IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 東京大学の特許一覧 ▶ 国立大学法人名古屋大学の特許一覧

特開2024-61003横紋筋肉腫の検出方法およびそのバイオマーカー
<>
  • 特開-横紋筋肉腫の検出方法およびそのバイオマーカー 図1
  • 特開-横紋筋肉腫の検出方法およびそのバイオマーカー 図2
  • 特開-横紋筋肉腫の検出方法およびそのバイオマーカー 図3
  • 特開-横紋筋肉腫の検出方法およびそのバイオマーカー 図4
  • 特開-横紋筋肉腫の検出方法およびそのバイオマーカー 図5
  • 特開-横紋筋肉腫の検出方法およびそのバイオマーカー 図6
  • 特開-横紋筋肉腫の検出方法およびそのバイオマーカー 図7
  • 特開-横紋筋肉腫の検出方法およびそのバイオマーカー 図8
  • 特開-横紋筋肉腫の検出方法およびそのバイオマーカー 図9
  • 特開-横紋筋肉腫の検出方法およびそのバイオマーカー 図10
  • 特開-横紋筋肉腫の検出方法およびそのバイオマーカー 図11
  • 特開-横紋筋肉腫の検出方法およびそのバイオマーカー 図12
  • 特開-横紋筋肉腫の検出方法およびそのバイオマーカー 図13
  • 特開-横紋筋肉腫の検出方法およびそのバイオマーカー 図14
  • 特開-横紋筋肉腫の検出方法およびそのバイオマーカー 図15
  • 特開-横紋筋肉腫の検出方法およびそのバイオマーカー 図16
  • 特開-横紋筋肉腫の検出方法およびそのバイオマーカー 図17
  • 特開-横紋筋肉腫の検出方法およびそのバイオマーカー 図18
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061003
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】横紋筋肉腫の検出方法およびそのバイオマーカー
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/68 20060101AFI20240425BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/50 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】28
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168633
(22)【出願日】2022-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】110003421
【氏名又は名称】弁理士法人フィールズ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大澤 毅
(72)【発明者】
【氏名】西田 美由紀
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 麻希
(72)【発明者】
【氏名】加藤 美樹
(72)【発明者】
【氏名】檜 顕成
(72)【発明者】
【氏名】内田 広夫
(72)【発明者】
【氏名】天野 日出
(72)【発明者】
【氏名】仲野 聡
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA26
2G045DA10
2G045DA30
2G045DA36
2G045FB06
(57)【要約】
【課題】 横紋筋肉腫およびそのサブタイプ並びに高リスクの横紋筋肉腫を検出する新規な方法並びに横紋筋肉腫およびそのサブタイプ並びに高リスクの横紋筋肉腫の新規なバイオマーカーの提供。
【解決手段】 本発明によれば、被験対象の生体試料中における代謝物の量または濃度を指標にする、横紋筋肉腫およびそのサブタイプ並びに高リスクの横紋筋肉腫の検出方法が提供される。本発明によればまた、生体代謝物を含んでなる、横紋筋肉腫およびそのサブタイプ並びに高リスクの横紋筋肉腫の検出用バイオマーカーが提供される。代謝物の量または濃度は例えば質量分析装置で測定することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験対象の生体試料中における代謝物の量または濃度を指標にして横紋筋肉腫もしくはそのサブタイプまたは高リスクの横紋筋肉腫を検出する、横紋筋肉腫もしくはそのサブタイプまたは高リスクの横紋筋肉腫の検出方法。
【請求項2】
横紋筋肉腫の検出方法である、請求項1に記載の検出方法であって、前記代謝物が、
(1) エチルグルクロニド、
(2) チミン、
(3) N-アセチルノイラミン酸、
(4) 5-メチルシチジンおよび
(5) カルノシン
からなる群から選択される1種または2種以上の物質(代謝物(a))である、検出方法。
【請求項3】
前記(1)~(5)のすべての物質を指標にする、請求項2に記載の検出方法。
【請求項4】
代謝物(a)以外の物質の量または濃度をさらに指標にする、請求項2または3に記載の検出方法であって、代謝物(a)以外の物質が、
(6) リン酸フェニル、
(7) ベンゾイルグリシン、
(8) グアニジノ酢酸、
(9) L-アルギニノコハク酸、
(10) アゼライン酸、
(11) N-アセチル-L-フェニルアラニンおよび
(12) イミダゾール-4-酢酸
からなる群から選択される1種または2種以上の物質(代謝物(b))である、検出方法。
【請求項5】
前記(1)~(12)のすべての物質を指標にする、請求項4に記載の検出方法。
【請求項6】
横紋筋肉腫の検出方法である、請求項1に記載の検出方法であって、前記代謝物が、
(21) カルノシン、
(22) アンセリン、
(23) L-グルタミン酸、
(24) L-システイン、
(25) 1,3-ジアミノプロパン、
(26) タウリン、
(27) イミダゾール酢酸、
(28) α-リノレン酸および
(29) アラキドン酸
からなる群から選択される1種または2種以上の物質(代謝物(c))である、検出方法。
【請求項7】
前記(21)~(29)のすべての物質または前記(21)~(24)からなる群から選択される1種または2種以上の物質を指標にする、請求項6に記載の検出方法。
【請求項8】
横紋筋肉腫のサブタイプの検出方法である、請求項1に記載の検出方法であって、前記代謝物が、
(101) L-フェニルアラニン、
(102) ホモシトルリン、
(103) GDPグルコース、
(104) L-ヒスチジン、
(105) N,N-ジメチルアルギニン、
(106) N2-アセチル-L-リジンおよび
(107) チミジン一リン酸
からなる群から選択される1種または2種以上の物質(代謝物(d))である、検出方法。
【請求項9】
前記(101)~(107)のすべての物質を指標にする、請求項8に記載の検出方法。
【請求項10】
代謝物(d)以外の物質の量または濃度をさらに指標にする、請求項8または9に記載の検出方法であって、代謝物(d)以外の物質が、
(108) L-2-アミノアジピン酸、
(109) βアミノイソ酪酸、
(110) 1-メチルヒスチジン、
(111) α-D-グルコース6-リン酸、
(112) N,N-ジメチルグリシン、
(113) グアニジノ酢酸および
(114) 16-エピエストリオール
からなる群から選択される1種または2種以上の物質(代謝物(e))である、検出方法。
【請求項11】
前記(101)~(114)のすべての物質を指標にする、請求項10に記載の検出方法。
【請求項12】
横紋筋肉腫のサブタイプが胎児型および胞巣型である、請求項1または8に記載の検出方法。
【請求項13】
高リスクの横紋筋肉腫の検出方法である、請求項1に記載の検出方法であって、前記代謝物が、
(121) オキソグルタル酸、
(122) L-ヒスチジン、
(123) リノール酸、
(124) ベタイン、
(125) ジメチルグリシン、
(126) サッカロピン、
(127) アミノアジピン酸、
(128) α-リノレン酸および
(129) グアニド酢酸
からなる群から選択される1種または2種以上の物質(代謝物(f))である、検出方法。
【請求項14】
前記(121)~(129)のすべての物質または前記(121)~(125)からなる群から選択される1種または2種以上の物質を指標にする、請求項13に記載の検出方法。
【請求項15】
前記被験対象の生体試料中における代謝物の量または濃度を測定する工程を含む、請求項1に記載の検出方法。
【請求項16】
前記被験対象の生体試料中における代謝物の量もしくは濃度、または前記被験対象の生体試料中の2種以上の代謝物の量もしくは濃度の測定値から算出された一つの結合指標値を、カットオフ値と比較する工程を含む、請求項1または15に記載の検出方法。
【請求項17】
被験対象が20歳未満のヒトである、請求項1に記載の検出方法。
【請求項18】
生体試料が尿試料である、請求項1に記載の検出方法。
【請求項19】
代謝物の量または濃度を質量分析装置で測定する、請求項1に記載の検出方法。
【請求項20】
横紋筋肉腫の診断を補助する方法である、請求項1または2に記載の検出方法。
【請求項21】
横紋筋肉腫のサブタイプの診断を補助する方法である、請求項1または8に記載の検出方法。
【請求項22】
高リスクの横紋筋肉腫の診断を補助する方法である、請求項1または13に記載の検出方法。
【請求項23】
横紋筋肉腫もしくはそのサブタイプまたは高リスクの横紋筋肉腫の検出用バイオマーカーとしての、生体代謝物の使用。
【請求項24】
生体代謝物が尿代謝物である、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
横紋筋肉腫の検出用バイオマーカーとしての、請求項23または24の使用であって、前記代謝物が、請求項2に記載の代謝物(a)および場合によっては請求項4に記載の代謝物(b)である、使用。
【請求項26】
横紋筋肉腫の検出用バイオマーカーとしての、請求項23または24の使用であって、前記代謝物が、請求項6に記載の代謝物(c)である、使用。
【請求項27】
横紋筋肉腫のサブタイプの検出用バイオマーカーとしての、請求項23または24の使用であって、前記代謝物が、請求項8に記載の代謝物(d)および場合によっては請求項10に記載の代謝物(e)である、使用。
【請求項28】
高リスクの横紋筋肉腫の検出用バイオマーカーとしての、請求項23または24の使用であって、前記代謝物が、請求項13に記載の代謝物(f)である、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横紋筋肉腫の検出方法およびそのバイオマーカーに関する。本発明はまた、横紋筋肉腫のサブタイプおよび高リスクの横紋筋肉腫の検出方法とそれらのバイオマーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
横紋筋肉腫は小児肉腫の中で最も頻度が高い希少性、難治性の肉腫であり、小児がんの5~8%を占める。横紋筋肉腫の5年無増悪生存率は中間・高リスク群で約50%前後であり、現在の診断治療法だけでは未だ十分な治療効果とはいいがたく、新たな診断および治療法の開発が急務である。しかし、横紋筋肉腫については未だ有効な腫瘍マーカーが報告されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Childhood Rhabdomyosarcoma Treatment (PDQ(商標)): Health Professional Version, PMID: 26389243, https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK65802/
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は横紋筋肉腫を検出する新規な方法と、横紋筋肉腫のサブタイプまたは高リスクの横紋筋肉腫を検出する新規な方法を提供することを目的とする。本発明はまた、横紋筋肉腫の新規なバイオマーカーと、横紋筋肉腫のサブタイプまたは高リスクの横紋筋肉腫の新規なバイオマーカーを提供することを目的とする。
【0005】
本発明者らは今般、横紋筋肉腫患者から得られた生体試料について質量分析装置により分析を実施し、生体代謝物を指標にすることにより横紋筋肉腫を検出できることを見出した。本発明らはまた、生体代謝物を指標にすることにより横紋筋肉腫のサブタイプを検出できることを見出した。本発明らはさらに、生体代謝物を指標にすることにより高リスクの横紋筋肉腫を検出できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]被験対象の生体試料中における代謝物の量または濃度を指標にして横紋筋肉腫もしくはそのサブタイプまたは高リスクの横紋筋肉腫を検出する、横紋筋肉腫もしくはそのサブタイプまたは高リスクの横紋筋肉腫の検出方法。
[2]横紋筋肉腫の検出方法である、上記[1]に記載の検出方法であって、前記代謝物が、
(1) エチルグルクロニド、
(2) チミン、
(3) N-アセチルノイラミン酸、
(4) 5-メチルシチジンおよび
(5) カルノシン
からなる群から選択される1種または2種以上の物質(代謝物(a))である、検出方法。
[3]前記(1)~(5)のすべての物質を指標にする、上記[2]に記載の検出方法。
[4]代謝物(a)以外の物質の量または濃度をさらに指標にする、上記[2]または[3]に記載の検出方法であって、代謝物(a)以外の物質が、
(6) リン酸フェニル、
(7) ベンゾイルグリシン、
(8) グアニジノ酢酸、
(9) L-アルギニノコハク酸、
(10) アゼライン酸、
(11) N-アセチル-L-フェニルアラニンおよび
(12) イミダゾール-4-酢酸
からなる群から選択される1種または2種以上の物質(代謝物(b))である、検出方法。
[5]前記(1)~(12)のすべての物質を指標にする、上記[4]に記載の検出方法。
[6]横紋筋肉腫の検出方法である、上記[1]に記載の検出方法であって、前記代謝物が、
(21) カルノシン、
(22) アンセリン、
(23) L-グルタミン酸、
(24) L-システイン、
(25) 1,3-ジアミノプロパン、
(26) タウリン、
(27) イミダゾール酢酸、
(28) α-リノレン酸および
(29) アラキドン酸
からなる群から選択される1種または2種以上の物質(代謝物(c))である、検出方法。
[7]前記(21)~(29)のすべての物質または前記(21)~(24)からなる群から選択される1種または2種以上の物質を指標にする、上記[6]に記載の検出方法。
[8]横紋筋肉腫のサブタイプの検出方法である、上記[1]に記載の検出方法であって、前記代謝物が、
(101) L-フェニルアラニン、
(102) ホモシトルリン、
(103) GDPグルコース、
(104) L-ヒスチジン、
(105) N,N-ジメチルアルギニン、
(106) N2-アセチル-L-リジンおよび
(107) チミジン一リン酸
からなる群から選択される1種または2種以上の物質(代謝物(d))である、検出方法。
[9]前記(101)~(107)のすべての物質を指標にする、上記[8]に記載の検出方法。
[10]代謝物(d)以外の物質の量または濃度をさらに指標にする、上記[8]または[9]に記載の検出方法であって、代謝物(d)以外の物質が、
(108) L-2-アミノアジピン酸、
(109) βアミノイソ酪酸、
(110) 1-メチルヒスチジン、
(111) α-D-グルコース6-リン酸、
(112) N,N-ジメチルグリシン、
(113) グアニジノ酢酸および
(114) 16-エピエストリオール
からなる群から選択される1種または2種以上の物質(代謝物(e))である、検出方法。
[11]前記(101)~(114)のすべての物質を指標にする、上記[10]に記載の検出方法。
[12]横紋筋肉腫のサブタイプが胎児型および胞巣型である、上記[1]および[8]~[11]のいずれかに記載の検出方法。
[13]高リスクの横紋筋肉腫の検出方法である、上記[1]に記載の検出方法であって、前記代謝物が、
(121) オキソグルタル酸、
(122) L-ヒスチジン、
(123) リノール酸、
(124) ベタイン、
(125) ジメチルグリシン、
(126) サッカロピン、
(127) アミノアジピン酸、
(128) α-リノレン酸および
(129) グアニド酢酸
からなる群から選択される1種または2種以上の物質(代謝物(f))である、検出方法。
[14]前記(121)~(129)のすべての物質または前記(121)~(125)からなる群から選択される1種または2種以上の物質を指標にする、上記[13]に記載の検出方法。
[15]前記被験対象の生体試料中における代謝物の量または濃度を測定する工程を含む、上記[1]~[14]のいずれかに記載の検出方法。
[16]前記被験対象の生体試料中における代謝物の量もしくは濃度、または前記被験対象の生体試料中の2種以上の代謝物の量もしくは濃度の測定値から算出された一つの結合指標値を、カットオフ値と比較する工程を含む、上記[1]~[15]のいずれかに記載の検出方法。
[17]被験対象が20歳未満のヒトである、上記[1]~[16]のいずれかに記載の検出方法。
[18]生体試料が尿試料である、上記[1]~[17]のいずれかに記載の検出方法。
[19]代謝物の量または濃度を質量分析装置で測定する、上記[1]~[18]のいずれかに記載の検出方法。
[20]横紋筋肉腫の診断を補助する方法である、上記[1]~[7]および[13]~[17]のいずれかに記載の検出方法。
[21]横紋筋肉腫のサブタイプの診断を補助する方法である、上記[1]、[8]~[12]および[15]~[19]のいずれかに記載の検出方法。
[22]高リスクの横紋筋肉腫の診断を補助する方法である、上記[1]、[13~[19]のいずれかに記載の検出方法。
[23]横紋筋肉腫もしくはそのサブタイプまたは高リスクの横紋筋肉腫の検出用バイオマーカーとしての、生体代謝物の使用。
[24]生体代謝物が尿代謝物である、上記[23]に記載の使用。
[25]横紋筋肉腫の検出用バイオマーカーとしての、上記[23]または[24]の使用であって、前記代謝物が、上記[2]に記載の代謝物(a)および場合によっては上記[4]に記載の代謝物(b)である、使用。
[26]横紋筋肉腫の検出用バイオマーカーとしての、上記[23]または[24]の使用であって、前記代謝物が、上記[6]に記載の代謝物(c)である、使用。
[27]横紋筋肉腫のサブタイプの検出用バイオマーカーとしての、上記[23]または[24]の使用であって、前記代謝物が、上記[8]に記載の代謝物(d)および場合によっては上記[10]に記載の代謝物(e)である、使用。
[28]高リスクの横紋筋肉腫の検出用バイオマーカーとしての、上記[23]または[24]の使用であって、前記代謝物が、上記[13]に記載の代謝物(f)である、使用。
[29]生体代謝物を含んでなる、横紋筋肉腫またはそのサブタイプの検出用バイオマーカー。
[30]生体代謝物が尿代謝物である、上記[29]に記載のバイオマーカー。
[31]横紋筋肉腫の検出用バイオマーカーである、上記[29]または[30]のバイオマーカーであって、前記代謝物が、上記[2]に記載の代謝物(a)および場合によっては上記[4]に記載の代謝物(b)である、バイオマーカー。
[32]横紋筋肉腫の検出用バイオマーカーである、上記[29]または[30]のバイオマーカーであって、前記代謝物が、上記[6]に記載の代謝物(c)である、バイオマーカー。
[33]横紋筋肉腫のサブタイプの検出用バイオマーカーである、上記[29]または[30]のバイオマーカーであって、前記代謝物が、上記[8]に記載の代謝物(d)および場合によっては上記[10]に記載の代謝物(e)である、バイオマーカー。
[34]高リスクの横紋筋肉腫の検出用バイオマーカーである、上記[29]または[30]のバイオマーカーであって、前記代謝物が、上記[13]に記載の代謝物(f)である、バイオマーカー。
[35]横紋筋肉腫の治療方法であって、上記[1]~[7]のいずれかに記載の検出方法により横紋筋肉腫の存在が示された対象または横紋筋肉腫の存在可能性が示された対象を選択し、選択された対象に横紋筋肉腫の治療を行う、前記治療方法。
[36]胞巣型または胎児型の横紋筋肉腫の治療方法であって、上記[1]、[8]~[12]および[15]~[19]のいずれかに記載の検出方法により胞巣型もしくは胎児型の横紋筋肉腫の存在が示された対象または胞巣型もしくは胎児型の横紋筋肉腫の存在可能性が示された対象を選択し、選択された対象に胞巣型または胎児型の横紋筋肉腫の治療を行う、前記治療方法。
[37]高リスクの横紋筋肉腫または低リスクもしくは中間リスクの横紋筋肉腫の治療方法であって、上記[1]および[13]~[19]のいずれかに記載の検出方法により高リスクの横紋筋肉腫または低リスクもしくは中間リスクの横紋筋肉腫の存在が示された対象、あるいは高リスクの横紋筋肉腫または低リスクもしくは中間リスクの横紋筋肉腫の存在可能性が示された対象を選択し、選択された対象に高リスクの横紋筋肉腫の治療または低リスクもしくは中間リスクの横紋筋肉腫の治療を行う、前記治療方法。
【0007】
本発明によれば、横紋筋肉腫およびそのサブタイプを検出する新規なバイオマーカーが提供されることから、本発明は横紋筋肉腫およびそのサブタイプの診断精度の向上と患者の予後改善に資する点で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、横紋筋肉腫患者群の試料分析データと健常者群の試料分析データをもとにランダムフォレスト(Random Forest)分析を行った結果を示す図である。Mean Decrease Accuracy(MDA;平均正解率減少量)に基づいて代謝物の順位付けを行い、上位12種の物質を横紋筋肉腫のバイオマーカー候補として選択した。
図2図2は、図1で選択した12種の代謝物の試料分析データに基づいてOPLS-DA分析(Orthogonal Projections to Latent Structures Discriminant Analysis)を行った結果を示す図である。X軸(横軸)はT scoreであり、2群間の差異を表し、Y軸(縦軸)はorthogonal T scoreであり、群内の差異を表す。
図3図3は、図1で選択した12種の代謝物の試料分析データに基づいてROC(受信者動作特性曲線(Receiver Operating Characteristic curve))解析を行った結果を示す図である。X軸(横軸)は1-特異度(偽陽性)を表し、Y軸(縦軸)は感度(真陽性)を表す。AUC値は0.965であった。
図4図4は、後記表7で順位付けした12種の代謝物のうち上位5種の代謝物を除いた7種の代謝物の試料分析データに基づいてOPLS-DA分析を行った結果を示す図である。X軸(横軸)はT scoreであり、2群間の差異を表し、Y軸(縦軸)はorthogonal T scoreであり、群内の差異を表す。
図5図5は、後記表7で順位付けした12種の代謝物のうち上位5種の代謝物を除いた7種の代謝物の試料分析データに基づいてROC解析を行った結果を示す図である。X軸(横軸)は1-特異度(偽陽性)を表し、Y軸(縦軸)は感度(真陽性)を表す。AUC値は0.584であった。
図6図6は、後記表7で順位付けした12種の代謝物のうち上位5種の代謝物の試料分析データに基づいてROC解析を行った結果を示す図である。X軸(横軸)は1-特異度(偽陽性)を表し、Y軸(縦軸)は感度(真陽性)を表す。AUC値は0.855であった。
図7図7は、後記表7で順位付けした12種の代謝物のうち上位6種の代謝物の試料分析データに基づいてROC解析を行った結果を示す図である。X軸(横軸)は1-特異度(偽陽性)を表し、Y軸(縦軸)は感度(真陽性)を表す。AUC値は0.861であった。
図8図8は、横紋筋肉腫患者群の試料分析データと健常者群の試料分析データをもとにパスウェイ解析(Enrichment pathway analysis)を行った結果を示す図である。p値(P value)および豊富化比率(enrichment ratio)に基づいて横紋筋肉腫と高い関係性がある代謝経路を特定した結果を示す図である。
図9図9は、後記表8で特定した9種の代謝物のうち4種(カルノシン、L-グルタミン酸、L-システインおよびアンセリン)の代謝物の試料分析データに基づいてROC解析を行った結果を示す図である。X軸(横軸)は1-特異度(偽陽性)を表し、Y軸(縦軸)は感度(真陽性)を表す。AUC値は0.853であった。
図10図10は、横紋筋肉腫患者の胎児型の試料分析データと胞巣型の試料分析データをもとにランダムフォレスト(Random Forest)分析を行った結果を示す図である。Mean Decrease Accuracyに基づいて代謝物の順位付けを行い、上位14種の物質を横紋筋肉腫のバイオマーカー候補として選択した。
図11図11は、図10で選択した14種の代謝物の試料分析データに基づいてOPLS-DA分析を行った結果を示す図である。X軸(横軸)はT scoreであり、2群間の差異を表し、Y軸(縦軸)はorthogonal T scoreであり、群内の差異を表す。
図12図12は、図10で選択した14種の代謝物の試料分析データに基づいてROC解析を行った結果を示す図である。X軸(横軸)は1-特異度(偽陽性)を表し、Y軸(縦軸)は感度(真陽性)を表す。AUC値は0.88であった。
図13図13は、後記表10で順位付けした14種の代謝物のうち上位7種の代謝物を除いた7種の代謝物の試料分析データに基づいてOPLS-DA分析を行った結果を示す図である。X軸(横軸)はT scoreであり、2群間の差異を表し、Y軸(縦軸)はorthogonal T scoreであり、群内の差異を表す。
図14図14は、後記表10で順位付けした14種の代謝物のうち上位7種の代謝物を除いた7種の代謝物の試料分析データに基づいてROC解析を行った結果を示す図である。X軸(横軸)は1-特異度(偽陽性)を表し、Y軸(縦軸)は感度(真陽性)を表す。AUC値は0.579であった。
図15図15は、後記表10で順位付けした14種の代謝物のうち上位7種の代謝物の試料分析データに基づいてROC解析を行った結果を示す図である。X軸(横軸)は1-特異度(偽陽性)を表し、Y軸(縦軸)は感度(真陽性)を表す。AUC値は0.754であった。
図16図16は、後記表10で順位付けした14種の代謝物のうち上位8種の代謝物の試料分析データに基づいてROC解析を行った結果を示す図である。X軸(横軸)は1-特異度(偽陽性)を表し、Y軸(縦軸)は感度(真陽性)を表す。AUC値は0.747であった。
図17図17は、横紋筋肉腫患者群の試料分析データと健常者群の試料分析データをもとにパスウェイ解析を行った結果を示す図である。p値(P value)および豊富化比率(enrichment ratio)に基づいて高リスク横紋筋肉腫と高い関係性がある代謝経路を特定した結果を示す図である。
図18図18は、後記表11で特定した9種の代謝物のうち5種(ジメチルグリシン、L-ヒスチジン、ベタイン、リノール酸およびオキソグルタル酸)の代謝物の試料分析データに基づいてROC解析を行った結果を示す図である。X軸(横軸)は1-特異度(偽陽性)を表し、Y軸(縦軸)は感度(真陽性)を表す。AUC値は0.787であった。
【発明の具体的説明】
【0009】
<<定義>>
本発明において「横紋筋肉腫」は、筋肉などの軟部組織から発生する軟部肉腫の1つであり、軟部悪性腫瘍としては小児で最も多くみられる。横紋筋肉腫は横紋筋のみならず、全身のあらゆる部位から発生し、特に、泌尿器、生殖器、頭頸部(傍髄膜および眼窩を含む)、四肢(上肢および下肢を含む)にみられる。2020WHO分類によると、横紋筋肉腫は病理診断により胎児型(Embryonal)、胞巣型(Alveolar)、Spindle cell/sclerosing、Pleomorphicの4サブタイプに大別されるが、小児においては胎児型と胞巣型が殆どである。胎児型は一般的に予後良好であることが知られており、横紋筋肉腫症例の約65%を占める。胞巣型は一般的に予後不良であることが知られており、横紋筋肉腫症例の約25%を占める。胞巣型では染色体転座が認められ、染色体転座に伴う変異遺伝子:PAX3FOXO1またはPAX7FOXO1の存在が予後不良因子であることが知られている(非特許文献1)。
【0010】
本発明において「生体試料」は、生体から分離された試料を意味し、例えば、尿、血液等の体液であり、好ましくは尿試料である。生体試料の採取方法は侵襲的であっても非侵襲的であってもよく、生体試料が尿試料の場合、非侵襲的に採取できる点で有利である。
【0011】
本発明における「対象」は、ヒトを含む哺乳動物が挙げられ、好ましくはヒトである。ヒト以外の対象としてはモデル動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ等のモデル哺乳動物)が挙げられる。
【0012】
本発明において被験対象は20歳未満のヒトを対象とすることができ、小児を対象とすることもできる。「小児」とは15歳未満の者をいい、新生児(出生後4週未満)、乳児(生後4週以上、1歳未満)および幼児(1歳以上、7歳未満)を含む。
【0013】
<<横紋筋肉腫の検出方法>>
本発明によれば、横紋筋肉腫の検出方法が提供される。本発明の横紋筋肉腫の検出方法によれば、被験対象の生体試料中の代謝物の量または濃度を指標にして横紋筋肉腫の存在または横紋筋肉腫の存在可能性を判定することができる。すなわち、本発明の横紋筋肉腫の検出方法は、生体試料中の代謝物の量または濃度を被験対象における横紋筋肉腫の存在または横紋筋肉腫の存在可能性と関連づけることを特徴とする。なお、本発明の検出方法においては被験対象の生体試料中の代謝物の量または濃度を指標にして横紋筋肉腫の存在または横紋筋肉腫の存在可能性を判定(決定)するという側面をもつため、本発明の横紋筋肉腫の検出方法は横紋筋肉腫の判定方法と言い換えることもできる。
【0014】
本発明において横紋筋肉腫の指標となる代謝物は、
(1) エチルグルクロニド、
(2) チミン、
(3) N-アセチルノイラミン酸、
(4) 5-メチルシチジンおよび
(5) カルノシン
からなる群から選択される1種または2種以上の物質を少なくとも含むものとすることができる。本明細書において上記(1)~(5)からなる群から選択される1種または2種以上の物質を「代謝物(a)」ということがある。
【0015】
本発明において横紋筋肉腫の指標となる代謝物はまた、
(6) リン酸フェニル、
(7) ベンゾイルグリシン、
(8) グアニジノ酢酸、
(9) L-アルギニノコハク酸、
(10) アゼライン酸、
(11) N-アセチル-L-フェニルアラニンおよび
(12) イミダゾール-4-酢酸
からなる群から選択される1種または2種以上の物質を少なくとも含むものとすることができる。本明細書において上記(6)~(12)からなる群から選択される1種または2種以上の物質を「代謝物(b)」ということがある。
【0016】
本発明の好ましい態様においては、代謝物(a)のすべての物質を横紋筋肉腫の指標とすることができる。本発明の好ましい態様においてはまた、代謝物(a)のすべての物質に加えて、代謝物(b)または代謝物(b)のすべての物質を横紋筋肉腫の指標とすることができる。
【0017】
本発明の好ましい態様においてはさらに、代謝物(a)のうちいずれか1種(例えば、上記(1)の物質)を横紋筋肉腫の指標とし、残り4種のうち1種、2種、3種または4種を場合により組み合わせて横紋筋肉腫の指標とすることができる。本発明の好ましい態様においてはまた、代謝物(b)のうちいずれか1種(例えば、上記(6)の物質)を横紋筋肉腫の指標とし、残り6種のうち1種、2種、3種、4種、5種または6種を場合により組み合わせて横紋筋肉腫の指標とすることができる。
【0018】
本発明において横紋筋肉腫の指標となる代謝物はまた、
(21) カルノシン、
(22) アンセリン、
(23) L-グルタミン酸、
(24) L-システイン、
(25) 1,3-ジアミノプロパン、
(26) タウリン、
(27) イミダゾール酢酸、
(28) α-リノレン酸および
(29) アラキドン酸
からなる群から選択される1種または2種以上の物質を少なくとも含むものとすることができる。本明細書において上記(21)~(29)からなる群から選択される1種または2種以上の物質を「代謝物(c)」ということがある。
【0019】
本発明の好ましい態様においては、代謝物(c)のうち上記(21)~(24)の物質を横紋筋肉腫の指標とすることができ、あるいは、代謝物(c)のすべての物質を横紋筋肉腫の指標とすることができる。本発明の好ましい態様においてはまた、代謝物(c)のすべての物質に加えて、代謝物(a)もしくは代謝物(a)のすべての物質、および/または、代謝物(b)もしくは代謝物(b)のすべての物質を横紋筋肉腫の指標とすることができる。
【0020】
本発明の好ましい態様においてはさらに、代謝物(c)のうちいずれか1種(例えば、上記(21)の物質)を横紋筋肉腫の指標とし、残り8種のうち1種、2種、3種、4種、5種、6種、7種または8種を場合により組み合わせて横紋筋肉腫の指標とすることができる。本発明の好ましい態様においてはまた、代謝物(c)のうち上記(21)~(24)の物質のいずれか1種(例えば、上記(21)の物質)を横紋筋肉腫の指標とし、残り3種のうち1種、2種または3種を場合により組み合わせて横紋筋肉腫の指標とすることができる。
【0021】
本発明の横紋筋肉腫の検出方法においては、まず、(A)被験対象の生体試料中における代謝物(a)および場合によっては代謝物(b)の量または濃度、あるいは代謝物(c)の量または濃度を測定する工程を実施することができる。代謝物(a)、代謝物(b)および代謝物(c)の量および濃度の測定は、生体試料および物質の特性に応じて公知の方法を選択して実施することができる。これら代謝物を測定する場合には、質量分析装置を接続した分析システムにより測定を実施することができる。質量分析装置を接続した分析システムの例としては、液体クロマトグラフィー-マススペクトロメトリー法(LC-MS)、液体クロマトグラフィー-タンデムマススペクトロメトリー法(LC-MSMS)、高速液体クロマトグラフィー-マススペクトロメトリー法(HPLC-MS)、高速液体クロマトグラフィー-タンデムマススペクトロメトリー法(HPLC-MSMS)、キャピラリー電気泳動-マススペクトロメトリー法(CE-MS)、キャピラリー電気泳動-タンデムマススペクトロメトリー法(CE-MSMS)、ガスクロマトグラフィー-マススペクトロメトリー法(GC-MS)、ガスクロマトグラフィー-タンデムマススペクトロメトリー法(GC-MSMS)が挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、質量分析装置としては、後記実施例で使用した飛行時間型(TOF-MS)の他、イオントラップ型、四重極型、磁場型等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
本発明の横紋筋肉腫の検出方法においては、被験対象の生体試料中における代謝物の測定結果に基づいて横紋筋肉腫を検出することができる。すなわち、本発明の横紋筋肉腫の検出方法においては、(B)代謝物(a)および場合によっては代謝物(b)の量または濃度を指標にして、あるいは代謝物(c)の量または濃度を指標にして、生体試料を採取した被験対象について横紋筋肉腫の存在または横紋筋肉腫の存在可能性を検出または判定する工程を含むことができる。工程(B)はさらに、被験対象の生体試料中の代謝物(a)および場合によっては代謝物(b)の量または濃度、あるいは代謝物(c)の量または濃度をカットオフ値と比較する工程をさらに含んでいてもよい。
【0023】
代謝物(a)のうち上記(1)~(4)の物質を指標とする場合、代謝物の量または濃度がカットオフ値より高いことが、前記対象における横紋筋肉腫の存在または横紋筋肉腫の存在可能性を示す。
【0024】
本発明の横紋筋肉腫の検出方法において、指標となる代謝物が上記(1)~(4)の物質の場合、工程(B)は、(B-a-1)被験対象の生体試料中の上記代謝物の量または濃度とあらかじめ定めたカットオフ値とを比較する工程と、(B-a-2)被験対象の生体試料中における上記代謝物の量または濃度がカットオフ値以上であるか、またはカットオフ値よりも高い場合に被験対象に横紋筋肉腫が存在するか、または横紋筋肉腫が存在する可能性があると判定する工程とにより実施することができる。
【0025】
指標となる代謝物が上記(1)~(4)の物質の場合においては、工程(B-a-2)では、被験対象の生体試料中における上記代謝物の量または濃度がカットオフ値以下であるか、またはカットオフ値よりも低い場合に被験対象に横紋筋肉腫が存在しないか、または横紋筋肉腫が存在する可能性が低いと判定することもできる。
【0026】
代謝物(a)および(b)のうち上記(5)~(12)の物質を指標とする場合、代謝物の量または濃度がカットオフ値より低いことが、前記対象における横紋筋肉腫の存在または横紋筋肉腫の存在可能性を示す。
【0027】
本発明の横紋筋肉腫の検出方法において、指標となる代謝物が上記(5)~(12)の物質の場合、工程(B)は、(B-b-1)被験対象の生体試料中の上記代謝物の量または濃度とあらかじめ定めたカットオフ値とを比較する工程と、(B-b-2)被験対象の生体試料中における上記代謝物の量または濃度がカットオフ値以下であるか、またはカットオフ値よりも低い場合に被験対象に横紋筋肉腫が存在するか、または横紋筋肉腫が存在する可能性があると判定する工程とにより実施することができる。
【0028】
指標となる代謝物が上記(5)~(12)の物質の場合においては、工程(B-b-2)では、被験対象の生体試料中における上記代謝物の量または濃度がカットオフ値以上であるか、またはカットオフ値よりも高い場合に被験対象に横紋筋肉腫が存在しないか、または横紋筋肉腫が存在する可能性が低いと判定することもできる。
【0029】
代謝物(c)を指標とする場合、代謝物の量または濃度がカットオフ値より高いことが、前記対象における横紋筋肉腫の存在または横紋筋肉腫の存在可能性を示す。
【0030】
本発明の横紋筋肉腫の検出方法において、指標となる代謝物が上記(21)~(29)の物質の場合、工程(B)は、(B-c-1)被験対象の生体試料中の上記代謝物の量または濃度とあらかじめ定めたカットオフ値とを比較する工程と、(B-c-2)被験対象の生体試料中における上記代謝物の量または濃度がカットオフ値以上であるか、またはカットオフ値よりも高い場合に被験対象に横紋筋肉腫が存在するか、または横紋筋肉腫が存在する可能性があると判定する工程とにより実施することができる。
【0031】
指標となる代謝物が上記(21)~(29)の物質の場合においては、工程(B-c-2)では、被験対象の生体試料中における上記代謝物の量または濃度がカットオフ値以下であるか、またはカットオフ値よりも低い場合に被験対象に横紋筋肉腫が存在しないか、または横紋筋肉腫が存在する可能性が低いと判定することもできる。
【0032】
本発明の横紋筋肉腫の検出方法において2種以上の代謝物を組み合わせて検出を行うと、単独で検出を行った場合と比較して、より正確に横紋筋肉腫の存在を検出することができる。本発明の横紋筋肉腫の検出方法において2種以上の本発明の代謝物を組み合わせて検出を行う場合には、工程(A)および工程(B)をそれぞれの代謝物について実施することができる。この場合、それぞれの代謝物に基づいて示された判定結果を組み合わせて横紋筋肉腫の存否を判定することができる。例えば、2種類の本発明の代謝物の両方について横紋筋肉腫の存在が示された場合(あるいは横紋筋肉腫の存在可能性が示された場合)には、それぞれの代謝物単独での結果よりも横紋筋肉腫の存在が強く示唆され、2種類の本発明の代謝物の両方について横紋筋肉腫の存在が否定された場合(あるいは横紋筋肉腫の存在可能性が低いことが示された場合)には、それぞれの代謝物単独での結果よりも横紋筋肉腫の存在が強く否定される。
【0033】
本発明の横紋筋肉腫の検出方法において2種以上の代謝物を組み合わせて検出を行う場合には、後述のように、複数種の代謝物の量または濃度の測定値の合計値、平均値、比率等を用いて一つの値(結合指標値)を算出することができ、あるいは、複数種の代謝物の量または濃度のそれぞれの測定値に重み付けをした上で合計値、平均値、比率等を一つの値(結合指標値)として算出することもできる。
【0034】
本発明において横紋筋肉腫の検出に用いるカットオフ値は、横紋筋肉腫に罹患していない対象(正常対象)の試料における本発明の代謝物の量または濃度の測定値から算出し、決定することができる。このような対象は、治療中の疾患がない健常者が好ましいが、横紋筋肉腫以外の疾患を有する対象であってもよい。本発明においてカットオフ値はまた、横紋筋肉腫に罹患した対象(罹患対象)の試料における本発明の代謝物の量または濃度の測定値から算出し、決定することができる。上記のカットオフ値の決定方法においては、正常対象群または罹患対象群の測定値の平均値、中央値、パーセンタイル値、最大値または最小値を使用することができる。パーセンタイル値は任意の値を選択することができ、例えば、5、10、15、20、25、30、40、50、60、70、75、80、85、90または95とすることができる。カットオフ値を算出する際の正常対象および罹患対象の例数は複数例が好ましく、例えば、2例以上、5例以上、10例以上、20例以上または50例以上とすることができる。
【0035】
本発明において横紋筋肉腫の検出に用いるカットオフ値はまた、横紋筋肉腫に罹患していない対象(正常対象)の試料における本発明の代謝物の量または濃度の測定値と、横紋筋肉腫に罹患した対象(罹患対象)の試料における本発明の代謝物の量または濃度の測定値に基づいて算出することもできる。例えば、罹患対象群と、正常対象群について、生体試料における本発明の代謝物の量または濃度を測定し、得られた測定値を用いてROC解析等の統計解析を行うことによりカットオフ値を設定することができる。ROC曲線の作成とROC曲線に基づくカットオフ値の設定は周知であり、感度や特異度の観点から当業者がカットオフ値を設定することができる。
【0036】
本発明の横紋筋肉腫の検出方法の工程(B)においては、例えば、被験対象の生体試料中における前記(1)~(4)の各物質の量または濃度、あるいは被験対象の生体試料中における前記(21)~(29)の各物質の量または濃度が正常対象群の当該代謝物の量または濃度の平均値よりも高いか、あるいは該平均値と比較して約1.1倍以上、約1.2倍以上、約1.3倍以上、約1.4倍以上、約1.5倍以上、約1.6倍以上、約1.7倍以上、約1.8倍以上、約1.9倍以上、約2.0倍以上、約2.1倍以上、約2.2倍以上、約2.3倍以上、約2.4倍以上、約2.5倍以上または約3倍以上である場合に、被験対象に横紋筋肉腫が存在する(あるいは横紋筋肉腫が存在する可能性がある)と判定することができる。
【0037】
本発明の検出方法の工程(B)においてはまた、例えば、被験対象の生体試料中における前記(5)~(12)の各物質の量または濃度が正常対象群の当該代謝物の量または濃度の平均値よりも低いか、あるいは該平均値と比較して約0.9倍以下、約0.85倍以下、約0.8倍以下、約0.75倍以下、約0.7倍以下、約0.65倍以下、約0.6倍以下、約0.55倍以下、約0.5倍以下、約0.45倍以下、約0.4倍以下または約0.35倍以下である場合に、被験対象に横紋筋肉腫が存在する(あるいは横紋筋肉腫が存在する可能性がある)と判定することができる。
【0038】
本発明においては、本発明の代謝物のうち複数種を組み合わせて使用することにより検出精度を向上させることができる。ここで検出精度が向上するとは、ROC解析を利用した場合には、ROC曲線の曲線下面積(AUC)が向上することを意味する。
【0039】
本発明において本発明の代謝物を複数種組み合わせて指標とする場合には、指標となる複数種の代謝物の量または濃度の測定値に対して一つのカットオフ値を設定することもできる。例えば、複数種の代謝物の量または濃度の測定値の合計値、平均値、比率等を用いてカットオフ値を算出することができ、あるいは、複数種の代謝物の量または濃度のそれぞれの測定値に重み付けをした上で合計値、平均値、比率等を算出し、該算出値を用いてカットオフ値を算出することができる。このようにして算出されたカットオフ値を本発明に用いる場合には、カットオフ値の算出方法と同じ方法で被験対象の生体試料中の複数種の代謝物の量または濃度の測定値を処理し、得られた一つの数値(結合指標値)をあらかじめ定めたカットオフ値とを比較することで判定を行うことができる。
【0040】
複数種の代謝物の量または濃度のそれぞれの測定値に重み付けをした上で合計値、平均値、比率等を算出する方法は公知であり、線形判別分析(linear discriminant analysis)に従って各代謝物に対する係数を算出することができる。線形判別分析を行う数値解析ソフトウエアは当業界において入手可能である。
【0041】
本発明の横紋筋肉腫の検出方法によれば、被験対象について横紋筋肉腫の存在を検出することができる。従って、本発明の横紋筋肉腫の検出方法は、横紋筋肉腫の診断に補助的に用いることができ、被験対象が横紋筋肉腫に罹患しているか否かの判断は、場合によっては他の所見と組み合わせて、最終的には医師が行うことができる。例えば、本発明の横紋筋肉腫の検出方法により横紋筋肉腫が存在する(あるいは横紋筋肉腫が存在する可能性がある)と判定された被験対象については、医師が他の所見を参照しつつ被験対象が横紋筋肉腫に罹患しているかを判断することができる。すなわち、本発明の横紋筋肉腫の検出方法は横紋筋肉腫の診断を補助する方法あるいは横紋筋肉腫の診断を支援する方法と言い換えることができる。なお、本発明の横紋筋肉腫の検出方法は、外科手術により採取した組織を病理診断せずに横紋筋肉腫の存在を判定できる点でも有利である。
【0042】
本発明の横紋筋肉腫の検出方法によれば、被験対象から採取された生体試料を分析し、定量的に横紋筋肉腫の検出または評価を行うことができる。すなわち、本発明の横紋筋肉腫の検出方法は、患者への負担を軽減しつつ、簡便かつ的確に横紋筋肉腫を検出または評価できる点で有利である。このため本発明の横紋筋肉腫の検出方法は、横紋筋肉腫を検出または評価するための生体試料分析方法(好ましくは尿試料分析方法)と言い換えることができる。
【0043】
本発明の横紋筋肉腫の検出方法によれば、横紋筋肉腫の患者を特定することができる。このため、本発明の別の側面によれば、横紋筋肉腫の治療方法が提供される。本発明の横紋筋肉腫の治療方法は、本発明の横紋筋肉腫の検出方法を実施し、横紋筋肉腫の存在が示された対象(あるいは横紋筋肉腫の存在可能性が示された対象)を選択する工程を含んでいてもよい。この工程は、被験対象から被験試料を得ること、該試料中の代謝物の量または濃度を測定すること、および/または、該試料中の代謝物の量または濃度をカットオフ値と比較することを含んでいてもよい。本発明の横紋筋肉腫の治療方法はまた、選択された対象に対して横紋筋肉腫の治療を行う工程を含んでいてもよい。横紋筋肉腫の治療としては、外科療法、化学療法、放射線療法、免疫療法等の療法が挙げられ、緩和ケア等の緩和療法も含まれる。
【0044】
<<横紋筋肉腫のサブタイプの検出方法>>
本発明によれば、横紋筋肉腫のサブタイプの検出方法が提供される。本発明の横紋筋肉腫のサブタイプの検出方法によれば、被験対象の生体試料中の代謝物の量または濃度を指標にして横紋筋肉腫のサブタイプを判定することができる。すなわち、本発明の横紋筋肉腫のサブタイプの検出方法は、生体試料中の代謝物の量または濃度を被験対象における横紋筋肉腫のサブタイプと関連づけることを特徴とする。なお、本発明の横紋筋肉腫のサブタイプの検出方法においては被験対象の生体試料中の代謝物の量または濃度を指標にして横紋筋肉腫のサブタイプを判定(決定)するという側面をもつため、本発明の横紋筋肉腫のサブタイプの検出方法は横紋筋肉腫のサブタイプの判定方法と言い換えることもできる。
【0045】
本発明において横紋筋肉腫のサブタイプの指標となる代謝物は、
(101) L-フェニルアラニン、
(102) ホモシトルリン、
(103) GDPグルコース、
(104) L-ヒスチジン、
(105) N,N-ジメチルアルギニン、
(106) N2-アセチル-L-リジンおよび
(107) チミジン一リン酸(dTMP)
からなる群から選択される1種または2種以上の物質を少なくとも含むものとすることができる。本明細書において上記(101)~(107)からなる群から選択される1種または2種以上の物質を「代謝物(d)」ということがある。
【0046】
本発明において横紋筋肉腫のサブタイプの指標となる代謝物はまた、
(108) L-2-アミノアジピン酸、
(109) βアミノイソ酪酸、
(110) 1-メチルヒスチジン、
(111) α-D-グルコース6-リン酸、
(112) N,N-ジメチルグリシン、
(113) グアニジノ酢酸および
(114) 16-エピエストリオール
からなる群から選択される1種または2種以上の物質を少なくとも含むものとすることができる。本明細書において上記(108)~(114)からなる群から選択される1種または2種以上の物質を「代謝物(e)」ということがある。
【0047】
本発明の好ましい態様においては、代謝物(d)のすべての物質を横紋筋肉腫のサブタイプの指標とすることができる。本発明の好ましい態様においてはまた、代謝物(d)のすべての物質に加えて、代謝物(e)または代謝物(e)のすべての物質を横紋筋肉腫のサブタイプの指標とすることができる。
【0048】
本発明の好ましい態様においてはさらに、代謝物(d)のうちいずれか1種(例えば、上記(101)の物質)を横紋筋肉腫のサブタイプの指標とし、残り6種のうち1種、2種、3種、4種、5種または6種を場合により組み合わせて横紋筋肉腫のサブタイプの指標とすることができる。本発明の好ましい態様においてはまた、代謝物(e)のうちいずれか1種(例えば、上記(108)の物質)を横紋筋肉腫のサブタイプの指標とし、残り6種のうち1種、2種、3種、4種、5種または6種を場合により組み合わせて横紋筋肉腫のサブタイプの指標とすることができる。
【0049】
本発明の横紋筋肉腫のサブタイプの検出方法においては、まず、(C)被験対象の生体試料中における代謝物(d)および場合によっては代謝物(e)の量または濃度を測定する工程を実施することができる。代謝物(d)および代謝物(e)の量および濃度の測定は、生体試料および物質の特性に応じて公知の方法を選択して実施することができる。これら代謝物の測定装置は本発明の横紋筋肉腫の検出方法において記載のものを使用することができる。
【0050】
本発明の横紋筋肉腫のサブタイプの検出方法においては、被験対象の生体試料中における代謝物の測定結果に基づいて横紋筋肉腫のサブタイプを検出することができる。すなわち、本発明の横紋筋肉腫のサブタイプの検出方法においては、(D)代謝物(d)および場合によっては代謝物(e)の量または濃度を指標にして、生体試料を採取した被験対象について横紋筋肉腫のサブタイプを検出または判定する工程を含むことができる。工程(D)はさらに、被験対象の生体試料中の代謝物(d)および場合によっては代謝物(e)の量または濃度をカットオフ値と比較する工程をさらに含んでいてもよい。
【0051】
代謝物(d)および(e)のうち上記(101)、(102)および(104)~(114)の物質を指標とする場合、代謝物の量または濃度がカットオフ値より高いことが、前記対象における胞巣型の横紋筋肉腫の存在または胞巣型の横紋筋肉腫の存在可能性を示す。
【0052】
本発明の横紋筋肉腫のサブタイプの検出方法において、指標となる代謝物が上記(101)、(102)および(104)~(114)の物質の場合、工程(D)は、(D-a-1)被験対象の生体試料中の上記代謝物の量または濃度とあらかじめ定めたカットオフ値とを比較する工程と、(D-a-2)被験対象の生体試料中における上記代謝物の量または濃度がカットオフ値以上であるか、またはカットオフ値よりも高い場合に被験対象における横紋筋肉腫が胞巣型であるか、または胞巣型である可能性があると判定する工程とにより実施することができる。
【0053】
指標となる代謝物が上記(101)、(102)および(104)~(114)の物質の場合においては、工程(D-a-2)では、被験対象の生体試料中における上記代謝物の量または濃度がカットオフ値以下であるか、またはカットオフ値よりも低い場合に被験対象における横紋筋肉腫が胞巣型ではないか、または胞巣型である可能性が低いと判定することもできる。
【0054】
代謝物(d)のうち上記(103)の物質を指標とする場合、代謝物の量または濃度がカットオフ値より低いことが、前記対象における胞巣型の横紋筋肉腫の存在または胞巣型の横紋筋肉腫の存在可能性を示す。
【0055】
本発明の横紋筋肉腫のサブタイプの検出方法において、指標となる代謝物が上記(103)の物質の場合、工程(D)は、(D-b-1)被験対象の生体試料中の上記代謝物の量または濃度とあらかじめ定めたカットオフ値とを比較する工程と、(D-b-2)被験対象の生体試料中における上記代謝物の量または濃度がカットオフ値以下であるか、またはカットオフ値よりも低い場合に被験対象における横紋筋肉腫が胞巣型であるか、または胞巣型である可能性があると判定する工程とにより実施することができる。
【0056】
指標となる代謝物が上記(103)の物質の場合においては、工程(D-b-2)では、被験対象の生体試料中における上記代謝物の量または濃度がカットオフ値以上であるか、またはカットオフ値よりも高い場合に被験対象における横紋筋肉腫が胞巣型ではないか、または胞巣型である可能性が低いと判定することもできる。
【0057】
本発明の横紋筋肉腫のサブタイプの検出方法において2種以上の代謝物を組み合わせて検出を行うと、単独で検出を行った場合と比較して、より正確に横紋筋肉腫のサブタイプを検出することができる。本発明の横紋筋肉腫のサブタイプの検出方法において2種以上の本発明の代謝物を組み合わせて検出を行う場合には、工程(C)および工程(D)をそれぞれの代謝物について実施することができる。この場合、それぞれの代謝物に基づいて示された判定結果を組み合わせて横紋筋肉腫のサブタイプを判定することができる。例えば、2種類の本発明の代謝物の両方について胞巣型の横紋筋肉腫の存在が示された場合(あるいは胞巣型の横紋筋肉腫の存在可能性が示された場合)には、それぞれの代謝物単独での結果よりも胞巣型の横紋筋肉腫の存在が強く示唆され、2種類の本発明の代謝物の両方について胞巣型の横紋筋肉腫の存在が否定された場合(あるいは胞巣型の横紋筋肉腫の存在可能性が低いことが示された場合)には、それぞれの代謝物単独での結果よりも胞巣型の横紋筋肉腫の存在が強く否定される。
【0058】
本発明の横紋筋肉腫のサブタイプの検出方法において2種以上の代謝物を組み合わせて検出を行う場合には、後述のように、複数種の代謝物の量または濃度の測定値の合計値、平均値、比率等を用いて一つの値(結合指標値)を算出することができ、あるいは、複数種の代謝物の量または濃度のそれぞれの測定値に重み付けをした上で合計値、平均値、比率等を一つの値(結合指標値)として算出することもできる。
【0059】
本発明において横紋筋肉腫のサブタイプの検出に用いるカットオフ値は、胎児型の横紋筋肉腫に罹患した対象(胎児型罹患対象)の試料における本発明の代謝物の量または濃度の測定値から算出し、決定することができる。本発明においてカットオフ値はまた、胞巣型の横紋筋肉腫に罹患した対象(胞巣型罹患対象)の試料における本発明の代謝物の量または濃度の測定値から算出し、決定することもできる。上記のカットオフ値の決定方法においては、胎児型罹患対象群または胞巣型罹患対象群の測定値の平均値、中央値、パーセンタイル値、最大値または最小値を使用することができる。パーセンタイル値は任意の値を選択することができ、例えば、5、10、15、20、25、30、40、50、60、70、75、80、85、90または95とすることができる。カットオフ値を算出する際の胎児型罹患対象および胞巣型罹患対象の例数は複数例が好ましく、例えば、2例以上、5例以上、10例以上、20例以上または50例以上とすることができる。
【0060】
本発明において横紋筋肉腫のサブタイプの検出に用いるカットオフ値はまた、胎児型横紋筋肉腫に罹患した対象(胎児型罹患対象)の試料における本発明の代謝物の量または濃度の測定値と、胞巣型横紋筋肉腫に罹患した対象(胞巣型罹患対象)の試料における本発明の代謝物の量または濃度の測定値に基づいて算出することもできる。例えば、胞巣型罹患対象群と、胎児型罹患対象群について、生体試料における本発明の代謝物の量または濃度を測定し、得られた測定値を用いてROC解析等の統計解析を行うことによりカットオフ値を設定することができる。ROC曲線の作成とROC曲線に基づくカットオフ値の設定は周知であり、感度や特異度の観点から当業者がカットオフ値を設定することができる。
【0061】
本発明の横紋筋肉腫のサブタイプの検出方法の工程(D)においては、例えば、被験対象の生体試料中における前記(101)、(102)および(104)~(114)の物質の量または濃度が胎児型罹患対象群の当該代謝物の量または濃度の平均値よりも高いか、あるいは該平均値と比較して約1.1倍以上、約1.2倍以上、約1.3倍以上、約1.4倍以上、約1.5倍以上、約1.6倍以上、約1.7倍以上、約1.8倍以上、約1.9倍以上、約2.0倍以上、約2.1倍以上、約2.2倍以上、約2.3倍以上、約2.4倍以上、約2.5倍以上または約3倍以上である場合に、被験対象に胞巣型の横紋筋肉腫が存在する(あるいは胞巣型の横紋筋肉腫が存在する可能性がある)と判定することができる。
【0062】
本発明の検出方法の工程(D)においてはまた、例えば、被験対象の生体試料中における前記(103)の物質の量または濃度が胎児型罹患対象群の当該代謝物の量または濃度の平均値よりも低いか、あるいは該平均値と比較して約0.9倍以下、約0.85倍以下、約0.8倍以下、約0.75倍以下、約0.7倍以下、約0.65倍以下、約0.6倍以下、約0.55倍以下、約0.5倍以下、約0.45倍以下、約0.4倍以下または約0.35倍以下である場合に、被験対象に胞巣型の横紋筋肉腫が存在する(あるいは胞巣型の横紋筋肉腫が存在する可能性がある)と判定することができる。
【0063】
本発明においては、本発明の代謝物のうち複数種を組み合わせて使用することにより検出精度を向上させることができる。ここで検出精度が向上するとは、ROC解析を利用した場合には、ROC曲線の曲線下面積(AUC)が向上することを意味する。
【0064】
本発明の横紋筋肉腫のサブタイプの検出方法において、本発明の代謝物を複数種組み合わせて指標とする場合には、本発明の横紋筋肉腫の検出方法において記載した内容に従ってカットオフ値および測定値(結合指標値)を算出することができる。
【0065】
本発明の横紋筋肉腫のサブタイプの検出方法によれば、被験対象について横紋筋肉腫のサブタイプを検出することができる。従って、本発明の横紋筋肉腫のサブタイプの検出方法は、横紋筋肉腫のサブタイプの診断に補助的に用いることができ、被験対象がどのサブタイプの横紋筋肉腫に罹患しているか否かの判断は、場合によっては他の所見と組み合わせて、最終的には医師が行うことができる。例えば、本発明の横紋筋肉腫のサブタイプの検出方法により胞巣型の横紋筋肉腫が存在する(あるいは胞巣型の横紋筋肉腫が存在する可能性がある)と判定された被験対象については、医師が他の所見を参照しつつ被験対象が胞巣型の横紋筋肉腫に罹患しているかを判断することができる。すなわち、本発明の横紋筋肉腫のサブタイプの検出方法は横紋筋肉腫のサブタイプの診断を補助する方法あるいは横紋筋肉腫のサブタイプの診断を支援する方法と言い換えることができる。なお、本発明の横紋筋肉腫のサブタイプの検出方法は、外科手術により採取した組織を病理診断せずに横紋筋肉腫のサブタイプを判定できる点でも有利である。
【0066】
本発明の横紋筋肉腫のサブタイプの検出方法によれば、被験対象から採取された生体試料を分析し、定量的に横紋筋肉腫のサブタイプについて検出または評価を行うことができる。すなわち、本発明の横紋筋肉腫のサブタイプの検出方法は、患者への負担を軽減しつつ、簡便かつ的確に横紋筋肉腫のサブタイプを検出または評価できる点で有利である。このため本発明の横紋筋肉腫のサブタイプの検出方法は、横紋筋肉腫のサブタイプを検出または評価するための生体試料分析方法(好ましくは尿試料分析方法)と言い換えることができる。
【0067】
本発明の横紋筋肉腫のサブタイプの検出方法によれば、横紋筋肉腫の患者のサブタイプを特定することができる。このため、本発明の別の側面によれば、胞巣型または胎児型の横紋筋肉腫の治療方法が提供される。本発明の胞巣型の横紋筋肉腫の治療方法は、本発明の横紋筋肉腫のサブタイプの検出方法を実施し、胞巣型の横紋筋肉腫の存在が示された対象(あるいは胞巣型の横紋筋肉腫の存在可能性が示された対象)を選択する工程を含んでいてもよい。本発明の胎児型の横紋筋肉腫の治療方法は、本発明の横紋筋肉腫のサブタイプの検出方法を実施し、胎児型の横紋筋肉腫の存在が示された対象(あるいは胎児型の横紋筋肉腫の存在可能性が示された対象)を選択する工程を含んでいてもよい。この工程は、被験対象から被験試料を得ること、該試料中の代謝物の量または濃度を測定すること、および/または、該試料中の代謝物の量または濃度をカットオフ値と比較することを含んでいてもよい。本発明の胞巣型または胎児型横紋筋肉腫の治療方法はまた、選択された対象に対して胞巣型または胎児型の横紋筋肉腫の治療を行う工程を含んでいてもよい。胞巣型および胎児型の横紋筋肉腫の治療としては、外科療法、化学療法、放射線療法、免疫療法等の療法が挙げられ、緩和ケア等の緩和療法も含まれる点では共通するが、胞巣型の場合には胎児型と比べて予後不良である可能性が高いため、例えば、化学療法および放射線療法を組み合わせて実施する、治療を長期間実施する等、強い治療を実施することができる。また胎児型の場合には胞巣型と比べて予後不良である可能性が低いため、例えば、経過観察を含めた軽度の治療を実施することができる。
【0068】
<<高リスクの横紋筋肉腫の検出方法>>
本発明によれば、高リスクの横紋筋肉腫の検出方法が提供される。本発明の高リスクの横紋筋肉腫の検出方法によれば、被験対象の生体試料中の代謝物の量または濃度を指標にして高リスクの横紋筋肉腫を判定することができる。すなわち、本発明の高リスクの横紋筋肉腫の検出方法は、生体試料中の代謝物の量または濃度を被験対象における高リスクの横紋筋肉腫と関連づけることを特徴とする。
【0069】
なお、本発明の高リスクの横紋筋肉腫の検出方法においては被験対象の生体試料中の代謝物の量または濃度を指標にして高リスクの横紋筋肉腫を判定(決定)するという側面をもつため、本発明の高リスクの横紋筋肉腫の検出方法は高リスクの横紋筋肉腫の判定方法と言い換えることもできる。本発明の高リスクの横紋筋肉腫の検出方法においてはまた、被験対象の生体試料中の代謝物の量または濃度を指標にして横紋筋肉腫のリスク分類を判定(決定)するという側面をもつため、本発明の高リスクの横紋筋肉腫の検出方法は横紋筋肉腫のリスク分類の判定方法と言い換えることもできる。
【0070】
本発明において高リスクの横紋筋肉腫の指標となる代謝物は、
(121) オキソグルタル酸、
(122) L-ヒスチジン、
(123) リノール酸、
(124) ベタイン、
(125) ジメチルグリシン、
(126) サッカロピン、
(127) アミノアジピン酸、
(128) α-リノレン酸および
(129) グアニド酢酸
からなる群から選択される1種または2種以上の物質を少なくとも含むものとすることができる。本明細書において上記(121)~(129)からなる群から選択される1種または2種以上の物質を「代謝物(f)」ということがある。
【0071】
本発明の好ましい態様においては、代謝物(f)のうち上記(121)~(125)の物質を横紋筋肉腫の指標とすることができ、あるいは、代謝物(f)のすべての物質を高リスクの横紋筋肉腫の指標とすることができる。
【0072】
本発明の好ましい態様においてはさらに、代謝物(f)のうちいずれか1種(例えば、上記(121)の物質)を高リスクの横紋筋肉腫の指標とし、残り8種のうち1種、2種、3種、4種、5種、6種、7種または8種を場合により組み合わせて高リスクの横紋筋肉腫の指標とすることができる。本発明の好ましい態様においてはまた、代謝物(f)の上記(121)~(125)の物質のうちいずれか1種(例えば、上記(121)の物質)を高リスクの横紋筋肉腫の指標とし、残り4種のうち1種、2種、3種または4種を場合により組み合わせて高リスクの横紋筋肉腫の指標とすることができる。
【0073】
本発明の高リスクの横紋筋肉腫の検出方法においては、まず、(E)被験対象の生体試料中における代謝物(f)の量または濃度を測定する工程を実施することができる。代謝物(f)の量および濃度の測定は、生体試料および物質の特性に応じて公知の方法を選択して実施することができる。これら代謝物の測定装置は本発明の横紋筋肉腫の検出方法において記載のものを使用することができる。
【0074】
本発明の高リスクの横紋筋肉腫の検出方法においては、被験対象の生体試料中における代謝物の測定結果に基づいて高リスクの横紋筋肉腫を検出することができる。すなわち、本発明の高リスクの横紋筋肉腫の検出方法においては、(F)代謝物(f)の量または濃度を指標にして、生体試料を採取した被験対象について高リスクの横紋筋肉腫を検出または判定する工程を含むことができる。工程(F)はさらに、被験対象の生体試料中の代謝物(f)の量または濃度をカットオフ値と比較する工程をさらに含んでいてもよい。
【0075】
代謝物(f)を指標とする場合、代謝物の量または濃度がカットオフ値より高いことが、前記対象における高リスクの横紋筋肉腫の存在または高リスクの横紋筋肉腫の存在可能性を示す。
【0076】
本発明の高リスクの横紋筋肉腫の検出方法において、指標となる代謝物が上記(121)~(129)の物質の場合、工程(F)は、(F-a-1)被験対象の生体試料中の上記代謝物の量または濃度とあらかじめ定めたカットオフ値とを比較する工程と、(F-a-2)被験対象の生体試料中における上記代謝物の量または濃度がカットオフ値以上であるか、またはカットオフ値よりも高い場合に被験対象における横紋筋肉腫が高リスクの横紋筋肉腫であるか、または中間リスクの横紋筋肉腫または低リスクの横紋筋肉腫ではないと判定する工程とにより実施することができる。
【0077】
指標となる代謝物が上記(121)~(129)の物質の場合においては、工程(F-a-2)では、被験対象の生体試料中における上記代謝物の量または濃度がカットオフ値以下であるか、またはカットオフ値よりも低い場合に被験対象における横紋筋肉腫が高リスクの横紋筋肉腫ではないか、または中間リスクの横紋筋肉腫または低リスクの横紋筋肉腫であると判定することもできる
【0078】
本発明において、横紋筋肉腫のリスク群の分類は、日本横紋筋肉腫研究グループ(JRSG:Japan Rhabdomyosarcoma Study Group)が用いる「リスク分類」(JRS-IIリスク分類またはそれと同等の分類)に従うものとする。すなわち、「治療前ステージ分類」および「手術後グループ分類」の結果を組み合わせてリスク分類を行うことができる。このため、高リスクの横紋筋肉腫は、胎児型の場合、治療前ステージIVで、かつ、手術後グループIV(遠隔転移)の症例が該当し、胞巣型の場合、治療前ステージIIで、かつ、手術後グループIII(眼窩以外、リンパ節転移なし)の症例;治療前ステージIIIで、かつ、手術後グループIII(眼窩以外)の症例;および治療前ステージIVで、かつ、手術後グループIV(遠隔転移)の症例が該当する。なお、JRSGのリスク分類による「低リスクA」および「低リスクB」は低リスク群とした。
【0079】
本発明の高リスクの横紋筋肉腫の検出方法において2種以上の代謝物を組み合わせて検出を行うと、単独で検出を行った場合と比較して、より正確に高リスクの横紋筋肉腫を検出することができる。本発明の高リスクの横紋筋肉腫の検出方法において2種以上の本発明の代謝物を組み合わせて検出を行う場合には、工程(E)および工程(F)をそれぞれの代謝物について実施することができる。この場合、それぞれの代謝物に基づいて示された判定結果を組み合わせて高リスクの横紋筋肉腫を判定することができる。例えば、2種類の本発明の代謝物の両方について高リスクの横紋筋肉腫の存在が示された場合(あるいは胞巣型の横紋筋肉腫の存在可能性が示された場合)には、それぞれの代謝物単独での結果よりも高リスクの横紋筋肉腫の存在が強く示唆され、2種類の本発明の代謝物の両方について高リスクの横紋筋肉腫の存在が否定された場合(あるいは高リスクの横紋筋肉腫の存在可能性が低いことが示された場合)には、それぞれの代謝物単独での結果よりも高リスクの横紋筋肉腫の存在が強く否定される。
【0080】
本発明の高リスクの横紋筋肉腫の検出方法において2種以上の代謝物を組み合わせて検出を行う場合には、後述のように、複数種の代謝物の量または濃度の測定値の合計値、平均値、比率等を用いて一つの値(結合指標値)を算出することができ、あるいは、複数種の代謝物の量または濃度のそれぞれの測定値に重み付けをした上で合計値、平均値、比率等を一つの値(結合指標値)として算出することもできる。
【0081】
本発明において高リスクの横紋筋肉腫の検出に用いるカットオフ値は、低リスクおよび中間リスクの横紋筋肉腫に罹患した対象(低リスク・中間リスク群)の試料における本発明の代謝物の量または濃度の測定値から算出し、決定することができる。本発明においてカットオフ値はまた、高リスクの横紋筋肉腫に罹患した対象(高リスク群)の試料における本発明の代謝物の量または濃度の測定値から算出し、決定することもできる。上記のカットオフ値の決定方法においては、低リスク・中間リスク群または高リスク群の測定値の平均値、中央値、パーセンタイル値、最大値または最小値を使用することができる。パーセンタイル値は任意の値を選択することができ、例えば、5、10、15、20、25、30、40、50、60、70、75、80、85、90または95とすることができる。カットオフ値を算出する際の低リスク・中間リスク群および高リスク群の例数は複数例が好ましく、例えば、2例以上、5例以上、10例以上、20例以上または50例以上とすることができる。
【0082】
本発明において高リスクの横紋筋肉腫の検出に用いるカットオフ値はまた、低リスク・中間リスク群の対象の試料における本発明の代謝物の量または濃度の測定値と、高リスク群の対象の試料における本発明の代謝物の量または濃度の測定値に基づいて算出することもできる。例えば、高リスク群の対象と、低リスク・中間リスク群の対象について、生体試料における本発明の代謝物の量または濃度を測定し、得られた測定値を用いてROC解析等の統計解析を行うことによりカットオフ値を設定することができる。ROC曲線の作成とROC曲線に基づくカットオフ値の設定は周知であり、感度や特異度の観点から当業者がカットオフ値を設定することができる。
【0083】
本発明の高リスクの横紋筋肉腫の検出方法の工程(F)においては、例えば、被験対象の生体試料中における代謝物(f)の量または濃度が低リスク・中間リスク群の当該代謝物の量または濃度の平均値よりも高いか、あるいは該平均値と比較して約1.1倍以上、約1.2倍以上、約1.3倍以上、約1.4倍以上、約1.5倍以上、約1.6倍以上、約1.7倍以上、約1.8倍以上、約1.9倍以上、約2.0倍以上、約2.1倍以上、約2.2倍以上、約2.3倍以上、約2.4倍以上、約2.5倍以上または約3倍以上である場合に、被験対象に高リスクの横紋筋肉腫が存在する(あるいは高リスクの横紋筋肉腫が存在する可能性がある)と判定することができる。
【0084】
本発明においては、本発明の代謝物のうち複数種を組み合わせて使用することにより検出精度を向上させることができる。ここで検出精度が向上するとは、ROC解析を利用した場合には、ROC曲線の曲線下面積(AUC)が向上することを意味する。
【0085】
本発明の高リスクの横紋筋肉腫の検出方法において、本発明の代謝物を複数種組み合わせて指標とする場合には、本発明の横紋筋肉腫の検出方法において記載した内容に従ってカットオフ値および測定値(結合指標値)を算出することができる。
【0086】
本発明の高リスクの横紋筋肉腫の検出方法によれば、被験対象について高リスクの横紋筋肉腫を検出することができる。従って、本発明の高リスクの横紋筋肉腫の検出方法は、高リスクの横紋筋肉腫の診断に補助的に用いることができ、被験対象がどのリスク分類の横紋筋肉腫に罹患しているか否かの判断は、場合によっては他の所見と組み合わせて、最終的には医師が行うことができる。例えば、本発明の高リスクの横紋筋肉腫の検出方法により高リスクの横紋筋肉腫が存在する(あるいは高リスクの横紋筋肉腫が存在する可能性がある)と判定された被験対象については、医師が他の所見を参照しつつ被験対象が高リスクの横紋筋肉腫に罹患しているかを判断することができる。すなわち、本発明の高リスクの横紋筋肉腫の検出方法は横紋筋肉腫のリスク分類の診断を補助する方法あるいは横紋筋肉腫のリスク分類の診断を支援する方法と言い換えることができる。なお、本発明の高リスクの横紋筋肉腫の検出方法は、外科手術により採取した組織を病理診断せずに横紋筋肉腫のリスク分類を判定できる点でも有利である。
【0087】
本発明の高リスクの横紋筋肉腫の検出方法によれば、被験対象から採取された生体試料を分析し、定量的に高リスクの横紋筋肉腫について検出または評価を行うことができる。すなわち、本発明の高リスクの横紋筋肉腫の検出方法は、患者への負担を軽減しつつ、簡便かつ的確に横紋筋肉腫のリスク分類を検出または評価できる点で有利である。このため本発明の高リスクの横紋筋肉腫の検出方法は、高リスクの横紋筋肉腫を検出または評価するための生体試料分析方法(好ましくは尿試料分析方法)と言い換えることができる。
【0088】
本発明の高リスクの横紋筋肉腫の検出方法によれば、横紋筋肉腫の患者のリスク分類を特定することができる。このため、本発明の別の側面によれば、高リスクの横紋筋肉腫または低リスクもしくは中間リスクの横紋筋肉腫の治療方法が提供される。本発明の高リスクの横紋筋肉腫の治療方法は、本発明の高リスクの横紋筋肉腫の検出方法を実施し、高リスクの横紋筋肉腫の存在が示された対象(あるいは高リスクの横紋筋肉腫の存在可能性が示された対象)を選択する工程を含んでいてもよい。本発明の低リスクまたは中間リスクの横紋筋肉腫の治療方法は、本発明の高リスクの横紋筋肉腫の検出方法を実施し、高リスクの横紋筋肉腫の存在が否定された対象(あるいは低リスクまたは中間リスクの横紋筋肉腫の存在が示された対象)を選択する工程を含んでいてもよい。この工程は、被験対象から被験試料を得ること、該試料中の代謝物の量または濃度を測定すること、および/または、該試料中の代謝物の量または濃度をカットオフ値と比較することを含んでいてもよい。本発明の高リスクの横紋筋肉腫または低リスクもしくは中間リスクの横紋筋肉腫の治療方法はまた、選択された対象に対して高リスクの横紋筋肉腫または低リスクもしくは中間リスクの横紋筋肉腫の治療を行う工程を含んでいてもよい。高リスクの横紋筋肉腫または低リスクもしくは中間リスクの横紋筋肉腫の治療としては、外科療法、化学療法、放射線療法、免疫療法等の療法が挙げられ、緩和ケア等の緩和療法も含まれる点では共通するが、高リスクの横紋筋肉腫の場合には低リスク・中間リスクと比べて予後不良である可能性が高いため、例えば、化学療法および放射線療法を組み合わせて実施する、治療を長期間実施する等、強い治療を実施することができる。また低リスク・中間リスクの横紋筋肉腫の場合には高リスクと比べて予後不良である可能性が低いため、例えば、経過観察を含めた軽度の治療を実施することができる。
【0089】
<<バイオマーカー>>
本発明において「バイオマーカー」は、通常の生物学的過程、病理学的過程、もしくは治療的介入に対する薬理学的応答の指標として、客観的に測定され評価される特性を意味する。すなわち、本発明によれば、生体代謝物、特に、代謝物(a)および場合によっては代謝物(b)または代謝物(c)、を横紋筋肉腫のバイオマーカーとして使用することができる。本発明によればまた、生体代謝物、特に、代謝物(d)および場合によっては代謝物(e)、を横紋筋肉腫のサブタイプ(特に胞巣型の横紋筋肉腫)のバイオマーカーとして使用することができる。本発明によればさらに、生体代謝物、特に、代謝物(f)、を横紋筋肉腫のリスク分類(特に高リスクの横紋筋肉腫)のバイオマーカーとして使用することができる。
【0090】
従って本発明の別の側面によれば、横紋筋肉腫の検出、判定または診断用バイオマーカーとしての、あるいは、横紋筋肉腫の検出、判定または診断の指標としての、生体代謝物の使用が提供される。本発明によればまた、生体代謝物を含んでなる、横紋筋肉腫の検出、判定または診断用バイオマーカーが提供される。生体代謝物は好ましくは尿代謝物であり、より好ましくは代謝物(a)および場合によっては代謝物(b)である。代謝物(a)および代謝物(b)は1種であっても、2種以上を組み合わせたものであってもよい。上記のバイオマーカーおよびバイオマーカーとしての使用は本発明の横紋筋肉腫の検出方法の記載に従って実施することができる。
【0091】
本発明の別の側面によればまた、横紋筋肉腫のサブタイプの検出、判定または診断用バイオマーカーとしての、あるいは、横紋筋肉腫のサブタイプの検出、判定または診断の指標としての、生体代謝物の使用が提供される。本発明によればまた、生体代謝物を含んでなる、横紋筋肉腫のサブタイプの検出、判定または診断用バイオマーカーが提供される。生体代謝物は好ましくは尿代謝物であり、より好ましくは代謝物(d)および場合によっては代謝物(e)である。代謝物(d)および代謝物(e)は1種であっても、2種以上を組み合わせたものであってもよい。上記のバイオマーカーおよびバイオマーカーとしての使用は本発明の横紋筋肉腫のサブタイプの検出方法の記載に従って実施することができる。
【0092】
本発明の別の側面によればさらに、高リスクの横紋筋肉腫の検出、判定または診断用バイオマーカーとしての、あるいは、高リスクの横紋筋肉腫の検出、判定または診断の指標としての、生体代謝物の使用が提供される。本発明によればまた、生体代謝物を含んでなる、高リスクの横紋筋肉腫の検出、判定または診断用バイオマーカーが提供される。生体代謝物は好ましくは尿代謝物であり、より好ましくは代謝物(f)である。代謝物(f)は1種であっても、2種以上を組み合わせたものであってもよい。上記のバイオマーカーおよびバイオマーカーとしての使用は本発明の高リスクの横紋筋肉腫の検出方法の記載に従って実施することができる。
【実施例0093】
以下の例に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0094】
例1:横紋筋肉腫のバイオマーカーの同定
(1)尿検体の前処理方法
名古屋大学医学部附属病院等において横紋筋肉腫(rhabdomyosarcoma)と診断された1歳~19歳の患者(n=11)の尿検体と、3歳~14歳の健常者(n=10)の尿検体を横紋筋肉腫の診断マーカーの探索に使用した。本研究は名古屋大学生命倫理審査委員会の承認のもとで実施した。
【0095】
得られた尿検体は前処理を行った。すなわち、1.5mLエッペンチューブに尿検体200μLを取り、メタノール800μLを加え、よく混合した。室温条件にて12000rpmで10分間遠心処理した。上清800μLを別のエッペンチューブに取り分けた。40℃条件下でターボバップにて窒素乾固した。乾固物に200μLの10%アセトニトリル(ACN)/90%水溶液を加え、再溶解した。室温条件にて12000rpmで10分間遠心処理した。
【0096】
CE-TOF-MSシステムでの分析には次の処理を行った。すなわち、カチオン性代謝物測定用の内部標準としてメチオニンスルホン(Methionine Sulfone)を、アニオン性代謝物測定用の内部標準としてカンファースルホン酸および2-モノフォリノエタンスルホン酸を、それぞれ25mMになるように超純水で希釈し、内部標準溶液を作成した。尿検体80μLに対し、内部標準溶液20μLを加え、限外濾過ユニットのフィルターカップに検体を注入した。蓋を閉めた後、4℃、9100g、5分で遠心した。フィルターカップをはずし、ろ過された検体を10μLサンプルカップに注入し、CE-TOF-MSシステムに供した。
【0097】
LC-MSシステムでの分析には次の処理を行った。すなわち、分析用に尿検体を120μL取り、4分の1量のLC用内部標準(30μL)を添加し、LC-MSシステムに供した。内部標準物質はCE-TOF-MSシステムと同様とした。
【0098】
(2)CE-TOF-MSによる分析
標準物質、内部標準物質、試薬および機器・器具を用いてCE-TOF-MSシステムを準備し、分析前に30分間泳動バッファーでフラッシングをしてフューズドシリカキャピラリーカラム内壁の平衡化を行った後、電圧を徐々に印加して電流が流れることを確認してから分析を進めた。
【0099】
標準物質および内部標準物質は、全て特級か、純度の高いものを使用した。ポリアミン代謝、メチオニン代謝および尿素回路関連の陽イオン性化合物と内部標準物質を200μMになるように合わせて適宜溶解させた後、1.5mLチューブに小分けして、-80℃で保管した。凍結融解の繰り返しにより化合物が不安定化する可能性があるため、測定の際に小分け分を融解して使い切りとした。
【0100】
CE-TOF-MSシステムは、送液用ポンプ(1260 Infinity II、アジレントテクノロジー社)を接続したキャピラリー電気泳動(7100 Capillary Electrophoresis、アジレントテクノロジー社)を前段に設置した飛行時間型質量分析装置(6546 Q-TOF、アジレントテクノロジー社)を使用した。フューズドシリカキャピラリーカラム(スパイラルラップ、Molex社、製品No. 106815-0017)、は、専用のダイヤモンドカッターで100cmにカットし、外側を覆うポリビニルフィルムを5mmほどライターで焼いた後、焦げカスをメタノールで拭き取り、内側のガラス部分が両端ともに見えるようにした。片方をキャピラリー電気泳動専用カセットに納め、もう片方を質量分析装置のネブライザーに差し込んだ。キャピラリーカラムの先端は、質量分析装置側へ入る切り口が、ネブライザーから出ているインナーニードルの長さの約1/3程度の長さでインナーニードルから露出するようにし、専用の拡大鏡を用いてシース液が霧状に放出されているかを確認して、イオン化室に設置されるスプレイヤーにセットした。
【0101】
分析に使用した試薬類は、すべて質量分析用のものを用いた。具体的には、LC-MS用メタノール(富士フイルム和光純薬社、製品No. 138-14521)を試薬調整および分析時のシース液に用い、LC-MS用1mol/Lギ酸(富士フイルム和光純薬社、製品No.067-04531)をカチオンモード分析用泳動バッファーに用いた。
【0102】
カチオン性標準物質は表1に記載のものを用いた。
【表1】
【0103】
カチオン性代謝物測定条件は表2の通りであった。
【表2】
【0104】
ギ酸アンモニウム(富士フイルム和光純薬社、製品No. 011-21031)、1%アンモニア水(ナカライテスク社、製品No.7432-65)をアニオンモード分析用泳動バッファーに用いた。バッファーは40mMギ酸アンモニウムを超純水で調整し、これに1Mアンモニア水を滴下してpH10に調整したものを使用した。
【0105】
アニオン性標準物質は表3に記載のものを用いた。
【表3】
【0106】
アニオン性代謝物測定条件は表4の通りであった。
【表4】
【0107】
カチオン性代謝物測定、アニオン性代謝物測定で測定モードを変更する際は、必ずカラムとネブライザーの交換システムチューニングを実施し、質量分析装置の補正を行った。また、測定が一時中断した場合はキャリブレーションを実施し、軸ズレが1ppmを超える場合は、チューニングを行った。その際、イオンソースやネブライザー、プランジャー、電極の洗浄を実施した。
【0108】
(3)LC-MSによる分析
上記(1)で前処理を行った尿検体をLC-MSシステムに供して分析を行った。測定条件は表5の通りであった。
【表5】
【0109】
(4)データ前処理
代謝物濃度をクレアチニン濃度で補正するため、尿検体のクレアチニン濃度を下記方法(Jaffe法)にて行った。すなわち、尿をミリQ水にて100倍に希釈し、その150μLに1g/100mLピクリン酸を60μL加えた。さらに0.75N NaOH(60μL)を加えた後、25℃で15分インキュベートした。このうち、200μLを96ウェルプレートに注入し、吸光度490nmで測定した。別に、クレアチニンを0、0.25、0.5、0.75、1mg/100mLの濃度になるように溶解し、これらを用いて検量線を作成した。
【0110】
また、検出された物質のうち、6-アミノペニシラン酸(6-Aminopenicillanic Acid)、クルクミン(Curcumin)、エルロチニブ(Erlotinib)、キニン(Quinine)の外因性物質を候補物質から除外した。
【0111】
(5)データ解析
本実施例で行ったランダムフォレスト、OPLS-DA、パスウェイ解析、ROC解析のすべての解析を、Metaboanalyst 5.0 (https://www.metaboanalyst.ca/)を使用して行った。MetaboAnalyst 5.0は、メタボロミクスデータ解析専用の包括的なウェブプラットフォームであり、生のMSスペクトル処理、包括的なデータ正規化、統計分析、機能分析、メタ分析および他のオミクスデータとの統合分析をサポートする、メタボロミクス コミュニティで最も広く使用されているプラットフォームである。CE-TOF-MSによる分析結果と、LC-MSによる分析結果を上記解析プラットフォームへ入力し、メタボロミクスデータ解析を行った。
【0112】
(6)結果
ア 横紋筋肉腫のバイオマーカー(1)
患者群の試料分析データと健常者群の試料分析データをもとにランダムフォレスト分析を行った。結果は図1に示される通りであった。図1からMean Decrease Accuracyに基づいて代謝物の順位付けを行い、下記表6の12種の物質を横紋筋肉腫のバイオマーカー候補として選択した。健常者群および患者群のいずれが高値(H)または低値(L)を示すかは表6に示した。
【0113】
【表6】
【0114】
選択した12種の代謝物をOPLS-DAで分析した。結果は図2に示される通りであった。12種の代謝物を組み合わせることで横紋筋肉腫の患者群試料を健常者群試料と精度よく分離できることが示された。
【0115】
上記12種の代謝物それぞれをROC解析した結果は下記表7に示される通りであった。代謝物はAUCの高い順に並べた。また上記12種の代謝物を1つの指標としてROC解析した結果は図3に示される通りであった。
【0116】
【表7】
【0117】
以上の結果から、上記12種の代謝物は横紋筋肉腫の検出バイオマーカーとして有用であることが示された。
【0118】
本実施例ではまた、表7の代謝物のうちROC解析結果の上位5種を除いた7種の代謝物をOPLS-DAで分析するとともに、7種を1つの指標としてROC解析した。結果は図4および5に示される通りであった。ROC解析の上位5種を除くと横紋筋肉腫の患者群試料を健常者群試料と精度よく分離できないことが判明した。
【0119】
本実施例ではさらに、表7の代謝物のうちROC解析結果の上位5種および上位6種を1つの指標としてROC解析した。結果はそれぞれ図6および7に示される通りであった。図6から、上位5種の代謝物が横紋筋肉腫の患者群試料の判別に貢献していること示された。また図7から、上位6番目の成分を加えてもAUCに大きな変化が認められなかった。
【0120】
以上から、ランダムフォレスト分析で選択した12種の代謝物(表6)のうち、ROC解析の上位5種の代謝物は横紋筋肉腫の診断バイオマーカーとして特に有用であることが示された。
【0121】
イ 横紋筋肉腫のバイオマーカー(2)
患者群の試料分析データと健常者群の試料分析データをもとにパスウェイ解析を行った。結果は図8に示される通りであった。図8においては、定量的メタボロームデータにおいて横紋筋肉腫との関係で有意に豊富化された、生物学的に意味あるパターン(すなわち代謝経路)を特定し、代謝経路の順位付けを行った。その結果、下記表8の5種のパスウェイと9種の物質を横紋筋肉腫と関連する経路および横紋筋肉腫のバイオマーカー候補としてそれぞれ特定した。
【0122】
【表8】
【0123】
上記表8の代謝物のうち4種の代謝物(カルノシン、L-グルタミン酸、L-システインおよびアンセリン)を1つの指標としてROC解析した結果は図9に示される通りであった。
【0124】
以上から、パスウェイ解析で特定した9種の代謝物(表8)のうち上記4種は横紋筋肉腫の診断バイオマーカーとして特に有用であることが示された。
【0125】
ウ 胎児型と胞巣型の鑑別マーカー
胎児型群の試料分析結果と胞巣型群の試料分析結果をもとにランダムフォレスト分析を行った。結果は図10に示される通りであった。図10からMean Decrease Accuracyに基づいて代謝物の順位付けを行い、下記表9の14種の物質を横紋筋肉腫のサブタイプの鑑別バイオマーカー候補として選択した。胎児型群および胞巣型群のいずれが高値(H)または低値(L)を示すかは表9に示した。
【0126】
【表9】
【0127】
選択した14種の代謝物をOPLS-DAで分析した。結果は図11に示される通りであった。14種の代謝物を組み合わせることで横紋筋肉腫の患者群のうち胎児型を胞巣型と精度よく分離できることが示された。
【0128】
上記14種の代謝物それぞれをROC解析した結果は下記表10に示される通りであった。代謝物はAUCの高い順に並べた。また上記14種の代謝物を1つの指標としてROC解析した結果は図12に示される通りであった。
【0129】
【表10】
【0130】
以上の結果から、上記14種の代謝物は横紋筋肉腫の胎児型と胞巣型を判別するバイオマーカーとして有用であることが示された。
【0131】
本実施例ではまた、表10の代謝物のうちROC解析結果の上位7種を除いた7種の代謝物をOPLS-DAで分析するとともに、7種を1つの指標としてROC解析した。結果は図13および14に示される通りであった。ROC解析の上位7種を除くと横紋筋肉腫の胎児型と胞巣型を精度よく分離できないことが判明した。
【0132】
本実施例ではさらに、表10の代謝物のうちROC解析結果の上位7種および上位8種を1つの指標としてROC解析した。結果は図15および16に示される通りであった。図15から、上位7種の代謝物が横紋筋肉腫の胎児型と胞巣型の判別に貢献していること示された。また図16から、上位8番目の成分を加えてもAUCに大きな変化が認められなかった。
【0133】
以上から、ランダムフォレスト分析で選択した14種の代謝物(表9)のうち、ROC解析の上位7種の代謝物は横紋筋肉腫の胎児型と胞巣型の鑑別バイオマーカーとして特に有用であることが示された。
【0134】
エ 高リスク横紋筋肉腫の鑑別マーカー
高リスク群の試料分析結果と、中間リスク群および低リスク群の試料分析結果をもとにパスウェイ解析を行った。結果は図17に示される通りであった。図17においては、定量的メタボロームデータにおいて横紋筋肉腫の高リスクとの関係で有意に豊富化された、生物学的に意味あるパターン(すなわち代謝経路)を特定し、代謝経路の順位付けを行った。その結果、下記表11の5種のパスウェイと9種の物質を高リスク横紋筋肉腫と関連する経路および高リスク横紋筋肉腫のバイオマーカー候補としてそれぞれ特定した。
【0135】
上記リスク群の分類は、日本横紋筋肉腫研究グループ(JRSG:Japan Rhabdomyosarcoma Study Group)が用いる「リスク分類」に従って行った。なお、JRSGのリスク分類による「低リスクA」および「低リスクB」は低リスク群とした。
【0136】
【表11】
【0137】
上記表11の代謝物のうち5種の代謝物(ジメチルグリシン、L-ヒスチジン、ベタイン、リノール酸およびオキソグルタル酸)を1つの指標としてROC解析した結果は図18に示される通りであった。
【0138】
以上から、パスウェイ解析で特定した9種の代謝物(表11)のうち特に5種は横紋筋肉腫の診断バイオマーカーとして特に有用であることが示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18