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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006101
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】硫化物固体電解質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20240110BHJP
   C01B 25/14 20060101ALI20240110BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240110BHJP
【FI】
H01B13/00 Z
C01B25/14
H01M10/0562
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106674
(22)【出願日】2022-06-30
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅原 孝宜
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ14
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029CJ28
5H029HJ01
5H029HJ14
(57)【要約】
【課題】生産性に優れ、また粒径が小さい硫化物固体電解質を製造する方法を提供することである。
【解決手段】リチウム原子、リン原子、硫黄原子及びハロゲン原子を含む原料含有物と、溶媒とを混合して前駆体含有混合物を得ることと、前記前駆体含有混合物を、前記溶媒の沸点よりも高温に加熱された液体又は気体である媒体に供給して前記溶媒を蒸発させることとを含み、前記原料含有物と溶媒との比率が、溶媒100mlに対して原料含有物4.0g以下である硫化物固体電解質の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム原子、リン原子、硫黄原子及びハロゲン原子を含む原料含有物と、溶媒とを混合して前駆体含有混合物を得ることと、前記前駆体含有混合物を、前記溶媒の沸点よりも高温に加熱された液体又は気体である媒体に供給して前記溶媒を蒸発させることとを含み、前記原料含有物と溶媒との比率が、溶媒100mlに対して原料含有物4.0g以下である硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項2】
前記溶媒が、アルコール溶媒を含有する請求項1に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項3】
前記溶媒が、錯化剤を含有する請求項1又は2に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項4】
前記錯化剤がエーテル化合物である請求項3に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項5】
前記溶媒が、炭化水素溶媒を含有する請求項1~4のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項6】
前記ハロゲン原子が、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選ばれる一種以上である請求項1~5のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項7】
前記原料含有物と溶媒との比率が、溶媒100mlに対して原料含有物1.5g以上である請求項1~6のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項8】
前記前駆体含有混合物を、液体である前記媒体に注入、滴下又は噴霧して供給する請求項1~7のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項9】
前記媒体が、炭素数10~40の炭化水素化合物である請求項1~8のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化物固体電解質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラ、及び携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。従来、このような用途に用いられる電池において可燃性の有機溶媒を含む電解液が用いられていたが、電池を全固体化することで、電池内に可燃性の有機溶媒を用いず、安全装置の簡素化が図れ、製造コスト、生産性に優れることから、電解液を固体電解質層に換えた電池の開発が行われている。
【0003】
固体電解質の製造方法として、特許文献1には、固体電解質原料と溶媒とを含有する液を、高温の媒体に供給し、溶媒を蒸発させてアルジロダイト型結晶構造を析出させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-169459
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、生産性に優れ、また粒径が小さい硫化物固体電解質を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る硫化物固体電解質の製造方法は、
リチウム原子、リン原子、硫黄原子及びハロゲン原子を含む原料含有物と、溶媒とを混合して前駆体含有混合物を得ることと、前記前駆体含有混合物を、前記溶媒の沸点よりも高温に加熱された液体又は気体である媒体に供給して前記溶媒を蒸発させることとを含み、前記原料含有物と溶媒との比率が、溶媒100mlに対して原料含有物4.0g以下である硫化物固体電解質の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、生産性に優れ、また粒径が小さい硫化物固体電解質を製造する方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」と称することがある。)について説明する。なお、本明細書において、「以上」、「以下」、「~」の数値範囲に係る上限及び下限の数値は任意に組み合わせできる数値であり、また実施例の数値を上限及び下限の数値として用いることもできる。また、好ましいとされている規定は任意に採用することができる。即ち、好ましいとされている一の規定を、好ましいとされている他の一又は複数の規定と組み合わせて採用することができる。好ましいもの同士の組み合わせはより好ましいといえる。
【0009】
(本発明に至るために本発明者らが得た知見)
本発明者らは、上記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、下記の事項を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
特許文献1に記載されている方法では、固体電解質原料と溶媒とを含有する液を、高温の媒体に供給し、溶媒を蒸発させてアルジロダイト型結晶構造を析出させる方法が開示されているが、固体電解質材料の濃度を変更することで、得られる固体電解質の粒径が変化することについては開示されていない。
これに対し本発明者は、固体電解質材料の濃度を一定以下とすることで、粒径が小さい硫化物固体電解質が製造できることを見出した。
【0011】
(本実施形態の各種形態について)
本実施形態の第一の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、
リチウム原子、リン原子、硫黄原子及びハロゲン原子を含む原料含有物と、溶媒とを混合して前駆体含有混合物を得ることと、前記前駆体含有混合物を、前記溶媒の沸点よりも高温に加熱された液体又は気体である媒体に供給して前記溶媒を蒸発させることとを含み、前記原料含有物と溶媒との比率が、溶媒100mlに対して原料含有物4.0g以下である硫化物固体電解質の製造方法、
である。
【0012】
本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法においては、前駆体含有混合物を高温に加熱された媒体に供給することにより、粒子状の固体電解質を合成しつつ溶媒の除去を行うことができ、生産性に優れる。
また、本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法においては、原料含有物と溶媒との比率を一定以下とすることで、媒体に供給される前駆体含有混合物中における前駆体や未反応原料等の固形分の濃度が薄まり、これにより溶媒が蒸発して得られる硫化物固体電解質は粒径が小さくなるものと考えられる。
【0013】
本実施形態の製造方法において、「前駆体」とは、溶媒を蒸発させることにより硫化物固体電解質となる固体電解質の前駆体を示す。原料含有物と溶媒とを混合することで、固体電解質原料が、溶媒を介して均一に混合され、場合によってはさらに互いに反応して硫化物固体電解質に近い構造を形成して前駆体となり、ここから溶媒を除去することで、原料同士の反応が進行し、硫化物固体電解質が形成するものと考えられる。
また、本実施形態の製造方法においては、前駆体含有混合物中に含まれる溶媒が、高温に加熱された媒体に接触することで除去され、これに伴い前駆体が硫化物固体電解質となって媒体中に出現することとなる。
さらに、本実施形態の製造方法において、「前駆体含有混合物」とは、少なくとも上記前駆体と溶媒とを含有する混合物であり、さらに未反応の原料等を含んでいてもよい。
【0014】
本実施形態の第二の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一の形態において、
前記溶媒が、アルコール溶媒を含有する、
というものである。
【0015】
溶媒がアルコール溶媒を含有すると、原料の分散状態がより均一になりやすく、このためより効率的に電解質前駆体が得られ、結果として製造効率を向上させ、かつ高品質な硫化物固体電解質を容易に製造することが可能となる。
【0016】
本実施形態の第三の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一又は第二の形態において、
前記溶媒が、錯化剤を含有する、
というものである。
アルコール溶媒は電解質原料や合成される固体電解質そのものと反応し、イオン伝導度を低下させてしまうことがあるため、目的の溶媒と原料含有物の比率にするにあたって、溶媒は錯化剤や、後述の炭化水素溶媒を含有することが望ましい。
【0017】
ここで、錯化剤とは錯体を形成し得る化合物を意味する。溶媒が錯化剤を含有することで、錯体の形成が促進され、固体電解質原料の分散状態が均一に保たれやすくなる。そのため、原料含有物に含まれる原料がもれなく硫化物固体電解質の形成に寄与しやすくなり、その結果より高いイオン伝導度を有する硫化物固体電解質が得られやすくなる。
【0018】
本実施形態の第四の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第三の形態において、
前記錯化剤がエーテル化合物である、
というものである。
【0019】
錯化剤としてエーテル化合物を用いると、錯体の形成が促進され、製造効率が向上するとともに、よりイオン伝導度が高い硫化物固体電解質が得られやすくなるため好ましい。
【0020】
本実施形態の第五の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一~第四の形態において、
前記溶媒が、炭化水素溶媒を含有する、
というものである。
【0021】
上記溶媒が炭化水素溶媒を含有すると、前駆体含有混合物中における固形分量が少ない場合におけるイオン伝導度を高く維持する観点から好ましい。
【0022】
本実施形態の第六の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一~第五の形態において、
前記ハロゲン原子が、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選ばれる一種以上である、
というものである。
【0023】
原料含有物に含まれるハロゲン原子としては、得ようとする硫化物固体電解質に応じて変わり得るが、例えば塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選択されるものが好ましい。
【0024】
本実施形態の第七の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一~第六の形態において、
前記原料含有物と溶媒との比率が、溶媒100mlに対して原料含有物1.5g以上である、
というものである。
【0025】
本実施形態においては、上述のように、原料含有物と溶媒との比率は一定以下であることを要するが、生産性や得られる硫化物固体電解質のイオン伝導度を良好とする観点からは、原料含有物の比率を一定以上とすることが好ましい。
【0026】
本実施形態の第八の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一~第七の形態において、
前記前駆体含有混合物を、液体である前記媒体に注入、滴下又は噴霧して供給する、
というものである。
【0027】
前駆体含有混合物より溶媒を蒸発させる際の具体的な態様としては、液体である媒体に前駆体含有混合物を注入、滴下又は噴霧する方法が挙げられる。媒体は高温に加熱されているため、前駆体含有混合物と媒体とが接触するとともに、前駆体含有混合物中に含まれる溶媒が蒸発し、硫化物固体電解質が媒体中に析出されることとなる。
【0028】
本実施形態の第九の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一~第八の形態において、
前記媒体が、炭素数10~40の炭化水素化合物である、
というものである。
【0029】
本実施形態において用いられる媒体は、液体の媒体であっても気体の媒体であってもよいが、液体の媒体としては、硫化物固体電解質の溶解度が低いものを用いることで硫化物固体電解質が効率よく析出するため、例えば炭素数10~40の炭化水素化合物を用いることが好ましい。
【0030】
(固体電解質)
本明細書において、「固体電解質」とは、窒素雰囲気下25℃で固体を維持する電解質を意味する。本実施形態における固体電解質は、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含み、リチウム原子に起因するイオン伝導度を有する固体電解質である。
【0031】
「固体電解質」には、非晶性固体電解質と、結晶性固体電解質と、の両方が含まれる。
本明細書において、結晶性固体電解質とは、X線回折測定におけるX線回折パターンにおいて、固体電解質由来のピークが観測される固体電解質であって、これらにおいての固体電解質の原料由来のピークの有無は問わないものである。すなわち、結晶性固体電解質は、固体電解質に由来する結晶構造を含み、その一部が該固体電解質に由来する結晶構造であっても、その全部が該固体電解質に由来する結晶構造であってもよい。そして、結晶性固体電解質は、上記のようなX線回折パターンを有していれば、その一部に非晶性固体電解質が含まれていてもよい。したがって、結晶性固体電解質には、非晶質固体電解質を結晶化温度以上に加熱して得られる、いわゆるガラスセラミックスが含まれる。
また、本明細書において、非晶性固体電解質とは、X線回折測定におけるX線回折パターンにおいて、材料由来のピーク以外のピークが実質的に観測されないハローパターンであるもののことであり、固体電解質の原料由来のピークの有無は問わないものである。
【0032】
[硫化物固体電解質の製造方法]
本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法は、
リチウム原子、リン原子、硫黄原子及びハロゲン原子を含む原料含有物と、溶媒とを混合して前駆体含有混合物を得ることと、前記前駆体含有混合物を、前記溶媒の沸点よりも高温に加熱された液体又は気体である媒体に供給して前記溶媒を蒸発させることとを含み、前記原料含有物と溶媒との比率が、溶媒100mlに対して原料含有物4.0g以下である硫化物固体電解質の製造方法、
である。
【0033】
〔前駆体含有混合物を得ること〕
本実施形態の製造方法は、リチウム原子、リン原子、硫黄原子及びハロゲン原子を含む原料含有物と、溶媒とを混合して、前駆体含有混合物を得ること、を含む。
本実施形態の製造方法について、まず原料含有物から説明する。
【0034】
(原料含有物)
本実施形態で用いられる原料含有物は、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含むものであり、より具体的にはこれらの原子からなる群より選ばれる1種以上を含む物質(以下、「固体電解質原料」とも称する。)を含む含有物である。ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が好ましく、塩素原子、臭素原子がより好ましく、原料含有物として少なくとも二種のハロゲン原子を含むことが好ましい。
【0035】
原料含有物に含まれる原料としては、例えば硫化リチウム;フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等のハロゲン化リチウム;三硫化二リン(P)、五硫化二リン(P)等の硫化リン;各種フッ化リン(PF、PF)、各種塩化リン(PCl、PCl、PCl)、各種臭化リン(PBr、PBr)、各種ヨウ化リン(PI、P)等のハロゲン化リン;フッ化チオホスホリル(PSF)、塩化チオホスホリル(PSCl)、臭化チオホスホリル(PSBr)、ヨウ化チオホスホリル(PSI)、二塩化フッ化チオホスホリル(PSClF)、二臭化フッ化チオホスホリル(PSBrF)等のハロゲン化チオホスホリル;などの上記四種の原子から選ばれる少なくとも二種の原子からなる原料、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)等のハロゲン単体、好ましくは塩素(Cl)、臭素(Br)が代表的に挙げられる。
【0036】
上記以外の原料として用い得るものとしては、例えば、上記四種の原子から選ばれる少なくとも一種の原子を含み、かつ該四種の原子以外の原子を含む原料、より具体的には、酸化リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム等のリチウム化合物;硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム等の硫化アルカリ金属;硫化ケイ素、硫化ゲルマニウム、硫化ホウ素、硫化ガリウム、硫化スズ(SnS、SnS)、硫化アルミニウム、硫化亜鉛等の硫化金属;リン酸ナトリウム、リン酸リチウム等のリン酸化合物;ヨウ化ナトリウム、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム等のハロゲン化ナトリウム等のリチウム以外のアルカリ金属のハロゲン化物;ハロゲン化アルミニウム、ハロゲン化ケイ素、ハロゲン化ゲルマニウム、ハロゲン化ヒ素、ハロゲン化セレン、ハロゲン化スズ、ハロゲン化アンチモン、ハロゲン化テルル、ハロゲン化ビスマス等のハロゲン化金属;オキシ塩化リン(POCl)、オキシ臭化リン(POBr)等のオキシハロゲン化リン;などが挙げられる。
【0037】
原料含有物に含まれる原料としては、上記の中でも、硫化リチウム、三硫化二リン(P)、五硫化二リン(P)等の硫化リン、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)等のハロゲン単体、フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等のハロゲン化リチウムが好ましい。また、酸素原子を固体電解質に導入する場合、酸化リチウム、水酸化リチウム及びリン酸リチウム等のリン酸化合物が好ましい。
【0038】
ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が好ましく、これらの中から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
よって、上記ハロゲン化リチウムとしては、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウムが好ましく、ハロゲン単体としては、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)が好ましい。また、これらを単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
【0039】
原料の組み合わせとしては、例えば、硫化リチウム、五硫化二リン及びハロゲン化リチウムの組み合わせ、硫化リチウム、五硫化二リン及びハロゲン単体の組み合わせが好ましく挙げられ、ハロゲン化リチウムとしては塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウムが好ましく、ハロゲン単体としては塩素、臭素及びヨウ素が好ましい。
【0040】
本実施形態においては、PS構造を含むLiPSを原料の一部として用いることもできる。具体的には、先にLiPSを製造する等して用意し、これを原料として使用する。
原料の合計に対するLiPSの含有量は、60~100mol%が好ましく、65~90mol%がより好ましく、70~80mol%が更に好ましい。
【0041】
また、LiPSとハロゲン単体とを用いる場合、LiPSに対するハロゲン単体の含有量は、1~50mol%が好ましく、10~40mol%がより好ましく、20~30mol%が更に好ましく、22~28mol%が更により好ましい。
【0042】
本実施形態で用いられる硫化リチウムは、粒子であることが好ましい。
硫化リチウム粒子の平均粒径(D50)は、0.1μm以上1000μm以下であることが好ましく、0.5μm以上100μm以下であることがより好ましく、1μm以上20μm以下であることがさらに好ましい。本明細書において、平均粒径(D50)は、粒子径分布積算曲線を描いた時に粒子径の最も小さい粒子から順次積算して全体の50%(体積基準)に達するところの粒子径であり、体積分布は、例えば、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定することができる平均粒径のことである。また、上記の原料として例示したもののうち固体の原料については、上記硫化リチウム粒子と同じ程度の平均粒径を有するものが好ましい、すなわち上記硫化リチウム粒子の平均粒径と同じ範囲内にあるものが好ましい。
【0043】
原料として、硫化リチウム、五硫化二リン及びハロゲン化リチウムを用いる場合、硫化リチウム及び五硫化二リンの合計に対する硫化リチウムの割合は、より高い化学的安定性及びより高いイオン伝導度を得る観点から、70~82mol%が好ましく、72~80mol%がより好ましく、74~80mol%が更に好ましい。
硫化リチウム、五硫化二リン、ハロゲン化リチウム及び必要に応じて用いられる他の原料を用いる場合、これらの合計に対する硫化リチウム及び五硫化二リンの含有量は、50~100mol%が好ましく、55~85mol%がより好ましく、60~80mol%が更に好ましい。
【0044】
ハロゲン化リチウムとして、塩化リチウムと臭化リチウムとを組み合わせて用いる場合、イオン伝導度を向上させる観点から、塩化リチウム及び臭化リチウムの合計に対する塩化リチウムの割合は、1~99mol%が好ましく、20~90mol%がより好ましく、40~80mol%が更に好ましく、50~75mol%が特に好ましい。
【0045】
原料としてハロゲン単体を用いる場合であって、硫化リチウム、五硫化二リンを用いる場合、ハロゲン単体のモル数と同モル数の硫化リチウムを除いた硫化リチウム及び五硫化二リンの合計モル数に対する、ハロゲン単体のモル数と同モル数の硫化リチウムとを除いた硫化リチウムのモル数の割合は、60~90%の範囲内であることが好ましく、65~85%の範囲内であることがより好ましく、68~82%の範囲内であることが更に好ましく、72~78%の範囲内であることが更により好ましく、73~77%の範囲内であることが特に好ましい。これらの割合であれば、より高いイオン伝導度が得られるからである。
また、これと同様の観点から、硫化リチウムと五硫化二リンとハロゲン単体とを用いる場合、硫化リチウムと五硫化二リンとハロゲン単体との合計量に対するハロゲン単体の含有量は、1~50mol%が好ましく、2~40mol%がより好ましく、3~25mol%が更に好ましく、3~15mol%が更により好ましい。
【0046】
硫化リチウムと五硫化二リンとハロゲン単体とハロゲン化リチウムとを用いる場合には、これらの合計量に対するハロゲン単体の含有量(αmol%)、及びハロゲン化リチウムの含有量(βmol%)は、下記式(2)を満たすことが好ましく、下記式(3)を満たすことがより好ましく、下記式(4)を満たすことが更に好ましく、下記式(5)を満たすことが更により好ましい。
2≦2α+β≦100…(2)
4≦2α+β≦80 …(3)
6≦2α+β≦50 …(4)
6≦2α+β≦30 …(5)
【0047】
二種のハロゲンを単体として用いる場合には、一方のハロゲン原子の物質中のモル数をA1とし、もう一方のハロゲン原子の物質中のモル数をA2とすると、A1:A2が1~99:99~1が好ましく、10:90~90:10であることがより好ましく、20:80~80:20が更に好ましく、30:70~70:30が更により好ましい。
【0048】
(溶媒)
本実施形態で用いられる溶媒としては、固体電解質の製造において従来用いられてきた溶媒を広く採用することが可能であり、例えば、脂肪族炭化水素溶媒、脂環式炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒等の炭化水素溶媒;アルコール溶媒、エステル系溶媒、アルデヒド系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒、炭素原子とヘテロ原子を含む溶媒等の炭素原子含む溶媒;等が挙げられ、これらの中から、適宜選択して用いればよい。
【0049】
より具体的には、ヘキサン、ペンタン、2-エチルヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン等の脂肪族炭化水素溶媒;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、tert-ブチルベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、ニトロベンゼン、クロロベンゼン、クロロトルエン、ブロモベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒;エタノール、ブタノール等のアルコール溶媒;ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ジメチルホルムアミド等のアルデヒド系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、アニソール等のエーテル系溶媒;アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、二硫化炭素等の炭素原子とヘテロ原子を含む溶媒等が挙げられる。
【0050】
これらの溶媒の中でも、脂肪族炭化水素溶媒、脂環式炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒、エーテル系溶媒が好ましく、より安定して高いイオン伝導度を得る観点から、ヘプタン、シクロヘキサン、トルエン、エチルベンゼン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、アニソールがより好ましく、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテルが更に好ましく、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテルがより更に好ましく、特にシクロヘキサンが好ましい。本実施形態においては、これらの溶媒を単独で、又は複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
また、本実施形態で用いられる溶媒は、以下に述べるアルコール溶媒をその一部として含有することが好ましい。
【0052】
(アルコール溶媒)
アルコール溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、2-エチルヘキシルアルコール等の1級及び2級の脂肪族アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール等の多価アルコール;シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロペンチルメタノール等の脂環式アルコール;ブチルフェノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、ナフトール、ジフェニルメタノール等の芳香族アルコール;メトキシエタノール、プロポキシエタノール、ブトキシエタノール等のアルコキシアルコール;などが挙げられる。
アルコール溶媒としては、上記の各種溶媒の中でも、脂肪族アルコールが好ましく、1級の脂肪族アルコールがより好ましく、メタノール、エタノールが更に好ましく、エタノールが特に好ましい。
【0053】
本実施形態で用いられる溶媒は、固体電解質原料の反応促進の観点から、上記錯化剤とアルコール溶媒とを含有することが好ましく、さらに、固体電解質原料の反応を促進しつつ、得られる硫化物固体電解質のイオン伝導度を改善する観点から、錯化剤、アルコール及び炭化水素溶媒を含有することがより好ましい。
【0054】
また、本実施形態で用いられる溶媒は、以下に述べる錯化剤をその一部として含有することが好ましい。
【0055】
(錯化剤)
錯化剤は、既述のように、原料含有物に含まれる固体電解質原料と錯体を形成しやすい化合物であり、例えば固体電解質原料として好ましく用いられる硫化リチウム、五硫化二リン、またこれらを用いた場合に得られるLiPS、更にハロゲン原子を含む固体電解質原料(以下、これらをまとめて「固体電解質原料等」とも称する。)と錯体を形成可能な化合物である。
【0056】
錯化剤としては、上記の性状を有するものであれば特に制限なく用いることができ、特にリチウム原子との親和性が高い原子、例えば窒素原子、酸素原子、塩素原子等のヘテロ原子を含む化合物が好ましく、これらのヘテロ原子を含む基を有する化合物がより好ましく挙げられる。これらのヘテロ原子、該へテロ原子を含む基は、リチウムと配位(結合)し得るからである。
【0057】
錯化剤の分子中に存在するヘテロ原子はリチウム原子との親和性が高く、固体電解質原料等と結合して錯体(以下、単に「錯体」とも称する。)を形成しやすい性状を有するものになると考えられる。そのため、上記固体電解質原料と、錯化剤とを混合することにより錯体が形成し、固体電解質原料の分散状態、とりわけハロゲン原子の分散状態が均一に保たれやすくなるので、結果としてイオン伝導度が高い硫化物固体電解質が得られるものと考えられる。
【0058】
錯化剤が、固体電解質原料等と錯体を形成可能であることについては、例えばFT-IR分析(拡散反射法)により測定される赤外線吸収スペクトルよって、直接的に確認することができる。
【0059】
本実施形態の製造方法において、錯化剤としてはヘテロ原子として酸素原子を含む化合物が好ましい。
酸素原子を含む化合物としては、酸素原子を含む基としてエーテル基及びエステル基から選ばれる1種以上の官能基を有する化合物が好ましく、その中でも特にエーテル基を有する化合物が好ましい。すなわち、酸素原子を含む錯化剤としては、エーテル化合物が特に好ましい。
【0060】
エーテル化合物としては、例えば、脂肪族エーテル、脂環式エーテル、複素環式エーテル、芳香族エーテル等のエーテル化合物が挙げられ、単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
【0061】
より具体的には、脂肪族エーテルとしては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル等のモノエーテル;ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、ジエトキシメタン、ジエトキシエタン等のジエーテル;ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、トリエチレンオキサイドグリコールジメチルエーテル(トリグリム)等のエーテル基を3つ以上有するポリエーテル;またジエチレングリコール、トリエチレングリコール等の水酸基を含有するエーテル等も挙げられる。
脂肪族エーテルの炭素数は、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは4以上であり、上限として好ましくは10以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは6以下である。
また、脂肪族エーテル中の脂肪族炭化水素基の炭素数は、好ましくは1以上であり、上限として好ましくは6以下、より好ましくは4以下、更に好ましくは3以下である。
【0062】
脂環式エーテルとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジメトキシテトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、ジオキサン、ジオキソラン等が挙げられ、また、複素環式エーテルとしては、フラン、ベンゾフラン、ベンゾピラン、ジオキセン、ジオキシン、モルホリン、メトキシインドール、ヒドロキシメチルジメトキシピリジン等が挙げられる。
脂環式エーテル、複素環式エーテルの炭素数は、好ましくは3以上、より好ましくは4以上であり、上限として好ましくは16以下、より好ましくは14以下である。
【0063】
また、芳香族エーテルとしては、メチルフェニルエーテル(アニソール)、エチルフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、ジフェニルエーテル、ベンジルフェニルエーテル、ナフチルエーテル等が挙げられる。
芳香族エーテルの炭素数は、好ましくは7以上、より好ましくは8以上であり、上限として好ましくは16以下、より好ましくは14以下、更に好ましくは12以下である。
【0064】
本実施形態で用いられるエーテル化合物は、アルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、水酸基、シアノ基等の置換基、ハロゲン原子により置換されたものであってもよい。
【0065】
上記のエーテル化合物の中でも、より高いイオン伝導度を得る観点から、脂肪族エーテルが好ましく、ジメトキシエタン、テトラヒドロフランがより好ましい。
【0066】
エステル化合物としては、例えば、脂肪族エステル、脂環式エステル、複素環式エステル、芳香族エステル等のエステル化合物が挙げられ、単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。
【0067】
より具体的には、脂肪族エステルとしては、蟻酸メチル、蟻酸エチル、蟻酸トリエチル等の蟻酸エステル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等の酢酸エステル;プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル等のプロピオン酸エステル、シュウ酸ジメチル、シュウ酸ジエチル等のシュウ酸エステル;マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル等のマロン酸エステル;コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル等のコハク酸エステルが挙げられる。
【0068】
脂肪族エステルの炭素数は、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは4以上であり、上限として好ましくは10以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは7以下である。また、脂肪族エステル中の脂肪族炭化水素基の炭素数は、好ましくは1以上、より好ましくは2以上であり、上限として好ましくは6以下、より好ましくは4以下、更に好ましくは3以下である。
【0069】
脂環式エステルとしては、シクロヘキサンカルボン酸メチル、シクロヘキサンカルボン酸エチル、シクロヘキサンジカルボン酸ジメチルシクロヘキサンジカルボン酸ジブチル、シクロヘキセンジカルボン酸ジブチル等が挙げられ、また、複素環式エステルとしては、ピリジンカルボン酸メチル、ピリジンカルボン酸エチル、ピリジンカルボン酸プロピル、ピリミジンカルボン酸メチル、ピリミジンカルボン酸エチル、またアセトラクトン、プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン等のラクトン類等が挙げられる。
【0070】
脂環式エステル、複素環式エステルの炭素数は、好ましくは3以上、より好ましくは4以上であり、上限として好ましくは16以下、より好ましくは14以下である。
【0071】
芳香族エステルとしては、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸ブチル等の安息香酸エステル;ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート等のフタル酸エステル;トリメチルトリメリテート、トリエチルトリメリテート、トリプロピルトリメリテート、トリブチルトリメリテート、トリオクチルトリメリテート等のトリメリット酸エステル等が挙げられる。
【0072】
芳香族エステルの炭素数は、好ましくは8以上、より好ましくは9以上であり、上限として好ましくは16以下、より好ましくは14以下、更に好ましくは12以下である。
【0073】
本実施形態で用いられるエステル化合物は、アルキル基、アルケニル基、アルコキシル基、水酸基、シアノ基等の置換基、ハロゲン原子により置換されたものであってもよい。
【0074】
上記のエステル化合物の中でも、より高いイオン伝導度を得る観点から、脂肪族エステルが好ましく、酢酸エステルがより好ましく、特に酢酸エチルが好ましい。
【0075】
溶媒中における錯化剤とアルコール溶媒との比率は、錯化剤に対するアルコールの体積比で1.0~30倍が好ましく、1.5~15倍がより好ましく、2.0~10倍がさらに好ましく、2.2~5.0倍が特に好ましい。
また、溶媒中における錯化剤及びアルコール溶媒の合計量の比率は、溶媒全量基準で10~100体積%が好ましく、20~80体積%がより好ましく、25~60体積%がさらに好ましい。
【0076】
(混合)
本実施形態の製造方法においては、上記の原料含有物と、溶媒とを混合して前駆体含有混合物を得る。
ここで、原料含有物と溶媒との比率は、粒径の小さい硫化物固体電解質を得る観点から、溶媒100mlに対して原料含有物4.0g以下であることを要し、さらに生産性をも考慮すると、溶媒100mlに対して原料含有物0.5g以上3.5g以下であることが好ましく、溶媒100mlに対して原料含有物0.8g以上3.0g以下であることがより好ましい。
また、得られる硫化物固体電解質のイオン伝導度を向上させる観点からは、原料含有物と溶媒との比率を、溶媒100mlに対して原料含有物1.5g以上とすることが好ましい。
【0077】
原料含有物と溶媒とを混合する方法に特段の制限はなく、原料含有物及び溶媒を混合できる装置に、原料含有物及び溶媒を投入して混合すればよい。
ただし、固体電解質原料としてハロゲン単体を用いる場合、固体電解質原料が固体ではない場合があり、具体的には常温常圧下において、フッ素及び塩素は気体、臭素は液体となる。このような場合、例えば固体電解質原料が液体の場合は、他の固体の固体電解質原料とは別に溶媒とともに槽内に供給すればよく、また固体電解質原料が気体の場合は、溶媒に固体の固体電解質原料を加えたものに吹き込むように供給すればよい。
【0078】
溶媒が複数の成分を含む場合、各成分の投入順序に特に制限は無く、例えばまず錯化剤と原料含有物とを混合した後に、さらにアルコールを投入して混合し、必要に応じてさらに炭化水素溶媒等の溶媒成分を投入して混合することができる。また、錯化剤または炭化水素溶媒を投入した後にアルコールを投入することが望ましく、さらに好ましくは炭化水素溶媒、錯化剤、アルコールの順に投入することが望ましい。
【0079】
本実施形態の製造方法は、原料含有物と溶媒とを混合することを含むことを特徴とする。その際には、ボールミル、ビーズミル等の媒体式粉砕機等の、一般に粉砕機と称される固体電解質原料の粉砕を目的として用いられる機器を用いない方法でも混合でき、固体電解質の前駆体を含有する混合物(前駆体含有混合物)が得られる。
なお、前駆体を得るための混合時間を短縮したり、微粉化したりするために、原料含有物と溶媒とを混合する際に、あるいは一旦混合した上で粉砕機によって粉砕してもよい。
【0080】
原料含有物と溶媒とを混合する装置としては、例えば槽内に撹拌翼を備える機械撹拌式混合機が挙げられる。機械撹拌式混合機は、高速撹拌型混合機、双腕型混合機等が挙げられ、固体電解質原料と溶媒との混合物中の固体電解質原料の均一性を高め、より高いイオン伝導度を得る観点から、高速撹拌型混合機が好ましく用いられる。また、高速撹拌型混合機としては、垂直軸回転型混合機、水平軸回転型混合機等が挙げられ、どちらのタイプの混合機を用いてもよい。
【0081】
機械撹拌式混合機において用いられる撹拌翼の形状としては、アンカー型、ブレード型、アーム型、リボン型、多段ブレード型、二連アーム型、ショベル型、二軸羽型、フラット羽根型、C型羽根型等が挙げられ、固体電解質原料の均一性を高め、より高いイオン伝導度を得る観点から、ショベル型、フラット羽根型、C型羽根型等が好ましい。また、機械撹拌式混合機においては攪拌対象を混合機外部に排出してから再び混合機内部に戻す循環ラインを設置してもよい。これにより、比重が重い原料が沈降、また滞留することなく撹拌され、より均一な混合が可能となる。
【0082】
循環ラインの設置個所は特に限定されないが、混合機の底から排出して混合機の上部に戻すような箇所に設置されることが好ましい。こうすることで、沈降しやすい固体電解質原料を循環による対流に乗せて均一に撹拌しやすくなる。さらに、戻り口が撹拌対象の液面下に位置していることが好ましい。こうすることで、撹拌対象が液跳ねして混合機内部の壁面に付着することを抑制することができる。
【0083】
固体電解質原料と錯化剤とを混合する際の温度条件としては、特に制限はなく、例えば-30~100℃、好ましくは-10~50℃、より好ましくは室温(23℃)程度(例えば室温±5℃程度)である。また混合時間は、0.1~150時間程度、より均一に混合し、より高いイオン伝導度を得る観点から、好ましくは1~120時間、より好ましくは4~100時間、更に好ましくは8~80時間である。
【0084】
溶媒として錯化剤を用いる場合、固体電解質原料と錯化剤とを混合することで、上記の固体電解質原料等と錯化剤とにより錯体が形成する。錯体は、より具体的には、固体電解質原料に含まれるリチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子と錯化剤との作用により、これらの原子が錯化剤を介して及び/又は介さずに直接互いに結合したものと考えられる。すなわち、本実施形態の製造方法において、固体電解質原料と錯化剤とを混合して得られる錯体は、錯化剤、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子により構成されるものともいえる。
本実施形態において得られる錯体は、液体である錯化剤に対して完全に溶解するものではなく、通常、固体であるため、錯体を含む溶媒中に錯体が懸濁した懸濁液が得られる。
【0085】
〔前駆体含有混合物を加熱された媒体に供給すること〕
本実施形態の製造方法は、
前駆体含有混合物を、前記溶媒の沸点よりも高温に加熱された液体又は気体である媒体に供給して前記溶媒を蒸発させること、
を含む。
前駆体含有混合物を、溶媒の沸点よりも高温に加熱された媒体に供給することで、前駆体含有混合物から溶媒を除去し、これにより粒子状の硫化物固体電解質が得られる。
【0086】
(溶媒の沸点よりも高温に加熱された媒体)
本実施形態の製造方法において用いられる、溶媒の沸点よりも高温に加熱される媒体は、気体であっても液体であってもよいが、液体の媒体を用いる場合、溶媒よりも高い沸点を有する高沸点液状媒体を用いることとなる。
高沸点液状媒体としては、得られる粒子状の硫化物固体電解質と反応したり、あるいはこれを溶解したりしないものが好ましいため、炭化水素化合物を用いることが好ましい。
【0087】
上記媒体として用いられる炭化水素化合物としては、上記の前駆体含有混合物を得ることにおいて用いられ得る溶媒として例示したものからより高い沸点を有するものを選択して用いればよく、好ましくは脂肪族炭化水素溶媒、脂環式炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒として記載されているもの、より好ましくは脂肪族炭化水素溶媒、脂環式炭化水素溶媒として記載されているものが挙げられる。
【0088】
高沸点液状媒体の炭素数としては、溶媒の沸点よりも高い沸点を有しやすいことを考慮すると、好ましくは8以上、より好ましくは10以上であり、上限として好ましくは40以下、より好ましくは20以下、更に好ましくは16以下の脂肪族炭化水素化合物が挙げられる。
【0089】
高沸点液状溶媒として好ましく用いられる脂肪族炭化水素化合物としては、例えばオクタン、2-エチルヘキサン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン等の脂肪族炭化水素化合物が挙げられる。
高沸点液状媒体は、上記例示した中から、一種単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いることもできる。
【0090】
上記気体の媒体の具体例としては、窒素、アルゴン等の不活性ガスが挙げられるが、硫化水素や、硫化水素と不活性ガスの混合物を用いることもできる。
【0091】
(加熱)
本実施形態の製造方法では、上記媒体は、溶媒の沸点よりも高温に加熱される。
ここで、溶媒が複数の成分からなる混合物である場合における溶媒の沸点とは、溶媒が含む各成分の内、最も高い沸点を示す成分の沸点を示す。但し、溶媒中に3質量%以下の比率で含まれる微量成分の沸点は考慮しないものとする。
また、上記媒体は、溶媒の沸点よりも20℃以上高温に加熱されることが好ましく、40℃以上高温に加熱されることがより好ましく、60℃以上高温に加熱されることがさらに好ましい。
【0092】
媒体が液体である場合における、媒体が加熱される具体的な温度としては、前駆体含有混合物の分解を抑制しつつ溶媒を効率よく蒸発させる観点から、120℃以上500℃以下が好ましく、150℃以上450℃以下がより好ましく、170℃以上400℃以下がさらに好ましい。
媒体が気体である場合における、媒体が加熱される具体的な温度としては、上記と同様の理由から、120℃以上700℃以下が好ましく、150℃以上600℃以下がより好ましく、170℃以上500℃以下がさらに好ましい。
【0093】
前駆体含有混合物を加熱された媒体に供給する際における圧力条件としては、特に限定されないが、溶媒を効率よく除去する観点からは、常圧下又は減圧下であることが好ましい。
【0094】
(供給する方法)
前駆体含有混合物を上記媒体に供給する具体的な方法としては、注入、滴下又は噴霧する方法が挙げられるが、得られる硫化物固体電解質を微粒化する観点からは、1滴に含まれる前駆体の量を少なることが好ましいため、前駆体含有物を滴下又は噴霧して媒体に供給することが好ましく、より具体的には、チューブポンプを用いて注入又は滴下したり、マイクロスプレーを用いて噴霧する方法が挙げられる。
ここで、固体電解質の微粒化及び均質化のため、前駆体含有混合物の供給量は少量ずつ一定量とすることが好ましい。供給量は、使用する媒体や温度等により適宜調整することができるが、前駆体含有混合物を媒体に滴下する場合においては、例えば1つの供給口あたり0.1~10mL/分程度とすることが好ましい。
【0095】
(硫化物固体電解質の回収)
本実施形態の製造方法においては、上述のようにして前駆体含有混合物より溶媒を蒸発させることで硫化物固体電解質が得られるが、媒体として液体のものを用いた場合には、さらに媒体を除去してもよい。
液状の媒体は高沸点であるため、これを除去する際には、ろ過、遠心分離、デカンテーション等の固液分離により除去することが好ましい。さらに、このようにして得られた硫化物固体電解質に対して、低沸点の溶媒の添加と固液分離による除去を繰り返して洗浄したり、加えて乾燥処理を行ってもよい。
【0096】
(焼成すること)
本実施形態の製造方法は、上述のようにして得られた硫化物固体電解質をそのまま用いてもよいが、さらに当該硫化物固体電解質を焼成することを含んでいてもよい。上述のようにして得られた硫化物固体電解質を焼成することで、結晶構造が形成したり、あるいはその結晶度が向上することから、高品質な硫化物固体電解質が得られる。
【0097】
焼成による加熱温度としては、通常好ましくは130℃以上、より好ましくは140℃以上、更に好ましくは150℃以上であり、上限として好ましくは700℃以下、より好ましくは600℃以下、更に好ましくは500℃以下である。なお、焼成温度は、焼成する際の最高温度を意味する。
また、焼成する時間は、通常1分~24時間、好ましくは10分~20時間、より好ましくは30分~16時間、更に好ましくは1時間~12時間である。なお、焼成する時間は、焼成による加熱温度を保持する時間を意味する。
【0098】
焼成の方法は、特に制限されるものではないが、例えば、真空加熱装置、焼成炉を用いる方法等を挙げることができる。また、工業的には、加熱手段と送り機構を有する横型乾燥機、横型振動流動乾燥機等を用いることもでき、加熱する処理量に応じて選択すればよい。
【0099】
(非晶性硫化物固体電解質)
本実施形態の製造方法により得られる硫化物固体電解質は、非晶性硫化物固体電解質、結晶性硫化物固体電解質のいずれかとなる。
本実施形態の製造方法により得られる非晶性硫化物固体電解質としては、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含んでおり、代表的なものとしては、例えば、LiS-P-LiI、LiS-P-LiCl、LiS-P-LiBr、LiS-P-LiI-LiBr等の、硫化リチウムと硫化リンとハロゲン化リチウムとから構成される固体電解質;更に酸素原子、珪素原子等の他の原子を含む、例えば、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS-P-LiI等の固体電解質が好ましく挙げられる。より高いイオン伝導度を得る観点から、LiS-P-LiI、LiS-P-LiCl、LiS-P-LiBr、LiS-P-LiI-LiBr等の、硫化リチウムと硫化リンとハロゲン化リチウムとから構成される非晶性硫化物固体電解質が好ましい。
非晶性硫化物固体電解質を構成する原子の種類は、例えば、ICP発光分光分析装置により確認することができる。
【0100】
(結晶性硫化物固体電解質)
本実施形態の製造方法により得られる結晶性硫化物固体電解質は、非晶性硫化物固体電解質を結晶化温度以上に加熱して得られる、いわゆるガラスセラミックスであってもよく、その結晶構造としては、LiPS結晶構造、Li結晶構造、LiPS結晶構造、Li11結晶構造、2θ=20.2°近傍及び23.6°近傍にピークを有する結晶構造(例えば、特開2013-16423号公報)等が挙げられる。
【0101】
Li4-xGe1-x系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型結晶構造(Kannoら、Journal of The Electrochemical Society,148(7)A742-746(2001)参照)、Li4-xGe1-x系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型と類似の結晶構造(Solid State Ionics,177(2006),2721-2725参照)等も挙げられる。本実施形態の固体電解質の製造方法により得られる結晶性硫化物固体電解質の結晶構造は、より高いイオン伝導度が得られる点で、上記の中でもチオリシコンリージョンII型結晶構造であることが好ましい。ここで、「チオリシコンリージョンII型結晶構造」は、Li4-xGe1-x系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型結晶構造、Li4-xGe1-x系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型と類似の結晶構造のいずれかであることを示す。
【0102】
本実施形態の製造方法で得られる結晶性硫化物固体電解質は、上記チオリシコンリージョンII型結晶構造を含むものであってもよいし、主結晶として含むものであってもよいが、より高いイオン伝導度を得る観点から、主結晶として含むものであることが好ましい。本明細書において、「主結晶として含む」とは、結晶構造のうち対象となる結晶構造の割合が80%以上であることを意味し、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。また、本実施形態の製造方法により得られる結晶性硫化物固体電解質は、より高いイオン伝導度を得る観点から、結晶性LiPS(β-LiPS)を含まないものであることが好ましい。
【0103】
CuKα線を用いたX線回折測定において、LiPS結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=17.5°、18.3°、26.1°、27.3°、30.0°付近に現れ、Li結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=16.9°、27.1°、32.5°付近に現れ、LiPS結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=15.3°、25.2°、29.6°、31.0°付近に現れ、Li11結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=17.8°、18.5°、19.7°、21.8°、23.7°、25.9°、29.6°、30.0°付近に現れ、Li4-xGe1-x系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=20.1°、23.9°、29.5°付近に現れ、Li4-xGe1-x系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型と類似の結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=20.2、23.6°付近に現れる。なお、これらのピーク位置については、±0.5°の範囲内で前後していてもよい。
【0104】
上記のLiPSの構造骨格を有し、Pの一部をSiで置換してなるアルジロダイト型結晶構造を有する結晶性硫化物固体電解質も好ましく挙げられる。
アルジロダイト型結晶構造の組成式としては、例えば組成式Li7-x1-ySi及びLi7+x1-ySi(xは-0.6~0.6、yは0.1~0.6)で示される結晶構造が挙げられる。この組成式で示されるアルジロダイト型結晶構造は、立方晶又は斜方晶、好ましくは立方晶で、CuKα線を用いたX線回折測定において、主に2θ=15.5°、18.0°、25.0°、30.0°、31.4°、45.3°、47.0°、及び52.0°の位置に現れるピークを有する。
【0105】
アルジロダイト型結晶構造の組成式としては、組成式Li7-x-2yPS6-x-yCl(0.8≦x≦1.7、0<y≦-0.25x+0.5)も挙げられる。この組成式で示されるアルジロダイト型結晶構造は、好ましくは立方晶で、CuKα線を用いたX線回折測定において、主に2θ=15.5°、18.0°、25.0°、30.0°、31.4°、45.3°、47.0°、及び52.0°の位置に現れるピークを有する。
また、アルジロダイト型結晶構造の組成式としては、組成式Li7-xPS6-xHa(HaはClもしくはBr、xが好ましくは0.2~1.8)も挙げられる。この組成式で示されるアルジロダイト型結晶構造は、好ましくは立方晶で、CuKα線を用いたX線回折測定において、主に2θ=15.5°、18.0°、25.0°、30.0°、31.4°、45.3°、47.0°、及び52.0°の位置に現れるピークを有する。
なお、これらのピーク位置については、±0.5°の範囲内で前後していてもよい。
【0106】
(硫化物固体電解質の性状)
本実施形態の製造方法により得られる硫化物固体電解質の形状は、粒子状である。
粒子状の硫化物固体電解質の平均粒径(D50)としては、例えば、0.01μm以上、さらには0.03μm以上、0.05μm以上、0.1μm以上であり、上限としては10μm以下であることが好ましく、7.0μm以下であることがより好ましく、4.0μm以下であることがさらに好ましい。このように、本実施形態の製造方法により得られる硫化物固体電解質は、原料含有物と溶媒との比率を一定以下とすることで、平均粒子径は上記範囲の小さいものとなる。
よって、本実施形態の製造方法においては、粉砕(微粒化)処理を行わなくてもよい。
【0107】
(用途)
本実施形態の製造方法により得られる硫化物固体電解質は、塗工適性に優れ、溶媒等を用いなくても電池の製造に供することができることから、効率的に優れた電池性能を発現し得るものである。また、イオン伝導度が高く、優れた電池性能を有しているため、電池に好適に用いられる。
本実施形態の製造方法により得られる硫化物固体電解質は、正極層に用いてもよく、負極層に用いてもよく、電解質層に用いてもよい。なお、これら各層は、公知の方法により製造することができる。
【0108】
また、上記電池は、正極層、電解質層及び負極層の他に集電体を使用することが好ましく、集電体は公知のものを用いることができる。例えば、Au、Pt、Al、Ti、又は、Cu等のように、上記の固体電解質と反応するものをAu等で被覆した層が使用できる。
【実施例0109】
次に実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら制限されるものではない。
【0110】
(粒径分布の測定)
レーザー回折/散乱式粒径分布測定装置(「Partica LA-950(型番)」、株式会社堀場製作所製)を用いて測定した。具体的には、脱水処理されたトルエン(和光純薬製、特級)とターシャリーブチルアルコール(和光純薬製、特級)を93.8:6.2の質量比で混合したものを分散媒として用いた。装置のフローセル内に分散媒を50mL注入し、循環させた後、測定対象の粉末を添加して超音波処理した後、粒径分布を測定した。
また、平均粒径(D50)は、上記粒径分布の積算曲線を描いた時に粒子径の最も小さい粒子から順次積算して全体の50%(体積基準)に達するところの粒子径とした。
【0111】
(イオン伝導度の測定)
実施例及び比較例で得られた硫化物固体電解質の粉末を用いて、直径6~10mm(断面積S:0.283~0.785cm)、高さ(L)0.1~0.3cmの円形ペレットを成形して試料とした。その試料の上下から電極端子を取り、25℃において交流インピーダンス法により測定し(周波数範囲:1MHz~0.1Hz、振幅:10mV)、Cole-Coleプロットを得た。高周波側領域に観測される円弧の右端付近で、-Z’’(Ω)が最小となる点での実数部Z’(Ω)を電解質のバルク抵抗R(Ω)とし、以下式に従い、イオン伝導度σ(S/cm)を計算した。
R=ρ(L/S)
σ=1/ρ
【0112】
(実施例1)
硫化リチウム0.597g、五硫化二リン0.759g、塩化リチウム0.289g及び臭化リチウム0.356gを嫌気性グローブボックス内で秤量し、テトラヒドロフラン(THF)10mLを加えて24時間攪拌して原液を調製し、さらにこの原液に対してエタノールを70mL加えて前駆体含有混合物を得た。(原料含有物と溶媒との比率:溶媒100mLに対して原料含有物2.5g)
撹拌機及びコンデンサーを備えたセパラブルフラスコに480mLのトリデカンを投入して、窒素ガスでフラスコ内を置換し、トリデカンの温度を210℃に昇温して保持した。
【0113】
チューブポンプを用いて、前駆体含有混合物をセパラブルフラスコ内のトリデカンに約1mL/分の速度で滴下したところ、前駆体含有混合物に含まれる溶媒(THF及びエタノール)が蒸発するとともに、固形分がトリデカン中に析出してスラリー状となった。
【0114】
トリデカンと固形分からなるスラリーを100℃まで冷却した後、デカンテーションにより固形分を分離した。分離した固形分にトルエンを添加した後に再度デカンテーションを行って固形分を分離する洗浄操作を3回実施した。その後、150℃にて真空乾燥を行って固形分(硫化物固体電解質)を回収した。
回収した固形分の粒径分布を確認したところ、平均粒径(D50)は8.3μmであった。
【0115】
得られた固形分に対し、430℃で8時間の焼成を行った。
【0116】
(実施例2)
原液に対してエタノールを200mL加えて前駆体含有混合物を得た以外は、実施例1と同様にして固形分を回収し、また硫化物固体電解質を得た。(原料含有物と溶媒との比率:溶媒100mLに対して原料含有物0.95g)
固形分の平均粒径(D50)は2.5μmであり、また硫化物固体電解質のイオン伝導度は0.27mS/cmであった。
【0117】
(実施例3)
硫化リチウム0.597g、五硫化二リン0.759g、塩化リチウム0.289g及び臭化リチウム0.356gを嫌気性グローブボックス内で秤量し、トルエン10ml、テトラヒドロフラン(THF)10mLの順に加えて72時間攪拌して原液を調製した。原液に対してエタノールを30mL加えた後に、さらにトルエン50mLを加えて前駆体含有混合物を得た以外は、実施例1と同様にして固形分を回収し、また硫化物固体電解質を得た。(原料含有物と溶媒との比率:溶媒100mLに対して原料含有物2.0g)
固形分の平均粒径(D50)は5.8μmであり、また硫化物固体電解質のイオン伝導度は3.9mS/cmであった。
【0118】
(比較例1)
原液に対してエタノールを30mL加えて前駆体含有混合物を得た以外は、実施例1と同様にして固形分を回収し、また硫化物固体電解質を得た。(原料含有物と溶媒との比率:溶媒100mLに対して原料含有物5.0g)
固形分の平均粒径(D50)は14μmであり、また硫化物固体電解質のイオン伝導度は3.9mS/cmであった。
【0119】
実施例1~3及び比較例1で用いた溶媒と、原料含有物と溶媒との比率と、得られた硫化物固体電解質の性状を以下の表1に示す。
【0120】
【表1】

【0121】
上記実施例1~3と比較例1との対比より明らかなように、原料含有物と溶媒との比率が、溶媒100mlに対して原料含有物4.0g以下である実施例1~3においては、得られる硫化物固体電解質の平均粒径(D50)が小さくなっている。
また、溶媒がトルエンを含有する実施例3においては、比較例1と比較して、高いイオン伝導度を維持しつつも、平均粒径(D50)が小さくなっている。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本実施形態の製造方法により得られる硫化物固体電解質は、パソコン、ビデオカメラ、及び携帯電話等の情報関連機器や通信機器等に用いられる電池に好適に用いられる。