(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024006141
(43)【公開日】2024-01-17
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 169/04 20060101AFI20240110BHJP
C10M 159/16 20060101ALN20240110BHJP
C10M 107/08 20060101ALN20240110BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20240110BHJP
C10N 40/26 20060101ALN20240110BHJP
C10N 30/04 20060101ALN20240110BHJP
【FI】
C10M169/04
C10M159/16
C10M107/08
C10N10:04
C10N40:26
C10N30:04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022106762
(22)【出願日】2022-07-01
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100114409
【弁理士】
【氏名又は名称】古橋 伸茂
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100194423
【弁理士】
【氏名又は名称】植竹 友紀子
(72)【発明者】
【氏名】堀田 順人
(72)【発明者】
【氏名】王 涵卓
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BB08A
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BB41A
4H104BH03A
4H104CA04A
4H104CB14A
4H104DA02A
4H104DB03C
4H104EA03A
4H104FA02
4H104LA02
4H104PA45
(57)【要約】
【課題】優れた高温清浄性を有し、デポジット発生の抑制効果が高い、2ストロークエンジンの潤滑に適した潤滑油組成物が求められている。
【解決手段】JIS K2203:2009で規定の灯油(A1)を含む基油(A)、マンニッヒ化合物(B)、及び塩基価100mgKOH/g以上の過塩基性金属清浄剤(C)を含有し、2ストロークエンジンの潤滑に用いられる、潤滑油組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS K2203:2009で規定の灯油(A1)を含む基油(A)、マンニッヒ化合物(B)、及び塩基価100mgKOH/g以上の過塩基性金属清浄剤(C)を含有し、2ストロークエンジンの潤滑に用いられる、潤滑油組成物。
【請求項2】
成分(B)と成分(C)との含有量比〔(B)/(C)〕が、質量比で、12.0~40.0である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
成分(B)の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、4.50質量%以上である、請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
成分(C)の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.25質量%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
成分(A)が、さらにポリブテン(A2)を含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
成分(A2)の重量平均分子量が、500以上である、請求項5に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
成分(B)が、フェノール構造を有するマンニッヒ化合物(B1)を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
成分(C)が、過塩基性カルシウム系清浄剤(C1)を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
ドローンが備える2ストロークエンジンの潤滑に用いられる、請求項1~8のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を、2ストロークエンジンの潤滑に適用する、潤滑油組成物の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物、及び潤滑油組成物の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2ストロークエンジンは、クランクシャフト1回転だけの間にピストンの2ストロークでパワーサイクルを完結させる内燃機関の一種である。2ストロークエンジンでは、潤滑油を吸気系の途中に供給することにより燃料と潤滑油との混合体をエンジンに供給する方式、もしくは、潤滑油をピストン摺動面、クランクジャーナル等の被潤滑部に直接噴射供給する方式が採用されている。どちらの方式を採用した場合にも、潤滑油は燃料と空気との混合気と共に燃焼することとなる。
【0003】
このような2ストロークエンジンに用いられる潤滑油については、これまで様々な開発が行われてきた。
例えば、特許文献1には、低分子量のポリブテンと、高分子量のポリブテンと、特定の動粘度を有するポリブテン以外の基油とを所定の割合で含有すると共に、所定量のアルキルアミノフェノールを含有した2ストロークサイクルディーゼルエンジン用潤滑油組成物に関する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況下、例えば、優れた高温清浄性を有し、デポジット発生の抑制効果が高い、2ストロークエンジンの潤滑に適した潤滑油組成物が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、灯油を含む基油、マンニッヒ化合物、及び過塩基性金属清浄剤を含有する潤滑油組成物が、上記課題を解決し得ることを見出した。具体的には、本発明は、以下の態様を開示する。
[1]JIS K2203:2009で規定の灯油(A1)を含む基油(A)、マンニッヒ化合物(B)、及び塩基価100mgKOH/g以上の過塩基性金属清浄剤(C)を含有し、2ストロークエンジンの潤滑に用いられる、潤滑油組成物。
[2]上記[1]に記載の潤滑油組成物を、2ストロークエンジンの潤滑に適用する、潤滑油組成物の使用方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の好適な一態様の潤滑油組成物は、優れた高温清浄性を有し、デポジット発生の抑制効果が高い。そのため、本発明の一態様の潤滑油組成物は、2ストロークエンジンの潤滑に好適に使用し得る。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書に記載された数値範囲については、上限値及び下限値を任意に組み合わせることができる。例えば、数値範囲として「好ましくは30~100、より好ましくは40~80」と記載されている場合、「30~80」との範囲や「40~100」との範囲も、本明細書に記載された数値範囲に含まれる。
また、例えば、数値範囲として「好ましくは30以上、より好ましくは40以上であり、また、好ましくは100以下、より好ましくは80以下である」と記載されている場合、「30~80」との範囲や「40~100」との範囲も、本明細書に記載された数値範囲に含まれる。つまり、本明細書に記載された上限値及び下限値の規定において、それぞれの選択肢の中から適宜選択して、任意に組み合わせて、下限値~上限値の数値範囲を規定することができる。
さらに、本明細書に記載された数値範囲として、例えば「60~100」との記載は、「60以上、100以下」という範囲であることを意味する。
加えて、本明細書に記載された好ましい態様として記載の各種要件は複数組み合わせることができる。
【0009】
本明細書において、動粘度及び粘度指数は、JIS K2283:2000に準拠して測定及び算出された値を意味する。
本明細書において、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、リン原子(P)、亜鉛原子(Zn)、及びホウ素原子(B)の含有量は、JPI-5S-38-92に準拠して測定された値を意味する。
本明細書において、窒素原子(N)の含有量は、JIS K2609:1998に準拠して測定された値を意味する。
【0010】
〔潤滑油組成物の構成〕
本発明の一態様の潤滑油組成物は、JIS K2203:2009で規定の灯油(A1)を含む基油(A)、マンニッヒ化合物(B)、及び塩基価100mgKOH/g以上の過塩基性金属清浄剤(C)を含有する。そして、本発明の一態様の潤滑油組成物は、2ストロークエンジンの潤滑に用いられることを想定して調整されたものである。
【0011】
例えば、近年、農業散布等をドローンを用いて行われることが検討されており、従来の電力駆動ドローンでは、出力不足のため積載量の増加が困難となっている。そのため、ドローンに高出力2ストロークエンジンを積載することが検討されている。しかしながら、ドローンように、空中で、最大出力が5kW以上の高出力2ストロークエンジンを使用すると、大気中の固形粒子が潤滑油組成物中に混入し易い。また、固形粒子が核となりデポジットが生じ易く、フィルターの目詰まりを引き起こし、エンジン出力が低下する要因ともなる。特に、高出力2ストロークエンジンは、ピストン近傍がより高温となるため、フィルターの目詰まりの要因となるデポジットが発生し易く、更なる高温清浄性が要求されている。
そのため、高出力2ストロークエンジンに用いられる潤滑油組成物には、優れた高温清浄性を有すると共に、デポジットの発生の抑制効果が求められている。なお、本明細書において、高出力2ストロークエンジンとは、最大出力が5kW以上の2ストロークエンジンを意味する。
このような要求に対して、本発明の一態様の潤滑油組成物では、灯油(A1)を含む基油(A)に対して、マンニッヒ化合物(B)及び過塩基性金属清浄剤(C)を併用することで、優れた高温清浄性を発現させ、デポジットの発生の抑制効果を向上させている。
【0012】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、優れた高温清浄性をより発現させ、デポジットの発生の抑制効果をより向上させる観点から、成分(B)と成分(C)との含有量比[(B)/(C)]は、質量比で、好ましくは12.0以上、より好ましくは14.0以上、更に好ましくは16.0以上、より更に好ましくは18.0以上、特に好ましくは20.0以上であり、また、好ましくは40.0以下、より好ましくは36.0以下、更に好ましくは32.0以下、より更に好ましくは30.0以下、特に好ましくは28.0以下である。
【0013】
本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、更に成分(A)~(C)以外の他の潤滑油用添加剤を含有してもよい。
ただし、本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(A)、(B)及び(C)の合計含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは70質量%以上、より好ましくは75質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、より更に好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上であり、また、100質量%以下、99.99質量%以下、又は99.90質量%以下としてもよい。
【0014】
以下、本発明の一態様の潤滑油組成物に含まれる各成分の詳細について説明する。
【0015】
<成分(A):基油>
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(A)として用いる基油は、JIS K2203:2009で規定の灯油(A1)を含む。
また、本発明の一態様で成分(A)として用いる基油は、成分(A1)と共に、ポリブテン(A2)を含有することが好ましく、さらに、成分(A1)及び(A2)以外の鉱油及び合成油から選ばれる他の基油(A3)を含有してもよい。
【0016】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(A)の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは65質量%以上、より好ましくは70質量%以上、更に好ましくは75質量%以上、より更に好ましくは80質量%以上、特に好ましくは85質量%以上であり、また、96質量%以下、95質量%以下、94質量%以下、93質量%以下、又は92質量%以下としてもよい。
【0017】
<成分(A1):灯油>
本発明の一態様において、成分(A1)として用いる灯油は、JIS K2203:2009で規定された灯油であって、主に炭素数11~13の炭化水素成分から構成され、引火点が40℃以上、95%留出温度が300℃以下、硫黄分が0.50質量%以下である。
成分(A1)を含有することで、燃料油との溶解性が良好な潤滑油組成物とすることができる。
なお、本発明の一態様で用いる成分(A1)は、JIS K2203:2009の表2に記載の1号に分類される灯油であってもよく、2号に分類される灯油であってもよく、これらの混合物であってもよい。
【0018】
本発明の一態様で用いる成分(A1)の40℃における動粘度は、好ましくは1.00~4.00mm2/s、より好ましくは1.20~3.00mm2/s、更に好ましくは1.40~2.00mm2/s、より更に好ましくは1.55~1.75mm2/sである。
なお、本発明の一態様において、成分(A1)として、2種以上の灯油を組み合わせた混合油を用いる場合、当該混合油の動粘度が上記範囲であることが好ましい。また、当該混合油を構成する灯油の含有割合から算出した動粘度の加重平均が、上記範囲であることが好ましい。
【0019】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(A1)の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは2.0質量%以上、より好ましくは4.0質量%以上、更に好ましくは8.0質量%以上、より更に好ましくは12.0質量%以上、特に好ましくは15.0質量%以上であり、また、好ましくは50.0質量%以下、より好ましくは40.0質量%以下、更に好ましくは35.0質量%以下、より更に好ましくは30.0質量%以下、特に好ましくは25.0質量%以下である。
【0020】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(A1)の含有量は、当該潤滑油組成物に含まれる成分(A)の全量(100質量%)基準で、好ましくは3.0質量%以上、より好ましくは5.0質量%以上、更に好ましくは10.0質量%以上、より更に好ましくは13.0質量%以上、特に好ましくは16.0質量%以上であり、また、好ましくは50.0質量%以下、より好ましくは40.0質量%以下、更に好ましくは35.0質量%以下、より更に好ましくは30.0質量%以下、特に好ましくは25.0質量%以下である。
【0021】
<成分(A2):ポリブテン>
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(A)として、さらにポリブテン(A2)を含有することが好ましい。成分(A2)を含有することで、2ストロークエンジンに適用した際の清浄性を高め、排気煙を減少させ得る潤滑油組成物とすることができる。
【0022】
本発明の一態様で用いる成分(A2)は、通常、ナフサ分解でエチレンやプロピレンを生産する際に生じるC4留分からブタジエンを抽出した残りの留分、即ち、ブタン-ブテン留分を、例えば、塩化アルミニウム等のフリーデルクラフツ触媒を用いてカチオン重合することにより得られる共重合体又はその水素化物が挙げられる。
なお、前記ブタン-ブテン留分としては、例えば、イソブタン、n-ブタン、イソブチレン、1-ブテン、trans-2-ブテン、cis-2-ブテン等が挙げられる。
【0023】
本発明の一態様で用いる成分(A2)の重量平均分子量(Mw)は、高温清浄性を良好とし、デポジット発生の抑制効果をより高めた潤滑油組成物とする観点から、好ましくは500以上、より好ましくは550超、より好ましくは600以上、更に好ましくは700以上、より更に好ましくは800以上、特に好ましくは900以上であり、また、好ましくは2000以下、より好ましくは1700以下、更に好ましくは1500以下、より更に好ましくは1300以下、特に好ましくは1100以下である。
なお、本明細書において、重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフ装置を用いて標準ポリスチレン換算にて測定した値を意味し、具体的には、実施例に記載の方法により測定された値を意味する。
【0024】
本発明の一態様で用いる成分(A2)の100℃における動粘度は、好ましくは50~500mm2/s、より好ましくは100~400mm2/s、更に好ましくは150~300mm2/s、より更に好ましくは195~260mm2/sである。
なお、本発明の一態様において、成分(A2)として、2種以上のポリブテンを組み合わせた混合油を用いる場合、当該混合油の動粘度が上記範囲であることが好ましい。また、当該混合油を構成するポリブテンの含有割合から算出した動粘度の加重平均が、上記範囲であることが好ましい。
【0025】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(A2)の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは5.0質量%以上、より好ましくは10.0質量%以上、更に好ましくは15.0質量%以上、より更に好ましくは20.0質量%以上、特に好ましくは25.0質量%以上であり、また、好ましくは70.0質量%以下、より好ましくは60.0質量%以下、更に好ましくは50.0質量%以下、より更に好ましくは45.0質量%以下、特に好ましくは40.0質量%以下である。
【0026】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(A2)の含有量は、当該潤滑油組成物に含まれる成分(A)の全量(100質量%)基準で、好ましくは6.0質量%以上、より好ましくは12.0質量%以上、更に好ましくは18.0質量%以上、より更に好ましくは124.0質量%以上、特に好ましくは27.0質量%以上であり、また、好ましくは75.0質量%以下、より好ましくは65.0質量%以下、更に好ましくは55.0質量%以下、より更に好ましくは50.0質量%以下、特に好ましくは45.0質量%以下である。
【0027】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(A1)と成分(A2)との含有量比[(A1)/(A2)]は、質量比で、好ましくは0.10以上、より好ましくは0.20以上、更に好ましくは0.30以上、より更に好ましくは0.40以上、特に好ましくは0.50以上であり、また、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.2以下、更に好ましくは1.0未満、より更に好ましくは0.90以下、特に好ましくは0.80以下である。
【0028】
<成分(A3):他の基油>
本発明の一態様の潤滑油組成物において、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(A)として、さらに成分(A1)及び成分(A2)以外の鉱油及び合成油から選ばれる他の基油(A3)を含有してもよい。
成分(A3)は、単独であってもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
成分(A3)として用いる鉱油としては、例えば、パラフィン基系原油、中間基系原油、ナフテン基系原油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;これらの常圧残油を減圧蒸留して得られる留出油;当該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、及び水素化精製等の精製処理を1つ以上施して得られる精製油;等が挙げられる。
【0030】
成分(A3)として用いる合成油としては、例えば、α-オレフィン単独重合体、α-オレフィン共重合体(例えば、エチレン-α-オレフィン共重合体等の炭素数8~14のα-オレフィン共重合体)等のポリブテン以外のポリα-オレフィン;イソパラフィン;ポリアルキレングリコール;ポリオールエステル、二塩基酸エステル、リン酸エステル等のエステル系油;ポリフェニルエーテル等のエーテル系油;アルキルベンゼン;アルキルナフタレン;天然ガスからフィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(GTLワックス(Gas To Liquids WAX))を異性化することで得られる合成油(GTL)等が挙げられる。
【0031】
本発明の一態様で用いる成分(A3)の40℃における動粘度は、好ましくは3~100mm2/s、より好ましくは5~80mm2/s、更に好ましくは7~50mm2/s、より更に好ましくは9~40mm2/sである。
本発明の一態様で用いる成分(A3)の粘度指数は、好ましくは70以上、より好ましくは80以上、更に好ましくは90以上、より更に好ましくは100以上である。
なお、本発明の一態様において、成分(A3)として、成分(A1)及び(A2)以外の鉱油及び合成油から選ばれる2種以上を組み合わせた混合油を用いる場合、当該混合油の動粘度及び粘度指数が上記範囲であることが好ましい。また、当該混合油を構成する基油の含有割合から算出した動粘度及び粘度指数の加重平均が、上記範囲であることが好ましい。
【0032】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(A3)の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、0質量%以上、5.0質量%以上、10.0質量%以上、15.0質量%以上、20.0質量%以上、25.0質量%以上、30.0質量%以上、又は35.0質量%以上としてもよく、また、80.0質量%以下、70.0質量%以下、65.0質量%以下、60.0質量%以下、55.0質量%以下、50.0質量%以下、又は45.0質量%以下としてもよい。
【0033】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(A3)の含有量は、当該潤滑油組成物に含まれる成分(A)の全量(100質量%)基準で、0質量%以上、5.0質量%以上、10.0質量%以上、15.0質量%以上、20.0質量%以上、25.0質量%以上、30.0質量%以上、又は35.0質量%以上としてもよく、また、80.0質量%以下、70.0質量%以下、65.0質量%以下、60.0質量%以下、55.0質量%以下、又は50.0質量%以下としてもよい。
【0034】
<成分(B):マンニッヒ化合物>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、成分(B)として、マンニッヒ化合物を含有する。
マンニッヒ化合物(B)を含有する潤滑油組成物とすることで、当該潤滑油組成物から沸点が低い成分(A1)等が蒸発しても、成分(C)を十分に分散させることができ、成分(C)が有する高温清浄性を効果的に発現させ、デポジットの発生の抑制効果を高めることができる。
本発明の一態様で用いる成分(B)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
本発明の一態様で用いる成分(B)は、脂肪族又は脂環族アミン類もしくはこれらのアダクトと、フェノール類と、アルデヒド類とを反応させて得られるマンニッヒ化合物が好ましい。
脂肪族又は脂環式アミン類としては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、メタキシレンジアミン、メンセンジアミン、イソホロンジアミン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、メタアンジアミン、ノルボルナンジアミン等が挙げられる。
また、脂肪族又は脂環式アミン類のアダクト体としては、例えば、上述の脂肪族又は脂環式アミン類と、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル等のエポキシ化合物やアルキレンオキサイドとのアダクトが挙げられる。
フェノール類としては、例えば、p-クレゾール、4-エチルフェノール、4-t-ブチル-フェノール、4-t-アミルフェノール、4-t-オクチルフェノール、4-ドデシル-フェノール、2,4-ジ-t-ブチルフェノール、2,4-ジ-t- アミルフェノール、4-ノニルフェノール等が挙げられる。
アルデヒド類としては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロパンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ヘキサアルデヒド、ヘプタアルデヒド等が挙げられ、ホルムアルデヒドが好ましい。
【0036】
本発明の一態様で用いる成分(B)は、フェノール構造を有するマンニッヒ化合物(B1)を含むことが好ましく、ポリイソブチル置換フェノール構造を有するマンニッヒ化合物(B11)を含むことがより好ましい。
ポリイソブチル置換フェノール構造としては、下記式(b-0)に示す構造が挙げられる。
【0037】
【化1】
上記式(b-0)中、R
1は、ポリイソブチル基である。当該ポリイソブチル基の数平均分子量は、例えば、400~25000である。
【0038】
本発明の一態様で用いる成分(B)中の成分(B1)又は成分(B11)の含有割合は、成分(B)の全量(100質量%)基準で、好ましくは70~100質量%、より好ましくは80~100質量%、更に好ましくは90~100質量%、より更に好ましくは95~100質量%である。
【0039】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、高温清浄性をより向上させ、デポジットの発生の抑制効果が高い潤滑油組成物とする観点から、成分(B)の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは4.50質量%以上、より好ましくは5.00質量%以上、更に好ましくは6.00質量%以上、より更に好ましくは7.00質量%以上、特に好ましくは8.00質量%以上であり、また、好ましくは30.0質量%以下、より好ましくは25.0質量%以下、更に好ましくは20.0質量%以下、より更に好ましくは15.0質量%以下、特に好ましくは12.0質量%以下である。
【0040】
<成分(C):過塩基性金属系清浄剤>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、成分(C)として、塩基価100mgKOH/g以上の過塩基性金属清浄剤を含有する。
成分(C)を、成分(B)と共に含有する潤滑油組成物とすることで、当該潤滑油組成物から沸点が低い成分(A1)等が蒸発しても、成分(B)により成分(C)が潤滑油組成物中で十分に分散して、高温清浄性を向上させ、デポジットの発生の抑制効果を高めることができる。
本発明の一態様で用いる成分(C)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
本明細書において、「過塩基性金属系清浄剤」とは、塩基価が100mgKOH/g以上の金属系清浄剤を意味する。
本発明の一態様で用いる成分(C)の塩基価は、100mgKOH/g以上であるが、高温清浄性をより向上させ、デポジットの発生の抑制効果が高い潤滑油組成物とする観点から、好ましくは120mgKOH/g以上、より好ましくは150mgKOH/g以上、更に好ましくは170mgKOH/g以上、より更に好ましくは200mgKOH/g以上、特に好ましくは220mgKOH/g以上であり、また、600mgKOH/g以下、550mgKOH/g以下、500mgKOH/g以下、450mgKOH/g以下、又は400mgKOH/g以下としてもよい。
なお、本明細書において、「塩基価」は、JIS K2501「石油製品及び潤滑油-中和価試験方法」の「9.電位差滴定法(塩基価・過塩素酸法)」に準拠した過塩素酸法により測定された値を意味する。
【0042】
本発明の一態様で用いる成分(C)としては、例えば、金属フェネート、金属スルホネート、金属サリチレートが挙げられる。
金属フェネートとしては、下記一般式(c-1)で表される化合物が挙げられ、金属スルホネートとしては、下記一般式(c-2)で表される化合物が挙げられ、金属サリチレートとしては、下記一般式(c-3)で表される化合物が挙げられる。
【0043】
【0044】
上記一般式(c-1)~(c-3)中、Rは、水素原子又は炭素数1~18の炭化水素基である。当該炭化水素基は、直鎖炭化水素基であってもよく、分岐鎖炭化水素基であってもよい。
Rとして選択し得る炭化水素基としては、例えば、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のアルケニル基、環形成炭素数3~18のシクロアルキル基、環形成炭素数6~18のアリール基、炭素数7~18のアルキルアリール基、炭素数7~18のアリールアルキル基等が挙げられる。
上記一般式(c-1)中、Mは、アルカリ土類金属原子であり、カルシウム原子、マグネシウム原子、又はバリウム原子が好ましく、カルシウム原子がより好ましい。yは、0以上の整数であり、好ましくは0~3の整数である。
上記一般式(c-2)及び(c-3)中、M’は、アルカリ金属原子又はアルカリ土類金属原子であり、ナトリウム原子、カルシウム原子、マグネシウム原子、又はバリウム原子が好ましく、カルシウム原子がより好ましい。pは、Mの価数であって、1又は2である。
【0045】
本発明の一態様で用いる成分(C)は、高温清浄性をより向上させ、デポジットの発生の抑制効果が高い潤滑油組成物とする観点から、過塩基性カルシウム系清浄剤(D1)を含むことがより好ましい。
つまり、前記一般式(c-1)~(c-3)中、M又はM’が、カルシウム原子であることが好ましい。
【0046】
過塩基性カルシウム系清浄剤(C1)としては、前記一般式(c-1)で表される化合物のような過塩基性カルシウムフェネート、前記一般式(c-2)で表される化合物のような過塩基性カルシウムスルホネート、及び前記一般式(c-3)で表される化合物のような過塩基性カルシウムサリチレートから選ばれる1種以上が挙げられる。
【0047】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、成分(C)中の成分(C1)の含有割合は、当該潤滑油組成物に含まれる成分(C)の全量(100質量%)基準で、好ましくは60~100質量%、より好ましくは70~100質量%、更に好ましくは80~100質量%、より更に好ましくは90~100質量%、特に好ましくは95~100質量%である。
【0048】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、高温清浄性をより向上させ、デポジットの発生の抑制効果が高い潤滑油組成物とする観点から、成分(C)の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.25質量%以上、より好ましくは0.27質量%以上、更に好ましくは0.30質量%以上、より更に好ましくは0.32質量%以上、特に好ましくは0.35質量%以上であり、また、好ましくは1.2質量%以下、より好ましくは1.0質量%以下、更に好ましくは0.90質量%以下、より更に好ましくは0.80質量%以下、特に好ましくは0.70質量%以下である。
【0049】
<中性金属系清浄剤>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、塩基価が100mgKOH/g未満の中性金属系清浄剤を含有してもよい。
中性金属系清浄剤としては、例えば、前記一般式(c-1)で表される化合物等の金属フェネート、前記一般式(c-2)で表される化合物等の金属スルホネート、及び、前記一般式(c-3)で表される化合物等の金属サリチレートが挙げられる。
【0050】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、中性金属系清浄剤の含有量は、当該潤滑油組成物に含まれる成分(C)の全量100質量部に対して、0~50質量部、0~20質量部、0~10質量部、0~5質量部、0~1質量部、0~0.1質量部、又は0~0.01質量部としてもよい。
【0051】
<潤滑油用添加剤>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、更に成分(B)~(C)以外の他の潤滑油用添加剤を含有してもよい。
このような潤滑油用添加剤としては、例えば、流動点降下剤、粘度指数向上剤、酸化防止剤、摩擦調整剤、耐摩耗剤、極圧剤、金属不活性化剤、無灰分散剤、防錆剤、消泡剤等が挙げられる。
これらの潤滑油用添加剤は、それぞれ、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
これらの潤滑油用添加剤のそれぞれの含有量は、本発明の効果を損なわない範囲内で、適宜調整することができるが、潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、それぞれの添加剤ごとに独立して、通常0.001~15質量%、好ましくは0.005~10質量%、より好ましくは0.01~5質量%である。
【0053】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、デポジットの発生の抑制効果がより高い潤滑油組成物とする観点から、粘度指数向上剤の含有量が制限されていてもよい。
粘度指数向上剤の重量平均分子量としては、5000以上、1万以上、2万以上、又は3万以上としてもよく、また、100万以下、90万以下、80万以下、又は70万以下としてもよい。
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリメタクリレート系粘度指数向上剤、オレフィン系粘度指数向上剤等が挙げられる。
本発明の一態様の潤滑油組成物において、粘度指数向上剤の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、3.0質量%未満、2.0質量%未満、1.5質量%未満、1.0質量%未満、0.50質量%未満、0.20質量%未満、0.10質量%未満、0.05質量%未満、0.01質量%未満、0.001質量%未満、又は0.001質量%未満としてもよく、また、0.0001質量%以上、0.001質量%以上、0.01質量%以上、又は0.05質量%以上としてもよい。
【0054】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、デポジットの発生の抑制効果がより高い潤滑油組成物とする観点から、無灰分散剤の含有量が制限されていてもよい。
無灰分散剤としては、例えば、コハク酸イミド、高分子イミド、及びこれらのホウ素変性物等が挙げられる。
本発明の一態様の潤滑油組成物において、無灰分散剤の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、5.0質量%未満、4.0質量%未満、3.0質量%未満、2.0質量%未満、1.5質量%未満、1.0質量%未満、0.50質量%未満、0.20質量%未満、0.10質量%未満、0.05質量%未満、0.01質量%未満、0.001質量%未満、又は0.001質量%未満としてもよく、また、0.0001質量%以上、0.001質量%以上、0.01質量%以上、0.05質量%以上、又は0.10質量%以上としてもよい。
【0055】
〔潤滑油組成物の性状〕
本発明の一態様の潤滑油組成物の40℃における動粘度は、好ましくは10.0mm2/s以上、より好ましくは30.0mm2/s以上、更に好ましくは40.0mm2/s以上、より更に好ましくは50.0mm2/s以上、特に好ましくは60.0mm2/s以上であり、また、好ましくは120mm2/s以下、より好ましくは110mm2/s以下、更に好ましくは100mm2/s以下である。
【0056】
本発明の一態様の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、好ましくは3.0mm2/s以上、より好ましくは5.0mm2/s以上、更に好ましくは7.0mm2/s以上、より更に好ましくは9.0mm2/s以上、特に好ましくは10.0mm2/s以上であり、また、好ましくは25.0mm2/s以下、より好ましくは20.0mm2/s以下、更に好ましくは17.0mm2/s以下、より更に好ましくは15.0mm2/s以下である。
【0057】
本発明の一態様の潤滑油組成物の粘度指数は、好ましくは90以上、より好ましくは100以上、更に好ましくは110以上、より更に好ましくは115以上、特に好ましくは120以上である。
【0058】
本発明の一態様の潤滑油組成物の酸価は、好ましくは0.01~0.20mgKOH/g、より好ましくは0.01~0.15mgKOH/g、更に好ましくは0.01~0.10mgKOH/gである。
本明細書において、酸価は、JIS K2501「石油製品及び潤滑油-中和価試験方法」の「7.電位差滴定法(酸価)」に準拠して測定された値を意味する。
【0059】
本発明の一態様の潤滑油組成物の塩基価(過塩素酸法)は、好ましくは1.5~8.0mgKOH/g、より好ましくは2.0~7.0mgKOH/g、更に好ましくは2.5~6.0mgKOH/gである。
本明細書において、塩基価(過塩素酸法)は、JIS K2501「石油製品及び潤滑油-中和価試験方法」の「9.電位差滴定法(塩基価・過塩素酸法)」に準拠して測定された値を意味する。
【0060】
本発明の一態様の潤滑油組成物のカルシウム原子の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは100質量ppm以上、より好ましくは200質量ppm以上、更に好ましくは300質量ppm以上であり、また、好ましくは1000質量ppm以下、より好ましくは800質量ppm以下、更に好ましくは700質量ppm以下である。
【0061】
本発明の一態様の潤滑油組成物のリン原子の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、100質量ppm以下、70質量ppm以下、50質量ppm以下、30質量ppm以下、20質量ppm以下、又は10質量ppm以下としてもよい。
【0062】
本発明の一態様の潤滑油組成物の亜鉛原子の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、100質量ppm以下、70質量ppm以下、50質量ppm以下、30質量ppm以下、20質量ppm以下、又は10質量ppm以下としてもよい。
【0063】
本発明の一態様の潤滑油組成物のホウ素原子の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、50質量ppm以下、30質量ppm以下、20質量ppm以下、10質量ppm以下、5質量ppm以下、又は2質量ppm以下としてもよい。
【0064】
本発明の一態様の潤滑油組成物の窒素原子の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、200質量ppm以上、300質量ppm以上、400質量ppm以上、500質量ppm以上、600質量ppm以上、又は700質量ppm以上としてもよく、また、2000質量ppm以下、1800質量ppm以下、1600質量ppm以下、1500質量ppm以下、1400質量ppm以下、又は1300質量ppm以下としてもよい。
【0065】
本発明の一態様の潤滑油組成物に対して、JPI-5S-55-99に準拠して実施したホットチューブ試験における評点は、好ましくは7.5以上、より好ましくは8.0以上、更に好ましくは8.5以上、より更に好ましくは9.0以上である。
また、後述の実施例の記載の方法により測定した、ホットチューブ試験後の付着物の質量は、好ましくは2.7g以下、より好ましくは2.5g以下、更に好ましくは2.3以下、より更に好ましくは2.0以下、特に好ましくは1.9以下である。
なお、上記のホットチューブ試験の具体的な手順や諸条件は、後述の実施例に記載の方法のとおりである。
【0066】
〔潤滑油組成物の用途〕
本発明の一態様の潤滑油組成物は、優れた高温清浄性を有し、デポジット発生の抑制効果が高い。そのため、本発明の一態様の潤滑油組成物は、2ストロークエンジンの潤滑に好適に使用し得、最大出力が5kW以上の高出力2ストロークエンジンの潤滑により好適に使用し得る。
特に、大気中の固形粒子が混入し易いドローンが備える2ストロークエンジンの潤滑により好適に使用し得る。大気中の固形粒子が混入しても、本発明の一態様の潤滑油組成物は、優れた高温清浄性を有し、デポジットの発生の効果的に抑制することができる。
【0067】
本発明の一態様の潤滑油組成物の上述の特性を考慮すると、本発明は、以下の[I]及び[II]も提供し得る。
[I]上述の本発明の一態様の潤滑油組成物を充填した、2ストロークエンジン。
[II]上述の本発明の一態様の潤滑油組成物を2ストロークエンジンの潤滑に適用する、潤滑油組成物の使用方法。
上記[I]及び[II]に記載の2ストロークエンジンは、ドローンに備えられた2ストロークエンジンであっても、潤滑油組成物は、優れた高温清浄性を有し、デポジットの発生の効果的に抑制することができる。
なお、本明細書において、ドローンとは、令和4年6月20日施行の航空法第2条22項で規定される、無人であり、遠隔操作又は自動操縦で飛行できる、200g以上の重量の機体を意味する。
【0068】
以上のとおり、本発明は、以下の態様を開示する。
[1]JIS K2203:2009で規定の灯油(A1)を含む基油(A)、マンニッヒ化合物(B)、及び塩基価100mgKOH/g以上の過塩基性金属清浄剤(C)を含有し、2ストロークエンジンの潤滑に用いられる、潤滑油組成物。
[2]成分(B)と成分(C)との含有量比〔(B)/(C)〕が、質量比で、12.0~40.0である、上記[1]に記載の潤滑油組成物。
[3]成分(B)の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、4.50質量%以上である、上記[1]又は[2]に記載の潤滑油組成物。
[4]成分(C)の含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.25質量%以上である、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[5]成分(A)が、さらにポリブテン(A2)を含有する、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[6]成分(A2)の重量平均分子量が、500以上である、上記[5]に記載の潤滑油組成物。
[7]成分(B)が、フェノール構造を有するマンニッヒ化合物(B1)を含む、上記[1]~[6]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[8]成分(C)が、過塩基性カルシウム系清浄剤(C1)を含む、上記[1]~[7]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[9]ドローンが備える2ストロークエンジンの潤滑に用いられる、上記[1]~[8]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物。
[10]上記[1]~[9]のいずれか一項に記載の潤滑油組成物を、2ストロークエンジンの潤滑に適用する、潤滑油組成物の使用方法。
【実施例0069】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。なお、各種物性の測定法は、下記のとおりである。
【0070】
(1)動粘度及び粘度指数
JIS K2283:2000に準拠して測定及び算出した。
(2)重量平均分子量(Mw)
ゲル浸透クロマトグラフ装置(アジレント社製、「1260型HPLC」)を用いて、下記の条件下で測定し、標準ポリスチレン換算にて測定した値を用いた。
(測定条件)
・カラム:「Shodex LF404」を2本、順次連結したもの。
・カラム温度:35℃
・展開溶媒:クロロホルム
・流速:0.3mL/min
(3)塩基価(塩酸法/過塩素酸法)
JIS K2501「石油製品及び潤滑油-中和価試験方法」の「9.電位差滴定法(塩基価・過塩素酸法)」に準拠して測定した。
(4)酸価(電位差法)
JIS K2501「石油製品及び潤滑油-中和価試験方法」の「7.電位差滴定法(酸価)」に準拠して測定した。
(5)カルシウム原子(Ca)、リン原子(P)、亜鉛原子(Zn)、ホウ素原子(B)の含有量
JPI-5S-38-92に準拠して測定した。
(6)窒素原子(N)の含有量
JIS K2609:1998に準拠して測定した。
【0071】
実施例1~6、比較例1~6
基油及び各種添加剤を、表1~2に示す配合量にて添加して混合し、潤滑油組成物をそれぞれ調製した。
なお、当該潤滑油組成物の調製に使用した、各成分の詳細は以下のとおりである。
【0072】
<基油(A)>
・「灯油(a-1)」:JIS K2203:2009で規定の1号に該当する灯油、40℃動粘度=1.64mm2/s。
・「ポリブテン(a-2)」:重量平均分子量(Mw)=950のポリブテン、100℃動粘度=230mm2/s、
・「鉱油(a-3)」:APIの基油カテゴリーのグループIIに分類される基油、40℃動粘度=106mm2/s、粘度指数=103。
【0073】
<マンニッヒ化合物(B)>
・「マンニッヒ化合物(b-1)」:製品名「HiTEC(R)6416」(エチルコーポレーション社製)、前記一般式(b-0)で表されるポリイソブチル置換クレゾール構造を有するマンニッヒ化合物。
・「マンニッヒ化合物(b-2)」:ポリオレフィンポリアミンコハク酸アミド。
<分散剤>
・モノイミド:非ホウ素変性アルケニルコハク酸モノイミド
・ビスイミド:非ホウ素変性アルケニルコハク酸ビスイミド
・B系イミド:ホウ素系Cap型イミド
・高分子イミド:非ホウ素Cap型イミド
【0074】
<過塩基性金属清浄剤(C)>
・「過塩基性Caフェネート(c-1)」:塩基価=250mgKOH/gのカルシウムフェネート、Ca含有量=9.3質量%。
・「過塩基性Caスルホネート(c-2)」:塩基価=300mgKOH/gのカルシウムスルホネート、Ca含有量=11.6質量%。
・「過塩基性Caスルホネート(c-3)」:塩基価=307mgKOH/gのカルシウムスルホネート、Ca含有量=11.9質量%。
・「過塩基性Caサリチレート(c-4)」:塩基価=350mgKOH/gのカルシウムサリチレート、Ca含有量=12.1質量%。
<消泡剤>
・シリコーン系消泡剤:ジメチルポリシロキサン系消泡剤。
【0075】
調製した潤滑油組成物について、40℃及び100℃動粘度、粘度指数、酸価、塩基過、並びに、各原子の含有量を測定又は算出すると共に、以下に示すホットチューブ試験を行った。これらの結果を表1~2に示す。
【0076】
[ホットチューブ試験]
JPI-5S-55-99に準拠してホットチューブ試験を行った。具体的には、内径2mm×長さ320mmのガラス管に、ガラス管の温度を270℃に保ちながら、当該ガラス管内に実施例及び比較例で調製した潤滑油組成物を0.3mL/時間、及び、空気を10mL/分の速さで16時間流し続けてホットチューブ試験を実施した。
(1)メリット評点
ホットチューブ試験後、ガラス管中に付着したラッカーと色見本とを比較してガラス管内の変色の程度を、無色透明の場合は10点、黒の場合は0点として、0.5刻みで21段階の評点(メリット評点)をつけた。当該評点が高いほど、高温清浄性及び高温安定性に優れた潤滑油組成物であるといえる。本実施例においては、評点が7.5以上である場合、高温清浄性が良好な潤滑油組成物であると判断した。
(2)試験後の付着物の質量の測定
ホットチューブ試験前のガラス管の質量を予め測定し、ホットチューブ試験後のガラス管の質量を測定し、試験前後での質量の差を算出し、これを試験後の付着物の質量とした。当該質量が小さいほど、デポジットの抑制効果が高い潤滑油組成物であるといえる。本実施例においては、当該質量が2.7g以下である場合、デポジット発生の抑制効果が高い潤滑油組成物であると判断した。
(3)焼痕やCa痕の有無
ホットチューブ試験後のガラス管の内部に、焼痕やCa痕の有無を目視で観察し、以下の基準で評価した。焼痕やCa痕を有する場合、将来的にデポジットの発生が予見される。
・A:焼痕やCa痕が確認されない。
・F:焼痕やCa痕が確認された。
【0077】
【0078】
【0079】
実施例1~6で調製した潤滑油組成物は、高温清浄性に優れ、デポジット発生の抑制効果が高いことが確認された。一方で、比較例1~6で調製した潤滑油組成物は、メリット評点が7.0以下であり、試験後の付着物の質量が2.8以上であるため、高温清浄性に問題を有する結果となった。加えて、比較例1ではホットチューブ試験後のガラス管の内部に焼痕が確認された。焼痕やCa痕を有する場合、将来的にデポジットの発生が予見されるため、その点でも比較例1の潤滑油組成物は、高温清浄性が劣る結果となった。