器16から出力される電圧のフルスケール(フルスイング振幅)を、フルスケール調整値FSCNTに応じて複数のフルスケールのいずれかに変換することで増幅率を調整する。振幅調整器17は、DA変換器16からの電圧の値を、変換したフルスケールに応じて変換し、変換した電圧を電圧電流変換器18に出力する。
【0037】
通常、DA変換器16のフルスイング振幅の最大値は電源電圧振幅値となることが多い。例えば、フルスケール調整値FSCNTは、"1"以下の倍率を示し、振幅調整器17は、最大のフルスイング振幅(電源電圧幅)を1倍以下に調整する。
【0038】
電圧電流変換器18は、振幅調整器17によりフルスケールが調整された電圧(電圧信号)を電流(電流信号)に変換する抵抗素子を有し、変換した電流を帰還コイル19に出力する。
【0039】
帰還コイル19は、電圧電流変換器18から受ける電流信号により磁場を発生し、発生した磁場をSQUIDセンサに帰還する。これにより、SQUIDセンサが発生する電圧を、Φ-V特性のロック点付近(線形領域)に維持することができ、生体磁場信号を精度よく計測することができる。
【0040】
増幅器12、デジタルシフタ14および振幅調整器17の動作は、それぞれ異なるが、全体としてデジタルFLL回路10のループ利得の大きさを調整することができる。デジタルFLL回路10の実際のループ利得は、増幅器11の固定の増幅率と、増幅器12の可変の増幅率と、デジタルシフタ14の可変の倍率と、振幅調整器17の可変の倍率との積で表される。
【0041】
増幅器12の可変の増幅率、デジタルシフタ14の可変の倍率および振幅調整器の可変の倍率を組み合わせることで、ループ利得は、単一の増幅率または単一の倍率で調整する場合に比べて細かく調整することができる。増幅器12、デジタルシフタ14および振幅調整器17は、外部から設定可能な調整値に応じてデジタルFLL回路10のループ利得を調整する調整手段の一例である。
【0042】
なお、ゲイン調整値GCNT1、シフト調整値SCNTおよびフルスケール調整値FSCNTは、例えば、デジタルシフタ14およびデジタル積分器15とともにFPGAに実装されるレジスタ等の記憶部に記憶される。例えば、ゲイン調整値GCNT1、シフト調整値SCNTおよびフルスケール調整値FSCNTは、生体磁場計測装置100のパワーオン時またはリセット時等に、データ処理装置130からFPGA内の記憶部に格納されてもよい。
【0043】
シフト調整値SCNTは、FPGA内の記憶部からFPGA内の信号線を介してデジタルシフタ14に供給される。ゲイン調整値GCNT1は、制御基板に設けられる信号線を介してFPGA内の記憶部から増幅器12に供給される。フルスケール調整値FSCNTは、制御基板に設けられる信号線を介してFPGA内の記憶部から振幅調整器17に供給される。
【0044】
例えば、図2に示したように、SQUIDセンサアレイ140が3軸センサとして機能する44本のSQUIDセンサを有する場合、生体磁場計測装置100は、132個のデジタルFLL回路10を有する。FLL回路部110の制御基板に設けられる配線数を抑えるため、各制御基板の所定数のデジタルFLL回路10毎に、増幅器12と振幅調整器17とのそれぞれに共通のゲイン調整値GCNT1および共通のフルスケール調整値FSCNTが供給されてもよい。
【0045】
この場合、共通のゲイン調整値GCNT1および共通のフルスケール調整値FSCNTは、センサ特性が同等のSQUIDセンサに接続されるデジタルFLL回路10に供給することが好ましい。これにより、周波数特性のばらつきの少ない生体磁場計測装置100を実現することができる。
【0046】
図4は、基本のFLL回路(例えば、アナログFLL回路)の例を示す図である。図4に示す基本のFLL回路および基本のFLL回路の単純化した解析モデルは、それぞれ非特許文献1のFigure 3およびFigure 12に記載されている。図4の解析モデルにおいて、符号f1は、オープンループのユニティーゲイン周波数(積分器のカットオフ(-3dB)周波数)を表し、符号tdは、FLLループの遅延を表わす。
【0047】
図5は、基本のFLL回路の閉ループ特性を示す図である。図5に示す閉ループ特性は、非特許文献1のFigure 14に記載されている。閉ループ特性は、ftd<0.08(small f1)の範囲では、1次のローパスフィルタと同様に振る舞う。閉ループ特性は、ftd>0.08(large f1)の範囲では、大きな位相遅れを引き起こし、ピークが現れてシステムは不安定になる。なお、図5に示す閉ループ特性は、図6で説明するA値を"1"としたときの閉ループ特性に対応する。
【0048】
従って、FLL回路は、アナログFLL回路またはデジタルFLL回路のいずれにおいてもシステムが不安定にならないように、1次のローパスフィルタと同様に振る舞うようにシステムが設計されることが好ましい。
【0049】
図6は、基本のデジタルFLL回路の例を示す回路ブロック図である。基本のデジタルFLL回路は、SQUIDセンサに対してループ状に接続される増幅器、AD変換器、デジタル積分器、DA変換器、電圧電流変換器として機能する抵抗Rfおよび帰還コイルLを有する。
【0050】
基本のデジタルFLL回路は、デジタル積分器を含むため、解析モデルにおいても、一旦デジタル化した後、DA変換を行う。その結果、信号は連続系から離散系となり、さらにもう一度連続系となる。離散系では、よく知られたZ変換の近似式を用いられる。
【0051】
ここで、A値は、デジタルFLL回路全体のループ利得を表わすが、単なるアンプの利得ではない。A値は、磁場信号から電気信号への変換割合、Φ-V特性の最大傾きなどのSQUIDセンサの固有値、AD変換時のビット数と入力最大振幅設定、およびDA変換時のビット数と出力最大振幅設定での倍率がすべて加味された値である。
【0052】
図3に示すデジタルFLL回路10では、A値は、増幅器11の固定の増幅率と増幅器12の可変の増幅率とに比例する。また、A値は、AD変換器13の最大振幅設定をデジタルシフタ14によりシフトする数の2のべき乗で除した数に反比例する。さらに、A値は、DA変換器16のフルスイング振幅を調整する振幅調整器17の振幅をDA変換器16の変換ビット数の2のべき乗で除した数に比例する。
【0053】
ただし、ループ利得は、増幅器12、デジタルシフタ14および振幅調整器17の全てを使用して調整されなくてもよい。ループ利得は、調整範囲に応じて、増幅器12、デジタルシフタ14および振幅調整器17の1つまたは2つを使用して調整されてもよい。
【0054】
1つの要素によりループ利得を調整する場合、図3のデジタルFLL回路10は、デジタルシフタ14および振幅調整器17、増幅器12および振幅調整器17、または、増幅器12およびデジタルシフタ14を持たなくてもよい。デジタルFLL回路10がデジタルシフタ14および振幅調整器17を持たない場合、AD変換器13の出力は、デジタル積分器15の入力に接続され、DA変換器16の出力は、電圧電流変換器18の入力に接続される。
【0055】
デジタルFLL回路10が増幅器12および振幅調整器17を持たない場合、増幅器11の出力は、AD変換器13の入力に接続され、DA変換器16の出力は、電圧電流変換器18の入力に接続される。デジタルFLL回路10が増幅器12およびデジタルシフタ14を持たない場合、増幅器11の出力は、AD変換器13の入力に接続され、AD変換器13の出力は、デジタル積分器15の入力に接続される。
【0056】
2つの要素によりループ利得を調整する場合、図3のデジタルFLL回路10は、振幅調整器17、デジタルシフタ14または増幅器12を持たなくてもよい。デジタルFLL回路10が振幅調整器17を持たない場合、DA変換器16の出力は、電圧電流変換器18の入力に接続される。デジタルFLL回路10がデジタルシフタ14を持たない場合、AD変換器13の出力は、デジタル積分器15の入力に接続される。デジタルFLL回路10が増幅器12を持たない場合、増幅器11の出力は、AD変換器13の入力に接続される。
【0057】
図7は、図6の基本のデジタルFLL回路の閉ループ特性の例を示す図である。図7では、横軸に示す周波数の磁気信号に対する出力(出力電圧)信号の大きさを、縦軸にゲイン[dB]として示している。基本のデジタルFLL回路の閉ループ特性は、使用した解析モデルは図4の解析モデルと異なるが、図5の基本のFLL回路の閉ループ特性と似た波形が得られる。そして、システムの安定性のため、1次のローパスフィルタと同様に振る舞うようにシステムが設計されることが好ましい。図7に示す閉ループ特性からA値が0.3以下の場合、A値に応じて、デジタルFLL回路の周波数特性を安定して制御できることがわかる。
【0058】
図3のデジタルFLL回路10では、増幅器12、デジタルシフタ14および振幅調整器17の1つまたは複数によりSQUIDセンサのチャネル毎にA値(ループ利得)を調整することが可能である。例えば、SQUIDセンサアレイ140内の個々のSQUIDセンサの特性に応じて、SQUIDセンサのチャネル毎にA値(ループ利得)を適切に調整することで、デジタルFLL回路10の周波数特性を制御することができ、生体磁場を精度よく計測することができる。
【0059】
図8は、生体磁場の計測部位毎の計測位置の例を示す図である。生体磁場の計測部位として、中枢神経を中心とした腰部および頸部と、末梢神経を計測する肘部および手掌部などが代表例として挙げられる。図8では、(A)腰部、(B)頸部、(C)肘部および(D)手掌部で生体磁場を計測するときの計測位置の例が示される。
【0060】
腰部の計測位置の例では、足首から電気刺激が印加されているが、計測したい神経伝導に応じて、膝下または膝上などから電気刺激が印加されてもよい。電気刺激が印加される電極の位置は黒く示されている。手掌部で生体磁場を計測するときに電気刺激が印加される位置は、示指および中指の先端部である。図1の電気刺激装置200等により被検体Pの2個所に電気刺激を印加する場合、片方ずつ印加するか、両方同時に印加するかを選択することができる。
【0061】
ところで、一般的に磁場の大きさは、磁場源からの距離の2乗に反比例することが知られている(クーロンの法則)。また、電気刺激を被検体Pに印加する場合、磁場信号は、生体磁場信号だけでなく、電気刺激により誘起される磁場信号も含まれる。電気刺激により誘起される磁場信号は、アーチファクトまたは刺激アーチファクトと称される。アーチファクトは、人工的に誘起されるノイズである。
【0062】
電気と磁気の相互作用により、電気刺激の位置が計測部位に近いほど、検出される刺激アーチファクトの磁場信号の強度は大きくなる。例えば、刺激アーチファクトの信号強度は、(A)腰部、(B)頸部、(C)肘部および(D)手掌部の順で大きくなる。また、刺激アーチファクトの信号強度が大きいほど、デジタルFLL回路およびアナログFLL回路ともにロック外れが発生しやすい。なお、一般的に、刺激アーチファクトの信号強度は、生体磁場信号に比べて大きく、刺激アーチファクトの周波数は、生体磁場信号の周波数に比べて高い成分を含む。
【0063】
非特許文献1では、磁束信号の時間変化の割合を表わすスルーレートSRは、式(1)で定義されている。式(1)中の符号Φfはフィードバック磁束を示している。
【数1】
【0064】
式(1)からFLL回路の動作可能な振幅と周波数との関係を導くことができる。ある周波数における印加磁束信号の振幅をΦpとし、周波数をfとすると、印加磁束Φaは、式(2)で示される。
【数2】
【0065】
式(2)の印加磁束Φaと式(1)のフィードバック磁束Φfが平衡しているとして、式(1)は、式(3)で示すことができる。
【数3】
【0066】
また、周波数fにおける動作可能な振幅Φpは、式(4)で示され、周波数fに反比例する。したがって、周波数fが高くなるにしたがって、動作可能な磁束強度は低くなることがわかる。
【数4】
【0067】
図9は、FLL回路が動作可能な周波数-磁束領域とスルーレートSRの例を示す図である。周波数を横軸、振幅を縦軸として印加信号のパラメータをプロットした際に、直線の左下の領域が、FLL回路が安定して動作可能な領域となり、この直線が式(3)で与えられるスルーレートSRと一致する。
【0068】
神経系の生体磁場の計測では、電気刺激を印加する位置および電気刺激の強度は、計測対象の神経が発火するように決定される。例えば、電気刺激を印加する位置から生体磁場の計測部位までを近い順に並べると、図8で示したように、(D)手掌部、(C)肘部、(B)頸部および(A)腰部の順になる。
【0069】
電気刺激を印加する位置および電気刺激の強度は、例えば、以下の3つを考慮して決定される。(1)刺激する位置から計測対象の神経までの距離が近く神経が発火しやすいこと、(2)計測対象の神経が発火したときに十分に計測可能な生体磁場が得られること、(3)FLL回路が動作範囲を超えてロック外れを起こさないこと。
【0070】
計測対象の神経が皮膚の表面から近い関節部付近などは、刺激する位置の候補を比較的絞りやすい。一方、図9に示すように、周波数が高くなるにしたがって、生体磁場信号よりもずっと大きく、高い周波数成分を含むアーチファクトの計測可能な磁束強度は低くなる。このため、電気刺激パルスの強度および印加頻度の調整は非常に難しく、場合によっては、計測できないおそれがあった。また、計測できた場合にも生体磁場信号が非常に小さく、解析できないという問題があった。
【0071】
そこで、この実施形態では、電気刺激を伴う生体磁場の計測において、電気刺激の印加条件ではなく、FLLのローパスフィルタ特性と同様の特性を利用して、従来固定であったFLLの周波数特性が制御される。これにより、高周波成分をカットしてFLL回路のロック外れを回避できるため、所望の生体磁場信号を得ることができる。
【0072】
図10は、生体磁場の計測波形とアーチファクト除去処理後の波形の例を示す図である。図10に示す波形は、頸椎で計測された磁場信号の波形(磁束密度の時間変化)であり、SQUIDセンサアレイの全チャネルのデータが同時に示されている。生体磁場の計測波形(未処理)では、計測の開始直後に電気刺激に伴う大振幅のアーチファクト(刺激アーチファクト)が現れた後、刺激アーチファクトに生体磁場信号が加わった信号が現れている。
【0073】
専用の処理ソフトを使用したアーチファクトの除去処理後の波形では、大きな刺激アーチファクトは取り除かれ、デジタルFLL回路のロック外れが起こらず、正常に計測できている。そして、刺激アーチファクトをほとんど含まない生体磁場信号が得られている。
【0074】
図11は、図3のデジタルFLL回路10による手掌部の生体磁場の計測時のロック外れの回数の例を示す図である。図11は、図10と同様に、磁束密度の時間変化を示している。図1の生体磁場計測装置100が有するSQUIDセンサのチャネル数は132である(44SQUIDセンサ×3軸)。手掌部への電気刺激は、図8(D)に示すように、示指および中指の先端部から印加した。刺激条件は、手根管・示指中指同時刺激、頻度5Hz、持続時間0.05ms、強度40mAである。
【0075】
デジタルFLL回路10のロック外れを観測するため、縦軸は、通常の生体磁場の計測で使用するfTオーダーより6桁大きいnTオーダーとしている。このため、生体磁場信号は、縦軸方向に圧縮されて見えない。図11に示す波形において縦軸方向に伸びる針のように見えるラインは、図10に示した刺激アーチファクトである。デジタルFLLは、符号付きの2進数でデータを処理しているため、ロック外れが発生してオーバーフローすると符号が変わり、正負の最大値の間を動くように動作する場合がある。この動作により、ロック外れの発生を判定することができる。
【0076】
A値の依存性を観測するために、図3のデジタルFLL回路10の振幅調整器17においてフルスケールに対する比率を"1"、"1/2"、"1/4"に設定した。また、A値においても"1"、"1/2"、"1/4"となるように設定し、それぞれでのロック外れの回数を測定した。A値が"1"、"1/2"、"1/4"と小さくなるのにしたがって、ロック外れが発生するチャネル数は、それぞれ、"10"、"1"、"0"と減少している。
【0077】
図11では、振幅調整器17により振幅を制御してA値を調整しているため、刺激アーチファクトによる磁束密度の振幅もA値が小さいほど小さくなっている。なお、A値の"1"、"1/2"、"1/4"は、振幅調整器17の代わりに増幅器12またはデジタルシフタ14を使用して調整されてもよく、増幅器12、デジタルシフタ14および振幅調整器17のうちの2つまたは3つを使用して調整されてもよい。増幅器12、デジタルシフタ14および振幅調整器17の複数を使用することで、A値をより細かく調整することが可能になる。
【0078】
この実施形態では、被検体Pに電気刺激を印加することで発生する誘発磁場を計測する場合、チャネル毎(すなわち、デジタルFLL回路10毎)にループ利得を調整することができる。このため、多数のチャネルを有する生体磁場計測装置100において、デジタルFLL回路10のロック外れを回避することができ、複数のデジタルFLL回路10間で周波数特性を揃えることができる。この結果、生体磁場計測装置100を安定に動作させることができ、生体磁場を高精度で計測することができる。
【0079】
また、チャネル毎にループ利得を調整できるため、SQUIDセンサのチャネル間の特性のばらつきを、ある程度許容することが可能である。この結果、従来、センサ特性が規格外であるため不良品として処理されていたSQUIDセンサを救済することができる。これにより、SQUIDセンサの製造歩留まりを向上することができ、SQUIDセンサおよび生体磁場計測装置100の製造コストを低減することができる。
【0080】
なお、チャネル間のセンサ特性のばらつきが小さい場合、ループ利得は、チャネル毎に調整するのではなく、複数のチャネルのグループ毎に調整してもよい。これにより、複数のチャネルのグループ毎に共通のゲイン調整値GCNT1、シフト調整値SCNTおよびフルスケール調整値FSCNTを使用することができる。この結果、ゲイン調整値GCNT1、シフト調整値SCNTおよびフルスケール調整値FSCNTを保持する記憶部の容量を小さくすることができ、デジタルFLL回路10の回路規模を低減することが可能になる。
【0081】
図12は、図3のデジタルFLL回路10においてループ利得を調整する前の周波数特性の例を示す図である。図12に示す周波数特性は、76個のSQUIDセンサを使用して、各チャネルのループ利得を調整せずに、互いに同じ値のループ利得を使用して取得された。図12に示す1つの曲線は、1つのチャネルの周波数特性を示す。
【0082】
FLL回路の周波数特性は、磁気シールドルーム300内に設置されるSQUIDセンサに磁場入力を与えない状態でシステムのノイズ特性を計測することで評価可能である。SQUIDセンサに磁場入力を与えない状態で計測されるノイズは、地磁気または振動などの環境ノイズを含むが、SQUIDセンサ自体のノイズと、FLL回路およびデュワ320の熱ノイズなどとが主体となる。ノイズの成分を分離することは難しい。
【0083】
しかしながら、例えば、増幅器は、周波数領域の低域で見られる1/fノイズと、高域で見られる広帯域で周波数に対して一定となるノイズを発生することが知られている。このため、増幅器で発生する広帯域なノイズを利用して、FLL回路の1/fノイズより高い領域での周波数特性を調べることが可能であり、FLL回路のカットオフ周波数を計測することが可能である。
【0084】
ノイズ特性やSQUIDセンサの特性は、チャネル毎(SQUIDセンサの軸毎)にばらつく。図12に示す周波数特性では、特定のチャネルの特定の周波数を基準(0dB)とし、デジタルFLL回路10のカットオフ周波数を-3dBとして周波数軸に平行な線で示している。図12では、各チャネルの周波数特性の曲線がカットオフ周波数のラインと交わる周波数の範囲が大きく広がっており、カットオフ周波数がばらついていることがわかる。
【0085】
図13は、図3のデジタルFLL回路10においてループ利得を調整した後の周波数特性の例を示す図である。図12と同様の要素については、詳細な説明は省略する。
【0086】
図13に示す周波数特性の取得方法は、所定数のチャネルのグループ毎にループ利得を調整していることを除き、図12の周波数特性の取得方法と同じである。例えば、デジタルFLL回路10のA値(すなわち、ループ利得)は、図3の振幅調整器17のフルスイング振幅の調整値を固定し、増幅器12の増幅率とデジタルシフタ14の倍率(シフト量)とを変更することで調整している。
【0087】
デジタルFLL回路10の安定性を考慮して、増幅器12の増幅率は2種類のいずれかに設定可能とし、デジタルシフタ14の倍率は3種類のいずれかに設定可能とした。そして、図12において周波数特性が互いに近かったチャネルをまとめて複数のグループを生成し、グループ毎に、増幅器12の増幅率を2種類のいずれかに設定し、デジタルシフタ14の倍率を3種類のいずれかに設定して、図13の周波数特性を取得した。
【0088】
図13では、各チャネルの周波数特性の曲線がカットオフ周波数(-3dB)の線と交わる周波数の範囲が図12に比べて狭くなっており、カットオフ周波数のばらつきが小さくなっていることが分かる。カットオフ周波数のばらつきを抑えることができるため、ロック外れを発生しにくくすることができ、生体磁場の計測精度が低下することを抑制することができる。また、上述したように、不良品として処理されていたSQUIDセンサを救済することができ、SQUIDセンサおよび生体磁場計測装置100の製造コストを低減することができる。
【0089】
以上、第1の実施形態では、増幅器12、デジタルシフタ14および振幅調整器17の1つまたは複数の特性を外部から設定可能な調整値に応じて変更可能にすることで、デジタルFLL回路10のループ利得をチャネル毎に調整することができる。例えば、増幅器12、デジタルシフタ14および振幅調整器17のうちの2つまたは3つをループ利得の調整に使用することで、ループ利得をより細かく調整することができる。
【0090】
このため、計測部位と電気刺激を与える電極との相対的な位置関係によらず、SQUIDセンサアレイ140のチャネル間の周波数特性のばらつきが少なく、ロック外れが発生しにくい生体磁場計測装置100を実現することができる。換言すれば、電気刺激を与える電極の位置に無関係に、ループ利得を細かく調整することができ、ロック外れの発生を抑制して、生体磁場計測装置100をどの測定部位に対しても安定に動作させることができる。
【0091】
例えば、電気刺激を与える電極が磁場の計測部位の近くに貼り付けられる場合にも、ロック外れの発生を抑制することができる。この結果、電気刺激により誘発される生体磁場をSQUIDセンサとデジタルFLL回路10とにより計測する場合に、生体磁場を精度よく計測することができる。
【0092】
チャネル毎にループ利得を調整できるため、従来、SQUIDセンサの特性が規格外であるため不良品として処理されていたSQUIDセンサを救済することができる。これにより、SQUIDセンサの製造歩留まりを向上することができ、SQUIDセンサおよび生体磁場計測装置100の製造コストを低減することができる。
【0093】
(第2の実施形態)
図14は、本発明の第2の実施形態に係る生体磁場計測装置に搭載されるデジタルFLL回路の一例を示す回路ブロック図である。図3のデジタルFLL回路10と同様の構成については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0094】
図14に示すデジタルFLL回路20が搭載される生体磁場計測装置100の構成と、生体磁場計測装置100を含む生体磁場計測システム1000の構成とは、図1と同様である。デジタルFLL回路20は、図3のデジタルFLL回路10と同様に、SQUIDセンサの軸毎(チャネル毎)に設けられ、図1のFLL回路部110に設けられる制御基板に搭載される。デジタルFLL回路20は、FLLユニットの一例であり、SQUIDセンサおよびデジタルFLL回路20は、計測手段の一例である。
【0095】
デジタルFLL回路20は、図3に示すデジタルFLL回路10から増幅器12および振幅調整器17を削除し、デジタル乗算器21を追加している。例えば、デジタルFLL回路20は、直列に接続された増幅器11、AD変換器13、デジタル乗算器21、デジタル積分器15、DA変換器16、電圧電流変換器18および帰還コイル19を有する。
【0096】
例えば、デジタル乗算器21およびデジタル積分器15は、FLL回路部110の制御基板に搭載されるFPGAに実装される。FPGAは、制御基板に搭載される複数のデジタルFLL回路20に共通に設けられてもよい。この場合、FPGAは、複数のチャネル分のデジタル乗算器21およびデジタル積分器15を含む。なお、FLL回路部110の制御基板は、FPGAの代わりに、デジタルシフタ14およびデジタル積分器15が実装されるASIC、個別のロジック部品または汎用DSP等を有してもよい。
【0097】
増幅器11は、SQUIDセンサを貫く磁束によりSQUIDセンサが磁場の強度に応じて発生する出力電圧を固定の増幅率で増幅し、増幅した電圧を電圧信号としてAD変換器13に出力する。AD変換器13は、増幅器11からのアナログ信号をデジタル信号(電圧値)に変換してデジタル乗算器21に出力する。
【0098】
デジタル乗算器21は、乗数調整値MULに対応する乗数とAD変換器13から受けるデジタルの電圧値(被乗数)とを乗算し、乗算結果(デジタル値)をデジタル積分器15に出力する。デジタル積分器15は、デジタル乗算器21から受けるデジタル値(電圧値)の変化分を積分して積分データとしてDA変換器16とデータ処理装置130とに出力する。なお、データ処理装置130は、図3のゲイン調整値GCNT1、シフト調整値SCNTおよびフルスケール調整値FSCNTを生成する代わりに乗数調整値MULを生成する機能を有する。
【0099】
例えば、デジタル乗算器21は、固定小数点数の乗算を実施する固定小数点乗算器である。デジタル乗算器21で使用する固定小数点(整数部および小数部)の桁数は、ループ利得の調整を所定の精度で実施できる程度に設定される。例えば、所定の精度は、図3の増幅器12、デジタルシフタ14および振幅調整器17により調整されるループ利得の調整精度と同等である。なお、乗数調整値MULのビット数を増やすことで、デジタルFLL回路10よりも詳細なループ利得の制御をデジタル乗算器21のみで実施可能である。
【0100】
3つのゲイン調整値GCNT1、シフト調整値SCNTおよびフルスケール調整値FSCNTの代わりに1つの乗数調整値MULにより、デジタルFLL回路10と同等以上のループ利得の調整精度を得ることができる。このため、データ処理装置130によるデジタルFLL回路20の制御を図3に比べて容易にすることができる。デジタル乗算器21は、外部から設定可能な調整値に応じてデジタルFLL回路20のループ利得を調整する調整手段の一例である。
【0101】
また、デジタル乗算器21とデジタル積分器15と乗数調整値MULを記憶するレジスタ等の記憶部とがFPGAに実装される場合、乗数調整値MULをデジタル乗算器21に供給する信号線は、FPGA内のみに配線され、FPGAの外部には配線されない。これにより、FPGAおよび増幅器11等が実装される制御基板に設けられる信号線の数を、図3のデジタルFLL回路10が実装される制御基板に設けられる信号線の数より少なくすることができる。この結果、制御基板のコストを低減することが可能になり、生体磁場計測装置100のコストを削減することが可能になる。
【0102】
デジタル乗算器21は、図3のデジタルシフタ14に比べて回路規模が大きいが、固定小数点乗算器を採用することで、デジタル積分器15とともに図3で採用したFPGAに搭載することが可能である。例えば、デジタル乗算器21は、デジタル積分器15とともにFPGAに搭載される。これにより、デジタルFLL回路20を、図3のデジタルFLL回路10を実装する回路基板と同じ大きさの回路基板に実装することが可能になる。
【0103】
DA変換器16は、デジタル積分器15が積分した電圧値(デジタル信号)である信号波形データを電圧に変換し、変換した電圧を電圧電流変換器18に出力する。電圧電流変換器18は、DA変換器16からの電圧を電流に変換し、変換した電流を帰還コイル19に出力する。
【0104】
なお、より大規模なFPGAまたは専用のDSPを制御基板に搭載することで、デジタル乗算器21を浮動小数点乗算器にすることができる。この場合、ループ利得の調整精度を、固定小数点乗算器を使用する場合より向上することができる。但し、浮動小数点乗算器を使用する場合、固定小数点乗算器を使用する場合に比べて演算時間が増加するため、デジタルFLL回路20の処理の周期およびFLLの位相余裕への影響を考慮する必要がある。また、より大規模なFPGAまたは専用のDSPを使用する場合、消費電力も増加するため、電源装置120(図1)の余裕度等の検討が必要になる。
【0105】
図15は、図14のデジタルFLL回路20においてループ利得を調整した後の周波数特性の例を示す図である。図13と同様の要素については、詳細な説明は省略する。図15においても、まず、図12と同様に、ループ利得を調整する前の周波数特性を取得した。そして、周波数特性が互いに近かったチャネルをまとめて複数のグループを生成し、グループ毎にデジタル乗算器21の乗数調整値MUL(乗数)を設定して、周波数特性を取得した。
【0106】
図15に示す例では、ノイズの影響を少なくしてFLLのカットオフ周波数の判読性を図13よりも向上するため、広帯域で強度が一定な磁場を外部から与えて磁場を計測した。例えば、AD変換器13は、16ビットのデジタルデータを出力し、デジタル乗算器21に与える乗数調整値MULは、整数部が2ビットで小数部が16ビットの18ビットの固定小数点数データとした。
【0107】
図15においても、図12および図13と同様に、特定のチャネルの特定の周波数を基準(0dB)とし、FLL回路のカットオフ周波数を-3dBとして周波数軸に平行な線で示している。図15に示す周波数特性は、各チャネルの周波数特性の曲線がカットオフ周波数のラインと交わる周波数の範囲が図13に比べてさらに狭くなっており、カットオフ周波数のばらつきがさらに少なくなっていることが分かる。
【0108】
これにより、ロック外れをさらに発生しにくくすることができ、生体磁場の計測精度が低下することを抑制することができる。また、上述したように、不良品として処理されていたSQUIDセンサをさらに救済することができ、SQUIDセンサおよび生体磁場計測装置100の製造コストをさらに低減することができる。
【0109】
以上、第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、例えば、デジタル乗算器21の乗算に使用する乗数を、外部から設定可能な乗数調整値MULに応じて変更可能にすることで、デジタルFLL回路20のループ利得をチャネル毎に調整することができる。
【0110】
このため、計測部位と電気刺激を与える電極との相対的な位置関係によらず、ロック外れが発生しにくく、安定して動作する生体磁場計測装置100を実現することができる。例えば、電気刺激を与える電極が磁場の計測部位の近くに貼り付けられる場合にも、ロック外れの発生を抑制することができる。この結果、電気刺激により誘発される生体磁場をSQUIDセンサとデジタルFLL回路20とにより計測する場合に、生体磁場を精度よく計測することができる。
【0111】
チャネル毎にループ利得を調整できるため、特性が規格外であるSQUIDセンサを救済することができ、SQUIDセンサの製造歩留まりを向上することができる。この結果、SQUIDセンサおよび生体磁場計測装置100の製造コストを低減することができる。
【0112】
さらに、第2の実施形態では、1つの乗数調整値MULにより、図3のデジタルFLL回路10と同等以上のループ利得の調整精度を得ることができる。このため、データ処理装置130によるデジタルFLL回路20の制御を図3に比べて容易にすることができる。そして、デジタル乗算器21によりループ利得を調整することで、図3のデジタルFLL回路10に比べて、SQUIDセンサアレイ140の各チャネルの周波数特性を精度よく揃えることができ、生体磁場をより精度よく計測することができる。
【0113】
(第3の実施形態)
図16は、本発明の第3の実施形態に係る生体磁場計測装置に搭載されるアナログFLL回路の一例を示す回路ブロック図である。図3のデジタルFLL回路10と同様の構成については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0114】
図16に示すアナログFLL回路30が搭載される生体磁場計測装置100の構成と、生体磁場計測装置100を含む生体磁場計測システム1000の構成とは、図1と同様である。アナログFLL回路30は、図3のデジタルFLL回路10と同様に、SQUIDセンサの軸毎(チャネル毎)に設けられ、図1のFLL回路部110に設けられる制御基板に搭載される。アナログFLL回路30は、FLLユニットの一例であり、SQUIDセンサおよびアナログFLL回路30は、計測手段の一例である。
【0115】
アナログFLL回路30は、図3と同様の増幅器11、電圧電流変換器18および帰還コイル19に加えて、増幅器31、アナログ積分器32およびAD変換器33を有する。例えば、アナログFLL回路30は、直列に接続された増幅器11、増幅器31、アナログ積分器32、電圧電流変換器18および帰還コイル19と、アナログ積分器32の出力に接続されたAD変換器33とを有する。
【0116】
増幅器31は、ゲイン調整値GCNT2に応じて増幅率を複数の増幅率のいずれかに設定可能であり、設定された増幅率で増幅器11から受ける電圧を増幅し、増幅した電圧を電圧信号としてアナログ積分器32に出力する。ゲイン調整値GCNT2は、例えば、アナログFLL回路30とともに制御基板に搭載されるレジスタ等の記憶部に記憶される。増幅器31は、外部から設定可能な調整値に応じてアナログFLL回路30のループ利得を調整する調整手段の一例である。
【0117】
アナログ積分器32は、磁束量子Φ0のカウントの起点であるロック点(もしくは、動作点)からのSQUIDセンサの電圧の変化分を増幅器31で増幅した電圧値の変化分を積分し、積分した電圧値を電圧電流変換器18とAD変換器33とに出力する。
【0118】
AD変換器33は、アナログ積分器32からの電圧値を所定のサンプリング周波数でサンプリングし、デジタルの電圧値に変換する。すなわち、AD変換器33は、磁場の変化に応じてSQUIDセンサから出力される電圧をデジタル値に変換する。AD変換器33は、変換により得られたデジタル値をデータ処理装置130に出力する。電圧電流変換器18は、アナログ積分器32からの電圧を電流に変換し、変換した電流を帰還コイル19に出力する。
【0119】
アナログFLL回路30では、ループ利得を示すA値は、増幅器31の固定の増幅率と増幅器31の可変の増幅率との積に比例し、SQUIDセンサのチャネル毎にA値を調整可能である。すなわち、アナログFLL回路30は、図3のデジタルFLL回路10と同様に、増幅器31でアナログFLL回路30のループ利得の大きさを調整することができる。
【0120】
アナログFLL回路30では、ループ利得の調整は、増幅器31のみで実施されるため、増幅器31は、図3の増幅器12に比べて、ループ利得の調整範囲を広くし、調整の幅を細かくすることが好ましい。例えば、データ処理装置130により生成されるゲイン調整値GCNT2のビット数は、図3のゲイン調整値GCNT1のビット数に比べて多い。換言すれば、図3の増幅器12に比べてループ利得の調整範囲が広い増幅器31を使うことで、デジタルFLL回路10と同等以上の精度でのループ利得の調整を増幅器31のみで実施することができる。
【0121】
なお、アナログ積分器32および電圧電流変換器18の一方または両方に可変の増幅機能を持たせてもよい。この場合、ループ利得は、増幅器31とアナログ積分器32との増幅率の積、増幅器31と電圧電流変換器18との増幅率の積、または、増幅器31とアナログ積分器32と電圧電流変換器18との増幅率の積になる。
【0122】
例えば、ループ利得の調整範囲および調整幅を、増幅器31のみでループ利得を調整する場合の調整範囲および調整幅と同じにする場合、ループ利得の制御に使用する制御信号のビット数の総数は、ゲイン調整値GCNT2のビット数と同等になる。なお、アナログ積分器32および電圧電流変換器18の一方または両方に可変の増幅機能を持たせる場合、増幅器31の代わりに図3の増幅器12が使用されてもよい。
【0123】
図17は、図16のアナログFLL回路30の閉ループ特性の例を示す図である。図17では、横軸に示す周波数の磁気信号に対する出力(出力電圧)信号の大きさを、縦軸にゲイン[dB]として示している。アナログFLL回路30においても、閉ループ特性は、図7の基本のデジタルFLL回路の閉ループ特性と同様であり、1次のローパスフィルタと同様の振る舞いで、アナログFLL回路30の周波数特性をA値により安定して制御できることがわかる。
【0124】
図16のアナログFLL回路30では、増幅器31によりSQUIDセンサのチャネル毎にA値(ループ利得)を調整可能である。例えば、SQUIDセンサアレイ140内でのSQUIDセンサの位置に応じて、SQUIDセンサのチャネル毎にA値(ループ利得)を適切に調整することで、アナログFLL回路30の周波数特性を制御することができる。
【0125】
以上、第3の実施形態においても、上述した第1の実施形態および第2の実施形態と同様に、例えば、増幅器31の特性を外部から設定可能な調整値に応じて変更可能にすることで、アナログFLL回路30のループ利得をチャネル毎に調整することができる。
【0126】
このため、計測部位と電気刺激を与える電極との相対的な位置関係によらず、ロック外れが発生しにくく、安定して動作する生体磁場計測装置100を実現することができる。例えば、電気刺激を与える電極が磁場の計測部位の近くに貼り付けられる場合にも、ロック外れの発生を抑制することができる。この結果、電気刺激により誘発される生体磁場をSQUIDセンサとFLLユニットとにより計測する場合に、生体磁場を精度よく計測することができる。
【0127】
チャネル毎にループ利得を調整できるため、特性が規格外であるSQUIDセンサを救済することができ、SQUIDセンサの製造歩留まりを向上することができる。この結果、SQUIDセンサおよび生体磁場計測装置100の製造コストを低減することができる。
【0128】
なお、上述した実施形態は、以下のように変更可能である。例えば、図3のデジタルFLL回路10および図14のデジタルFLL回路20の構成要素の一部は、ソフトウェアにより実現されてもよい。例えば、デジタルFLL回路10を搭載する制御基板にCPUまたはDSPが搭載され、デジタルシフタ14およびデジタル積分器15の一方または両方の機能がソフトウェアにより実現されてもよい。また、デジタルFLL回路20のデジタル乗算器21およびデジタル積分器15の一方または両方の機能がソフトウェアにより実現されてもよい。
【0129】
また、図3図14および図16の増幅器11は、ゲイン調整値に応じて増幅率が変更可能であってもよい。さらに、図3図14および図16の電圧電流変換器18の抵抗素子は、外部から供給される抵抗調整値に応じて抵抗値を変更可能な可変抵抗素子であってもよい。そして、ループ利得は、特性を変更可能な複数の機能部(増幅器など)の1つまたは複数を使用して調整されてもよい。このように、図3のデジタルFLL回路10、図14のデジタルFLL回路20および図16のアナログFLL回路30は、特性を変更可能な1つまたは複数の機能部によりループ利得が調整されてもよい。
【0130】
本発明の態様は、例えば、以下の通りである。
<1>
SQUIDセンサとFLLユニットとにより生体磁場を計測する生体磁場計測装置であって、
前記FLLユニットは、前記FLLユニットのループ利得を調整する調整手段を有すること
を特徴とする生体磁場計測装置。
<2>
前記SQUIDセンサと前記FLLユニットとは、電気刺激入力手段により生体に電気刺激を与えることにより生じる誘発磁場を計測し、
前記調整手段は、外部から設定可能な調整値に応じて前記FLLユニットのループ利得を調整すること
を特徴とする<1>に記載の生体磁場計測装置。
<3>
前記調整値は、前記電気刺激入力手段による電気刺激を与える生体の位置あるいは測定部位に応じて設定されること
を特徴とする<2>に記載の生体磁場計測装置。
<4>
前記SQUIDセンサと前記FLLユニットとを各々含む複数の計測手段を有し、
前記複数の計測手段の各々において、前記調整手段は、自計測手段に含まれる前記SQUIDセンサの特性に応じた前記調整値が設定されること
を特徴とする<2>または<3>に記載の生体磁場計測装置。
<5>
前記FLLユニットは、
前記SQUIDセンサから出力される電圧信号を増幅する増幅器と、
前記増幅器により増幅された電圧信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、
前記AD変換器により変換されたデジタル信号の信号値に前記調整値に対応する乗数を乗じるデジタル乗算器と、
前記デジタル乗算器による乗算後のデジタル信号の信号値を積分して積分データを生成するデジタル積分器と、
前記デジタル積分器により生成された積分データを電圧信号に変換するDA変換器と、
前記DA変換器により変換された電圧信号を電流信号に変換する電圧電流変換器と、
前記電圧電流変換器により変換された電流信号を磁場として前記SQUIDセンサにフィードバックするコイルと、を有し、
前記デジタル乗算器は、前記調整手段として機能すること
を特徴とする<2>ないし<4>のいずれか1項に記載の生体磁場計測装置。
<6>
前記FLLユニットは、
前記SQUIDセンサから出力される電圧信号を増幅する第1増幅器と、
前記第1増幅器により増幅された電圧信号を、外部から設定可能な第1調整値に対応する複数の増幅率のいずれかで増幅する第2増幅器と、
前記第2増幅器により増幅された電圧信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、
前記AD変換器により変換されたデジタル信号の信号値を、外部から設定可能な第2調整値に対応する複数のシフト量のいずれかでシフト処理するデジタルシフタと、
前記デジタルシフタによりシフト処理されたデジタル信号の信号値を積分して積分データを生成するデジタル積分器と、
前記デジタル積分器により生成された積分データを電圧信号に変換するDA変換器と、
前記DA変換器の出力のフルスケールを外部から設定可能な第3調整値に対応する複数のフルスケールのいずれかに変換する複数の振幅のいずれかに調整する振幅調整器と、
前記振幅調整器によるフルスケールの変換により電圧値が変換された電圧信号を電流信号に変換する電圧電流変換器と、
前記電圧電流変換器により変換された電流信号を磁場として前記SQUIDセンサにフィードバックするコイルと、を有し、
前記第2増幅器、前記デジタルシフタおよび前記振幅調整器は、前記調整手段として機能すること
を特徴とする<2>ないし<4>のいずれか1項に記載の生体磁場計測装置。
<7>
前記FLLユニットは、
前記SQUIDセンサから出力される電圧信号を増幅する第1増幅器と、
前記第1増幅器により増幅された電圧信号を、外部から設定可能な第1調整値に対応する複数の増幅率のいずれかで増幅する第2増幅器と、
前記第2増幅器により増幅された電圧信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、
前記AD変換器により変換されたデジタル信号の信号値を、外部から設定可能な第2調整値に対応する複数のシフト量のいずれかでシフト処理するデジタルシフタと、
前記デジタルシフタによりシフト処理されたデジタル信号の信号値を積分して積分データを生成するデジタル積分器と、
前記デジタル積分器により生成された積分データを電圧信号に変換するDA変換器と、
前記DA変換器により変換された電圧信号を電流信号に変換する電圧電流変換器と、
前記電圧電流変換器により変換された電流信号を磁場として前記SQUIDセンサにフィードバックするコイルと、を有し、
前記第2増幅器および前記デジタルシフタは、前記調整手段として機能すること
を特徴とする<2>ないし<4>のいずれか1項に記載の生体磁場計測装置。
<8>
前記FLLユニットは、
前記SQUIDセンサから出力される電圧信号を増幅する第1増幅器と、
前記第1増幅器により増幅された電圧信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、
前記AD変換器により変換されたデジタル信号の信号値を、外部から設定可能な第1調整値に対応する複数のシフト量のいずれかでシフト処理するデジタルシフタと、
前記デジタルシフタによりシフト処理されたデジタル信号の信号値を積分して積分データを生成するデジタル積分器と、
前記デジタル積分器により生成された積分データを電圧信号に変換するDA変換器と、
前記DA変換器の出力のフルスケールを外部から設定可能な第2調整値に対応する複数のフルスケールのいずれかに変換する複数の振幅のいずれかに調整する振幅調整器と、
前記振幅調整器によるフルスケールの変換により電圧値が変換された電圧信号を電流信号に変換する電圧電流変換器と、
前記電圧電流変換器により変換された電流信号を磁場として前記SQUIDセンサにフィードバックするコイルと、を有し、
前記デジタルシフタおよび前記振幅調整器は、前記調整手段として機能すること
を特徴とする<2>ないし<4>のいずれか1項に記載の生体磁場計測装置。
<9>
前記FLLユニットは、
前記SQUIDセンサから出力される電圧信号を増幅する第1増幅器と、
前記第1増幅器により増幅された電圧信号を、外部から設定可能な第1調整値に対応する複数の増幅率のいずれかで増幅する第2増幅器と、
前記第2増幅器により増幅された電圧信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、
前記AD変換器により変換されたデジタル信号の信号値を積分して積分データを生成するデジタル積分器と、
前記デジタル積分器により生成された積分データを電圧信号に変換するDA変換器と、
前記DA変換器の出力のフルスケールを外部から設定可能な第2調整値に対応する複数のフルスケールのいずれかに変換する複数の振幅のいずれかに調整する振幅調整器と、
前記振幅調整器によるフルスケールの変換により電圧値が変換された電圧信号を電流信号に変換する電圧電流変換器と、
前記電圧電流変換器により変換された電流信号を磁場として前記SQUIDセンサにフィードバックするコイルと、を有し、
前記第2増幅器および前記振幅調整器は、前記調整手段として機能すること
を特徴とする<2>ないし<4>のいずれか1項に記載の生体磁場計測装置。
<10>
前記FLLユニットは、
前記SQUIDセンサから出力される電圧信号を増幅する第1増幅器と、
前記第1増幅器により増幅された電圧信号を、外部から設定可能な前記調整値に対応する複数の増幅率のいずれかで増幅する第2増幅器と、
前記第2増幅器により増幅された電圧信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、
前記AD変換器により変換されたデジタル信号の信号値を積分して積分データを生成するデジタル積分器と、
前記デジタル積分器により生成された積分データを電圧信号に変換するDA変換器と、
前記DA変換器により変換された電圧信号を電流信号に変換する電圧電流変換器と、
前記電圧電流変換器により変換された電流信号を磁場として前記SQUIDセンサにフィードバックするコイルと、を有し、
前記第2増幅器は、前記調整手段として機能すること
を特徴とする<2>ないし<4>のいずれか1項に記載の生体磁場計測装置。
<11>
前記FLLユニットは、
前記SQUIDセンサから出力される電圧信号を増幅する第1増幅器と、
前記第1増幅器により増幅された電圧信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、
前記AD変換器により変換されたデジタル信号の信号値を、外部から設定可能な前記調整値に対応する複数のシフト量のいずれかでシフト処理するデジタルシフタと、
前記デジタルシフタによりシフト処理されたデジタル信号の信号値を積分して積分データを生成するデジタル積分器と、
前記デジタル積分器により生成された積分データを電圧信号に変換するDA変換器と、
前記DA変換器により変換された電圧信号を電流信号に変換する電圧電流変換器と、
前記電圧電流変換器により変換された電流信号を磁場として前記SQUIDセンサにフィードバックするコイルと、を有し、
前記デジタルシフタは、前記調整手段として機能すること
を特徴とする<2>ないし<4>のいずれか1項に記載の生体磁場計測装置。
<12>
前記FLLユニットは、
前記SQUIDセンサから出力される電圧信号を増幅する第1増幅器と、
前記第1増幅器により増幅された電圧信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、
前記AD変換器により変換されたデジタル信号の信号値を積分して積分データを生成するデジタル積分器と、
前記デジタル積分器により生成された積分データを電圧信号に変換するDA変換器と、
前記DA変換器の出力のフルスケールを外部から設定可能な前記調整値に対応する複数のフルスケールのいずれかに変換する複数の振幅のいずれかに調整する振幅調整器と、
前記振幅調整器によるフルスケールの変換により電圧値が変換された電圧信号を電流信号に変換する電圧電流変換器と、
前記電圧電流変換器により変換された電流信号を磁場として前記SQUIDセンサにフィードバックするコイルと、を有し、
前記振幅調整器は、前記調整手段として機能すること
を特徴とする<2>ないし<4>のいずれか1項に記載の生体磁場計測装置。
<13>
前記FLLユニットは、
前記SQUIDセンサから出力される電圧信号を増幅する第1増幅器と、
前記第1増幅器により増幅された電圧信号を、外部から設定可能な第1調整値に対応する複数の増幅率のいずれかで増幅する第2増幅器と、
前記第2増幅器により増幅された電圧信号を積分するアナログ積分器と、
前記アナログ積分器により積分された電圧信号を電流信号に変換する電圧電流変換器と、
前記電圧電流変換器により変換された電流信号を磁場として前記SQUIDセンサにフィードバックするコイルと、を有し、
前記第2増幅器は、前記調整手段として機能すること
を特徴とする<2>ないし<4>のいずれか1項に記載の生体磁場計測装置。
<14>
前記アナログ積分器および前記電圧電流変換器の一方または両方は、増幅機能を有し、
前記アナログ積分器の増幅機能は、外部から設定可能な調整値に応じて電流信号の増幅率を変更する機能であり、
前記電圧電流変換器の増幅機能は、外部から設定可能な調整値に応じて電圧信号に対する電流信号の変換率を変更する機能であり、
前記調整手段は、増幅機能を有する前記アナログ積分器、増幅機能を有する前記電圧電流変換器、または、増幅機能を有する前記アナログ積分器と増幅機能を有する前記電圧電流変換器とを含むこと
を特徴とする<13>に記載の生体磁場計測装置。
<15>
SQUIDセンサから出力される電圧信号に応じて生体磁場を計測するFLLユニットであって、
前記SQUIDセンサから出力される電圧信号を増幅する増幅器と、
前記増幅器により増幅された電圧信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、
前記AD変換器により変換されたデジタル信号の信号値に、外部から設定可能な調整値に応じて前記調整値に対応する乗数を乗じるデジタル乗算器と、
前記デジタル乗算器による乗算後のデジタル信号の信号値を積分して積分データを生成するデジタル積分器と、
前記デジタル積分器により生成された積分データを電圧信号に変換するDA変換器と、
前記DA変換器により変換された電圧信号を電流信号に変換する電圧電流変換器と、
前記電圧電流変換器により変換された電流信号を磁場として前記SQUIDセンサにフィードバックするコイルと、を有し、
前記デジタル乗算器は、FLLユニットのループ利得を調整する調整手段として機能すること
を特徴とするFLLユニット。
<16>
SQUIDセンサから出力される電圧信号に応じて生体磁場を計測するFLLユニットであって、
前記SQUIDセンサから出力される電圧信号を増幅する第1増幅器と、
前記第1増幅器により増幅された電圧信号を、外部から設定可能な第1調整値に対応する複数の増幅率のいずれかで増幅する第2増幅器と、
前記第2増幅器により増幅された電圧信号をデジタル信号に変換するAD変換器と、
前記AD変換器により変換されたデジタル信号の信号値を、外部から設定可能な第2調整値に対応する複数のシフト量のいずれかでシフト処理するデジタルシフタと、
前記デジタルシフタによりシフト処理されたデジタル信号の信号値を積分して積分データを生成するデジタル積分器と、
前記デジタル積分器により生成された積分データを電圧信号に変換するDA変換器と、
前記DA変換器の出力のフルスケールを外部から設定可能な第3調整値に対応する複数のフルスケールのいずれかに変換する複数の振幅のいずれかに調整する振幅調整器と、
前記振幅調整器によるフルスケールの変換により電圧値が変換された電圧信号を電流信号に変換する電圧電流変換器と、
前記電圧電流変換器により変換された電流信号を磁場として前記SQUIDセンサにフィードバックするコイルと、を有し、
前記第2増幅器、前記デジタルシフタおよび前記振幅調整器は、FLLユニットのループ利得を調整する調整手段として機能すること
を特徴とするFLLユニット。
<17>
生体に電気刺激を与えることにより生体に誘発磁場を生じさせる電気刺激入力手段と、
<1>ないし<14>のいずれか1項に記載の生体磁場計測装置と、を有すること
を特徴とする生体磁場計測システム。
【0131】
以上、各実施形態に基づき本発明の説明を行ってきたが、上記実施形態に示した要件に本発明が限定されるものではない。これらの点に関しては、本発明の主旨をそこなわない範囲で変更することができ、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0132】
10 デジタルFLL回路
11 増幅器
12 増幅器
13 AD変換器
14 デジタルシフタ
15 デジタル積分器
16 DA変換器
17 振幅調整器
18 電圧電流変換器
19 帰還コイル
20 デジタルFLL回路
21 デジタル乗算器
30 アナログFLL回路
31 増幅器
32 アナログ積分器
33 AD変換器
100 生体磁場計測装置
110 FLL回路部
112 信号ケーブル
120 電源装置
130 データ処理装置
140 SQUIDセンサアレイ
200 電気刺激装置
210 信号ケーブル
300 磁気シールドルーム
310 シールド材
320 デュワ
322 突出部
330 ベッド
1000 生体磁場計測システム
FSCNT フルスケール調整値
GCNT1、GCNT2 ゲイン調整値
MUL 乗数調整値
SCNT シフト調整値
【先行技術文献】
【特許文献】
【0133】
【特許文献1】特開2021-60396号公報
【特許文献2】特開2017-15620号公報
【非特許文献】
【0134】
【非特許文献1】D.Drung, "High-Tc and low-Tc dc SQUID electronics", Supercond. Sci. Technol. 16(2003), 1320-1336
図1
図2
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