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特開2024-61234共重合体、共重合体の製造方法及び回収方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024061234
(43)【公開日】2024-05-07
(54)【発明の名称】共重合体、共重合体の製造方法及び回収方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 210/16 20060101AFI20240425BHJP
   C08F 230/06 20060101ALI20240425BHJP
   C08F 212/14 20060101ALI20240425BHJP
【FI】
C08F210/16
C08F230/06
C08F212/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022169053
(22)【出願日】2022-10-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年6月3日に、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(略称:NEDO)主催 若手研究者の研究シーズマッチングイベントにおいてオンライン発表した。その発表の動画が令和4年6月29日にウェブサイト上で公開された。 令和4年6月に、ウェブサイト上で公開した。
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 亮
(72)【発明者】
【氏名】塩野 毅
(72)【発明者】
【氏名】中山 祐正
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100AA02P
4J100AA03Q
4J100AA04Q
4J100AA07Q
4J100AA08Q
4J100AA09Q
4J100AA16Q
4J100AA17Q
4J100AA18Q
4J100AA19Q
4J100AB07R
4J100AP12R
4J100BA87R
4J100HA51
4J100HA53
4J100HB25
4J100HC47
(57)【要約】
【課題】硫黄架橋のEPDMよりも高い機械強度を有し、経年劣化を抑制するとともに、脱架橋により容易に回収可能でリサイクル性の高い共重合体を提供する。
【解決手段】エチレン単位と、α-オレフィン単位と、ホウ素を導入したα-オレフィン単位である含ホウ素オレフィン単位と、を構成単位として含有する多元共重合体であって、主鎖炭素及び側鎖炭素の少なくとも一方に、前記含ホウ素オレフィン単位由来のボロン酸基を有し、前記ボロン酸基を介した架橋構造を有することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン単位と、α-オレフィン単位と、ホウ素を導入したα-オレフィン単位である含ホウ素オレフィン単位と、を構成単位として含有する多元共重合体であって、
主鎖炭素及び側鎖炭素の少なくとも一方に、前記含ホウ素オレフィン単位由来のボロン酸基を有し、前記ボロン酸基を介した架橋構造を有することを特徴とする共重合体。
【請求項2】
前記ボロン酸基が、下記式(1)で表されるボロン酸無水物基であることを特徴とする請求項1に記載の共重合体。
【化1】
【請求項3】
エラストマーであることを特徴とする請求項2に記載の共重合体。
【請求項4】
数平均分子量が10,000以上であることを特徴とする請求項3に記載の共重合体。
【請求項5】
エチレン単位と、α-オレフィン単位と、ホウ素を導入したα-オレフィン単位である含ホウ素オレフィン単位と、を用いて重合反応を行うことにより、主鎖炭素及び側鎖炭素の少なくとも一方に前記含ホウ素オレフィン単位由来のボロン酸基を結合させ、該ボロン酸基を介した架橋構造を形成することを特徴とする共重合体の製造方法。
【請求項6】
前記含ホウ素オレフィン単位の原料である原料モノマーとして、下記式(2)又は下記式(3)で表される含ホウ素モノマーを用いることを特徴とする請求項5に記載の共重合体の製造方法。
【化2】
(式(2)及び式(3)中、Rはボロン酸の保護基を有するボロン酸誘導体基を表し、nは1以上の整数を表す。)
【請求項7】
前記重合反応において、チタン錯体又はジルコニウム錯体を触媒として用いることを特徴とする請求項6に記載の共重合体の製造方法。
【請求項8】
エチレン単位と、α-オレフィン単位と、ホウ素を導入したα-オレフィン単位である含ホウ素オレフィン単位と、を含有する多元共重合体であって、主鎖炭素及び側鎖炭素の少なくとも一方に、前記含ホウ素オレフィン単位由来のボロン酸基を有し、該ボロン酸基を介した架橋構造を有する共重合体に、下記式(4)で表されるキレート剤を加えて脱架橋反応を行うことを特徴とする共重合体の回収方法。
【化3】
(式(4)中、Rは炭素官能基を表し、nは1以上の整数を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合体、共重合体の製造方法及び回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)に代表される従来の硫黄架橋ポリオレフィン系エラストマーは、汎用ゴム材として様々な用途に用いられている。硫黄架橋ポリオレフィン系エラストマーは、架橋構造の分解及び再架橋に多くのエネルギーを要するためリサイクルが難しく、ほとんどの製品は焼却処理され、再生ゴムとして利用される割合は非常に少ない。ゴム材料を回収して繰り返し利用することにより、天然炭素資源の保護に貢献することはゴム産業において重要な課題である。
【0003】
例えば、非特許文献1に開示されているように、ポリオレフィン系エラストマーにリサイクル性を付与するために、硫黄架橋をより容易に分解可能なボロン酸による架橋に置き換えることが知られている。非特許文献1には、水酸基を導入したポリオレフィンと、ボロン酸架橋剤を混合する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Dynamically Cross-Linked Polyolefin Elastomers with Highly Improved Mechanical and Thermal Performance, Macromolecules, 2021, 54, 10381-10387
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に記載される方法により合成されたエラストマーは、架橋分子が脱落し易いため、経年劣化による機械強度低下の問題や、リサイクルする度に機械強度が低下するという問題がある。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、硫黄架橋のEPDMよりも高い機械強度を有し、経年劣化を抑制するとともに、脱架橋により容易に回収可能でリサイクル性の高い共重合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の共重合体は、
エチレン単位と、α-オレフィン単位と、ホウ素を導入したα-オレフィン単位である含ホウ素オレフィン単位と、を構成単位として含有する多元共重合体であって、
主鎖炭素及び側鎖炭素の少なくとも一方に、前記含ホウ素オレフィン単位由来のボロン酸基を有し、該ボロン酸基を介した架橋構造を有することを特徴とする。
【0008】
また、前記ボロン酸基が、下記式(1)で表されるボロン酸無水物基であることを特徴とする。
【0009】
【化1】
【0010】
また、前記共重合体はエラストマーであることを特徴とする。
【0011】
本発明の共重合体は、数平均分子量が10,000以上であることが好ましい。
【0012】
そして、本発明の共重合体の製造方法は、エチレン単位と、α-オレフィン単位と、ホウ素を導入したα-オレフィン単位である含ホウ素オレフィン単位と、を用いて重合反応を行うことにより、主鎖炭素及び側鎖炭素の少なくとも一方に前記含ホウ素オレフィン単位由来のボロン酸基を結合させ、該ボロン酸基を介した架橋構造を形成することを特徴とする。
【0013】
本発明の共重合体の製造方法において、前記含ホウ素オレフィン単位の原料である原料モノマーとして、下記式(2)又は下記式(3)で表される含ホウ素モノマーを用いることが好ましい。
【0014】
【化2】
【0015】
(式(2)及び式(3)中、Rはボロン酸の保護基を有するボロン酸誘導体基を表し、nは1以上の整数を表す。)
また、本発明の共重合体の製造方法では、前記重合反応において、チタン錯体又はジルコニウム錯体を触媒として用いることが好ましい。
【0016】
さらに、本発明の共重合体の回収方法として、エチレン単位と、α-オレフィン単位と、ホウ素を導入したα-オレフィン単位である含ホウ素オレフィン単位と、を含有する多元共重合体であって、主鎖炭素及び側鎖炭素の少なくとも一方に、前記含ホウ素オレフィン単位由来のボロン酸基を有し、該ボロン酸基を介した架橋構造を有する共重合体に、下記式(4)で表されるキレート剤を加えて脱架橋反応を行うことを特徴とする。
【0017】
【化3】
【0018】
(式(4)中、nは1以上の整数を表し、Rは炭素官能基を表す。)
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、硫黄架橋のEPDMよりも高い機械強度を有し、経年劣化を抑制するとともに、脱架橋により容易に回収可能でリサイクル性の高い共重合体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例5で得られた共重合体の1H NMRスペクトルである。
図2】実施例6で得られた共重合体の応力歪み曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0022】
<共重合体>
本発明の共重合体は、エチレン単位と、α-オレフィン単位と、ホウ素を導入したα-オレフィン単位である含ホウ素オレフィン単位と、を構成単位として含有する多元共重合体である。
【0023】
本発明の共重合体において、「エチレン単位」、「α-オレフィン単位」及び「含ホウ素オレフィン単位」等の各構成単位の用語は、その構成単位が由来するモノマーの名称に従う。例えば、「エチレン単位」とは、モノマーとしてエチレンを重合した結果生ずる重合体の構成単位を意味する。「α-オレフィン単位」とは、α-オレフィンモノマーを重合した結果生ずる重合体の構成単位を意味する。また、「含ホウ素オレフィン単位」とは、ホウ素を含有したオレフィンモノマーを重合した結果生ずる重合体の構成単位を意味する。
【0024】
本発明の共重合体において、「多元共重合体」とは、3種類以上のモノマーを重合してなる共重合体を意味する。本実施形態の製造方法では、例えば、三元共重合体を好適に製造することができる。
【0025】
本発明の共重合体は、主鎖炭素及び側鎖炭素の少なくとも一方に、含ホウ素オレフィン単位由来のボロン酸基を有し、該当するボロン酸基を介した架橋構造を有する。架橋構造を構成するボロン酸基は、下記式(1)で表されるボロン酸無水物基であることが好ましい。
【0026】
【化4】
【0027】
本発明の共重合体は、数平均分子量(Mn)が10,000以上100,000未満のものから、100,000以上の大きなものまで、様々な分子量の共重合体を製造可能である。また、本発明の共重合体として、エラストマーを得ることも可能である。
【0028】
以上のように構成された共重合体は、従来の硫黄架橋のEPDMと比較して約1.5倍以上の破断強度を有し、経年劣化を抑制するとともに、脱架橋により容易に回収可能でリサイクル性が高い。
【0029】
<α-オレフィン単位>
本発明の共重合体は、エチレン単位及びαオレフィン単位を含有する。α-オレフィン単位にはエチレン単位を含まないものとする。α-オレフィン単位は、モノマーとしてのα-オレフィンに由来する構成単位である。本発明の共重合体において、α-オレフィンモノマーの具体例として、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-へプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン等の直鎖状のオレフィン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン等の分岐鎖状オレフィン、及び、ビニルシクロヘキサン等の環状オレフィンが挙げられる。これらは単独で又は組み合わせてもよい。α-オレフィンモノマーは、好ましくはプロピレンである。
【0030】
多元共重合体におけるエチレン単位及びα-オレフィン単位の含有量は限定されず、従来公知の共重合体の製法に倣い、様々な含有量でエチレン単位及びα-オレフィン単位を含む多元共重合体を製造可能である。また、従来公知のエラストマーの合成方法に倣い、エチレン単位及びα-オレフィン単位を所定の含有量とするとともに、適当な金属触媒を用いることで、本発明の共重合体としてエラストマーを得ることも可能である。
【0031】
<含ホウ素オレフィン単位>
本発明の共重合体は、含ホウ素オレフィン単位を含有する。含ホウ素オレフィン単位は、原料モノマーとしての含ホウ素モノマーに由来する構成単位である。本発明の共重合体において、含ホウ素モノマーの具体例として、例えば、下記式(2)及び(3)で表される化合物が挙げられる。
【0032】
【化5】
【0033】
式(2)及び(3)中、Rはボロン酸の保護基を有するボロン酸誘導体基を表し、nは1以上の整数である。ボロン酸誘導体基のα-オレフィン部分は、直鎖状のオレフィンに限らず、分岐鎖状であってもよい。また、ボロン酸誘導体基は、ボロン酸が保護されたものであれば特に限定されるものではないが、保護基は、例えば、ジアミノナフタレンである。
【0034】
式(2)の具体例として、例えば、下記式(2a),(2b)が挙げられる。式(3)の具体例として、例えば、(3a)が挙げられる。(2a)は後述する実施例1,2,5,6において、含ホウ素オレフィン単位の原料モノマーとして用いる。(2b)は後述する実施例3において含ホウ素オレフィン単位の原料モノマーとして用いる。(3a)は後述する実施例4において含ホウ素オレフィン単位の原料モノマーとして用いる。これらの含ホウ素モノマーは、重合反応においてボロン酸基を形成する。
【0035】
【化6】
【0036】
<共重合体の製造方法>
本発明の共重合体は、エチレン単位と、α-オレフィン単位と、ホウ素を導入したα-オレフィン単位である含ホウ素オレフィン単位と、を用いた重合反応により製造することが可能である。この重合反応には、4族金属錯体を触媒として用いることが好ましい。適切な金属触媒を用いることで、得られる共重合体のホウ酸架橋構造の数や分子量を制御することが可能となる。
【0037】
本発明の共重合体の製造に用いるチタン錯体及びジルコニウム錯体の具体例として、例えば、下記式(5),(6)で表される錯体を用いることが可能である。本発明の共重合体は、チタン錯体(5)を用いて重合反応を行うことで、数平均分子量(Mn)を100,000以上とすることが可能であり、ジルコニウム錯体(6)を用いて重合反応を行うことにより、数平均分子量(Mn)を10,000以上100,000未満とすることが可能である。
【0038】
【化7】
【0039】
エチレン単位、α-オレフィン単位及び含ホウ素オレフィン単位の重合反応には、上記チタン錯体やジルコニウム錯体に加え、さらに助触媒を用いてもよい。助触媒としては、例えばアルミノキサンや有機アルミニウム化合物が挙げられる。助触媒は、一種を単独で用いても良く、二種以上を組み合わせて用いても良い。助触媒の具体例として、例えば、メチルアルミノキサン(MAO)等のアルキルアミノキサンが挙げられる。
【0040】
<共重合体の回収方法>
エチレン単位と、α-オレフィン単位と、ホウ素を導入したα-オレフィン単位である含ホウ素オレフィン単位と、を含有する多元共重合体であって、主鎖炭素及び側鎖炭素の少なくとも一方に、前記含ホウ素オレフィン単位由来のボロン酸基を有し、該ボロン酸基を介した架橋構造を有する本発明の共重合体は、高圧水熱条件や酸性条件では脱架橋反応や分解反応が起こらず、下記式(4)で表されるキレート剤を加えて脱架橋反応を行うことにより容易に回収することが可能である。
【0041】
【化8】
【0042】
(式(4)中、Rは炭素官能基を表し、nは1以上の整数を表す。)炭素官能基Rの具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の直鎖状アルキル基、イソプロピル基、イソブチル基、t-ブチル基等の分岐状アルキル基等が挙げられる。下記式(4)のキレート剤の具体例としては、例えば、N-メチルジエタノールアミンが挙げられる。
【0043】
本発明の共重合体の回収方法は、より具体的には、共重合体にトルエン及び上記式(4)で表されるキレート剤を加えて加熱還流し、得られた溶液をメタノール中で再沈殿させることにより、脱架橋した共重合体を回収することができるので、リサイクル性が高い。
【実施例0044】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0045】
<原料モノマーの合成>
[含ホウ素モノマー2aの合成]
100mLの2口フラスコに削状マグネシウム292mg(12.0mmol)を入れ、窒素置換したのち脱水THF10mLを加えた。ここに室温で4-(4-ブロモフェニル)-1-ブテン2.11mL(10.0mmol)のTHF溶液(10.0mL)を滴下し、1時間反応させた。金属マグネシウムがほぼ全て消費されたのを確認し、1,8-ナフタレンジアミナートボラン1.39mg(8.3mmol)のTHF溶液(10.0mL)を室温で滴下してさらに2時間反応させた。得られた反応混合物に水10mLを加えて反応を停止し、有機層をエーテル(20mL×3)で抽出したのち無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒をロータリーエバポレータで留去し、残渣を熱ヘキサンから再結晶すると褐色固体として含ホウ素モノマー2aが得られた。
【0046】
[含ホウ素モノマー2bの合成]
100mLの2口フラスコに削状マグネシウム157mg(6.5mmol)を入れ、窒素置換したのち脱水THF5.0mLを加えた。ここに室温で6-(4-ブロモフェニル)-1-ヘキセン1.30mL(5.4mmol)のTHF溶液(5.0mL)を滴下し、1時間反応させた。金属マグネシウムがほぼ全て消費されたのを確認し、1,8-ナフタレンジアミナートボラン823mg(4.9mmol)のTHF溶液(5.0mL)を室温で滴下してさらに2時間反応させた。得られた反応混合物に水5mLを加えて反応を停止し、有機層をエーテル(20mL×3)で抽出したのち無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒をロータリーエバポレータで留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/酢酸エチル=9:1,Rf=0.61)で精製すると褐色固体として含ホウ素モノマー2bが得られた。
【0047】
[含ホウ素モノマー3aの合成]
50mLの2口フラスコに削状マグネシウム243mg(10.0mmol)を入れ、窒素置換したのち脱水THF16.8mLを加えた。ここに室温で5-ブロモ-1-ペンテン1.0mL(8.4mmol)を滴下し、1時間反応させた。金属マグネシウムがほぼ全て消費されたのを確認し、1,8-ナフタレンジアミナートボラン1.01g(6.0mmol)のTHF溶液(6.0mL)を室温で滴下してさらに1時間反応させた。得られた反応混合物に水5mLを加えて反応を停止し、有機層をエーテル(10mL×3)で抽出したのち無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒をロータリーエバポレータで留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(移動相:ヘキサン/酢酸エチル=9:1,Rf=0.45)で精製すると褐色油状物質として含ホウ素モノマー3aが得られた。
【0048】
<共重合体の製造>
[実施例1]
含ホウ素モノマー2a(200mg,0.67mmol)を入れた100mLの二口フラスコを窒素置換したのち、脱水トルエン28.0mLとメチルアルミノキサン(2.8Mトルエン溶液,1.0mL,2.8mmol)を加えた。フラスコ上部の窒素を減圧下で取り除いたのち,エチレン/プロピレン混合ガス(1:4)をトルエン溶液が飽和するまで流通させた。フラスコにエチレン/プロピレン混合ガス(1:4,合計流量250mL/min)を流通させた状態で、上記式(5)で表されるチタン錯体(7.2mg,10μmol)のトルエン溶液(1.0mL)を加えて重合を開始した。室温で15分間反応させたのち、塩酸酸性メタノールを加えて反応を停止し、反応混合物を塩酸酸性メタノール(2%,200mL)に注いで共重合体を沈殿させた。共重合体を濾過して回収し、60℃で4時間減圧乾燥することで共重合体を得た。数平均分子量300,000、分子量分布1.2であった。
【0049】
なお、本明細書における分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC法)を用い、ポリスチレンを標準物質として換算した重量平均分子量(Mw)と、数平均分子量(Mn)とから算出した比(Mw/Mn)である。
【0050】
[実施例2]
上記実施例1と同様の条件で重合反応を行い、共重合体を得た。数平均分子量214000、分子量分布1.4、含ホウ素モノマーの取り込み率は0.23mol%であった。得られた共重合体をTHF50mLに再溶解し、濃塩酸4mLを加えて一晩撹拌したのち、メタノール(300mL)を加えて完全に沈殿させると、あらゆる有機溶媒に完全に不溶となった。本発明の共重合体は、酸性条件下では脱架橋や分解が起こらないことが分かった。
【0051】
[実施例3]
含ホウ素モノマーとして2b(219mg,0.67mmol)を用いたこと以外は上記実施例1及び2と同様の条件で重合反応を行い、共重合体を得た。数平均分子量197,000、分子量分布1.4、含ホウ素モノマーの取り込み率は0.22mol%であった。得られた共重合体をTHF50mLに再溶解し、濃塩酸4mLを加えて一晩撹拌したのち、メタノール(300mL)を加えて完全に沈殿させると、あらゆる有機溶媒に完全に不溶となった。本発明の共重合体は、酸性条件下では脱架橋や分解が起こらないことが分かった。
【0052】
[実施例4]
含ホウ素モノマーとして3a(158mg,0.67mmol)を用いたこと以外は上記実施例1から3と同様の条件で重合反応を行い、共重合体を得た。あらゆる有機溶媒に不溶であったため分子量や含ホウ素モノマーの取り込み率は算出できなかった。
【0053】
[実施例5]
含ホウ素モノマー2a(200mg,0.67mmol)を入れた100mL二口フラスコを窒素置換したのち、脱水トルエン11.0mLと修飾メチルアルミノキサン(2.0Mトルエン溶液,2.0mL,4.0mmol),2,6-ジ-tert-ブチル-4-フェノール(66mg,0.30mmol)のトルエン溶液(1.0mL)を加えて10分間室温で撹拌した。フラスコ上部の窒素を減圧下で取り除いたのち、エチレン/プロピレン混合ガス(1:1)をトルエン溶液が飽和するまで流通させた。フラスコにエチレン/プロピレン混合ガス(1:1,合計流量200mL/min)を流通させた状態で、上記式(6)で表されるジルコニウム錯体(16.7mg,20μmol)のトルエン溶液(1.0mL)を加えて重合を開始した。室温で15分間反応させたのち、塩酸酸性メタノールを加えて反応を停止し、反応混合物を塩酸酸性メタノール(2%,200mL)に注いで共重合体を沈殿させた。共重合体を濾過して回収し、60℃で4時間減圧乾燥することで共重合体を得た。数平均分子量52000、分子量分布1.9、含ホウ素モノマーの取り込み率は0.36mol%であった。
【0054】
[実施例6]
含ホウ素モノマー2a(400mg,1.331mmol)を入れた100mL二口フラスコを窒素置換したのち、脱水トルエン11.0mLと修飾メチルアルミノキサン(2.0Mトルエン溶液,2.0mL,4.0mmol),2,6-ジ-tert-ブチル-4-フェノール(66mg,0.30mmol)のトルエン溶液(1.0mL)を加えて10分間室温で撹拌した。フラスコ上部の窒素を減圧下で取り除いたのち,エチレン/プロピレン混合ガス(1:2)をトルエン溶液が飽和するまで流通させた。フラスコにエチレン/プロピレン混合ガス(1:2,合計流量300mL/min)を流通させた状態で、上記式(6)で表されるジルコニウム錯体(16.7mg,20μmol)のトルエン溶液(1.0mL)を加えて重合を開始した。室温で30分間反応させたのち、塩酸酸性メタノールを加えて反応を停止し、反応混合物を塩酸酸性メタノール(2%,200mL)に注いで共重合体を沈殿させた。共重合体を濾過して回収し、60℃で4時間減圧乾燥することで共重合体を得た。数平均分子量28000、分子量分布2.1、含ホウ素モノマーの取り込み率は0.50mol%であった。
【0055】
[含ホウ素モノマー取り込み率の算出方法]
上記実施例において、含ホウ素モノマー取り込み率は、エチレンとプロピレンの共重合比率が概ね1:1で、含ホウ素モノマー取り込み量が十分に小さいとすると、含ホウ素モノマー取り込み率は、1H NMRスペクトルの2.6ppmのシグナルおよび1.8-0.6ppm付近のシグナルの積分比(I2.6,I1.8-0.6)を用いて以下の計算式で表される。
含ホウ素モノマー取り込み率(mol%)=(I2.6/2)/(I1.8-0.6/5)×100。
【0056】
図1に実施例5で得られた共重合体の1H NMRスペクトルを示す。図1で示すように、1H NMRスペクトルから得られた積分比を上記計算式に当てはめると、実施例5の共重合体における含ホウ素モノマー取り込み率は、
含ホウ素モノマー取り込み率(mol%)=(0.43/2)/(300/5)×100=0.36mol%
と算出することができる。
【0057】
[ポリマー鎖1本当たりのボロン酸官能基の個数の算出方法]
また、エチレン(分子量28)とプロピレン(分子量42)の含有率を1:1と仮定し、数平均分子量としてGPCで求めた値を用いることで、ポリマー鎖1本当たりのボロン酸官能基の個数と含ホウ素モノマー取り込み率(モル分率)の関係は、以下の計算式で表される。
(ポリマー鎖1本当たりのボロン酸基の個数)=(数平均分子量)/((28+42)/2)×(含ホウ素モノマー取り込み率)
実施例6を例とすると、
28000/35×0.0050=4.0
と算出され、ポリマー鎖1本当たり4つのボロン酸基により架橋されていることが分かった。
【0058】
<共重合体の機械的特性の測定>
実施例6で得られた共重合体を、THF50mLに完全に溶解させ、12Mの濃塩酸を3.0mL加えて一晩撹拌した。析出した共重合体の沈殿を回収し、メタノールで洗浄したのち、減圧下60℃で4時間乾燥した共重合体を得た。この共重合体を、さらに160℃,2.0MPaで熱プレスして成型した5×2cmのダンベル型試験片について、JIS K6251に規定される方法に従い、測定温度25℃、引張速度500mm/分の条件にて引張り試験を行った。試験結果の応力歪み曲線を図2に示す。破断強度は29.8MPa、破断伸びは1100%であった。硫黄架橋のEPDMは、破断強度5~20MPa、破断伸び100~800%であることが知られているが、本発明の共重合体は、硫黄架橋のEPDMと比較して、約1.5倍の破断強度及び伸び率であった。
【0059】
<共重合体の回収>
[キレート剤を用いた脱架橋試験]
実施例2で得られた三元共重合体100mgを96μmのステンレスメッシュに封入し、還流管を取り付けた50mLナスフラスコに入れた。フラスコを窒素置換したのち、脱水トルエン5.0mLおよびN-メチルジエタノールアミン1.0mLを加えて48時間加熱還流した。得られた溶液をメタノール中に注いで共重合体を再沈殿させ、濾過して回収した。60℃で4時間減圧乾燥すると、脱架橋し、可溶化された共重合体が75mg得られた。脱架橋された共重合体の数平均分子量は247000、分子量分布は1.1であった。
【0060】
[水熱条件を用いた脱架橋試験]
実施例2で得られた共重合体100mgを96μmのステンレスメッシュに封入し、50mLオートクレーブに入れた。フラスコを窒素置換したのち、脱水トルエン5.0mL及び水5.0mLを加えて130℃に加熱し、168時間加熱した。ステンレスメッシュ内に残った共重合体をメタノールで洗浄し、減圧下60℃で4時間乾燥した。得られた共重合体の重量を測定したところ、100mg全てを回収した。この試験により、本発明の共重合体は、水熱条件下では脱架橋や分解が起こらないことを確認した。
図1
図2